JP3556350B2 - マスタ及び孔版印刷装置の版胴及びインキ保持部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、マスタ及び孔版印刷装置の版胴及びインキ保持部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来使用されている孔版印刷用のマスタは、薄い熱可塑性樹脂フィルム(厚み1〜2μm程度)に和紙繊維や合成繊維、あるいは和紙繊維と合成繊維とを混抄したものからなる多孔性支持体を貼り合わせたラミネート構造となっている。このマスタの熱可塑性樹脂フィルム面を加熱穿孔製版し、多孔性支持板に樹脂繊維あるいは金属繊維から構成されたメッシュスクリーン等からなるインキ保持層を有する回転自在な版胴に、製版されたマスタを巻装して、版胴内部に設けられたインキ供給手段よりインキを供給し、プレスローラー等の押圧手段で印刷用紙を連続的に押圧して、版胴開孔部及びマスタ穿孔部よりインキを滲出させて印刷を行う感熱デジタル孔版印刷装置がよく知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
一般的に前述の孔版印刷装置においては、印刷装置を一定時間放置した後や印刷を停止した後に再度印刷を再開した場合等に、インキが蒸発することに起因して発生する印刷不良の不具合を防止するため、蒸発しにくい油性インキや油中水型エマルジョンインキが使用されている。
【0004】
しかし、このインキは乾燥しにくいため、印刷時において、印刷用紙に転移したインキが印刷用紙内へ浸透して指等で擦っても汚れが発生しない、所謂、浸透乾燥した状態となるまでにはある程度の時間を必要とする。
【0005】
孔版印刷装置では、印刷済みの印刷用紙は連続的に排紙トレイに排出積載されるが、このときに前の印刷用紙上に次の印刷用紙がすぐに積載されると、インキの乾燥時間が短く前の印刷用紙の画像インキが次の印刷用紙の裏面に付着して汚してしまう、所謂、裏写りという不具合を発生してしまう。この裏写りは、インキ転移量の多い画像、とりわけ印刷用紙表面に転移したときのインキ層の厚さの厚い(インキ転移高さの高い)画像の印刷時において発生し易い。
【0006】
ところで、図2に示すように、多孔性支持板1bには開口部1aと非開口部1cとが存在する。従って、多孔性支持板1bの外周面に熱可塑性樹脂フィルムのみからなるマスタだけを巻装した場合、開口部1aに相当する箇所ではインキが流出して画像が出るが、非開口部1cに相当する箇所ではインキが流出せず画像が出ないため、多孔性支持板1bの開口状態と同様の模様である、所謂、孔目が発生するという問題点がある。この不具合を防止するために、通常、多孔性支持板の外周面には、インキを、特に横方向に拡散させるためのインキ保持層が巻装される。しかし、従来のインキ保持層は、開口部1aからインキ保持層に流入したインキを横方向に流れの向きを変えることなく流す通路を形成する空隙が多いため、繊維による横方向の拡散が期待できず、特に低温時等、インキの流動性が悪くインキが拡散しにくい条件の場合には、孔目の発生を効果的に防止することはできなかった。また、マスタの多孔性支持体においても、開口部1aからインキ保持層を介して多孔性支持体に流入したインキを横方向に流れの向きを変えることなく流す通路を形成する空隙が多く、上述の不具合を防止することはできなかった。そこで、この不具合を防止する対策の一つとして、流入したインキを横方向に流れの向きを変えることなく流す通路を形成する空隙を減らすために、インキ保持層を複数層重ね合わせて使用することが提案されたが、コストアップを余儀なくされた。
【0007】
さらに、従来の孔版印刷装置に用いられているマスタや版胴では、マスタの穿孔径に対して多孔性支持体やインキ保持層の開孔径(空隙面積)が大きくなるように構成されており、転移するインキ量を減少させて裏写りを防止する効果がほとんど期待できなかった。
【0008】
本発明は、裏写りの発生を効果的に防止することができると共に、インキの拡散の良好なマスタ及び孔版印刷装置の版胴並びにインキ保持部材を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、熱可塑性樹脂フィルムと多孔性支持体とを貼り合わせてなる孔版印刷用のマスタにおいて、前記多孔性支持体は繊維で構成されていて少なくともその表面が金属からなると共にインキ流入側の孔とインキ流出側の孔とを有し、前記多孔性支持体は前記熱可塑性樹脂フィルムとの当接面側の表面粗さが5〜45μmRzであると共に前記インキ流入側の孔から流入したインキの全量が前記多孔性支持体に対して下した垂線に沿って前記インキ流出側の孔から流出する空隙を有しており、前記空隙の面積が400μm2以下、前記空隙の空隙率が20%以下、前記空隙を含む前記多孔性支持体の密度が0.11ρ〜0.38ρ(ρ:前記繊維を構成する物質の密度(g/cm 3 ))であることを特徴とする。
【0012】
本発明を、外周面にインキ保持部材を有しこのインキ保持部材上に熱可塑性樹脂フィルムのみからなるマスタを巻装する版胴に適用し、インキ保持部材のマスタと当接する側の表面粗さを5〜45μmRz、好ましくは5〜35μmRz、より好ましくは5〜25μmRzとし、かつ空隙面積を400μm 2 以下となるように構成してもよい。
【0013】
上述のインキ保持部材を、空隙率が20%以下、より好ましくは0%となるように構成してもよい。
【0014】
上述のインキ保持部材を、少なくともその表面が金属から構成されているものとしてもよい。
【0015】
