JP4310359B2 - 疲労特性と伸線性に優れた硬引きばね用鋼線 - Google Patents
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Description
C:0.50〜0.70%(化学成分の場合は質量%を表わす、以下同じ)、
Si:1.0〜2.5%、
Mn:0.5〜1.5%、
Cr:0.5〜1.5%、
Ti:0.005〜0.10%、
B:0.0010〜0.0050%、
N:0.005%以下(0%を含まない)、
P:0.015%以下(0%を含まない)、
S:0.015%以下(0%を含まない)、
Al:0.03%以下(0%を含まない)、
O:0.0015%以下(0%を含まない)
を含み、上記B,Ti,Nの含有量(質量%)が下記式(1)の関係を満たす他、固溶B量が0.0005〜0.0040%で、残部がFeおよび不可避不純物よりなる鋼からなり、鋼線の直径をDとしたとき、表面から深さ方向1/4・D位置におけるフェライト分率が1面積%以下で、且つ前記固溶Bがパーライトノジュールの粒界に濃化しているところに特徴がある。
0.03≦B/(Ti/3.43−N)≦5.0……(1)
V:0.07〜0.4%、
Nb:0.01〜0.1%、
Mo:0.01〜0.5%、
Ni:0.05〜0.8%、
Cu:0.01〜0.7%
よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有させることで、更なる改善を図ることも有効である。
Cは、伸線材の引張強度を高め、疲労特性や耐へたり性を確保するために有用な元素であり、通常のピアノ線では通常0.8%程度以上含まれている。しかし、本発明で目的とする高強度のばね用鋼線においては、Cの含有量が0.70%を超えると欠陥感受性が増大し、表面疵や介在物からの亀裂の進展が容易になるなど、疲労寿命が著しく劣化するので、0.70%をC含量の上限とする。一方、C含量が少な過ぎると、高応力ばねとして必要な引張強度を確保できなくなる他、初析フェライト量が増大して疲労寿命の低下を抑制できなくなるので、少なくとも0.50%以上含有させねばならない。Cの好ましい含有量は、0.55%以上0.68%以下であり、より好ましくは0.60%以上0.65%以下である。
Siは、固溶強化元素として強度向上に寄与し、疲労特性と耐へたり性の改善に貢献する元素である。また、ばね加工工程では、コイリング後の歪み取りのため400℃以上で熱処理(焼鈍)されるが、Siはその際の軟化抵抗を高める作用も有しており、こうした作用を有効に発揮させるには、少なくとも1.0%以上含有させねばならない。しかし、多過ぎると表面脱炭を増進して疲労特性を劣化させるので、多くとも2.5%以下に抑えるべきである。Si含有率の好ましい下限は1.6%、好ましい上限は2.2%である。
Mnは、主相となるパーライトを緻密で整然としたものとし、疲労特性を高めるうえで欠くことのできない元素である。こうした効果は、Mnを0.5%以上含有させることによって有効に発揮されるが、多過ぎると熱間圧延やパテンティング処理の際にベイナイト組織が生成し易くなって伸線加工性を害するので、1.5%を上限とする。Mn含量の好ましい下限は0.70%で、好ましい上限は1.0%である。
Crは、パーライトのラメラ間隔を狭くし、熱間圧延後や伸線前熱処理として行われるパテンティング後の強度を高め、耐へたり性や疲労強度を高めるうえで欠くことのできない元素であり、こうした効果を有効に発揮させるには、0.5%以上含有させる必要がある。しかし、多過ぎるとパーライト変態の終了を遅延させ、その結果としてパテンティングの線速を下げねばならなくなって生産性を害するばかりでなく、セメンタイトが強化され過ぎて靱性や延性も劣化するので、1.5%を上限とする。Cr含量の好ましい下限は0.7%、好ましい上限は1.2%である。
Tiは、BをフリーBとして存在させるため、鋼中に不可避的に存在するNがBと結合しない様にNをTiNとして固定するために添加する。またTiは、微細な炭化物(TiC)を生成してパーライトノジュールを微細化させ、伸線性や靱性の向上にも寄与する。これらの作用を有効に発揮させるため、下限を0.005%と定めた。しかし過度にTiを添加すると、余剰Tiによって過剰量のTiCが生成し、ラメラフェライトの析出強化によって伸線性をかえって劣化させる他、TiN自体も粗大化して介在物起点の疲労折損を誘発する原因になるため、上限を0.10%とした。なおTi量の下限は、後で詳述する如く、式(1)で規定するBおよびNの含有量も考慮して決めるべきである。Ti量の好ましい下限は0.01%である。
Bは、鋼線の表層部におけるフェライトの生成を抑制するために添加する重要な元素である。一般的にBは、亜共析鋼において旧オーステナイト結晶粒界に偏析して粒界エネルギーを下げフェライト生成速度を低下させるので、初析フェライトの低減に有効に作用する。一般に共析鋼や過共析鋼では、Bはフェライト抑制効果がなくなると考えられているが、本発明の如くたとえ共析や過共析の成分系であっても、脱炭により表層のC含量が低下すると推定される鋼種では、表層部の初析フェライト抑制元素として有効に作用するものと思われる。
