JP3940264B2 - 硬引きばね用鋼線材、硬引きばね用伸線材および硬引きばね並びに硬引きばねの製造方法 - Google Patents

硬引きばね用鋼線材、硬引きばね用伸線材および硬引きばね並びに硬引きばねの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車エンジンの弁ばね、クラッチばねおよびブレーキばね等の素材として有用な硬引きばね用鋼線材、およびこのばね用鋼線材を使用した硬引きばね用伸線材やばね、並びにこうした硬引きばねを製造する為の有用な方法等に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の軽量化や高出力化に伴い、弁ばね、クラッチばね、ブレーキばね等においても高応力化が指向され、疲労強度および耐へたり性に優れたばねが要求されている。特に、弁ばねの高応力化に対する要求が強い傾向にあるのが実状である。
【0003】
近年、弁ばねの大部分は、オイルテンパー線と呼ばれる焼入れ・焼戻しの施された鋼線を、常温でばね巻き加工して製造されているのが一般的である。こうしたばねの製造方法として、例えばJIS規格では一般のオイルテンパー線(JIS G3560)とは別に、弁ばね用オイルテンパー線(JIS G3561)を規定しており、鋼種、不純物レベル、きず深さ等をより厳しく管理する様に要求されている。
【0004】
上記の様なオイルテンパー線では、焼戻しマルテンサイト組織であるので、高強度を得るのに都合が良く、また疲労強度や耐へたり性に優れるという利点があるものの、焼入れ・焼戻し等の熱処理に大掛かりな設備と処理コストを要するという欠点がある。
【0005】
一方、負荷応力が比較的低い設計された一部の弁ばねには、フェライト・パーライト組織またはパーライト組織の炭素鋼を伸線加工して強度を高めた線材(「硬引き線」と呼ばれている)を、常温でばね巻き加工したものが使用されている。こうしたばねとして、JIS規格にはピアノ線(JIS G3522)の中で、特に「弁ばねまたはこれに準ずるばね用」として、「ピアノ線V種」を定めている。
【0006】
上記の様な硬引き線によって製造されるばね(以下では、このばねを「硬引きばね」と呼ぶ)は、熱処理を必要としないので低コストになるという利点がある。しかしながら、フェライト・パーライト組織またはパーライト組織を伸線した線材では、疲労特性や耐へたり性が低いという欠点があり、こうした線材を素材として用いても、近年要望の高まっている様な高応力ばねは実現できない。
【0007】
低コストに製造できるという利点のある硬引きばねにおいて、より高応力化を図る技術も様々検討されており、こうした技術として例えば特開平11−199981号には、オーステンパー線と同等の特性を備えたピアノ線として、共析〜過共析鋼パーライトの伸線加工方法を工夫することによって、特定のセメンタイト形状を得る方法が提案されている。しかしながらこうした方法においても、伸線方向を入れ替えるなど、工程の複雑化による製造コストの上昇は避けられない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこうした状況の下になされたものであって、その目的は、オイルテンパー線を用いたばねと同等以上の疲労強度、耐へたり性を発揮する硬引きばねを製造する為のばね用鋼線材、ばね用伸線材、およびこの様な硬引きばね、並びにこうした硬引きばねを低コストで製造する為の有用な方法等を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成し得た本発明の硬引きばね用鋼線材とは、C:0.5〜0.7質量%未満、Si:1.6〜3質量%、Mn:0.5〜1.5質量%、Ni:0.05〜0.5質量%、Cr:0.05〜1.5質量%およびV:0.05〜0.25質量%を夫々含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなると共に、パーライト組織の面積率Rpが下記(1)式を満足するものである点に要旨を有するものである。
Rp(面積%)≧55×[C]+61…(1)
但し、[C]はCの含有量(質量%)を示す。
【0010】
