JP3981355B2 - プラスチック光学部材の製造方法 - Google Patents

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Description

技術分野
本発明は、プラスチック光学部材の製造方法の技術分野に属し、特に、屈折率分布型プラスチック光伝送体の製造に好ましく用いられるプラスチック光学部材の製造方法の技術分野に属する。
背景技術
プラスチック光学部材は、同一の構造を有する石英系の光学部材と比較して、製造および加工が容易であること、および低価格であること等の利点があり、近年、光ファイバおよび光レンズなど種々の応用が試みられている。プラスチック光ファイバは、素線が全てプラスチックで構成されているため、伝送損失が石英系と比較してやや大きいという短所を有するものの、良好な可撓性を有し、軽量で、加工性がよく、石英系光ファイバと比較して口径の大きいファイバとして製造し易く、さらに低コストに製造可能であるという長所を有する。従って、伝送損失の大きさが問題とならない程度の短距離用の光通信伝送媒体として種々検討されている。
プラスチック光ファイバは、通常、重合体をマトリックスとする有機化合物からなる芯(本明細書において「コア部」と称する)、および該コア部と屈折率が異なる(一般的には低屈折率の)有機化合物からなる外殻(本明細書において「クラッド部」と称する)を有する。プラスチック光ファイバは、通常、ファイバ母材(本明細書において、「プリフォーム」と称する)を作製し、その後、前記プリフォームを延伸することによって得られる。特に、中心から外側に向かって屈折率の分布を有するコア部を備えた屈折率分布型プラスチック光ファイバは、高い伝送容量を有する光ファイバとして最近注目されている。この屈折率分布型プラスチック光ファイバの製法の一つとして、界面ゲル重合法を利用した方法が、WO93/08488号公報等に提案されている。具体的には、まず、メチルメタクリレート(MMA)等の重合性モノマーを、充分な剛性のある重合容器に入れて、該容器を回転させつつ、モノマーを重合させて、ポリメタクリレート(PMMA)等の重合体からなる円筒管を作製する。該円筒管はクラッド部となる。次に、該円筒管の中空部にコア部の原料となるMMA等のモノマー、開始剤、連鎖移動剤および屈折率調整剤などを注入して、円筒管内部で界面ゲル重合を行い、コア部を形成し、プリフォームを得る。界面ゲル重合により形成されたコア部には、含有される屈折率調整剤等の濃度分布があり、その濃度分布に基いて、コア部には屈折率の分布が形成される。このようにして得られたプリフォームを、180℃〜250℃程度の雰囲気中で加熱延伸することにより、屈折率分布型プラスチック光ファイバが得られる。
ところで、上記プリフォームの製造過程では、複雑な重合反応が進行しつつ、構造内部に屈折率の分布が形成される。重合反応に伴い、屈折率の異なる領域間には、体積収縮によって、および/または熱挙動の違いによって、ボイドや気泡等が発生し、そのことが所望の線径が得られない、延伸したファイバの破断といった生産性の低下および得られるプラスチック光ファイバの性能を低下させる要因となっている。
例えば、ポリマーからなるコア部を重合により形成する過程で屈折率分布を構造内に導入する場合、屈折率の異なる領域はその熱特性も異なるため、重合条件によっては所望の屈折率分布を構造内に導入できないことがある。また、重合条件によっては、プリフォーム内部に気泡が混入したり、もしくはミクロな空隔が発生する場合がある。また、密度揺らぎによって得られるプラスチック光ファイバの光透過性が著しく低下する場合もある。その結果、光ファイバとしての光伝送性能の低下をもたらすことになり、重合条件によっては、プラスチック光ファイバの生産性を著しく低下させる場合がある。
発明の開示
本発明の目的は、良好な性能を有するプラスチック光学部材を安定的に高い生産性で作製可能なプラスチック光学部材の製造方法を提供することを課題とする。
本発明の一態様は、屈折率が互いに異なるコア部およびクラッド部を有するプラスチック光学部材の製造方法であって、重合性モノマーを重合することにより前記コア部となる領域を形成する重合工程を含み、前記重合工程において、十時間半減期温度Th(℃)が下記関係式を満たす重合開始剤を用い、且つ下記関係式を満たす初期重合温度T(℃)において前記重合開始剤の半減期の10%以上の時間重合するプラスチック光学部材の製造方法である。
Tb−20 ≦ Th
Tb−10 ≦ T ≦ Tg
(関係式中、Tbは前記重合性モノマーの沸点(℃)を示し、Tgは前記重合性モノマーの重合体のガラス転移点(℃)を示す。)
本発明の他の態様は、屈折率が互いに異なるコア部およびクラッド部を有するプラスチック光学部材の製造方法であって、重合性モノマーを重合することにより前記コア部となる領域を形成する重合工程を含み、前記重合工程において、下記関係式を満たす初期重合温度T(℃)で重合した後、下記関係式を満たす温度T(℃)に昇温し、さらに重合するプラスチック光学部材の製造方法である。
Tg ≦ T
< T
(関係式中、Tgは前記重合性モノマーの重合体のガラス転移点(℃)を示す。)
本発明では、コア部となる領域を形成する際の重合温度を制御することによって、コア部となる領域における気泡およびミクロ空隔の発生を抑制し、生産性を向上させている。
前記重合工程に用いる重合モノマーおよび重合開始剤の水分量が低いと、コア部に残留する水分量を著しく低減でき、その結果、例えば、プリフォームを熱延伸する際に、気泡が発生するのを抑制することができ、プラスチック光ファイバの生産性をより向上させることができる。重合性モノマーの水分量は、0.01質量%以下であるのが好ましく、重合開始剤の水分量は2質量%以下であるのが好ましい。
また、クラッド部となる領域を形成する際にも、水分量の低い重合性モノマーを用いるのが好ましく、クラッド部用の重合性モノマーに含まれる水分量は0.01質量%以下であるのが好ましい。
本発明のプラスチック光学部材の製造方法の好ましい態様は、前記重合工程を、クラッド部となる構造体の中空部で重合を行うことによりコア部となる領域を形成する、即ち、界面ゲル重合法を利用して形成する態様である。
