JP4093520B2 - 船外機 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンのクランクシャフトを上下方向に向けて配置し、かつエンジンのシリンダ軸線を前後方向に向けて配置した船外機に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、船外機はエンジンを搭載した本体フレームを備えており、この本体フレームは取付ブラケットを介して船体に着脱自在に取り付けられる。そして前記エンジンは、本体フレームの内部に上下方向に配置された駆動軸への動力伝達を容易に行えるように、クランクシャフトが上下方向を向き、かつシリンダ軸線が前後方向を向くように本体フレームに縦置きに搭載される。
【0003】
エンジンの運転により発生する振動は本体フレームから取付ブラケットを介して船体に伝達されるが、この振動を低減するために取付ブラケットに本体フレームが弾性体を介して支持される。また船外機のプロペラが発生する推力は、本体フレームから前記弾性体を介して取付ブラケットに伝達され、更に取付ブラケットから船体に伝達される。従って、前記弾性体は、本体フレームから取付ブラケットへの振動伝達を効果的に低減しながら、プロペラが発生する推力を本体フレームから取付ブラケットに効果的に伝達するという、相反する要請を満たす必要がある。
【0004】
前記要請を満たすための1つの手法は、エンジンが発生する振動そのものを小さくすることである。例えば、2気筒4サイクルエンジンでは、2つのピストンのクランク位相を同位相にしながら点火時期を360°ずらした等間隔の点火とするのが一般的である。かかるエンジンが発生する一次振動を低減するために、ピストンの往復質量に対するクランクシャフトのカウンターウエイトの回転質量を50%とし、残りの50%をクランクシャフトと同速度で逆回転するバランサーシャフトに持たせたものが、特開昭63−192693号公報により提案されている。
【0005】
前記要請を満たすための他の1つの手法は、取付ブラケットに本体フレームを支持する弾性体の剛性に異方性を持たせることである。即ち、弾性体の剛性を、プロペラが発生する推力を船体に伝達する方向(前後方向)に固くし、それと直交する方向(左右方向)に柔らかくすることにより、推力を船体に有効に伝達しながら左右方向の振動の船体への伝達を防止するものが、特開平2−37096号公報により提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特開昭63−192693号公報に記載されたものは、特別のバランサー装置を付加する必要があるので重量やコストが増加するという問題があるだけでなく、クランクシャフトに連動してバランサーシャフトを駆動するためのギヤ等の動力伝達系が騒音を発生するという問題がある。
【0007】
また上記特開平2−37096号公報に記載されたものは、エンジンの運転に伴って発生するクランクシャフトのトルク反力を支持できるように、エンジンの重心を通る上下方向の軸線(トルクロール軸)を挟んだ前後2か所に弾性体を配置しているため、弾性体の位置が船外機の中央部になって他の機器類と干渉し易くなり、レイアイトの点で不利であるという問題がある。
【0008】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、エンジンが発生する振動の伝達を効果的に低減しながら、プロペラが発生する推力を船体に効果的に伝達することが可能な船外機を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、船外機本体と、船外機本体に搭載されたエンジンと、船外機本体を船体に枢支するスイベル軸と、スイベル軸と一体のマウントアームと、左右一対の弾性体を有してマウントアームに船外機本体を支持するマウント装置と、マウントアームに接続されて船外機本体をスイベル軸まわりに揺動させる操舵ハンドルとを備えた船外機において、前記エンジンはクランクシャフトが上下方向に配置され、シリンダヘッドを後向きにしてシリンダ軸線がプロペラ軸と平行な前後方向に配置され、かつピストンの往復慣性質量とクランクシャフトの回転慣性質量とのバランス率が概ね100%に設定されており、前記弾性体はエンジンの左右両側部に配置され、前記マウント装置の剛性は、エンジンの高回転域における振動の仮想中心点を中心として前記弾性体を通る円弧の接線方向の剛性が、同円弧の半径方向の剛性よりも低く設定されており、前記円弧上にスイベル軸が配置されることを特徴とする船外機が提案される。