また、上記目的を達成し得た本発明の硬引きばね用伸線材とは、C:0.5〜0.7質量%未満、Si:1.6〜3質量%、Mn:0.5〜1.5質量%、Ni:0.05〜0.5質量%、Cr:0.05〜1.5質量%およびV:0.05〜0.25質量%を夫々含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなると共に、パーライト組織の面積率Rpが下記(1)式を満足し、且つ線材の引張強さTSが下記(2)式を満足するものである点に要旨を有するものである。
Rp(面積%)≧55×[C]+61…(1)
但し、[C]はCの含有量(質量%)を示す。
−13.1d3+160d2−671d+3200≧TS≧−13.1d3+160d2−671d+2800…(2)
但し、d:線材の直径(mm)[1.0≦d≦10.0]
【0011】
上記の様なばね用鋼線材またはばね用伸線材を用いることによって、高応力を発揮する硬引きばねが得られる。また、この硬引きばねにおいては、ばね内側における表層残留応力が圧縮から引張りに転ずる深さが0.05mm以上のものであることが好ましく、より好ましくはこのこの深さが0.15mm以上のものである。更に、この硬引きばねには、その表面に窒化処理を施すことも有効である。
【0012】
上記の様な硬引きばねを製造するに当たり、ショットピーニング後に、室温以上の温度で、下記(3)式を満足する応力τ(MPa)を少なくとも1回付与する様にすれば良い。また、この製造方法においては、応力τを付与するときの温度は120℃以上であることが好ましい。
τ≧線材の引張強さTS(MPa)×0.5…(3)
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、上記目的を達成することのできる硬引きばね用鋼の実現を目指して様々な角度から検討した。その結果、鋼線材の化学成分組成を厳密に規定すると共に、線材中のパーライト組織面積率を含有炭素量との関係で適切な範囲[前記(1)式で規定する範囲]に制御した鋼線材では、オイルテンパー線を用いたばねと同等以上の疲労強度、耐へたり性を発揮する硬引きばね得られることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
本発明のばね用鋼線材では、化学成分組成を適切に調製する必要があるが、その範囲限定理由は下記の通りである。
【0015】
C:0.5〜0.7質量%未満
Cは、伸線材の引張強度を高め、疲労特性や耐へたり性を確保するために有用なな元素であり、通常のピアノ線では0.8質量%前後含有されているが、本発明で目的としている様な高強度の伸線材においては、Cの含有量が0.7質量%以上になると欠陥感受性を増大させ、表面疵や介在物からの亀裂を発生して疲労寿命が劣化することが分かったので、0.7質量%未満に限定した。但し、C含有量が0.5質量%未満になると、高応力ばねとして必要な引張強さが確保できないばかりか、疲労亀裂発生を助長する初析フェライトの量が多くなって疲労特性を劣化させるので、C含有量の下限は0.5質量%とする必要がある。
【0016】
Si:1.6〜2.5質量%
Siは、固溶強化によって伸線材の引張強さを高め、疲労特性と耐へたり性の改善に貢献する元素である。C含有量を低めにした分だけSiを高めに含有させる必要があり、こうした観点からその下限は1.6質量%とした。しかしながら、Siの含有量が2.5質量%を超えて過剰になると、表面の脱酸や疵等が増加して耐疲労性が悪くなる。尚、Si含有量の好ましい下限は1.7質量%程度であり、好ましい上限は2.2質量%程度である。
【0017】
Mn:0.5〜1.5質量%
Mnは、パーライト組織を緻密且つ整然化させ、疲労特性の改善に貢献する元素である。こうした効果を発揮させる為には、Mnは少なくとも0.5質量%含有させる必要があるが、過剰に含有させると熱間圧延時やパテンティング処理時にベイナイト組織が生成し易くなり、疲労特性を劣化させるので、1.5質量%以下とすべきである。尚、Mn含有量のより好ましい下限は0.7質量%程度であり、より好ましい上限は1.0質量%程度である。
【0018】
Ni:0.05〜0.5質量%
Niは、切り欠き感受性を低めると共に靭性を高め、ばね巻き加工時の折損トラブルを抑制すると共に、疲労寿命を向上させるのに有効な元素である。こうした効果を発揮させる為には、0.05質量%以上含有させる必要がある。しかしながら、Niを過剰に含有させると、熱間圧延時やパテンティング処理時にベイナイト組織が生成し易くなり、逆効果となるので、0.5質量%以下とする必要がある。尚、Ni含有量の好ましい下限は、0.15質量%であり、好ましい上限は0.30質量%である。
【0019】
Cr:0.05〜1.5質量%
