JP4281990B2 - フェライト材料 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、100℃近傍の温度域における飽和磁束密度、透磁率が高く、かつ低損失なフェライト材料、およびこれを用いたトランス、リアクタ等の電子部品に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子機器の小型化、高出力化が進んでいる。それに伴い各種部品の高集積化、高速処理化が進み、電力を供給する電源ラインの大電流化が要求されている。また、CPUをはじめとする部品などからの発熱、あるいは自動車用電子回路のように使用環境温度の高い条件下など、高温域においても所定の性能を保つ電源ラインが要求されている。したがって、電源ラインに用いられるトランスやリアクタにも、高温下において大電流で使用されることが求められる。
これらトランスやリアクタに使用される材料としては、軟磁性金属材料とフェライト材料があり、さらにフェライト材料はMnZn系フェライトとNi系フェライトに分類される。
軟磁性金属材料はフェライトに比べて飽和磁束密度が高いため、より大きな電流を流しても磁気飽和を起さない。しかしながら、軟磁性金属材料は、一般的に損失が高い、値段が高い、比重が高い、防錆性に劣るといった問題がある。
一方、フェライトはコストパフォーマンスに優れ、数10kHzから数100kHzの周波数帯域において損失が低いという利点がある。また、Ni系フェライトより飽和磁束密度が高いMnZn系フェライトが一般的に大電流用のトランスおよびチョークコイルに使用されている。しかしながら、近年の仕様要求の高度化に対しては、MnZn系フェライトであっても100℃近傍の高温域(以下、単に高温域という)で飽和磁束密度が不十分であった。
【0003】
そこで、高温域における飽和磁束密度を向上するための検討が種々行われている。その中で例えば、特開2000−159523号公報には、酸化鉄の含有量が60〜75mol%、酸化亜鉛の含有量が0〜20mol%(ただし、0を含まず)および残部が酸化マンガンからなり、100℃での飽和磁束密度が450mT以上であり、かつ50kHz、150mTでのコア損失の最小値が1500kW/m3以下であるフェライト焼結体が開示されている。
一方で、MnZn系フェライトの低損失化についても種々の提案がなされている。例えば、特公昭63−59241号公報、特開平6−310321号公報、同11−3813号公報等である。
【0004】
【特許文献1】
特開2000−159523号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特公昭63−59241号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開平6−310321号(特許請求の範囲)
【特許文献4】
特開平11−3813号公報(特許請求の範囲)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
特開2000−159523号公報に開示されたフェライト焼結体は、MnZn系フェライトの鉄量を増加することにより、高温度域で高飽和磁束密度を実現しているが、損失値は未だ高いレベルにある。特開2000−159523号公報に開示された材料のうちで比較的損失が低い材料は、損失値が最小を示す温度(本明細書中でボトム温度という)が20℃近傍にある。この材料は、一般的なトランス、リアクタ用コアが使用される温度帯域である60〜130℃において、損失の温度依存性が正の傾きになり、自己発熱による熱暴走の危険性を含んでいる。
【0006】
前述した特公昭63−59241号公報に開示されたフェライト材料は、150℃以上の温度域での低損失化を図っているが、飽和磁束密度に関する考慮はなされていない。また、ボトム温度が150℃以上であるため一般的なトランス、リアクタ用コアが使用される温度帯域では、損失、初透磁率の劣化を招く。特開平6−310321号公報、同11−3813号公報に開示されたフェライト材料も、高温域における飽和磁束密度と低損失に関する特性とを兼備することができなかった。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、高温域における飽和磁束密度が高く、かつ損失が低いフェライト材料の提供を課題とする。さらに本発明は、ボトム温度が60〜130℃の範囲にあるフェライト材料の提供を課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、フェライト材料を構成する成分およびその量を選択することにより、高温域における飽和磁束密度が高く、かつ低損失のフェライト材料を得ることに成功した。