JP2014070269A - オーステナイト系表面改質金属部材およびオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法 - Google Patents

オーステナイト系表面改質金属部材およびオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法 Download PDF

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裕介 山根
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悟志 中野
Kazuhisa Furuta
和久 古田
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Abstract

【課題】 高温下での耐熱性および耐摩耗性に優れたオーステナイト系表面改質金属部材、および、前記オーステナイト系表面改質金属部材を、フッ素系ガス等の特殊なガスを使用することなく、かつ、短時間で製造することができる製造方法を提供する。
【解決手段】オーステナイト系金属を、減圧雰囲気下で加熱保持する減圧保持工程と、
オーステナイト系金属の表層部に炭素を導入して、炭素とオーステナイト系金属中に含まれるクロムとが化合したクロム炭化物粒子が分散したクロム炭化物分散層を形成する浸炭処理工程と、
浸炭処理後のオーステナイト系金属を、クロムを含む雰囲気中で加熱保持してクロムを浸透させ、浸透させたクロムを浸炭処理工程で形成されたクロム炭化物分散層中の炭素と化合させてクロム炭化物層を形成するクロマイズ処理工程とを含み、
減圧保持工程および浸炭処理工程を、所定のガス圧力および所定の温度範囲内で行う。
【選択図】図1

Description

本発明は、オーステナイト系表面改質金属部材およびオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法に関する。
従来、耐熱性が良好であるオーステナイト系ステンレス鋼の耐摩耗性を向上させる方法としてクロマイズ処理が知られている。この方法は金属表面にクロムを拡散浸透させて表層部にクロム炭化物層を形成させるものであり、その厚みは金属中の炭素量に依存する。このため、低炭素材であるオーステナイト系ステンレス鋼にクロマイズ処理を実施するとクロム炭化物層は数μmしか形成されず、内層にクロム固溶体層をもった二層構造となるが、耐摩耗性を向上させる効果があるのは主にクロム炭化物層である。このクロム炭化物層を5μm以上形成させる方法としてオーステナイト系ステンレス鋼の表面にクロマイズ処理の前に加炭する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この技術は、フッ素系ガスを用いて、浸炭を阻害するオーステナイト系ステンレス鋼の表面の不動態被膜を除去したのちに、低温で長時間の浸炭処理を行い、オーステナイト系ステンレス鋼の表層部にクロム炭化物の存在しない炭素固溶層を形成し、さらに、クロマイズ処理を行うことにより、オーステナイト系ステンレス鋼の表層部にクロム炭化物層を形成するものである。
特開2004−339562号公報
しかしながら、前記技術においては、フッ素系ガスを使用することが必要であるため、設備やコストの面で、実施には制約があった。また、処理時間が、例えば20時間以上要するものであり、効率の点で問題がある。また、得られる金属材料は、クロム炭化物層とクロム固溶体層の二層構造のままであり、クロム炭化物層厚さも十分とはいえず、例えば、800℃といった高温下での硬度は、必ずしも十分なものであるとはいえなかった。
そこで、本発明は、高温下での耐熱性および耐摩耗性に優れたオーステナイト系表面改質金属部材を提供することを目的とする。また、本発明は、高温下での耐熱性および耐摩耗性に優れたオーステナイト系表面改質金属部材を、フッ素系ガス等の特殊なガスを使用することなく、かつ、短時間で製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、本発明のオーステナイト系表面改質金属部材は、母材であるオーステナイト系金属の表層部に単層のCr23C6型クロム炭化物層を有し、前記クロム炭化物層の厚みが、10〜50μmの範囲内にあることを特徴とする。
