JP3653758B2 - 自立したダイヤモンドウェハーおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、表面弾性波素子、サーミスタ、半導体デバイス用基板或いは耐圧ディスク、ディスク保護膜、X線窓材、赤外用透過窓材、光学材料、高出力レーザーマウント用基板などに利用できる自立したダイヤモンドウェハーとその製造方法に関する。ダイヤモンドはヤング率と密度の比で決まる音速が極めて大きい。このため表面弾性波の速度も非常に速いので、表面弾性波素子はフィルタ、位相シフタ、コンボルバなどの用途がある。別の特徴として本願は自立したダイヤモンドウェハーであるため赤外線、可視光、紫外線、X線などの透過特性が良好であり、また電気特性、熱特性が良好である。
【0002】
従って、ウィンドウ用ウェハー、レーザー発信用サブマウント材などのように基板自体をX線やレーザー光等を透過するものや高い熱拡散性を要する部材として有用である。ダイヤモンドは優れた物理的、化学的性質を持つが大面積で安価な材料を製作できない。超高圧、高温下での合成法では、バルクのダイヤモンドを作ることができるが、高々1cm程度の粒子状または板状のものしか製造できない。従って、ダイヤモンドウェハーといえるような薄い板状の広い面積を持つものは未だに存在しない。SiやGaAsのように太い単結晶のインゴットをブリッジマン法によって引きあげることができればよいのであるが、ダイヤモンドの場合これができない。
【0003】
エレクトロニクスの分野で利用できるためには、少なくとも2インチ以上の大きさのウェハーを必要とする。3インチあるいは5インチ径のウェハーが製造できることが切に望まれる。またデバイスの製造ラインに乗るためには、厚みが3mm以下であることが必要である。2インチ以上、3mm以下の自立した多結晶ダイヤモンドウェハーが切に望まれる。さらにそれだけでなく、自立した単結晶のダイヤモンドウェハーができればもっと好都合である。Si半導体やGaAs半導体により、特性の安定した素子を製造することができるようになったのは、高品質の単結晶のウェハーが存在したからである。
【0004】
【従来の技術】
ダイヤモンドは、気相合成法により薄膜ができるようになっている。これは加熱された適当な基板の上に原料ガスを流して、ダイヤモンドの薄膜を気相成長させる方法である。少なくとも水素ガスと炭化水素ガス、或いは前記ガスにホウ素を含むガス、窒素を含むガスを原料ガスとして導入し、加熱された基板に与えて、化学反応により薄膜合成し、これを基板上に積んでゆくものである。
【0005】
ガスを励起する方法として幾つかの方法が知られている。熱フィラメント法、マイクロ波プラズマCVD法、高周波プラズマCVD法、DCプラズマジェットCVD法などがある。方法によっては面積の広いダイヤモンド膜を製造することもできる。しかし合成速度が遅いので、あまり厚い膜は作りにくい。時間をかければかなり厚い膜を作ることもできる。しかしながら、自立した多結晶のダイヤモンドウェハーの全体が鏡面に研磨されたようなものは知られていない。まして自立した単結晶のダイヤモンドウェハーについてもいうまでもない。ダイヤモンドのヘテロエピタキシャル成長については、既に幾つかの技術が提案されている。例えば、特開昭63−224225号公報、特開平2−233591号公報、特開平4−132687号公報である。これらは単結晶のSiC基板、Si基板、ニッケル基板、コバルト基板の上にダイヤモンド単結晶を成長させたものである。また、特開平5−306195号公報には、基板の凸状の成膜面上へダイヤモンド膜を形成し、その後、基板とダイヤモンド膜を分離して平坦で亀裂のない自立したダイヤモンド膜の製造法が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
