JP4252120B2 - フェルラ酸脱炭酸酵素 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェルラ酸脱炭酸酵素遺伝子を導入した酵母を用いた香味の優れた蒸留酒の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
焼酎、ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、ジン、白酒等の蒸留酒において、香味の優れたものの開発は常に望まれている。
優れた香味を有する蒸留酒には、4−ビニルグアヤコール、バニリンまたはバニリン酸が多く含まれている。
【0003】
バニリンおよびバニリン酸は、4−ビニルグアヤコールが酸化されて生成する[日本農芸化学会誌, 70, 684-686, (1996) ]。
香味の優れた蒸留酒を製造する方法として、ヒドロキシシナミック酸エステル加水分解酵素もしくは該酵素を高生産する麹菌(特開平7−115957号公報)、またはフェルラ酸エステラーゼ[日本農芸化学会誌, 70, 684-686 (1996)]を添加して、フェルラ酸をモロミ中に遊離させる方法が知られている。
【0004】
また、細胞融合によりフェルラ酸脱炭酸酵素活性の高い酵母を取得する方法が、提案されている[平成7年度生物工学会大会要旨集, 41 (1995) ]。
しかし、フェルラ酸脱炭酸酵素活性を高められた酵母は得られておらず、かかる酵母を用いて香味の優れた蒸留酒を製造する方法は知られていない。
フェルラ酸脱炭酸酵素は、フェルラ酸を脱炭酸して4−ビニルグアヤコールを生成する反応を触媒する酵素である。
【0005】
フェルラ酸は、ケイ皮酸、クマル酸等とともにフェニルアクリル酸の一種であり、穀物等の植物の細胞壁を構成するヘミセルロース画分に含まれるアラビノキシランのアラビノース側鎖にエステル結合して存在する。
バチルス・プミルス(Bachillus pumilus )[アプライド・アンド・エンバイロメンタル・ミクロバイオロジー(Appl. Environ. Microbiol. ), 61, 326-332(1995) およびシュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens )[ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.), 176, 5912-5918(1994) ]のフェルラ酸脱炭酸酵素は、単離精製されている。しかし、サッカロマイセス(Saccharomyces )属等に属する酵母のフェルラ酸脱炭酸酵素は、該酵素活性の存在が知られているだけで、単離精製はなされていない。
【0006】
バチルス・プミルス(B. pumilus )のフェルラ酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子(以下、FDC遺伝子という)[Appl. Environ. Microbiol., 61, 4484-4486 (1995) ]は知られている。また、サッカロマイセス・セレビジェ(S. cerevisiae)ではフェニルアクリル酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子(以下、PAD1遺伝子という)[ジーン(Gene), 142 , 107-112 (1994)]が知られているが、FDC遺伝子は知られていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、香味の優れた蒸留酒の製造に有用なフェルラ酸脱炭酸酵素を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質または配列番号1で表されるアミノ酸配列においてアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつフェルラ酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質(以下、本発明のタンパク質という)、該タンパク質をコードする遺伝子(以下、本発明の遺伝子という)、該遺伝子を含有する組換えベクター(以下、本発明の組換えベクターという)、該組換えベクターを含む形質転換体(以下、本発明の形質転換体という)、該形質転換体に由来しかつフェルラ酸脱炭酸酵素活性を有する酵素源の存在下、水性媒体中でフェルラ酸を反応させ、水性媒体中に生成した4−ビニルグアヤコール、バニリンまたはバニリン酸を採取することを特徴とする、4−ビニルグアヤコール、バニリンまたはバニリン酸の製造方法(以下、本発明の4−ビニルグアヤコール、バニリンまたはバニリン酸の製造方法という)、モロミ中に該形質転換体に由来しかつフェルラ酸脱炭酸酵素活性を有する酵素源を添加することを特徴とする蒸留酒の製造方法(以下、本発明のタンパク質を用いる蒸留酒の製造方法という)、フェルラ酸脱炭酸酵素活性を増大させた酵母を用いることを特徴とする蒸留酒の製造方法(以下、本発明の酵母を用いる蒸留酒の製造方法という)、および上記の蒸留酒の製造方法により得られる蒸留酒に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のタンパク質は、フェルラ酸脱炭酸酵素活性を有しさえすれば、配列番号1で表されるアミノ酸配列においてアミノ酸残基が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。欠失、置換もしくは付加されるアミノ酸残基の数は特に限定されないが、1個から数十個、特に1個から数個までのアミノ酸残基であることが好ましい。また、DNASISver3.0(日立ソフトウエアエンジニアリング製)を用いて、全アミノ酸配列について配列番号1で示されるアミノ酸配列とシンプルホモロジー解析を行った場合に、20%以上、特に40%以上のホモロジーを有するアミノ酸配列であることが好ましい。