この態様において、クラッド部となる構造体を挿入可能な中空部を有する治具により前記構造体を支持しつつ、前記構造体の中空部で重合を行うことによりコア部となる領域を形成するのが好ましい。前記治具を用いて重合を進行させると、クラッド部となる構造体の中空部で重合が進行している間、該構造体は前記治具の中空部に挿入された状態にあり、治具は、該構造体の形状が加圧によって変化するのを抑制する。また、加圧重合が進むにつれて、コア部となる領域は収縮する傾向にあるが、前記構造体は前記治具に挿入された状態で非密着状態で支持されているので、前記構造体はコア部となる領域の収縮を一様に緩和することができ、コア部となる領域の収縮によるボイドの発生を軽減することができる。従って、プリフォームの形状変化およびボイド発生を軽減することができ、プラスチック光ファイバの生産性向上に寄与する。特に、屈折率分散型のプラスチック光ファイバを作製する場合は、プリフォームの形状変化を抑制することで屈折率分布を均一に維持することができ、良好な光伝送特性を有するプラスチック光ファイバを生産性高く作製することができる。
前記治具の中空部が、前記構造体の外径に対して0.1%〜40%だけ大きい径を有するのが好ましい。また、前記冶具の中空部を構成している内面に、または前記治具の中空部と該中空部に挿入された前記構造体との間の空隔部に、接着防止層または潤滑層を有するのが好ましい。
本発明の製造方法は、前記コア部となる領域が、中心から外側に向かって屈折率の分布を有する屈折率分布型プラスチック光学部材の製造方法に適している。
なお、本明細書において、「中心から外側に向かって屈折率の分布を有する」とは、中心から外側に向かう特定の方向において屈折率の分布があればよく、例えば、前記コア部となる領域が円柱形状の場合は、該円柱の断面の中心から半径方向外側に向かって屈折率の分布があれば足りるものであり、円柱の長尺方向にも屈折率の分布があることを必要とするものではない。
また、本明細書において、「プラスチック光学部材」という用語は最も広義に解釈する必要があり、延伸処理工程によって得られるプラスチック光ファイバのほか、光学レンズ、光導波路等、プラスチック光学部材の全般を含む概念として用いる。
発明を実施するための形態
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のプラスチック光学部材はプリフォームをまず作製し、そのプリフォームを用途に応じて加工することで様々な部材を得ることができる。例えば、プリフォームを延伸すれば光ファイバが得られ、プリフォームを断面方向にスライスすることで導光材を、さらに屈折率分布を持ったプリフォームである場合はレンズを得ることができる。
まず、本発明の製造方法に用いられるプラスチック光学部材の種々の原材料について説明する。
本発明において、プラスチック光学部材のクラッド部は重合体からなる。クラッド部は、伝送される光信号をコア部に留めるため、コア部の屈折率より低い屈折率を有しているのが好ましく、また、伝送される光に対して透過性であるのが好ましい。例えば、WO93/08488号公報に記載されているようなポリメチルメタクリレート(PMMA)、重水素化ポリメチルメタクリレート(PMMA−d8)、ポリトリフルオロエチルメタクリレート(P3FMA)、ポリヘキサフルオロイソプロピル2−フルオロアクリレート(HFIP 2−FA)などのホモポリマー、これらモノマーの2種以上からなる共重合体、およびそれらの混合物が挙げられる。コア部を構成する重合体と同一の原料を用いるのが、コア/クラッド界面の透明性が保持できる点で好ましい。
本発明において、プラスチック光学部材のコア部は重合体からなる。コア部は、伝送される光に対して光透過性である限り特に制約はないが、伝送される光信号の伝送損失が少ない材料を用いるのが好ましい。例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)をはじめとする(メタ)アクリル酸系樹脂やその共重合体を挙げることができる。
また、光学部材を近赤外光用途に用いる場合は、構成するC−H結合の振動モードに起因した吸収損失が起こるために、WO93/08488号公報に記載されているようにC−H結合の水素原子を重水素原子で置換した重合体を用いることができる。その他にも、フッ素置換したモノマーの重合体、例えば、重水素化ポリメチルメタクリレート(PMMA−d8)、ポリトリフルオロエチルメタクリレート(P3FMA)、ポリヘキサフルオロイソプロピル2−フルオロアクリレート(HFIP 2−FA)などのホモポリマー、これらモノマーの2種以上からなる共重合体、およびそれらの混合物が挙げられる。塊状重合が容易である原料を選択し、単一ポリマーにてコア部を形成するのが好ましい。
また、これらのモノマーが有する水素原子を重水素原子(D)またはハロゲン原子(X)で置換したモノマーからなるホモポリマー、共重合体またはこれらの混合物を適用することもできる。特定の波長領域において、C−H結合に起因する光伝送損失が生じるが、HをDまたはXで置き換えることにより、この伝送損失を生じる波長域を長波長化することができ、伝送信号光の損失を軽減することができる。これらはクラッド部と同様に、重合後の透明性を損なわないためにも、不純物や散乱源となる異物は低減させることが望ましい。
コア部およびクラッド部の原料であるモノマーを重合する際に、重合状態や重合速度を制御したり、熱延伸工程に適する分子量に制御することを目的として、重合開始剤および連鎖移動剤を添加することができる。
重合開始剤としては、用いるモノマーに応じて適宜選択することができる。例えば、WO93/08488号公報に記載されているような、過酸化ベンゾイル(BPO)、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−t−ブチルパーオキシド(PBD)、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル4,4,ビス(t−ブチルパーオキシ)バラレート(PHV)などが挙げられる。なお、これら重合開始剤は、2種類以上を併用してもよい。
連鎖移動剤は、主に重合体の分子量の調整のために用いられ、モノマーに応じて適宜選択することができる。モノマーとしてメチルメタクリレート系モノマーを用いた場合は、連鎖移動剤としては、例えばWO93/08488号公報に記載のような、アルキルメルカプタン類(n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン等)、チオフェノール類(チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール等)などを用いるのが好ましく、中でも、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンのアルキルメルカプタンを用いるのが好ましい。また、C−H結合の水素原子が重水素原子で置換された連鎖移動剤を用いることもできる。なお、前記連鎖移動剤は、2種類以上を併用してもよい。
