JP4921149B2 - 金属の窒化方法 - Google Patents

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Description

本発明は、表面に窒化層を形成させ耐摩耗性や強度等を向上させる金属のガス窒化処理方法に関し、詳しくは、表面に形成させる窒素化合物層の厚さを制御するとともに、寸法精度に影響を与える酸化物層を最表面に形成させない金属の窒化方法に関するものである。
浸炭処理や窒化処理等の表面硬化処理は、鋼材の耐摩耗性、耐焼付き性、疲労強度等の機械的性質を向上させるための手段として自動車部品や圧縮機等の各種機械部品を中心に幅広い分野で利用されている。これらのうち窒化処理は、鋼の変態点よりも低い温度で処理を行うため、歪の発生が比較的少ないことから、摺動部品を中心に様々な形状で精度を要求されるような部品に対しても適用されてきている。
このとき鋼材表面に形成される窒素化合物層は硬度が高く、摺動する相手の金属材との反応性が母材よりも低く、特に耐摩耗性や耐焼付き性に優れるという性質を持つため、ガス窒化処理、塩浴窒化処理、イオン窒化処理などの窒化手法にかかわらず、鋼材表面にFeN、FeNを主体とした窒素化合物層を形成させ、部品の要求性能を満たすようその窒素化合物層厚さ等を適正化させることが行われている。
窒化処理が適用されている機械部品の中で、例えば各種圧縮機に使用されるベーンがあるが、近年の小型化の進行や代替冷媒への変更等によってより過酷な摺動条件となってきており、その摺動面に負荷される面圧の高さを含めた過酷な摺動条件に耐え得るよう、各種の窒化処理方法が提案されている(例えば、下記の特許文献1および2)。
例えば、下記の特許文献1では、ベーンの材料としてSUS440C等のステンレス鋼を使用し、窒素化合物層を4μm以上、網目層(窒素拡散層)を40μm以上形成させることで、ベーン部材の摺動面の耐摩耗性を向上させるとしている。
この特許文献1にはステンレス鋼に窒化処理を施すことが開示されているが、例えばステンレス鋼の中でも比較的表面の酸化皮膜の強度が弱いマルテンサイト系ステンレス鋼を用いたとしても、通常のガス窒化では窒化層厚さにバラツキが生じ易く、安定した窒化層を得ることは非常に難しいはずである。特に上記のようなベーン部材に窒化処理を適用する場合には、その窒化処理後の寸法精度が極めて重要になるはずである。しかしながら、上記特許文献1では、4μm以上の白色の窒素化合物層を形成する窒化処理方法については、ガス窒化処理が好適であるという記載があるに過ぎず、寸法精度を確保し得る具体的な窒化処理方法については一切言及がない。
また、下記の特許文献2では、500〜560℃の低温処理とし、窒化処理時のNHの分解率を制御することによって窒素化合物層厚さの成長を1〜5μmに抑制する方法が提案されている。
特許文献2の方法によれば使用時の応力付加によって脱落しやすいポーラスな窒化層の形状を抑制できるとともに、面粗度の悪化による高摩擦係数化も同時に抑制することになり、高硬度で摩擦係数の低い窒素化合物層を形成させることが可能となるため、窒化処理後に研磨加工を行って上記ポーラス層を研磨除去する工程が必要なくなるとされている。
特許文献2のように窒化処理後に研削や研磨加工工程を行わずに使用する場合には、その寸法のバラツキをいかに小さくするかが特に重要となる。ベーンの材料はマルテンサイト系ステンレス鋼や高速度工具鋼等が主流であり、焼入、焼戻し処理、ベーン形状への加工を行った後、材料の耐摩耗性を向上させるために窒化処理が行われるようになってきている。
このとき、窒化処理時の熱付加によって材料自体が有する残留加工応力等の開放による変形にも留意する必要があるが、窒化処理によって形成する窒化層の厚さの差による膨張量のバラツキがその寸法精度を大きく左右する。このときの窒化層の膨張量のうち、材料中にNが侵入、拡散することによって形成される窒素拡散層が発生させる膨張量の割合は比較的小さいが、表面に形成されるFeN、FeNを主体とした窒素化合物層による膨張が主な支配因子となる。したがって、精度バラツキを小さくするには、上記の窒素化合物層厚さのバラツキを小さくする窒化処理方法が極めて重要となるのである。
また、上述したように、ベーン部材にはその材料強度の確保とともに、窒化処理によって硬度が上昇するCr等の元素を多く含むマルテンサイト系ステンレス鋼や高速度工具鋼が使用される場合が多いが、そのCrによって材料表面に形成される酸化皮膜は表面からNが侵入するのを阻害する要因となる。特にCrを大量に含有するステンレス鋼では表面に形成される酸化皮膜が強固となり、その傾向が顕著となるため、通常のガス窒化処理ではNHの活性度が高くなり、表面の酸化物を還元し易くなる比較的高温の窒化処理を行った場合でも、化合物層を含む窒化層厚さのバラツキが発生し易くなるという問題がある。
