JPH11235176A - 高級アルコール及び酢酸エステル生産量が改変された酵母並びに該酵母を用いた酒類の製造法 - Google Patents

高級アルコール及び酢酸エステル生産量が改変された酵母並びに該酵母を用いた酒類の製造法

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JPH11235176A
JPH11235176A JP4260898A JP4260898A JPH11235176A JP H11235176 A JPH11235176 A JP H11235176A JP 4260898 A JP4260898 A JP 4260898A JP 4260898 A JP4260898 A JP 4260898A JP H11235176 A JPH11235176 A JP H11235176A
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isoamyl
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JP4260898A
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Hiroyuki Yoshimoto
本 裕 之 善
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Kirin Brewery Co Ltd
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Kirin Brewery Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 イソアミルアルコール、イソブタノール、及
び酢酸イソアミル生産量が改変されたサッカロミセス酵
母、及びそれを用いた酒類の製造法を提供する。 【解決手段】 分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構
造遺伝子の発現を阻止或いは高発現、また、この発現阻
止株または高発現株で酢酸イソアミル生成酵素の構造遺
伝子の発現量を増大または阻止したことにより、菌体増
殖にほとんど影響なく、イソアミルアルコール、イソブ
タノール、及び酢酸イソアミル生産量が改変されたサッ
カロミセス属酵母。当該酵母を用いることを特徴とする
酒類の製造方法。 【効果】 上記遺伝子の発現を調節もしくは制御したこ
とにより、菌体増殖にほとんど影響なく、イソアミルア
ルコール、イソブタノール、及び酢酸イソアミル生産量
が改変されるために、香味成分が従来と異なる酒類の製
造が可能となる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】〔発明の背景〕
【発明の属する技術分野】本発明は、分岐鎖アミノ酸の
アミノ基転移酵素の構造遺伝子の発現の阻止、或いは高
発現、また、この発現阻止株または高発現株で酢酸イソ
アミル生成酵素の構造遺伝子の発現の阻止、或いは発現
量を増大させたことによって、酒類製造におけるイソア
ミルアルコール、イソブタノール及び酢酸イソアミルの
生産能が改変されたサッカロミセス酵母、および該酵母
を用いた酒類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】酵母が発酵工程中に生産するイソアミル
アルコールとイソブタノールのような高級アルコール
は、酒類の香味において味わい、特にボディ感の骨格を
なす成分として重要な役割を果たすが、必要以上に含ま
れると酒類の香味は”重く”なる原因と言われている。
高級アルコール生産量を低減させるための方法として、
ロイシンやバリンなどの代謝系のILV1、ILV2やLEU2遺伝
子の変異株の取得[日本醸造協会誌, 93, p37, 1998 ]
が試みられているが、菌体の増殖に影響が現われるため
に実用化には向かない。高級アルコール生産量を増大さ
せるための方法として、ロイシンの類似物(5',5',5'-
トリフルオロ-D, L-ロイシン)に対する耐性獲得により
ロイシン生合成系のフィードバック阻害が解除された株
[特開昭62-6669 号公報]の使用が試みられているが、
変異株の取得は偶然性に依存するために、変異が他の遺
伝子にも入る可能性があり、目的の遺伝子のみが変異し
た株を選択することは容易ではない。一方、酢酸エステ
ルの一つである酢酸イソアミルは果実様の香りを感じさ
せる吟醸香として評価される。酢酸イソアミル生産量を
増大させるための方法として、ロイシンの類似物(5',5
',5'-トリフルオロ-D, L-ロイシン)に対する耐性獲得
によりロイシン生合成系のフィードバック阻害が解除さ
れ、基質となるイソアミルアルコール生産量が増大した
株[特開昭62-6669 号公報]や、酢酸イソアミル生成酵
素の構造遺伝子(ATF1)の遺伝子の高発現により酢酸イ
ソアミル生産量を増大させた株[特開平6-062849号公
報]、エステラーゼ遺伝子の破壊により分解を抑えて酢
酸イソアミル生産量を増大させた株[特開平9-234077号
公報]の使用が試みられている。一方、酢酸イソアミル
生産量を減少させるための方法として、酢酸イソアミル
生成酵素の構造遺伝子(ATF1)の遺伝子の破壊により酢
酸イソアミル生産量を減少させた株[特開平6-253826号
公報]の使用が試みられている。
【0003】高級アルコール生産量を改変するための方
法は、単にイソアミルアルコールとイソブタノール生産
量を変化させるだけでなく、基質となるイソアミルアル
コール生産量の変化に伴い、酢酸イソアミル生産量も変
化する。また、ILV1、ILV2やLEU2遺伝子の変異株では、
酵母の発酵速度にまで影響するために、醸造用酵母とし
て適していない。従って、酵母の発酵速度に影響するこ
となく、イソアミルアルコール、イソブタノール及び酢
酸イソアミル生産量を減少または増大させた株や、イソ
アミルアルコールとイソブタノール生産量を減少させ、
酢酸イソアミル生産量を増大させた株は、現在まで得ら
れていない。
【0004】イソアミルアルコールとイソブタノールは
