JP3822059B2 - シリコン基板の反り変形方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、X線反射鏡等として有用な曲率でシリコン基板に反り変形させる方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
シリコン結晶は、X線反射鏡として各種X線機器で従来から使用されている。しかし、常法に従って得られるシリコン結晶では、平坦な結晶面をもつことから入射角と同じ角度でX線を反射させる平面鏡として使用されるに過ぎない。
種々の焦点距離をもつ凸面鏡や凹面鏡等の異なる反射鏡をシリコン結晶から作製するためには、必要とする凹面又は凸面にシリコン結晶を反らせる必要がある。凹面又は凸面形状への成形には、機械的な曲げ力を加えてシリコン結晶を変形させる方法、シリコン結晶表面に所定曲率の表層を堆積させる方法等が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
シリコン結晶の機械変形によって凹面又は凸面を成形する場合、シリコン結晶に加わる荷重を均一にすることが難しく、結果として凹面又は凸面の曲率が不均一になりやすい。また、所定の凹面又は凸面を維持するため、機械的な荷重を加え続ける必要がある。
【0004】
所定曲率の表層を堆積させる方法として、たとえば表層の蒸着時に使用するマスクの位置制御によって表層の膜厚を調整することが特開平5−164900号公報で紹介されている。シリコン結晶上の位置座標に応じた膜厚調整によって表層の曲率が決定されるが、曲率の微妙な調整に極めて高度の制御が必要とされ、材質の如何によってはシリコン基板から剥離しやすい表層が形成される。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、シリコン基板にダイヤモンド薄膜を堆積させたときシリコン基板とダイヤモンド薄膜との間に生じる応力によってシリコン基板が反ることを積極的に利用し、X線反射鏡等として有用な曲率でシリコン基板を反り変形させることを目的とする。
【0006】
本発明の反り変形方法は、アース電位に維持された真空チャンバ内で電気伝導性サセプタを介して基板支持台に載置されたシリコン基板に負バイアスを印加し、該シリコン基板の表面に結晶粒径:10〜20nmの微結晶ダイヤモンドをプラズマCVD法で堆積させ、前記シリコン基板との間に生じる応力で前記シリコン基板を反り変形させるダイヤモンド薄膜を前記シリコン基板の表面に形成することを特徴とする。
シリコン基板の載置部を除く電気伝導性のサセプタの表面は、プラズマ中にあるカーボンの正イオン全てがシリコン基板に導かれるように、石英板等の絶縁材料で覆うことが好ましい。
【0007】
【作用】
シリコン基板上に形成した薄膜には、次式
σ=E・b2/6・(1−α)・r・d
ただし、E:シリコンのヤング率(一定値)
α:シリコンのポアソン比(一定値)
b:シリコン基板の厚さ
r:シリコンの曲率半径
d:薄膜の厚さ
で表される応力が作用することが知られている(Thin Solid Phenomena, K.L.Chopra著,McGraw-Hill, New York, 1969)。
【0008】
前掲の式から、シリコン基板や薄膜の厚みが一定の条件下でシリコン基板を大きく反らせるためには、シリコン基板に加わる応力を大きくする必要がある。また、X線反射鏡等としての用途を考慮すると、成膜された薄膜がシリコン基板から剥離せず優れた密着性を呈することも必要である。
シリコン基板にカーボン薄膜を堆積させるとき、シリコン基板とカーボン薄膜の性質の相違に起因した応力が発生し、シリコン基板に反りが発生するが、発生した応力が小さなため反り量も少ない。また、シリコン基板に対するカーボン薄膜の密着性も低いため、シリコン基板からカーボン薄膜が剥離しやすい。
【0009】
ダイヤモンド薄膜は、カーボン薄膜に比較して大きな応力を発生させる。しかし、従来法に従ってダイヤモンド薄膜をシリコン基板上に成膜する場合、成膜初期に三次元的に不均一な膜が堆積する。三次元的な薄膜堆積は、シリコン結晶とダイヤモンド薄膜との間に生じる応力を緩和し、シリコン基板の反り変形に有効な応力を低下させる。因みに、シリコン基板上にテトラヒドラルアモルファスカーボン薄膜や擬似ダイヤモンド薄膜を堆積させると、最大10〜20GPaの応力が発生するが、発生応力に見合ったシリコン基板の反り変形が生じない。反り量は薄膜の膜厚増加に伴って大きくなるが、シリコン基板に対するテトラヒドラルアモルファスカーボン薄膜や擬似ダイヤモンド薄膜が密着性に乏しいため、生成した薄膜がシリコン基板から剥離する傾向が強くなる。