コア部が、中心から外側に向かって屈折率の分布を有している(以下、「屈折率分布型コア部」と称する)と、高い伝送容量を有する屈折率分布型プラスチック光ファイバとなるので好ましい。屈折率分布型コア部は、屈折率調整剤を用いることにより形成できる。屈折率調整剤は、コア部の原料となるモノマーに添加した後、重合することにより、コア部に含有させることができる。屈折率調整剤は、WO93/08488号公報や特開平5−173026号公報に記載されているような、モノマーの合成によって生成される重合体との比較において溶解性パラメータとの差が7(cal/cm1/2以内であると共に、屈折率の差が0.001以上であり、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して、屈折率が高くなる性質を有するものをいう。この性質を有し、重合体と安定して共存可能で、且つ前述の原料である重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧等の重合条件)下において安定であるものを、いずれも用いることができる。
例えば、安息香酸ベンジル(BEN)、硫化ジフェニル(DPS)、リン酸トリフェニル(TPP)、フタル酸ベンジルnブチル(BBP)、フタル酸ジフェニル(DPP)、ビフェニル(DP)、ジフェニルメタン(DPM)、リン酸トリクレジル(TCP)、ジフェニルスルホキシド(DPSO)、および特開平8−110421号公報に記載されているものなどが挙げられる。中でも、BEN、DPS、TPP、DPSOが好ましい。
また、特開平08−110420号公報に記載されているように、この屈折率調整剤が、70℃以下で固体である材料を用いると、屈折率調整剤のモビリティーを抑えて延伸加工する場合は、延伸時に拡散し難くなるので好ましい。
屈折率調整剤の、コア部における濃度および分布を調整することによって、プラスチック光ファイバの屈折率を所望の値に変化させることができる。その添加量は、用途および組み合わされるコア部原料などに応じて適宜選ばれる。なお、屈折率調整剤を用いなくとも、コア部の形成に2種以上の重合性モノマーを用い、コア部内に共重合比の分布を持たせることによって、屈折率分布構造を導入することもできる。
その他、コア部およびクラッド部には、光伝送性能を低下させない範囲で、その他の添加剤を添加することができる。例えば、クラッド部およびコア部の耐候性や耐久性などを向上させる目的で、安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。該化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することができ、伝送距離が向上するので、例えば、光伝送リンクの一部にファイバ増幅器として使用することができる。これらの添加剤も、前記原料モノマーに添加した後、重合することによって、コア部およびクラッド部に含有させることができる。
クラッド部およびコア部の原料となる重合性モノマー、所望により添加される屈折率調整剤等の添加剤、ならびに重合の際に用いられる開始剤および連鎖移動剤は、製造工程等で混入した微量の水を含有している。これら原料等に含まれる水は、プリフォーム製造の過程においてプリフォーム構造内にまで持ち込まれ、加熱延伸時の気泡などの原因となっている。本発明では、重合性モノマー、重合開始剤およびその他の添加剤を脱水工程に付し、水を除去した後に用いるのが好ましい。重合性モノマー等から水分を除去する方法としては、蒸留、共沸蒸留、加熱による乾燥、乾燥剤による乾燥、再結晶およびこれらの組み合わせなどが挙げられる。これらの方法は対象となる原料によって適宜選ぶことができる。本発明においては、前記原料モノマーを脱水した後、精製して用いるのが特に好ましい。
脱水は、原料モノマーを吸水性固体に接触させることによって、該固体に水分を吸着させて実施するのが好ましく、精製は蒸留により行うのが好ましい。前記吸水性固体としては、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、シリカゲル、多孔質合成ゼオライト(モレキュラーシーブ)などの中性型が好ましく、中でも取り扱いが容易なシリカゲルおよびモレキュラーシーブが好ましい。吸水性固体との共存は、密閉できるガラスまたはステンレス容器内にて室温もしくは0℃〜室温で行なうことが好ましく、共存させる時間は6時間以上、好ましくは12時間以上である。原料モノマーを吸水性固体に接触させ、水分を吸水性固体に吸着させて除去した後に、吸水性固体を分別し、さらにモノマーを蒸留することができる。蒸留方法に特に制限はないが、減圧下で行うことが好ましい。
クラッド部およびコア部のマトリクスを形成する重合性モノマー中の水分量は、0.01質量%以下が好ましく、0.005質量%以下がより好ましい。2種以上のモノマーを用いる場合は、各々のモノマーの水分量が前記範囲であるのが好ましい。また、重合開始剤を含むその他の剤の水分量は、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。重合開始剤等を2種以上用いる場合は、各々の剤の水分量が前記範囲であるのが好ましい。
また、モノマー以外の剤によって持ち込まれる水分量は、コア部およびクラッド部が含有する水全体の50質量%以下であるのが好ましい。これら原料等に含まれる水分量は、皆無であるのが望ましいが、現在の技術水準では重合性モノマーでは0.001質量%程度、重合開始剤を含むその他の剤では0.01質量%程度が現在では下限となるであろう。
次に、本発明の製造方法の実施の形態について説明する。
本発明の一実施形態は、クラッド部となる円筒管を作製する第1の工程と、前記円筒管の中空部で加熱重合を行うことによりコア部となる領域を形成し、コア部およびクラッド部に各々対応する領域からなるプリフォームを作製する第2の工程(加熱重合工程)と、得られたプリフォームを種々の形態に加工する第3の工程とを有し、前記第2の工程において、初期温度を下記関係式を満たすT℃に維持した後、下記関係式を満たすT℃に昇温する、および/または前記第2の工程において、十時間半減期温度Th(℃)が下記関係式を満たす重合開始剤を用い、且つ下記関係式を満たす初期重合温度T(℃)において前記重合開始剤の半減期の10%以上の時間重合する、プラスチック光学部材の製造方法である。
Tb−20 ≦ Th
Tb−10 ≦ T ≦ Tg
Tg ≦ T
<T
関係式中、Tbは前記重合性モノマーの沸点(℃)を示し、Tgは前記重合性モノマーの重合体のガラス転移点(℃)を示す。