Crは、パーライトラメラ間隔を小さくして、圧延後、または熱処理後の強度を上昇させ、耐へたり性を向上させるのに有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Cr含有量は0.05質量%以上とする必要がある。しかしながら、Cr含有量が過剰になると、パテンティング時間が長くなり過ぎ、また靭性や延性が劣化するので、1.5質量%以下とする必要がある。
【0020】
V:0.05〜0.25質量%
Vは、パーライトノジュールサイズを微細にして伸線加工性、ばねの靭性および耐へたり性等を改善するのに有用な元素である。こうした効果を発揮させる為には、Vは0.05質量%以上含有させる必要があり、好ましくは0.10質量%以上含有させるのが良い。しかしながら、0.25質量%を超えて過剰に含有させても、熱間圧延時やパテンティング処理時にベイナイト組織が生成し易くなり、疲労寿命を劣化させることになる。
【0021】
本発明のばね用鋼線材における基本的な化学成分組成は上記の通りであり、残部は実質的にFeからなるものであるが、上記の各種成分以外にもばね用鋼の特性を阻害しない程度の微量成分を含み得るものであり、こうした鋼線材も本発明の範囲に含まれものである。上記微量成分としては不純物、特にP,S,As,Sb,Sn等の不可避不純物が挙げられる。
【0022】
本発明のばね用鋼線材においては、線材中のパーライト組織面積率を含有炭素量との関係で適切な範囲[前記(1)式で規定する範囲]に制御する必要があるが、この理由は下記の通りである。本発明に用いられる鋼材のC含有量は、前述の如く、0.5〜0.7質量%未満と共析成分よりも低くしなければならないのであるが、この様な鋼材から線材を通常の方法で製造すると初析フェライト組織が生成し、この初析フェライト組織は疲労破壊の起点となてって疲労寿命を劣化させることになる。こうした不都合を回避する為には、初析フェライトをできるだけ少なくし、パーライト組織分率を高くすることが必要になる。
【0023】
図1は、鋼中の炭素含有量とパーライト面積率の関係を示したものである。一般的な炭素鋼では、パーライト面積率が比較的低い組織であるが、本発明の鋼線材では、上記した観点からパーライト面積率が炭素含有量との関係からして比較的高い組織となっているのである。
【0024】
上記(1)式を満足する様な組織を得る為には、熱間圧延時またはパテンティング処理時にAe3変態点(オーステナイトとフェライトが平衡に共存できる上限温度)より高い温度から、Ae1変態点(フェライトとセメンタイトが共存できる上限温度)以下の温度にできるだけ急速に冷却することが有効である。具体的には、熱間圧延の場合にはコンベア上の冷却条件を上記温度領域において、冷却速度を5℃/s以上、好ましくは10℃/s以上に管理することが有効である。但し、必要以上に冷却を続行することは、精細なパーライト組織が得られなくなり、ベイナイトの様な過冷組織が混入して靭性を劣化させるので、冷却条件をコンベアの位置ごとに管理し、線材の温度が約550℃以下の領域までは冷却を緩めることが推奨される。
【0025】
パテンティング処理においては、Ae3変態点からAe1変態点までの冷却が比較的速くなるが、恒温保持に利用する媒体としては熱伝導率の高いものを選定することが望ましい。具体的には、例えば流動槽よりも、鉛浴や塩浴を利用することが望ましい。更に冷却を速める為には、オーステナイト化加熱炉から恒温保持炉へ入る間のにプロセスに冷却工程を介在させ、この冷却工程によって強制冷却することが好ましい。また冷却速度を大きくする為には、線材の送給速度をできるだけ大きくすることも有効である。尚、パーライト面積率Rpについては、伸線加工やその後のばね巻き加工によっても大きく変化することがないので、面積率の測定は伸線加工後の線材やばね製品において実施しても良い。
【0026】
上記の様なばね用鋼線材を用いて伸線加工およびばね巻き加工を施すことによって、希望する特性を発揮するばねが得られるのであるが、こうした効果をより有効に発揮させるためには、伸線加工線材が上記(2)式の関係を満足することが有効である。
【0027】
上記(2)式に関連して、JIS−SWP−Vについては、引張強さが線材の直径に応じて規定されているが、一般ばね用のSWP−B等よりも低いTSに設定されている。その理由は、引張強さを高くし過ぎると欠陥感受性の増加や靭・延性の低下等を招き、伸線中の断線、ばね加工中の折損、疲労破壊、脆性破壊等の問題が生じる可能性があるからと考えられる。