その対策として、ステンレス鋼のような強固な酸化皮膜であっても、フッ化処理を行うことによってその酸化皮膜を除去し、仮に低温で窒化処理を行った場合でも安定的に窒化処理を行い、安定した厚さの窒化層を得る方法が極めて有効な方法と考えられる(例えば、下記の特許文献3)。
ところが、ガス窒化もしくはガス軟窒化処理の前処理としてフッ化処理を適用した場合、その最表面は窒化処理時に強く活性化されるため、特にステンレス鋼等酸化物を形成し易いCr等を多量に含むような材料では、例えば窒化処理を行うNHガス中に含まれる不純物成分である微量な水分等の酸化源ガスの影響によって、不可避的に最表面に酸化物層が形成されてしまう。
その酸化物層の厚さは最も厚い場合でも1μm以下と極めて薄いものであり、初期摺動時のなじみの効果も得られる場合が多いため、通常の機械部品では特に大きな問題となることはない。
ところが、上述したベーン部材のように、表面の清浄度や面粗度が特に重要な部品では、窒化処理後にバレル処理、バフ研磨、ショットブラスト処理等を適用する必要がある場合があり、このときその酸化物層は比較的容易に除去され、その処理方法によっては寸法バラツキの原因となる。
したがって、特に工程削減やコストダウンを目的として上記したような窒化後の切削加工や研磨加工等を実施しない場合だけでなく、窒化後に面粗度改善等のためバレル処理やバフ研磨等を行う場合にも、その処理によって寸法変化が発生しづらいように、最表面は、酸化物層が存在しない、高硬度で耐摩耗性の高い窒素化合物となっていることがより望ましい。
以上のような問題点を解決するためには、まず例えばステンレス鋼等の均一な窒化を行いづらい材料であっても、均一な窒化層、特に均一な厚さの窒素化合物層を形成させることが何よりも重要となる。
そこで、窒化処理の前処理としてフッ化処理を行い金属表面の酸化皮膜をフッ物膜に置換した後、NH等の還元性ガス雰囲気でフッ化物膜の還元処理を行うことによって、通常均一な窒化処理が困難なステンレス鋼や、Cr含有量の多い合金鋼等を低温で窒化するような場合であっても、表面にNの侵入を阻害するような酸化皮膜が存在しない状態にすることが可能となるため、全面に渡って均一な窒化層の形成を行うことが可能となる。
特開平11−101189 特開2005−16386 特公平8−9766号
しかしながら、このとき通常工業的に使用するNHガスは数百ppm程度の水分を含んでいることから、特にフッ化物膜が還元された状態の最表面は活性な状態となっているために、処理を行う部品の材質や処理温度にもよるが、酸化物層単独もしくは酸素を多く含んだ窒化物層が最表面に形成してしまう。これを防止する方法として窒化用ガスとして水分や酸素分を極力取り除いた高純度NHを使用する方法も考えられるが、コストが高く生産処理には適さない。
一方、NHの分解反応は処理品や処理を行う炉の炉壁や処理品を載せる治具等の表面の触媒作用を利用しているが、その分解量は処理温度に大きく依存する。したがって窒素化合物層の厚さを制御することを目的に比較的低い窒化処理温度を適用する場合であればさらにNHの分解量は減少するため、NHの分解によって窒化に寄与するNの発生量が減少するだけでなく、Hの発生量も減少することとなる。このとき発生するHは処理雰囲気の還元性を維持し処理品の再酸化を防ぐという意味でも重要な役割を担い、例えばフッ化処理を行わずにガス窒化処理もしくはガス軟窒化処理を行う際には処理品の表面に形成している酸化皮膜を還元するだけでなく窒化層の不均一さを発生させる原因ともなりうる再酸化を防止するためにも重要な役割を担うこととなる。
また、フッ化処理を行う場合にはそのフッ化物膜厚さを適正化することによって仮に再酸化が起こったとしても窒素の侵入を阻害するような緻密な酸化皮膜を再形成させることはないため、均一な窒化層を形成させることが可能だが、このとき雰囲気中のH濃度が低い、例えば処理温度が低く雰囲気の還元力が不十分な場合では最表面での酸化物層の形成は不可避的なものとなってしまう。したがって工業的な手法でこの問題を解決するためには、工業用に使用されている安価なNHガスを使用し、比較的低温の窒化処理を行った場合であっても、少なくとも一時的にNHの分解率を上昇させ、最表面まで窒素化合物で覆われた状態となるよう還元力を上げる必要がある。
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、表面に形成させる窒素化合物層の厚さを制御するとともに、寸法精度に影響を与える酸化物層を最表面に形成させない金属の窒化方法の提供を目的とする。
すなわち、本発明の第1の金属の窒化方法は、フッ素源ガスを含むガス雰囲気中に被処理物を加熱保持してその表面にフッ化物膜を生成させるフッ化処理工程の後、窒素源ガスを含むガス雰囲気中に上記被処理物を加熱保持してその表面から窒素を侵入させて窒化層を形成させる窒化処理工程を行う金属の窒化方法であって、上記窒化処理工程の途中に、一時的に窒素源ガスの供給量を減少するか供給を停止して酸化源ガスを供給することを要旨とする。