本実施の形態では、コア部となる領域を形成する際の重合温度を制御することにより、コア部となる領域における気泡およびミクロ空隔の発生を抑制し、プラスチック光学部材の生産性を向上させている。
本実施の形態において、前記第1の工程では、クラッド部となる円筒管を作製する。例えば、WO93/08488号公報に記載されているように、円筒形状の重合容器に、前述のクラッド部の原料となるモノマーを注入し、該重合容器を回転(好ましくは、円筒の軸を水平に維持した状態で回転)させつつ、前記モノマーを重合させることにより、重合体からなる円筒管を作製することができる。この時に、特開平8−110419号公報に記載されている様に、原料をプレ重合して原料の粘度を上昇させてから、重合を行ってもよい。
重合容器内には、モノマーとともに、重合開始剤、連鎖移動剤、および所望により添加される安定剤などを注入することができる。前述の方法により水分が除去された材料を用いるのが好ましい。その添加量については、用いるモノマーの種類等に応じて好ましい範囲を適宜決定することができるが、重合開始剤は、一般的にはモノマーに対して、0.10〜1.00質量%添加するのが好ましく、0.40〜0.60質量%添加するのがより好ましい。前記連鎖移動剤は、一般的にはモノマーに対して、0.10〜0.40質量%添加するのが好ましく、0.15〜0.30質量%添加するのがより好ましい。前記各材料を含むクラッド部形成用の重合性組成物に含まれる水分量は、0.05質量%以下であるのが好ましい、より好ましくは0.03質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以下である。
重合温度および重合時間は、用いるモノマーによって異なるが、一般的には、重合温度は60〜90℃であるのが好ましく、重合時間は5〜24時間であるのが好ましい。
前記回転重合後に、残存するモノマーや重合開始剤を完全に反応させることを目的として、該回転重合の重合温度より高い温度での加熱処理を施してもよい。
また、前記第1の工程では、一旦、重合体を作製した後、押し出し成形等の成形技術を利用して、所望の形状(本実施の形態では円筒形状)の構造体を得ることもできる。
前記第2の工程では、前記第1の工程で作製したクラッド部となる円筒管の中空部に前述の原料であるモノマーを注入し、該モノマーを加熱重合する。前記モノマーとともに、重合開始剤、連鎖移動剤および所望により添加される屈折率調整剤などを注入することができる。前述の方法により水分が除去された材料を用いるのが好ましい。その添加量については、用いるモノマーの種類等に応じて好ましい範囲を適宜決定することができるが、重合開始剤は、一般的にはモノマーに対して、0.005〜0.050質量%添加するのが好ましく、0.010〜0.020質量%添加するのがより好ましい。前記連鎖移動剤は、一般的にはモノマーに対して、0.10〜0.40質量%添加するのが好ましく、0.15〜0.30質量%添加するのがより好ましい。前記各材料を含むコア部形成用の重合性組成物に含まれる水分量は、0.05質量%以下であるのが好ましい、より好ましくは0.03質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以下である。
前記第2の工程では、前記クラッド部となる円筒管内に充填された重合性モノマーが、いわゆる界面ゲル重合法により重合する。界面ゲル重合法では、前記重合性モノマーの重合は、前記クラッド部となる円筒管の内壁面から断面の半径方向、中心に向かって進行する。2種以上の重合性モノマーを用いた場合は、前記円筒管を構成している重合体に対して親和性の高いモノマーが前記円筒管の内壁面に偏在して主に重合し、該モノマーの比率の高い重合体が形成される。中心に向かうに従って、形成された重合体中の前記親和性の高いモノマーの比率は低下し、他のモノマーの比率が増加する。このようにして、コア部となる領域内にモノマー組成の分布が生じ、その結果、屈折率の分布が導入される。
また、重合性モノマーに屈折率調整剤を添加して重合すると、WO93/08488号公報に記載されているように、コア液がクラッド内壁を溶解しクラッドを構成している重合体が膨潤してゲルを構成しながら、重合が進む。この時、前記円筒管を構成している重合体に対して親和性の高いモノマーが前記円筒管表面に偏在して重合し、外側には屈折率調整剤濃度が低い重合体が形成される。中心に向かうに従って、形成された重合体中の該屈折率調整剤の比率は増加する。このようにして、コア部となる領域内に屈折率調整剤の濃度分布が生じ、その結果、屈折率の分布が導入される。
前記第2の工程では、形成されるコア部となる領域に屈折率の分布が導入されるが、屈折率が互いに異なる部分間は熱挙動も互いに異なるので、重合を一定温度で行うと、その熱挙動の違いからコア部となる領域には、重合反応に対して発生する体積収縮の応答性が変化し、プリフォーム内部に気泡が混入する、もしくはミクロな空隙が発生し、得られたプリフォームを加熱延伸した際に多数の気泡が発生する現象が生じる可能性がある。重合温度が低過ぎると、重合効率が低下し、生産性を著しく損ない、重合が不完全となって光透過性が低下し、作製される光学部材の光伝送能を損なう。一方、初期の重合温度が高過ぎると、初期の重合速度が著しく上昇し、コア部となる領域の収縮に対して応答緩和できず、気泡発生の傾向が著しい。
本実施の形態では、初期の重合温度を下記関係式を満たす温度T℃に維持し、重合速度を減少させて初期重合における体積収縮性の緩和応答性を改善している。
なお、下記関係式中、Tbは前記重合性モノマーの沸点(℃)を示し、Tgは前記重合性モノマーの重合体のガラス転移点(℃)を示す。以下、同様である。
Tb−10 ≦ T ≦ Tg
さらに、本実施の形態では、所定の時間T℃に維持して重合した後、下記関係式を満たす温度T℃まで昇温して、さらに重合する。
Tg ≦ T
< T
温度をT℃まで昇温して重合を完結すると、光透過性が低下するのを防止でき、光伝送能の良好な光学部材が得られる。また、プリフォーム熱劣化や解重合の影響を抑制しつつ、内部に存在するポリマー密度の揺らぎを解消し、プリフォームの透明性を向上させることができる。ここで、T℃は、Tg℃以上(Tg+50)℃以下であるのが好ましく、(Tg+40)℃以下であるのがより好ましく、(Tg+30)℃以下であるのがさらに好ましく、(Tg+10)℃程度で行うことが特に好ましい。TがTg未満であると前述の効果を充分に得ることはできない。一方、(Tg+50)℃を越えてしまうと、熱劣化や解重合により、プリフォームの透明性が低下する傾向がある。さらに屈折率分布型のコア部を形成する場合は、屈折率分布が崩れてしまい、光学部材としての性能の低下が顕著になる傾向がある。
