JP4218189B2 - 回転軸用オイルシール - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンのクランクシャフトとハウジングとの間でエンジン内のオイルをシールするのに用いて好適の、回転軸用オイルシールに関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンのクランクシャフトの一端(エンジンリア側の端部)は、補機等を駆動するためにエンジンハウジングから外部に突出しているが、この部分のクランクシャフト外周には、ハウジング内部のオイルの漏出を防止するための回転軸用オイルシールが装備される。エンジン用のオイルシールに限らないが、こうした軸方向への移動の少ない回転軸周りのオイルシールには、種々の形状のものがある。
【0003】
例えば図4は従来の回転軸周りのオイルシールを示す縦断面図である。図4に示すように、この回転軸用オイルシールは、クランクシャフト等の回転軸11の周りに装備され、外側でハウジング12に固設されたシール本体21と、シール本体21の内周面から突設された環状のシールリップ22と、このシールリップ22よりもハウジング12の外方(大気側)に配設された環状のダストリップ23とをそなえている。これらのシール本体21はシールリップ22及びダストリップ23を含めて一般に合成ゴム等によって一体形成されている。
【0004】
このうちシール本体21は、ハウジング12に嵌着する外周部21aと、シールリップ22及びダストリップ23を形成された内周部21bと、これらの外周部21aと内周部21bとを結ぶ中間部21cとをそなえ、コ字状断面形状を有するように構成されている。そして、このシール本体21の外周部21a,中間部21cの内部には環状の金属製の芯材24が内蔵され、オイルシールの形状が保持されるようになっている。
【0005】
一方、内周部21bには芯材24は内蔵されておらず比較的容易に弾性変形できるようになっている。したがって、内周部21bに形成されたシールリップ22及びダストリップ23が回転軸11の外周面に追従して弾性的に変位したり変形したりできるようになっている。また、内周部21bのシールリップ22近傍の外周にはスプリング25が装備されており、シールリップ22を回転軸11の外周面に圧接している。
【0006】
また、ここでは、シールリップ22は山型リップで構成され、ダストリップ23はヒゲ型リップで構成されている。ここで、山型リップとは、圧接対象である回転軸11に対して傾斜状態で対向する2つの傾斜面22a,22bが結合してなる山型断面形状を有するリップである。一方、ヒゲ型リップとは、回転軸11に対して傾斜状態で対向する1つの傾斜面23aと、この傾斜面23aとほぼ平行な面であって回転軸11に対して傾斜状態で後ろ向きの傾斜面23bと、これらの傾斜面23a,23bが結合する頂面(又は頂点)23cを有するリップである。
【0007】
つまり、リップは、対象面に当接又は接近する頂点部又は頂面部(単に頂点という)と、この頂点の両側の2つ面とを備えるが、山型リップとは、この頂点の両側の2つ面がいずれも適当に傾斜しながら対象面(シール面)に向いているものであり、これに対して、ヒゲ型リップとは、この頂点の両側の2つ面のうち一方の面が適当に傾斜しながら対象面(シール面)に向いているが、他方の面は対象面(シール面)に背を向けた状態になっているものである。
【0008】
また、この例では、シールリップ22の内周(傾斜面22bの内周)に、ネジ26が形成されている。このネジ26は、オイルを大気側(ハウジング外部)からオイル側(ハウジング内部)に向けて駆動し、シールリップ22からのオイルの漏出を防止しようとするものである。つまり、シールリップ22と回転軸11との間のオイルは、回転軸11がシールリップ22に対して矢印A1方向に回転するとこれと同方向に回転するため、ネジ26に案内されて、矢印A2で示すように大気側からオイル側に向かう。回転軸11が回転している間は、シールリップ22と回転軸11との間のオイルには、このような力が加わるため、シールリップ22からのオイルの漏出が防止されるのである。なお、ネジ26は回転軸11との圧接によって弾性変形するため、シールリップ22と回転軸11との間(ネジ26の表面と回転軸11の外周面との間)には、油膜程度の隙間が生じるだけである。
【0009】
