JP4498718B2 - マスタシリンダ - Google Patents

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Description

この発明は、車両の液圧ブレーキ装置に採用するマスタシリンダ、中でも、ピストンがシリンダボディに保持されたカップの内周で摺動して圧力室のブレーキ液を加圧するタイプのマスタシリンダ(以下これをカップ内径摺動型マスタシリンダと言う)に関する。
近年の車両用液圧ブレーキ装置は、運転者がブレーキ操作を行っていないときに電子制御装置の判断で車両安定性制御等の自動ブレーキ制御を行うものが増えてきた。
この種の液圧ブレーキ装置に採用するカップ内径摺動型マスタシリンダの従来技術として、例えば下記特許文献1に示されるものがある。
特開2000−71969号公報
この特許文献1に記載されたマスタシリンダは、ピストンの外周に配置したプライマリカップとこのプライマリカップの後部に設けるガイドとの間にスペーサを配置し、このスペーサの裏側に設けた溝を通してリザーバから圧力室にブレーキ液を供給する構造にしている。
自動ブレーキ制御対応のカップ内径摺動型マスタシリンダは、前進したピストンが復帰する際のリザーバから圧力室へのブレーキ液の良好な吸い込み性だけでなく、自動ブレーキ制御が実行されたときのリザーバから圧力室へのブレーキ液の良好な吸い込み性も確保することが要求される。
特許文献1のマスタシリンダは、その要求に応え、同時に操作フィーリングも改善するために肉薄の上述したスペーサを設け、運転者によるブレーキ操作がなされていない非作動時、すなわち、ピストンが初期位置にあるときに圧力室をリザーバに連通させるピストンポートをプライマリカップに近づけることを可能ならしめている。
なお、リザーバからのブレーキ液は、ピストン復帰時にはカップを変形させてカップの周囲を通って圧力室に吸い込まれ、自動ブレーキ制御実行時には、ピストンポート(ピストンに設けたポート)を通って圧力室に吸い込まれる。
上述した特許文献1のマスタシリンダは、液圧を受けたプライマリカップからスペーサが圧力を受け、このスペーサに大きな応力が発生する。そのために、スペーサが疲労破壊を起こす不具合が懸念された。
また、自動ブレーキ制御実行時の圧力室に対するリザーバからのブレーキ液の吸い込み性をより高めようとするとスペーサの背面をピストンポートにさらに近づける必要があり、このためにはスペーサをより肉薄にしなければならないが、スペーサは裏側に溝を設けている関係で複数の突条によって支持されるため強度上の問題からその要求に応えるのも困難であった。
さらに、スペーサとシリンダボディとの間およびスペーサとピストンとの間には、径方向の隙間があるため、スペーサがシリンダボディに対して偏芯し、上記隙間からのブレーキ液の流通が不均一であった。このため、ピストン復帰時のプライマリカップ前方へのブレーキ液の流通が阻害されたり非作動時のスペーサ内径からのピストンポートを介しての圧力室へのブレーキ液供給が十分でないといった不具合があった。
また、スペーサの偏芯によって、スペーサとシリンダボディとの間の隙間およびスペーサとピストンとの間の隙間が部分的に大きくなる箇所が発生し、この部分的に大きくなった隙間に液圧を受けたプライマリカップが食い込んで損傷する虞があった。
さらに、スペーサとガイドを組み込む構造であることから、シリンダボディとは別にカバーを設けてスペーサ及びガイド組付け後にカバーをねじ込む必要があり、構造の複雑化、組付け工数増加の問題もあった。
この発明は、カップ内径摺動型マスタシリンダに見られる上記の問題点を無くすこと、すなわち、簡素かつ信頼性の高い構造で、ピストン復帰時、自動ブレーキ制御時とも圧力室に対するブレーキ液の良好な吸い込み性を確保することを課題としている。
上記の課題を解決するため、この発明においては、ピストンがシリンダボディに保持されたカップの内周で摺動して圧力室のブレーキ液を加圧するタイプのマスタシリンダを以下の通りに構成した。即ち、
前記ピストンとして外径寸法が長手方向の全域で均一であるピストンを設け、そのピストンと、
