JP4023663B2 - ステンレス鋼製接点 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、導電性,はんだ付け性に優れ、薄肉化しても十分なバネ弾性を呈し、各種電気・電子機器に組み込まれるステンレス鋼製接点に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気・電子機器用の接点材料として、接触抵抗,導電性,バネ弾性等が良好なリン青銅が従来から使用されている。リン青銅にはSn:3.5〜9.0質量%,P:0.05〜0.25質量%を含むC5111,C5102,C5191,C5212,C5210等があり、体積抵抗が低く、接点材料に要求されるはんだ付け性にも優れている。
しかし、リン青銅はCuを主成分とする材料であり、接点の材料コストを上昇させる原因である。また、接点を加圧して相手材に押し付けることにより接触抵抗を下げることができるが、耐ヘタリ性が十分でないリン青銅製接点では加圧解除しても相手材に接触したままの状態が維持されることがある。特に通電によるジュール発熱で昇温する雰囲気やヒータ周辺,自動車エンジンルーム内等の高温環境下で使用される接点では、リン青銅自体が軟化するため接触状態が持続する傾向が強くなる。このような用途では、耐熱化での耐ヘタリ性に比較的優れたバネ用チタン銅(合金番号C 1990),C19025合金等の耐熱銅合金や肉厚のリン青銅を接点材料として使用することにより耐ヘタリ性をある程度改善できるものの、材料コストが一層上昇することは勿論、小型化・軽量化に対する支障となる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
リン青銅製接点の欠点を克服するため、リン青銅に代えて種々の材料を使用することが検討されている。なかでも、耐食性に優れたステンレス鋼は、代表的な代替材料として期待されている。ステンレス鋼は、リン青銅に比較して耐ヘタリ性、なかでも高温環境における耐応力緩和特性に優れている。そのため、薄肉化しても十分な強度を維持し、小型化・軽量化に適した接点材料であり、バネ用Ti銅等の耐熱銅合金に比較して安価な材料でもある。
【0004】
しかし、ステンレス鋼は、表面にある強固な不動態皮膜のため高い接触抵抗を示し、リン青銅等の銅合金と比較して体積抵抗が高いことも欠点である。接触抵抗や体積抵抗の高いステンレス鋼をそのまま接点材料に使用すると、接触不良やジュール発熱等による電力損失を招き、たとえば充電回路に組み込まれる用途では必要電力の充電に長時間を要する。不動態皮膜は、電気・電子機器用の接点に要求されるはんだ付け性を低下させる原因でもある。
ステンレス鋼の接触抵抗は、導電性の良好な被覆層を表面に形成することによって低下できる。しかし、単に被覆層を形成しただけでは、高い体積抵抗のためにリン青銅製接点に匹敵する特性を付与できず、代替材料としての展開が期待できない。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、基材に使用されるステンレス鋼導電性被覆層としてのCuめっき層、及び耐食性の付与により長期にわたる低接触抵抗の維持を図るSnめっき層との組合せを特定することによって、従来のリン青銅製接点に匹敵する特性を呈し、小型化・軽量化に適した安価な接点を提供することを目的とする。
【0006】
本発明のステンレス鋼製接点は、その目的を達成するため、板厚t(mm)が . 05〜0 . 5mmのステンレス鋼板を基材とし、当該基材表面上にL/t=40〜200の関係を満足する膜厚L(μm)を有し表面粗さがRaで0 . 2μm以下に平滑化されたCuめっき層と、当該Cuめっき層上にL/M=2〜100,M=0 . 2〜10を満足する膜厚M(μm)のSnめっき層が形成されていることを特徴とする。
【0009】
【実施の形態】