このフェライト材料は、Fe:62〜68mol%、ZnO:12〜20mol%、NiO:1.5〜5mol%、残部実質的にMnOを主成分とする焼結体からなり、この焼結体は、SiをSiO 換算で250ppm以下(ただし、0を含まず)およびCaをCaCO 換算で2500ppm以下(ただし、0を含まず)を含むとともに、Nb :400ppm以下(ただし、0を含まず)、ZrO :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、Ta :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、In :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、Ga :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、SnO :10000ppm以下(ただし、0を含まず)、TiO :10000ppm以下(ただし、0を含まず)、P換算でのPの化合物:35ppm以下(ただし、0を含まず)、MoO :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、V :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、GeO :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、Bi :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、Sb :3000ppm以下(ただし、0を含まず)の一種または二種以上を含み、かつ100℃における飽和磁束密度が450mT以上(測定磁界:1194A/m)、かつコア損失の最小値が1200kW/m以下(測定条件:100kHz、200mT)であることを特徴としている
ここで、Si、CaをそれぞれSiO換算、CaCO換算でSiO/CaCO(重量比)が0.04〜0.25になるように設定することが有効である。
【0010】
ところで、フェライト材料において高い飽和磁束密度を得るためには、主組成中のFe量を増加させることが有効である。その一方で、Fe量の増加に伴い、焼結が進みにくくなるため、Fe−rich組成を選択した場合には、焼成温度を上昇させる必要がある。ところが、焼成温度を上昇させると、Zn成分が蒸発してしまい、コア損失が大きくなってしまう。さらに、焼成温度を上昇させることは、使用エネルギーの増大、使用炉材のコスト上昇等を招き、工業的にデメリットとなりうる。こうしたデメリットを排除しつつ、高温域における飽和磁束密度が高く、かつ低損失のフェライト材料を得るためには、P換算でのPの化合物:35ppm以下(ただし、0を含まず)、MoO:1000ppm以下(ただし、0を含まず)、V:1000ppm以下(ただし、0を含まず)、GeO:1000ppm以下(ただし、0を含まず)、Bi:1000ppm以下(ただし、0を含まず)、Sb:3000ppm以下(ただし、0を含まず)の一種または二種以上を含むことが望ましい。これらの副成分を含有させることで、1350℃以下、さらには1300℃近傍という比較的低温での焼成が可能となる。詳しくは後述するが、これらの副成分を本発明が推奨する範囲で含有させることによって、1350℃以下で焼成した場合にも、高温域における飽和磁束密度が高く、かつ低損失のフェライト材料を得ることが可能となる。
【0011】
以上の本発明によるMnZnNi系フェライト材料は、コア損失が最小値を示す温度であるボトム温度が60〜130℃の範囲に存在し、かつ室温における初透磁率が700以上という特性を備えることができる。また、本発明によるフェライト材料は93%以上という高い相対密度を有し、しかも平均結晶粒径が5〜30μmという微細な結晶組織を有する焼結体として提供される。そして、本発明によるフェライト材料は100℃における飽和磁束密度が500mT以上(測定磁界:1194A/m)、コア損失の最小値が1000kW/m以下(測定条件:100kHz、200mT)、コア損失が最小値を示す温度であるボトム温度が80〜120℃、室温での初透磁率が800以上という従来にない特性を得ることができる。
結晶粒径が小さいとヒステリシス損失が大きくなり、一方結晶粒径が大きいと渦電流損失が大きくなることを考慮すると、望ましい平均結晶粒径は10〜30μm、より望ましくは10〜20μmである。
また、副成分として、Nb :400ppm以下(ただし、0を含まず)を少なくとも含むことが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】
はじめに、本発明における成分の限定理由を説明する。Fe23の量を増加すると高温域における飽和磁束密度が向上する一方、コア損失が劣化する傾向にある。Fe23が62mol%より少ないと高温域における飽和磁束密度が低下する。一方、Fe23が68mol%を超えるとコア損失の増大が顕著となる。したがって、本発明ではFe23を62〜68mol%とする。この範囲では、Fe23量の増加に伴ってボトム温度は高温側へシフトする。望ましいFe23の量は63〜67mol%、さらに望ましいFe23の量は63〜66mol%である。