また、本発明のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法は、
オーステナイト系金属を、減圧雰囲気下で加熱保持する減圧保持工程と、
オーステナイト系金属の表層部に炭素を導入して、前記炭素と前記オーステナイト系金属中に含まれるクロムとが化合したクロム炭化物粒子が分散したクロム炭化物分散層を形成する浸炭処理工程と、
前記浸炭処理後のオーステナイト系金属を、クロムを含む雰囲気中で加熱保持して前記浸炭処理後のオーステナイト系金属にクロムを浸透させ、前記浸透させたクロムを前記浸炭処理工程で形成されたクロム炭化物分散層中の炭素と化合させてクロム炭化物層を形成するクロマイズ処理工程とを含み、
前記減圧保持工程は、ガス圧力0.1Pa〜2kPaの範囲内、かつ、温度1000〜1100℃の範囲内で前記オーステナイト系金属を保持する工程であり、
前記浸炭処理工程は、ガス圧力0.5kPa〜2kPaの範囲内、かつ、温度900〜1050℃の範囲内で行うことを特徴とする。
また、本発明の他のオーステナイト系表面改質金属部材は、前記本発明のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法によって製造され、表面にCr23C6型クロム炭化物を含む被覆層を有することを特徴とする。
本発明によると、高温下での耐熱性および耐摩耗性に優れたオーステナイト系表面改質金属部材を提供することができる。また、本発明の製造方法によると、前記特性に優れたオーステナイト系表面改質金属部材を、フッ素系ガス等の特殊なガスを使用することなく、かつ、短時間で製造することが可能となるため、前記オーステナイト系表面改質金属部材を、効率よく、低コストで製造することができる。
図1は、実施例1で得られたオーステナイト系表面改質金属部材の断面組織写真である。 図2(a)は、比較例1で得られたオーステナイト系表面改質金属部材の断面組織写真である。図2(b)は、比較例2で得られたオーステナイト系表面改質金属部材の断面組織写真である。 図3は、実施例1で得られたオーステナイト系表面改質金属部材のEDX元素分析結果を示すチャートである。 図4(a)は、比較例1で得られたオーステナイト系表面改質金属部材のEDX元素分析結果を示すチャートである。図4(b)は、比較例2で得られたオーステナイト系表面改質金属部材のEDX元素分析結果を示すチャートである。 図5は、実施例1および比較例2で得られたオーステナイト系表面改質金属部材の高温硬度測定結果を示すグラフである。 図6は、減圧保持工程および浸炭処理工程のヒートパターンを示す説明図である。
本発明のオーステナイト系表面改質金属部材において、前記オーステナイト系金属に含まれる炭素濃度が0重量%を超え0.6重量%以下であることが好ましい。
本発明のオーステナイト系表面改質金属部材において、前記オーステナイト系金属がオーステナイト系ステンレス鋼またはオーステナイト系耐熱鋳鋼であることが好ましい。
本発明のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法において、前記浸炭処理工程が、炭化水素ガスを添加し、ガス圧力532〜1330Paの範囲内で行われることが好ましい。
本発明のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法において、前記炭化水素ガスが、プロパンまたはアセチレンであることが好ましい。
本発明のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法において、前記オーステナイト系金属として、炭素濃度が0重量%を超え0.6重量%以下であるものを用いることが好ましい。
本発明のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法において、前記オーステナイト系金属として、オーステナイト系ステンレス鋼またはオーステナイト系耐熱鋳鋼を用いることが好ましい。