本発明の第2の金属の窒化方法は、フッ素源ガスを含むガス雰囲気中に被処理物を加熱保持してその表面にフッ化物膜を生成させるフッ化処理工程と、還元用ガス雰囲気中で被処理物を加熱保持して上記フッ化物膜を還元するフッ化物膜還元工程と、上記還元用ガスの供給量を減少するか供給を停止して酸化用ガス雰囲気で炉内を酸化する酸化工程と、上記酸化用ガスの供給を停止して還元性の窒素源ガス雰囲気中に上記被処理物を加熱保持してその表面から窒素を侵入させて窒化層を形成させる窒化処理工程とを含むことを要旨とする。
すなわち、本発明の第1の金属の窒化方法は、窒化処理工程の途中に、一時的に窒素源ガスの供給量を減少するか供給を停止して酸化源ガスを供給する。
また、本発明の第2の金属の窒化方法は、上記フッ化処理工程と、上記フッ化物膜を還元するフッ化物膜還元工程と、上記還元用ガスの供給量を減少するか供給を停止して酸化用ガス雰囲気で炉内を酸化する酸化工程と、上記窒化処理工程とを含む。
このようにすることにより、窒化処理の途中の適正な段階において、一旦窒化源ガスであると同時に還元性のガスであるNHガスの供給量を減少するか供給を停止し、次に適正な量の酸化源ガスを供給することにより、処理品だけではなく炉壁や治具表面等を含めた炉内の酸化処理を行う。続いて上記酸化源ガスの供給を停止するとともに、NHを主成分とする還元性のある窒化用ガスを再度供給することによって、酸化された炉壁によって一時的にNHの分解率を上昇させて最表面の酸化物層を還元し、これらの処理を適正化することによって、その最表面を窒素化合物粒子によって覆われたFeN、FeNを主体とした窒素化合物層とすることが可能となる。
このように、NHの分解反応は処理品だけではなく、炉壁や治具表面での触媒反応を利用しており、特に金属の酸化面ではその分解反応が促進されることから、窒化処理の途中で酸化源ガスを導入した後、再び窒化源ガスであるNHを含んだガスを炉内に再び供給することで、一時的にNHの分解率が上昇し最表面の還元反応および窒化反応が促進され、表面に形成させる窒素化合物層の厚さを均一に制御するとともに、寸法精度に影響を与える酸化物層を最表面に形成させないことが実現するのである。
本発明の第2の金属の窒化方法において、上記フッ化物膜還元工程と併せて、窒素源ガスを含む雰囲気中で被処理物を加熱保持して表面から窒素を侵入させる一次窒化処理を実施し、その後上記炉内酸化工程と上記窒化処理工程とを行う場合には、フッ化処理後の一次窒化処理により、フッ化物が還元されるとともに、窒素がある程度侵入して被処理物の表面がある程度酸化され難い状態となり、その後の炉内酸化処理によって被処理物が極度に酸化されてしまうのを防止する。そして、炉内酸化処理で炉壁や治具表面を酸化させて触媒特性を向上させたのち、二次窒化処理を行うことにより、一時的にNHの分解率を向上させて最表面の還元反応と窒化反応を促進し、表面に形成させる窒素化合物層の厚さを均一に制御するとともに、寸法精度に影響を与える酸化物層を最表面に形成させないことが実現するのである。
また、本発明の金属の窒化方法をベーン部材に適用した場合には、窒化後の表面には実質的に酸化物層が存在しないため、表面に高硬度で耐摩耗性の高い窒素化合物層が均一な厚さで形成しており、例えばさらに面粗度を良くする必要がある等の理由で窒化処理後にバレル処理やバフ研磨等を施さなければいけないような場合であっても、その処理による寸法変化が非常に少なくてすむことから、寸法を合わせるための後研削加工等を必要としないため、工数低減を含めたコストダウンが期待できる。
また、上記窒素化合物層の最表面は窒素化合物の粒子で覆われており、上記最表面には実質的に酸化物層が存在しないため、表面に高硬度で耐摩耗性の高い窒素化合物層が均一な厚さで形成しており、例えばさらに面粗度を良くする必要がある等の理由で窒化処理後にバレル処理やバフ研磨等を施さなければいけないような場合であっても、その処理による寸法変化が非常に少なくてすむことから、寸法を合わせるための後研削加工等を必要としないため、工数低減を含めたコストダウンが期待できる。
上記ベーン部材において、上記最表面のOのX線強度がNのX線強度の1/5以下である場合には、窒化処理後にバレル処理やバフ研磨等を施さなければいけないような場合であっても、その処理による寸法変化が非常に少なくてすむことから、寸法を合わせるための後研削加工等を必要としないため、工数低減を含めたコストダウンが期待できる。
なお、本発明において使用する上記酸化源ガスとしては酸化が行えるガスであれば特に特定されるものでは無いが、コスト的に考えた場合圧縮空気を使用することが望ましい。
つぎに、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の窒化処理方法としては、被処理物を炉内に配置し、
(1)フッ素源ガスを含むガス雰囲気中に被処理物を加熱保持してその表面にフッ化物膜を生成させるフッ化処理工程と、
