JP2004043962A - マルエージング鋼の表面硬化処理方法およびその方法によって製造されたベルト式無段変速機用のベルト - Google Patents

マルエージング鋼の表面硬化処理方法およびその方法によって製造されたベルト式無段変速機用のベルト Download PDF

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Shinji Asano
浅野 晋司
Ikuo Tani
谷 意公男
Yoichi Watanabe
渡辺 陽一
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Abstract

【課題】マルエージング鋼の疲労強度と耐摩耗性とを向上し得る、マルエージング鋼の表面硬化処理方法およびその方法によって表面硬化処理されてなるベルト式無段変速機用のベルトを提供する。
【解決手段】時効処理および窒化処理を経てマルエージング鋼の表面を硬化するマルエージング鋼の表面硬化処理方法において、まず、窒化処理の前処理として、酸化雰囲気中で330℃〜450℃の酸化処理温度で、かつ、15分未満の酸化処理時間で酸化処理し、主としてFeの層である酸化物層を生成する。その後に、窒化雰囲気中で430℃〜480℃の窒化処理温度で窒化処理して窒化層を形成する。
【選択図】      図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マルエージング鋼の表面硬化処理方法およびその方法によって製造されたベルト式無段変速機用のベルトに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境保全の立場から、自動車の分野においては、低燃費や低公害などの要請が高まっている。かかる要請に応えるべく、トランスミッションに関しては、動力の伝達ロスを低減するために、金属ベルトを用いて動力を伝達するベルト式無段変速機の採用が増えている。金属ベルトは、その用途から、高い疲労強度、耐摩耗性および引張り強度が要求されため、高引張り強度、高靭性を兼ね備える超強力鋼として知られるマルエージング鋼から形成されている。金属ベルトの場合にはさらに高い疲労強度と耐摩耗性とを満たすことが望まれるため、マルエージング鋼には、表面硬化処理として、時効処理および窒化処理が施されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開2001−49347号公報
【特許文献2】
特開2000−87214号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
窒化され難い18Ni系マルエージング鋼を適正に窒化するために、時効処理や窒化処理は、480〜520℃の比較的高い温度で施されている(特許文献1参照)。しかしながら、前記温度域の上限温度近傍では、溶体化によって形成されたマルテンサイトの一部がオーステナイトに逆変態する場合がある。この逆変態オーステナイトは、引張り強度や疲労強度の低下に必ずつながるとは言えないが、多量に形成されると強度の低下を招くことが懸念される。
【0005】
窒化温度を下げるために、窒化処理の前に、マルエージング鋼の表面を活性化する処理が施されている。例えば、フッ素を含む反応ガス雰囲気中にマルエージング鋼を加熱保持し、マルエージング鋼の表面にフッ化物膜を生成し、鋼表面の酸化皮膜を還元している(特許文献2参照)。このような活性化処理によれば、窒化温度を下げることはできるものの、窒化表層に白色の化合物層つまり白色層が生成されやすくなる。白色層は脆弱であるので、窒化表層が破壊・剥離したり、疲労強度が低下したりする一要因となる虞がある。また、窒化処理の前処理として化学的処理を行う場合には、使用済みの廃液や廃ガスを安全に後処理するための設備をさらに必要とし、フッ素ガスなどによる炉材の損傷も進みやすいことから、コストの増加が避けられないという問題もある。
【0006】
前記特許文献1には、時効硬度が最大値未満になる範囲つまり亜時効で時効処理を行い、その後の窒化処理により時効硬度を最大値に到達せしめる手法が開示されている。この手法は、窒化層の硬さを向上する点では有効であるが、時効処理をどの程度まで進めるか、つまり亜時効のレベルによっては、窒化処理の際にチタン、ニッケル、アルミニウムの窒化物が多量に分散析出して、引張り強度の低下を招くという問題がある。