【0013】
ZnOの量も飽和磁束密度およびコア損失に影響を与える。ZnOが12mol%より少ないと飽和磁束密度が低下するとともに、損失が大きくなる。また、ZnOが20mol%を超えても飽和磁束密度が低下するとともに、損失が大きくなる。したがって本発明ではZnOを12〜20mol%とする。この範囲では、ZnO量の増加に伴ってボトム温度は高温側へシフトする。望ましいZnOの量は13〜19mol%、さらに望ましいZnOの量は14〜18mol%である。
【0014】
NiOは、キュリー温度の上昇に伴い飽和磁束密度を向上するのに有効である。その効果を享受するために、本発明では1.5mol%以上含有する。しかし、5mol%を超えて含有せしめると、損失が大きくなる。したがって本発明では、NiOの量を1.5〜5mol%とする。望ましいNiOの量は1.5〜4mol%、さらに望ましいNiOの量は2〜4mol%である。
本発明のフェライト材料は主成分として、上記以外に実質的な残部としてMnOを含む。
【0016】
つぎに、副成分の限定理由について説明する。
本発明のフェライト材料は、SiをSiO2換算で250ppm以下(ただし、0を含まず)およびCaをCaCO3換算で2500ppm以下(ただし、0を含まず)を含む。SiおよびCaは、結晶粒界に偏析して高抵抗層を形成して低損失に寄与するとともに焼結助剤として焼結密度を向上する効果を有する。SiがSiO2換算で250ppmを超え、あるいはCaがCaCO3換算で2500ppmを超えると、不連続異常粒成長による損失の劣化が大きい。そこで本発明では、SiをSiO2換算で250ppm以下、CaがCaCO3換算で2500ppm以下とする。一方、SiがSiO2換算で80ppm未満、あるいはCaがCaCO3換算で800ppm未満では上記効果を十分に得ることができないため、SiはSiO2換算で80ppm以上、CaはCaCO3換算で800ppm以上、含有させることが望ましい。さらに望ましいSiおよびCaの含有量はSiはSiO2換算で80〜200ppm、CaはCaCO3換算で1000〜1800ppm、より望ましいSiおよびCaの含有量はSiはSiO2換算で80〜150ppm、CaはCaCO3換算で1200〜1700ppmである。
【0017】
また、SiとCaを複合添加する場合には、Si、CaをそれぞれSiO2換算、CaCO3換算でSiO2/CaCO3(重量比)が0.04〜0.25、より望ましくは0.05〜0.2の範囲になるように設定することが有効である。
【0018】
本発明はSiおよびCaに加えて、Nb25:400ppm以下(ただし、0を含まず)、ZrO2:1000ppm以下(ただし、0を含まず)、Ta25:1000ppm以下(ただし、0を含まず)、In2 :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、Ga 2 1000ppm以下(ただし、0を含まず)、SnO 2 :10000ppm以下(ただし、0を含まず)およびTiO 2 :10000ppm以下(ただし、0を含まず)、P換算でのPの化合物:35ppm以下(ただし、0を含まず)、MoO 3 :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、V 2 5 :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、GeO 2 :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、Bi 2 3 :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、Sb 2 3 :3000ppm以下(ただし、0を含まず)の一種または二種以上を含むことができる。Nb 2 5 ,ZrO 2 ,Ta 2 5 ,In 2 ,Ga 2 を含有することによって、飽和磁束密度の向上および/または損失低減という効果を得ることができる。その効果を十分に享受するためには、Nb25,ZrO2,Ta25,In2 ,Ga2 は50ppm以上含有させることが望ましい。さらに望ましい含有量は、Nb25:80〜300ppm、ZrO2,Ta25,In2 ,Ga2 は200〜800ppmである。なお、Nb 2 5 ,ZrO 2 ,Ta 2 5 ,In 2 ,Ga 2 のうち2種以上を複合して添加する場合、添加量の合計は1000ppm以下とすることが望ましい。
【0019】
nO2およびTiO2は、結晶粒内、結晶粒界に存在し損失低減の効果がある。10000ppmを超えると、不連続異常粒成長による損失の劣化や飽和磁束密度の低下を招く。そのために本発明では、SnO2およびTiO2の上限値を各々10000ppmとする。一方、以上の効果を十分享受するためには、SnO 2 または/およびTiO 2 を500ppm以上含有させることが望ましい。さらに望ましいSnO2およびTiO2の量は1000〜8000ppm、より望ましいSnO2およびTiO2の含有量は1000〜7000ppmである。なお、SnO 2 およびTiO 2 を複合して添加する場合、添加量の合計は10000ppm以下とすることが望ましい。