【0010】
上記構成によれば、ピストンの往復慣性質量により発生する前後方向の慣性力がクランクシャフトの回転慣性質量により左右方向の慣性力に変換され、この左右方向の慣性力は、エンジンを搭載する船外機本体を振動の仮想中心点を中心として左右方向に振動させる。このとき、船体に船外機本体を弾性支持すべくエンジンの左右両側に配置された弾性体を有するマウント装置の剛性は、振動の仮想中心点を中心として弾性体を通る円弧の接線方向の剛性が、同円弧の半径方向の剛性よりも低く設定されるので、振動の仮想中心点を中心とする前記左右方向の振動はマウント装置の低い剛性によって効果的に低減され、船体の乗り心地性を良好にすることができる。またプロペラ軸と平行な前後方向に作用する推力はマウント装置を介して船体に伝達されるが、前記推力の方向に沿うマウント装置の剛性は高く設定されているので、そのマウント装置の高い剛性によって推力を船体に効果的に伝達することができる。しかも振動の仮想中心点を中心として弾性体を通る円弧上にスイベル軸が配置されているので、マウント装置を通過してマウントアームに伝達された 振動で該マウントアームがスイベル軸まわりに揺動するのを防止することができ、これによりマウントアームに接続された操舵ハンドルへの振動伝達を最小限に抑えることができる。
【0011】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記振動の仮想中心点から前方に延びる直線と、前記振動の仮想中心点から弾性体に向けて延びる直線との成す角度が45°未満であることを特徴とする船外機が提案され、この構成によれば、推力の方向(振動の仮想中心点から前方に延びる直線の方向)とマウント装置の剛性が最も高い方向(仮想中心点から弾性体に向けて延びる直線の方向)とのずれを小さくし、推力を一層効果的に船体に伝達することができる。
【0012】
尚、実施例のエンジン支持ブロック41は本発明の船外機本体に対応し、実施例のアッパーマウント65は本発明のマウント装置に対応し、実施例のアッパーマウントラバー74は本発明の弾性体に対応する。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0014】
図1〜図14は本発明の一実施例を示すもので、図1は船外機の全体側面図、図2は図1の要部拡大断面図、図3は図2の3−3線断面図、図4は図1の要部拡大図、図5は図4の5−5線断面図、図6は図2の6−6線断面図、図7は図6の要部拡大断面図、図8は図7の8−8線断面図、図9は図7の9−9線断面図、図10はアッパーマウントラバーの斜視図、図11は図1の要部拡大断面図、図12は図11の12方向矢視図、図13は図11の13−13線断面図、図14は振動低減作用の説明図である。
【0015】
図1〜図3に示すように、船外機Oの上部に搭載された2気筒4サイクルエンジンEは、クランクケース111 を一体に備えたシリンダブロック11と、シリンダブロック11に結合されたシリンダヘッド12と、シリンダヘッド12に結合されたヘッドカバー13とを備えており、シリンダブロック11に形成された2個のシリンダボア112 ,112 に摺動自在に嵌合する2個のピストン14,14が、シリンダブロック11に支持したクランクシャフト15にコネクティングロッド16,16を介して連接される。
【0016】
シリンダブロック11から上方に突出するクランクシャフト15の軸端部に、発電機17およびリコイルスタータ18が同軸上に設けられる。シリンダヘッド12およびヘッドカバー13間に区画された動弁室19にはカムシャフト20が支持されており、その上端に設けたカムプーリ21とクランクシャフト15の上部に設けたクランクプーリ22とがタイミングベルト23で接続される。シリンダヘッド12に形成した吸気ポート24および排気ポート25をそれぞれ開閉する吸気弁26および排気弁27が、前記カムシャフト20にそれぞれ吸気ロッカーアーム28および排気ロッカーアーム29を介して接続される。エンジンEの右側面に配置されたエアクリーナ30、スロットルバルブ31およびキャブレタ32が前記吸気ポート24に接続される。
【0017】
