JP4095337B2 - ミシン - Google Patents

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JP4095337B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ミシンに関し、特に、糸切り機構、押え上げ機構および糸払い機構を備えるミシンに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、縫製作業終了直後に下糸を切断するための糸切り機構と、布押え装置を上方に移動させる押え上げ機構と、上糸を払う糸払い機構と、を備えたミシンが提案され、実用化されている。かかるミシンにおいては、糸切り機構と押え上げ機構とを共通の駆動手段で駆動して、糸切り動作と、布押え装置を上方に移動させる動作(以下、「押え上げ動作」という)と、を連動させる構成を有するものが提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記した従来のミシンにおいては、糸払い機構が、糸切り機構(および押え上げ機構)とは別の駆動手段で駆動されており、糸切り動作後に必要に応じて糸払い動作が行われていた。従って、糸切り機構(および押え上げ機構)を駆動する駆動手段と、糸払い機構を駆動する駆動手段と、を別々に設けて各々を制御する必要があるため、機構および制御が複雑になっていた。このため、場合によっては糸払い動作のタイミングがずれてサイクルタイムの遅れが発生することがあった。
【0004】
ところで、前記したミシンを用いて縫製作業を行う際には、1つの縫目の形成後、この縫目の近傍に続けて別の縫目を形成するような場合がある。例えば、4つ穴ボタンを布地に縫いつける際に、まず4つ穴のうち2つ穴を通る縫目を形成し、渡り糸を残さないために糸切りを行った後に残りの2つ穴を通る縫目を形成する場合がある。かかる場合には、最初の2つ穴を通る縫目を形成してから残りの2つ穴を通る縫目を形成するまで、布押え装置を上方に移動させずに、布地を保持したまま連続して縫製作業を行う方がよい。
【0005】
また、見かけ上最初の縫目と次の縫目の間に連なる渡り糸が形成されることが好ましくない場合には、最初の縫目形成の後に、糸切り動作および糸払い動作を行う必要がある。
【0006】
しかし、前記した従来のミシンにおいては、最初の縫目を形成した後に糸切り動作および糸払い動作を行うと、押え上げ機構も連動し、布押さえが一旦外れ、これにより布がずれ、次の縫目の開始位置が所望の位置よりずれてしまうという問題が生じた。
【0007】
特に、布押え装置がボタンを挟持した状態で布を押さえるタイプのミシンでは、布押え装置が上方に移動するとボタンと布がともに上がってしまい、次に布押え装置を下降させても、ボタンがずれてしまったり布地が折り重なったりする場合があった。かかる場合には、縫目を形成しようとすると針が折れるといった不具合が発生し、縫製作業が中断することがあった。
【0008】
本発明の課題は、糸切り機構、押え上げ機構および糸払い機構とを有するミシンにおいて、機構や制御の簡素化を図りつつサイクルタイムの遅れを防止するとともに、必要に応じて押え上げ機構の作動を抑制することによって縫製作業の効率化を図ることである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
以上の課題を解決するため、請求項1記載の発明は、例えば図1から図11、図12、図14に示すように、
可動刃(15d)を有する糸切り機構(10)と、布押え(71)を上昇させる押え上げ機構(30)と、糸払い片(ワイパ58)を有する糸払い機構(50)と、これら各機構を駆動する駆動手段と、を備えるミシンにおいて、
前記駆動手段は、単一の駆動モータ(パルスモータ80)であり、
前記駆動モータの回転駆動力を前記糸切り機構に対応した駆動力に変換する糸切り作動部(X2)を有する第1カム(61)と、
一端が前記第1カムの前記糸切り作動部を摺動し他端が前記糸切り機構に連結される第1連結部材(糸切りリンク11)と、
前記駆動モータの回転駆動力を前記糸払い機構に対応した駆動力に変換する糸払い作動部(Y2)、および、前記駆動モータの回転駆動力を前記押え上げ機構に対応した駆動力に変換する押え上げ作動部(Y2)を有し、前記第1カムに対して所定の位相差をもって配置される第2カム(62)と、
一端が前記第2カムの前記糸払い作動部および前記押え上げ作動部を摺動し他端が前記糸払い機構および前記押え上げ機構に連結される第2連結部材(押え上げリンク31)と、を備え、
前記第1カムと前記第2カムとの前記所定の位相差は、
前記糸切り機構による糸切り動作が終了してから前記糸払い機構が作動するように構成されるとともに、前記駆動モータの回転によって前記糸切り機構、前記糸払い機構、前記押え上げ機構がこの順で作動するように構成され
前記第1カム(61)と前記第2カム(62)とは、
前記糸切り機構(10)、前記糸払い機構(50)および前記押え上げ機構(30)の何れをも作動させない不作動領域を含むように構成され、
前記第1カムの前記糸切り作動部(X2)、前記第2カムの前記糸払い作動部(Y2)および前記押え上げ作動部(Y2)は、
前記糸切り機構、前記糸払い機構および前記押え上げ機構の動作が前記駆動モータ(パルスモータ80)の回転方向に関わらず同一となるように各々対称形に構成され、
前記糸切り機構、前記糸払い機構および前記押え上げ機構をこの順で作動させる回転方向に前記駆動モータを回転させる第1制御モードと、前記糸切り機構および前記糸払い機構をこの順で作動させる回転方向に前記駆動モータを回転させた後、前記押え上げ機構を作動させる前に前記駆動モータを反対方向に回転させて前記駆動モータの回転位置を前記不作動領域に位置させる第2制御モードと、を自在に切り替えて実現させる制御手段(CPU90)を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項1記載の発明によれば、糸切り機構、押え上げ機構および糸払い機構を駆動する駆動手段が単一の駆動モータであるとともに、この駆動モータの回転駆動力を糸切り機構に対応した駆動力に変換する糸切り作動部を有する第1カムと、一端が第1カムの糸切り作動部を摺動し他端が糸切り機構に連結される第1連結部材と、駆動モータの回転駆動力を糸払い機構に対応した駆動力に変換する糸払い作動部および駆動モータの回転駆動力を押え上げ機構に対応した駆動力に変換する押え上げ作動部を有する第2カムと、一端が第2カムの糸払い作動部および押え上げ作動部を摺動し他端が糸払い機構および押え上げ機構に連結される第2連結部材と、を備え、第1カムと第2カムとの位相差は、糸切り機構による糸切り動作が終了した後に糸払い機構が作動するように構成されるとともに、駆動モータの回転によって糸切り機構、糸払い機構および押え上げ機構がこの順で作動するように構成されている。
【0011】
このように、単一の駆動モータによって、機械的に糸切り動作、糸払い動作および押え上げ動作の3つの動作をずらして連続的に行うことができるので、従来のように、糸切り機構(および押え上げ機構)を駆動する駆動手段と、糸払い機構を駆動する手段と、を別々に設けて各々を制御する必要がない。従って、これら糸切り機構、糸払い機構および押え上げ機構を常に一定のタイミングで作動させることができ、例えば、糸切り動作および糸払い動作終了時から押え上げ動作開始時までの遅れ時間を、常に一定にすることができる。この結果、サイクルタイムの遅れを防止することができる。
【0012】
また、請求項1記載の発明によれば、糸切り機構、押え上げ機構および糸払い機構を駆動する駆動手段が単一の駆動モータであるので、糸切り機構(および押え上げ機構)を駆動する駆動手段と、糸払い機構を駆動する手段と、を別々に設ける必要がない。従って、ミシンの低コスト化を達成することができる。
【0014】
請求項記載の発明によれば、第1カムの糸切り作動部、第2カムの糸払い作動部および押え上げ作動部は、糸切り機構、糸払い機構および押え上げ機構の動作が駆動モータの回転方向に関わらず同一の動作となるように各々対称形に構成されているので、駆動モータを正逆いずれの方向に回転させても、同一の糸切り動作、糸払い動作および押え上げ動作を行わせることができる。従って、円滑な縫製作業を実現することができる。
