JP4403325B2 - リチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末の製造方法およびリチウムイオン二次電池 - Google Patents

リチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末の製造方法およびリチウムイオン二次電池 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非水系二次電池であるリチウムイオン二次電池の負極に用いる黒鉛粉末の製造方法、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
リチウムイオン二次電池は、正極にリチウム化合物 (例、リチウムとNiやCo等の遷移金属との複合酸化物) など、負極にリチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出できる炭素材料、電解質にリチウム化合物を有機溶媒に溶解させた溶液を用いた、非水系二次電池である。
【0003】
負極にリチウム金属またはリチウム合金を用いたリチウム二次電池は、電池容量は非常に高くなるものの、充電時のリチウムのデンドライト状態での析出や微粉化のためにサイクル寿命および安全性に問題を生ずる。これに対し、負極を炭素材料から構成したリチウムイオン二次電池では、電池内でリチウムが常にイオンの形で存在し、金属として析出することが避けられるため、リチウム二次電池の上記問題点が解決できる。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、安全性が高くサイクル寿命が長い上、作動電圧とエネルギー密度が高い、短時間で充電が可能、非水系電解液のためアルカリ電解液に比べて耐漏液性に優れている、といった特長があり、小型二次電池として急速に普及しているのは周知の通りである。さらに、電気自動車のバッテリー等の大型電池としての利用についても研究が進んでいる。
【0005】
リチウムイオン二次電池の負極に用いる炭素材料には、結晶質の黒鉛、黒鉛の前駆体である易黒鉛化性炭素 (ソフトカーボン) 、高温処理しても黒鉛に成らない難黒鉛化性炭素 (ハードカーボン) がある。ピッチや樹脂等の有機物を、不活性雰囲気中1000℃程度にて揮発分がなくなるまで熱処理することで、ソフトカーボンやハードカーボンが得られるが、特にハードカーボンは結晶性が低く非晶質な構造を持つ材料である。一方、黒鉛はソフトカーボンを2500℃程度以上の温度で熱処理することにより得られる。いずれの場合も、粉末状態の炭素材料を通常は少量の結着剤 (通常は有機樹脂) を用いて成形し、集電体となる電極基板に圧着させることにより電極 (負極) が形成される。
【0006】
黒鉛からなる負極では、充電時には、層状構造を持つ黒鉛結晶の層間に電解液からリチウムイオンが吸蔵 (インターカレート) され、放電時にはその電解液への放出 (デインターカレート) が起こる。層間に吸蔵されうるリチウムイオンの量は最大でC6Liに相当する量であり、その場合の容量は372 mAh/g となる。従って、この容量が理論的な最大容量となる。
【0007】
一方、より結晶性の低い炭素材を負極に用いると、容量は大きく変化し、場合によっては黒鉛系負極材料の理論最大容量 (372 mAh/g)を超える容量が得られることも報告されている。炭素材は結晶が発達していないため、層間へのリチウムイオンの吸蔵に加えて、層間以外に結晶の格子欠陥等の部分にもリチウムイオンが吸蔵されるためではないかと考えられる。しかし、炭素材は、黒鉛より密度が低いため、たとえ黒鉛より容量が高くても、単位体積当たりで比べた容量は低くなり、体積が決まっている電池用途では不利となる。以上より、黒鉛の方がリチウムイオン二次電池の負極材料として有利であると考えられる。
【0008】
負極材料に黒鉛粉末を用いたリチウムイオン二次電池では、一般に黒鉛粉末の黒鉛化度(即ち、黒鉛結晶化度)が高いほどLiイオン格納量が増大し、負極材料の放電容量が増大する。結晶化度が高く、放電容量の高い負極材料が、タールやピッチの熱処理で生成する光学異方性のメソフェーズを炭化および黒鉛化することにより得られることが知られている。メソフェーズは層状構造が発達しているため、黒鉛の結晶構造が発達し易いためであると考えられる。