クランクシャフト15の軸線は上下方向に配置され、かつシリンダボア112 ,112 の軸線は、クランクケース111 側が前方を向いてシリンダヘッド12側が後方を向くように前後方向に配置される。2個のピストン14,14のクランク位相は同位相であり、その点火時期は360°ずれている。クランクシャフト15にはピストン14,14の往復質量に対抗するバランス率100%のカウンターウエイト151 …が設けられており、従ってピストン14,14の往復動に伴う前後方向の一次振動はクランクシャフト15のカウンターウエイト15…の回転運動により相殺され、その代わりにカウンターウエイト15…の回転運動に伴う左右方向の一次振動が発生する。エンジンEは前記クランクシャフト15のカウンターウエイト151 …以外のバランサー装置を備えておらず、従ってエンジンEが発生する振動は、前後方向に小さく左右方向に大きいものとなる。
【0018】
上記構造のエンジンEの下面にエンジン支持ブロック41の上面が結合され、このエンジン支持ブロック41の下面にイクステンションケース42の上面が結合され、このイクステンションケース42の下面にギヤケース43の上面が結合される。エンジン支持ブロック41の外周と、エンジンEの下半部の外周とが、イクステンションケース42の上端に結合されたアンダーカバー44によって覆われ、このアンダーカバー44の上端に結合されたエンジンカバー45によってエンジンEの上半部が覆われる。
【0019】
エンジン支持ブロック41はオイルパン411 を一体に備えており、その内部にオイルストレーナ46を備えたサクションパイプ47が収納される。エンジン支持ブロック41の後面には排気通路形成部材48が結合され、またイクステンションケース42の内部には隔壁421 を介して排気膨張室49が区画される。排気ポート25から出た排気ガスは、シリンダブロック11の内部に形成された排気通路113 から排気通路形成部材48の内部に供給され、そこからイクステンションケース42の排気膨張室49および後記プロペラ軸53の中空部を経て外部の水中に排出される。
【0020】
クランクシャフト15の下端に接続された駆動軸50はエンジン支持ブロック41を貫通してイクステンションケース42に形成した駆動軸室51の内部を下方に延び、後端にプロペラ52を備えてギヤケース43に前後方向に支持されたプロペラ軸53の前端に前後進切換機構54を介して接続される。
【0021】
図4および図5を併せて参照すると明らかなように、船外機Oを船体Sに着脱自在に取り付けるための取付ブラケット55は、逆J字状の取付ブラケット本体56と、この取付ブラケット本体56に螺合する押しねじ57とを備える。取付ブラケット本体56に支点ピン58を介して揺動アーム59の前端が枢支されており、この揺動アーム59の後端にパイプ状のスイベルケース60が一体に結合される。取付ブラケット本体56には多数のピン孔561 …が設けられており、スイベルケース60に固定した係止板601 に形成したピン孔と前記取付ブラケット本体56の何れかのピン孔561 …とにピン61を挿通することにより、支点ピン58まわりの船外機Oのチルト角を調整することができる。
【0022】
スイベルケース60の内部に相対回転自在に嵌合するスイベル軸62は、その上端および下端にそれぞれマウントアーム63およびマウントブロック64を備える。上側のマウントアーム63の左右一対のアッパーマウント65,65を介してエンジン支持ブロック41に弾性的に接続され、下側のマウントブロック64はロアマウント66を介してイクステンションケース42に弾性的に接続される。エンジン支持ブロック41の前端には操舵ハンドル67が固定されており、この操舵ハンドル67を握って左右に操作することにより、エンジン支持ブロック41をスイベル軸62まわりに左右に揺動させて船外機Oを操舵することができる。
【0023】
次に、図5〜図10および図14を参照しながらアッパーマウント65,65の構造を説明する。
【0024】
エンジン支持ブロック41は前上方に張り出す左右一対の張出部412 ,412 を備えており、それぞれの張出部412 ,412 にラバー収納部71,71が形成される。各ラバー収納部71は上壁711 、前壁712 、後壁713 、外壁714 および内壁715 を備えた凹部であり、その下面だけが開放している。一方、マウントアーム63の左右両端部にボルト72,72で固定した芯金73,73の周囲を覆うように概略直方体状のアッパーマウントラバー74,74が設けられており、これらアッパーマウントラバー74,74はエンジン支持ブロック41のラバー収納部71,71の内部に下方から嵌合する。ラバー収納部71,71からアッパーマウントラバー74,74が脱落しないように、ラバー収納部71,71の下面開放部に拘束用の蓋83,83がボルト84…で固定される。