本発明のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法は、前記浸炭処理工程において、前記クロム炭化物分散層を厚み20〜250μmの範囲内で形成することが好ましい。
本発明のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法は、前記浸炭処理工程において、前記クロム炭化物分散層の表面炭素濃度を3〜5重量%の範囲内とすることが好ましい。
つぎに、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載により制限されない。
(オーステナイト系金属)
まず、本発明の表面改質金属部材の製造方法が適用される母材であるオーステナイト系金属について説明する。
前記オーステナイト系金属としては、オーステナイト系ステンレス鋼、オーステナイト−フェライト2相系ステンレス鋼、および、オーステナイト系耐熱鋳鋼等があげられるが、炭素濃度が0.08重量%以下の材料を用いることが好ましく、オーステナイト系ステンレス鋼およびオーステナイト系耐熱鋳鋼を好ましく用いることができる。オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば鉄分を50重量%以上含有し、クロム分を12重量%以上含有するとともにニッケルを含有するオーステナイト系ステンレス鋼等があげられる。具体的には、SUS304、SUS316等の18−8系ステンレス鋼材や、クロムを25重量%、ニッケルを20重量%含有するオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS309やSUS310S、さらに、クロム含有量が23重量%、モリブデンを2重量%含むオーステナイト−フェライト2相系ステンレス鋼材等があげられる。また、ニッケルを19〜22重量%、クロムを20〜27重量%、炭素を0.25〜0.45重量%含むSCH21やSCH22等の耐熱鋼鋳鋼も本発明のオーステナイト系金属として好適に用いられる。さらに、クロムを20〜22重量%、ニッケルを3.25〜4.5重量%、マンガンを8〜10重量%、炭素を0.48〜0.58重量%含むSUH35や、クロムを13.5〜16重量%、ニッケルを24〜27重量%、モリブデンを1〜1.5重量%含むSUH660等の耐熱鋼も本発明におけるオーステナイト系金属として好適に用いることができる。
前記オーステナイト系金属として、ニッケルおよびクロムを含む、炭素濃度が0.08重量%以下の低炭素のオーステナイト系ステンレス鋼を使用することにより、高温領域における強度・耐疲労性・耐酸化性等の優れた特性を備えるとともに、表面には硬質のCr23C6型クロム炭化物層が形成されているオーステナイト系表面改質金属部材を得ることができる。前記オーステナイト系表面改質金属部材は、例えば、摺動摩耗のような機械的摩耗や、融着摩耗のような熱的摩耗、あるいは腐食摩耗のような化学的摩耗等に対する耐性に優れている。したがって、耐熱金属製品として各種の用途に利用できる。
さらに、前記オーステナイト系金属には、耐熱鋼であるインコロイ(Ni30〜45重量%、Cr10重量%以上、残Fe等)や、ニッケル分45重量%以上、クロム20重量%、鉄30重量%、その他モリブデン等を含むニッケル基合金も含まれる。このように、本発明においてオーステナイト系金属とは、常温で実質的(実質的とは、60重量%以上がオーステナイト相を有することをいう)に、オーステナイト相を呈するあらゆる金属を含む趣旨であり、ニッケルをオーステナイト安定化元素であるマンガンで置換したような、Fe−Cr−Mn系金属も含まれる。
前記オーステナイト系金属としては、所定の製品形状に加工したものを用いることができる。例えば、オーステナイト系金属を鋳造によってニアネットシェープ製品に形成し、その後必要に応じて所定形状に切削加工等を施したものを用いることができる。また、オーステナイト系金属を圧延により所定厚みの板状やブロック状に形成してから切削加工やプレス加工等によって所定の製品形状に形成したものを用いることができる。さらにまた、前記オーステナイト系金属の圧延焼鈍材をさらに熱間もしくは冷間で鍛造した鍛造品を母材として用いることもできる。また、オーステナイト系金属を金属粉末射出成型によって製品形状に成型したものも用いることができる。