また、特開平7−239042号公報には図5に示すような回転軸用オイルシールが開示されている。図5において、図4と同符号は同様なものを示している。図5に示すように、このオイルシールでは、シール本体21の内周部21bにおいて、シールリップ22よりもオイル側(ハウジング内部)に、ヒゲ型リップで構成された副シールリップ27が追加されており、シールリップ(主シールリップ)22と副シールリップ27との2段構えでオイルのシールを行なうようになっている。
【0010】
さらに、図示しないが、特開平5−37093号公報には、いずれもヒゲ型リップで構成された複数の回転軸用オイルシールを軸心線方向に並べた回転軸用オイルシールが提案されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の図4に示す従来の回転軸用オイルシールの場合、ダストリップ23があるといえども、外気側からこのダストリップ23の内部にダストが進入してシールリップ22に噛み込んだり、ハウジング内部のオイルのスラッジ等がシールリップ22に噛み込んだりして、このような噛み込み箇所からオイル漏れが発生することがある。
【0012】
また、特開平7−239042号公報(図5参照)にかかる従来の回転軸用オイルシールの場合、副シールリップが、ハウジング内部のオイルスラッジ等のシールリップ22への噛み込みを抑制し得るが、この副シールリップを構成するヒゲ型リップは、十分な圧力で回転軸に圧接させることが困難であるため、オイルスラッジ等のシールリップ22への噛み込みを確実に抑制するのは難しい。また、外気側からのダストの進入に対しては、上記と同様の課題が残る。さらに、ヒゲ型リップの場合、組付時に、リップのめくれが生じてオイル漏れが生じることがある。
【0013】
また、特開平5−37093号公報(図5参照)にかかる従来の回転軸用オイルシールの場合、シールリップが複数のヒゲ型リップを連続的に形成した構成になっており、ヒゲ型リップの場合、上述のように、十分な圧力で回転軸に圧接させることが困難であるため、オイル漏れを防止するというオイルシール本来の性能を確保し難い。また、上述と同様に、ヒゲ型リップの場合、組付時に、リップのめくれが生じてオイル漏れが生じることがある。さらに、外気側からのダストの進入に対しては、上述と同様の課題が残る。
【0014】
また、オイルシールを型成形で製造しようとする場合に、シールリップにヒゲ型リップを適用しようとすると、ヒゲ型リップの形状特性的な特性から、型抜けが難しく、成形性に課題がある。つまり、特開平7−239042号公報の構造のように、オイルシール本体の軸方向一端(大気側)にヒゲ型リップで構成されたダストリップを設けている上に、軸方向他端(オイル側)にもヒゲ型リップで構成されたシールリップを設ける場合には、型成形時の型抜けは悪く製造し難く、特開平5−37093号公報の構造のように、ヒゲ型リップで構成されたシールリップを複数個連続的に形成する場合、型成形時の型抜けは一層悪くなって、極めて製造し難い。
【0015】
本発明は、上述の課題に鑑み創案されたもので、容易に製造でき、外気側からのダストやオイルのスラッジ等を噛み込んでしまった場合にも十分なオイルシール性を確保できるようにした、回転軸用オイルシールを提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1,3記載の本発明の回転軸用オイルシールでは、ハウジングを貫通するように設けられた回転軸の軸周りで、該ハウジング内のオイルをシールするが、このシールは、該ハウジングに固設されたシール本体の内周面から突設されて該回転軸に摺動自在に圧接するメインシールリップとサブシールリップとによって行なわれる。また、もしも該メインシールリップが該ハウジング内のオイルのスラッジ等を噛み込んだ場合、該メインシールリップでオイルが漏出してしまうが、このときには、該メインシールリップよりも該ハウジングの外方に配設された該サブシールリップが該ハウジング内のオイルを確実にシールする。
【0017】
一方、該サブシールリップよりも該ハウジングの外方にはダストリップが配設されているので、該ハウジングの外方から内方へのダストの進入が防止される。そして、もしも該ダストリップをダストが進入してこのダストを該サブシールリップが噛み込んだ場合、該サブシールリップでオイルが漏出してしまうおそれが生じるが、このときには、該サブシールリップよりも該ハウジングの内方に配設された該メインシールリップが該ハウジング内のオイルを確実にシールする。