【0010】
本発明の遺伝子の単離、該遺伝子の塩基配列の決定、本発明の組換えベクター、本発明の組換えベクターを含む形質転換体および本発明のタンパク質の製造を行うための遺伝子工学または生物工学の基本操作については、市販の実験書、例えば、遺伝子マニュアル 講談社、高木康敬編 遺伝子操作実験法 講談社、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning )コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory )(1982)、モレキュラー・クローニング第2版(Molecular Cloning, 2nd ed.)コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory )(1989)、メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymol. ), 194 (1991)、実験医学別冊・酵母による遺伝子実験法 羊土社(1994)等に記載された方法に従って行うことができる。
【0011】
本発明の遺伝子は、フェルラ酸脱炭酸酵素活性を有しない酵母または該酵素活性が著しく低い酵母(以下、併せてフェルラ酸脱炭酸酵素活性を実質的に有しない酵母という)、例えばサッカロマイセス・セレビジェK9H14株(以下、K9H14株という)に該酵素活性を付与する遺伝子として単離することができる。すなわち、FDC遺伝子をもつ酵母のDNAライブラリーでK9H14株を形質転換して、フェルラ酸脱炭酸酵素活性が付与された酵母からDNAを取得することにより、FDC遺伝子として単離することができる。
【0012】
FDC遺伝子を持つ酵母のDNAライブラリーはフェルラ酸脱炭酸酵素活性を有する酵母、例えばワイン酵母であるサッカロマイセス・セルビジェW3株(以下、W3株という)の染色体DNAを制限酵素で切断し、得られたDNA断片を酵母中で保持することが可能なベクターと連結することによって作製することができる。
【0013】
染色体DNAの切断に用いる制限酵素としては、染色体DNAを切断できればいずれも用いることができるが、好ましくは10Kbp以下のDNA断片を生じさせる制限酵素が用いられる。なお、染色体DNAは制限酵素によって完全に切断しても、部分的に切断してもよい。
酵母中で保持することが可能なベクターとしては、YCp型ベクター、YEp型ベクター、YRp型ベクター、YIp型ベクターおよびYAC(酵母人工染色体)ベクター等があげられる。
【0014】
DNAライブラリーのK9H14株への形質転換は、スフェロプラスト法[例えばプロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンスUSA(Proc. Natl. Acad. Sci. USA), 75, 1929-1933 (1978)]、酢酸リチウム法[例えばJ. Bacteriol., 153 , 163-168 (1983)]、エレクトロポレーション法[例えばMethods in Enzymol., 194 , 182-187 (1991) ]等、遺伝子工学ないし生物工学の分野で慣用されている方法に従って行うことができる。
【0015】
フェルラ酸脱炭酸酵素活性を付与された酵母を選択する方法としては、例えば以下の方法があげられる。
上記方法により得られた形質転換株をYPD液体培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%グルコース)で一晩(20〜24時間)培養し、得られた培養液0.9mlに1g/lフェルラ酸溶液を0.1ml加え、一晩(20〜24時間)培養する。培養終了後、くん煙臭のする培養液を官能的に選択し、さらに高速液体クロマトグラフィー[日本農芸化学会誌, 69, 1587-1596, (1995) ]により4―ビニルグアヤコールが検出できる培養液を選択する。選択した培養液から形質転換株を回収し、回収して得られた株をフェルラ酸脱炭酸酵素活性が付与された酵母として選択する。
【0016】
フェルラ酸としては、トランス−フェルラ酸、シス−フェルラ酸のいずれを用いてもよいが、トランス−フェルラ酸が好適に用いられる。
フェルラ酸脱炭酸酵素活性が付与された酵母からプラスミドを回収する方法および回収したプラスミドを大腸菌に形質転換する方法としては、遺伝子工学の分野で慣用されている方法を用いることができる。上記酵母からプラスミドを回収する方法としては、例えば実験医学別冊・酵母による遺伝子実験法、羊土社(1994)に記載されている方法が、回収したプラスミドを大腸菌に形質転換する方法としては、例えばMolecular Cloning, 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory (1989)) に記載されている方法があげられる。
【0017】
上記方法により選択されたDNAクローンを、適当な制限酵素、例えばPstIなどで切断し、得られたDNA断片を、ダイデオキシ法およびDNAシーケンサー(ファルマシアLKB社製、ALF DNAシークエンサーII)の解析を行うことにより、FDC遺伝子の塩基配列を決定することができる。なお、W3株由来のFDC遺伝子の塩基配列は、酵母ゲノム・プロジェクトの結果[例えばインターネットhttp://genome-www.stanford.edu/sacchdb/]より得ることができる。
【0018】
このようにして決定されるFDC遺伝子の塩基配列として、例えば配列番号1で示される塩基配列があげられる。
