JP2010222649A - 炭素鋼材料の製造方法および炭素鋼材料 - Google Patents

炭素鋼材料の製造方法および炭素鋼材料 Download PDF

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Yoshiji Aoi
芳史 青井
Hiromi Nakano
裕美 中野
Kenichi Kawabata
健一 川端
Hiroki Minami
裕樹 南
Kazuo Taneoka
一男 種岡
Muneo Sasaki
宗生 佐々木
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Abstract

【課題】 被覆層の剥離が起こりにくく、高強度かつ耐久性に優れた炭素鋼材料の製造方法および前記の優れた特性を有する炭素鋼材料を提供する。
【解決手段】 炭素鋼材を表面処理した炭素鋼材料の製造方法であって、前記炭素鋼材表面に窒化物ないし窒素拡散層を形成する窒化処理工程と、前記窒化処理後の炭素鋼材をバナジウムを含む溶融塩浴に浸漬し、前記窒化物ないし窒素拡散層をバナジウム窒化物およびバナジウム炭化物を含む被覆層とする溶融塩処理工程とを含むことを特徴とする炭素鋼材料の製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、炭素鋼材料の製造方法および炭素鋼材料に関する。
近年、自動車・機械産業等の分野では、小型化・軽量化を目的として高張力鋼等の難加工材が多く用いられている。これらを加工する金型や治工具においては、摩耗劣化の起こりにくい、高強度でかつ高耐久性の材料が求められている。前記金型や治工具には炭素鋼を用いることができるが、炭素鋼の表面硬度を向上させる技術として、溶融塩炭化物被覆法が知られている(例えば、特許文献1参照)。すなわち、V、Nb、Crなどの炭化物形成成分を溶解させたホウ酸またはホウ酸塩の溶融浴中に炭素鋼を浸漬すると、炭素鋼中の炭素が、前記溶融塩浴中の炭化物形成成分と結合した炭化物被覆層が、炭素鋼表面に形成される。前記炭化物被覆層の形成により、炭素鋼の表面硬度が向上する。溶融塩炭化物被覆法を採用すれば、表面硬度を高くすることが可能である。しかし、耐久性の点では、使用時に被覆層の剥離が発生しやすいといった問題があった。また、前記溶融塩浴による処理に先立ち、鉄基材料に窒化処理により窒化物層を形成しておき、この窒化物層にCrを拡散させる手法も検討されている(例えば、特許文献2参照)。この方法では、処理温度は500〜700℃程度であり、鉄基材料の表面に耐摩耗性、耐焼付性、耐酸化性、耐食性を付与することが開示されている。しかし、これらの方法によっても、求められる特性に対しては、必ずしも十分なものが得られているとは言えなかった。
特開平7−256332号公報 特開2000−144373号公報
そこで、本発明は、前記被覆層の剥離が起こりにくく、高強度かつ耐久性に優れた炭素鋼材料の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、前記の優れた特性を有する炭素鋼材料を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、本発明の炭素鋼材料の製造方法は、炭素鋼材を表面処理した炭素鋼材料の製造方法であって、前記炭素鋼材表面に窒化物ないし窒素拡散層を形成する窒化処理工程と、前記窒化処理後の炭素鋼材をバナジウムを含む溶融塩浴に浸漬し、前記窒化物ないし窒素拡散層をバナジウム窒化物およびバナジウム炭化物を含む被覆層とする溶融塩処理工程とを含むことを特徴とする。
また、本発明の炭素鋼材料は、前記本発明の炭素鋼材料の製造方法によって製造され、表面にバナジウム窒化物およびバナジウム炭化物を含む被覆層を有することを特徴とする。
本発明によると、炭素鋼の表面硬度を向上させるとともに、前記被覆層の剥離が起こりにくい、耐摩耗性などの耐久性に優れた炭素鋼材料を提供することができる。また、本発明の製造方法によると、前記被覆層において、表面側に炭化バナジウムが多く存在する傾斜組成被膜が生成する。また、前記被覆層直下の組織が微細化されることで靭性が向上し、さらに、ソフトニング層の形成が抑止された、耐久性に優れた炭素鋼材料を得ることができる。
図1は、表面処理を行った炭素鋼材の表面微小硬さ測定結果を示すチャートである。図1(a)は実施例1で得られた炭素鋼材料について、図1(b)は比較例1で得られた炭素鋼材についての測定結果を示すチャートである。 図2は、実施例1の溶融塩処理条件を示す説明図である。 図3は、実施例1で得られた炭素鋼材料試料の断面組織写真である。図3(a)は表面部、図3(b)は試料中心部(芯部)の断面組織写真である。 図4は、比較例1で得られた炭素鋼材試料の断面組織写真である。図4(a)は表面部、図4(b)は試料中心部(芯部)の断面組織写真である。 図5は、実施例1で得られた炭素鋼材料試料のGDS元素分析結果を示すチャートである。 図6は、比較例1で得られた炭素鋼材試料のGDS元素分析結果を示すチャートである。 図7は、実施例2で得られた炭素鋼材試料のGDS元素分析結果を示すチャートである。 図8は、実施例7で得られた炭素鋼材試料のGDS元素分析結果を示すチャートである。 図9は、実施例で得られた炭素鋼材試料の表面硬さを示すグラフである。
本発明の炭素鋼材料の製造方法において、前記炭素鋼材として、初期炭素濃度が0.35〜1.6質量%の範囲内である炭素鋼材を用いることが好ましい。
本発明の炭素鋼材料の製造方法において、前記窒化処理が、ガス圧力1.33×10〜1.01×10Pa(1〜760Torr)の範囲内、かつ、温度400〜600℃の範囲内で行われることが好ましい。
本発明の炭素鋼材料の製造方法において、前記バナジウムを含む溶融塩浴が、バナジウム合金、または、バナジウム酸化物とその還元剤を添加したホウ砂を含むことが好ましい。
本発明の炭素鋼材料の製造方法において、前記バナジウムを含む溶融塩浴の温度が800〜1100℃の範囲内であることが好ましい。
本発明の炭素鋼材料において、前記被覆層を有する炭素鋼材料が、炭素濃度が最表面から内部に向かって傾斜分布していることが好ましい。
つぎに、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載により制限されない。
本発明は、窒化処理技術と溶融塩処理技術とを融合することにより、炭素鋼材の高強度化および高耐久性を実現し、難加工材用の金型や治工具にも好適に用いることのできる炭素鋼材料を製造するものである。本発明は、溶融塩処理を行う前段階で窒化処理をすることが特徴の一つである
本発明においては、前記炭素鋼材として、初期炭素濃度が0.35〜1.6質量%の範囲内である炭素鋼材を用いることが好ましい。初期炭素濃度が0.35〜1.6質量%の範囲内である、いわゆる高炭素鋼は、未処理状態においても高強度であるが、本製造方法の処理を行うことで、より強度を向上させ、高耐久性とすることができる。特に本発明は、初期炭素濃度が0.5〜1.6質量%の高炭素鋼にも有効である。
窒化処理は、鉄鋼材料の表面処理方法として知られている。窒化処理には塩浴法、ガス法、プラズマ窒化法、ラジカル窒化法、ペースト法等があり、塩浴法とペースト法では窒素濃度の制御は困難である。窒素ガス濃度と温度の制御が可能な窒化処理方法はガス法、プラズマ窒化法、ラジカル窒化法の3種類である。ガス法においてはNHとNとの混合ガス、変成ガスとNHの混合ガス等が用いられる。NHとNとの混合ガスの場合、アンモニア濃度を所定範囲に制御して、500℃程度の温度下で処理時間10〜30時間程度で行われる。変成ガスとNHの混合ガスを用いる場合は、570℃程度の温度下で処理時間2〜3時間程度で行われる。ラジカル窒化法は、製品温度と炉内温度との差が70℃〜150℃生じるが、500℃以下、窒素濃度20%の条件で、30分程度処理時間で行われている。プラズマ窒化法では、窒素濃度50%の場合、500℃〜570℃、処理時間5〜10時間、炉内圧力は4Torr(5.33×10Pa)いう条件が一般的である。プラズマ窒化法とラジカル窒化法においては、通常はNとHが使われている。
本発明においては、前記窒化処理は、ガス圧力1.33×10〜1.01×10Pa(1〜760Torr)の範囲内、かつ、温度400〜600℃の範囲内の条件で行うことが好ましい。より好ましくは、ガス圧力5.33×10〜8.00×10Pa(4〜600Torr)の範囲内、かつ、温度480〜550℃の範囲内の条件である。本条件とすることにより、被処理品が高炭素鋼や高炭素合金鋼である場合であっても、効果的に窒化を行うことができる。
本発明において、プラズマ窒化法による窒化処理の場合は、NとHの混合ガス中の窒素濃度100%〜1.2%までの範囲で、処理温度は480℃〜550℃で行うことが好ましい。また、減圧窒化炉を使用して窒化を行う場合、NH濃度100%〜10%のガスを使い、減圧度として大気圧から200Torr(2.67×10Pa)の範囲とすることが好ましい。処理温度は約570℃とすることが好ましい。
前記浸炭処理を行った炭素鋼材に、さらに溶融塩処理を行う。溶融塩処理とは、炭化物の形成成分を溶解させたホウ酸またはホウ酸塩等の溶融塩浴中に炭素鋼を浸漬させることで、炭素鋼内部の炭素が表面に拡散移動し、溶融塩中に浮遊する前記炭化物の形成成分と結合し、炭化物形成成分と炭素が結合した炭化物を含有する被覆層を形成させる表面硬度向上技術である。本発明においては、炭化物形成成分としてバナジウムを含む溶融塩を用いる。溶融塩は、バナジウム合金、または、バナジウム酸化物とその還元剤を添加したホウ砂を含むことが好ましい。溶融塩として、無水ホウ砂(Na)に対し、フェロバナジウム(FeV、V=50重量%)を10〜20質量%の範囲で添加した溶融塩を用いることがより好ましい。前記溶融塩の浴に、前記浸炭処理を行った炭素鋼材を浸漬させる。
溶融塩浴の温度はホウ砂の十分溶融する800〜1100℃程度の範囲が好ましいが、850〜1050℃の範囲で成膜することがより好ましい。また、被膜をより均一に形成するという観点からは、870〜930℃の範囲で成膜することがさらに好ましい。成膜時間は、必要とする被覆層膜厚によって異なる。なお、一般的なSKD11(金型用工具鋼)製プレス金型に、溶融塩処理を単独で(窒化処理を行わずに)行って10μm前後の被覆層膜厚を得る場合には、12〜15時間を要することが通常であるが、窒化処理を行ったものに溶融塩処理を行うと、10〜12時間程度で可能となることが判明した。出炉した後の冷却には、焼入れ用の油槽が用いられることが多い。また、FeVの代わりにV(5酸化2バナジウム)粉末を用い、BC(炭化ホウ素)などの還元剤を5質量%程度添加することでも、成膜は可能である。さらに、合金元素に、Nb(ニオブ)、Cr(クロム)などを添加することも可能である。
本発明における溶融塩処理は、例えば次の方法で行うことができる。溶融塩として、無水ホウ砂(Na)に対し、フェロバナジウム(FeV、V=50重量%)を10〜20重量%の範囲で添加したものを、800〜1100℃に加熱したものを溶融塩浴とする。この溶融塩浴に、あらかじめ窒化処理を施した炭素鋼材を浸漬して3〜15時間均熱することで、溶融塩処理ができる。
なお、窒化処理を行った炭素鋼材に溶融塩処理を行う本発明の製造方法の場合、前述のとおり、窒化処理を行わない炭素鋼材に同一条件で溶融塩処理を行った場合に比べて、バナジウム炭化物を含む被覆層の形成速度が向上するという効果も奏する。
本発明の製造方法により得られた炭素鋼材料は、バナジウム炭化物層を表面に有するために表面処理を行う前の炭素鋼材と比べて表面硬度が高くなる。さらに、得られた炭素鋼材料が、表面被覆層の最表面はバナジウム炭化物が主成分で、母材界面に向かってバナジウム窒化物が主成分となる傾斜組成の被膜が形成されていることが好ましい。このようなバナジウム炭化物とバナジウム窒化物との比率が徐々に変わっていく傾斜組成分布を有していることによって、硬さ分布が連続的なものとなり、被覆層の剥離が起こりにくくなる。
溶融塩処理のみで炭化物被覆を行う従来の処理方法では、前述のとおり、被覆層の剥離が発生しやすいという問題がある。図1に本発明の製造方法で得られた炭素鋼材料と溶融塩処理のみを行った炭素鋼材の一例について、試料の切断面を研磨して表面から深さ方向への微小硬さ測定を行った結果のグラフを示す。図1(a)が本発明の製造方法で得られた後述の実施例1の炭素鋼材料での結果であり、図1(b)が溶融塩処理のみを行った比較例1の炭素鋼材での結果である。測定はマイクロビッカース硬度計を用い、測定荷重は250mNで行った。グラフの横軸は表面被覆層と母材の界面を0とし、そこから母材中心へ向かっての距離(深さ)である。硬さ測定結果から、溶融塩処理のみの試料では表面近傍で硬さが低下しているのに対して、窒化処理後に溶融塩処理を行った試料の場合、母材表面近傍の硬さの低下が見られず、むしろ母材硬さよりも高い硬度が得られている。さらに、表面から内部に向かっては、なだらかな硬さ推移を示し約2mmの硬化層が確認され、連続的な硬さ分布が存在することがわかった。溶融塩処理のみの場合、硬さが低下している表面近傍部分(ソフトニング層)が原因となり、被覆層の剥離が発生しやすく、それに対し、窒化処理後に溶融塩処理を行うことで炭窒化物被覆を行った試料では、表面被覆層と母材との界面において硬度差が小さく、剥離が起こりにくいものと考えられる。以上より、溶融塩処理のみの場合観察されたソフトニング層の形成が、窒化処理後に溶融塩処理を行うことにより防止されていることがわかる。
つぎに、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例によってなんら限定ないし制限されない。また、各実施例および各比較例における各種特性および物性の測定および評価は、下記の方法により実施した。
[実施例1]
炭素含有量1.40〜1.60質量%の高炭素鋼であるSKD11のφ22丸棒を50mmに切断したもの(φ22×50mm)をテストピースとした。このテストピースに以下の条件で窒化処理を行い、次いで溶融塩処理を行った。
(窒化処理)
窒化処理は、510℃のNとHの1:1混合ガス雰囲気中で10時間のプラズマ窒化により行った。炉内の圧力は、4Torr(5.33×10Pa)となるように調整した。プラズマ窒化したテストピース表面をアセトンにて洗浄した。
(溶融塩処理)
溶融塩処理は、無水ホウ砂(Na)に対し、フェロバナジウム(FeV、V=50重量%)を15重量%添加したものを加熱して溶融塩浴とし、行った。加熱保持した溶融塩浴中に前記窒化処理後のテストピースを浸漬し、表面被覆層を形成した。溶融塩処理の条件を図2に示す。処理温度980℃とし、ここに12時間均熱し、さらに3時間で850℃まで低下させ出炉し、空冷した(溶融塩処理時間:15時間)。本条件では、テストピースを850℃に下げてから出炉するため母材に焼きが入らない。母材の焼入れを適正な温度で行うため、前記溶融塩浴から出した後、塩浴成分を洗浄してから真空焼入れ(1020℃、2時間)・焼戻し(190℃、3時間)を行った。
[実施例2]
窒化処理をNとHの4:1混合ガス(窒素濃度80%)雰囲気中で行ない、溶融塩処理の均熱時間を3時間として、3時間で850℃まで低下させる工程を行わなかった以外は、実施例1と同様の条件で表面処理を行った。
[実施例3]
窒化処理をNとHの1:1混合ガス(窒素濃度50%)雰囲気中で行なった以外は、実施例2と同様の条件で表面処理を行った。
[実施例4]
窒化処理をNとHの1:4混合ガス(窒素濃度20%)雰囲気中で行なった以外は、実施例2と同様の条件で表面処理を行った。
[実施例5]
窒化処理をNとHの0.1:4混合ガス(窒素濃度2.4%)雰囲気中で行なった以外は、実施例2と同様の条件で表面処理を行った。
[実施例6]
窒化処理をNとHの0.05:4混合ガス(窒素濃度1.2%)雰囲気中で行なった以外は、実施例2と同様の条件で表面処理を行った。
[実施例7]
窒化処理をNとHの4:1混合ガス(窒素濃度80%)雰囲気中で行なった以外は、実施例1と同様の条件で表面処理を行った。
[実施例8]
窒化処理をNとHの1:4混合ガス(窒素濃度20%)雰囲気中で行なった以外は、実施例1と同様の条件で表面処理を行った。
[実施例9]
窒化処理をNとHの0.1:4混合ガス(窒素濃度2.4%)雰囲気中で行なった以外は、実施例1と同様の条件で表面処理を行った。
[実施例10]
窒化処理をNとHの0.05:4混合ガス(窒素濃度1.2%)雰囲気中で行なった以外は、実施例1と同様の条件で表面処理を行った。
[比較例1]
実施例1において、窒化処理を行わなかったほかは同様の条件で、処理を行った。
図3に実施例1で得られた炭素鋼材料試料の断面組織写真を示す。試料の切断面を研磨後、断面の組織観察を行ったものである。エッチングにはナイタルを用いた。図3(a)は表面部、図3(b)は試料中心部(芯部)の断面組織写真である。比較のために図4に、溶融塩処理のみを行った比較例1の炭素鋼材試料の断面組織写真を示す。図4(a)は表面部、図4(b)は試料中心部(芯部)の断面組織写真である。白い粗粒はオーステナイトに未溶解の炭化物である。芯部と表面部の組織写真を比較すると、表面近傍では芯部よりも炭化物の粗粒が少ないことがわかる。これは、溶融塩処理によって、表面で炭化物層(バナジウム炭化物層)を析出させる際に、溶融塩浴中の炭化物形成元素(V)と反応する炭素(炭化物)が母材表面から供給されたため、試料中心部組織に見られる炭化物が表面近傍では減少したと考えられる。また、実施例1で得られた炭素鋼材料においては、結晶粒が微細になっており、表面被覆層界面付近の母材の結晶粒粗大化が抑制されているといえる。
図3(a)および図4(a)において、表面の白っぽい層状の部分が表面被覆層である。溶融塩処理のみを行った試料では、表面被覆層(バナジウム炭化物層)が薄く、また、表面近傍では試料の中心部に比べて黒っぽく映っており、炭化物が少ないことがわかる。表面被覆層の厚みを測定したところ、表面に形成された被覆層の膜厚は溶融塩処理のみの比較例1の場合8.7μm、窒化処理後に溶融塩処理を行った実施例1の試料の場合9.2μmであった。窒化処理を溶融塩処理前に施すことで0.5μm厚い膜厚が得られ、表面被覆層の形成速度が速くなっていることがわかる。
次に、実施例1で得られた炭素鋼材料について、グロー放電発光分析装置(GDS)により元素分析を行った結果を図5に示す。図6には、溶融塩処理のみを行った比較例1の炭素鋼材の元素分析結果を示す。グラフの横軸は試料の深さを示し、Fe、C、N、Vについての原子濃度を示している。Feとその他の原子との濃度分布が入れ替わるような挙動を示す位置が、表面被覆層と母材との界面である。溶融塩処理は同一の条件で行っているが、実施例1で得られた試料では、被覆層の厚みが、溶融塩処理のみを行った比較例1の試料に比べて厚くなっていることがわかる。GDSの結果によると、実施例1の試料においては、界面からVN層とVC層が傾斜的に発現している。VNの硬度は1300〜1700HVであり、VCの硬度は3000HVである。VCとVNの比率が徐々に変わっていることから、硬度の変化も傾斜的に起こり、最表面には硬度の高いVC層が存在することで、被覆層の靭性の向上が期待できる。
さらに、実施例2および実施例7で得られた炭素鋼材料についての、GDS元素分析結果を、それぞれ図7および図8に示す。図7において、窒素の動向は原子濃度50%付近でV字形の分布を形成し、約15μmの深さに至るまで滑らかに減少している。バナジウムについても同様の形状をしている。このチャートから、窒素濃度80%雰囲気での窒化処理を行い、溶融塩処理を3時間で行った本実施例では、表面被覆層はバナジウム窒化物を主成分として形成されていることがわかる。
一方、図8においては、バナジウム原子濃度は約60%まで上昇し、約17μm深さで界面となり、約26μm深さまで大きな膨らみを持って消失に至っている。窒素については、表面では約4%に低下後、10μm深さ付近で40%程度まで上昇した後、バナジウムの挙動と同一の曲線を描いて消失に至っている。表面から10μm深さの付近までは、窒素原子濃度を相補するように炭素が分布していることがわかる。炭素原子濃度は、最表面において30%にまで上昇しており、層の界面付近で母材の炭素原子濃度と同程度となっている。このチャートから、窒素濃度80%雰囲気での窒化処理を行い、溶融塩処理を12時間で行った本実施例では、表面被覆層は、最表面はバナジウム炭化物が主成分で、母材界面に向かってバナジウム窒化物が主成分となる傾斜組成の被膜が形成されていることがわかる。
