JP5378715B2 - 鋼材の表面処理方法および表面処理装置 - Google Patents

鋼材の表面処理方法および表面処理装置 Download PDF

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Description

本発明は、鋼材表面に密着性の高いクロム窒化物を主体とする窒素化合物層を形成させることによって、優れた耐摩耗性や耐熱性を有することになる鋼材の表面処理方法および表面処理装置に関するものである。
鋼材部品の耐摩耗性を向上させるための方法としては、例えばその表面部にNやCを侵入させる窒化処理方法、浸炭処理方法ならびに浸炭窒化方法等が幅広い機械部品に適用されてきている。
一方、機械部品の高精度化や鋼材価格の上昇もあり、エンジン部品や金型等の小型化や高負荷化は一層進んでおり、様々な部材に従来よりも高い耐磨耗性や高寿命化が要求されるようになってきている。このため、PVD法、PCVD法、CVD法といったコーティング処理方法も幅広く使用されるようになってきている。
これらのうちPVD法およびPCVD法は、窒化処理と同様に比較的処理温度が低く、様々な特性の被膜を鋼の変態点よりも低い温度で形成できるため、歪を嫌う部品を初めとして工具や金型等の表面被覆膜として幅広く利用されている。
しかしながら、これらの被膜は、被覆される基材との密着性向上を図るため、異なる性質を持つ被覆材料を積層したり、被覆される基材表面を窒化処理して被膜との硬度差を極力小さくしたりすることが行なわれているものの、その基材との密着性は決して十分に高いものではなく、高い面圧が負荷される部品等では剥離を起こしやすく、利用しづらいという問題点を有している(例えば特許文献1、2、3、4)。
また、基材との高い密着性を必要とする場合には、基材との間に合金層を形成しやすいCVD法も利用されているが、この方法は、鋼の変態点よりも高い温度で処理を行うため、処理品の変形の問題やCVD処理後に焼入れ焼き戻し等の熱処理が必要になる等、適用できる部材の範囲は自ずと限られるという問題点を有している(例えば特許文献5、6)。
これらのことから、大きな変形や処理後の特別な熱処理を必要としないのはもちろんのこと、耐摩耗性に優れ、さらに、高面圧が負荷された場合でも剥離を起こさない密着性の高い被膜を形成させるためには、鋼の変態点よりも低い温度で表面から元素を拡散させる方法が有効と考えられる。
このような方法として、表面に窒化層を形成させた後、塩浴中で表面からクロムを拡散させる方法が開示されている(特許文献7)。また、塩浴によるクロム拡散を利用した表面処理方法を用いた鍛造や鋳造に使用される金型についても開示されている(特許文献8、9)。
特許第3514963号公報 特開2003−245738号公報 特許第3971293号公報 特開2007−224805号公報 特開2003−10958号公報 特開2008−126334号公報 特許第3939451号公報 特開2001−25843号公報 特開2001−25856号公報
上記特許文献7の処理方法については、被処理品の表面にクロムを拡散させることによってクロム窒化物を形成させ、比較的良好な耐摩耗性の処理品を得ることができるが、塩浴の状態を安定的に維持することが難しい。このため、クロム窒化物を安定的に形成させ、摺動部材にとって重要な面粗さを安定させるのが困難である。したがって、例えば処理後に研磨等でその面粗さを調整することが行なわれるが、硬質の窒素化合物層を研磨すること自体が困難なうえ、研磨によって耐摩耗性に寄与する窒素化合物層が除去されてしまうおそれがあり、研磨による面粗さの調整が困難である。一方、面粗さが大きいまま摺動部品等に適用すると、処理品自体の耐摩耗性は良好でも、相手材の磨耗が進んでしまうという問題がある。
上記特許文献8および9の高温で使用される金型等は、表面にクロム窒化物を主体とする化合物層を形成させる。上記クロム窒化物は、耐摩耗性だけではなく耐熱性、耐酸化性に優れ、耐摩耗性や耐焼付き性等には優れるが、繰り返し熱サイクルが負荷されることによるヒートクラックが発生、進展しやすい場合もあり、必ずしも金型の寿命向上策として十分なものではない場合があった。
以上のように、高い面圧が負荷される摺動部材や繰り返し熱サイクルが負荷される金型等、過酷な環境で使用される部材を変形の少ない鋼の変態点以下で処理し、その耐久性を満足させるのに十分な処理方法およびそのような性質を有する部材の開発が必要となっている。
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、鋼材表面に密着性の高いクロム窒化物を主体とする窒素化合物層を形成させることによって、優れた耐摩耗性や耐熱性を有することになる鋼材の表面処理方法および表面処理装置を提供することを目的とする。
