JP4521798B2 - シートベルト巻き取り装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、乗用車等において、乗員の安全を確保するために使用されるシートベルト巻き取り装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
シートベルト巻き取り装置は、乗用車の衝突等の事故に際して乗員の安全を確保するために取り付けが義務付けられ、種々の方式のものが開発されている。そのうち最も構成が簡単なものの例を図16に示す。
【0003】
シートベルト巻き取り装置の一方の側の支持部であるスプリングカバー41には、軸受部41aが設けられ、それにスプール42の軸42aが嵌まりこんで回転すると同時に、スプリングにより巻き取り方向への付勢力を受けるようになっている。スプール42にはシートベルトが巻きつけられるようになっている。
【0004】
スプール42の内側には凹状の嵌合部(図示せず)が設けられ、その中にトーションバー43の一端が嵌まり込んでいる。トーションバー43の他端は、ロッキングベース44に設けられた凹状の嵌合部(図示せず)に嵌まりこんでいる。ロッキングベース44の軸44aは、ロックギア45の穴部45aを貫通し、シートベルト巻き取り装置の他の一方の側の支持部であるリテーナ46の軸受部(図示せず)に嵌まりこんでいる。
【0005】
このような機構により、スプール42は、結局スプリングカバー41とリテーナ46にその回転軸を支持されたような形態となって回転し、スプリングの付勢力によりシートベルトを巻き取るようになっている。そして、スプリングカバー41と、リテーナ46は、ベースフレーム48の両端に固定されており、スプール42はベースフレーム48の内部に収納されるようになっている。
【0006】
これらの構成要素のうち、ロッキングベース44とロックギア45は、所定量の相対回転が可能になっており、スプリング49によって、ロックギア45がロッキングベース44に対して相対的にシートベルトの引き出し方向に付勢されて、相対回転の限界に達するような状態になっている。
通常の状態でシートベルトが引き出されるときは、ロックギア45の回転の抵抗となるものはないので、スプリング49の付勢力に打ち勝つことができず、ロックギア45はロッキングベース44と一体となって回転する。
【0007】
スプリングの力によりスプール42が巻き取られ、それにつれてロッキングベース44が巻き取り方向に回転しても、もともと、その回転方向には、前述のように、ロックギア45がロッキングベース44に対して相対回転の限界に達するような状態になっているので、ロックギア45はロッキングベース44と一体となって回転する。
【0008】
衝突等により、急激なシートベルトの巻き戻しが発生すると、ロックギア45の中に収納されているフライホイール50がスプリング51の付勢力に打ち勝って移動し、その結果、ロックギア45がリテーナ46に対して相対回転ができなくなり、回転が停止される。
【0009】
すると、ロッキングベース44がスプリング49の付勢力に抗して、ロックギア45に対して相対回転する。この相対回転によって、ロッキングベース44に収納されているパウル52が外側に飛び出すようにメカニズムが構成されており、外側に飛び出したパウル52のギアがベースフレーム43に形成されたギア部48aに係合し、これによりロッキングベース44の回転も停止される。
【0010】
よって、トーションバー43の回転も停止し、スプール42はトーションバー43の捩れに対応するだけの回転のみが許されることになる。従って、以後は、シートベルトは引き出されるにつれて増大する張力を受けつつ回転する。以上説明したロック機構は、通常、「ウェブセンサによるロック機構」と呼ばれている。
【0011】