【0010】
そこで、本発明者等は、ダイヤモンド薄膜の成膜条件について種々調査検討した結果、シリコン基板に負バイアスを印加しながら成膜するとき、三次元的に均一な微結晶質のダイヤモンド薄膜が堆積され、シリコン基板とダイヤモンド薄膜との間に生じる応力をシリコン基板の反り変形に有効利用できることを見出した。
【0011】
ダイヤモンド薄膜の堆積には、たとえば図1に示すマイクロ波プラズマCVD装置が使用される。このマイクロ波プラズマCVD装置は、真空チャンバ1内に基板支持台2を配置させている。基板支持台2は、支持棒3で支持され、シリコン基板Sが載置されるグラファイト等の電気伝導性サセプタ4を上面に備えている。シリコン基板Sの載置部を除くサセプタ4の上には絶縁性の石英板5が配置され、負バイアス直流電源6から負バイアスがシリコン基板Sに印加される。
【0012】
シリコン基板Sには、マイクロ波電源7から延びた導波管8の先端にある電極9が対向している。導波管8は中空状になっており、反応性ガス供給源からCH4,H2等の反応性ガスが送り込まれる。反応性ガスは、マイクロ波によって励起され、電極9の開口部からシリコン基板Sに向けて送り出される。反応性ガス中のメタンCH4はマイクロ波分解し、シリコン基板Sの上方空間にプラズマPを発生させる。
【0013】
シリコン基板Sに負バイアスが印加され、シリコン基板Sの載置部を除くサセプタ4の表面が石英板5(絶縁体)で覆われているので、プラズマP中にあるカーボンの正イオンは、全てシリコン基板Sを通過する。その結果、シリコン基板S上に三次元的に均一なダイヤモンド薄膜D(図2)が形成される。
【0014】
ダイヤモンド薄膜Dの成膜条件としては、たとえば周波数2.45GHzのマイクロ波電源7を使用する場合、マイクロ波電力を1000W,水素流量を100sccm,メタン流量を2〜6sccm,成膜時の基板温度を500〜700℃,シリコン基板Sに印加する負バイアスを0〜−500Vに設定する。負バイアスの印加によってシリコン基板Sに電流が流れるが、微結晶のダイヤモンド薄膜Dを効率よく堆積させる上でシリコン基板Sに供給される電流の密度を3〜6mA/cm2の範囲に調節することが好ましい。
【0015】
ダイヤモンド薄膜Dは、負バイアスが印加されたプラズマCVDのため、600℃程度の低温であっても密着性が強い結晶粒径10〜20nmの微結晶ダイヤモンドとしてシリコン基板S上に堆積し、極めて均一で平坦な表面をもっている。そのため、シリコン基板S/ダイヤモンド薄膜D間に大きな応力が発生し、ダイヤモンド薄膜Dの堆積時に緩和されることなく、シリコン基板Sの反り変形に効率的に利用される。したがって、所定曲率でシリコン基板Sを反り変形させることが可能となる。また、シリコン基板Sに対する微結晶ダイヤモンド薄膜Dの密着性は高く、微結晶ダイヤモンド薄膜Dを厚く堆積させてもシリコン基板Sから剥離しない。
【0016】
シリコン基板Sに付与される曲率は、以下の実施例で説明するように負バイアスの電圧,反応性ガスのメタン濃度を初めとし、ダイヤモンド薄膜Dの膜厚や成膜時の基板温度,成膜速度等によって自由に調整される。シリコン基板Sを凸面状に反り変形させる場合には凸面側にダイヤモンド薄膜Dを成膜するが、シリコン基板Sの裏面にダイヤモンド薄膜Dを堆積させるとシリコン基板Sが凹面状に反り変形する。
【0017】
【実施例】
シリコン基板Sとして、厚み0.35mm,半径20mmのシリコンウェーハを用意した。真空チャンバ1に配置された基板支持台2に、グラファイト等の電気伝導性サセプタ4を介してシリコン基板Sを載置し、シリコン基板Sの載置部を除くサセプタ4の表面を石英板5で覆った。真空チャンバ1を4000Paまで減圧し、シリコン基板Sの保持温度及びメタンガス流量を変化させながら、微結晶ダイヤモンドからなる薄膜Dをシリコン基板S上に堆積させた。
【0018】
ダイヤモンド薄膜D堆積後にシリコン基板Sの形状を測定したところ、ダイヤモンド薄膜D側を凸にしてシリコン基板Sが反っていた。基板温度500〜700℃の範囲で微結晶ダイヤモンドを含む薄膜Dが形成されたが、基板温度600℃で微結晶ダイヤモンドの成分が最も多く、それに応じてシリコン基板Sの反り量も大きくなっていた。