前記シリンダボディの内周面に設けられたカップ収納溝と、
そのカップ収納溝に収納されたプライマリカップと、
前記プライマリカップの前方の前記シリンダボディの内周面に設けられた前記カップ収
納溝を前記圧力室に連通させるための複数の軸方向の溝と、
前記プライマリカップの背後に前記シリンダボディと一体に形成された、内径が前記
シリンダボディの内径よりも大きい環状壁と、
前記環状壁と前記ピストンとの間に設けられた環状通路と、
前記環状壁の後部に設けられた、前記ピストンとの間の隙間が前記環状通路よりも大き
いリザーバとの連通路とからなり、
前記環状通路が前記ピストンの急戻しに対応した通路として形成され、前記ピストンの
急戻し時に、前記リザーバから前記圧力室にブレーキ液が、前記環状通路、プライマリカップの周囲を通り、さらに前記軸方向の溝を通って吸い込まれるようにした。
なお、このマスタシリンダは、以下に列挙する構成を付加するとより好ましいものになる。
1)前記環状壁を、内周側から半径方向外方に向って肉厚にする。
2)前記環状壁の内周側の前部コーナ、後部コーナ又は前後部の各コーナに小半径のR面取り部を設ける。
3)前記プライマリカップの前方と前記環状壁の後方とにおいて、ピストンがシリンダボディの内径で摺動案内されるようにする。
4)前記ピストンが初期位置にあるときに前記圧力室を前記連通路に連通させるピストンポートを前記環状壁の近傍に配置する。
5)前記複数の軸方向の溝を、前記カップ収納溝を前記圧力室に連通させる前記環状通路と同等又はそれ以上の通路面積を有するものにする。
6)前記複数の軸方向の溝を、断面円弧状の溝にする。
ここで言うピストンは、タンデムマスタシリンダについては、プライマリピストン、セカンダリピストンの双方を指す。
この発明においては、プライマリカップから圧力を受ける環状壁をシリンダボディと一体的に構成したので、その環状壁の強度を十分に確保でき、強度面での信頼性が高まる。
また、環状壁とピストンとの間に環状通路を形成したので、カップの周囲を通って圧力室に吸い込まれるブレーキ液、ピストンポートを通って圧力室に吸い込まれるブレーキ液の流動性を共に高めることができ、ピストン復帰時、自動ブレーキ制御時とも圧力室へのブレーキ液の良好な吸い込み性を確保できる。
さらに、要求される機能を部品数の少ない簡単な構造で確保しているため、加工、組み立てが容易で生産性も極めて高い。
なお、前記環状壁を内周側から半径方向外方に向かって肉厚にしたものは、環状通路の拡大効果によりピストンポートとの良好な連通性を確保して環状壁の強度をより一層高めることができる。
また、環状壁の内周側の前部コーナに小半径の面取り部を設けたものは、コーナのエッジがカップに食い込む心配がなく、プライマリカップの損傷が起こり難い。また、この環状壁の内周側の後部コーナに小半径の面取り部を設けたものは、前述の環状通路の拡大効果がより増強される。
プライマリカップの前方と環状壁の後方とにおいて、ピストンがシリンダボディの内径で摺動案内されているものは、環状壁とピストンとの同軸が精度よく保たれ、ブレーキ液の円滑な流通が確保されるとともにプライマリカップの損傷が防止される。
さらに、プライマリカップの前方のシリンダボディ内周に圧力室に連通する複数の軸方向の溝を設けたものは、その溝によって環状壁とピストン間の環状通路に相当するブレーキ液流路が形成され、カップを撓ませて圧力室に至るブレーキ液がスムーズに流れてピストンの復帰作動が円滑になされる。
このほか、前記複数の軸方向の溝を、円弧断面の溝にしたものは、回転工具などでその溝を簡単に加工することができる。
以下、この発明のマスタシリンダの実施形態を図1乃至図3に基づいて説明する。図中1はシリンダボディ、2はシリンダボディ1に摺動案内されるプライマリピストン、3は内部のブレーキ液をプライマリピストン2で加圧してブレーキ液圧を発生させる第1圧力室、4はプライマリピストン2の復帰スプリング、5はプライマリピストン2の前方に配置したセカンダリピストン(これもシリンダボディ1に摺動案内される)、6は内部のブレーキ液をセカンダリピストン5で加圧してブレーキ液圧を発生させる第2圧力室、7はセカンダリピストン5の復帰スプリング、8はプライマリピストン2に設けたピストンポート、9はセカンダリピストン5に設けたピストンポート、10はリザーバ、11は第1圧力室3の出力ポート、12は第2圧力室6の出力ポートである。ピストンポート8、9は、周方向に適当な間隔をあけてそれぞれ複数設けられている。