上記問題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、鋼材を塩浴処理してクロム等の拡散成分を浸透させる際に、被処理品の特性を不安定化させる最大の原因が、塩浴処理中に液面から酸素分や水分が塩浴中に取り込まれて拡散成分と反応して酸化物を形成し、被処理品への拡散反応に寄与しなくなることに起因するものであることを見出した。また、それを防止することにより、処理品表面部に拡散成分を安定的に供給することが可能となり、結果的に面粗さ等の特性が安定した化合物層を形成させることが可能となることを見出したのである。
上記目的を達成するため、本発明の鋼材の表面処理方法は、500℃以上の溶融塩中に鋼材を浸漬する鋼材の表面処理方法であって、
上記溶融塩がクロムを含み、窒化された上記鋼材を上記溶融塩に浸漬して表層部にクロム窒化物を形成し、
少なくとも上記鋼材を溶融塩に浸漬中、上記溶融塩の液面近傍に上記液面を大気と遮断するための不活性ガス層を形成する不活性ガス層形成工程を備え、
上記不活性ガス層形成工程は、塩浴処理剤を加熱溶融して溶融塩とするヒーターによって加熱される領域において加熱された不活性ガスを、上記溶融塩の上記液面近傍に供給することにより、400℃以上の不活性ガス層を形成することを要旨とする。
また、上記目的を達成するため、本発明の鋼材の表面処理装置は、500℃以上の溶融塩中に鋼材を浸漬する鋼材の表面処理装置であって、
上記溶融塩がクロムを含み、窒化された上記鋼材を上記溶融塩に浸漬して表層部にクロム窒化物を形成させ、
少なくとも上記鋼材を溶融塩に浸漬中、上記溶融塩の液面近傍に上記液面を大気と遮断するための不活性ガス層を形成させる不活性ガス層形成手段を備え
上記不活性ガス層形成手段は、塩浴処理剤を加熱溶融して溶融塩とするヒーターによって加熱される領域において加熱された不活性ガスを、上記溶融塩の上記液面近傍に供給することにより、400℃以上の不活性ガス層を形成することを要旨とする。
本発明の鋼材の表面処理方法は、少なくとも鋼材を溶融塩に浸漬中、上記溶融塩の液面近傍に上記液面を大気と遮断するための不活性ガス層を形成する。このように、少なくとも鋼材を溶融浴中に浸漬処理する間、塩浴の液面上を不活性ガスで覆うことによって、溶融塩中の成分と酸素分や水分との反応を実質的に防止し、溶融塩中の拡散成分の安定化を図り、被処理品の表面部に優れた性質を有する処理層である化合物層を形成させることが可能となる。さらに、処理中の拡散成分の変動が少なくなることによって、鋼材表面の面粗さも低く抑えることが可能となり、摺動部材として優れた特性をもつ鋼材を得ることができるようになる。
また、上記溶融塩がクロムを含み、窒化された鋼材を溶融塩に浸漬して表層部にクロム窒化物を形成させるため、溶融塩に浸漬処理中の拡散成分であるクロムの酸化による劣化を防止してクロム窒化物を安定的に形成させ、非常に密着性の高いクロム窒化物と鉄窒化物が混在した化合物層を表層部に形成させ、例えば高面圧が負荷され、油切れを起こすような摺動環境においても、PVDコーティングのように剥離等の問題を起こすこともなく、長期に渡って使用することが可能な表面層を形成させることが可能となる。
また、上記塩浴処理の温度が500℃以上であるため、形成されるクロム窒化物を主体とする化合物層の生成速度が遅くなって処理が長時間化することや、その厚さが不均一になることを防止できる。さらに、塩浴の粘性も低下するため攪拌による塩浴成分の均一化が図りやすい。
また、上記不活性ガス層形成工程は、塩浴処理剤を加熱溶融して溶融塩とするヒーターによって加熱される領域において加熱された不活性ガスを、上記溶融塩の上記液面近傍に供給することにより、400℃以上の不活性ガス層を形成するため、高温の不活性ガスを液面近傍に供給することにより、上記溶融塩の固化を防止し、処理品の取り出しが困難となる等の問題が発生しなくなり、作業性を向上させることが可能となる。
本発明の鋼材の表面処理装置は、少なくとも鋼材を溶融塩に浸漬中、上記溶融塩の液面近傍に上記液面を大気と遮断するための不活性ガス層を形成させる不活性ガス層形成手段を備えている。このように、少なくとも鋼材を溶融浴中に浸漬処理する間、塩浴の液面上を不活性ガスで覆うことによって、溶融塩中の成分と酸素分や水分との反応を実質的に防止し、溶融塩中の拡散成分の安定化を図り、被処理品の表面部に優れた性質を有する処理層である化合物層を形成させることが可能となる。さらに、処理中の拡散成分の変動が少なくなることによって、鋼材表面の面粗さも低く抑えることが可能となり、摺動部材として優れた特性をもつ鋼材を得ることができるようになる。
また、上記溶融塩がクロムを含み、窒化された鋼材を溶融塩に浸漬して表層部にクロム窒化物を形成させるため、溶融塩に浸漬処理中の拡散成分であるクロムの酸化による劣化を防止してクロム窒化物を安定的に形成させ、非常に密着性の高いクロム窒化物と鉄窒化物が混在した化合物層を表層部に形成させ、例えば高面圧が負荷され、油切れを起こすような摺動環境においても、PVDコーティングのように剥離等の問題を起こすこともなく、長期に渡って使用することが可能な表面層を形成させることが可能となる。