気相成長させたダイヤモンド膜は多結晶の場合であっても、単結晶の場合であっても成長に不均一性を伴うものであり凹凸がある。Siウェハーでもインゴットから切り出したウェハーは研磨して鏡面にする。同様にダイヤモンドウェハーも表面が鏡面状でなければならない。Siウェハーで鏡面状の研磨面を得るために、平坦なホルダーにウェハーを貼り付け、平坦な研磨定盤に押し当てて、ホルダーをシャフト回りに回転させ、研磨定盤を公転させて、遊離砥粒あるいは固定砥粒の作用により、ウェハーの下面を研磨してゆく。出来上った鏡面ウェハーは平坦でなければならないので平坦なホルダーが使われるのは当然である。Siウェハーの場合は、これで8インチのウェハーもうまく研磨できる。
【0007】
しかし、ダイヤモンドは極めて硬い材料であり、微細なダイヤモンド砥粒を用いて、圧力をかけ長時間をかけることにより研磨することができる。事実直径が1cm以下の単結晶やまた数mm程度の直径を有するダイヤモンドの場合は、前記の方法によって研磨し、鏡面を得ることができる。直径が2インチ以上もあるような広い面積を有するダイヤモンドウェハーの場合は状況が異なる。
【0008】
ダイヤモンドは、SiやGaAsなどのように多結晶や単結晶のインゴットを製造することができない。超高温、高圧を用いた方法では圧力容器の大きさに制限があり2インチ以上の直径を有するダイヤモンドは理論的には製造可能であるけれども現実的には不可能である。一方、気相合成法では合成時間を長くして、大きな反応容器の中で合成するとかなりの大きさと厚さを有するダイヤモンドを合成することが理論的に可能である。
【0009】
工業的に実用化する場合には、必ず経済性の問題が発生するので、理論的に可能なだけでは実用化できない。前記したとおり、ダイヤモンドは極めて固い材料なので研磨には極めて長い時間を要する。この長い研磨時間をどのようにして短くするかが第1の課題である。次に気相合成法によってダイヤモンドを合成する場合のダイヤモンドの成長速度は、SiやGaAs等の単結晶の成長時間と比較しても極めて遅いものである。従って、可能な限り合成時間を短縮し、薄いダイヤモンドで実用化するかが第2の課題である。勿論、気相合成の条件によってダイヤモンドの成長速度を高めることはできるが、一般的にダイヤモンドの成長速度を高めると非ダイヤモンドカーボンの量が増えたり、欠陥が増えたりして質的に劣化するので、ダイヤモンドの成長速度を高めるには限界がある。
【0010】
発明者等は、平坦なダイヤモンドを基板上に合成し、そのまま研磨して鏡面を有するダイヤモンドウェハーの製造を試みた。研磨方法、ダイヤモンドの成長条件等を種々変更して試みたが、ダイヤモンドウェハーの全面を鏡面にすることは出来ず、どうしても未研磨面が残ってしまうことが判った。この原因は、おそらく大きなダイヤモンド合成面の合成条件が部分的に異ってくること、ダイヤモンドは高温で合成されるが、室温に下げたときの熱歪の発生、基板とダイヤモンドの熱膨張係数の相違等による僅かなうねり状の凹凸によるものと思われる。
【0011】
経済性を無視して、さらに長時間の研磨をすれば未研磨の部分はなくなるが実用的ではない。ここで注意しておくべきことは、研磨するとき鏡面部が増えるに従い、研磨用砥石とダイヤモンド膜の接触面積が増えるので、結果的に単位面積当りの圧力は減少するので、研磨速度が減少し、全面を鏡面にするには一層の長時間を要す。このような長時間の研磨が可能であるにはダイヤモンドウェハーの厚さも厚くなければならない。すでに鏡面になっている部分がさらに研磨され、自立したダイヤモンドの厚さがどんどん薄くなっていくからである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本願の発明は、気相合成法により基板上にコーティングされたダイヤモンド膜であって、前記基板を除去して自立したダイヤモンドウェハーとなし、自立したダイヤモンドウェハーの少なくとも1つの面の面粗度がRmax500Å以下、Ra200Å以下であり、ダイヤモンドウェハーが2インチ以上の直径を有する円板またはそれと同等の面積を有する矩形状であって、かつ外周から内周に向かって単調に反っている自立したダイヤモンドウェハーである。