温度T℃での重合は、重合開始剤が残留しないように、重合が完結するまで行うことが好ましい。プリフォーム内に未反応の重合開始剤が残っていると、プリフォーム加工時、特に溶融延伸において、加熱された未反応の重合開始剤が分解して気泡などを発生するおそれがあるため、重合開始剤の反応を終了させておくのが好ましい。温度T℃の保持時間は、用いる重合開始剤の種類によって好ましい範囲が異なり、温度T℃での重合開始剤の半減期時間以上とするのが好ましい。
また、本実施形態においては、重合性モノマーの沸点をTb℃とした場合に、重合開始剤として、十時間半減期温度が(Tb−20)℃以上である化合物を用い、前記関係式を満たすT℃で該重合開始剤の半減期の10%以上の時間(好ましくは25%の時間)重合することも、同様な観点から好ましい。十時間半減期温度が(Tb−20)℃以上である化合物を重合開始剤として用い、前記初期重合温度T℃で重合すると、初期の重合速度を減少させることができる。また、前記初期温度で、前記重合開始剤の半減期時間の10%以上の時間まで重合することにより、初期重合における体積収縮応答に対し圧力により速やかに追随させることができる。即ち、前記条件とすることで、初期重合速度を減少させ、初期重合における体積収縮応答性を向上させることができ、その結果、プリフォーム中の体積収縮による気泡混入を軽減することができ、生産性を向上することができる。なお、重合開始剤の十時間半減期温度とは、重合開始剤が分解して、十時間でその数が1/2になる温度をいう。
前記条件を満たす重合開始剤を用いて、初期重合温度T℃で前記開始剤の半減期時間の10%以上の時間重合する場合、重合を完結するまで温度T℃に維持してもよいが、光透過性の高い光学部材を得るには、T℃より高い温度に昇温して、重合を完結するのが好ましい。昇温時の温度は前記関係式を満たすT℃であるのが好ましく、より好ましい温度範囲も前述の通りであり、温度T℃の保持時間の好ましい範囲も前述の通りである。
本実施の形態において、重合性モノマーとして、沸点Tb℃のメチルメタクリレート(MMA)を用いた場合、十時間半減期温度が(Tb−20)℃以上の重合開始剤としては、前述の例示した重合開始剤のうち、PBDおよびPHVが該当する。例えば、重合性モノマーとしてMMAを用い、重合開始剤としてPBDを用いた場合は、初期重合温度を100〜110℃に48〜72時間維持し、その後、120〜140℃まで昇温して24〜48時間重合するのが好ましく、重合開始剤としてPHVを用いた場合は、初期重合温度を100〜110℃に4〜24時間維持し、120〜140℃まで昇温して24〜48時間重合するのが好ましい。なお、昇温は段階的に行っても、連続的に行ってもよいが、昇温にかける時間は短いほうがよい。
前記第2の工程においては、前記第2の工程においては、特開平9−269424号公報に記載のように加圧するもしくはWO93/08488号公報に記載されているように減圧して重合を行ってもよい。これら操作により、重合性モノマーの沸点近傍の温度である前記関係式を満たすTおよびT℃での重合の重合効率を向上させることができる。
本実施の形態の一例では、下記関係式を満たす温度T℃に維持した後、下記関係式を満たす温度T℃に昇温する重合条件により、第2の工程を実施することができる。
Tb ≦ T < Tg
Tg ≦ T ≦(Tg+30)
また、本実施の形態の他の例では、十時間半減期温度が前記重合性モノマーの沸点以上である重合開始剤を用い、下記関係式を満たす初期重合温度T℃において該重合開始剤の半減期の25%以上の時間重合する重合条件により、前記第2の工程を実施することができる。
Tb ≦ T < Tg
前記第2の工程において、加圧状態で重合を行う(以下、加圧状態で行う重合を「加圧重合」という)場合は、前記モノマーを注入したクラッド部となる円筒管を、治具の中空部に挿入して、治具に支持された状態で重合を行うのが好ましい。クラッド部となる構造体の中空部で加圧重合が進行している間、該構造体は前記治具の中空部に挿入された状態にあり、治具は、該構造体の形状が加圧によって変化するのを抑制する。また、加圧重合が進むにつれて、コア部となる領域は収縮する傾向にあるが、前記構造体は前記治具に挿入された状態で非密着状態で支持されているので、前記構造体はコア部となる領域の収縮を一様に緩和することができ、コア部となる領域の収縮によるボイドの発生を軽減することができる。従って、プリフォームの形状変化およびボイド発生を軽減することができ、プラスチック光学部材の生産性向上に寄与する。特に、屈折率分散型のプラスチック光学部材を作製する場合は、プリフォームの形状変化を抑制することで屈折率分布を均一に維持することができ、良好な光伝送特性を有するプラスチック光学部材を生産性高く作製することができる。
前記治具は、前記構造体を挿入可能な中空部を有する形状であり、該中空部は前記構造体と類似の形状を有しているのが好ましい。本実施の形態では、クラッド部となる構造体が円筒管であるので、前記治具も円筒形状であるのが好ましい。治具は、加圧重合中に前記円筒管が変形するのを抑制するとともに、加圧重合が進むに従ってコア部となる領域が収縮するのを緩和可能に支持する。前記円筒管が治具に密着状態で支持されている場合は、前述した様に、コア部となる領域が収縮するのを円筒管によって緩和できず、中央部にボイドが発生し易い。従って、治具は、前記クラッド部となる円筒管の外径より大きい径の中空部を有し、前記クラッド部となる円筒管を非密着状態で支持するのが好ましい。
前記治具の中空部は、前記クラッド部となる円筒管の外径に対して0.1%〜40%だけ大きい径を有しているのが好ましく、10〜20%だけ大きい径を有しているのがより好ましい。本実施の形態では、前記治具は円筒形状なので、前記治具の内径が、前記クラッド部となる円筒管の外径に対して0.1%〜40%だけ大きいのが好ましく、10〜20%だけ大きいのがより好ましい。
前記クラッド部となる円筒管を治具の中空部に挿入した状態で、重合容器内に配置することができる。重合容器内において、前記クラッド部となる円筒管は、円筒の高さ方向を垂直にして配置されるのが好ましい。前記治具に支持された状態で前記クラッド部となる円筒管を、重合容器内に配置した後、前記重合容器内を加圧する。窒素等の不活性ガスで重合容器内を加圧し、不活性ガス雰囲気下で加圧重合を進行させるのが好ましい。重合時の加圧の好ましい範囲については、用いるモノマーによって異なるが、重合時の圧は、一般的には0.2〜1.0MPa程度が好ましい。また、重合時間は、一般的には24〜96時間であるのが好ましい。重合は加熱下で行ってもよく、一般的には重合温度は90〜140℃であるのが好ましい。
