JP3745971B2 - 鋼材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、BおよびNを含有する鋼材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
Fe−C系合金からなる鋼材料は最も一般的な金属材料の1種であり、特に、何らかの元素を含有する鋼材料は特殊鋼と指称され、構造用部材や工具、治具の原材料として広汎に使用されている。
【0003】
特殊鋼に含有される元素としては、Al、B、Co、Cr、Mn、Mo、N、Ni、Pb、S、V、Ti、Ta、WまたはZr等が挙げられ、これらは、所定の割合で含有されることにより鋼材料の特性を向上させる。例えば、40〜70ppm(重量割合、以下同じ)のBを含有するボロン鋼は、一般的な鋼材料に比して強度、硬度および靱性に優れる。また、Pbを含有する鋼は、切削加工を施すことが著しく容易な快削鋼として広く知られている。
【0004】
なお、鋼材料中におけるこれらの元素の存在状態は、元素によって異なる。ほとんどの元素は、鋼材料を構成するフェライト(α−FeとCとの固溶体)またはセメンタイト(Fe3C)との固溶体ないし化合物として存在するが、酸化物や硫化物等の非金属化合物、または金属間化合物として存在することもある。さらに、上記したPb快削鋼においては、Pbは、他の元素と結合することなくそれ自体で鋼材料中に存在する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、鋼材料に圧延や鍛造等の各種の加工を施して所定の形状に塑性加工する最中には、焼き入れや浸炭、窒化等のいわゆる表面処理を施すことが一般的である。焼き入れは、鋼材料の表面を加熱してオーステナイト(γ−FeとCとの固溶体)を形成させた後に急冷してマルテンサイトを形成させるものである。また、浸炭、窒化は、鋼材料を加熱した後、該鋼材料の表面から内部に指向してCまたはNを浸透させるものである。このような表面処理により、該鋼材料の表面が硬化される。
【0006】
しかしながら、例えば、上記のボロン鋼には、焼き入れの最中に割れが生じ易いという欠点がある。勿論、割れが発生したものは製品として供することができない。換言すれば、ボロン鋼を焼き入れする場合、歩留まりの低下を招くという不具合が生じる。この理由は、鋼材料中に不純物として遊離状態で存在するごく微量のFe、C、Si、Ni、Mo等とBとが反応することによってFeB、Fe2B、Fe5SiB2、Ni4B3、MoFeB4、Mo2FeB2、B4C等の脆性材料が生成して鋼材料の結晶粒界に析出・偏在し、このために焼き入れ時に鋼材料に発生する熱応力が大きくなるためであると考えられている。
【0007】
しかも、ボロン鋼には、ごく表面の強度、硬度および靱性は良好であるが、内部の上記諸特性は充分ではないという不具合がある。すなわち、鋼材料をホウ化する際にBが上記したような遊離元素と早期に反応してしまうので、Bを内部深くまで浸透(拡散)させることが困難であるからである。
【0008】
また、浸炭や窒化を行っても、CまたはNの表面からの拡散距離は通常0.1mm程度、最大でも0.25mmをやや超える程度である。すなわち、浸炭または窒化では、鋼材料の表面のごく近傍を硬化することはできるが、表面からの距離が0.3mmを超える内部を硬化することは著しく困難である。しかも、この場合、鋼材料の靱性が浸炭または窒化を行う前に比して低下してしまうという不具合がある。
【0009】
上記各種処理とは別に、特開昭53−142933号公報には、まず鋼材料を窒化処理し、その後、ホウ化処理する表面処理方法が提案されている。このような表面処理方法によれば、ホウ化処理の際、窒化処理を施さない場合に比して鋼材料の加熱温度を低くすることができ、したがって、ひずみのない製品を得ることができるとされている。
【0010】
しかしながら、同号公報に記載されているように、この表面処理方法においては、Fe−B−N系化合物が鋼材料のごく表面に形成されるのみである。すなわち、BまたはNが内部まで浸透しないので、鋼材料の諸特性を内部まで向上させることは困難である。
【0011】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、強度、硬度および靱性に優れ、しかも、加熱に際して割れが生じ難く、このために高い歩留まりで製品を得ることが可能な鋼材料を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明に係る鋼材料は、重量割合で7〜30ppmのBと10〜70ppmのNとを含有し、BおよびNが拡散するとともにビッカース硬度で720以上である部位として定義される硬化深さが0.3mmを超えていることを特徴とする。