【0018】
また、請求項1記載の本発明の回転軸用オイルシールでは、該メインシールリップの近傍と該サブシールリップの近傍とに、それぞれ漏出防止構造を設けており、各漏出防止構造の吸い込み力(オイルを該ハウジングの内方に駆動する力)は、メインシールリップの近傍の漏出防止構造の方がサブシールリップの近傍の漏出防止構造よりも大きくなるように設定されている。
この場合の漏出防止構造としては、該回転軸側に突出形成したねじ形状が好ましい。この場合、サブシールリップのネジはメインシールリップのネジよりも小さくする。
【0019】
また、請求項3記載の本発明の回転軸用オイルシールでは、該メインシールリップの頂点よりも該ハウジングの外方の傾斜面の側に、該回転軸の回転に伴ってオイルを該ハウジングの内方に駆動する漏出防止構造としてのねじをそなえることによって、該メインシールリップから該ハウジングの外方へのオイルの漏出が防止され、該メインシールリップへのオイルスラッジ等の噛み込み防止効果も期待できる
【0020】
また、該メインシールリップ及び該サブシールリップが何れも山型断面形状を有する山型リップで構成されることにより、該メインシールリップ及び該サブシールリップを共に十分な力で回転軸に圧接させることが容易になりシール性を向上させることができ、型成形するにも山型リップの形状は有利である。しかも、該メインシールリップを、該サブシールリップよりも該回転軸に強く圧接するように構成している(例えば、該メインシールリップを該サブシールリップよりも該回転軸側に突出形成する)ため、該サブシールリップよりも該回転軸側に突出形成されているので、シール性を一層向上させることができる。
【0021】
なお、好ましくは、該メインシールリップの外周近傍に、該メインシールリップを該回転軸に圧接するためのスプリングを設けるようにする。
また、シール本体を、該ハウジングに形成された装着穴の内周に嵌着され芯材が内蔵される外周部と、該外周部よりも内側に該外周部のハウジング外方側端部からハウジング内方へ向けて形成された内周部とをそなえるように構成して、該内周部に該メインシールリップと該サブシールリップとを設けると共に、該内周部の肉厚を、該内周部の長さの1/2以下に設定することが好ましい。
【0022】
また、該ダストリップは、該回転軸の外周面に密着させないようにすることが好ましい。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明すると、図1〜図3は本発明の一実施形態としての回転軸用オイルシールを示すもので、図1はその部分縦断面図、図2はその取付状態を示す部分縦断面図、図3はその内周面を示す展開図である。
【0024】
本回転軸用オイルシールは、エンジンのクランクシャフト等の回転軸11の軸周りに装備され、オイルが内蔵されたハウジング(例えばエンジン本体)内のオイルをシールするもので、図1に示すように、断面がコ字状のシール本体1と、このシール本体1の内周面から軸心側へ向けて突出するように一体形成されたメインシールリップ2,サブシールリップ3,ダストリップ4の3つのリップをそなえている。シール本体1は、各リップ2,3,4を含めて例えば合成ゴムで形成される。
【0025】
シール本体1は、ハウジング12に嵌着する外周部1aと、メインシールリップ2,サブシールリップ3,ダストリップ4を形成された内周部1bと、これらの外周部1aと内周部2bとを結ぶ中間部1cとをそなえ、コ字状断面形状を有するように構成される。このシール本体1の外周部1a及び中間部1cの内部にはL字状断面形状を有する環状の金属製芯材5が内蔵されている。この芯材5により、オイルシールの形状が保持され、外周部1aがハウジング12の装着穴に隙間なく強固に嵌着するとともに、内周部1bの基端1dをしっかりと支持するようになっている。
【0026】
一方、内周部1bは、芯材5を内蔵されていないため比較的容易に弾性変形でき、特に、その基端1dからハウジング12内部の方向に筒状に延設されており、先端1eに行くにしたがってより容易に弾性変形できるようになっている。この内周部1bには、先端1e側からメインシールリップ2,サブシールリップ3,ダストリップ4がこの順に形成されており、内周部1bの自由端である先端1e側ほど弾性変形しやすいため、メインシールリップ2,サブシールリップ3,ダストリップ4はこの順に弾性的変位や変形を生じやすくなっている。これにより、各リップ2,3,4が、回転軸11の外周面に追従して弾性的に変位したり変形したりして、回転軸11の外周面に対して安定して接触又はクリアランス保持を行なえるようになっている。
