JP4403327B2 - リチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末およびその製造方法、ならびにリチウムイオン二次電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水系二次電池であるリチウムイオン二次電池の負極と、その作製に用いる黒鉛粉末と、それを用いたリチウムイオン二次電池とに関する。本発明により、充填密度が高い黒鉛粉末が得られ、従って容積が決まっているリチウムイオン二次電池の負極に用いた時に高い放電容量を示す負極を作製することが可能となる。
【0002】
【従来の技術】
リチウムイオン二次電池は、正極にリチウム化合物 (例、リチウムとNiやCo等の遷移金属との複合酸化物) など、負極にリチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出できる炭素材料、電解質にリチウム化合物を有機溶媒に溶解させた溶液を用いた、非水系二次電池である。
【0003】
負極にリチウム金属またはリチウム合金を用いたリチウム二次電池は、電池容量は非常に高くなるものの、充電時のリチウムのデンドライト状態での析出や微粉化のためにサイクル寿命および安全性に問題を生ずる。これに対し、負極を炭素材料から構成したリチウムイオン二次電池では、電池内でリチウムが常にイオンの形で存在し、金属として析出することが避けられるため、リチウム二次電池の上記問題点が解決できる。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、安全性が高くサイクル寿命が長い上、作動電圧とエネルギー密度が高い、短時間で充電が可能、非水系電解液のためアルカリ電解液に比べて耐漏液性に優れている、といった特長があり、小型二次電池として急速に普及しているのは周知の通りである。さらに、電気自動車のバッテリー等の大型電池としての利用についても研究が進んでいる。
【0005】
リチウムイオン二次電池の負極に用いる炭素材料には、結晶質の黒鉛、黒鉛の前駆体である易黒鉛化性炭素 (ソフトカーボン) 、高温処理しても黒鉛に成らない難黒鉛化性炭素 (ハードカーボン) がある。ピッチや樹脂等の有機物を、不活性雰囲気中1000℃程度にて揮発分がなくなるまで熱処理することで、ソフトカーボンやハードカーボンが得られるが、特にハードカーボンは結晶性が低く非晶質な構造を持つ材料である。一方、黒鉛はソフトカーボンを2500℃程度以上の温度で熱処理することにより得られる。いずれの場合も、粉末化した材料を通常は少量の結着剤 (通常は有機樹脂) を用いて成形し、集電体となる電極基板に圧着させることにより電極 (負極) が形成される。
【0006】
黒鉛からなる負極では、充電時には、層状構造を持つ黒鉛結晶の層間に電解液からリチウムイオンが吸蔵 (インターカレート) され、放電時にはその電解液への放出 (デインターカレート) が起こる。層間に吸蔵されうるリチウムイオンの量は最大でC6Liに相当する量であり、その場合の容量は372 mAh/g となる。従って、この容量が理論的な最大容量となる。
【0007】
一方、より結晶性の低い炭素材を負極に用いると、容量は大きく変化し、場合によっては黒鉛系負極材料の理論最大容量 (372 mAh/g)を超える容量が得られることも報告されている。炭素材は結晶が発達していないため、層間へのリチウムイオンの吸蔵に加えて、層間以外に結晶の格子欠陥等の部分にもリチウムイオンが吸蔵されるためではないかと考えられる。しかし、炭素材は黒鉛より密度が低いため、たとえ黒鉛より容量が高くても、単位体積当たりで比べた容量は低くなり、体積が決まっている電池用途では不利となる。以上より、黒鉛の方がリチウムイオン二次電池の負極材料として有利であると考えられる。
【0008】
