JPH10245668A - 鉄系材料の窒化処理方法およびそれによって得られた鉄系材料製品 - Google Patents

鉄系材料の窒化処理方法およびそれによって得られた鉄系材料製品

Info

Publication number
JPH10245668A
JPH10245668A JP6737897A JP6737897A JPH10245668A JP H10245668 A JPH10245668 A JP H10245668A JP 6737897 A JP6737897 A JP 6737897A JP 6737897 A JP6737897 A JP 6737897A JP H10245668 A JPH10245668 A JP H10245668A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
iron
nitriding
based material
nitride layer
treatment
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP6737897A
Other languages
English (en)
Other versions
JP3023322B2 (ja
Inventor
Kenzo Kitano
憲三 北野
Naohisa Shimada
直久 嶋田
Tomoki Shirahata
知己 白幡
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Daido Hoxan Inc
Original Assignee
Daido Hoxan Inc
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Daido Hoxan Inc filed Critical Daido Hoxan Inc
Priority to JP9067378A priority Critical patent/JP3023322B2/ja
Publication of JPH10245668A publication Critical patent/JPH10245668A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP3023322B2 publication Critical patent/JP3023322B2/ja
Anticipated expiration legal-status Critical
Expired - Fee Related legal-status Critical Current

Links

Landscapes

  • Solid-Phase Diffusion Into Metallic Material Surfaces (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【課題】処理前後の寸法変化や歪みが少なく、寸法精
度,面粗度等に優れた製品が得られる鉄系材料の窒化処
理方法およびそれによって得られた鉄系材料製品を提供
する。 【解決手段】窒化処理に先立って、フッ素系ガス雰囲気
下で鉄系材料を加熱保持してフッ化処理し、ついで、窒
化処理の際の温度を300〜450℃に設定し、上記フ
ッ化処理済の鉄系材料を窒化処理することにより、上記
フッ化処理済の鉄系材料の表層部の少なくとも一部に、
厚み1〜10μmの窒化物層を形成するようにした。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、鉄系材料の窒化処
理方法およびそれによって得られた鉄系材料製品に関す
るものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、エアコンやクーラー等のコンプ
レッサー用の各種摺動部材としては、鋳鉄や炭素鋼が使
用されている。そして、耐摩耗性向上策として、浸炭焼
き入れ,高周波焼き入れ等の焼き入れ硬化や、PVD
(physical vapordepositio
n)等の乾式めっきを施すことが行われてきた。
【0003】上記焼き入れ硬化法では、鋼の変態点(鋼
がオーステナイト相となるA3 もしくはAcm変態点)を
越える高温からの急冷が必要であることから、処理前後
の寸法変化や歪みの発生が大きい。このため、最終製品
の研削仕上げ等が必要になり、仕上げ加工に多大なコス
トがかかるという問題がある。一方、乾式めっき法で
は、母材とコーティング層の密着性に難があるうえ、量
産性が悪く、処理コストが高いという問題がある。
【0004】したがって、最近では、鉄系材料の表面硬
化法として、比較的低温で処理することができ、寸法変