シリンダボディ1の内部には、プライマリピストン2の外周をシールするプライマリカップ13、プライマリピストン2の外周においてシリンダと大気間を遮断するセカンダリカップ14、セカンダリピストン5の外周をシールするプライマリカップ15、及びセカンダリピストン5の外周において第1圧力室3とリザーバ10との間を遮断するプレッシャカップ16を配置している。
プライマリカップ13、15、セカンダリカップ14、プレッシャカップ16は、いずれもシリンダボディ1の内周に環状のカップ収納溝を設けてそのカップ収納溝の中に組み込んでいる。また、各プライマリカップ13、15の背後(図中右側)に、プライマリカップ13、15を個別に受け支える環状壁17、18をシリンダボディ1と一体に形成して設けている。
その環状壁17、18の内径をシリンダの内径よりも大きくして図3に示すように環状壁17とプライマリピストン2との間及び環状壁18とセカンダリピストン5との間にそれぞれ環状通路19、20を形成し、さらに、環状壁17、18の内周側に、内周側の前部コーナと後部コーナのエッジを無くす小半径のR面取りを施している。コーナに形成された面取り部を図3に符号21で示す。
環状壁17の後部にはプライマリピストン2との間の隙間が環状通路19よりも大きい環状の連通路30を、また、環状壁18の後部にはセカンダリピストン5との間の隙間が環状通路20よりも大きい環状の連通路23をそれぞれ設けており、これらの連通路30、23とシリンダボディ1に別途設けた連通路22、24、25を経由して各環状通路19、20がリザーバ10に通じている。
さらに、ピストンポート8は環状壁17の直下近傍に、また、ピストンポート9は環状壁18の直下近傍に各々配置して(いずれも、マスタシリンダが非作動状態にあるとき)いる。
環状壁17、18は、図3に示す背面17a、18aを斜面にして内周側から半径方向外方に向かって肉厚になる構造にしており、これにより、環状通路19、20の入口側(リザーバ10に近い側)の通路面積が拡大されてプライマリピストン2及びセカンダリピストン5との間にブレーキ液が流動し易い流路が形成され、また、環状壁17、18の強度も高まって各環状壁17、18が高い圧力に耐えるものになっている。プライマリピストン2は、摺動案内部40、41によって摺動案内されており、セカンダリピストン5は、摺動案内部42、43によって摺動案内されている。なお、本実施形態においては、プレッシャカップ16の後方のシリンダボディ1は、摺動案内部となっていないが、プライマリカップ13、15の前方部と同様に摺動案内部としてもよい。
プライマリカップ13、15の前方のシリンダ内周面には、プライマリカップ13を収納した溝を第1圧力室3に、また、プライマリカップ15を収納した溝を第2圧力室6に各々連通させる軸方向の複数の断面円弧状の溝26、27を設けている。図2に溝26の断面形状を示す。溝27もこの溝26と同様の形状になっている。
この溝26、27は、どちらも通路面積(総面積)を環状通路19、20の通路面積とほぼ等しいか又はそれ以上にしており、環状通路19、20を通過したブレーキ液を第1、第2圧力室3、6にスムーズに流動させることができる。
なお、環状通路19、20の大きさ(ピストンと環状壁との間のクリアランス寸法)は、マスタシリンダの耐久性と作動特性面から0.2mm〜0.4mm程度にするのが好ましい。
以上の如く構成した例示のマスタシリンダは、運転者による制動の解除などに伴い、プライマリピストン2とセカンダリピストン5が前進した位置から急速に戻される急戻し行程では、第1圧力室3と第2圧力室6が負圧になるため、プライマリカップ13、15の内周側が前面と背面に受ける圧力の差で変形し、リザーバ10からのブレーキ液が環状通路19、20からプライマリカップ13、15の内側を通り、さらに溝26、27を通って第1圧力室3及び第2圧力室6にスムーズに吸い込まれる。このため、プライマリピストン2とセカンダリピストン5が円滑に復帰作動し、ブレーキの解除や急な緩めに対する応答性が良好なものになる。