【0007】
本件発明者らは、上記従来技術に伴なう課題を解決し、ベルト式無段変速機用のベルトに用いて好適な、表面硬化処理が施されたマルエージング鋼を提供するために鋭意研究した結果、本発明に係るマルエージング鋼の表面硬化処理方法を完成するに至った。また、ベルト式無段変速機用のベルトに用いる材料は、窒化表層に白色層が発生しておらず、800Hv以上の表面硬さ、および、1950MPa以上の引張り強度を備えていれば、製品として十分な機能を発揮することが判明した。
【0008】
そこで、本発明の目的は、マルエージング鋼の疲労強度と耐摩耗性とを向上し得る、マルエージング鋼の表面硬化処理方法およびその方法によって表面硬化処理されてなるベルト式無段変速機用のベルトを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明は、下記の手段により達成される。
【0010】
(1)時効処理および窒化処理を経てマルエージング鋼の表面を硬化するマルエージング鋼の表面硬化処理方法において、
窒化処理の前処理として、酸化雰囲気中で330℃〜450℃の酸化処理温度で、かつ、15分未満の酸化処理時間で酸化処理して酸化物層を生成し、
その後、窒化雰囲気中で430℃〜480℃の窒化処理温度で窒化処理して窒化層を形成することを特徴とするマルエージング鋼の表面硬化処理方法。
【0011】
(2)前記酸化物層は、主としてFeの層であることを特徴とする上記(1)に記載のマルエージング鋼の表面硬化処理方法。
【0012】
(3)前記時効処理は、窒素ガスまたはアルゴンガス雰囲気中で450℃〜490℃の時効処理温度で、かつ、
P=T(20+logt)×10−3
ここに、T:時効処理温度(K)、t:時効処理時間(hr)
で示される時効パラメータが15.1〜15.3となる範囲で時効処理時間を設定して加熱することを特徴とする上記(1)に記載のマルエージング鋼の表面硬化処理方法。
【0013】
(4)上記(1)に記載の方法によって表面硬化処理されてなるベルト式無段変速機用のベルト。
【0014】
(5)上記(3)に記載の方法によって表面硬化処理されてなるベルト式無段変速機用のベルト。
【0015】
(6)表面に脆弱な白色の化合物層を形成させないで、800Hv以上の表面硬さ、および、1950MPa以上の引張り強度を有してなる上記(4)または(5)に記載のベルト式無段変速機用のベルト。
【0016】
【発明の効果】
請求項1、2に記載の本発明によれば、マルエージング鋼の疲労強度と耐摩耗性とを向上できる。また、窒化処理の前処理として化学的処理を行わないため、使用済みの廃液や廃ガスを安全に後処理するための設備を必要とせず、炉材の損傷も進み難い。したがって、窒化処理の前処理として化学的処理を行う場合に比較して、処理コストの低減を図ることができる。
【0017】
請求項3に記載の本発明によれば、時効パラメータが15.1〜15.3となる範囲で時効処理時間を設定することにより、時効処理における亜時効レベルを、その後の窒化処理により時効硬度を最大値に確実に到達せしめるレベルに設定でき、窒化処理後の引張り強度の低下を招くことがない。
【0018】
請求項4〜請求項6に記載の本発明によれば、用途上から高い疲労強度、耐摩耗性および引張り強度が要求されるベルト式無段変速機用のベルトを提供できる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(第1の実施形態)
18Ni系マルエージング鋼の表面は、時効処理および窒化処理を経て硬化される。特に、窒化処理の前処理として、酸化雰囲気中で330℃〜450℃の酸化処理温度で、かつ、15分未満の酸化処理時間で酸化処理して酸化物層を生成してある。そして、その後に、窒化雰囲気中で430℃〜480℃の窒化処理温度で窒化処理して窒化層を形成している。
【0021】
酸化処理して生成される酸化物層は、主としてFeの層である。生成された酸化物層が窒化を促進するのは、マルエージング鋼の表面皮膜の組成が変化してアンモニアガスが解離されやすくなり、さらに解離によって生じる窒素が皮膜中を拡散しやすくなるためであると考察される。その一方、酸化物層が厚すぎると、窒化処理後にも酸化物が多く残り、窒化処理後の引張り強度が低下する。