黒鉛を負極とするリチウムイオン二次電池では、一般に負極の黒鉛化度(即ち、黒鉛結晶化度)が高いほどLiイオン格納量が増大し、負極材料の放電容量が増大する。放電容量の高い負極を作製しうる黒鉛粉末として、タールやピッチの加熱過程で生ずる光学異方性の球形粒子であるメソフェーズ小球体を炭化および黒鉛化して得た黒鉛粉末がある (例、特開平4−115458号、特開平5−234584号各公報を参照) 。
【0009】
特開平8−180864号公報には、メソフェーズ小球体の黒鉛粉末のみを用いて負極を作製すると、粒子間が点接触になって負極の電子伝導性が低下し、電池の内部短絡や寿命低下の原因となるのを防ぐため、メソフェーズ小球体の黒鉛粉末に鱗片状の天然黒鉛粉末を混合した混合黒鉛粉末を用いて負極を作製することが開示されている。
【0010】
また、メソフェーズ小球体をさらに熱処理すると生成するバルクメソフェーズを炭化および黒鉛化して得られる黒鉛粉末も、リチウムイオン二次電池の負極材料として使用できる (例、特開平7−223808号公報参照) 。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
リチウムイオン二次電池の負極の放電容量は、通常はmAh/g 、即ち、単位重量当たりの容量として表示される。しかし、容積が決まっているリチウムイオン二次電池では、容積当たりの放電容量が問題となる。つまり、黒鉛粉末の充填性が高いほど、同容積の負極中の黒鉛粉末の量が多くなり、それだけ放電容量が増大することになる。従って、充填性の高い黒鉛粉末がリチウムイオン二次電池の負極材料として有利である。
【0012】
メソフェーズ小球体の黒鉛粉末は、一般に球形であるので充填性が良好であるとされてきた。しかし、本発明者らがメソフェーズ小球体の黒鉛粉末の充填性の指標としてその嵩密度を測定したところ、嵩密度がそれほど高くならず、充填性が良好ではないことが判明した。
【0013】
さらに、メソフェーズ小球体の黒鉛粉末は、一般に平均粒径が10μm程度と微細であり、その比表面積が大きい。黒鉛粉末の比表面積が大きいと、電解液との反応性が高まり、負極の充放電効率やサイクル寿命が低下する。また、メソフェーズ小球体は、まだ多くの揮発分を含有している状態のため、炭化中に融着する。この融着を避けるために、炭化前に予め酸化性雰囲気中で熱処理して、その表層を酸化させるのが普通である。この酸化が黒鉛化時の結晶化を阻害するため、黒鉛粉末の放電容量が十分に高くならない。従って、メソフェーズ小球体の黒鉛粉末は、充放電効率と放電容量のいずれの面でも問題がある。
【0014】
本発明の課題は、充填性が高く、放電容量と充放電効率のいずれも良好な負極を作製することができる黒鉛粉末、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
前述したように、メソフェーズ小球体の黒鉛粉末だけでは、充填性が低く、放電容量と充放電効率のいずれもそれほど高くならない。この点を踏まえて検討した結果、少量のメソフェーズ小球体の黒鉛粉末に、これより平均粒径の大きい多量のバルクメソフェーズの黒鉛粉末を混合すると、充填性が非常によい黒鉛粉末が得られ、放電容量と比表面積も良好となることが判明した。
【0016】
ここに、本発明は、平均粒径20〜40μmのバルクメソフェーズ粉を炭化および黒鉛化して得た黒鉛粉末75〜98重量%と、平均粒径10μm以下のメソフェーズ小球体を炭化および黒鉛化して得た黒鉛粉末2〜25重量%、との混合粉末からなり、混合が炭化後または黒鉛化後に行われたことを特徴とする、リチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池である。
【0017】
また、本発明は、平均粒径20〜40μmのバルクメソフェーズ粉と平均粒径10μm以下のメソフェーズ小球体を別々に炭化し、バルクメソフェーズ粉の炭化物75〜98重量%とメソフェーズ小球体の炭化物2〜25重量%とを混合し、混合物を黒鉛化することからなる方法により黒鉛粉末を製造することができる。
【0018】