以上の説明は、シートベルト巻き取り装置の概要を示したものであり、例えば、フライホイール50の移動によりロックギア45の回転を止める機構、パウル52を外側に押し出す機構には複雑な機構が用いられているが、シートベルト巻き取り装置は周知・慣用のものであり、当業者にとってこれ以上の詳しい説明は不要と思われるし、本発明の主要部分と関係がない事項なので、これ以上の詳しい説明を省略する。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来のシートベルトロック機構においては、実際にシートベルトが急激に引き出されてからロック機構が作動するので、ロック機構が作動するまでに遅れが生じることがあった。また、モータ軸がスプールに連結された状態でシートベルトを引き出すとき、引き出すのに力を要し、かつ、格納力が低いという問題もあった。さらに、シートベルト着用時に急激にシートベルトを引っ張り出すとロック機構が作動し、乗員に対して違和感や不快感を与えることがあった。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、緊急事態の発生時に迅速にロック機構を作動させるシートベルト巻き取り装置を提供すること、さらにこれに加えて、リトラクタ効率を下げずに、シートベルトを装着するためにシートベルトを引き出したときロックがかかる等の、乗員に対する違和感や不快感を低減したシートベルト巻き取り装置を提供することを課題とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するための第1の手段は、モータによりシートベルトをスプールに巻き取る機構を有するシートベルト巻き取り装置であって、前記モータの回転が入力されるサンギア、外周に第1ラチェット歯を有しかつ内周に内歯を有するリング状のインターナルギア、前記サンギア及び前記インターナルギアに噛合するプラネタリギア、及び、外周に第2ラチェット歯を有するともに前記プラネタリギアを回転可能に支持しその回転を前記スプールに伝達するキャリアを備えた減速機構と、前記第1ラチェット歯への係合により前記モータと前記スプールとの間の動力の伝達経路を入り状態にし、前記第1ラチェット歯への非係合により前記モータと前記スプールとの間の動力の伝達経路を切り状態にする、伝達経路入切機構と、前記第2ラチェット歯への係合により前記スプールをシートベルト巻き取り方向にのみ回転させ、前記第2ラチェット歯への非係合により前記スプールのいずれの方向への回転をも許容する回転許容機構とを備えたことを特徴とするシートベルト巻き取り装置(請求項1)である。
【0015】
本手段においては、モータが巻き取り方向に回転しないときは、伝達経路入切機構によりモータとスプールとの動力伝達経路が結合されない。したがって、モータとスプールとの機械的な動力伝達が行われない。また、このとき、回転許容機構を非作動とすることにより、スプールは、モータによる負荷を受けたりラチェット機構に回転を妨げられたりすることなく自由に回転できる。よって、シートベルトはゼンマイばねによるトルクの巻き取り力のみで巻き取られるので、乗員が違和感を感じることがない。
【0016】
車両に取り付けられている衝突予測装置が、急ブレーキや大きな加速度等を検出して衝突が発生する恐れがあると判断すると、モータにシートベルトの巻き取り指令を出すと共に、伝達経路入切機構を作動状態にする。すると、モータとスプールとの間の動力の伝達経路が結合される。よって、モータの巻き取り力によりスプールが回転し、シートベルトが巻き取られる。そして、回転許容機構の働きにより、スプールはシートベルト巻き取り方向には回転するが、シートベルト巻き戻し方向には回転しないので、乗員を確実にシートに拘束することができる。
【0017】
本手段においては、伝達経路入切機構の作動や、回転許容機構の作動は、ソレノイド等を使用して、電気的に駆動してもよいし、前記モータの回転力を利用して、自動的に作動させるようにしてもよい。
【0040】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態の例を、図を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態の1例であるシートベルト巻き取り装置の概要を示す分解斜視図である。なお、図1に示す実施の形態においても、図16に示すようなロック機構等が設けられている(スプールを巻き取るスプリングは設けられていない)が、本発明と関係がないので説明を省略する。
【0041】
図1に示すように、このシートベルト巻き取り装置1においては、フレーム2の中にシートベルト3を巻き取るスプール4が収納され、それを軸支するトーションバー5の一端がリテーナ6に嵌まり込み、他端はスプール4の内部に嵌合している。スプール軸4aは、シートベルト巻き取り用スプリング(図示せず)が収納されたゼンマイユニット7の軸受に嵌まり込んでいる。リテーナ6とゼンマイユニット7はフレーム2に保持されており、これにより、スプール4が、リテーナ6とゼンマイユニット7に保持される形でフレーム2の中に収納されている。