(2)還元用ガス雰囲気中で被処理物を加熱し上記フッ化物膜を還元するフッ化物膜還元工程(一次窒化処理)と、
(3)上記還元用ガスの供給量を減少するか供給を止めるとともに、酸化用ガス雰囲気で被処理物および炉壁、治具表面を酸化する炉内酸化工程と、
(4)上記酸化用ガスの供給を止め、NHを主成分とする還元用ガスの供給を行いその分解によって生じる活性なHで酸化物層を還元するとともに、同時に発生するNを被処理物中に侵入、拡散させることによって目的とする厚さの窒素化合物層を含む窒化層を形成する窒化処理工程(二次窒化処理)とを備えている。
本発明の窒化処理方法が対象とする金属は、炭素鋼や合金鋼はもちろんのことステンレス鋼やニッケル基合金等、Nが固溶できる材料であれば適用することができるが、特に低温で均一な窒化層を形成させることが難しい高合金鋼やステンレス鋼への適用により優位性を持った処理方法となる。
(1)フッ化処理工程
上記フッ化処理工程は、まず被処理物をフッ素源ガスを含むガス雰囲気中に加熱保持して被処理物表面に形成している酸化物を除去しフッ化物膜を形成させる。
上記フッ化処理におけるフッ素源ガスとしては、酸化物を形成している母材成分であるFeやCrに対して酸素よりも母材との親和力が強いハロゲン系物質であるフッ素系ガス(フッ素化合物ガスまたはフッ素ガスを含有するガス)が用いられる。このフッ素系ガスとしては、フッ素化合物、例えばNF、BF、CF、SF等のフッ素化合物ガスやFガスからなる主成分ガスを含むガスがあげられる。通常は、この主成分ガスをNガス等の希釈ガスで希釈してフッ素系ガスとして使用される。
これらフッ素系ガスに用いられる主成分ガスのうち、反応性、取り扱い性等の面でNFが最も優れており、実用的である。上記フッ素系ガス雰囲気下で被処理物を、例えばNFを含むN雰囲気中で200〜580℃、好ましくは200〜400℃の温度領域に10〜60分保持することでNFが分解して活性なFが発生し、被処理物表面の酸化物と置換されて酸化物よりも安定なフッ化物が形成される。このフッ化物は還元性雰囲気に曝されると容易に還元されるため、この方法によって窒素や炭素等の元素が侵入固溶する際に障壁となる酸化物膜等の無い表面が現れることになるため、ガス窒化処理およびガス軟窒化処理の前処理として極めて適した処理である。
したがって、フッ化処理の後に窒化処理を行うことによって、容易に均一な窒化層を得ることが可能となる。このとき、フッ素系ガス雰囲気のフッ素化合物またはフッ素の濃度は、1000〜100000ppmとするのが好ましい。
上記フッ化処理の処理温度としては、200〜580℃が好ましく、より好ましいのは200〜400℃である。
このようにすることにより、フッ化処理工程において、活性化したフッ素原子により被処理物の表面に付着していた無機物や有機物の汚染物質が破壊除去されて表面が浄化されるとともに、上記フッ素原子が酸化皮膜と反応してフッ化物膜に変化し、被処理物の表面がフッ化物膜で被覆保護された状態となる。
そして、このフッ化物膜は、後工程のフッ化物膜除去工程や窒化処理工程により分解消失するため、被処理物の表面が活性化された状態となり、この活性化された表面に、窒素や炭素が迅速に浸透、拡散して、均一で深い拡散硬化層が形成されるとともに、表面にはFeN、FeNを主体とした均一な厚さの窒素化合物層を形成させることが可能となるのである。
このフッ化処理工程については、そのまま同一の炉を用いてフッ化物膜除去工程や酸化工程および窒化処理工程を実施することもできるし、例えば連続炉内でフッ化処理室と以降の工程を実施する処理室を分けて実施する方法等も可能である。
(2)フッ化物膜除去工程(一次窒化処理)
上記フッ化処理工程の後、NH等の還元用ガス雰囲気中に上記被処理物を加熱保持してその表面のフッ化物を還元し、その表面を活性化させることによって被処理物内に窒素や炭素が容易に侵入できるようフッ化物膜の還元処理を行う。このとき使用するガスは還元性のあるガスであれば特に限定するものではないが、NHのように比較的低温で分解反応を起こし、活性なHを多く発生するガスが好ましい。
特に、上記還元用ガスとして窒素源ガスであるNHを用い、その雰囲気中で被処理物を加熱保持してフッ化物膜を還元するとともに表面から窒素を侵入させる一次窒化処理とすることにより、フッ化処理後の一次窒化処理により、フッ化物が還元されるとともに、窒素がある程度侵入して被処理物の表面がある程度酸化され難い状態となり、その後の炉内酸化処理によって被処理物が極度に酸化されてしまうのが防止される。
なお、還元用ガス雰囲気中に上記被処理物を加熱保持するフッ化物膜除去処理と、窒素源ガス雰囲気中で被処理物を加熱保持して表面から窒素を侵入させる一次窒化処理とは、上述したように同時処理することもできるが、必ずしもこれに限定するものではなく、まずフッ化物膜除去処理を行ったのちに一次窒化処理を行い、その後炉内酸化工程を実施することもできる。このように、「フッ化物膜還元工程と併せて一次窒化処理を実施する」とは、上記双方の態様を含む趣旨である。
