JP7370263B2 - 金属製品およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、金属製品およびその製造方法に関するものである。
鉄系金属の表面にクロムの窒化物からなる表面層を形成し、その鉄系金属の耐摩耗性・耐酸化性・耐食性などを改善する技術がしられている。このような技術について、本出願人は、つぎの特許文献1に示す技術を開発した。また、本出願人は、関連する技術に関する先行技術として、下記の特許文献2を把握している。
特開2016-74948号公報 特開2011-122190号公報
上記特許文献1は、鉄合金材料にあらかじめ窒化処理を施した後にクロマイジング処理を施して、クロムの炭窒化物からなる表面層を形成しようとするものである。
上記特許文献1には、つぎの記載がある。
〔0020〕
請求項1記載の金属の表面改質方法は、鉄系金属またはニッケル系金属である母材を準備する。鉄系金属やニッケル系金属は、酸化皮膜や不動態皮膜で表面が覆われている。表面に酸化皮膜や不動態皮膜が存在すると、一般に窒素原子の拡散浸透の妨げになりやすい。上記母材を、窒化源ガスを含む雰囲気で加熱保持する窒化処理を行う。この窒化処理により、ハロゲン化処理で活性化した母材の表面に窒素原子を拡散浸透させる。その後、上記窒化した母材を、金属クロム粉末を含む粉末中に存在させて850~1200℃の温度に加熱保持するクロマイズ処理を行う。このクロマイズ処理により、窒素原子が拡散浸透した表層部にクロム原子が拡散浸透し、表面改質層が形成される。
〔0087〕
図5(a)図5(b)は、実施例で形成された表面改質層の元素分布状況である。測定は、EPMA(X線マイクロアナライザー)により、材料断面の濃度分布を測定した。
図5(a)はSUS304母材に、フッ化処理、軟窒化処理およびクロマイズ処理を施して形成された表面改質層である。軟窒化処理は570℃×2時間行った。
図5(b)はSUS304母材に、フッ化処理、窒化処理およびクロマイズ処理を施して形成された表面改質層である。窒化処理は570℃×30分行った。
いずれも、表面側の50μm程度の厚みにおいてCrとNの濃度が高く、Feの濃度が低い層が形成されている。これが窒化クロム層とみることができる。この窒化クロム層は、クロムが約82重量%、窒素が約11重量%であり、CrNであると同定することができる。また、その下側の60μm程度の厚みにおいて、窒素の濃度が低く、FeとCrの濃度が高い層が形成されている。これは、母材にクロムが拡散浸透したクロム濃化層とみることができる。
上記特許文献2は、鉄系母材に炭化物被覆層を形成させる際に、被覆を行う元素と母材の鉄との複合炭化物からなる中間層を形成させ、母材と被覆層との熱膨張係数差に起因する被覆層の割れを防止しようとするものである。
上記特許文献2には、つぎの記載がある。
〔0007〕
Cr皮膜を例に取ると、本発明の摺動部材は、鋼部材に、鉄とクロムの複合炭化物(Fe,Cr)Cからなる中間層を介してクロム炭化物層が被覆されていることを特徴とする。この層構造を図1(a)に示す。図1(a)に示すように・・・被膜割れを防止することができる。
〔0009〕
また、本発明は、拡散浸透処理によって鉄とクロムの複合炭化物(Fe,Cr)Cからなる中間層を介してクロム炭化物層を鋼材部に被覆する摺動部材の製造方法であり、鋼材組織はセメンタイトをあらかじめ含み、Fe-C系状態図上のオーステナイト+セメンタイト領域で拡散浸透処理を行うことを特徴とする。鋼部材表面の組織がオーステナイト+セメンタイトの状態であると、オーステナイト+セメンタイト領域ではFeCが安定に存在するため、外部からCrを供給してFeCと反応させることにより、図1に示すような(Fe,Cr)Cからなる中間層を鋼部材表面に確実に生成することができる。
上記特許文献1の技術で得られる金属製品は、オーステナイト系の金属に窒化処理を行い、その後にクロマイズ処理を行う。これにより、表層のCrN層と、その内側のクロム濃化層を形成する。さらにその内側に母材が存在する。
上記CrN層はセラミックスであり、その熱膨張係数は9×10-6/℃と小さい。最も内側に存在するオーステナイト系母材の熱膨張係数は、17×10-6/℃であり、上記CrN層と比べると約2倍になる。また、上記クロム濃化層には、実質的に窒素が存在していない。このため、上記クロム濃化層の熱膨張係数も、上記オーステナイト系母材の熱膨張係数と大きく変わらない。したがって、最表層であるCrN層と、その下層として存在するクロム濃化層および母材とのあいだで、熱膨張係数が大きく異なり乖離している。このような層構造では、たとえば1000℃以上の高温で使用される場合、加熱と冷却の繰り返しによる熱応力で、CrN層の剥離や割れを生じるおそれがある。このため、従来の金属製品は、使用できる環境や用途に制約があった。
上記特許文献2の技術で得られる鉄系摺動部材は、鋼材組織としてセメンタイトをあらかじめ含む鉄系材料を母材としてCr等の拡散浸透処理を行う。これにより、表層の炭化物層と、その内側に鉄とCr等との複合炭化物からなる中間層を形成する。さらにその内側に母材が存在する。
この方法では、母材があらかじめセメンタイトを含む、すなわち炭素を0.6重量%以上含む鉄系材料である必要がある。このため、耐食性の高い、例えばステンレス鋼や耐熱鋼など炭素含有量の少ない材料では上記中間層を形成させることができない。このため、耐食性も必要とされる環境や用途には適用できないという問題があった。
