JP4475737B2 - 立体電鋳品及びその製造方法ならびに立体電鋳品シート - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は立体電鋳品とその製造方法、そしてそのような立体電鋳品を備えた立体電鋳品シートに関する。本発明は、立体的で意匠性、装飾性に優れた微細な電鋳品を高精度に歩留りよく製造することができるので、腕時計の文字盤のばら文字やその他の装飾部品を製造するのに有用である。
【0002】
【従来の技術】
従来、腕時計の文字盤のばら文字(HMRとも呼ばれる)を製造するために、電鋳法を使用することが屡々行われてきた。例えば、特開昭62−187099号公報には、めっきレジストにより、加飾文字、あるいは加飾模様をパターニングした電鋳マスター基板上に、30〜100μm の金属電鋳(ニッケル電鋳)を行い、パターン形成された電鋳金属層を仮保持用粘着テープに粘着させつつ電鋳基板より剥離した後、電鋳金属層の表面側に、感圧接着タイプの接着剤、あるいは、紫外線硬化、熱硬化併用タイプの接着剤を塗布したことを特徴とする加飾模様転写テープの作成方法が開示されている。このようにして作成した加飾模様転写テープを使用すると、第2図を参照して実施例2で説明されているように、腕時計の文字板に、接着剤を備えた電鋳金属層をウレタンゴムパッドで押圧しつつ、文字板下部を加熱して、電鋳金属層を文字板に転写することができる。転写が完了した後、文字板の電鋳金属層から仮保持用粘着テープを剥離する。
【0003】
また、このような加飾模様転写テープの作成方法を改良したものとして、特開平7−331479号公報には、金属板の表面に導電性被膜を形成し、前記導電性被膜の表面に電着画像を形成し、感圧接着剤層を設けた支持基材の該感圧接着剤層に前記電着画像を前記導電性被膜とともに金属板から剥離転写し、前記導電性被膜を前記電着画像から剥離し、電着画像の露出面に固定用接着剤層を形成し、前記支持基材から前記電着画像を剥離しつつ、前記固定用接着剤層を介して前記電着画像を被着物の表面に貼付けることを特徴とする電着画像の形成方法が開示されている。この電着画像の形成方法では、電着画像を支持基材と導電性被膜とで挟み込みながら金属板から剥離した後、導電性被膜のみを電着画像付きの支持基材から剥離するという電着画像剥離工程を採用している。なお、この電着画像剥離工程は、導電性被膜のみを選択的に剥離するという煩雑な作業を伴うけれども、この作業は、電着画像の散乱の防止、電着画像及び金属板の変形の防止、金属板の繰り返し使用などの効果を達成するために必要である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記したように、特開平7−331479号公報に開示された電着画像(電鋳品)の形成方法には、まず、製造プロセスが複雑かつ煩雑であるという問題点がある。この問題点があるために、微細な電鋳品を高精度に、歩留りよくかつ低コストで製造することが困難であった。
【0005】
また、従来の電鋳品は、上記した公報に記載のものも含めて、その電鋳品を金属板から剥離する時、位置ずれをおこしやすいという欠点があった。さらに、電鋳品は内部応力が高いので、電鋳時に金属板から剥がれたり、反ったり、変形したりするという欠点もあった。
さらに、従来の電鋳品は、一般的に意匠性、装飾性等に乏しいという欠点もあった。例えば、従来の手法で製造した電鋳品は、表面が甲丸仕上げのみであるので、意匠性に乏しく、また、厚みがないので立体感に欠け、装飾性も十分でなかった。また、このような電鋳品は、色が赤味をおびているため、仕上げめっきをしても暗い色調となり、満足な外観品質を提供し得なかった。
【0006】
そこで、本発明は、立体的で意匠性、装飾性に優れた、そして高精度に歩留りよく製造することが可能な、微細な電鋳品を提供することを目的とする。
また、本発明のもう1つの目的は、立体的で意匠性、装飾性に優れた微細な電鋳品を高精度に歩留りよく製造することが可能な立体電鋳品の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
さらに、本発明のもう1つの目的は、立体的で意匠性、装飾性に優れた立体電鋳品を容易に取り扱い得る立体電鋳品シートを提供することにある。
本発明の上記した目的及びその他の目的は、以下の詳細な説明から容易に理解することができるであろう。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、その1つの面において、裏面に固着層を備えた一次電鋳品と、該一次電鋳品の表面に一体的に形成され、かつ、立体的な形状を有する二次電鋳品とからなることを特徴とする立体電鋳品にある。
また、本発明は、そのもう1つの面において、裏面に固着層を備えた一次電鋳品と、該一次電鋳品の表面に一体的に形成され、かつ、立体的な形状を有する二次電鋳品とからなる立体電鋳品を製造する方法であって、
金属板からなるフレキシブルな基板を用意し、
前記基板の表面に前記一次電鋳品を形成し、
前記一次電鋳品の上に、前記二次電鋳品を形成し、そして
得られた立体電鋳品を前記基板から剥離した後、前記立体電鋳品の一次電鋳品の裏面に固着層を形成すること、
を特徴とする立体電鋳品の製造方法にある。
【0009】
さらに、本発明は、そのもう1つの面において、一次電鋳品と、該一次電鋳品の表面に一体的に形成され、かつ、立体的な形状を有する二次電鋳品とからなる立体電鋳品、
前記一次電鋳品の裏面に備えられた固着層に積層されていて、前記立体電鋳品を被着体に適用する時にその立体電鋳品から剥離可能な剥離ライナー、及び
前記二次電鋳品の表面に積層され、かつ前記立体電鋳品を保持した保持シート、
を組み合わせて有することを特徴とする立体電鋳品シートにある。
【0010】
さらに、本発明に従うと、被着体とその被着体の表面に固着層を介して固定された本発明の立体電鋳品とを含んでなることを特徴とする装飾物品も提供される。
【0011】
【発明の実施の形態】
引き続いて、本発明の好ましい実施の形態を添付の図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、図示の形態によって限定されるものではないことを理解されたい。