(3)炉内酸化工程
上記フッ化物膜の還元工程において、活性化された被処理物表面はNとの反応性が高くなるだけではなく、例えば雰囲気中に酸素や水蒸気等の酸化源があれば、その濃度にもよるが、より安定な酸化物も形成しようとする。特に窒化処理温度が低くなるほどその酸化物層は不可避的に形成する。鋼種にもよるがこのとき形成する酸化物層は窒化温度を高温にすれば還元することが可能であるものもあるが、窒化処理温度を高温にした場合には数μmレベルでの窒素化合物層厚さの制御を行うことがより難しくなる。
したがって低温でNHの分解率を上げ不可避的に形成する酸化物層を還元するという方法が最良の方法であり、本発明の方法としては、一旦酸化処理を行いそれによって炉内のNHの分解率を上げる手法を用いる。このとき特に被処理物表面に必要以上の厚さの酸化物層を形成させてしまった場合には、引き続き行われる窒化処理工程でNHの分解率が上がったとしてもその酸化物層を還元できない可能性があるため、処理温度、ガス組成、時間等を特に被処理物の材質に合わせて最適化する必要がある。したがってこの工程で形成させる酸化物層の厚さは鋼種等によっても異なるが通常1μm以下であることが好ましい。
このとき、例えば還元性のガスであるNHガスの供給量を減らすことなくそのままの流量で供給しつつ酸化源ガスを導入した場合には表面の酸化反応が十分に進行せず十分な効果は得られない。また酸化源ガスで行う酸化処理を必要以上に行えば、その後引き続き行われる窒化処理において炉壁等の表面の還元が進むのにしたがってNHの分解率は本来の状態となるため、酸化処理時に形成させた酸化物層を十分に還元させることができなくなるため、逆に厚い酸化物層が被処理物表面に残存し逆効果となる上、均一な窒素化合物層は得られるものの、目的としている窒素化合物層厚さを得るためのコントロールが難しくなる場合がある。
また、窒素化合物層厚さのコントロールのためには、酸化処理によって炉内のNH分解率を上昇させる効果を一時的に留める必要もあるためその時間等はそれぞれの処理によって適正化する必要がある。つまり一旦最表面に不可避的に形成するおおよそ1μm以下の薄い酸化物層を還元することが可能となるよう、一時的にNHの分解率を上昇させる程度の範囲で実施することが好ましい。
したがって、炉内酸化処理は、次の二次窒化処理において一時的にNHの分解率を向上させる程度に炉壁や治具を含めた炉内を酸化させれば足りるのであり、その趣旨において酸化源ガスの供給量や処理時間を適宜に設定するのが好ましい。炉内酸化工程の好適条件については後述する。
またこの工程は必ずしもフッ化物膜除去工程の直後に行う必要は無く、窒化処理工程の途中に実施することも可能であり、この酸化処理工程後に行われる窒化処理工程が、最表面を還元し適切な窒素化合物層を形成させるのに十分な窒化時間を擁していれば構わない。
(4)窒化工程(二次窒化処理)
上記酸化工程後に行われる窒化工程ではNHを含む還元性の窒化用ガスを用いる。フッ化処理の効果により、寸法精度に大きな影響を与える窒素化合物層を含む窒化層の厚さの制御は処理温度を問わず安定しているため、処理温度に大きな制約は無いが、数μmレベルの寸法精度を要求されるような部品の窒化処理の場合には、材料自体の寸法変化も考慮すると550℃以下が望ましい。
一方処理温度が低すぎる場合には、酸化処理の適用によって分解率が上昇したとしても、もともとの分解率が低いために酸化物層の還元が十分に進みづらいことから400℃以上が好ましい。
また、そのガス組成についてはNHガスを含んでいることは条件だが、例えばCOやCHなどの浸炭性のガスを含んでいる場合でも表面の酸化物が還元できる雰囲気であれば特に限定されるものではなく、特に大きな面圧が負荷される部品であれば、窒素化合物層の靭性を考慮し窒素源だけではなく炭素源も添加する方が耐摩耗性の向上に寄与する場合があるため、使用用途に応じて適切に判断することが望ましい。
本発明の窒化方法は、例えば、図1に示す熱処理炉によって行うことができる。
この熱処理炉は、加熱ヒーター2を備えた炉体本体1に、窒化ガスや浸炭性ガス等のプロセスガスを供給するプロセスガス供給ポート3と、炉内に導入されたプロセスガスを攪拌する攪拌ファン6および攪拌ファン用モーター5と、排ガスを排出する排ガス排出ポート4とが設けられている。
上記プロセスガス供給ポート3は、RXガス等の浸炭性ガスを発生するガス変性装置11、アンモニアガスボンベ14、窒素ガスボンベ13、NFガスボンベ12が接続され、それぞれプロセスガスとして変性ガス、アンモニアガス、窒素ガス、NFガスを供給するようになっている。上記ガス変性装置11には、炭素源となるエンリッチガスとしてプロパンガスを供給するプロパンガスボンベ15とエアコンプレッサー16が接続されており、そこからは上記プロセスガス供給ポート3へも酸化処理用の空気を供給することが可能な構造となっている。図において、7はガス供給ライン元弁、8は空圧作動弁、9は減圧弁、10はガス流量計、17は排ガス除外装置である。