配列番号1で示される塩基配列がフェルラ酸脱炭酸酵素をコードすることが一旦確定されると、その後は、化学合成によって、またはPCR(Polymerase Chain Reaction)法によって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることにより、本発明の遺伝子を得ることができる。
【0019】
本発明の遺伝子は、上記により作製された遺伝子をさらに人為的に遺伝子の塩基配列の一部を改変、例えば欠失、置換または挿入することによっても得られる。なお、アミノ酸に対するコドンの選択は任意でよく、例えば利用する宿主のコドン使用頻度を考慮して決定することができる[例えばヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Res.), 9, 43-74 (1981) ]。また、塩基配列の改変は、サイトスペシフィック・ミュータジェネシス[例えばProc. Natl. Acad. Sci. USA, 81, 5662-5666 (1984)]等の方法に従って行うことができる。
【0020】
本発明の遺伝子は、例えばMethods in Enzymol., 194 , 594-597 (1991) に記載の方法を用いることにより、遺伝子の破壊、発現制御、発現量の改変等を行うこともできる。
本発明の組換えベクターは、本発明の遺伝子を含むDNA断片を制限酵素等を用いて調製した後に、該DNA断片を発現ベクター中のプロモーターの下流に挿入することにより作製することができる。
【0021】
本発明の組換えベクターにおいては、本発明の遺伝子の塩基配列を宿主細胞での発現に最適なコドンとなるように、必要に応じて塩基を置換して用いることが好ましい。
本発明の組換えベクターにおいては、本発明の遺伝子の発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、好適には構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
【0022】
本発明の形質転換体は、上記の発現ベクターに適合する宿主細胞中に本発明の組換えベクターを導入することにより得られる。
宿主細胞としては、目的とする遺伝子を発現できるもであれば、例えばEscherichia coli 、Bacillus subtilis、Bacillus amyloliquefaciens 、Brevibacterium flavum、Brevibacterium lactofermentum、Corynebacterium glutamicum 、Microbacterium ammoniaphilum 等のエシェリヒア属、セラチア属、コリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、シュードモナス属、バチルス属等に属する細菌、Saccharomyces cerevisiae 、Schizosaccharomyces pombe、Kluyveromyces lactis 、Trichosporon pullulans 、Schwanniomyces alluvius等の酵母、ナマルバ細胞、COS細胞、CHO細胞等の動物細胞、タバコ細胞、ニンジン細胞等の植物細胞など、いずれを用いてもよい。
【0023】
発現ベクターとしては、上記宿主細胞において自立複製可能ないしは染色体中への組込みが可能で、本発明の組換えタンパク質をコードする配列が転写できるようにプロモーターを含有しているものが用いられる。
大腸菌等の細菌を宿主細胞として用いる場合には、本発明の組換えベクターは該微生物中で自立複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、本発明のDNA、転写終結配列より構成されていることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0024】
発現ベクターとしては、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもBoehringer Mannheim 社製)、pKYP200[Agric. Biol. Chem., 48, 669-675 (1984)]、pLSA1[Agric. Biol. Chem., 53, 277 (1989)]、pGEL1[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 82, 4306 (1985)」、pBluescript (Stratagene社製)等が用いられる。
【0025】
プロモーターとしては、大腸菌等の宿主細胞中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えば、trp プロモーター(Ptrp )、lac プロモーター(Plac )、P L プロモーター、P R プロモーターなどの、大腸菌やファージ等に由来するプロモーターが用いられる。Ptrp を2つ直列させたプロモーター(Ptrp x2)、tac プロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等を用いてもよい。
【0026】
リボソーム結合配列としては、大腸菌等の宿主細胞中で発現できるものであればいずれも用いられるが、リボソーム結合配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6〜18塩基)に調節して用いることが好ましい。
細菌への組換えベクターの導入方法としては、細菌にDNAを導入する方法であれば、例えば、カルシウムイオンを用いる方法[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69, 2110-2114 (1972) ]、プロトプラスト法(特開昭63-2483942)等、いずれの方法も用いられる。
