以下、本発明に係る各実施形態について図面を参照して以下に説明する。
「第1実施形態」
本発明に係る第1実施形態を図1〜図2に基づいて説明する。
図1中符号11は、図示せぬブレーキブースタを介して導入されるブレーキペダルの操作量に応じた力でブレーキ液圧を発生させる第1実施形態のマスタシリンダを示しており、このマスタシリンダ11には、その上側にブレーキ液を給排するリザーバRが取り付けられている。
マスタシリンダ11は、底部13と筒部14とを有する有底筒状のシリンダ本体15と、このシリンダ本体15内の開口部16側(図1における右側)に摺動可能に挿入されるプライマリピストン(ピストン)18と、シリンダ本体15内のプライマリピストン18よりも底部13側(図1における左側)に摺動可能に挿入されるセカンダリピストン(ピストン)19とを有するタンデムタイプのものである。
シリンダ本体15には、底部13の内側に、軸線方向に突出する係止突出部21が形成されている。
また、シリンダ本体15には、半径方向外側に突出しかつ軸線方向に延在する取付台部22が一体に形成されており、この取付台部22のシリンダ軸線方向における前後両側にリザーバRを取り付けるための取付穴24,25が、互いに筒部14の円周方向における位置を一致させて形成されている。ここで、取付穴24,25の内側にはリザーバRを嵌合させるとともにこのリザーバRとの隙間を密封するための取付シール26,27が嵌合されている。
シリンダ本体15の内周面28には、筒部14の軸線方向における位置をずらして複数具体的には4カ所の外径側に凹む環状のシール周溝30〜33が設けられている。これらシール周溝30〜33は、シリンダ本体15の内周面28に直接、切削加工されることで形成されている。
シリンダ本体15の最も底部13側にあるシール周溝(周溝)30は、底部13側の取付穴24の底部13側に近接して形成されており、このシール周溝30にピストンシール(シール部材)35が嵌合されている。シリンダ本体15におけるシール周溝30よりも開口部16側には、底部13側の取付穴24から穿設される連通穴36を筒部14内に開口させるように、筒部14の内周面28から外径側に凹む環状の開口溝37が形成されている。ここで、この開口溝37と連通穴36とが、シリンダ本体15とリザーバRとを連通可能に結ぶとともにリザーバRに常時連通するセカンダリ補給路(補給路)38を主に構成している。
そして、シリンダ本体15における上記開口溝37のシール周溝30に対し反対側つまり開口部16側にシール周溝31が形成されており、このシール周溝31に区画シール40が嵌合されている。ここで、筒部14の内周面28には、シール周溝30から底部13側に直線状に延出する連通溝41が外径側に凹むように形成されている。また、シリンダ本体15におけるシール周溝31の開口部16側には、筒部14の内周面28から外径側に凹む環状の大径溝42が形成されている。
シリンダ本体15における上記大径溝42よりも開口部16側にシール周溝(周溝)32が形成されており、このシール周溝32にピストンシール(シール部材)45が嵌合されている。シリンダ本体15におけるこのシール周溝32の開口部16側には、開口部16側の取付穴25から穿設される連通穴46を筒部14内に開口させるように、筒部14の内周面28から外径側に凹む環状の開口溝47が形成されている。ここで、この開口溝47と連通穴46とが、シリンダ本体15とリザーバRとを連通可能に結ぶとともにリザーバRに常時連通するプライマリ補給路(補給路)48を主に構成している。また、筒部14の内周面28には、シール周溝32と大径溝42とを直線状に結ぶ連通溝49が外径側に凹んで形成されている。
そして、シリンダ本体15における上記開口溝47のシール周溝32に対し反対側つまり開口部16側にシール周溝33が形成されており、このシール周溝33に区画シール50が嵌合されている。
シリンダ本体15の筒部14の側部には、ブレーキ液を図示せぬブレーキ装置に供給するための図示せぬブレーキ配管が取り付けられるプライマリ吐出路(吐出路)53およびセカンダリ吐出路(吐出路)52が形成されている。なお、これらプライマリ吐出路53およびセカンダリ吐出路52は、互いに筒部14の円周方向における位置を一致させた状態で軸線方向における位置をずらして形成されており、一方のセカンダリ吐出路52は底部13とシール周溝30との間であって底部13の近傍となる位置に形成されており、他方のプライマリ吐出路53は、大径溝42におけるシール周溝31の近傍となる位置に形成されている。