【0027】
特に、オイルをシールする主体であるメインシールリップ2は、内周部1bの最も自由端(先端1e)側であり、回転軸11の外周面に対する追従性が良く、その分だけメインシールリップ2と回転軸11の外周面とが片当たりすることなく安定して摺接するが、内周部1bの断面形状によってはこのメインシールリップ2の回転軸11に対する追従性が低下してしまう。つまり、図1に示すように、内周部1bの軸方向長さ(ここでは、内周部1bの基端1dからメインシールリップ2の頂点2cまでの軸方向距離)Lが短いほど、また、内周部1bの肉厚(最も肉厚の薄い内周部1bの基端1d近傍の肉厚)Tが厚いほど、メインシールリップ2の追従性が低下する。
【0028】
そこで、内周部1bの肉厚(リップ肉厚)Tを内周部1bの軸方向長さ(リップ長さ)Lの半分よりも小さい値に設定(W<L/2)している。もちろん、追従性を優先させれば、リップ肉厚Tは小さくリップ長さLは大きく設定する方が良いが、内周部1bに必要な剛性を確保する点や、オイルシールの装着環境による軸方向長さが制限される点から、リップ肉厚Tやリップ長さLを設定するにも限度があるため、少なくともリップ肉厚Tをリップ長さLの半分未満(W<L/2)に設定するようにしている。
【0029】
また、最も負担の大きいメインシールリップ2を、最もハウジング12内方(オイル側)に配設しているが、これは、メインシールリップ2の劣化を防ぐように考慮したものである。つまり、メインシールリップ2は高い圧力で回転軸11の外周面に摺接するため発熱して硬化しやすいが、メインシールリップ2を最もオイル側に配設すると、メインシールリップ2がハウジング12内のオイルに接触してオイルによって冷却されるように考慮したものである。
【0030】
ところで、図1に示すように、内周部1bに先端1e側に形成されたメインシールリップ2及びサブシールリップ3には、山型リップが採用されている。
つまり、メインシールリップ2は、内周部1bに先端1e側に配設されハウジング12内方(オイル側、或いは密閉空間側)に傾斜しながら回転軸11の外周面に向くように形成された第1の傾斜面2aと、この第1の傾斜面2aよりも基端1d側に隣接して配設されハウジング12外方(大気側、或いは非密閉空間側)に傾斜しながら回転軸11の外周面に向くように形成された第2の傾斜面2bとが結合した構成になっている。そして、2つの傾斜面2a,2bが結合してなる頂点(実際には点ではなく環状の曲線であるが、ここでは頂点という)2cが回転軸11側に最も突出形成されている。
【0031】
また、サブシールリップ3も、同様に、内周部1bに先端1e側に配設されハウジング12内方(オイル側)に傾斜しながら回転軸11の外周面に向くように形成された第1の傾斜面3aと、この第1の傾斜面3aよりも基端1d側に隣接して配設されハウジング12外方(大気側)に傾斜しながら回転軸11の外周面に向くように形成された第2の傾斜面3bとが結合した構成になっている。そして、2つの傾斜面3a,3bが結合してなる頂点3cが回転軸11側に最も突出形成されている。
【0032】
さらに、メインシールリップ2の裏側(即ち、外周側)には、メインシールリップ2を回転軸11の外周面に圧接する環状のスプリング6が装備されている。本実施形態では、スプリング6は、メインシールリップ2とサブシールリップ3との両方を回転軸11の外周面に圧接するように、メインシールリップ2とサブシールリップ3との中間部の外周側に配設されている。
【0033】
本実施形態では、図1に示すように、スプリング6をメインシールリップ2の軸方向位置から微小距離D1だけサブシールリップ3に偏倚させて配置しており、スプリング6の付勢力の多くがメインシールリップ2に作用し、残りがサブシールリップ3に作用するようになっている。メインシールリップ2とサブシールリップ3との役割分担バランスによっては、スプリング6の軸方向位置をこれよりもサブシールリップ3側に近づけることも考えられるが、回転軸11外周面へ圧接する主体はメインシールリップ2であるため、スプリング6のメインシールリップ2に対する軸方向距離D1をスプリング6のサブシールリップ3に対する軸方向距離D2よりも小さく設定する(D1<D2)ことが好ましい。
