JP4013730B2 - スクロールコンプレッサ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、車両用空調装置に用いられるスクロールコンプレッサに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、スクロールコンプレッサにおいては、ハウジング内に固定された基板及び渦巻壁からなる固定スクロール部材と、該固定スクロール部材の渦巻壁に噛み合わされる基板及び渦巻壁からなる可動スクロール部材とが備えられている。そして、可動スクロール部材の公転により、両渦巻壁間に形成された圧縮室が渦巻壁の中心側に容積を減少しながら移動されて冷媒ガスの圧縮が行われる。
【0003】
前記スクロールコンプレッサとしては、可動スクロール部材に作用するスラスト方向の圧縮反力に抗して圧縮室の密閉性を高めるために、ハウジングと可動スクロール部材の基板との間に、該可動スクロール部材を固定スクロール部材に向けて付勢するリングを介在させたものが存在する(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
すなわち、前記ハウジングには、可動スクロール部材の基板の背面からスラスト方向の圧縮反力を受けるように受圧壁が設けられている。受圧壁と可動スクロール部材の基板との間にはリングが介在されている。リングは、円環状でかつ平板状をなす体の一部を湾曲させることで、当該湾曲部位付近の断面形状がバネ状に形成されている。リングは、バネ状部分を以て受圧壁と可動スクロール部材の基板との間に弾発的に介在されている。
【0005】
従って、前記リングのバネ状部分の弾性変形によって、可動スクロール部材及び固定スクロール部材のスラスト方向の寸法公差が吸収され、スクロールコンプレッサの組立時におけるスクロール部材間のスラストクリアランスの調整作業が不要となる。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−219053号公報(明細書の段落番号[0036]、第8図)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、前記リングの断面形状をバネ状とすることは、加工に手間がかかる。また、バネ状部分の湾曲の具合が多少でも異なると、可動スクロール部材を付勢する力が大きく変化する。従って、圧縮室の密閉性の確保と両スクロール部材間の摺動抵抗の抑制とを両立するためには、該バネ状部分を高精度に加工する必要がある。これらは、スクロールコンプレッサのコスト高の要因となっていた。
【0008】
本発明の目的は、弾性体を安価に製作することが可能なスクロールコンプレッサを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1の発明のスクロールコンプレッサは、ハウジング内において可動スクロール部材の基板の背面側に、円環状でかつ平板状をなす弾性体が配設されている。弾性体は、その摺動領域が可動スクロール部材の基板の背面側と摺動可能に当接するようにハウジング内に固定されている。弾性体に対して可動スクロール部材と反対側には対向壁が設けられ、該対向壁と弾性体との間には、弾性体の弾性変形を許容する許容空間が形成されている。そして、弾性体が可動スクロール部材の圧接によって対向壁側に弾性変形することで、可動スクロール部材が固定スクロール部材に向けて付勢されている。
【0010】
前記平板状の弾性体は、加工が容易であるし、可動スクロール部材を固定スクロール部材に向けて付勢する力(バネ力)の設定に大きな影響を与える板厚の管理も容易である。従って、弾性体を安価に製作することが可能となる。つまり、弾性体と、該弾性体に対して可動スクロール部材と反対側に設けられた対向壁との間に許容空間を形成することで、該弾性体は、平板状であっても言い換えれば特許文献1の様に断面形状をバネ状に形成しなくとも、バネとして機能し得るのである。
【0011】