【0015】
また、請求項記載の発明によれば、糸切り機構、糸払い機構および押え上げ機構をこの順で作動させる回転方向に駆動モータを回転させる第1制御モードと、糸切り機構および糸払い機構をこの順で作動させる回転方向に駆動モータを回転させた後、押え上げ機構を作動させる前に駆動モータを反対方向に回転させて駆動モータの回転位置を不作動領域に位置させる第2制御モードと、を自在に切り替えて実現させる制御手段を備えるので、種々の状況に対応した的確な縫製作業を行うことができる。
【0016】
従って、例えば、渡り糸を残さずに4つ穴ボタンを布地に縫いつける場合のように、布押え装置の布押えを上方に移動させずに布地を保持したまま連続して縫製作業を行うことが好ましい場合には、まず、制御手段で第2制御モードを実現させることによって2つ穴を通る縫目を形成し、その後に糸切り機構および糸払い機構を作動させるとともに押え上げ機構の作動を抑制し、次いで、制御手段で第1制御モードを実現させることによって残りの2つ穴を通る縫目を形成することができる。このため、押え上げ機構が作動して布押え装置の布押えが上方に移動することに起因する布地のずれ等の不具合が発生しないので、縫製作業の効率化を図ることができる。
【0017】
また、見かけ上最初の縫目と次の縫目の間に連なる渡り糸が形成されることが好ましくない場合においても、まず、制御手段で第2制御モードを実現させることによって、最初の縫目を形成した後に糸切り動作および糸払い動作を作動させるとともに押え上げ機構の作動を抑制し、次いで、次の縫目を形成した後に制御手段で第1制御モードを実現させることによって、最終的に布押えを上昇させて縫製を完了することができる。このため、最初の縫目と次の縫目の間に連なる渡り糸が形成されることがないので、縫製品の品質を向上させることができる。
【0018】
請求項記載の発明は、請求項記載のミシンにおいて、
前記第2制御モードにおける前記糸払い機構(50)の作動の際に、前記糸払い機構の前記糸払い片(ワイパ58)の可動領域を変更する可動領域変更手段(CPU90)を備えることを特徴とする。
【0019】
請求項記載の発明によれば、第2制御モード(すなわち、糸払い機構の作動に引き続き押え上げ機構を作動させない場合)における糸払い機構の作動の際に、糸払い機構の糸払い片の可動領域を変更する可動領域変更手段を備えるので、縫製を施す布地の厚さや、縫製に使用する糸の太さ等に応じて、糸払い片の可動領域を適宜設定することができる。従って、糸払い片の必要以上の揺動を抑止して糸払い片の揺動に要する時間を短縮し、縫製能率を向上させることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
本実施の形態においては、本発明に係るミシンの一例として、本縫いによりジグザグ縫いなどを形成する閂止めミシンについて説明することとする。本実施の形態に係る閂止めミシンは、図示しないメモリに記憶されている所定の縫製パターンに従って縫い針とボビンとの協働により縫製を行い、縫製後は、縫製パターン内に含まれる糸切りコマンドや押え上げコマンドに従って所定のタイミングで糸切り・押え上げの動作を開始するものである。
【0022】
本実施の形態に係る閂止めミシンは、上下糸を縫製作業終了直後に切断するための糸切り機構10と、縫製作業の前後に布押え装置70の布押え71を上昇させる押え上げ機構30と、糸切り機構10によって上糸が切断された後であって布押え装置70の布押え71が上昇する前に、縫い針から布地に連なる上糸を払って縫い針側の糸端を布地上に引き出す糸払い機構50と、を備えている。以下、図1ないし図10を用いて、これら糸切り機構10、押え上げ機構30および糸払い機構50について説明する。
【0023】
図1は、糸切り機構10、押え上げ機構30および糸払い機構50の構成を説明するための説明図である。図2は、糸切り機構10を構成する固定メス部材14と可動メス部材15の糸切り時の動作を示す平面図である。図3、図4および図6は、押え上げ機構30および糸払い機構50の拡大斜視図であり、図5および図7は、押え上げ機構30および糸払い機構50の拡大側面図である。
【0024】
また、図8(a)は、(後述する)カム部材60の斜視図であり、図8(b)は、カム部材60の第1カム61を示す平面図であり、図8(c)は、カム部材60の第2カム62を示す平面図である。また、図9および図10は、糸切り・押え上げの動作を説明するためにカム部材60を中心に示した平面図である。
【0025】
まず、糸切り機構10の構成について説明する。糸切り機構10は、糸切りリンク11、糸切り連結棒13、固定メス部材14、可動メス部材15等から構成される。
【0026】
第1連結部材としての糸切りリンク11は、途中でわずかに屈曲した細長い棒状に形成されている。糸切りリンク11の上端部には、図9に示すように、後述するカム部材60の第1カム61のカム溝61aに嵌合する嵌合ピン11aが設けられている。この糸切りリンク11は、屈曲部11bにおいて、図示されていないミシンフレームに、支持ピン12によって回動自在に取り付けられている。
【0027】
糸切りリンク11の下端部11cは、糸切り連結棒13の後端部とともに回動自在な状態で、取付板16に対してネジ17によって取り付けられている。取付板16の端部には、遮光板18aを有する遮光部材18が固定されている。一方、遮光部材18の近傍には、フォトインタラプタ19が、図示されていないミシンフレームに固定されている。このフォトインタラプタ19は、糸切り機構10の原点位置を検出するもので、フォトインタラプタ19の発光素子と受光素子の間に遮光板18aが位置している状態のとき、原点位置にある旨の信号を前記制御回路に出力するようになっている。
【0028】
糸切り連結棒13は、上方に少しずつ向かうように所定箇所で屈曲している細長い棒状の部材であり、その先端部13aは針板2aの下方にまで達している。図2に示すように、先端部13aには、ネジ21を介して可動メス連結部材20が回動自在に連結されている。さらに、可動メス連結部材20上に糸切りレバー23が固定されている。可動メス連結部材20と糸切りレバー23には、針板2aに固定されている連結ピン22が挿通し、可動メス連結部材20と糸切りレバー23は、連結ピン22を中心にともに回動可能となっている。糸切りレバー23の先端には可動メスリンク24の一端部24aが回動自在に接続されている。
【0029】
可動メスリンク24の他端部24bに対して、回動自在に可動メス部材25の中央部分が連結されている。可動メス部材15の端部15aは、止めネジ25に対して回動自在に取り付けられている。止めネジ25は針板2aに固定されている。可動メス部材15の先端には、切断動作時に上糸および下糸を切断することなく払う糸払い部15bと、糸払い部15bで払った糸を捕捉するもので内側に湾曲している糸捕捉部15cと、さらに糸を切断するための可動刃15dが形成されている。可動メス部材15の近傍には、針板2aにネジ止めされている固定メス部材14が設けられ、固定メス部材14の先端には、可動刃15dとの間で上糸および下糸を挟持しこれを切断する固定刃14aが形成されている。
【0030】
次に、糸切り機構10の動作について説明する。前記した構成を要する糸切り機構10は、縫製中は図2(a)の状態であって、縫製が終了すると、後述する押え上げ機構30の動作前に、カム部材60によって、糸切りリンク11が支持ピン12を中心に図1の反時計方向(矢印A方向)に回動し、その下端部は前方に移動する。これによって、図2(b)に示すように、糸切り連結棒13が前方に移動して、ネジ21を介して可動メス連結部材20が押されることから、連結ネジ22を中心に可動メス連結部材20及び糸切りレバー23が回転する。
【0031】
この糸切りレバー23の動作により、その先端に接続された可動メスリンク24が後方に押され、可動メス部材15は止めネジ25を中心に時計方向に回転する。この回転動作により、糸払い部15bによって、上糸および下糸がさばかれ、切断すべき上糸および下糸のみが糸捕捉部15cと固定刃14aとの間に位置するようになる。