【0013】
Bをこのような割合で含有する鋼材料は、Bを含有していない鋼材料に比して強度、硬度および靱性に優れる。また、Nをこのような割合で含有する場合、Bと鋼材料中に不純物として存在する遊離元素とが互いに反応することが著しく抑制される。すなわち、上記したような脆性材料が鋼材料中に生成することが抑制されるので、該鋼材料に割れが発生することを抑制することができる。したがって、歩留まりも向上する。
【0014】
鋼材料中におけるBとNは、六方晶BN(h−BN)または正方晶BN(c−BN)、さらにはFeおよびCとともに結合してFe−C−B−N系ホウ窒化物の状態で存在していてもよいが、最も優れた強度、硬度および靱性が得られるということから、Feに固溶されたFe(B,N)系固溶体またはFeおよびCに固溶されたFe(C,B,N)系固溶体の状態で存在することが好ましい。しかも、この場合、鋼材料を構成する組織の変化が緩やかとなるので、該鋼材料を加熱した際に発生する熱応力が小さくなる。このため、割れが発生することが一層抑制されるようになる。
【0015】
なお、BおよびNが固溶する組織の代表的なものとしては、フェライト、オーステナイト、ベイナイト(オーステナイトの冷却変態生成物)等が例示される。また、Fe(B,N)系固溶体またはFe(C,B,N)系固溶体中には、鋼材料に微量に含まれるSiやMn、P、S等がさらに固溶されていてもよい。
【0016】
BおよびNをFe組織中に固溶させる場合、当該鋼材料の内部深く、具体的には、表面から0.3mmを超える内部までこれらBおよびNを拡散させることができる。すなわち、ボロン鋼におけるBの拡散距離や、窒化によるNの拡散距離が通常0.1mm、最大で0.25mmをやや超える程度であるのに比して、BおよびNを著しく大きな距離で拡散させることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る鋼材料につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
本実施の形態に係る鋼材料は、フェライト、オーステナイト、ベイナイト等に固溶してFe(B,N)系固溶体またはFe(C,B,N)系固溶体の状態で存在するBとNとを含有する。
【0019】
Bは、ボロン鋼における場合と同様に、鋼材料の強度、硬度および靱性を向上させる成分である。そして、Bの割合は7〜30ppmに設定される。7ppm未満では上記の諸特性を向上させる効果に乏しく、また、30ppmを超えると鋼材料の靱性が低下してしまう。Bのより好ましい割合は、10〜20ppmである。
【0020】
Nは、鋼材料中に不純物として遊離状態で含有されたFe、Si、Ni、Mo等とBとの反応を抑制する成分である。すなわち、Nが存在する場合、Bとこれらの遊離元素とが互いに反応することが著しく抑制され、このため、FeB、Fe2B、Fe5SiB2、Ni4B3、MoFeB4、Mo2FeB2、B4C等の脆性材料が生成することが著しく抑制される。したがって、本実施の形態に係る鋼材料では、焼き入れをはじめとする加熱時に発生する熱応力が一般的なボロン鋼に比して著しく小さくなり、結局、割れが発生し難いものとなる。
【0021】
Nの割合は、10〜70ppmに設定される。10ppm未満では鋼材料の割れの発生を抑制する効果に乏しい。一方、70ppmを超えると、鋼材料の硬度が低下してしまうからである。
【0022】
鋼材料中におけるBとNは、上記したように、Fe(B,N)系固溶体またはFe(C,B,N)系固溶体の状態で存在する。この場合、鋼材料は、BとNがh−BNまたはc−BNの状態で存在する鋼材料に比して優れた強度、硬度および靱性を示す。
【0023】
しかも、この場合、該BおよびNの拡散距離が著しく大きくなる。すなわち、BとNは、ボロン鋼や窒化された鋼材料に比して内部深くまで浸透する。Nが共存することによって、Bが鋼材料中の遊離元素と反応することが著しく抑制されるからである。具体的には、本実施の形態に係る鋼材料では、表面からの距離が30〜70mmを超える内部においてもNとBとが存在することがある。
【0024】
さらに、この場合、該鋼材料を構成する組織が該鋼材料の表面から内部にかけて緩やかに変化する。このため、該鋼材料を加熱する際に発生する熱応力が著しく小さくなるので、割れが著しく発生し難くなる。
【0025】
このように、本実施の形態に係る鋼材料においては、内部深くまでNとBとが拡散している。このため、該鋼材料の内部においても優れた強度、硬度および靱性を確保することができるとともに、割れが発生することを著しく抑制することができる。
