JP3563274B2 - 焼酎の製造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、4−ビニル−グアイアコール(Vinyl Guaiacol)(以下4−VGと略記する)とバニリン(Vanillin)を多量に含有し、甘い芳醇な香味とコクの増強された焼酎の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年焼酎は、長期貯蔵した、沖縄特産の焼酎「泡盛」において独特の甘い芳醇な香りと味が好まれている。
この甘い芳香を放つ成分の一つはバニリンであることが明らかにされている。泡盛中のバニリンは、以下に述べる生成メカニズムにより生成されることが知られている。
すなわち、原料である米の細胞壁を構成するアラビノキシランとエステル結合したフェルラ酸が、麹菌のエステラーゼによりもろみ中に遊離し、このフェルラ酸が常圧蒸留時に加熱脱炭酸されて4−VGとなり、得られる焼酎中に留出する。さらに該焼酎中に含まれる該4−VGはその貯蔵中に酸化されてバニリンになる。
【0003】
従来、フェルラ酸脱炭酸酵素を有するサッカロミセス・セレビシエTSH−1をアルコール発酵用培地に接種して、アルコール発酵を行い発酵液を得、これを減圧で蒸留することにより、焼酎中にこの4−VGとバニリンを増強する手段が知られている(特開平9−238673)。
しかし、この方法は、本発明者らの研究によれば4−VGとバニリンの増強に際し、さらに改良の余地のあることが判明した。
【0004】
一方、糖質原料を使用した麹、酵母および水を仕込んで得た一次もろみに掛け原料を加え、アルコール発酵を行なう焼酎の製造法において、該一次もろみの仕込水を、該糖質原料に対して生原料換算で240%(W/W)以上使用し、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチルなどの香気成分を多量に含有する焼酎の製造法(特開平7−255456)が知られている。
しかし、この方法は、4−VGとバニリンの増強することはあまり期待することができない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、4−VGとバニリンを多量に含有し、甘い芳醇な香味とコクの増強された焼酎を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、糖質原料を使用した麹、酵母および水を仕込んで得た一次もろみに掛け原料を加え、アルコール発酵を行なう焼酎の製造法において、該一次もろみの仕込水を、該糖質原料に対して生原料換算で240〜600%(W/W)使用し、また酵母として本発明で特定したフェルラ酸脱炭酸活性の測定法において4−VGが1.0mg/l以上の値を示す酵母を使用するときは、上記課題を解決できることを知り、この知見に基づいて本発明を完成した。すなわち本発明は、糖質原料を使用した麹、酵母および水を仕込んで得た一次もろみに掛け原料を加え、アルコール発酵を行なう焼酎の製造法において、該一次もろみの仕込水を、該一次もろみに使用された糖質原料に対して生原料換算で240〜600%(W/W)使用し、また該酵母として本発明で特定したフェルラ酸脱炭酸活性の測定法において4−VGが1.0mg/l以上の値を示す酵母を使用することを特徴とする焼酎の製造法である。
【0007】
以下本発明を詳細に説明する。
先ず、本発明において、麹に用いられる糖質原料は、うるち米、屑米、砕米、小粒硬質米、破砕米、米粉、糠などの米類、大麦、裸麦などの麦類、および玉蜀黍などが挙げられる。これらは、精白、未精白ものが用いられる。
【0008】
この糖質原料は、常法により水洗い、水浸漬、水切り、加熱変性(蒸煮、蒸きょうなど)、放冷などの原料処理を行う。
【0009】
次いで、このように原料処理した糖質原料に、焼酎製造に用いられる白麹菌、例えば、Aspergillus kawachiiなどの種麹を接種混合し、30〜45℃の製麹適温にて40〜45時間、製麹管理を行い麹を得る。