【0027】
酵母を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、YEp13(ATCC37115 )、YEp24(ATCC37051 )、YCp50(ATCC37419 )等が用いられる。
プロモーターとしては、酵母中で発現できるものであれば、例えば、ヘキソースキナーゼ等の解糖系の遺伝子のプロモーター、gal 1 プロモーター、gal 10プロモーター、ヒートショック蛋白質プロモーター、MFα1 プロモーター、CUP 1 プロモーター等、いずれのものを用いてもよい。
【0028】
酵母への組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であれば、例えば、エレクトロポレーション法[Methods in Enzymol., 194, 182-187 (1990)]、スフェロプラスト法[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 84, 1929-1933 (1978) ]、酢酸リチウム法[J. Bacteriol., 153, 163-168 (1983)]等、いずれの方法も用いられる。
【0029】
動物細胞を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、pcDNAI/Amp、pcDNAI、pcDM8(いずれもフナコシ社製)等が用いられる。この場合、プロモーターとしては、動物細胞中で発現できるものであれば、例えば、ヒトCMVのIE(immediate early) 遺伝子のプロモーター等、いずれのものを用いてもよい。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターとともに用いてもよい。
【0030】
動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、動物細胞にDNAを導入する方法であれば、例えば、エレクトロポレーション法[サイトテクノロジー(Cytotechnology), 3, 133(1990)]、リン酸カルシウム法(特開平2-227075)、リポフェクション法[Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 84, 7413 (1987)]等、いずれの方法も用いられる。
【0031】
植物細胞を宿主細胞として用いる場合には、発現ベクターとして、例えば、pBI121[Nucleic Acids Res., 12, 8771-8721 (1984)]等が用いられる。この場合、プロモーターとしては、植物細胞中で発現できるものであれば、例えば、カリフラワー・モザイク・ウィルスの35Sプロモーター等、いずれのものを用いてもよい。
【0032】
植物細胞への組換えベクターの導入方法としては、植物細胞にDNAを導入する方法であれば、例えば、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)法[Methods in Enzaymol., 118, 627-640 (1986) ]、高速微粒子法[プラント・モレキュラー・バイオロジー(Plant Molecular Biology ), 11, 433-439 (1989)]、プロトプラスト法[ネイチャー(Nature), 319, 791-793 (1986) ]等、いずれの方法も用いられる。
【0033】
本発明の形質転換体は、本発明のタンパク質の製造、4−ビニルグアヤコール、バニリンまたはバニリン酸等のフレーバーの製造等に用いられる。また、宿主細胞が酵母である本発明の形質転換体は、香味の優れた蒸留酒の製造に好適に用いられる。
本発明のタンパク質は、本発明の形質転換体を培地に培養し、培養物中に本発明のタンパク質を生成蓄積させ、該培養物から該タンパク質を採取することにより製造することができる。
【0034】
本発明の形質転換体を培地に培養する方法は、該形質転換体の宿主細胞を培養するときに用いられる通常の方法に従って行われる。
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する場合、培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0035】
炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、糖蜜、デンプン、デンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノールなどのアルコール類が用いられる。
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、りん酸アンモニウム等の無機酸もしくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物の他、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕および大豆粕加水分解物、各種発酵菌体またはその消化物等が用いられる。
【0036】
無機物としては、りん酸第一カリウム、りん酸第二カリウム、りん酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
培養は、通常振盪培養または深部通気攪拌培養などの好気的条件下、15〜40℃で16〜96時間行う。培養期間中、pHは3. 0〜9. 0に保持する。
【0037】
培養中は必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lac プロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trp プロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