(減圧保持工程)
前記減圧保持工程は、ガス圧力0.1Pa〜2kPaの範囲内、かつ、温度1000〜1100℃の範囲内で前記オーステナイト系金属を保持する工程である。より好ましくは、ガス圧力0.1〜400Paの範囲内、かつ、温度1000〜1100℃の範囲内であり、さらに好ましくは、ガス圧力0.1〜133Paの範囲内、かつ、温度1050〜1100℃の範囲内の条件である。
前記減圧保持工程では、減圧雰囲気下でオーステナイト系金属を加熱保持することにより、浸炭を阻害するオーステナイト系金属表面の不動態被膜を除去することができ、その後に、高温で短時間の浸炭処理を行うことで、オーステナイト系金属の表層部の素地中にクロム炭化物粒子が分散したクロム炭化物分散層を形成することができる。そのため、従来は必要であったフッ素系ガス等の特殊なガスが不要であり、さらに、減圧保持工程を行うことにより、後述の浸炭処理工程を、短時間で被処理表面に所定量の炭素を供給可能なものとすることができる。
(浸炭処理工程)
浸炭処理は、鉄鋼材料の表面処理方法として知られている。通常、浸炭処理と呼ばれるものの大部分はガス浸炭法による処理であり、例えば、900〜950℃程度の任意の温度に加熱保持した炉内に、常時、キャリヤガスと活性炭素を増加するエンリッチガスとを大気圧より少し高い圧力で導入し、その雰囲気ガス中で処理される。この導入されたガスのほとんどは浸炭に寄与しないため、余剰なガスは燃焼させCOとして大気中に放出される。
ガス浸炭処理は、通常、炭素含有量が0.3質量%以下の低炭素鋼や低炭素合金鋼に対して、雰囲気ガスから炭素原子を供給して、所定の浸炭深さと約0.8質量%の表面炭素濃度が得られるように、浸炭工程の時間と雰囲気ガスの活性炭素当量(CP値)および拡散工程の時間とCP値を調整して行われる。即ち、求める浸炭深さは温度と時間の関数であり、表面炭素濃度の調整は、雰囲気ガス中の活性炭素当量と処理品最表面の炭素濃度との間での平衡反応によりなされることで、所定の炭素濃度プロファイルを得ることができる。
例えば、ガス浸炭処理で、炭素鋼材の表面の深さ3.0mm程度浸炭する場合の一般的な処理条件は次のとおりである。
昇温工程:キャリヤガスのみを導入した状態で、2時間かけて930℃まで昇温
均熱工程:キャリヤガスのみを導入し、930℃、30分間保持
浸炭工程:CP値1.1%の雰囲気下で930℃、15時間保持
拡散工程:CP値0.7%の雰囲気下で930℃、10時間保持
1.5時間かけて850℃まで温度を下げ、30分間保持後、油冷
雰囲気ガスについては、メタンやプロパンなどの炭化水素系ガスと空気とを一定割合で混合して炉内に導入する場合や、メタノールとプロパンなどを直接炉内に導入する場合がある。
クロムを多量に含み表面にクロム酸化物からなる不動態被膜を有するオーステナイト系金属を処理する場合、従来のガス浸炭処理では前記不動態被膜により炭素の侵入が阻止され、表層部に必要とする炭素量を供給することが非常に困難である。このような場合、減圧浸炭法による浸炭処理を行うことが効果的である。減圧浸炭法によれば、減圧下で加熱保持されるためオーステナイト系金属表面の不動態被膜は除去される。その後、数Pa程度に減圧された炉内に、プロパン、アセチレン等の炭化水素ガスを、例えば1000Pa程度導入して所定の時間保持し(浸炭)、その後数Pa程度に減圧して所定の時間保持する(拡散)、浸炭−拡散のパルスを所望の浸炭深さに応じて繰り返す。浸炭部の炭素濃度は、処理温度における基材オーステナイト中の炭素固溶限と浸炭時間と拡散時間との比率により調整できる。また、クロムなどの炭化物形成元素を多量に含むオーステナイト系金属の場合、炭素は基材オーステナイト中への固溶と同時に基材中のクロム等と結合してクロム炭化物などの炭化物を形成することができる。減圧浸炭法は、非常に低圧で操業され、浸炭に必要な量だけプロパン、アセチレン等の炭化水素ガスを導入する処理であるため、COの排出が少ないクリーンな浸炭法でもある。