それぞれロイシンとバリン代謝系の中間生産物からそれ
ぞれ生産される。高級アルコール生成には、グルコース
からのアミノ酸生合成系を経由する系と培地中のアミノ
酸を取り込む系、所謂、エーリッヒ経路の2 つの系があ
る。各段階の酵素及び遺伝子について詳細な報告がある
[J. Gen. Microbiol., 139, p2783, 1993]。
【0005】ミトコンドリアに位置する分岐鎖アミノ酸
のアミノ基転移酵素をコードするBAT1遺伝子は、ミトコ
ンドリアのABC トランスポーターをコードするATM1遺伝
子の温度感受性変異を多コピーで抑圧する遺伝子として
取得された[J. Biol. Chem., 271 , p24458, 1996]。
そして、BAT1遺伝子と相同性のあるBAT2遺伝子がコード
するアミノ基転移酵素は、細胞質で機能すること、ま
た、BAT1とBAT2遺伝子の破壊株をそれぞれ作製し、それ
らの株の生育やアミノ基転移酵素活性が調べられている
[J. Biol. Chem., 271 , p24458, 1996]。しかしなが
ら、高級アルコール生成への影響については調べられて
ない。
【0006】〔発明の概要〕
【発明が解決しようとする課題】酒類醸造工程におい
て、酵母菌体の増殖に実質的に影響を与えずにイソアミ
ルアルコール、イソブタノール及び酢酸イソアミル生産
量を改変もしくは調節することを目的とするものであ
る。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者は、分岐鎖アミ
ノ酸のアミノ基転移酵素をコードする遺伝子の発現阻
止、或いは高発現、また、この発現阻止株または高発現
株で酢酸イソアミル生成酵素の構造遺伝子の発現阻止、
或いは発現量を増大させることにより、上記課題を解決
できることを見出し、この知見を基に本発明を完成させ
るに至った。すなわち、本発明は下記のサッカロミセス
属酵母に関するものである。分岐鎖アミノ酸のアミノ基
転移酵素の構造遺伝子の発現を阻止したことにより、菌
体増殖に実質的に影響なく、イソアミルアルコール、イ
ソブタノール及び酢酸イソアミルの生産能が減少したサ
ッカロミセス属酵母。分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵
素の構造遺伝子を高発現性としたことにより、イソアミ
ルアルコール、イソブタノール、及び酢酸イソアミル生
産能が増大したサッカロミセス属酵母。分岐鎖アミノ酸
のアミノ基転移酵素の構造遺伝子の発現を阻止し、酢酸
イソアミル生成酵素の構造遺伝子の発現量を増大させた
ことにより、菌体増殖に実質的に影響なく、イソアミル
アルコールとイソブタノール生産能が減少し、酢酸イソ
アミル生産能が増大されたサッカロミセス属酵母。分岐
鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造遺伝子および酢酸
イソアミル生成酵素の構造遺伝子の発現量を増大させた
ことにより、イソアミルアルコール、イソブタノールお
よび酢酸イソアミル生産能が増大されたサッカロミセス
属酵母。分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造遺伝
子および酢酸イソアミル生成酵素の構造遺伝子の発現を
阻止したことにより、イソアミルアルコール、イソブタ
ノール及び酢酸イソアミルの生産能が減少したサッカロ
ミセス属酵母。本発明はまた、上記酵母を用いた酒類の
製造方法にも関する。すなわち、本発明による酒類の製
造方法は、上記のいずれかの酵母を用いて酒類製造のた
めの発酵を行い、発酵液中のイソアミルアルコール、イ
ソブタノール及び酢酸イソアミル含有量を改変もしくは
制御することを特徴とするものである。
【0008】〔発明の具体的な説明〕
【発明の実施の形態】改変サッカロミセス酵母 本発明による酵母は上述した通りであり、基本的には、
分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造遺伝子(好ま
しくはBAT1またはBAT2)の発現を阻止したサッカロミセ
ス属酵母、分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造遺
伝子(好ましくはBAT1またはBAT2)を高発現性としたサ
ッカロミセス属酵母、分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵
素の構造遺伝子(好ましくはBAT1またはBAT2)の発現を
阻止し、酢酸イソアミル生成酵素の構造遺伝子(好まし
くはATF1、Lg-ATF1 またはATF2)の発現量を増大させた
サッカロミセス属酵母、分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移
酵素の構造遺伝子(好ましくはBAT1またはBAT2)および
酢酸イソアミル生成酵素の構造遺伝子(好ましくはATF
1、Lg-ATF1 またはATF2)の発現量を増大させたサッカ
ロミセス属酵母、および両酵素遺伝子の発現を阻止した
サッカロミセス属酵母であり、菌体増殖に実質的に影響
なく高級アルコール(イソアミルアルコール、イソブタ
ノール)および/または酢酸エステル(酢酸イソアミ
ル)の生産能が改変された酵母である。本発明におい
て、遺伝子の発現阻止とは、本来その遺伝子によりコー
ドされる物質の生成が全く無いか減少する状態を意味す
る。また、「菌体増殖に実質的に影響なく」とは、親酵
母の本来の増殖性と比較して実用上(特に酒類の製造に
おいて)弊害がないことを意味する。本発明において、
分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造遺伝子とは、
分岐鎖アミノ酸とケト酸の間のアミノ基を転移する酵素
をコードする遺伝子である。該遺伝子の好ましい具体例
としては、BAT1およびBAT2遺伝子が知られており[J.Bi
ol.Chem., 271, p24458, 1996 ]、本発明において、そ
れら遺伝子の発現を阻止する場合は、それらのどちらか
一方の遺伝子を破壊することが好ましく、両方とも遺伝
