JP7015181B2 - 摺動部材 - Google Patents

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Description

本発明は、摺動部材に関する。
鉄系素材において機械的性質の向上、耐食性の向上あるいは機能性の向上のための組織制御の手法として表面硬化法がある。
特許文献1には、炭素含有量が表面から内部に向かって低下した、鋼によって形成された基材と、周期律表における第4A族、第5A族又は第6A族の遷移金属元素を含む炭化物からなる膜と、を有する耐摺動部材が記載されている。この炭化物からなる膜は、硬度が高く、従って耐摺動部材の表面を高硬度にできる、という効果が得られることが記載されている。特許文献1においては、浸炭処理が施された基材を高温の溶融塩浴剤中に浸漬することにより、基材の表面に膜を形成する。溶融塩浴剤の例としては、ほう砂にFe-Vの金属粉末を添加したものが挙げられている。
特許文献2には、表面硬化層を有する鋼材の信頼性を向上させることを目的として、鉄系材料の表面側に粒状の炭素及び窒素を含む鉄化合物を有する表面硬化鋼材が記載されている。特許文献2には、実施例として、NH-CH系混合ガスを用いて600℃で鉄板の表面を炭窒化する処理が記載されている。
特許文献3には、熱間圧延用複合ロールにおいて、外層に、Fe基合金の金属組織中に、黒鉛と、V等を含有するMC系炭化物と、を分散した構成を有するものが記載されている。この外層は、溶湯を用いて形成するものである。
特開2016-041830号公報 特開2015-206061号公報 特開2004-009063号公報
特許文献1に記載の耐摺動部材に形成されるバナジウム炭化物の膜については、バナジウムが溶融塩浴剤から供給されるのに対し、炭素は浸炭処理を施した基材から供給される。このため、バナジウム炭化物の膜と基材側との境界部分には、炭素濃度が低下した領域が生じ、構造材としての機械特性に変動が生じるおそれがある。
特許文献2に記載の表面硬化鋼材は、ガスを用いて炭窒化するため、その際に用いる炉を密閉する等、処理装置が大掛かりになるおそれがある点で改善の余地が残っている。
特許文献3に記載の熱間圧延用複合ロールの外層は、溶湯を用いて形成するため、処理装置が大掛かりになるおそれがある点で改善の余地が残っている。
構造材(摺動部材)の表面に金属炭化物の層(MC層)を形成する手法において、構造材の表面に連続したMC層は、構造材との密着性や信頼性の観点からの望ましくない場合もある。このため、当該手法は、金属炭化物(MC)が連続せずに分散した構造を有していることが望ましい場合にも対応できることが望ましい。また、金属元素Mや炭素Cを構造材の表面に拡散する工程において酸化をできるだけ防止する必要がある。
摺動部材においては、その寸法精度を管理して製造している。そして、摺動部材の形状や表面寸法精度の公差管理により、疲労ばらつきを低減している。このような寸法精度を管理するためには、焼入れなどの高温熱処理の際に発生する変形や歪を低減することにより、又は変形後に摺動部材の表面を研削することにより、寸法精度を確保する。変形を伴う熱処理後に研削する場合、最も外側の表面の硬化層は、研削困難であり、硬化層は必ずしも必要ではない。
疲労寿命向上の観点からは、研削した後も、表面に硬化層を残留させる必要がある。そのような表面及び表面近傍の炭化物は、研削後の公差範囲内においてMC系炭化物として分散された状態で残存し、磨耗などにより表面が磨り減った後もMC系炭化物が分散された状態で残存していることが重要である。この場合に、低コスト化の観点から、MC系炭化物を摺動部材の中央部を含む全体に均一に分散するのではなく、焼入れによる硬化部の硬化深さと同等以下の深さの表面近傍にのみ形成させることが望ましい。
本発明の目的は、硬化層を有する摺動部材の疲労寿命を向上するとともに、硬化層の一部を研削した後も疲労寿命を維持することにある。
本発明の摺動部材は、基材と、硬化層と、を有し、硬化層は、金属と炭素とを構成元素として含む炭化物を含み、炭化物を構成する金属は、Ti、V、Nb、Ta、Zr、W、Hf及びMoからなる群から選択された1種類以上の金属元素を含み、硬化層は、基材よりも炭化物の体積率が高く、炭化物の体積率は、硬化層の気相側表面から基材の中央部に向かって減少しており、硬化層は、研削された機械加工面を有する。
本発明によれば、硬化層を有する摺動部材の疲労寿命を向上するとともに、硬化層の一部を研削した後も疲労寿命を維持することができる。