また、中間層に析出させる化合物が、Cr系炭化物等の炭化物であり、Cr系窒化物等と比較して高温に加熱された場合に分解しやすい。したがって、高温環境で使用される場合に性能が劣化しやすいという問題もある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、つぎの目的をもった金属製品およびその製造方法を提供する。
繰り返し熱応力への耐性が高い耐熱・耐食および耐摩耗性の表面層を有する金属製品およびその製造方法を提供する。
請求項1記載の金属製品は、上記目的を達成するため、つぎの構成を採用した。
炭素濃度が0.6重量%以下であるステンレス鋼,耐熱鋼.ニッケル基金属のうちいずれからなる母材と、上記母材の表面に形成された表面改質層とを備え、
上記表面改質層は、
表面側に存在するクロム化合物層と、
上記クロム化合物層と上記母材との間に存在し、上記母材を構成する母材金属中にクロム化合物が析出した析出層とを含んで構成され
上記クロム化合物層がCr Nからなり、上記Cr Nからなるクロム化合物層の窒素濃度は10原子%以上である
請求項2記載の金属製品は、請求項1記載の構成に加え、つぎの構成を採用した。
上記Cr Nからなる上記クロム化合物層の硬度は、MHv1400以上である
上記クロム化合物層、上記析出層、上記母材の熱膨張係数が、表面から深部に向かうほど大きい
請求項4記載の金属製品の製造方法は、上記目的を達成するため、つぎの構成を採用した。
炭素濃度が0.6重量%以下であるステンレス鋼,耐熱鋼,ニッケル基金属のうちいずれからなる母材に対し、
窒化源ガスを含む雰囲気で上記母材を加熱保持する窒化処理を行うことにより、母材の表層部に窒素濃度が10原子%以上で厚み5μm以上の窒素拡散層を形成し
金属クロム粉末を含む粉末中に上記窒化処理した母材を存在させ、850~1200℃の温度で加熱保持するクロマイズ処理を行うことにより、
上記母材の表面に、
表面側に存在するクロム化合物層と、
上記クロム化合物層と上記母材との間に存在し、上記母材を構成する母材金属中にクロム化合物が析出した析出層とを含んで構成される
表面改質層を形成する。
請求項1記載の金属製品は、炭素濃度が0.6重量%以下であるステンレス鋼,耐熱鋼.ニッケル基金属のうちいずれからなる母材と、上記母材の表面に形成された表面改質層とを備えている。上記表面改質層は、表面側に存在するクロム化合物層と、上記クロム化合物層と上記母材との間に存在する析出層とを含む。つまり、硬質のセラミック層である上記クロム化合物層と、鉄系またはニッケル系の金属である母材のあいだに、析出層が存在する。上記析出層は、上記母材を構成する母材金属中にクロム化合物が析出して構成される。
したがって、各層の熱膨張係数は、クロム化合物層<析出層<母材と、表面から深部に向かって順次大きくなる。このため、表面のクロム化合物層とクロム濃化層および母材とのあいだで熱膨張係数が大きく乖離する従来技術にくらべ、各層間の熱膨張係数の差が小さくなる。これにより、従来よりも、表面層の繰り返し熱応力への耐性が高く、上記表面層が有する耐熱・耐食および耐摩耗性の特性を維持できる。使用できる環境や用途が従来よりも広がる。
また、上記クロム化合物層がCr Nからなり、上記Cr Nからなるクロム化合物層の窒素濃度は10原子%以上であるため、たとえば上記クロム化合物層の硬度はMHv1400以上となる。
さらに、上記のような母材に対し、クロム化合物層と析出層の2層を含む表面改質層を形成することにより、優れた特性をもった金属製品が得られる。炭素濃度が0.6重量%以下であるステンレス鋼,耐熱鋼,ニッケル基合金は、母材中にセメンタイトが存在するような高濃度の炭素を含まない。したがって、クロムの拡散浸透処理を行うだけでは、表層の炭化物層と、その内側に鉄とCr等との複合炭化物からなる中間層を形成することができない。たとえば窒化処理を行って窒素原子を拡散浸透させたのち、クロムの拡散浸透処理を行うことにより、表面にクロム化合物層としてクロム窒化物層を形成し、母材との間に熱膨張係数差等を緩和するため、母材金属中にクロム窒化物が析出した析出層を形成させることができる。
この金属製品は、極めて硬度が高く耐熱性および耐食性にも優れ、高温酸化・高温腐食・エロージョン・キャビテーションなどの環境に優れた性能を発揮する。また、上記金属製品は、酸・アルカリの環境や中性環境や、海水等の塩化物等の腐食環境においても優れた性能を発揮する。そして、上記金属製品は、たとえば自動車部品であれば、ターボチャージャーにおける耐熱性および耐摩耗性を必要とする部品に適用することができる。また、たとえばアルミニウム・マグネシウム・亜鉛などのダイカストに用いる金型において、合金への溶損を防止し、優れた性能を維持する。また、化学工業・火力発電・代替エネルギーなどの環境における翼材・バルブ材・ポンプ材等をはじめとする多くの部品に適用することができる。また、酸・アルカリの環境や中性環境、海水等の塩化物等の腐食環境において使用される材料や部品に適用することができる。
請求項2記載の金属製品は、上記Cr Nからなる上記クロム化合物層の硬度は、MHv1400以上である。このため、表面にMHv1400以上の高硬度の層が存在し、母材側に向かって硬度が漸次減少する硬度傾斜層が形成される。上記硬度傾斜層は、クロム濃度と窒素濃度が漸次減少し、各層間の熱膨張係数の差が小さくなる。これにより、従来よりも、表面層の繰り返し熱応力への耐性が高く、上記表面層が有する耐熱・耐食および耐摩耗性の特性を維持できる。使用できる環境や用途が従来よりも広がる。