本発明を、版胴の外周面を構成するインキ保持部材に適用し、その外周面の表面粗さを5〜45μmRz、好ましくは5〜35μmRz、より好ましくは5〜25μmRzとし、かつ空隙面積を400μm 2 以下となるように構成してもよい。
【0016】
上述のインキ保持部材を、空隙率が20%以下、より好ましくは0%となるように構成してもよい。
【0017】
上述のインキ保持部材を、少なくともその表面が金属から構成されているものとしてもよい。
【0018】
【実施例】
図1は、本発明の第1の実施例に用いられる孔版印刷装置の要部を示している。同図において、回転自在に支持され、図示しない版胴駆動手段で回転駆動される版胴1は、インキパイプ2、インキローラー3、ドクターローラー4等をその内部に有している。
【0019】
版胴1は、図2に示すように、開孔部1aを有する多孔性支持板1bと、多孔性支持板1bの外表面に巻装されたインキ保持層15とから構成されている。インキ保持層15は、テトロンやナイロン等の合成樹脂繊維またはステンレス繊維等を網目状に交差させて形成したメッシュスクリーンからなり、インキを通過させるためのインキ通路を有し、インキの拡散、保持、押し出し等の働きをする。このインキ保持層15は、複数層設けても、1層だけ設けるように構成してもよく、また設けなくてもよい。
【0020】
版胴1の支軸を兼ねたインキパイプ2は図示しない筐体側板に固着されており、その表面には、版胴1の内部にインキを供給するための複数の小さな孔が穿設されている。インキパイプ2は、版胴1の外部に配設された図示しないインキパック内から図示しないポンプによって汲上げられたインキを版胴1の内部に供給する。
【0021】
インキパイプ2の下方には、インキローラー3とドクターローラー4とが配設されている。版胴1内の図示しない側板に回転自在に支持されたインキローラー3は、その外周面が版胴1の内周面と近接するように設置されており、インキパイプ2より供給されたインキを版胴1に供給する。インキローラー3は、図示しないギヤあるいはベルト等の駆動力伝達手段によって版胴駆動手段からの回転力を伝達され、版胴1と同期して図の時計回り方向に回転駆動される。
【0022】
インキローラー3の近傍には、回転自在なドクターローラー4が配設されている。ドクターローラー4は、その外周面とインキローラー3の外周面との間に僅かな間隙が生じるように配設されており、インキローラー3の外周面との近接部において楔状のインキ溜まり5を形成している。
【0023】
インキパイプ2よりインキ溜まり5へと供給されたインキは、インキローラー3とドクターローラー4との間隙を通過することにより均一な層状となりつつインキローラー3の表面に供給される。
【0024】
版胴1の非開孔部表面には、軸方向に延在するステージ部6が設けられている。磁性体で形成されたステージ部6上には、ステージ部6に対して接離自在に枢着されたマグネットを有するクランパー7が配設されており、クランパー7は図示しない開閉手段によって回動される。
【0025】
版胴1の左上方には、マスタ8をロール状に巻成してなるマスタロール9と、サーマルヘッド10及びプラテンローラー11と、マスタ搬送ローラー対12と、切断手段13と、マスタガイド板14とが配設されている。
【0026】
この第1の実施例に用いられるマスタ8は、図3に示すように、和紙繊維等の天然繊維、あるいはテトロン、ナイロン等の合成樹脂繊維8aでインキを通過させるためのインキ通路8eを形成した不織布からなる多孔性支持体8cと、ポリエステルフィルム等の熱可塑性樹脂フィルム8bとを接着等によって貼り合わせた構造となっている。このインキ通路8eによってインキが多孔性支持体8cの全面に一様に回り込むため、後述する空隙率が0%の場合でも十分に画像を形成することが可能である。
【0027】
マスタロール9は、その芯部9aを図示しないホルダー手段に回転可能に支持されている。
サーマルヘッド10とプラテンローラー11とは、図示しない孔版印刷装置の側板に取り付けられている。多数の発熱素子を有するサーマルヘッド10は、図示しない付勢手段によってプラテンローラー11に付勢されている。プラテンローラー11は回転自在に設けられており、図示しないステッピングモーターによって、図において時計回り方向に回転駆動される。マスタ8は、その熱可塑性樹脂フィルム8bをサーマルヘッド10に押圧され、サーマルヘッド10によって熱溶融穿孔製版されつつプラテンローラー11の回転によってマスタロール9より繰り出される。
【0028】
サーマルヘッド10とプラテンローラー11とが配設された位置よりもマスタ搬送方向下流側には、マスタ搬送ローラー対12が配設されている。図示しない孔版印刷装置の側板に回転自在に支持されたマスタ搬送ローラー対12は、図示しない駆動手段によってプラテンローラー11の周速度よりも僅かに速い周速度で回転駆動される。また、マスタ搬送ローラー対12には図示しないトルクリミッターが取り付けられており、プラテンローラー11とマスタ搬送ローラー対12との間で搬送されるマスタ8に対して、予め設定された張力が一定に作用するように構成されている。
【0029】
マスタ搬送ローラー対12の配設位置よりもマスタ搬送方向下流側には、可動刃13aと固定刃13bとからなる切断手段13及びマスタガイド板14が配設されている。切断手段13は、可動刃13aが固定刃13bに対して回転移動または上下動してマスタ8を切断する周知の構成である。マスタガイド板14は図示しない孔版印刷装置の側板に固着されており、搬送されるマスタ8をガイドする。
【0030】
版胴1の下方には、押圧手段としてのプレスローラー16が配設されている。回転自在に支持されたプレスローラー16は、図示しない揺動手段によって、その外周面が版胴1の外周面より離間する位置と版胴1の外周面と当接する位置とに選択的に揺動される。