ステンレス鋼製接点の基材として使用されるステンレス鋼は、Cr:12.0〜20.0質量%,Ni:6.0〜20.0質量%を含むオーステナイト系,Cr:12.0〜14.0質量%を含むマルテンサイト系、Cr:13.5〜18.0質量%,Ni:6.0〜8.0質量%を含む析出硬化系,Cr:16.0〜18.0質量%,Ni:1.5〜2.5質量%を含むα+α'二相系,Cr:10〜25質量%を含むフェライト系等、バネ用ステンレス鋼として使用されている材料である。具体的には、SUS301,SUS304等のオーステナイト系,SUS420J等のマルテンサイト系、SUS631,SUS632J1等の析出硬化系、NSS−431DP2,NSS−431DP1等の二相系,SUS430,SUH409等のフェライト系が挙げられる。
【0010】
Crは、ステンレス鋼に耐食性を付与する合金成分であり、10.0質量%以上で耐食性改善効果が顕著になる。しかし、20.0質量%を超える過剰量のCrが含まれると、材質が硬質化し、接点形状への加工が困難になる。Niは、非磁性のオーステナイト相に必要な合金成分であり、オーステナイト相維持のためには6.0質量%以上が必要である。しかし、高価な元素であることから、Ni含有量の上限を20.0質量%に設定する。
【0011】
ステンレス鋼は、リン青銅に比較して引張強さ,弾性係数,バネ限界値,硬さ等の機械的特性に優れており、接点使用時の高温状態でも機械的特性の劣化が少なく、耐ヘタリ性にも優れた材料である。しかし、リン青銅の8.8〜13.26×10-8Ω・mに比較して、70×10-8Ω・m以上の高い体積抵抗率を示す。高い体積抵抗率に起因する弊害は、基材に使用するステンレス鋼を薄肉化することによって抑制できる。また、機械的特性に優れているため、薄肉化しても接点材料の要求特性を十分に満足する。
【0012】
本発明者等は、かかる観点から基材・ステンレス鋼の板厚t,Cuめっき層の膜厚Lと体積抵抗率との関係を調査した結果、後述の実施例でも説明しているように、板厚t(mm)を0.05〜0.5mmの範囲に設定し,Cuめっき層の膜厚L(μm)と板厚tとの間にL/t=40〜200の関係を満足させるとき、リン青銅に匹敵する体積抵抗率及び機械的特性が得られることを見出した。
基材・ステンレス鋼は、そのままでは接触抵抗を高める不動態皮膜が表面に生成している。そこで、導電性の良好なCuめっき層をステンレス鋼表面に形成することにより接触抵抗を低減させ、薄肉化によって接点全体としての体積抵抗率をも低減させる。
【0013】
本発明者等による調査検討の結果、膜厚比L/t≧40で体積抵抗率が28×10-8Ω以下になり、接点材料に要求される導電性が満足される。体積抵抗率はCuめっき層を厚膜化するほど低下するが、基材・ステンレス鋼に対して必要以上の厚膜でCuめっき層を形成すると、ステンレス鋼の優れた耐ヘタリ性等の機械的特性が低下する傾向がみられる。耐ヘタリ性等はステンレス鋼の材質選択によってある程度まで制御可能であるが、200を超える膜厚比L/tではリン青銅に対する優位性が損なわれる。Cuめっき層は、膜厚比L/t=40〜200の関係が維持されている限り、基材・ステンレス鋼の両面又は片面に形成することができる。或いは、両面で膜厚が異なるCuめっき層を形成しても良い。
【0014】
ステンレス鋼表面に形成されたCuめっき層は、はんだ付け性の改善にも有効である。たとえば、リン青銅ではPb−Snはんだに対して良好なはんだ濡れ性を呈するが、環境負荷の少ないPbフリーはんだを使用すると満足できるはんだ接合が得られない場合がある。これに対し、Cuめっき層は、Pb−Snはんだは勿論、Pbフリーはんだに対しても十分なはんだ付け性を呈する。
【0015】
Cuめっき層は、電気めっき法によって基材・ステンレス鋼表面に形成できるが、基材に対する密着性を高めるためNiプレめっき後に電気Cuめっきを施すことが好ましい。光沢化剤を含まない硫酸浴やピロリン酸浴を電気Cuめっきに使用すると、Cuめっき層の表面が適度に粗くなる。表面が粗いCuめっき層は、ステンレス鋼製接点を相手材に押し付けたとき密着状態で相手材に接触し、接触界面に多数の導通路が形成されるため、接触抵抗を効果的に低減させる。
【0016】
光沢化剤を含むめっき浴から形成されたCuめっき層であっても、めっき後に電解エッチング,化学エッチング,ショットブラスティング,サンドブラスティング,ダルロール圧延等でCuめっき層を粗面化することにより、同様に接触抵抗を低減できる。