図1は、本発明による立体電鋳品の一例を示した断面図である。立体電鋳品10は、一次電鋳品1と、一次電鋳品1の表面に一体的に形成された、立体的な形状を有する二次電鋳品2とからなる。図示の例では、二次電鋳品2が凹部を有するように形成されているが、図3に示すように、凸部を有するように形成されていてもよい。さらに、二次電鋳品2が凹部を有するような場合、その凹部に適当な充填材料をつめこんで意匠性、装飾性などの向上を図ってもよく、さらに、表面の保護や外観品質の向上などのため、二次電鋳品の表面にオーバーコートなどを施してもよい。例えば、図2の立体電鋳品10では、二次電鋳品2の凹部に充填材料4と透明なクリア層5が重ねて充填されている。なお、この変形として、二次電鋳品の凹部の全体に充填材料を充填した後、その表面全体を透明なクリア層で被覆した構成を採用してもよい。立体電鋳品10は、通常、それを被着体に貼付し固定するため、固着層3を一次電鋳品1の裏面に備えている。固着層3は、例えば、粘着剤層や接着剤層であり、しかし、固着機能がある限り、特に限定されるものではない。
【0012】
さらに詳しく説明すると、本発明の立体電鋳品は、一次電鋳品及び二次電鋳品とも、従来より一般的に使用されている電鋳法を使用して、任意の電鋳金属から製造することができる。この場合に、一次電鋳品と二次電鋳品が、組成を同じくする電鋳金属から形成されていてもよく、意匠性、装飾性等の向上のため、組成を異にする電鋳金属から形成されていてもよい。それぞれの電鋳品の形成に有用な電鋳金属は、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、例えば、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)など、好ましくは、Fe、Co、Niなど、及びその合金、例えば、Ni−Co、Ni−Sn、Ni−Au、Au−Agなどである。本発明者らの知見によると、剥離、反り、変形などの防止や外観品質の向上などの面から、とりわけコバルト合金又はニッケル合金を電鋳金属として有利に使用することができる。なお、かかる電鋳金属は、通常、その組成において不可避不純物、例えばC、N、Fe、Cu、Mn、Siなどを微量に含有する。
【0013】
電鋳金属として有用なコバルト合金及びニッケル合金の一例を示すと、例えば、次のようなものがある。
(1)1〜20重量%のコバルトを含有し、残りがニッケル及び不可避不純物であるニッケル−コバルト合金。
(2)1〜25重量%のニッケルを含有し、残りが金及び不可避不純物であるニッケル−金合金。
【0014】
(3)80〜99.99重量%のニッケルを含有し、残りが不可避不純物であるニッケル合金。
本発明の立体電鋳品は、厚みがあり、しかも立体感を備えていることに特徴がある。立体電鋳品の厚み(一次電鋳品の厚みと二次電鋳品の厚み)は、その立体電鋳品の製造条件や使途などによって広く変更することができるけれども、通常、約120〜280μm の範囲である。この立体電鋳品の厚みが120μm を下回ると、立体感を十分に発現させることができず、反対に、厚みが280μm を上回っても、より以上の効果の向上を期待することができない。立体電鋳品の厚みは、特に、約120〜210μm の範囲であるのが好ましい。もちろん、立体電鋳品の厚みは、本発明の所期の効果が得られるのであるならば、上記した範囲を外れたものであってもよい。
【0015】
一次電鋳品は、主として二次電鋳品の下地としての役割を果たすものであり、好ましくは薄膜の形で用いられる。一次電鋳品の厚みは、通常、約20〜80μm の範囲であり、好ましくは、約40〜60μm の範囲である。50μm 前後の厚みが最も有利である。一次電鋳品の厚みが約20μm を下回ると、二次電鋳品を十分に支承できなくなったり、電鋳品の変形を引き起こしたりするおそれがある。反対に、約80μm を上回る厚みは、電鋳時間を長くするなどの不都合を生じるだけであるので、そのように大きな厚みを採用することは不必要である。
【0016】
二次電鋳品は、本発明の立体電鋳品に対して立体感や意匠性、装飾性などを付与するためのものであり、製造工程を複雑にするなどの不都合を生じない限りにおいて、任意の特徴的な立体模様(断面形状)を有することができる。典型的な断面形状は、先に図面を参照して説明したような凹部、凸部などである。また、必要に応じて、凹部と凸部を組み合わせてもよく、さもなければ、その他の断面形状を備えてもよい。
【0017】
二次電鋳品は、立体電鋳品に対して満足し得る立体感を付与するため、なるべく厚膜で形成することが好ましい。二次電鋳品の厚みは、通常、約100〜200μm の範囲であり、好ましくは、約80〜150μm の範囲である。この厚みが100μm を下回ると、十分な立体感を得ることができないばかりか、例えば、夜光塗料などを充填するための凹部などを形成できなくなるおそれがある。反対に、200μm を上回る厚みは、電鋳時間を長くするなどの不都合を生じるだけであるので、そのように大きな厚みを採用することは不必要である。
【0018】
本発明の立体電鋳品では、その外観品質を上げるため、一次電鋳品や二次電鋳品の表面に仕上げめっきなどを施してもよい。特に、立体模様を備えた二次電鋳品の表面に、仕上げめっきやその他の表面処理、例えば、陽極酸化などを施すことが好ましい。例えば、仕上げめっきは、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、クロム、スズなどの金属やその金属の混合物又は合金を慣用の技法を使用してめっきすることによって形成することができる。また、この仕上げめっきは、通常、単層で形成されるけれども、必要に応じて、多層構造としてもよい。さらに、一次及び二次の電鋳品の両方に仕上げめっきなどを行う場合には、仕上げめっきの色調をそれぞれ異なったものとしてもよい。
【0019】