【0020】
P換算でのPの化合物,MoO 3 ,V 2 5 ,GeO 2 ,Bi 2 3 ,Sb 2 3 は、焼結助剤として焼結密度を向上する効果を有するとともに、低温焼成に寄与する。具体的には、これらを本発明が推奨する範囲内で含めることにより、1340℃以下、さらには約1300℃という比較的低温で焼成を行った場合にも、95%以上の相対密度、450mT以上の飽和磁束密度(測定磁界:1194A/m)、かつコア損失の最小値を1000kW/m3以下(測定条件:100kHz、200mT)とすることが可能となる。その効果を十分に享受するためには、MoO3,V25,GeO2,Bi23,Sb23は50ppm以上、P換算でのPの化合物は5ppm以上含有されることが望ましい。
【0021】
より望ましい含有量は、MoO3,V25については700ppm以下、GeO2,Bi23については500ppm以下である。MoO3,V25のさらに望ましい含有量は100〜600ppm、GeO2,Bi23のさらに望ましい含有量は100〜400ppmである。また、P換算でのPの化合物の望ましい含有量は25ppm以下、さらに望ましい含有量は5〜20ppmである。Sb23についての望ましい含有量は2500ppm以下、さらに望ましい含有量は200〜2000ppmである。なお、P換算でのPの化合物,MoO 3 ,V 2 5 ,GeO 2 ,Bi 2 3 ,Sb 2 3 のうち2種以上を複合して添加する場合、添加量の合計は2500ppm以下とすることが望ましい。
【0022】
本発明のフェライト材料は、上述した組成を適宜選択することにより、100℃における飽和磁束密度が450mT以上(測定磁界:1194A/m)、かつコア損失の最小値が1200kW/m3以下(測定条件:100kHz、200mT)という特性を得ることができる。特に、望ましい組成を選択することにより、100℃における飽和磁束密度が500mT以上(測定磁界:1194A/m)、コア損失の最小値が1000kW/m3以下(測定条件:100kHz、200mT)という従来では得ることのできなかった特性を得ることができる。
【0023】
本発明のフェライト材料は、以上の特性に加えて、ボトム温度を60〜130℃、さらには80〜120℃の範囲に設定することができる。したがって、本発明のフェライト材料を用いたフェライト部品は、その実用的な使用温度帯域にボトム温度が存在することになる。しかも本発明のフェライト材料は、室温における初透磁率が700、さらには800以上という高い値を有している。
【0024】
次に、本発明によるフェライト材料にとって好適な製造方法を説明する。
主成分の原料としては、酸化物または加熱により酸化物となる化合物の粉末を用いる。具体的には、Fe23粉末、Mn34粉末ZnO粉末およびNiO粉末等を用いることができる各原料粉末の平均粒径は0.1〜3.0μmの範囲で適宜選択すればよい。
主成分の原料粉末を湿式混合した後、仮焼きを行う。仮焼きの温度は800〜1000℃の範囲内での所定温度で、また雰囲気はN2〜空気の間で行えばよい。仮焼きの安定時間は0.5〜5.0時間の範囲で適宜選択すればよい。仮焼き後、仮焼き体を例えば、平均粒径0.5〜2.0μm程度まで粉砕する。なお、本発明では、上述の主成分の原料に限らず、2種以上の金属を含む複合酸化物の粉末を主成分の原料としてもよい。例えば、塩化鉄、塩化マンガンを含有する水溶液を酸化培焼することによりFe、Mnを含む複合酸化物の粉末が得られる。この粉末とZnO粉末およびNiO粉末を混合して主成分原料としてもよい。このような場合には、仮焼きは不要である。
【0025】
同様に副成分の原料として、酸化物または加熱により酸化物となる化合物の粉末を用いることもできる。具体的には、SiO2、CaCO3、Nb25、ZrO2、Ta25、In2 、Ga2 、SnO2、TiO2、MoO3、V25、GeO2、Bi23、Sb23等を用いることができる。また、P化合物を選択する場合には、加熱によりP化合物が得られる粉末、例えば(Ca3(PO42)等を用いることができる。これら副成分の原料粉末は、仮焼き後に粉砕された主成分の粉末と混合される。ただし、主成分の原料粉末と混合した後に、主成分とともに仮焼きに供することもできる。
【0026】
主成分および副成分からなる混合粉末は、後の成形工程を円滑に実行するために顆粒に造粒される。造粒は例えばスプレードライヤを用いて行うことができる。混合粉末に適当な結合材、例えばポリビニルアルコール(PVA)を少量添加し、これをスプレードライヤで噴霧、乾燥する。得られる顆粒の粒径は80〜200μm程度とすることが望ましい。
【0027】
