JP6438253B2 - 遊技用鋼球およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、パチンコ球に代表される遊技用鋼球およびその製造方法に関する。
〔特許文献1〕
非磁性の鉄鋼材料であるオーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性を必要とする分野で幅広く利用されている。このようなオーステナイト系ステンレス鋼は、焼入れによる硬化ができず、一般的な窒化処理や浸炭処理を行うと耐食性が低下してしまう。このため、耐摩耗性や耐衝撃性など、耐久性を必要とされる用途におけるオーステナイト系ステンレス鋼の採用は限られている。オーステナイト系ステンレス鋼の耐久性を向上させ、摺動部品等への適用を可能とするため、耐食性を大きく損なわずに表面硬化を行う方法として低温浸炭処理を行う方法が提案され、実用化されている。
例えば、下記の特許文献1には、つぎの記載がある。
〔0006〕
この発明は、このような事情に鑑みなされたもので、オーステナイト系金属自体の強度を低下させずに、表面硬度を大幅に向上させ、しかも、オーステナイト系金属自体の優れた耐蝕性が損なわれていない硬質表面層をもつオーステナイト系金属に対する浸炭処理方法およびそれによって得られたオーステナイト系金属製品の提供をその目的とする。
〔0007〕
〔課題を解決するための手段〕上記の目的を達成するため、この発明は、浸炭処理に先立って、フッ素系ガス雰囲気下でオーステナイト系金属を加熱状態で保持し、ついで浸炭処理の際の温度を680℃以下の温度に設定して浸炭処理するオーステナイト系金属に対する浸炭処理方法を第1の要旨とし、その浸炭処理方法によって得られた、表面から10〜70μmの深さの表面層が炭素原子の浸入によって硬化して浸炭硬化層に形成され、この浸炭硬化層の硬度がマイクロビッカース硬度で700〜1050(HV)に形成され、上記浸炭硬化層中には粗大クロム炭化物粒子が存在していないオーステナイト系金属製品を第2の要旨とする。
〔特許文献2〕
一方、パチンコ球に代表されるような遊技用鋼球には、つぎのようなものが使用されている。低炭素鋼を基材として浸炭焼入れで強度アップし、クロムメッキで耐食性と耐摩耗性を付与したものである。基材の低炭素鋼が磁性材料であり、それ自体が磁性体である遊技用鋼球を、磁石によって誘導して入賞させる不正行為が問題となっている。それを防止するため、非磁性の遊技用鋼球の導入に向けた検討が行われている。
例えば、下記の特許文献2には、つぎの記載がある。
〔0031〕
また、遊技媒体が非磁性材料であるために遊技領域に発射された遊技媒体を磁石を用いて不正に誘導する不正行為を防止できつつも、遊技媒体が非磁性材料ではあるが金属材料であるために、従来から一般的な近接スイッチによりその遊技媒体を検出することが可能となる。
〔0032〕
(12)上記(11)の遊技用システムにおいて、前記遊技媒体封入部は、非磁性金属材料として、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304、SUS305等)を用いて製造された遊技媒体を封入する。
〔0033〕
このような構成によれば、遊技媒体が耐腐食性に優れ、かつ耐摩耗性が高い。
(13)上記(12)の遊技用システムにおいて、前記遊技媒体封入部は、前記オーステナイト系ステンレス鋼として、JIS規格SUS304を用いて製造された遊技媒体を封入する。
〔0034〕
このような構成によれば、遊技媒体が耐腐食性に優れ、かつ耐摩耗性が高く、さらに、一般的に用いられている金属材料であるために入手しやすい。
特開平8−158035号公報 特開2012−217696号公報
非磁性の遊技用鋼球を得るため、単にオーステナイト系ステンレス鋼を基材に用いるだけでは十分でない。すなわち、特に、一般の浸炭焼き入れ品に比べて表面部の硬度および強度が大幅に不足する。この場合、球同士が衝突等することによって、大きな凹みや傷が発生し、遊技用鋼球として必要な耐久性を得られない。
そこで、オーステナイト系ステンレス鋼を基材とした遊技用鋼球の耐久性を向上させるため、窒化処理や浸炭処理などの表面硬化処理を施すことが考えられる。
ところが、窒化処理を適用した場合、つぎの問題が生じる。つまり、オーステナイト系ステンレス鋼を窒化すると、ステンレス鋼に含まれるCrと侵入させたNによりクロム窒化物が形成される。そうすると、耐食性が低下し、磁性も生じてしまう。非磁性のオーステナイト系ステンレス鋼を基材に用いたとしても、窒化処理を適用したのでは、非磁性の遊技用鋼球として実用化することはできない。
一方、上述した低温浸炭処理は、非磁性の遊技用鋼球を得るのに最も適した方法と考えられる。つまり、オーステナイト系ステンレス鋼の有する耐食性を大きく損なうことなく、磁性を発生させずに表面部の硬度を上昇させることが可能と考えられる。めっきやPVD等のコーティング処理のように、硬化層が剥離して機器にトラブルを起こすことも考え難い。