化や歪みが比較的少ない窒化処理法が採用される傾向に
ある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、窒化処理で
あっても、540〜580℃の温度下で長時間加熱され
るため、残留応力の解放や鋼の再結晶等が起こることに
よる熱変形が避けられない。また、鋼を窒化処理する
と、最表面に窒化物層が形成され、その下層に、窒素が
拡散浸透するとともに微細窒化物が分散した拡散層が形
成される。これらは、寸法の膨れや面粗度,真円度の悪
下等の精度低下の原因となっている。一方、装置の高回
転化に伴う製品の高精度化の要求はますます厳しくな
り、窒化処理品であっても、焼き入れ品と同様に研削仕
上げ等の仕上げ加工が必要になっているのが実情であ
る。
【0006】また、鋼の再結晶等による熱変形を小さく
しようとして、再結晶温度(鉄の再結晶温度は、約45
0℃)以下の低温で窒化処理を行うと、窒素の拡散浸透
が充分行われずに、窒化硬化層の形成が著しく不安定に
なるという問題が生じる。特に、切削,研削等の機械加
工を行った部材では、表面に生じた加工変質層の影響
で、さらに窒化硬化層の形成が不安定になりやすい。こ
のため、従来、上記のような低温でガス窒化処理が行わ
れることはなかった。
【0007】本発明は、このような事情に鑑みなされた
もので、処理前後の寸法変化や歪みが少なく、寸法精
度,面粗度等に優れた製品が得られる鉄系材料の窒化処
理方法およびそれによって得られた鉄系材料製品の提供
をその目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
め、本発明の鉄系材料の窒化処理方法は、窒化処理に先
立って、フッ素系ガス雰囲気下で鉄系材料を加熱保持し
てフッ化処理し、ついで、窒化処理の際の温度を300
〜450℃に設定し、上記フッ化処理済の鉄系材料を窒
化処理することにより、上記フッ化処理済の鉄系材料の
表層部の少なくとも一部に、厚み1〜10μmの窒化物
層を形成することを要旨とする。
【0009】また、本発明の鉄系材料製品は、母材が鉄
系材料からなり、表層部の少なくとも一部に、厚み1〜
10μmの窒化物層が形成されていることを要旨とす
る。
【0010】本発明者らは、窒化処理方法において処理
前後の寸法変化や歪みを少なくするため、一連の研究を
重ねた。そして、窒化処理に先立って、フッ素系ガス雰
囲気下で鉄系材料を加熱保持してフッ化処理することに
より、鉄系材料の表面が活性化され、窒化されやすくな
るという知見を得た。そして、種々実験を繰り返した結
果、フッ化処理することにより、従来不可能と思われて
いた300〜450℃の低温域での窒化が可能になり、
さらに、上記低温域での窒化処理により表層部の少なく
とも一部に、厚み1〜10μmの窒化物層を形成するこ
とにより、処理前後の寸法変化や歪みが極めて少なくな
り、寸法精度,面粗度等に優れた製品が得られることを
突き止め、本発明に到達した。
【0011】
【発明の実施の形態】つぎに、本発明の実施の形態を説
明する。
【0012】本発明の窒化処理方法は、窒化処理に先立
って、フッ素系ガス雰囲気下で鉄系材料を加熱保持し、
ついで、窒化処理の際の温度を300〜450℃に設定
して窒化処理することにより、表層部の少なくとも一部
に、厚み1〜10μmの窒化物層を形成する。
【0013】上記鉄系材料としては、特に限定するもの
ではなく、各種のものが用いられる。例えば、窒化鋼、
ニッケル・クロム鋼,ニッケル・クロム・モリブデン
鋼,クロム鋼,クロム・モリブデン鋼等の機械構造用炭
素鋼、マンガン・クロム鋼,クロム・バナジウム鋼,珪
素・マンガン鋼等のばね鋼、高炭素クロム鋼,タングス
テン・クロム鋼,タングステン・バナジウム鋼等の工具
鋼、タングステン・クロム・バナジウム鋼等の高速度鋼
の他、マンガン鋼,H鋼,高張力鋼,快削鋼,ダイス
鋼,軸受鋼,耐熱鋼,ボロン鋼等の各種合金鋼や、ねず
み鋳鉄,白鋳鉄,まだら鋳鉄,フェライト鋳鉄,パーラ
イト鋳鉄,球状黒鉛鋳鉄,接種鋳鉄,可鍛鋳鉄等の各種
鋳鉄、鋳鋼等があげられる。また、鋼だけでなく、炭素
をほとんど含有しない工業用純鉄でもよいし、この純鉄
や炭素鋼等に浸炭処理を行ったものでもよい。さらに、
溶製鋼に限らず、粉末冶金法によって得られる焼結合金
でもよい。これらの鉄系金属は、あらかじめ調質,応力
除去焼鈍等の熱処理を行ってもよい。
【0014】上記鉄系材料を、窒化処理に先立って、ま
ず、フッ素系ガス雰囲気下で加熱保持してフッ化処理す
る。
【0015】上記フッ化処理に用いるフッ素系ガスとし
ては、NF3 ,BF3 ,CF4 ,HF,SF6 ,C2
6 , WF6 ,CHF3 ,SiF等からなるフッ素化合物
ガスおよびF2 ガスがあげられ、単独でもしくは併せて