実施例2の摺動部材に形成された硬化層の組織を示す模式断面図である。 実施例3の摺動部材に形成された硬化層の組織を示す模式断面図である。 実施例4の摺動部材に形成された硬化層の組織を示す模式断面図である。 実施例2の摺動部材の表面からの深さに対する硬さの測定結果を示すグラフである。 実施例2の摺動部材の表面からの深さに対する炭素濃度の測定結果を示すグラフである。 実施例2の摺動部材の表面からの深さに対するV濃度の測定結果を示すグラフである。 実施例3の摺動部材の表面からの深さに対する硬さの測定結果を示すグラフである。 実施例3の摺動部材の表面からの深さに対する炭素濃度の測定結果を示すグラフである。 実施例3の摺動部材の表面からの深さに対するV濃度の測定結果を示すグラフである。 実施例4の摺動部材の表面からの深さに対する硬さの測定結果を示すグラフである。 実施例4の摺動部材の表面からの深さに対する炭素濃度の測定結果を示すグラフである。 実施例4の摺動部材の表面からの深さに対するV濃度の測定結果を示すグラフである。 実施例4である硬化層を有する摺動部材の断面SEM画像である。
本発明は、低合金鋼等の疲労強度を向上するための表面改質に使用するスラリー及びこれを用いて作製した摺動部材に関する。
低合金鋼等の表面硬化処理には、油焼入れや水焼入れなどの焼入れ工程が利用されている。焼入れによりマルテンサイトを主として形成する硬化処理に加え、マルテンサイトと炭化物MC(MはFe、Cr、Moなど)とを形成する硬化処理がある。後者の硬化処理においては、MCよりもMに対する炭素濃度が高く、MCよりも硬くかつ安定な炭化物であるMC(以下「MC系炭化物」ともいう。)を焼入れ硬化部の一部に成長させる。MC系炭化物には、不可避的に導入される窒素が炭化物と反応して形成される炭窒化物M(C,N)も含まれる。
従来、上記MCを形成して材料強度や摺動性を向上させる場合、素材の母合金の溶解工程でMCの構成元素を添加し、MCを形成するために専用の熱処理工程が必要であった。特に、MCを形成するMは、希少な金属元素であるため、素材の中央部まで含有させることは、価格安定性及び資源保護の観点から、特殊部材以外への適用は困難であった。従来の表面処理で形成されるMCは、連続した層状膜であり、その形成温度は高く、研削が必要な部材では適用困難であった。さらに、層状MCは、被処理材とMCとの界面付近で剥離しやすく、応用が限定されていた。
本発明の摺動部材は、基材と、硬化層と、を有する。そして、硬化層は、研削された面(機械加工面)を有する。すなわち、本発明の摺動部材に形成された硬化層は、適宜、比較的容易に研削可能な構成を有する。
MCを含む硬化層の連続性及び信頼性に関しては、MCが層状ではなく、粒子状で被処理材に分散していることが望ましい。したがって、MCが加熱時に被処理材への溶解又は固溶をする材料系であることが望まれる。MCが被処理材に拡散・溶解することができる工程を経れば、MCが層状で残留しにくくなる。このような金属元素Mとしては、Ti、V、Nb、Ta、Zr、W、Hf、Mo等が挙げられる。
MC系炭化物を表面に分散させるためには、Mを被処理材(基材)の外側(外表面)から拡散させる方法が望ましい。また、炭素も基材の外側から供給し拡散させることが望ましい。この場合、MC系炭化物は、被処理材(炭素鋼)の表面から深さ約1mmの範囲(表層部)で分散して成長させる程度でもよい。上記のM及びCを被処理材の外表面から拡散させる方法を採用すると、拡散係数がCよりもMの方が小さいため、Mの方が表面からの拡散距離が短くなる。
M及びCを外周側から内部(中央部)に向かって拡散させる方法は、MC系炭化物が層状に成長することを防止することができる。炭素を拡散した後にMを拡散させる方法を用いた場合は、先に拡散させた炭素の一部が表面から拡散したMと結合してMCを形成することに伴う炭素の逆流が起きる。このため、Mを拡散させた後に炭素を供給する方式を採用することが考えられる。
上記のような観点から、被処理材の表層部にMC成長に伴う硬化層を形成するための条件は、次のものが挙げられる。
1)被処理材の表面からMC(又はM(C,N))の構成元素を供給し、拡散させる。
2)MCの主な構成元素であるM及びCは、それぞれ独立に制御して拡散させる。
3)M拡散工程は、C拡散工程よりも前に行うことが望ましい。
4)Mは、Ti、V、Nb、Ta、Zr、W、Hf及びMoのうち少なくとも一種以上である。
上記の条件で形成されるMCを含む硬化層を有する摺動部材の特徴は、次のとおりである。
a)摺動部材の表面から内部にかけてM及びCの濃度勾配があり、M及びCの濃度は、基材の中心部より硬化層の外表面側の方が高い。
b)MCの体積率は、基材の中心部よりも硬化層の外表面側が大きい。
c)MCは、摺動部材の表層部(硬化層)に分散している。