シリンダ本体15の底部13側に嵌合されるセカンダリピストン19は、円筒部55と、円筒部55の軸線方向における一側に形成された底部56とを有する有底円筒状をなしており、その円筒部55をシリンダ本体15の底部13側に配置した状態でシリンダ本体15内に挿入されている。底部56の円筒部55に対し反対側には、軸線方向に突出する係止突出部57が形成されている。また、底部56の円筒部55側には円筒部55の内径よりも小径の小径内周部58が形成されている。さらに、円筒部55の底部56に対し反対側の端部の外周側には、他の部分よりも径が若干小さい環状の段部59が形成されている。さらに、円筒部55の段部59には、その底部56側に径方向に貫通するポート60が複数放射状に形成されている。
ここで、シリンダ本体15の底部13および筒部14の底部13側と、セカンダリピストン19とで囲まれた部分が、セカンダリ吐出路52に液圧を供給するセカンダリ圧力室(圧力室)63となっている。そして、シリンダ本体15の底部13側のシール周溝30に設けられたピストンシール35は、内周がセカンダリピストン19の外周側に摺接してセカンダリ補給路38とセカンダリ圧力室63との間を密封可能、つまり、セカンダリ圧力室63と、セカンダリ補給路38およびリザーバRとの連通を遮断可能となっている。
第1実施形態において、このセカンダリ側のピストンシール35は、図2(b)に示すように、円環状のベース部65と、ベース部65の内周側からベース部65の軸線方向にほぼ沿って延出する円環状の内周リップ部66と、ベース部65の外周側から内周リップ部66と同側に延出する円環状の外周リップ部67とを有している(図2においては、セカンダリ側のピストンシール35に対応する構成の符号を括弧無しで、後述するプライマリ側のピストンシール45に対応する構成の符号を括弧付きで示している)。言い換えれば、ピストンシール35は、ベース部65が内周リップ部66と外周リップ部67とを連結している。
ピストンシール35は、内周リップ部66においてセカンダリピストン19の外周面に摺接することになり、外周リップ部67においてシリンダ本体15のシール周溝30の底面69に当接する。ここで、ピストンシール35は、外部からの規制を受けない状態においては、内周リップ部66がベース部65に対し反対側ほど径が小さくなるようにテーパ状をなしており、外周リップ部67がベース部65に対し反対側ほど径が大きくなるようにテーパ状をなしている。
内周リップ部66は、内側にセカンダリピストン19が嵌合されると、ほぼ全長にわたってベース部65の軸線方向に沿う状態となってセカンダリピストン19に対し摺動可能な状態で密着する。また、この状態で、ベース部65はシール周溝30のセカンダリ補給路38側の壁面70に当接可能となっている。さらに、この状態で、外周リップ部67はそのベース部65側がシール周溝30の底面69に対し離間しており、ベース部65に対し反対側がテーパ状に広がってシール周溝30の底面69に当接可能となっている。なお、外周リップ部67および内周リップ部66の延出先端はともにシール周溝30のセカンダリ補給路38とは反対側の通路面71に対し離間可能となっている。
そして、第1実施形態においては、シール周溝30のセカンダリ補給路38側の壁面70には、シール周溝30の底面69側よりも開口72側の方が凹んだ段差73が形成されている。つまり、壁面70は、底面69側がシリンダ軸直交方向に沿う環状面70aとされ、開口72側が底面69側よりもシリンダ軸方向でセカンダリ補給路38側に位置してシリンダ軸直交方向に沿う環状面70bとされ、これらの間がシリンダ軸方向に沿う円筒面70cとされており、これら環状面70a、円筒面70cおよび環状面70bで一段の段差73が形成されている。また、本第1実施形態においては、段差73のシール周溝30における径方向位置は、壁面70の径方向長さの中心に位置している。
図1に示すように、セカンダリピストン19とシリンダ本体15の底部13との間には、図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない初期状態(このときの各部の位置を初期位置と以下称す)でこれらの間隔を決めるセカンダリピストンスプリング78が設けられている。このセカンダリピストンスプリング78は一端側がシリンダ底部13の係止突出部21を内側に配置することで係止されており、他端側がセカンダリピストン19の円筒部55内を通って底部56の小径内周部58に係止されている。