【0022】
酸化処理は、一般的な大気雰囲気炉にて行うことができる。酸化処理は窒化処理の前に完了している限りにおいて、時効処理に連続的に行ってもよいが、窒化炉の前に酸化炉を配置して行うのが量産性の点で優れている。
【0023】
窒化処理は、装入側にフレームカーテンを用いた炉では、装入の際に、すすが付着して、窒化ムラの原因となる。そこで、窒化処理は、フレームレスの窒化炉にて行うことが好ましい。また、窒化処理は、アンモニアガスを用いたガス窒化またはガス軟窒化である。窒化雰囲気としては、純アンモニアガス、アンモニアガス+窒素ガス、アンモニアガス+RXガスなどが使用される。
【0024】
(実施例)
18Ni系マルエージング鋼の試料片を溶体化処理した後、真空炉で480℃にて2時間の時効処理を行った。時効処理後に、大気雰囲気炉で330℃〜450℃の酸化処理温度で、かつ、15分未満の酸化処理時間で保持して酸化処理し、主としてFeの層である酸化物層を生成した。
【0025】
酸化処理を終えた試料片を、430℃〜480℃の窒化処理温度に加熱したピット炉にて、窒化処理を実施した。窒化処理は、窒化雰囲気として、アンモニアガス100%で行った。窒化処理時間を35分〜80分とし、窒化後、窒素ガス雰囲気中で冷却を行った。
【0026】
(比較例)
酸化条件(酸化処理温度および酸化処理時間)および窒化条件(窒化処理温度および窒化処理時間)を変え、その他の工程は実施例と同一条件にして、試料片を窒化処理した。
【0027】
(検討)
実施例および比較例における酸化条件および材質調査結果の一例が下記の表1に示される。窒化処理の条件が、窒化処理温度450℃、窒化処理時間40分である場合を示している。材質の調査は、ビッカース硬さ試験による窒化後の表面硬さと、引張り強度とについて行った。
【0028】
【表1】
Figure 2004043962
【0029】
図1は、酸化処理温度と窒化後の表面硬さとの関係を示す図、図2は、酸化処理温度と窒化後の引張り強度との関係を示す図、図3は、酸化処理温度が430℃の場合における、酸化処理時間と窒化後の引張り強度との関係を示す図である。また、図4(A)(B)は、窒化処理後の表面のX線回折結果を示す図であり、同図(A)は、酸化処理温度430℃、酸化処理時間15分で酸化処理を行った試料片についての結果であり、同図(B)は、酸化処理温度430℃、酸化処理時間5分で酸化処理を行った試料片についての結果である。
【0030】
図1を参照して、酸化処理温度が330℃以上であれば、主としてFeの層である酸化物層を窒化処理を促進し得る厚さで生成することができ、窒化処理後に800Hv以上の表面硬さを得ることができた。
【0031】
一方、酸化処理温度が330℃未満の温度域では、主としてFeの層である酸化物層を窒化処理の促進に貢献し得る十分な厚さにまで生成できず、窒化処理後の表面硬さが800Hv未満となった。
【0032】
図2を参照して、酸化処理温度が450℃より高い温度域では、窒化処理後の引張り強度が低下した。これは、生成された酸化物層が厚すぎて、窒化処理後にもFeが多く残るためであると考えられる。
【0033】
図3を参照して、酸化処理温度が430℃であっても、酸化処理時間が10分を超えるにつれて、窒化処理後の引張り強度が低下する傾向にある。これは、上記の理由と同様に、生成された酸化物層の厚さが厚くなるのに伴ない、窒化処理後に残るFeが多くなる傾向にあるためであると考えられる。
【0034】
図4(A)に示されるX線回折の結果から、酸化処理温度430℃、酸化処理時間15分で酸化処理を行った場合には、窒化処理後にも、Feが残っていることが確認された。図4(B)に示されるX線回折の結果から、酸化処理温度430℃、酸化処理時間5分で酸化処理を行った場合には、FeNの高いピークが見られ、窒化反応が進行していることが確認できた。
【0035】
実施例および比較例における窒化条件および材質調査結果の一例が下記の表2に示される。酸化処理の条件が、酸化処理温度430℃、酸化処理時間10分である場合を示している。材質の調査は、試料断面の組織観察によって、白色層の発生の有無と、窒化深さの計測とを行った。さらに、ビッカース硬さ試験による窒化後の表面硬さを測定した。
【0036】
【表2】
Figure 2004043962
【0037】