d)MCが分散されている領域の母地は、主として、マルテンサイト又はマルテンサイトとオーステナイトとで構成されている。
MCの粒子には、窒素が不可避的に混入し、M(C,N)となる場合がある。また、一部のMは、窒化物や酸化物となる場合もある。さらに、一部のMは、MCとは異なる組成の炭化物を形成する場合もあるが、MCよりも少ない量で分散していれば、問題にはならない。
量産工程で採用される方法は、次のとおりである。
被処理材は、加熱によりγ相が形成される材料(鋼材)であり、低合金鋼や工具鋼などはいずれも処理可能である。処理に使用するスラリーに用いる溶媒は、2-ブタノン、メタノール、エタノール等である。上記の金属元素Mを含む金属粉と、ベンゾトリアゾールやイミダゾール等の防錆剤(炭化剤)と、上記の溶媒と、を混合し、スラリーとする。
スラリーには、被処理材への塗布性を確保するために、結着剤としてエポキシ樹脂を添加する。このようにして作製したスラリーを被処理材の表面に塗布し、その後、乾燥させて溶媒を除去し、加熱して被処理材にγ相が形成される温度範囲で保持する。
上記の金属元素Mは、被処理材のγ相中に拡散し、浸炭ガス成分の分解によって拡散するCと結合し、MCとなって析出する。このMC系析出物(MC、M(C,N))は、硬さが1500~3000Hv(ビッカース硬さ)であり、耐摩耗性向上、疲労強度向上及び摩擦係数低減に寄与する。
以下、実施例について説明する。
実施例は、スラリーを塗布した後、浸炭拡散工程を施した例を主としているが、金属元素Mの拡散と炭素の拡散とによりMC系炭化物(以下「MC系化合物」ともいう。)を形成可能な手法であれば、これに限定されるものではない。
実施例1は、被処理材にスラリーを塗布した後、加熱拡散処理を行うことにより摺動部材を作製した例である。
被処理材は、炭素鋼S45C(Fe-0.2Cr-0.45C合金)である。
この被処理材をアセトンで洗浄し、表面の油脂成分を除去した。
塗布するスラリーは、溶媒である2-ブタノン100質量部に、平均粒径10μmのフェロバナジウム(Fe-80%V)の粉末(以下「FeV粉」という。)を20質量部、防錆剤であるベンゾトリアゾールを20質量部混合したものを用いた。
粉砕によりFeV粉の最大粒径を50μm以下とするために、上記のスラリーあるいは混合液をボールミルにより処理した。この処理においては、0.5mm径のジルコニアボールを使用した。処理条件は、600rpmで10時間とした。この処理により粉砕したスラリーを遠心分離した。これにより、酸化物などの不純物を分離除去した。この混合液にエポキシ樹脂を5質量部添加し、被処理材に塗布可能な粘度に調整した。
塗布方式は、浸漬方式とした。粘度を調整した上記スラリー中に被処理材を浸漬し、一定速度で引き上げることにより、スラリーを被処理材の表面に塗布した。塗布膜厚は、約50μmであった。
スラリーを塗布した被処理材を乾燥し、溶媒を蒸発させた後、Arガス雰囲気で加熱した。加熱条件は、昇温速度10℃/分、1150℃に達した後2時間保持した。保持後、A1変態温度以下に冷却し、再度加熱した。加熱保持温度及び時間は、850℃、1時間とした。この加熱保持中にアセチレンガス(C)を導入した。Cを5分間導入し10分間拡散する工程を4回繰り返した後、油焼入れをすることにより、硬化層を形成し、試験片(サンプル)とした。このサンプルは、後述の表1におけるサンプル1-1である。
180℃、2時間の焼き戻しをした後、試験片の疲労寿命を評価した。寿命試験には、二円筒疲労試験を用いて、ピッチング面積の比率から寿命を求めた。ここで、疲労寿命は、バナジウム(V)等の金属元素Mを使用しない試験片、すなわちMC無しの焼入れ材であってその表面の炭素濃度を約0.6質量%とした浸炭材の場合を1とした相対値で表している。
上記の条件で作製した試験片について、EPMA分析により、VC系化合物の体積率を測定した。その結果、表面から深さ50μmまでの領域におけるVC系化合物の体積率は、12%であった。また、同様に、表面から深さ50μmまでの領域における硬さを測定した結果、900Hvであった。ここで、EPMA分析とは、電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer)による分析をいう。EPMA分析によれば、微小領域における硬さ、炭素濃度、バナジウム濃度等を測定することができる。
なお、MC系化合物の体積率、平均粒径及びアスペクト比は、EPMAのマッピング及びSEMによる分析結果から求めた。ここで、SEMは、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)である。