【0031】
プレスローラー16の右方には、レジストローラー対17が配設されている。レジストローラー対17は、図示しない給紙手段より給送される印刷用紙18の先端を啣え込み、プレスローラー16が版胴1と当接するタイミングと同期して、印刷用紙18を版胴1とプレスローラー16との間に向けて給送する。なお、押圧手段として、プレスローラー16の代わりに版胴1と略同径の圧胴を設けてもよい。
【0032】
上記構成に基づき、以下に動作を説明する。
図示しない原稿読取部に原稿がセットされ、図示しない製版スタートキーが押されると、版胴1が回転し、図示しない排版装置によって版胴1の外周面に巻装されている使用済みマスタが剥離・廃棄され、版胴1はクランパー7が略真上に位置する給版待機位置で停止する。版胴1の回転が停止すると、図示しない開閉手段が作動してクランパー7が開放され、版胴1は図1に示す給版待機状態となる。
【0033】
排版動作が完了すると、これに続いて製版動作が行われる。読み取られた原稿画像は、原稿読取部のCCD等で電気信号に変換され、A/D変換器を経由して製版制御装置に画像データとして送られる。製版制御装置は、送られた画像データに基づいてサーマルヘッド10の発熱素子に対してパルス状の通電を行い、サーマルヘッド10はマスタ8の熱可塑性樹脂フィルム8bに対して熱溶融穿孔製版を行う。サーマルヘッド10の作動に先立って、プラテンローラー11が図示しないステッピングモーターによって回転駆動され、マスタロール9よりマスタ8が引き出される。
【0034】
製版画像を形成されたマスタ8は、マスタガイド板14にガイドされつつマスタ搬送ローラー対12によってクランパー7へと搬送される。プラテンローラー11を駆動するステッピングモーターのステップ数より、マスタ8の先端がクランパー7とステージ部6との間の所定位置まで達したと判断されると、図示しない開閉手段が作動してクランパー7を反時計回り方向に回動させ、ステージ部6とクランパー7とでマスタ8の先端を挟持した後、版胴1がマスタ搬送速度と略同じ周速度で時計回り方向に回転を開始し、マスタ8の版胴1への巻装が開始される。
【0035】
そして、プラテンローラー11を駆動するステッピングモーターのステップ数より、1版分の製版が完了したと判断されるとプラテンローラー11とマスタ搬送ローラー対12の回転動作がそれぞれ停止され、切断手段13によってマスタ8が切断される。切断されたマスタ8は、版胴1の回転によって引き出されて巻装動作が完了する。
【0036】
巻装動作に引き続き、版付動作が行われる。
図示しない給紙手段より給送された印刷用紙18はレジストローラー対17に啣え込まれる。レジストローラー対17は、低速で回転している版胴1に巻装されたマスタ8の画像領域がプレスローラー16と対応する位置に達するタイミングで、印刷用紙18を版胴1とプレスローラー16との間に向けて給送する。給送された印刷用紙18は、プレスローラー16によって版胴1に巻装されたマスタ8に押圧される。この押圧動作により、プレスローラー16と印刷用紙18とマスタ8と版胴1の外周面とが圧接し、インキローラー3によって版胴1の内周面に供給されたインキが、開孔部1aとインキ保持層15のオープンエリアより滲出し、インキ保持層15のオープンエリアとマスタ8を構成する多孔性支持体8c中に充填された後、熱可塑性樹脂フィルム8bの穿孔部を通過して印刷用紙18に転移される。
【0037】
インキを転移された印刷用紙18は、図示しない剥離爪によって版胴1の外周面より剥離され、図示しない排紙手段によって機外に排出されて版付動作が完了する。
【0038】
版付動作完了後、図示しない印刷スタートキーが押されると、図示しない給紙手段より印刷用紙18が連続的に給送され、版胴1が高速で回転駆動されて印刷動作が行われる。
【0039】
上述の版付動作または印刷動作中において、版胴1の表面から印刷用紙18が剥離されるときに、図4、図5及び図6に示すように、マスタ8の表面のインキと印刷用紙18との接着力によって熱可塑性樹脂フィルム8bの穿孔部8dよりインキ19が引き出されるが、インキ19が引き出される量は多孔性支持体8cの構造と関係があり、多孔性支持体8cの表面の凹凸L1(表面粗さRz )が大きければ大きいほど、穿孔部8dの上方のインキ層が厚くなって引き出されるインキ量、すなわちインキ転移高さlが増加して裏写りを悪くさせる。従って、凹凸L1が小さい方が裏写りの良好な印刷物を得られるが、凹凸L1が小さすぎると引き出されるインキ量が少なくなりすぎて、満足な画像を得ることができない。
【0040】
また、空隙面積S、換言するとインキが流れる通路の断面積が狭いとインキの通過性が悪くなり、印刷用紙18がマスタ8の表面から引き剥がされるときに、空隙面積Sの狭い部分の上方にインキ層が存在するにも関わらず空隙面積Sが狭い部分でインキが切れるため、多孔性支持体8cから引き出されるインキ19の量が低減される。従って、熱可塑性樹脂フィルム8bの内面に最も近く、空隙面積Sの狭い部分と熱可塑性樹脂フィルム8bの内面までの距離L2も、引き出されるインキ量に影響を及ぼす。
【0041】
なお、本発明で用いる空隙とは、図12に示すように、多孔性支持体またはインキ保持部材において、インキ流入側の孔から流入したインキの全量が、版胴の外周面(熱可塑性樹脂フィルム面)に対して下した垂線Rに沿ってインキ流出側の孔から流出するインキ通路(斜線部)のことをいう。また、空隙面積とは、上記垂線に対して垂直な面の面積(斜線部断面積)のことである。
【0042】
