JP3586711B2 - ナノセリア粉末の製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、ナノセリア粉末の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、凝集のない若しくはほとんどない平均粒径が100nm以下の実用的なナノセリア粉末を安価に製造することのできるナノセリア粉末の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
セリア(酸化セリウム)については、セリア中のセリウムが雰囲気の酸素分圧によりその価数が変化すること、ガラスやシリコンなどの研磨に最適な硬度を有すること、また、2価若しくは3価の金属酸化物を固溶させると、酸素拡散係数が非常に大きくなることなどが知られている。これらの性質から、セリアは、触媒担体や研磨剤をはじめ、燃料電池や酸素ポンプ、酸素センサーなどに使用される固体電解質などへの応用が期待されており、各材料の機能向上には、粒度分布が狭く、ナノサイズのセリア粉末の開発が必要不可欠となっている。
【0003】
セリア粉末の製造方法として、従来、セリウム塩にアンモニア水などの塩基剤を反応させる方法、セリア塩の加水分解法、尿素若しくはヘキサメチレンジアミンの熱分解を利用する均一沈殿法などの水溶液を用いる化学湿式法の他、水熱法(水熱合成法)などが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、化学湿式法では、ナノサイズの一次粒子(個々に分散している粒子、若しくは2個以上集合していても、見かけ上一つの粒子として振舞うときはその集合粒子を意味する)を作製することは可能であるものの、水分の影響により一次粒子は強固に凝集した大きな二次粒子を形成するため、得られる粉末の充填性や焼結性、触媒活性などの実用的な性質は、ミクロン以上の大きさを有する二次粒子に支配されるという欠点がある。
【0005】
水熱法(水熱合成法)は、ナノサイズのセリア粉末を製造することができる一方、高価な高圧容器を必要とする上、高圧処理のため作業性が悪く、セリア粉末の製造にかかるコストが高いという欠点がある。
【0006】
この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、凝集のない若しくはほとんどない平均粒径が100nm以下の実用的なナノセリア粉末を安価に製造することのできるナノセリア粉末の製造方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明の発明者らは、前記の課題の解決に向けて鋭意検討したところ、セリアの合成反応を有機溶媒内で行い、合成反応場における水分量をでき得る限り制限することにより、凝集の抑制されたナノサイズのセリア粉末が得られることを見出し、この出願の発明を完成した。
【0008】
すなわち、この出願の発明は、セリウム酸性塩が0.01〜1モル/リットル溶解した水分含有量が8重量%以下の有機溶媒と、有機塩基剤が0.1モル/リットル以上溶解した水分含有量が8重量%以下の有機溶媒とを混合し、水酸化セリウム又は水和したセリアの少なくともいずれか一方の一次粒子が個々に分離した沈殿を生成させ、この沈殿を液相と分離し、乾燥後に仮焼し、凝集のない若しくはほとんどない平均粒径が100nm以下のナノセリア粉末を製造することを特徴とするナノセリア粉末の製造方法(請求項1)を提供する。
【0009】
またこの出願の発明は、仮焼を400〜900℃で行うこと(請求項2)、有機塩基剤が、化学式(CnH2n+1)mNH3−mで示されるアミンであること(請求項3)をそれぞれ一態様として提供する。
【0010】
この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法における反応機構は、たとえば以下のように考えることができる。なお、下記反応式中のアミンは、有機塩基剤の一例として示したものであり、後述するように特にこれに限定されない。
【0011】
有機溶媒中のセリウム酸性塩と有機塩基剤は、まず式▲1▼に示されるように反応する。
【0012】
CeXp・qH2O + (CnH2n+1)mNH3−m → [Ce(H2O)x(OH)y](4−y) ▲1▼
ここで、Xは陰イオン、nとmは正の整数、x+yはCe4+の配位数を示す。式▲1▼の右辺に示されるイオン[Ce(H2O)x(OH)y](4−y)が生成すると、直ちに式▲2▼に示される反応が起こる。
【0013】
すなわち、[Ce(H2O)x(OH)y](4−y)からプロトンが急速に抜け、式▲2▼の右辺に示される沈殿Ce(OH)4/CeO2・nH2Oが生成する。時間が経過すると、Ce(OH)4は減少し、大部分がCeO2・2H2Oとなる。そして、有機溶媒中には水分が少ないため、CeO2・2H2Oは部分的に脱水され、nは2よりも小さくなる。
【0014】
式▲2▼に示される反応は急速に進むため、沈殿粒子が成長する以前に多数の結晶核が生成し、その結果、沈殿粒子はナノサイズとなる。
【0015】