疲労寿命は、2.2倍であることを確認した。
上述のように疲労寿命を増加させるためのプロセス条件について、以下に説明する。
寿命向上は、マルテンサイト及び残留オーステナイトの母地にVC系炭化物の粒子が分散することにより、母地の結晶粒径を0.2~10μmの範囲で微細化し、マルテンサイトのブロックやパケットも微細化することにより達成される。さらに、高硬度のVC系炭化物によって、き裂の進展を抑制することができる。VC系化合物は、マルテンサイトに析出している1~100nmの粒子、及び粒界などに析出している0.2~2μmの粒子がある。前者がマルテンサイトの強化、後者がマルテンサイトの微細化に寄与している。
本実施例のようなVC系化合物を分散成長させるためには、外部からの炭素供給源が必要である。スラリーに添加された、炭素供給源となるベンゾトリアゾールは、高価な浸炭炉を使用せず、スラリーからの拡散によりVC系化合物を摺動部材の内部に形成するものであり、酸化防止効果も有する。
なお、「VC系化合物」は、V、V、V、V、VCなどの炭化バナジウムの総称である。よって、本明細書においては、VC系化合物を「VC系炭化物」とも呼ぶ。これは、M及びM(C,N)(Mは金属元素、Cは炭素、aは正数、b=a,a-1)で表される化合物の総称である「MC系化合物」のうち、MがVの場合の化合物である。MC系化合物の結晶構造は、立方晶、六方晶、斜方晶及び正方晶のうちのいずれかである。まとめると、MC系化合物(炭化物)を構成する金属元素Mと炭素との原子数の比は、1:1~2:1の範囲、言い換えると1以上2以下であることが望ましい。
なお、VC系炭化物のVの一部があらかじめS45Cに添加されている金属元素(Cr、Mo、Ni、Cu、Alなど)で置換され、炭素の一部が窒素やホウ素によって置換されていても、硬度が保持され、分散状態が維持されていれば、寿命向上効果に大きな影響はなく、問題ない。
(C,N)で表される炭化物以外に、(Fe,X)Cで表される炭化物が粒状に成長している。ここで、Xは、Cr、Mo、Mn、Ti、Vなどの被処理材が含有する鉄以外の金属元素である。これらの炭化物は、炭化物の中心部と、炭化物と母地との界面(炭化物/母地の界面)と、母地とで、炭素の濃度及び元素Xの濃度に差異が認められる。母地は、残留オーステナイトあるいはマルテンサイトである。M(C,N)及び(Fe,X)C炭化物は、マルテンサイトの微細化又は残留オーステナイトの微細化により、き裂進展を抑制し、疲労強度を高める。
実施例2は、被処理材に塗布するスラリーとして、複数の合金粉を混合したものを用いた例である。以下、主として、実施例1と異なる点について説明する。
被処理材は、S45C(Fe-0.2Cr-0.45C合金)である。
この被処理材を、アセトンを用いて超音波洗浄をし、表面の油脂成分を除去した。
塗布するスラリーには、塗布粉であるFeV粉と、Fe-50%Crの粉末(添加粉)とを混合し、混合粉とした。ここで、FeV粉と添加粉との混合比率は、質量基準で90:10とした。すなわち、混合粉に含まれる添加粉の割合は、10質量%である。FeV粉及び添加粉の平均粒径は、いずれも10μmである。
この混合粉を、溶媒である2-ブタノン100質量部に対して20質量部、防錆剤であるベンゾトリアゾールを10質量部混合することにより、スラリーを作製した。
そして、実施例1と同様にして、スラリーを被処理材の表面に塗布し、乾燥し、Arガス雰囲気で加熱した。加熱条件は、昇温速度10℃/分、1150℃に加熱、1150℃に達した後2時間保持である。
この加熱工程により、V及びCrが表面から内部に拡散する。拡散するVやCrの一部は、炭化物を形成するが、炭化物は、γ相に溶解するため、層状炭化物にはならない。拡散は、粒界及び粒内で進行するため、VやCrの濃度は、粒内よりも粒界で増加する。このため、VやCrは、粒界から粒内に向かって拡散し、γ相に固溶する。
上記のように1150℃で2時間保持した後、アセチレンガスを導入し、浸炭した。浸炭時間を区切って浸炭と拡散とを交互に進め、ガス冷却した。
本実施例においては、浸炭及び拡散の時間配分は、浸炭10分、拡散50分、浸炭5分、拡散30分、浸炭5分、拡散5分である。
ガス冷却後、再加熱し、850℃で保持し、浸炭と拡散とを交互に繰り返した。浸炭5分と拡散15分とを4回繰り返した。そして、油温120℃の油焼入れをし、160℃、2時間の焼戻しをした。
浸炭工程においては、拡散したVやCrの一部が高濃度の炭素と結合し、MC系炭化物を形成する。被処理材の炭素濃度は、0.45質量%である。炭素濃度が1質量%を超えると、MC系炭化物が成長しやすくなる。VやCrを拡散させた後に炭素の供給を開始することにより、最も外側の表面における粗大なMC系炭化物の成長を阻止している。