得られた顆粒は、例えば所定形状の金型を有するプレスを用いて所望の形状に成形され、この成形体は焼成工程に供される。
焼成工程においては、焼成温度と焼成雰囲気を制御する必要がある。
焼成温度は1250〜1450℃の範囲から適宜選択することができるが、本発明のフェライト材料の効果を十分引き出すには、1300〜1400℃の範囲で焼成することが望ましい。
【0028】
本発明によるフェライト材料は、93%以上、さらに望ましくは95%以上の相対密度を得ることができる。
本発明によるフェライト材料は、平均結晶粒径は5〜30μmの範囲とすることが望ましい。結晶粒径が小さいとヒステリシス損失が大きくなり、一方結晶粒径が大きいと渦電流損失が大きくなるからである。望ましい平均結晶粒径は、10〜30μm、より望ましい平均結晶粒径は、10〜20μmである。
【0029】
【実施例】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。
(第1実施例)
表1に示す組成を有するフェライトコアを作製した。
主成分の原料には、Fe23粉末、MnO粉末、ZnO粉末およびNiO粉末を用い、これらを湿式混合した後、900℃で2時間仮焼した。
次いで、主成分の原料の仮焼物と副成分の原料とを混合した。副成分の原料には、SiO2粉末、CaCO3粉末、Nb25粉末を用いた。主成分原料の仮焼物に副成分の原料を添加して、粉砕しながら混合した。粉砕は、仮焼物の平均粒径が約1.5μmとなるまで行った。得られた混合物にバインダを加え、顆粒化した後、成形してトロイダル形状の成形体を得た。
【0030】
得られた成形体を酸素分圧制御下において、温度1350℃(安定部5時間、安定部酸素分圧1%)で焼成することにより、フェライトコアを得た。
また、このフェライトコアを用いて、100℃における飽和磁束密度(Bs,測定磁界:1194A/m)、コア損失の最小値(Pcv,測定条件:100kHz、200mT)、初透磁率(μi,測定温度:25℃)を測定した。その結果を表1に併せて示す。また、表1中、従来例1〜4は、特開2000−159523号公報に開示されたMnZn系フェライト材料の特性等を示している。
【0031】
【表1】
Figure 0004281990
【0032】
表1に示すように、本発明によるフェライト材料は、従来例1〜4と同等の450mT以上の飽和磁束密度を有していながら、コア損失が1000kW/m3以下となっており、従来例対比、コア損失が相当程度低減されていることがわかる。特に、本発明によれば、500mT以上の飽和磁束密度および900kW/m3以下、さらには800kW/m3のコア損失を得ることが可能である。
【0033】
比較例1、実施例1,実施例2,比較例10および比較例2は、この順にFe23が増加している。その中で、Fe23が60.0mol%と本発明の範囲より少ない場合、および70.0mol%と本発明の範囲より多い場合に飽和磁束密度が低くかつコア損失が大きいことがわかる。
次に、比較例3、実施例4、実施例5および比較例4は、この順にZnOが増加している。その中で、ZnOが10.0mol%と本発明の範囲より少ない場合、および21.0mol%と本発明の範囲より多い場合に飽和磁束密度が低くコア損失が大きいことがわかる。
以上の結果より、本発明において、高飽和磁束密度、かつ低コア損失を確保するために、Fe23を62〜68mol%の範囲、ZnOを12〜20mol%の範囲に設定することが重要であることがわかる。
【0034】
比較例11、実施例7、実施例8および比較例5は、この順にNiOが増加している。この実施例および比較例を見ると、NiOの添加によりコア損失や飽和磁束密度が変動していることがわかる。
NiOの添加により飽和磁束密度が向上すること、6.0mol%添加した比較例のコア損失が1000kW/m3を超え、また添加量が0.5mol%と少ない比較例のコア損失が950kW/m 3 を超えることを考慮して、本発明ではNiOの添加量を1.5〜5mol%とする。NiOの添加量は2〜4mol%近傍とすることが最も望ましい。
【0035】
ボトム温度(B.Temp.)に着目すると、本発明によるフェライト材料は、ボトム温度を80〜120℃の範囲内に設定することができることがわかる。また、初透磁率(μi)についても、本発明による実施例は、従来例と同等の値を得ていることがわかる。
【0036】
(第2実施例)
実施例1と同様の工程により、表2に示す組成を有するフェライトコアを作製するとともに、実施例1と同様に特性等を測定した。その結果を表2に併せて示す。
【0037】
【表2】
Figure 0004281990
【0038】
表2に示すように、所定量のSiおよびCa添加することによりコア損失(Pcv)を低減できることがわかる。ただし、Siの場合にはSiO2換算で300ppm、Caの場合にはCaCO3換算で3000ppmの添加量になるとコア損失が大きくなるため、本発明ではSiをSiO 2 換算で250ppm以下(ただし、0を含まず)およびCaをCaCO 3 換算で2500ppm以下(ただし、0を含まず)とする