【0034】
また、メインシールリップ2は、サブシールリップ3よりも回転軸11側に突出形成され、サブシールリップ3よりも回転軸11に強く圧接するようになっている。つまり、メインシールリップ2及びサブシールリップ3は、装着前の自然の状態では、図1に示すように、各先端部(頂点)2c,3cの内径は回転軸11の外周面の外径よりも小さく設定されていて、装着時には、図2に示すように、各先端部(頂点)2c,3cは弾性変形して回転軸11の外周面の応じた内径に拡径する。このようなメインシールリップ2及びサブシールリップ3における装着による内径の変化分を締め代というが、ここでは、ハウジング12内方(オイル側)のメインシールリップ2の締め代H1はハウジング12外方(大気側)のサブシールリップ3の締め代H2よりも大きく設定(H1>H2)されている。
【0035】
また、図1,図3に示すように、メインシールリップ2の内周(傾斜面2bの内周)には、漏出防止構造としてのネジ7が形成されている。このネジ7は、従来から設けられているものと同様のものであり、メインシールリップ2と回転軸11との間で、オイルを大気側(ハウジング外部)からオイル側(ハウジング内部)に向けて駆動し、換言すると、大気側(メインシールリップ2とサブシールリップ3との間の空間8)よりもオイル側(ハウジング内部)の方を低圧にするように(即ち、大気側よりもオイル側の方が吸い込み力が大きくなるように)動作し、メインシールリップ2からのオイルの漏出を防止しようとするものである。
【0036】
つまり、回転軸11がメインシールリップ2に対して矢印A1方向に回転すると、メインシールリップ2と回転軸11との間のオイルは、回転軸11と同方向(矢印A1方向)に回転する。このため、ネジ7に案内されて、矢印A2で示すように大気側からオイル側へとオイルが向かうようになる。したがって、回転軸11が回転している間は、メインシールリップ2と回転軸11との間のオイルには、このような力が加わって、メインシールリップ2からのオイルの漏出が防止されるのである。なお、ネジ7は回転軸11との圧接によって弾性変形するため、メインシールリップ2と回転軸11との間(ネジ7の表面と回転軸11の外周面との間)には、油膜程度の隙間が生じるだけである。
【0037】
また、内周部1bの最も基端1d側に形成されたダストリップ4には、ヒゲ型リップが採用されており、回転軸11の外周面に対してハウジング12外部の方向(大気側)に傾斜するように配設される。つまり、ダストリップ4は、回転軸11に対して傾斜状態で対向する第1面(第1傾斜面)4aと、この傾斜面23aと小さな角度(又は、ほぼ平行)の面であって回転軸11に対して傾斜状態で回転軸11とは反対方向を向いた第2面(第2傾斜面)4bと、これらの面4a,4bが結合する頂面(又は頂点)4cとをそなえている。この頂面4cは、図1に示すような曲面であってもよく、図4に示すような平面であってもよい。
【0038】
そして、最も回転軸11側に突出している頂面4cは、回転軸11の外周面に完全に密着することのないように、つまり、頂面4cの全周又は一部が回転軸11の外周面から微小に離隔するように設定されている。これは、ダストリップ4が回転軸11の外周面に完全に密着していると、ダストリップ4よりも内側(ハウジング12内方)の空間9が外気と遮断されるため、この空間9内の圧力が変動しやすく、オイルをシールする上で好ましくないためである。
【0039】
本発明の一実施形態としての回転軸用オイルシールは、上述のように構成されているので、回転軸11が回転すると、シール本体1の内周部1bに設けられたメインシールリップ2,サブシールリップ3が、内周部1bの弾性変形によって、回転軸11の外周面に追従するように適宜変位,変形しながら回転軸11の外周面に安定して摺接して、ハウジング12内部のオイルを確実にシールする。
【0040】
特に、メインシールリップ2は、内周部1bの最も先端1e側(自由端側)に設けられているので、回転軸11の外周面に対して片当たりすることなく安定して摺接する。このため、最も負担の大きいメインシールリップ2や回転軸11外周面の摺接部分の磨耗が抑制される効果や、メインシールリップ2の発熱が抑制される効果が得られる。発熱が抑制されると、発熱によるメインシールリップ2の硬化(劣化)も抑制される。
【0041】