子破壊した場合、酵母の生育が悪くなり、酒類の製造に
は適さない。以下の説明においては、BAT1又はBAT2遺伝
子を用いた場合を例にとり、記載している。本発明にお
いて、酢酸イソアミル生成酵素の構造遺伝子とは、アル
コールアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子
である。アルコールアセチルトランスフェラーゼとは、
アセチルCoA よりアセチル基をアルコールに転移させる
反応によって酢酸エステルを生成させる能力を有してい
る酵素である。このようなアルコールアセチルトランス
フェラーゼをコードする遺伝子の好ましい例としては、
特開平6-62849 号公報記載のAATase1 遺伝子(以下、AT
F1遺伝子という)ならびにAATase2 遺伝子(以下、Lg-A
TF1 遺伝子という)および特開平8-242851号公報記載の
AATase遺伝子(以下、ATF2遺伝子という)が知られてい
る。本発明において、酢酸イソアミル生成酵素の構造遺
伝子の発現量を増大させる場合、これの公報に記載され
ているものを用いることができる。酢酸イソアミル生成
酵素の構造遺伝子の発現量を減少させる場合、特開平6-
253826号公報に記載されている方法を用いることができ
る。以下の説明においては、これらの遺伝子のうちATF1
遺伝子を例にとり記載している。
【0009】本発明において、BAT1またはBAT2遺伝子の
発現を阻止したサッカロミセス属酵母は、次のように作
製することができる。BAT1遺伝子の場合、核酸の1 つで
あるウラシル生合成に関するURA3遺伝子の上流と下流に
BAT1遺伝子の一部分を結合させたDNA 断片を作製し、こ
のDNA 断片で酵母を形質転換し、発現阻止株得ることが
できる(遺伝子の破壊については例えば特開平6-253826
号参照)。BAT1またはBAT2遺伝子を高発現性としたサッ
カロミセス属酵母は、例えばBAT1遺伝子の場合、BAT1遺
伝子を含む多コピー型プラスミドを作製し、このプラス
ミドで親株を形質転換してBAT1遺伝子が高発現する株を
得ることができる(遺伝子の高発現については例えば特
開平6-62849 号参照)。また、BAT1またはBAT2遺伝子の
発現が阻止されかつ酢酸イソアミル生成酵素の構造遺伝
子(ATF1)の発現量を増大させたサッカロミセス属酵母
は、例えばBAT1またはBAT2遺伝子が破壊されかつATF1遺
伝子を含む多コピー型プラスミドで形質転換することに
より得ることができる。更に、BAT1またはBAT2遺伝子お
よびATF1遺伝子を高発現性としたサッカロミセス属酵母
は、例えばBAT1およびBAT2遺伝子を含む多コピー型プラ
スミドおよびATF1遺伝子を含む多コピー型プラスミドで
酵母を形質転換することにより得ることができる。遺伝
子破壊とは、遺伝子に挿入、置換、及び欠失等[生物化
学実験法:酵母分子遺伝学実験法、学会出版センター、
p145, 1996]することにより、その遺伝子の機能を完全
に失わせることである。破壊用DNA 断片の作製は、化学
合成、サッカロミセス酵母の染色体DNA ライブラリーか
らの適当なプローブによるハイブリダイゼーション法な
ども可能であるが、サッカロミセス酵母の染色体DNA を
鋳型として、BAT 遺伝子の一部分のためのプライマーを
用いるポリメレースチェインリアクション(PCR)法
によりBAT 遺伝子の部分配列を得て、これを上記他の配
列の両側に結合させる方法が簡便である。BAT1遺伝子の
配列は、インターネット上で容易に情報を得ることがで
きる[http://genome-www.stanford.edu/]。BAT 遺伝
子を含む多コピー型プラスミドは、例えば、サッカロミ
セス酵母の染色体DNA を鋳型として、BAT2遺伝子のため
の適当なプライマーを用いてPCR法によりBAT2遺伝子
配列を得て、これを多コピー型プラスミドに導入するこ
とにより簡便に作製することができる。また、ATF1遺伝
子の多コピー型プラスミドは、例えば、サッカロミセス
酵母の染色体DNA ライブラリーからコロニーハイブリダ
イゼーション法により取得したATF1遺伝子を多コピー型
プラスミドに導入することにより、作製することができ
る。ATF1遺伝子については、例えばAppl. Environ Micr
obiol., 60, p2786, 1994 に記載されている。本発明に
おいて更に、これらの育種株の使用により、酒類醸造工
程におけるイソアミルアルコール、イソブタノール及び
酢酸イソアミル生産量が改変できるサッカロミセス酵
母、及びそれを用いた酒類の製造法が提供される。
【0010】本発明によるサッカロミセス酵母は、改変
前の親酵母と比較して、上記の高級アルコールあるいは
酢酸エステルの生産能が改変されている。本発明でいう
サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisi
ae)とは、The yeasts, a Taxonomic study 3rd. Editi
on(ed. by N.J.W.Kreger-van Rij. Elsevier Science P
ublishers B.V., Amsterdam. p379, 1984 )に記載され
ているサッカロミセス・セレビジエ及びそのシノニムな
いし変異株である。
【0011】サッカロミセス・セレビジエ( Saccharom
yces cerevisiae)において、イソアミルアルコールと
イソブタノールは、培地中のグルコースからのロイシン
やバリン生合成系、或いは培地中のロイシンやバリンの
取り込みから造られる。培地中から取り込んだロイシン
やバリンは、分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素(BAT1
またはBAT2遺伝子にコードされている)によりアミノ基
を奪われて、この代謝系の中間生産物であるケト酸とな
る[J. Biol. Chem., 271 , p24458, 1996]。このケト
酸が、脱炭酸・還元されて、イソアミルアルコールとイ
ソブタノールがそれぞれ造られる[J. Am. Soc. Brew.
