JP3691155B2 - 印刷方法およびそれを用いた印刷装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷方法およびそれを用いた印刷装置に関し、さらに詳しくは、マスタに対して供給されたインクの適量化方法およびそれを用いた装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、原稿画像に応じた内容を用紙に転写するために用いられる印刷装置の一つとして孔版印刷装置がある。
孔版印刷装置を用いて画像形成を行なう場合を説明すると次の通りである。
孔版印刷装置は、製版処理に相当する穿孔処理によって原稿画像に応じて穿孔された孔版マスタをインク透過構造が備えられている版胴に捲装するようになっている。孔版マスタは、版胴内に設置されているインク供給機構からのインクを浸出させ、版胴に押し付けられる印刷用紙にインクを転移させることにより画像を転写させて印刷を行なうようになっている。
孔版印刷装置は、大量の印刷を連続的に実施する場合に1種の孔版マスタを用いるだけで印刷を実行できるので、経済的な画像転写が行える利点がある。
【0003】
ところで、インクを普通紙等の印刷用紙に転写する構成としては、図5に示す構成がある。
図5において、孔版マスタ1を周面に捲装される版胴2は、周面の一部を除いて全域に微細孔2Aが形成されており、内部(図5における上方)に配置されているインク供給機構からインクを滲出させるようになっている。版胴2の表面には、微細網目構造を有するスクリーン層3が設けられ、スクリーン層3の外表面に穿孔処理された孔版マスタ1が配置されている。
【0004】
版胴2内から滲出したインクは、版胴外周面とスクリーン層3との間に充填され、マスタ2の穿孔部を通過して印刷用紙Sの表面に転移する。
【0005】
スクリーン層3が設けられている理由は、次の通りである。
つまり、インクの均一塗布による印刷画像のムラの発生を防止して画像の再現性を高めるには、版胴2に有する微細孔2Aの径や配置ピッチを小さくしたり、あるいはメッシュ状のインク透過部の目を細かくすることが考えられる。しかし、版胴2の機械的強度を考慮した場合には、版胴2側での被加工部である微細孔の径やピッチの寸法設定に限界があり、むやみに径を小さくしたりピッチを細かくすることができない。
【0006】
版胴2におけるインク担持のための構成において、上記のような制限がある場合には、版胴の機械的強度を低下させないように、微細孔2Aの径やピッチに関してある程度の許容限度内での寸法設定をしておき、その代わりに、版胴表面にて充填されたインクを均一に分散させることができる構造を採用する必要があり、インクを均一に分散させるためには、インクを流動させる(図5における横方向)空間が必要であり、その空間は大きいほど好ましい。このために、上記のスクリーン層3が用いられる。従来では、スクリーン層3を単一層あるいは複数層に配置する構造が用いられている。
【0007】
版胴2の表面にスクリーン層3を設けた構造では、版胴2の表面と孔版マスタ1の内側面とで構成されるスクリーン層3を介在させた空間P’に対して版胴2内から滲出したインクが充填され、そのインクはさらにその空間P’に連通している孔版マスタ2の穿孔部に向け進行し、孔版マスタ2の表面に印刷用紙Sが圧接すると、印刷用紙Sに向け押し出されるようになっている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記インクの透過構造を用いた場合には、次のような問題があった。インクが充填される空間はインクを均一に分散させるために比較的広く、かなり大量のインクを充填させることが可能となる。印刷に用いられるインクの形式として、比較的蒸発しにくく粘度が高いインク(硬練りインク)を用いた場合、そのインクは流動性が悪く拡散しにくいので、インクを拡散する空間P’が必要となり、そのため空間P’内に充填される量が多くなり、その量は、インクの供給が中断された場合でも、充填された量によって数十枚、消費量が少ない場合には数百枚の印刷を実行することができるほどである。