表2を参照して、窒化処理温度が430℃〜480℃であれば、窒化表層に白色層が発生せず、かつ、窒化処理後に800Hvを超える900Hv以上の表面硬さを得ることができた。
【0038】
一方、酸化処理による表面活性化を窒化処理前に行った場合(酸化処理温度430℃、酸化処理時間10分)において、窒化処理温度が430℃未満の温度域、例えば、窒化処理温度が420℃の場合には、28μmの窒化深さを得るために、110分の窒化処理時間が必要であった。窒化処理時間が長くなると、高い窒化ポテンシャルの下にマルエージング鋼が比較的長時間晒されることから、窒化表層に白色層が発生した。
【0039】
また、酸化処理による表面活性化を窒化処理前に行った場合(酸化処理温度430℃、酸化処理時間10分)において、窒化処理温度が480℃より高い温度域では、酸化処理による表面活性化を窒化処理前に行わなくても、窒化処理を施すことは可能である。しかしながら、窒化ポテンシャルが高くなるのに伴ない、窒化表層に白色層が発生しやすくなり、窒化処理温度500℃、窒化処理時間30分の窒化処理を行ったところ、窒化表層に白色層が発生した。
【0040】
このような白色層の発生は、窒化表層が破壊・剥離したり、疲労強度が著しく低下したりする一要因となるので、必ず回避しなければならない現象である。
【0041】
以上の考察により、窒化表層に白色層が発生せず、800Hv以上の表面硬さ、および、1950MPa以上の引張り強度を満たすマルエージング鋼の表面硬化処理のためには、窒化処理の前処理として、酸化雰囲気中で330℃〜450℃の酸化処理温度で、かつ、15分未満の酸化処理時間で酸化処理して主としてFeの層である酸化物層を生成し、その後に、窒化雰囲気中で430℃〜480℃の窒化処理温度で窒化処理して窒化層を形成することが適当であることが明らかになった。このようにして表面硬化処理されたマルエージング鋼は高い疲労強度と耐摩耗性とを備えており、ベルト式無段変速機用のベルトに用いて好適である。
【0042】
また、窒化処理の前処理として化学的処理を行わないため、使用済みの廃液や廃ガスを安全に後処理するための設備を必要とせず、炉材の損傷も進み難い。したがって、窒化処理の前処理として化学的処理を行う場合に比較して、処理コストの低減を図ることができる。
【0043】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、時効処理を改変した点で、第1の実施形態と相違する。時効処理後に行う酸化処理および酸化処理後に行う窒化処理は、第1の実施形態と同じであるので説明は省略する。
【0044】
第2の実施形態における時効処理は、時効硬度が最大値未満になる範囲つまり亜時効レベルで行っており、窒素ガスまたはアルゴンガス雰囲気中で450℃〜490℃の時効処理温度で、かつ、
P=T(20+logt)×10−3
ここに、T:時効処理温度(K)、t:時効処理時間(hr)
で示される時効パラメータが15.1〜15.3となる範囲で時効処理時間を設定して加熱している。時効処理は、真空炉を用い0.2Torr以下の減圧下で行うのが好ましい。
【0045】
上記のように時効処理時間を設定することにより、時効処理における亜時効レベルを、その後の窒化処理により時効硬度を最大値に確実に到達せしめるレベルに設定でき、窒化処理後の引張り強度の低下を招くことがない。
【0046】
なお、上記の時効パラメータは、材料による定数を20としたラーソン・ミラーパラメータを用いたものである。
【0047】
(実施例)
18Ni系マルエージング鋼の試料片を溶体化処理した後、亜時効レベルの時効処理を行った。時効処理は、真空炉を用い0.2Torr以下の減圧下で窒素ガス雰囲気中で450℃〜490℃の時効処理温度で、かつ、
P=T(20+logt)×10−3
ここに、T:時効処理温度(K)、t:時効処理時間(hr)
で示される時効パラメータが15.1〜15.3となる範囲で時効処理時間を設定して加熱した。
【0048】
時効処理後に、大気雰囲気炉で430℃の酸化処理温度で、かつ、5分の酸化処理時間で保持して酸化処理し、主としてFeの層である酸化物層を生成した。
【0049】
酸化処理を終えた試料片を、450℃の窒化処理温度に加熱したピット炉にて、窒化処理を実施した。窒化処理は、窒化雰囲気として、アンモニアガス100%で行った。窒化処理時間を40分とし、窒化後、窒素ガス雰囲気中で冷却を行った。