請求項3記載の金属製品は、上記クロム化合物層、上記析出層、上記母材の熱膨張係数が、表面から深部に向かうほど大きい。このため、従来よりも、表面層の繰り返し熱応力への耐性が高く、上記表面層が有する耐熱・耐食および耐摩耗性の特性を維持できる。使用できる環境や用途が従来よりも広がる。
請求項4記載の金属製品の製造方法は、炭素濃度が0.6重量%以下であるステンレス鋼,耐熱鋼,ニッケル基金属のうちいずれからなる母材に対し、窒化源ガスを含む雰囲気で上記母材を加熱保持する窒化処理を行うことにより、母材の表層部に窒素濃度が10原子%以上で厚み5μm以上の窒素拡散層を形成し、金属クロム粉末を含む粉末中に上記窒化処理した母材を存在させ、850~1200℃の温度で加熱保持するクロマイズ処理を行う。これにより、上記母材の表面に表面改質層を形成する。上記表面改質層を、表面側に存在するクロム化合物層と、上記クロム化合物層と上記母材との間に存在する析出層とを含むようにする。上記析出層が、上記母材を構成する母材金属中にクロム化合物が析出した構成とする。
したがって、各層の熱膨張係数は、クロム化合物層<析出層<母材と、表面から深部に向かって順次大きくなる。このため、表面のクロム化合物層とクロム濃化層および母材とのあいだで熱膨張係数が大きく乖離する従来技術にくらべ、各層間の熱膨張係数の差が小さくなる。これにより、従来よりも、表面層の繰り返し熱応力への耐性が高く、上記表面層が有する耐熱・耐食および耐摩耗性の特性を維持できる。使用できる環境や用途が従来よりも広がる。
また、上記のような母材に対し、クロム化合物層と析出層の2層を含む表面改質層を形成することにより、優れた特性をもった金属製品が得られる。炭素濃度が0.6重量%以下であるステンレス鋼,耐熱鋼,ニッケル基合金は、母材中にセメンタイトが存在するような高濃度の炭素を含まない。したがって、クロムの拡散浸透処理を行うだけでは、表層の炭化物層と、その内側に鉄とCr等との複合炭化物からなる中間層を形成することができない。たとえば窒化処理を行って窒素原子を拡散浸透させたのち、クロムの拡散浸透処理を行うことにより、表面にクロム化合物層としてクロム窒化物層を形成し、母材との間に熱膨張係数差等を緩和するため、母材金属中にクロム窒化物が析出した析出層を形成させることができる。
この金属製品は、極めて硬度が高く耐熱性および耐食性にも優れ、高温酸化・高温腐食・エロージョン・キャビテーションなどの環境に優れた性能を発揮する。また、上記金属製品は、酸・アルカリの環境や中性環境や、海水等の塩化物等の腐食環境においても優れた性能を発揮する。そして、上記金属製品は、たとえば自動車部品であれば、ターボチャージャーにおける耐熱性および耐摩耗性を必要とする部品に適用することができる。また、たとえばアルミニウム・マグネシウム・亜鉛などのダイカストに用いる金型において、合金への溶損を防止し、優れた性能を維持する。また、化学工業・火力発電・代替エネルギーなどの環境における翼材・バルブ材・ポンプ材等をはじめとする多くの部品に適用することができる。また、酸・アルカリの環境や中性環境、海水等の塩化物等の腐食環境において使用される材料や部品に適用することができる。
従来品と本発明との相違を説明する模式図である。 表面改質層の元素分布状況を示す線図であり、(A)は比較例1、(B)は実施例1である。 表層部の断面顕微鏡写真であり、(A)は比較例1、(B)は実施例1である。 比較例1および実施例1の断面硬度分布を示す線図である。 ショットブラスト試験後の外観観察写真であり、(A)は比較例1、(B)は実施例1である。 加熱冷却繰り返し試験後の外観観察写真であり、(A)は比較例1、(B)は実施例1である。 実施例2の表層部の断面顕微鏡写真である。 実施例2の表面改質層の元素分布状況を示す線図である。 二相系ステンレス鋼であるSUS329J4Lを母材としたショットブラスト試験後の外観観察写真である。 二相系ステンレス鋼であるSUS329J4Lを母材とした加熱冷却繰り返し試験後の外観観察写真である。
つぎに、本発明を実施するための形態を説明する。
◆開発の経緯
表面のCrN層がセラミックス層で、その内側のクロム濃化層および母材が合金層であり、上記セラミックス層と合金層の界面で、熱膨張係数が乖離していることが問題の根幹である。つまり、CrN層と母材のあいだに存在する合金層のクロム濃化層に、窒素が存在しない。このため、上述した層界面における熱膨張係数の乖離が生じ、繰り返し熱応力に対する耐性が十分でなかった。
そこで、CrN層と母材のあいだに介在する合金層に、セラミックスであるクロム化合物を析出させることを想起した。つまり、CrN層と母材のあいだに、セラミックス層と合金層との中程度の熱膨張係数となる層を形成する。これにより、上述した層界面における熱膨張係数の乖離を緩和し、問題を解決しようとしたものである。
また、上記クロム化合物として、クロム炭化物等の炭化物ではなく、クロム窒化物を析出させるのが好ましい。炭化物よりも窒化物の方が、分解温度が高く、加熱された際に高温でも分解しづらいため、高温環境で使用された場合に析出層の熱膨張係数の乖離を緩和する性能が劣化せず、効果的だからである。