【0009】
版胴2内から印刷用紙Sへのインク転移を行う場合には、大量のインクが上記空間P’内に充填されていることにより、印刷用紙Sを圧接させて印刷を行おうとすると、孔版マスタ1の穿孔部から引出されるインクと印刷用紙表面との接着力およびインクの表面張力により、印刷用紙S側に向け大量のインクが引出される結果となる。
【0010】
一般的に前述の孔版印刷方法においては、印刷装置を一定時間放置した後や印刷を停止した後に再度印刷を再開した場合などに、インクが蒸発することに起因して発生する印刷不良の不具合を防止するため、蒸発しにくい油性インクや油中水型エマルジョンインクが用いられるために、インクが印刷用紙Sに転移した後でも、乾燥するまでに時間がかかり、印刷用紙S内への浸透が遅いという特性も持ち合せている。このため、連続印刷するような場合には、先行して排出された印刷用紙Sに連続して後続の印刷用紙Sが排出されることが多く、この場合には、画像中のインクが乾燥しきらないうちに後続の印刷用紙Sが積載されることになる。これによって、後続の印刷用紙Sの裏面に先行の印刷用紙Sに形成されている画像中の未乾燥インクが転写され、いわゆる、裏移り現象と称される現象が発生して後続の印刷用紙Sの裏面を汚してしまうことがある。
【0011】
そこで、従来、上記空間を形成しないように、孔版マスタ1の厚さ方向の一方の面において、穿孔と違って貫通しない凹状の未貫通孔を製版処理によって形成し、その未貫通孔が位置する面を印刷用紙に対向させる構成が提案されている(例えば、特開平7ー17013号公報)。
【0012】
上記公報には、未貫通孔を形成されている側からインクを供給し、未貫通孔の深さにより充填される量を規定し、過剰なインクが印刷用紙側に転移しないようにした構成が開示されている。
【0013】
しかし、上記構成では、インクの充填量が未貫通孔の深さにより限定されてしまうので、印刷用紙側の表面の凹凸量が多く、印刷用紙表面までをインクでカバーし、凹部への埋まりの良好な画像を得るのに多くのインクを必要とする。印刷用紙に印刷する場合には、印刷用紙の接触量によって印刷用紙に転移するインクの量が不足することもあり、画像部にかすれが起き易くなったりする。
【0014】
印刷用紙への充分なインクの転移量を確保するためには、インクが充填される未貫通孔の深さを深くして充填量を多くすることが考えられる。しかし、このような構成を得るためには、孔版マスタ1の厚さを厚くする必要があり、製版に用いられる方式の一つである加熱穿孔処理の場合でいうと、加熱源に印加すべきエネルギーが多大となる。このため、加熱源を構成する部材の一つであるサーマルヘッドを用いた場合には、そのヘッドの耐久性が低下する虞がある。
【0015】
未貫通孔の深さを深くして充填量を多くした場合には、印刷用紙へのインクの転移量も増大するので、前述したように、紙の種類(例えば、凹凸の少ない紙)によっては、印刷用紙の裏移り現象を招く虞もある。
【0016】
また、従来の孔版印刷装置の版胴に捲装される孔版マスタ1は、1〜2μm程度のきわめて薄い熱可塑性樹脂が用いられている関係上、比較的曲げ剛性が低いものであるので皺になりやすい。このため、版胴内部から滲出するインクの粘着力によって版胴表面に貼り付けた状態で捲装する必要がある。例えば、先に挙げた特開平7ー17013号公報に開示されている構成とした場合、孔版マスタ1の裏面に付着するインクが無いので、印刷用紙との接触時に発生する摺擦力によって皺が発生しやすくなる。
【0017】
一方、前述したように、微細孔2Aを形成した多孔性円筒を用いてインクを版胴2の内部から表面に向け滲出させる構成の場合には、印刷用紙Sへのインクの転移時、印刷用紙Sが版胴2の表面に向け押圧されるようになっている。このため、孔版マスタ1は、押圧部材と対向したときに加圧されて圧縮変形し、押圧部材との対向関係が解除された時に元の厚さに復元されるようになっている。