浸炭する前に拡散したVやCrは、γ相において高濃度の炭素と結合し、その一部はMC系炭化物として粒内及び粒界に粒成長する。浸炭と拡散とを交互に繰り返すことにより、網目状に繋がった炭化物の成長を抑制している。
上記の850℃では、MC系炭化物及びMC系炭化物を分散させ、析出させている。1150℃で固溶していたV、Cr、C、及び被処理材にあらかじめ添加されているSi、Mn、Alなどの微量金属元素の一部がMC系炭化物及びMC系炭化物を形成する。MC系炭化物では、CrよりもVの濃度が高い。一方、MC系炭化物では、Cr濃度の方がV濃度よりも高い。したがって、MC系炭化物とMC系炭化物との体積比率を制御するためには、VとCrの比率を制御すればよい。MC系炭化物は、金属と炭素との原子数の比が1:3である。
本実施例においては、浸炭後の表面付近の炭素濃度は、1.8質量%であった。ここで、表面付近の濃度とは、サンプルを平面部に垂直な方向に切断した面(深さ方向の断面)において端部から5~30μmの範囲における濃度を指している。
図1Aは、本実施例の摺動部材に形成された硬化層の組織を示す模式図である。
本図に示すように、本実施例の摺動部材は、基材であるS45Cのフェライトパーライト4に硬化層が形成されている。硬化層は、焼入れ母地3にMC系炭化物1及びMC系炭化物2の粒子が分散された構造を有している。硬化層のうち、基材に接する領域(基材側の領域)には、MC系炭化物1が含まれず、MC系炭化物2だけが分散されている。
図2A~2Cは、サンプルの表面からの深さ(端部からの距離)に対して、その位置における硬さ、炭素濃度及びV濃度がどのように変化するか、すなわちサンプルにおける硬さ、炭素濃度及びV濃度の分布について測定した結果を示したものである。
図2Aは硬さ、図2Bは炭素濃度、図2CはV濃度についての分布をそれぞれ示したものである。
図2Aに示すように、深さ0.4mmまでは、硬さが1000Hv以上である。また、図2Bに示すように、深さ0.4mmまでは、炭素濃度が1.5質量%を超えている。図2Cに示すように、深さ0.4mmまでは、V濃度が2質量%を超えている。
これらの結果を表1のサンプル1-3にまとめて示す。
上記処理工程を経た後に、サンプルの表面を深さ約200μmにわたって研削した。その後、二円筒疲労試験により面圧6GPaにおける転動疲労寿命を評価した。その結果、疲労寿命は、12倍であった。この結果から、本実施例の表面硬化処理は、摺動部材の疲労寿命の大幅な向上に寄与し、摺動部材の小型軽量設計が可能であることがわかった。
表1には、上記の方法で作製した摺動部材(試験片)であるサンプル1-1(実施例1)及び1-3(実施例2)以外も含め、被処理材、塗布粉、添加粉、添加粉の比率、塗布厚さ、浸炭後の表面炭素濃度、MC系化合物の体積率、MC系化合物の分散領域の硬さ、MC系炭化物の平均粒径、MC系炭化物の平均アスペクト比、及び疲労寿命を示している。なお、表中の「MC系化合物」は、VC系化合物を含むものである。
Figure 0007015181000001
本表から、疲労寿命が10倍以上とするために必要となる条件は、表面炭素濃度が1.4~1.9質量%、MC系炭化物の体積率が7~18%、MC系化合物分散領域の硬さが1020~1200Hv、MC系炭化物の平均粒径が0.7~2.5μm、MC系炭化物の平均アスペクト比が1.0~1.2である。なお、これらの条件を全て満足しない場合でも、MC系炭化物を分散させかつ硬さを増加させることにより、寿命向上効果が得られる。
上記のような疲労寿命10倍が確認できた材料には、MC系炭化物以外にMC系炭化物が形成されている。母地は、マルテンサイト及び残留オーステナイトである。MC系炭化物及びMC系炭化物は、母地に分散している。これらの炭化物の体積率は、炭素濃度が高い表面近傍に向かって増加する。言い換えると、炭化物の体積率は、硬化層の気相側表面から基材の中央部に向かって単調に減少している。このことは、図2B及び2Cに示すとおりである。
実施例3は、被処理材としてS50Cを用いた例である。以下、主として、実施例2と異なる点について説明する。
本実施例は、低コスト材に適用可能な処理方法である。このサンプルは、前述の表1におけるサンプル1-8である。
塗布するスラリーは、溶媒であるメタノール100質量部に、平均粒径10μmのFeV粉を20質量部、防錆剤であるベンゾトリアゾールを1質量部混合したものを用いた。
被処理材の表面を脱脂洗浄した後、スラリーを塗布した被処理材を乾燥し、溶媒を蒸発させた。その後、浸炭炉の内部に被処理材を設置し、酸化防止のために窒素ガス(N)を流しながら加熱した。加熱条件は、昇温速度10℃/分、1150℃に加熱、1150℃に達した後1時間保持である。