【0009】
特開平7−223808号公報には、加熱下で軟化溶融するバルクメソフェーズピッチを3〜25μmに粉砕した後、空気中 200〜350 ℃で熱処理して表層を酸化処理して表面を不融化した後、 800〜3000℃で熱処理して、球状の炭素または黒鉛粉末を製造することが提案されている。得られた黒鉛粉末は結晶化性が高く、球状であるので充填性に優れていると説明されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
リチウムイオン二次電池の負極材料として用いる黒鉛粉末は、比表面積が小さい方が有利である。比表面積が大きいと電解液との反応性が高まり、充放電効率やサイクル寿命が低下する傾向がある。黒鉛粉末の比表面積は、炭化後、特に黒鉛後に粉砕を行うと、粒内破壊のために著しく増大するので、炭化した後は粉砕を行わないことが好ましい。
【0011】
しかし、一般にメソフェーズは融着性があり、メソフェーズを粉砕して炭化すると、炭化時に粉末が融着するので、炭化後または黒鉛化後に再び粉砕する必要が出てくる。このような粉砕を行うと、メソフェーズを原料として比表面積の小さい黒鉛粉末を得ることが困難である。
【0012】
そこで、上記の特開平7−223808号公報に記載の方法でも採用されているように、炭化時のメソフェーズ粉末の融着防止のため、メソフェーズ粉末を軽度に酸化処理して表層だけを酸化し、不融化させておく。このような酸化による表面の不融化処理は、特に後述するメソフェーズ小球体の場合には、小球体の形状を保持したまま炭化させるために必ず行われている。
【0013】
メソフェーズ粉末の表層酸化により炭化時の融着を防止する場合、融着が確実に防止されるように粉末表面を過度に酸化しがちである。このような過度の酸化は、メソフェーズ粉末の結晶構造を変化させてしまうため、黒鉛化時に結晶化が進まなくなり、結晶化度の小さい黒鉛粉末が得られ、放電容量の低下につながる。従って、特に工業生産において、この手法により結晶化度が高い黒鉛粉末を安定して製造することはかなり困難である。
【0014】
本発明の課題は、メソフェーズ粉末の炭化と黒鉛化による黒鉛粉末の製造方法において、メソフェーズ粉末の酸化処理を行わずにその炭化時の融着を防止することである。それにより、結晶化度と放電容量への悪影響を心配せずに、比表面積の小さい (即ち、充放電効率の高い) 黒鉛粉末を得ることが可能となり、結果として、放電容量と充放電効率のいずれにも優れたリチウムイオン二次電池用負極材料、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池を確実に製造することができる。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、メソフェーズ粉末の炭化条件、特に揮発分の発生量の多い昇温初期 (低温域) の炭化条件を、揮発分の脱離を抑えるように正圧に保持し、好ましくは昇温速度も抑えることにより、酸化処理しなくても融着を生ずることなくメソフェーズ粉末を炭化できることを見出し、本発明に到達した。
【0016】
ここに、本発明は、メソフェーズ粉末を炭化および黒鉛化することからなるリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末の製造方法であって、炭化工程の少なくとも 300〜700 ℃の温度域の昇温を非酸化性ガス雰囲気中1.01〜5atm の圧力下で行うと共に、メソフェーズ粉末がバルクメソフェーズの粉砕により得られたものであり、炭化以降に実質的な粉砕を行わないことを特徴とする方法である。また、本発明は、黒鉛粉末を含む負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、その黒鉛粉末が、バルクメソフェーズの粉砕により得られたメソフェーズ粉末を炭化および黒鉛化し、炭化工程の少なくとも300〜700 ℃の温度域の昇温を非酸化性ガス雰囲気中1.01〜5atm の圧力下で行うと共に、炭化以降に実質的な粉砕を行わないようにして得られたことを特徴とするものである。