圧縮変形した際には、孔版マスタ1の裏側に位置する空間P’内からインクを吐出することができ、そして元の形状に復元される時にはインクが上記空間P’内に吸込まれる。
【0018】
しかし、版胴2の微細孔(図5参照)2A以外の部分では、上述したような作用が得られるが、実際は微細孔2Aが形成されているために、孔版マスタ1が圧縮変形した際にはインクが吐出されないで版胴2内に押し戻されたり、圧縮変形が解除された場合には、体積膨張を利用した負圧化傾向が促進されないことによって版胴2内に吸込まれるのでなく、孔版マスタ1内に向け移動し、これによって、孔版マスタ1の穿孔部から外部に流出してしまうことがある。孔版マスタ1の穿孔部から外部にインクが流出してしまった場合には、前述した裏移り現象の原因となる。このように、微細孔2Aを形成した多孔性円筒を用いた版胴では、期待する作用が得られないという問題があった。
【0019】
本発明の目的は、上記従来の印刷方法における問題点に鑑み、インクの裏移りを確実に防止できる印刷方法およびそれを用いた印刷装置を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、表面に開口部などが存在しない無垢な面とされている版胴周面に捲装されている多孔質材料からなる孔版マスタに印刷用紙を圧接させ、上記孔版マスタの外側からインクを供給し、該孔版マスタ側に蓄えられたインクが該孔版マスタに形成されている穿孔部から滲出して上記印刷用紙に転移される印刷方法であって、上記インクは、上記版胴周面と上記孔版マスタ自身に有する孔部分および穿孔部を含めた空間内に充填されることを特徴としている。
【0021】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の印刷方法において、上記印刷用紙と対向する前に、上記穿孔部を除いた上記孔版マスタ表面に付着しているインクは、除去されて該孔版マスタへのインク供給位置に向けて回収されることを特徴としている。
【0022】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の印刷方法を用いる印刷装置であって、穿孔製版された多孔質材料からなる孔版マスタを外表面に捲装される外表面が開口部などが存在しない無垢な面とされている版胴と、上記孔版マスタに対して印刷用紙を圧接させる押圧部材と、上記版胴の外表面とこの外表面に対向する上記孔版マスタ自身に有する孔部分及び穿孔部を含む空間に向け上記孔版マスタの表面からインクを供給するインク供給手段とを備えていることを特徴としている。
【0023】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の印刷装置において、上記インク供給手段によりインクが供給された後に上記孔版マスタが移動する位置には、上記印刷用紙と対向する前に該孔版マスタの穿孔部以外の表面に付着しているインクを除去する手段が設けられていることを特徴としている。
【0024】
請求項5記載の発明は、請求項3または4記載の印刷装置において、上記供給手段により孔版マスタに供給されたインクは、該孔版マスタの孔部分及び穿孔部を含む空間内に充填されることを特徴としている。
【0026】
【実施例】
以下、図面に示した実施例により本発明の詳細を説明する。
【0027】
図1は、本発明実施例による印刷方法に用いられる印刷装置の一例を示す模式図であり、同図において、孔版印刷装置10は、回転軸11Aを中心にして正逆回転可能な版胴11を備えている。
版胴11は、図2に示すように、外表面が無垢の開口部が無い円筒部材であり、印刷工程実行時には時計方向に回転し、マスタを排出する場合には反時計方向に回転するように回転方向が設定されている。
【0028】
版胴11の周面には、一部に有底凹部11Bが形成され、その有底凹部11Bを除いた周面に後述するマスタが捲装されるようになっている。
【0029】