しかしながら、一般的なオーステナイト系ステンレス鋼に単に上述した低温浸炭を適用したとしても、遊技用鋼球として実用レベルの強度を得ることができない。すなわち、SUS304やSUS316に低温浸炭処理を実施したとしても、得られる浸炭硬化層は数10μm程度が限度である。炭素の拡散速度を大きく低下させるCrやNiの含有量が多いためである。したがって、処理時間を長くした場合でも、低炭素鋼に一般の浸炭処理を行うようにミリオーダーの厚い硬化層は形成できない。このため、特に表面部の強度が不足し、球同士の衝突等によって大きな打痕ができてしまい、実用的な寿命を確保できないという問題がある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、つぎの目的をもつ。
表面硬化処理により実用的な耐久性を有し、非磁性の特性を有する遊技用鋼球およびその製造方法を提供する。
請求項1記載の遊技用鋼球は、上記目的を達成するため、つぎの構成を採用した。
質量で、
C:0.01〜0.20%、
N:0.10〜0.70%、
Si:1.50%以下(0を含まない)、
Mn:0.81〜20.0%、
P:0.20%以下(0を含まない)、
S:0.20%以下(0を含まない)、
Ni:2.0〜22.0%、
Cr:15.0〜25.0%、
Mo:5.0%以下(0を含む)、
Cu:5.0%以下(0を含む)、
V:0.50%以下(0を含む)、
Nb:0.50%以下(0を含む)、
B:0.05%以下(0を含む)、
Al:0.10%以下(0を含む)、
Ti:0.10%以下(0を含む)、
Mg:0.05%以下(0を含む)、
Ca:0.20%以下(0を含む)、
Pb:0.50%以下(0を含む)、
Se:0.50%以下(0を含む)、
Te:0.50%以下(0を含む)、
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼を基材とし、
上記基材が冷間鍛造もしくは温間鍛造により球形状に成型加工されたその表面に、1.0質量%以上の炭素濃度を有する浸炭硬化層が形成され、
非磁性の特性を有する。
請求項5記載の遊技用鋼球の製造方法は、上記目的を達成するため、つぎの構成を採用した。
質量で、
C:0.01〜0.20%、
N:0.10〜0.70%、
Si:1.50%以下(0を含まない)、
Mn:0.81〜20.0%、
P:0.20%以下(0を含まない)、
S:0.20%以下(0を含まない)、
Ni:2.0〜22.0%、
Cr:15.0〜25.0%、
Mo:5.0%以下(0を含む)、
Cu:5.0%以下(0を含む)、
V:0.50%以下(0を含む)、
Nb:0.50%以下(0を含む)、
B:0.05%以下(0を含む)、
Al:0.10%以下(0を含む)、
Ti:0.10%以下(0を含む)、
Mg:0.05%以下(0を含む)、
Ca:0.20%以下(0を含む)、
Pb:0.50%以下(0を含む)、
Se:0.50%以下(0を含む)、
Te:0.50%以下(0を含む)、
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼を基材とし、
上記基材を冷間鍛造もしくは温間鍛造により球形状に成型加工し、
その表面に、1.0質量%以上の炭素濃度を有する浸炭硬化層を形成し、
非磁性の特性を持たせた。
請求項1記載の遊技用鋼球は、基材としたオーステナイト系ステンレス鋼が、上述した元素成分を含有し、冷間鍛造もしくは温間鍛造により球形状に成型加工されている。その表面に、1.0質量%以上の炭素濃度を有する浸炭硬化層が形成されている。このため、球同士の衝突等による機能上問題となるような大きな打痕や傷の発生が抑制される。また、めっきやコーティングのように表面被膜剥離による機器トラブルの発生も防止できる。また、基材としたオーステナイト系ステンレス鋼の非磁性が維持されている。これにより、磁石誘導による不正行為が防止される。
非磁性であるオーステナイト系ステンレス鋼を基材とし、球形状への成形を冷間もしくは温間による鍛造成型加工により行い、加工硬化により基材の硬度および強度を大きく上昇させた。また、オーステナイト系ステンレス鋼を用いることにより、冷間鍛造または温感鍛造の際に低い加工率で高い加工硬化量が得られる。つまり、鍛造加工により球の全体にわたって均一な加工率とすることが困難であるところ、加工率が比較的小さくなった部分でも十分な硬度が得られるようになる。
請求項2記載の遊技用鋼球は、上記基材としたオーステナイト系ステンレス鋼が、下記式(1)で表されるMd30の値が、−80以下である。ここで、式(1)中の[元素記号]は、鋼材中における各元素の含有量(質量%)である。
Md30=551−462([C]+[N])−9.2[Si]−8.1[Mn]−29([Ni]+[Cu])−13.7[Cr]−18.5[Mo]・・・(1)
このようにすることにより、上記オーステナイト系ステンレス鋼材は、単に加工硬化しやすいだけではなく、冷間鍛造または温間鍛造の際に、加工誘起マルテンサイトの発生をできるだけ少なくできる。加工誘起マルテンサイトが多く発生すると、浸炭処理を行う際の炭素の浸入および拡散を阻害する。このため、Md30の値を−80以下とすることにより、十分な炭素濃度の浸炭層を形成することができる。また、加工誘起マルテンサイトの発生量が少ないと、加工によって基材の磁性が上昇するのを抑制できる。
請求項3記載の遊技用鋼球は、上記基材としたオーステナイト系ステンレス鋼が、Nの含有量が0.10〜0.70質量%である。
