JP4470235B2 - リチウムイオン二次電池負極用粉末の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水系二次電池であるリチウムイオン二次電池の負極に用いる黒鉛粉末の製造方法と、この黒鉛粉末の製造原料となるバルクメソフェーズ粉末の製造方法、とに関する。
【0002】
【従来の技術】
リチウムイオン二次電池は、正極にリチウム化合物 (例、リチウムとNiやCo等の遷移金属との複合酸化物) など、負極にリチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出できる炭素材料、電解質にリチウム化合物を有機溶媒に溶解させた溶液を用いた、非水系二次電池である。
【0003】
負極にリチウム金属またはリチウム合金を用いたリチウム二次電池は、電池容量は非常に高くなるものの、充電時のリチウムのデンドライト状態での析出や微粉化のためにサイクル寿命および安全性に問題を生ずる。これに対し、負極を炭素材料から構成したリチウムイオン二次電池では、電池内でリチウムが常にイオンの形で存在し、金属として析出することが避けられるため、リチウム二次電池の上記問題点が解決できる。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、安全性が高くサイクル寿命が長い上、作動電圧とエネルギー密度が高い、短時間で充電が可能、非水系電解液のためアルカリ電解液に比べて耐漏液性に優れている、といった特長があり、小型二次電池として急速に普及しているのは周知の通りである。さらに、電気自動車のバッテリー等の大型電池としての利用についても研究が進んでいる。
【0005】
リチウムイオン二次電池の負極に用いる炭素材料には、結晶質の黒鉛、黒鉛の前駆体である易黒鉛化性炭素 (ソフトカーボン) 、高温処理しても黒鉛に成らない難黒鉛化性炭素 (ハードカーボン) がある。ピッチや樹脂等の有機物を、不活性雰囲気中1000℃程度にて揮発分がなくなるまで熱処理することで、ソフトカーボンやハードカーボンが得られるが、特にハードカーボンは結晶性が低く非晶質な構造を持つ材料である。一方、黒鉛はソフトカーボンを2500℃程度以上の温度で熱処理することにより得られる。いずれの場合も、粉末化した材料を通常は少量の結着剤 (通常は有機樹脂) を用いて成形し、集電体となる電極基板に圧着させることにより電極 (負極) が形成される。
【0006】
黒鉛からなる負極では、充電時には、層状構造を持つ黒鉛結晶の層間に電解液からリチウムイオンが吸蔵 (インターカレート) され、放電時にはその電解液への放出 (デインターカレート) が起こる。層間に吸蔵されうるリチウムイオンの量は最大でC6Liに相当する量であり、その場合の容量は372 mAh/g となる。従って、この容量が理論的な最大容量となる。
【0007】
一方、より結晶性の低い炭素材を負極に用いると、容量は大きく変化し、場合によっては黒鉛系負極材料の理論最大容量 (372 mAh/g)を超える容量が得られることも報告されている。炭素材は結晶が発達していないため、層間へのリチウムイオンの吸蔵に加えて、層間以外に結晶の格子欠陥等の部分にもリチウムイオンが吸蔵されるためではないかと考えられる。しかし、炭素材は黒鉛より密度が低いため、たとえ黒鉛より容量が高くても、単位体積当たりで比べた容量は低くなり、体積が決まっている電池用途では不利となる。以上より、黒鉛の方がリチウムイオン二次電池の負極材料として有利であると考えられる。
【0008】
黒鉛を負極とするリチウムイオン二次電池では、一般に負極の黒鉛化度(即ち、黒鉛結晶化度)が高いほどLiイオン格納量が増大し、負極材料の放電容量が増大することが知られている。黒鉛の結晶化度の指標としては通常d002[層状構造の黒鉛結晶面 (002 面またはc面) の層間距離] が使用されている。このd002 が小さいほど (即ち、理想的な黒鉛結晶のd002 値である0.3354 nm に近づくほど) 黒鉛の結晶化度は高くなる。
【0009】