さらに、多孔性支持体8c内に流入したインキは、版胴の外周面に対する垂線R上に存在する繊維によって、垂線Rに沿って流下されずに横方向に流されることにより、インキが拡散されて孔目の発生を防止することができる。しかし、空隙率が大きい(空隙が多い)場合には、インキが垂線Rに沿って流下する部分が多くなり、インキの拡散性が悪化する。
【0043】
図5及び図6に示すように、上述の理由から多孔性支持体8cの表面粗さ、空隙面積Sが大きくなるほどインキ19は多量に引き出されてしまう。また、空隙率が大きいほどインキの拡散性が悪く、孔目が発生し易くなってしまう。そこで、画像形成に寄与する部分の多孔性支持体8cの空隙率、空隙面積S、表面粗さをそれぞれ調整して印刷を行い、そのときの裏写り、孔目、画像の様子をそれぞれ調査した。
【0044】
実験は、デジタル孔版印刷機プリポートVT3820((株)リコー製)を用いて行った。印刷条件は、印圧9.8N/cm2 、印刷速度60r.p.m.に設定し、インキには粘度3Pa・sのW/O型エマルジョンインキを使用した。
【0045】
表面粗さの測定は、表面粗さ計SEF−30D((株)小坂研究所製)を用いて多孔性支持体8cの凹凸L1を測定した。測定には半径7μmのヘッドを使用し、送り速度0.1mm/sec、測定長さ0.8mmの条件で測定して十点平均粗さを求め、これを10箇所測定してその平均より凹凸L1(表面粗さRz )を算出した。なお、表面粗さの測定は、多孔性支持体8cと熱可塑性樹脂フィルム8bとを貼り合わせる前に、多孔性支持体8cの熱可塑性樹脂フィルム8bと接する側の面について行い、その後、多孔性支持体8cのその面に薄く接着剤を塗布し、熱可塑性樹脂フィルム8bを貼り合わせてマスタ8を得ている。この表面粗さの測定は、後述する第2の実施例及びその変形例においても同様に行っている。また、熱可塑性樹脂フィルム8bの厚さは1.5μmである。実験の結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1より明らかなように、実施例Aと比較例Bとを比べ、画像形成に寄与する部分の多孔性支持体8cの表面粗さを45μmRz 以下にすることにより、表に三角印で示すように裏写りが少なくなり、実施例Bより表面粗さを35μmRz 以下にすることにより、表に丸印で示すように裏写りがほとんどなくなり、実施例Cより表面粗さを25μmRz 以下にすることにより、表に星印で示すように裏写りが発生しなくなるという結果が得られた。また、実施例Dと比較例Aとを比べ、表面粗さを5μmRz 未満とすると満足する画像が得られなくなるということも判明した。
【0048】
さらに、実施例Aと比較例Bとを比べ、空隙面積を400μm2 以下とすることにより裏写りの発生が減少し、また、実施例Aと比較例Cとを比べ、空隙率を20%以下とすることにより、表に丸印で示すように孔目がほとんど発生しなくなり、実施例Dより空隙率を0%とすることにより孔目が全く発生しなくなるという結果が得られた。
【0049】
ここで、本発明における空隙率及び空隙面積Sの求め方について述べる。この方法は、多孔性支持体またはインキ保持部材を光学顕微鏡((株)ニコン製MICROPHOT−FXA) を用い透過光の基で50倍で観察し、光が透過する箇所を空隙とし、画像処理システム((株)ニコン製LUZEX3U) を用いてその空隙率を算出した。また、空隙面積Sも同様の方法によって求めることができる。空隙率算出時において、光源の電圧を4Vとし、しきい値をオートモードで設定し、また、測定面積は1.42mm2 で任意の20箇所の平均の空隙率を算出した。
【0050】
上述の実験結果より、多孔性支持体8cは、熱可塑性樹脂フィルム8bと当接する側の表面粗さが5〜45μmRz 、好ましくは5〜35μmRz 、より好ましくは5〜25μmRz 、かつ、空隙面積Sが400μm2 以下であるように構成される。また、空隙率は20%以下、最も好ましくは0%であるように構成される。さらに、繊維径が小さいほどL1,L2が短くなるので、多孔性支持体8cとしては、熱可塑性樹脂フィルム8bと当接する側の繊維径が1μm以上20μm以下、好ましくは1μm以上15μm以下、より好ましくは1μm以上8μm以下に設定されることが好ましい。
【0051】
また、多孔性支持体8cの密度が低いと繊維間の隙間が広くなり、細い繊維等を使用しても多孔性支持体8cの凹凸L1(表面粗さRz )が大きくなり、裏写りがひどくなる。逆に、密度が高すぎると繊維間の隙間が狭くなり、繊維が数多く交差する部分ではインキが通過しにくくなって画像に白抜け(繊維塊跡)が見られ、満足な画像が得られなくなる。そこで、多孔性支持体8cの密度と裏写りとの関係を調査した。
【0052】
その結果、多孔性支持体8cが、天然繊維または合成樹脂系の繊維で構成されている場合の密度は0.1〜0.6g/cm3 、より好ましくは0.2〜0.6g/cm3 、金属系の繊維で構成されている場合であって、ステンレス、鉄の場合の密度は0.7〜3.0g/cm3 、より好ましくは0.9〜3.0g/
cm3 、チタンの場合の密度は0.4〜1.7g/cm3 、より好ましくは0.5〜1.7g/cm3 、アルミニウムの場合の密度は0.2〜1.0g/cm3 、より好ましくは0.3〜1.0g/cm3 となった。
【0053】
以上のことから、多孔性支持体8cの好ましい密度範囲Dwと、より好ましい密度範囲Dw1とは、それぞれ以下の式で示される。
Dw=0.09ρ〜0.38ρ(g/cm3 )
Dw1=0.11ρ〜0.38ρ
ρ:物質の密度(g/cm3 )
なお、上記式は、後述する第2の実施例及びその変形例における多孔性支持体の密度についても適用され得るものである。
【0054】