ダイヤモンド膜は凸側のダイヤ結晶膜中に0.01GPa以上、1.5GPa以下の圧縮応力を有するものが良好である。反りの量は外周と中央部の高さの差△Hが2μm≦|△H|≦150μm以下であることが望ましい。X線窓材や光学材料として、自立したダイヤモンドウェハーを用いる場合は、多結晶ダイヤモンドが経済的に望ましい。一方、エレクトロニクス分野等に用いる場合には単結晶ダイヤモンドであることが望ましい。
【0013】
このような自立したダイヤモンドは、水素と炭素化合物ガスを含む原料ガスを反応容器に導入し、原料ガスを励起し、直径2インチ以上の円板で、かつ外周から内周に向かって単調に反っている基板上に合成した後、面粗度がRmax500Å以下、Ra200Å以上に研磨する工程と基板を除去する工程を含むことを特徴とする自立したダイヤモンドウェハーの製造方法に関するものである。
【0014】
【作用】
ここで自立したダイヤモンドウェハーとは、ダイヤモンドを合成した基板を化学的または機械的手段等により除去したもので、被覆されたダイヤモンドだけで形状を維持したものである。自立したダイヤモンドは、それだけで取扱われるので取扱いに耐えるだけの機械的強度が必要であり、また一方では、厚すぎると経済性が悪くなるので、その厚みは100μm〜3mmの範囲が適している。Rmax500Å以下,Ra200Å以下の面粗度であれば、この上にフォトリソグラフィーにより電極形成、不純物打ち込み、拡散、選択エッチングなどのウェハープロセスを行うことができる。
【0015】
この発明で得られたダイヤモンドウェハーは、表面弾性波素子、サーミスタ、半導体デバイス等を主な用途としているが、このようなエレクトロニクス関係の用途に供するためには、既存の製造ラインをそのまま使用することが本願発明を実用化する上で必須である。従って、直径2インチ以上の円板のダイヤモンドウェハーであることが望ましい。しかしながら、X線窓材や光学材料に用いる場合には円板である必要はないが、一度に沢山のものを作るためには、2インチ直径と同等以上の面積を有する矩形のダイヤモンドウェハーであってもよい。
【0016】
ダイヤモンドは極めて硬い材料なので、難加工性の材料である。ダイヤモンドウェハーの中に占める研磨等の加工費の割合は高い。これを低減させ加工量を可能な限り少なくするためには、ダイヤモンドウェハーの外周から内周に向かって単調に反っていることが重要である。図1に基板除去前のダイヤモンドウェハーの断面図を示す。
【0017】
本願では、平坦な基板上にダイヤモンドを合成する。そして、ダイヤモンド膜の成長面側に圧縮応力が残留するような条件で合成することによってダイヤモンド膜の成長に従って、ダイヤモンド膜と基板を合わせて第1図のような状態になる。勿論、基板の厚さが厚くなると、第1図に示した|△H′|値は小さくなる。このようにして得られた基板上のダイヤモンド膜の成長面側を図3に示す研磨装置で研磨する。その後、基材を研削、研磨、酸やレーザー等により高温で除去することによって図2に示す自立したダイヤモンド膜を得ることができる。基板として厚いものを用いた場合には、自立したダイヤモンド膜の反りは、基板上のダイヤモンド膜に比較して大きくなる。なお、本願では△Hとしたときは自立したダイヤモンド膜の値であり、△H′としたときは基板とダイヤモンド膜が一体となっている場合である。自立したダイヤモンドウェハーの外周から中心にかけて単調に反っていることが必要である。凹凸が混在してはならない。円板の中心を通る任意の断面において変曲点が存在するようではいけない。前記の任意の断面における任意の点での2階微分が正なら正、負なら負であって符号が変わってはならない。