【0032】
一方、糸切りリンク11が支持ピン12を中心に時計方向に回動し、その下端部が後方に戻ると、糸切り機構10を構成する各部材が逆の動作をする。つまり、可動メス部材15は、図2(b)の状態から元に戻るように回転動作し、そのとき糸捕捉部15cによって上糸および下糸を捕捉しながら回動することで、固定刃14aに上糸および下糸が近づいていき、図2(c)に示すように、可動刃15dと固定刃14aが合致し、糸が切断される。可動メス部材15はそのまま逆転を続け、図2(a)の状態に戻る。
【0033】
次いで、押え上げ機構30の構成について説明する。押え上げ機構30は、押え上げリンク31、押え駆動リンク32、押え駆動腕35、押え駆動脚36等から構成される。
【0034】
第2連結部材としての押え上げリンク31は、略くの字型に形成され、屈曲部31bにおいて、図示されていないミシンフレームに、支点ピン42によって回転自在に取り付けられている。押え上げリンク31の下端部31cにはコロ43(図9参照)が固定され、このコロ43は後述するカム部材60の第2カム62のカム面62a(図8(a)、(c)参照)に当接している。
【0035】
なお、図1には示されていないが、押え上げリンク31には、裏面側に突出させた小ピンが設けられている。この小ピンには巻きバネ44が掛けられており、押え上げリンク31は、この巻きバネ44によりコロ43が第2カム62のカム面62aに当接するよう常に付勢されている。押え上げリンク31の上端部31aには、押え駆動リンク32の一端部32aが回動自在に連結されている。
【0036】
押え駆動リンク32は、長尺な平棒状の部材であり、その他端部32bは、連動アーム33の下端部に回動自在に接続されている。押え駆動リンク32の一端部32aの近くの側面には、水平方向に曲げられた遮光板41aを有する遮光部材41が固定されている。一方、その遮光部材41の近傍には、発光素子と受光素子からなるフォトインタラプタ40が、図示されていないミシンフレームに固定されている。このフォトインタラプタ40は、押え上げ機構30の原点位置を検出するもので、フォトインタラプタ40の発光素子と受光素子の間に遮光板41aが位置している状態のとき、原点位置にある旨の信号を図示しない制御回路に出力するようになっている。
【0037】
連動アーム33は、その上端部において、図示されていないフレームに回転自在に支持された軸部材34に対して、抱き締め固定されており、さらに軸部材34に対して、連動アーム33の裏側において、横長に形成された押え駆動腕35が抱き締め固定され軸部材34を支点として揺動するようになっている。従って、連動アーム33が軸部材34を支点として揺動すると、押え駆動腕35も、連動アーム33の揺動に連動して軸部材34を支点として揺動するようになっている。この押え駆動腕35の前端部35aには、上下に長い押え駆動脚36が回動自在に連結されている。
【0038】
押え駆動脚36は、水平方向の断面が略コ字状に形成され、その下縁部36aは下降した際に、後述する布押え装置70の当接ピン73cに当接するようになっている。押え駆動脚36の途中には、横長の支持棒37の一端部が回動自在に支持されている。支持棒37の他端部は、図示されていないミシンフレームに、ピン38を介して回動自在に取り付けられ、押え駆動脚36の下降時の方向は支持棒37によって規制されるようになっている。
【0039】
押え駆動脚36と、その下方に位置する布押え装置70の当接ピン73cとの間には、所定寸法の間隙が設けられている。このため、押え駆動脚36は、下降し始めてからこの間隙の分だけ遅れて布押え装置70の当接ピン73cに当接するようになっている。
【0040】
ここで、押え駆動脚36と連動アーム33とは、前記したように連動するように構成されており、連動アーム33には、後述する糸払い機構50のワイパ連結リンク51が連結されている。このため、押え駆動脚36の下降開始と同時に、後述する糸払い機構50が作動する。一方、押え駆動脚36と、布押え装置70の当接ピン73cとの間には、前記した間隙が設けられているため、押え駆動脚36の下降開始から所定時間経過後に、布押え装置70の当接ピン73cが押し下げられ、布押え71が上昇することとなる。
【0041】
すなわち、押え駆動脚36と布押え装置70の当接ピン73dとの間に設けられた間隙は、糸払い機構50の作動開始時と、押え上げ機構30の作動開始時と、に差を設ける差動手段としての機能を果たしている。
【0042】
なお、押え上げ機構30の下方に配置される布押え装置70は、布押え71、支持台72、布押え駆動リンク73、等から構成されている。
【0043】
支持台72は、図示されていないミシンベッドに固定されており、布押え駆動リンク73を支持するように機能する。布押え駆動リンク73は、図3に示すように、支持台72に軸部材74によって回動可能に取り付けられており、その一端部73aには、縫製作業中に布地を押える布押え71が固定されている。また、布押え駆動リンク73の一部には上方延在部73bが設けられている。この上方延在部73bの先端には当接ピン73cが設けられており、この当接ピン73cは、押え上げ機構30の押え駆動脚36の下方近傍に配置されている(図1および図3参照)。
【0044】
押え上げ機構30の押え駆動脚36が下降すると、この当接ピン73cが押え駆動脚36によって下方に押され、布押え駆動リンク73が軸部材74を中心に図1の反時計方向に回動し、布押え71が上昇することとなる。
【0045】
続いて、糸払い機構50の構成について説明する。糸払い機構50は、ワイパ連結リンク51、ワイパL型リンク52、ワイパ連結板56、ワイパ(糸払い片)58等から構成される。
【0046】
糸払い機構50は、糸切り機構10によって上糸が切断された後であって布押え装置70の布押え71が上昇する前に、縫い針から布地に連なる上糸を払い、縫い針側の糸端を布地上に引き出すように機能するものである。糸払い機構50のワイパ連結リンク51の後端部51aは、押え上げ機構30の連動アーム33の途中に接続される(図1参照)。
【0047】
ワイパ連結リンク51の前端部51bには、横長に形成された横孔51cが形成されている。また、前端部51bの近傍には、図示されていないミシンフレームに、略L字状に形成され屈曲部分で取り付けネジ55を介して回動可能に取り付けられているワイパL型リンク52が配置されている。そして、このワイパL型リンク52の上端に固定された係合ピン52aが、ワイパ連結リンク51の横孔51cに挿通している。
【0048】
ワイパ連結リンク51の裏面側には、引き伸ばされた状態のコイルバネ53が配置されている。コイルバネ53の一端はワイパ連結リンク51の一部に掛けられ、他端はワイパL型リンク52の係合ピン52aに掛けられており、このコイルバネ53の付勢力によって、ワイパL型リンク52は常に図3の紙面右方向に付勢されている。
【0049】
ただし、ワイパL型リンク52の近傍には、ストッパピン54が、図示されていないミシンフレームに固定されて突出している。糸払い機構50の作動に引き続いて押え上げ機構30を作動させるために押え駆動リンク32をさらに後方に移動させて、コイルバネ53によりワイパL型リンク52をさらに後方に移動させるような付勢力を作用させた場合でも、ワイパL型リンク52はストッパピン54に当接したところで停止するようになっている。
【0050】
なお、コイルバネ53の付勢力は、ワイパL型リンク52をワイパ連結リンク51ごと押え上げ機構30に抗して後方に引くほど強いものではない。よって、押え上げ機構30が作動し、ワイパ連結リンク51が後方に移動したときにのみ、コイルバネ53は、係合ピン52aを介して、ワイパL型リンク52を後方に引いて移動させることができる。
【0051】
ワイパL型リンク52の前側端部には、上下方向に長く形成されているワイパ連結板56が回動自在に接続されている。このワイパ連結板56の下端には、図1の後方に延出する延出部56aが形成されている。ワイパ連結板56の近傍には、図示されていないミシンフレームに固定された支持板57が固定されている。支持板57には、平面視略L型に形成されたワイパ58がその屈曲部分において取り付けネジ59によって回動自在に接続されている。