さらに、本発明は、平均粒径20〜40μmのバルクメソフェーズ粉と平均粒径10μm以下のメソフェーズ小球体を別々に炭化および黒鉛化し、バルクメソフェーズ粉の黒鉛化物75〜98重量%とメソフェーズ小球体の黒鉛化物2〜25重量%とを混合することからなる方法によっても黒鉛粉末を製造することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明に係るリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末は、バルクメソフェーズから得た黒鉛粉末とメソフェーズ小球体から得た黒鉛粉末との混合粉末からなり嵩密度が1.35 g/cm3以上である。
【0021】
メソフェーズは、タールおよび/またはピッチを熱処理することにより得られる。タールやピッチを加熱しながら偏光顕微鏡で観察すると、温度が400 ℃以上になると液相中に光学異方性の球形粒子が現れる。この粒子がメソフェーズ小球体である。加熱を続けると、メソフェーズ小球体の量が増加し、ついにはそれらが合体して光学異方性のマトリックスが生じ、最終的には全体が光学異方性となる。この光学異方性のマトリックス材料または全体的に光学異方性となった材料がバルクメソフェーズである。
【0022】
本発明では、このメソフェーズ小球体とバルクメソフェーズの両方を、黒鉛粉末の原料として使用する。なお、メソフェーズの原料であるタールやピッチはいずれも石炭系と石油系のものがあり、どちらも本発明に使用できるが、芳香族成分に富む石炭系のものが好ましい。タールやピッチは、樹脂に比べて著しく安価である上、樹脂より易黒鉛化性であるので、黒鉛化用途に適している。
【0023】
メソフェーズは、原料のタールおよび/またはピッチを一般に 400〜600 ℃の温度範囲で、好ましくは減圧下または不活性ガス流通条件下で熱処理することにより得られ、熱処理温度、熱処理時間、雰囲気といった処理条件により、生成物をメソフェーズ小球体またはバルクメソフェーズにすることができる。メソフェーズ小球体の平均粒径もこの処理条件により制御できる。
【0024】
このメソフェーズ化の熱処理前に、出発物質のタールおよび/またはピッチをニトロ化剤の存在下で加熱することにより予備処理してもよい。この予備処理により、原料分子の芳香環にニトロ基が導入され、さらにニトロ基同士が縮合反応 (ニトロ基の脱離を伴う) して原料が二量体化、さらたは多量体化する。即ち、原料が重縮合を受けて高分子量化する。その結果、メソフェーズ化と次の炭化における揮発分の量が減少し、最終的に得られる黒鉛粉末の歩留りが増大する。このニトロ化処理は、特にバルクメソフェーズの生成に適している。
【0025】
ニトロ化剤は、メソフェーズ化の熱処理中に添加することも考えられるが、そうすると熱処理で生成したメソフェーズの組織 (偏光顕微鏡で観察される模様) が変化することがある上、上記の高分子量化による収量増大の効果はほとんど得られなくなる。従って、ニトロ化剤による処理はメソフェーズ化熱処理の前に予備処理として行うことが好ましい。
【0026】
この予備処理に用いるニトロ化剤の例としては、これらに限られないが、硝酸、硝酸アンモニウム、硝酸アセチル、ニトロベンゼン、ニトロトルエン、ニトロナフタレンなどが挙げられる。ニトロ化剤の添加量は、一般に出発原料 (タールおよび/またはピッチ) の 0.1〜15重量%の範囲である。ニトロ化剤の存在下での加熱は、300 ℃以上、400 ℃未満の温度で行うことができる。加熱はメソフェーズ化と同様の減圧条件下または不活性ガス流通下で行うことが好ましい。なお、導入されたニトロ基あるいは窒素分は、最終的に黒鉛化すると完全に除去される。
【0027】
メソフェーズ化熱処理の生成物がメソフェーズ小球体である場合、メソフェーズ小球体を溶媒抽出等の適当な分離方法を利用して熱処理生成物から分離する。所望により、メソフェーズ小球体を酸化性雰囲気中で熱処理して表面を酸化させて不融化してもよい。それにより、次の炭化時の粒子の融着を避けることができる。このような表面酸化された平均粒径の異なるメソフェーズ小球体がいろいろ市販されているので、それを利用してもよい。
【0028】