また、上記塩浴処理の温度が500℃以上であるため、形成されるクロム窒化物を主体とする化合物層の生成速度が遅くなって処理が長時間化することや、その厚さが不均一になることを防止できる。さらに、塩浴の粘性も低下するため攪拌による塩浴成分の均一化が図りやすい。
また、上記不活性ガス層形成手段は、塩浴処理剤を加熱溶融して溶融塩とするヒーターによって加熱される領域において加熱された不活性ガスを、上記溶融塩の上記液面近傍に供給することにより、400℃以上の不活性ガス層を形成するため、高温の不活性ガスを液面近傍に供給することにより、上記溶融塩の固化を防止し、処理品の取り出しが困難となる等の問題が発生しなくなり、作業性を向上させることが可能となる。
以上のように、従来適用が困難であった部品や金型への表面処理を行うことによって、耐摩耗性、耐剥離性および耐熱性に優れた機械部品や金型等が得られ、その結果としてそれらの部材に優れた耐久性を発現させることが可能となる。
さらに、本発明において、その窒化処理がフッ化処理工程を含むものである場合には、炭素鋼や低合金鋼だけでなく高合金鋼や工具鋼、ステンレス鋼等を含めた幅広い鋼種に適用することが可能となるのに加え、使用用途に応じた窒化層を形成させることが可能となるため、結果的に目的に応じた処理層を形成させることができる。
さらに、本発明において、少なくとも鋼材を溶融塩中に浸漬処理する間、処理槽内を正圧に保つように、十分な不活性ガス量を供給した場合には、さらに処理槽内に酸素分や水分が混入して溶融塩中の拡散成分が反応により劣化や減少することを防ぐことができる。
つぎに、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明が対象とする鋼材は、炭素鋼、低合金鋼、高合金鋼、構造用圧延鋼、高張力鋼、機械構造用鋼、炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度鋼、軸受鋼、ばね鋼、肌焼鋼、窒化鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼等、各種の鋼材を適用することができる。
本発明の鋼材の表面処理方法は、まず、必要に応じて上記鋼材に窒化処理を施すことにより、鋼材の表層部に鉄窒化物であるFeNを主体とする鉄窒素化合物層と、その下層において母材に窒素が拡散した窒素拡散層を形成させる。
このとき、窒素拡散層のみを形成させた場合にも、その後の塩浴処理によりクロム窒化物を主体とする化合物層を形成させることは可能であるが、その場合、塩浴処理で形成される化合物層を十分な厚さとすることができないため、窒化処理によってFeNを主体とする鉄窒素化合物層を形成させることが好ましく、その厚さは3μm以上より好ましくは5μm以上とすることが好ましい。
また、上記窒化処理については、ガス窒化処理、塩浴窒化処理、イオンおよびプラズマ窒化処理等、各種窒化処理が適用可能であるが、フッ化処理工程を含むガス窒化処理を適用するのが好ましい。このように、フッ化処理工程を含むガス窒化処理を適用した場合には、炭素鋼や低合金鋼だけでなく高合金鋼や工具鋼、ステンレス鋼等を含めた幅広い鋼種に適用することが可能となる。さらに、使用用途に応じた窒化層を形成させるよう、幅広い窒化処理温度やガス組成を選択することが可能となるため、本発明の表面処理に適用する窒化処理として最も好ましい。
例えば、繰り返し熱サイクルが負荷されヒートクラックが発生しやすい金型等では、硬度を抑制した靭性の高い窒素拡散層を深く形成させることが望ましい。この場合、フッ化処理を行った後、2段階の窒化処理を行なうことが好ましい。すなわち、窒化処理の前半では、極低NH濃度雰囲気での窒化処理を行って、硬度を過度に上昇させない均一な窒素拡散層を形成させ、窒化処理の後半において高NH濃度雰囲気での窒化処理を行うことにより、表層のN濃度のみを上昇させてFeNを主体とする鉄窒素化合物層を形成させることも可能となる。
そして、その後後述する塩浴処理を行なうことにより、表面にクロム窒化物を主体とする化合物層を形成させるとともに、表面から50μm深さの拡散層の硬度をHv800以下とすることができる。このようにすることにより、クロム窒化物を主体とする化合物層による耐磨耗性を向上させるだけでなく、圧縮応力を有するとともに靭性も有する拡散層が得られ、ヒートクラックの進展を抑制する効果を発揮し、耐ヒートクラック性が向上する。
上記フッ化処理におけるフッ素源ガスとしては、フッ素ガスあるいはフッ素化合物を含んだガスであれば特に限定されるものではないが、常温でガス状であり、化学的安定性が高い等の理由から、取り扱いが容易であるNFガスを含んだガスが好適に用いられる。通常のフッ化処理工程は被処理品の材質および表面状態等にもよるが、例えばNFガス濃度が1000〜100000ppmとなるようにNガスで希釈したガスをフッ素源ガスとして用い、200〜600℃に1分〜180分保持することによって行われる。このフッ化処理工程を行うことによって、均一な窒化層形成の阻害要因となる鋼材表面の酸化被膜をフッ化物膜に置換することができる。