【0038】
動物細胞を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する場合、動物細胞が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよいが、RPMI1640培地、EagleのMEM培地またはこれら培地に牛胎児血清等を添加した培地等が通常用いられる。
【0039】
培養は、通常5%CO2 存在下、35〜37℃で3〜7日間行う。
培養中は必要に応じて、カナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
植物細胞を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する場合、植物細胞が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよいが、ムラシゲ・スクーグ(MS)培地、ホワイト(White )培地等が通常用いられる。
【0040】
培養は、通常振盪培養または深部通気攪拌培養などの好気的条件下、15〜40℃で1〜30日間行う。培養期間中、pHは3. 0〜9. 0に保持する。
培養中は必要に応じて、カナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
培養終了後、本発明の形質転換体の細胞内または細胞外に生産される本発明のタンパク質を単離精製するには、通常の酵素の単離、精製法を用いればよい。細胞内に本発明のタンパク質が生産される場合、該培養液を遠心分離した菌体を回収し、該菌体を洗浄した後に、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、ダイノミル等により菌体を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、硫安等による塩析、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロースなどの陰イオン交換クロマトグラフィー、ブチルセファロース、フェニルセファロースなどの疎水性クロマトグラフィー、分子篩を用いたゲル濾過法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用いることにより、本発明のタンパク質の精製酵素標品を得ることができる。細胞外に本発明のタンパク質が生産される場合、該培養液から無細胞抽出液から精製するのと同様の方法を用いることにより、本発明のタンパク質の精製酵素標品を得ることができる。
【0041】
本発明の4−ビニルグアヤコール、バニリンまたはバニリン酸の製造方法には、本発明の形質転換体に由来しかつフェルラ酸脱炭酸酵素活性を有する酵素源として、上記方法により得られる粗精製または精製した本発明のタンパク質の他、本発明の形質転換体の培養物、菌体、菌体処理物等が用いられる。菌体処理物としては、洗浄菌体、凍結乾燥菌体、アセトン処理菌体等の物理化学的、生化学的に処理した菌体等があげられる。
【0042】
酵素源は、水性媒体中にフェルラ酸脱炭酸酵素の酵素量単位として0.1〜1000単位/mlの濃度範囲で通常は用いられる。
なお、フェルラ酸脱炭酸酵素の酵素量単位は、フェルラ酸を基質として50mMリン酸緩衝液(pH5.0)中で、30℃、1時間反応を行った場合に1nmolの4−ビニルグアヤコールを生成する酵素量をそれぞれ1単位として表示する。
【0043】
酵素源として培養物または菌体を用いる場合は、培養物または菌体をセチルピリジウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド等の界面活性剤またはトルエン、キシレン等の有機溶剤を添加してもよい。界面活性剤または有機溶剤を添加する場合には、その添加量はそれぞれ0.05〜1.0%(w/v)または1〜20%(v/v)であればよい。
【0044】
フェルラ酸は、通常は水性媒体中に0.01〜10g/lの濃度範囲で用いられる。
反応は、培養物、菌体または菌体処理物の量およびフェルラ酸の量により異なるが、20〜60℃、pH2.5〜10.0で、1〜72時間行う。
このようにして得られる該水性媒体中には、4−ビニルグアヤコールが存在している。反応終了後、該水性媒体より、培養物、菌体または菌体処理物などを必要に応じて破砕後、沈澱物を遠心分離などの手段により除去し、得られる上清から、抽出、蒸留、各種クロマトグラフィー、再結晶等、通常の方法用いることにより、4−ビニルグアヤコールを単離、精製することができる。
【0045】
バニリンまたはバニリン酸は、該水性媒体中または該水性媒体から単離、精製された4−ビニルグアヤコールを、例えばエアレーション等により強制酸化させるか、バチルス・サチルス(B. subtilis) 、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium Glutamicum )等の菌体により酸化させる[ジャーナル・オブ・インダストリアル・マイクロバイオロジー(J. Ind. Microbiol.), 15, 457-471 (1995)]ことにより、バニリンまたはバニリン酸に変換することができる。
【0046】
バニリンまたはバニリン酸は、4−ビニルグアヤコールを単離、精製する方法と同様な方法を用いることにより単離、精製することができる。
本発明のタンパク質を用いる蒸留酒の製造方法としては、本発明の形質転換体に由来しかつフェルラ酸脱炭酸酵素活性を有する酵素源を、モロミ中にフェルラ酸脱炭酸酵素の酵素量単位として0.1〜50単位/mlとなるように添加する以外は、炭素源を麹菌または糖化酵素で糖化し、酵母を加えてアルコール発酵させた後に蒸留する、通常の蒸留酒を製造方法が用いられる。