Cuめっき層の表面状態が接触抵抗に及ぼす影響は、Ra:0.2μm以上の表面粗さで検出される。Ra:0.2μm以上の粗面は、光沢化剤を含まないめっき浴を使用した電気Cuめっきでは電流密度,電圧,浴温等の電解条件によっても達成できる。
【0017】
高温加熱環境下での長期使用に当っては、Cuめっき層の上に耐食性の改善に有効なNi,Sn,Au等のめっき層を更に形成しても良い。このめっき層の膜厚は、特に規定されるものではないが、経済性及び耐食性を考慮して0.2〜10μmの範囲に調整される。Niめっき層又はSnめっき層を形成する場合、Cuめっき層の表面をRa:0.2μm以下に平滑化する。
Niめっき層又はSnめっき層は、高温化熱環境化での腐食発生を抑制すると共に、基材・ステンレス鋼の優れた耐ヘタリ性等の機械的特性を維持する上でも有効である。このような効果は、L/M=2〜100,M=0.2〜10を満足する膜厚M(μm)でNiめっき層又はSnめっき層を形成することにより顕著となる。
【0018】
膜厚比L/M<2では導電性がCuより劣るNi,Snの影響が強く現れ、導電率の割に厚膜化し、基材・ステンレス鋼の機械的特性が劣化する。逆に、100を超える膜厚比L/Mは、Niめっき層又はSnめっき層が薄いことを意味し、ピンホールの増加や接点部の摩耗等に起因して下層のCuめっき層が露出し、湿潤雰囲気下に長時間曝されたときCuめっき層が変色し、変色部分の接触抵抗が高くなる。
【0019】
Niめっき層又はSnめっき層の形成に際しては、Cuめっき層を表面粗さRa:0.2μm以下に平滑化する。Ra:0.2μmを超えると表面粗さでは、Niめっき層又はSnめっき層に多量のピンホールが発生し、ピンホールを介してCuめっき層が露出するため耐食性,耐変色性が低下する。粗すぎるCuめっき層の表面は、Cuめっき層の上に形成されるNiめっき層又はSnめっき層を粗面化して耐磨耗性が低下する原因であり、接点使用時に下層のCuめっき層が露出しやすくなる。更に、高温環境下や大電流用途では、Cuめっき層とNiめっき層又はSnめっき層との界面で相互拡散が促進され、導電性に有害なSn−Cu,Sn−Ni等の金属間化合物が形成しやすくなる。
【0020】
【実施例1】
SUS304ステンレス鋼を基材に使用した例で本発明を具体的に説明するが、SUS301,SUS420J,SUS631,SUS632J1,NSS−431DP1,NSS−431DP2等、他のステンレス鋼を基材に使用した場合でも同様な結果が得られることは勿論である。
ステンレス鋼をNiプレめっきした後、表1の条件下で種々の膜厚をもつCuめっき層を形成した。Cuめっき後、ベンゾトリアゾールを用いてめっき層表面を変色防止処理した。比較のために用いたリン青銅にも同様な変色防止処理を施した。
【0021】
Figure 0004023663
【0022】
Cuめっき層が形成されたステンレス鋼について、ρVa=(t1+t2)/(t1/ρV1+t2/ρV2)の式で体積抵抗率ρVaを算出した。ただし、t1はステンレス鋼の板厚、t2はCuめっき層の膜厚,ρV1はSUS304ステンレス鋼の体積抵抗率,ρV2はCuめっき層の体積抵抗率を示す。
【0023】
図1の計算結果にみられるように、基材・ステンレス鋼を薄肉化するほど、またCuめっき層を厚膜化するほど体積抵抗率が低下する。なかでも、板厚0.3mm以下のステンレス鋼に膜厚10μm以上のCuめっき層を形成したものでは、リン青銅(C5191)に匹敵する低い体積抵抗率を呈することが判る。なお、図1では、Niめっき層を形成した板厚0.2mmのステンレス鋼を比較材として掲げたが、この場合にはNiめっき層を厚膜化しても30×10-8Ω・m以上の高い体積抵抗率である。
【0024】
基材に使用したステンレス鋼は、リン青銅(C5191)と比較すると機械的特性が格段に優れた材料である(表2)。そのため、薄肉化しても接点材料に要求されるバネ弾性,耐ヘタリ性を十分に満足している。しかも、薄肉化により体積抵抗率が低くなることから、接点材料として使用可能な材料といえる。
【0025】
Figure 0004023663
【0026】
更に、板厚0.3mmのSUS301ステンレス鋼板(0.2%耐力:1200N/mm2)に片面当りの膜厚15μmでCuめっき層を形成したCuめっきステンレス鋼板から幅10mm,長さ40mmの試験片を切り出し、図2に示す条件下で日本電子材料工業会規格1011(ばね材料の曲げによる応力緩和試験方法)に基づき300℃の高温雰囲気における応力緩和率を測定した。