上記実施例では、多孔性支持体8cは、天然繊維や合成樹脂繊維から構成される不織布からなるものとしたが、楮、三椏、マニラ麻、亜麻等の天然繊維からなる多孔性薄葉紙や、レーヨン、ビニロン、フッ素樹脂、ポリエステル等の合成樹脂繊維からなる不織布、あるいは天然繊維と合成樹脂繊維とを混抄してなる不織布より多孔性支持体8cを構成してもよい。また、多孔性支持体8cは、マニラ麻や亜麻等の天然繊維、テトロンやナイロン等の合成樹脂繊維、若しくはステンレス、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン等の繊維を網目状に交差させて形成したメッシュスクリーン、ステンレス、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン繊維等からなる不織布、テトロンやナイロン等の合成樹脂繊維を焼結させて作成した焼結シート、ポリビニルアセタール系若しくはポリビニルアルコール系の連続気泡を有する多孔質弾性体、硬質粒子とゴムの混和した連続気泡を有する多孔質弾性体、ポリエチレン等の合成樹脂や無機物の微粉末を焼結した多孔質弾性体、ポリウレタン等の液状焼結による多孔質弾性体、または多孔質ゴム等の多孔質弾性体からなるものとしてもよい。また、上述したメッシュスクリーン、不織布、焼結シート、各種の多孔質弾性体等の多孔性支持体において、少なくとも熱可塑性樹脂フィルムと当接する側の表面に金属や樹脂等の微粉末を分散させ、溶着あるいは接着し、これにより多孔性支持体の表面粗さを小さくするようにしてもよい。
【0055】
図7は、本発明の第2の実施例に用いられるマスタ20を、図8は、第2の実施例の変形例に用いられるマスタ21をそれぞれ示している。この第2の実施例及び変形例は、第1の実施例と比較するとマスタ8に代えてマスタ20またはマスタ21を用いる点においてのみ相違し、他の構成は同一である。
【0056】
マスタ20は、ステンレス、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン等の金属繊維20aの焼結シートからなる多孔性支持体20bに熱可塑性樹脂フィルム8bを貼り合わせて構成されている。マスタ21は、テトロンやナイロン等の合成樹脂繊維21aの表面にステンレス、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン等の金属21bをコーティングした焼結シートからなる多孔性支持体21cに熱可塑性樹脂フィルム8bを貼り合わせて構成されている。なお、多孔性支持体20b,21cは、金属繊維20aからなる不織布、または表面に金属21bをコーティングした合成樹脂繊維21aからなる不織布をそれぞれ焼結することにより得られる。多孔性支持体20b,21cは、その表面粗さが5〜45μmRz 、好ましくは5〜35μmRz 、より好ましくは5〜25μmRz 、かつ、空隙面積が400μm2 以下、空隙率が20%以下、最も好ましくは0%となるようにそれぞれ構成されている。
【0057】
このように、金属繊維20aの焼結シートからなる多孔性支持体20bまたは金属21bを合成樹脂繊維21aの表面にコーティングした焼結シートからなる多孔性支持体21cを有するマスタ20またはマスタ21を用いることにより、高エネルギー表面であり、ぬれ性のよい金属部材からなる多孔性支持体20b,21cはインキとの接着力が高くなり、インキが多孔性支持体20b,21cの内部から引き出されにくくなって、裏写りの発生を防止することができる。
【0058】
また、多孔性支持体20b,21cが天然繊維部材や合成樹脂部材から構成される多孔性支持体に比べて高弾性であるので、プレスローラー等の押圧部材による加圧時において多孔性支持体20b,21cが圧縮されてインキを吐出し、圧が解除されたときには多孔性支持体20b,21cが復元することにより多孔性支持体20b,21c内にインキを吸い戻す効果が得られ、余分なインキの印刷用紙への転移が防止されて、裏写りの少ない良好な画像を得ることができる。
【0059】
さらに、多孔性支持体20b,21cが天然繊維部材や合成樹脂部材から構成される多孔性支持体に比べて強度が高いので、長時間使用することによるへたりが少なく、マスタ20,21としては、耐久性がよく大量印刷に適したものを提供することができる。
【0060】
上記実施例及び変形例では、金属繊維20aからなる焼結シート、あるいは合成樹脂繊維21aの表面に金属21bをコーティングしたものからなる焼結シートによって多孔性支持体20b,21cを構成したが、多孔性支持体を構成するものとしてはこの限りではなく、金属繊維からなる不織布、合成樹脂繊維の表面に金属をコーティングしたものからなる不織布、合成樹脂繊維の表面に金属をコーティングしたもの、または金属繊維を網目状に交差させて形成したメッシュスクリーン、金属の微粉末を焼結した多孔質体等、少なくともその表面が金属で構成され、インキが通過する通路を有するものであれば何でもよい。なお、焼結シートは不織布に比べて引張強度が高く、またメッシュスクリーンに比べて低コストであるので、多孔性支持体として用いるには特に好適である。
【0061】
図9は、本発明の第3の実施例に用いられる版胴22と熱可塑性樹脂フィルムのみからなるマスタ27とをそれぞれ示している。この第3の実施例は、第1の実施例と比較すると、版胴1及びマスタ8に代えて版胴22及びマスタ27を用いる点においてのみ相違し、他の構成は同一である。版胴22は、開孔部1aを有する多孔性支持板1bとインキ保持部材25とから主に構成されている。
【0062】
インキ保持部材25は、テトロンやナイロン等の合成樹脂繊維25aでインキを通過させるためのインキ通路を形成した不織布によって構成されている。
【0063】