図1は、上述した従来品と本発明との相違を説明する模式図である。(A)は従来品であり、(B)は本願発明である。
図1(A)に示すように、従来品は、CrN層とクロム濃化層(高クロム合金層)の熱膨張係数が大きく違う。合金層のクロム濃化層には窒素が存在せず、層界面で熱膨張係数の乖離が生じている。
図1(B)に示すように、本発明は、上記析出層には窒素が存在し、CrN層から析出層(CrN析出層)を介して母材にかけて、熱膨張係数が徐々に変化している。層界面での熱膨張係数の乖離が緩和されている。
なお、図1の熱膨張係数の線図では、縦軸の下にいくほど熱膨張係数が大きい。
◆金属製品
本実施形態の金属製品は、鉄系金属またはニッケル系金属である母材と、上記母材の表面に形成された表面改質層とを備えている。
〔母材〕
上記母材を構成する母材金属には、鉄系金属またはニッケル系金属を使用する。
上記鉄系金属としては、各種の鉄鋼材料および鉄基合金を用いることができる。上記鉄鋼材料および鉄基合金としては、たとえば、炭素鋼、合金鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、マンガン鋼、工具鋼、ステンレス鋼、耐熱鋼、窒化鋼、肌焼鋼など、各種の鋼種を適用することができる。
上記ニッケル系金属としては、ニッケル基合金を用いることができる。上記ニッケル基合金としては、たとえば、ニッケル含有量が50重量%以上の合金を使用することができる。具体的には、ニッケル-銅系(モネル)、ニッケル-クロム系(インコネル)、ニッケル-モリブデン系(ハステロイ)などを用いることができる。
上記母材金属としては特に、炭素濃度が0.6重量%以下であるステンレス鋼,耐熱鋼,ニッケル基合金のうちいずれかを使用するのが好ましい。たとえば、SUS410L、SUS430等のフェライト系ステンレス鋼、SUS410、SUS420J2等のマルテンサイト系ステンレス鋼、SUS821L1、SUS323L、SUS329J31、SUS329J3L、SUS329J4L、SUS327L1等の二相系ステンレス鋼、SUS304、SUS316、SUS310S等のオーステナイト系ステンレス鋼およびSUH21、SUH409等のフェライト系耐熱鋼、SUH3、SUH11等のマルテンサイト系耐熱鋼、SUH35、SUH660等のオーステナイト系耐熱鋼、SCH21、SCH22等の耐熱鋳鋼、ALLOY625、ALLOY800H等のニッケル基合金等を好適に用いることができる。
このような、母材中にセメンタイトを含まない耐食性の高いステンレス鋼、耐熱鋼、ニッケル基合金に、たとえば窒化処理を行って窒素原子を拡散浸透させたのち、クロムの拡散浸透処理を行うことにより、表面にクロム化合物層としてクロム窒化物層を形成し、母材との間に熱膨張係数差等を緩和するため、母材金属中にクロム窒化物が析出した析出層を形成させることができる。
〔表面改質層〕
上記表面改質層は、表面側に存在するクロム化合物層と、上記クロム化合物層と上記母材との間に存在する析出層とを含んで構成されている。
上記表面改質層は、後述するように、上記母材に対し、窒化処理とクロマイズ処理を行うことにより、上記母材の表面に形成することができる。このとき、必要に応じて上記窒化処理の前にハロゲン化処理を行う。
〔クロム化合物層〕
上記クロム化合物層は、上述した窒化処理により上記母材金属表面に形成された窒化層の窒素原子と、上記クロマイズ処理により上記窒化層に侵入したクロム原子とが化合することによって形成される。上記窒化層は、表面の窒化鉄層とその深部の窒素拡散層である。表面の窒化鉄層は窒化処理等の条件によっては形成されない場合もある。
上記クロム化合物層を構成するクロム化合物は、好ましくはCrNである。上記クロム化合物層は、性能と経済性の観点より5~50μm程度の厚みに形成することができる。
〔析出層〕
上記析出層は、上記母材を構成する母材金属中にクロム化合物が析出して構成されている。
上記析出層は、上述した窒化処理により上記母材金属に窒素原子が拡散した窒素拡散層に、上記クロマイズ処理によってクロム原子が侵入することによって形成される。つまり、上記クロム化合物層よりも深部まで侵入したクロム原子が、窒素拡散層中に存在する窒素原子とクロム化合物を形成して析出する。表面よりも深部側であることから、窒素拡散層中の窒素原子濃度が低く、上述したクロム化合物層のようにクロム化合物が層を形成するのではなく、粒子状のクロム化合物が析出する。
上記クロム化合物層と上記母材との間に上記析出層を存在させることにより、各層の熱膨張係数は、クロム化合物層<析出層<母材と、表面から深部に向かって順次大きくなる。このため、各層間の熱膨張係数の差が小さくなる。これにより、表面層の繰り返し熱応力への耐性が高くなる。
上記析出層は、表面側のクロム化合物層に近いほど、クロム化合物の析出量が多くなっていることが好ましい。言い換えれば、上記析出層は、深部の母材に近いほど、クロム化合物の析出量が少ないことが好ましい。
また、上記クロム化合物は、クロム炭化物等の炭化物ではなく、クロム窒化物であることが好ましい。炭化物よりも窒化物の方が、分解温度が高く、加熱された際に高温でも分解しづらいため、高温環境で使用された場合に析出層の熱膨張係数の乖離を緩和する性能が劣化しにくいからである。