メソフェーズ化熱処理の生成物がバルクメソフェーズである場合、バルクメソフェーズを取り出し、粉砕してバルクメソフェーズ粉にする。バルクメソフェーズは溶媒抽出等による分離が不要であるので、メソフェーズ小球体より低コストで得ることができる。
【0029】
バルクメソフェーズの粉砕は、適当な粉砕機を用いて行えばよい。例えば、ハンマーミル、ボールミル、ロッドミルなどの衝撃または衝撃/摩砕が主に作用する粉砕機、或いはディスククラッシャー等の剪断が主に作用する粉砕機が使用できる。2種以上の粉砕機を併用してもよい。
【0030】
バルクメソフェーズ粉についても、メソフェーズ小球体と同様に、炭化時の粒子の融着防止のために表面酸化することが、例えば、特開平7−223808号公報に提案されている。しかし、前述したように、表面酸化は黒鉛化を阻害し、放電容量に悪影響がある。原料として少ししか使用しないメソフェーズ小球体についてはその影響はあまりないので表面酸化しても構わないが、原料の大半を占めるバルクメソフェーズ粉をこのように表面酸化すると、得られた黒鉛粉末の結晶化度が低下し、放電容量も低下する。従って、バルクメソフェーズ粉は表面酸化処理しないことが好ましい。
【0031】
充填性に優れた黒鉛粉末を得るため、本発明では、バルクメソフェーズ粉の平均粒径を20〜40μmとし、メソフェーズ小球体の平均粒径10μm以下とする。炭化および黒鉛化中に平均粒径はいくらか変動するものの、大きな変動はない。従って、平均粒径20〜40μmバルクメソフェーズ粉から得られた不規則形状のより大きい黒鉛粉末と、平均粒径10μm以下のメソフェーズ小球体から得られた球形のより小さい黒鉛粉末とが共存した黒鉛粉末が得られ、後者の小粒径で球形の黒鉛粉末が前者の大粒径の不規則形状の黒鉛粉末の隙間にうまく充填されるため、充填性が高くなると考えられる。バルクメソフェーズ粉の平均粒径がこの範囲より大きくても小さくても、黒鉛粉末の充填性は低下する。
【0032】
また、上記2種類のメソフェーズは、バルクメソフェーズ粉から得た黒鉛粉末75〜98重量%、好ましくは85〜95重量%に対して、メソフェーズ小球体から得た黒鉛粉末2〜25重量%、好ましくは5〜15重量%という配合割合で使用される。即ち、原料メソフェーズは低コストのバルクメソフェーズが主体となるので、原料コストは比較的安価である。両者の配合割合がこの範囲外になると、前述した不規則形状の大粒子の隙間に球形の小粒子を充填する場合の充填バランスがくずれ、どちらかの黒鉛粉末が過剰になるため、充填性が低下し、放電容量が低くなる。また、メソフェーズ小球体の黒鉛粉末が25重量%より多くなると、メソフェーズ小球体は比表面積が大きいため、充放電効率も低下するようになる。バルクメソフェーズの黒鉛粉末が多すぎる場合には、比表面積は小さいので充放電効率は高いが、充填性がよくないので放電容量は十分に高くならない。
【0033】
メソフェーズ小球体とバルクメソフェーズ粉を、混合せずに、別々に炭化する。メソフェーズ小球体とバルクメソフェーズ粉は、上記のように平均粒径が大きく異なるので、炭化 (揮発分をほぼ完全に除去する熱処理) に要する時間が異なり、別々に炭化する方が効率的である。さらに、メソフェーズ小球体とバルクメソフェーズを混合してから炭化すると、バルクメソフェーズ粉とメソフェーズ小球体が融着することが多く、炭化後に粉砕が必要となる。炭化後に粉砕すると、メソフェーズ小球体の炭化物も一緒に粉砕されるため、メソフェーズ小球体に固有の球形形状が失われ、充填性に悪影響が出る。
【0034】
炭化は一般に非酸化性雰囲気中、 700〜1100℃、好ましくは 800〜1000℃の温度で行われる。炭化雰囲気は、不活性ガス (例、窒素、アルゴン等の希ガス) または還元性ガス (例、水素と不活性ガスの混合ガス) とすることができる。炭素の酸化は黒鉛化後の結晶化度の低下や比表面積の増大の原因となるため、雰囲気中の酸素、水蒸気、二酸化炭素等の酸化性ガスの濃度は極力低くすることが好ましい。炭化時間は、炭素以外の元素がほぼ完全に除去されるように設定すればよく、通常は1〜50時間の範囲である。この炭化時には、揮発分からガスが発生するので、ガス排出手段を備えた加熱炉で熱処理することが好ましい。加熱炉として通常は電気炉が使用される。