結晶化度が高く、放電容量の高い負極材料が、タールやピッチの熱処理により生成する光学異方性のメソフェーズを炭化および黒鉛化することにより得られることは公知である (例、特開平7−223808号および7−226204号公報参照) 。
【0010】
例えば、特開平7−223808号公報には、加熱下で軟化溶融するバルクメソフェーズピッチを3〜25μmに粉砕した後、空気中 200〜350 ℃で熱処理して表層を酸化処理して表面を不融化した後、 800〜3000℃で熱処理して炭素または黒鉛粉末を製造することが提案されている。
【0011】
また、一般に負極の炭素材料の比表面積は可及的に小さい方が有利である。比表面積が大きいと電解液との反応性が高まり、充放電効率やサイクル寿命が低下する傾向があるからである。
【0012】
メソフェーズから比表面積の小さいリチウムイオン二次電池負極用の炭素または黒鉛粉末を製造する方法として、特開平10−3922号公報には、メソフェーズ量が80wt%以上、揮発分が25wt%以下のバルクメソフェーズピッチを平均粒子径三〜20μmに粉砕した後、酸素含有率が2〜8wt%となるように軽度に酸化処理して不融化させてから、加圧成形し、得られた成形体を必要に応じてさらに酸化処理した後、炭素化または黒鉛化し、粉砕・整粒することからなる方法が開示されている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
上述した特開平7−223808号および10−3922号公報では、いずれも、炭化時にメソフェーズ粉末が融着するのを防止するため、炭化前にメソフェーズ粉末の表面を軽度の酸化処理して、表面を不融化させておく必要がある。炭化時に粒子の融着が起こると、粒径が維持できず、最後にまた粉砕を行う必要が出てくるためである。このように最後に粉砕を行うと、粒内破壊により粉末の比表面積が著しく増大し、充放電効率やサイクル寿命に悪影響がある。
【0014】
上記の表面酸化による不融化は、例えば、揮発性成分をより多量に含んでいて融着がより起こり易いメソフェーズ小球体についても同様の目的で一般に行われていることからわかるように、炭化時の融着を防止するには有効である。しかし、酸化処理という工程が別に加わるので、工程数が増える上、表面酸化の程度を確実に制御することが必ずしも容易ではなく、メソフェーズ粉末が過度に酸化されてしまう場合もある。過度の酸化はメソフェーズ粉末の結晶構造を変化させてしまい、最終的に得られる黒鉛粉末の結晶化度が低下し、従って放電容量が低下した黒鉛粉末になる可能性がある。
【0015】
本発明の課題は、炭化時の融着防止のための酸化処理を不要にして、結晶化度が高く、比表面積が小さい、従って、放電容量と充放電効率のいずれにも優れた、黒鉛粉末を製造することができる方法を開発することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、メソフェーズ化のための熱処理を十分に行って、揮発分が15%以下のバルクメソフェーズを生成させることにより、酸化処理を行わなくても、炭化時の融着が実質的に防止され、簡単な解砕だけで粒径を維持できる上、粉砕を炭化前だけに行うことが可能となり、それにより比表面積が著しく低減し、充放電効率の優れた黒鉛粉末を製造することができることを見出した。揮発分が15%以下と低いバルクメソフェーズは、メソフェーズ化前にニトロ化剤の存在下で加熱して重縮合により高分子量化することで容易に製造できる。
【0017】
ここに、本発明は、揮発分1〜15wt%のバルクメソフェーズを粉砕した後、その後に実質的な粉砕を行わずに炭化および黒鉛化して黒鉛粉末を得ることを特徴とする、リチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末の製造方法、である。
【0018】
好ましくは、上記バルクメソフェーズは、タールおよび/またはピッチに 0.1〜15wt%のニトロ化剤を添加して300 ℃以上400 ℃未満に加熱して高分子量化した後、さらに 400〜600 ℃で熱処理することにより得られたものである。