【0010】
次いで、このようにして得られた麹を、酵母(または酵母培養液)および水と混和(以下、仕込みという)して、以下常法により糖化発酵管理を行い、一次もろみを得る。
そして、この仕込みの際、必要により掛け原料として、加熱変性した原料(うるち米、屑米、砕米、小粒硬質米、破砕米、米粉、糠などの米類、大麦、裸麦などの麦類、および玉蜀黍などの一種または二種以上)を適宜加える。
本発明においては、この酵母培養液および水の合計(以下、仕込水という)を該もろみの糖質原料(仕込みに際し掛け原料を添加する場合は、この掛け原料も糖質原料として扱う)に対して生原料換算で240%(W/W)以上、好ましくは240〜600%(W/W)、より好ましくは350〜450%(W/W)、添加する。
この仕込水が240%より少ないと、4−VGとバニリンを多量に含有する焼酎が得られない。反対に多過ぎると仕込タンクなどの設備が増大し、また蒸留に供するもろみ量が多くなり、その結果、もろみの蒸留に要するエネルギーが増大することなどから、好ましくない。
さらにまた、仕込時に、クエン酸、乳酸などの腐造防止剤を水溶液として添加する場合は、その水溶液も勿論、前記仕込水の一部として勘案される。
【0011】
次に用いられる酵母としては、以下の測定法において、4−VGを1.0 mg/l以上の値を示す、フェルラ酸脱炭酸活性の高い酵母であれば、任意の酵母を利用することができる。例えば、ウイスキー酵母IFO 0233、同IFO0234、ワイン酵母OC−2、ビール酵母IFO 2018などが挙げられる。
【0012】
フェルラ酸脱炭酸活性の測定法
検査対象の酵母菌体の一白金耳を、100mlのYPD培地(2wt.%グルコース、1wt.%酵母エキス、2wt.%ポリペプトン)に接種して、30℃にて48時間振とう培養し、培養液を得た。得られた培養液27mlに、3mlのフェルラ酸(1g/l−95%エタノール)を添加し、30℃で24時間振とう培養した。得られた培養液を5000rpmで15分間遠心分離し、上清を得た。得られた上清を、ODSを分離用の樹脂(SenshuPak.ODS−1251−N)とする高速度液体クロマトグラフィーに供し、上清中の4−VG濃度を得た。得られた値を、当該酵母のフェルラ酸脱炭酸活性の値とした。
【0013】
本発明において用いられる酵母は、予め培養した酵母培養液を用いることが好ましい。この培養は、通常の酵母の培養法に従い行なう。例えば、麹汁などの培地で、20〜30℃で48〜72時間通気培養または静置培養する。
【0014】
こうして得られた酵母培養液の適量を、麹に水を仕込に際して添加し、18〜30℃で5〜10日間糖化発酵させて、通常のもろみ管理を行なう。
こうして一次もろみを得る。
【0015】
次に、前記一次もろみに、常法により加熱変性(蒸煮、蒸きょうなど)処理をした掛け原料、および必要により水を添加し、混合した後常法により18〜30℃で10〜20日間さらに糖化発酵させて熟成もろみを得る。
この掛け原料としては、通常用いられるものがそのまま使用されるが、例えば、米、麦、そば、玉蜀黍などの穀類、いも類、黒糖などが挙げられる。
これらは一種類または二種類以上が用いられる。
該掛け原料の使用量としては、焼酎製造に一般に使用されていると同様に、一次もろみの該糖質原料の約2〜4倍量が用いられる。
そして熟成もろみを得るまでに加える水の総量(重量)(以下、総加水量という)の総糖質原料(生原料換算)に対する比率(以下、総汲水歩合という)は、140〜200%(W/W)が適当である。
このことから、醗酵が終了した一次もろみへ掛け原料を仕込む際に用いる仕込水は、総汲水歩合が前記した範囲に収まるように調整して添加するのが好ましい。このようにして得られた前記熟成もろみを、常法により蒸留することにより、焼酎を得ることができる。
【0016】
【参考例】
(醸造用酵母のフェルラ酸脱炭酸活性の測定試験例)