また、例えば、少なくともリップ肉厚Tがリップ長さLの半分未満(W<L/2)というように、リップ長さLを可能な限り大きく、リップ肉厚Tを可能な限り小さく設定しているので、メインシールリップ2における内周部1bの弾性変形が容易になり、メインシールリップ2の回転軸11の外周面に対する追従性がより良くなって、メインシールリップ2や回転軸11外周面の摺接部分の磨耗抑制効果や、メインシールリップ2の発熱抑制効果が一層促進される。
【0042】
また、メインシールリップ2は高い圧力で回転軸11の外周面に摺接するため発熱して硬化しやすいが、このメインシールリップ2は、最もハウジング12内方(オイル側)に位置しているため、メインシールリップ2がハウジング12内のオイルに接触してオイルによって冷却されるようになり、メインシールリップ2の発熱が抑制され、メインシールリップ2の発熱による硬化(劣化)が抑制される。
【0043】
そして、万一、このようなメインシールリップ2がハウジング12内のオイルのスラッジ等を噛み込んでしまった場合には、このメインシールリップ2からその外部(空間8)にオイルが漏出してしまうが、このときには、メインシールリップ2よりもハウジング12の外方に配設されたサブシールリップ3が空間8内からその外部(空間9)へのオイルの漏れを確実に防止する。
【0044】
また、メインシールリップ2は、山型リップが採用されているうえに、サブシールリップ3に比べて大きな締め代H1が与えられていて、さらに、スプリング6によりサブシールリップ3に比べてより強く回転軸11外周面へ圧接されているので、シールを一層確実に行なうことができるとともに、メインシールリップ2がハウジング12内のオイルのスラッジ等を噛み込んで、シール漏れを生じるような事態も生じ難くなる。
【0045】
そして、万一、メインシールリップ2がハウジング12内のオイルのスラッジ等を噛み込んでしまった場合には、このメインシールリップ2からその外部(空間8)にオイルが漏出してしまうが、このときには、メインシールリップ2よりもハウジング12の外方に配設されたサブシールリップ3が空間8内からその外部(空間9)へのオイルの漏れを確実に防止する。
【0046】
また、メインシールリップ2の内周には、漏出防止構造として従来例と同様のネジ7が形成されており、このネジ7が、回転軸11の回転に伴って、メインシールリップ2と回転軸11との間でオイルを大気側(ハウジング外部)からオイル側(ハウジング内部)に向けて駆動する(図3の矢印A1,A2参照)ので、メインシールリップ2からオイルが漏出するのを積極的に防止する。また、メインシールリップ2の外の空間8内にオイルが漏出してしまった場合にも、この漏出したオイルをネジ7がハウジング12内へ戻すようにも作用する。さらに、このネジ7は、メインシールリップ2が噛み込んでしまったスラッジ等をオイルと共にハウジング12内へ戻してしまうような作用も期待できる。
【0047】
一方、サブシールリップ3よりもハウジング12の外方には、ダストリップ4が配設されているので、ハウジング12の外方から内方へのダストの進入が防止される。
また、このダストリップ4が回転軸11の外周面に完全に密着していると、ダストリップ4よりも内側(ハウジング12内方)の空間9が外気と遮断されるため、この空間9内の圧力が変動しやすく、例えばネジ7の作用によって空間8内が大きく減圧されると空間9内の圧力も大きく低下してしまう。これは、オイルシール上好ましくない。つまり、空間8内が大きく減圧されると、この影響で、ヒゲ型リップのダストリップ4が変形して先端部にめくれ等が生じては隙間が発生すると空間9内に対しては大幅に高圧の大気側からダストを吸い込んでしまうおそれがある。
【0048】
これに対して、本ダストリップ4は、その頂面4cの全周又は一部が回転軸11の外周面から微小に離隔するように設定されており、回転軸11の外周面に完全に密着していないので、空間9内はほぼ大気圧状態とされ、大気側からのダストの吸い込みが防止されるのである。もちろん、ダストリップ4と回転軸11の外周面との隙間は微小であるため、空間9内に空気は進入してもダストの進入は阻止される。
【0049】
そして、万一、ダストリップ4をダストが進入してこのダストをサブシールリップ3が噛み込んでしまった場合には、サブシールリップ3からでオイルが漏出してしまうおそれが生じるが、基本的に、サブシールリップ3よりもハウジング12の内方に配設されたメインシールリップ2がハウジング12内のオイルのシールして、サブシールリップ3側(空間8内)にはオイルが漏出しないので、サブシールリップ3からでオイルが漏出してしまうことはない。