【0018】
さらに反りの絶対値は2μm〜150μmの間とする。ここで反りは、自立したダイヤモンドウェハーの周辺部を含む平面からの中央部の高さによって表現する。ウェハーの直径により曲率と反りの関係が変化し、反りが同一でも曲率は違う。しかし、反り量として中央部の高さが最も測定し易いのでこれを測定し、反りを表現するパラメーターとして採用する。前記の関係は、2μm≦|△H|≦150μmによって表わすことができる。より好ましくは絶対値は、3μm≦|△H|≦50μmである。
【0019】
本発明では、自立したダイヤモンドウェハーの反りが0のものを否定している。反りがないのがいちばん良いように思える。しかし反りが0の場合はうねりを持つ場合が多く、反りの構造が複雑になり、うまく研磨できない。未研磨部が残ったり研磨不充分な領域が発生する。△Hが2μm未満である場合はダイヤモンドウェハーのうねりによる凹凸の方が大きくなるので未研磨面が残り鏡面を得ることができない。また△Hが150μmを越える場合は、既存の製造ラインで表面弾性波素子等を製造することができない。
【0020】
本願のようなミラー状のダイヤモンド自立膜を得るためには、基板の表面をRmax500Å以下でかつRa200Å以下というミラー状にして、その上にダイヤモンド膜を気相合成することが考えられる。基板面側のダイヤモンドは基板の表面状態を転写したものとなり鏡面に近い表面粗さを有する自立したダイヤモンドウェハーを得ることができるはずである。しかしながら、このような方法によって、鏡面を有する自立したダイヤモンドウェハーを得ることはできない。気相からダイヤモンドを合成する最初の段階では、ダイヤモンドの結晶核が基板表面に形成される。そして、この結晶核を中心としてその上に優先的にダイヤモンドが析出し、島状のダイヤモンドとなる。
【0021】
さらに成長が続いて膜状となり、以後次第に膜の厚さが厚くなっていく。従って、均質なダイヤモンド膜を得るためには結晶核密度を可能な限り高くすることが重要である。結晶核はどこにでも発生するというようなものではなく、基板上の活性な部分に生成する。通常活性な点は、例えば基板の表面にキズを付ける等の手段により、面粗度を粗くすることによって形成される。その上、ダイヤモンドの結晶核が生ずる前に、基板の最表面は通常炭化物が形成され、表面状態が変化するので、基板の表面状態そのままがダイヤモンドに転写されるわけでもない。従って基板面側は、基板を除去したそのままの状態で本願のRmax500Å、Ra200Å以下を達成しているわけではない。
【0022】
基板を除去すると一応自立したダイヤモンドウェハーを得ることができるが、これは機械的な強度が弱い。自立したダイヤモンドウェハーを研磨することはできるが、本願のように単調に反った状態では、研磨圧力を小さくしないと、自立したダイヤモンドウェハーは破壊してしまう。小さな研磨圧力で長時間かけて研磨しなければならないので、経済性に難がある。自立したダイヤモンドウェハーの厚さが充分に厚い場合には、研磨圧力を高くしても破壊しないが、このような例は特殊な例である。
【0023】
以上のような理由により、ダイヤモンドウェハーが基板と付着している状態で研磨し、鏡面とし、しかる後基板を除去する方法が望ましい。ところがダイヤモンド結晶の成長面側は基板側の面に比較して表面粗度が悪い。結晶の成長面が表面に表われ、かなりの凹凸が存在する。研磨により凹凸を除去するにはやはり長い時間がかかるけれども、自立したダイヤモンドウェハーを製造するためのプロセス全体を考えた場合には、ダイヤモンド結晶の成長面側を研磨するのが、本願発明を実用化する上で最良の方法ということができる。