【0026】
本実施の形態に係る鋼材料は、以下のようにして製造することができる。
【0027】
上記した鋼材料の製造方法のフローチャートを図1に示す。この製造方法は、原料鋼をホウ素化合物で被覆または囲繞する第1工程S1と、前記原料鋼を加熱窒化処理する第2工程S2とを有する。
【0028】
まず、第1工程S1において、原料鋼をホウ素化合物で被覆または囲繞する。
【0029】
具体的には、原料鋼をホウ素化合物で被覆する場合、原料鋼の表面にホウ素化合物からなるコーティング膜を形成する。コーティング膜は、例えば、キシレンやトルエン、あるいはアセトン等の溶媒にh−BN等のようなホウ素化合物が分散された溶液を原料鋼の表面に噴霧した後、前記溶媒を揮散除去することにより容易かつ簡便に形成することができる。または、化学的気相成長(CVD)法や物理的気相成長(PVD)法等によりコーティング膜を形成するようにしてもよい。
【0030】
また、原料鋼をホウ素化合物で囲繞する場合、原料鋼を収容した坩堝内にB4C等のような粉末状ホウ素化合物を充填すればよい。
【0031】
次いで、第2工程S2において、前記コーティング膜が形成された原料鋼または粉末状ホウ素化合物に囲繞された原料鋼を加熱窒化処理する。この処理により原料鋼が窒化されるとともに、ホウ素化合物からBが拡散して原料鋼の表面から内部に指向して浸透する。勿論、原料鋼を窒化したNも原料鋼の表面から内部に指向して浸透する。その結果、上記した鋼材料が得られるに至る。
【0032】
原料鋼を窒化するための窒化ガスは、NH3、N2およびH2の混合ガス、NH3、N2およびArの混合ガスのようにNH3を含むガスであってもよいが、N2のみであることが好ましい。原料鋼に拡散させるNは上記したように重量割合で10〜70ppmと著しく少ないので、活性が低いN2の方が原料鋼へのNの拡散量を容易に制御することができるからである。
【0033】
ここで、窒化ガスは、温度が1100〜1750Kの範囲内であるときに導入する。1100K未満では、Nがフェライトやオーステナイト、ベイナイト等に容易に固溶されてしまうので、Nの重量割合が70ppmを超えるようになる。また、1750Kを超えると、Bが原料鋼中のFe、Si、Ni、Mo等の遊離元素と優先的に結合するので、上記したような脆性のホウ化物が生成し、結局、割れが発生し易い鋼材料となってしまう。なお、温度が上記範囲外の際には、Ar等の不活性窒化ガスを導入するようにすればよい。原料鋼の表面にコーティング膜を形成した場合には、真空引きを行うようにしてもよい。
【0034】
また、第2工程S2での加熱手段は特に限定されるものではないが、原料鋼を短時間で昇温することができ、このために鋼材料を効率よく製造することができるということから、高周波誘導加熱装置が特に好適である。この場合、原料鋼を筒状体の内部に収容し、かつ該筒状体の内部に窒化ガスを流通させた状態で原料鋼の窒化を行うことが好ましい。これにより窒化ガスを原料鋼に確実に接触させることができるので、高周波加熱装置を使用する場合であっても原料鋼を効率よく窒化させることができるからである。なお、筒状体としては、例えば、石英または黒鉛製のものを使用することができる。
【0035】
処理時間は、原料鋼の肉厚や体積に応じて設定されるが、加熱炉による加熱では概ね10分〜2時間、高周波誘導装置による加熱では概ね5秒〜5分とすれば充分である。処理時間を長くし過ぎると、BまたはNがそれぞれ30ppm、70ppmを超えるようになるので注意を要する。
【0036】
【実施例】
1.BおよびNの効果
原料鋼として、50mm×50mm×100mmの直方体のS50C(JIS規格)を用意した。キシレンにh−BNが分散された溶液をこの原料鋼の表面に噴霧し、室温で放置して乾燥することによりh−BNからなるコーティング膜を形成した。
【0037】
次いで、この原料鋼を加熱炉内に入れ、10K/分で1600Kまで昇温した後、1600Kで30分保持して加熱窒化処理することにより、BおよびNを含有する鋼材料を得た。これを実施例1とする。なお、温度が1200Kとなるまでは加熱炉内を真空引きし、1200Kに到達した直後からN2を導入した。
【0038】
この実施例1の鋼材料におけるBおよびNの重量割合を吸光光度分析法にて定量分析したところ、それぞれ、17ppm、20ppmであった。
【0039】
また、上記と同一寸法の原料鋼を用意し、この原料鋼をB4Cの粉末が充填された坩堝内に圧入して該原料鋼をB4Cの粉末で囲繞した。
【0040】
この状態で原料鋼を坩堝ごと加熱炉内に入れ、実施例1と同様の条件下で加熱窒化処理して鋼材料を得た。これを実施例2とする。なお、実施例2の鋼材料では、BおよびNの各重量割合は18ppm、50ppmであった。