上記フッ化処理に引き続き、NHを含むガス雰囲気中で400〜600℃に30分〜50時間、より好ましくは500〜600℃に1時間〜10時間保持して被処理品の表面部にFeNを主体とする鉄窒素化合物層および窒素拡散層を形成させる。このとき、被処理品である鋼材表面を覆っているフッ化物膜は、NHガス濃度の低い弱い還元雰囲気であっても容易に還元、除去される性質を有していることから、被処理品の材質および使用用途を考慮して最適な処理時間等を調整することができる。
本発明の熱処理方法は、必要に応じて窒化処理を行なった鋼材を溶融塩中に浸漬して塩浴処理を行い、溶融塩中の拡散成分を鋼材の表面から拡散浸透させて化合物層を形成する。
上記溶融塩は、アルカリ金属の塩化物およびもしくはアルカリ土類金属の塩化物を主成分としたものを用いることができる。また、上記溶融塩にはクロムを含有させることが好ましい。溶融塩にクロムを含ませることにより、窒化された鋼材を溶融塩に浸漬して表層部にクロム窒化物を形成させることができる。
上記アルカリ金属の塩化物としては、例えば、LiCl、NaCl、KCl等を挙げることができ、アルカリ土類金属の塩化物としては、例えば、MgCl、CaCl、BaCl等を挙げることができる。これらは単独でもしくは混合して使用することができるが、混合することで溶融塩の融点を下げることも可能であり、攪拌によって塩浴中の成分の均一性を確保するためにはある程度粘性を下げることも必要であることから、混合塩を用いて融点、すなわち粘性を低下させることが望ましい。
また、上記溶融塩中に添加するクロムとしては、工業用金属クロムが使用でき、溶融塩中への添加、溶解が容易に行えるよう粉末状のものが望ましい。また溶融塩中に含有させるクロムの量は、被処理品の表面積にもよるが概ね5〜20重量%とすることが好ましい。
また、上記溶融塩中には、塩浴中の成分の安定化につながるだけでなく、塩浴の粘度を調整して攪拌時に塩浴中の成分を均一化させる効果があるため、珪素もしくは珪素の化合物を適量添加することが望ましい。この場合の珪素もしくは珪素の化合物の添加量は、5〜20重量%程度が好ましい。
上記の塩を500〜700℃に加熱して溶融塩とし、この溶融塩浴中に鋼材を浸漬して、その表面から拡散成分を拡散浸透させて化合物層を形成する。窒化された鋼材をクロムを含む溶融塩に浸漬することにより、表層部にクロム窒化物を主体とする窒素化合物層を形成させることができる。
図1は、上記鋼材を溶融塩に浸漬する塩浴処理炉の一例を示す図である。
この塩浴炉は、炉の外側を覆う炉体5の内部に溶融塩となる塩浴処理剤8が投入される処理槽7が配設されており、上記処理槽7を外側から加熱することにより内部の塩浴処理剤8を加熱溶融させて溶融塩とするヒーター6が設けられている。また、上記処理槽7には、内部の塩浴処理剤(溶融塩)8を攪拌するインペラー9が挿入されている。
また、溶融塩8がその表面から外気の酸素分や水分を吸収し溶融塩中の成分と反応を起こさないよう、上記溶融塩8の液面を大気と遮断するための不活性ガス層を形成するための不活性ガス層形成手段としての配管10および環状管11が設けられている。すなわち、この例では、処理槽7内の上部に上記配管10と連結されるとともに多数の穴が開いた環状管11が配置されている。上記環状管11は、処理槽7の上部開口よりも液面側において、処理槽7の内周面に沿って配置されている。上記環状管11の多数の穴から不活性ガスとして例えばNガスを噴出させ、Nガスが溶融塩8の液面近傍に供給されてその液面表面がNガスで覆われ、不活性ガス層を形成するようになっている。
このように、処理層7内の上部開口よりも下側の液面付近に不活性ガスを供給することにより、上記溶融塩8の液面を大気と遮断するための不活性ガス層を形成することが行なわれる。
上記環状管11は、ヒーター6によって温度が高く維持される領域に配設され、上記不活性ガス層形成手段は、加熱手段によって加熱された不活性ガスを溶融塩8の液面近傍に供給する。これにより、高温のNガスを環状管11から噴出させ、溶融塩8の液面上に400℃以上好ましくは溶融塩8の温度と同等以上である500℃以上の不活性ガス層を形成することが可能となっている。これにより、溶融塩8が表面で固化することを防止できる。
なお、処理槽7内へのNガスの供給方法としては、上述した構造に限られるものではなく、図示しない予熱装置により予熱したNガスを供給してもよいし、ヒーター6と処理槽7の隙間に配管10を通過させて予熱するようにしてもよい
また、使用するNガス量を抑制するとともに、形成した不活性ガス層の気流による乱れを防止して状態を維持するため、処理槽7に蓋12を設け、処理槽7の液面よりも上部の空間を正圧に保つことが望ましい。