シリンダ本体15の開口部16側に嵌合されるプライマリピストン18は、第1円筒部80と、第1円筒部80の軸線方向における一側に形成された底部81と、底部81の第1円筒部80に対し反対側に形成された第2円筒部82とを有する形状をなしており、その第1円筒部80をシリンダ本体15内のセカンダリピストン19側に配置した状態でシリンダ本体15内に挿入されている。ここで、第2円筒部82の内側には図示せぬブレーキブースタの出力軸が挿入され、この出力軸が底部81を押圧する。
第1円筒部80の底部81に対し反対側の端部の外周側には、他の部分よりも径が若干小さい環状の凹部83が形成されている。さらに、第1円筒部80の凹部83には、その底部81側に径方向に貫通するポート84が複数放射状に形成されている。
ここで、シリンダ本体15の筒部14の開口部16側とプライマリピストン18とセカンダリピストン19とで囲まれた部分が、プライマリ吐出路53に液圧を供給するプライマリ圧力室(圧力室)86となっている。そして、シリンダ本体15のシール周溝32に設けられたピストンシール45は、内周がプライマリピストン18の外周側に摺接してプライマリ補給路48とプライマリ圧力室86との間を密封可能、つまり、プライマリ圧力室86と、プライマリ補給路48およびリザーバRとの連通を遮断可能となっている。
第1実施形態において、このピストンシール45も、図2(b)に示すように、上記ピストンシール35と同一のものとされている(図2においては、ピストンシール45に対応する構成の符号を括弧付きで示している)。つまり、ピストンシール45も、円環状のベース部65と、ベース部65の内周側からベース部65の軸線方向にほぼ沿って延出する円環状の内周リップ部66と、ベース部65の外周側から内周リップ部66と同側に延出する円環状の外周リップ部67とを有している。言い換えれば、ベース部65が内周リップ部66と外周リップ部67とを連結している。
ピストンシール45は、内周リップ部66においてプライマリピストン18の外周面に摺接することになり、外周リップ部67においてシリンダ本体15のシール周溝32の底面69に当接する。ここで、ピストンシール45は、外部からの規制を受けない状態においては、内周リップ部66がベース部65に対し反対側ほど径が小さくなるようにテーパ状をなしており、外周リップ部67がベース部65に対し反対側ほど径が大きくなるようにテーパ状をなしている。
内周リップ部66は、内側にプライマリピストン18が嵌合されると、ほぼ全長にわたってベース部65の軸線方向に沿う状態となってプライマリピストン18に対し摺動可能な状態で密着する。また、この状態で、ベース部65はシール周溝32のプライマリ補給路48側の壁面70に当接可能となっている。さらに、この状態で、外周リップ部67はそのベース部65側がシール周溝32の底面69に対し離間しており、ベース部65に対し反対側がテーパ状に広がってシール周溝32の底面69に当接可能となっている。なお、外周リップ部67および内周リップ部66の延出先端はともにシール周溝32のプライマリ補給路48とは反対側の通路面71に対し離間可能となっている。
そして、第1実施形態においては、シール周溝32のプライマリ補給路48側の壁面70には、シール周溝32の底面69側よりも開口72側の方が凹んだ段差73が形成されている。つまり、シール周溝32の壁面70も、底面69側がシリンダ軸直交方向に沿う環状面70aとされ、開口72側が底面69側よりもシリンダ軸方向でセカンダリ補給路38側に位置してシリンダ軸直交方向に沿う環状面70bとされ、これらの間がシリンダ軸方向に沿う円筒面70cとされており、これら環状面70a、円筒面70cおよび環状面70bで一段の段差73が形成されている。また、本第1実施形態においては、段差73のシール周溝30における径方向位置は、壁面70の径方向長さの中心に位置している。
図1に示すように、シール周溝31に設けられた区画シール40は、セカンダリピストン19に摺接してセカンダリ圧力室63とプライマリ圧力室86との間を常時密封することになり、シール周溝33に設けられた区画シール50は、プライマリピストン18に摺接してプライマリ圧力室86を外気に対し常時密閉する。