Nは母相に固溶して基地を強化するとともに、オーステナイト相の加工硬化性を向上させる。またオーステナイト相を安定化し、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制する。したがって、オーステナイト系ステンレス鋼のN含有量を0.10〜0.70質量%とすることにより、冷間鍛造または温間鍛造で十分に加工硬化され、浸炭硬化層より深部の強度があがり、球同士の衝突等による打痕の発生を防止して実用的な寿命を確保できる。また、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制する。これにより、十分な炭素濃度の浸炭層を形成し、冷間鍛造または温間鍛造による基材の磁性上昇を抑制する。
請求項4記載の遊技用鋼球は、上記浸炭硬化層より深部における硬さの平均値が、マイクロビッカース硬さ(Hv)で300以上である。
浸炭硬化層より深部における硬さを確保したことにより、球同士の衝突等による打痕の発生を防止して実用的な寿命を確保できる。
請求項5記載の遊技用鋼球の製造方法は、基材としたオーステナイト系ステンレス鋼が上述した元素成分を含有し、それを冷間鍛造もしくは温間鍛造により球形状に成型加工する。その表面に、1.0質量%以上の炭素濃度を有する浸炭硬化層を形成する。非磁性の特性を持たせた。
非磁性であるオーステナイト系ステンレス鋼を基材とし、球形状への成形を冷間もしくは温間による鍛造成型加工により行い、加工硬化により基材の硬度および強度を大きく上昇させた。また、オーステナイト系ステンレス鋼を用いることにより、冷間鍛造または温感鍛造の際に低い加工率で高い加工硬化量が得られる。つまり、鍛造加工により球の全体にわたって均一な加工率とすることが困難であるところ、加工率が比較的小さくなった部分でも十分な硬度が得られるようになる。
その表面に、1.0質量%以上の炭素濃度を有する浸炭硬化層が形成されている。このため、球同士の衝突等による機能上問題となるような大きな打痕や傷の発生が抑制される。また、めっきやコーティングのように表面被膜剥離による機器トラブルの発生も防止できる。また、基材としたオーステナイト系ステンレス鋼の非磁性が維持されている。これにより、磁石誘導による不正行為が防止される。
請求項6記載の遊技用鋼球の製造方法は、上記基材としたオーステナイト系ステンレス鋼が、下記式(1)で表されるMd30の値が、−80以下である。ここで、式(1)中の[元素記号]は、鋼材中における各元素の含有量(質量%)である。
Md30=551−462([C]+[N])−9.2[Si]−8.1[Mn]−29([Ni]+[Cu])−13.7[Cr]−18.5[Mo]・・・(1)
このようにすることにより、上記オーステナイト系ステンレス鋼材は、単に加工硬化しやすいだけではなく、冷間鍛造または温間鍛造の際に、加工誘起マルテンサイトの発生をできるだけ少なくできる。加工誘起マルテンサイトが多く発生すると、浸炭処理を行う際の炭素の浸入および拡散を阻害する。このため、Md30の値を−80以下とすることにより、十分な炭素濃度の浸炭層を形成することができる。また、加工誘起マルテンサイトの発生量が少ないと、加工によって基材の磁性が上昇するのを抑制できる。
請求項7記載の遊技用鋼球の製造方法は、上記基材としたオーステナイト系ステンレス鋼は、Nの含有量が0.10〜0.70質量%である。
Nは母相に固溶して基地を強化するとともに、オーステナイト相の加工硬化性を向上させる。またオーステナイト相を安定化し、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制する。したがって、オーステナイト系ステンレス鋼のN含有量を0.10〜0.70質量%とすることにより、冷間鍛造または温間鍛造で十分に加工硬化され、浸炭硬化層より深部の強度があがり、球同士の衝突等による打痕の発生を防止して実用的な寿命を確保できる。また、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制する。これにより、十分な炭素濃度の浸炭層を形成し、冷間鍛造または温間鍛造による基材の磁性上昇を抑制する。
請求項8記載の遊技用鋼球の製造方法は、上記冷間鍛造もしくは温間鍛造により基材を加工硬化させ、その後の浸炭温度を650℃以下として軟化をできるだけ少なくすることにより、
上記浸炭硬化層より深部における硬さの平均値を、マイクロビッカース硬さ(Hv)で300以上とした。
上記の鍛造加工により加工硬化した鋼球に対し、表面部の強度をさらに向上させるための浸炭硬化層を形成させる。このとき、好ましくはその処理温度を650℃以下とし、基材硬度の低下を抑制する。これにより、上記浸炭硬化層より深部における硬さの平均値を、マイクロビッカース硬さ(Hv)で300以上とする。高い温度で浸炭処理を実施すると、加工硬化された材料が焼鈍されて基材の強度が低下してしまい、浸炭処理層を厚く形成させたとしても結果的に実用的な強度を得ることが難しいからである。
また、上記の浸炭処理によって形成する浸炭硬化層は、その炭素濃度が1.0質量%以上とする。これにより、鋼球の表面部の強度を十分に上昇させることができる。また、この浸炭処理層は磁性を持たないため、非磁性が維持される。
EPMA分析による鋼球表面部炭素濃度の測定結果を示したグラフである。 実施例1の鋼球表面をデジクルマイクロスコープで観察した画像である。 比較例3の鋼球表面をデジタルマイクロスコープで観察した画像である。
以下に本発明の実施の形態を説明する。
本実施形態の遊技用鋼球は、つぎの基本構成を有する。
オーステナイト系ステンレス鋼を基材とし、