使用される。また、これら以外に分子内にフッ素を含む
他のフッ素化合物ガスもフッ素系ガスとして用いること
ができる。このようなフッ素系ガスは、それのみで用い
ることもできるが、通常は、N2 ガス等の不活性ガスで
希釈されて使用される。このような希釈されたガスにお
けるフッ素系ガスの濃度は、例えば10000〜100
000ppmであり、好ましくは20000〜7000
0ppm、より好ましくは、30000〜50000p
pmである。この種のフッ素系ガスとして最も実用性を
備えているのはNF3 である。NF3 は常温でガス状で
あり化学的安定性が高く取り扱い性が容易だからであ
る。
【0016】フッ化処理は、上記濃度のフッ素系ガス雰
囲気を作り、この雰囲気下に、上記鉄系材料を入れ加熱
状態で保持することにより行う。この場合の加熱温度
は、例えば、250〜450℃の温度に設定される。そ
して、加熱保持時間は、製品の種類や形状寸法,加熱温
度等に応じて適当な時間を設定すればよく、通常は、十
数分〜数十分の範囲内に設定される。鉄系材料をフッ化
処理することにより、「N」原子が鉄系材料の表面から
内部に浸透しやすくなる。この理由は、鉄系材料の表面
には、FeO,Fe3 4 ,Cr2 3 等の酸化物皮膜
等が形成されているが、この酸化物皮膜等が形成された
鉄系材料を上記のようにフッ化処理すると、上記酸化物
がフッ素系ガスと反応し、FeF2 ,FeF3 ,CrF
2 ,CrF4 等の化合物を含む薄いフッ化膜に変換され
て活性化し、窒化ガス中の「N」原子の浸透が容易な表
面状態になると考えられる。このように、鉄系材料の表
面が「N」原子の浸透が容易な状態になっているため、
450℃以下の比較的低温域でも「N」原子が一定の深
さで均一に拡散し、均一な窒化層が形成されると考えら
れる。
【0017】ついで、上記のように、フッ化処理によっ
て「N」原子の浸透し易い状態となっている鉄系材料を
窒化雰囲気下において加熱状態で保持し、窒化処理が行
われる。
【0018】この場合、窒化雰囲気をつくる窒化ガスと
しては、NH3 のみからなる単体ガス、または、上記単
体ガスにN2 等の不活性ガスを混合して使用される。場
合によっては、これらのガスにH2 ガスを混合して使用
することも行われる。
【0019】上記窒化雰囲気下において、フッ化処理の
なされた鉄系材料が加熱状態で保持される。この場合の
加熱温度は、従来の窒化処理よりも大幅に低い温度の3
00〜450℃に設定される。すなわち、上記温度が4
50℃を越えると、鉄系材料の再結晶等が起こり熱変形
等が生じるが、450℃以下で処理することにより、再
結晶等に起因する熱変形が抑えられる。また、上記窒化
処理時間は、通常2〜48時間に設定される。なお、3
00℃以下の窒化処理温度では、長時間窒化処理しても
充分な厚みの窒化硬化層が得られないため、実用的では
ない。
【0020】上記のようなフッ化処理および窒化処理
は、例えば、図1に示すような金属製のマッフル炉1で
行われる。このマッフル炉1は、ヒータ3によって加熱
される内容器4と、この内容器4を収容する外殻2を備
えている。そして、上記内容器4には、雰囲気ガスを導
入するガス導入管5および排気管6が連通している。上
記ガス導入管5には、流量計17およびバルブ18を介
してフッ素系ガスボンベ16,NH3 ガスボンベ15,
2 ガスボンベ30が接続されている。一方、上記排気
管6には、内容器4内のガスを排気する真空ポンプ13
および排ガス処理装置14が接続されている。図におい
て、8はモーター7で回転して内容器4内の雰囲気ガス
を攪拌するファンであり、11は鉄系材料10を詰める
金網製かごである。
【0021】上記マッフル炉1内を250〜450℃に
昇温し、鉄系材料10を装入してフッ素系ガスボンベ1
6からNF3 等のフッ素系ガスを内容器4内に導入して
加熱保持してフッ化処理をし、ついで排気管6から内容
器4内のガスを真空ポンプ13の作用で引出し、排ガス
処理装置14内で無毒化して外部に放出する。つぎに、
NH3 ガスボンベ15から内容器4内に窒化ガス(NH
3 ガス,NH3 ガス+N2 ガス等)を導入し、300〜
450℃に設定して加熱保持して窒化処理を行い、その
後、排気管6および排ガス処理装置14を経由して内容
器4内のガスを外部に排出する。この一連の作業により
フッ化処理および窒化処理が行われる。
【0022】上記のように低温域で窒化処理することに
より、上記鉄系材料の表面層に、緻密で均一な厚み1〜
10μmの窒化物層が形成される。この窒化物層は、ε
−Fex N(2<x≦3:Nを7〜11%という広範囲
の濃度で含む)の殆ど単相で構成されている。そして、
本発明の窒化処理によれば、窒化処理による鉄系材料の
寸法変化や面粗れがほとんど生じないのである。
【0023】すなわち、従来の窒化処理では、ε−Fe