請求項2の発明は請求項1において、前記対向壁には、弾性体の弾性変形量を当接規定する規定部が設けられている。従って、例えば、可動スクロール部材に作用するスラスト方向の圧縮反力が過大となったとしても、弾性体は規定部によって当接支持されるため、該弾性体が過大に弾性変形することはない。よって、この過大な弾性変形に起因した、弾性体の塑性変形や破断等を防止できる。
【0012】
請求項3の発明は請求項1又は2において、前記ハウジング内において可動スクロール部材の基板の背面側には背圧室が区画形成されている。該背圧室の圧力によって可動スクロール部材が固定スクロール部材に向けて付勢されている。つまり、可動スクロール部材は、弾性体の弾性変形に基づく付勢力のみならず、背圧室の圧力に基づく付勢力によっても固定スクロール部材に向けて付勢されている。従って、例えば、スクロールコンプレッサの定常的な運転状態では、可動スクロール部材に作用するスラスト方向の圧縮反力に確実に対抗することができ、圧縮室の密閉性を確実に維持することが可能となる。
【0013】
請求項4の発明は請求項3において、前記弾性体の摺動領域と可動スクロール部材とは円環状領域で圧接されている。この弾性体の摺動領域と可動スクロール部材との圧接部分において、前記背圧室のシールがなされている。従って、背圧室のシール構造を簡略化することができる。
【0014】
請求項5の発明は請求項1〜4のいずれかにおいて、ハウジング内における弾性体の好適な固定態様について限定するものである。すなわち、前記弾性体は、外周部を以てハウジング内に固定されている。
【0015】
請求項6の発明は請求項5において、前記対向壁において、弾性体の内周縁部と対向する位置には、該弾性体の内周縁部を当接支持する支持部が設けられている。つまり、弾性体は、外周部がハウジングによって固定支持されているとともに内周縁部が支持部によって当接支持された、両持ちの板バネ様をなしている。従って、弾性体の弾性変形は安定的に行われ、例えば前述した請求項4の発明のように、弾性体と可動スクロール部材を円環状領域で圧接させることで背圧室をシールする構成を採用した場合には、該シールを、可動スクロール部材の何れの旋回位置においても確実に維持することが可能となる。
【0016】
請求項7の発明は請求項5又は6において、前記可動スクロール部材は、ハウジング内に区画形成されたスクロール収容室内に収容されている。ハウジング内においてスクロール収容室を区画する外郭は、複数の外郭構成体を互いに接合することで構成されている。弾性体は、隣接する外郭構成体間の接合部分において外周部が狭持されることにより、ハウジング内に固定されている。従って、隣接する外郭構成体の接合と同時に、弾性体をハウジング内に固定することができる。よって、弾性体をハウジング内に固定するための特別な構成を必要とせず、該固定構造を簡素化することが可能となる。
【0017】
請求項8の発明は請求項7において、前記弾性体の外周部は、隣接する外郭構成体間の接合部分において円環状領域で狭持されることで、当該接合部分のシールの役目も兼ねている。従って、前記接合部分(スクロール収容室)をシールするための特別なシール部材を必要とせず、スクロール収容室のシール構造を簡略化することができる。
【0018】
請求項9の発明は請求項7又は8において、前記弾性体の外周部には長孔が貫通形成されている。この長孔と両外郭構成体の接合面とで囲まれた空間は、ガスの通路として利用されている。長孔を接合面で挟み込むことにより通路を構成する手法は、例えば、小径な孔をドリルにより穿設するよりも簡単に、通過断面積の小さな通路を精度良く形成することが可能である。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のスクロールコンプレッサを、車両用空調装置に用いられる電動コンプレッサにおいて具体化した一実施形態について詳述する。
【0020】
図1に示すように、電動コンプレッサのハウジング11は、第1ハウジング構成体21と第2ハウジング構成体22の二つのハウジング構成体を接合固定することで構成されている。第1ハウジング構成体21は、円筒部23の図面左方側に底部24を有する有底円筒状をなし、アルミニウム合金のダイカスト鋳物によって構成されている。第2ハウジング構成体22は有蓋円筒状をなし、アルミニウム合金のダイカスト鋳物によって構成されている。ハウジング11内には、第1ハウジング構成体21と第2ハウジング構成体22とで囲まれて密閉空間12が形成されている。