また、有機溶媒へのCe(OH)4/CeO2・nH2OやCeO2・2H2Oの溶解度はきわめて小さく、溶媒を経由する物質移動は無視でき、しかも、式▲2▼に示される反応の反応温度は室温付近であり、沈殿粒子間の固相を経由する物質移動も無視できる。したがって、沈殿が分散した状態での粒成長も無視できるため、沈澱をしばらくの間放置するなど、たとえ液相との分離(たとえば、ろ過及び洗浄など)に時間がかかったとしても、沈殿は、一次粒子が個々に分離した状態を保ち、ナノサイズを保つことができる。この沈殿は、イオン結合性の化合物であり、共有結合性の強い有機溶媒と化学結合的性質が非常に異なるため、沈殿粒子と有機溶媒との間の相互作用は弱く、したがって、有機溶媒を蒸発させても、沈殿粒子は個々に分離した状態を保つことができ、凝集は起こりにくい。
【0016】
このように、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法は、水分を制限した条件下での合成反応を利用しており、このため、従来の化学湿式法における一次粒子の凝集を防止することができ、凝集のない若しくはほとんどない(ここで、凝集がほとんどないとは、たとえわずかに凝集が認められても、それは、二次粒子ほど大きくはなく、粉末全体の実用的な性質に影響を与えることのない、言い換えるなら、無視できる程度の凝集を意味する)実用的なナノセリア粉末を得ることができる。水分量が制限されても、合成反応に必要とされる水分は、主にセリウム酸性塩の水和水によりまかなわれる。
【0017】
また、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法は、水熱法(水熱合成法)とは全くカテゴリーの異なる、擬似アルコキシド法に通じるものであり、したがって、水熱法(水熱合成法)に比べ、ナノセリア粉末の製造に要するコストをはるかに低減させることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法においては、セリウム酸性塩として、硝酸セリウムや塩化セリウムなどの無機系のセリウム酸性塩をはじめ、有機系のセリウム酸性塩が例示される。経済性を考慮すれば、無機系のセリウム酸性塩は比較的安価であり、セリウム酸性塩として好ましく用いられる。一方、有機系のセリウム酸性塩は今のところ高価であり、その使用は好ましいとはいい難いが、価格はその製造方法などに反映されるため、安価な有機系のセリウム酸性塩の実現も将来にわたってはあり得る。したがって、セリウム酸性塩の一候補として一応例示可能である。
【0019】
なお、有機溶媒中のセリウム酸性塩の濃度は、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法においては、0.01〜1モル/リットルの範囲に制限される。その理由は、0.01モル/リットル未満となると、有機溶媒の使用量に比べ、得られるセリア粉末の量が少なくなり、コスト高となるからであり、1モル/リットルを超えると、生成する前述の沈殿の凝集が無視できなくなるからである。沈殿の分散性は、有機溶媒中のセリウム酸性塩の濃度が低いほど高く、凝集の防止に有効となる。
【0020】
有機塩基剤としては、前述の化学式(CnH2n+1)mNH3−mで示されるアミン(以下、I型アミンと記す)や化学式(CnH2nOH)mNH3−mで示されるアミン(以下、II型アミンと記す)の他、ヒドラジン化合物、スルホニウム塩基剤なども例示される。I型アミンは、室温において水と容易に反応してOH−を発生するため、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法における有機塩基剤として好ましく用いられる。一方、II型アミンは、尿素と同様に、OH−を多量に発生させるためには加熱の必要があり、また、セリウムイオンと錯体を生成しやすいため、セリウムイオンを完全に沈殿させることは難しいなどの点でI型アミンにやや劣る。ヒドラジン化合物、スルホニウム塩基剤などの他の有機塩基剤は、比較的高価であり、I型アミンに比べ経済的にやや不利となる場合がある。
【0021】
このような有機塩基剤の有機溶媒中における濃度は、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法においては、0.1モル/リットル以上に制限される。0.1モル/リットル未満となると、生成する前述の沈殿の凝集がやはり無視できなくなる。沈殿の分散性は、有機溶媒中の有機塩基剤の濃度が高いほど高く、凝集の防止に有効となる。
【0022】
以上のセリウム酸性塩及び有機塩基剤を溶解する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類やアセトン、エチレングリコール類などが例示される。ただし、アルコール類では、炭素数が4を超えると、セリウム酸性塩の溶解度が小さくなるため、このようなアルコール類は、セリウム酸性塩を溶解する有機溶媒としては好ましいとはいい難い。だが、有機塩基剤の有機溶媒に対する溶解度はたいていの場合大きいため、セリウム酸性塩の溶解に適さないと考えられる上記アルコール類であっても、有機塩基剤を溶解する有機溶媒には使用可能である。
【0023】
また、有機溶媒については、セリウム酸性塩の溶解に用いられる有機溶媒と有機塩基剤の溶解に用いられる有機溶媒は同種であっても異種であっても特に問題はなく、また、有機溶媒は、単体であっても、二種以上の混合物であってもよい。