上式(1)の(Ti/3.43−N)は、NがTiによって全て固定されたとした場合の余剰Ti量を示しており、B/(Ti/3.43−N)の値が0.03未満では、B含量に対して余剰のTi量が多過ぎるため、TiCの析出によって伸線性の劣化を引き起こす。一方、B/(Ti/3.43−N)の値が5.0を超えると、B含量に対して余剰のTiが少な過ぎるためNの固定が不十分となってフリーB量が過少となり、満足のいくフェライトの析出抑制作用が得られなくなる。この様な理由から、B/(Ti/3.43−N)の下限値は0.03、上限値は5.0と定めた。好ましい下限値は0.10、より好ましくは0.20であり、好ましい上限値は4.0、より好ましくは2.5である。
本発明では、前述した如く適量のTiを含有させることで、不可避的に混入するNを固定し、固溶Bを確保することとしているが、Ti添加量を少なくするには、Nは少ないほど好ましい。しかし過度に脱窒を進めることは製鋼コストを高める原因になるので、実操業性を考慮してN量の許容限を0.005%と定めた。好ましくは0.0035%以下、より好ましくは0.002%以下に抑えるのがよい。
Pは旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させ、伸線性を低下させるため、できるだけ低い方がよいが、実操業での脱りん効率を考慮して、0.015%程度を許容限界とする。
Sも旧オーステナイト粒界に偏析して粒界を脆化させ、伸線性を低下させるため、できるだけ少ない方がよく、実操業での脱硫効率を考慮して同じく0.015%を上限とする。
Alは製鋼時に添加する脱酸剤として含まれてくるが、多過ぎると粗大な非金属介在物となって疲労強度を劣化させるので、0.03%以下に抑制すべきであり、好ましくは0.005%以下に抑えるのがよい。
Oは、多過ぎると粗大な非金属介在物の生成源となって疲労強度を劣化させるので、多くとも0.0015%以下に抑えるべきであり、好ましくは0.0010%以下に抑えるのがよい。
Vは、パーライトノジュールサイズを微細化して伸線加工性を高め、更には、ばねの靱性や耐へたり性の向上にも寄与する有用な元素である。こうした効果を有効に発揮させるには、0.07%以上含有することが好ましい。しかし過剰に含有させると、焼入れ性が増大して熱間圧延後にマルテンサイト組織やベイナイト組織が生成して後工程が困難になり、またパテンティング処理時の線速も下げねばならなくなって生産性を低下させ、更には、V炭化物を生成し、ラメラセメンタイトとして使用されるべきCを減少させることで却って強度を下げたり、初析フェライトを過剰に生成させたり、或はフェライト脱炭を誘発させる等の障害を招くので、多くとも0.4%以下に抑えることが好ましい。V含量のより好ましい下限は0.1%、より好ましい上限は0.2%である。
Nbは、パーライトノジュールを微細化して伸線加工性やばね靱性、および耐へたり性を向上させる有用な元素であり、これらの効果を有効に発揮させるには、少なくとも0.01%以上含有することが好ましい。しかし、過度に含有させると炭化物を過剰に生成し、ラメラセメンタイトとして使用されるべきC量を減少させて強度を低下させ、或は初析フェライトを過剰に生成させる原因になるので、0.1%を上限とすることが好ましい。Nb含量のより好ましい下限は0.02%、より好ましい上限は0.05%である。
Moは、焼入れ性を高めると共に、軟化抵抗を高めて耐へたり性を向上させるうえで有用な元素であり、こうした効果は、好ましくは、0.01%以上含有させることによって有効に発揮される。しかし、多過ぎるとパテンティング時間が過度に長くなる他、伸線性も劣化するので、0.5%を上限とすることが好ましい。
Niは、セメンタイトの延性を向上させて伸線性を高める作用を有する他、鋼線自体の伸線性向上にも寄与する。また、熱間圧延時やパテンティング処理時における表層部の脱炭を抑制する作用も有しており、それらの効果を有効に発揮させるには、少なくとも0.05%以上含有することが好ましい。しかし、多過ぎると焼入れ性が高まり、熱間圧延後にマルテンサイト組織やベイナイト組織が生成して後加工が困難になる他、パテンティング処理時の線速を落とさなければならなくなって製造コストを高める原因になるので、0.8%を上限とすることが好ましい。Ni含量のより好ましい下限は0.15%、さらに好ましい下限は0.2%、より好ましい上限は0.7%である。
Cuは、電気化学的にFeよりも貴な元素であり、耐食性を高めると共にメカニカルデスケーリング時のスケール剥離性を改善し、ダイス焼付きなどのトラブルを防止するのに有効な元素である。また、熱間圧延時のフェライト脱炭を抑制し、表層部の初析フェライト分率を低下させる作用も有している。これらの作用を有効に発揮させるには、Cuを少なくとも0.01%以上含有することが好ましい。しかし、多過ぎると熱間圧延割れを生じる恐れが生じてくるので、0.7%を上限とすることが好ましい。Cuのより好ましい下限は0.2%、より好ましい上限は0.5%である。