【0021】
前記第1ハウジング構成体21において底部24の内壁面の中央部には、円筒状の軸支部24aが一体に突設されている。第1ハウジング構成体21内において円筒部23の開口端側には、中央部に挿通孔32aが貫通形成された軸支部材32が固定されている。第1ハウジング構成体21内には回転軸33が収容されている。回転軸33の左端側は、ベアリング34を介することで、軸支部24aによって回転可能に支持されている。回転軸33の右端側は軸支部材32の挿通孔32aを挿通され、該挿通孔32a内においてベアリング35を介することで、軸支部材32によって回転可能に支持されている。軸支部材32と回転軸33との間には、該回転軸33を封止するシール部材38が配置されている。従って、密閉空間12内には、軸支部材32を境とした図面左方側にモータ収容室12aが区画されている。
【0022】
前記密閉空間12のモータ収容室12a内において、第1ハウジング構成体21の円筒部23の内周面には、ステータ36が設けられている。モータ収容室12a内において回転軸33には、ステータ36の内周側に位置するようにしてロータ37が固定されている。ステータ36及びロータ37によって電動モータ13が構成されている。電動モータ13は、ステータ36への給電によって、ロータ37と回転軸33とを一体的に回転させる。
【0023】
前記第1ハウジング構成体21内において円筒部23の開口端側には、固定スクロール部材41が収容配置されている。固定スクロール部材41は、円板状をなす基板61の外周側に円筒状の外周壁62が立設されているとともに、基板61において外周壁62の内周側に固定渦巻壁63が立設されてなる。固定スクロール部材41は、外周壁62の先端面62aを以て、軸支部材32の円環状をなす外周部64に接合されている(図2参照)。従って、密閉空間12内には、固定スクロール部材41の基板61、固定スクロール部材41の外周壁62及び軸支部材32によって囲まれるとともに、回転軸33がシール部材38によって封止されることで、スクロール収容室58が区画形成されている。つまり、軸支部材32及び固定スクロール部材41のそれぞれが、スクロール収容室58の外郭を構成する外郭構成体をなしている。
【0024】
前記回転軸33において、スクロール収容室58内に位置する固定スクロール部材41側の端面には、回転軸33の軸線Lに対して偏心した位置に偏心軸43が設けられている。偏心軸43にはブッシュ44が外嵌固定されている。ブッシュ44には、スクロール収容室58内に収容配置された可動スクロール部材45が、固定スクロール部材41と対向するようにベアリング46を介して相対回転可能に支持されている。可動スクロール部材45は、円板状をなす基板65に、固定スクロール部材41へ向かって可動渦巻壁66が立設されてなる。基板65において背面65aの外周縁部には、円環状をなす凸状部65bが設けられている(図2参照)。凸状部65bの先端面は、内周縁部が外周縁部よりも若干高くされている。
【0025】
前記固定スクロール部材41と可動スクロール部材45とは、スクロール収容室58内において渦巻壁63,66を以って互いに噛み合わされているとともに、各渦巻壁63,66の先端面が相手のスクロール部材41,45の基板61,65に直接接合されている。従って、固定スクロール部材41の基板61及び固定渦巻壁63、可動スクロール部材45の基板65及び可動渦巻壁66は、スクロール収容室58内において圧縮室47を区画形成する。
【0026】
前記可動スクロール部材45の基板65とそれに対向する軸支部材32との間には、自転阻止機構48が配設されている。自転阻止機構48は、可動スクロール部材45において基板65の背面65aの外周部に複数設けられた円環孔48aと、軸支部材32の外周部64に複数(図面においては一つのみ示す)突設され円環孔48aに遊嵌されたピン48bとからなっている。