加圧重合によって製造されたプリフォームが、治具の内壁に接した場合においても、速やかに治具から剥離し取り出せるのが、生産性向上のために好ましい。プリフォームを速やかに取り出すには、前記冶具の中空部を構成している内面にまたは前記治具の中空部と該中空部に挿入された前記構造体との間の空隔部に、接着防止層または潤滑層を形成するのが好ましい。前記接着防止層および潤滑層は、クラッド部となる構造体を腐食等しないように、前記クラッド部となる構造体に対して不活性である必要がある。前記接着防止層は、治具の内面にシラン処理等を施すことによって、またはテフロンコーティング等を施すことによって形成することができる。また、前記潤滑層は、前記クラッド部となる円筒管を治具の中空部に挿入した後、該円筒管と治具の内面との間に形成された空隔部に流体を注入することによって形成できる。前記流体としては、クラッド部となる円筒管を構成している重合体に対して不活性であるものを用いる。前記流体の沸点は、クラッド部となる円筒管を構成している重合体の(Tg(ガラス転移点)+30)℃以上であるのが好ましい。中でも、シリコーンオイルなどを潤滑層に用いるのが好ましい。
前記冶具の素材については、前述の圧力に耐えうる素材であれば特に制限はなく、ガラスなども好ましく用いることができるが、より好ましい素材としてはステンレス、チタン合金、アルミ合金などが挙げられる。
以上の工程によって得られたプリフォームは、前記第2の工程で重合温度を制御することにより、均一な屈折率の分布および充分な光透過性を有するとともに、気泡およびマクロ空隔等の発生は抑制されている。従って、高い利用効率で前記プリフォームからプラスチック光伝送体が安定的に得られる。
第3の工程では、第2の工程で作製されたプリフォームを加工することで所望の光伝送体を得ることができる。例えば、プリフォームをスライスすることで平板上のレンズを得たり、溶融延伸してプラスチック光ファイバを得ることができる。特に、プリフォームのコア部となる領域が屈折率分布を有する場合は、均一な光伝送能を有するプラスチック光ファイバを生産性高くしかも安定的に製造することができる。
延伸は、例えば、プリフォームを加熱炉(例えば円筒状の加熱炉)等の内部を通過させることによって加熱し、溶融させた後、引き続き連続して延伸紡糸するのが好ましい。前記第1および/または前記第2の工程において、水分量が低減された重合性モノマーまたは重合開始剤を用いると、プリフォームの内部に残留する水の量を著しく低減することができる。従って、延伸のために加熱しても、内部に残留する水が蒸発して気泡が発生する頻度は低減される。その結果、前記プリフォームから、高い利用効率でプラスチック光ファイバを安定的に製造できる。特に、プリフォームのコア部となる領域が屈折率分布を有する場合は、均一な光伝送能を有するプラスチック光ファイバを生産性高く製造することができる。
延伸時の加熱温度は、プリフォームの材質等に応じて適宜決定することができるが、一般的には、180〜250℃が好ましい。延伸条件(延伸温度等)は、得られたプリフォームの径、所望のプラスチック光ファイバの径および用いた材料等を考慮して、適宜決定することができる。特に、屈折率分布型光ファイバにおいては、その断面の中心方向から円周に向け屈折率が変化する構造を有するため、この分布を破壊しないように、均一に加熱且つ延伸紡糸する必要がある。従って、プリフォームの加熱には、プリフォームを断面方向において均一に加熱可能である円筒形状の加熱炉等を用い、且つ延伸紡糸は、中心位置を一定に保つ調芯機構を有する延伸紡糸装置を用いて行うのが好ましい。また、線引張力は、特開平7−234322号公報に記載されているように、溶融したプラスチックを配向させるために10g以上とすることができ、もしくは特開平7−234324号公報に記載されているように、溶融延伸後に歪みを残さないようにするために100g以下とすることが好ましい。また、特開平8−106015号公報に記載されているように、延伸の際に予備加熱工程を実施する方法などを採用することもできる。
以上の方法によって得られたファイバについては、得られる素線の破断伸びや硬度を、特開平7−244220号公報に記載されている様に規定することで、ファイバの曲げや側圧特性を改善することができる。
第3の工程を経て製造されたプラスチック光ファイバは、そのままの形態で種々の用途に供することができる。また、保護や補強を目的として、その外側に被覆層を有する形態、繊維層を有する形態、および/または複数のファイバを束ねた形態で、種々の用途に供することができる。
被覆工程は、例えばファイバ素線に被覆を設ける場合では、ファイバ素線の通る穴を有する対向したダイスにファイバ素線を通し、対向したダイス間に溶融した被覆用の樹脂を満たし、ファイバ素線をダイス間を移動させることで実施することができる。被覆層は、可撓時に内部のファイバへの応力から保護するため、ファイバ素線と融着していないことが望ましい。さらに、被覆工程において、ファイバ素線は、溶融した樹脂と接すること等により、熱的ダメージを受ける。この熱的ダメージが最小限となるように、ファイバ素線の移動速度に設定し、且つ被覆層として低温で溶融できる樹脂を選ぶことが好ましい。
なお、被覆層の厚みは、被覆層用樹脂の溶融温度や、ファイバ素線の引き抜き速度、被覆層の冷却温度によって調整することができる。
その他、ファイバに被覆層を形成する方法としては、光学部材に塗布したモノマーを重合させる方法、シートを巻き付ける方法、押し出し成形した中空管に光学部材を通す方法などが知られている。
本発明の製造方法により製造された光学部材を、光ファイバケーブルに用いて光信号を伝送するシステムには、種々の発光素子、受光素子、他の光ファイバ、光バス、光スターカプラ、光信号処理装置、接続用光コネクター等で構成される。それらに関する技術としてはいかなる公知の技術も適用でき、例えば、「プラスティックオプティカルファイバの基礎と実際」(エヌ・ティー・エス社発行)等の他、特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号等の各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−32996号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号等の各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号公報等に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号等の各公報に記載の光信号伝達装置や光データバスシステム;特開2002−23011号公報等に記載の光信号処理装置;特開2001−86537号公報等に記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号公報等に記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号等の各公報に記載のマルチファンクションシステム;などを参考にすることができる。