【0017】
好ましくは、炭化工程の少なくとも 300〜700 ℃の温度域の昇温を100 ℃/hr以下の速度で行う。ここで、「実質的な粉砕」とは、粒内破壊を生ずるような粉砕を意味し、解砕はこの粉砕には含まれない。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明に係るリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末の製造方法で用いる原料はメソフェーズ粉末である。メソフェーズ粉末は、タールおよび/またはピッチを熱処理することにより得られる。タール (常温で液状) と、その蒸留残渣であるピッチ (常温で固体または半固体) は、石炭系と石油系のものがあり、いずれも本発明に使用できるが、芳香族成分に富む石炭系のものが好ましい。タールやピッチは、樹脂に比べて著しく安価である上、樹脂より易黒鉛化性であるので、黒鉛化原料に適している。
【0019】
タールやピッチを加熱しながら偏光顕微鏡で観察すると、ピッチではまず溶融して液状化した後、温度が400 ℃以上になると液相中に光学異方性の球形粒子が現れる。この粒子がメソフェーズ小球体である。加熱を続けると、メソフェーズ小球体の量が増加し、ついにはそれらが合体して光学異方性のマトリックスが生じ、最終的には全体が光学異方性となる。この光学異方性のマトリックス材料または全体的に光学異方性となった材料をバルクメソフェーズと呼んでいる。
【0020】
メソフェーズ粉末としては、メソフェーズ小球体をそのまま使用しても、或いはバルクメソフェーズを粉砕して使用してもよい。メソフェーズ小球体は、光学的に等方性のマトリックスから一般に溶媒抽出により分離して用いられるので、分離に多量の有機溶媒が必要である上、マトリックスは廃棄されるので、原料の利用率も低い。従って、工業的にはバルクメソフェーズを原料とする方が好ましい。
【0021】
タールおよび/またはピッチからメソフェーズを得るための熱処理条件は特に制限されないが、通常は 400〜600 ℃、好ましくは 450〜550 ℃で行われる。この熱処理中に油分が揮発するので、その揮発を促進するため、熱処理を10〜100 Torr程度の減圧下で行うことが好ましい。大気圧で熱処理する場合には、油分の除去の促進と熱処理中の材料の酸化防止のために、窒素ガスなどの不活性ガスの流通下で熱処理を行うことが好ましい。
【0022】
熱処理時間は、所望のメソフェーズ化 (メソフェーズ小球体またはバルクメソフェーズの生成) が起こるように選択する。当然ながら、他の条件が同じであれば、バルクメソフェーズの生成には、メソフェーズ小球体の生成より長い熱処理時間が必要である。しかし、十分な減圧と適切な温度を選択すれば、数時間の熱処理時間でバルクメソフェーズを得ることができる。
【0023】
このメソフェーズ化の熱処理前に、出発物質のタールおよび/またはピッチをニトロ化剤の存在下で加熱することにより予備処理してもよい。この予備処理により、原料分子の芳香環にニトロ基が導入され、さらにニトロ基同士が縮合反応 (ニトロ基の脱離を伴う) して原料が二量体化、さらたは多量体化する。即ち、原料が重縮合を受けて高分子量化する。その結果、メソフェーズ化と次の炭化における揮発分の量が減少し、最終的に得られる黒鉛粉末の歩留りが増大する。
【0024】
ニトロ化剤は、メソフェーズ化の熱処理中に添加することも考えられるが、そうすると熱処理で生成したメソフェーズの組織 (偏光顕微鏡で観察される模様) が変化することがある上、上記の高分子量化による収量増大の効果はほとんど得られなくなる。従って、ニトロ化剤による処理はメソフェーズ化熱処理の前に予備処理として行うことが好ましい。
【0025】
この予備処理に用いるニトロ化剤の例としては、これらに限られないが、硝酸、硝酸アンモニウム、硝酸アセチル、ニトロベンゼン、ニトロトルエン、ニトロナフタレンなどが挙げられる。ニトロ化剤の添加量は、一般に出発原料 (タールおよび/またはピッチ) の 0.1〜15wt%の範囲である。この量が 0.1wt%以下では高分子量化がほとんど進まず、15wt%を超える量のニトロ化剤を添加すると、黒鉛化に悪影響を生じ、最終的に得られる黒鉛粉末の結晶化度が低くなり、従って放電容量が低下する。ニトロ化剤の添加量の好ましい範囲は 0.5〜10wt%、より好ましい範囲は1〜5wt%である。