【0041】
さらに、直径10mm×長さ30mmの円柱状の原料鋼に対して火炎焼き入れを行ったものを用意した。これを比較例1とする。なお、比較例1の鋼材料にはBおよびNは検出されなかった。
【0042】
これら実施例1、2および比較例1の各鋼材料につきビッカース硬度を測定したところ、比較例1の鋼材料の表面における値は640であった。これに対し、実施例1、2の各鋼材料におけるビッカース硬度は、図2に表すように、一側面から他側面に亘って比較例1の表面に比して80〜100程度高い値を示した。この結果から、BおよびNを含有することにより鋼材料の硬度が向上することが明らかである。また、実施例1、2の各鋼材料の硬度が略均一であることから、これら鋼材料においては、その表面から内部中央までBおよびNが拡散していることも諒解される。
【0043】
次に、実施例1、2および比較例1から引っ張り試験用の試験片と衝撃試験用の試験片とを切り出し、各試験片につき引っ張り強度とシャルピー衝撃値を測定した。結果を図3に示す。なお、シャルピー衝撃値が高いほど靱性が高いことを表す。この図3から、比較例1の鋼材料に比して実施例1、2の各鋼材料が引っ張り強度および靱性に優れるものであることが分かる。
【0044】
以上の結果から、BおよびNを含有させることにより鋼材料の硬度、強度および靱性を向上させることができることが明らかである。
【0045】
これらとは別に、原料鋼としてSCM430(JIS規格)を選定したことを除いては実施例1に準拠して鋼材料を得た。これを実施例3とする。
【0046】
また、真空引きを行いながら10K/分の昇温速度で1200Kまで昇温した後に1200Kで30分間保持し、さらに1500Kに到達した時点でN2ガスを導入して1650Kで30分間保持したことを除いては実施例3に準拠して鋼材料を得た。これを実施例4とする。
【0047】
さらに、1000cm3の水を溶媒とし、この中に115gのKCl、20gのBaCl2、7.5gのNaF、1gのB2O3、5gのフェロボロンが溶解されたソルト浴に実施例3、4と同一寸法のSCM430を2時間浸漬することにより該SCM430をホウ化した。これを比較例2とする。
【0048】
なお、以上の実施例3、4および比較例2の各鋼材料におけるBの重量割合を定量分析したところ、それぞれ、19ppm、21ppm、2ppmであった。
【0049】
そして、これら実施例3、4および比較例2の各鋼材料につき、表面から内部に指向してビッカース硬度を測定した。表面からの距離とビッカース硬度との関係を図4に併せて示す。この図4から、比較例2の鋼材料では0.05mmを超える深度ではビッカース硬度が激減しているのに対し、実施例3、4の各鋼材料では、0.3mmを超える深度でも硬度に優れていることが明らかである。また、この結果からも、実施例3、4の各鋼材料では比較例2の鋼材料に比して内部にまでBが拡散していることが諒解される。
【0050】
2.加熱窒化処理時間と鋼材料の諸特性との関係
原料鋼としてSKS93(JIS規格)を選定し、長さは一定として底面積を変化させた直方体を種々作製した。そして、1400Kに到達した時点でN2ガスを導入し、保持時間を種々変化させたことを除いては実施例1に準拠して各直方体にBおよびNを固溶させ、鋼材料を得た。このうち、底面の寸法が40mm×40mm以上の各鋼材料から引っ張り試験用の試験片と破壊靱性値(KIC)測定用の試験片とを切り出し、各試験片につき引っ張り強度およびKICを求めた。さらに、各鋼材料における表面のロックウェル硬度(Cスケール、HRC)を測定した。これらの測定結果を加熱窒化処理における保持時間および含有するBの重量割合とともに図5および図6に示す。
【0051】
これら図5、図6から、処理時間を設定することによって鋼材料の諸特性を制御することができることが分かる。
【0052】
3.割れの抑制について
図7に示す直径50mm×長さ200mmの円柱状のSCM420(JIS規格)を原料鋼10として用意した。キシレンにh−BNが分散された溶液をこの原料鋼10の表面に噴霧し、室温で放置して乾燥することによりh−BNからなるコーティング膜(図示せず)を形成した。そして、この原料鋼10の略中央部に、該原料鋼10の軸方向に直交する直径8mmの貫通孔12を設けた。
【0053】
次いで、一端部の近傍に複数個の孔部14が設けられた半ピース16a、16bをこの原料鋼10に装着することにより、図8に示すように、円筒状部材18を構成した。そして、孔部14を介してN2ガスを流通させ、かつ円筒状部材18を30rpmの回転速度で回転させながら、480V、48kW、周波数19kHzの条件下で、高周波加熱装置によって原料鋼10を加熱して鋼材料を作製した。加熱時間は10秒とした。これを実施例5とする。