【0024】
なお、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法は、前述したように、水分を制限した条件下での合成反応を利用するため、有機溶媒を実際に使用するに当たっては、極力水分を少なくするように、たとえば脱水しておくのが好ましい。なお、有機溶媒中の水分含有量は、後述する実施例から確認されるように、8重量%以下とすることが欠かせない。
【0025】
セリウム酸性塩を有機溶媒に溶解することにより生ずるセリウムイオンは、有機塩基剤より生ずる陰イオンと衝突することにより、前述の通り、直ちに沈殿を生成し、沈殿粒子の幾何学的形状は時間の経過に対してほとんど変化しない。したがって、セリウム酸性塩を溶解した有機溶媒と有機塩基剤を溶解した有機溶媒とを混合する際の混合方式は特に制限されない。
【0026】
生成した沈殿は液相と分離するが、この液相との分離には、ろ過及び洗浄が含まれる。ろ過及び洗浄は、不要となった陽イオンや陰イオン、有機溶媒を除去するために行う操作であり、その方式も特に制限はなく、通常行われている操作で構わない。たとえば洗浄液については、沈殿粒子の表面には有機溶媒の分子が強く吸着しているため、有機溶媒ばかりでなく、純水の使用も可能である。一次粒子間に作用する結合の強い水素結合は無視できる。純水洗浄後の沈殿は脆弱であり、乾燥後には、たとえば乳鉢で容易に一次粒子までほぐすことができる。
【0027】
乾燥は、液相と分離した沈殿から液体成分を除去する操作である。乾燥を室温において空気や窒素ガスなどのガス気流中で行うと、すなわちそれらのガスを流しながら行うと、沈殿粒子間の結合を無視若しくはほとんど無視できるに抑えることができ、凝集の防止に有効である。
【0028】
仮焼は、乾燥後の沈殿に強く結合している水分などの、焼結体を作製する際の焼成時にガスとして抜け出す化学種を除去すること、及びセリア粉末のサイズを調節することを目的とする操作である。セリア粉末のサイズは、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法においては、平均粒径100nm以下に制限される。これは、平均粒径が100nmを超えると、焼結性が悪くなり、理論密度の98%以上の焼結密度を達成するために1200℃以上で焼成する必要性が生じる。焼成温度の上昇は、エネルギー効率などの観点からも好ましいとは言いがたい。セリア粉末の平均粒径を100nm以下とするために、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法においては、400〜900℃の仮焼温度が例示される。1000〜1100℃の比較的低い焼結温度で焼結密度が理論密度の99%以上となるセリア焼結体を製造するためには、仮焼温度を400〜800℃とするのが好ましい。仮焼温度が700℃以上になると、理論密度の99%以上の密度を有する焼結体を製造するには、焼結温度を高くする必要がある。仮焼温度が900℃を超えると、一般に、セリア粉末の平均粒径が100nm以下に収まらなくなる。
【0029】
なお、焼結体の製造を考慮するならば、セリア粉末の平均粒径が10nmより大きくなるように仮焼するのが好ましい。平均粒径が10nm以下となると、充填性が悪くなり、緻密な焼結体を製造することが難しくなる。一方、触媒や触媒担体としての使用を考慮する場合には、セリア粉末の平均粒径は10nm以下であっても構わない。
【0030】
以下に、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法の実施例を示す。
【0031】
【実施例】
(実施例1)
0.1モルの硝酸セリウム6水和物と1モルのジメチルアミンをそれぞれ1リットルの水分含有量が0.2重量%以下のイソプロパノールに溶解させた。ジメチルアミンが溶解したイソプロパノール300ミリリットルをマグネチックスターラーで攪拌しながら、これに硝酸セリウム6水和物が溶解したイソプロパノール300ミリリットルを5ミリリットル/分の速度で滴下し、沈殿を生成させた。滴下終了後、30分間は攪拌を継続した後、沈殿をろ過した。ろ過した沈殿は、次いで300ミリリットルの水分含有量が0.2重量%以下のイソプロパノールに分散させ、再度ろ過することを3回繰り返し、沈殿の洗浄を行った。最終的なろ過後、沈殿を室温、窒素ガス気流中で乾燥させた。乾燥粉を乳鉢で軽くほぐした後、管状電気炉に入れ、酸素ガス気流中で2時間所定温度において仮焼した。
【0032】
図1は、600℃で仮焼して得られた粉末のX線回折測定データを示している。この図1から明らかなように、仮焼粉末はセリアであることが確認される。
【0033】
図2(a)(b)は、それぞれ、600℃、825℃の各温度で仮焼して得られた粉末の図面に代るSEM写真である。この図2(a)(b)から確認されるように、仮焼粉末は、個々に分離し、凝集のない平均粒径100nm以下のナノサイズ粒子の集合体であった。
【0034】