【0026】
ニトロ化剤の存在下での加熱は、300 ℃以上、400 ℃未満の温度で行う。この温度範囲では、ニトロ化と重縮合による出発原料の高分子量化が短時間で進行する。加熱温度が300 ℃より低いと重縮合が十分に進まず、400 ℃以上ではメソフェーズ化が進行するようになる。ニトロ化剤の添加の前に 100〜300 ℃の範囲内の温度で予備加熱してもよい。この予備加熱により原料のニトロ化がより進行する。加熱時間は、全体で数時間以内とすることが好ましく、予備加熱を行う場合には、いずれの加熱も2時間以内でよい場合が多い。加熱中の表面酸化を避けるため、加熱は不活性ガス流通下で行うことが好ましい。なお、導入されたニトロ基あるいは窒素分は、最終的に黒鉛化すると完全に除去される。
【0027】
上記のようにして得たメソフェーズがバルクメソフェーズである場合には、これを粉砕してメソフェーズ粉末にする。メソフェーズ小球体の場合は、適宜の方法でマトリックスから分離し、そのままメソフェーズ粉末として使用できる。バルクメソフェーズの粉砕は、最終製品である黒鉛粉末に望まれる粒度になるように行うことが好ましい。それにより、炭化以降に粉砕を行わずに黒鉛粉末を製造することができる。負極材料に適した黒鉛粉末の平均粒径は、一般に5〜35μmの範囲内が好ましいので、バルクメソフェーズの粉砕は、平均粒径がこの範囲内になるように行えばよい。炭化中の揮発分の除去と黒鉛化中の結晶化により、粒径はいくらか変動するが、それほど大きな変動ではない。必要であれば、炭化および黒鉛化時の粒径の変動を実験で求め、その変動を見込んで、バルクメソフェーズの粉砕を行ってもよい。
【0028】
粉砕は適当な粉砕機を用いて行うことができる。例えば、ハンマーミル、ボールミル、ロッドミルなどの衝撃または衝撃/摩砕が主に作用する粉砕機、或いはディスククラッシャー等の剪断が主に作用する粉砕機が使用できる。2種以上の粉砕機を併用してもよい。
【0029】
本発明によれば、このようなメソフェーズ粉末を、表面を不融化させるための酸化処理を行わずに、そのまま特定の条件下で炭化し、さらに黒鉛化して、黒鉛粉末を製造する。炭化は炭素以外の元素をほぼ完全に熱分解させて除去する工程であり、黒鉛化は黒鉛の層状結晶構造を発達させる工程である。一般に炭化に必要な温度は 700〜1100℃であり、黒鉛化に必要な温度は2500℃以上である。炭化と黒鉛化は、同じ炉を使って1工程の焼成で実施することも不可能ではないが、黒鉛化温度が非常に高く、特殊な炉が必要になるため、通常は別工程で行う。
【0030】
炭化と黒鉛化の熱処理はいずれも一般に非酸化性雰囲気中で行われる。熱処理雰囲気は、不活性ガス (例、窒素、アルゴン等の希ガス) と還元性ガス (例、水素と不活性ガスの混合ガス) のいずれでもよい。炭素の酸化は黒鉛化後の結晶化度の低下や比表面積の増大の原因となるため、雰囲気中の酸素、水蒸気、二酸化炭素等の酸化性ガスの濃度は極力低くすることが好ましい。黒鉛化温度では、水素等の還元性ガスや場合によっては窒素も炭素と反応する可能性があるため、黒鉛化時の熱処理雰囲気は、アルゴン等の希ガスが好ましい。
【0031】
炭化は、前述したように一般に 700〜1100℃、好ましくは 800〜1000℃の温度で行われる。本発明では、炭化工程の少なくとも 300〜700 ℃の温度域の昇温を非酸化性ガス雰囲気中1.01〜5atm の圧力下で行い、好ましくはこの温度域の昇温速度を100 ℃/hr以下とする。
【0032】
メソフェーズ粉末は溶融性が残っていて、炭化中に粉末が融着してしまうので、炭化後または黒鉛化後に粉砕する必要が出てくる。しかし、炭化後に粉砕すると、黒鉛粉末の比表面積が増大し、充放電効率が低下する。そのため、従来は、炭化中の融着を防ぐために、炭化前にメソフェーズ粉末の表面を酸化処理して、表面を不融化するが、表面酸化は黒鉛粉末の結晶化を阻害して、放電容量に悪影響を及ぼすことがある。
【0033】
本発明者らは、炭化条件とメソフェーズ粉末の融着との関係を調べた結果、炭化を揮発分の脱離が起こり易い条件で行うと融着も起こり易く、特に揮発分の脱離が著しい炭化の昇温過程を、揮発分の脱離を抑止するような条件に保持すると、融着が防止できることを究明した。