【0019】
別の側面からは、本発明は、タールおよび/またはピッチに 0.1〜15wt%のニトロ化剤を添加して300 ℃以上400 ℃未満に加熱して高分子量化した後、さらに 400〜600 ℃で熱処理して揮発分1〜15wt%のバルクメソフェーズを生成させ、このバルクメソフェーズを粉砕することを特徴とする、炭化および黒鉛化時に融着性を示さないバルクメソフェーズ粉末の製造方法、である。
【0020】
本発明において、バルクメソフェーズの揮発分は、JIS M8812-1984の「石炭類及びコークス類の工業分析方法」に従い、測定した。
【0021】
また、本発明において「実質的な粉砕」とは、粒内破壊を生ずる粉砕を意味し、いわゆる解砕はこれには含まれない。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明に係る黒鉛粉末の製造方法では、揮発分が1〜15wt%のバルクメソフェーズの粉末を炭化および黒鉛化する。まず、このバルクメソフェーズ粉末の製造方法について説明する。
【0023】
このバルクメソフェーズの製造に用いる出発原料は、タール (常温で液状) 、またはタールの蒸留残渣であるピッチ (常温で固体または半固体) 、或いはその両者である。原料としては、芳香族成分に富む石炭系のタール (コールタール) またはピッチが好ましいが、石油系のものも十分に使用できる。タールやピッチは、樹脂に比べて著しく安価である上、樹脂より易黒鉛化性であるので、黒鉛化原料に適している。
【0024】
タールやピッチを加熱しながら偏光顕微鏡で観察すると、ピッチではまず溶融して液状化した後、温度が400 ℃以上になると液相中に光学異方性の球形粒子が現れる。この粒子がメソフェーズ小球体である。加熱を続けると、メソフェーズ小球体の量が増加し、ついにはそれらが合体して光学異方性のマトリックスが生じ、最終的には全体が光学異方性となる。この光学異方性のマトリックス材料または全体的に光学異方性となった材料をバルクメソフェーズと呼んでいる。
【0025】
メソフェーズ小球体もリチウムイオン二次電池の負極用炭素材料の原料として使用できる。しかし、メソフェーズ小球体は、光学的に等方性のマトリックスから分離するのに溶媒抽出といった分離操作が必要であり、余分な工程が加わること、多量の有機溶媒が必要となること、さらにはマトリックスは廃棄するため収率が低下することから、バルクメソフェーズの方が工業化に有利である。
【0026】
タールやピッチを単に加熱するだけでは、メソフェーズ化は進行するものの、揮発分が15wt%以下のメソフェーズを得ることは容易ではない。即ち、熱処理温度を上げすぎると炭化が進行してしまい、最終的な黒鉛粉末の特性に悪影響がある。一方、炭化を生じない熱処理温度では、工業的に採用しにくいような非常に長時間 (例、10時間以上) の熱処理時間が必要となる。そのため、従来は、特開平7−113808号および10−3922号公報に記載されているように、メソフェーズ粉に融着性があるので、メソフェーズ化後に表面を不融化するための酸化処理が行われてきた。
【0027】
本発明では、メソフェーズ化の熱処理前に、ニトロ化剤の存在下で出発原料のタールおよび/またはピッチを加熱して重縮合を進めることにより高分子量化する。こうすると、比較的短時間の熱処理で、揮発分が15wt%以下のバルクメソフェーズを得ることが可能となる。
【0028】
使用するニトロ化剤の例としては、これらに限られないが、硝酸、硝酸アンモニウム、硝酸アセチル、ニトロベンゼン、ニトロトルエン、ニトロナフタレンなどが挙げられる。ニトロ化剤の添加量は、一般に出発原料 (タールおよび/またはピッチ) の 0.1〜15wt%の範囲である。この量が 0.1wt%以下では高分子量化がほとんど進まず、15wt%を超える量のニトロ化剤を添加すると、黒鉛化に悪影響を生じ、最終的に得られる黒鉛粉末の結晶化度が低くなり、従って放電容量が低下する。ニトロ化剤の添加量の好ましい範囲は 0.5〜10wt%、より好ましい範囲は1〜5wt%である。