高温保持時間と熱応力緩和率との関係を調査した結果を示す図3にみられるように、Cuめっきステンレス鋼板では、原板のSUS301ステンレス鋼板とほぼ同じ耐熱応力緩和性を呈した。比較のため同様な条件下で測定したところ、リン青銅(C5191合金)では保持時間100時間で熱応力緩和率が100%近くなっており、バネ性が完全に消失していた。
【0027】
また、板厚0.3mmのCuめっきステンレス鋼から幅10mm,長さ100mmの試験片を切り出し、室温雰囲気で試験片の両端を定電流電源の端子にそれぞれ接続し、電流を変化させながら試験片に通電することにより、体積抵抗率及び試験片の温度を測定した。
片面当り膜厚20μm(両面で40μm)のCuめっき層を形成したステンレス鋼では、リン青銅(C5191)とほぼ同じ体積抵抗率(図4)を呈し、通電に伴う温度上昇(図5)もリン青銅(C5191)より銅板に近い傾向を呈した。膜厚10μmのCuめっき層を形成したステンレス鋼も、供給電流が少ない領域ではリン青銅(C5191)に近い体積抵抗率及び温度上昇傾向を示した。温度上昇が抑制されることは、機械的特性に優れたステンレス鋼を基材に使用することと相俟って、耐ヘタリ性の改善に有効である。
【0028】
次いで、各Cuめっきステンレス鋼のはんだ濡れ性を次の試験で調査し、はんだ付け性を評価した。
〔はんだ濡れ性試験〕
使用はんだ:千住金属(株)製PbフリーはんだM31(Sn−3.5Ag−0.75Cu)
千住金属(株)製一般はんだ(Sn−40%Pb)
フラックス:日本はんだ(株)製P5(電子部品用,塩素なし)
試験温度:250℃(Pbフリーはんだ)及び235℃(一般はんだ)
【0029】
めっき直後及びめっきした試験片を60℃,93%RHに100時間放置した試験片について、レスカー製のソルダ−チェッカーSAT−5000を使用し、Pbフリーはんだ又は一般はんだの溶融浴にサイズ10mm×40mm×0.3mmの試験片を浸漬速度2mm/分で深さ2mmまで浸漬し、当該浸漬深さに10秒保持した。そして、試験片浸漬から濡れの力がゼロをよぎるまでの時間(ゼロクロスタイム)を測定し、ゼロクロスタイムが1.5秒以内を◎,1.5〜3秒を○,3秒以上を×としてはんだ濡れ性を評価した。
【0030】
表3の調査結果にみられるように、Cuめっきステンレス鋼は、めっき浴種,めっき膜厚に拘らず、Pbフリーはんだに対しても良好なはんだ濡れ性を呈し、経時劣化試験後においても十分なはんだ濡れ性が維持されていた。リン青銅は、一般はんだでは十分なはんだ濡れ性を示すものの、Pbフリーはんだに対しては特性が劣化し、経時劣化試験後のはんだ濡れ性が不十分であった。Niめっきしたステンレス鋼,銅板についても同様な傾向が示された。Cuめっきステンレス鋼に比較して銅板の方がはんだ濡れ性に劣ることは、熱伝導性の良好な銅板がはんだ浴に浸漬された際に試験片周辺の浴温が低下することに原因があるものと推察される。
【0031】
Figure 0004023663
【0032】
更に、導電性,はんだ付け性で良好な結果が得られた膜厚20μm(両面で40μm)のCuめっき層を形成した板厚0.2mmのステンレス鋼を選択し、電解エッチングによりCuめっき層を粗面化した。このとき、電解条件の調節によってCuめっき層の表面粗さをRa:0.05〜2.0μmの範囲で変化させた。Cuめっき層が粗面化されたステンレス鋼から切り出された試験片を用いて接触抵抗を測定し、表面粗さが接触抵抗に及ぼす影響を調査した。また、60℃,93%RHに96時間放置する促進劣化試験後の試験片についても同様に接触抵抗を測定した。
【0033】
接触抵抗試験では、試験片表面に金接触端子を接触させ、摺動距離1mmで金接触端子を摺動させながら荷重100gのオン・オフを繰り返す摺動接触抵抗試験及び定点で試験片表面に接触させた金接触端子に荷重100gをオン・オフする定位置接触抵抗試験を採用した。
表4の試験結果にみられるように、表面粗さが大きくなるほど摺動接触抵抗,定位置接触抵抗が共に低下する傾向がみられた。接触抵抗の低減に及ぼす表面粗さの影響はRa:0.2μm以上でみられ、Ra:0.25μm以上でほぼ銅板と同じ程度にまで接触抵抗が低下した。