上記基材が冷間鍛造もしくは温間鍛造により球形状に成型加工されたその表面に、1.0質量%以上の炭素濃度を有する浸炭硬化層が形成され、
非磁性の特性を有する。
〔基材〕
本実施形態の遊技用鋼球は、基材としてオーステナイト系ステンレス鋼を使用する。
上記オーステナイト系ステンレス鋼は、基材自体が非磁性を示すものである。具体的には、例えば、SUS201,SUS202,SUS301,SUS302,SUS303,SUS304,SUS305,SUS316,SUS317等をあげることができる。
〔元素成分〕
本発明の基材として使用するオーステナイト系ステンレス鋼を構成する元素成分の含有量として、たとえば、下記のものを用いることが好ましい。
C:0.01〜0.20質量%、N:0.10〜0.70質量%、Si:1.50質量%以下(0を含まない)、Mn:0.81〜20.0質量%、P:0.20質量%以下(0を含まない)、S:0.20質量%以下(0を含まない)、Ni:2.0〜22.0質量%、Cr:15.0〜25.0質量%、Mo:5.0質量%以下(0を含む)、Cu:5.0質量%以下(0を含む)、V:0.50質量%以下(0を含む)、Nb:0.50質量%以下(0を含む)、B:0.05質量%以下(0を含む)、Al:0.10質量%以下(0を含む)、Ti:0.10質量%以下(0を含む)、Mg:0.05質量%以下(0を含む)、Ca:0.20質量%以下(0を含む)、Pb:0.50質量%以下(0を含む)、Se:0.50質量%以下(0を含む)、Te:0.50質量%以下(0を含む)を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼。
各元素の好ましい成分範囲について以下に説明する。なお、元素成分の組成範囲をこれらに限定する趣旨ではない。
C:0.01〜0.20質量%
Cは0.01質量%以上とすることが好ましい。母相へ固溶して基地を強化するとともにオーステナイト相の加工硬化性を向上させるからである。また、オーステナイト相を安定化し、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制する効果があるからである。しかし、上限は0.20質量%とすることが好ましい。より好ましくは0.15質量%以下である。0.20質量%を超えると固溶させることが困難になるうえ、鍛造性を劣化させるからである。
N:0.10〜0.70質量%
Nは0.10質量%以上とすることが好ましい。Cと同様に、母相へ固溶して基地を強化するとともにオーステナイト相の加工硬化性を向上させるからである。また、オーステナイト相を安定化し、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制する効果があるからである。本発明では、0.15質量%以上であることがより好ましい。基材に用いる鋼材が高い加工硬化性を有することが重要だからである。しかし、その上限は0.70質量%とすることが好ましい。過剰に添加すると鍛造性を劣化させるためである。
Si:1.50質量%以下(0を含まない)
Siは0.1質量%以上とすることが好ましい。溶製時の脱酸剤として作用し、オーステナイトがマルテンサイトに変態する温度(Ms点)を下げる効果も有するからである。しかし、上限は1.50質量%とすることが好ましい。より好ましくは1.0質量%以下である。過剰に添加するとNの溶解度を低下させ、フェライトが生成しやすくなるためである。
Mn:0.81〜20.0質量%
Mnは0.81質量%以上とすることが好ましい。オーステナイト相安定化元素であり、Nの溶解度を大きくするとともに、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制する効果があるからである。しかし、その上限を20.0質量%とすることが好ましい。20.0質量%を超えると加工性が悪くなるためである。
P:0.20質量%以下(0を含まない)
Pは0.20質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.04質量%以下である。過剰であると靭性を低下させるからである。少量であることが望ましい。
S:0.20質量%以下(0を含まない)
Sは0.20質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.04質量%以下である。過剰であると靭性を低下させるからである。少量であることが望ましい。
Ni:2.0〜22.0質量%
Niは2.0質量%以上とすることが好ましい。より好ましくは4.0質量%以上である。オーステナイト相安定化元素であり、加工誘起マルテンサイトの生成を抑制する効果があるためである。しかし、その上限を22.0質量%とすることが好ましい。より好ましくは16.0質量%以下である。Niは高価であり、コストを引き上げることになるからである。
Cr:15.0〜25.0質量%
Crは15.0質量%以上とすることが好ましい。耐食性を向上させるのに有効な元素であり、Nの溶解度も大きくするためである。しかし、その上限を25.0質量%とすることが好ましい。より好ましくは20.0質量%以下である。過剰になるとフェライトが生成しやすくなるからである。
Mo:5.0質量%以下(0を含む)