【0042】
モータ8は第2リテーナ9に保持され、その軸に結合されたモータギア10が、コネクトギア11に噛合し、コネクトギア11が中間減速ギア12を介して減速ギア13と噛合している。減速ギア13は、その外径部に中間減速ギア12と噛合する大径歯部13aを有すると共に、その中心部にサンギア13bを有している。
【0043】
キャリアギア14の中心孔(スプライン孔)14cはスプール4のスプライン軸4bに嵌まり込んでおり、スプール4と一体に回転する。図2に詳しく示すように、キャリアギア14の大径部にはラチェット歯14bが形成されている。キャリアギア14には3個のネジ孔14dが設けられ、これにリダクションピン15の先端がネジ込まれている。リダクションピン15には、それぞれ1個づつのプラネタリギア16が回転自在に軸支され、リダクションプレート17により保持されている。
【0044】
インターナルギア18は円環状をしており、その外周部にはラチェット歯18aが、内周部にはプラネタリギア16と噛合する内歯18bが設けられている。すなわち、プラネタリギア16は、サンギア13bとインターナルギア18の内歯18bに挟まれて、リダクションピン15を中心に自転が可能になっていると共に、キャリアギア14の中心(スプール4の軸心)の周りに公転が可能とされている。
【0045】
このように構成されたシートベルト巻き取り装置のスプール4とモータ8の動力伝達経路を入り切りするための機構として、係止レバー21と、コネクトギア11と一体に回転可能で係止レバー21を保持するレバースプリング22と、スプリング保持部材23が設けられている。
【0046】
図3に、この機構を詳細に示す。スプリング保持部材23の軸方向側面には軸方向に延びる3本の突出ピン23aが設けられており、これらの突出ピン23aがコネクトギア11の3個の軸方向孔11cそれぞれ嵌合されることで、スプリング保持部材23がコネクトギア11に組み付けられる。また、スプリング保持部材23の外周面には、径方向に延びる3個の突起23bが周方向に等間隔に設けられている。そして、レバースプリング22が、その湾曲部22aがスプリング保持部材23の外周に位置するようにして配置されるとともに、この湾曲部22aがスプリング保持部材23の2個の突起23bとコネクトギア11との間に、回転方向に所定の摩擦を有して扶持されることでスプリング保持部材23に組み付けられる。
【0047】
また、係止レバー21は第2リテーナ9に設けられた溝に沿って平行移動し、平行移動によりインターナルギア18のラチェット歯18aに接離可能に設けられている。そして、係止レバー21は、その凹部21bに嵌まり込んだレバースプリング22によって、前記のように平行移動するように駆動される。
【0048】
以下、モータ8とスプール4間の動力伝達のメカニズムと、動力伝達の入り切りのメカニズムについて、図4〜図6を用いて説明する。
これらの図に示されるように、モータ8の回転はモータギア10から、コネクトギア11の歯11aを介してコネクトギア11に伝えられ、その歯11bと、中間減速ギア12の歯12aを介して中間減速ギア12に伝えられる。そして、中間減速ギア12の歯12bと減速ギア13の大径歯部13aを介して減速ギア13に伝達される。減速ギア13には、サンギア13bがその中心軸を同じにして一体に取り付けられている。よって、モータ8が回転すると、これらのギア群が一体となって回転する。
【0049】
一方、図1に示されるスプール4のスプライン軸4bには、前述のようにキャリアギア14の中心孔(スプライン孔)14cが嵌まり込んでいる。よって、スプール4が回転すると、キャリアギア14が一体に回転し、それにより3個のプラネタリギア16がスプール軸を中心として公転する。
【0050】
これら、モータ8に結合された動力伝達系と、スプール4に連結された動力伝達系の連結を入り切りするのが、インターナルギア18である。図4は、モータ8が回転していないときの様子を示す図である。このとき、レバースプリング22の付勢力により、係止レバー21は、インターナルギア18のラチェット歯車18aとは係合しないような位置となっている。よって、インターナルギア18は完全にフリーな状態にあり、何の抵抗も受けずに回転できる。それに対し、サンギア13bと減速ギア13を回転させるためには、モータ8の回転抵抗に打ち勝たなければならない。