実施例
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。
[例1]
(メチルメタアクリレート(MMA)の精製)
p−ヒドロキシ安息香酸を微量含有する市販のMMA(水分0.78%)の10L中に、モレキュラーシーブス(0.5nm;関東化学製)300gを投入し、密栓して2日間静置した。その後、上澄みのMMAを50〜60℃に加熱して減圧蒸留して、p−ヒドロキシ安息香酸を除去し、水分量が0.008%のMMAを得た。なお、水分量は京都電子工業(株)製MKC510−Nを用い、カールフィッシャー法にて測定した。以下、同様である。
(過酸化ベンゾイルの精製)
市販の過酸化ベンゾイル(水分25%含有)をクロロホルムに溶解し、メタノール中に注ぎ込んで再結晶させた。得られた結晶を濾別し、再度クロロホルムに溶解し、メタノール中にて再結晶させ、濾別して得た結晶をさらに減圧下で3日間乾燥した。得られた過酸化ベンゾイルの水分量は0.51%であった。
(プラスチック光ファイバの作製)
予定するプリフォームの外径に対応する内径を有する十分な剛性を持った内径22mmおよび長さ600mmの円筒状の重合容器に、上記精製により水分量を0.008%まで低減させたMMAの液体を所定量注入した。重合開始剤として、上記精製により水分量を0.51%まで低減した過酸化ベンゾイルを、MMAに対して0.5質量%、連鎖移動剤(分子量調整剤)としてn−ブチルメルカプタンをMMAに対して0.28質量%配合した。
MMA溶液の注入された重合容器を70℃湯浴中に入れ、震盪を加えながら2時間予備重合を行った。その後、該重合容器を70℃下にて水平状態(円筒の高さ方向が水平となる状態)に保持し、3000rpmにて回転させながら3時間加熱重合した。その後、90℃で24時間の熱処理し、ポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる円筒管を得た。
次に、PMMAからなる円筒管の中空部に、コア部の原料である上記精製により水分量を0.008%まで低減させたMMA、および屈折率調整剤として硫化ジフェニルをMMAに対して12.5質量%混合した溶液を、精度0.2μmの四フッ化エチレン製メンブランフィルターで濾過しつつ、濾液を直接注入した。重合開始剤としてジ−t−ブチルパーオキサイド(十時間半減期温度は123.7℃)をMMAに対し0.016質量%、連鎖移動剤としてドデシルメルカプタンをMMAに対し0.27質量%配合した。
このMMA等を注入したPMMAからなる円筒管を、該PMMA円筒管外径に対し9%だけ広い内径を持つガラス管内に挿入した状態で、加圧重合容器に垂直に静置した。その後、加圧重合容器内を窒素雰囲気に置換した後、0.6Mpaまで加圧し、以下の図1に示す様に、MMAの沸点Tb(100℃)に対して(Tb−10)℃以上で、且つPMMAのガラス転移温度(Tg:110℃)以下である100℃で、48時間加熱重合した。その後、加圧状態を維持しながらPMMAのTg℃以上で且つ(Tg+40)℃以下である120℃で、24時間加熱重合および熱処理を行い、プリフォームを得た。
なお、100℃におけるジ−t−ブチルパーオキサイドの半減期は180時間で、120℃における半減期は15時間である。
得られたプリフォームには、重合完了時に体積収縮による気泡の混入はなかった。このプリフォームを230℃の熱延伸により線引きを行い、直径約700〜800μmのプラスチック光ファイバを製造した。延伸工程において、プリフォームには気泡の発生は観察されず、安定して300mのファイバを得ることができた。得られたファイバの伝送損失値を測定したところ、波長650nmにて165dB/kmであった。また、得られたファイバ100mの伝送帯域を測定したところ、1.5GHzであった。
[例2]
温度120℃で48時間重合した以外は、例1と同様の方法で光ファイバを作製した。得られたプリフォームは、初期の重合速度の上昇により、体積収縮の緩和が不完全となることで延伸時に特にプリフォーム上部より気泡が生じた。
[例3]
初期重合温度を、(MMAの沸点Tb−10)℃より低い85℃とした以外は、例1と同様の方法で光ファイバを作製した。得られたファイバの伝送損失値は波長650nmにおいて200dB/kmであった。
[例4]
コア部の重合の際の重合開始剤として、その十時間半減期温度が(MMAの沸点Tb−20)℃より低いBPO(十時間半減期温度は73.6℃)を用いた以外は、例1と同様にして光ファイバの作製を試みた。プリフォームの重合段階において、コア部に気泡が混入し、延伸時においても気泡の発生が顕著であった。
[例5]
初期重合温度を100℃として、そのまま昇温せずに、180時間保持して重合する以外は、例1と同様の方法で光ファイバを作製した。得られたファイバの伝送損失値は波長650nmにおいて300dB/kmであった。
[例6]
での重合温度が(Tg+50)℃を超える温度で重合した(Tは関係式を満たす)以外は例1と同様の方法でプリフォームを作製した。まずコア重合を終了した段階でプリフォームが変形するものや劣化により変色する場合があり、延伸工程を実施できない場合や伝送損失が若干悪化する場合があった。また、Tでの重合速度が急激に上昇する上に、屈折率調整剤の拡散も生じ、プリフォーム状態での屈折率分布が均一化され、伝送帯域は500MHz・100mであった。
[例7]
PMMAからなる円筒管の外径に対し60%の広い内径を有するガラス管を治具として用いた以外は、例1と同様の方法でプリフォームの作製を試みた。得られたプリフォームは、体積収縮の応答と加圧により、プリフォームの中心軸がプリフォーム径に対し最大で60%ふれた形状変化(反り)がみられた。延伸工程において調芯制御をして光ファイバを作製したが、生産効率は例1と比較して若干低下した(700〜800mm径のプラスチック光ファイバ250mを得た)。
[例8]