上記熱処理炉を用い、NFガスと窒素ガスを供給してフッ化処理を行い、NH単独もしくはNHとNを含む還元性ガスを供給してフッ化物膜の還元処理を行い、その後NHガスの供給量を減少するか供給を停止するとともに空気と窒素の混合ガスを供給して酸化処理を行い、その後NHガス単独もしくはNHガスとRXガスや窒素ガス等との混合ガスを供給して窒化処理を行う。
ここでRXガスとは、N、H、CO、CO等の混合ガスで、そのうち浸炭性のあるCOガスを20〜25容量%含んだガスである。
すなわち、まず、被処理物を炉内に配置し、昇温中の酸化を防止するため炉内雰囲気をN等で十分に置換した後、200〜580℃好ましくは200〜400℃に加熱する。炉内の被処理物が均熱された時点でNF等を含むガスを炉内に導入し被処理物表面にフッ化物膜を形成させるフッ化処理を行う。
次にNFガスの供給を停止し、300〜500℃に加熱した炉内にNHを主体とする還元性のガスを導入し、上記フッ化処理を実施した被処理物に対してフッ化物膜の還元処理を行う。
フッ化処理で表面に形成されたフッ化物は特に300〜500℃の低温ではHガスであってもほとんど還元されないが、NHの分解によって発生する活性なHによって容易に還元され表面から除去される。これによって活性な金属表面が露出する。そしてこの活性な金属表面にNHの分解によってHとともに発生するNが鋼材中へ侵入、拡散し窒化層を形成していく。
このとき、フッ化物膜が除去された活性な金属表面は窒素の侵入が容易になっているだけではなく、雰囲気中に存在する不純物酸素や水蒸気等の酸化性ガスで酸化物層を形成しやすい状態になっており、通常雰囲気中の酸化性ガスの存在量は微量であるため厚くは成長しないものの最表面に酸化物層を同時に形成してしまう。
このとき形成する酸化物層は通常1μm以下の非常に薄いものではあるが、特にステンレス鋼等ではその後行う通常の窒化処理工程ではNHの分解率が高い570℃程度の窒化処理を行った場合でも完全に還元することができない。
しかし、次の炉内酸化工程において、一旦NHガスの供給量を減少するか供給を止め、炉内に窒素ガスで希釈した空気を任意の時間供給し炉内を適度な酸化状態とすることによって、空気の供給を止めて再びNHを含む窒化用の還元性ガスを導入したときに、NHの分解率が炉内酸化工程の前の分解率よりも上昇することから、表面の酸化物層が還元され最表面をFeN、FeNを主体とした窒素化合物とすることが可能となる。
炉内酸化工程の時間については酸素濃度を1〜10%とした場合で5分〜30分程度とすることが望ましい。この炉内酸化工程の時間が短すぎる場合には次工程でのNHの分解率の上昇が不十分となり、また長すぎる場合には被処理物表面にさらに厚く酸化物層が形成してしまいその酸化物層が次工程の窒化処理で還元しきれずに逆効果となってしまうからである。
また炉内酸化工程の温度については300〜570℃とすることが望ましい。温度が300℃未満では特に耐熱性の高い炉材や治具材の酸化がほとんど起こらずNHの分解率の向上に寄与する触媒性の向上が期待できないからであり、570℃を超える場合には適度な酸化状態とする際の制御が難しくなるからである。
この炉内酸化工程はフッ化物膜還元工程の直後に行っても良いが、窒化処理工程の途中に実施することも可能である。ただし、酸化物層を還元する時間がある程度必要なことから、少なくとも炉内酸化工程後の窒化処理工程は30分以上確保することが望ましい。
上記炉内酸化処理を実施した後、NHを含む窒化ガス雰囲気として目的とする窒素化合物層厚さや拡散層深さを得るために400〜570℃に加熱保持もしくは昇温して必要な時間保持することで窒化処理が行われる。
フッ化処理の効果により均一な窒素化合物層を形成させることは比較的容易であるが、寸法精度の厳しい部品に対しては、寸法精度に大きな影響を与える窒素化合物層の成長速度が速くなり過ぎないように、窒化温度をあまり高くせず、かつ必要以上にNHの分解率が高くなり過ぎないよう雰囲気組成等のコントロールをすることも重要となる。
また表面の窒素化合物層は硬度が高く耐摩耗性、耐焼付き性に優れるものの、脆い性質を持っていることから、高い面圧が負荷される場合には特にRXガス等の添加によって、耐摩耗性だけではなくある程度の靭性を有した窒化層とすることが望ましい。
このように本発明は、フッ化処理を実施し、材料表面に形成している緻密な酸化皮膜を除去した後、そのフッ化物膜を還元によって除去し、さらにフッ化物膜還元工程の後、窒化処理工程終了30分以上前の範囲内で炉内酸化工程を実施することによって、その後行われる窒化処理工程でのNHの分解率を向上させることとなり、最表面がFeN、FeNを主体とした窒素化合物であり、かつ均一な厚さの窒化層を得ることが可能となる。