【0027】
前記スクロール収容室58内において、固定スクロール部材41の外周壁62と可動スクロール部材45の可動渦巻壁66の最外周部との間には、吸入室51が区画形成されている。固定スクロール部材41において外周壁62の外周面には、凹部62bが形成されている。固定スクロール部材41の外周壁62が第1ハウジング構成体21の開口端側の内周面に接合した状態にて、凹部62bと第1ハウジング構成体21の内周面とによって囲まれて、吸入室51につながる吸入通路39が形成されている。
【0028】
前記第1ハウジング構成体21の円筒部23において、モータ収容室12aに対応した外周面には、吸入口50が形成されている。吸入口50には、図示しない外部冷媒回路の蒸発器につながる外部配管が接続されている。吸入口50はモータ収容室12aと連通されている。モータ収容室12aは、軸支部材32の外周部64に貫通形成された透孔40を介して吸入通路39に接続されている。従って、外部冷媒回路からの低圧冷媒ガスは、吸入口50、モータ収容室12a、透孔40及び吸入通路39を介して吸入室51へと導入される。
【0029】
前記密閉空間12の一部は、第2ハウジング構成体22と固定スクロール部材41との接合によって、吐出室52として区画されている。第2ハウジング構成体22には、吐出室52に連通する吐出口53が形成されている。吐出口53には、図示しない外部冷媒回路の凝縮器につながる外部配管が接続されている。従って、吐出室52の高圧冷媒ガスは、吐出口53を介して外部冷媒回路へと導出される。
【0030】
前記固定スクロール部材41の中心には吐出孔41aが形成され、該吐出孔41aを介して中心側の圧縮室47と吐出室52とが接続されている。吐出室52内において固定スクロール部材41には、吐出孔41aを開閉するためのリード弁よりなる吐出弁55が配設されている。吐出弁55の開度は、固定スクロール部材41に固定配置されたリテーナ56によって規制される。
【0031】
そして、前記電動モータ13によって回転軸33が回転駆動されると、圧縮機構14においては、可動スクロール部材45が偏心軸43を介して固定スクロール部材41の軸心(回転軸33の軸線L)の周りで公転される。このとき、可動スクロール部材45は、自転阻止機構48によって自転が阻止されて、公転運動のみが許容される。この可動スクロール部材45の公転運動により、圧縮室47が両スクロール部材41,45の渦巻壁63,66の外周側から中心側へ容積を減少しつつ移動されることで、吸入室51から圧縮室47内に取り込まれた低圧冷媒ガスの圧縮が行われる。圧縮済みの高圧冷媒ガスは、吐出孔41aから吐出弁55を介して吐出室52に吐出される。
【0032】
さて、図1、図2(a)及び図5に示すように、前記スクロール収容室58内において可動スクロール部材45の基板65の背面65a側には、背圧室75が区画形成されている。背圧室75と吐出圧力領域としての吐出室52とは、途中に絞り76aを有する圧力供給通路76を介して接続されている。従って、吐出室52から背圧室75に供給された高圧冷媒ガスによって、可動スクロール部材45が固定スクロール部材41に向けて付勢されている。
【0033】
前記背圧室75と密閉空間12のモータ収容室12a(吸入圧力領域)とは、軸支部材32に設けられた抽気通路77を介して接続されている。軸支部材32において抽気通路77の途中には、背圧室75の圧力とモータ収容室12aの圧力との差に応じて抽気通路77の開度を調節する調節弁78が配設されている。調節弁78は、背圧室75の圧力とモータ収容室12aの圧力との差を一定に保つように動作される。従って、電動コンプレッサの通常運転状態では、調節弁78の動作によって、背圧室75の圧力つまり該背圧室75の圧力に基づく可動スクロール部材45の付勢力はほぼ一定に保たれることとなる。
【0034】