本発明においては、前記浸炭処理は、ガス圧力0.5kPa〜2kPa(500Pa〜2000Pa)の範囲内、かつ、温度900〜1050℃の範囲内の条件で行う。好ましくは、ガス圧力532〜1330Paの範囲内、かつ、温度950〜1050℃の範囲内であり、より好ましくは、ガス圧力1064〜1197Paの範囲内、かつ、温度950〜1000℃の範囲内の条件である。本条件とすることにより、オーステナイト系金属に、効果的に浸炭を行うことができる。また、本条件では、処理温度が比較的高温のため、被処理品の結晶粒の粗大化防止と浸炭の均一性を目的に、前記減圧保持工程の後に、鋼の再結晶温度以下に冷却し再度所定の浸炭温度に加熱する微細化処理を施すことが好ましい。このようにして浸炭処理を行うことにより、オーステナイト系金属の表層部に、クロム炭化物分散層が形成される。
前記浸炭処理工程において、前記クロム炭化物分散層を厚み20〜250μmの範囲内で形成することが好ましく、30〜100μmの範囲内で形成することがより好ましい。また、前記クロム炭化物分散層の表面炭素濃度を3〜5重量%の範囲内とすることが好ましく、4〜5重量%の範囲内とすることがより好ましい。このようにすることにより、クロム炭化物分散層に、後述するクロマイズ処理工程によって十分なクロム炭化物層を形成しうるだけの濃度の炭素が侵入するため、十分な厚みのCr23C6型クロム炭化物層を形成できる。また、浸炭処理終了段階の中間製品を抜き取り検査することにより、クロマイズ処理後の製品特性をある程度予測できる。このため、中間製品の品質特性の基準をつくり、それに満たないものについては再度、前記浸炭処理を行なうことができ、最終製品の不良率を減少して歩留まりを向上させることができる。
前記浸炭処理によって形成されるクロム炭化物分散層の硬度は、表面から内部に向かい、Hv800〜150の範囲での傾斜硬さを有することが好ましい。クロム炭化物分散層の硬度についても、前記中間製品の品質特性の基準として使用することができる。
(クロマイズ処理工程)
クロマイズ処理工程は、前記浸炭処理後のオーステナイト系金属を、クロムを含む雰囲気中で加熱保持して前記浸炭処理後のオーステナイト系金属にクロムを浸透させ、前記浸透させたクロムを前記浸炭処理工程で形成されたクロム炭化物分散層中の炭素と化合させてクロム炭化物層を形成する工程である。
前記クロマイズ処理は、浸炭処理後のオーステナイト系金属を、例えば、クロム源である金属クロム粉末またはフェロクロム粉末と焼結防止剤としてのアルミナ粉末との混合粉末とともに容器中に入れ、真空、不活性ガスもしくは還元性ガス中で、例えば、900〜1400℃、好ましくは900〜1200℃の温度域で、3〜10時間加熱することにより行なうことができる(粉末パック法)。金属クロムまたはフェロクロムとアルミナ粉末との混合比は金属クロム粉末(またはフェロクロム粉末)が55重量%に対し、アルミナ粉末が45重量%程度が好ましく用いられ、助剤を1重量%以上含むものが用いられる。前記浸炭処理後のオーステナイト系金属には、酸洗処理や機械研磨処理等の後処理を行なってもよいが、その場合にはこれらの後処理後に前記クロマイズ処理を行えばよい。
また、クロマイズ処理は、上記粉末パック法に限定するものではなく、金属クロム等と焼結防止剤を含む処理剤をスラリー状にしてオーステナイト系金属の表面に部分的に塗布して加熱することにより行なうこともできる。また、オーステナイト系金属を水素雰囲気中で、クロムまたはフェロクロムを含む混合粉末中に包み、焼結防止剤としてアルミナ、カオリンを、促進剤として塩化アンモニウムを加え、これを1000〜1100℃に加熱して塩化水素ガスを送ることによりクロムを浸透させる気体法によって行なうこともできる。この場合、フッ化クロムを用いることもできる。さらに、アルゴン気流中で塩化バリウム、塩化ナトリウム、クロム薄片を含む溶融塩浴中にオーステナイト系金属を浸漬処理する塩浴法によって行なうこともできる。