上記の処理を適正に行うことによって、その最表面は平均粒径が2μm以下の窒素化合物粒子で覆われる。その表面は灰白色もしくはやや光沢のある白色となり、酸化処理を加えないものと比較して面粗度の改善が見られ、かつ表面には実質的に酸化物層が存在せずに寸法精度も良好である。このため、後処理を必要としない場合が多いと考えられるが、特に表面の面粗度が重要な部品については、窒化処理後バレル処理やバフ研磨などによってさらに面粗度を向上させることも可能である。この場合にも最表面に研磨除去され易い酸化物層を有している場合とは異なり、それらの処理を実施したとしても、その処理に伴う寸法変化が極めて小さいことから、寸法精度の管理が厳しいベーン部材のような部品に対してもそのような処理を容易に適用することが可能である。
図2および図3は、本発明の金属の窒化方法が適用可能なベーン部材が用いられる回転式圧縮機の縦断面図と横断面図である。
回転式圧縮機は、密閉容器21内に電動機部22と圧縮機構部23が配設されている。シャフト28により電動機部22と圧縮機構部23とが直結され、シャフト28は主軸受24と副軸受25により支持されている。
圧縮機構部23では、シリンダ26内にローラ27が配設され、そのローラ27にはシャフト28と偏心部31が装入され、シャフトの回転によりローラ27がシリンダ26内を偏心回転する。また、ベーン部材32は、シリンダ26のベーン溝33に摺動自在に挿入され、バネ34に押圧されてその先端部がローラ27の外周面に摺接するとともに、ローラ27の偏心回転にともないベーン溝33内を摺動する。
したがって、ベーン部材32とローラ27、およびベーン部材32とベーン溝33とが相対的摺動関係にある。この摺動点での摺動は、吸入ガス中に混入してくるオイルにより潤滑されるが、その量は少なく、摺動点における潤滑状態は金属接触に近い境界潤滑状態となり、冷媒に潤滑性が望めない場合には厳しい摺動条件となる。
そして、上記ベーン部材32は、ベーン溝33と摺動する厚み方向の寸法精度を極めて厳しく管理する必要がある。
上記ベーン部材32は、Crを1%以上含む鉄系材料を母材とするのが好ましい。具体的には、マルテンサイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス等のステンレス材料、高速度工具鋼等を用いることができる。
そして、上記ベーン部材は、上記母材を所定のベーン形状に形成したのち、上述した本発明の窒化処理方法を施すことにより、表層部に窒化による窒素拡散層と窒素化合物層とが形成され、窒化後の表面には実質的に酸化物層が存在しないものとなる。
すなわち、上記ベーン部材32は、表層部に窒素が拡散固溶した窒素拡散層が形成され、さらにその表面部に窒素化合物層が形成され、上記窒素化合物層の最表面は平均粒径が2μm以下の窒素化合物粒子で覆われているとともに、窒素化合物の化合物粒子と粒界による凹凸が存在し、さらに上記最表面には実質的に酸化物層が存在しないものとなる。
すなわち、ベーン部材32の表面には、窒化処理により、表層部の窒素拡散層と、さらに表面部の窒素化合物層とが形成され、上記窒素化合物層は窒化後、機械的・化学的・電気化学的な研磨等を実施しない状態で、その最表面には皮膜状の酸化物層が実質的に形成されていない。
このときの、上記最表面のOのX線強度がNのX線強度の1/5以下程度であるのが好ましい。また、上記最表面のOのX線強度は、NのX線強度の1/6以下であればなお好ましく、さらに好ましいのは1/8以下であり、最も好ましいのは1/10以下である。この酸素は、上記窒素化合物層中に不可避的に固溶する酸素分、および表面に不可避的に若干程度生じる酸化物による酸素濃度であり、表面には皮膜状の酸化物層は実質的に形成されていないのである。
つぎに、実施例について説明する。
高速度工具鋼SKH51素材を焼入れ、焼戻しし硬度HRC68に調質した材料を使用し、15×15×3mmに加工した後その表面をエメリー紙♯2000で約Rz1.0程度に研磨した。
これを図1に示す炉1内に設置した後、実施例(a)として320℃に昇温、NFガスを炉1内に導入し15分保持した後、500℃に昇温、NHガスとNガスが1:1の比率のガス雰囲気で30分保持した後、NHガスの供給を止め、空気とNガスが0.5:9.5の比率のガス雰囲気で10分保持し、その後空気の供給を止めるとともにNHガスとNガスが1:1の比率で3時間保持した試験片を5枚作成した。
また比較例(b)として実施例(a)と同一条件のフッ化処理を実施し、500℃に昇温した後NHガスとNガスが1:1の比率のガス雰囲気で3時間30分保持した試験片も5枚作成した。
これらの試験片を、窒化後、およびその窒化品の15×15の面を表面に光沢が出るまでバフ研磨したときの、窒化処理前との板厚(3mm部分)の差を比較測定した結果を図4に示す。断面組織の検査結果から実施例(a)が約5μm、比較例(b)が約4.5μmのほぼ均一な厚さの窒素化合物層が形成している。