図1、図2(a)及び図4に示すように、前記スクロール収容室58内において可動スクロール部材45の基板65の背面65a側には、円環状でかつ平板状をなす弾性体71が配設されている。弾性体71の材質としては、例えばSK材等の金属材料が使用されている。弾性体71は、その外周部72が、軸支部材32と固定スクロール部材41との接合部分において円環状領域で狭持されることにより(狭持領域K。図4参照)、ハウジング11内に固定されている。軸支部材32と固定スクロール部材41との接合面間、詳しくは、軸支部材32の外周部64の外周縁部64aと、固定スクロール部材41の外周壁62の先端面62aとの間は、弾性体71の外周部72の介在によってシールされている。つまり、弾性体71の外周部72は、軸支部材32と固定スクロール部材41との接合部分のシールの役目も兼ねている。
【0035】
図4及び図5に示すように、前記弾性体71の外周部72には長孔71aが貫通形成されている。この長孔71aと、軸支部材32の外周縁部64a及び固定スクロール部材41の外周壁62の先端面62aとで囲まれた空間は、吐出室52と背圧室75とを接続する圧力供給通路76の一部(詳しくは絞り76a)を構成している。弾性体71の外周部72には、固定スクロール部材41の凹部62b(吸入通路39)と、軸支部材32の透孔40とを接続する透孔71bが複数貫通形成されている。弾性体71の外周部72には、自転阻止機構48のピン48bが挿通されるピン孔71cが複数貫通形成されている。
【0036】
図1及び図2(a)に示すように、前記軸支部材32の外周部64において、固定スクロール部材41が接合される外周縁部64aよりも内周側の円環状領域は、弾性体71の内周部73に対して可動スクロール部材45と反対側で対向する対向壁64bをなしている。この対向壁64bには、回転軸33の軸線Lを中心とした円環状に凹部64cが形成されている。この凹部64cの形成によって、対向壁64bにおいて弾性体71の内周縁部73aと対向する位置には、回転軸33の軸線Lを中心とした円環凸状に、支持部64dが残存されている。支持部64dの先端面は、軸支部材32の外周縁部64aと同一平面上に存在する。従って、弾性体71は、外周部72が軸支部材32と固定スクロール部材41によって狭持保持されるのみならず、内周部73の内周縁部73aが支持部64dによって当接支持されている。
【0037】
図2(b)に示すように、前記凹部64cの形成によって、自然状態にある弾性体71の内周部73と、軸支部材32の対向壁64bとの間には、空間(許容空間)が形成されることとなる。また、図2(b)において二点鎖線で示すように、電動コンプレッサの組立済の状態では、可動スクロール部材45の凸状部65bの最先端が、固定スクロール部材41の外周壁62の先端面62aよりも軸支部材32側に必ず突出するように、各スクロール部材41,45の寸法が設計されている。従って、図2(a)に示すように、電動コンプレッサの組立済の状態では、可動スクロール部材45の凸状部65bが弾性体71の内周部73に円環状領域で圧接され、該内周部73が軸支部材32の対向壁64b側に弾性変形されることとなる。
【0038】
ここで、前記弾性体71において内周部73の内周縁部73aは、軸支部材32の支持部64dによって、円環状領域で当接支持されている。従って、前述した弾性体71の内周部73の弾性変形は、内周縁部73aが支持部64dに圧接されつつ、該内周部73の中央部付近が凹部64c内へ膨らみ出るようにして行われる。弾性体71の内周部73の弾性変形量(最大変形量)は、該内周部73の変形頂部が凹部64cの内底面64eに当接することで規定される。つまり、凹部64cの内底面64eが規定部をなしている。
【0039】
そして、前記弾性体71の内周部73が、可動スクロール部材45の圧接によって対向壁64b側に弾性変形することで、可動スクロール部材45が固定スクロール部材41に向けて付勢されることとなる。従って、固定スクロール部材41と可動スクロール部材45とは、弾性体71の弾性変形に基づく付勢力及び前述した背圧室75の圧力に基づく付勢力によって、各渦巻壁63,66の先端面が相手のスクロール部材41,45の基板61,65に圧接され、圧縮室47の密閉性が確保されることとなる。
【0040】