【0025】
図14から明らかなように、エンジンEの高回転域(3000rpm以上)における一次振動の仮想中心点Cは船外機Oの後部に位置しており、この仮想中心点Cから前方に延びる直線L1 はシリンダ軸線に一致している。ラバー収納部71,71の外壁714 ,714 および内壁715 ,715 は、一次振動の仮想中心点Cからアッパーマウントラバー74,74の中心に向けて延びる直線L2 ,L2 と平行であり、ラバー収納部71,71の前壁712 ,712 および後壁713 ,713 は前記直線L2 ,L2 に直交している。直線L1 と直線L2 ,L2 との成す角度α,αは小さく(45°未満)設定されている。L3 は仮想中心点Cを中心としてアッパーマウントラバー74,74の中心を通る円弧であり、この円弧L3 上にスイベル軸62が位置している。
【0026】
図10から明らかなように、各アッパーマウントラバー74は前側の上下の左右方向に延びる突起75,76を備えるとともに、後側の上下の左右方向に延びる突起77,78を備えており、突起75の両端には更に左右方向に突出する凸部751 ,751 が形成され、突起76の両端には更に左右方向に突出する凸部761 ,761 が形成され、突起77の両端には更に左右方向に突出する凸部771 ,771 が形成され、突起78の両端には更に左右方向に突出する凸部781 ,781 が形成される。
【0027】
上側の2つの突起75,77は、その全面がラバー収納部71の前壁712 および後壁713 にそれぞれ線接触しており(図9参照)、従ってアッパーマウント65に前後方向(正しくは、図14の直線L3 方向)の荷重が入力したときに、前記突起75,77の全体が潰れるためにアッパーマウントラバー74は比較的に大きな剛性を発揮する。それに対して、ラバー収納部71の外壁714 および内壁715 には、上側の2つの突起75,77の左右両端の凸部751 ,751 ;771 ,771 (図7および図8参照)が点接触するだけであり、アッパーマウント65に左右方向(正しくは、図14の円弧L3 方向)の荷重が入力したときに、前記凸部751 ,751 ;771 ,771 が容易に圧縮されてアッパーマウントラバー74は比較的に小さな剛性を発揮する。つまり、アッパーマウントラバー74の剛性は異方性を持ち、直線L2 方向の剛性が高く、円弧L3 方向(仮想中心点Cを中心とする接線方向)の剛性が低くなっている。
【0028】
尚、下側の2つの突起76,78はラバー収納部71の壁面との間に隙間を有しているが、左右方向の大荷重が入力してアッパーマウントラバー74が大きく変形したとき、前記2つの突起76,78はラバー収納部71の壁面に接触して荷重支持機能を発揮する(図8参照)。
【0029】
次に、図11〜図13を参照しながらロアマウント66の構造を説明する。
【0030】
スイベルケース60から下方に突出するスイベル軸62の下端にマウントブロック64が嵌合し、2本のボルト79,79で固定される。マウントブロック64の下端から左右に突出する芯金641 ,641 の外周を覆うようにロアマウントラバー80,80が設けられる。イクステンションケース42の下端部後面に左右一対のラバー収納部422 ,422 が形成されており、これらラバー収納部422 ,422 に後方から嵌合するロアマウントラバー80,80を固定すべく、左右一対のカバー部材81,81がそれぞれボルト82,82でイクステンションケース42に締結される。
【0031】
而して、イクステンションケース42の下端部は、ロアマウントラバー80,80を備えたロアマウント66を介してスイベル軸62の下端に弾性的に支持される。
【0032】
次に、主として図14を参照しながら本実施例の作用を説明する。
【0033】
エンジンEの運転に伴ってピストン14,14が直線L1 方向(前後方向)に往復移動することにより発生する慣性力aは、クランクシャフト15に設けられたバランス率100%のカウンターウエイト151 …の回転により発生する直線L1 方向の慣性力で相殺されるため、最終的に直線L1 方向の一次振動は比較的に小さいものとなる。しかしながら、クランクシャフト15のカウンターウエイト151 …の回転に伴って発生する左右方向の慣性力c,dが、仮想的な振動中心Cを中心として船外機Oを円弧L3 方向(左右方向)に振動させるため、この振動が取付ブラケット55を介して船体Sに伝達される。
【0034】