【0029】
ニトロ化剤の存在下で出発原料を加熱すると、まず原料分子の芳香環にニトロ基が導入され、さらにニトロ基同士が縮合反応 (ニトロ基の脱離を伴う) して原料が二量体化、さらたは多量体化する。即ち、原料が重縮合によって高分子量化する。この高分子量化した原料を熱処理してメソフェーズ化することにより、揮発分の少ないメソフェーズを容易に得ることができる。こうして揮発分が減少すると、表面酸化処理を施さなくても炭化時の融着が実質的に防止できる上、最終的に得られる黒鉛粉末の収量 (出発原料のタールおよび/またはピッチに基づいた収量) が増大する。
【0030】
ニトロ化剤の存在下での加熱は、300 ℃以上、400 ℃未満の温度で行う。この温度範囲では、ニトロ化と重縮合による出発原料の高分子量化が短時間で進行する。加熱温度が300 ℃より低いと重縮合が十分に進まず、400 ℃以上ではメソフェーズ化が進行するようになる。ニトロ化剤の添加の前に 100〜300 ℃の範囲内の温度で予備加熱してもよい。この予備加熱により原料のニトロ化がより進行する。加熱時間は、全体で数時間以内とすることが好ましく、予備加熱を行う場合には、いずれの加熱も2時間以内でよい場合が多い。加熱中の表面酸化を避けるため、加熱は不活性ガス流通下で行うことが好ましい。なお、導入されたニトロ基あるいは窒素分は、最終的に黒鉛化すると完全に除去される。
【0031】
こうしてニトロ化剤の存在下で加熱して高分子量化した原料を熱処理してメソフェーズ化する。光学異方性のメソフェーズは、層状構造が発達しているため、易黒鉛化性であって、黒鉛化すると結晶性の発達した黒鉛が得られることが知られている。メソフェーズ化のための熱処理は 400〜600 ℃の温度範囲で行うことができる。熱処理温度は好ましくは 450〜550 ℃である。この熱処理中に、油分が揮発するので、その揮発を促進するため、熱処理を10〜100 Torr程度の減圧下で行うことが好ましい。大気圧で熱処理する場合には、油分の除去を促進し、かつ熱処理中の材料の酸化を防止するため、窒素ガスなどの不活性ガスの流通下で熱処理を行うことが好ましい。
【0032】
熱処理時間は、熱処理後に揮発分が1〜15wt%のバルクメソフェーズが得られるように選択する。この時間は、熱処理温度によっても異なるが、出発原料がニトロ化剤の存在下での加熱により予め高分子量化してあると、一般に数時間、好ましくは1時間以内の処理で、このようなバルクメソフェーズを得ることができる。
【0033】
得られたバルクメソフェーズの揮発分は、試料を上に規定した条件下で熱重量分析することにより求めることができる。バルクメソフェーズの揮発分が15wt%を超えると、次の炭化時にメソフェーズ粉末が融着することが避けられず、従って、炭化後または黒鉛化後に粉砕を行う必要性が出てくる。揮発分が1wt%未満のバルクメソフェーズは、長時間または高温でのメソフェーズ化熱処理が必要となる上、揮発分の除去に起因する炭化中の比表面積の減少が期待できないため、比表面積が増大した黒鉛粉末しか得ることができない。
【0034】
比表面積に関しては、揮発分がある程度残っている方が、炭化中の比表面積の減少が大きくなるので好ましいが、上記のように揮発分が15wt%を超えると、炭化後の粉砕が必要になり、比表面積が小さい黒鉛粉末を得ることが実質的に不可能となる。バルクメソフェーズの揮発分の好ましい範囲は2〜15wt%、より好ましい範囲は5〜12wt%である。
【0035】
生成したバルクメソフェーズを取り出し、次いで炭化前に粉砕する。本発明の方法では、炭化後には実質的な粉砕を行わないので、この段階で最終製品である黒鉛粉末に望まれる粒度になるように粉砕を行う。負極材料に適した黒鉛粉末の平均粒径は、一般に5〜35μmの範囲内が好ましいので、バルクメソフェーズの平均粒径がこの範囲内になるように粉砕を行えばよい。
【0036】