【0035】
炭化中に粒子の融着が起こった場合には、得られた炭化物を粉砕する。メソフェーズ小球体の炭化物を粉砕すると、その球形の形状が壊れるので、メソフェーズ小球体化は、例えば流動状態で炭化するか、或いはメソフェーズ小球体を予め表面酸化することにより、融着させないように炭化することが好ましい。バルクメソフェーズの炭化物については、炭化中に融着した場合に、炭化後に粉砕してもよい。その場合には、粉砕後の平均粒径がメソフェーズ粉と同様に20〜40μmの範囲内となるようにする。粉砕は、バルクメソフェーズの粉砕と同様に行えばよい。
【0036】
メソフェーズ小球体の炭化物とバルクメソフェーズ粉の炭化物を、混合してから一緒に、または混合せずに別々に、黒鉛化する。別々に黒鉛化した場合には、メソフェーズ小球体の黒鉛化物とバルクメソフェーズ粉の黒鉛化物を混合する。黒鉛化は、炭化物を黒鉛の層状結晶構造に結晶化させる熱処理であり、熱処理時間は平均粒径にあまり依存しないことと、炭化物は融着性がなく黒鉛化中の融着はほとんど起きないので、混合してから一緒に黒鉛化する方が効率である。また、黒鉛化後に混合すると、この混合操作により微粒子が発生し、比表面積が増大する上、充填性もやや低下する傾向がある。従って、混合は黒鉛化前に行う、即ち、上記2種類の炭化物を混合してから黒鉛化することが好ましい。
【0037】
黒鉛化は、高周波加熱炉や炭素の直接通電により高温に抵抗加熱するアチソン型抵抗加熱炉で行われる。炭素材料を2500℃以上に加熱すると、炭素が結晶化して黒鉛になる。黒鉛化温度は高いほど結晶化が促進され望ましいが、あまり温度が高くなりすぎると黒鉛粉末が昇華する。好ましい黒鉛化温度は、2800〜3200℃であり、黒鉛化熱処理時間は 0.1〜10時間である。
【0038】
黒鉛化も非酸化性雰囲気中で一般に行われる。黒鉛化温度では、水素等の還元性ガスや場合によっては窒素も炭素と反応する可能性があるため、黒鉛化雰囲気はアルゴン等の希ガスが好ましい。メソフェーズがニトロ化処理されたタールおよび/またはピッチから得られたものである場合、この黒鉛化中に、ニトロ化剤により導入された窒素分が完全に除去されるので、ニトロ化剤の処理による負極材料特性への悪影響はない。
【0039】
炭化や黒鉛化の後に、必要により解砕や分級を適宜行うことができる。
上述した方法により、嵩密度が1.35 g/cm3以上と高い、充填性に優れた黒鉛粉末を得ることができる。この黒鉛粉末の原料は、表面酸化されることが多く比表面積の大きいメソフェーズ小球体を少ししか含んでいないので、バルクメソフェーズの黒鉛粉末と同レベルの高い充放電効率を示す。また、この少量のメソフェーズ小球体の黒鉛粉末の配合により、バルクメソフェーズの黒鉛粉末に比べて充填性が高くなり、放電容量が向上する。
【0040】
本発明に係る黒鉛粉末を用いて、常法に従って電極を作製し、リチウムイオン二次電池に負極として組み込むことができる。一般的な電極の製造方法は、黒鉛粉末を少量の適当な結着剤 (例、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ヘキサフルホロポリプロピレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等) と一緒に湿式または乾式で成形し、集電体となる電極基板 (例、銅箔などの金属箔) と一体化させる方法である。湿式成形の場合は、スラリーを電極基板上にスクリーン印刷または塗布し、ロール加圧して圧密化する方法が普通である。乾式成形の場合はホットプレス等により別に成形してから電極基板に熱圧着させる方法が採用できる。本発明の方法で製造された粉末と他の黒鉛粉末とを併用して電極を製造することもできる。
【0041】
【実施例】