一方、マスタシリンダ非作動時に車両安定性制御などの自動ブレーキ制御が実行されて出力ポート11、12につながる液圧系からブレーキ液を要求された場合には、連通路30、23を通ったブレーキ液が、環状壁17、18の背面17a、18aを傾斜させたことによって入口側が拡大している環状通路19、20に流れ、その環状通路19、20に開口しているピストンポート8、9を通り、第1圧力室3経由及び第2圧力室6経由で液圧系にスムーズに供給される。従って、自動ブレーキ制御の応答性も良好なものになる。
このほか、環状壁17、18を内周側から半径方向外方に向かって肉厚にしているので、ピストンポート8、9との良好な連通性を確保するのと同時に各環状壁17、18の強度も十分に確保することができる。
また、環状壁の内周側の前部コーナと後部コーナに小半径のR面取りを施しているので、プライマリカップの損傷防止効果や環状通路の拡大効果も得られる。
さらに、溝26、27を断面円弧状の溝にしているため、その溝26、27を回転工具などで容易に加工することができる。
このほか、要求される機能を部品数の少ない簡単な構造で確保しており、加工、組み立てが容易で生産性にも優れる。
この発明のマスタシリンダの一例を示す断面図 図1のII−II線部の断面図 図1の要部を拡大して示す図
符号の説明
1 シリンダボディ
2 プライマリピストン
3 第1圧力室
4、7 復帰スプリング
5 セカンダリピストン
6 第2圧力室
8、9 ピストンポート
10 リザーバ
11、12 出力ポート
13、15 プライマリカップ
14 セカンダリカップ
16 プレッシャカップ
17、18 環状壁
19、20 環状通路
21 面取り部
22〜25、30 連通路
26、27 溝
40〜43 ピストン摺動案内部

Claims (4)

  1. ピストンがシリンダボディに保持されたカップの内周で摺動して圧力室のブレーキ液を加圧するタイプのマスタシリンダであって、
    前記ピストンとして外径寸法が長手方向の全域で均一であるピストンを設け、そのピストンと、
    前記シリンダボディの内周面に設けられたカップ収納溝と、
    そのカップ収納溝に収納されるプライマリカップと、
    前記プライマリカップの前方の前記シリンダボディの内周面に設けられた前記カップ収納溝を前記圧力室に連通させるための複数の軸方向の溝と、
    前記プライマリカップの背後に前記シリンダボディと一体に形成された、内径が前記シリンダボディの内径よりも大きい環状壁と、
    前記環状壁と前記ピストンとの間に設けられた環状通路と、
    前記環状壁の後部に設けられた、前記ピストンとの間の隙間が前記環状通路よりも大きいリザーバとの連通路とからなり、
    前記環状通路が前記ピストンの急戻しに対応した通路として形成され、前記ピストンの急戻し時に、前記リザーバから前記圧力室にブレーキ液が、前記環状通路、プライマリカップの周囲を通り、さらに前記軸方向の溝を通って吸い込まれるようにしたマスタシリンダ。
  2. 前記環状壁を、内周側から半径方向外方に向って肉厚にしたことを特徴とする請求項1に記載のマスタシリンダ。
  3. 前記プライマリカップの前方と前記環状壁の後方とにおいて、ピストンがシリンダボディの内径で摺動案内されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のマスタシリンダ。
  4. 非作動時に前記圧力室を前記連通路に連通させるピストンポートを前記環状壁の近傍に配置したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のマスタシリンダ。
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