【0051】
このような状態で、スプール4がどちらかの方向に回転すると、プラネタリギア16が公転する。そのとき、インターナルギア18の抵抗がないので、プラネタリギア16は、自転しながらサンギア13aの周りを公転し、インターナルギア18を回転させる。すなわち、サンギア13aは回転しない。よって、スプール4は、モータ8の回転抵抗を受けずに回転することができる。従って、特に、人間がシートベルトを引き出すとき、大きな抵抗力を受けることなく引き出しが可能となる(巻き取り用ゼンマイの力に抗するのみでよい)。
【0052】
図5は、モータ8がシートベルト巻き取り方向に駆動されたときの様子を示す図である。すなわち、モータ8が図のCW方向に回転すると、コネクトギア11がCCW方向に減速されて回転する。すると、前述のようにレバースプリング22の湾曲部22aがスプリング保持部材23の突起23bとコネクトギア11との間に回転方向に所定の摩擦を有して保持されているので、このコネクトギア11のCCW方向の回転で、レバースプリング22も同方向に一緒に回転する。
【0053】
これにより、係止レバー21がインターナルギア18に接近する方向に平行移動して、係止爪21aがインターナルギア18のラチェット歯18aの外周に当接して係合可能な係合位置となる。係止爪21aがラチェット歯18aの外周に当接した後は、レバースプリング22はそれ以上方向CCW方向には回転できなくなる。しかし、コネクトギア11とレバースプリング22との間にすべりが生じてコネクトギア11がレバースプリング22に対して相対回転する。これにより、モータ8は回転を継続することができる。
【0054】
同時に、コネクトギア11の回転が中間減速ギア12を介して減速されて減速ギア13に伝達され、減速ギア13がベルトCCW方向に回転するので、サンギア13bが同方向に減速ギア13と同速度で回転する。このサンギア13aの回転で各プラネタリギア16がCW方向に自転し、インターナルギア18がCW方向に回転する。このとき、インターナルギア18が回転するため、各プラネタリギア16は公転しない。
【0055】
インターナルギア18がCW方向に回転すると、ラチェット歯18aと係止爪21aとが互いに係合し、インターナルギア18の回転が停止する。
インターナルギア18の回転が停止すると、前述のようにモータ8の駆動トルクで各プラネタリギア16が自転しているので、各プラネタリギア16はインターナルギア18の内歯18bに沿って、サンギア13bのまわりをCCW方向に減速されて公転するようになる。
【0056】
したがって、プラネタリギア16を保持するキャリアギア14が、各プラネタリギア16の公転速度でCCW方向に回転するので、スプール4がシートベルト巻き取り方向に回転する。
【0057】
図6は、モータ8がシートベルト巻き戻し方向に回転したときの様子を示す図である。モータ8が図のCCW方向に回転すると、コネクトギア11がCW方向に減速されて回転する。すると、前述のようにレバースプリング22の湾曲部22aがスプリング保持部材23の突起23bとコネクトギア11との間に回転方向に所定の摩擦を有して保持されているので、このコネクトギア11のCW方向の回転で、レバースプリング22も同方向に一緒に回転する。これにより、係止レバー21がインターナルギア18から遠ざかる方向に平行移動して、係止爪21aとインターナルギア18のラチェット歯18aの係合が外れる。すると、インターナルギア18の回転が自由になる。
【0058】
図5に示したと同じように、モータ8の回転により減速ギア13とサンギア13aが駆動され、サンギア13aの回転がプラネタリギア16に伝わってプラネタリギア16を自転させる。しかし、インターナルギア18が回転抵抗無く回転するので、プラネタリギア16は公転を行うことが無く、従って、モータ8の回転はスプール4には伝達されない。
【0059】
以上をまとめると、モータが巻き取り方向に回転したときは、その回転力によって駆動される係止レバーによってインターナルギアの回転が止められ、それによりモータとスプールとの間の動力伝達経路が結合される。その他の場合は、係止レバーとインターナルギアとの係合が無く、インターナルギアは自由に回転できるので、モータとスプールとの間の動力伝達経路は切り離される。
【0060】
なお、以上の実施の形態においては、係止レバーの駆動をモータの動力を使用して行っていたが、例えばソレノイド等により電気的に駆動し、インターナルギアと係合させたり係合を解いたりするようにしてもよい。