セカンダリピストン19とプライマリピストン18との間には、図示せぬブレーキペダル側(図1における右側)から入力がない初期状態でこれらの間隔を決めるプライマリピストンスプリング88および間隔調整部89が設けられている。つまりプライマリピストンスプリング88がセカンダリピストン19とプライマリピストン18とを離間方向に付勢するとともに、間隔調整部89がセカンダリピストン19とプライマリピストン18との設定間隔を超えた離間を規制する。ここで、間隔調整部89は、セカンダリピストン19の底部56に当接するリテーナ91とプライマリピストン18の底部81に当接するリテーナ92とリテーナ91に固定されかつリテーナ92に対し所定範囲のみ摺動可能に保持される軸部93とを有しており、両側のリテーナ91,92間にプライマリピストンスプリング88が介装されている。なお、リテーナ91はセカンダリピストン19の係止突出部57に係止されている。
ここで、図2(a)に示すように、セカンダリ側のピストンシール35は、セカンダリ圧力室63の液圧がセカンダリ補給路38側つまりリザーバR側の液圧以上の場合に、外周リップ部67が圧力で外径側に押し広げられてシール周溝30の底面69に密着することで、セカンダリ圧力室63と、セカンダリ補給路38およびリザーバRとの連通を遮断する。他方、セカンダリ圧力室63の液圧が、セカンダリ補給路38側つまりリザーバR側の液圧より低い場合に、ピストンシール35は、外周リップ部67が液圧で内径側に押し縮められてシール周溝30の底面69から離間することで、セカンダリ圧力室63と、セカンダリ補給路38およびリザーバRとを、シール周溝30の壁面70と隙間、シール周溝30の底面69との隙間およびシール周溝30の通路面71との隙間を介して連通させてセカンダリ圧力室63へのセカンダリ補給路38およびリザーバRからの液補給を行う。
同様に、プライマリ側のピストンシール45は、プライマリ圧力室86の液圧がプライマリ補給路48およびリザーバR側の液圧以上の場合に、外周リップ部67が圧力で外径側に押し広げられてシール周溝32の底面69に密着することで、プライマリ圧力室86と、プライマリ補給室48およびリザーバRとの連通を遮断する。他方、プライマリ圧力室86の液圧が、プライマリ補給路48およびリザーバR側の液圧より低い場合に、ピストンシール45は、外周リップ部67が液圧で内径側に押し縮められてシール周溝32の底面69から離間することで、プライマリ圧力室86と、プライマリ補給路48およびリザーバRとを、シール周溝32の壁面70と隙間、シール周溝32の底面69との隙間およびシール周溝32の通路面71との隙間を介して連通させてプライマリ圧力室86へのプライマリ補給室48およびリザーバRからの液補給を行う。
次に、上記マスタシリンダの作動について説明する。
上記初期位置にあるとき、図1に示すように、プライマリピストン18は、ポート84をプライマリ補給路48に連通させており、その結果、プライマリ圧力室86をリザーバRに連通させている。
この初期状態からブレーキの操作入力があってプライマリピストン18がシリンダ本体15の底部13側に移動しポート84がピストンシール45よりも底部13側に位置すると、プライマリ圧力室86の液圧がリザーバR側の液圧以上となる。この差圧によって、ピストンシール45が外周リップ部67でシール周溝32の底面69に密着するとともにベース部65がシール周溝32の壁面70に密着して、プライマリ圧力室86と、プライマリ補給路48およびリザーバRとの連通を遮断することになる。これにより、さらにプライマリピストン18がシリンダ底部13側に移動することでプライマリ圧力室86からプライマリ吐出路53を介して図示せぬブレーキ装置にブレーキ液圧を供給する。なお、図2(a)に示すように、ピストンシール45のベース部65が、プライマリ圧力室86の液圧によってシール周溝32の壁面70に密着すると、壁面70の段差73に形状が倣うことになる。これによって、環状面70a,70bに同時に密着するように弾性変形して段差状をなす。このとき、ピストンシール45には段差73の体積分だけ弾性歪みエネルギが蓄積される。