得られたナノセリア粉末を金型を用いて30MPaで成形し、さらに200MPaにおいて静水圧プレスした。得られた成形体の焼結にともなう収縮を熱機械分析装置により測定した。その結果を示したのが図3である。図3には、比較のために、均一沈殿法、水熱法(水熱合成法)により製造されたナノセリア粉末に関するデータも合わせて示した。この図3から確認されるように、実施例1において製造したナノセリア粉末からは、焼結温度が1100℃と低いのにもかかわらず、緻密な焼結体が得られた。
(実施例2)
有機溶媒を水分含有量が0.2重量%以下のエタノール、ブタノールに代えた他は、実施例1と同様の操作を行い、凝集のない平均粒径100nm以下のナノセリア粉末が得られた。得られた粉末についても、実施例1と同様に、600℃で仮焼したセリア粉末の圧粉体の焼結にともなう収縮を測定した。その収縮曲線を、実施例1で得られた600℃での仮焼粉末の収縮曲線とともに示したのが図4である。この図4から確認されるように、セリア粉末の焼結性は、使用する有機溶媒により若干の差は認められるものの、本質的な差異はなかった。
(実施例3)
純度99.8%のノルマルブタノール1リットルに蒸留水を50ミリリットル溶解し、水分含有量を5重量%とした。この有機溶媒を硝酸セリウム6水和物とジメチルアミンを溶解する有機溶媒として用い、実施例1と同様の操作を行った。滴下終了後30分間攪拌して生成した沈殿をろ過した後、この沈殿を再び前記有機溶媒に分散、ろ過して洗浄し、乾燥させた。この乾燥粉を乳鉢で軽くほぐした後、管状電気炉に入れ、酸素ガス気流中、600℃で2時間仮焼した。そして、実施例1と同様にして仮焼粉末の成形体を作製し、熱機械分析装置において焼結にともなう成形体の収縮曲線を測定した。その結果を示したのが図5である。
【0035】
この図5から明らかなように、実施例3で作製したセリア焼結体の収縮曲線は、図3に示した600℃で仮焼して得られた粉末によるセリア焼結体の収縮曲線(図5図中の無添加の場合の収縮曲線)に比べ、若干高温側にずれるものの、10℃/分の等速昇温条件下でも1100℃においてすでに理論密度の95%にまで緻密化が可能であった。また、実施例3で得られたセリア粉末を1100℃で2時間等温焼結したところ、理論密度の99%まで緻密化することができた。
(比較例1)
1.5モル/リットルの硝酸セリウム6水和物のイソプロパノール溶液(水分含有量0.2重量%以下)10ミリリットルと、1モル/リットルのジメチルアミンのイソプロパノール溶液(水分含有量0.2重量%以下)300ミリリットルとを混合する他は、実施例1と同様に操作してセリア粉末を製造した。得られたセリア粉末中には一次粒子が硬く凝集した粒子が無視できないほど多く存在し、また、1400℃で2時間焼結しても、焼結密度は理論密度の95%までしか得られず、焼結性が非常に悪化した。
(比較例2)
0.1モル/リットルの硝酸セリウム6水和物のイソプロパノール溶液(水分含有量0.2重量%以下)60ミリリットルを、0.05モル/リットルのジメチルアミンのイソプロパノール溶液(水分含有量0.2重量%以下)600ミリリットルに2ミリリットル/分の速度で滴下して混合する他は、実施例1と同様に操作してセリア粉末を製造した。得られたセリア粉末中には一次粒子が硬く凝集した粒子を含み、緻密焼結体を製造するためには、焼結温度を1400℃以上にしなければならなかった。
(比較例3)
ノルマルブタノールに溶解する蒸留水の量を100ミリリットルとした(水分含有量10重量%)他は、実施例3と同様に操作してセリア粉末を作製した。このセリア粉末を用いて焼結体を作製したときの収縮曲線も図5に合わせて示した。
【0036】
この図5から確認されるように、有機溶媒中の水分量が10重量%となると、焼結温度を1400℃としても焼結体の理論密度は85%程度にしか達しない。
【0037】
もちろん、この出願の発明は、以上の実施例により限定されるものではない。セリウム酸性塩及び有機塩基剤の種類、濃度をはじめ、有機溶媒の種類、操作条件などの細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0038】
【発明の効果】
以上詳しく説明した通り、この出願の発明によって、凝集のない若しくはほとんどない平均粒径が100nm以下の実用的なナノセリア粉末を安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1において600℃での仮焼により得られた粉末のX線回折測定データである。
【図2】(a)(b)は、各々、実施例1において600℃、825℃の各温度で仮焼して得られた粉末の図面に代るSEM写真である。
【図3】実施例1におけるセリア焼結体、及び均一沈殿法、水熱法(水熱合成法)により製造されたセリア粉末から製造したセリア焼結体の収縮曲線を示した相関図である。
【図4】実施例2におけるセリア焼結体の収縮曲線を示した相関図である。
【図5】有機溶媒中の水分含有量の変化によるセリア焼結体の収縮曲線を比較して示した相関図である。なお、図中の無添加の収縮曲線は、実施例1において得られた収縮曲線である。
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、ナノセリア粉末の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、凝集のない若しくはほとんどない平均粒径が100nm以下の実用的なナノセリア粉末を安価に製造することのできるナノセリア粉末の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