上記装置を用い、処理槽7内でアルカリ金属の塩化物およびもしくはアルカリ土類金属の塩化物を主成分とする溶融塩8を形成し、その溶融塩8中に好ましくはクロムを添加するとともに、より好ましくはクロムよりも酸素との親和力の強い珪素もしくは珪素の化合物等を添加し、塩浴の状態、特にクロムの活性度を安定化させる。その溶融塩8中に窒化処理された鋼材を浸漬し、500〜700℃に1〜50時間、より好ましくは2〜20時間加熱保持する塩浴処理を実施する。
上記塩浴処理の温度が500℃未満の場合には、形成されるクロム窒化物を主体とする化合物層の生成速度が遅くなってしまうため処理が長時間化してしまうのに加え、その厚さも不均一になりやすい。さらに、塩浴の粘性も増加するため攪拌による塩浴成分の均一化が図りづらいため、その処理温度は500℃以上とする。より好ましくは520℃以上である。また、処理温度が700℃を超える場合には、被処理品の面粗さが悪化するだけでなく、被処理品の材料自体の軟化が大きくなり、必要な強度が得られなくなってしまうため、その処理温度は700℃以下とする。より好ましくは650℃以下である。
また、処理時間については、目的とする表面処理層の構造や、得られる硬度等の特性を考慮して決定する必要があるが、1時間未満では耐摩耗性が十分なクロム窒化物を主体とする化合物層を得ることが困難であり、逆に処理時間が長すぎる場合には被処理品の材料自体の軟化が大きくなるのに加え、生産性にも問題があるため上限は50時間程度とする。より好ましくは2〜20時間程度である。
上記溶融塩8への浸漬処理後、必要に応じて、0.2mm以下のショットメディアによりショットピーニング処理を行なう。
上記ショットピーニングは、直径0.2mm以下より望ましくは0.1mm以下の硬質鉄球等を高速で衝突させるショットピーニング処理を行なうことができる。このように、表層部に、クロム窒化物を主体とする化合物層を2μm以上形成し、2μm以上のクロムと鉄の相互拡散層(合金層)および窒素拡散層を形成し、さらにショットピーニングにより、表面に微小凹凸を形成させる。このように、表面に微小凹凸を形成することにより、例えば鍛造用の金型として使用した場合に、鍛造時の塑性流動の際に、接触する相手材との接触面積が小さくなって滑り性が向上し、耐焼付き性が一層向上する。そして、非常に高い面圧が負荷される使用環境で良好な性能を発揮することが可能となる。
また、上記ショットピーニング処理を適用した被処理品は、その表面部により高い圧縮応力が付加されることから、耐摩耗性だけではなく、疲労特性も向上させることができる。したがって例えば繰り返し使用される金型等に使用した場合には、耐久性も向上させることが可能となる。
また、このとき、その表面粗さ(Ra)が0.3〜0.8μmになるようにショット材の材質や投射スピード等、ショットピーニング条件を調整することができる。Raが0.3μm未満であると、摺動される相手材の磨耗や損傷を抑制する方向に働く一方で、微小凹凸が十分に形成されないため、接触する相手材との滑り性が重要な使用用途ではむしろ接触面積が増え、滑り性が低下することによって焼付きを起こしやすくなり、逆にRaが0.8μmを超えると、凹凸が粗大化することによって相手材の磨耗や損傷が大きくなる。
図2は、本発明の表面処理された鋼材の断面図の一例を示す図である。
この鋼材は、クロム窒化物と鉄窒化物が混在した化合物層1が表層部に形成され、上記化合物層1の下に窒素を含有するクロムと鉄の合金層2が形成され、上記合金層2の下に母材の鋼に窒素が拡散した拡散層3が形成されている。
すなわち、上記鋼材は、処理中の溶融塩中の拡散成分の変動が少なく、特に溶融塩から鋼材表面へのクロムの供給が安定的に行われることにより、その表面部に耐摩耗性や耐熱性等に優れるクロム窒化物を主体とする化合物層1が安定的に形成される。さらに、その母材4側には母材4との密着性にとって重要なクロムと母材4中の鉄とが相互拡散した合金層2が形成される。さらに、その母材4側に拡散層3が形成されて硬度傾斜層として機能する。
これにより、高荷重が負荷される使用環境においても、鋼材表面に形成されたクロム窒化物を主体とする化合物層1が剥離を起こすことがないのである。さらに処理中の拡散成分であるクロムの変動が少なくなることによって、鋼材表面の表面粗さも低く抑えることが可能となり、摺動部材として優れたものとなる。
このように、上記の窒化処理および本発明の塩浴処理装置を用いた塩浴処理を実施することによって、表面粗さをそれほど悪化させることなく、耐摩耗性および耐剥離性等に優れたクロム窒化物を主体とする化合物層1を鋼材表面に形成させることが可能となる。
窒化された鋼材が溶融塩に浸漬されてその表層部にクロム窒化物が形成され、溶融塩に浸漬する表面処理上がりの表面粗さがRaで0.5μm以下とするのが好ましい。Raが0.5μmを超えると、被処理品の耐摩耗性は大きく悪化しないが、相手材の磨耗や損傷が大きくなるため、その値が0.5μmを超えないように処理条件を調整するのが好ましい。