【0052】
ワイパ58の一端部58aは、延出部56aに回動自在に連結されている。ワイパ58の下端部には前方に突出するように形成された糸払い部58bが設けられ、この糸払い部58bによって上糸を払うようになっている。図4は、作動させる前の状態における糸払い機構50近傍の拡大斜視図である。また、図5は、作動させる前の状態における押え上げ機構30および糸払い機構50の拡大側面図である。
【0053】
次に、押え上げ機構30および糸払い機構50の動作について説明する。前記した構成を有する押え上げ機構30および糸払い機構50は、上糸及び下糸の切断後に、押え上げリンク31が、図1における反時計方向(矢印B方向)に回動すると、押え駆動リンク32が後方に引かれる。この動作によって、連動アーム33が軸部材34を中心に後方に揺動することで、押え駆動腕35も軸部材34を中心に時計方向に回動する。この押え駆動腕35の回動に従って、押え駆動脚36が支持棒37に規制されながら下降する。
【0054】
一方、連動アーム33の後方への揺動により、ワイパ連結リンク51が後方に移動するので、横孔51c内の係合ピン52aもコイルバネ53の付勢力によって後方に移動し、これによって、ワイパL型リンク52は取り付けネジ55を中心に、図1における反時計方向に回転する。この回転によりワイパ連結板56が上昇し、この上昇により、ワイパ58の一端部58aが上昇し、ワイパ58は、取り付けネジ59を中心に図1における反時計方向に回動し、糸払い部58bによって上糸を払う。
【0055】
なお、ワイパL型リンク52は、ストッパピン54に当接したところで回転を停止し、ワイパ連結リンク51がそれ以上後方に移動した分は、係合ピン52aが横孔51cに沿って摺動し、ワイパL型リンク52の動作に影響を及ぼさないようにしている。糸払い機構50を作動させた状態の拡大斜視図を、図6に示した。また、押え上げ機構30および糸払い機構50を作動させた状態の拡大側面図を、図7に示した。
【0056】
ここで、前記したように押え駆動脚36と布押え装置70の当接ピン73cとの間には、間隙が設けられていることから、押え駆動脚36が下降し始めてから所定時間遅れ、上糸を払い終わった後に、下降した押え駆動脚36が布押え装置70の当接ピン73cを押し下げ、布押え71を上方に移動させるようになっている。
【0057】
なお、押え上げリンク31を図1における時計方向に回転させて押え駆動脚36を上昇させると、布押え71は自重により下降するようになっている。また、連動アーム33が元に戻ることで、ワイパ連結リンク51が前方に戻り、糸払い機構50全体は図4および図5の状態に戻る。
【0058】
以上説明したとおり、糸切り機構10では糸切りリンク11が、押え上げ機構30および糸払い機構50では押え上げリンク31が、それぞれ起点となって動作を行う。糸切りリンク11および押え上げリンク31は、パルスモータ80の駆動力がカム部材60を介して所定のタイミングで伝達されて、動作するように構成されている。以下、これらパルスモータ80およびカム部材60について説明する。
【0059】
本発明の駆動モータであるパルスモータ80は、図示されていないミシンフレームに固定されている。パルスモータ80の出力軸81には、後述するカム部材60の中央部が固定されており、カム部材60は、パルスモータ80によって所定角度回転するようになっている。
【0060】
パルスモータ80は、後述する制御手段であるCPU90によって駆動制御されるようになっている。糸切り機構10、押え上げ機構30および糸払い機構50の各動作は、このCPU90によって、パルスモータ80の回転方向と、動作中のパルス数と、をカウントしながらカム部材60の動作を制御することで行うようになっている。
【0061】
カム部材60は、図1および図8(a)に示すように、図1の正面から見て外形上が一部直線部分を含む略円形の箱体である第1カム61と、その正面側に一体に設けられている第2カム62と、から構成される。
【0062】
第1カム61は、図8(a)に示すように、裏面側に、略ハート型のカム溝61aが形成されている。糸切りリンク11の嵌合ピン11aは、このカム溝61aに嵌合し、その面に沿って摺動する。
【0063】
図8(b)にカム溝61aの形状を示した。P1〜P7は、1周の中のポイントとなる角度位置を便宜的に示したものである。カム溝61aは、P2からP3を経てP7までの間は、回転中心C1に対しての距離が等しい円弧を描くように形成されている。一方、P1を中心にP2からP7までの間は、P1に向かって回転中心との距離が短くなるように対称形に形成されている。以下、P2からP3を経てP7までの間を「円弧部X1」と称し、P1を中心にP2からP7までの間を「変曲部X2」と称することとする。
【0064】
前記した嵌合ピン11aは、図8(b)に模式的に示すように、カム部材60の回転に従って、カム溝61a内を相対的に移動する。よって、例えばパルスモータ80が所定方向(正方向とする)に回転することで、嵌合ピン11aが円弧部X1であるP2からP3を経てP7までの間を移動しているときは、嵌合ピン11aと回転中心C1との距離は変わらず、糸切りリンク11は回転しない。
【0065】
一方、嵌合ピン11aがP7からP1に移動するときには徐々に回転中心C1に近づいていく。これにより糸切りリンク11は、図1における反時計方向に回転し、前述のように可動メス部材15が固定刃14aを超えて移動するようになる。
【0066】
次いで、嵌合ピン11aがP1からP2を移動するときには徐々に回転中心C1から遠ざかり、糸切りリンク11は図1の時計方向に回転し、可動メス部材15は上糸および下糸を捕捉しつつ固定刃14aとの間で上糸および下糸を切断する。パルスモータ80が逆方向に回転して嵌合ピン11aがP2からP1を経てP7に向かうときも同様である。すなわち、変曲部X2が、本発明における糸切り作動部である。
【0067】
第2カム62は、第1カム61の正面側に一体に固定され、図8(c)に示すように、略だるま型に形成され、そのカム面62aに押え上げリンク31のコロ43が当接している。図8(c)のQ1〜Q7は、1周の中のポイントとなる角度位置を便宜的に示したものである。カム面62aは、Q6からQ1を経てQ3までの間は、回転中心C1に対しての距離が等しい円弧を描くように形成されている。
【0068】
一方、Q3からQ4、及びQ6からQ5までの間は、それぞれQ4及びQ5に向かって回転中心との距離が長くなるように対称形に形成されている。さらに、Q4からQ5までの間は、回転中心C1までの距離が等しい円弧を描くように形成されている。以下、Q6からQ1を経てQ3までの間を「円弧部Y1」と称し、Q3からQ4、Q5を含めてQ6までの間を「楕円部Y2」と称することとする。
【0069】
前記コロ43は、図8(c)に模式的に示すように、カム部材60の回転に従って、カム面62aに沿って相対的に移動する。よって、例えばパルスモータ6が前記した正方向に回転し、コロ43がQ6からQ1を経てQ3までの間を移動しているときは、コロ43と回転中心C1との距離は変わらず、押え上げリンク31は回転しない。
【0070】
一方、コロ43がQ3からQ4までを移動するときには徐々に回転中心C1から離れていく。これにより押え上げリンク31は、図1における反時計方向に回転し、前述のように押え駆動リンク32が後方に移動し、糸払い機構50のワイパ58が作動するとともに布押え71が上昇するようになる。
【0071】
また、逆方向にパルスモータ80が回転し、コロ43がQ4からQ3まで戻ると徐々に回転中心C1に近づき、押え上げリンク31は図1の時計方向に回転し、押え駆動リンク32が前方に戻り、ワイパ58が作動前の位置に戻るとともに布押え71が下がるようになる。Q6−Q5間でも同様であり、Q5に向かうときコロ43を介して押え駆動リンク31は図3の反時計方向に回転し、Q6に向かうとき時計方向に回転する。すなわち、楕円部Y2が、本発明における糸払い作動部および押え上げ作動部である。
【0072】