【0028】
これに対して本発明では、欠陥感受性を下げて、靭・延性を高めることによって、上記(2)式右辺の値以上のTS領域でのばねの製造と使用に適したものとしたのである。但し、この引張強さTSを高くし過ぎると、欠陥感受性や靭・延性の低下による悪影響が防ぎきれないので、その上限を上記(2)の左辺の値までとした。こうした要件を満足する伸線材は、従来の伸線設備によって伸線することによっても可能であるが、特に高強度な線材を塑性加工することになるので、断線を起こさない様にその条件を適切に考慮することが望まれる。こうした観点から、(1)伸線前処理としてリン酸塩被膜を施した上で潤滑剤には金属石鹸を用いること、(2)伸線ダイス個々の減面率は15〜25%の範囲とすること(但し、残留応力制御の為に最終ダイスのみ減面率を下げても良い)、(3)伸線中の温度上昇を防ぐ為に伸線速度を上げ過ぎない様にする、等に留意すべきである。
【0029】
本発明に係るばねにおいては、ばね内側における表層残留応力が圧縮から引張りに転ずる深さが0.05mm以上であることが好ましく、より好ましくはこのこの深さが0.15mm以上のものである。通常、弁ばねやそれに準ずる高応力ばねには、ショットピーニングによって表層に圧縮残留応力が付与された状態で使用されるのであるが、表層(ばね内側部分の表層)から深さ方法圧縮残留応力を順次測定していくと、或る深さから引張強さに転ずる。そして、この深さ(以下、「クロシングポイント」と呼ぶ)は、ショットピーニング条件、材料の硬さ、ショットピーニング前の母材の残留応力分布等に依存する。通常の硬引き線の表層には、伸線加工による引張残留応力が生じているので、ショットピーニング後の残留応力のクロシングポイントは、オイルテンパー線などに比べて小さくなる傾向がある。これに対し本発明の線材では、一般に硬引きばねよりも高応力での使用を想定したものであることから、オイルテンパー線製ばねにおいてなされる条件よりも強くショットピーニングを施し、クロシングポイントを意図的に0.05mm以上、より好ましくは0.15mm以上となる様に管理することが望ましい。
【0030】
尚、クロシングポイントが上記の範囲となる様にする為には、伸線加工の引張残留応力を低減する為に、(a)伸線時の最終ダイスの減面率を10%以下、好ましくは3〜6%程度とすること、(b)ばね巻き加工の歪取焼鈍温度を360℃以上に高めること、(c)ショットピーニング工程において平均直径0.6mm以上、好ましくは0.8mm以上のショット粒による投射を少なくとも1度行なうこと、等が有効である。
【0031】
本発明のばねには、特に過酷な応力条件で使用されることが予想される場合には、その表面に窒化処理を施すことも有効である。こうした窒化処理を施すことによって、疲労強度を更に改善することができる。こうした窒化処理に関しては、オイルテンパー線の弁ばねについては従来からその処理が行なわれているが、硬引きばねについては、全く行われていなかった。これは、硬引きばねでは、それほど過酷な条件で使用されたことがなかったことや、通常の硬引き線の化学成分では窒化処理を施しても効果があまり期待できないと考えられていたこと等が原因である。
【0032】
これに対して、本発明で規定する化学成分組成を有する線材を硬引きした後、窒化処理を施すと、疲労寿命が改善されることになる。こうした効果が発揮される理由は、次の様に考えることができた。即ち、本発明のばねはC含有量が低いものであるので、パーライト組織を構成するセメンタイト相に対してフェライト相の体積が高くなっており、且つフェライトをSi,V,Cr等の合金元素で強化することによって線材の強度がフェライト自身の強度に依存する状態になっているので、窒化によってフェライトの強度を高めることが疲労強度の直接的な改善に繋がるものと考えられる。尚、本発明者らが確認したところによれば、窒化処理を施すことによる効果は、特に表層10μm位置で硬さをHV600以上(好ましくはHV700以上)となる様に処理したときに大きいことが判明した。
【0033】
一方、本発明のばねを製造するに当たっては、ショットピーニング後に、室温好ましくは120℃以上の温度で、前記(3)式を満足する応力τを少なくとも1回付与することが有効である。一般に硬引きばねは、オイルテンパー線製ばねに比べて耐へたり性が低い。本発明では鋼材成分や線材引張強さの上昇によって耐へたり性の改善を図るものであるが、その使用目的や使用条件によっては更に高い耐へたり性が要求される場合がある。こうした場合には、室温(好ましくは120℃以上の温度)で、前記応力τを少なくとも1回付与することが有効である。これによって、伸線加工で導入された転位を固着し、塑性変形に対する抵抗を高めることができると考えられる。尚、上記(3)式における線材の引張強さTSとは、伸線加工材のときに測定される値である。