この加熱工程により、Vが表面から内部に拡散する。拡散するVの一部は、炭化物を形成するが、炭化物は、γ相に溶解するため、層状炭化物にはならない。拡散は、粒界及び粒内で進行し、粒界のV濃度が粒内よりも増加する。粒界からVが粒内に向かって拡散し、γ相に固溶する。
上記のように1150℃で1時間保持した後、アセチレンガスを導入し、浸炭する。浸炭時間を区切って浸炭と拡散とを交互に進め、ガス冷却した。
本実施例においては、浸炭及び拡散の時間配分は、浸炭10分、拡散50分、浸炭5分、拡散30分、浸炭5分、拡散5分である。
850℃まで冷却後、850℃で保持し、浸炭と拡散とを交互に繰り返した。浸炭5分と拡散15分とを4回繰り返した。そして、油温120℃の油焼入れをし、160℃、2時間の焼戻しをした。
浸炭工程においては、拡散したVの一部が高濃度の炭素と結合し、MC系炭化物を形成する。被処理材の炭素濃度は0.5質量%であり、炭素濃度が1質量%を超えると、MC系炭化物が成長しやすくなる。Vを拡散させた後に炭素の供給を開始することにより、最も外側の表面における粗大なMC系炭化物の成長を阻止している。
浸炭する前に拡散したVは、γ相において高濃度の炭素と結合し、その一部はMC系炭化物として粒内及び粒界に粒成長する。浸炭と拡散とを交互に繰り返すことにより、網目状に繋がった炭化物の成長を抑制している。
上記の850℃では、MC系炭化物及びMC系炭化物を分散させ、析出させている。1150℃で固溶していたV、C及び被処理材にあらかじめ添加されているSi、Mn、Alなどの微量金属元素の一部がMC系及びMC系炭化物を形成する。
本実施例においては、浸炭後の表面付近の炭素濃度が1.5質量%であった。
図1Bは、本実施例の摺動部材に形成された硬化層の組織を示す模式図である。
本図に示すように、本実施例の摺動部材は、基材であるS50Cのフェライトパーライト4に硬化層が形成されている。硬化層は、焼入れ母地3にMC系炭化物1及びMC系炭化物2の粒子が分散された構造を有している。硬化層のうち、基材に接する領域(基材側の領域)には、MC系炭化物1及びMC系炭化物2が含まれていない。
図3A~3Cは、サンプルにおける硬さ、炭素濃度及びV濃度の分布について測定した結果を示したものである。
図3Aは硬さ、図3Bは炭素濃度、図3CはV濃度についての分布をそれぞれ示したものである。
図3Aに示すように、深さ0.5mmまでは、硬さが900Hv以上である。また、図3Bに示すように、深さ0.4mmまでは、炭素濃度が1.2質量%を超えている。図3Cに示すように、深さ0.4mmまでは、V濃度が2.0質量%を超えている。このサンプルは、前述の表1におけるサンプル1-7である。
上記処理工程を経た後に、サンプルの表面を深さ約100μmにわたって研削した。その後、二円筒疲労試験により面圧6GPaにおける転動疲労寿命を評価した。その結果、疲労寿命は、1.5倍であった。
実施例4は、被処理材に塗布するスラリーとして、バナジウム粉(V粉)及び添加粉を混合したものを用いた例である。以下、主として、実施例2と異なる点について説明する。
被処理材は、S45C(Fe-0.2Cr-0.45C合金)である。
塗布するスラリーには、塗布粉である純度99%のV粉と、Fe-50%Cr-5%Cの粉末(添加粉)とを混合し、混合粉とした。ここで、V粉と添加粉との混合比率は、質量基準で90:10とした。すなわち、混合粉に含まれる添加粉の割合は、10質量%である。V粉及び添加粉の平均粒径は、いずれも10μmである。
この混合粉を、溶媒である2-ブタノン100質量部に対して20質量部、防錆剤であるベンゾトリアゾールを10質量部混合することにより、スラリーを作製した。
そして、実施例2と同様にして、スラリーを被処理材の表面に塗布し、乾燥し、Arガス雰囲気で加熱した。
この加熱工程により、V及びCrが表面から内部に拡散する。拡散するVやCrの一部は、炭化物を形成するが、炭化物は、γ相に溶解するため、層状炭化物にはならない。拡散は、粒界及び粒内で進行するため、VやCrの濃度は、粒内よりも粒界で増加する。このため、VやCrは、粒界から粒内に向かって拡散し、γ相に固溶する。
ガス冷却後、再加熱し、700℃で2時間保持することにより、MC系炭化物を球状化させる。700℃においてCrをMC系炭化物に偏在させる。
さらに、850℃まで加熱保持し、実施例2と同様にして、浸炭と拡散とを交互に繰り返す。その後の油焼入れ及び焼戻しについても、実施例2と同様に行った。