x Nおよびγ’−Fe4 Nという2種類の窒化物からな
る窒化物層が形成され、この窒化物層は、窒化処理条件
にもよるが、通常、10〜30μm程度の厚みになる。
そして、上記従来法で得られる窒化物層には「N」の濃
度勾配があり、表層部に「N」含有量の比較的多いε−
Fex N相が形成され、母材側に「N」含有量の比較的
少ないγ’−Fe4 N相が形成される。また、この窒化
物層には、断面の面積比率に換算して20〜40%にも
達する気孔(平均径0.3〜0.6μm)が数多く存在
する。そして、特にγ’−Fe4 Nでは気孔径が大きい
(γ’−Fe4 Nの解離圧が低いためと考えられる)。
しかも、上記従来の窒化物層は、ε−Fex Nは最表面
にごく薄く存在するだけで、全厚みの70〜75%は、
ε−Fex Nとγ’−Fe4 Nとが混在するか、γ’−
Fe4 Nだけからなっている。そして、γ’−Fe4
には粗大気孔が存在するため、上記従来の窒化方法で得
られた窒化物層には、粗大気孔を有するγ’−Fe4
が厚く形成されてしまい、製品の外形寸法が膨張して寸
法変化が生じたり、製品の面粗度や真円度等を悪化さ
せ、寸法精度を低下させる原因となる。このため、最終
加工仕上げが必要となって多大のコストがかかる。さら
に、圧縮機用部品のような高速摺動部材では、厳しい潤
滑環境下で高速摺動するため、上記のように窒化物層に
厚いγ’−Fe4 Nが形成されていると、γ’−Fe4
Nの粗大気孔の影響で面粗度の悪化をもたらし、ピッチ
ング摩耗を生じたり、摺動相手材を摩耗させたりし、耐
久性が悪くなる。
【0024】これに対し、本発明では、300〜450
℃の低温域で窒化し、窒化物層の厚みを最大でも6μm
までとする。このようにすると、γ’−Fe4 Nが生成
せず、形成される窒化物層がε−Fex Nからなるもの
となる。なお、窒化物層の厚みが6μmを越え厚くなる
に従って、γ’−Fe4 Nの量が大幅に増大する。そし
て、上記ε−Fex N相は、γ’−Fe4 N相と比較し
て気孔が極めて小さく、緻密である。このように、本発
明では、粗大気孔を有するγ’−Fe4 N相が生成せ
ず、ε−Fex Nからなる窒化物層が形成されるため、
寸法変化が非常に小さく、面粗度の劣化も少ない。
【0025】上記のようにして得られた鉄系材料製品
は、圧縮機用部品のように、高速摺動部材として好適に
用いられる。すなわち、鉄系材料製品の表面に形成され
たε−Fex Nからなる窒化物層は、微細で緻密な気孔
の存在が、潤滑液を効果的に保持し、高速摺動において
も摩耗を最小限に抑えることができる。また、ε−Fe
x Nは、γ’−Fe4 Nのような粗大気孔がほとんどな
いため、窒化物層が破壊されてピッチング摩耗を生じた
り、摺動相手材を摩耗させたりすることがない。なお、
ε−Fex Nからなる窒化物層の厚みが1μm以上あれ
ば、上記のような潤滑効果が得られる。一方、1μm未
満では、窒化物層自体の厚みが薄いうえ、その直下に形
成される窒素拡散層も浅いため、表層部の硬度がそれほ
ど高くならず、充分な耐摩耗性が得られない。
【0026】また、本発明の窒化処理方法では、450
℃以下という低温域で窒化処理するため、窒化雰囲気中
の〔N〕の浸透ポテンシャル(以下、「〔N〕ポテンシ
ャル」という)が極めて高くなる。これは、一般に鋼を
アンモニアガス中に保持したときの〔N〕ポテンシャル
は、下記の式(1)で表されるが、窒化温度が低温にな
るに従ってNH3 の解離率が小さくなり、H2 濃度が低
くなるためである。このような低温における高い〔N〕
ポテンシャルの雰囲気下では、γ’−Fe4 Nよりもε
−Fex Nの方が核生成が容易である。一方、450℃
を越える高温では〔N〕ポテンシャルが小さくなり、ε
−Fex Nよりも熱力学的に安定なγ’−Fe4 Nの形
成が増大する。そして、一旦γ’−Fe4 Nが形成され
ると窒化物層全体の厚みは急激に増大してしまう。
【0027】
【化1】pNH3 /pH2 3/2 …(1) pNH3 :NH3 の分圧 pH2 :H2 の分圧
【0028】また、本発明の窒化処理方法では、材料中
に炭素が多く存在する鉄系材料を使用することが好まし
い。すなわち、ε−Fex Nは、炭素を多量に固溶する
ため、炭素が多く存在する鉄系材料を使用した場合に、
より安定的に核生成し成長するからである。したがっ
て、鋳鉄や浸炭処理品等の炭素の多い材料では、γ’−
Fe4 Nは核生成が起こり難く、ε−Fex Nからなる
窒化物層が形成されるのである。例えば、FCD600
(球状黒鉛鋳鉄)では、窒化物層全体の厚みが6μm程
度になるまでγ’−Fe4 Nは形成されない。一方、S
CM435のような中炭素鋼では、窒化物層全体の厚み
が2〜3μm程度になると、その窒化物層中にγ’−F