つまり、上記析出層は、表面側のクロム化合物層に近いほど窒素濃度が高く、深部の母材に近いほど窒素濃度が低い。このようにすることにより、上記析出層の熱膨張係数が、表面から深部に向かって次第に大きくなる。このため、各層間の熱膨張係数が表面のクロム化合物層から深部の母材に向かって傾斜的に徐々に大きくなる。これにより、表面層の繰り返し熱応力への耐性がより高くなる。つまり、熱応力により発生する歪みを吸収させることによって剥離や割れを防止できる。
上記析出層は、性能と経済性の観点より、窒素濃度が5原子%以上となる部分の厚みを5~100μm程度の厚みに形成することができる。上記析出層の厚みのより好ましい範囲は8~50μmである。窒化処理で浸透させた窒素を、表面のクロム化合物層(CrN層)を形成するために全て消費させるのではなく、上記析出層となる部分に窒素濃度が5原子%以上となる窒素を残す趣旨である。これにより、内部へ向かって濃度が減少するCrに対して窒素が化合し、内部へ向かって析出量が少なくなるCrNが形成され、本発明の析出層が形成される。このような析出層では、硬度も内部へ向かって漸次低下したものとなる。
〔実施形態の効果〕
上記実施形態の金属製品は、つぎの効果を奏する。
本実施形態の金属製品は、鉄系金属またはニッケル系金属である母材と、上記母材の表面に形成された表面改質層とを備えている。上記表面改質層は、表面側に存在するクロム化合物層と、上記クロム化合物層と上記母材との間に存在する析出層とを含む。つまり、硬質のセラミック層である上記クロム化合物層と、鉄系またはニッケル系の金属である母材のあいだに、析出層が存在する。上記析出層は、上記母材を構成する母材金属中にクロム化合物が析出して構成される。
したがって、各層の熱膨張係数は、クロム化合物層<析出層<母材と、表面から深部に向かって順次大きくなる。このため、表面のクロム化合物層とクロム濃化層および母材とのあいだで熱膨張係数が大きく乖離する従来技術にくらべ、各層間の熱膨張係数の差が小さくなる。これにより、従来よりも、表面層の繰り返し熱応力への耐性が高く、上記表面層が有する耐熱・耐食および耐摩耗性の特性を維持できる。使用できる環境や用途が従来よりも広がる。
本実施形態の金属製品は、上記析出層は、表面側のクロム化合物層に近いほど、クロム化合物の析出量が多くなっている。
これにより、上記析出層の熱膨張係数は、表面から深部に向かって順次大きくなる。このため、表面側のクロム化合物層から母材にかけて、熱膨張係数が段階的ではなく連続的に変化する。これにより、従来よりも、表面層の繰り返し熱応力への耐性が高く、上記表面層が有する耐熱・耐食および耐摩耗性の特性を維持できる。使用できる環境や用途が従来よりも広がる。
本実施形態の金属製品は、上記母材が、炭素濃度が0.6重量%以下であるステンレス鋼,耐熱鋼,ニッケル基合金のうちいずれかである。
このような母材に対し、クロム化合物層と析出層の2層を含む表面改質層を形成することにより、優れた特性をもった金属製品が得られる。炭素濃度が0.6重量%以下であるステンレス鋼,耐熱鋼,ニッケル基合金は、母材中にセメンタイトが存在するような高濃度の炭素を含まない。したがって、クロムの拡散浸透処理を行うだけでは、表層の炭化物層と、その内側に鉄とCr等との複合炭化物からなる中間層を形成することができない。たとえば窒化処理を行って窒素原子を拡散浸透させたのち、クロムの拡散浸透処理を行うことにより、表面にクロム化合物層としてクロム窒化物層を形成し、母材との間に熱膨張係数差等を緩和するため、母材金属中にクロム窒化物が析出した析出層を形成させることができる。
この金属製品は、極めて硬度が高く耐熱性および耐食性にも優れ、高温酸化・高温腐食・エロージョン・キャビテーションなどの環境に優れた性能を発揮する。また、上記金属製品は、酸・アルカリの環境や中性環境や、海水等の塩化物等の腐食環境においても優れた性能を発揮する。そして、上記金属製品は、たとえば自動車部品であれば、ターボチャージャーにおける耐熱性および耐摩耗性を必要とする部品に適用することができる。また、たとえばアルミニウム・マグネシウム・亜鉛などのダイカストに用いる金型において、合金への溶損を防止し、優れた性能を維持する。また、化学工業・火力発電・代替エネルギーなどの環境における翼材・バルブ材・ポンプ材等をはじめとする多くの部品に適用することができる。また、酸・アルカリの環境や中性環境、海水等の塩化物等の腐食環境において使用される材料や部品に適用することができる。
◆金属製品の製造方法
本実施形態の金属製品の製造方法は、鉄系金属またはニッケル系金属である母材に対し、窒化処理を行い、クロマイズ処理を行う。
上記窒化処理は、窒化源ガスを含む雰囲気で上記母材を加熱保持する。
上記クロマイズ処理は、金属クロム粉末を含む粉末中に上記窒化処理した母材を存在させて加熱保持する。
また、本実施形態の金属製品の製造方法では、上記窒化処理に先立って、ハロゲン化処理を行うことができる。
〔ハロゲン化処理〕
上記ハロゲン化処理は、雰囲気を制御できる加熱炉を用い、ハロゲンを含む雰囲気ガス中において上記母材を加熱保持することにより行う。
上記雰囲気ガスに用いるハロゲンとしては、たとえば、F、Cl、HCl、NFなどのハロゲンガスまたはハロゲン化物ガスを用いることができる。
上記雰囲気ガスは、ハロゲンを0.5~20容積%含み、残部を窒素ガス、水素ガスあるいは不活性ガスなどとした混合ガスを用いることができる。
上記ハロゲン化処理は、上記雰囲気ガス中で、母材を200~550℃にて10分~3時間程度、加熱保持することにより、表面を活性化させる。