図2(a)及び図3に示すように、前記弾性体71と可動スクロール部材45との円環状領域での圧接は、可動スクロール部材45の固定スクロール部材41(弾性体71)に対する何れの旋回位置でも確実に維持される。言い換えれば、弾性体71における可動スクロール部材45(凸状部65a)との摺動領域S(図4参照)は、該可動スクロール部材45との円環状領域での圧接を常に維持するように設定されている。従って、背圧室75は、可動スクロール部材45と弾性体71の内周部73との円環状領域での圧接部分において、スクロール収容室58のその他の領域(吸入室51)からシールされている。
【0041】
上記構成の本実施形態においては次のような効果を奏する。
(1)平板状の弾性体71は、加工が容易であるし、可動スクロール部材45を固定スクロール部材41に向けて付勢する力(バネ力)の設定に大きな影響を与える板厚の管理も容易である。従って、弾性体71を安価に製作することが可能となる。つまり、弾性体71と、該弾性体71に対して可動スクロール部材45と反対側に設けられた対向壁64bとの間に許容空間(凹部64c)を形成することで、該弾性体71は、平板状であっても言い換えれば特許文献1の様に断面形状をバネ状に形成しなくとも、バネとして機能し得るのである。
【0042】
また、特許文献1の技術と比較して、弾性体71(内周部73)のバネストローク(変形量)を大きく設定することも容易である。従って、例えば、固定スクロール部材41及び可動スクロール部材45のスラスト方向の寸法公差が大きくても、該公差を弾性体71の弾性変形によって確実に吸収することができる。よって、両スクロール部材41,45間のスラストクリアランスの調整作業を不要とすることを、より確実とすることが可能となる。
【0043】
(2)弾性体71の弾性変形量は、軸支部材32に設けられた凹部64cの内底面64eに当接することで規定される。従って、例えば、液圧縮等によって、可動スクロール部材45に作用するスラスト方向の圧縮反力が過大となったとしても、弾性体71は内底面64eによって当接支持されるため、該弾性体71が過大に弾性変形することはない。よって、この過大な弾性変形に起因した、弾性体71の塑性変形や破断等を防止できる。
【0044】
(3)軸支部材32の対向壁64bにおいて、弾性体71の内周縁部73aと対向する位置には、該弾性体71の内周縁部73aを当接支持する支持部64dが設けられている。つまり、弾性体71は、外周部72がハウジング11によって固定支持されているとともに、内周縁部73aが支持部64dによって当接支持された、両持ちの板バネ様をなしている。従って、弾性体71の弾性変形は安定的に行われ、例えば、弾性体71に対する可動スクロール部材45の何れの旋回位置においても、両者45,71間の円環状領域での圧接つまり背圧室75のシールを、確実に維持することが可能となる。
【0045】
(4)可動スクロール部材45は、背圧室75に供給された高圧冷媒ガスによって、固定スクロール部材41に向けて付勢されている。つまり、可動スクロール部材45は、弾性体71の弾性変形に基づく付勢力のみならず、背圧室75の圧力に基づく付勢力によっても固定スクロール部材41に向けて付勢されている。従って、例えば、電動コンプレッサの通常運転状態では、可動スクロール部材45に作用するスラスト方向の圧縮反力に確実に対抗することができ、本実施形態のように、各渦巻壁63,66の先端面にシール部材(例えばチップシール)を配置しなくとも、圧縮室47の密閉性を確実に維持することが可能となる。
【0046】
(5)弾性体71と可動スクロール部材45とは円環状領域で圧接されており、この圧接部分において背圧室75のシールがなされている。従って、背圧室75のシール構造を簡略化することができる。
【0047】
(6)弾性体71は、軸支部材32と固定スクロール部材41との接合部分において外周部72が狭持されることにより、ハウジング11内に固定されている。従って、軸支部材32と固定スクロール部材41の接合と同時に、弾性体71をハウジング11内に固定することができる。よって、弾性体71をハウジング11内に固定するための特別な構成を必要とせず、該固定構造を簡素化することが可能となる。