なお、第2カム62においてQ4−Q5間が円弧に形成されているのは、次の理由による。布押え71の場合、基本的に上昇と下降を連続して動作させることは少なく、例えば下降させた後、縫製し上昇させる、といった動作の流れになる。コロ43がQ4あるいはQ5に到達することで布押え71を上昇させたところで、パルスモータ80が停止しても、それに対するカム部材60の回転停止には機械的なずれが生じ、わずかにQ4あるいはQ5を過ぎてしまうことがある。Q4−Q5間を円弧に形成しておくことで、停止が遅くなって、Q4あるいはQ5をさらに超えて回転しても下降の動作が始まるといったことを防ぐことができる。
【0073】
第1カム61および第2カム62は、前記したように、糸を切断し、次いで、押え上げの動作が行われるように考慮して、互いの位相関係と、嵌合ピン11aとコロ43それぞれの当接位置と、が設定されている。具体的には、P1−P7間、P1−P2間、Q1−Q7間、Q1−Q2間の角度はいずれも同じ(角度m1とする)であり、嵌合ピン11aがP7からP1を経てP2に向かうとき、ちょうどコロ43もQ7からQ1を経てQ2に向かうようになっている。すなわち、糸切り動作中は、押え上げ機構30は動作しない。
【0074】
また、コロ43がQ3からQ4に向かう押え上げの動作中、嵌合ピン11aがP3−P4間を移動し糸切り機構10は作動しない。コロ43がQ5−Q6間を移動して押え上げ機構30を作動させている間も、嵌合ピン11aはP5−P6間を移動して糸切り機構10は作動しない。なお、コロ43が、Q4−Q5間に位置するとき、嵌合ピン11aはP4−P5間に位置するようになっている。
【0075】
さらに、カム部材60には、パルスモータ80の駆動力を、糸切り機構10、押え上げ機構30および糸払い機構50の何れにも伝達させない領域(不作動領域)が設けられている。すなわち、嵌合ピン11aがP2−P3間にあってコロ43がQ2−Q3間にあるとき、および、嵌合ピン11aがP6−P7間にあってコロ43がQ6−Q7間にあるとき、糸切り機構10、押え上げ機構30および糸払い機構50のいずれも動作することはない。すなわち、図8(b)のP2−P3間およびP6−P7間の領域と、図8(c)のQ2−Q3間およびQ6−Q7間の領域は、不作動領域である。
【0076】
次に、カム部材60を中心とした糸切り機構10、押え上げ機構30および糸払い機構50の動作について、図9および図10に基づいて説明する。図9および図10は、カム部材60を中心とした動作を説明するための説明図である。なお、ここでは、糸切り機構10、糸払い機構50および押え上げ機構30の順で作動させる動作について説明することとする。
【0077】
まず、図9(a)に示した状態Iから糸切り動作を開始する。この状態Iにおいては、嵌合ピン11aは第1カム61のカム溝61aの円弧部X1に位置し、コロ43は第2カム62のカム面62aの円弧部Y1に当接している。
【0078】
この状態Iから、カム部材60は、パルスモータ80が正方向(図9の矢印Fの方向)に回転することで、図1および図9における時計方向に回転する。嵌合ピン11aは円弧部X1を、コロ43は円弧部Y1を、そのまま相対的に移動していくが、やがて、嵌合ピン11aが円弧部X1と変曲部X2との境の位置(図8(b)のP7)に移動した状態IIとなる。
【0079】
ここから、嵌合ピン11aは変曲部X2内を移動し始め、糸切り機構10が動作を開始する。そして、嵌合ピン11aが変曲部X2の中央部(図8(b)のP1)に到達した状態III(図9(c)参照)になると、可動メス部材15は、前記した図2(b)の最も移動した状態になる。なお、状態IIおよび状態IIIのいずれにおいても、コロ43は円弧部Y1を移動中であり、押え上げ機構30は動作しない。
【0080】
次いで、嵌合ピン11aは変曲部X2内をP1からP2に進み、この過程において、可動メス部材15は元に戻るよう動作し、その動作の途中で上糸および下糸を捕捉し、固定刃14と合致して上糸および下糸を切断する。そして、嵌合ピン11aは変曲部X2の終点位置(P2)に達し図10(a)に示した状態IVとなる。このとき、糸切り機構10の動作は終了する。さらに、同方向にカム部材60は回転し、嵌合ピン11aは図8(b)のP2−P3間(不作動領域)、コロ43は図8(c)のQ2−Q3間(不作動領域)を移動する。このとき糸切り機構10、押え上げ機構30および糸払い機構50は、いずれも作動することはない。
【0081】
そして、図10(b)のように、コロ43がカム面62aの楕円部Y2(図8(c)の位置Q3)に達し(状態V)、ここから、押え上げリンク31が図1および図10における反時計方向に回転し始め、糸払い機構50のワイパ58の回動動作に続いて、布押え71の上昇動作がなされる。そして、図10(c)に示すように、コロ43がQ4−Q5間に達して状態VIとなり、糸払い機構50のワイパ58の回動動作および布押え71の上昇動作は終了し、ここでパルスモータ80を停止させる。なお、状態Vおよび状態VIのいずれにおいても、嵌合ピン11aは円弧部X1に沿って移動するので糸切り機構10は動作しない。
【0082】
次に、本実施の形態に係る閂止めミシンの電気的な構成について、図11を用いて説明する。図11は、本実施の形態に係る閂止めミシンの電気的な構成を説明するためのブロック図である。
【0083】
閂止めミシンは、パルスモータ80等の各種装置を駆動制御するための制御手段であるCPU(Central Processing Unit)90、制御データやプログラム等の各種情報を格納するROM(Read Only Memory)91、ROM91から読み出した各種データやプログラムに基づいてCPU90により算出されたデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)92、縫製条件等を入力するための操作パネル93、布地を押えるために布押え装置70を駆動させる押えスイッチ94、縫製を開始させるスタートスイッチ95、パルスモータ80、主軸モータ100等を備えている。
【0084】
CPU90は、RAM92を作業領域としてROM91に格納されたパターンデータや縫製プログラムに基づく各種の演算処理を行うものである。具体的には、CPU90は、図示されていない入力インターフェースを介して接続された操作パネルから入力されるデータに基づき縫製データの選択及び変更を行う。また、CPU90は、図示されていない入力インターフェースを介して接続された押えスイッチ94およびスタートスイッチ95から指示信号が入力された場合に、前記したパターンデータに基づき、図示されていない出力インターフェースを介してパルスモータ80および主軸モータ100を制御して、所定の縫製作業を行わせる。
【0085】
次に、本実施の形態に係る閂止めミシンの制御動作の具体例を、フローチャート等を用いて説明する。図12は、本実施の形態に係る閂止めミシンの制御動作を説明するためのフローチャートであり、図13は、本実施の形態に係る閂止めミシンの制御動作に使用される制御データ(パターンデータ)の例を示した図である。また、図14は、本実施の形態に係る閂止めミシンの制御動作を、糸切りリンク11および押え上げリンク31の移動量を中心に模式的に示した図である。
【0086】
最初に、図12のフローチャートを用いて、本実施の形態に係る閂止めミシンの制御動作を説明する。まず、CPU90の制御により、パルスモータ80の回転方向を定めるフラグを初期値に設定する(初期回転方向設定工程:S1)。次いで、ユーザが押えスイッチ94を操作した場合には、CPU90がこの押えスイッチ94からの操作信号を受けて、パルスモータ80を駆動してカム部材60を回転させ、押え上げリンク31等を介して布押え装置70の布押え71を下降させ、布地を押える(布地押え工程:S2)。
【0087】
この後、CPU90は、ROM91から読み込むパターンデータのアドレスを初期値に設定する(データアドレス初期化工程:S3)。なお、ユーザが押えスイッチ94を操作しない場合には、CPU90はパルスモータ80の駆動を行わず、押えスイッチ94が操作されるまで待機する。
【0088】
次いで、縫製を開始するためにユーザがスタートスイッチ95を操作すると、スタートスイッチ95からの操作信号を受けたCPU90は、ROM91のパターンデータに含まれる縫製データを読み込み(縫製データ読込工程:S4)、この縫製データに従って縫製を行う。なお、ユーザがスタートスイッチ95を操作しない場合には、CPU90は縫製データを読み込まず、スタートスイッチ95が操作されるまで待機する。