Chem.,36, p39, 1978 ]。一方、酢酸イソアミルは、イ
ソアミルアルコールとアセチルCoA を基質として、ATF1
遺伝子によってコードされるアルコールアセチルトラン
スフェラーゼ(AATase)により造られる[Appl. Enviro
n. Microbiol.,60 , p2786, 1994]。
【0012】本発明者は、後記実施例に記載のように、
サッカロミセス・セレビシエTD4 株由来の染色体DNA か
らBAT2遺伝子の破壊用DNA 断片と多コピー導入用DNA 断
片をポリメレースチェインリアクション(PCR)法によっ
てそれぞれ取得した。得られたBAT2遺伝子の破壊用DNA
断片を用いて酵母を形質転換し、BAT2遺伝子を破壊した
育種株を作製した。また、BAT2遺伝子を含む多コピー型
プラスミドを構築し、これにより親株の酵母を形質転換
し、BAT2遺伝子の発現量を増大した育種株を作製した。
また、BAT2遺伝子の破壊株にATF1遺伝子を含む多コピー
型プラスミドを導入し、ATF1遺伝子を高発現する育種株
を作製した。これらの育種株の発酵試験によりイソアミ
ルアルコール、イソブタノール及び酢酸イソアミル生産
量を調べたところ、育種株ではイソアミルアルコール、
イソブタノール及び酢酸イソアミル生産量が改変された
ことが明らかとなった(後記実施例6参照)。
【0013】上記改変の対象となる宿主としては、分類
学的には上記のようなサッカロミセス・セレビシエ等の
サッカロミセス属の酵母が使用でき、用途上の分類では
醸造用酵母(例えば上面発酵ビール酵母、下面発酵ビー
ル酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、ワイン酵母、焼酎
酵母等)およびパン酵母が使用できる。下面発酵ビール
酵母以外の通常の酵母は1セットの染色体を持つ同質倍
数体であり、前記のようにしてBAT1、BAT2またはATF1遺
伝子の発現阻止(破壊)を行うことができる。一方、下
面発酵ビール酵母は、2 つのセットの染色体(サッカロ
ミセス・セレビジエ型遺伝子と下面発酵ビール酵母特異
的な遺伝子)を持つ異質倍数体であることが報告されて
いる。しかし、下面発酵ビール酵母の遺伝子破壊につい
ては、既にMET10 遺伝子の4 コピーの破壊が報告されて
おり[Nature Biotechnology, 14, p1587, 1996 ]、BA
T1、BAT2またはATF1遺伝子においても同様にして下面発
酵ビール酵母の遺伝子破壊は可能であることが容易に推
察できる。上記の酵母はIFO (Institute for Fermenta
tion, Osaka )、日本醸造協会、ATCC(American Type
Culture Collection)等から容易に入手することができ
る。
【0014】酵母にDNA断片を導入する際に用いるベ
クターとしては、多コピー型、単コピー型、染色体DNA
組み込み型のいずれも利用可能である。例えば、多コピ
ー型ベクターとしては、YEp24 [Gene, 8 , p17, 1979
]、単コピー型ベクターとしては、YCp50[Gene, 60, p
237, 1987]、染色体DNA 組み込み型ベクターとして
は、YIp5[Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.,76, p1035,
1979 ]が知られている。遺伝子の高発現を目的として
多コピー型ベクターを用いる場合、コピー数は特に制約
されないが、酵母においては通常約20コピー程度(例
えば上記YEp24 など)である。
【0015】形質転換の際に用いる選択マーカーとして
は、例えばウラシル要求性遺伝子(URA3)、トリプトフ
ァン要求性遺伝子(TRP1)及びヒスチジン要求性遺伝子
(HIS3)等の栄養要求性マーカー[Gene, 110 , p119,
1992]の他に、G418耐性遺伝子(G418r )[Gene, 19,
p259, 1982]、ブラストサイジン耐性遺伝子(BSr
[Agric. Biol. Chem., 55, p3155, 1991 ]、セルレニ
ン耐性遺伝子(PDR4)[Gene, 101 , p149, 1991]及び
銅耐性遺伝子(CUP1)[Proc. Natl. Acad. Sci.USA, 8
1, p337, 1984]等が利用可能である。
【0016】遺伝子の発現を阻止する(著しい低下を包
含する)方法として、前記の遺伝子破壊のみならず、ア
ンチセンスDNA またはRNA による阻害作用を利用するア
ンチセンス法[Curr. Gtnet., 13, p283, 1988]、ある
いは遺伝子の欠失[特開平6-253826号]等の他の方法を
用いても、イソアミルアルコールとイソブタノール生産
の阻止もしくは減少の目的は達せられ、これらの方法も
包含される。また、ATF1遺伝子の高発現は、前記の多コ
ピー導入のみならず、ATF1遺伝子のプロモーター領域の
改変、或いは高発現プロモーター(例えば、グリセルア
ルデヒド-3- ホスフェートデヒドロゲナーゼ; GAPDH 遺
伝子のプロモーター[J.Biol.Chem., 25 4 ,p9839, 197
9])との置き換え等によっても、酢酸イソアミル生産
量の増大の目的は達せられる。
【0017】遺伝子の発現阻止(破壊など)および発現
増強のためのDNA 、ベクター等を含むDNA 断片の酵母細
胞への導入は、外来DNA を酵母に導入するための形質転
換法において周知の技術であり、例えば酢酸リチウム法
[J.Bacteriol., 153 , p163, 1983]等で行うことがで
きる。
【0018】改変酵母を用いた酒類の製造 本発明による酒類の製造法は、上述したような本発明改
変酵母、すなわち、分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素
の構造遺伝子の発現を阻止したサッカロミセス属酵母、