他方、この液圧供給状態からブレーキの操作入力が解除されると、プライマリピストン18がプライマリピストンスプリング88の付勢力で底部13とは反対側に戻ってプライマリ圧力室86の液圧が解除される。この液圧解除時に、プライマリ圧力室86の液圧と、プライマリ補給路48およびリザーバR側の液圧との液圧差が小さくなると、ピストンシール45が上記した弾性歪みエネルギにより、環状面70bから離れる方向に移動または変形する。つまり、プライマリ圧力室86の液圧による変形で蓄えられていた弾性歪みエネルギによって、図2(b)に示すように、ベース部65が環状面70bから離れる。そして、プライマリ圧力室86の液圧が、ブレーキ装置からのブレーキ液の戻りの遅延によってプライマリ補給路48およびリザーバR側の液圧より低くなると、ピストンシール45の外周リップ部67が液圧で内径側に押し縮められてシール周溝32の底面69から離間するとともに、この外周リップ部67の変形につられてベース部65が変位して壁面70の全体から離れることになり、シリンダ本体15とプライマリピストン18との隙間と、ピストンシール45とシール周溝32の段差73を含む壁面70との隙間と、ピストンシール45とシール周溝32の底面69との隙間と、ピストンシール45とシール周溝32の通路面71との隙間とを介して、プライマリ補給路48がプライマリ圧力室86に連通してプライマリ補給路48およびリザーバRからブレーキ液をプライマリ圧力室86に補給する。
また、上記初期位置にあるとき、セカンダリピストン19は、セカンダリ補給路38をポート60を介してセカンダリ圧力室63に連通させており、その結果、セカンダリ圧力室63をリザーバRに連通させている。
この初期状態から、ブレーキの操作入力があってプライマリピストン18が底部13側に移動することでプライマリピストンスプリング88を介して押圧されてセカンダリピストン19がシリンダ本体15の底部13側に移動しポート60がピストンシール35よりもシリンダ本体15の底部13側に位置すると、セカンダリ圧力室63の液圧がリザーバR側の液圧以上となる。この差圧によって、ピストンシール35が外周リップ部67でシール周溝30の底面69に密着して、セカンダリ圧力室63と、セカンダリ補給路38およびリザーバRとの連通を遮断することになる。これにより、さらにセカンダリピストン19がシリンダ底部13側に移動することでセカンダリ圧力室63からセカンダリ吐出路52を介して図示せぬブレーキ装置にブレーキ液圧を供給する。なお、図2(a)に示すように、ピストンシール35のベース部65が、セカンダリ圧力室63の液圧によってシール周溝30の壁面70に密着すると、壁面70の段差73に形状が倣うことになる。これによって、環状面70a,70bに同時に密着するように弾性変形して段差状をなす。このとき、ピストンシール35には段差73の体積分だけ弾性歪みエネルギが蓄積される。
他方、この液圧供給状態からブレーキの操作入力が解除されると、セカンダリピストン19がセカンダリピストンスプリング78の付勢力で底部13とは反対側に戻って、セカンダリ圧力室63の液圧が解除される。この液圧解除時に、セカンダリ圧力室63の液圧と、セカンダリ補給路38およびリザーバR側の液圧との液圧差が小さくなると、ピストンシール35が上記した弾性歪みエネルギにより、環状面70bから離れる方向に移動または変形する。つまり、セカンダリ圧力室63の液圧による変形で蓄えられていた弾性歪みエネルギによって、図2(b)に示すように、ベース部65が環状面70bから離れる。そして、セカンダリ圧力室63の液圧が、ブレーキ装置からのブレーキ液の戻りの遅延によってセカンダリ補給路38およびリザーバR側の液圧より低くなると、ピストンシール35の外周リップ部67が液圧で内径側に押し縮められてシール周溝30の底面69から離間するとともに、この外周リップ部67の変形につられてベース部65が変位して壁面70の全体から離れることになり、シリンダ本体15とセカンダリピストン19との隙間と、ピストンシール35とシール周溝30の段差73を含む壁面70との隙間と、ピストンシール35とシール周溝30の底面69との隙間と、ピストンシール35とシール周溝30の通路面71との隙間とを介して、セカンダリ補給路38がセカンダリ圧力室63に連通してセカンダリ補給路38およびリザーバRからブレーキ液をセカンダリ圧力室63に補給する。