Moは必要に応じて添加することができる。耐食性を向上させるのに有効な元素だからである。しかし、その上限を5.0質量%とすることが好ましい。より好ましくは3.0質量%以下である。高価な元素であり、過剰に添加するとフェライトが生成しやすくなるからである。
Cu:5.0質量%以下(0を含む)
Cuは必要に応じて添加することができる。オーステナイト相安定化元素であり、耐食性を向上させるのに有効な元素だからである。しかし、その上限を5.0質量%とすることが好ましい。過剰に添加すると加工硬化率を低下させるためである。
V:0.50質量%以下(0を含む)
Vは必要に応じて添加することができる。炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化して基地の強度を向上させるのに有効な元素だからである。しかし、その上限を0.50質量%とすることが好ましい。過剰に添加すると冷間加工性が劣化するためである。
Nb:0.50質量%以下(0を含む)
Nbは必要に応じて添加することができる。Vと同様に炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化して基地の強度を向上させるのに有効な元素だからである。しかし、その上限を0.50質量%とすることが好ましい。過剰に添加すると冷間加工性が劣化するためである。
B:0.05質量%以下(0を含む)
Bは必要に応じて添加することができる。オーステナイト結品粒界へのPの偏析を抑制する効果があり、加工性を向上させるのに有効な元素だからである。しかし、その上限を0.05質量%とすることが好ましい。より好ましくは0.01質量%以下である。0.05質量%を超えると非磁性特性を劣化させるためである。
Al:0.10質量%以下(0を含む)
Alは必要に応じて添加することができる。溶製時の脱酸剤として使用することができる元素だからである。しかし、その上限を0.10質量%とすることが好ましい。より好ましくは0.05質量%以下である。過剰に添加すると鋼中のNがAlNとして析出し、Nによるオーステナイト相の安定化効果を低下させるためである。
Ti:0.10質量%以下(0を含む)
Tiは必要に応じて添加することができる。溶製時の脱酸剤として使用することができる元素だからである。しかし、その上限を0.10質量%とすることが好ましい。過剰に添加すると鋼中のNがTiNとして析出し、Nによるオーステナイト相の安定化効果を低下させるためである。
Mg:0.05質量%以下(0を含む)
Mgは必要に応じて添加することができる。溶製時の脱酸剤として使用することができ、N添加による加工性の劣化を補うのに有効な元素だからである。しかし、その上限を0.05質量%とすることが好ましい。0.05質量%を超えるとその効果が飽和するためである。
Ca:0.20質量%以下(0を含む)
Caは必要に応じて添加することができる。溶製時の脱酸剤として使用することができ、N添加による加工性の劣化を補うのに有効な元素だからである。しかし、その上限を0.20質量%とすることが好ましい。より好ましくは0.05質量%以下である。0.20質量%を超えるとその効果が飽和するためである。
Pb:0.50質量%以下(0を含む)
Se:0.50質量%以下(0を含む)
Te:0.50質量%以下(0を含む)
Pb、Se、Teは1種または2種以上を必要に応じて添加することができる。いずれも加工性の向上に有効な元素だからである。しかし、それぞれ上限を0.50質量%とすることが好ましい。より好ましくは0.30質量%以下である。それぞれ0.50質量%を超えると非磁性特性を劣化させるためである。
上記基材は、後述する冷間鍛造もしくは温間鍛造による加工硬化で高い硬度が得られることが必要である。このため、C、Ni等の各元素の含有量として、上述した範囲とすることが好ましい。
〔Md30値〕
上記基材としたオーステナイト系ステンレス鋼は、
下記式(1)で表されるMd30の値が、−80以下であるものであることが好ましい。式(1)中の[元素記号]は、鋼材中における各元素の含有量(質量%)である。
Md30=551−462([C]+[N])−9.2[Si]−8.1[Mn]−29([Ni]+[Cu])−13.7[Cr]−18.5[Mo]・・・(1)
上記基材は、オーステナイト相が安定で、加工による磁性の発生が少なく、加工誘起マルテンサイトの生成量の少ないことが必要である。
上記Md30値は、オーステナイト組織に30%の歪を付与した際に組織の50%がマルテンサイトに変態する温度として定義される数値である。オーステナイト相の安定度を示す指標である。言い換えると、加工誘起マルテンサイトの生成しやすさを示す指標となる。厳密にいうと、Md30は結晶粒度にも影響される数値である。しかし、本発明において、結晶粒度による相対差は無視できる程度に軽微である。このため、本発明では上記式(1)から求めた値で表すこととする。
本発明では、上記基材としてMd30値が−80以下、より好ましくは−100以下となるよう調整されたものを用いることが望ましい。下限値は特に限定されるものではないが、冷間鍛造もしくは温間鍛造性が劣化するため−400程度までであることが好ましい。
これに加えて、オーステナイト系ステンレス鋼中のN濃度を、0.10質量%以上、より好ましくは0.15質量%以上とすると、本発明の遊技用鋼球の基材として理想的である。高い加工硬化特性と低い加工誘起マルテンサイト生成量が両立されるからである。
〔鍛造〕