【0048】
(7)弾性体71の外周部72は、軸支部材32と固定スクロール部材41との接合部分において円環状領域で狭持されることで、当該接合部分のシールの役目も兼ねている。従って、軸支部材32と固定スクロール部材41との接合部分、つまりスクロール収容室58をシールするための特別なシール部材を必要とせず、スクロール収容室58のシール構造を簡略化することができる。
【0049】
(8)弾性体71の外周部72に形成された長孔71aと、軸支部材32の外周縁部64a及び固定スクロール部材41の外周壁62の先端面62aとで囲まれた空間は、冷媒ガスの通路として利用されている。長孔71aを接合面62a,64aで挟み込むことにより通路を構成する手法は、例えば、小径な孔をドリルで穿設するよりも簡単に、通過断面積の小さな通路を精度良く形成することが可能である。つまり、このような通路の形成手法は、本実施形態のように、圧力供給通路76の絞り76aを形成する場合において特に有効となる。
【0050】
なお、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で以下の態様でも実施できる。
・上記実施形態において弾性体71は、外周部72を以てハウジング11内に固定されていた。これを変更し、弾性体71を、内周部73を以てハウジング11内に固定すること。すなわち、例えば、図6に示すように、弾性体71として、スクロール収容室58内に収まる程度の小径なものを採用する。そして、内周部73を軸支部材32の支持部64dの先端面にボルト81で止めることで、弾性体71をハウジング11内に固定すること。なお、図6の態様において弾性体71は、内周部73のみならず、スクロール収容室58内に位置する外周部72においても、可動スクロール部材45の圧接によって対向壁64b側への弾性変形が生じることとなる。
【0051】
・上記実施形態において弾性体71は、軸支部材32と固定スクロール部材41との接合部分において外周部72が狭持されることにより、ハウジング11内に固定されていた。これを変更し、外周部72をボルト止めすることで、弾性体71をハウジング11内に固定すること。
【0052】
・上記実施形態において、軸支部材32から支持部64dを削除すること。この場合、弾性体71は、外周部72のみがハウジング11によって固定支持された、片持ちの板バネ様をなすこととなる。
【0053】
・上記実施形態においては、弾性体71に形成された長孔71aと、軸支部材32の外周縁部64a及び固定スクロール部材41の外周壁62の先端面62aとで囲まれた空間が、吐出室52と背圧室75とを接続する圧力供給通路76として利用されていた。しかし、このようなガス通路の形成手法は、背圧室75にガスを導入するために用いることに限定されるものではなく、例えば、背圧室75からガスを導出するための通路(抽気通路77)や、冷凍サイクルのガス通路等、その他のガス通路の形成に用いてもよい。
【0054】
・上記実施形態においてスクロールコンプレッサは、電動コンプレッサに具体化されていた。しかし、これに限定されるものではなく、車両のエンジンによって駆動されるタイプのスクロールコンプレッサや、電動モータ及びエンジンの両方を駆動源とする所謂ハイブリッドタイプのスクロールコンプレッサにおいて具体化してもよい。
【0055】
上記実施形態から把握できる技術的思想について記載する。
(1)前記スクロール収容室内において可動スクロール部材の基板の背面側には背圧室が区画され、該背圧室と吐出圧力領域とは圧力供給通路を介して接続されており、前記長孔と両外郭構成体の接合面とで囲まれた空間は、前記圧力供給通路として利用されている請求項9に記載のスクロールコンプレッサ。
【0056】
(2)前記弾性体は全体が平板状をなしている請求項1〜9のいずれか又は前記技術的思想(1)に記載のスクロールコンプレッサ。
【0057】
【発明の効果】
上記構成の本発明によれば、弾性体を安価に製作することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 電動コンプレッサの縦断面図。