セリア(酸化セリウム)については、セリア中のセリウムが雰囲気の酸素分圧によりその価数が変化すること、ガラスやシリコンなどの研磨に最適な硬度を有すること、また、2価若しくは3価の金属酸化物を固溶させると、酸素拡散係数が非常に大きくなることなどが知られている。これらの性質から、セリアは、触媒担体や研磨剤をはじめ、燃料電池や酸素ポンプ、酸素センサーなどに使用される固体電解質などへの応用が期待されており、各材料の機能向上には、粒度分布が狭く、ナノサイズのセリア粉末の開発が必要不可欠となっている。
【0003】
セリア粉末の製造方法として、従来、セリウム塩にアンモニア水などの塩基剤を反応させる方法、セリア塩の加水分解法、尿素若しくはヘキサメチレンジアミンの熱分解を利用する均一沈殿法などの水溶液を用いる化学湿式法の他、水熱法(水熱合成法)などが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、化学湿式法では、ナノサイズの一次粒子(個々に分散している粒子、若しくは2個以上集合していても、見かけ上一つの粒子として振舞うときはその集合粒子を意味する)を作製することは可能であるものの、水分の影響により一次粒子は強固に凝集した大きな二次粒子を形成するため、得られる粉末の充填性や焼結性、触媒活性などの実用的な性質は、ミクロン以上の大きさを有する二次粒子に支配されるという欠点がある。
【0005】
水熱法(水熱合成法)は、ナノサイズのセリア粉末を製造することができる一方、高価な高圧容器を必要とする上、高圧処理のため作業性が悪く、セリア粉末の製造にかかるコストが高いという欠点がある。
【0006】
この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、凝集のない若しくはほとんどない平均粒径が100nm以下の実用的なナノセリア粉末を安価に製造することのできるナノセリア粉末の製造方法を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明の発明者らは、前記の課題の解決に向けて鋭意検討したところ、セリアの合成反応を有機溶媒内で行い、合成反応場における水分量をでき得る限り制限することにより、凝集の抑制されたナノサイズのセリア粉末が得られることを見出し、この出願の発明を完成した。
【0008】
すなわち、この出願の発明は、セリウム酸性塩が0.01〜1モル/リットル溶解した水分含有量が8重量%以下の有機溶媒と、有機塩基剤が0.1モル/リットル以上溶解した水分含有量が8重量%以下の有機溶媒とを混合し、水酸化セリウム又は水和したセリアの少なくともいずれか一方の一次粒子が個々に分離した沈殿を生成させ、この沈殿を液相と分離し、乾燥後に仮焼し、凝集のない若しくはほとんどない平均粒径が100nm以下のナノセリア粉末を製造することを特徴とするナノセリア粉末の製造方法(請求項1)を提供する。
【0009】
またこの出願の発明は、仮焼を400〜900℃で行うこと(請求項2)、有機塩基剤が、化学式(CnH2n+1)mNH3−mで示されるアミンであること(請求項3)をそれぞれ一態様として提供する。
【0010】
この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法における反応機構は、たとえば以下のように考えることができる。なお、下記反応式中のアミンは、有機塩基剤の一例として示したものであり、後述するように特にこれに限定されない。
【0011】
有機溶媒中のセリウム酸性塩と有機塩基剤は、まず式▲1▼に示されるように反応する。
【0012】
CeXp・qH2O + (CnH2n+1)mNH3−m → [Ce(H2O)x(OH)y](4−y) ▲1▼
ここで、Xは陰イオン、nとmは正の整数、x+yはCe4+の配位数を示す。式▲1▼の右辺に示されるイオン[Ce(H2O)x(OH)y](4−y)が生成すると、直ちに式▲2▼に示される反応が起こる。
【0013】
すなわち、[Ce(H2O)x(OH)y](4−y)からプロトンが急速に抜け、式▲2▼の右辺に示される沈殿Ce(OH)4/CeO2・nH2Oが生成する。時間が経過すると、Ce(OH)4は減少し、大部分がCeO2・2H2Oとなる。そして、有機溶媒中には水分が少ないため、CeO2・2H2Oは部分的に脱水され、nは2よりも小さくなる。
【0014】
式▲2▼に示される反応は急速に進むため、沈殿粒子が成長する以前に多数の結晶核が生成し、その結果、沈殿粒子はナノサイズとなる。
【0015】
また、有機溶媒へのCe(OH)4/CeO2・nH2OやCeO2・2H2Oの溶解度はきわめて小さく、溶媒を経由する物質移動は無視でき、しかも、式▲2▼に示される反応の反応温度は室温付近であり、沈殿粒子間の固相を経由する物質移動も無視できる。したがって、沈殿が分散した状態での粒成長も無視できるため、沈澱をしばらくの間放置するなど、たとえ液相との分離(たとえば、ろ過及び洗浄など)に時間がかかったとしても、沈殿は、一次粒子が個々に分離した状態を保ち、ナノサイズを保つことができる。この沈殿は、イオン結合性の化合物であり、共有結合性の強い有機溶媒と化学結合的性質が非常に異なるため、沈殿粒子と有機溶媒との間の相互作用は弱く、したがって、有機溶媒を蒸発させても、沈殿粒子は個々に分離した状態を保つことができ、凝集は起こりにくい。