本実施形態の遊技用鋼球は、上記基材が冷間鍛造もしくは温間鍛造により球形状に成型加工されている。
上記オーステナイト系ステンレス鋼を、バー状やコイル状の線材に形成した後、所定の長さに切断し、冷間鍛造もしくは温間鍛造により球形状に成形する。
ここで、『冷間鍛造もしくは温間鍛造により』というのは、熱間鍛造でないことを意味する。つまり、鍛造加工の際に、結晶がつぶれて引き伸ばされたり寸断されたりする。したがって、本発明の遊技用鋼球は、このとき金属組織に現れるファイバーフローが観察できる。このファイバーフローは、後述する浸炭処理を行ったあとでも観察される。
上記冷間鍛造もしくは温間鍛造は、好ましくは600℃以下、より好ましくは500℃以下で実施するのが好ましい。加工歪を導入して硬化した鋼材が、再結晶による回復で大きく軟化が進まないようにする温度とするためである。
上記オーステナイト系ステンレス鋼を球形状に成型する際の冷間鍛造もしくは温間鍛造では、その加工率が15%以上、より好ましくは20%以上となるようにするのが好ましい。冷間鍛造もしくは温間鍛造で球形に成形されたオーステナイト系ステンレス鋼が、加工硬化によって強度を大きく向上させることができるからである。
このとき、冷間鍛造もしくは温間鍛造で球形に成形された基材の硬度を、マイクロビッカース硬さ(Hv)で300以上、より好ましくは350以上にするのが好ましい。
また、上記球状に成形した基材中の加工誘起マルテンサイト量は、できるだけ少ないことが望ましい。その後の浸炭処理に大きく影響を与えるからである。また、加工誘起マルテンサイトが存在すると磁性が高くなる傾向にあるからである。つまり、冷間鍛造もしくは温間鍛造によって球状に成形した基材の比透磁率は、1.05以下、より好ましくは1.03以下に抑制するのが望ましい。この場合、高炭素濃度の浸炭層を形成させることが可能となる。
〔浸炭硬化層〕
本実施形態の遊技用鋼球は、上記鍛造により成形加工されたその表面に、1.0質量%以上の炭素濃度を有する浸炭硬化層が形成されている。
上記浸炭硬化層は、冷間鍛造もしくは温間鍛造で球形に成形された基材の表面を研磨した後、浸炭処理を実施して形成する。これにより、球形に成形された基材の表面部の強度をさらに向上させる。
上記浸炭処理としては、ガス浸炭、真空浸炭、プラズマ浸炭等、各種の方法を適用することができる。
浸炭処理として特に、フッ化処理等のハロゲンを用いた前処理の後にガス浸炭処理を行う方法が好ましい。オーステナイト系ステンレス鋼の表面に存在する不動態皮膜をフッ化で除去することにより、炭素濃度が高い浸炭層を均一に生成することができるからである。また、それを低温で実現し、量産性にも優れているからである。
上記ハロゲンによる前処理は、雰囲気を制御できる加熱炉を用い、ハロゲンを含む雰囲気ガス中において上記基材を加熱保持することにより行う。上記雰囲気ガスに用いるハロゲンとしては、たとえば、F、Cl、HCl、NFなどのハロゲンガスまたはハロゲン化物ガスを用いることができる。上記雰囲気ガスは、ハロゲンを0.5〜20容積%含み、残部を窒素ガス、水素ガスあるいは不活性ガスなどとした混合ガスを用いることができる。上記ハロゲン化処理は、上記雰囲気ガス中で、母材を200〜550℃にて10分〜3時間程度、加熱保持することにより、表面を活性化させる。
上記浸炭処理は、雰囲気を制御できる加熱炉を用い、炭素源ガスを含む雰囲気ガス中において上記基材を加熱保持することにより行う。上記雰囲気ガスに用いる浸炭ガスは、例えば、炭素源としてCOを含む浸炭用のガスに、反応促進用のガスとしてHを混合して用いることができる。
その浸炭処理の処理温度は、650℃以下とすることが好ましい。より好ましくは630℃以下である。加工硬化された基材が、浸炭時の加熱保持で焼鈍されてしまうことによる強度低下を極力小さくするためである。このようにすることにより、浸炭硬化層を支える深部の強度を確保し、遊技用鋼球として実用化可能な高い表面強度を得ることができる。特に、浸炭処理として、フッ化処理等のハロゲンを用いた前処理の後にガス浸炭処理を行った場合、オーステナイト系ステンレス鋼からなる基材に形成できる浸炭硬化層の厚さは、一般的な鋼材に高温浸炭で形成できる浸炭層ほど厚くできないことから、効果的である。
強度向上のため、磁性等が実用上問題とならない範囲において、上記浸炭硬化層には、炭素だけでなく少量の窒素を拡散させるようにしてもよい。この場合は、浸炭処理の際の雰囲気ガスに、アンモニア等の窒素源ガスを添加する。
上記の浸炭硬化層を形成させた球状の基材は、所定の寸法となるよう仕上研磨を実施して本発明の遊技用鋼球とする。このとき、仕上研磨後の表面部の炭素濃炭は1.0質量%以上となるようにする。これによって、鋼球の表面硬度はマイクロビッカース硬さ(Hv)で700以上、より好ましくは750以上となる。加工硬化による深部強度の向上との相乗効果により、現在使用されている遊技用鋼球と同等レベルまで耐久性を高めることができる。また、上記の浸炭処理層は磁性を持たないため、成型加工後の比透磁率である1.05以下、より好ましくは1.03以下が維持される。これにより、磁石を用いて誘導することができない非磁性の遊技用鋼球として実用化可能となる。
〔深部硬度〕
本実施形態の遊技用鋼球は、上記浸炭硬化層より深部における硬さの平均値が、マイクロビッカース硬さ(Hv)で300以上であることが好ましい。