850℃では、MC系炭化物を分散析出させている。1150℃で固溶していたV、Cr、C及び被処理材にあらかじめ添加されているSi、Mn、Alなどの微量金属元素の一部がMC系炭化物及びMC系炭化物を形成する。MC系炭化物ではCr濃度よりもV濃度が高く、MC系炭化物ではCr濃度の方がV濃度よりも高い。
本実施例では、浸炭後のサンプルの表面付近の炭素濃度は1.4質量%であった。
図1Cは、本実施例の摺動部材に形成された硬化層の組織を示す模式図である。
本図に示すように、本実施例の摺動部材は、基材であるS45Cのフェライトパーライト4に硬化層が形成されている。硬化層は、焼入れ母地3にMC系炭化物1の粒子が分散された構造を有している。硬化層のうち、基材に接する領域(基材側の領域)には、MC系炭化物1が含まれていない。
図5は、本実施例である硬化層を有する摺動部材の断面SEM画像である。
本図において、摺動部材は、基材であるS45Cのフェライトパーライト54と、焼入れ母地53にMC系炭化物51が分散された硬化層と、を含む。MC系炭化物51は、断面形状が楕円径の粒子である。言い換えると、角のない形状の粒子である。
図4A~4Cは、サンプルにおける硬さ、炭素濃度及びV濃度の分布について測定した結果を示したものである。
図4Aは硬さ、図4Bは炭素濃度、図4CはV濃度についての分布をそれぞれ示したものである。
図4Aに示すように、深さ0.4mmまでは、硬さが880Hv以上である。また、図4Bに示すように、深さ0.4mmまでは、炭素濃度が1.0質量%を超えている。図4Cに示すように、深さ0.4mmまでは、V濃度が1.0質量%を超えている。
これらの結果を表1のサンプル1-19にまとめて示す。
上記処理工程を経た後に、サンプルの表面を深さ約200μmにわたって研削した。その後、面圧6GPaにおける転動疲労寿命を評価した。その結果、疲労寿命は、15倍であった。
実施例5は、被処理材に塗布するスラリーとして、バナジウム粉(V粉)及び添加粉を混合したものを用いた例である。以下、主として、実施例4と異なる点について説明する。
被処理材は、S40Cである。
塗布するスラリーには、塗布粉である純度99%のV粉と、Fe-50%Cr-5%Cの粉末(添加粉)とを混合し、混合粉とした。ここで、V粉と添加粉との混合比率は、質量基準で90:10とした。すなわち、混合粉に含まれる添加粉の割合は、10質量%である。V粉及び添加粉の平均粒径は、いずれも10μmである。
この混合粉を、溶媒である2-ブタノン100質量部に対して20質量部、防錆剤であるベンゾトリアゾールを10質量部混合することにより、スラリーを作製した。
被処理材の表面を脱脂洗浄した後、スラリーを塗布した被処理材を乾燥し、溶媒を蒸発させた。その後、浸炭炉の内部に被処理材を設置し、実施例3と同様に、酸化防止のために窒素ガスを流しながら加熱した。加熱条件は、実施例3とは異なり、昇温速度10℃/分、1250℃に加熱、1250℃で5分間保持、その後1100℃に冷却、1100℃で1時間保持である。
この加熱工程により、V、Cr及びCが表面から内部に拡散する。拡散するVやCrの一部は、炭化物を形成するが、炭化物は、γ相に溶解するため、層状炭化物にはならない。拡散は、粒界及び粒内で進行するため、C、V及びCrの濃度は、粒内よりも粒界で増加する。このため、C、V及びCrは、粒界から粒内に向かって拡散し、γ相に固溶する。
上記のように1100℃で1時間保持した後、窒素ガス冷却により500℃まで冷却した。そして、更に焼入れ温度である820℃に加熱し、油焼入れをした。拡散したVやCrは、γ相において高濃度の炭素と結合し、その一部はMC系炭化物として粒内及び粒界に粒成長する。
炭化物の形態及び寿命の結果は、後述の表2のサンプル2-1~2-4に示す。
MC系炭化物のMは、Cr及びVである。V濃度は、Cr濃度よりも高い。
本表から、被処理材がS40C、S45C、S55C及びS58Cのいずれ場合においても、MC系炭化物の体積率が15~17%であり、疲労寿命が10倍以上となっていることがわかる。
実施例6は、被処理材に塗布するスラリーとして、バナジウム粉(V粉)にチタン粉(Ti粉)を混合したものを用いた例である。以下、主として、実施例5と異なる点について説明する。
被処理材は、S40C、S45C、S55C及びS58Cである。
塗布するスラリーには、塗布粉である純度99%のV粉と、Ti粉(添加粉)とを混合し、混合粉とした。ここで、V粉と添加粉との混合比率は、質量基準で90:10とした。すなわち、混合粉に含まれる添加粉の割合は、10質量%である。V粉及び添加粉の平均粒径は、いずれも10μmである。