また、溶融塩の成分、処理時間等の処理条件を調整することにより、上記化合物層1の表面硬度をHv700以上Hv1000以下とした。すなわち、窒化されて鉄窒化物層と窒素拡散層を有する鋼材を、クロムを含む溶融塩8中に浸漬してクロムを拡散浸透させ、表層部の鉄窒化物層中にクロム窒化物を生成する際、最終的に表層部の化合物層がクロム窒化物と鉄窒化物が混在し、表面硬度をHv700以上Hv1000以下となるように鉄窒化物が残存するようにクロム窒化物を生成するのである。これにより、例えば、さらに小さい面粗さが必要な場合においても、化合物層1の厚さをほとんど減少させることがないような簡易的な研磨処理方法によって、その表面粗さを調整することが可能となる。
上述したように、上記塩浴処理後の表面をマイクロビッカース硬度で700Hv以上1000Hv以下とすることによって、耐摩耗性を有するだけでなく、被加工性も有するため、バフ研磨はもちろんのこと、例えばショット材にダイヤモンド粒を含有させたコンパウンドを使用する方式のラッピングマシンを用いた簡易的な方法での研磨工程を追加することによって表面粗さをさらに向上させることが可能となる。このような研磨処理により表面粗さ(Ra)を0.3μm以下とすることによって、被処理品はもちろんのこと、摺動を受ける相手材の磨耗や損傷をさらに低減できるのである。
また、上記化合物層1の厚さは少なくとも2μm以上形成させる。その厚さが2μm未満の場合であっても耐摩耗性は向上するが、耐久性の点で必ずしも十分とはいえない場合があるため、その厚さは2μm以上とする。より好ましくは3μm以上である。
また、この際に処理温度や時間、塩浴中のクロム濃度等を制御することによって、上記化合物層1の母材4側に窒素を含有したクロムと鉄の相互拡散層である合金層2を形成させることができる。その相互拡散層(合金層)2の厚さは2μm以上となるようにする。その厚さは1μm以上あればある程度の密着性は得られるものの、2μm未満では高荷重が負荷された場合には剥離を起こす危険性が生じるため、本発明では十分な密着性を確保するため、その厚さが2μm以上形成されるように処理を行なう。
さらに、上記相互拡散層(合金層)2の存在に加え、その母材4側に硬度傾斜層として寄与する拡散層3が形成されていることとの相乗効果により、上記化合物層1の密着性を大幅に向上させることができる。
一方、非常に高い面圧が負荷される使用環境では、上述したショットピーニング処理を行なうことによって、表面に微小凹凸を形成させ、接触する相手材との滑り性を向上させるとともに、耐焼付き性を一層向上させることが可能となる。
さらに、上記拡散層3の硬度を窒化条件を含めて調整することにより、表面から50μm以上の深さの部分の拡散層3のマイクロビッカース硬度をHv800以下、より望ましくはHv750以下とすることができる。このようにすることにより、熱サイクルの繰り返し負荷によって温熱間金型等の表面に発生するヒートクラックは、硬度が高い、すなわち靭性の低下している部分を進展しやすいことから、靭性を有する拡散層3がヒートクラックの進展を抑制するため、耐摩耗性はもちろんのこと、耐ヒートクラック性に優れた表面構造を持つ鋼材とすることが可能となる。
以下、本発明の実施例について説明する。
SCM435、SACM645、SKD61の素材に焼入れ、焼戻し処理を行った30mm×30mm×5mmの試験片を作製した後、その表面を研磨し面粗さ(Ra)を0.1〜0.2μmとした。
その各試験片を脱脂、洗浄した後、300℃で60分、NFとNの混合ガス中でフッ化処理し、それらを570℃で120分、NHガスが70容量%とNガスが30容量%である混合ガス中で窒化処理し、8〜12μmのFeNを主体とする窒素化合物層と100〜200μmの窒素拡散層を形成させた。
その後、各試験片をNaClとKClとCaClをそれぞれ20重量%、40重量%、40重量%の割合で混合し、550℃に加熱溶融させた溶融塩中にクロム粉末を10重量%と珪素粉末を5重量%含有させ、図1に示した塩浴処理炉を用い、溶融塩の表面近傍にNガスを供給しながら20時間浸漬し処理を実施した。
一方、比較例として塩浴表面にNガスを供給しない方法でも試験片を作製した。
本発明例(塩浴表面にNガスを供給しながら塩浴処理)のそれぞれの試験片の表面硬度およびクロム窒化物を主体とする化合物層の厚さは、鋼種を問わず表面硬度が900±50Hv、窒素化合物層厚さは6±1μmの範囲であった。一方、比較例(塩浴表面にN2ガスを供給しない)では、表面硬度が900±100Hv、窒素化合物層厚さは5±3μmの範囲であった。
本発明例および比較例の塩浴処理後の表面粗さ(Ra)について各5枚ずつ測定した結果を下記の表1に示す。またSKD61のNo.1の試験片の表面部をナイタル液で腐食した(a)本発明例と(b)比較例の断面金属組織を図3に示す。