バルクメソフェーズの揮発分が15wt%以下と低いため、次の炭化中に粉末粒子の融着がほとんど起こらず、粒径が実質的に維持されるので、この炭化前に最終的な粉砕を行うことが可能となる。但し、炭化中の揮発分の除去と黒鉛化中の結晶化により、粒径はいくらか変動するが、それほど大きな変動ではない。必要であれば、炭化および黒鉛化時の粒径の変動を実験で求め、その変動を見込んで、バルクメソフェーズの粉砕を行ってもよい。
【0037】
粉砕は適当な粉砕機を用いて行うことができる。例えば、ハンマーミル、ボールミル、ロッドミルなどの衝撃または衝撃/摩砕が主に作用する粉砕機、或いはディスククラッシャー等の剪断が主に作用する粉砕機が使用できる。2種以上の粉砕機を併用してもよい。
【0038】
このメソフェーズをさらに熱処理して炭化および黒鉛化し、黒鉛粉末を得る。炭化は炭素以外の元素をほぼ完全に熱分解させて除去する工程であり、黒鉛化は黒鉛の層状結晶構造を発達させる工程である。この炭化と黒鉛化の熱処理は、従来と同様に実施すればよい。一般に炭化に必要な温度は 700〜1100℃であり、黒鉛化に必要な温度は2500℃以上である。炭化と黒鉛化は、同じ炉を使って1工程の焼成で実施することも不可能ではないが、黒鉛化温度が非常に高く、特殊な炉が必要になるため、通常は別工程で行う。
【0039】
炭化と黒鉛化の熱処理はいずれも非酸化性雰囲気中で行う。熱処理雰囲気は、不活性ガス (例、窒素、アルゴン等の希ガス) と還元性ガス (例、水素と不活性ガスの混合ガス) のいずれでもよい。炭素の酸化は黒鉛化後の結晶化度の低下や比表面積の増大の原因となるため、雰囲気中の酸素、水蒸気、二酸化炭素等の酸化性ガスの濃度は極力低くすることが好ましい。黒鉛化温度では、水素等の還元性ガスや場合によっては窒素も炭素と反応する可能性があるため、黒鉛化時の熱処理雰囲気は、アルゴン等の希ガスが好ましい。
【0040】
炭化は、前述したように 700〜1100℃、好ましくは 800〜1000℃の温度で行われる。炭化時間は、有機物が実質的に完全に除去されるように設定すればよく、通常は1〜50時間の範囲である。この炭化時には、有機物の分解が起こり、ガスが発生するので、ガス排出手段を備えた加熱炉で熱処理することが好ましい。加熱炉として通常は電気炉が使用される。
【0041】
本発明では、熱処理材料であるバルクメソフェーズの揮発分が上記のように少ないので、ガス発生量が非常に少なく、炭化が容易である。即ち、炭化時の昇温速度を比較的高くすると、ガス発生が激しすぎて比表面積が増大することがあるが、本発明では炭化時のガス発生が少ないので、昇温速度を高くすることができる。また、揮発分が少ないので、炭化に要する時間も少なくてすむ。その結果、昇温も含めた炭化工程の処理時間が短縮される。
【0042】
炭化中に揮発分が減少する結果、粉末の比表面積が著しく低下する。しかし、従来のバルクメソフェーズの炭化では、炭化時に融着が起こるため、炭化後または黒鉛化後の粉砕が必要であり、そうなると比表面積はまた大きく増大してしまう。この比表面積の増大は、炭化後に粉砕した場合でも顕著であるが、黒鉛化後に粉砕するとさらに一層顕著である。炭化後または黒鉛化後に粉砕した比表面積の大きな黒鉛粉末は、充放電効率が低下し、またサイクル寿命も悪くなる。
【0043】
本発明では、バルクメソフェーズの揮発分が少ないため、炭化時に粉末粒子の融着がほとんど起こらず、炭化後に粉砕を行う必要がない。そのため、炭化時に減少した比表面積をそのまま保持することができ、最終的に比表面積が非常に小さい黒鉛粉末を得ることができる。そのため、得られた黒鉛粉末は充放電効率やサイクル寿命が良好となる。
【0044】
黒鉛化は、高周波加熱炉や、炭素の直接通電により高温に抵抗加熱するアチソン型抵抗加熱炉で行われる。炭素材料を2500℃以上に加熱すると、炭素が結晶化して黒鉛になる。黒鉛化温度は高いほど結晶化が促進され望ましいが、あまり温度が高くなりすぎると黒鉛粉末が昇華する。好ましい黒鉛化温度は、2800〜3200℃であり、黒鉛化熱処理時間は 0.1〜10時間である。
【0045】