前記クロマイズ処理により、オーステナイト系金属の表層部にCr23C6型クロム炭化物層が形成され、本発明のオーステナイト系表面改質金属部材ができる。そして、前記減圧保持工程、浸炭処理工程、クロマイズ処理工程をこの順で行うことにより、クロム炭化物層形成に要するトータル時間が大幅に短縮され、ひいては、コストダウンが可能となる。本発明のオーステナイト系表面改質金属部材は、前記クロム炭化物層の厚みが10〜50μmの範囲内にある。前記クロム炭化物層の厚みは、15〜50μmの範囲内にあることが好ましく、15〜30μmの範囲内にあることがより好ましい。本発明によると、前記クロム炭化物層は緻密であり、また、単層で形成することができるため、高温強度、耐摩耗性等に優れたオーステナイト系表面改質金属部材を得ることができる。ここで、本発明において、Cr23C6型クロム炭化物層は、物性を損なわない範囲で不純物等が含まれていてもよい。
本発明により形成されるクロム炭化物層は、浸炭工程により表層部に供給される炭素量が十分となるため、前記クロム炭化物層の化学組成は、Cr23C6であり、緻密な層となっている。一方、浸炭工程により表層部に供給される炭素量が不足している場合に形成されるクロム炭化物層の化学組成は完全なCr23C6にはならない。この場合、ミクロ組織においては、クロム炭化物層中に棒状のボイド(空隙部)が確認され、緻密な層は形成できず(図2(b)参照)、クロム炭化物層の常温および高温における硬さが低くなる。
本発明により形成されるクロム炭化物層は、単層とすることができるが、後述の比較例2のように、クロム炭化物層とクロム拡散層の2層が形成される場合には、前記クロム拡散層との境界付近の前記クロム炭化物層には、(Fe,Cr)23C6で表される複合炭化物が形成されていると考えられる。この(Fe,Cr)23C6複合炭化物は、Cr23C6型クロム炭化物に比べて硬さが低い。したがって、緻密なクロム炭化物層を単層で厚く形成することは、常温および高温での硬さを上昇させ、高温での耐摩耗性の向上に直結する。なお、前記の2層構造となる原因は、完全なCr23C6型のクロム炭化物層を所定の厚さで形成するのに必要な炭素量が表層部に供給されていないためであるが、供給炭素量が少ない場合でも、処理条件によっては薄い単層膜を形成することは可能ではある。しかし、この場合には、上述のように、クロム炭化物層中にボイドが生じて、常温および高温での硬さが低いものしか得られない。また、前記クロム拡散層は鉄の面心立方格子において、格子点位置の鉄原子とクロム原子が入れ替わった置換型固溶体となっており、高温で長時間保持するとクロム原子と鉄原子の相互拡散が生じる。この相互拡散は、クロム拡散層中またはクロム拡散層−基材界面付近で格子定数の変化をもたらし、残留応力のバランスや形態が変化するために、クロム炭化物層の密着性を低下させ、強度低下の要因になると考えられる。
前記のようにして得られたオーステナイト系表面改質金属部材は、耐熱金属製品として好適に用いられる。このような耐熱金属製品は、母材がオーステナイト系金属であることから、オーステナイト系金属の高温領域における強度・耐疲労性・耐酸化性・耐摩耗性等の優れた機械的特性を備える。これとともに、表面には硬質のクロム炭化物層が形成されていることにより、例えば、摺動摩耗のような機械的摩耗や、融着摩耗のような熱的摩耗、あるいは腐食摩耗のような化学的摩耗等に対する耐性に優れている。したがって、耐熱金属製品として各種の用途に利用できる。
本発明のオーステナイト系表面改質金属部材は、例えば、自動車・船舶・飛行機等の内燃機関用部品、タービン用部品、コンプレッサ用部品、ボイラ用部品、ジェットエンジンやロケット用部品、ディーゼル機関用部品、化学プラント用部品、原子炉用部品、工業炉用部品等に適用することができる。また、常温域の耐摩耗・耐食用途の金属製品として、耐海水腐食性や耐応力腐食割れ性が要求される船舶用部品等に用いることができる。なお、本発明の適用は、これらに限定されるものではない。
つぎに、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例によってなんら限定ないし制限されない。また、各実施例および各比較例における各種特性および物性の測定および評価は、下記の方法により実施した。