また、立体電鋳品の装飾性や意匠性を高めるため、二次電鋳品の表面に凹部を備え、その凹部に、少なくとも部分的に、充填材料を埋め込むことが好ましい。ここで、凹部に埋め込む充填材料は、所望とする効果などによって多種多様であり、一例を示すと、夜光材料、蓄光性夜光材料、蓄光性蛍光材料、カラー樹脂などがある。このような充填材料は、単独で使用してもよく、さもなければ2種以上を混合して使用してもよい。このような充填材料の二次電鋳品の凹部への埋め込みは、いろいろな技法に従って行うことができるが、通常、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、注入法(ディスペンサ)などを使用して有利に実施することができる。
【0020】
さらに、立体電鋳品の表面を保護したり外観品質をさらに高めるため、二次電鋳品の凹部に埋め込んだ充填材料の上にさらに保護膜を被覆するのが好ましい。適当な保護膜としては、例えば、透明なクリア層などを挙げることができる。かかるクリア層は、例えば、透明なポリエステル樹脂を薄くコーティングすることによって容易に形成することができる。クリア層は、通常透明であるけれども、必要に応じて淡く着色されるなどしていてもよい。
【0021】
本発明の立体電鋳品は、好ましくは、金属板からなるフレキシブルな基板の上で一次電鋳品及び二次電鋳品を順次形成した後、得られた立体電鋳品を基板から剥離して一次電鋳品の裏面に粘着剤層を適用することによって製造することができる。この製造工程については、以下において詳しく説明する。
本発明の立体電鋳品は、厚みと立体感があり、優れた外観品質を備えているので、いろいろな分野において有利に使用することができる。例えば、この立体電鋳品を精密機械器具の表示手段として有利に使用することができる。用途の一例を挙げると、時計の文字盤のばら文字(分目盛、定時目盛など)、カメラ、家電製品などの銘板、ロゴ文字、型番表示、スピードメータ等の目盛りなどがある。また、本発明の立体電鋳品を車両(自動車、オートバイ、スクータなど)の銘板やステッカーなどの代わりとしても使用することもできる。
【0022】
図8は、本発明の立体電鋳品をプロダイバー用のデプスメータに応用した平面図である。このデプスメータの文字盤30は、ダイアル31の上に深度目盛り32が等間隔で配置されている。深度目盛り32は、本発明の立体電鋳品に当たるもので、図8の線分IX−IXに沿った断面図である図9から理解されるように、一次電鋳品1と二次電鋳品2とからなり、二次電鋳品2の凹部には夜光塗料4が充填されており、また、一次電鋳品1の裏面の固着層3を介してダイアル31の表面に貼付されている。ここで使用されている固着層は、粘着剤層からなる。
【0023】
本発明は、そのもう1つの面において、本発明の立体電鋳品を使用した立体電鋳品シートにある。立体電鋳品シートは、いろいろな積層構造を有することができるが、その典型例を図4及び図5を参照して説明する。
立体電鋳品シート20は、本発明の立体電鋳品10を、剥離ライナー21と保持シート22とでサンドイッチした構成を有する。立体電鋳品10は、すでに説明したように、裏面に固着層(例えば粘着剤層)3を備えた一次電鋳品1と、二次電鋳品2とを有する。図示の例では、二次電鋳品2の凹部になにも充填されていないが、前記したように、夜光塗料などの充填材料が充填されていてもよく、さもなければ凹部に代えて凸部が形成されていてもよい。剥離ライナー21は、一次電鋳品1の裏面に備えられた固着層3に積層されていて、立体電鋳品10を被着体(図示せず)に適用する時にその立体電鋳品から剥離可能である。剥離ライナー21としては、市販の離型紙、離型シートなどを使用することができる。また、保持シート22は、立体電鋳品10を保持するためのものであり、所定の保持力を有している限り、いろいろな材料から形成することができる。立体電鋳品10の意匠の内容をそのまま確認することができるなどの利点から、透明なプラスチックフィルム、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルムなどから保持シート22を形成するのが有利である。
【0024】
立体電鋳品シート20は、図4に示したような層構成を基本として、いろいろな形態で提供することができる。特に、図5に模式的に示すように、複数個の立体電鋳品が、ほぼ等間隔で配置されているように構成することが好ましい。また、このような立体電鋳品シート20には、立体電鋳品を被着体に適用する作業を妨害等しない位置に、立体電鋳品の適用のための位置合わせ手段23をさらに設けることが好ましい。適当な位置合わせ手段23は、例えば、印刷の分野などでよく使用されているトンボなどである。位置合わせ手段23は、例えば、一次電鋳品1及び二次電鋳品2を形成する際に、同時に電鋳によって形成することができる。
【0025】
本発明の立体電鋳品及び立体電鋳品シートは、それぞれ、いろいろな技法に従って製造することができる。好ましくは、立体電鋳品は、下記の工程(1)〜(4)を順次実施することによって製造することができる。
(1)金属板からなるフレキシブルな基板の用意
(2)基板の表面における一次電鋳品の形成
(3)一次電鋳品の上における二次電鋳品の形成
(4)基板からの立体電鋳品の分離と、一次電鋳品の裏面に対する固着層の適用。
【0026】
それぞれの工程は、慣用の技法を利用して実施することができるが、理解を容易ならしめるため、図6及び図7に示す一連の製造工程を参照して説明する。なお、図示の製造工程は、本発明の典型例を示すものであるが、本発明の範囲内において種々の変更や改良を施し得ることはいうまでもない。
まず、フレキシブルな基板の用意のため、好ましくは、図6の工程(A)に示すように、可撓性を備えた金属板11を用意する。ここで使用する金属板は、各種の金属材料から形成することができるというものの、通常、銅板、ステンレス鋼板、真ちゅう板、アルミニウム板などが有用である。このような金属板の重量及び厚さは、任意に変更することが可能であるが、取り扱い性を考慮して、なるべく軽いことが好ましい、また、厚さは、立体電鋳品を基板から剥離する際に金属板を湾曲させることが適当であるので、金属板を湾曲させ得る程度に薄く、可撓性を有することが好ましい。
【0027】
金属板は、その表面に電着膜を形成する前、脱脂処理、表面の酸化物等を除去する活性化処理、水洗処理などの前処理を行い、さらに、離型処理を行っておくのが好ましい。離型処理は、例えば、前処理後の金属板を重クロム酸カリウムの水溶液に浸漬するなどして行うことができる。離型処理は、金属板の全体に対して、但し、好ましくは、側面を除く金属板の全体に対して、より好ましくは、側面と表裏両面のうち側面に隣接した周縁部を除く金属板の全体に対して、施すことができる。