【0047】
本発明においてモロミとは、アルコール発酵を通じて得られる培養物をいう。本発明の酵母を用いる蒸留酒の製造方法としては、フェルラ酸脱炭酸酵素活性を増大させた酵母を用いる以外は、炭素源を麹菌または糖化酵素で糖化し、酵母を加えてアルコール発酵させた後に蒸留する、通常の蒸留酒を製造方法が用いられる。
【0048】
フェルラ酸脱炭酸酵素活性を増大させた酵母とは、宿主細胞または親株となる酵母に遺伝子組換え技術、突然変異技術等を施して得られる、宿主細胞または親株となる酵母に比べてフェルラ酸脱炭酸酵素活性が増大した酵母をいう。
遺伝子組換え技術を用いる場合、フェルラ酸脱炭酸酵素活性を増大させた酵母は、フェルラ酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子、例えば本発明に用いる遺伝子、バチルス・プミルスのFDC遺伝子等を含有する組換えベクターを上記方法により作製し、これを上記方法により宿主細胞に形質転換することにより製造することができる。
【0049】
突然変異技術を用いる場合、フェルラ酸脱炭酸酵素活性を増大させた酵母は、親株に紫外線照射やエチルメタンスルホネート、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンなどの変異誘発剤を処理する等、通常の変異手段により変異させ、得られた変異株を上記のフェルラ酸脱炭酸酵素活性を付与された酵母を選択する方法と同様の方法を用いて親株に比べて4−ビニルアヤコール生産性が向上した株を選択することにより製造することができる。親株を変異処理した後、親株が十分に生育できないような濃度のフェニルアクリル酸を含む培地、例えばフェルラ酸を1mM以上含む培地で、親株に比べて有意に生育可能な変異株を選択すれば、フェルラ酸脱炭酸酵素活性を増大させた酵母が効率的に製造することができる。
【0050】
フェルラ酸脱炭酸酵素活性を増大させた酵母を製造するために用いる宿主細胞または親株としては、蒸留酒の製造に用いられる酵母であればいずれの酵母も用いられるが、好ましくはサッカロマイセス属に属する酵母、さらに好ましくはサッカロマイセス・セレビジェに属する酵母が用いられる。また、宿主細胞としては、フェルラ酸脱炭酸酵素活性を実質的に有しないサッカロマイセス・セレビジェに属する酵母、例えば日本醸造協会7号、日本醸造協会9号、K9H14株(以上、清酒、焼酎酵母)、IFO2112、IFO2114、IFO2115(以上、ウイスキー酵母)を用いると顕著な効果が得られる。
【0051】
例えば、フェルラ酸脱炭酸酵素活性を実質的に有しない酵母を宿主細胞とした場合には、本発明の形質転換体の作製方法と同様の方法を用いて作製した形質転換体に基質としてフェルラ酸を添加し、官能的にあるいは高速液体クロマトグラフィー等の機器を用いて定量的に4―ビニルグアヤコールを検出し、4―ビニルグアヤコールの生成が確認できた株を選択することにより、本発明の酵母を作製することができる。
【0052】
上記の方法によって作製された本発明の酵母としては、例えばサッカロマイセス・セレビジェYSA7株(以下、YSA7株という)があげられる。YSA7株は、ブダペスト条約に基づいて平成8年12月11日付で、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(茨城県つくば市東1丁目1番3号)にFERM BP−5772として寄託されている。
【0053】
YSA7株が、フェルラ酸脱炭酸酵素活性を増大させた酵母であることを以下に示す。
【0054】
試験例1 フェルラ酸脱炭酸酵素活性能試験
10mlのYPD培地の入った試験管にYSA7株、その親株であるK9H14株、K9H14株にYEp24を導入した形質転換体であるK9H14−C株を、それぞれ1白金耳ずつ植菌し、30℃で22時間振とう培養し、得られた培養液0.9mlに1g/lフェルラ酸溶液を0.1ml加え、25℃で22時間静置培養した。培養終了後、培養液上清中の4―ビニルグアヤコール含量を以下に示す条件で高速液体クロマトグラフィーにより定量した。
【0055】
カラム:Wakosil 5C 18-200(i.d.4.6 ×250mm)
カラム温度:50℃
移動相:10mMリン酸緩衝液(pH2.5) /メタノール=50/50(v/v)
検出器:蛍光検出器(Ex 280nm, Em 320nm)
試料:培養液上清を移動相で10倍希釈し、10μl注入
結果を第1表に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
上記方法により作製されたフェルラ酸脱炭酸酵素活性を増大させた酵母を用いた、本発明の蒸留酒の製造方法を以下に示す。
炭素源としては、いかなる糖質および澱粉質も用いられるが、好ましくは米、麦、あわ、とうもろこし、こうりゃん、ひえ、きび等の穀類、イモ類、そば、ブドウ、リンゴ等の果実またはこれらの麹が、さらに好ましくは穀類またはこれらの麹が用いられる。
【0058】
麹菌としては、米麹、麦麹、ふすま麹等に用いられる糸状菌、例えばアスペルギルス(Aspergillus )属、リゾップス(Rhizopus)属に属する微生物等が用いられる。
糖化酵素としては、麦芽に含まれる酵素、麹菌が生産する酵素、またはα−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プロテアーゼ等の酵素剤等が用いられる。
【0059】
アルコール発酵としては、以下の方法が例示される。穀類を用いる場合には、穀類である澱粉質をまず糖化酵素により糖類に分解し、ついで酵母を加えて発酵させる並行複発酵を行う。例えば焼酎の製造においては、発酵の開始時に麹を仕込み、発酵の経過とともに残りの炭素源を追加する、1次仕込み、2次仕込みと呼ばれる段仕込みを一般に行う。ウイスキーの製造においては、麦芽に温水を加えて糖化し、得られた麦汁を発酵させる方法を一般に行う。果実、糖蜜、グルコース等の糖質を用いる場合は、直接酵母を加えて発酵させる単発酵を行う。