[実施例1]
炭素濃度0.03重量%のオーステナイト系金属であるSUS310S鋼をテストピースとした。このテストピースに以下の条件で減圧保持、浸炭処理を行い、次いでクロマイズ処理を行った。
(減圧保持)
前記テストピースを、20Paの減圧下で、温度1050℃で30分間保持した。
(浸炭処理)
浸炭処理は、アセチレン雰囲気下、ガス圧力1064Paで、図6に示すヒートパターンで行った。
(クロマイズ処理)
クロマイズ処理は、処理剤として、金属クロム、アルミナ粉末および助剤(塩化アンモニウム)を用い、1050℃で10時間の条件で行った。このテストピースを実施例1の試料(オーステナイト系表面改質金属部材)とした。
[比較例1]
クロマイズ処理のみを実施例1と同一条件で行ったテストピースを、比較例1の試料(オーステナイト系表面改質金属部材)とした。
[比較例2]
(不動態被膜除去)
フッ素系ガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気中で、300℃の温度に15分間加熱保持した。
(浸炭処理)
CO+H+N混合ガスの大気圧下で、500℃で20時間保持した(固溶化型浸炭)。
(クロマイズ処理)
実施例1と同一条件で、クロマイズ処理を行った。
図1に実施例1で得られたオーステナイト系表面改質金属部材の断面組織写真を示す。試料の切断面を研磨後、断面の組織観察を行ったものである。エッチングは電界腐食法で行った。比較のために、図2(a)に、クロマイズ処理のみを行った比較例1のオーステナイト系表面改質金属部材の断面組織写真を、図2(b)に、固溶化型浸炭+クロマイズ処理を行った比較例2のオーステナイト系表面改質金属部材の断面組織写真を示す。図1(実施例1)において表面の白く映っている部分は、Cr23C6型クロム炭化物層である。
各試料の表面被覆層の厚みを測定したところ、表面に形成された被覆層の厚みは実施例1の試料では18.1μmであった。クロマイズ処理のみを行った比較例1の試料では、被覆層が2層構造となっているものの、2層構造の表面側の層は写真では判別できないほど薄かった。2層構造の内側の層の厚みは28.3μmであった。固溶化型浸炭+クロマイズ処理を行った比較例2の試料では、被覆層が2層構造となっており、厚みは10.5μm/17.3μmであった。
次に、実施例1で得られたオーステナイト系表面改質金属部材について、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)により元素分析を行った結果を図3に示す。図4(a)には、クロマイズ処理のみを行った比較例1のオーステナイト系表面改質金属部材の元素分析結果を、図4(b)に、固溶化型浸炭+クロマイズ処理を行った比較例2のオーステナイト系表面改質金属部材の元素分析結果を示す。グラフの横軸は試料の深さを示し、Fe、Cr、C、Niについての原子濃度を示している。FeとCrの濃度分布が入れ替わるような挙動を示す位置が、表面被覆層と母材との界面である。これらの元素分析結果およびX線回折測定の結果から、実施例1の試料の被覆層はCr23C6型クロム炭化物層であることがわかった。また、比較例1の試料の前記28.3μmの厚みの被覆層はクロム拡散層であり、比較例2の試料の被覆層はクロム炭化物層とクロム拡散層の2層構造であることがわかった。
硬度は、試料の切断面を鏡面研磨して各層の微小硬さ測定を行った。測定はマイクロビッカース硬度計を用い、測定荷重は100mNで行った。母材であるSUS310S鋼の室温での内部の硬度は、Hv165であった。比較例1のクロマイズ処理のみの試料ではクロム炭化物層が極薄くしか形成されておらず、クロム拡散層の室温での硬さはHv1095であった。また、比較例2の固溶化型浸炭+クロマイズ処理の試料のクロム炭化物層の室温での硬さはHv1478であったのに対して、実施例1の炭化物形成型浸炭+クロマイズ処理を施した試料のクロム炭化物層の室温での硬さは、Hv1543と最も硬度が高くなっていた。これはミクロ組織観察でも確認できるように、層中にボイドが存在しない緻密なクロム炭化物層が単層で形成されたためであるといえる。図5に、比較例2および実施例1の試料の形成された被覆層、および、未処理のSUS310S鋼について、高温下での硬度を測定した結果を示す。実施例1では、800℃付近の高温下でも、Hv600以上と、高い硬度を示していることがわかる。