この混合粉を、溶媒である2-ブタノン100質量部に対して20質量部、防錆剤であるベンゾトリアゾールを10質量部混合することにより、スラリーを作製した。
被処理材の表面を脱脂洗浄した後、スラリーを塗布した被処理材を乾燥し、溶媒を蒸発させた。その後、浸炭炉の内部に被処理材を設置し、酸化防止のためにアルゴンガス(Ar)を流しながら加熱した。加熱条件は、実施例5とは異なり、昇温速度10℃/分、1150℃に加熱、1150℃で2時間保持である。
この加熱工程により、V及びTiが表面から内部に拡散する。拡散するVやTiの一部は、炭化物を形成するが、炭化物の一部は、γ相に溶解するため、層状炭化物にはならない。拡散は、粒界及び粒内で進行するため、VやTiの濃度は、粒内よりも粒界で増加する。このため、VやTiは、粒界から粒内に向かって拡散し、γ相に固溶する。
上記のように1150℃で2時間保持した後、アセチレンガスを導入し、浸炭した。浸炭時間を区切って浸炭と拡散とを交互に進め、ガス冷却した。
本実施例においては、浸炭及び拡散の時間配分は、浸炭10分、拡散50分、浸炭5分、拡散30分、浸炭5分、拡散5分である。
浸炭工程においては、拡散したVやTiの一部が高濃度の炭素と結合し、MC系炭化物を形成する。被処理材の炭素濃度は0.40~0.58質量%であり、炭素濃度が1質量%を超えると、MC系炭化物が成長しやすくなる。VやTiを拡散させた後に炭素の供給を開始することにより、最も外側の表面における粗大なMC系炭化物の成長を阻止している。
浸炭する前に拡散したVやTiは、γ相において高濃度の炭素と結合し、その一部はMC系炭化物として粒内及び粒界に粒成長する。浸炭と拡散とを交互に繰り返すことにより、網目状に繋がった炭化物の成長を抑制している。
ガス冷却後、再加熱し、700℃で2時間保持することにより、MC系炭化物を球状化させる。700℃において被処理材に添加されているCrやMnをMC系炭化物に偏在させる。
さらに、850℃まで加熱保持し、実施例2と同様にして、浸炭と拡散とを交互に繰り返す。その後の油焼入れ及び焼戻しについても、実施例2と同様に行った。
850℃では、MC系炭化物を分散析出させている。1150℃で固溶していたV、Ti、C及び被処理材にあらかじめ添加されているSi、Mn、Cr、Alなどの微量金属元素の一部がMC系炭化物及びMC系炭化物を形成する。MC系炭化物ではCr濃度よりもV濃度が高く、MC系炭化物ではCr濃度の方がV濃度よりも高い。
本実施例では、浸炭後の表面付近の炭素濃度が1.5~1.7質量%であった。
上記処理工程を経た後に、サンプルの表面を深さ約200μmにわたって研削した。その後、面圧6GPaにおける転動疲労寿命を評価した。その結果、疲労寿命は、10倍以上であった。
結果は、表2のサンプル2-5~2-8に示す。
表2には、表1と同様に、被処理材、塗布粉、添加粉、添加粉の比率、塗布厚さ、浸炭後の表面炭素濃度、MC系化合物の体積率、MC系化合物の分散領域の硬さ、MC系炭化物の平均粒径、MC系炭化物の平均アスペクト比、及び疲労寿命を示している。
Figure 0007015181000002
1、51:MC系炭化物、2:MC系炭化物、3、53:焼入れ母地、4、54:フェライトパーライト。

Claims (8)

  1. 鋼材である基材と、
    硬化層と、を有し、
    前記硬化層は、前記鋼材に実質的に含まれる元素以外の金属と炭素とを構成元素として含む炭化物を含み、
    前記炭化物を構成する前記金属は、Ti、V、Nb、Ta、Zr、W、Hf及びMoからなる群から選択された1種類以上の金属元素を含み、
    前記硬化層は、前記基材よりも前記炭化物の体積率が高く、
    前記炭化物の前記体積率は、前記硬化層の気相側表面から前記基材の中央部に向かって減少しており、
    前記炭化物は、粒子状であり、少なくとも前記硬化層に分散され、
    前記硬化層は、研削された機械加工面を有する、摺動部材。
  2. 前記基材は、γ相を有する、請求項1記載の摺動部材。
  3. 前記基材は、低合金鋼又は工具鋼である、請求項2記載の摺動部材。
  4. 前記炭化物の平均粒径は、0.3~2.5μmである、請求項1記載の摺動部材。
  5. 前記炭化物は、断面形状が楕円形である、請求項4記載の摺動部材。
  6. 前記炭化物は、アスペクト比が平均で2未満である、請求項5記載の摺動部材。
  7. 前記硬化層における前記炭化物の前記体積率は、7~18%である、請求項1記載の摺動部材。
  8. 前記炭化物は、前記金属と前記炭素との原子数の比が1:3であるものを更に含む、請求項1記載の摺動部材。
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