-13.1d3+160d2−671d+2800≦TS≦-13.1d3+160d2−671d+3200…(2)
[式中、dはばね用鋼線の直径(mm)で、1.0≦d≦10.0]
表1に示す化学成分の鋼(鋼種A〜K)を小型真空炉で溶製して鋳造した後、表2に示す冷却速度で冷却してから熱間鍛造を行い、155mm角の棒材を得た、次いで、表2に示す圧延条件で熱間圧延を行い、直径9.0mmの鋼線材を得た後、皮削りを行って直径を8.4mmに調整し、その後、表2に示す条件でパテンティング処理した後、表2に示す線径まで伸線加工を行って伸線材(鋼線)を得た。
上記のようにして得られた伸線材を直線に矯正したものを引張試験に供し、引張強度を求めた。
トータルB量(鋼中B量)は、JIS K0116で規定するICP発光分析法(装置としては島津製作所製の商品名「ICPV−1017」)によって求めた。
伸線材から電解抽出した残渣についてクルクミン吸光光度法(JIS G1227−1980)を用いてB量(析出B量)を求めた。電解抽出条件は、10%アセチルアセトン−1%テトラメチルアンモニウムクロリド−メタノール溶液を電解液として使用し、200A/m2以下の電流で抽出し、析出Bの濾取には網目幅が0.1μmのフィルターを用いた。
パーライトノジュール結晶粒界に濃化して存在する固溶B量(偏析B量)は、下記のEPMAライン定量分析法によって行った。
EPMA測定装置:日本電子社製の商品名「JXA−8900 RL」を使用
供試材:伸線材を樹脂に埋め込み、伸線方向に垂直な断面を研磨剤で鏡面仕上げした後、電導性を保持するためオスミウムを蒸着した。
加速電圧:15kV
照射電流:0.3μA
定量分析:本実施例では、B量が0.01%以上と濃化しているものを「ピーク値」とみなし、「ピーク値」を300点測定し、それらの平均値を「偏析B量」として算出した。
フェライト分率は、伸線後の鋼線の横断面をバフ研磨し、ナイタール腐食液によりエッチングした後、日本電子社製の商品名「JXA−8900 RL」を用いて表層部のフェライト組織をSEM組織写真撮影し、該写真画像から、Adobe社製ソフトのフォトショップでフェライト部を塗り潰した部分の面積率によって求めた。
上記伸線工程で、伸線加工中に断線しないことは勿論のこと、捻り試験で捻り回数が25回以上であったものを「伸線性に優れる」(合格)と評価した。
ばね特性試験:
各供試鋼線を用いて常温でばね成形し、歪取り焼鈍(400℃×20min)、座面研磨、二段ショットピーニング(直径0.6mmのラウンドカットワイヤHRc60によりカバーレッジ95%以上、投射速度80m/sで15分間ショットを行った後、直径0.1mmのラウンドカットワイヤHRc65によりカバーレッジ100%以上、投射速度200m/sで20分間ショット)、低温焼鈍(230℃×20min)および温間セッチング(200℃、τmax=1200MPa相当)を行う。得られた各ばねに588±441MPaのせん断応力を負荷し、ばね50本の1,000万回までの折損率によって判定し、疲労折損率が0であれば「○(疲労特性に優れる)」とし、それ以外の場合を「×」と評価した。
Claims (4)
- C:0.50〜0.70%(化学成分の場合は質量%を表わす、以下同じ)、
Si:1.0〜2.5%、
Mn:0.5〜1.5%、
Cr:0.5〜1.5%、
Ti:0.005〜0.10%、
B:0.0010〜0.0050%、
N:0.005%以下(0%を含まない)、
P:0.015%以下(0%を含まない)、
S:0.015%以下(0%を含まない)、
Al:0.03%以下(0%を含まない)、
O:0.0015%以下(0%を含まない)
を含み、上記B,Ti,Nの含有量(質量%)が下記式(1)の関係を満たす他、固溶B量が0.0005〜0.0040%で、残部がFeおよび不可避不純物よりなる鋼からなり、
鋼線の直径をDとしたとき、表面から深さ方向1/4・D位置におけるフェライト分率が1面積%以下で、且つ、
伸線方向に垂直な断面のEPMA測定用供試材を用意し、EPMAライン定量分析にてB量が0.01%以上のピーク点を300点測定したとき、それらの平均値(偏析B量)が0.05%以上であることを特徴とする疲労特性と伸線性に優れた硬引きばね用鋼線。
0.03≦B/(Ti/3.43−N)≦5.0……(1) - 前記偏析B量が、鋼線の平均固溶B量の50倍以上である請求項1に記載の硬引きばね用鋼線。
- 前記鋼が、更に他の元素として、
V:0.07〜0.4%、
Nb:0.01〜0.1%、
Mo:0.01〜0.5%、
Ni:0.05〜0.8%、
Cu:0.01〜0.7%
よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むものである請求項1または2に記載の硬引きばね用鋼線。 - 前記請求項1〜3のいずれかに記載の硬引きばね用鋼線を用いて製造されたものである疲労特性に優れた硬引きばね。
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