【図2】 (a)は図1の要部拡大図、(b)は(a)から可動スクロール部材を削除したと仮定した場合を説明する図。
【図3】 図2(a)とは可動スクロール部材の旋回位置が異なる状態を示す図。
【図4】 電動コンプレッサから弾性体のみを取り出して示す正面図。
【図5】 図1において弾性体の長孔付近を拡大して示す図。
【図6】 別例を示す電動コンプレッサの要部拡大断面図。
【符号の説明】
11…ハウジング、32…外郭構成体としての軸支部材、41…外郭構成体を兼ねる固定スクロール部材、45…可動スクロール部材、47…圧縮室、52…吐出圧力領域としての吐出室、58…スクロール収容室、61…固定スクロール部材の基板、62a…接合面としての先端面、63…固定スクロール部材の固定渦巻壁、64a…接合面としての外周縁部、64b…対向壁、64c…許容空間を提供する凹部、64d…支持部、64e…規定部としての凹部の内底面、65…可動スクロール部材の基板、65a…基板の背面、66…可動スクロール部材の可動渦巻壁、71…弾性体、71a…長孔、72…弾性体の外周部、73a…弾性体の内周縁部、75…背圧室、76…ガスの通路としての圧力供給通路、S…摺動領域。

Claims (9)

  1. ハウジング内に固定された基板及び渦巻壁からなる固定スクロール部材と、該固定スクロール部材の渦巻壁に噛み合わされる基板及び渦巻壁からなる可動スクロール部材とを備え、前記可動スクロール部材の公転により両渦巻壁間に形成された圧縮室が渦巻壁の中心側に容積を減少しながら移動されてガスの圧縮が行われるスクロールコンプレッサであって、
    前記ハウジング内において可動スクロール部材の基板の背面側には、円環状でかつ平板状をなす弾性体が配設され、該弾性体は、その摺動領域が可動スクロール部材の基板の背面側と摺動可能に当接するようにハウジング内に固定されており、前記弾性体に対して可動スクロール部材と反対側には対向壁が設けられ、該対向壁と弾性体との間には、弾性体の弾性変形を許容する許容空間が形成されており、弾性体が可動スクロール部材の圧接によって対向壁側に弾性変形することで、可動スクロール部材が固定スクロール部材に向けて付勢されていることを特徴とするスクロールコンプレッサ。
  2. 前記対向壁には、弾性体の弾性変形量を当接規定する規定部が設けられている請求項1に記載のスクロールコンプレッサ。
  3. 前記ハウジング内において可動スクロール部材の基板の背面側には背圧室が区画形成され、該背圧室の圧力によって可動スクロール部材が固定スクロール部材に向けて付勢されている請求項1又は2に記載のスクロールコンプレッサ。
  4. 前記弾性体の摺動領域と可動スクロール部材とは円環状領域で圧接されており、当該圧接部分において前記背圧室のシールがなされている請求項3に記載のスクロールコンプレッサ。
  5. 前記弾性体は、外周部を以てハウジング内に固定されている請求項1〜4のいずれかに記載のスクロールコンプレッサ。
  6. 前記対向壁において、弾性体の内周縁部と対向する位置には、該弾性体の内周縁部を当接支持する支持部が設けられている請求項5に記載のスクロールコンプレッサ。
  7. 前記可動スクロール部材は、ハウジング内に区画形成されたスクロール収容室内に収容されており、前記ハウジング内においてスクロール収容室を区画する外郭は、複数の外郭構成体を互いに接合することで構成され、前記弾性体は、隣接する外郭構成体間の接合部分において外周部が狭持されることにより、ハウジング内に固定されている請求項5又は6に記載のスクロールコンプレッサ。
  8. 前記弾性体の外周部は、隣接する外郭構成体間の接合部分において円環状領域で狭持されることで、当該接合部分のシールの役目も兼ねている請求項7に記載のスクロールコンプレッサ。
  9. 前記弾性体の外周部には長孔が貫通形成されており、該長孔と両外郭構成体の接合面とで囲まれた空間が、ガスの通路として利用されている請求項7又は8に記載のスクロールコンプレッサ。
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