【0050】
また、上述のように、メインシールリップ2及びサブシールリップ3には、ヒゲ型リップに比べて型成形時の型抜きの容易な山型リップが採用されているので、本オイルシールは加工性も極めてよく、比較的低コストで精度が高く高品質なものを製造することができる利点もある。
なお、上述の実施形態は一例であって、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態を種々変形して実施することができる。
【0051】
例えば、漏出防止構造としてのネジ7は、漏出してしまったオイルを戻すことも考慮するとメインシールリップ2の頂点2cよりも大気側(空間8内)に設けることが効果的であり、この場合、メインシールリップ2の傾斜面2bに限らず、図1に二点鎖線(符号10参照)で示すように、サブシールリップ3の空間8内部分(傾斜面3a)に併設してもよく、図示しないが、サブシールリップ3の空間9内部分(傾斜面3b)に併設してもよい。
【0052】
なお、サブシールリップ3にネジを併設する場合、メインシールリップ2に形成したネジの作用を妨げないように、メインシールリップ2のネジよりも小さいネジを設けるようにする。
また、オイルの漏出を防ぐという意味ではメインシールリップ2のオイル頂点2cよりもオイル側(傾斜面2aの側)に設ける。
【0053】
また、漏出防止構造自体、大気側よりもオイル側が高圧になるように、オイルを加圧し得るものであればよく、ネジに限定されるものではない。
また、本発明はエンジンのクランクシャフトのシールに限定されるものではなく、回転軸のオイルシールに広く適用し得るものであるが、特に、クランクシャフトのように高回転で回転する回転軸に関するオイルシールとして効果的である。
【0054】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の回転軸用オイルシール(請求項1,3)によれば、メインシールリップが該ハウジング内のオイルのスラッジ等を噛み込んでしまった場合には、メインシールリップよりもハウジングの外方に配設されたサブシールリップがハウジング内のオイルを確実にシールし、ダストリップをダストが進入してこのダストをサブシールリップが噛みこんでしまった場合には、サブシールリップよりもハウジングの内方に配設されたメインシールリップがハウジング内のオイルを確実にシールする。したがって、外気側からのダストやオイルのスラッジ等を噛み込んでしまった場合にも十分なオイルシール性を確保できるようになる。
さらに、メインシールリップ及びサブシールリップが何れも山型断面形状を有する山型リップで構成されることにより、これらのメインシールリップ及びサブシールリップを共に十分な力で回転軸に圧接させることができシール性を向上させることができるうえ、シールする主体となるメインシールリップが、サブシールリップよりも回転軸に強く圧接するので、シール性を一層向上させることができる。また、山型リップの採用によって、本オイルシールを型成形によって容易に製造できるようになる。
【0055】
また、該メインシールリップ、又は、該メインシールリップと該サブシールリップとの間に、該回転軸の回転に伴ってオイルを該ハウジングの内方に駆動する漏出防止構造をそなえること(請求項1,3)によって、該メインシールリップから該ハウジングの外方へのオイルの漏出が防止され、該メインシールリップへのオイルスラッジ等の噛み込み防止効果も期待でき、オイルシールの性能向上に寄与する。
また、メインシールリップとサブシールリップとに漏出防止構造としてのネジを設け、サブシールリップのネジをメインシールリップのネジよりも小さいネジを設けるようにするなど、メインシールリップの近傍の漏出防止構造の吸い込み力の方を、サブシールリップ側の漏出防止構造の吸い込み力よりも大きくなるように設定すること(請求項1)により、メインシールリップに形成したネジ等の漏出防止構造の作用を妨げないようにすることができる。