コールタールピッチを減圧蒸留装置に入れ、ニトロ化剤として5wt%の濃硝酸を添加し、攪拌しながら80Torrの減圧下で 350℃で1時間加熱して、揮発分を除去しながら予備処理を行った。この温度での加熱では、メソフェーズの生成は起こらなかった。予備処理したピッチを同じ蒸留装置を用いて80Torrの減圧下で500 ℃に5時間加熱してバルクメソフェーズを生成させた。このバルクメソフェーズを、冷却後に取り出し、ハンマーミルで平均粒径が30μmになるように粉砕して、バルクメソフェーズ粉を得た。比較のために、同じバルクメソフェーズから、粉砕条件を変更して、平均粒径が10μmおよび50μmのバルクメソフェーズ粉も調製した。
【0042】
これらのバルクメソフェーズ粉を、窒素気流を流通させた電気炉内で10℃/hrの昇温速度で1000℃に加熱し、その温度に5時間保持して炭化させた。この炭化中に粒子が融着したので、炭化物を上と同様に粉砕し、炭化前と同じ平均粒径にした。
【0043】
別に、平均粒径5μmの市販のメソフェーズ小球体 (表面酸化処理したもの) を、上記と同じ電気炉内で10℃/hrの昇温速度で1000℃に加熱し、その温度に5時間保持して炭化させた。
【0044】
バルクメソフェーズの炭化物とメソフェーズ小球体の炭化物を所定割合で混合し、混合粉末を黒鉛化炉 (アチソン型抵抗加熱炉) に移し、アルゴン雰囲気下で50℃/hrの速度で2800℃に昇温させ、この温度に1時間保持して黒鉛化した (実施例1、3、比較例2〜4) 。実施例2では、バルクメソフェーズの炭化物とメソフェーズ小球体の炭化物を、別々に上と同様に黒鉛化し、黒鉛化後に所定割合で混合した。
【0045】
比較のために、バルクメソフェーズ粉とメソフェーズ小球体とを炭化前に混合し、一緒に炭化した。炭化条件は、上記のバルクメソフェーズ粉の炭化条件と同じであった。この場合も炭化物は融着していたので、炭化後に粉砕してから、上記と同様に黒鉛化を行った (比較例1) 。
【0046】
従来例として、上記のバルクメソフェーズ粉のみ、またはメソフェーズ小球体のみを、上と同様に炭化および黒鉛化した (従来例1、2) 。別の従来例として、特開平8−180884号公報に従って、メソフェーズ小球体の黒鉛粉末と鱗片状の天然黒鉛粉末 (平均粒径はバルクメソフェーズ粉と同じく30μm) との混合粉末も用意した (従来例3) 。
【0047】
以上の黒鉛粉末 100gを 200ccのメスシリンダーに入れ、約50mmのストロークで 200回くり返し落下させた後、嵩密度を測定した。また、これらの黒鉛粉末の比表面積を、N2 置換法によるBET1点測定法により求めた。さらに、各黒鉛粉末の負極特性を次のようにして調べた。
【0048】
黒鉛粉末90重量部とポリフッ化ビニリデン粉末10重量部を溶剤のN−メチルピロリドン中で混合し、ペースト状にした。得られたペースト状の負極材料を、電極基板の厚さ20μmの銅箔上にドクターブレードを用いて均一厚さに塗布し、乾燥させて1ton/cm2 の冷間プレスで圧縮後、真空中120 ℃で乾燥した。ここから切り出した面積1cm2 の試験片を電極 (負極) として使用した。
【0049】
負極特性の評価は、対極、参照極に金属リチウムを用いた3極式定電流充放電試験により行った。電解液にはエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの体積比1:1 の混合溶媒に1M濃度でLiClO4を溶解した非水溶液を使用した。このセルを、0.3 mA/cm2の電流密度でLi参照極に対して0.0 V まで充電して負極中にLiを格納させた後、同じ電流密度でLi参照極に対して1.50 Vまで放電 (Liイオンの放出) を行う充放電サイクルを10サイクル行い、2〜10サイクルの9回の放電容量の平均値を放電容量とした。また、3サイクル目の充放電における充電に要した電気量に対する放電時の電気量の割合 (%) として充放電効率を算出した。これらの結果を、バルクメソフェーズ粉およびメソフェーズ小球体の配合割合、混合時期、バルクメソフェーズの平均粒径、嵩密度、混合後の融着性、黒鉛粉末の比表面積と一緒に表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1からわかるように、本発明によれば、嵩密度が1.35 g/cm3以上と高く充填性に優れ、さらに比表面積が小さく、負極とした場合の放電容量と充放電効率とに優れた、リチウムイオン二次電池負極用に適した黒鉛粉末が得られる。