4 Nが形成されてしまう。
【0029】特に、上記鉄系材料として鋳鉄を使用する
ことが好ましい。すなわち、鋳鉄は、鋳造によって複雑
形状品が容易に得られ、析出黒鉛による摺動性や、振動
減衰特性も良く、耐食性にも優れるうえに安価である等
の種々の優れた特性を有し、摺動部材として極めて良好
な材料である。ところが、鋳鉄は、鋳造時の残留応力が
大きいために熱変形も大きいうえ、応力除去焼鈍等を施
したとしても2次黒鉛の析出による膨張等の問題がある
ため、窒化処理によって高精度のものを得ることができ
なかった。しかも、鋳鉄は、Siを多量に含有するた
め、窒化処理自体が困難で、特に低温窒化は不可能であ
った。本発明では、窒化に先立ち、フッ化処理すること
により、鋳鉄の表面を〔N〕原子の浸透が容易な状態と
し、450℃以下の比較的低温での窒化処理を可能にし
たのである。
【0030】つぎに、実施例について比較例と併せて説
明する。
【0031】
【実施例】球状黒鉛鋳鉄(FCD600)を鋳込み成形
したのち切削加工し、図2に示すように、円柱状のシャ
フト部2と、中央よりやや端部寄りに設けられたクラン
ク部3とからなるクランクシャフト1を形成した。
【0032】このクランクシャフトを、図1に示すマッ
フル炉に装入し、N2 ガス雰囲気下で昇温し、350℃
に達したのちN2 +10体積%NF3 ガス雰囲気下で3
50℃×20分間フッ化処理した。つぎに、NH3 ガス
を導入し、400℃まで昇温し、100体積%NH3
ス雰囲気下で400℃×6時間窒化処理し、本発明の鉄
系材料製品を得た。
【0033】
【比較例】上記実施例と同様に形成したクランクシャフ
トを、70体積%NH3 ガス+30体積%RXガス雰囲
気下で570℃×2時間窒化処理し、鋳鉄系材料製品を
得た。
【0034】上記各実施例および比較例のクランクシャ
フトの断面金属顕微鏡写真をそれぞれ図3および図4に
示す。実施例では、約2μmの窒化物層が形成されてい
る。これに対し、比較例では、約12μmの窒化物層が
形成されていることがわかる。また、各クランクシャフ
トの断面電子顕微鏡写真を図5および図6に示す。実施
例では、窒化物層は緻密で気孔がほとんど見られない。
これに対し、比較例では、多数の粗大気孔が存在してい
るのがわかる。
【0035】また、上記各クランクシャフトの表面をX
線回折した結果を図7および図8に示す。実施例では、
ε−Fe3 Nの大きなピークが明瞭に見られ、γ’−F
4Nのピークはほとんど見られない。これに対し、比
較例では、γ’−Fe4 Nの大きなピークが明瞭に見ら
れ、ε−Fe3 Nのピークは非常に弱いのがわかる。ま
た、実施例のε−Fe3 Nのピークは、回折線が比較例
よりブロードであり、半値幅(ピーク全高の半分の高さ
におけるピーク幅)が広く、結晶が微細であることを物
語っている。
【0036】さらに、上記各クランクシャフトの表面硬
度と、軸振れ,表面の面粗度,外形寸法の膨れの測定結
果を下記の表1に示す。なお、面粗度は、ミツトヨ社製
RA−100、外形寸法および軸振れは、ミツトヨ社製
ダイヤルゲージを用いて測定を行った。
【0037】
【表1】
【0038】上記表1からわかるとおり、実施例では、
比較例に比べて表面硬度がやや高く、真円度,面粗度,
外形寸法膨れ、いずれも比較例よりも良好な値を示し、
高精度が得られていることがわかる。
【0039】
【発明の効果】以上のように、本発明の窒化処理方法に
よれば、窒化処理に先立って、フッ素系ガス雰囲気下で
鉄系材料を加熱保持してフッ化処理するため、300〜
450℃の低温域での窒化処理が可能となる。このた
め、残留応力解放や再結晶等による熱変形が軽減され
る。さらに、上記低温域での窒化処理により、表層部の
少なくとも一部に、厚み1〜10μmの窒化物層を形成
するため、処理前後の寸法変化や歪みが極めて少なくな
り、寸法精度,面粗度等に優れた製品が得られる。した
がって、製品を高精度に保つことができ、研削仕上げ等
の仕上げ加工が不要になり、コストを低減することがで
きる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の窒化処理方法に用いる炉の構成図であ
る。
【図2】本発明の高速摺動部材(クランクシャフト)を
示す図であり、(a)は正面図、(b)は右側面図、
(c)は背面図である。
【図3】実施例の高速摺動部材の表層部の金属組織を示
す金属顕微鏡写真である。
【図4】比較例の表層部の金属組織を示す金属顕微鏡写
真である。
【図5】実施例の高速摺動部材の表層部の金属組織を示
す電子顕微鏡写真である。
【図6】比較例の表層部の金属組織を示す電子顕微鏡写
真である。
【図7】実施例の高速摺動部材のX線回折結果を示す線
図である。
【図8】比較例のX線回折結果を示す線図である。