【0089】
次いで、ROM91のパターンデータ内の縫製データに続くコマンドが「糸切りコマンド」(例えば、図13(a)のデータアドレス1056)である場合には、CPU90がパルスモータ80を駆動して、図9(a)のIの状態から図10(b)の状態Vを経て、さらに時計回りの方向(図9および図10の矢印Fの方向)に少し回転した状態へとカム部材60を回転させ、糸切り機構10および糸払い機構50のみを作動させる(糸切り・糸払い工程:S5)。
【0090】
ここで、押え上げ機構50の押え駆動脚36の下端36aと、布押え装置70の当接ピン73cと、の間には間隙が設けられているため、カム部材60が図10(b)の状態Vから時計回りの方向に少し回転した状態においては、押え駆動脚36の下端36aは、布押え装置70の当接ピン73cに当接せず、布押え71は上昇しない。
【0091】
なお、ROM91のパターンデータ内の縫製データに続くコマンドが「糸切りコマンド」でない場合(例えば、図13(a)のアドレス1001)には、CPU90は、パターンデータ内の他のコマンド(例えば、空送りコマンド)を実行させた後(他コマンド実行工程:S6)、パターンデータ内のアドレスを更新し(データアドレス更新工程:S7)、縫製データ読込工程S4へと戻り、縫製作業を続行する。
【0092】
糸切り・糸払い工程S5を経た後、CPU90は、ROM91のパターンデータのアドレスを更新する(データアドレス更新工程:S8)。パターンデータ内の糸切りコマンドに続くコマンドが「縫製終了コマンド」である場合(例えば、図13(a)のデータアドレス107C)には、CPU90がパルスモータ80を駆動して、図10(b)の状態VIへとカム部材60を回転させることによって押え上げ機構30を作動させ(押え上げ工程:S9)、縫製作業を終了する。
【0093】
一方、パターンデータ内の糸切りコマンドに続くコマンドが「縫製終了コマンド」でない場合(例えば、図13(a)のデータアドレス1057の「空送りデータである場合)には、CPU90は、パルスモータ80を所定時間だけ停止させる(パルスモータ停止工程:S10)。このとき、カム部材60は、図10(b)の状態Vから時計回りの方向に少し回転した状態にあり、押え駆動脚36の下端36aは、布押え装置70の当接ピン73cに当接せず、布押え71は上昇していない。
【0094】
次いで、CPU90は、パルスモータ80の回転方向を定めるフラグを反転させ(フラグ反転工程:S11)、カム部材60が図10(a)の状態IVに達するまでパルスモータ80を反転させて停止させた後(パルスモータ反転工程:S12)、他コマンド実行工程S6に戻り、縫製作業を続行する。
【0095】
カム部材60が図10(a)の状態IVから図10(b)の状態Vの間にあるときには、前記したように、嵌合ピン11aが図8(b)のP2−P3間(不作動領域)に位置するとともに、コロ43が図8(c)のQ2−Q3間(不作動領域)に位置する。このため、糸切り機構10、押え上げ機構30および糸払い機構50は、いずれも作動しない。
【0096】
以上のように、縫製データ読込工程S4、糸切り・糸払い工程S5、データアドレス更新工程S8および押え上げ工程S9を経て縫製作業を終了する制御動作は、本発明における「第1制御モード」である。この第1制御モードは、パルスモータ80の正回転、逆回転いずれによっても実現することができる。カム部材60の第1カム61の糸切り作動部X2と、第2カム62の糸払い作動部および押え上げ作動部Y2は、糸切り機構10、糸払い機構50および押え上げ機構30の動作がパルスモータ80の回転方向に関わらず同一となるように各々対称形に構成されているからである。
【0097】
一方、縫製データ読込工程S4、糸切り・糸払い工程S5、データアドレス更新工程S8、パルスモータ停止工程S10、フラグ反転工程S11およびパルスモータ反転工程S12を経て、縫製作業を続行せしめる制御動作は、本発明における「第2制御モード」である。
【0098】
図13(a)は、一の縫製データに基づいて最初の縫製を行った後、押え上げ機構を作動させずに他の縫製データに基づいて次の縫製を行って縫製作業を終了する制御動作を実現するためのパターンデータ(A)を示している。また、図13(b)は、一の縫製データに基づいて縫製を行って縫製作業を終了する制御動作を実現するためのパターンデータ(B)を示している。
【0099】
渡り糸を残さずに行うX閂止め作業や、4つ穴ボタンを布地に縫いつける作業は、図13(a)に示したようなパターンデータ(A)で実現することができる。パターンデータ(A)を実現するには、図12に示した縫製データ読込工程S4、糸切り・糸払い工程S5、データアドレス更新工程S8、パルスモータ停止工程S10、フラグ反転工程S11およびパルスモータ反転工程S12を経て縫製作業を続行せしめる(第2制御モードの実現)。その後、縫製データ読込工程S4、糸切り・糸払い工程S5、データアドレス更新工程S8および押え上げ工程S9を経て縫製作業を終了する(第1制御モードの実現)。このとき、第1制御モードは、パルスモータ80の回転方向を反転させた状態で駆動することによって実現されている。
【0100】
一方、通常の閂止め作業は、図13(b)に示したようなパターンデータ(B)で実現することができる。図13(b)に示したパターンデータ(B)を実現するには、図12に示した縫製データ読込工程S4、糸切り・糸払い工程S5、データアドレス更新工程S8および押え上げ工程S9を経て縫製作業を終了する(第1制御モードの実現)。
【0101】
図14は、カム部材60が一回転(0°〜360°)するまでの糸切りリンク11の移動量および押え上げリンク31の移動量を模式的に示したものである。図14において、「カム開始点」は図9(a)の状態Iに対応し、「糸切り開始点」は図9(b)の状態IIに対応し、「糸切り最前進点」は図9(c)の状態IIIに対応し、「糸切り完了点」は図10(a)の状態IVに対応している。また、「ワイパ開始点」は図10(b)の状態Vに対応し、「押え最上点」は図10(c)の状態VIに対応している。
【0102】
図14の<ケースA>は、渡り糸を残さずに行うX閂止め作業や、4つ穴ボタンを布地に縫いつける作業を行う場合の制御動作を模式的に示したものであり、図13(a)に示したようなパターンデータ(A)で実現することができる。この<ケースA>においては、まず、図12に示した縫製データ読込工程S4、糸切り・糸払い工程S5、データアドレス更新工程S8、パルスモータ停止工程S10を行う。パルスモータ停止工程S10が終了した時点においては、カム部材60は、図13の「ワイパ完了点」に対応した状態にある。
【0103】
図14の「ワイパ完了点」に対応した状態とは、図10(b)の状態Vから時計回りの方向に少し回転した状態を意味し、カム部材60がこの位置にあるときには、糸払い機構50のワイパ58の回動動作が終了する一方、未だ布押え装置70の布押え71は上昇していない状態にある。この状態は、押え上げ機構50の押え駆動脚36の下端36aと、布押え装置70の当接ピン73cとの間に設けられた間隙により可能となることは、前記したとおりである。
【0104】
次いで、フラグ反転工程S11およびパルスモータ反転工程S12を行うことにより、この「ワイパ完了点」からパルスモータ80を反転させる。パルスモータ反転工程S12が終了した時点においては、カム部材60は、図14の「ワイパ開始点」に対応した状態(図10(b)の状態V)にある。
【0105】
その後、反転させたパルスモータ80によって、縫製データ読込工程S4、糸切り・糸払い工程S5、データアドレス更新工程S8および押え上げ工程S9を経て縫製作業を終了する。押え上げ工程S9を終了した時点においては、カム部材60は、図14の「押え最上点」に対応した状態(図10(c)の状態VI)にある。
【0106】