【0028】
次いで、図6の工程(B)に示すように、所定の処理を終えた後の金属板11の表面に電着膜2を形成する。電着膜2は、例えば、ニッケル、スズ、コバルト、銅、鉄などの金属又はその合金からめっきによって有利に形成することができる。かかる電着膜2は、通常、微細な金属/合金粒子の薄膜の状態で金属板11の表面に被着されている。電着膜2の膜厚は、電着膜の組成や下地の基板との関係などに応じて広い範囲で変更することができるけれども、通常、約15〜50μm の範囲であり、さらに好ましくは、約20〜30μm の範囲である。電着膜の膜厚は、また、それをその上の立体電鋳品の厚さとの関連において規定した場合、立体電鋳品の厚さの60〜90%となるように設定するのが好ましく、より好ましくは、80〜90%である。
【0029】
また、電着膜は、図示していないが、立体電鋳品を基板から剥離する際の作業を効果的に行えるようにするため、金属板の表面、側面及び裏面の少なくとも周縁部とに、離型可能なように形成するのが好ましい。これは、以下に説明するように、2枚の金属板を重ね合わせた状態でめっきを行うことによって、効率よく実施することができる。
【0030】
電着膜の形成は、慣用のめっき法及びめっき浴を使用して実施することができる。電着膜は、後の工程における立体電鋳品の剥離作業を容易にするために平滑な表面を有していることが好ましいので、そのめっき浴に、例えば、スルフィン酸、スルホン酸等の第1光沢剤やブチンジオール等の第2光沢剤を添加するのが好適である。また、ピット防止剤(湿潤剤)を添加してもよい。
【0031】
また、電着膜が金属板の周縁近傍よりも内側で、金属板表面から容易に剥がれるようにするために、第1光沢剤と第2光沢剤の量比は、通常のめっき浴では5〜15:1であるところを、18〜30:1に変更するのが好ましい。このような組成のめっき浴を使用して得られる電着膜において、それの示す電着応力は、強い圧縮力である。さらに、この電着膜が金属板の周縁近傍では容易に剥離することがないようにするために、金属板の側面やその近傍にサンドペーパーなどの研磨材を当てて粗面化を図ったり、側面の近傍に表裏両面を貫通する細孔を形成したりすることが有効である。
【0032】
電着膜の形成に有利に使用することのできるめっき浴は、下記のものに限定されるわけではないけれども、次のような組成を有する浴である。
(1)ワット浴1
硫酸ニッケル 240〜300g/l
塩化ニッケル 30〜50g/l
硼酸 30〜45g/l
光沢剤 適量
(2)ワット浴2
硫酸ニッケル 240〜300g/l
塩化ニッケル 30〜50g/l
硼酸 30〜45g/l
ピット防止剤 適量
また、上記したように金属板の表面に選択的に電着膜を形成するため、本発明に従うと、2枚の金属板をその裏面どうしが僅かな隙間をあけた状態で背中あわせに治具固定し、この状態でめっき浴に浸漬し、所定の条件下でめっきを行うのが好ましい。金属板の背面部分の中央部は、その部分にまで十分量のめっき液が侵入しないので、電着膜を有しない状態となる。
【0033】
上記のようにしてフレキシブルな基板を用意した後、図6の工程(C)に示すように、基板11の上に一次電鋳品1を所定のパターンで形成する。一次電鋳品の形成は、いろいろなパターニング技術を使用できるが、フォトリソグラフィの技術を利用して有利に実施することができる。すなわち、基板の表面を、一次電鋳品のパターンに相当する開口部を備えた第1のマスキング手段で被覆した後、その第1のマスキング手段の開口部に、第1の金属材料を電鋳により充填することによって有利に実施することができる。マスキング手段としては、電鋳に対して耐性を備えた各種のフォトレジストを使用することができる。マスキング手段の開口は、フォトレジストを塗布した後、それを所定のパターンに露光し、さらにパターニング、すなわち、不要部の溶解除去を行うことによって形成することができる。パターン露光は、使用するフォトレジストの種類に応じて、ポジ型もしくはネガ型のフォトマスクを使用して行う。露光源は、紫外線や、電子線、レーザ光など、任意である。また、フォトレジストを塗布する作業に代えて、フィルム状のフォトレジスト(すなわち、ドライフィルムレジスト)を貼付して同様な作業を行ってもよい。さらに、レジストインクを印刷することによってパターニングを行ってもよい。
【0034】
一次電鋳品は、すでに説明したように、例えばニッケル合金、コバルト合金などから有利に形成することができる。また、一次電鋳品の形成は、前記した電着膜の形成の場合と同様に、慣用の電鋳法を使用して実施することができる。なお、本発明者らの知見によると、下記のような特定の組成を有する電鋳浴を使用した時に特に良好な結果を得ることができる。
(1)無光沢スルファミン酸塩浴
スルファミン酸ニッケル 300〜600g/l
塩化ニッケル 1〜30g/l
硼酸 30〜45g/l
ピット防止剤 適量
(2)硫酸塩浴
硫酸ニッケル 266〜278g/l
硫酸コバルト 2〜15g/l
塩化ニッケル 30〜45g/l
硼酸 30〜45g/l
光沢剤 適量
(3)スルファミン酸塩浴
スルファミン酸ニッケル 430〜443g/l
スルファミン酸コバルト 2.5〜20g/l
塩化ニッケル 1〜30g/l
硼酸 30〜45g/l
光沢剤 適量
(4)無光沢スルファミン酸塩浴
スルファミン酸ニッケル 300〜600g/l
硼酸 30〜45g/l
ピット防止剤 適量
(5)無光沢スルファミン酸塩浴
スルファミン酸ニッケル 300〜600g/l
臭化ニッケル 1〜30g/l
硼酸 30〜45g/l
ピット防止剤 適量
なお、本発明の実施においては、必要に応じて、前記した電着膜の形成に使用したものと同様な組成を有するめっき浴を使用して、この一次電鋳品や以下に説明する二次電鋳品を形成してもよく、さらには、上述の電鋳浴でも使用しているが、無平滑能光沢剤(ノンレベルブライトナー)や、析出する結晶粒のサイズを小さくするためのコバルト塩、その他の添加剤を浴に含ませてもよい。
【0035】