【0016】
このように、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法は、水分を制限した条件下での合成反応を利用しており、このため、従来の化学湿式法における一次粒子の凝集を防止することができ、凝集のない若しくはほとんどない(ここで、凝集がほとんどないとは、たとえわずかに凝集が認められても、それは、二次粒子ほど大きくはなく、粉末全体の実用的な性質に影響を与えることのない、言い換えるなら、無視できる程度の凝集を意味する)実用的なナノセリア粉末を得ることができる。水分量が制限されても、合成反応に必要とされる水分は、主にセリウム酸性塩の水和水によりまかなわれる。
【0017】
また、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法は、水熱法(水熱合成法)とは全くカテゴリーの異なる、擬似アルコキシド法に通じるものであり、したがって、水熱法(水熱合成法)に比べ、ナノセリア粉末の製造に要するコストをはるかに低減させることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法においては、セリウム酸性塩として、硝酸セリウムや塩化セリウムなどの無機系のセリウム酸性塩をはじめ、有機系のセリウム酸性塩が例示される。経済性を考慮すれば、無機系のセリウム酸性塩は比較的安価であり、セリウム酸性塩として好ましく用いられる。一方、有機系のセリウム酸性塩は今のところ高価であり、その使用は好ましいとはいい難いが、価格はその製造方法などに反映されるため、安価な有機系のセリウム酸性塩の実現も将来にわたってはあり得る。したがって、セリウム酸性塩の一候補として一応例示可能である。
【0019】
なお、有機溶媒中のセリウム酸性塩の濃度は、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法においては、0.01〜1モル/リットルの範囲に制限される。その理由は、0.01モル/リットル未満となると、有機溶媒の使用量に比べ、得られるセリア粉末の量が少なくなり、コスト高となるからであり、1モル/リットルを超えると、生成する前述の沈殿の凝集が無視できなくなるからである。沈殿の分散性は、有機溶媒中のセリウム酸性塩の濃度が低いほど高く、凝集の防止に有効となる。
【0020】
有機塩基剤としては、前述の化学式(CnH2n+1)mNH3−mで示されるアミン(以下、I型アミンと記す)や化学式(CnH2nOH)mNH3−mで示されるアミン(以下、II型アミンと記す)の他、ヒドラジン化合物、スルホニウム塩基剤なども例示される。I型アミンは、室温において水と容易に反応してOH−を発生するため、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法における有機塩基剤として好ましく用いられる。一方、II型アミンは、尿素と同様に、OH−を多量に発生させるためには加熱の必要があり、また、セリウムイオンと錯体を生成しやすいため、セリウムイオンを完全に沈殿させることは難しいなどの点でI型アミンにやや劣る。ヒドラジン化合物、スルホニウム塩基剤などの他の有機塩基剤は、比較的高価であり、I型アミンに比べ経済的にやや不利となる場合がある。
【0021】
このような有機塩基剤の有機溶媒中における濃度は、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法においては、0.1モル/リットル以上に制限される。0.1モル/リットル未満となると、生成する前述の沈殿の凝集がやはり無視できなくなる。沈殿の分散性は、有機溶媒中の有機塩基剤の濃度が高いほど高く、凝集の防止に有効となる。
【0022】
以上のセリウム酸性塩及び有機塩基剤を溶解する有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類やアセトン、エチレングリコール類などが例示される。ただし、アルコール類では、炭素数が4を超えると、セリウム酸性塩の溶解度が小さくなるため、このようなアルコール類は、セリウム酸性塩を溶解する有機溶媒としては好ましいとはいい難い。だが、有機塩基剤の有機溶媒に対する溶解度はたいていの場合大きいため、セリウム酸性塩の溶解に適さないと考えられる上記アルコール類であっても、有機塩基剤を溶解する有機溶媒には使用可能である。
【0023】
また、有機溶媒については、セリウム酸性塩の溶解に用いられる有機溶媒と有機塩基剤の溶解に用いられる有機溶媒は同種であっても異種であっても特に問題はなく、また、有機溶媒は、単体であっても、二種以上の混合物であってもよい。
【0024】
なお、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法は、前述したように、水分を制限した条件下での合成反応を利用するため、有機溶媒を実際に使用するに当たっては、極力水分を少なくするように、たとえば脱水しておくのが好ましい。なお、有機溶媒中の水分含有量は、後述する実施例から確認されるように、8重量%以下とすることが欠かせない。