分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造遺伝子を高発
現性としたサッカロミセス属酵母、分岐鎖アミノ酸のア
ミノ基転移酵素の構造遺伝子の発現を阻止し、酢酸イソ
アミル生成酵素の構造遺伝子の発現量を増大させたサッ
カロミセス属酵母、分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素
の構造遺伝子および酢酸イソアミル生成酵素の構造遺伝
子の発現量を増大させたサッカロミセス属酵母、両酵素
遺伝子の発現を阻止したサッカロミセス酵母、のいずれ
かを用いて酒類製造のための発酵を行なうことを特徴と
するものである。本発明において酒類とはビール、清
酒、ワイン等の醸造酒、およびウイスキー、焼酎等の蒸
留酒等を包含するものであり、従って酵母種としては前
記のように、用途に応じて例えば上面発酵ビール酵母、
下面発酵ビール酵母、清酒酵母、ウイスキー酵母、ワイ
ン酵母、焼酎酵母等の醸造用酵母が使用できる。本発明
による酒類の製造方法は、発酵用酵母として上記の改変
酵母を使用する以外は、基本的に従来の酒類の製造方法
と変わらない。すなわち、目的の酒類に応じた発酵原料
(例えば麦汁、麹、果汁など)に、通常の方法と同様に
して本発明による上記改変構造を添加し、通常の方法と
同様の操作条件で発酵(またはその後更に蒸留)を行う
ことにより、目的の酒類を得ることができる。種々の酒
類の製造法は周知の技術である。
【0019】本発明のそれぞれの上記改変酵母を酒類の
製造に用いることにより、高級アルコール(イソアミル
アルコール、イソブタノール)や酢酸エステル(酢酸イ
ソアミル等)の含有量を改変もしくは調節した味感の異
なる酒類を製造することができる。本発明方法におい
て、分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造遺伝子
(好ましくはBAT1またはBAT2)の発現を阻止したサッカ
ロミセス属酵母を用いて発酵を行うことにより、イソア
ミルアルコール、イソブタノールおよび酢酸イソアミル
の含有量が減少した酒類が得られる。分岐鎖アミノ酸の
アミノ基転移酵素の構造遺伝子(好ましくはBAT1または
BAT2)を高発現性としたサッカロミセス属酵母を用いて
発酵を行うことにより、イソアミルアルコール、イソブ
タノールおよび酢酸イソアミルの含有量が増大した酒類
が得られる。分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造
遺伝子(好ましくはBAT1またはBAT2)の発現を阻止し、
酢酸イソアミル生成酵素の構造遺伝子(好ましくはATF
1、Lg-ATF1 またはATF2)の発現量を増大させたサッカ
ロミセス属酵母を用いて発酵を行うことにより、イソア
ミルアルコールおよびイソブタノールの含有量が減少
し、酢酸イソアミルの含有量が増大した酒類が得られ
る。分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造遺伝子
(好ましくはBAT1またはBAT2)および酢酸イソアミル生
成酵素の構造遺伝子(好ましくはATF1、Lg-ATF1 または
ATF2)の発現量を増大させたサッカロミセス属酵母を用
いて発酵を行うことにより、イソアミルアルコールおよ
びイソブタノールの含有量が増加し、酢酸イソアミルの
含有量が一層増加した酒類が得られる。分岐鎖アミノ酸
のアミノ基転移酵素の構造遺伝子(好ましくはBAT1また
はBAT2)および酢酸イソアミル生成酵素の構造遺伝子
(好ましくはATF1、Lg-ATF1 またはATF2)の発現を阻止
したサッカロミセス属酵母を用いて発酵を行うことによ
り、イソアミルアルコール、イソブタノールおよび酢酸
イソアミルの含有量が減少した酒類が得られる。
【0020】
【実施例】以下に本発明を実施例によって更に詳細に説
明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものでは
ない。実施例1. BAT2遺伝子の破壊用DNA 断片の作製 サッカロミセス・セレビジエの全塩基配列は決定され、
インターネット上で容易に情報を得ることができる[ht
tp://genome-www.stanford.edu/ ]。この情報を元に遺
伝子破壊用のDNA 断片をポリメレースチェインリアクシ
ョン(PCR )法によって増幅・単離した。研究用酵母TD
4 [ MATa leu2 ura3-52 his4-519 trp1canr ; Appl. E
nviron. Microbiol., 60 , p2786, 1994 ]株をPCR 法
によって増幅させたLEU2遺伝子のDNA 断片で形質転換し
たKY1055[ MATa LEU2 ura3-52 his4-519 trp1 canr
株から染色体DNA を抽出し、これをPCR の鋳型とした。
【0021】BAT2遺伝子の破壊用DNA 断片の作製には、
PCR 用のプライマーとして、下記に記したP150からP15
5、及びP53 からP54 の合わせて8 本の合成DNA を用い
た。PCR 法を用いた遺伝子破壊用DNA 断片の作製には、
Wach, A.らの方法を使用した[Yeast, 12, p259, 1996
]。 P150 5'-CAACTTATAACGCTCCTTTCCAAACATCTT-3'. P151 5'-TTAAACATTTTTGGAAAGATCTGCTCATAT-3'. P152 5'-CCGCTCAGGTCCTTGTCCTTTAACGAGGCCTTATCTTAACTTTGGAGGCGTCTAGGGGTG-3'. P153 5'-GCGCTCATCGTCATCCTCGGCACCGTCACCAGCATGGCAATTGGTCAAGGGTTGTTACTG-3'. P154 5'-CCGCACTACACCAAAGTTTAATGTTCCATT-3'. P155 5'-ATTACGGAAACGTCTTGAAATATTAGTTGG-3'. P53 5'-GGCCTCGTTAAAGGACAAGGACCTGAGCGG-3'. P54 5'-GGTGACGGTGCCGAGGATGACGATGAGCGC-3'. KY1055株の染色体DNA を鋳型として、プライマーP150と