〔窒化処理〕
上記窒化処理は、必要に応じて上記ハロゲン化した母材を、窒化源ガスを含む雰囲気で加熱保持する。
上記窒化処理としては、ガス窒化処理、ガス軟窒化処理、塩浴軟窒化処理、真空窒化処理、イオン窒化(プラズマ窒化)処理のいずれの方法でも適用することができる。
上記ガス窒化・ガス軟窒化は、窒化あるいは軟窒化する雰囲気、すなわち、NHを窒素源とし、N、CO、CO、Hなどを必要に応じて混合させた雰囲気の中に、上記ハロゲン化処理を終えた母材を加熱保持することにより行うことができる。
上記塩浴窒化は、シアンないしはシアン酸を主成分とする塩浴中に、母材を加熱保持することにより行うことができる。
イオン窒化(プラズマ窒化)は、0.1~10Paの窒素混合ガス雰囲気中で、炉体を陽極に、被処理物を陰極とし、数百ボルトの直流電圧を印加してグロー放電を生じさせ、イオン化されたガス成分を高速に加速して、被処理物表面に衝突させ、これを加熱するとともにスパッタリング作用等により窒化を進行させるものである。
加熱温度と保持時間は、採用する窒化処理の手法や、目的とする表面改質層の特性に応じて適宜決定することができる。例えば、350~900℃(好ましくは350~650℃)の範囲内の所定の温度で所定時間、加熱保持することができる。
上記窒化処理により、母材の表層部に窒素濃度の高い窒素拡散層を形成する。その後クロマイズ処理を行うことにより、クロマイズ処理によって拡散浸透するクロム原子と、窒素拡散層に存在する窒素原子が結合し、クロム化合物層として窒化クロム層が生成する。
上記窒化処理として軟窒化処理を行った場合は、母材の表層部に窒素濃度と炭素濃度の高い炭窒素拡散層を形成する。その後クロマイズ処理を行うことにより、クロマイズ処理によって拡散浸透するクロム原子と、炭窒素拡散層に存在する窒素原子および炭素原子が結合し、クロム化合物層として炭窒化クロム層が生成する。
本実施形態の金属の表面改質方法では、上記窒化処理により、窒素濃度が10原子%以上で厚み5μm以上で窒素が拡散された拡散層を形成することが好ましい。
上記窒化処理の後、クロマイズ処理の前に、必要に応じて表面を正常化する処理を行うことができる。正常化する処理としては、例えば、ショットピーニング、バレルなどの処理を採用することができる。
上記窒化処理は、最終的に形成される上記表面改質層に含まれる上記クロム化合物層(CrN層)の厚みの少なくとも1.5倍以上の厚みの窒化層(化合物層+拡散層である)を生成するように行う。
〔クロマイズ処理〕
上記クロマイズ処理は、金属クロム粉末を含む粉末中に上記窒化した母材を存在させて加熱保持する。上記クロマイズ処理により、上記窒化処理を終えた母材の表面からクロム原子を拡散浸透させる。
上記クロマイズ処理は、上記窒化処理で生成した窒化層(化合物層+拡散層である)が所定の厚みになる時間だけ処理を行う。
これにより、CrN層の内側にNおよびCrの傾斜濃度勾配を有する析出層を形成できる。
上記クロマイズ処理は、粉末パック法によって行うことができる。粉末パック法は、
耐熱ケースに充填した処理剤粉末のなかに窒化処理を終えた母材を埋設し、上記耐熱ケースを雰囲気炉内に入れて反応促進のためのガスを流しながら加熱保持することによって行う。このようにすることにより、上記窒化処理を終えた母材の表面からクロム原子が拡散浸透するよう処理する。
上記処理剤粉末としては、金属クロム粉末または鉄-クロム合金粉末と、焼結防止用のAl粉末と、反応促進用のNHClまたはNHFを微量添加した粉末剤を用いることができる。
上記反応促進のためのガスとしては、HまたはArを用いることができる。
加熱保持は、850~1200℃(好ましくは900~1200℃)の範囲内の所定温度において所定時間保持する。このようにすることにより、窒化処理を終えた母材の表面からクロム原子を拡散浸透させ、表面改質層を形成する。
〔表面改質層〕
本実施形態の金属製品の製造方法は、上述した母材に窒化処理とクロマイズ処理を行うことにより、上記母材の表面に表面改質層を形成する。
上記表面改質層は、上述したとおり、表面側に存在するクロム化合物層と、上記クロム化合物層と上記母材との間に存在する析出層を含む。上記析出層は、上記母材を構成する母材金属中にクロム化合物が析出して構成される。
上記クロム化合物層を形成するクロム化合物は、好ましくはCrNである。ここで、CrN層の内側の析出層は、CrNの傾斜組織層と言い換えることができる。このような析出層は、熱力学的に、窒素濃度がCrNを層状に形成できる程度にない。しかし、部分的にCrNを析出させる程度の窒素濃度がある。また、さらに内側に行くと、窒素濃度が低下するにつれてCrNの析出量が低下する。そして、最終的にはCrNを析出できないほどの窒素濃度となる。このようにして、上記析出層が、CrNの傾斜析出層となるのである。また、上記CrNは、炭化物よりも分解温度が高く、加熱された際に高温でも分解しづらいため、高温環境で使用された場合に析出層の熱膨張係数の乖離を緩和する性能が劣化しにくいからである。
〔実施形態の効果〕
上記実施形態の金属製品の製造方法は、つぎの効果を奏する。
本実施形態の金属製品の製造方法は、鉄系金属またはニッケル系金属である母材に対し、窒化源ガスを含む雰囲気で上記母材を加熱保持する窒化処理を行い、金属クロム粉末を含む粉末中に上記窒化処理した母材を存在させて加熱保持するクロマイズ処理を行う。これにより、上記母材の表面に表面改質層を形成する。上記表面改質層を、表面側に存在するクロム化合物層と、上記クロム化合物層と上記母材との間に存在する析出層とを含むようにする。上記析出層が、上記母材を構成する母材金属中にクロム化合物が析出した構成とする。