【0034】
Figure 0004023663
【0035】
【実施例2】
板厚0.25mmのSUS304ステンレス鋼板を基材に使用した。脱脂,酸洗したステンレス鋼板に膜厚0.1μmのNiプレめっき,更に片面当り膜厚10μm(両面20μm)のCuめっきを施した後、種々の膜厚でNiめっき層,Snめっき層を形成した。
Niめっきでは、pH2,浴温50℃のワット浴(硫酸ニッケル240g/l,塩化ニッケル50g/l,硼酸30g/l)にCuめっきステンレス鋼板を浸漬し、電流密度5A/dm2で電気めっきした。Snめっきでは、光沢剤を添加した浴温20℃の硫酸Snめっき浴(硫酸第一錫50g/l,硫酸100g/l,クレゾールスルホン酸30g/l)にCuめっきステンレス鋼板を浸漬し、電流密度2A/dm2で電気めっきした。
【0036】
Figure 0004023663
【0037】
得られた各複層めっきステンレス鋼板から試験片を切り出し、実施例1と同じ条件下の摺動接触抵抗試験の外に塩水噴霧試験,促進劣化試験により性能調査した。塩水噴霧試験では,JIS C0023に準拠し塩水噴霧を24時間継続した後で試験片表面の外観を観察し、腐食生成物が検出されなかった試験片を◎,腐食生成物の発生面積率が5%以下を○,5〜20%を△,20%を超える面積率で腐食生成物が観察された試験片を×として耐食性を評価した。促進劣化試験では、60℃,93%RHの恒温恒湿雰囲気に試験片を放置し、所定時間経過後の接触抵抗を測定し、接触抵抗の経時変化を求めた。
表6の調査結果にみられるように、塩水噴霧試験後においても試験片表面に腐食生成物が検出されず、或いは検出された場合でも極僅かな腐食生成物であり、Cuめっき層の上にNiめっき層又はSnめっき層を形成することにより耐食性が改善されていることが判る。
促進劣化試験後の接触抵抗も初期値に比較して僅かな上昇に留まり、長期にわたり優れた導電性を呈することが確認された。なかでも、Cu/Snの複層めっきを施した試験片では、図6にみられるように接触抵抗がほとんど変化せず、良好な導電性を維持していた。
【0038】
Figure 0004023663
【0039】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明のステンレス鋼製接点は、膜厚比L/tが40〜200の範囲にあるCuめっき層を基材・ステンレス鋼の表面に形成することにより、導電性,はんだ付け性に関してリン青銅製接点に匹敵し或いは凌駕する特性を呈する。しかも、基材が耐食性及びバネ弾性に優れたステンレス鋼であることから、薄肉化しても良好な機械的特性や耐ヘタリ性が維持され、小型化・軽量化に適した安価な接点として使用される。更に、Cuめっき層の上にNiめっき層又はSnめっき層を形成することにより耐食性が向上し、長期間にわたって接触抵抗が低く良好な導電性を維持する接点材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ステンレス鋼の板厚,Cuめっき層の膜厚から求めた体積抵抗率を基材・ステンレス鋼,Niめっきステンレス鋼,リン青銅と比較したグラフ
【図2】 高温雰囲気に保持した試験片の撓み変形を測定するための装置
【図3】 高温雰囲気における保持時間と熱応力緩和率との関係を表したグラフ
【図4】 各種接点に供給した電流と体積抵抗率との関係を表したグラフ
【図5】 各種接点に供給した電流に応じた接点の温度上昇を表すグラフ
【図6】 促進劣化試験による接触抵抗の経時変化を表すグラフ

Claims (1)

  1. 板厚t(mm)が . 05〜0 . 5mmのステンレス鋼板を基材とし、当該基材表面上にL/t=40〜200の関係を満足する膜厚L(μm)を有し表面粗さがRaで0 . 2μm以下に平滑化されたCuめっき層と、当該Cuめっき層上にL/M=2〜100,M=0 . 2〜10を満足する膜厚M(μm)のSnめっき層が形成されていることを特徴とするステンレス鋼製接点。
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