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 窒化処理に先立って、フッ素系ガス雰囲
    気下で鉄系材料を加熱保持してフッ化処理し、ついで、
    窒化処理の際の温度を300〜450℃に設定し、上記
    フッ化処理済の鉄系材料を窒化処理することにより、上
    記フッ化処理済の鉄系材料の表層部の少なくとも一部
    に、厚み1〜10μmの窒化物層を形成することを特徴
    とする鉄系材料の窒化処理方法。
  2. 【請求項2】 形成される窒化物層がε−Fex Nであ
    る請求項1または2記載の鉄系材料の窒化処理方法。
  3. 【請求項3】 鉄系材料が鋳鉄である請求項1または2
    記載の鉄系材料の窒化処理方法。
  4. 【請求項4】 母材が鉄系材料からなり、表層部の少な
    くとも一部に、厚み1〜10μmの窒化物層が形成され
    ていることを特徴とする鉄系材料製品。
  5. 【請求項5】 窒化物層がε−Fex Nである請求項4
    記載の鉄系材料製品。
  6. 【請求項6】 鉄系材料が、鋳鉄である請求項4または
    5記載の鉄系材料製品。
  7. 【請求項7】 高速摺動部材として用いられるものであ
    る請求項4〜6のいずれか一項に記載の鉄系材料製品。
JP9067378A 1997-03-04 1997-03-04 鉄系材料の窒化処理方法およびそれによって得られた鉄系材料製品 Expired - Fee Related JP3023322B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP9067378A JP3023322B2 (ja) 1997-03-04 1997-03-04 鉄系材料の窒化処理方法およびそれによって得られた鉄系材料製品