表1記載の醸造用酵母菌体の一白金耳を、100mlのYPD培地(2wt.%グルコース、1wt.%酵母エキス、2wt.%ポリペプトン)に接種して、30℃にて48時間振とう培養し、培養液を得た。得られた培養液27mlに、3mlのフェルラ酸(1g/l−95%エタノール)を添加し、30℃で24時間振とう培養した。得られた培養液を5000rpmで15分間遠心分離し、上清を得た。得られた上清を、ODSを分離用の樹脂(SenshuPak.ODS−1251−N)とする高速度液体クロマトグラフィーに供し、上清中の4−VG濃度を得た。得られた値を、当該酵母のフェルラ酸脱炭酸活性の値として示した。また、その値が1.0mg/l以上の活性を高活性菌、それ未満を標準菌として結果を表1に示した。
【0017】
【表1】
Figure 0003563274
【0018】
【発明の効果】
本発明によれば、多量の4−VGとバニリンを含有し、甘い芳醇な香味とコクの増強された焼酎を容易に得ることができる。
【0019】
【実施例】
実施例1
精白大麦(糖質原料)を、常法により洗浄、水浸漬、水切り、蒸煮、放冷した後、これに種麹として、河内菌白麹(Aspergillus kawachii:河内源一郎商店製)を米重量の0.1%接種混合し、恒温恒湿槽で35〜43℃の製麹適温にて製麹管理して麹を得た。
表2に示すように、麹を120g(生の精白大麦として約100g)づつ、12区分用意して、仕込容器に採り、各区分に水および常法により培養して得た表2に記載の酵母の培養液(10g)を該糖質原料(生の精白大麦)に対して表2に示す重量%となるように混和し(表2には、この混和水を、一次もろみ・仕込水と表記)、25℃で7日間糖化発酵させて一次もろみを調製した。
【0020】
次にこの各区分の醗酵終了後の一次もろみそれぞれに、加熱変性した掛け原料を生原料換算で200g、および水(表2に記載された掛米添加時の加水量)を加え、または加えることなく(区分7〜12は加水なし)、25℃で14日間糖化発酵させ、熟成させてそれぞれ熟成もろみを得た。
なお、該加熱変性した掛け原料は、精白大麦を常法により洗浄、水浸漬、水切り、蒸きょうし、放冷したものである。
また、このときの総汲水歩合は、表2に示す通りである。
得た各熟成もろみ量は、区分1〜8が各740ml、区分9〜10が895ml、区分11〜12が1160mlであった。
なお、前記の各熟成もろみの発酵歩合%〔(総アルコール量(ml)×100)÷{(麹デンプン量(g)+掛け原料デンプン(g))×0.7154}〕は、表2に示すように、区分1〜10において殆ど差がみられなかった。
【0021】
前記の熟成もろみを各300ml採り、ロータリーエバポレーターを用いて、50℃、60mmHgで減圧蒸留し、各110mlの蒸留液(焼酎)を採取した。前記の分析法に従い、醪液汁中の4−VGの定量を行い、その結果を表2に示した。
【0022】
【表2】
Figure 0003563274
【0023】
表2の結果から、フェルラ酸脱炭活性の高い酵母を用いるときは、4−VGとバニリンの含量の多い焼酎を得る効果を奏するが、一次もろみ・仕込水が糖質原料に対して生原料換算で120%(W/W)であるときは、顕著ではないことが判る。しかし、仕込水を240%(W/W)以上、特に240〜600%(W/W)とするときは、4−VGとバニリンの含量の多い焼酎となり、甘い芳醇な香味とコクの増強された焼酎を得ることができることが判る。

Claims (1)

  1. 糖質原料を使用した麹、酵母および水を仕込んで得た一次もろみに掛け原料を加え、アルコール発酵を行なう焼酎の製造法において、該一次もろみの仕込水を、該一次もろみに使用された糖質原料に対して生原料換算で240〜600%(W/W)使用し、また該酵母として本発明で特定したフェルラ酸脱炭酸活性の測定法において4−VGが1.0mg/l以上の値を示す酵母を使用することを特徴とする焼酎の製造法。
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