図14の<ケースB>は、通常の閂止め作業を行う場合の制御動作を模式的に示したものであり、図13(b)に示したようなパターンデータ(B)で実現することができる。この<ケースB>においては、縫製データ読込工程S4、糸切り・糸払い工程S5、データアドレス更新工程S8および押え上げ工程S9を経て縫製作業を終了する。押え上げ工程S9を終了した時点においては、カム部材60は、図14の「押え最上点」に対応した状態(図10(c)の状態VI)にある。
【0107】
本実施の形態に係る閂止めミシンにおいては、単一の駆動モータ(パルスモータ80)によって、機械的に糸切り動作、糸払い動作および押え上げ動作の3つの動作をずらして連続的に行うことができるので、従来のように、糸切り機構10(および押え上げ機構30)を駆動する駆動手段と、糸払い機構50を駆動する手段と、を別々に設けて各々を制御する必要がない。従って、これら糸切り機構10、糸払い機構30および押え上げ機構50を常に一定のタイミングで作動させることができる。
【0108】
特に、本実施の形態においては、押え上げ機構30の押え駆動脚36の下端36aと、布押え装置70の当接ピン73cと、の間に間隙を設けているので、糸払い動作と押え上げ動作とが同時に行われることがなく、糸払い動作終了時から押え上げ動作開始時までの遅れ時間を、常に一定にすることができる。
【0109】
また、本実施の形態に係る閂止めミシンにおいては、糸切り機構10、押え上げ機構30および糸払い機構50を駆動する駆動手段が単一の駆動モータ(パルスモータ80)であるので、従来のように、糸切り機構10および押え上げ機構30を駆動する駆動手段と、糸払い機構50を駆動する手段と、を別々に設ける必要がない。従って、ミシンの低コスト化を達成することができる。
【0110】
また、本実施の形態に係る閂止めミシンにおいては、第1カム61の糸切り作動部X2、第2カム62の糸払い作動部および押え上げ作動部Y2は、糸切り機構10、糸払い機構50および押え上げ機構30の動作がパルスモータ80の回転方向に関わらず同一の動作となるように各々対称形に構成されているので、パルスモータ80を正逆いずれの方向に回転させても、同一の糸切り動作、糸払い動作および押え上げ動作を行わせることができる。従って、円滑な縫製作業を実現することができる。
【0111】
また、本実施の形態に係る閂止めミシンにおいては、糸切り機構10、糸払い機構50および押え上げ機構30をこの順で作動させる回転方向にパルスモータ80を回転させる第1制御モードと、糸切り機構10および糸払い機構50をこの順で作動させる回転方向にパルスモータ80を回転させた後、押え上げ機構30を作動させる前にパルスモータ80を反対方向に回転させてパルスモータ80の回転位置を不作動領域に位置させる第2制御モードと、を自在に切り替えて実現させる制御手段であるCPU90を備えるので、種々の状況に対応した的確な縫製作業を行うことができる。
【0112】
従って、例えば、4つ穴ボタンを布地に縫いつける場合(図14<ケースA>参照)のように、布押え装置70の布押え71を上方に移動させずに布地を保持したまま連続して縫製作業を行うことが好ましい場合には、まず、CPU90で第2制御モードを実現させることによって、最初の縫目を形成した後に糸切り機構10および糸払い機構50を作動させるとともに押え上げ機構50の作動を抑制し、次いで、CPU90で第1制御モードを実現させることによって次の縫目を形成することができる。このため、押え上げ機構50が作動して布押え装置70の布押え71が上方に移動することに起因する布地のずれ等の不具合が発生しないので、縫製作業の効率化を図ることができる。
【0113】
また、見かけ上最初の縫目と次の縫目の間に連なる渡り糸が形成されることが好ましくない場合においても、まず、CPU90で第2制御モードを実現させることによって、最初の縫目を形成した後に糸切り動作および糸払い動作のみを作動させ、押え上げ機構30の作動を抑制し、次いで、CPU90で第1制御モードを実現させることによって次の縫目を形成することができる。このため、最初の縫目と次の縫目の間に連なる渡り糸が形成されることがないので、縫製品の品質を向上させることができる。
【0114】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、適宜変更可能であるのは勿論である。例えば、糸払い機構50の作動に引き続き押え上げ機構30を作動させない場合(第2制御モード)においては、CPU90により糸払い機構50を駆動させる際のパルスモータ80の回転位置を制御して、ワイパ58の揺動範囲を、ストッパ54により規制される範囲よりも小さく変更することができる。
【0115】
すなわち、前記したように、ストッパピン54は、押え上げ機構30の作動に伴うワイパ58の必要以上の揺動を規制するものであるが、糸払い機構50の作動に続いて押え上げ機構30が作動しない第2制御モードにおいては、CPU90の制御によって押え上げ駆動リンク32の移動量を制御することにより、ワイパ58の揺動をストッパピン54の規制を受ける前に停止させ、ワイパ58の可動領域を変更することができる。また、操作パネル93によりこのときの可動領域を設定することもできる。すなわち、CPU90は、糸払い機構50のワイパ58の可動領域を変更する可動領域変更手段として機能する。
【0116】
このような可動領域変更手段であるCPU90を備えることによって、縫製を施す布地の厚さや、縫製に使用する糸の太さ等に応じて、ワイパ58の可動領域を適宜設定することができる。従って、ワイパ58の必要以上の揺動を抑止してワイパ58の揺動に要する時間を短縮し、縫製能率を向上させることができる。
【0117】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によれば、糸切り機構、押え上げ機構および糸払い機構を駆動する駆動手段が単一の駆動モータであるとともに、この駆動モータの回転駆動力を糸切り機構に対応した駆動力に変換する糸切り作動部を有する第1カムと、一端が第1カムの糸切り作動部を摺動し他端が糸切り機構に連結される第1連結部材と、駆動モータの回転駆動力を糸払い機構に対応した駆動力に変換する糸払い作動部および駆動モータの回転駆動力を押え上げ機構に対応した駆動力に変換する押え上げ作動部を有する第2カムと、一端が第2カムの糸払い作動部および押え上げ作動部を摺動し他端が糸払い機構および押え上げ機構に連結される第2連結部材と、を備え、第1カムと第2カムとの位相差は、糸切り機構による糸切り動作が終了した後に糸払い機構が作動するように構成されるとともに、駆動モータの回転によって糸切り機構、糸払い機構および押え上げ機構がこの順で作動するように構成されている。
【0118】
このように、単一の駆動モータによって、機械的に糸切り動作、糸払い動作および押え上げ動作の3つの動作をずらして連続的に行うことができるので、従来のように、糸切り機構(および押え上げ機構)を駆動する駆動手段と、糸払い機構を駆動する手段と、を別々に設けて各々を制御する必要がない。従って、これら糸切り機構、糸払い機構および押え上げ機構を常に一定のタイミングで作動させることができる。この結果、サイクルタイムの遅れを防止することができる。
【0119】
また、請求項1記載の発明によれば、糸切り機構、押え上げ機構および糸払い機構を駆動する駆動手段が単一の駆動モータであるので、糸切り機構(および押え上げ機構)を駆動する駆動手段と、糸払い機構を駆動する手段と、を別々に設ける必要がない。従って、ミシンの低コスト化を達成することができる。
【0120】
請求項記載の発明によれば、第1カムの糸切り作動部、第2カムの糸払い作動部および押え上げ作動部は、糸切り機構、糸払い機構および押え上げ機構の動作が駆動モータの回転方向に関わらず同一の動作となるように各々対称形に構成されているので、駆動モータを正逆いずれの方向に回転させても、同一の糸切り動作、糸払い動作および押え上げ動作を行わせることができる。従って、円滑な縫製作業を実現することができる。
【0121】
また、請求項記載の発明によれば、糸切り機構、糸払い機構および押え上げ機構をこの順で作動させる回転方向に駆動モータを回転させる第1制御モードと、糸切り機構および糸払い機構をこの順で作動させる回転方向に駆動モータを回転させた後、押え上げ機構を作動させる前に駆動モータを反対方向に回転させて駆動モータの回転位置を不作動領域に位置させる第2制御モードと、を自在に切り替えて実現させる制御手段を備えるので、種々の状況に対応した的確な縫製作業を行うことができる。