【0050】
(比較例)
時効条件(時効処理温度、時効処理時間および時効パラメータ)を変え、その他の工程は実施例と同一条件にして、試料片を酸化処理および窒化処理した。
【0051】
(検討)
実施例および比較例における時効条件および材質調査結果の一例が下記の表3に示される。材質の調査は、ビッカース硬さ試験による窒化後の表面硬さと、引張り強度とについて行った。
【0052】
【表3】
Figure 2004043962
【0053】
図5は、時効パラメータと窒化後の表面硬さとの関係を示す図、図6は、時効パラメータと窒化後の引張り強度との関係を示す図である。
【0054】
図5および図6を参照して、時効パラメータPが15.1より小さくなると、窒化処理の際にチタン系やニッケル系の窒化物が多量に分散析出し、窒化処理後の表面硬さは950Hv以上と高くなるが、引張り強度の低下をまねく。
【0055】
一方、時効パラメータPが15.3より高くなると、窒化処理後の引張り強度は十分なものの、チタン系やニッケル系の窒化物がほとんど分散析出しないため、窒化処理後の表面硬さは800Hvを超えてはいるものの、その低下率がきわめて急峻であり、窒化処理後の表面硬さが不安定になることが懸念される。このため、800Hv以上の表面硬さを安定して得るためには、時効パラメータPを15.3以下とすることが有効である。
【0056】
時効処理温度に関しては、時効処理温度が450℃よりも低い温度域では、時効パラメータを15.1〜15.3となる範囲にするためには、8時間を超える時効処理時間を設定しなければならず、生産性が阻害される。
【0057】
一方、時効処理温度が490℃よりも高い温度域では、組織観察の結果、逆変態オーステナイトの析出が認められた。この逆変態オーステナイトは、引張り強度や疲労強度の低下に必ずつながるとは言えないが、多量に形成されると強度の低下を招くことが懸念されるため、回避することが好ましい。18Ni系マルエージング鋼において、逆変態オーステナイトを析出させないためには、490℃以下とすることが有効である。
【0058】
時効処理温度450℃〜490℃の温度域で生成する酸化物は、深くかつ高濃度となるため、窒化処理後にも残留し、引張り強度の低下の一因となると考えられる。そこで、時効処理時の雰囲気を窒素ガスまたはアルゴンガス雰囲気とすることにより、時効処理時の酸化物の生成を防ぐことができる。真空炉を用い0.2Torr以下の減圧下で時効処理を行えば、時効処理時の酸化物の生成を一層防止できる。
【0059】
以上の考察により、800Hv以上の表面硬さ、および、1950MPa以上の引張り強度を満たすマルエージング鋼の表面硬化処理のためには、窒素ガスまたはアルゴンガス雰囲気中で450℃〜490℃の時効処理温度で、かつ、時効パラメータが15.1〜15.3となる範囲で時効処理時間を設定して加熱することが適当であることが明らかになった。その後、酸化処理および窒化処理を経て表面硬化処理されたマルエージング鋼は高い疲労強度と耐摩耗性とを備えており、ベルト式無段変速機用のベルトに用いて好適である。
【0060】
(ベルト式無段変速機用のベルトの製造)
次に、ベルト式無段変速機用のベルトの製造工程について説明する。図7は、ベルト式無段変速機用のベルトの製造工程の一実施形態を示す図である。
【0061】
まず、18Ni系マルエージング鋼の板をロール成形し、端部を溶接して円筒状のパイプを形成する。
【0062】
次に、このパイプを真空炉にて800〜830℃で15〜30分間保持して第一溶体化処理を行う。第一溶体化処理は、溶接時に析出した炭化物やぜい化相の溶体化のため実施する。
【0063】
次に、前記パイプを所定の幅に裁断し、リングを形成する。このリングには裁断によりエッジが発生しているため、バレル研磨にて面取りを行う。
【0064】
次に、所定の長さにするため、ロール圧延を行う。
【0065】
圧延後、リングを、第二溶体化処理として、水素ガスからなる還元性雰囲気にて810〜860℃の温度に昇温後、この温度で保持することなく、水素ガス冷却を行う。第二溶体化処理は、圧延された組織を微細化するため行う。
【0066】
次に、ストレッチを行い、所定の長さになるように周長を微調整する。
【0067】
窒化処理の際に表面の清浄度が低いと窒化ムラの原因となるため、時効処理前に超音波洗浄を行う。