この実施例では、使用されるマスタ27が多孔性支持体を有していないので、第1の実施例における多孔性支持体8cの代わりにインキ保持部材25によって余分なインキが引き出されることを防止している。
【0064】
そこで、第1の実施例と同様に、画像形成に寄与する部分のインキ保持部材25の空隙率、空隙面積S、表面粗さをそれぞれ調整して印刷を行い、そのときの裏写り、孔目、画像の様子をそれぞれ調査した。
【0065】
実験は、デジタル孔版印刷機プリポートVT3820((株)リコー製)を用いて行った。印刷条件は、印圧9.8N/cm2 、印刷速度60r.p.m.に設定し、インキには粘度3Pa・sのW/O型エマルジョンインキを使用した。
【0066】
表面粗さの測定は、表面粗さ計SEF−30D((株)小坂研究所製)を用いてインキ保持部材25の凹凸Lを測定した。測定には半径7μmのヘッドを使用し、送り速度0.1mm/sec、測定長さ0.8mmの条件で測定して十点平均粗さを求め、これを10箇所測定してその平均より凹凸L(表面粗さRz )を算出した。実験の結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表2より明らかなように、実施例Aと比較例Bとを比べ、画像形成に寄与する部分のインキ保持部材25の表面粗さを45μmRz 以下とすることにより、表に三角印で示すように裏写りが少なくなり、実施例Bより表面粗さを35μmRz 以下とすることにより、表に丸印で示すように裏写りがほとんどなくなり、実施例Cより表面粗さを25μmRz 以下とすることにより、表に星印で示すように裏写りが発生しなくなるという結果が得られた。また、実施例Dと比較例Aとを比べ、表面粗さを5μmRz 未満とすることにより、満足する画像が得られなくなることも判明した。
【0069】
さらに、実施例Aと比較例Bとを比べ、空隙面積を400μm2 以下とすることにより裏写りの発生が減少し、また、実施例Aと比較例Cとを比べ、空隙率を20%以下とすることにより、表に丸印で示すように孔目がほとんど発生しなくなり、実施例Dより空隙率を0%とすることにより、孔目が全く発生しなくなるという結果が得られた。
【0070】
以上のことから、インキ保持部材25は、マスタ27を巻装する外表面の表面粗さを5〜45μmRz 、好ましくは5〜35μmRz 、より好ましくは5〜25μmRz 、かつ、空隙面積Sが400μm2 以下に設定される。また、空隙率は20%以下、最も好ましくは0%となるように構成される。さらに、インキ保持部材25は、マスタ27を巻装する外表面の繊維径を1μm以上20μm以下、好ましくは1μm以上15μm以下、より好ましくは1μm以上8μm以下となるように設定されることが好ましい。
【0071】
インキ保持部材25は密度が高い方が好ましく、第1の実施例で述べた理由と同様の理由により、例えば、インキ保持部材25が合成樹脂繊維あるいは天然繊維で構成されている場合、密度は0.1〜0.6g/cm3 、より好ましくは0.2〜0.6g/cm3 であり、また、インキ保持部材25が金属系の繊維で構成されている場合であって、ステンレス、鉄の場合の密度は0.7〜3.0g/cm3 、より好ましくは0.9〜3.0g/cm3 であり、チタンの場合の密度は0.4〜1.7g/cm3 、より好ましくは0.5〜1.7g/cm3 、アルミニウムの場合の密度は0.2〜1.0g/cm3 、より好ましくは0.3〜1.0g/cm3 である。
【0072】
本実施例においても、第1の実施例と同様に、インキ保持部材25の好ましい密度範囲Dwと、より好ましい密度範囲Dw1とは、それぞれ次の式で示される。
Dw=0.09ρ〜0.38ρ(g/cm3 )
Dw1=0.11ρ〜0.38ρ(g/cm3 )
ρ:物質の密度(g/cm3 )
なお、上記式は、後述する第4の実施例及びその変形例におけるインキ保持部材の密度についても適用され得るものである。
【0073】
この第3の実施例では、インキ保持部材25を合成樹脂繊維からなる不織布によって構成したが、インキ保持部材25をマニラ麻や亜麻等の天然繊維、テトロンやナイロン等の合成樹脂繊維、若しくはステンレス、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン等の繊維を網目状に交差させて形成したメッシュスクリーン、ステンレス、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン繊維等からなる不織布、テトロンやナイロン等の合成樹脂繊維を焼結させて作成した焼結シート、ポリビニルアセタール系若しくはポリビニルアルコール系の連続気泡を有する多孔質弾性体、硬質粒子とゴムの混和した連続気泡を有する多孔質弾性体、ポリエチレン等の合成樹脂や無機物の微粉末を焼結した多孔質弾性体、ポリウレタン等の液状焼結による多孔質弾性体、または多孔質ゴム等の多孔質弾性体からなるもの等によって構成してもよい。
【0074】
また、上述したメッシュスクリーン、不織布、焼結シート、各種のインキ保持部材等の多孔性支持体において、少なくとも熱可塑性樹脂フィルムと当接する側の表面に金属や樹脂等の微粉末を分散させ、溶着あるいは接着し、これによりインキ保持部材の表面粗さを小さくするようにしてもよい。
【0075】
図10は、本発明の第4の実施例に用いられる版胴23を、図11は、第4の実施例の変形例に用いられる版胴24をそれぞれ示している。この第4の実施例及び変形例は、第3の実施例と比較すると版胴22に代えて版胴23または版胴24を用いる点においてのみ相違し、他の構成は同一である。
【0076】