【0025】
セリウム酸性塩を有機溶媒に溶解することにより生ずるセリウムイオンは、有機塩基剤より生ずる陰イオンと衝突することにより、前述の通り、直ちに沈殿を生成し、沈殿粒子の幾何学的形状は時間の経過に対してほとんど変化しない。したがって、セリウム酸性塩を溶解した有機溶媒と有機塩基剤を溶解した有機溶媒とを混合する際の混合方式は特に制限されない。
【0026】
生成した沈殿は液相と分離するが、この液相との分離には、ろ過及び洗浄が含まれる。ろ過及び洗浄は、不要となった陽イオンや陰イオン、有機溶媒を除去するために行う操作であり、その方式も特に制限はなく、通常行われている操作で構わない。たとえば洗浄液については、沈殿粒子の表面には有機溶媒の分子が強く吸着しているため、有機溶媒ばかりでなく、純水の使用も可能である。一次粒子間に作用する結合の強い水素結合は無視できる。純水洗浄後の沈殿は脆弱であり、乾燥後には、たとえば乳鉢で容易に一次粒子までほぐすことができる。
【0027】
乾燥は、液相と分離した沈殿から液体成分を除去する操作である。乾燥を室温において空気や窒素ガスなどのガス気流中で行うと、すなわちそれらのガスを流しながら行うと、沈殿粒子間の結合を無視若しくはほとんど無視できるに抑えることができ、凝集の防止に有効である。
【0028】
仮焼は、乾燥後の沈殿に強く結合している水分などの、焼結体を作製する際の焼成時にガスとして抜け出す化学種を除去すること、及びセリア粉末のサイズを調節することを目的とする操作である。セリア粉末のサイズは、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法においては、平均粒径100nm以下に制限される。これは、平均粒径が100nmを超えると、焼結性が悪くなり、理論密度の98%以上の焼結密度を達成するために1200℃以上で焼成する必要性が生じる。焼成温度の上昇は、エネルギー効率などの観点からも好ましいとは言いがたい。セリア粉末の平均粒径を100nm以下とするために、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法においては、400〜900℃の仮焼温度が例示される。1000〜1100℃の比較的低い焼結温度で焼結密度が理論密度の99%以上となるセリア焼結体を製造するためには、仮焼温度を400〜800℃とするのが好ましい。仮焼温度が700℃以上になると、理論密度の99%以上の密度を有する焼結体を製造するには、焼結温度を高くする必要がある。仮焼温度が900℃を超えると、一般に、セリア粉末の平均粒径が100nm以下に収まらなくなる。
【0029】
なお、焼結体の製造を考慮するならば、セリア粉末の平均粒径が10nmより大きくなるように仮焼するのが好ましい。平均粒径が10nm以下となると、充填性が悪くなり、緻密な焼結体を製造することが難しくなる。一方、触媒や触媒担体としての使用を考慮する場合には、セリア粉末の平均粒径は10nm以下であっても構わない。
【0030】
以下に、この出願の発明のナノセリア粉末の製造方法の実施例を示す。
【0031】
【実施例】
(実施例1)
0.1モルの硝酸セリウム6水和物と1モルのジメチルアミンをそれぞれ1リットルの水分含有量が0.2重量%以下のイソプロパノールに溶解させた。ジメチルアミンが溶解したイソプロパノール300ミリリットルをマグネチックスターラーで攪拌しながら、これに硝酸セリウム6水和物が溶解したイソプロパノール300ミリリットルを5ミリリットル/分の速度で滴下し、沈殿を生成させた。滴下終了後、30分間は攪拌を継続した後、沈殿をろ過した。ろ過した沈殿は、次いで300ミリリットルの水分含有量が0.2重量%以下のイソプロパノールに分散させ、再度ろ過することを3回繰り返し、沈殿の洗浄を行った。最終的なろ過後、沈殿を室温、窒素ガス気流中で乾燥させた。乾燥粉を乳鉢で軽くほぐした後、管状電気炉に入れ、酸素ガス気流中で2時間所定温度において仮焼した。
【0032】
図1は、600℃で仮焼して得られた粉末のX線回折測定データを示している。この図1から明らかなように、仮焼粉末はセリアであることが確認される。
【0033】
図2(a)(b)は、それぞれ、600℃、825℃の各温度で仮焼して得られた粉末の図面に代るSEM写真である。この図2(a)(b)から確認されるように、仮焼粉末は、個々に分離し、凝集のない平均粒径100nm以下のナノサイズ粒子の集合体であった。
【0034】
得られたナノセリア粉末を金型を用いて30MPaで成形し、さらに200MPaにおいて静水圧プレスした。得られた成形体の焼結にともなう収縮を熱機械分析装置により測定した。その結果を示したのが図3である。図3には、比較のために、均一沈殿法、水熱法(水熱合成法)により製造されたナノセリア粉末に関するデータも合わせて示した。この図3から確認されるように、実施例1において製造したナノセリア粉末からは、焼結温度が1100℃と低いのにもかかわらず、緻密な焼結体が得られた。
(実施例2)