【0068】
時効処理は、窒素ガスまたはアルゴンガス雰囲気中で450℃〜490℃の時効処理温度で、かつ、時効パラメータが15.1〜15.3となる範囲で時効処理時間を設定して加熱する。一例として、時効処理温度480℃、時効処理時間2時間、時効パラメータが15.3の条件にて時効処理を実施した。
【0069】
時効処理後に、窒化処理の前処理として、酸化雰囲気中で330℃〜450℃の酸化処理温度で、かつ、15分未満の酸化処理時間で酸化処理し、主としてFeの層である酸化物層を表面に生成する。一例として、大気雰囲気炉にて、酸化処理温度430℃、酸化処理時間5分の条件にて酸化処理を実施した。
【0070】
酸化処理後に、窒化雰囲気中で430℃〜480℃の窒化処理温度で窒化処理し、白色層が表層に発生しない窒化層を形成する。一例として、窒化炉にて、アンモニアガス100%の雰囲気中で窒化処理温度450℃、窒化処理時間40分の条件にて窒化処理を実施した。
【0071】
上記の工程を経て製造されたベルト式無段変速機用のベルトは、窒化表層に白色層が発生せず、800Hv以上の表面硬さ、および、1950MPa以上の引張り強度を備えている。
【0072】
本実施形態によれば、引張り強度が高い18Ni系マルエージング鋼に対する熱処理工法を改善することにより、18Ni系マルエージング鋼の疲労強度と耐摩耗性とをさらに高めることができ、用途上から高い疲労強度、耐摩耗性および引張り強度が要求されるベルト式無段変速機用のベルトに用いて極めて好適なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】酸化処理温度と窒化後の表面硬さとの関係を示す図である。
【図2】酸化処理温度と窒化後の引張り強度との関係を示す図である。
【図3】酸化処理温度が430℃の場合における、酸化処理時間と窒化後の引張り強度との関係を示す図である。
【図4】図4(A)(B)は、窒化処理後の表面のX線回折結果を示す図であり、同図(A)は、酸化処理温度430℃、酸化処理時間15分で酸化処理を行った試料片についての結果であり、同図(B)は、酸化処理温度430℃、酸化処理時間5分で酸化処理を行った試料片についての結果である。
【図5】時効パラメータと窒化後の表面硬さとの関係を示す図である。
【図6】時効パラメータと窒化後の引張り強度との関係を示す図である。
【図7】ベルト式無段変速機用のベルトの製造工程の一実施形態を示す図である。

Claims (6)

  1. 時効処理および窒化処理を経てマルエージング鋼の表面を硬化するマルエージング鋼の表面硬化処理方法において、
    窒化処理の前処理として、酸化雰囲気中で330℃〜450℃の酸化処理温度で、かつ、15分未満の酸化処理時間で酸化処理して酸化物層を生成し、
    その後、窒化雰囲気中で430℃〜480℃の窒化処理温度で窒化処理して窒化層を形成することを特徴とするマルエージング鋼の表面硬化処理方法。
  2. 前記酸化物層は、主としてFeの層であることを特徴とする請求項1に記載のマルエージング鋼の表面硬化処理方法。
  3. 前記時効処理は、窒素ガスまたはアルゴンガス雰囲気中で450℃〜490℃の時効処理温度で、かつ、
    P=T(20+logt)×10−3
    ここに、T:時効処理温度(K)、t:時効処理時間(hr)
    で示される時効パラメータが15.1〜15.3となる範囲で時効処理時間を設定して加熱することを特徴とする請求項1に記載のマルエージング鋼の表面硬化処理方法。
  4. 請求項1に記載の方法によって表面硬化処理されてなるベルト式無段変速機用のベルト。
  5. 請求項3に記載の方法によって表面硬化処理されてなるベルト式無段変速機用のベルト。
  6. 表面に脆弱な白色の化合物層を形成させないで、800Hv以上の表面硬さ、および、1950MPa以上の引張り強度を有してなる請求項4または請求項5に記載のベルト式無段変速機用のベルト。
JP2003110255A 2002-05-14 2003-04-15 マルエージング鋼の表面硬化処理方法およびその方法によって製造されたベルト式無段変速機用のベルト Pending JP2004043962A (ja)

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