表1から明らかなように、表面粗さが悪化しやすかった長時間の塩浴処理を行った場合であっても、本発明例のように塩浴表面にNガスを供給しながら処理を行った場合には、鋼種を問わず表面粗さが比較的低い値で安定していることが分かる。一方Nガスを供給しない比較例では表面粗さのばらつきが非常に大きいことが分かる。
また、図3の断面組織において、表面に形成している腐食されないクロム窒化物を主体とする窒素化合物層が、(a)の本発明例では安定した厚さで形成されているのに対し、(b)の比較例では厚さが安定しておらず、その結果として表面粗さが悪化していることが分かる。したがって(b)の比較例の表面を研磨し、その表面粗さを向上させようとした場合、クロム窒化物を主体とする窒素化合物層を十分な耐摩耗性を有するような厚さを残した状態となるように実施することが非常に困難であることが分かる。
また、図3(a)本発明例の表面部の断面の元素濃度分布をEPMAを用いて測定した結果を図4に示す。
最表面部である図4中の(i)の領域にクロム窒化物を主体とする化合物層1が約5μm形成されている。上記化合物層1は、クロム、鉄、窒素がそれぞれ存在し、クロム窒化物と鉄窒化物が混在していることがわかる。上記化合物層1におけるクロム窒化物と鉄窒化物の存在比率は、おおむね4:1〜5:1程度であり、表面側から母材4側に近づくに従って鉄窒化物の存在比率が徐々に大きくなっている。
また、上記化合物層1の母材4側の(ii)の領域に、窒素を含有する約3.5μmのクロムと鉄の相互拡散層である合金層2が形成されている。上記合金層2では、表面側から母材4側に近づくに従って鉄の存在比率が大きくなるとともに、クロムの存在比率が小さくなる濃度傾斜を有している。
さらに、上記合金層2の母材4側の(iii)の領域に、窒素濃度が高くないため図4からは分かりづらいが硬度傾斜層として寄与する拡散層3が形成されている。この層構造が形成されることによって最表面のクロム窒化物を主体とする化合物層1が非常に耐剥離性の高いものになるのである。
なお、本発明例の試験片をショット材にダイヤモンド粒を含有させたコンパウンドを使用する方式のラッピングマシンを用いた簡易的な方法での研磨処理を追加した結果、その表面粗さ(Ra)は全て0.1〜0.3μmの範囲に入っており、また表面のクロム窒化物を主体とする窒素化合物層厚さは全て4μm以上であった。したがってこの表面処理を機械部品等に適用した場合には、被処理品はもちろんのこと、摺動を受ける相手材の磨耗や損傷をさらに低減することができる。
SKD61を素材としてφ10のピンを作製し、熱処理によってHRC50に調質した後、実施例1と同条件のフッ化処理および窒化処理を実施し、その後実施例1と処理時間以外は同条件の塩浴処理を実施して試験片とした。なお、塩浴処理の時間は8時間とした。
このとき、その表面部には約4.5μmのクロム窒化物を主体とする化合物層1と、窒素を含有する約3μmのクロムと鉄の相互拡散層である合金層2および約100μmの拡散層3が形成されており、その表面粗さ(Ra)は0.31μmであった。また、その表面に、ショット材にダイヤモンド粒を含有させたコンパウンドを使用する方式の研磨処理を行った試験片も作製した。なおその表面粗さ(Ra)は0.17μmであった。
また比較材として、フッ化処理および窒化処理を実施した試験片、また塩浴処理中にN2ガスを供給しない方法で処理を行った試験片も作製した。なお上記Nガスを供給しない方法で処理を行った試験片の表面粗さ(Ra)は0.58μmであった。
これらの試験片をピンオンディスク式の磨耗試験(面圧1.3MPa、摺動速度1.5m/sec、摺動距離50000m、無潤滑、相手材SUJ2)を実施した結果を図5に示す。
これより、塩浴処理中にNガスを供給しない方法で処理を行った比較例(e)は、窒化処理のみを実施したものよりも明らかに耐摩耗性が向上していることが分かるが、塩浴処理中の液面にNガスを供給する方法で処理を行った本発明例(c)およびその表面に上記の研磨処理を行った本発明例(d)は、比較例(e)よりもはるかに優れた耐摩耗性を有していることが分かる。また比較例(e)では摺動相手材であるSUJ2の磨耗が激しく起こっているのに対し、特に表面粗さの小さい本発明例(d)では相手材の目立った磨耗や面荒れが認められず、摺動部材として適用された場合に優れた耐久性を有するものと考えられる。
SKD61を素材として熱処理によってHRC45に調質した鍛造用金型を作製し、400℃で120分、NFとN混合ガス中でフッ化処理し、それらを580℃で120分、NHガスが5容量%とNガスが95容量%である混合ガス中で窒化処理し、さらに580℃で60分、NHガスが70容量%とNガスが30容量%である混合ガス中で窒化処理した。