【0061】
以下、スプール4のシートベルト巻き戻し方向への回転をロックし、シートベルト巻き取り方向への回転を許容する機構について説明する。これは、図1に示されるキャリアギア14のラチェット歯14bと、ソレノイド24、プランジャースプリング25、ラチェットレバー26、パウル27、ラチェットスプリング28から構成される。この機構の作動を図7〜図11を用いて説明する。
【0062】
図7は、ロック機構(ラチェット機構)の要部を示す分解斜視図である。ソレノイド24のピストン24aには、ラチェットレバー26が係合しており、ソレノイド24が無励磁の場合には、プランジャースプリング25の働きにより、ピストン24aが伸長し、ラチェットレバー26が図の上方に押し上げられるようになっている。ラチェットレバー26に設けられた突起26cは、パウル27の穴27dを貫通し、第2リテーナ9の長穴9aに嵌まり込んでいる。
【0063】
ラチェットスプリング28は、図8〜図11に示されるように、その一端を第2リテーナ9に固定され、その他端はパウル27の突起27eに接触し、その弾発力により、パウル27を、ラチェットレバー26の突起26cを回動軸として、キャリアギア14のラチェット歯14bに噛み込む方向に付勢している。なお、図には示されていないが、突起27eは、パウル27の裏側の同じ位置にも設けられており、これが、第2リテーナ9の長穴9bに嵌まり込んでいる。(なお、図7において、第2リテーナ9の形状が図1に示したものと少し異なるが、本発明の説明とは関係ない事項であるので、あえて、両者を整合させていない。)以下、このような構造を有するロック機構の作動を図8〜図11を用いて説明する。
【0064】
図8は、ソレノイド24が励磁されていない定常状態の様子を示すものである。このとき、プランジャースプリング25の付勢力によって、ピストン24aが伸長し、ラチェットレバー26は、案内部9cの上端に位置している。そのとき、突起26cは、長穴9aの上端部に当接している。ラチェットスプリング28は、一端を第2リテーナ9に固定され、第2リテーナ9に設けられたピン9cを介して、パウル27の突起27eに当接し、パウル27を、突起26cを回動軸として図の反時計回りに回動させている。よって、パウル27の裏側の突起27eが、第2リテーナ9の長穴9bの右上端に当たった状態で、パウル27の回動が停止し、パウル27はその位置に位置決めされる。
【0065】
しかし、この状態では、パウル27の係合部27cは、キャリアギア14のラチェット歯14bの歯より離れており、キャリアギア14は自由に回転できるので、スプール4の回転は妨げられない。
【0066】
図9は、図8に示す状態から、ソレノイド24が励磁されたときの状態の変化を示している。このときピストン24aがプランジャースプリング25の付勢力に抗して縮退し、それにより、ラチェットレバー26が案内部9cに沿って下方に下がる。そして、その突起26cが、長穴9aの下端に接触した位置で停止する。その際、パウル27は、穴27dに突起26cが貫通しているので、その位置が下に下がる。その際、パウル27は、ラチェットスプリング28の付勢力により、長穴9bの右上端に当接している突起27eを軸として、図8に示す位置からさらに反時計回りに回動する。それにより、図9に示すように、係合部27cの先端部が、キャリアギア14のラチェット歯14bの歯部と噛みあうような位置にくる。
【0067】
図10は、図9に示す状態において、スプール4がシートベルトを巻き戻す方向に回転したときの状態を示すものである。このとき、キャリアギア14は、図に示すように時計回りに回転する。すると、そのラチェット歯14bとパウル27の係合部27cが噛みあう。よって、パウル27は、突起26cを中心として図の矢印のように反時計回りに回動しようとするが、突起27eが長穴9bの端で拘束されているので回動することができず、それにより、キャリアギア14の回転が停止される。よって、スプール4はシートベルトを巻き戻す方向には回転できなくなる。
【0068】
図11は、図8に示す状態において、スプール4がシートベルトを巻き取る方向に回転したときの状態を示すものである。このとき、キャリアギア14は、図に示すように反時計回りに回転する。すると、パウル27の係合部27cが、ラチェット歯14bに押されるので、パウル27は、突起26cを中心として時計回りに回動する。この回動は、ラチェットスプリング28の付勢力に抗して行われる。そして、その結果、パウル27の裏側の突起27eは、長穴9bの左下側の端まで移動可能である。