版胴23は、多孔性支持板1bとインキ保持部材26とから主に構成され、インキ保持部材26は、ステンレス、鉄、銅、ニッケル、チタン、アルミニウム等の金属繊維26aの焼結シートから構成されている。版胴24は、多孔性支持板1bとインキ保持部材28とから主に構成され、インキ保持部材28は、テトロンやナイロン等の合成樹脂繊維28aの表面にステンレス、鉄、銅、ニッケル、チタン、アルミニウム等の金属28bをコーティングして構成される焼結シートからなる。なお、インキ保持部材26,28は、金属繊維26aからなる不織布、または表面に金属28bをコーティングした合成樹脂繊維28aからなる不織布をそれぞれ焼結することにより得られる。各インキ保持部材26,28は、その表面粗さが5〜45μmRz 、好ましくは5〜35μmRz 、より好ましくは5〜25μmRz 、かつ、空隙面積Sが400μm2 、空隙率が20%以下、最も好ましくは0%となるようにそれぞれ構成されている。
【0077】
このように、金属繊維26aの焼結シートからなるインキ保持部材26または金属28bを合成樹脂繊維28aの表面にコーティングした焼結シートからなるインキ保持部材28を有する版胴23または版胴24を用いることにより、高エネルギー表面であり、ぬれ性のよい金属部材からなるインキ保持部材26,28はインキとの接着力が高くなり、インキがインキ保持部材26,28の内部から引き出されにくくなって、裏写りの発生を防止することができる。
【0078】
また、インキ保持部材26,28が天然繊維部材や合成樹脂部材から構成されるインキ保持部材に比べて高弾性であるので、プレスローラー等の押圧部材による加圧時においてインキ保持部材26,28が圧縮されてインキを吐出し、圧が解除されたときにはインキ保持部材26,28が復元することによりインキ保持部材26,28内にインキを吸い戻す効果が得られ、余分なインキの印刷用紙への転移が防止されて、裏写りの少ない良好な画像を得ることができる。
【0079】
さらに、インキ保持部材26,28が、天然繊維部材や合成樹脂部材から構成されるインキ保持部材に比べて強度が高いので、長時間使用することによるへたりが少なく、耐久性がよく大量印刷に適した孔版印刷装置を提供することができる。
【0080】
上記実施例及び変形例では、金属繊維26aからなる焼結シート、あるいは合成樹脂繊維28aの表面に金属28bをコーティングしたものからなる焼結シートによってインキ保持部材26,28を構成したが、インキ保持部材を構成するものとしてはこの限りではなく、金属繊維からなる不織布、合成樹脂繊維の表面に金属をコーティングしたものからなる不織布、合成樹脂繊維の表面に金属をコーティングしたもの、または金属繊維を網目状に交差させて形成したメッシュスクリーン、金属の微粉末を焼結した多孔質体等、少なくともその表面が金属で構成され、インキが通過する通路を有するものであれば何でもよい。なお、焼結シートは不織布に比べて引張強度が高く、またメッシュスクリーンに比べて低コストであるので、インキ保持部材として用いるには特に好適である。
【0081】
第3の実施例並びに第4の実施例及びその変形例で用いた各版胴は、それぞれ多孔性支持板1bと各インキ保持部材とから構成されているが、例えば特開平1−204781号公報、あるいは特開昭59−218889号公報に開示されているように、多孔性支持板1bを省略して円筒状に形成されたインキ保持部材のみを具備してなるものであってもよい。この場合、円筒状に形成され、孔版印刷装置の内部に収められているものを版胴と呼び、シート状のものをインキ保持部材という。
【0082】
なお、第3の実施例並びに第4の実施例及びその変形例において用いられる熱可塑性樹脂フィルムのみからなるマスタとは、マスタが熱可塑性樹脂フィルムのみからなるものの他、熱可塑性樹脂フィルムに帯電防止剤等の微量成分を含有させてなるもの、さらには熱可塑性樹脂フィルムの表面及び裏面のうちの少なくとも一方に、オーバーコート層等の薄膜層を1層または複数層形成してなるものを含む。
【0083】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によれば、繊維で構成されていて少なくともその表面が金属からなると共にインキ流入側の孔とインキ流出側の孔とを有し、熱可塑性樹脂フィルムとの当接面側の表面粗さが5〜45μmRzであると共にインキ流入側の孔から流入したインキの全量が多孔性支持体に対して下した垂線に沿ってインキ流出側の孔から流出する空隙を有しており、空隙面積が400μm 2 以下、空隙率が20%以下、空隙を含む密度が0.11ρ〜0.38ρ(ρ:前記繊維を構成する物質の密度(g/cm 3 ))である多孔性支持体と熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合わせてマスタを構成することにより、印刷時において熱可塑性樹脂フィルムの穿孔部より引き出されるインキ量が適正化され、インキの浸透乾燥に要する時間が短縮されるため、裏写りを発生することなく良好な画像を得ることができる。
【0084】
さらに、本発明ではインキが拡散されるので孔目の発生を防止することができる。
【0085】
さらに、本発明では高エネルギー表面である金属によってその表面を構成された多孔性支持体とインキの接着力が高くなり、多孔性支持体の内部からインキが引き出されにくくなると共に、多孔性支持体が高弾性であり、押圧部材による加圧時において多孔性支持体が圧縮されてインキを吐出し、圧が解除されたときには多孔性支持体が復元することにより多孔性支持体内にインキを吸い戻すため、余分なインキの印刷用紙への転移が防止されて、裏写り少ない良好な画像を得ることができる。さらに、多孔性支持体の強度が高いので、長時間の使用によるへたりが少なく、また、インキによる腐食を防止することができ、耐久性がよく大量印刷に適したマスタを提供することができる。
【0086】