フレキシブルな基板の上に上述のようにして薄膜状の一次電鋳品を所定のパターンで形成した後、その上にさらに、図6の工程(D)に示すように、二次電鋳品2を、上記一次電鋳品1の形成と同様に、好ましくはフォトリソグラフィの技術を利用して形成する。すなわち、一次電鋳品を形成した後の基板の表面を、二次電鋳品のパターンに相当する開口部を備えた第2のマスキング手段で被覆した後、第2のマスキング手段の開口部に、第2の金属材料を電鋳により充填することによって二次電鋳品を形成する。なお、この二次電鋳品は、本発明の所期の目的を達成するために立体的に形成することが好ましく、図示の例でも、凹部を備えた二次電鋳品2が示されている。
【0036】
二次電鋳品の形成は、基本的に一次電鋳品の形成と同様な方法で実施することができ、したがって、マスキング手段として各種のフォトレジストやレジストインクなどを使用でき、電鋳金属として例えばニッケル合金、コバルト合金などを有利に使用することができ、また、電鋳法として慣用の電鋳法を使用することができる。かかる二次電鋳品の形成も、上記した一次電鋳品用の電鋳浴を使用して、有利に形成することができる。
【0037】
二次電鋳品が完成した後、図示していないが、その二次電鋳品の表面に仕上げのめっき処理を施すことが好ましい。これは、通常、金、銀、白金などの各種の金属又はその合金を薄膜でめっきすることによって、有利に実施することができる。もちろん、このめっき処理に代えて、その他の表面処理、例えば陽極酸化などを施してもよい。なお、このような仕上げのめっき処理は、先の工程で形成した一次電鋳品の表面に施してもよいことは、もちろん言うまでもない。
【0038】
さらに、図6の工程(D)で中央部分に凹部を備えた二次電鋳品を形成した後、図示しないが、その凹部に充填材料を注入する。充填材料は、凹部の途中まで充填してもよく、凹部の擦りきりまで充填してもよい。本例では、二次電鋳品の凹部に擦りきりで夜光塗料を充填した。
引き続いて、図7に順を追って示す手法に従って立体電鋳品シート20を形成する。
【0039】
まず、図7の工程(E)に示すように、基板11によって支承されている立体電鋳品の二次電鋳品2の表面に、保持シート22を貼付する。ここで使用する保持シート22は、透明で、その片面に粘着剤層(図示せず)を有しているものである。保持シート22は、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルムなどである。本発明の立体電鋳品では、必要に応じてその他の保持シートを使用することができるが、一般的な片面粘着フィルムをそのまま保持シートとして使用するのが有利である。
【0040】
次いで、図7の工程(F)に示すように、基板11の電着膜12から保持シート22を、それに立体電鋳品が付いたままの状態で、剥離する。この作業は、本発明に従うと、基板11を変形させることにより、例えば、基板11と電着膜12が凹となるように基板11を手又は機械によって撓ませることによって、有利に実施することができる。基板11とその上の電着膜12との間にわずかな隙間を生じ、基板11の周縁近傍を除く表面(中央部分)において、基板11から電着膜12が選択的に剥離する。なお、この場合にも、基板11の周縁近傍では、基板11に電着膜12が密着し、保持されたたままである。このような状態で、基板11から保持シート22を、軽快に、しかも立体電鋳品の変形、損傷及び位置ズレなどを引き起こすことなく剥離することができる。もちろん、電着膜12が基板11から完全に剥がれて、立体電鋳品とともに保持シート22の側に移行してしまうような不都合も発生しない。
【0041】
上記したような望ましい効果が得られるのは、本発明の立体電鋳品の場合、使用した基板が本発明に独特の構成などを有しているからであると考察される。すなわち、基板の周囲に電着膜を被覆しているけれども、この電着膜が、基板の表面と、側面の全体と、裏面の少なくとも周縁部とを覆うように形成されていて、基板の表面全体を覆う電着膜は、基板の周縁近傍でその基板の表面から容易に剥離することがないように形成されている一方で、基板の中央部(周縁近傍以外の部分)でその基板の表面から容易に剥離するように、したがって、上記したように、基板とその上の電着膜との間にわずかな隙間が生じるように、形成されているからである。換言すると、電着膜は、それに圧縮力が作用するような状態で基板の上に形成されている。
【0042】
電着膜の圧縮力の他に、電着膜と立体電鋳品との間の剥離力も重要である。すなわち、保持シートを引っ張ることによって基板の電着膜から立体電鋳品を引き離す時には、厚みのある立体電鋳品はほぼ平坦なままであるが、基板から剥離している部分の薄い電着膜は、それが可撓性を有しているので、立体電鋳品の剥離を容易にするように、換言すると、電着膜と立体電鋳品との間にいわゆる剥離力が作用し易いように、変形する。その結果、立体電鋳品は、基板の電着膜からスムーズに剥離して、保持シートに移行することができる。もちろん、保持シートに付与されている粘着剤層は、それに応えるに足る十分な粘着力を有していることが必要である。
【0043】
基板の電着膜から立体電鋳品付きの保持シートを剥離した後、図7の工程(G)に示すように、立体電鋳品の一次電鋳品1の裏面に固着層3を塗布し、その上をさらに剥離ライナー21で保護する。ここでは、固着層3として粘着剤層を使用する例について、説明する。粘着剤層3の塗布は、例えば、粘着剤をスクリーン印刷することなどによって効率よく、正確に行うことができる。ここで使用し得る粘着剤は、スクリーン印刷に適当な粘性をそなえた、例えばアクリル系粘着剤などの慣用の粘着剤である。また、剥離ライナー21は、作業の効率化などを図るために、市販の粘着剤層付きの剥離紙などで代用するのが好ましい。このようにして、本発明の立体電鋳品シート20を得ることができる。
【0044】
立体電鋳品シートは、それぞれのシートに立体電鋳品が固定されていて、シートが湾曲などしても、立体電鋳品の変形、位置ズレ、剥離などを生じることがないので、多数枚を重ねた状態で保存し、輸送することができる。また、軽い力で剥離ライナーを引き離すだけですぐに使用することができるので、取り扱い性が非常に良好である。
【0045】
【実施例】