表面弾性波素子とする場合はダイヤモンドウェハーの片面研磨のみで用いることができるが、光線等のウインドー用や透過型のレーザー用サブマウント材等に使用する場合は、ダイヤモンドウェハーの両面を研磨しておくのが望ましい。ダイヤモンドの光線に対する屈折率は高いので、微細な凹凸があっても透過特性は著しく減少するからである。両面を研磨したダイヤモンドは、まず基板上に合成されたダイヤモンドの成長面側を研磨した後、基板を除去して次に基板面側を研磨することによって得ることができる。特に基板面側を研磨する場合は、基板のない自立したダイヤモンドウェハーは強度上の問題があり、エキシマレーザーを用いて研磨すると歩留りよく効率的に研磨することができる。ArF,KrF,XeClなどのエキシマレーザーを用いることができる。
【0024】
基板上に合成されたダイヤモンドの自立膜を得るためには、基板を化学的または機械的な手段により除去すると、ダイヤモンド膜は小さな破片に破壊されてしまうことがよくある。小さなダイヤモンド膜でかつ薄いものであれば破壊されることは比較的少ないが、2インチ以上の直径を有する本願のようなダイヤモンドウェハーの場合は破壊の確率は一層高くなってくる。
【0025】
既に前に説明したとおり、ダイヤモンドの合成温度が高いこと、および基板とダイヤモンドの熱膨張係数のミスマッチにより、ダイヤモンド自体が高い応力を受けた状態となっているが、基板を除去することによってバランスが崩れ、ダイヤモンドウェハー自体が破壊してしまうのである。この問題を解決するために種々の検討を加えた。その結果、通常のダイヤモンドの気相合成ではダイヤモンドは柱状に成長する。このとき、柱状結晶粒の成長にともなって、粒界が消失していき体積の収縮が生じ、張力が発生し、通常は成長面側に張力が発生する。このため基板の上にダイヤ膜を成長させていくと、どんどんと引張り応力(真性応力)が大きくなり、ダイヤ成長面側が凹型に反っていく。基材を除去し、自立したダイヤモンドウェハーとすると拘束力がなくなり、さらに大きく凹型に反りかえる。
【0026】
そこで、ダイヤ膜が成長するに従い、成長初期よりも大きな真性圧縮応力が残留するように、合成することがよりフラットな自立したダイヤモンドウェハーや加工しやすい形状とすることができる。また柱状晶にならないような組織となる合成条件を選択するのも1つの方法である。このような目的を達成するためには、ダイヤ合成中にカーボン濃度に”ゆらぎ”を与えてやり、柱状晶をこわす方法がある。またダイヤモンド膜中の圧縮残留応力を大きくするには、ダイヤモンド結晶中にボロンや水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウムなどの炭素原子より原子番号の小さい元素を混入させてやるか、もしくは粒界中に引張り応力の大きいアモルファスカーボン的な物質を結晶性が落ちない程度に混入させる方法がある。また別の方法は、粒界中に水素を残留することによって調整することもできる。
【0027】
そして圧縮応力がダイヤモンド結晶中に、0.01GPa以上、1.5GPa以下の圧縮応力を有する場合が最も安定した自立膜を得ることができることがわかった。圧縮応力が0.01GPa未満の場合はダイヤモンドウェハーが充分に凸型にならず、一方圧縮応力が1.5GPaを越えると基板除去後ダイヤモンドの変形が大きくなり反り量△Hが安定しない。基板としては、Si,GaAs,GaPなどが利用できる。このうち特にSiウェハーが望ましい。
【0028】
第3図は本発明の鏡面を得るための研磨装置の概略構成図である。研磨板1(研磨定盤)はダイヤモンド粒子を表面に多数固定したダイヤモンド砥石である。レジンボンド、メタルボンド、電着砥石などを利用することができる。これは主軸を中心として公転する。ホルダー3は平坦な円板にシャフトが付いた器具である。基板上にダイヤモンドウェハーを有する試料2は、ホルダー3の下面に緩衝材11を介して取り付けられる。ホルダー3はシャフト4により傾斜可能で回転力を圧力を伝えるように支持される。従来のホルダーはシャフトに対して傾斜できないが、本発明のホルダーはシャフトに対して傾斜できる。緩衝材11はゴム、プラスチックなどの弾性のある材料である。