したがって、各層の熱膨張係数は、クロム化合物層<析出層<母材と、表面から深部に向かって順次大きくなる。このため、表面のクロム化合物層とクロム濃化層および母材とのあいだで熱膨張係数が大きく乖離する従来技術にくらべ、各層間の熱膨張係数の差が小さくなる。これにより、従来よりも、表面層の繰り返し熱応力への耐性が高く、上記表面層が有する耐熱・耐食および耐摩耗性の特性を維持できる。使用できる環境や用途が従来よりも広がる。
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する
〔比較例1〕
図2(A)はSUS304母材に、下記の条件でフッ化処理、窒化処理およびクロマイズ処理を施して形成された表面改質層の元素分布状況である。
◎フッ化処理
雰囲気:フッ素系ガス(NF:10vol%+N:90vol%)
温度:300℃
時間:15分
◎窒化処理
雰囲気:NH:50vol%+N:50vol%
温度:570℃
時間:30分
◎クロマイズ処理
処理剤:粉末状のCrないしはFe-Cr合金に焼結防止用のAlを必要量添加し、反応促進用のNHClを少量添加した粉末
気流:水素ないしはアルゴン気流
温度:1050℃
時間:10時間
〔実施例1〕
図2(B)はSUS310S母材に、下記の条件でフッ化処理、窒化処理およびクロマイズ処理を施して形成された表面改質層の元素分布状況である。
◎フッ化処理
雰囲気:フッ素系ガス(NF:10vol%+N:90vol%)
温度:400℃
時間:60分
◎窒化処理
雰囲気:NH:H:N=30:20:50
温度:590℃
時間:20時間
◎クロマイズ処理
処理剤:金属Cr粒ないしFe-Cr合金粒+焼結防止用Al+反応促進用の少量NHCl
気流:水素ないしアルゴン
温度:1050℃
時間:2時間
いずれも、表面側の10~20μm程度の厚みにおいてCrとNの濃度が高く、Feの濃度が低い層が形成されている。これが窒化クロム層とみることができる。この窒化クロム層は、図2(A)の重量濃度比の測定でクロムが約80重量%、窒素が約10重量%である。また図2(B)の原子数濃度比の測定でクロムが約60原子%、窒素が約30原子%である。これにより、CrNであると同定できる。また、その下側の10~60μm程度の厚みにおいて、FeとCrの濃度が高い層が形成されている。これは、母材にクロムが拡散浸透したクロム濃化層である。なお、図2(A)における表面は、CrとNが立ち上がる位置である。
上記比較例1は、CrN層の下にある高Cr濃度層に窒素は検出されておらず、実質的に窒素は存在しない。
上記実施例1は、CrN層の下に、Cr濃度とN濃度が漸次減少する傾斜組成の層が存在する。この傾斜組成の層が本発明の析出層である。
図3(A)は、上記比較例1の表層部の断面顕微鏡写真である。
図3(B)は、上記実施例1の表層部の断面顕微鏡写真である。
比較例1は、表面のCrN層、高Cr拡散層および母材の界面が明瞭に観察される。
実施例1は、CrN層とその下にある析出層および母材の界面が、比較例1に比べると明瞭に観察されない。
図4は、比較例1と実施例1の断面硬度を測定した結果である。
比較例1では、表面から10μm程度はMHv1500以上の高硬度となっているが、表面から20μm以降の深さではMHv500程度以下まで急激に硬度が低下している。この部分には窒素が実質的に存在せず、CrNの析出も実質的に無い。
実施例1では、表面から20μm程度の高硬度の層が存在し、その母材側に向かってMHv1400程度からMHv500程度以下へ硬度が漸次減少する硬度傾斜層が形成されている。つまり、表面から20μm程度がクロム化合物層の硬度を有するクロム化合物層であり、表面から50μm程度以上の深さの部分が、母材の硬度を有する母材層であり、上記クロム化合物層と母材層のあいだが、しだいに硬度が減少する硬度傾斜層である。
上記硬度傾斜層は、クロム濃度と窒素濃度が漸次減少している。少なくとも5原子%以上の窒素原子は、850℃以上で行うクロマイズ処理によってクロムと化合してCrNとなる。このため、CrN層の下には、クロム濃度と窒素濃度が漸次減少する層が形成される。この層が、CrNが分散析出し母材側に向かってその析出量が漸次減少する本発明の析出層である。
つぎに、比較例1および実施例1の表面にショットブラスト(ガラスパウダ:0.4MPa)による衝撃力を付与する試験を実施した。
図5(A)は、ショットブラストを10秒実施した後の比較例1の外観観察写真である。
図5(B)は、ショットブラストを30秒実施した後の実施例1の外観観察写真である。
比較例1の表面には、例としていくつかの矢印で示した部分に、ショットブラストの衝撃によって生じた剥離が多数発生していた。
実施例1の表面にはそのような剥離や割れ等は発生していなかった。
さらに、1000℃から常温までの加熱冷却の繰り返しを100回行う試験を実施した。
図6(A)は、比較例1の外観観察写真である。
図6(B)は、実施例1の外観観察写真である。
比較例1の表面には、例としていくつかの矢印で示した部分に剥離が多数発生していたのに加え、丸で囲んだ部分のような割れも発生していた。