下記の実施例は、本発明をさらに説明するためのものである。なお、下記の実施例は一例であって、本発明は、種々の立体電鋳品とその製造方法、そしてそれらの電鋳品を使用した物品に応用可能であることは、ここで言うまでもない。
実施例1
下記の手順で、図8及び図9に示したデプスメータの文字盤(夜光塗料付き深度目盛り)を製造した。
(1)基板の作製
長さ300mm、長さ300mm及び厚さ0.4mmの銅板を5%苛性ソーダ水溶液に浸漬して、電流密度3A/dm2 で1分間にわたって陰極電解を行い、銅板表面を脱脂した。水洗後、脱脂後の銅板を5%希硫酸に浸漬して活性化処理し、再び水洗した。次いで、前処理後の銅板を0.5%重クロム酸カリウム水溶液に室温で2分間にわたって浸漬し、水洗した。
(2)電着膜の形成
上記のようにして離型処理を完了した後、銅板の表面にニッケルからなる電着膜を次のようにして形成した。
【0046】
2枚の銅板をそれらの裏面を背中あわせにして治具固定した後、下記の組成の光沢ワット型の浴に浸漬して、下記の条件で電解めっきを行った。
めっき浴の組成
硫酸ニッケル 280g/l
塩化ニッケル 40g/l
硼酸 40g/l
光沢剤(第1及び第2) 適量
めっき条件
温度 55℃±5℃
pH 4.0±0.5
電流密度 2.5A/dm2
時間 約1時間
電解めっき後、2枚の銅板を分離したところ、めっき浴に直接的に接していた銅板の表面及び側面には約25μm の均一な膜厚でニッケル膜が形成されており、銅板どうしが向い合っていた裏面には、その中心部に向かうにつれて薄くなるニッケル膜が形成されていた。ニッケル膜の厚さは、裏面の外周部で約20μm 、外周部から約50mmのところで0μm であった。これは、銅板が重なっていたために、めっき液が両者の隙間を侵入できなかったためである。次いで、それぞれの銅板を酸浸漬し、水洗及び乾燥した。
(3)電鋳母型の作製
銅板の表面に厚さ50μm のネガ型ドライフィルムレジスト(日立化成製、商品名「フォテックH−N650」)を貼付し、一対のロール間をロール温度100℃及び送り速度1m/分で案内し、ラミネートした。
【0047】
次いで、ドライフィルムレジスト付きの銅板の上に一次電鋳品のためのポジ型フォトマスクを真空枠で密着させ、水銀灯で露光した。露光量は70mJ/cm2 、露光時間は60秒であった。露光後のドライフィルムレジストを15分間にわたって放置した後、1%無水炭酸ソーダ水溶液で加圧シャワーにより現像した。現像温度は約30℃であった。現像の完了後、水洗し、エアーブローで乾燥した。一次電鋳品を形成すべき領域が開口したドライフィルムレジストを表面に備えた銅板(電鋳母型)が得られた。
【0048】
電鋳を行うため、得られた電鋳母型にリード線を接続し、さらにその電鋳母型の側面及び裏面にめっきマスキング用粘着テープを貼付した。
(4)一次電鋳品の形成
先の工程で作製した電鋳母型を5%希硫酸水溶液に1分間浸漬して活性化処理し、水洗した。次いで、電鋳母型を0.5%重クロム酸カリウム水溶液に室温で2分間にわたって浸漬し、水洗した。
【0049】
上記のようにして離型処理を完了した後、電鋳母型の表面にニッケルからなる一次電鋳品を次のようにして形成した。
電鋳母型を下記の組成の第1電鋳浴(無光沢スルファミン酸塩浴)に浸漬して、下記の条件で電鋳を行った。
第1電鋳浴の組成
スルファミン酸ニッケル 450g/l
塩化ニッケル 10g/l
硼酸 35g/l
ピット防止剤(湿潤剤) 適量
電鋳条件
温度 55℃±5℃
pH 3.5±0.5
電流密度 2.5A/dm2
時間 約1.5時間
電鋳の完了後、電鋳母型に接続していたリード線とそれを被覆していた粘着テープを取り除き、水洗及び乾燥した。得られた一次電鋳品の厚さは、マスキングに使用したドライフィルムレジストと同じく、約50μm であった。
(5)二次電鋳品の形成
一次電鋳品を形成した後の電鋳母型の上に、目的とする二次電鋳品のパターンに合わせて、厚さ50μm のネガ型ドライフィルムレジスト(日立化成製、商品名「フォテックH−N650」)を2枚重ねで貼付し、一対のロール間をロール温度100℃及び送り速度1m/分で案内し、ラミネートした。
【0050】
次いで、ドライフィルムレジスト付きの電鋳母型の上に二次電鋳品のためのポジ型フォトマスクを、すでに形成してある一次電鋳品のパターンに合わせて、真空枠で密着させ、水銀灯で露光した。露光量は70mJ/cm2 、露光時間は90秒であった。露光後のドライフィルムレジストを15分間にわたって放置した後、1%無水炭酸ソーダ水溶液で加圧シャワーにより現像した。現像温度は約30℃であった。現像の完了後、水洗し、エアーブローで乾燥した。二次電鋳品を形成すべき領域が開口したドライフィルムレジストを表面に備えた電鋳母型が得られた。
【0051】
二次電鋳品の形成のため、電鋳母型にリード線を接続し、さらにその電鋳母型の側面及び裏面にめっきマスキング用粘着テープを貼付した。電鋳母型を17%希塩酸水溶液に1分間浸漬して活性化処理し、水洗した。引き続いて、電鋳母型を下記の組成の第2電鋳浴に浸漬して下記の条件で電鋳を行った。なお、ここで使用した電鋳浴は、電着膜の形成のために先に使用しためっき浴に同じであった。電鋳条件は、下記の通りであった。
【0052】
温度 55℃±5℃
pH 4.0±0.5
電流密度 2.5A/dm2
時間 約6.5時間
電鋳の完了後、電鋳母型に接続していたリード線とそれを被覆していた粘着テープを取り除き、水洗及び乾燥した。得られた凹部付き二次電鋳品の厚さは、周囲の盛り上がり部分で約200μm 、中央の凹み部分で約50μm であった。
(6)仕上げめっき及び夜光塗料の注入
上記のようにして一次電鋳品と二次電鋳品を形成した後、電鋳母型を2%苛性ソーダ水溶液に50℃で浸漬し、ブラシ洗いをしながらドライフィルムレジストを剥離した。
【0053】
酸浸漬し、水洗した後、電鋳母型の表面に仕上げの金めっきを施した。めっき浴は、ビクトリア社製の「ルミネ色金めっき」(商品名)であった。仕上げめっきの条件は、次の通りである。
温度 40℃
pH 4.0
電流密度 1A/dm2
時間 約40秒
仕上げめっきの完了後、二次電鋳品の凹部に白色夜光塗料(ケミテック社製、商品名「ピカリコCP−05ピカリコインク01」)をスクリーン印刷で注入し、乾燥した。