【0029】
緩衝材には二つの役割がある。一つはダイヤモンドを研磨するのに必要な強い負荷によりダイヤモンド膜が破壊されないように圧力を和らげるためである。またウェハー面がホルダー面に対して僅かに傾くことができるようにする。これは揺動運動をなめらかにしている。シャフト4の上方は駆動部になっている。ここに軸受とジョイント(図示せず)があり、シャフトを回転可能に支持する。ジョイントより下の回転可能な部分にはプーリーがついている。ジョイントの上には、シャフトに圧力を印加するためのシリンダ5がある。ダイヤモンドなどの硬質ウェハーを研磨するためには大きい荷重が必要である。
【0030】
シリンダはこの荷重を与えるものである。この荷重はホルダーの中心に集中荷重を与える。このシリンダは空気圧または油圧駆動シリンダである。横に延びるアーム6がシリンダ5,シャフト4等を支持する。モータ7がさらにアーム6の上に設けられる。モータの回転がモータプーリベルト8,シャフトプーリを通してシャフト4に伝わる。これによりホルダー3が回転する。ともに硬質ウェハーも回転する。ホルダーがシャフト周りに自転し、研磨板は回転主軸(図示せず)の周りに大きく公転する。
【0031】
図4において、ホルダー3とシャフト4の結合はフレキシブルジョイント12としている。これはホルダーに圧力を伝達し回転力を加え、ホルダー3の傾きを許すものである。フレキシブルジョイント12は、例えば球面状の嵌め合いとすることができる。ホルダーの周縁部には円形の周囲溝13が穿たれている。これの中を補助シャフト10が滑動いていくのである。ホルダー3は回転し、補助シャフトは回転しない。しかし補助シャフト10は小さい振幅で上下運動する。これが下降するとホルダーの右側が下がる。これが上がるとホルダーの左側が下がる。そして研磨面が左右に振動するので、ダイヤモンド面全体を研磨することができる。以上はダイヤモンドが凸に反っている場合の研磨方法の一例である。一方、結晶成長面側に凹になっている場合には研磨が大変困難であり、Rmax500Å以下、Ra200Å以下のような鏡面を得ることができない。
【0032】
【実施例】
(実施例1) 基板として鏡面研磨した直径2インチ(50.8mm),厚さ1mmの凹凸のない多結晶Siウェハーを用いた。このSiウェハーを平均粒径0.5μm〜1μmのダイヤモンド粉末により傷つけ処理した。これはダイヤモンドの核発生密度を上げるためである。公知のフィラメントCVD装置を用いて500μm厚さのダイヤモンド膜をこのウェハーの上に形成した。これは支持台の上に基板を置いて、炭化水素を含む水素ガスを容器内に導き、フィラメントで加熱して原料ガスを分解し、気相反応を起こさせ、反応生成物を基材に堆積させる方法である。フィラメントには、10本のφ0.3mmのW線を7mm間隔で平行に張ったものを用いた。合成条件は以下の通りである。
フィラメント温度 2100℃
圧力 60Torr
基板温度 780℃
使用したガスは、水素ガスおよびメタンガスを用い、全流量2000CC/minで、メタンと水素のモル比(CH4/H2)でメタン濃度を定義したとき、低メタン濃度と高メタン濃度を交互に、サイクリックに導入し、この平均濃度を徐々に単調増加させながら合成する。条件は表1に示すとおりである。
【0033】
【表1】
Figure 0003653758
【0034】