【0069】
このようにして、パウル27は、ラチェットスプリング28の付勢力により、その係合部27cをキャリアギア14の歯車に接触させた状態で、その歯車を乗り越え、キャリアギアの回転を許容する。図11に示す状態から、スプールが巻き戻し方向に回転しようとすると、係合部27cがキャリアギア14のラチェット歯14bに接触した状態となっているので、直ちに図10に示すような状態となり、スプール4の回転が阻止される。
【0070】
以上に説明したように、ソレノイド24が励磁されないときはスプールの回転は自由であり、ソレノイド24が励磁されたときは、スプールはシートベルトの巻き取り方向には回転可能であるが、巻き戻し方向には回転が不可能になる。
【0071】
次に、スプール4のシートベルト巻き戻し方向への回転をロックし、シートベルト巻き取り方向への回転を許容する他の機構について説明する。以下の図においては、いずれも、キャリアギア14をラチェット歯車として使用し、シートベルト巻き取り方向への回転のみを許容するようにするもので、作動原理を説明するものであるので概要図として簡略化して示している。
【0072】
図12は、別のロック機構の例を示す概要図である。図12において、パウル27は第2リテーナ9の回動ピン32の周りに回動自在に保持されている。パウル27は図に示すような「へ」字型をしている。そして、パウル27の1端はキャリアギア14のラチェット歯14aと噛み合うようにされており、他の一端は、バネ材33を介してソレノイド24のピストン24aに結合されている。
【0073】
定常状態では、ソレノイド24のピストン24aは伸長状態にあり、パウル27は2点鎖線で示すように、キャリアギア14のラチェット歯14aと噛み合わないようになっている。よって、図12に示すロック機構は、シートベルト巻き取り装置の作動には何の影響も与えない。
【0074】
ソレノイド24が駆動されると、そのピストン24aが縮退する。よれにより、バネ材33を介して、パウル17が回動ピン32の回りに時計回りに回動し、図12に実線で示すように、その一端がキャリアギア14のラチェット歯14aと接する位置に移動する。
【0075】
この状態で、シートベルトを巻き戻す方向への回転力がかかると、キャリアギア14が図12における反時計方向に回転しようとするが、キャリアギア14の鋸歯状の歯の段部とパウル27が接触し、パウル4は、回動ピン32によって、横方向への移動を拘束されているので、結局キャリアギア14は回転できない。
【0076】
一方、シートベルトを巻き取る方向への回転は、キャリアギア14のラチェット歯14aの斜行部がパウル27を押し下げる用に働くので、パウル27が回動ピン32を中心に反時計回りに回動し、これによって回転が可能となる。すなわち、キャリアギア14のラチェット歯14aとパウル27はラチェットを構成している。このとき、パウル27を押し下げる力は、バネ材33が伸長することによって吸収される。
【0077】
図13〜図15は、本発明の他のロック機構の例を示す概要図である。
図13は定常状態を示す図であり、ソレノイド24のピストン24aが伸長した状態にある。よって、ラチェットレバー26は下方に下がった状態にあり、それにより回動軸部26aに支えられたパウル15が重力により下に下がり、その長穴27bの右上の部分が、固定部(例えばリテーナ)に設けられた支持軸31に当たり、結局、パウル27は、支持軸31とラチェットレバー26の回動軸部26aに支えられて図のような位置で停止する。
【0078】
この状態では、パウル27の係止部27cはキャリアギア14のラチェット歯14aより離れており、キャリアギア14は自由に回転できる。ラチェットレバー26の先細部26bは、パウル27の案内穴27aの右端に接触している。なお、案内穴27aは図に示すように、先細部26bよりは広くなっており、特にその上方で斜め右側に拡大した構造をしている。これにより、パウル27は、左右方向にある程度の移動が可能であると共に、回動軸部26aを中心にして回動が可能である。
【0079】