(7)立体電鋳品の分離
電鋳母型の表面に保持シート(寺岡製作所社製のフィルムマスキングテープ)を貼付し、一次電鋳品及び二次電鋳品の表面に強く固定した。次いで、電鋳母型の両端を上方に折り曲げるようにしながら、保持シートを電鋳母型の表面から剥離した。保持シートの剥離角度は、電鋳母型の表面に対してほぼ90°であった。一次電鋳品と二次電鋳品の一体化により得られた立体電鋳品が、電鋳母型の表面から保持シートの粘着面に何らの問題も生じることなく転写された。
(7)立体電鋳品シートの作製
立体電鋳品の裏面(保持シートとは反対側の面)に、アクリル樹脂系粘着剤(東洋インキ製造製、商品名「オリバインBPS4891S」)を.薄く塗工し、オーブンで加熱して架橋反応を行わせた。粘着剤層が乾燥した後、その表面に離型紙(日東電工製、商品名「セパレータKP−8B」)を積層した。立体電鋳品を保持シートと離型紙で挟み込んで固定した立体電鋳品シートが得られた。
(8)文字盤の作製
立体電鋳品シートから離型紙を剥離しながら、別に用意しておいた青色塗装を施した文字盤の表面に立体電鋳品シートを位置合わせしながら貼付した。位置合わせには、立体電鋳品シートの隅に予め形成しておいた位置あわせ用のトンボを利用した。図8に示したような、複数の深度目盛りが所定の位置に正確に貼付された文字盤が得られた。
実施例2
前記実施例1に記載の手法に従って腕時計の貼り時字(ローマ数字の凸型の定時目盛り)を製造した。本例では、電着膜、一次電鋳品、二次電鋳品、そして仕上げめっきの形成のための条件として下記の条件を適用し、また、夜光塗料の注入を省略した。
(1)電着膜の形成
前記実施例1に同じ。
(2)一次電鋳品の形成
第1電鋳浴の組成
スルファミン酸ニッケル 450g/l
硼酸 35g/l
ピット防止剤(湿潤剤) 適量
電鋳条件
温度 55℃±5℃
pH 3.5±0.5
電流密度 2.5A/dm2
時間 約1.5時間
(3)二次電鋳品の形成
第2電鋳浴の組成
スルファミン酸ニッケル 440g/l
スルファミン酸コバルト 10g/l
塩化ニッケル 10g/l
硼酸 35g/l
光沢剤 適量
電鋳条件
温度 55℃±5℃
pH 3.5±0.5
電流密度 2.5A/dm2
時間 約6.5時間
(4)仕上げめっきの形成
前記実施例1に同じ(金めっき仕上げ)。
【0054】
上記のような一連の処理工程が完了した後、電鋳母型の表面に保持シート(寺岡製作所社製のフィルムマスキングテープ)を貼付し、一次電鋳品及び二次電鋳品の表面に強く固定した。次いで、電鋳母型の両端を上方に折り曲げるようにしながら、保持シートを電鋳母型の表面から剥離した。保持シートの剥離角度は、電鋳母型の表面に対してほぼ90°であった。一次電鋳品と二次電鋳品の一体化により得られた立体電鋳品が、電鋳母型の表面から保持シートの粘着面に何らの問題も生じることなく転写された。
【0055】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、厚さがあり、立体的な電鋳品(KHR)を提供することができる。しかも、この電鋳品は、デザインを広く変更することができるので、意匠性、装飾性の向上に寄与するところが大である。また、電鋳品は、明るいめっき仕上げとなるので、外観の品質も向上する。
【0056】
また、本発明に従うと、位置ずれなどに原因した生産途中での不良品(剥離、破損等)の発生を大幅に削減でき、歩留りを向上させることができる。さらに、本発明に従うと、従来の電鋳品に比較して生産工程を短縮し、作業も単純化できるので、量産性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の立体電鋳品の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の立体電鋳品のもう1つの例を示す断面図である。
【図3】本発明の立体電鋳品のさらにもう1つの例を示す断面図である。
【図4】本発明の立体電鋳品シートの一例を示す断面図である。
【図5】本発明の立体電鋳品シートのもう1つの例を示す断面図である。
【図6】本発明の立体電鋳品の製造工程(前半)を順を追って示した断面図である。
【図7】本発明の立体電鋳品の製造工程(後半)を順を追って示した断面図である。
【図8】本発明の立体電鋳品を使用したデプスメータの文字盤の一例を示す平面図である。
【図9】図8に示した文字盤の線分IX−IXに沿った断面図である。
【符号の説明】
1…一次電鋳品
2…二次電鋳品
3…固着層
4…充填材料
5…クリア層
10…立体電鋳品
11…金属板
12…電着膜
20…立体電鋳品シート
21…剥離ライナー
22…保持シート
23…位置合わせ手段
30…文字盤
31…ダイアル
32…深度目盛り
Claims (20)
- 裏面に固着層を備えた一次電鋳品と、該一次電鋳品の表面に一体的に形成され、かつ立体的な形状を有する二次電鋳品とからなり、そして前記二次電鋳品が前記一次電鋳品と組み合わさってその一次電鋳品の表面に凹部を備え、その凹部に、少なくとも部分的に、充填材料が埋め込まれていることを特徴とする立体電鋳品。
- 前記一次電鋳品及び前記二次電鋳品が、それぞれ、同一もしくは異なる電鋳金属から形成されたものであり、かつ前記電鋳金属が、銅、金、銀、コバルト及びニッケルならびにその合金からなる群から選ばれた一員であることを特徴とする請求項1に記載の立体電鋳品。
- 前記電鋳金属がニッケル−コバルト合金であり、1〜20重量%のコバルトを含有し、残りがニッケル及び不可避不純物であることを特徴とする請求項2に記載の立体電鋳品。
- 前記電鋳金属がニッケル合金であり、80〜99.99重量%のニッケルを含有し、残りが不可避不純物であることを特徴とする請求項2に記載の立体電鋳品。
- 前記立体電鋳品が、金属板からなるフレキシブルな基板の上で前記一次電鋳品及び前記二次電鋳品を順次形成した後、得られた立体電鋳品を前記基板から剥離して前記一次電鋳品の裏面に前記固着層を適用することによって形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の立体電鋳品。