上述したように、オーステナイト系ステンレス鋼である基材を、冷間鍛造または温間鍛造で球形に成形して加工硬化させ、浸炭処理を行って表面に浸炭硬化層を形成したのち、上記浸炭硬化層より深部における硬さの平均値が、Hv300以上、より好ましくはHv350以上を呈するのである。
つまり、上記冷間鍛造もしくは温間鍛造により基材を加工硬化させ、その後の浸炭温度を650℃以下として軟化をできるだけ少なくすることにより、上記浸炭硬化層より深部における硬さの平均値を、マイクロビッカース硬さ(Hv)で300以上としている。
〔磁性〕
本実施形態の遊技用鋼球は、非磁性の特性を有する。具体的には、比透磁率が1.05以下、より好ましくは1.03以下である。
つまり上述したように、オーステナイト系ステンレス鋼である基材を、冷間鍛造または温間鍛造で球形に成形して加工硬化させ、浸炭処理を行って表面に浸炭硬化層を形成したのち、比透磁率が1.05以下、より好ましくは1.03以下を呈するのである。
つぎに、本発明の実施例を以下に詳述する。本発明は、以下の実施例によって制限を受けるものではなく、特に製造条件などは前記、後記の趣旨に適合し得る範囲の適当な変更を加えることが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
表1は、準備した鋼材の化学成分組成とMd30値を示す。これらの鋼材について、直径約9mm、長さ約15mmの円柱状にしたものを、冷間鍛造により直径約11mmの球形状に成型加工した。ついで、砥石による表面研磨を実施して試験用の鋼球を作製した。この鋼球の比透磁率および表面硬度を測定した。
また、上記鋼球に300℃で60分のフッ化処理および500℃で30時間のガス浸炭処理を行った後、砥石による仕上研磨を実施した。その比透磁率、表面および断面の硬度と表面部の炭素濃度を測定した。上記フッ化処理には、NFを主成分とするガスを、浸炭処理にはCOおよびHを主成分とするガスを用いた。
表2は、つぎにあげる事項の測定結果を示す。
浸炭処理前の鋼球について、比透磁率と表面硬度。
浸炭処理および仕上研磨を実施した後の鋼球について、比透磁率、表面硬度、深部硬度、表面部の炭素濃度。
浸炭硬化層の厚さはいずれも0.2mm以下である。
浸炭硬化層を支える基材の深部硬度を評価するため、表面から1mm深さの断面硬度を深部硬度として測定した。
比透磁率の測定には電子磁気工業株式会社製LP−141Aを用い、鋼種毎に10個のサンプルを測定してその平均値を示した。
表面および1mm深さの硬度測定にはマイクロビッカース硬度計を用い、鋼種毎に10個のサンプルを100g荷重(0.98N)で測定し、その平均値を示した。
表面部の炭素濃度測定にはEPMA(電子線マイクロアナライザ)を用い、鋼種毎に1個のサンプルを測定した。
衝突試験後の最大打痕深さを測定した。
図1は、実施例1の仕上研磨後の炭素濃度測定(ライン分析)結果を一例として示すものである。この測定結果をもとに、表面から10μmまでの平均炭素濃度を算出し、表面部の平均化した炭素濃度での評価を行なった。表2に示す表面部の炭素濃度は、その結果である。
表1より、本実施例1〜6は、Md30の値が全て−80以下である。
表2に示すように、本実施例1〜6は、冷間鍛造後、浸炭処理前の硬度は全て350Hv以上と高硬度である。比透磁率は全て1.03以下となっている。浸炭処理後(仕上研磨後)の表面部の炭素濃度は全て1.0質量%以上となっている。つまり、鍛造による加工誘起マルテンサイトの生成量が少なく、高炭素濃度の浸炭層が得られたものと考えられる。これにより、仕上研磨後に750Hv以上の高い表面硬度と、350Hv以上の基材の深部硬度が両立できている。高い耐久性を有する鋼球となっている。
比較例1、2は、浸炭処理前の比透磁率が1.05以上と比較的高い。浸炭処理での表面炭素濃度が1.0質量%未満までしか上昇していない。表面硬度の上昇が少ない結果となった。これは加工誘起マルテンサイトの生成量が多く、炭素の浸入、拡散が阻害されたものと考えられる。
比較例3、4は、浸炭処理前の透磁率が比較的低く、浸炭処理後の表面炭素濃度は比較的高い値となっている。浸炭処理後の基材の硬度は300Hv以下と、他の鋼種と比較すると低い値を示した。浸炭処理前の基材の深部硬度が比較的低い、すなわち加工硬化量が少ないことが影響している。
つぎに鋼球の耐久性を評価した。
実施例1で作製した試験用鋼球のうちの1つを鉄製の定盤の上に固定し、同じく実施例1で作製した他の試験用鋼球を2mの高さから落下させて衝突させ、それを500回繰り返す試験を実施した。固定した側の鋼球の表面に形成される打痕を確認した。実施例2〜6、比較例1〜3についても同様の試験を実施した。
評価方法は打痕部分をデジタルマイクロスコープで観察してその大きさを測定し、その打痕部分が凹側に球状に変形したと仮定した場合の深さが最大深さであると推定した。表2に示す衝突試験後の最大打痕深さである。
図2および図3は、打痕観察結果の例である。
図2は実施例1の衝突試験後の打痕の画像であり、図3は比較例3の衝突試験後の画像である。
実施例1では打痕の直径が約430μm、比較例3では950μmであった。球の直径が約11mmであることから、その最大打痕深さは、実施例1で約4μm、比較例3で約21μmと推定できる。
表2の最大打痕深さの推定結果から以下のことがわかる。