図4の結果から明らかなように比較例(b)では実施例(a)と比較して膨張量のバラツキが大きく、バフ研磨後との寸法差も大きい。比較例(b)の試料の窒化処理後の外観色は黒色であり、断面観察からも最表面に確認される0.5〜1.0μm程度の厚さの酸化物層の影響によるものと考えられる。
一方実施例(a)の窒化後の外観色は光沢のある白色であり、窒化後の寸法バラツキ、バフ研磨後の寸法差の値とも非常に小さく、窒素化合物層の厚さバラツキが小さいだけではなく、その表面もバフ研磨によっても除去されづらい安定した窒素化合物層となっていることが分かる。
マルテンサイト系ステンレス鋼SUS440C素材を焼入れ、焼戻しし硬度HRC40に調質した材料を使用し、所定のベーン形状に加工した後、表面粗度を約Rz0.8程度となるようバレル処理を実施し、所定の洗浄を行い試験片とした。
これを図1に示す炉1内に設置した後、実施例(c)として320℃に昇温、NFガスを炉1内に導入し20分保持した後、520℃に昇温、NHガスとNガスが1:1の比率のガス雰囲気で30分保持した後、NHガスの供給を止め、空気とNガスが1:9の比率のガス雰囲気で10分保持し、その後空気の供給を止めるとともにNHガスとRXガスが1:1の比率で3時間保持した試験片を5枚作成した。
また比較例(d)、(e)として、フッ化処理を実施せずに、520℃、570℃の各温度でNHガスとRXガスが1:1の比率のガス雰囲気で3時間保持した試験片も各5枚作成した。
これらの試験片の断面組織を観察し、その窒素化合物層厚さの平均値を測定した結果を図5に示す。
比較例(d)では比較的処理温度が低いために表面の窒素化合物層厚さは薄く、平均的な厚さの部位の値を図には示したが、窒素化合物層が形成していない部分も多く見られた。これは処理温度が低いために材料表面に形成している酸化皮膜の影響によって窒素の侵入が不均一になっていることを示唆しており、製品性能にバラツキが出る可能性が高いことを示唆している。
また比較例(e)では処理温度が高めであるにもかかわらず窒素化合物層厚さのバラツキが非常に大きく、また処理温度が高いために材料自体の歪の発生も大きくなることが予想されるため、通常のガス軟窒化処理のような方法では安定した寸法精度を得ることが非常に難しいことを示唆している。
一方実施例(c)では窒素化合物層が試験片全面に渡って均一に形成しており、さらに厚さのバラツキも非常に小さいことから、例えば厳しい寸法精度を要求される後加工を実施しないベーンのような部品に対しても十分に適用できる処理であることを示している。
本発明は、鋼材の窒化処理に使用することができ、特に高い摺動特性に加えて厳しい寸法精度を要求される場合に好適に利用できる。
処理炉の一例を示す断面図である。 本発明の金属の窒化方法が適用可能なベーン部材が使用される回転式圧縮機の縦断面図である。 上記回転式圧縮機の横断面図である。 SKH51製試験片の窒化前後、バフ研磨後の寸法変化の測定結果である。 SUS440C製試験片の化合物層厚さの測定結果である。
1 炉体本体
2 加熱ヒーター
3 プロセスガス供給ポート
4 排ガス排出ポート
5 攪拌ファン用モーター
6 攪拌ファン
7 ガス供給ライン元弁
8 空圧作動弁
9 減圧弁
10 ガス流量計
11 ガス変性装置
12 NFガスボンベ
13 窒素ガスボンベ
14 アンモニアガスボンベ
15 プロパンガスボンベ
16 エアコンプレッサー
17 排ガス除外装置
21 密閉容器
22 電動機部
23 圧縮機構部
24 主軸受
25 副軸受
26 シリンダ
27 ローラ
28 シャフト
31 偏心部
32 ベーン部材
33 ベーン溝
34 バネ

Claims (3)

  1. フッ素源ガスを含むガス雰囲気中に被処理物を加熱保持してその表面にフッ化物膜を生成させるフッ化処理の後、窒素源ガスを含むガス雰囲気中に上記被処理物を加熱保持してその表面から窒素を侵入させて窒化層を形成させる窒化処理工程を行う金属の窒化方法であって、上記窒化処理工程の途中に、一時的に窒素源ガスの供給量を減少するか供給を停止して酸化源ガスを供給することを特徴とする金属の窒化方法。
  2. フッ素源ガスを含むガス雰囲気中に被処理物を加熱保持してその表面にフッ化物膜を生成させるフッ化処理工程と、還元用ガス雰囲気中で被処理物を加熱保持して上記フッ化物膜を還元するフッ化物膜還元工程と、上記還元用ガスの供給量を減少するか供給を停止して酸化用ガス雰囲気で炉内を酸化する炉内酸化工程と、上記酸化用ガスの供給を停止して還元性の窒素源ガス雰囲気中に上記被処理物を加熱保持してその表面から窒素を侵入させて窒化層を形成させる窒化処理工程とを含むことを特徴とする金属の窒化方法。
  3. 上記フッ化物膜還元工程と併せて、窒素源ガスを含む雰囲気中で被処理物を加熱保持して表面から窒素を侵入させる一次窒化処理を実施し、その後上記炉内酸化工程と上記窒化処理工程とを行う請求項2記載の金属の窒化方法。
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