【0034】
メソフェーズ粉末を熱重量分析すると、図1に示すように、約300 ℃までは重量がほぼ一定であり、 300〜700 ℃の温度域で急激な減量が起こる。その後の減量は非常にゆるやかとなり、約1000℃以降は重量が一定となる。即ち、揮発分の大部分は 300〜700 ℃の温度域で脱離し、この時に融着が起こる。この温度域における昇温速度を高めたり、発生したガスを吸引除去すると、揮発分が脱離し易くなるが、そうすると融着が一層ひどくなる。
【0035】
本発明では、逆に、揮発分が脱離しにくくなるように、この温度域の昇温を正圧を保持しながら、好ましくは昇温速度を非常に低くして行う。それにより 300〜700 ℃の温度域では揮発分の脱離があまり起こらず、この温度域を過ぎた後で (即ち、700 ℃より高温で) 揮発分の大半が脱離するようになる。揮発分の脱離がこのような高温で起こると、揮発分が急にガス化するため、融着が起こりにくいのではないかと考えられる。
【0036】
この融着防止のためには、炭化工程における 300〜700 ℃の温度域での昇温時の圧力を1.01〜5atm に保持する必要がある。この圧力は、好ましくは1.05〜2atm であり、さらに好ましくは 1.1〜1.5 atm である。また、この温度域の昇温速度を遅くすることも融着防止に有効であり、この観点から、この温度域の昇温速度を100 ℃/hr以下とすることが好ましい。この昇温速度はより好ましくは60℃/hr以下、さらに好ましくは40℃/hr以下である。
【0037】
この温度域を過ぎた後の炭化条件は特に制限されない。圧力は、その後も同じ圧力でもよく、或いは大気圧にしてもよい。また、昇温速度は、そのままでもよいが、昇温速度が遅いと熱処理時間が長くかかるので、例えば、200 ℃/hr以上、さらには500 ℃/hr以上と著しく増大させてもよい。炭化温度の保持時間は、例えば1〜50時間程度でよい。
【0038】
上記の正圧の保持は、従来より炭化炉として使用されてきた加熱炉 (例、電気炉) で実現することができる。従来の一般的な炭化炉は、ガス入口とガス出口を備え、上部を蓋で閉じた箱型のものである。ガス入口からは窒素などの不活性ガス (または他の非酸化性ガス) を導入して、炭化雰囲気を非酸化性雰囲気に保持する。炭化時に発生したガス (揮発分) は導入された不活性ガスと一緒に、ファン等の適当な排気手段でガス出口から排気される。この場合、ガス入口からの不活性ガスの導入量とガス出口からのガス排気量を制御することにより、炭化炉の内部を正圧に保持することができる。但し、圧力を高くする場合には、例えば、蓋の気密性の改良などが必要になることもある。しかし、1.5 atm 程度までであれば、従来の炭化炉をそのまま使用できよう。
【0039】
炭化中に揮発分が減少する結果、粉末の比表面積が著しく低下する。炭化時に融着が起こると、炭化後または黒鉛化後に粉砕せざるを得ず、比表面積はまた大きく増大するが、本発明では炭化中の融着がほとんど起こらないので、このような粉砕は必要ない。そのため、炭化時に減少した比表面積をそのまま保持することができ、最終的に比表面積が非常に小さい黒鉛粉末を得ることができる。そのため、得られた黒鉛粉末は充放電効率やサイクル寿命が良好となる。
【0040】
黒鉛化は、高周波加熱炉や、炭素の直接通電により高温に抵抗加熱するアチソン型抵抗加熱炉で行われる。炭素材料を2500℃以上に加熱すると、炭素が結晶化して黒鉛になる。黒鉛化温度は高いほど結晶化が促進され望ましいが、あまり温度が高くなりすぎると黒鉛粉末が昇華する。好ましい黒鉛化温度は、2800〜3200℃であり、黒鉛化熱処理時間は 0.1〜10時間である。
【0041】
炭化時や黒鉛化時に粒子が軽く結合することがあるが、軽度の粉砕によって解砕を行うことで、容易にばらばらの粒子にほぐすことができる。このような解砕は、本発明で意味する「実質的な粉砕」には含まれない。ごく一部の粒子は融着することがあるが、分級で除去することができる。このような融着粒子の割合はそれほど多くないので、これを除去しても、炭化歩留りは非常に高い。なお、分級または整粒は、融着粒子のような粗大粒子だけでなく、微粒子の除去や、粒度調整 (整粒) のために行うことができ、その時期は、黒鉛化後も含めて任意の時点で行うことができる。