【0039】
(第3実施例)
実施例1と同様の工程により、表3に示す組成を有するフェライトコアを作製するとともに、実施例1と同様に特性等を測定した。その結果を表3に併せて示す。
【0040】
【表3】
Figure 0004281990
【0041】
表3に示すように、N25、ZrO2、Ta25、In2 、Ga2 25、GeO 2 添加しても、500mT近傍の飽和磁束密度(Bs)を有していながら、1200kW/m3以下のコア損失(Pcv)が得られることがわかった。特に、Nb25、ZrO2、Ta25 、GeO2の効果が大きい。そのNb25について言えば、400ppmを超える量の添加はかえってコア損失を増大させるので、400ppm以下の添加量とすることが望ましい。
【0042】
(第4実施例)
実施例1と同様の工程により、表4に示す組成を有するフェライトコアを作製するとともに、実施例1と同様に特性等を測定した。その結果を表4に併せて示す。
【0043】
【表4】
Figure 0004281990
【0044】
表4に示すように、SnO2またはTiO2を添加することにより、コア損失(Pcv)を低減できることがわかる。ただし、その添加量が多くなると飽和磁束密度(Bs)が低下する傾向にあるため、添加する場合にはそれぞれ10000ppm以下の量とする。
【0045】
(第5実施例)
焼成温度と酸素分圧を表5に示す条件とする以外は実施例1と同様の工程により、表5に示す組成を有するフェライトコアを作製した。実施例1と同様に特性等を測定した結果を表5に併せて示す。
【0046】
【表5】
Figure 0004281990
【0047】
表5に示すように、焼成温度が高くなるにつれて飽和磁束密度(Bs)は向上する傾向にあるがコア損失(Pcv)が高くなり、また初透磁率(μi)が低下する傾向にある。したがって、焼成温度は1380℃以下、より具体的には1300〜1380℃の範囲で設定することが望ましい。
実施例35、実施例40〜43については、相対密度および平均結晶粒径を測定した。その結果を表5に併せて示す。いずれも相対密度は95%以上を示し、平均結晶粒径は10〜25μmの範囲にあることがわかる。
また、実施例36〜39の結果から、MoO3、Pが1300℃という比較的低温の焼成温度であっても、高い飽和磁束密度を得るために有効な元素であることがわかる。よって、MoO3、P等を所定量添加した場合には、焼成温度を1340℃以下、さらには1280〜1330℃程度に設定することができると推察される。なお、実施例38、39以外の実施例も不純物としてPを7ppm程度含んでいる。
【0048】
(第6実施例)
焼成温度を1300℃とし、かつP換算でのPの化合物,MoO 3 ,V 2 5 ,GeO 2 ,Bi 2 3 ,Sb 2 3 を添加した以外は実施例1と同様の工程により、表6に示す組成を有するフェライトコアを作製した。実施例1と同様に特性等を測定した結果を表6に併せて示す。なお、Pを除くMo,V,Ge,Bi,Sbについては酸化物として、Pについてはリン酸カルシウムとして添加した。表6中、PについてはP換算での添加量を示している。また、焼成温度を1300℃とするがP換算でのPの化合物,MoO 3 ,V 2 5 ,GeO 2 ,Bi 2 3 ,Sb 2 3 を添加していないフェライトコア(実施例35)の特性も、比較の便宜のために表6に併せて示す。なお、実施例44〜57の焼成時間はいずれも5時間、焼成時の酸素分圧は0.5%である。
【0049】
【表6】
Figure 0004281990
【0050】
表6に示すように、P換算でのPの化合物,MoO 3 ,V 2 5 ,GeO 2 ,Bi 2 3 ,Sb 2 3 を添加することによって、飽和磁束密度(Bs)が向上した。しかも、これらの副成分を添加した実施例36、37、44〜57は、いずれも1000kW/m3以下のコア損失(Pcv)を得ている。よって、これらの副成分の添加は、コア損失(Pcv)の上昇を抑えつつ、飽和磁束密度(Bs)を向上させる上で有効であるといえる。特に、MoO3を200ppm添加した実施例37、Bi23を500ppm添加した実施例53、Sb23を1000ppm添加した実施例56、同じくSb23を2000ppm添加した実施例57については、1300℃という比較的低温な焼成温度においても、500mTという高い飽和磁束密度(Bs)を示していることが注目される。
また、ボトム温度(B.Temp.)に着目すると、本発明によるフェライト材料は、ボトム温度を80〜120℃の範囲内に設定することができることがわかる。さらに、初透磁率(μi)についても、本発明による実施例は、従来例と同等の値を得ていることがわかる。