この黒鉛化中に、ニトロ化剤により導入された窒素分が完全に除去されるので、ニトロ化剤の処理による負極材料特性への悪影響はない。これに対し、黒鉛化せずに炭化だけで熱処理をとどめておくと、得られた炭化材を用いた負極は、充放電効率が著しく低下する。
【0046】
炭化時や黒鉛化時に粒子が軽く結合することがあるが、軽度の粉砕によって解砕を行うことで、容易にばらばらの粒子にほぐすことができる。このような解砕は、本発明で意味する「実質的な粉砕」には含まれない。なお、粗大粒子や微粒子を除去し、或いは平均粒径を調整するための整粒 (分級) を、黒鉛化後も含めて任意の時点で1回またはそれ以上行うことができる。
【0047】
本発明の方法により製造された黒鉛粉末は、易黒鉛化性のバルクメソフェーズから得たものであるため、結晶化度が高く (例、d002 が0.33625 nm以下) 、高い放電容量 (例、320 mAh/g 以上) を示すことができる。さらに、炭化前に粉砕をすませておき、炭化後には粉砕を行わないため、炭化時に得られた小さい比表面積を保持しているので、従来品に比べて比表面積が非常に小さく、比表面積が1m2/g以下の黒鉛粉末を製造することができる。そのため、充放電効率やサイクル寿命が大きく向上する。
【0048】
本発明の方法で製造された黒鉛粉末を用いて、常法に従って電極を作製し、リチウムイオン二次電池に負極として組み込むことができる。一般的な電極の製造方法は、黒鉛粉末を少量の適当な結着剤 (例、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ヘキサフルホロポリプロピレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等) と一緒に湿式または乾式で成形し、集電体となる電極基板 (例、銅箔などの金属箔) と一体化させる方法である。湿式成形の場合は、スラリーを電極基板上にスクリーン印刷または塗布し、ロール加圧して圧密化する方法が普通である。乾式成形の場合はホットプレス等により別に成形してから電極基板に熱圧着させる方法が採用できる。本発明の方法で製造された粉末と他の黒鉛粉末と併用して電極を製造することもできる。
【0049】
【実施例】
減圧蒸留装置にコールタールを入れ、ニトロ化剤として表1に示す量の濃硝酸を添加し、攪拌しながら80Torrの減圧下で 350℃に1時間加熱して重縮合による高分子量化を図った。
【0050】
得られたピッチ様の原料を、冷却せずに同じ蒸留装置内で攪拌しながら80Torrの減圧下で表1に示す温度でメソフェーズ化熱処理を行った。熱処理時間または温度を変化させて、揮発分の異なるバルクメソフェーズを得た。このバルクメソフェーズを、冷却後に取り出し、ハンマーミルで平均粒径が35μmになるように粉砕した。このバルクメソフェーズ粉末を、窒素ガスを流通させた電気炉に移し、1℃/分の昇温速度で1000℃に加熱し、その温度に5時間保持して炭化させた。得られた炭化材の融着性を目視で、良:手でつぶせる、不良:手でつぶせないという基準で判定した。融着性が不良の場合には、上記と同じ条件で再び粉砕を行った。一部の試験では、炭化前のバルクメソフェーズの粉砕を粗粉砕にとどめ、炭化後に上記と同じ平均粒径が得られるように粉砕を行った。最後に、炭化材を黒鉛化炉 (アチソン型抵抗加熱炉) に移し、アルゴン雰囲気下で50℃/分の速度で3000℃に昇温させ、この温度に5時間保持して黒鉛化した。
【0051】
得られた黒鉛粉末を以下の方法による電極の作製に用いた。黒鉛粉末90重量部とポリフッ化ビニリデン粉末10重量部を溶剤のN−メチルピロリドン中で混合し、ペースト状にした。得られたペースト状の負極材料を、電極基板の厚さ20μmの銅箔上にドクターブレードを用いて均一厚さに塗布し、乾燥させて1ton/cm2 の冷間プレスで圧縮後、真空中120 ℃で乾燥した。ここから切り出した面積1cm2 の試験片を電極 (負極) として使用した。
【0052】