【0060】
アルコール発酵は、通常、pH3.5〜5.0、温度5〜25℃、仕込み終了から焼酎で7〜14日間、ウイスキーで3〜4日間、ブランデーで7〜14日間行う。
アルコール発酵終了後、得られたモロミはそのまま蒸留してもよいが、モロミを圧搾濾過、遠心分離等の処理により発酵残物、酵母菌体等を分離して得られる液を蒸留してもよい。モロミまたはモロミを圧搾濾過、遠心分離等の処理して得られる液を、蒸留することによりエタノールを濃縮させて、原酒を調製する。原酒をそのまま蒸留酒としてもよいが、原酒を混合、希釈、アルコール添加等の調整を行い、これを蒸留酒としてもよい。
【0061】
以下に実施例を示す。
【0062】
【実施例】
実施例1 フェルラ酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子のクローニング
(1)K9H14株へのura3変異の付与
清酒(焼酎)酵母であるサッカロマイセス・セレビジェ日本醸造協会9号(日本醸造協会)の一倍体株であり、かつフェルラ酸脱炭酸酵素活性を実質的に有しない株であるK9H14株に、プラスミドを導入するためのマーカーとして、ボーク(Boeke) らの方法[モレキュラー・アンド・ゼネラル・ゼネティクス(Mol. Gen. Genet.), 197, 345-346 (1984) ]に従って、ura3変異を付与した。すなわち、K9H14株をYPD培地に1白金耳植菌し、30℃で一晩振とう培養した。得られた培養液100μlをFOAプレート[0.67%イーストナイトロジェンベースW/Oアミノ酸(ディフコ社製)、0.1%5−フルオロオロチン酸、0.005%ウラシル、2%グルコース、2%寒天] に塗布し、30℃で3日間培養した。培養終了後、生じたコロニーのうち、ウラシル要求性であり、URA3をマーカーとして持つプラスミドYCp50で形質転換した場合にウラシル要求性が相補され、かつフェルラ酸脱炭酸活性のない1菌株を選抜し、K9H14−3u株とした。なお、発酵能等の性質についてK9H14−3u株はK9H14株と同等の性質を示した。
【0063】
(2)クローニング
ワイン酵母W3株の染色体DNAをBamHIで部分分解したDNA断片を、プラスミドYCp50のBamHI部位に挿入し、遺伝子ライブラリーを作製した。遺伝子ライブラリーを用いて、K9H14−3u株を形質転換し、ウラシル非要求性で形質転換体を選抜した。得られた形質転換体を、YPD液体培地で30℃で一晩振とう培養し、得られた培養液0.9mlに1g/lフェルラ酸溶液を0.1ml加え、25℃で22時間静置培養した。培養終了後、培養液のにおいを嗅ぎ、くん煙様の香の強い培養液を選抜し、培養液上清を高速液体クロマトグラフィーを行い、4―ビニルグアヤコールの生成を確認した。
【0064】
該培養液から得られた株を、フェルラ酸脱炭酸活性が付与された株として分離し、その株から組換体のプラスミドpSA11を抽出した。
プラスミドpSA11には、BamHI〜BamHIの約4KbpのDNA断片が挿入されていた。プラスミドpSA11を各種の制限酵素で切断し、得られたDNA断片を電気泳動により分離して分子量を測定し、図1に示すとおり制限酵素地図を作成した。
【0065】
(3)塩基配列の決定
プラスミドpSA11に挿入されているBamHI〜BamHIの4KbpのDNA断片の塩基配列をダイデオキシ法およびDNAシーケンサー(ファルマシアLKB社製、ALF DNAシークエンサーII)を用いて決定した。その結果、配列番号1で表される塩基配列からなる遺伝子(以下、FDC1遺伝子という)をオープン・リーディング・フレームとして含む、配列番号2で表される塩基配列が決定された。決定された塩基配列より予想されるFDC1遺伝子のコードするタンパク質は、503アミノ酸残基からなるものであった。配列番号1で表されるこの塩基配列は、酵母ゲノムプロジェクト[例えばインターネットhttp://genome-www.stanford. edu/sacchdb/]により公開されている塩基配列のうち、第IV番染色体の配列1512140〜1513651に位置している塩基配列と同一のものであった。FDC1遺伝子とバチルス・プミルスのFDC遺伝子[Appl. Environ. Microbiol., 61, 4484-4486 (1995) ]およびサッカロマイセス・セレビジェのフェニルアクリル酸脱炭酸酵素をコードする遺伝子(以下、PAD1遺伝子という)[Gene, 142 , 107-112 (1994)]とを、DNASISver3.0(日立ソフトウエアエンジニアリング製)を用いてシンプルホモロジー解析を行った結果、全塩基配列でそれぞれ30%および41%、塩基配列を翻訳して得られる全アミノ酸配列でそれぞれ11.25%および10.37%のホモロジーしかなかった。また、BLAST法によるホモロジー検索[例えば、ゲノムネットのデータベース利用法、共立出版(1996)]を行った結果、FDC1遺伝子とバチルス・プミルスのFDC遺伝子およびPAD1遺伝子とは、有意なホモロジーが見いだせなかった。
【0066】
実施例2 フェルラ酸脱炭酸酵素活性を付与した焼酎酵母の作製
(1)FDC1遺伝子発現用プラスミドの調製