以上に述べた第1実施形態のマスタシリンダによれば、シール周溝30,32の補給路38,48側の壁面70には、シール周溝30,32の底面69側よりも開口72側の方が凹んだ段差73が形成され、圧力室63,86の液圧解除時にシリンダ本体15とピストン18,19との間、およびシール周溝30,32とピストンシール35,45との隙間を通ってブレーキ液が補給路38,48から圧力室63,86へ補給されるため、圧力室63,86への液補給を円滑に行うことができる。したがって、圧力室63,86と補給路38,48およびリザーバRとに圧力差がある状態でこれらがポート60,84で連通してリザーバRから瞬間的に多量のブレーキ液が圧力室63,86に流れ込むようなことがなく、この連通によるブレーキ液の流れ込みに起因してマスタシリンダあるいはその接続部品等に生じる異音の発生を抑制することができる。
つまり、図3に示す段差のない壁面1を有する従来のシール周溝2の場合、ブレーキペダルの操作入力があると、図3(a)に示すピストン3の前進初期(押し行程初期)に、圧力室4側の低い液圧(例えば0.1MPa)でピストンシール5のベース部6が狭い径方向範囲L1で壁面1に密着し、図3(b)に示すピストン3の前進終期(押し行程終期)に、圧力室4側の高い液圧(例えば10MPa)でピストンシール5が弾性変形してそのベース部6が広い径方向範囲L2(L2>L1)で壁面1に密着する。他方、この状態からブレーキペダルの操作入力が解除され(戻り行程)、圧力室4の液圧が大気圧近く(例えば0.1MPa)まで解除されると、図3(c)に示すように、密着の径方向範囲L3は、狭くなるものの、外周リップ部7側が上記弾性変形で蓄えられた弾性ひずみエネルギに起因した摩擦力F1によって、図3(c)に示す外周リップ部7側の軸方向位置は、図3(a)の外周リップ部7側の位置まで戻ることができず、さらに、内周リップ部8側と後退するピストン3との間の摩擦力F2によって、内周リップ部8側が壁面1に密着する方向に寄せられるため、十分に狭くはならない(L2>L3>L1)。つまり、液圧発生時よりも液圧解除時の方が、圧力室4の液圧が同じであっても密着の径方向範囲が広くなってしまう。このため、圧力室4が負圧(例えば−0.1MPa)になっても、図3(d)に示すように、密着の径方向範囲L4は狭くなる(L4<L3)ものの残存し、壁面1とベース部6との面接触が維持され、図3(e)に示すように、シール周溝2とピストンシール5との隙間を介してブレーキ液が流れる状態となるタイミングが遅れてしまうことになる。すると、圧力室4とリザーバに連通する補給路9とに圧力差がある状態でこれらがピストン3のポートで連通することになり、言い換えれば、それ以前の圧力室4の負圧Pの絶対値が大きい状態で連通することから、この連通で生じる図4に示すs2位置での圧力変動が大きくなり異音が発生する。なお、図4は、ブレーキペダルが踏み込まれた後の戻り時の各ピストンストローク位置での液圧の状態を示しており、ブレーキペダルの踏み込みが解除されると、圧力室2内の液圧が下がり、s1位置で大気圧と等しくなった後、負圧となり、s2位置で圧力室2とリザーバとがピストン3のポートによって連通する。
これに対して、第1実施形態のマスタシリンダ11では、シール周溝30,32の壁面70に、シール周溝30,32の底面69側よりも開口72側の方が凹んだ段差73が形成されているため、液圧発生時に、ピストンシール35,45は、図2(a)に示すように段差73に倣って弾性変形して段差73の体積分だけ弾性歪みエネルギを蓄積し、液圧解除時に、この弾性歪みエネルギによって、図2(b)に示すように、環状面70bから離れる方向に移動または変形する。これにより、壁面70とベース部65とが線接触となり、シール周溝30,32とピストンシール35,45との隙間を介してブレーキ液が流れる状態となるタイミングが遅れてしまうことがなくなり、早期に液戻り通路を確保できる。したがって、図4に示す圧力室63,86の負圧Pの絶対値を小さくでき、s2の位置で生じる圧力変動を抑制できて、異音の発生を抑制できる。
また、液圧解除時にピストンシール35,45と壁面70とが面接触にならないため、ピストンシール35,45の変形状態によって接触面積が異なるシール構造と比べて、ピストン18,19の位置に対するピストンシール35,45の流路抵抗が安定し、マスタシリンダ11の液戻り特性のロバスト性を向上できる。
なお、本第1実施形態においては、段差73のシール周溝30における径方向位置を、壁面70の径方向長さの中心としているが、これに限ることなく、液圧発生時に、段差73に倣って弾性変形して段差73の体積分だけ弾性歪みエネルギを蓄積できる位置であれば、どの位置としてもよく、望ましくは、ピストンシール35,45の外周リップ部67と内周リップ部68との間に位置するように配設するとよい。