仮想的な振動中心Cとは、振動源としてのエンジンEのうち、常に動かないと見做せる点である。仮想的な振動中心Cの位置はエンジンEの運転状態に応じて移動するが、本実施例ではエンジンEの防振性能が特に問題となる高速エンジン回転域(3000rpm以上)での振動中心Cを対象とする。
【0035】
上述したエンジンEの振動はアッパーマウント65,65およびロアマウント66から取付ブラケット55を介して船体Sに伝達されるが、その際にアッパーマウント65,65のアッパーマウントラバー74,74およびロアマウント66のロアマウントラバー80,80により振動が低減され、船体Sに伝達される振動が弱められる。特に、本実施例では振動源であるエンジンEに近いアッパーマウント65,65によって前記左右方向の振動が効果的に低減される。
【0036】
即ち、上述した仮想的な振動中心Cを中心とする円弧L3 方向の振動は、エンジンEを支持するエンジン支持ブロック41のラバー収納部71,71からアッパーマウント65,65のアッパーマウントラバー74,74に伝達されるが、アッパーマウントラバー74,74は前記振動の方向(円弧L3 方向)に沿う剛性が低く設定されているため、容易に弾性変形して振動を効果的に減衰させ、マウントアーム63に伝達される振動を低減する。これにより、マウントアーム63からスイベル軸62、スイベルケース60、揺動アーム59および取付ブラケット本体56を介して船体Sに伝達される振動が低減し、乗り心地の向上に寄与することができる。
【0037】
また、アッパーマウントラバー74,74は直線L2 ,L2 方向に沿う剛性が高く設定されているため、前後方向の振動を有効に低減することができないが、前述したように、エンジンEの前後方向の振動はクランクシャフト15のカウンターウエイト151 …により抑えられているため、前後方向の振動がアッパーマウントラバー74,74を介して船体S側に伝達される虞はない。
【0038】
アッパーマウントラバー74,74で吸収しきれなかった左右方向の振動は芯金73,73からマウントアーム63に伝達されるが、マウントアーム63を揺動自在に支持するスイベル軸62の軸線がアッパーマウントラバー74,74の中心を通る前記円弧L3 上に配置されているため、アッパーマウントラバー74,74で吸収しきれなかった左右方向の振動によるマウントアーム63の揺動を最小限に抑えることができ、これによりマウントアーム63に結合された操舵ハンドル67への振動伝達を最小限に抑えることが可能になる。
【0039】
尚、操舵ハンドル67への振動伝達を最小限に抑えるには、上述したようにマウントアーム63を支持するスイベル軸62の軸線をアッパーマウントラバー74,74の中心を通る円弧L3 上に配置することが望ましいが、船体Sに対する振動伝達をより一層軽減するためには、スイベル軸62の軸線を円弧L3 上から前後方向にずらした方が良い。その理由は、スイベル軸62の軸線が円弧L3 上から前後方向にずれていると、アッパーマウントラバー74,74で吸収しきれなかった左右方向の振動が伝達されたマウントアーム63がスイベル軸62まわりに揺動し、マウントアーム63が1種の防振リンクとして機能して船体Sに対する振動伝達を軽減するからである。
【0040】
またプロペラ52が発生する前後方向の推力e,fもアッパーマウントラバー74,74を介して船体S側に伝達されるが、アッパーマウントラバー74,74は直線L2 ,L2 方向に沿う剛性が高く設定されているため、前記推力e,fを効果的に船体S側に伝達することができる。尚、アッパーマウントラバー74,74の剛性が最大になる直線L2 ,L2 の方向は推力e,fの方向に対して角度α,αだけずれているが、角度α,αは比較的に小さいために実質的な影響はない。このような意味から、前記角度α,αは小さいことが望ましく、最大値でも45°以下に抑えることが望ましい。
【0041】
以上のように、アッパーマウント65,65のアッパーマウントラバー74,74の剛性に異方性を持たせるだけの簡単な構造で、重量やコストが嵩む特別のバランサー装置を設けることなく、プロペラ52の推力e,fを船体Sに効果的に伝達しながら、エンジンEの振動が船体Sや操舵ハンドル67に伝わり難くすることができる。
【0042】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0043】
例えば、実施例では2気筒4サイクルエンジンを例示したが、本発明は単気筒2サイクルエンジン等の他種のエンジンに対しても適用することができる。
【0044】
【発明の効果】