プラスミドpSA11約5μgをH緩衝液[50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)、10mM塩化マグネシウム、1mMジチオスレイトール、100mM塩化ナトリウム]20μlに溶解し、10単位の制限酵素BamHIおよびSalIを加え、37℃で一晩反応させた。反応生成物を0.8%アガロース電気泳動により分離し、約3.6kbのDNA断片を切り出し、GENECLEAN II キット(バイオ101社製)を用いて抽出精製した。また、プラスミドpSA11を酵母―大腸菌シャトルベクターYEp24に代える以外は上記と同様な方法を用いて約7.7kbpのDNA断片を抽出精製した。プラスミドpSA11由来の約3.6kbpのDNA断片1μgとYEp24由来の約7.7kbpのDNA断片0.1μgをLigation kit(宝酒造)を用いて16℃で一晩連結反応を行った。反応終了後、反応液5μlを用いてコンピテント・セルE.coli JM109株(東洋紡社製)を形質転換した。得られた形質転換株をアンピシリンLB寒天培地[1%バクトトリプトン(ディフコ社製)、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム、1.5%寒天、50μg/mlアンピシリン]に塗布し、37℃で20時間培養を行った。培養終了後、生じたコロニーを単離し、これを培養して得られたプラスミドDNAを抽出精製した。得られたプラスミドを制限酵素BamHI、SalIで切断し、約3.6KbpのDNA断片が確認できたものを発現用プラスミドpSA8とした(図2)。
【0067】
(2)FDC1遺伝子の焼酎酵母への導入と発現
K9H14−3u株をYPD培地100mlの入った三角フラスコへ接種し、30℃で2〜4×107細胞/mlになるまで振とう培養した。培養終了後、遠心分離(2500rpm、5分)で集菌し、得られた菌体を酢酸リチウム法によりプラスミドpSA8に接触させた。プラスミドpSA8に接触させたK9H14−3u株をSD寒天培地(0.67%イースト・ナイトロジェン・ベースW/Oアミノ酸、2%グルコース、2%寒天)上に接種し、30℃で2〜5日間培養した。培養終了後、生じたコロニーのうちの一つから、K9H14−3u株のウラシル要求性が相補された形質転換株であるYSA7株を取得した。
【0068】
YSA7株、K9H14株およびK9H14−C株をそれぞれYPD培地中に接種し、30℃で一晩培養し、得られた培養液0.9mlに1g/lフェルラ酸溶液を0.1ml加え、25℃で22時間静置培養した。培養終了後、培養液上清中の4―ビニルグアヤコール含量を高速液体クロマトグラフィーにより定量したところ、K9H14株、K9H14−C株では4―ビニルグアヤコールの生成はほとんど見られなかったが、YSA7株では4―ビニルグアヤコールの生成が確認された。
【0069】
実施例3 米焼酎の製造
YSA7株、K9H14株およびK9H14−C株について、それぞれ総米840gで米焼酎の小仕込製造を行った。
仕込配合を第2表に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
アルコール発酵を20℃で2次仕込後10日間行った後、得られたモロミを蒸留して米焼酎を製造した。
製造した米焼酎は、国税庁所定分析法に従って成分分析を行った。それぞれの酵母を用いて製造した米焼酎について、高速液体クロマトグラフィーを用いてエタノール含量および4―ビニルグアヤコール含量を測定し、パネラー7名により官能評価を行った。
【0072】
結果を第3表に示す。なお、官能評価の評点は、7名の平均点とした。
【0073】
【表3】
【0074】
第3表に示されるとおり、YSA7株を用いて製造した米焼酎は、その親株であるK9H14株を用いて製造した米焼酎よりも4―ビニルグアヤコール含量が有意に高く、官能的にも特徴のある香味を有していた。
【0075】
【発明の効果】
本発明によれば、香味の優れた蒸留酒の製造に有用なフェルラ酸脱炭酸酵素を提供することができる。
【0076】
【配列表】
【0077】
【図面の簡単な説明】
【図1】 FDC1遺伝子を含むDNA断片の制限酵素地図、ならびにFDC1遺伝子の特定のために行ったサブクローニングの結果および得られたDNA断片のFDC活性の有無を示す図である。
【図2】 FDC1遺伝子発現用プラスミドの作製工程を示す図である。
Claims (12)
- 以下の(a)または(b)のタンパク質:
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつフェルラ酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質。 - 請求項1記載のタンパク質をコードする遺伝子。
- 請求項2記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
- 請求項3記載の組換えベクターを含む形質転換体。
- 請求項3記載の組換えベクターを含む酵母。
- サッカロマイセス・セレビジェYSA7株である、請求項5記載の酵母。
- 請求項4記載の形質転換体に由来しかつフェルラ酸脱炭酸酵素活性を有する酵素源の存在下、水性媒体中でフェルラ酸を反応させ、水性媒体中に生成した4−ビニルグアヤコール、バニリンまたはバニリン酸を採取することを特徴とする4−ビニルグアヤコール、バニリンまたはバニリン酸の製造方法。
- 酵素源が、請求項1記載のタンパク質または請求項4記載の形質転換体の培養物、菌体、菌体処理物である請求項7記載の方法。
- モロミ中に請求項4記載の形質転換体に由来しかつフェルラ酸脱炭酸酵素活性を有する酵素源を添加することを特徴とする蒸留酒の製造方法。
- 酵素源が、請求項1記載のタンパク質または請求項4記載の形質転換体の培養物、菌体、菌体処理物である請求項9記載の方法。
- フェルラ酸脱炭酸酵素活性を増大させた酵母を用いることを特徴とする蒸留酒の製造方法であって、フェルラ酸脱炭酸酵素を増大させた酵母が請求項5記載の酵母である、方法。
- フェルラ酸脱炭酸酵素活性を増大させた酵母がサッカロマイセス・セレビジェYSA7株である、請求項11記載の方法。
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