【0042】
本発明の方法により製造された黒鉛粉末は、易黒鉛化性のメソフェーズ粉末から表面酸化を行わずに得たものであるため、結晶化度が高く、高い放電容量を示すことができる。さらに、炭化前に粉砕をすませて、炭化後には粉砕を行わなくてすむため、炭化時に得られた小さい比表面積を保持でき、比表面積が1.1 m2/g以下と小さい黒鉛粉末を製造することができる。そのため、充放電効率やサイクル寿命が大きく向上する。
【0043】
本発明の方法で製造された黒鉛粉末を用いて、常法に従って電極を作製し、リチウムイオン二次電池に負極として組み込むことができる。一般的な電極の製造方法は、黒鉛粉末を少量の適当な結着剤 (例、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ヘキサフルホロポリプロピレン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等) と一緒に湿式または乾式で成形し、集電体となる電極基板 (例、銅箔などの金属箔) と一体化させる方法である。湿式成形の場合は、スラリーを電極基板上にスクリーン印刷または塗布し、ロール加圧して圧密化する方法が普通である。乾式成形の場合はホットプレス等により別に成形してから電極基板に熱圧着させる方法が採用できる。本発明の方法で製造された粉末と他の黒鉛粉末と併用して電極を製造することもできる。
【0044】
【実施例】
減圧蒸留装置にコールタールを入れ、ニトロ化剤としてコールタールの5wt%の量の濃硝酸を添加し、攪拌しながら80Torrの減圧下で 350℃に1時間加熱して重縮合による高分子量化を図った。得られたピッチ様の原料を、冷却せずに同じ蒸留装置内で攪拌しながら80Torrの減圧下、500 ℃で5時間熱処理してバルクメソフェーズを得た。このバルクメソフェーズを、冷却後に取り出し、ハンマーミルで粉砕し、分級して、200 メッシュアンダーのメソフェーズ粉末を得た。
【0045】
このメソフェーズ粉末を、ガス入口とガス出口を備え、上部を蓋で密閉した箱型の電気炉に入れて炭化した。ガス入口からは窒素ガスを炉内に圧入し、ガス出口からはファンで炉内のガスを排気し、炭化中の炉内の圧力を表1に示す圧力に保持した。昇温を開始し、昇温速度を、室温〜300 ℃までは 200℃/hr、 300〜700 ℃の間は表1に示す速度、 700〜1000℃は 200℃/hrとし、1000℃に5時間保持して、炭化を終了した。
【0046】
得られた炭化材を秤量して炭化歩留り(炭化炉に装入したメソフェーズ粉末に対する炭化材の重量割合)を算出した後、これを 325メッシュの篩で篩分けして、篩上に残った粗粒子を融着物として除去し、篩下の炭化材の割合を分級歩留りとした。上記の炭化歩留りに分級歩留りを乗じて、炭化の総歩留りを算出した。これらの歩留りを表1に示した。融着したものは再度粉砕し、325 メッシュの篩で篩分けした後の篩下の炭化材を、黒鉛化炉 (黒鉛ヒーターを用いた抵抗加熱炉) に移し、アルゴン雰囲気下で10℃/min の速度で3000℃に昇温させ、この温度に1時間保持して黒鉛化し、黒鉛粉末を得た。この黒鉛粉末の比表面積を、N2 置換法によるBET1点測定法で求めた
得られた黒鉛粉末を用いて以下の方法で電極を作製した。黒鉛粉末90重量部とポリフッ化ビニリデン粉末10重量部を溶剤のN−メチルピロリドン中で混合し、ペースト状にした。得られたペースト状の負極材料を、電極基板の厚さ20μmの銅箔上にドクターブレードを用いて均一厚さに塗布し、乾燥させて1ton/cm2 の冷間プレスで圧縮後、真空中120 ℃で乾燥した。ここから切り出した面積1cm2 の試験片を電極 (負極) として使用した。
【0047】
負極特性の評価は、対極、参照極に金属リチウムを用いた3極式定電流充放電試験により行った。電解液にはエチレンカーボネートとジメチルカーボネートの体積比1:1 の混合溶媒に1M濃度でLiClO4を溶解した非水溶液を使用した。この試験用セルを用いて、0.3 mA/cm2の電流密度でLi参照極に対して0.0 V まで充電して負極中にLiを格納させた後、同じ電流密度でLi参照極に対して1.50 Vまで放電 (Liイオンの放出) を行う充放電サイクルを10サイクル行った。初回の充放電での充電に要した電気量に対する放電時の電気量の割合 (%) として充放電効率を算出し、その結果を比表面積と一緒に表1に示す。