治具を用いないで重合した以外は、例1と同様の方法で光ファイバの作製を試みた。得られたプリフォームには、体積収縮の応答と重合時の加圧により、プリフォームの中心軸がプリフォーム径に対し100%近くふれた形状変化(反り)が認められた。延伸工程において調芯制御をして光ファイバを作製したが、生産効率は例1と比較して著しく低下した(700〜800mm径のプラスチック光ファイバ100mを得た)。
[例9]
PMMAからなる円筒管を作製する際に、重合容器としてガラス管を用い、重合完了時にPMMAからなる円筒管をガラス管から取り外さずに、該ガラス管に密着して支持された状態で、例1と同様の方法でプリフォームの作製を試みた。
得られたプリフォームは、寸度安定性には優れていたが、重合完了時にコア部領域の中心部での収縮応答が顕著であり、プリフォームの長さ方向の上部30〜40%のコア部領域が収縮空洞となり、延伸処理によりファイバとなり得るプリフォーム領域を大きく損なう結果となった。得られたプリフォームを220℃の熱延伸により線引きを行ったところ、700〜800m径のプラスチック光ファイバを200mしか得ることができなかった。
[例10]
加圧重合を行う際に、PMMAからなる円筒管と治具であるガラス管との間の空隙部に、シリコーンオイル(信越化学KF−96)を充填し、接着防止層を形成した以外は、例1と同様の方法でプリフォームの作製を試みた。例1では、プリフォームとガラス管との接触部位が密着し、剥離させるのが困難で、延伸工程に使用できない領域が生じる場合もあったが、接着防止層としてシリコーンオイルを満たすことにより取出し性が向上し、生産性が更に向上した。
[例11]
過酸化ベンゾイルの精製を行わなかった以外は、例1と同様にして、プラスチック光ファイバの作製を試みた。延伸操作中、2回(220mおよび250m延伸地点)、ファイバの線径が550μm〜1200μmに瞬間的に変動する挙動が観察された。この部分を割断して断面を調べたところ、気泡による空洞が認められた。得られたファイバ長は200mであった。また、この光ファイバの伝送損失は210dB/kmであった。
[例12]
MMAのモレキュラーシーブス処理および過酸化ベンゾイルの精製を行わなかった以外は、例1と同様の方法で光ファイバの作製を試みた。得られたプリフォーム中には、長手方向中間から上部にかけ直径0.5mm〜3mmの気泡がコア層とクラッド層の界面近傍に多数発生していた。このプリフォームを延伸したところ、75m延伸地点よりファイバ線径が大きく変動しはじめ、190m地点ではファイバは破断した。得られたファイバ中には、空洞が多数点在しており、光ファイバとして使用できる範囲は50mに満たなかった。この範囲での伝送損失を測定したところ、1500dB/kmで著しく悪く、肉眼で確認し難い微細な空洞による欠陥が存在しているものと考えられる。
産業上の利用可能性
本発明は、プラスチック光学部材の作製に利用することができる。本発明の製造方法によれば、良好な性能を有する光学部材を安定的に作製することができ、プラスチック光学部材の生産性の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例における重合の昇温パターン例を示したグラフである。

Claims (10)

  1. 屈折率が互いに異なるコア部およびクラッド部を有するプラスチック光学部材の製造方法であって、
    重合体からなり、中空部を有するクラッド部となる構造体を形成するクラッド部形成工程と、
    重合性モノマーを加熱重合することにより前記コア部となる領域を形成する重合工程を含み、前記重合工程において、十時間半減期温度Th(℃)が下記関係式を満たす重合開始剤を用い、且つ下記関係式を満たす初期重合温度T1(℃)において前記重合開始剤の半減期の10%以上の時間重合し、その後、下記関係式を満たす温度T2℃に昇温し、さらに重合するプラスチック光学部材の製造方法であって;
    Tb−20 ≦ Th
    Tb−10 ≦ T1 ≦ Tg
    Tg ≦ T2
    1 < T2
    (関係式中、Tbは前記重合性モノマーの沸点(℃)を示し、Tgは前記重合性モノマーの重合体のガラス転移点(℃)を示す。)
    前記重合工程において、前記構造体を挿入可能な中空部を有する治具により前記構造体を支持しつつ、前記構造体の中空部で重合を行いコア部となる領域を形成し、前記治具の中空部が、前記構造体の外径に対して0.1%〜40%だけ大きい径を有し、及び加圧下で重合することを特徴とするプラスチック光学部材の製造方法。
  2. 前記重合工程において、温度T2がTg+50(℃)以下である請求項1に記載のプラスチック光学部材の製造方法。
  3. 前記重合工程において、前記重合工程に用いる重合開始剤の温度T2(℃)における半減期時間以上重合する請求の請求項1又は2に記載のプラスチック光学部材の製造方法。
  4. 前記重合工程において、水分量が0.01質量%以下である重合性モノマーを用いる請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラスチック光学部材の製造方法。
  5. 前記重合工程において、水分量が2質量%以下である重合開始剤を用いる請求項1〜4のいずれか1項に記載のプラスチック光学部材の製造方法。
  6. 前記クラッド部形成工程において、クラッド部用の重合性モノマーに含まれる水分量が0.01質量%以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載のプラスチック光学部材の製造方法。
  7. 前記冶具の中空部を構成している内面にまたは前記治具の中空部と該中空部に挿入された前記構造体との間の空隔部に、接着防止層または潤滑層を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のプラスチック光学部材の製造方法。
  8. 前記コア部となる領域が、中心から外側に向かって屈折率の分布を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載のプラスチック光学部材の製造方法。
  9. 前記重合工程を、0.2〜1.0MPaの加圧下で行なう請求項1〜8のいずれか1項に記載のプラスチック光学部材の製造方法。
  10. 少なくとも波長650nmを含む波長領域を対象とするプラスチック光学部材の製造方法であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のプラスチック光学部材の 製造方法。
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