以上の結果から、P換算でのPの化合物,MoO 3 ,V 2 5 ,GeO 2 ,Bi 2 3 ,Sb 2 3 を添加することによって、焼成温度が1300℃の場合であっても、95%以上の相対密度、490mT以上の飽和磁束密度(Bs)および1000kW/m3以下のコア損失(Pcv)を達成することができることがわかった。また、ボトム温度については80〜120℃の範囲内、さらには90〜100℃の範囲内に設定することができることも確認できた。
【0054】
(第8実施例)
焼成時の酸素分圧および温度を表8に示す条件とする以外は実施例1と同様の工程により、表8に示す組成を有するフェライトコアを作成した。実施例1と同様に特性等を測定した結果を表8に併せて示す。
【0055】
【表8】
Figure 0004281990
【0056】
表8において、実施例62〜66を見ると、焼成時の酸素分圧(PO2)が変動するとコア損失(Pcv)が変動する。そして、より低いコア損失を得たい場合には、焼成時の酸素分圧を1%以上にすることが望ましいことがわかる。
【0057】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、高温域における飽和磁束密度が高く、かつ低損失なフェライト材料を得ることができる。

Claims (8)

  1. Fe:62〜68mol%、ZnO:12〜20mol%、NiO:1.5〜5mol%、残部実質的にMnOを主成分とする焼結体からなり、
    前記焼結体は、SiをSiO 換算で250ppm以下(ただし、0を含まず)およびCaをCaCO 換算で2500ppm以下(ただし、0を含まず)を含むとともに、
    Nb :400ppm以下(ただし、0を含まず)、ZrO :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、Ta :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、In :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、Ga :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、SnO :10000ppm以下(ただし、0を含まず)、TiO :10000ppm以下(ただし、0を含まず)、P換算でのPの化合物:35ppm以下(ただし、0を含まず)、MoO :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、V :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、GeO :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、Bi :1000ppm以下(ただし、0を含まず)、Sb :3000ppm以下(ただし、0を含まず)の一種または二種以上を含み、かつ
    100℃における飽和磁束密度が450mT以上(測定磁界:1194A/m)、かつコア損失の最小値が1200kW/m以下(測定条件:100kHz、200mT)であることを特徴とするフェライト材料。
  2. 前記SiOの含有量と前記CaCOの含有量との重量比(SiOの含有量/CaCOの含有量)が0.04〜0.25であることを特徴とする請求項に記載のフェライト材料。
  3. コア損失が最小値を示す温度であるボトム温度が60〜130℃の範囲に存在し、かつ室温における初透磁率が700以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のフェライト材料。
  4. 相対密度が93%以上、平均結晶粒径が5〜30μmである焼結体から構成されることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のフェライト材料。
  5. 100℃における飽和磁束密度が500mT以上(測定磁界:1194A/m)、コア損失の最小値が1000kW/m以下(測定条件:100kHz、200mT)、コア損失が最小値を示す温度であるボトム温度が80〜120℃、室温での初透磁率が800以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のフェライト材料。
  6. 平均結晶粒径が10〜30μmである焼結体から構成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフェライト材料。
  7. 平均結晶粒径が10〜20μmである焼結体から構成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のフェライト材料。
  8. Nb :400ppm以下(ただし、0を含まず)を少なくとも含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のフェライト材料。
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