【0052】
これに対し、バルクメソフェーズ粉とメソフェーズ小球体を炭化前に混合した比較例1では、炭化中に融着し、炭化後に粉砕したため、メソフェーズ小球体の球形粒子が壊れ、充填性が低下し、放電容量が大きく低下し、比表面積もやや増大したので、充放電効率も低くなった。
【0053】
メソフェーズ小球体炭化物の割合が25重量%を超えた比較例2では、充填性が低く、放電容量が低い上に、比表面積の大きいメソフェーズ小球体が多いため、充放電効率も大きく低下した。
【0054】
バルクメソフェーズ粉の平均粒径が小さすぎる比較例3および大きすぎる比較例4は、いずれも充填性が悪化し、放電容量が大きく低下した。また、比較例3では、比表面積の増大により、充放電効率も著しく低下した。
【0055】
バルクメソフェーズ粉100 %を用いた従来例1では、黒鉛粉末の比表面積は小さいので、充放電効率は優れていたが、充填性が悪いため、放電容量は低くなった。また、メソフェーズ小球体100 %を用いた従来例2では、充填性が低い上、比表面積が非常に大きくなったため、放電容量と充放電のいずれも著しく低下した。
【0056】
球形のメソフェーズ小球体の黒鉛粉末を鱗片状の天然黒鉛と混合した従来例3では、全体の90重量%を占める鱗片状天然黒鉛の充填性が悪いため、嵩密度は著しく低くなったが、放電容量はその割にはよかった。これは鱗片状天然黒鉛は結晶性が高いためと考えられる。また、鱗片状天然黒鉛は比表面積が大きいので、黒鉛粉末の比表面積が大きく、充放電効率は低かった。
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、安価なタールおよび/またはピッチから得られるメソフェーズを原料として、充填性が高く、比表面積が小さい黒鉛粉末が得られる。この黒鉛粉末は、リチウムイオン二次電池の負極材料として好適であり、放電容量と充放電効率のどちらも良好な負極、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池を作製することができる。
Claims (4)
- 平均粒径20〜40μmのバルクメソフェーズ粉を炭化および黒鉛化して得た黒鉛粉末75〜98重量%と、平均粒径10μm以下のメソフェーズ小球体を炭化および黒鉛化して得た黒鉛粉末2〜25重量%、との混合粉末からなり、混合が炭化後または黒鉛化後に行われた、リチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末。
- 平均粒径20〜40μmのバルクメソフェーズ粉と平均粒径10μm以下のメソフェーズ小球体を別々に炭化し、バルクメソフェーズ粉の炭化物75〜98重量%とメソフェーズ小球体の炭化物2〜25重量%とを混合し、混合物を黒鉛化することからなる、リチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末の製造方法。
- 平均粒径20〜40μmのバルクメソフェーズ粉と平均粒径10μm以下のメソフェーズ小球体を別々に炭化および黒鉛化し、バルクメソフェーズ粉の黒鉛化物75〜98重量%とメソフェーズ小球体の黒鉛化物2〜25重量%とを混合することからなる、リチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末の製造方法。
- 黒鉛粉末を含む負極を備え、その黒鉛粉末は、平均粒径20〜40μmのバルクメソフェーズ粉を炭化および黒鉛化して得た黒鉛粉末75〜98重量%と、平均粒径10μm以下のメソフェーズ小球体を炭化および黒鉛化して得た黒鉛粉末2〜25重量%、との混合粉末からなり、混合が炭化後または黒鉛化後に行われたものである、リチウムイオン二次電池。
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