この状態からソレノイド24のピストン24aが縮退すると、ラチェットレバー26が図14に示すように上方に引き上げられる。これにより、パウル27が、図に示すように反時計周りに回転しながら持ち上げられ、キャリアギア14と係合可能な状態になる。この状態で、図に示すように、キャリアギア14がシートベルトの巻き戻し方向、すなわち図に矢印で示すように反時計方向に回転すると、係止部27cの先端がキャリアギア14の歯と噛合し、パウル27は回動軸部26aを中心に回動しようとするが、その長穴27bの右上端が支持軸31に当たり、それ以上回動しない。よって、その状態でキャリアギア14の回転が阻止され、スプールのシートベルト巻き戻し方向への回転は阻止される。
【0080】
一方、この状態で、スプールが巻き取り方向に駆動された場合、図15に示されるような状態となる。すなわち、図の矢印に示すようにキャリアギア14が反時計方向に回転すると、パウル27の係止部27cはキャリアギア14の歯に押されて、その結果パウル27は図に矢印で示すように、重力に反して回動軸部26aを中心に時計回りに回動し、長穴27bの左下側が支持軸31に当たった状態となる。よって、キャリアギア14は、スプールの巻き取り方向には自由に回転できる。なお、図では、キャリアギア14のラチェット歯4bとパウル27の係止部27cが離間したように書いてあるが、これはラチェット歯車に押された慣性で離間したものであり、パウル27には、重力により常に反時計方向に回転する力がかかっているので、やがて、キャリアギア14の歯車部とパウル27の係止部27cは接触し、これらが離れっぱなしになることはない。よって、図15の状態から、キャリアギア14が時計方向に回転し始めた場合には、速やかに図4の状態が実現される。
【0081】
以上に説明したように、ソレノイド24のピストン24aが伸長しているときは、スプールの回転は自由であり、ソレノイド24のピストン24aが縮退したときは、スプールはシートベルトの巻き取り方向には回転可能であるが、巻き戻し方向には回転が不可能になる。
【0082】
なお、このような実施の形態のほかに、図3に示したような機構により、モータ8自体の回転力を利用して、パウルをキャリアギア14のラチェット歯14aに係合させたり係合を解いたりすることにより、キャリアギア14を巻き取り方向のみに回転させることができる。このようにすると、モータ8の回転力を利用して、モータとスプール間の動力伝達経路を入り切りするのと同時に、スプールの回転方向の規制を行うことができる。
【0083】
また、モータとスプールの動力伝達経路の入り切りをするために、インターナルギアの一方向への回転を止めたり、両方向への回転を許したりする動力伝達経路切替機構のラチェット機構として、図3〜図6に示されるようなレバースプリング22と係止レバー21等を用いたものではなく、図7〜図15に示したようなラチェット機構を使用できることは、当業者には明らかな事項であろう。
【0084】
以下、以上のように構成された本発明の実施の形態であるシートベルト巻き取り装置の作動の例について説明する。この実施の形態においては、通常の状態では、モータとスプール間の動力伝達経路をオフとしておく。シートベルトの巻き取りは、ゼンマイばねによって行われる。よって、乗員は、シートベルトを引き出す際に、ゼンマイばねの巻き取り力に抗する引き出し力のみで、シートベルトを引き出すことができる。
【0085】
そして、衝突予測装置等より、衝突等の事故が発生する可能性のあることを示す信号が与えられたとき、シートベルト巻き取り制御装置が、モータをシートベルト巻き取り方向に駆動すると共に、動力伝達経路切替機構によりモータとスプール間の動力伝達経路を結合する。これは、前述の実施の形態で示したように、モータを巻き取り方向に駆動することにより、自然に行われる場合もある。よって、スプールにモータの巻き取り力が伝達され、スプールによりシートベルトが巻き取られる。このシートベルトの巻き取りは、従来のように、実際に衝突が発生してから行われるのでなく、衝突が予測された時点から開始されるので、確実に乗員をシートに拘束することができる。
【0086】
シートベルト巻き取り制御装置は、モータの駆動を行うと同時に、ラチェット機構を作動させ、スプールがシートベルトの巻取方向のみに駆動できるような状態とする。それにより、シートベルトの巻き取り中に、シートベルトを巻き戻そうとする力(例えば、実際の衝突等により発生する)がかかっても、シートベルトが巻き戻されることがない。
【0087】