P152の組み合わせによりBAT2遺伝子の塩基番号-510〜+4
0 (翻訳開始点を+1とした)が、KY1055株の染色体DNA
を鋳型として、及びプライマーP151とP153の組み合わせ
によりBAT2遺伝子の塩基番号+1091 〜+1510 が、プラス
ミドYEp24 のDNA [Gene, 8 , p17, 1979 ]を鋳型とし
て、及びプライマーP53 とP54 の組み合わせによりプラ
スミドYEp24 に含まれるURA3遺伝子の塩基番号-338〜+1
041 が増幅され、それぞれ、550-bp、420-bp、1379-bp
のDNA 断片が得られた。次に、これら3 つのDNA 断片を
鋳型として、プライマーP154とP155の組み合わせにより
3 つのDNA 断片が結合し、1 本のDNA 断片が増幅され、
2189-bp のDNA断片が得られた(図1)。
【0022】実施例2. BAT2遺伝子の破壊株の取得 研究用酵母KY1055株を上記のBAT2遺伝子の破壊用DNA 断
片で形質転換を行い、ウラシル要求性のなくなった形質
転換株KY1056をウラシルを含まない最少合成培地より取
得した。この形質転換株は、ポリメレースチェインリア
クション(PCR)法によりBAT2遺伝子が破壊されている
ことが確認できた。一方、対照株として、PCR 法により
増幅したURA3遺伝子のDNA 断片で形質転換を行い、ウラ
シル要求性のなくなった形質転換株KY1057をウラシルを
含まない最少合成培地より取得した。また、発酵試験に
は、株の要求性を揃えるために、KY1056とKY1057株をベ
クターのみのプラスミドpYT77 [American Chemical So
ciety, Chapter18, p196,1996]で形質転換し、形質転
換株KY1058とKY1059をそれぞれ取得した。
【0023】実施例3. BAT2遺伝子の多コピー導入用プ
ラスミドの作製 研究用酵母KY1055株から染色体DNA を鋳型として、プラ
イマーP150とP155の組み合わせによりBAT2遺伝子の塩基
番号-510〜+1460 が増幅され、1970-bp のDNA断片が得
られた。このDNA 断片をプラスミドpT7/BlueT-Vector
[Novagen, Catalog Number: 69829-1]のEcoRV 部に挿
入し、プラスミドpHY490を作製した。プラスミドpHY490
をBamHI-SalIで切断後、BAT2遺伝子を含むDNA 断片をG4
18耐性遺伝子とURA3遺伝子を含む研究用酵母と醸造酵母
の両方に導入できる多コピー型プラスミドpYT77 [Amer
ican Chemical Society, Chapter18, p196, 1996]のBa
mHI-SalI部位に挿入したプラスミドpHY492を作製した。
【0024】実施例4. BAT2遺伝子の多コピー型プラス
ミドを導入した株の作製 研究用酵母KY1057株を上記のBAT2遺伝子の多コピー型プ
ラスミド(pHY492)で形質転換を行い、G418耐性を示す
形質転換株KY1060を0.3mg/mlのG418を含むYPD完全合成
培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%グルコー
ス、2%寒天)より取得した。
【0025】実施例5. ATF1遺伝子の多コピー型プラス
ミドを導入した株の作製 ATF1遺伝子の多コピー型プラスミドには、下面発酵ビー
ル酵母KBY001から取得したATF1遺伝子をG418耐性遺伝子
とURA3遺伝子を含む研究用酵母と醸造酵母の両方に導入
できる多コピー型プラスミドpYT77 に結合させたプラス
ミドpATF1/77を使用した[American Chemical Society,
Chapter18, p196, 1996]。上記のBAT2遺伝子が破壊さ
れたKY1056株をプラスミドpATF1/77で形質転換を行い、
G418耐性を示す形質転換株KY1061を0.3mg/mlのG418を含
むYPD 完全合成培地により取得した。
【0026】実施例6. 形質転換株による酒類の製造 親株KY1059株[LEU2 URA3 (ベクター)]、BAT2遺伝子
の破壊株KY1058株[LEU2 bat2::URA3 (ベクター)]、
BAT2遺伝子の多コピー導入株KY1060株[LEU2 URA3(pBAT
2/77) ]及びATF1遺伝子を多コピー導入したBAT2遺伝子
の破壊株KY1061株[LEU2 bat2::URA3 (pATF1/77)]を
用いた発酵試験を次に記した条件下で行った。前培養で
は、プラスミドの脱落を防ぐために100ml の0.3mg /ml
G418を含むYPD10 (1%酵母エキス、2%ペプトン、1
0%グルコース)培地で、30℃、2 日間振盪条件下で培
養した。遠心分離した菌体を250ml 培養器内の新しい25
0ml の0.3mg /ml G418を含むYPD10 培地中にOD=0.05 に
なるように植菌した。発酵には30℃で、初期のヘッドス
ペースの空気を窒素置換し、磁気スターラーバーで緩く
攪拌しながら嫌気条件下で行なった。発酵中の高級アル
コールと酢酸エステルの定量は、発酵培養液をサンプリ
ング後、遠心分離した上清をヘッドスペースガスクロマ
トグラフィーに供して行った。また、発酵中の酵母増殖
量(OD600 )の変化と糖度の変化を調べた。
【0027】その結果、表1に示すように、BAT2遺伝子
の破壊株(KY1058)では、96時間のイソアミルアルコー
ルとイソブタノール生産量が親株の60%と28%にそれぞ