本発明を、外周面にインキ保持部材を有しこのインキ保持部材上に熱可塑性樹脂フィルムのみからなるマスタを巻装する版胴に適用し、インキ保持部材のマスタと当接する側の表面粗さを5〜45μmRz、好ましくは5〜35μmRz、より好ましくは5〜25μmRzとし、かつ空隙面積を400μm 2 以下となるように構成すれば、印刷時において熱可塑性樹脂フィルムの穿孔部より引き出されるインキ量が適正化され、インキの浸透乾燥に要する時間が短縮されるため、熱可塑性樹脂フィルムのみからなるマスタを用いて印刷を行う場合に裏写りを発生することなく良好な画像を得ることができる。
【0087】
上述のインキ保持部材を、空隙率が20%以下、より好ましくは0%となるように構成すれば、インキが拡散され孔目の発生を防止することができる。
【0088】
上述のインキ保持部材を、少なくともその表面が金属から構成されているものとすれば、高エネルギー表面である金属からその表面を構成されたインキ保持部材はインキとの接着力が高くなり、インキ保持部材の内部からインキが引き出されにくくなると共に、インキ保持部材が高弾性であり、押圧部材による加圧時においてインキ保持部材が圧縮されてインキを吐出し、圧が解除されたときにはインキ保持部材が復元することによりインキ保持部材内にインキを吸い戻すため、余分なインキの印刷用紙への転移が防止されて、裏写り少ない良好な画像を得ることができる。さらに、インキ保持部材の強度が高いので、長時間の使用によるへたりが少なく、また、インキによる腐食を防止することができ、耐久性がよく大量印刷に適した孔版印刷装置の版胴を提供することができる。
【0089】
本発明を、版胴の外周面を構成するインキ保持部材に適用し、その外周面の表面粗さを5〜45μmRz、好ましくは5〜35μmRz、より好ましくは5〜25μmRzとし、かつ空隙面積を400μm 2 以下となるように構成すれば、印刷時において熱可塑性樹脂フィルムの穿孔部より引き出されるインキ量が適正化され、インキの浸透乾燥に要する時間が短縮されるため、熱可塑性樹脂フィルムのみからなるマスタを用いて印刷を行う場合に裏写りを発生することなく良好な画像を得ることができる。
【0090】
上述のインキ保持部材を、空隙率が20%以下、より好ましくは0%となるように構成すれば、インキが拡散され孔目の発生を防止することができる。
【0091】
上述のインキ保持部材を、少なくともその表面が金属から構成されているものとすれば、高エネルギー表面である金属からその表面を構成されたインキ保持部材はインキとの接着力が高くなり、インキ保持部材の内部からインキが引き出されにくくなると共に、インキ保持部材が高弾性であり、押圧部材による加圧時においてインキ保持部材が圧縮されてインキを吐出し、圧が解除されたときにはインキ保持部材が復元することによりインキ保持部材内にインキを吸い戻すため、余分なインキの印刷用紙への転移が防止されて、裏写り少ない良好な画像を得ることができる。さらに、インキ保持部材の強度が高いので、長時間の使用によるへたりが少なく、また、インキによる腐食を防止することができ、耐久性がよく大量印刷に適したインキ保持部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例を採用した孔版印刷装置要部の概略側面図である。
【図2】本発明の第1及び第2の実施例に用いられる版胴及びインキ保持層を示す部分側断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例に用いられるマスタを示す部分側断面図である。
【図4】本発明の第1の実施例における印刷用紙へのインキの転移状態を説明するための部分側断面図である。
【図5】本発明の第1の実施例における印刷用紙へのインキの転移状態を説明するための部分側断面図である。
【図6】本発明の第1の実施例における印刷用紙へのインキの転移状態を説明するための部分側断面図である。
【図7】本発明の第2の実施例に用いられるマスタを示す部分側断面図である。
【図8】本発明の第2の実施例の変形例に用いられるマスタを示す部分側断面図である。
【図9】本発明の第3の実施例に用いられる版胴及びインキ保持部材を示す部分側断面図である。
【図10】本発明の第4の実施例に用いられる版胴及びインキ保持部材を示す部分側断面図である。
【図11】本発明の第4の実施例の変形例に用いられる版胴及びインキ保持部材を示す部分側断面図である。
【図12】本発明における空隙及び空隙面積を説明する図である。
【符号の説明】
1,22,23,24 版胴
8,20,21 マスタ
8b 熱可塑性樹脂フィルム
8c,20b,21c 多孔性支持体
27 熱可塑性樹脂フィルムのみからなるマスタ
25,26,29 インキ保持部材
20a,21b,26a,28b 金属(金属繊維)
S 空隙面積
Claims (1)
- 熱可塑性樹脂フィルムと多孔性支持体とを貼り合わせてなる孔版印刷用のマスタにおいて、
前記多孔性支持体は繊維で構成されていて少なくともその表面が金属からなると共にインキ流入側の孔とインキ流出側の孔とを有し、前記多孔性支持体は前記熱可塑性樹脂フィルムとの当接面側の表面粗さが5〜45μmRzであると共に前記インキ流入側の孔から流入したインキの全量が前記多孔性支持体に対して下した垂線に沿って前記インキ流出側の孔から流出する空隙を有しており、前記空隙の面積が400μm2以下、前記空隙の空隙率が20%以下、前記空隙を含む前記多孔性支持体の密度が0.11ρ〜0.38ρ(ρ:前記繊維を構成する物質の密度(g/cm 3 ))であることを特徴とするマスタ。
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