【0019】
ダイヤモンド薄膜Dは、−260〜−400Vの負バイアスが印加された条件下で微結晶状に堆積し、シリコン基板Sを大きく反り変形させた。他方、負バイアスが0〜−160Vの範囲では微結晶状のダイヤモンド薄膜Dが確認できず、シリコン基板Sも反り変形しなかった。逆に負電圧−400V以上の負バイアスを印加すると、グラファイト状の炭素がシリコン基板Sに堆積し、反り変形量も小さくなった。
【0020】
基板温度を600℃一定,メタン流量を5sccm一定に維持し、負バイアスを−200〜−320Vの範囲で変化させて膜厚1μmの薄膜Dを成膜したときのシリコン基板Sに加わる圧縮応力,シリコン基板Sの曲率半径及び曲率に負バイアスの負電圧が及ぼす影響を図3に示す。負バイアスを上げることによってシリコン基板Sに加わる応力が増加しており、負バイアス電圧で応力量、ひいてはシリコン基板Sの曲率を制御できることが判る。具体的には、−320Vの負バイアスを印加したとき応力が最大値85GPaになっており、曲率が最大値を示した。
【0021】
負バイアスを−260V,−320Vに設定すると、シリコン基板Sに流れる電流の密度がそれぞれ3.6mA/cm2,4.7mA/cm2となり、微結晶ダイヤモンド薄膜Dの堆積・成長に好適な条件が得られた。
負バイアスの電圧を−200V一定に維持し、メタン流量を変えながらダイヤモンド薄膜Dを成膜することにより、シリコン基板Sに加わる圧縮応力及びシリコン基板Sの反り量に及ぼすメタン流量の影響を調査した。図4の調査結果にみられるように、メタン流量を少なくするに従ってシリコン基板Sに加わる圧縮応力が増加し、シリコン基板Sが大きく反り変形した。
【0022】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明においては、マイクロ波プラズマCVD法でダイヤモンド薄膜をシリコン基板上に堆積させる際、シリコン基板に負バイアスを印加することにより600℃程度の低温であってもシリコン基板に対する密着性に優れた微結晶ダイヤモンド薄膜の成膜を可能にしている。ダイヤモンド薄膜は、三次元的に均一な状態で成膜されるため、シリコン基板/ダイヤモンド薄膜間に発生する応力は緩和されることなくシリコン基板の反り変形に効率よく利用される。しかも、シリコン基板の反り量は、メタン流量等の成膜条件や負バイアス電圧によって調整され、X線反射鏡等の用途では焦点位置を任意に設定した反射鏡が得られる。本発明は、X線反射鏡の作製に限らず、ダイヤモンド薄膜の堆積によってシリコン基板に応力が加わることを活用し、高圧化におけるシリコン基板の物性を測定することにも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 マイクロ波プラズマCVD装置の概略図
【図2】 薄膜堆積によって反り変形したシリコン基板の説明図
【図3】 薄膜堆積によってシリコン基板に加わる圧縮応力及びシリコン基板の反り量に及ぼす負バイアス電圧の影響を示したグラフ
【図4】 薄膜堆積によってシリコン基板に加わる圧縮応力及びシリコン基板の反り量に及ぼすメタン流量の影響を示したグラフ
【符号の説明】
1:真空チャンバ 2:基板支持台 3:支持棒 4:電気伝導性のサセプタ 5:石英板(絶縁材料) 6:負バイアス直流電源 7:マイクロ波電源 8:導波管
S:シリコン基板 D:微結晶ダイヤモンド薄膜 P:プラズマ

Claims (3)

  1. アース電位に維持された真空チャンバ内で電気伝導性サセプタを介して基板支持台に載置されたシリコン基板に負バイアスを印加し、該シリコン基板の表面に結晶粒径:10〜20nmの微結晶ダイヤモンドをプラズマCVD法で堆積させ、前記シリコン基板との間に生じる応力で前記シリコン基板を反り変形させるダイヤモンド薄膜を前記シリコン基板の表面に形成することを特徴とするシリコン基板の反り変形方法。
  2. シリコン基板の載置部を除く電気伝導性サセプタの表面を絶縁材料で覆い、プラズマ中にあるカーボンの正イオンをシリコン基板に導く請求項1記載の反り変形方法。
  3. −260〜−350Vの電圧で負バイアスを印加する請求項1又は2記載の反り変形方法。
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