れ減少し、48時間の酢酸イソアミル生産量が親株の42%
に減少した。その際、酵母菌体の増殖には異常は認めら
れず(図2)、発酵経過にも親株との差はほとんど認め
られなかった(図3)。次に、BAT2遺伝子の多コピー導
入株(KY1060)では、96時間のイソアミルアルコールと
イソブタノール生産量が親株の131 %と222 %にそれぞ
れ増大し、48時間の酢酸イソアミル生産量が親株の149
%に増大した。更に、BAT2遺伝子の破壊株にATF1遺伝子
を多コピー導入した株(KY1061)では、96時間のイソア
ミルアルコールとイソブタノール生産量が親株の48%と
26%にそれぞれ減少し、48時間の酢酸イソアミル生産量
が親株の467 %に増大した。その際、酵母菌体の増殖に
は異常は認められず(図2)、発酵経過にも親株との差
はほとんど認められなかった(図3)。
【0028】 表1: BAT2遺伝子破壊株、BAT2遺伝子の多コピー導入株、及びBAT2遺伝子の破 壊株にATF1遺伝子を多コピー導入した株における高級アルコール及び酢酸エステ ル生産量 bat2株 親株 親株 bat2株 (pYT77) (pYT77) (pBAT2) (pATF1) (高級アルコール) イソアミルアルコール 103.8[60%] 173.0 226.2[131%] 82.2[48%] イソブタノール 19.3[28%] 69.3 154.0[222%] 17.7[26%] n-プロパノール 31.2[97%] 32.1 30.3[94%] 30.2[94%] (酢酸エステル) 酢酸イソアミル* 1.8[42%] 4.3 6.4[149%] 20.1[467%] 酢酸エチル* 22.0[87%] 25.3 22.4[89%] 112.4[444%] (単位:ppm ) [ ]内の値は、親株(pYT77 )との相対値を示している。 *48 時間後のサンプルを比較した。これら以外は96時間後のサンプルを比較した 。
【0029】以上の結果から、本発明は発酵工程で生じ
るイソアミルアルコール、イソブタノール及び酢酸イソ
アミル生産量を改変させ、その結果、香味成分の異なる
新しい酒類の製造に有効であることが確認された。
【0030】
【発明の効果】本発明に於いては、サッカロミセス酵母
の分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造遺伝子の発
現阻止により、菌体増殖に影響なく、イソアミルアルコ
ールとイソブタノール生産量が減少し、これに伴い、酢
酸イソアミル生産量も減少する。また、分岐鎖アミノ酸
のアミノ基転移酵素の構造遺伝子の高発現により、イソ
アミルアルコールとイソブタノール生産量が増大し、こ
れに伴い、酢酸イソアミル生産量も増大する。一方、分
岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造遺伝子の発現阻
止株で酢酸イソアミル生成酵素の構造遺伝子の発現量を
増大させることにより、親株と比較して、イソアミルア
ルコール、イソブタノール生産量が減少し、酢酸イソア
ミル生産量が増大する。更に、分岐鎖アミノ酸のアミノ
基転移酵素の構造遺伝子および酢酸イソアミル生成酵素
の構造遺伝子の発現量を増大させることにより、親株と
比較して、イソアミルアルコール、イソブタノール生産
量が増大し、酢酸イソアミル生産量が一層増大する。ま
た、分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造遺伝子お
よび酢酸イソアミル生成酵素の構造遺伝子の発現を阻止
することにより、親株と比較して、イソアミルアルコー
ル、イソブタノール及び酢酸イソアミル生産量が減少す
る。本発明によれば、高級アルコールおよび酢酸エステ
ルの生産能が上述のように改変された酵母を提供するこ
とができ、更に該改変酵母の使用により、香味成分比お
よびそれによって風味感が従来と異なる(香味成分含量
の制御もしくは調節された)酒類の製造方法を提供する
ことができる。従って、酒類中の香味成分含量の随意制
御もしくは調節が可能となり、ボディ感の主体をなす高
級アルコールの生成を適度に抑制しながら、香味成分と
しての酢酸エステルの生成を増大させることも可能とな
った。また本発明によれば、分岐鎖アミノ酸のアミノ基
転移酵素の構造遺伝子の阻止或いは高発現、あるいは酢
酸イソアミル生成酵素の構造遺伝子の発現の阻止、或い
は高発現により、高級アルコールや酢酸エステル生産量
が変化する以外に、分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素
が関与する他の香味成分(例えば、ダイアセチル生産量
等)も変化することが期待できる。
【0031】
【配列表】
配列番号:1 (配列名:P150) 配列の長さ:30 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: CAACTTATAA CGCTCCTTTC CAAACATCTT 30
【0032】配列番号:2 (配列名:P151) 配列の長さ:30 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: TTAAACATTT TTGGAAAGAT CTGCTCATAT 30
【0033】配列番号:3 (配列名:P152) 配列の長さ:60 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: CCGCTCAGGT CCTTGTCCTT TAACGAGGCC TTATCTTAAC TTTGGAGGCG TCTAGGGGTG 60
【0034】配列番号:4 (配列名:P153) 配列の長さ:60 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: GCGCTCATCG TCATCCTCGG CACCGTCACC AGCATGGCAA TTGGTCAAGG GTTGTTACTG 60