比較例1〜4は、最大打痕深さの値が20μm以上と大きい。実用的な耐久性として最重要である球同士の衝突による大きい打痕が発生しやすいことが分かる。これは高炭素濃度の浸炭層が形成されることによる表面強度の上昇と、それを支える高硬度の基材の深部強度が両立されていないためと考えられる。
実施例1〜6は、最火打痕深さの推定値が10μm未満と非常に小さい値となっている。遊技用鋼球として使用する場合に極めて高い耐久性を示すことが分かる。
〔変形例〕
以上は本発明の特に好ましい実施形態について説明したが、本発明は示した実施形態に限定する趣旨ではなく、各種の態様に変形して実施することができ、本発明は各種の変形例を包含する趣旨である。
本発明の鋼球は、非磁性の遊技用鋼球として利用することが可能である。

Claims (8)

  1. 質量で、
    C:0.01〜0.20%、
    N:0.10〜0.70%、
    Si:1.50%以下(0を含まない)、
    Mn:0.81〜20.0%、
    P:0.20%以下(0を含まない)、
    S:0.20%以下(0を含まない)、
    Ni:2.0〜22.0%、
    Cr:15.0〜25.0%、
    Mo:5.0%以下(0を含む)、
    Cu:5.0%以下(0を含む)、
    V:0.50%以下(0を含む)、
    Nb:0.50%以下(0を含む)、
    B:0.05%以下(0を含む)、
    Al:0.10%以下(0を含む)、
    Ti:0.10%以下(0を含む)、
    Mg:0.05%以下(0を含む)、
    Ca:0.20%以下(0を含む)、
    Pb:0.50%以下(0を含む)、
    Se:0.50%以下(0を含む)、
    Te:0.50%以下(0を含む)、
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼を基材とし、
    上記基材が冷間鍛造もしくは温間鍛造により球形状に成型加工されたその表面に、1.0質量%以上の炭素濃度を有する浸炭硬化層が形成され、
    非磁性の特性を有する
    ことを特徴とする遊技用鋼球。
  2. 上記基材としたオーステナイト系ステンレス鋼が、
    下記式(1)で表されるMd30の値が、−80以下である
    請求項1記載の遊技用鋼球。
    Md30=551−462([C]+[N])−9.2[Si]−8.1[Mn]−29([Ni]+[Cu])−13.7[Cr]−18.5[Mo]・・・(1)
    (式(1)中の[元素記号]は、鋼材中における各元素の含有量(質量%)である)
  3. 上記基材としたオーステナイト系ステンレス鋼は、Nの含有量が0.10〜0.70質量%である
    請求項1または2記載の遊技用鋼球。
  4. 上記浸炭硬化層より深部における硬さの平均値が、マイクロビッカース硬さ(Hv)で300以上である
    請求項1〜3のいずれか一項に記載の遊技用鋼球。
  5. 質量で、
    C:0.01〜0.20%、
    N:0.10〜0.70%、
    Si:1.50%以下(0を含まない)、
    Mn:0.81〜20.0%、
    P:0.20%以下(0を含まない)、
    S:0.20%以下(0を含まない)、
    Ni:2.0〜22.0%、
    Cr:15.0〜25.0%、
    Mo:5.0%以下(0を含む)、
    Cu:5.0%以下(0を含む)、
    V:0.50%以下(0を含む)、
    Nb:0.50%以下(0を含む)、
    B:0.05%以下(0を含む)、
    Al:0.10%以下(0を含む)、
    Ti:0.10%以下(0を含む)、
    Mg:0.05%以下(0を含む)、
    Ca:0.20%以下(0を含む)、
    Pb:0.50%以下(0を含む)、
    Se:0.50%以下(0を含む)、
    Te:0.50%以下(0を含む)、
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼を基材とし、
    上記基材を冷間鍛造もしくは温間鍛造により球形状に成型加工し、
    その表面に、1.0質量%以上の炭素濃度を有する浸炭硬化層を形成し、
    非磁性の特性を持たせた
    ことを特徴とする遊技用鋼球の製造方法。
  6. 上記基材としたオーステナイト系ステンレス鋼が、
    下記式(1)で表されるMd30の値が、−80以下である
    請求項5記載の遊技用鋼球の製造方法。
    Md30=551−462([C]+[N])−9.2[Si]−8.1[Mn]−29([Ni]+[Cu])−13.7[Cr]−18.5[Mo]・・・(1)
    (式(1)中の[元素記号]は、鋼材中における各元素の含有量(質量%)である)
  7. 上記基材としたオーステナイト系ステンレス鋼は、Nの含有量が0.10〜0.70質量%である
    請求項5または6記載の遊技用鋼球の製造方法。
  8. 上記冷間鍛造もしくは温間鍛造により基材を加工硬化させ、その後の浸炭温度を650℃以下として軟化をできるだけ少なくすることにより、
    上記浸炭硬化層より深部における硬さの平均値を、マイクロビッカース硬さ(Hv)で300以上とした
    請求項5〜7のいずれか一項に記載の遊技用鋼球の製造方法。
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