有機溶媒を水分含有量が0.2重量%以下のエタノール、ブタノールに代えた他は、実施例1と同様の操作を行い、凝集のない平均粒径100nm以下のナノセリア粉末が得られた。得られた粉末についても、実施例1と同様に、600℃で仮焼したセリア粉末の圧粉体の焼結にともなう収縮を測定した。その収縮曲線を、実施例1で得られた600℃での仮焼粉末の収縮曲線とともに示したのが図4である。この図4から確認されるように、セリア粉末の焼結性は、使用する有機溶媒により若干の差は認められるものの、本質的な差異はなかった。
(実施例3)
純度99.8%のノルマルブタノール1リットルに蒸留水を50ミリリットル溶解し、水分含有量を5重量%とした。この有機溶媒を硝酸セリウム6水和物とジメチルアミンを溶解する有機溶媒として用い、実施例1と同様の操作を行った。滴下終了後30分間攪拌して生成した沈殿をろ過した後、この沈殿を再び前記有機溶媒に分散、ろ過して洗浄し、乾燥させた。この乾燥粉を乳鉢で軽くほぐした後、管状電気炉に入れ、酸素ガス気流中、600℃で2時間仮焼した。そして、実施例1と同様にして仮焼粉末の成形体を作製し、熱機械分析装置において焼結にともなう成形体の収縮曲線を測定した。その結果を示したのが図5である。
【0035】
この図5から明らかなように、実施例3で作製したセリア焼結体の収縮曲線は、図3に示した600℃で仮焼して得られた粉末によるセリア焼結体の収縮曲線(図5図中の無添加の場合の収縮曲線)に比べ、若干高温側にずれるものの、10℃/分の等速昇温条件下でも1100℃においてすでに理論密度の95%にまで緻密化が可能であった。また、実施例3で得られたセリア粉末を1100℃で2時間等温焼結したところ、理論密度の99%まで緻密化することができた。
(比較例1)
1.5モル/リットルの硝酸セリウム6水和物のイソプロパノール溶液(水分含有量0.2重量%以下)10ミリリットルと、1モル/リットルのジメチルアミンのイソプロパノール溶液(水分含有量0.2重量%以下)300ミリリットルとを混合する他は、実施例1と同様に操作してセリア粉末を製造した。得られたセリア粉末中には一次粒子が硬く凝集した粒子が無視できないほど多く存在し、また、1400℃で2時間焼結しても、焼結密度は理論密度の95%までしか得られず、焼結性が非常に悪化した。
(比較例2)
0.1モル/リットルの硝酸セリウム6水和物のイソプロパノール溶液(水分含有量0.2重量%以下)60ミリリットルを、0.05モル/リットルのジメチルアミンのイソプロパノール溶液(水分含有量0.2重量%以下)600ミリリットルに2ミリリットル/分の速度で滴下して混合する他は、実施例1と同様に操作してセリア粉末を製造した。得られたセリア粉末中には一次粒子が硬く凝集した粒子を含み、緻密焼結体を製造するためには、焼結温度を1400℃以上にしなければならなかった。
(比較例3)
ノルマルブタノールに溶解する蒸留水の量を100ミリリットルとした(水分含有量10重量%)他は、実施例3と同様に操作してセリア粉末を作製した。このセリア粉末を用いて焼結体を作製したときの収縮曲線も図5に合わせて示した。
【0036】
この図5から確認されるように、有機溶媒中の水分量が10重量%となると、焼結温度を1400℃としても焼結体の理論密度は85%程度にしか達しない。
【0037】
もちろん、この出願の発明は、以上の実施例により限定されるものではない。セリウム酸性塩及び有機塩基剤の種類、濃度をはじめ、有機溶媒の種類、操作条件などの細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0038】
【発明の効果】
以上詳しく説明した通り、この出願の発明によって、凝集のない若しくはほとんどない平均粒径が100nm以下の実用的なナノセリア粉末を安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1において600℃での仮焼により得られた粉末のX線回折測定データである。
【図2】(a)(b)は、各々、実施例1において600℃、825℃の各温度で仮焼して得られた粉末の図面に代るSEM写真である。
【図3】実施例1におけるセリア焼結体、及び均一沈殿法、水熱法(水熱合成法)により製造されたセリア粉末から製造したセリア焼結体の収縮曲線を示した相関図である。
【図4】実施例2におけるセリア焼結体の収縮曲線を示した相関図である。
【図5】有機溶媒中の水分含有量の変化によるセリア焼結体の収縮曲線を比較して示した相関図である。なお、図中の無添加の収縮曲線は、実施例1において得られた収縮曲線である。
Claims (3)
- セリウム酸性塩が0.01〜1モル/リットル溶解した水分含有量が8重量%以下の有機溶媒と、有機塩基剤が0.1モル/リットル以上溶解した水分含有量が8重量%以下の有機溶媒とを混合し、水酸化セリウム又は水和したセリアの少なくともいずれか一方の一次粒子が個々に分離した沈殿を生成させ、この沈殿を液相と分離し、乾燥後に仮焼し、凝集のない若しくはほとんどない平均粒径が100nm以下のナノセリア粉末を製造することを特徴とするナノセリア粉末の製造方法。
- 仮焼を400〜900℃で行う請求項1記載のナノセリア粉末の製造方法。
- 有機塩基剤が、化学式(CnH2n+1)mNH3−mで示されるアミンである請求項1又は2記載のナノセリア粉末の製造方法。
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