- 前記充填材料が、夜光材料、蓄光性夜光材料、蓄光性蛍光材料及びカラー樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種類の材料であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の立体電鋳品。
- 前記二次電鋳品の凹部の充填材料の上にさらにクリア層が被覆されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の立体電鋳品。
- 前記一次電鋳品の表面に、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、クロム及びスズならびにその合金からなる群から選ばれた少なくとも1種類の金属材料からなる仕上げめっきが施されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の立体電鋳品。
- 前記二次電鋳品の表面に、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、クロム及びスズならびにその合金からなる群から選ばれた少なくとも1種類の金属材料からなる仕上げめっきが施されていくことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の立体電鋳品。
- 時計の文字盤においてばら文字等として使用されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の立体電鋳品。
- 裏面に固着層を備えた一次電鋳品と、該一次電鋳品の表面に一体的に形成され、かつ、立体的な形状を有する二次電鋳品とからなる立体電鋳品を製造する方法であって、
金属板からなるフレキシブルな基板を用意し、
前記基板の表面に前記一次電鋳品を形成し、
前記一次電鋳品の上に、前記二次電鋳品を形成して、前記一次電鋳品の表面に凹部を設け、
前記凹部に、少なくとも部分的に、充填材料を埋め込み、そして
得られた立体電鋳品を前記基板から剥離した後、前記立体電鋳品の一次電鋳品の裏面に固着層を形成すること、
を特徴とする立体電鋳品の製造方法。 - 前記基板の表面を、前記一次電鋳品のパターンに相当する開口部を備えた第1のマスキング手段で被覆した後、前記第1のマスキング手段の開口部に、第1の金属材料を電鋳により充填して前記一次電鋳品を形成する工程、及び
前記一次電鋳品を形成した後の基板の表面を、前記二次電鋳品のパターンに相当する開口部を備えた第2のマスキング手段で被覆した後、前記第2のマスキング手段の開口部に、第2の金属材料を電鋳により充填して前記二次電鋳品を形成する工程、
を順次実施して前記立体電鋳品を形成することを特徴とする請求項11に記載の立体電鋳品の製造方法。 - 前記第1及び第2のマスキング手段を、それぞれ、フォトレジスト又はレジストインクの印刷を使用したパターニングによって形成することを特徴とする請求項12に記載の立体電鋳品の製造方法。
- 電着膜を前記金属板の表面、側面及び裏面の少なくとも周縁部に被着することによって前記基板を形成することを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の立体電鋳品の製造方法。
- 前記電着膜を、下記の組成の浴(1)又は(2):
(1)ワット浴1
硫酸ニッケル 240〜300g/l
塩化ニッケル 30〜50g/l
硼酸 30〜45g/l
光沢剤 適量
(2)ワット浴2
硫酸ニッケル 240〜300g/l
塩化ニッケル 30〜50g/l
硼酸 30〜45g/l
ピット防止剤 適量
を使用して形成することを特徴とする請求項14に記載の立体電鋳品の製造方法。 - 前記一次電鋳品又は前記二次電鋳品を、それぞれ、下記の組成の浴(1)〜(5):
(1)無光沢スルファミン酸塩浴
スルファミン酸ニッケル 300〜600g/l
塩化ニッケル 1〜30g/l
硼酸 30〜45g/l
ピット防止剤 適量
(2)硫酸塩浴
硫酸ニッケル 266〜278g/l
硫酸コバルト 2〜15g/l
塩化ニッケル 30〜45g/l
硼酸 30〜45g/l
光沢剤 適量
(3)スルファミン酸塩浴
スルファミン酸ニッケル 430〜443g/l
スルファミン酸コバルト 2.5〜20g/l
塩化ニッケル 1〜30g/l
硼酸 30〜45g/l
光沢剤 適量
(4)無光沢スルファミン酸塩浴
スルファミン酸ニッケル 300〜600g/l
硼酸 30〜45g/l
ピット防止剤 適量
(5)無光沢スルファミン酸塩浴
スルファミン酸ニッケル 300〜600g/l
臭化ニッケル 1〜30g/l
硼酸 30〜45g/l
ピット防止剤 適量
からなる群から選ばれた一員を使用して形成することを特徴とする請求項11〜15のいずれか1項に記載の立体電鋳品の製造方法。 - 前記充填材料が、夜光材料、蓄光性夜光材料、蓄光性蛍光材料及びカラー樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種類の材料であることを特徴とする請求項11〜16のいずれか1項に記載の立体電鋳品の製造方法。
- 一次電鋳品と、該一次電鋳品の表面に一体的に形成され、かつ立体的な形状を有する二次電鋳品とからなり、そして前記二次電鋳品が前記一次電鋳品と組み合わさってその一次電鋳品の表面に凹部を備え、その凹部に、少なくとも部分的に、充填材料が埋め込まれている立体電鋳品、
前記一次電鋳品の裏面に備えられた固着層に積層されていて、前記立体電鋳品を被着体に適用する時にその立体電鋳品から剥離可能な剥離ライナー、及び
前記二次電鋳品の表面に積層され、かつ前記立体電鋳品を保持した保持シート、
を組み合わせて有することを特徴とする立体電鋳品シート。 - 複数個の前記立体電鋳品が、ほぼ等間隔で配置されていることを特徴とする請求項18に記載の立体電鋳品シート。
- 前記立体電鋳品を被着体に適用するための位置合わせ手段をさらに有していることを特徴とする請求項18又は19に記載の立体電鋳品シート。
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JP2001316862A (ja) | 2001-11-16 |
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