以上のように請求項1に記載された発明によれば、ピストンの往復慣性質量により発生する前後方向の慣性力がクランクシャフトの回転慣性質量により左右方向の慣性力に変換され、この左右方向の慣性力は、エンジンを搭載する船外機本体を振動の仮想中心点を中心として左右方向に振動させる。このとき、船体に船外機本体を弾性支持すべくエンジンの左右両側に配置された弾性体を有するマウント装置の剛性は、振動の仮想中心点を中心として弾性体を通る円弧の接線方向の剛性が、同円弧の半径方向の剛性よりも低く設定されるので、振動の仮想中心点を中心とする前記左右方向の振動はマウント装置の低い剛性によって効果的に低減され、船体の乗り心地性を良好にすることができる。またプロペラ軸と平行な前後方向に作用する推力はマウント装置を介して船体に伝達されるが、前記推力の方向に沿うマウント装置の剛性は高く設定されているので、そのマウント装置の高い剛性によって推力を船体に効果的に伝達することができる。しかも振動の仮想中心点を中心として弾性体を通る円弧上にスイベル軸が配置されているので、マウント装置を通過してマウントアームに伝達された振動で該マウントアームがスイベル軸まわりに揺動するのを防止することができ、これによりマウントアームに接続された操舵ハンドルへの振動伝達を最小限に抑えることができる。
【0045】
また請求項2に記載された発明によれば、振動の仮想中心点から前方に延びる直線と、該仮想中心点から弾性体に向けて延びる直線との成す角度が45°未満であるので、推力の方向(振動の仮想中心点から前方に延びる直線の方向)とマウント装置の剛性が最も高い方向(仮想中心点から弾性体に向けて延びる直線の方向)とのずれを小さくし、推力を一層効果的に船体に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 船外機の全体側面図
【図2】 図1の要部拡大断面図
【図3】 図2の3−3線断面図
【図4】 図1の要部拡大図
【図5】 図4の5−5線断面図
【図6】 図2の6−6線断面図
【図7】 図6の要部拡大断面図
【図8】 図7の8−8線断面図
【図9】 図7の9−9線断面図
【図10】 アッパーマウントラバーの斜視図
【図11】 図1の要部拡大断面図
【図12】 図11の12方向矢視図
【図13】 図11の13−13線断面図
【図14】 振動低減作用の説明図
【符号の説明】
12 シリンダヘッド
14 ピストン
15 クランクシャフト
41 エンジン支持ブロック(船外機本体)
53 プロペラ軸
62 スイベル軸
63 マウントアーム
65 アッパーマウント(マウント装置)
67 操舵ハンドル
74 アッパーマウントラバー(弾性体)
C 振動の仮想中心点
E エンジン
L1 振動の仮想中心点から前方に延びる直線
L2 振動の仮想中心点から弾性体に向けて延びる直線
L3 振動の仮想中心点を中心として弾性体を通る円弧
S 船体
α 角度
Claims (2)
- 船外機本体(41)と、
船外機本体(41)に搭載されたエンジン(E)と、
船外機本体(41)を船体(S)に枢支するスイベル軸(62)と、
スイベル軸(62)と一体のマウントアーム(63)と、
左右一対の弾性体(74)を有してマウントアーム(63)に船外機本体(41)を支持するマウント装置(65)と、
マウントアーム(63)に接続されて船外機本体(41)をスイベル軸(62)まわりに揺動させる操舵ハンドル(67)とを備えた船外機において、
前記エンジン(E)はクランクシャフト(15)が上下方向に配置され、シリンダヘッド(12)を後向きにしてシリンダ軸線がプロペラ軸(53)と平行な前後方向に配置され、かつピストン(14)の往復慣性質量とクランクシャフト(15)の回転慣性質量とのバランス率が概ね100%に設定されており、
前記弾性体(74)はエンジン(E)の左右両側部に配置され、前記マウント装置(65)の剛性は、エンジン(E)の高回転域における振動の仮想中心点(C)を中心として前記弾性体(74)を通る円弧(L 3 )の接線方向の剛性が、同円弧(L 3 )の半径方向の剛性よりも低く設定されており、
前記円弧(L 3 )上にスイベル軸(62)が配置されることを特徴とする船外機。 - 前記振動の仮想中心点(C)から前方に延びる直線(L1 )と、前記振動の仮想中心点(C)から前記弾性体(74)に向けて延びる直線(L2 )との成す角度(α)が45°未満であることを特徴とする、請求項1に記載の船外機。
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