このようにして、基板に付着したダイヤモンド膜を得ることができる。冷却後第3図に示す研磨装置によってダイヤモンド成長面側を研磨して、基板を1:1の弗硝酸によって除去した。このようにして得られた自立したダイヤモンドウェハーは成長面側が凸になっていた。凸面側の残留圧縮応力はX線で測定し、また表面粗さ計により表面粗度を測定した。この試料を試料No.1とした。また直径3インチ(76.2mm)のSi多結晶ウェハーに上記の第一合成サイクル、第二合成サイクル、第三合成サイクルをそれぞれ6回、250回、220回繰り返し、他は直径2インチの場合と同様にして自立したダイヤモンドウェハーを製作し試料No.2とした。得られた試料の特性を表2に示す。
【0035】
【表2】
Figure 0003653758
【0036】
試料No.2のものは、表面弾性波素子用として提供され、従来からの加工装置で問題なく処理できることが確認された。試料No.1のものは、自立したダイヤモンドウェハーの基板面側をArFエキシマレーザーで研磨した。基板面側の面粗度はRmax1000Å,Ra300Åであった。これを赤外線用窓材として利用したが、透過性の高い窓材になることがわかった。
【0037】
(実施例2) 公知のマイクロ波プラズマCVD法(モードTM01)により、プラズマ電力5KW、圧力が80Torrの条件でダイヤモンド膜を合成した。基板としてはオフアングル3゜であって直径4インチ、厚さ5mmのSi(100)単結晶を用い、平坦な基板に負バイアス−250Vを印加した。まず、H2を1000cc/min,Arを1000cc/minのガスをマイクロ波プラスマCVD装置内に導入してプラズマを発生させ、基板の表面を清浄化した。次にAr/H2のモル比を20%,B26/H2のモル比を0.1%,その他は実施例1の表1に記載されている第3合成サイクルの条件を20回繰り返しダイヤモンド膜を合成した。
【0038】
次にAr/H2のモル比を10%,B26/H2のモル比を0.2%として、その他は実施例1の表1に記載されている第2合成サイクルを100回繰り返しダイヤモンド膜を合成した。得られたダイヤモンド膜の構造は第1図に示すように、ダイヤモンド膜の成長面側に凸になっていた。そして、△Hは−15μmで、得られたダイヤモンド膜は単結晶で10μmの厚さを有していた。ダイヤモンド膜の成長面側をダイヤモンドで研磨して、直径4インチ全面をRmax30Å,Ra5Åの面粗度を得た。次に基板であるSi側をKrFのエキシマレーザーにより100Å除去した。ダイヤモンド膜の成長面側の研磨面の残留応力をX線で測定したところ−0.3GPaの圧縮応力が存在していた。
【0039】
(比較例1) マイクロ波プラスマCVD装置(μ−PCVD)の中に直径2インチ(50.8mm)の多結晶Si基板を設置した。そして1.5KW,100Torr,CH4/H2のモル比を2%に一定として10mmtのダイヤモンド膜を合成した。ダイヤモンド膜の成長速度は1.5μm/時間なので、約6700時間を要する。このようにして得られた自立したダイヤモンド膜は成長面側に8mm反ることになる。この反り量を本願の範囲内とするためには、ダイヤモンド結晶の成長面側および基板面側をそれぞれ研磨するとそれぞれ約3000時間を要し、合成から研磨終了まで約13000時なることがわかった。
【0040】
(比較例2) 凸型の単結晶Siであって直径2インチの基板上にダイヤモンド膜を合成した。公知のフィラメントCVD法を用いH2,CH4,CO2を合計して1500cc/minの速さで供給し、反応容器内の圧力は0.05Torrに保った。それぞれのガスのモル比はCH4/H2=1.5%,CO2/H2=0.05%とし、フィラメント温度2050℃で2000時間合成し、80μmのダイヤモンド膜を得た。この後Si基板を酸により除去したところ、ダイヤモンド膜は割れてしまい、自立したダイヤモンド膜を得ることができなかった。結果を表3の比較例No.1にまとめた。
【0041】