【0035】配列番号:5 (配列名:P154) 配列の長さ:30 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: CCGCACTACA CCAAAGTTTA ATGTTCCATT 30
【0036】配列番号:6 (配列名:P155) 配列の長さ:30 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: ATTACGGAAA CGTCTTGAAA TATTAGTTGG 30
【0037】配列番号:7 (配列名:P53 ) 配列の長さ:30 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: GGCCTCGTTA AAGGACAAGG ACCTGAGCGG 30
【0038】配列番号:8 (配列名:P54 ) 配列の長さ:30 配列の型:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:合成DNA 配列: GGTGACGGTG CCGAGGATGA CGATGAGCGC 30
【図面の簡単な説明】
【図1】BAT2遺伝子の破壊用DNA 断片の構築の過程を示
す説明図である。
【図2】実施例6におけるBAT2遺伝子の破壊、或いは高
発現株の発酵中の酵母増殖量(OD600 )の変化を示すグ
ラフである。
【図3】実施例6におけるBAT2遺伝子の破壊、或いは高
発現株の発酵中の糖度の変化を示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C12P 7/04 C12P 7/04 7/62 7/62 (C12N 15/09 ZNA C12R 1:865) (C12N 1/19 C12R 1:865) (C12N 9/10 C12R 1:865)

Claims (11)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造
    遺伝子を高発現性としたことにより、イソアミルアルコ
    ール、イソブタノール、及び酢酸イソアミル生産能が増
    大したサッカロミセス属酵母。
  2. 【請求項2】分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造
    遺伝子の発現を阻止し、酢酸イソアミル生成酵素の構造
    遺伝子の発現量を増大させたことにより、菌体増殖に実
    質的に影響なく、イソアミルアルコールとイソブタノー
    ル生産能が減少し、酢酸イソアミル生産能が増大された
    サッカロミセス属酵母。
  3. 【請求項3】分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造
    遺伝子および酢酸イソアミル生成酵素の構造遺伝子の発
    現量を増大させたことにより、イソアミルアルコール、
    イソブタノールおよび酢酸イソアミル生産能が増大され
    たサッカロミセス属酵母。
  4. 【請求項4】分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造
    遺伝子および酢酸イソアミル生成酵素の構造遺伝子の発
    現を阻止したことにより、イソアミルアルコール、イソ
    ブタノール及び酢酸イソアミルの生産能が減少したサッ
    カロミセス属酵母。
  5. 【請求項5】酵母がサッカロミセス・セレビシエであ
    る、請求項1〜4のいずれか1項に記載のサッカロミセ
    ス属酵母。
  6. 【請求項6】分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構造
    遺伝子(BAT1またはBAT2)の発現を阻止したことによ
    り、菌体増殖に実質的に影響なく、イソアミルアルコー
    ル、イソブタノール及び酢酸イソアミルの生産能が減少
    したサッカロミセス属酵母または請求項1〜5のいずれ
    か1項に記載した酵母を用いて酒類製造のための発酵を
    行い、イソアミルアルコール、イソブタノール及び酢酸
    イソアミル含有量を改変もしくは制御することを特徴と
    する、酒類の製造方法。
  7. 【請求項7】アミノ基転移酵素の遺伝子がBAT1またはBA
    T2である、請求項1〜4のいずれか1項記載のサッカロ
    ミセス属酵母。
  8. 【請求項8】酢酸イソアミル生成酵素の遺伝子がATF1、
    Lg-ATF1 またはATF2遺伝子である、請求項2〜4のいず
    れか1項記載のサッカロミセス属酵母。
  9. 【請求項9】アミノ基転移酵素の遺伝子がBAT1またはBA
    T2であり、酢酸イソアミル生成酵素の遺伝子がATF1、Lg
    -ATF1 またはATF2遺伝子である、請求項2〜4のいずれ
    か1項記載のサッカロミセス属酵母。
  10. 【請求項10】酵母がサッカロミセス・セレビシエであ
    る、請求項7〜9のいずれか1項記載のサッカロミセス
    属酵母。
  11. 【請求項11】分岐鎖アミノ酸のアミノ基転移酵素の構
    造遺伝子(BAT1またはBAT2)の発現を阻止したことによ
    り、菌体増殖に実質的に影響なく、イソアミルアルコー
    ル、イソブタノール及び酢酸イソアミルの生産能が減少
    したサッカロミセス属酵母または請求項7〜10のいず
    れか1項に記載した酵母を用いて酒類製造のための発酵
    を行い、イソアミルアルコール、イソブタノール及び酢
    酸イソアミル含有量を改変もしくは制御することを特徴
    とする、酒類の製造方法。
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