その後、各試験片をNaClとKClとCaClをそれぞれ20重量%、40重量%、40重量%の割合で混合し、570℃に加熱溶融させた溶融塩中にクロム粉末を15重量%と珪素粉末を5重量%含有させ、図1に示した塩浴処理炉を用い、塩浴表面にNガスを供給しながら10時間浸漬し処理を実施した。この金型と同じ調質および本発明の表面処理を行った試験片の断面硬度測定を行った結果を図6に示す。
また、上記の金型の表面に0.2mm以下の硬質鉄球を用いてショットピーニング処理を行い、その表面粗さ(Ra)が概ね0.6μm前後となるように微小凹凸を形成させたものも用意した。また比較例として、鍛造金型処理の多く利用されている塩浴浸硫窒化処理を570℃で180分行った金型も用意した。その塩浴浸硫窒化処理を行なった試験片の断面硬度測定を行った結果も図6に併せて示す。
これらの金型を用いてS50C製コンロッドを熱間鍛造し、15000回を上限として金型が寿命にいたるまで型打ちした結果を下記の表2に示す。
表2の結果から、本発明を熱間鍛造金型に適用した場合、大幅な寿命の向上が見られることがわかる。寿命向上の理由については、表面に形成させたクロム窒化物を主体とする窒素化合物層が耐熱性に優れるため、大幅な耐磨耗性の向上が見られるためである。
また、図6に示したように窒素拡散層の硬度を従来の窒化処理よりも大幅に低下させることによって、窒素拡散層の有する圧縮応力に加え、靭性も有する状態となっていることによって、ヒートクラックの進展を抑制しているものと考えられる。なお、このときその表面部には約6μmのクロム窒化物を主体とする化合物層1と、約4μmの窒素を含有するクロムと鉄との相互拡散層である合金層2が形成されていることがEPMAによる元素分析から確認された。
さらに、上記金型に0.2mm以下のショット材を用いて微小凹凸を形成させた場合には、その表面のクロム窒化物を主体とする化合物層1は4〜5μmの厚さとなっていたが、15000回型打ちした後でも、さらに型打ちが続けられる状態であった。この理由としては、鍛造される材料の金型表面での滑り性が向上することによって、局部的に応力が集中しづらくなり、クラックがさらに進展しづらい状態となっているものと考えられる。
以上のように、温度差の大きい熱サイクルが負荷される熱間鍛造金型においても、耐摩耗性だけでなく耐焼付き性や耐ヒートクラック性も良好なことから、鍛造金型だけでなく例えば鋳造金型やダイカスト金型に適用した場合も同様に良好な結果が得られる。
以上の結果から、本発明を各種機械部品や各種金型等に適用することによって、特に高い面圧や高い温度が負荷される場合にその耐久性を大幅に向上させることが可能となる。
本発明の処理方法は、鋼材の表面処理に使用することができ、またその表面処理された鋼材を使用することで、特に高面圧、高温度や潤滑状態が良くない環境で使用される部品類や金型等に好適に利用することができる。
本発明の塩浴処理炉の一例の断面図である。 本発明の表面処理によって形成される表面層構造を示した模式図である。 本発明例(a)と比較例(b)の塩浴処理後の断面腐食組織の一例である。 図3(a)の本発明例の表面部の元素濃度分布を示した図である。 SKD61製試験片のピンオンディスク型磨耗試験結果である。 本発明例(f)と比較例(g)の断面硬度測定結果である。
符号の説明
1 化合物層
2 相互拡散層(合金層)
3 拡散層
4 母材
5 炉体
6 ヒーター
7 処理槽
8 塩浴処理剤(溶融塩)
9 インペラー
10 配管
11 環状管
12 蓋

Claims (2)

  1. 500℃以上の溶融塩中に鋼材を浸漬する鋼材の表面処理方法であって、
    上記溶融塩がクロムを含み、窒化された上記鋼材を上記溶融塩に浸漬して表層部にクロム窒化物を形成し、
    少なくとも上記鋼材を溶融塩に浸漬中、上記溶融塩の液面近傍に上記液面を大気と遮断するための不活性ガス層を形成する不活性ガス層形成工程を備え、
    上記不活性ガス層形成工程は、塩浴処理剤を加熱溶融して溶融塩とするヒーターによって加熱される領域において加熱された不活性ガスを、上記溶融塩の上記液面近傍に供給することにより、400℃以上の不活性ガス層を形成する
    ことを特徴とする鋼材の表面処理方法。
  2. 500℃以上の溶融塩中に鋼材を浸漬する鋼材の表面処理装置であって、
    上記溶融塩がクロムを含み、窒化された上記鋼材を上記溶融塩に浸漬して表層部にクロム窒化物を形成させ、
    少なくとも上記鋼材を溶融塩に浸漬中、上記溶融塩の液面近傍に上記液面を大気と遮断するための不活性ガス層を形成させる不活性ガス層形成手段を備え
    上記不活性ガス層形成手段は、塩浴処理剤を加熱溶融して溶融塩とするヒーターによって加熱される領域において加熱された不活性ガスを、上記溶融塩の上記液面近傍に供給することにより、400℃以上の不活性ガス層を形成する
    ことを特徴とする鋼材の表面処理装置。
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