JP4109663B2 - 工業窯炉補修用溶射材 - Google Patents

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本発明は、工業窯炉の内張りの補修において、金属粉の燃焼発熱を利用した溶射方法に使用される溶射材に関するものである。
工業用窯炉の炉壁補修として、耐火原料粉の溶射法がある。溶射法には火炎溶射、プラズマ溶射、レーザー溶射が知られているが、これらはいずれも大掛かりな装置を必要とし、設備費が高く、しかも操作が煩雑である。
これに対し、耐火原料粉および金属粉を主材として含む溶射材を酸素による搬送ガスにて被施工面に吹付け、前記金属粉の燃焼発熱を利用して耐火原料を溶融付着させる方法は、装置構造が比較的簡単であり、その上、操作も容易である。また、プラズマ溶射、レーザー溶射に比べて大容量の施工が可能であり、炉壁補修に適している。
金属粉の燃焼発熱を利用したこの溶射方法において、それに使用される溶射材の一般的な材質は、シリカ粉よりなる耐火原料粉と発熱材の金属Si粉を主材としている。発熱材は、他にAl−Mg合金、Ca−Si合金の使用が知られている。
特開2000−159579号公報 特開平5−330931号公報 特開平5−17237号公報
この金属粉の燃焼発熱を利用した溶射法は、吹付け開始時に種火または炉壁残熱で溶射材配合中の金属粉の燃焼によって溶射材が着火し、次いでこの燃焼による発熱が火種となって順次吹付けられる溶射材が連続して燃焼し、溶射材が溶融付着される施工法である。
しかし、従来の溶射材は被施工面が常温あるいは例えば炉口等の残存温度が低い箇所等では着火しても連続燃焼が得られず、溶融不足が原因して付着性、接着性およびに施工体強度が低下する。また、施工体強度においてさらなる改善が強く望まれている。
発熱材として高発熱性のAl−Mg合金、Ca−Si合金等を使用した金属粉を発熱材とした場合は、接着性および付着性の向上が認められるが、その効果は格別なものではない。これは、溶射材自体の受熱面積が限られていることに加え、耐火性原料粉中で金属粉が分散状態にあるため、金属粉が高発熱性であったとしても、その発熱による熱量が溶射材組織全体に十分に伝播されないためと考えられる。
また、高発熱性の金属粉は自然発火も懸念され、厳しい管理が必要となる。その結果、作業安全性の問題に加え、これに対応した設備、取り扱いの必要性から溶射材がコスト高となる。
金属Si粉を使用した場合でもその添加量を増やすと被施工体の温度が低くても安定した連続燃焼を示す。しかし、金属粉の量が増えることで施工時に金属粉の発塵が著しく、作業環境の悪化を招く。また、金属粉の酸化に伴う多量のガス発生が原因し、施工体が多孔質化による強度低下を招く。
本発明は上記従来の問題を解決した溶射材を提供することを目的とする。その特長とするところは、以下のとおりである。
(1)耐火原料粉および金属Si粉を主材とし、酸素を搬送ガスとして被施工面に吹付け、前記金属Si粉の燃焼発熱で被施工面に溶融付着させる溶射材であって、化学成分値がMgO含有量25質量%以上のマグネシア粉、マグネシア−カルシア粉から選ばれる1種または2種のマグネシア質粉5〜25質量%、金属Si粉5〜30質量%およびシリカ質粉50〜90質量%を含み、且つ前記耐火原料粉が前記のマグネシア質粉およびシリカ質粉よりなり、化学成分値で溶射材組成全体に占めるMgO成分を4.3〜24.6質量%とした連続着火性に優れた工業窯炉補修用溶射材。
(2)マグネシア質粉の粒度が0.5mm以下、シリカ質粉の粒度が2mm以下で且つ0.3mm以下の占める割合を0〜15質量%、金属Si粉の粒度が75μm以下とした前記(1)項記載の工業窯炉補修用溶射材。
(3)前記(1)または(2)項記載の工業窯炉補修用溶射材において、さらにアルミナ−シリカ質粉、アルミナ質粉、カルシア−シリカ粉、コ−デェライト粉から選ばれる1種または2種以上を10質量%以下含む工業窯炉補修用溶射材。
本発明は金属Si粉および耐火原料粉を主材とした溶射材に、マグネシア粉、マグネシア−カルシア粉から選ばれる1種または2種よりなる特定量のマグネシア質粉を組み合わせたものである。施工時においては金属Si粉が搬送ガスの酸素と反応してSiO成分を生成した後、さらにこのSiO成分とマグネシア質粉との反応(MgO+SiO→MgO・SiO)によってシリカ質粉の溶融が促進され、付着性および接着性が向上する。しかも、前記反応で生成されたMgO・SiOの耐火ボンド組織によって、緻密且つ高強度の施工体組織を形成する。
また、シリカ質粉のみを耐火原料粉とした従来材質で形成される施工体の成分はSiOであるが、これに対し、本発明材質で形成される施工体成分のMgO・SiOは蓄熱性が格段に高い。本発明の溶射材はこの高蓄熱のMgO・SiOの施工体上に順次吹付けられることで燃焼が安定し、常温あるいは比較的低温の被補修面に対する施工においても失火することなく、連続燃焼する。
また、本発明で使用する発熱材は金属Si粉である。高発熱性金属粉の使用で見られる自然発火の危惧もなく、作業安全性にも優れている。
本発明の溶射材について、マグネシア質粉の粒度は0.5mm以下が好ましい。これは、粒度が0.5mm以下においては金属Si粉から生成したSiO成分及びシリカ質粉と反応しやすくなってMgO・SiO質の液相の生成量が増し、成形体の緻密化が向上するためである。また、粒度は0.5mm以下であることで、マグネシア質粉の吹付け時の跳ね返り損失が少なくなって付着性にも好ましい。
シリカ質粉の粒度は2mm以下で且つ0.3mm以下の占める割合は0〜15質量%であることが好ましい。これは、粒度0.3mm以下のシリカ質粉はマグネシア質粉と違って金属Si粉に付着しやすく、この粒度0.3mm以下のシリカ質粉の割合が多くなると金属Si粉と酸素との接触面積が低減する。その結果、施工開始時に着火し難くなり、また、着火しても粉体供給量が僅かでも大きくなると連続燃焼がし難くなるためである。
本発明の溶射材は、金属粉の燃焼発熱を利用した溶射方法において、付着性および接着性が向上する。しかも、緻密且つ高強度の施工体組織を形成する。しかも、施工体の蓄熱性が格段に高いことで連続着火性に優れ、比較的低温の被補修面に対する溶射においても失火することなく、安定した施工が可能となる。
また、マグネシア質粉およびシリカ質粉に特定化した場合は付着性、連続着火性が一層優れ、施工体の緻密化もさらに向上する。
本発明の溶射材に耐火性原料として使用するマグネシア質粉の具体例は、マグネシア粉、マグネシア−カルシア粉から選ばれる1種または2種以上である。また、これらは焼結品、電融品のいずれでもよい。
マグネシア質粉のMgO含有量は25質量%以上であることが必要であり、MgO含有量がこれより少ないとマグネシア質粉とSiOとの反応性に乏しく、MgO・SiOの生成量が少ないために施工体の蓄熱性が不足し、燃焼発熱が安定せず、被施工面の温度が低い場合には燃焼発熱が連続しない。マグネシア質粉のMgO含有量のさらに好ましい範囲は40質量%以上である。
マグネシア質粉の粒度はSiO成分と充分に反応させるために0.5mm以下にすることが好ましい。さらに好ましくは0.3mm以下である。
マグネシア質粉の使用割合は5〜25質量%とする。質量%未満では被施工体の温度が低い場合は連続燃焼が安定せず、付着性および接着性に劣る。25質量%を超えるとその分、金属Si粉あるいはシリカ質粉が減り、金属Si粉、シリカ質粉の各特性が損なわれる。
金属Si粉の使用量は、5質量%未満では燃焼発熱に劣り、付着性、接着性、施工体強度ともに劣る。30質量%を超えると施工時に金属粉の発塵が著しく、作業環境の悪化を招くだけでなく金属粉の酸化に伴うガスの発生が原因し、施工体を多孔質化する。また、この金属Si粉の粒度は充分な反応性を得るために平均粒で75μm以下が好ましく、さらに好ましくは45μm以下である。
耐火原料粉の主材としてシリカ質粉を使用する。シリカ質粉の具体例は珪石粉、珪砂、天然石英粉、溶融シリカ粉、あるいはこれらの成分を主体とした耐火物粉等が挙げられる。その使用割合は50質量%未満では溶射施工体の容積安定性に劣り、接着性が低下する。90質量%を超えると吹付け時の跳ね返り損失が大きくなり付着性が低下する。
このシリカ質粉の粒度は溶融性の面で2mm以下であることが好ましい。粒度2mm以下の範囲であれば、例えば1.5mm以下あるいは1mm以下に限定しても溶融において大差が無い。
また、シリカ質粉は0.3mm以下粒度を0〜15質量%に調整することが好ましい。すなわち、窯業操作において耐火原料の粒度の調整は、粉砕した後に篩をもって行うため、篩下には自ずと一定量の微粒が存在する。例えば粒度2mmでの篩下には粒度0.3mm以下の粒子が20〜30質量%含まれるのが常である。ここではその篩下の粒度0.3mm以下の粒度の量を規制したものである。0.3mm以下のシリカ質粉の割合が多くなると金属Si粉と酸素との接触面積が低減し、その結果、施工開始の着火し難くなると共に、着火しても粉体供給量が僅かでも大きくなると連続燃焼がし難くなる。
ここで、シリカ質粉は0.3mm以下粒度を0〜15質量%の限定は、粒度調整の操作において例えば0.5mm以下あるいは0.1mm以下の粒度の粒子を除去した場合でも、結果としてシリカ質粉全体に占める粒度0.3mm以下の粒子が0〜15質量%であることを意味している。
また、本発明の溶射材は、化学成分値で溶射材全体に占めるMgO成分の割合を4.3〜24.6質量%とする。MgO成分はケイ石質等の天然のシリカ質原料にも含まれるがそこでの含有量がごく微量である。本発明でのMgO成分源は実質的にマグネシア質粉からの供給である。
溶射材全体に占めるMgO成分が4.3質量%未満では熱源の少ない補修箇所に対しての着火持続効果が得られず、失火あるいは接着不良等、安定した施工が困難となる。MgO成分は熱膨張係数が大きいため、その割合が24.6質量%を超えると被施工体との熱膨張差によって被施工体面である炉壁内張り亀裂の発生の原因となる。
本発明の溶射材は本発明の効果を阻害しない範囲において、前記した以外の耐火性原料粉、金属粉、その他原料を組み合わせて使用してもよい。耐火性原料粉の具体例としてはカルシア質粉、アルミナ−シリカ質粉、アルミナ質粉、カルシア−シリカ質粉、コーデェライト粉から選ばれる1種または2種以上である。その他原料としてはセメント類、製鋼スラグ、製銑スラグ等である。これらを例えば10質量%以下の範囲で組み合わせてもよい。
金属Si粉以外の金属粉の例としては、Al粉、Al−Mg合金粉等がある。これらの金属粉は高発熱性のために作業安全性から使用しないことが好ましいが、使用する場合でも作業安全性から5質量%未満、好ましくは3質量%以下に止めることが必要である。また、その使用量は、金属Si粉を含めた金属粉の合計量が30質量%を超えないことが必要である。
本発明による溶射材は、コークス炉を始めとする各種鉄鋼工業炉、非鉄金属工業炉、ガラス炉、鋼工業窯炉等の炉壁補修に使用される。
以下に本発明の実施例と比較例を示す。表1は本発明実施例、表2はその比較例であり、同表には各例の試験結果も併せて示す。
Figure 0004109663
Figure 0004109663
各例の溶射材の施工に使用した溶射装置は、ノズル先端等からの逆火による材料タンク内での溶射材の燃焼の危険性に備えるため、材料タンク内に不活性ガスである窒素ガスを導入した。溶射材は、タンクの底部に備え付けたテーブルフィーダーをもって切り出し、酸素で搬送した。その際、酸素には材料タンク内からの不活性ガスが混入するが、その量は僅かであり、溶射材の燃焼発火に支障はない。
各例は粉体供給速度50Kg/h、被施工体とノズル先端の距離50〜70mmをもって、溶射材3Kgを被施工体に吹付けた。被施工体はコークス炉の炉口耐火物の補修を想定してシャモット質れんがとした。
常温と熱間(被施工体の表面温度800℃)のそれぞれの条件下で吹付け、評価した。常温施工はパイロットバーナーで溶射材に着火した。熱間施工では各例とも、パイロットバーナーを使用することなく被施工体の熱で溶射材を燃焼させた。
連続着火性:溶射施工では、施工面積を広げるためノズルを被施工面上に沿って移動することが行われる。その際の連続着火性を試験した。◎…施工効率を上げるために被施工面上でのノズルの移動を速くしても失火の気配は全くなく、きわめて安定した燃焼を示した。△…被施工面上でのノズル移動が速いと燃焼が間断的になり不安定である。×…ノズルを早く移動させるとたちまち失火し、連続着火しない。
付着性:常温下での溶射材のノズルからの吐出量と跳ね返り損失から、付着率を求めた。
接着性:常温下での吹き付けにおいて溶射施工体の接着性の程度をも測定した。○…熱間、冷却後共に接着性良好、△…熱間時には接着しているが冷却時に剥離、×…熱間時に既に剥離。
緻密性:前記溶射施工体から切り出した試料について、見掛気孔率を測定した。
強度:前記溶射施工体から切り出した試料について圧縮強度を測定した。
表1に示す試験結果の通り、本発明実施例の溶射材はいずれも付着性および接着性に優れており、しかも緻密且つ高強度な施工体を形成する。また、常温での被補修面に対する溶射においても安定した連続燃焼を示す。中でもマグネシア粉の粒度を特定化し、且つシリカ粉の0.3mm以下を低減した実施例では付着性、緻密性及び強度においてより一層優れている。
これに対してマグネシア質粉を含まない比較例1、2及びコーデェライト粉を使用した比較例3はいずれも常温下での着火持続性に劣り、しかも得られた施工体は緻密性及び強度が不充分である。
比較例4は発熱材にAl−Mg合金を使用したものであり、連続着火性には優れるが特に緻密性及び強度に大きく劣る。
比較例5はマグネシア質粉の使用量が少なく、常温下での連続着火性が安定せず、その結果、付着性に劣り、しかも得られた施工体は緻密性、強度共に不充分である。
比較例6はマグネシア質粉の量が多過ぎるため、MgO成分の高熱膨張が原因し、被施工体との膨張差で被施工体であるれんが内部からの亀裂による剥離が見られ、接着性に劣る。
金属Si粉の量が多過ぎる比較例7は、緻密性に大きく劣り施工体としての強度が極めて低い。

Claims (3)

  1. 耐火原料粉および金属Si粉を主材とし、酸素を搬送ガスとして被施工面に吹付け、前記金属Si粉の燃焼発熱で被施工面に溶融付着させる溶射材であって、化学成分値がMgO含有量25質量%以上のマグネシア粉、マグネシア−カルシア粉から選ばれる1種または2種のマグネシア質粉5〜25質量%、金属Si粉5〜30質量%およびシリカ質粉50〜90質量%を含み、且つ前記耐火原料粉が前記のマグネシア質粉およびシリカ質粉よりなり、化学成分値で溶射材組成全体に占めるMgO成分を4.3〜24.6質量%とした連続着火性に優れた工業窯炉補修用溶射材。
  2. マグネシア質粉の粒度が0.5mm以下、シリカ質粉の粒度が2mm以下で且つ0.3mm以下の占める割合を0〜15質量%、金属Si粉の粒度が75μm以下とした請求項1記載の工業窯炉補修用溶射材。
  3. 請求項1または2記載の工業窯炉補修用溶射材において、さらにアルミナ−シリカ質粉、アルミナ質粉、カルシア−シリカ粉、コ−デェライト粉から選ばれる1種または2種以上を10質量%以下含む工業窯炉補修用溶射材。
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