【0048】
【表1】
Figure 0004403325
【0049】
表1からわかるように、本発明に従って、メソフェーズ粉末の炭化時の 300〜700 ℃の温度域を不活性ガスにより圧力1.01 atm以上の正圧に保持し、この温度域の昇温速度を100 ℃/hr以下に遅くすると、分級歩留りが85%以上と高く、特に圧力を1.1 atm 以上と高くすると、分級歩留りが95%以上と非常に高くなった。これは、融着により生成する粗粒子の割合が非常に少なく、融着がほとんど起こっていないことを意味している。但し、この効果は、昇温速度が高くなると低下する傾向があり、特に昇温速度が100 ℃/hrを超えると低下傾向が顕著となった。
【0050】
また、本発明に従って正圧で炭化を行うと、分級前の炭化歩留りも増大する。即ち、揮発して失われる分の一部が失われずに炭化されたことがわかる。この炭化歩留りと分級歩留りの両方の増大により、総歩留りは約80%以上、好ましくは90%付近と非常に高くなった。
【0051】
黒鉛化後に得られた黒鉛粉末は、比表面積が0.82 m2/g 以下と小さく、90%以上の高い充放電効率を示した。比表面積は、圧力が1.5 atm を超えるとやや増大する傾向があり、昇温速度を高くしても増大傾向が見られた。
【0052】
炭化をほぼ常圧の1.001 atm で行った比較例では、昇温速度が低いにもかかわらず、分級歩留りが75%と低く、融着した粒子の割合が増大し、また炭化歩留りも悪かった。そのため、総歩留りが低くなった。さらに、融着した粒子を粉砕し、黒鉛化したため、得られた黒鉛粉末は比表面積が3.16 m2/g と高く、充放電効率が80%以下と低かった。
【0053】
【発明の効果】
本発明によれば、安価なタールおよび/またはピッチから得られたメソフェーズ粉末を原料として、結晶化度に悪影響を及ぼすことがあるメソフェーズ粉末の表面酸化処理を行わずに、炭化中の融着を防止することができる。そのため、放電容量に悪影響を及ぼさずに、比表面積が小さく、充放電効率が改善された、リチウムイオン二次電池の負極用黒鉛粉末、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池を安定して高い歩留りで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】バルクメソフェーズ粉末の熱重量分析図の例を示す。

Claims (4)

  1. メソフェーズ粉末を炭化および黒鉛化することからなるリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末の製造方法であって、炭化工程の少なくとも300〜700 ℃の温度域の昇温を非酸化性ガス雰囲気中1.01〜5atm の圧力下で行うと共に、メソフェーズ粉末がバルクメソフェーズの粉砕により得られたものであり、炭化以降に実質的な粉砕を行わない、リチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末の製造方法。
  2. 前記圧力が1.05〜2atm である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末の製造方法。
  3. 炭化工程の少なくとも 300〜700 ℃の温度域の昇温を100 ℃/hr以下の速度で行う請求項1または2記載のリチウムイオン二次電池負極用黒鉛粉末の製造方法。
  4. 黒鉛粉末を含む負極を備え、その黒鉛粉末は、バルクメソフェーズの粉砕により得られたメソフェーズ粉末を炭化および黒鉛化し、炭化工程の少なくとも300〜700 ℃の温度域の昇温を非酸化性ガス雰囲気中1.01〜5atm の圧力下で行うと共に、炭化以降に実質的な粉砕を行わないようにして得られたものである、リチウムイオン二次電池。
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