【0122】
従って、例えば、渡り糸を残さずに4つ穴ボタンを布地に縫いつける場合のように、布押え装置の布押えを上方に移動させずに布地を保持したまま連続して縫製作業を行うことが好ましい場合には、まず、制御手段で第2制御モードを実現させることによって2つ穴を通る縫目を形成し、その後に糸切り機構および糸払い機構を作動させるとともに押え上げ機構の作動を抑制し、次いで、制御手段で第1制御モードを実現させることによって残りの2つ穴を通る縫目を形成することができる。このため、押え上げ機構が作動して布押え装置の布押えが上方に移動することに起因する布地のずれ等の不具合が発生しないので、縫製作業の効率化を図ることができる。
【0123】
また、見かけ上最初の縫目と次の縫目の間に連なる渡り糸が形成されることが好ましくない場合においても、まず、制御手段で第2制御モードを実現させることによって、最初の縫目を形成した後に糸切り動作および糸払い動作を作動させるとともに押え上げ機構の作動を抑制し、次いで、制御手段で第1制御モードを実現させることによって次の縫目を形成することができる。このため、最初の縫目と次の縫目の間に連なる渡り糸が形成されることがないので、縫製品の品質を向上させることができる。
【0124】
請求項記載の発明によれば、糸払い機構の糸払い片の可動領域を変更する可動領域変更手段を備えるので、縫製を施す布地の厚さや、縫製に使用する糸の太さ等に応じて、糸払い片の可動領域を適宜設定することができる。従って、糸払い片の必要以上の揺動を抑止して糸払い片の揺動に要する時間を短縮し、縫製能率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る閂止めミシンに備えられる糸切り機構、押え上げ機構および糸払い機構を説明するための説明図である。
【図2】図1に示した糸切り機構を構成する固定メス部材および可動メス部材の糸切り時の動作を示す平面図である。
【図3】図1に示した押え上げ機構および糸払い機構の拡大斜視図である。
【図4】図1に示した糸払い機構の作動させる前の状態を示す拡大斜視図である。
【図5】図1に示した糸払い機構および押え上げ機構の作動させる前の状態を示す拡大側面図である。
【図6】図4に示した糸払い機構を作動させた状態を示す拡大斜視図である。
【図7】図5に示した糸払い機構および押え上げ機構を作動させた状態を示す拡大側面図である。
【図8】(a)は、図1に示した閂止めミシンに備えられるカム部材の斜視図であり、(b)は、(a)に示したカム部材の第1カムを示す平面図であり、(c)は、(a)に示したカム部材の第2カムを示す平面図である。
【図9】図1に示した閂止めミシンの糸切り・押え上げの動作を説明するための説明図である。
【図10】図1に示した閂止めミシンの糸切り・押え上げの動作を説明するための説明図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る閂止めミシンの電気的な構成を説明するためのブロック図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る閂止めミシンの制御動作を説明するためのフローチャートである。
【図13】本発明の実施の形態に係る閂止めミシンの制御に使用される制御データの例を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態に係る閂止めミシンの制御動作を糸切りリンクおよび押え上げリンクの移動量を中心として模式的に示した図である。
【符号の説明】
10 糸切り機構
11 糸切りリンク
11a 嵌合ピン
11b 屈曲部
11c 下端部
12 支持ピン
13 糸切り連結棒
14 固定メス部材
14a 固定刃
15 可動メス部材
16 取付板
17 ネジ
18 遮光部材
18a 遮光板
19 フォトインタラプタ
20 可動メス連結部材
21 ネジ
22 連結ピン
23 糸切りレバー
24 可動メスリンク
25 止めネジ
30 押え上げ機構
31 押え上げリンク
31a 上端部
31b 屈曲部
31c 下端部
32 押え上げ駆動リンク
33 連動アーム
34 軸部材
35 駆動腕
35a 前端部
36 押え上げ駆動脚
37 支持棒
38 ピン
40 フォトインタラプタ
41 遮光部材
41a 遮光板
42 支点ピン
43 コロ
44 巻きバネ
50 糸払い機構
51 ワイパ連結リンク
51a 後端部
51b 前端部
51c 横孔
52 ワイパL型リンク
52a 係合ピン
53 コイルバネ
54 ストッパピン
55 ネジ
56 ワイパ連結板
57 支持板
58 ワイパ
58a 一端部
58b 糸払い部
59 支持板
60 カム部材
61 第1カム
61a カム溝
62 第2カム
62a カム面
70 布押え装置
71 布押え
72 支持台
73 布押え駆動リンク
73a 一端部
73b 上方延在部
73c 当接ピン
74 軸部材
80 パルスモータ
81 主軸
90 CPU
91 ROM
92 RAM
93 操作パネル
94 押えスイッチ
95 スタートスイッチ
100 主軸モータ
S1 初期回転方向設定工程
S2 布地押え工程
S3 データアドレス初期化工程
S4 縫製データ読込工程
S5 糸切り・糸払い工程
S6 他コマンド実行工程
S7、S8 データアドレス更新工程
S9 押え上げ工程
S10 パルスモータ停止工程
S11 フラグ反転工程
S12 パルスモータ反転工程
X1 円弧部
X2 変曲部
Y1 円弧部
Y2 楕円部

Claims (2)

  1. 可動刃を有する糸切り機構と、布押えを上昇させる押え上げ機構と、糸払い片を有する糸払い機構と、これら各機構を駆動する駆動手段と、を備えるミシンにおいて、
    前記駆動手段は、単一の駆動モータであり、
    前記駆動モータの回転駆動力を前記糸切り機構に対応した駆動力に変換する糸切り作動部を有する第1カムと、
    一端が前記第1カムの前記糸切り作動部を摺動し他端が前記糸切り機構に連結される第1連結部材と、
    前記駆動モータの回転駆動力を前記糸払い機構に対応した駆動力に変換する糸払い作動部、および、前記駆動モータの回転駆動力を前記押え上げ機構に対応した駆動力に変換する押え上げ作動部を有し、前記第1カムに対して所定の位相差をもって配置される第2カムと、
    一端が前記第2カムの前記糸払い作動部および前記押え上げ作動部を摺動し他端が前記糸払い機構および前記押え上げ機構に連結される第2連結部材と、を備え、
    前記第1カムと前記第2カムとの前記所定の位相差は、
    前記糸切り機構による糸切り動作が終了してから前記糸払い機構が作動するように構成されるとともに、前記駆動モータの回転によって前記糸切り機構、前記糸払い機構、前記押え上げ機構がこの順で作動するように構成され
    前記第1カムと前記第2カムとは、
    前記糸切り機構、前記糸払い機構および前記押え上げ機構の何れをも作動させない不作動領域を挟んで配置され、
    前記第1カムの前記糸切り作動部、前記第2カムの前記糸払い作動部および前記押え上げ作動部は、
    前記糸切り機構、前記糸払い機構および前記押え上げ機構の動作が前記駆動モータの回転方向に関わらず同一となるように各々対称形に構成され、
    前記糸切り機構、前記糸払い機構および前記押え上げ機構をこの順で作動させる回転方向に前記駆動モータを回転させる第1制御モードと、前記糸切り機構および前記糸払い機構をこの順で作動させる回転方向に前記駆動モータを回転させた後、前記押え上げ機構を作動させる前に前記駆動モータを反対方向に回転させて前記駆動モータの回転位置を前記不作動領域に位置させる第2制御モードと、を自在に切り替えて実現させる制御手段を備えることを特徴とするミシン。
  2. 前記第2制御モードにおける前記糸払い機構の作動の際に、前記糸払い機構の前記糸払い片の可動領域を変更する可動領域変更手段を備えることを特徴とする請求項1記載のミシン。
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