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP9067378A JP3023322B2 (ja) 1997-03-04 1997-03-04 鉄系材料の窒化処理方法およびそれによって得られた鉄系材料製品

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JPH10245668A true JPH10245668A (ja) 1998-09-14
JP3023322B2 JP3023322B2 (ja) 2000-03-21

Family

ID=13343300

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP9067378A Expired - Fee Related JP3023322B2 (ja) 1997-03-04 1997-03-04 鉄系材料の窒化処理方法およびそれによって得られた鉄系材料製品

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP3023322B2 (ja)

Cited By (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2004081252A1 (ja) * 2003-03-10 2004-09-23 Kabushiki Kaisha Riken 窒化バルブリフタおよびその製造方法
JP2007031770A (ja) * 2005-07-26 2007-02-08 Honda Motor Co Ltd 鋼製ばね部材
JP2013095966A (ja) * 2011-11-01 2013-05-20 Panasonic Corp 摺動部材、及びその表面処理方法、並びにそれを用いた軸受装置、圧縮機
JP2016023353A (ja) * 2014-07-23 2016-02-08 日立建機株式会社 摺動構造及びその製造方法

Cited By (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2004081252A1 (ja) * 2003-03-10 2004-09-23 Kabushiki Kaisha Riken 窒化バルブリフタおよびその製造方法
JP2007031770A (ja) * 2005-07-26 2007-02-08 Honda Motor Co Ltd 鋼製ばね部材
JP2013095966A (ja) * 2011-11-01 2013-05-20 Panasonic Corp 摺動部材、及びその表面処理方法、並びにそれを用いた軸受装置、圧縮機
JP2016023353A (ja) * 2014-07-23 2016-02-08 日立建機株式会社 摺動構造及びその製造方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP3023322B2 (ja) 2000-03-21

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JPH0344457A (ja) 鋼の窒化方法
JP3961390B2 (ja) 耐摩耗性にすぐれた表面炭窒化ステンレス鋼部品およびその製造方法
EP1712658B1 (en) Method for surface treatment of metal material
CN113862610A (zh) 一种提高渗碳层耐蚀性能的预处理方法
JP3064907B2 (ja) 浸炭硬化締結用品およびその製法
WO2019093480A1 (ja) 鉄基焼結合金材及びその製造方法
JPH11100655A (ja) ガス軟窒化処理方法
JP4711403B2 (ja) 鋼製ばね部材及びその製造方法
JP3792341B2 (ja) 冷間鍛造性及び耐ピッチング性に優れた軟窒化用鋼
JP5457000B2 (ja) 鋼材の表面処理方法およびそれによって得られた鋼材ならびに金型
JP3023322B2 (ja) 鉄系材料の窒化処理方法およびそれによって得られた鉄系材料製品
JP3114973B1 (ja) マルエージング鋼のガス窒化方法
JP3941520B2 (ja) 転動装置
JP3005952B2 (ja) オーステナイト系金属に対する浸炭処理方法およびそれによって得られたオーステナイト系金属製品
JP4921149B2 (ja) 金属の窒化方法
JP3064908B2 (ja) 浸炭硬化時計部材もしくは装飾品類およびそれらの製法
JP3193320B2 (ja) 機械部品の熱処理方法
JP7471206B2 (ja) 鋼材の表面処理方法
US5403409A (en) Nitrided stainless steel products
JP2005036279A (ja) 鋼の表面硬化方法およびそれによって得られた金属製品
JPH0853711A (ja) 表面硬化処理方法
JP4198268B2 (ja) 鉄合金部品
JP3685322B2 (ja) マルエージング鋼の窒化処理方法
WO2022044392A1 (ja) 摺動部材及びその製造方法
JPH04301064A (ja) 疲労強度の優れた鋼部材およびその製造方法

Legal Events

Date Code Title Description
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 19991221

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20090114

Year of fee payment: 9

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20090114

Year of fee payment: 9

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20100114

Year of fee payment: 10

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110114

Year of fee payment: 11

S111 Request for change of ownership or part of ownership

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313111

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110114

Year of fee payment: 11

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20110114

Year of fee payment: 11

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20120114

Year of fee payment: 12

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees