JP4752635B2 - 軟窒化部品の製造方法 - Google Patents

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本発明は、軟窒化を施して使用する部品、つまり、「軟窒化部品」の製造方法に関する
。詳しくは、自動車などに使用されるピッチング強度と曲げ疲労強度に優れた軟窒化部品
の製造方法に関する。
自動車のトランスミッションなどに使用される部品は、所望の形状まで成形された後に
、耐摩耗性、回転曲げ疲労強度やピッチング強度などの特性を高める目的で、いわゆる「
表面硬化処理」が施される。
代表的な表面硬化処理としては、「浸炭焼入れ」、「高周波焼入れ」、「窒化」及び「
軟窒化(「炭窒化」とも称される。)」を挙げることができるが、上記の表面硬化処理に
は次のような問題があった。
すなわち、「浸炭焼入れ」は、一般に、素材鋼(生地の鋼)として低炭素鋼を使用し、
Ac3点以上の高温のオーステナイト域でCを侵入・拡散させた後、焼入れする処理であるため、高い表面硬さと大きな硬化層深さを得ることができるものの、変態を伴う処理であるので、熱処理変形(焼入れ歪)が大きくなることを避け難い。このため、高い精度が要求される部品の場合には、浸炭焼入れした後で、研削やホーニングなどの仕上げ加工を施さねばならなかった。
「高周波焼入れ」は、Ac3点以上の高温のオーステナイト域に急速加熱後、急冷して焼入れする処理であり、硬化層深さの調整が比較的容易であるものの、浸炭のようにCを侵入・拡散させる処理ではないので、所望の表面硬さ、硬化層深さ及び芯部硬さを得るための素材鋼として、一般的に、浸炭焼入れの場合に比べてCの含有量が多い中炭素鋼が使用されている。しかしながら、中炭素鋼は低炭素鋼に比べて硬さが高いので部品形状に加工する際の切削性が低く、また、部品毎にその形状に適した高周波加熱コイルを作製する必要があった。
「窒化」は、一般に、Ac1点以下の450〜550℃前後の温度域で、Nを侵入・拡散させて高い表面硬さと適度な硬化層深さを得る処理であり、前述の浸炭焼入れや高周波焼入れに比べて処理温度が低いので、熱処理変形が小さい。しかしながら、数10〜100hr程度の処理時間を要するため生産効率が低く、しかも、表面に形成される脆くて剥離しやすいε−Fe2-3Nを主体とする化合物層が、ピッチングや回転曲げ疲労破壊の起点となることがあった。
「軟窒化」は、Ac1点以下の500〜600℃前後の温度域で、N及びCを侵入・拡散させて高い表面硬さを得る処理であるため、熱処理変形を小さくすることができる。しかも、窒化の場合と比べて、処理時間が数時間程度の短時間でよいこと、また、処理雰囲気として、RXガス(「RXガス」は吸熱型変成ガスの商標である。)にNH3を添加したガスを使用することができるので、低歪が要求される量産品の表面硬化処理として多用されている。しかしながら、表面に形成される脆くて剥離しやすいε−Fe2-3Nを主体とする化合物層が、ピッチングの原因や回転曲げ疲労破壊の起点となることがあった。
すなわち、一般に、軟窒化を施すと、被処理品の表面には、通常、多孔質層(以下、「ポーラス層」という。)とその下の緻密層から構成されたε−Fe2-3N相を主体とした化合物層が形成されるが、この化合物層は非常に脆く、しかも、その結晶構造は六方晶であって、生地(以下、「母材」ともいう。)の相である立方晶のフェライト相とは結晶構造が異なるものである。このため、上記の化合物層がギヤの噛み合いなどによって剥離すると、容易にピッチングが発生することがあった。
なお、ミッションギヤにおいては歯元の回転曲げ疲労強度を高めるために、ショットピ
ーニング処理を施すことが多いが、軟窒化後にショットピーニングを施すと前記化合物層
の一部が母材に噛み込むため、表面性状が低下して表面の粗さが大きくなり、ピッチング
強度の低下やギヤノイズの発生につながってしまうものであった。更に、化合物層が噛み
込んだ母材の表面にクラックが発生し、その部分が回転曲げ疲労破壊の起点となる場合も
あった。
このため、ピッチング強度と回転曲げ疲労強度に優れた軟窒化部品を開発したいという
産業界からの要望が極めて大きくなっている。
そこで、前記した要望に応えるべく、例えば、特許文献1及び特許文献2に、それぞれ
、「軟窒化用構造用鋼」及び「ショットピーニング方法及び装置」が提案されている。
すなわち、特許文献1に、重量比で、C:0.20〜0.50%、Si:0.03〜0
.50%、Mn:0.30〜3.00%、Cr:0.10〜1.00%、Mo:0.03
〜1.00%、Al:0.01〜0.10%、V:0.03〜0.50%、S:0.01
5〜0.070%、Pb:0〜0.040%及びO:15ppm以下を含有し、残部がF
e及び不可避の不純物より成り、かつ、S、Pb及びOの含有量が特定の式を満足する、
圧延まま、鍛造まま、焼きならし等の状態で機械加工を施した後、軟窒化処理とショット
ピーニングを施して使用するための疲労強度と被削性に優れた「軟窒化用構造用鋼」が開
示されている。
また、特許文献2に、浸炭処理、焼入れ処理等の熱処理を施した後の熱処理済材に投射
材を投射して圧縮残留応力を生じさせるショットピーニング方法において、特定の1台の
ショットピーニング装置を用いて2種類以上の投射材を使い分け、2段以上の多段ショッ
トピーニング処理を連続して行うことができる「ショットピーニング方法及び装置」が開
示されている。
特開平9−227992号公報 特開2001−277119号公報
前述の特許文献1で開示された技術は、機械加工を施した後で軟窒化を行い、更に、シ
ョット径が0.2〜1.0mm、ショット硬さがロックウェルC硬さで42〜62、ショ
ット速度が50〜120m/secの条件でショットピーニングする技術である。しかし
ながら、このような条件でショットピーニング処理しても、必ずしも、軟窒化部品の表面
でのクラック発生の抑制や化合物層の母材への噛み込みを大幅に抑制することができると
いうものではなく、ピッチング強度や回転曲げ疲労強度が低下することを避けられないこ
とがあった。このため、ピッチング強度と回転曲げ疲労強度に優れた軟窒化部品を開発し
たいという産業界の要望に必ずしも応えられるものではなかった。
特許文献2で開示された技術の目的は、1台のショットピーニング装置で2種類以上の
投射材を使い分けて、2段以上の多段ショットピーニング処理を行うことであるため、軟
窒化部品に対してこのショットピーニング方法を適用しても、軟窒化部品の、表面硬さ、
化合物層深さ、表面圧縮残留応力及び表面粗さの全てを、必ずしも、適正な範囲に制御で
きるというものではなく、ピッチング強度や回転曲げ疲労強度が低下することを避けられ
ないことがあった。このため、ピッチング強度と回転曲げ疲労強度に優れた軟窒化部品を
開発したいという産業界の要望に必ずしも応えられるものではなかった。
そこで、本発明の目的は、自動車のトランスミッションなどに使用される従来の軟窒化
部品よりも良好なピッチング強度と回転曲げ疲労強度を有する軟窒化部品を製造する方法
を提供することである。
本発明者らは、前記した課題を解決するために、種々の検討を行い、その結果、下記(
a)〜(c)の知見を得た。
(a)自動車のトランスミッションなどに使用される軟窒化部品に対して、所望のピッ
チング強度及び回転曲げ疲労強度を具備させるには、合金成分のうちで特に、C、Si、
Mn、Cr、Al、V及びNの含有量を適正な範囲に制御すればよい。
(b)軟窒化部品に優れた耐摩耗性に加えて、従来の軟窒化部品よりも良好なピッチン
グ強度と回転曲げ疲労強度を具備させるためには、軟窒化後の表面硬さをビッカース硬さ
で600以上としたうえで、軟窒化部品の表面圧縮残留応力を700MPa以上とし、更
に、軟窒化部品の化合物層深さ及び算術平均高さRaでの表面粗さを、それぞれ、2.0
μm以下及び1.00μm以下にすればよい。
なお、軟窒化後のビッカース硬さでの「表面硬さ」とは、JIS Z 2244(2003)における「
ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、表面から0.03mmの位置で任意に10
点測定した場合の算術平均値を指す。
軟窒化部品の「表面圧縮残留応力」とは、表面からの深さが50μmの位置におけるX
線回折による測定値を指す。
また、軟窒化部品の「化合物層深さ」とは、JIS G 0562(1993)における「金属組織試験
による測定方法」に準拠して、軟窒化部品表面のミクロ組織を倍率を2000倍として電
子顕微鏡で観察した場合の表面からの深さを指す。
更に、軟窒化部品の「算術平均高さRaでの表面粗さ」とは、JIS B 0601(2001)に準拠
して、触針式の表面粗さ計を用いて、表面の5か所について軸方向に各3mmずつ測定し
た場合の算術平均値を指す。
(c)軟窒化後の表面硬さがビッカース硬さで600以上である軟窒化部品に対して、
それぞれ異なった条件の3段のショットピーニング処理を施すことによって、軟窒化部品
の表面圧縮残留応力を700MPa以上、化合物層深さを2μm以下及び算術平均高さR
aでの表面粗さを1.00μm以下とすることができる。このため、軟窒化部品を使用す
る際に、軟窒化部品の表面に形成されたε−Fe2-3N相を主体とした化合物層が母材に噛み込むこと及び表面性状の低下の両方が抑止でき、しかも軟窒化部品の表面には前記の大きな圧縮残留応力が付与されているので、良好なピッチング強度と回転曲げ疲労強度が確保できる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜(
3)に示す軟窒化部品の製造方法にある。
(1)質量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.10〜0.80%、Mn:0
.40〜2.0%、P:0.025%以下、S:0.005〜0.10%、Cr:0.7
0〜3.0%、Al:0.020〜0.20%、V:0.050〜0.50%及びN:0
.0030〜0.010%を含み、残部はFe及び不純物からなる鋼を、部品形状に加工
した後、軟窒化して表面硬さをビッカース硬さで600以上とし、次いで、下記の条件〈
1〉〜〈3〉を満たすショットピーニング処理をこの順に施すことを特徴とする軟窒化部
品の製造方法。
条件〈1〉:「ショット粒径:0.1〜0.3mm、ショット硬さ:ロックウェルC硬
さで58〜65、投射速度:30〜60m/秒、投射時間:5〜20秒」、
条件〈2〉:「ショット粒径:0.5〜1.2mm、ショット硬さ:ロックウェルC硬
さで58〜65、投射速度:60〜120m/秒、投射時間:30〜60秒」、
条件〈3〉:「ショット粒径:0.1〜0.3mm、ショット硬さ:ロックウェルC硬
さで58〜65、投射速度:60〜120m/秒、投射時間:30〜60秒」。
(2)鋼が、Feの一部に代えて、Mo:1.0%以下を含有する上記(1)に記載の
軟窒化部品の製造方法。
(3)鋼が、Feの一部に代えて、Pb:0.20%以下及びCa:0.0050%以
下のうちの1種又は2種を含有する上記(1)又は(2)に記載の軟窒化部品の製造方法
なお、既に述べたように、軟窒化した後のビッカース硬さでの「表面硬さ」とは、JIS
Z 2244(2003)の「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、被処理部品材の表面から
0.03mmの位置で任意に10点測定した場合の算術平均値を指す。
以下、上記 (1)〜(3)の軟窒化部品の製造方法に係る発明を、それぞれ、「本発明(1)」〜「本発明(3)」という。また、総称して「本発明」ということがある。
本発明の方法によって製造された軟窒化部品は、産業界から要望されている従来の軟窒
化部品よりも良好なピッチング強度と回転曲げ疲労強度を有するので、自動車のトランス
ミッションなどの部品として用いることができる。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、化学成分の含有量の「%」は「
質量%」を意味する。
(A)鋼の化学組成:
C:0.15〜0.30%
Cは、軟窒化部品の強度確保のために必須の元素であり、0.15%以上の含有量が必
要である。しかしながら、Cの含有量が多くなると硬さが大きくなって切削性の低下を招
き、特に、その含有量が0.30%を超えると硬さ上昇に伴う切削性の低下が著しくなる
。したがって、Cの含有量を0.15〜0.30%とした。なお、より一層良好な切削性
が要求される場合には、Cの含有量を0.15〜0.25%とすることが好ましい。
Si:0.10〜0.80%
Siは、脱酸作用を有する。この効果を得るには、0.10%以上の含有量が必要であ
る。しかしながら、Siの含有量が多くなると硬さが大きくなって切削性の低下を招き、
特に、その含有量が0.80%を超えると硬さ上昇に伴う切削性の低下が著しくなる。し
たがって、Siの含有量を0.10〜0.80%とした。なお、より一層良好な切削性が
要求される場合には、Siの含有量を0.10〜0.40%とすることが好ましい。
Mn:0.40〜2.0%
Mnは、軟窒化部品の強度を高める作用及び脱酸作用を有する。これらの効果を得るに
は、0.40%以上の含有量が必要である。しかしながら、Mnの含有量が多くなると硬
さが大きくなって切削性の低下を招き、特に、その含有量が2.0%を超えると硬さ上昇
に伴う切削性の低下が著しくなる。したがって、Mnの含有量を0.40〜2.0%とし
た。なお、より一層良好な切削性が要求される場合には、Mnの含有量を0.40〜1.
0%とすることが好ましい。
P:0.025%以下
Pは、鋼に含有される不純物であり、結晶粒界に偏析して鋼を脆化させ、特に、その含
有量が0.025%を超えると鋼の脆化が著しくなる。したがって、Pの含有量を0.0
25%以下とした。なお、鋼の脆化抑止のためには、Pの含有量を0.020%以下とす
ることが好ましい。
S:0.005〜0.10%
Sは、Mnと結合してMnSを形成し、切削性を高める作用を有する。しかしながら、
その含有量が0.005%未満では、前記の効果が得難い。一方、Sの含有量が0.10
%を超えると、粗大なMnSを形成して、熱間鍛造性及び回転曲げ疲労強度が低下する。
したがって、Sの含有量を0.005〜0.10%とした。なお、より一層良好な熱間鍛
造性と回転曲げ疲労強度が要求される場合には、Sの含有量を0.005〜0.030%
とすることが好ましい。
Cr:0.70〜3.0%
Crは、軟窒化後の表面硬さ、硬化層深さ及び芯部硬さを大きくして、軟窒化部品の強
度を高める作用を有する。しかしながら、Crの含有量が0.70%未満では、前記の効
果を得ることができない。一方、Crの含有量が多くなると硬さが大きくなって切削性の
低下を招き、特に、その含有量が3.0%を超えると硬さ上昇に伴う切削性の低下が著し
くなる。したがって、Crの含有量を0.70〜3.0%とした。なお、より一層良好な
切削性が要求される場合には、Crの含有量は0.70〜1.50%とすることが好まし
い。
Al:0.020〜0.20%
Alは、脱酸作用を有する。Alには、軟窒化時にNと結合してAlNを形成し、表面
硬さを高める作用もある。これらの効果を得るには、Alを0.020%以上含有させる
必要がある。しかしながら、Alの含有量が過剰になると、硬質のAl23形成による切
削性の低下をきたし、更に、軟窒化後の硬化層深さも浅くなる。特に、Alの含有量が0
.20%を超えると、切削性の低下が著しくなるとともに軟窒化後の硬化層深さも浅くな
る。したがって、Alの含有量を0.020〜0.20%とした。なお、Alの含有量は
0.020〜0.10%とすることが好ましい。
V:0.050〜0.50%
Vは、CやNと結合して、微細な炭化物、窒化物や炭窒化物を形成し、軟窒化部品の表
面硬さ及び硬化層深さを大きくする作用を有する。こうした効果を得るには、Vの含有量
を0.050%以上とする必要がある。しかしながら、Vの含有量が過剰になると、形成
される炭化物、窒化物や炭窒化物が粗大になって靱性が低下し、特に、その含有量が0.
50%を超えると、靱性の低下が著しくなる。したがって、Vの含有量を0.050〜0
.50%とした。なお、Vの含有量は0.080〜0.150%とすることが好ましい。
N:0.0030〜0.010%
Nは、軟窒化部品の強度を高める作用を有する。Nには、窒化物を形成して結晶粒を微
細にする作用もある。これらの効果を得るには、Nの含有量を0.0030%以上とする
必要がある。しかしながら、Nの含有量が過剰になると窒化物が粗大化して靱性が低下し
、特に、その含有量が0.010%を超えると靱性の低下が著しくなる。したがって、N
の含有量を0.0030〜0.010%とした。なお、Nの含有量は0.0030〜0.
0080%とすることが好ましい。
上記の理由から、本発明(1)に係る軟窒化部品の製造方法における鋼の化学組成を、
上述した範囲のCからNまでの元素を含有し、残部はFe及び不純物からなることと規定
した。
なお、本発明に係る軟窒化部品の製造方法における鋼の化学組成は、必要に応じて、F
eの一部に代えて、
第1群:Mo:1.0%以下、
第2群:Pb:0.20%以下及びCa:0.0050%以下のうちの1種又は2種、
の少なくとも1つの群の元素のうち1種以上を含有させることができる。すなわち、前記
第1群と第2群の少なくとも1つの群の元素のうち1種以上を、Feの一部に代えて、任
意添加元素として含有させてもよい。
以下、上記の任意添加元素に関して説明する。
第1群:Mo:1.0%以下
Moは、軟窒化後の硬化層深さ及び芯部硬さを大きくして、軟窒化部品の強度向上に寄
与する。しかしながら、Moの含有量が多くなると硬さが大きくなって切削性の低下を招
き、特に、その含有量が1.0%を超えると硬さ上昇に伴う切削性の低下が著しくなる。
したがって、Moを含有させる場合の含有量を1.0%以下とした。なお、前記したMo
の効果を確実に得るためには、その含有量を0.10%以上とすることが好ましい。した
がって、より望ましいMoの含有量は0.10〜1.0%である。なお、より一層良好な
切削性が要求される場合には、Moの含有量の上限を0.30%とすることが好ましい。
第2群:Pb:0.20%以下及びCa:0.0050%以下のうちの1種又は2種
Pbは、切削性の向上に寄与する。しかしながら、0.20%を超えてPbを含有させ
ても、切削性向上効果は飽和してコストが嵩むし、靱性や強度の低下も生じる。したがっ
て、Pbを含有させる場合の含有量を0.20%以下とした。なお、前記したPbの効果
を確実に得るためには、その含有量を0.03%以上とすることが好ましい。したがって
、より望ましいPbの含有量は0.03〜0.20%である。なお、一層望ましいPbの
含有量は0.05〜0.15%である。
Caは、切削性の向上に寄与する。しかしながら、0.0050%を超えてCaを含有
させても、切削性向上効果は飽和してコストが嵩むし、靱性や強度の低下も生じる。した
がって、Caを含有させる場合の含有量を0.0050%以下とした。なお、前記したC
aの効果を確実に得るためには、その含有量を0.0005%以上とすることが好ましい
。したがって、より望ましいCaの含有量は0.0005〜0.0050%である。なお
、一層望ましいCaの含有量は0.0010〜0.0030%である。
なお、上記のPb及びCaは、そのうちのいずれか1種のみ、又は2種の複合で含有す
ることができる。
上記の理由から、本発明(2)に係る軟窒化部品の製造方法における鋼の化学組成を、
本発明(1)における軟窒化部品の製造方法における鋼のFeの一部に代えて、Mo:1
.0%以下を含有することと規定した。
また、本発明(3)に係る軟窒化部品の製造方法における鋼の化学組成を、本発明(1
)又は本発明(2)に係る軟窒化部品の製造方法における鋼のFeの一部に代えて、Pb
:0.20%以下及びCa:0.0050%以下のうちの1種又は2種を含有することと
規定した。
(B)軟窒化後の表面硬さ:
前記(A)項に記載の化学組成を有する鋼を部品形状に加工した後、軟窒化した場合で
あっても、軟窒化後の表面硬さがビッカース硬さで600を下回る場合には、安定したピ
ッチング強度と回転曲げ疲労強度、更には優れた耐摩耗性が確保できない。したがって、
本発明においては、軟窒化後の表面硬さをビッカース硬さで600以上とすることと規定
した。なお、表面硬さが高すぎると靱性が低下するため、表面硬さの上限は、ビッカース
硬さで900以下とするのが好ましい。
既に述べたように、軟窒化後のビッカース硬さでの「表面硬さ」とは、JIS Z 2244(200
3)における「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、表面から0.03mmの位置
で任意に10点測定した場合の算術平均値を指す。
なお、前記(A)項に記載の化学組成を有する鋼を軟窒化して、その表面硬さをビッカ
ース硬さで600以上とするためには、例えば、下記(B−1)〜(B−3)に示す条件
で軟窒化すればよい。
(B−1)軟窒化媒体:
軟窒化に使用する媒体(ガス)としては、NH3(アンモニア)及びRXガス(「RXガス」は吸熱型変成ガスの商標である。)が好ましく、その混合比は、NH3/RX=0.5〜1.5とするのが好ましい。より一層好ましい条件はNH3/RX=1、すなわちNH3:RX=1:1である。
(B−2)軟窒化温度:
軟窒化温度は、N及びCの拡散による表面硬化を効果的に得る観点から500℃以上が
好ましく、また、母材の軟化による強度低下を起こさないようにするために650℃以下
が好ましい。より一層好ましい軟窒化温度は550〜600℃である。
(B−3)軟窒化時間:
軟窒化後の表面硬さをビッカース硬さで600以上にし、部品に必要な硬化層深さを得
るには、軟窒化時間が2時間以上であることが好ましい。軟窒化時間を長くすると、より
深い硬化層深さが得られる。経済性を考慮すると軟窒化時間は10時間以内が好ましい。
よって、軟窒化時間は2〜10時間が好ましい。
(C)ショットピーニング:
軟窒化部品に優れた耐摩耗性に加えて、従来の軟窒化部品よりも良好なピッチング強度
と回転曲げ疲労強度を具備させるためには、軟窒化して表面硬さをビッカース硬さで60
0以上としたうえで、更に、表面圧縮残留応力を700MPa以上、化合物層深さを2.
0μm以下及び算術平均高さRaでの表面粗さを1.00μm以下とすることが必要であ
り、このために、下記(C−1)〜(C−3)に示す条件〈1〉〜条件〈3〉を満たすシ
ョットピーニング処理をこの順に施さねばならない。
(C−1)条件〈1〉のショットピーニング:
軟窒化で形成された表面の化合物層に小さなクラックを発生させるために、「ショット
粒径:0.1〜0.3mm、ショット硬さ:ロックウェルC硬さで58〜65、投射速度
:30〜60m/秒、投射時間:5〜20秒」の条件で1段目のショットピーニングを行
う必要がある。
これは、上記の粒径の小さいショットを用いて投射速度を比較的遅くして低強度となる
ようにし、短時間のショットピーニングを行うことで、軟窒化部品表面の化合物層が剥離
しやすい状態となるので、次に行う2段目のショットピーニングで化合物層が母材に噛み
込むことが抑制されて剥離、除去されるからである。
ショット粒径が、0.1mm以上でないと上記の効果が得られず、また、ショット粒径
が大きすぎると化合物層の母材への噛み込みが抑制できないため、ショット粒径の上限を
0.3mmとした。
ショット硬さは、ロックウェルC硬さで58以上でないと上記の効果が得られず、また
、ショット硬さが高すぎると上記の効果が飽和するだけでなく、化合物層の母材への噛み
込みが抑制できないため、ショット硬さの上限をロックウェルC硬さで65とした。
ショットピーニングの投射速度が30m/秒でないと上記の効果が得られない。投射速
度が速すぎると化合物層の母材への噛み込みが抑制できないため、投射速度の上限を60
m/秒とした。
ショットピーニングの投射時間が5秒以上でないと上記の効果が得られない。投射時間
が長すぎると、化合物層の母材への噛み込みが抑制できないため、投射時間の上限を20
秒とした。
なお、条件〈1〉のショットピーニングは、「ショット粒径:0.1〜0.2mm、シ
ョット硬さ:ロックウェルC硬さで58〜62、投射速度:30〜50m/秒、投射時間
:5〜15秒」の条件で行うことが好ましい。
(C−2)条件〈2〉のショットピーニング:
前記(C−1)項の条件〈1〉のショットピーニングを行った後、「ショット粒径:0
.5〜1.2mm、ショット硬さ:ロックウェルC硬さで58〜65、投射速度:60〜
120m/秒、投射時間:30〜60秒」の条件で2段目のショットピーニングを行う必
要がある。
上記2段目のショットピーニングによって、軟窒化部品表面に形成された化合物層の剥
離、除去がなされ化合物層深さを2.0μm以下にでき、加えて、軟窒化部品の表面に7
00MPa以上の圧縮残留応力を付与することができるからである。
ショット粒径が0.5mm以上でないと上記の効果が得られず、また、ショット粒径が
大きすぎると化合物層の母材への噛み込みが抑制できず、表面粗さが大きくなるため、シ
ョット粒径の上限を1.2mmとした。
ショット硬さは、ロックウェルC硬さで58以上でないと上記の効果が得られず、また
、ショット硬さが高すぎると上記の効果が飽和するだけでなく、化合物層の母材への噛み
込みが抑制できず、表面粗さが大きくなるため、ショット硬さの上限をロックウェルC硬
さで65とした。
ショットピーニングの投射速度が60m/秒でないと上記の効果が得られない。投射速
度が速すぎると上記の効果が飽和するだけでなく、化合物層の母材への噛み込みが抑制で
きず、表面粗さが大きくなるため、投射速度の上限を120m/秒とした。
ショットピーニングの投射時間が30秒以上でないと上記の効果が得られない。投射時
間が長すぎると、上記の効果が飽和するだけでなく、化合物層の母材への噛み込みが抑制
できず、表面粗さが大きくなるため、投射時間の上限を60秒とした。
軟窒化後の被処理品の表面には、ポーラス層及びその下の緻密層から構成されたε−F
2-3N相を主体とした化合物層が形成されることは既に述べたとおりであり、この化合物層の深さが大きくなるとピッチング強度が低下し、特に、化合物層深さが2.0μmを超えるとピッチング強度の低下が著しくなる。
また、軟窒化部品の表面圧縮残留応力が小さい場合には回転曲げ疲労強度が低下し、特
に、表面圧縮残留応力が700MPaを下回ると、回転曲げ疲労強度の低下が著しくなる
しかしながら、前記2段目のショットピーニングによって、軟窒化部品表面に形成され
た化合物層深さを容易に2.0μm以下にできるため、軟窒化部品には化合物層深さの大
きいことに基づくピッチング強度の低下が生じず、従来の軟窒化部品よりも良好なピッチ
ング強度が確保される。
更に、前記2段目のショットピーニングによって、軟窒化部品表面の圧縮残留応力を容
易に700MPa以上にできるため、軟窒化部品には表面圧縮残留応力が小さいことに基
づく回転曲げ疲労強度の低下が生じず、従来の軟窒化部品よりも良好な回転曲げ疲労強度
が確保される。
なお、従来の軟窒化部品よりも一層良好な大きなピッチング強度を確保するためには、
化合物層深さを1μm以下とすることが好ましく、また、従来の軟窒化部品よりも一層良
好な大きな回転曲げ疲労強度を確保するためには、表面圧縮残留応力を900MPa以上
とすることが好ましい。
条件〈2〉のショットピーニングは、化合物層深さを1μm以下とし、更に、表面圧縮
残留応力を900MPa以上とするために、「ショット粒径:0.6〜1.0mm、ショ
ット硬さ:ロックウェルC硬さで60〜65、投射速度:80〜120m/秒、投射時間
:40〜60秒」の条件で行うことが好ましい。
なお、既に述べたように、本明細書でいう軟窒化部品の「化合物層深さ」とは、JIS G
0562(1993)における「金属組織試験による測定方法」に準拠して、軟窒化部品表面のミク
ロ組織を倍率を2000倍として電子顕微鏡で観察した場合の表面からの深さを指す。
また、本明細書でいう「表面圧縮残留応力」が、表面からの深さが50μmの位置にお
けるX線回折による測定値を指すことも既に述べたとおりである。
(C−3)条件〈3〉のショットピーニング:
前記(C−2)項の条件〈2〉のショットピーニングを行った後、「ショット粒径:0
.1〜0.3mm、ショット硬さ:ロックウェルC硬さで58〜65、投射速度:60〜
120m/秒、投射時間:30〜60秒」の条件で3段目のショットピーニングを行う必
要がある。
これは、上記粒径の小さいショットを用いて投射速度を比較的遅くして低強度となるよ
うにショットピーニングを行うことで、前記(C−2)項の条件〈2〉のショットピーニ
ング処理を施したことで大きくなった表面粗さを算術平均高さRaで1.00μm以下に
することができるからである。
算術平均高さRaで表される軟窒化部品の表面粗さが大きくなるとピッチング強度及び
回転曲げ疲労強度が低下し、特に、算術平均高さRaが1.00μmを超えるとピッチン
グ強度及び回転曲げ疲労強度の低下が著しくなる。
しかしながら、上記3段目のショットピーニングによって、表面粗さを算術平均高さR
aで1.00μm以下にすることができるため、軟窒化部品には表面粗さが大きいことに
基づくピッチング強度及び回転曲げ疲労強度の低下が生じず、従来の軟窒化部品よりも良
好なピッチング強度及び回転曲げ疲労強度が確保される。
なお、従来の軟窒化部品よりも一層良好な大きなピッチング強度及び回転曲げ疲労強度
を確保するためには、前記算術平均高さRaで表される表面粗さを0.5μm以下とする
ことが好ましい。
ショット粒径が0.1mm以上でないと上記の効果が得られず、また、ショット粒径が
大きすぎると、表面粗さが大きくなり算術平均高さRaを1.00μm以下にできないた
め、ショット粒径の上限を0.3mmとした。
ショット硬さは、ロックウェルC硬さで58以上でないと上記の効果が得られず、また
、ショット硬さが高すぎると上記の効果が飽和するだけでなく、表面粗さが大きくなり算
術平均高さRaを1.00μm以下にできないため、ショット硬さの上限をロックウェル
C硬さで65とした。
ショットピーニングの投射速度が60m/秒でないと上記の効果が得られない。投射速
度が速すぎると上記の効果が飽和するだけでなく、表面粗さが大きくなり算術平均高さR
aを1.00μm以下にできないため、投射速度の上限を120m/秒とした。
ショットピーニングの投射時間が30秒以上でないと上記の効果が得られない。投射時
間が長すぎると、上記の効果が飽和するだけでなく、表面粗さが大きくなり算術平均高さ
Raを1.00μm以下にできないため、投射時間の上限を60秒とした。
条件〈3〉のショットピーニングは、算術平均高さRaで表される表面粗さを0.5μ
m以下とするために、「ショット粒径:0.1〜0.2mm、ショット硬さ:ロックウェ
ルC硬さで58〜62、投射速度:80〜120m/秒、投射時間:30〜50秒」の条
件で行うことが好ましい。
なお、既に述べたように、本明細書でいう軟窒化部品の「算術平均高さRaでの表面粗
さ」とは、JIS B 0601(2001)に準拠して、触針式の表面粗さ計を用いて、表面の5か所に
ついて軸方向に各3mmずつ測定した場合の算術平均値を指す。
上述した理由で、本発明においては、前記(A)項に記載の化学組成からなる鋼を部品
形状に加工した後、軟窒化して表面硬さをビッカース硬さで600以上とし、次いで、前
記の条件〈1〉〜〈3〉を満たすショットピーニング処理をこの順に施すこととした。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
表1に示す化学組成を有する鋼1〜28を180kg真空溶解炉によって溶解し、イン
ゴットを作製した。
表1中の鋼1〜20及び鋼23〜28は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼
である。一方、鋼21はCの含有量が、また、鋼22はSiの含有量が、それぞれ、本発
明で規定する条件から外れた比較例の鋼である。
Figure 0004752635
各インゴットは、1250℃で8時間保持する溶体化処理を施して均質化した後、熱間
鍛造を行い、直径が20mmで長さが1000mm、直径が30mm長さが1000mm
及び直径が140mm長さが1000mmの3種類の丸棒を作製した。なお、熱間鍛造後
は大気中で放冷した。
次いで、上記の直径が20mmの各丸棒に、900℃で1時間保持して放冷する焼準を
行なった後、その中心部から、鍛錬軸に平行に図1に示す切欠き付き小野式回転曲げ疲労
試験片を切り出した。
また、直径が30mmの各丸棒に、900℃で1時間保持して放冷する焼準を行なった
後、その中心部から、鍛錬軸に平行に図2に示すローラーピッチング小ローラー試験片を
切り出した。
更に、直径が140mmの各丸棒に、900℃で3時間保持して放冷する焼準を行なっ
た後、その中心部から、鍛錬軸に平行に図3に示すローラーピッチング大ローラー試験片
を切り出した。
なお、図1〜3中に示した上記の切り出し試験片における寸法の単位は全て「mm」で
ある。
上記各図における仕上げ記号「▽」、「▽▽」及び「▽▽▽」は、JIS B 0601(1982)の
解説表1の表面粗さを示す「三角記号」である。
また、「▽▽▽」に付した「G」はJIS B 0122(1978)に規定の「研削」を示す加工方法
の略号であることを意味する。
上記の各試験片には、図4に示す条件、つまり、RXガスにアンモニアガス(NH3)を1:1の割合で添加した雰囲気中で570℃にて3時間保持する条件で軟窒化を施し、その後120℃の油中へ冷却した。
各供試鋼について、上記のようにしてガス軟窒化した試験片のうち、ローラーピッチン
グ小ローラー試験片を用いて、ビッカース硬さでの「表面硬さ」を測定した。
すなわち、ガス軟窒化したローラーピッチング小ローラー試験片を横断した後、樹脂に
埋め込んで鏡面研磨し、JIS Z 2244(2003)における「ビッカース硬さ試験−試験方法」に
準拠して、試験片の表面から0.03mmの位置の10点でのビッカース硬さを、試験力
を0.9807Nとして測定し、算術平均してビッカース硬さでの「表面硬さ」を求めた
また、ガス軟窒化した切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片、ローラーピッチング小ロ
ーラー試験片及びローラーピッチング大ローラー試験片に、表2〜5に示す条件A〜Dの
いずれかの条件でショットピーニングを行った後、小野式回転曲げ疲労試験及びローラー
ピッチング試験を行った。また、ショットピーニングしたローラーピッチング小ローラー
試験片を用いて、化合物層深さ、表面圧縮残留応力及び算術平均高さRaでの表面粗さを
調査した。
Figure 0004752635
Figure 0004752635
Figure 0004752635
Figure 0004752635
小野式回転曲げ疲労試験は、ショットピーニングして仕上げた図5に示す切欠き付き小
野式回転曲げ疲労試験片を用いて、室温、大気中、回転数3000rpmの条件で実施し
た。
評価は、繰返し数が107回で破断しない強度を回転曲げ疲労強度とした。なお、この回転曲げ疲労強度の目標は700MPa以上とし、回転曲げ疲労強度が目標とする700MPa以上の場合に、従来の軟窒化部品よりも良好な回転曲げ疲労強度を有するものとした。
ローラーピッチング試験は、ショットピーニングして仕上げた図6及び図7に示すロー
ラーピッチング小ローラー試験片及びローラーピッチング大ローラー試験片を用いて、下
記の試験条件で行い、繰返し数が107回において1mm以上の大きさのピッチングが発生しない強度をピッチング強度とした。なお、このピッチング強度の目標は2000MPa以上とし、ピッチング強度が目標とする2000MPa以上の場合に、従来の軟窒化部品よりも良好なピッチング強度を有するものとした。
・すべり率:40%、
・回転数:1000rpm
・潤滑油:油温90℃のオートマチックトランスミッション油。
但し、上記の「すべり率」は、「V1」をローラーピッチング小ローラー試験片表面の接
線速度、「V2」をローラーピッチング大ローラー試験片表面の接線速度として、{(V
2−V1)/V1}×100で計算される値を指す。
化合物層深さは、ショットピーニングして仕上げた図6に示すローラーピッチング小ロ
ーラー試験片を横断した後、樹脂に埋め込んで鏡面研磨し、ナイタルで腐食した後、JIS
G 0562(1993)における「金属組織試験による測定方法」に準拠して、表面のミクロ組織を
倍率を2000倍として電子顕微鏡で10視野観察して表面からの深さを測定した。
圧縮残留応力は、ショットピーニングして仕上げた図6に示すローラーピッチング小ロ
ーラー試験片の表面を深さ方向に50μm電解研磨し、X線回折することによって測定し
た。
算術平均高さRaでの表面粗さは、ショットピーニングして仕上げた図6に示すローラ
ーピッチング小ローラー試験片の直径26mmの面を、JIS B 0601(2001)に準拠して、触
針式の表面粗さ計を用いて軸方向に3mmずつ5か所測定し、算術平均して求めた。
なお、図5〜7中に示した前述の試験片における寸法の単位は全て「mm」である。
上記各図における仕上げ記号「▽」、「▽▽」及び「▽▽▽」は先の図1〜3における
と同様、それぞれ、JIS B 0601(1982)の解説表1の表面粗さを示す「三角記号」である。
また、「▽▽▽」に付した「G」はJIS B 0122(1978)に規定の「研削」を示す加工方法
の略号であることを意味する。
更に、「〜」は「波形記号」であり、生地であること、つまり、ショットピーニングし
て仕上げた表面のままであることを意味する。
表6に、上記の各試験結果をまとめて示す。
なお、図8に、ショットピーニング後の化合物層深さが0であった試験番号13の場合
について、軟窒化ままのショットピーニング実施前及び各段のショットピーニングを行っ
た後の試験片の表面近傍の状況を模式的に示した。この図8において、(a)〜(d)は
それぞれ、ショットピーニング実施前、1段目のショットピーニング後、2段目のショッ
トピーニング後及び3段目のショットピーニング後の試験片表面近傍の状況を示すもので
ある。
Figure 0004752635
表6から、本発明で規定する条件を満たす試験番号1〜20の場合、いずれも、その回
転曲げ疲労強度及びピッチング強度は、それぞれ、700MPa以上及び2000MPa
以上であり、産業界から要望されている従来の軟窒化部品よりも良好な回転曲げ疲労強度
とピッチング強度を備えていることが明らかである。
これに対して、本発明で規定する条件から外れた比較例の試験番号21〜28の場合、
ピッチング強度が、或いは、ピッチング強度と回転曲げ疲労強度の双方が、本発明の目標
に達していない。
すなわち、試験番号21は、鋼21におけるCの含有量が0.09%と本発明で規定す
る値よりも低いため、回転曲げ疲労強度及びピッチング強度はそれぞれ、685MPa及
び1710MPaと低く、本発明の目標に達していない。
試験番号22は、鋼22におけるSiの含有量が0.08%と本発明で規定する値より
も低く、しかも軟窒化後の表面硬さがビッカース硬さで580と本発明で規定する値より
も低いため、回転曲げ疲労強度及びピッチング強度はそれぞれ、620MPa及び176
0MPaと低く、本発明の目標に達していない。
試験番号23は、軟窒化後の表面硬さがビッカース硬さで564と本発明で規定する値
よりも低いため、回転曲げ疲労強度及びピッチング強度はそれぞれ、650MPa及び1
705MPaと低く、本発明の目標に達していない。
試験番号24は、ショットピーニングを、本発明で規定する条件から外れた条件Cで実
施したため、ピッチング強度は1750MPaと低く、本発明の目標に達していない。
試験番号25は、ショットピーニングを、本発明で規定する条件から外れた条件Cで実
施したため、ピッチング強度は1830MPaと低く、本発明の目標に達していない。
試験番号26は、ショットピーニングを、本発明で規定する条件から外れた条件Cで実
施したため、ピッチング強度は1840MPaと低く、本発明の目標に達していない。
試験番号27は、ショットピーニングを、本発明で規定する条件から外れた条件Dで実
施したため、回転曲げ疲労強度及びピッチング強度はそれぞれ、610MPa及び175
0MPaと低く、本発明の目標に達していない。
試験番号28は、ショットピーニングを、本発明で規定する条件から外れた条件Dで実
施したため、回転曲げ疲労強度及びピッチング強度はそれぞれ、510Pa及び1700
MPaと低く、本発明の目標に達していない。
本発明の方法によって製造された軟窒化部品は、産業界から要望されている従来の軟窒
化部品よりも良好なピッチング強度と回転曲げ疲労強度を有するので、自動車のトランス
ミッションなどの部品として用いることができる。
実施例で用いた切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片の丸棒から切り出したままの形状を示す図である。 実施例で用いたローラーピッチング小ローラー試験片の丸棒から切り出したままの形状を示す図である。 実施例で用いたローラーピッチング大ローラー試験片の丸棒から切り出したままの形状を示す図である。 実施例における軟窒化の条件を示す図である。 実施例の小野式回転曲げ疲労試験で用いた切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片の形状を示す図である。 実施例のローラーピッチング試験で用いたローラーピッチング小ローラー試験片の形状を示す図である。 実施例のローラーピッチング試験で用いたローラーピッチング大ローラー試験片の形状を示す図である。 ショットピーニング後の化合物層深さが0であった試験番号13の場合について、試験片の表面近傍の状況を模式的に示す図で、(a)〜(d)のうち、(a)はショットピーニング実施前における、(b)は1段目のショットピーニング後における、(c)は2段目のショットピーニング後における、また(d)は3段目のショットピーニング後における、それぞれの試験片表面近傍の状況を示す図である。

Claims (3)

  1. 質量%で、C:0.15〜0.30%、Si:0.10〜0.80%、Mn:0.40
    〜2.0%、P:0.025%以下、S:0.005〜0.10%、Cr:0.70〜3
    .0%、Al:0.020〜0.20%、V:0.050〜0.50%及びN:0.00
    30〜0.010%を含み、残部はFe及び不純物からなる鋼を、部品形状に加工した後
    、軟窒化して表面硬さをビッカース硬さで600以上とし、次いで、下記の条件〈1〉〜
    〈3〉を満たすショットピーニング処理をこの順に施すことを特徴とする軟窒化部品の製
    造方法。
    条件〈1〉:「ショット粒径:0.1〜0.3mm、ショット硬さ:ロックウェルC硬
    さで58〜65、投射速度:30〜60m/秒、投射時間:5〜20秒」
    条件〈2〉:「ショット粒径:0.5〜1.2mm、ショット硬さ:ロックウェルC硬
    さで58〜65、投射速度:60〜120m/秒、投射時間:30〜60秒」
    条件〈3〉:「ショット粒径:0.1〜0.3mm、ショット硬さ:ロックウェルC硬
    さで58〜65、投射速度:60〜120m/秒、投射時間:30〜60秒」
  2. 鋼が、Feの一部に代えて、Mo:1.0%以下を含有する請求項1に記載の軟窒化部
    品の製造方法。
  3. 鋼が、Feの一部に代えて、Pb:0.20%以下及びCa:0.0050%以下のう
    ちの1種又は2種を含有する請求項1又は2に記載の軟窒化部品の製造方法。
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