また、メインシールリップの頂点よりもハウジングの外方の傾斜面に、回転軸の回転に伴ってオイルをハウジングの内方に駆動する漏出防止構造としてのネジをそなえていること(請求項3)により、オイルの漏出を防ぎやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態としての回転軸用オイルシールを示す部分縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態としての回転軸用オイルシールの取付状態を示す部分縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態としての回転軸用オイルシールの内周面を示す展開図である。
【図4】第1の従来例の回転軸用オイルシールを示す部分縦断面図である。
【図5】第2の従来例の回転軸用オイルシールの取付状態を示す部分縦断面図である。
【符号の説明】
1 シール本体
2 メインシールリップ
3 サブシールリップ
4 ダストリップ
7,10 漏出防止構造としてのネジ
11 回転軸
12 ハウジング

Claims (6)

  1. ハウジングを貫通するように設けられた回転軸の軸周りで、該ハウジング内のオイルをシールする回転軸用オイルシールであって、
    該ハウジングに固設されたシール本体と、
    該シール本体の内周面から突設されて該回転軸に摺動自在に圧接するメインシールリップと、
    該メインシールリップよりも該ハウジングの外方に配設され該シール本体の内周面から突設されて該回転軸に摺動自在に圧接するサブシールリップと、
    該サブシールリップよりも該ハウジングの外方に配設され該ハウジングの外方から内方へのダストの進入を防止するダストリップとをそなえるとともに、
    該メインシールリップの近傍と該サブシールリップの近傍とに、それぞれ該回転軸の回転に伴ってオイルを該ハウジングの内方に駆動する漏出防止構造をそなえ、
    該メインシールリップの近傍の漏出防止構造の吸い込み力の方が、該サブシールリップの近傍の漏出防止構造の吸い込み力よりも大きくなるように設定されている
    ことを特徴とする、回転軸用オイルシール。
  2. 上記の各漏出防止構造はネジであって、
    該サブシールリップのネジは該メインシールリップのネジよりも小さい
    ことを特徴とする、請求項1記載の回転軸用オイルシール。
  3. ハウジングを貫通するように設けられた回転軸の軸周りで、該ハウジング内のオイルをシールする回転軸用オイルシールであって、
    該ハウジングに固設されたシール本体と、
    該シール本体の内周面から突設されて該回転軸に摺動自在に圧接するメインシールリップと、
    該メインシールリップよりも該ハウジングの外方に配設され該シール本体の内周面から突設されて該回転軸に摺動自在に圧接するサブシールリップと、
    該サブシールリップよりも該ハウジングの外方に配設され該ハウジングの外方から内方へのダストの進入を防止するダストリップとをそなえるとともに、
    該メインシールリップの頂点よりも該ハウジングの外方の傾斜面の側に、該回転軸の回転に伴ってオイルを該ハウジングの内方に駆動する漏出防止構造としてのネジをそなえている
    ことを特徴とする、回転軸用オイルシール。
  4. 該メインシールリップ及び該サブシールリップが何れも山型断面形状を有する山型リップで構成され、該メインシールリップが、該サブシールリップよりも該回転軸に強く圧接するように構成されている
    ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転軸用オイルシール。
  5. 該メインシールリップの外周近傍に、該メインシールリップを該回転軸に圧接するためのスプリングを設けられている
    ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の回転軸用オイルシール。
  6. 該シール本体は、該ハウジングに形成された装着穴の内周に嵌着され芯材が内蔵される外周部と、該外周部よりも内側に該外周部のハウジング外方側端部からハウジング内方へ向けて形成された内周部とをそなえ、
    該内周部に該メインシールリップと該サブシールリップとが設けられ、該内周部の肉厚が、該内周部の長さの1/2以下に設定される
    ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の回転軸用オイルシール。
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