【0034】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0035】
【実施例】
下記表1に示す化学成分組成の鋼(A〜G)を溶製し、熱間圧延して直径:9.0mmの鋼線材を作製した。その後、鋼D以外に軟化焼鈍を施し、更に全ての鋼種において皮削り、パテンティング処理および伸線処理を行なって各線径とした。このとき、パテンティング処理は、オーステナイト化加熱温度を940℃とし、線速を8.0m/minと比較的速めると共に、No.1〜8,10,13については、パーライト面積率を高める為に620℃の鉛炉との間で強制的に高圧エアーを吹き付け急冷後に鉛炉に入る様にした。伸線はダイス枚数8枚の連続伸線機を使用し、最終ダイス以外の各ダイスの減面率を15〜25%、最終ダイスを5%と設定し、最終ダイスの伸線速度を200m/minにて実施した。また、伸線に伴う線材の温度上昇を防ぐ為に、線材を直接水冷しながら冷却する冷却伸線を実施した。
【0036】
伸線材を常温にてばね成形し、歪み取り焼鈍(400℃×20分)、座研磨、二段ショットピーニング、低温焼鈍(230℃×20分)およびセッチング(τmax=1200MPa相当)を行なった。No.4〜8のサンプルにおいては、セッチングを低温焼鈍の余熱を利用して180℃程度の温度で実施した。また、No.5,6のものについては、460℃にて5時間の窒化処理も施した。パーライト面積率は、パテンティング後の鋼線の断面積における光学顕微鏡写真(400倍×10視野)を、コンピュータで画像解析して評価した。
【0037】
【表1】
Figure 0003940264
【0038】
得られた各ばねに637±588MPaの負荷応力下で疲労試験を行ない、破断寿命を測定した。また、120℃、882MPaの応力下で、48時間締め付けた後、残留せん断歪を測定し、耐へたり性の指標(残留せん断歪が小さいほど耐へたり性は良好)とした。これらの結果を、各製造条件、線材の引張強さTS、クロシングポイント、10μm位置(深さ)の硬さ等と共に下記表2に示す。
【0039】
尚、10μm位置での硬さは試料を既知の角度傾斜させて樹脂に埋め込み、研磨したサンプル上でビッカース硬さ(荷重300g)を測定し、垂直方向に換算するいわゆる「コード法」によった。また、残留応力については、X線回折法によった。深さ方向のプロファイルについては、化学研磨にて表層を除去し、X線回折測定を行なうことによって評価した。
【0040】
【表2】
Figure 0003940264
【0041】
これらの結果から、次の様に考察できる。まず、No.1のものは、前記(1)式を満足するものであるが、伸線時の減面率が低いために硬引き線のTSが前記(2)式の低い方に外れたものとなっている。この結果、耐へたり性の点では他よりも劣る結果となったが、疲労寿命については他の実施例に匹敵する長寿命を示してした。
【0042】
No.2〜8のものは、前記(1)式および(2)式のいずれをも満足するものであり、疲労寿命および耐へたり性のいずれも優れたものとなっている。このうち、No.2のものでは、No.3と同じ鋼線を用いているが、ショットピーニング条件を変化(一段目のショット粒を小さくしたもの)させたもので、クロシングポイントが浅くなっている。これによって、No.2の疲労寿命はNo.3のものに比べて劣っているが、耐へたり性は同等レベルである。
【0043】
No.4のものは、No.3に対して120℃以上での応力付与を実施したものであり、耐へたり性は向上しているが疲労寿命は同レベルである。No.5のものは、No.4に対して窒化処理を施したものであり、耐へたり性は同等であるが疲労寿命が向上している。No.6のものは、素材や処理内容はNo.5と同等であるが、伸線加工度と線材直径が異なるものであり、2113MPaの高い引張強さが得られており、疲労寿命も向上している。No.7は、C含有量が比較的低い鋼種を用いたものであり、またNo.8は逆に高い鋼種を用いたものであるが、いずれも良好な耐へたり性と疲労特性を示している。
【0044】