本発明のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法によると、高温下での耐熱性および耐摩耗性に優れたオーステナイト系表面改質金属部材を提供することができる。本製造方法では、オーステナイト系表面改質金属部材を、フッ素系ガス等の特殊なガスを使用することなく、かつ、短時間で製造することが可能となるので、前記オーステナイト系表面改質金属部材を効率よく、低コストで製造することができる。得られたオーステナイト系表面改質金属部材は、耐摩耗性、耐熱性、耐高温酸化性などを求められる金属製品等、幅広い用途に適用できる。

Claims (9)

  1. 母材であるオーステナイト系金属の表層部に単層のCr23C6型クロム炭化物層を有し、
    前記クロム炭化物層の厚みが、10〜50μmの範囲内にあることを特徴とするオーステナイト系表面改質金属部材。
  2. 前記オーステナイト系金属に含まれる炭素濃度が0重量%を超え0.6重量%以下である、請求項1記載のオーステナイト系表面改質金属部材。
  3. オーステナイト系表面改質金属部材の製造方法であって、
    オーステナイト系金属を、減圧雰囲気下で加熱保持する減圧保持工程と、
    オーステナイト系金属の表層部に炭素を導入して、前記炭素と前記オーステナイト系金属中に含まれるクロムとが化合したクロム炭化物粒子が分散したクロム炭化物分散層を形成する浸炭処理工程と、
    前記浸炭処理後のオーステナイト系金属を、クロムを含む雰囲気中で加熱保持して前記浸炭処理後のオーステナイト系金属にクロムを浸透させ、前記浸透させたクロムを前記浸炭処理工程で形成されたクロム炭化物分散層中の炭素と化合させてクロム炭化物層を形成するクロマイズ処理工程とを含み、
    前記減圧保持工程は、ガス圧力0.1Pa〜2kPaの範囲内、かつ、温度1000〜1100℃の範囲内で前記オーステナイト系金属を保持する工程であり、
    前記浸炭処理工程は、ガス圧力0.5kPa〜2kPaの範囲内、かつ、温度900〜1050℃の範囲内で行うことを特徴とする、オーステナイト系表面改質金属部材の製造方法。
  4. 前記浸炭処理工程が、炭化水素ガスを添加し、ガス圧力532〜1330Paの範囲内で行われる、請求項3記載のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法。
  5. 前記炭化水素ガスが、プロパンまたはアセチレンである、請求項4記載のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法。
  6. 前記オーステナイト系金属として、炭素濃度が0重量%を超え0.6重量%以下であるものを用いる、請求項3から5のいずれか一項に記載のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法。
  7. 前記浸炭処理工程において、前記クロム炭化物分散層を厚み20〜250μmの範囲内で形成する、請求項3から6のいずれか一項に記載のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法。
  8. 前記浸炭処理工程において、前記クロム炭化物分散層の表面炭素濃度を3〜5重量%の範囲内とする、請求項3から7のいずれか一項に記載のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法。
  9. 請求項3から8のいずれか一項に記載のオーステナイト系表面改質金属部材の製造方法によって製造され、表面にCr23C6型クロム炭化物を含む被覆層を有することを特徴とするオーステナイト系表面改質金属部材。
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