溶融塩法による炭化物被覆処理のみと窒化処理後に溶融塩処理を行った試料の断面組織観察の結果、溶融塩処理のみの試料では、被覆層直下の母材中の炭化物が減少していた。窒化処理後に溶融塩処理を行った試料の場合、被覆層直下の母材の組織に微細な炭化物が見られ、かつ、組織も微細化されていた。これは組織観察で確認できた微細炭窒素化物の影響と、窒化することによるオーステナイト化温度が下がり、焼入れ性が改善したためであると考えられる。テストピースの切断面を研磨して表面から深さ方向への微小硬さ測定を行った前掲の図1の結果では、溶融塩処理のみの試料では表面近傍で硬さが低下しているのに対して、窒化処理後に溶融塩処理を行った試料の場合、母材表面近傍の硬さの低下が見られない。これは、被覆層直下の母材には炭化物が多く存在し炭素の欠乏が抑制されたためであるといえる。さらに表面から内部に向かっては、なだらかな硬さ推移を示し約2mmの硬化層が確認された。溶融塩処理後も前処理の浸炭層の効果を残し連続的な硬さ分布であることがわかった。以上のことより、溶融塩処理のみの場合観察されたソフトニング層の形成が、窒化処理後に溶融塩処理を行うことにより防止されていることがわかる。
(表面硬さ測定試験)
実施例1〜10で得られた試料につき、硬さ測定を行った。測定はマイクロビッカース硬度計を用い、測定荷重は490mNで行った。結果を図9に示す。図9において、(a)が溶融塩処理温度980℃で12時間の均熱処理を行ったもの(実施例1、7〜10)、(b)が溶融塩処理温度980℃で3時間の均熱処理を行ったもの(実施例2〜6)である。図9には、溶融塩処理を行わず窒化処理のみを行った試料について同様に測定を行った結果(c)をあわせて示した。
表面処理を行う前の炭素鋼(SKD11)はHV650であったところ、窒化処理時の窒素濃度が80%から2.4%で処理を行ったものは、溶融塩処理3時間と融合すると、HV1300〜1500程度を示した。さらに、窒素濃度が1.2%になると、溶融塩処理との融合により硬さは急激に上昇し、HV3000以上に達した。溶融塩処理が12時間の場合、窒素濃度を80%から1.2%まで変化させても、HV2500前後の硬さを得ることができた。溶融塩処理との融合において、HV3000以上を得るためには、窒素濃度1.2%程度で窒化処理をすることが適していた。
本発明の炭素鋼材料の製造方法によると、前記被覆層の剥離が起こりにくく、高強度かつ耐久性に優れた炭素鋼材料を提供することができる。本製造方法では、バナジウム炭化物を含む被覆層の形成速度を大幅に速めることが可能となるので、前記炭素鋼材料を効率よく、低コストで製造することができる。得られた炭素鋼材料は、難加工材用の金型や治工具等、幅広い用途に適用できる。

Claims (7)

  1. 炭素鋼材を表面処理した炭素鋼材料の製造方法であって、前記炭素鋼材表面に窒化物ないし窒素拡散層を形成する窒化処理工程と、前記窒化処理後の炭素鋼材をバナジウムを含む溶融塩浴に浸漬し、前記窒化物ないし窒素拡散層をバナジウム窒化物およびバナジウム炭化物を含む被覆層とする溶融塩処理工程とを含むことを特徴とする、炭素鋼材料の製造方法。
  2. 前記炭素鋼材として、初期炭素濃度が0.35〜1.6質量%の範囲内である炭素鋼材を用いる、請求項1記載の炭素鋼材料の製造方法。
  3. 前記窒化処理が、ガス圧力1.33×10〜1.01×10Pa(1〜760Torr)の範囲内、かつ、温度400〜600℃の範囲内で行われる、請求項1または2記載の炭素鋼材料の製造方法。
  4. 前記バナジウムを含む溶融塩浴が、バナジウム合金、または、バナジウム酸化物とその還元剤を添加したホウ砂を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の炭素鋼材料の製造方法。
  5. 前記バナジウムを含む溶融塩浴の温度が800〜1100℃の範囲内である、請求項1から4のいずれか一項に記載の炭素鋼材料の製造方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の炭素鋼材料の製造方法によって製造され、表面にバナジウム窒化物およびバナジウム炭化物を含む被覆層を有することを特徴とする炭素鋼材料。
  7. 前記被覆層を有する炭素鋼材料が、炭素濃度が最表面から内部に向かって傾斜分布している、請求項6記載の炭素鋼材料。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN104195573A (zh) * 2014-09-11 2014-12-10 东莞诚兴五金制品有限公司 一种模具的表面处理工艺
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