衝突等の発生が実際に起こらなかった場合は、モータの駆動を停止すると共に、前記ラチェット機構の作動を解除することにより、スプールの回転が自由になり、人間が容易にシートベルトを引き出すことが可能となる。
【0088】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係るシートベルト巻き取り装置を使用すれば、緊急事態の発生時に迅速にロック機構を作動させることができると共に、シートベルトを装着するためにシートベルトを引き出したときロックがかかって、乗員に対して違和感や不快感を与えることがないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の1例であるシートベルト巻き取り装置の概要を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示す実施の形態における動力伝達経路切替機構の要部を示す概要図である。
【図3】図1に示す実施の形態における動力伝達経路切替機構の要部を示す概要図である。
【図4】図1に示す実施の形態における動力伝達経路切替機構の作動を説明する図である。
【図5】図1に示す実施の形態における動力伝達経路切替機構の作動を説明する図である。
【図6】図1に示す実施の形態における動力伝達経路切替機構の作動を説明する図である。
【図7】図1に示す実施の形態におけるロック機構(ラチェット機構)の要部を示す分解斜視図である。
【図8】図7に示すロック機構の作動を説明するための図である。
【図9】図7に示すロック機構の作動を説明するための図である。
【図10】図7に示すロック機構の作動を説明するための図である。
【図11】図7に示すロック機構の作動を説明するための図である。
【図12】ロック機構(ラチェット機構)の他の形態を示す図である。
【図13】ロック機構(ラチェット機構)の他の形態を示す図である。
【図14】図13に示したロック機構の作動を説明するための図である。
【図15】図13に示したロック機構の作動を説明するための図である。
【図16】従来のシートベルト巻き取り装置の概要を示す図である。
【符号の説明】
1…シートベルト巻き取り装置、2…フレーム、3…シートベルト、4…スプール、4a…スプール軸、4b…スプライン軸、5…トーションバー、6…リテーナ、7…ゼンマイユニット、8…モータ、9…第2リテーナ、9a…長穴、9b…長穴、9c…案内部、10…モータギア、11…コネクトギア、11a…歯、11b…歯、11c…軸方向孔、12…中間減速ギア、12a…歯、12b…歯、13…減速ギア、13a…大径歯部、13b…サンギア、14…キャリアギア、14b…ラチェット歯、14c…中心穴、14d…ネジ穴、15…リダクションピン、16…プラネタリギア、17…リダクションプレート、18…インターナルギア、18a…ラチェット歯、18b…内歯、21…係止レバー、21a…係止爪、21b…凹部、22…レバースプリング、22a…湾曲部、23…スプリング保持部材、23a…突出ピン、23b…突起、24…ソレノイド、24a…ピストン、25…プランジャースプリング、26…ラチェットレバー、26a…回動軸部、26b…先細部、26c…突起、27…パウル、27a…案内穴、27b…長穴、27c…係合部、27d…穴、27e…突起、28…ラチェットスプリング、31…支持軸、32…回動ピン、33…バネ材
Claims (1)
- モータによりシートベルトをスプールに巻き取る機構を有するシートベルト巻き取り装置であって、
前記モータの回転が入力されるサンギア、外周に第1ラチェット歯を有しかつ内周に内歯を有するリング状のインターナルギア、前記サンギア及び前記インターナルギアに噛合するプラネタリギア、及び、外周に第2ラチェット歯を有するともに前記プラネタリギアを回転可能に支持しその回転を前記スプールに伝達するキャリアを備えた減速機構と、
前記第1ラチェット歯への係合により前記モータと前記スプールとの間の動力の伝達経路を入り状態にし、前記第1ラチェット歯への非係合により前記モータと前記スプールとの間の動力の伝達経路を切り状態にする、伝達経路入切機構と、
前記第2ラチェット歯への係合により前記スプールをシートベルト巻き取り方向にのみ回転させ、前記第2ラチェット歯への非係合により前記スプールのいずれの方向への回転をも許容する回転許容機構と
を備えたことを特徴とするシートベルト巻き取り装置。
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