これに対して、No.9〜13のものは、本発明で規定する要件のいずれかを欠く比較例であり、いずれかの特性が劣化していることが分かる。No.9のものでは、化学成分組成はNo.1〜6のものと同じものであるが、パテンティング処理時にガス冷却を行なわなかった為に、初析フェライトが生じてパーライト面積率が本発明で規定する範囲よりも低くなったものである。こうしたことから、引張強さTSについてはNo.7と同程度の値が得られているにも関わらず、疲労寿命が著しく低くなっている。
【0045】
No.10のものは、JIS−SWRS92B相当鋼であり、耐へたり性、疲労寿命ともに実施例のものよりも劣っている。疲労寿命が劣るのは、C含有量が高くなって欠陥感受性が高くなり、疲労起点が早期に形成されたからと考えられる。また、耐へたり性が劣るのは、Si,Cr,V等の含有量が少なかったことによるものと考えられる。
【0046】
No.11のものでは、Si含有量が高く、CrやVも含有しているが、C含有量が高くなった鋼種を用いたものであり、耐へたり性は良好であるが、疲労寿命が劣っている。
【0047】
No.12のものは、No.11のものよりSi含有量がやや少ないものであり、耐へたり性が低くなっている。またNo.13のものは、C含有量は本発明で規定する範囲内にあるが、Si含有量がやや少なくなっており、疲労特性はNo.10〜12よりやや良いが、実施例ほどの性能が得られておらず、また耐へたり性が非常に劣っている。
【0048】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、オイルテンパー線を用いたばねと同等以上の疲労強度、耐へたり性を発揮する硬引きばねを製造する為のばね用鋼線材、ばね用伸線材、およびこの様な硬引きばね、並びにこうした硬引きばねを低コストで製造する為の有用な方法が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼中の炭素含有量とパーライト面積率の関係を示したグラフである。

Claims (8)

  1. C:0.5〜0.7質量%未満、Si:1.6〜2.5質量%、Mn:0.5〜1.5質量%、Ni:0.05〜0.5質量%、Cr:0.05〜1.5質量%およびV:0.05〜0.25質量%を夫々含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなると共に、パーライト組織の面積率Rpが下記(1)式を満足するものであることを特徴とする硬引きばね用鋼線材。
    Rp(面積%)≧55×[C]+61…(1)
    但し、[C]はCの含有量(質量%)を示す。
  2. C:0.5〜0.7質量%未満、Si:1.6〜3質量%、Mn:0.5〜1.5質量%、Ni:0.05〜0.5質量%、Cr:0.05〜1.5質量%およびV:0.05〜0.25質量%を夫々含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなると共に、パーライト組織の面積率Rpが下記(1)式を満足し、且つ線材の引張強さTSが下記(2)式を満足するものであることを特徴とする硬引きばね用伸線材。
    Rp(面積%)≧55×[C]+61…(1)
    但し、[C]はCの含有量(質量%)を示す。
    −13.1d3+160d2−671d+3200≧TS≧−13.1d3+160d2−671d+2800…(2)
    但し、d:線材の直径(mm)[1.0≦d≦10.0]
  3. 請求項1または2に記載のばね用鋼線材またはばね用伸線材を用いて製造されたものである硬引きばね。
  4. ばね内側における表層残留応力が圧縮から引張りに転ずる深さが0.05mm以上のものである請求項3に記載の硬引きばね。
  5. ばね内側における表層残留応力が圧縮から引張りに転ずる深さが0.15mm以上のものである請求項4に記載の硬引きばね。
  6. 表面に窒化処理が施されたものである請求項3〜5のいずれかに記載の硬引きばね。
  7. 請求項3〜5のいずれかに記載の硬引きばねを製造するに当たり、ショットピーニング後に、室温以上の温度で、下記(3)式を満足する応力τ(MPa)を少なくとも1回付与することを特徴とする硬引きばねの製造方法。
    τ≧線材の引張強さTS(MPa)×0.5…(3)
  8. 前記応力τを付与するときの温度が120℃以上である請求項7に記載の製造方法。
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