【0054】
また、加熱時間を15秒または30秒としたことを除いては実施例5に準拠して鋼材料を得た。これらをそれぞれ実施例6、7とする。なお、実施例7において、原料鋼10および鋼材料につき定量分析を行ったところ、BおよびNは、原料鋼10では検出されず、一方、鋼材料では、それぞれ、17ppm、50ppmであった。
【0055】
比較のため、原料鋼10に対してコーティング膜を形成することなく高周波加熱装置にて焼き入れを行った。この場合、原料鋼10を大気中で30rpmの回転速度で回転させながら、460V、45kW、周波数19kHzの条件下で8秒間加熱した。これを比較例3とする。
【0056】
これら実施例5〜7および比較例3の各鋼材料につき割れの発生を調査したところ、比較例3では、10本の試料のうち6本に貫通孔12の周囲に割れが発生していることが確認された、一方、実施例5〜7では、合計40本の試料の全てにおいて、割れが発生していることは認められなかった。
【0057】
次に、これら実施例5〜7および比較例3の各鋼材料につき、表面から内部に亘ってビッカース硬度を測定した。表面からの距離とビッカース硬度との関係を図9に示す。
【0058】
この図9から、比較例3では、表面からの距離が2mm以上となると硬度が急激に低下すること、これに対し、実施例5〜7では、硬度は緩やかに減少していることが分かる。このことから、比較例3の鋼材料では組織が急激に変化し、一方、実施例5〜7の各鋼材料では組織の変化が緩やかであることが諒解される。このような組織を有する実施例5〜7の鋼材料では、比較例3の鋼材料に比して加熱時に発生する熱応力が著しく小さくなる。実施例5〜7において、割れが発生しない理由はこのためであると考えられる。
【0059】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る鋼材料によれば、BとNとを所定の割合で含有している。このため、Bの作用によって優れた強度、硬度および靱性を示すとともに、Nの作用によって脆性材料が鋼材料中に生成することが抑制されるので加熱に際して割れが発生し難い鋼材料とすることができるという効果が達成される。このため、この鋼材料に対して加工を施して製品を得る際の歩留まりが向上する。
【0060】
特に、BとNが鋼材料の金属組織中に固溶されてFe(B,N)系固溶体またはFe(C,B,N)系固溶体の状態で存在する場合、該鋼材料を構成する組織は、該鋼材料の表面から内部にかけて緩やかに変化する。このため、該鋼材料を加熱した際に発生する熱応力が小さくなるので、該鋼材料に割れが発生することが一層抑制されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼材料の製造方法のフローチャートである。
【図2】実施例1、2の各鋼材料の一側面から他側面に亘るビッカース硬度を示す図表である。
【図3】実施例1、2および比較例1の各鋼材料から得られた試験片の引っ張り強度とシャルピー衝撃値を示す図表である。
【図4】実施例3、4および比較例2の各鋼材料における表面からの距離とビッカース硬度との関係を示すグラフである。
【図5】各鋼材料における加熱窒化処理時間と、Bの重量割合、表面のロックウェル硬度(Cスケール)、引っ張り強度および破壊靱性値との関係を示す図表である。
【図6】各鋼材料における加熱窒化処理時間と、Bの重量割合、表面のロックウェル硬度(Cスケール)、引っ張り強度および破壊靱性値との関係を示す図表である。
【図7】原料鋼と該原料鋼に装着する円筒状部材を構成する半ピースの概略全体構成説明図である。
【図8】図7の原料鋼に円筒状部材を装着した状態を示す概略全体構成説明図である。
【図9】実施例5〜7および比較例3の各鋼材料における表面からの距離とビッカース硬度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10…原料鋼 12…貫通孔
14…孔部 16a、16b…半ピース
18…円筒状部材
Claims (1)
- 重量割合で7〜30ppmのBと10〜70ppmのNとを含有し、BおよびNが、BN、Fe−C−B−N系ホウ窒化物、Fe(B,N)系固溶体またはFe(C,B,N)系固溶体として拡散するとともにビッカース硬度で720以上である部位として定義される硬化深さが0.3mmを超えていることを特徴とする鋼材料。
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