(比較例3) 平坦な多結晶であって、直径3インチ(76.2mm)の基板上に公知のプラズマジェット法でダイヤモンドを合成した。反応容器内にH2,CH4を合計して6000cc/minの速さで供給し、反応容器内の圧力は0.5Torrに保ち、50時間合成した。このとき、供給ガスのモル比はCH4/H2=1%で基板の温度は600℃とした。その後、基板を酸により除去したところダイヤモンド膜中にクラックがあった。さらに詳細なダイヤモンド膜の特性測定の結果を表3の比較例No.2に示す。
【0042】
【表3】
Figure 0003653758
【0043】
【発明の効果】
本願の発明は、直径2インチ以上のダイヤモンドウェハーを外周から内周に向かって単調に反らせることによって難加工性の材料であるダイヤモンドの表面粗度がRmax500Å以下でかつRa200Å以下のミラー面とすることができる。このような表面粗度を有するダイヤモンドウェハーは、例えば表面弾性波素子用の圧電性膜や電極をその表面に微細でかつ精度よく設けることができ、大量生産する上で特に効果が大きい。ダイヤモンドウェハーの両面をRmax500Å以下、Ra200Å以下とすることによって光線等の透過性が向上し、ウインドウなどの用途に適している。
【図面の簡単な説明】
【図1】基板の上にダイヤモンド膜を形成した反りのあるダイヤモンドウェハーの構造を示す断面図。
【図2】自立したダイヤモンドウェハーであって凹反りの状態を示す断面図。
【図3】研磨板を公転させホルダー自転させ、しかもホルダーの面を傾けてウェハーを研磨する本発明に用いる研磨装置の概略傾視図。
【図4】研磨装置におけるシャフトとホルダーの関係を示す断面図。
【符号の説明】
A:ダイヤモンド膜成長面
B:ダイヤモンド膜
C:基板
D:自立したダイヤモンド膜
1:研磨板
2:ウェハー
3:ホルダー
4:シャフト
5:シリンダ
6:アーム
7:モータ
8:ベルト
9:シリンダ
10:補助シャフト
11:緩衝材
12:フレキシブルジョイント
13:溝

Claims (7)

  1. 気相合成法により基板上にコーティングされたダイヤモンド膜であって、前記基板を除去して自立したダイヤモンドウェハーとなし、自立したダイヤモンドウェハーの凸側の成長面の面粗度がRmax500Å以下でかつRa200Å以下であり、ダイヤモンドウェハーが2インチ以上の直径を有する円板またはそれと同等の面積を有する矩形状のものであり、100μm以上3mm以下の厚みを有し、かつ外周から内周に向かって単調に反っており、凸側のダイヤ結晶膜側に0.01GPa以上、1.5GPa以下の圧縮応力を有することを特徴とする自立したダイヤモンドウェハー。
  2. 外周と中央部の反り量△Hが2μm≦|△H|≦150μmであることを特徴とする請求項記載の自立したダイヤモンドウェハー。
  3. 自立したダイヤモンドウェハーが多結晶ダイヤモンドであることを特徴とする請求項1記載のダイヤモンドウェハー。
  4. 自立したダイヤモンドウェハーが単結晶ダイヤモンドであることを特徴とする請求項1記載のダイヤモンドウェハー。
  5. 水素と炭素含有化合物ガスを含む原料ガスを反応容器に導入し、原料ガスを励起し基板の上にダイヤモンドをダイヤモンド膜中に圧縮応力が徐々に大きく存在するよう合成した後、面粗度がRmax500Å、Ra200Å以下に研磨する工程と基板を除去する工程を含むことを特徴とする自立したダイヤモンドウェハーの製造方法。
  6. ダイヤモンド膜中の凸側のダイヤ結晶膜の圧縮応力が基板除去後、0.01GPa以上、1.5GPa以下であることを特徴とする請求項記載の自立したダイヤモンドウェハーの製造方法。
  7. 少なくとも基板面側の研磨をエキシマレーザー加工により仕上げていることを特徴とする請求項記載の自立したダイヤモンドウェハーの製造方法。
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