実施例1の表面にはそのような剥離や割れ等は発生していなかった。
〔実施例2〕
実施例2として、二相系ステンレス鋼であるSUS329J4Lを母材として、下記の条件でフッ化処理、窒化処理およびクロマイズ処理を施した。
◎フッ化処理
雰囲気:フッ素系ガス(NF:10vol%+N:90vol%)
温度:400℃
時間:60分
◎窒化処理
雰囲気:NH:H:N=30:20:50
温度:590℃
時間:20時間
◎クロマイズ処理
処理剤:金属Cr粒ないしFe-Cr合金粒+焼結防止用Al+反応促進用の少量NHCl
気流:水素ないしアルゴン
温度:1050℃
時間:5時間
図7は、実施例2の表層部の断面顕微鏡写真である。
実施例2も、CrN層の内側にはN濃度が上昇していて、オーステナイト相が安定化し、σ層の析出は認められない。
図8は、実施例2の表面改質層の元素分布状況を示す線図である。
実施例2も、CrN層の内側に行くにつれて傾斜組成領域が形成されていることが明らかに認められる。
SUS329J4Lなどの二相系ステンレス鋼の場合、従来の処理技術では、表層のCrN層の内側の高Cr合金層にσ層が析出する。このため、CrN層に剥離などが起きた際の耐食性が劣化する危険性が懸念される。
実施例2では、SUS329J4Lの二相系ステンレス鋼において、σ相の析出を抑制し、剥離しにくい構造となることがわかる。
図9は、上記実施例2にショットブラスト試験(ガラスパウダ:0.4MPa×30秒)を実施した後の外観観察写真である。
図10は、上記実施例2に1000℃から常温までの加熱冷却の繰り返しを100回行う試験を実施した後の外観観察写真である。
この場合も、剥離や割れ等は発生していなかった。
実施例1~8および比較例1~4の、処理条件、各処理層の厚さ、剥離や割れの有無を下記の表1に示す。なお、フッ化処理の雰囲気は、フッ素系ガス(NF:10vol%+N:90vol%)であり、窒化処理の雰囲気は、実施例は、NH:H:N=30:20:50であり、比較例は、NH:N=50:50である。
Figure 0007370263000001
表1に示した析出層厚さについては、本発明ではCrN層とその下にある析出層および母材の界面が明瞭ではないが、CrN層の硬度はMHv1400以上となり、またMHv1400以下でMHv500以上の領域はCrNが分散析出して硬度が上昇し硬度傾斜層となっていることから、MHv500~1400の厚さを断面硬度測定結果から特定し、析出層厚さとして表記したものである。なお、比較例については、本発明の析出層は存在しないが、同様にMHv500~1400の厚さを断面硬度測定結果から特定し表記した。
また、表1に示したように、実施例1~8では、上記窒化処理によって形成される窒化層厚さ(化合物層+拡散層である)は、最終的に形成される上記表面改質層に含まれる上記クロム化合物層(CrN層)の厚みの少なくとも1.5倍以上の厚みである。一方、比較例1~4では、上記窒化処理によって形成される窒化層厚さが、最終的に形成される上記クロム化合物層(CrN層)の厚みの1.5倍以下である。
◆まとめ
CrNの傾斜組成をCrN層と母材との間に設けることによって、第1図に示したように、CrN層と母材の界面の熱膨張係数の違いを吸収し、発生する熱応力を低減させている。
以上のことから、本願の処理により、熱応力および衝撃力による剥離や割れへの耐性が著しく改善されていることが明らかである。
◆変形例
以上は本発明の特に好ましい実施形態について説明したが、本発明は示した実施形態に限定する趣旨ではなく、各種の態様に変形して実施することができ、本発明は各種の変形例を包含する趣旨である。

Claims (4)

  1. 炭素濃度が0.6重量%以下であるステンレス鋼,耐熱鋼.ニッケル基金属のうちいずれからなる母材と、上記母材の表面に形成された表面改質層とを備え、
    上記表面改質層は、
    表面側に存在するクロム化合物層と、
    上記クロム化合物層と上記母材との間に存在し、上記母材を構成する母材金属中にクロム化合物が析出した析出層とを含んで構成され
    上記クロム化合物層がCr Nからなり、上記Cr Nからなるクロム化合物層の窒素濃度は10原子%以上である
    ことを特徴とする金属製品。
  2. 上記Cr Nからなる上記クロム化合物層の硬度は、MHv1400以上である
    請求項1記載の金属製品。
  3. 上記クロム化合物層、上記析出層、上記母材の熱膨張係数が、表面から深部に向かうほど大きい
    請求項1または2記載の金属製品。
  4. 炭素濃度が0.6重量%以下であるステンレス鋼,耐熱鋼,ニッケル基金属のうちいずれからなる母材に対し、
    窒化源ガスを含む雰囲気で上記母材を加熱保持する窒化処理を行うことにより、母材の表層部に窒素濃度が10原子%以上で厚み5μm以上の窒素拡散層を形成し
    金属クロム粉末を含む粉末中に上記窒化処理した母材を存在させ、850~1200℃の温度で加熱保持するクロマイズ処理を行うことにより、
    上記母材の表面に、
    表面側に存在するクロム化合物層と、
    上記クロム化合物層と上記母材との間に存在し、上記母材を構成する母材金属中にクロム化合物が析出した析出層とを含んで構成される
    表面改質層を形成する
    ことを特徴とする金属製品の製造方法。
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