負極特性の評価は、対極、参照極に金属リチウムを用いた3極式定電流充放電試験により行った。電解液にはエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの体積比1:1 の混合溶媒に1M濃度でLiClO4を溶解した非水溶液を使用した。放電容量は、0.3 mA/cm2の電流密度でLi参照極に対して0.0 V まで充電して負極中にLiを格納させた後、同じ電流密度でLi参照極に対して1.50 Vまで放電 (Liイオンの放出) を行う充放電サイクルを10サイクル行い、2〜10サイクルの9回の放電容量の平均値である。また、初回の充放電において充電に要した電気量に対する放電時の電気量の割合 (%) として充放電効率を算出した。これらの結果を、濃硝酸の添加量、メソフェーズ化熱処理温度、この処理で得られたバルクメソフェーズの揮発分、炭化時の融着性、黒鉛粉末の比表面積およびd002 の値と一緒に表1に示す。
【0053】
黒鉛粉末の比表面積は、N2 置換法によるBET1点測定法で求めた。黒鉛粉末のd002 は、その粉末の粉末法X線回折図から、国際公開番号WO98/29335に記載されたのと同様の方法により求めた値である。
【0054】
【表1】
【0055】
表1からわかるように、本発明に従って、まず出発原料をニトロ化剤の存在下での加熱により高分子量化してから、メソフェーズ化熱処理を行って揮発分が1〜15wt%のバルクメソフェーズを得た後、これを粉砕した後に炭化と黒鉛化を行うと、炭化中の融着が起こらず、炭化後に粉砕せずに黒鉛粉末を製造することが可能となった。その結果、得られた黒鉛粉末は、比表面積が1m2/g以下と非常に小さく、またd002 値も小さいため、320 mAh/g 以上の高容量と、90%以上の高い充放電効率を兼ね備えていた。
【0056】
これに対し、バルクメソフェーズの揮発分が0wt%では、炭化時の比表面積の減少がないため、黒鉛粉末の比表面積が高くなった。また、バルクメソフェーズの揮発分が高いと、炭化時の融着が激しく、炭化後に再び粉砕する必要が出てきたため、やはり比表面積が高くなった。また、粉砕を炭化後に行うと、他の条件が本発明と同じでも、比表面積の高い黒鉛粉末しか得られなかった。さらに、ニトロ化剤の量が多すぎると、黒鉛粉末の比表面積は小さいものの、過剰のニトロ化剤が黒鉛化に悪影響を及ぼすため、結晶化度が小さくなり、放電容量に悪影響が出た。また、比表面積が小さいにもかかわらず、充放電効率も本発明例に比べて低くなった。
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、安価なタールおよび/またはピッチを原料として、結晶化度が良好で放電容量が高く、かつ比表面積が非常に小さく、充放電効率が改善された、リチウムイオン二次電池の負極用黒鉛粉末を安定して製造することが可能となる。
Claims (3)
- タールおよび/またはピッチに0.1〜15wt%のニトロ化剤を添加して熱処理することにより得られたバルクメソフェーズであって、揮発分1〜15wt%のバルクメソフェーズを粉砕し、この粉砕後に実質的な粉砕を行わずに炭化および黒鉛化して黒鉛粉末を得ることを特徴とする、リチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末の製造方法。
- 前記バルクメソフェーズが、タールおよび/またはピッチに0.1〜15wt%のニトロ化剤を添加して300℃以上400℃未満に加熱して高分子量化した後、さらに400〜600℃で熱処理することにより得られたものである、請求項1記載の方法。
- タールおよび/またはピッチに0.1〜15wt%のニトロ化剤を添加して300℃以上400℃未満に加熱して高分子量化した後、さらに400〜600℃で熱処理して揮発分1〜15wt%のバルクメソフェーズを生成させ、このバルクメソフェーズを粉砕することを特徴とする、炭化および黒鉛化時に融着性を示さないリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末製造原料用のバルクメソフェーズ粉末の製造方法。
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