「第2実施形態」
次に、本発明に係る第2実施形態を主に図5に基づいて相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
第2実施形態においては、第1実施形態と同様、シール周溝30,32の壁面70には、底面69側よりも開口72側の方が凹んだ段差73が形成されているが、この段差73の形状が相違している。つまり、第2実施形態において、壁面70は、底面69側がシリンダ軸直交方向に沿う環状面70Aaとされ、この環状面70Aaの内周端からシリンダ軸方向に沿って補給路38,48側に延出する円筒面70Abが形成され、この円筒面70Abの環状面70Aaとは反対側の端部からシリンダ軸直交方向に沿う環状面70Acが開口72側に形成され、この環状面70Acの内周端からシリンダ軸方向に沿って補給路38,48側に延出する円筒面70Adが形成され、この円筒面70Adの環状面70Acとは反対側の端部からシリンダ軸直交方向に沿う環状面70Aeが開口72側に形成され、この環状面70Aeの内周端からシリンダ軸方向に沿って補給路38,48側に延出する円筒面70Afが形成され、この円筒面70Afの環状面70hとは反対側の端部からシリンダ軸直交方向に沿う環状面70Agが開口72側の端部に形成されて、多段の段付き形状の段差73を構成している。
このような第2実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第1実施形態に比べて、ピストンシール35,45の弾性変形時の応力集中を緩和することができ、ピストンシール35,45の高寿命化を図ることができる。
「第3実施形態」
次に、本発明に係る第2実施形態を主に図6に基づいて相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
第3実施形態においては、第1実施形態と同様、シール周溝30,32の壁面70には、底面69側よりも開口72側の方が凹んだ段差73が形成されているが、この段差73の形状が相違している。つまり、第3実施形態において、壁面70は、底面69側がシリンダ軸直交方向に沿う環状面70Baとされ、環状面70Baの内周端からシリンダ軸直交断面が円弧状をなす湾曲面70Bbが開口72側の端部位置まで形成されて段差73を構成している。
このような第3実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第1実施形態に比べて、ピストンシール35,45の弾性変形時の応力集中を緩和することができ、ピストンシール35,45の高寿命化を図ることができる。さらに、第1実施形態に比べて、ピストンシール35,45と段差73との間をブレーキ液が流通するときの流路抵抗が減少して、ブレーキ液の流通を効率的に行うことができる。
「第4実施形態」
次に、本発明に係る第2実施形態を主に図7に基づいて相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
第4実施形態においては、第1実施形態と同様、シール周溝30,32の壁面70には、底面69側よりも開口72側の方が凹んだ段差73が形成されているが、この段差73の形状が相違している。つまり、第3実施形態において、壁面70は、底面69側がシリンダ軸直交方向に沿う環状面70Caとされ、環状面70Caの内周端からシリンダ軸方向に沿って補給路38,48側に延出する円筒面70Cbが形成され、円筒面70Cbの環状面70Caとは反対側の端部からシリンダ軸直交断面が円弧状をなす湾曲面70Ccが形成され、この湾曲面70Ccの内周端からシリンダ軸直交方向に沿う環状面70Cdが開口72側の端部位置まで形成されて段差73を構成している。
このような第4実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第1実施形態に比べて、ピストンシール35,45の弾性変形時の応力集中を緩和することができ、ピストンシール35,45の高寿命化を図ることができる。さらに、第1実施形態に比べて、ピストンシール35,45と段差73との間をブレーキ液が流通するときの流路抵抗が減少して、ブレーキ液の流通を効率的に行うことができる。