有底凹部11Bは、平坦面を備え、その平坦面には磁性体からなるステージおよびステージに対して接離自在の把持部材とからなるクランパ11Cが配置されている。クランパ11Cは、マスタの先端を把持するために設けられている。ステージにはマスタの先端が載置でき、ステージ上に先端を載置されたマスタは、ステージと把持部材とにより挟持されるようになっている。マスタの先端以外の範囲は、後述するインク供給手段であるインク供給機構から供給されて版胴11の表面に付着しているインクの粘着力によって版胴表面に付着するようになっている。
【0030】
版胴11の時計回り方向の回転方向に沿って、図示するように、上流側から製版装置12、インク供給機構13、給紙装置14およびプレスローラ15がそれぞれ配置されている。
【0031】
製版装置12は、芯材に対してロール状に巻かれて順次繰り出し可能なマスタ12Aに対して原稿情報に応じた穿孔処理を行うことで製版を実行するためのものであり、サーマルヘッド12B、プラテンローラ12C、搬送ローラ対12D、裁断装置であるカッタ12Eおよびマスタガイド12Fが備えられている。
【0032】
マスタ12Aは、1〜2μm程度の厚さを有するポリエステル等の熱可塑性樹脂フィルム12A1に対して多孔質弾性体からなる多孔性支持体12A2を貼り付けてラミネート構造としたものが用いられる。多孔性支持体の材料としての多孔性弾性体としては、マニラ麻や亜痳等の天然繊維、あるいはポリエステル、ナイロン、ビニロン等の合成繊維、レーヨン等の再生繊維、半合成繊維、無機繊維からなる不織布やメッシュスクリーン、ポリエステル、ナイロン、ビニロン等の合成繊維、レーヨン等の再生繊維、半合成繊維、無機繊維、若しくは、ステンレス、鉄、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン等の金属繊維を網目状に交差させて形成したメッシュスクリーン、ポリエステル、ナイロン、ビニロン等の合成繊維、レーヨン等の再生繊維、半合成繊維、無機繊維を焼結させて作成した焼結シート、ポリビニルアセタール系またはポリビニルアルコール系の連続気泡を有する多孔質弾性体、硬質粒子とゴムの混和した連続気泡を有する多孔質弾性体、ポリウレタン等の合成樹脂や無機質の微粉末を焼結した多孔質弾性体、ポリウレタン等の液状焼結による多孔質弾性体、または、多孔質ゴム等の多孔質弾性体からなるもの等によって構成された多孔質支持体が用いられることもある。
【0033】
ロ−ルから繰り出されたマスタ12Aは、サ−マルヘッド12Bに対してプラテンロ−ラ12Cによって押圧され、サ−マルヘッド12Bの発熱素子が選択的に発熱させられることにより主走査方向および副走査方向の領域で厚さ方向に貫通する孔が穿たれる。この場合の主走査方向は、プラテンローラ12Cの軸方向であり、副走査方向は主走査方向と直角でマスタ12Aの繰り出し方向に相当している。
サーマルヘッド12Bは、図示しない製版穿孔制御部からの駆動信号を用いた通電制御により発熱素子の走査方向で発熱位置が選択されてマスタ12A(以下、孔版マスタ12Aと称し、穿孔処理前のマスタと区別する)の穿孔処理が行えるようになっている。
【0034】
プラテンローラ12Cは、図示しないステッピングモータなどを駆動源として備え、段階的な回転を行うことによって孔版マスタ12Aをその副走査方向に給送することができるようになっている。
孔版マスタ12Aの繰り出し方向(図示矢印方向)におけるプラテンローラ12Cの後方(下流側)には、孔版マスタ12Aを挟持搬送することが可能な搬送ローラ対12Dが配置されている。搬送ローラ対12Dは、トルクリミッタ(図示されず)を介して上記ステッピングモータに連動することができ、プラテンローラ12Cにより設定される孔版マスタ12Aの搬送速度よりも僅かに速い搬送速度が得られる回転速度を設定されている。これにより、孔版マスタ12Aは、プラテンローラ12Cと搬送ローラ対12Dとの速度差によってサーマルヘッド12Bに当接する位置から搬送ローラ対12Dに挟持される位置までの範囲でトルクリミッタにより予め設定された張力が付与され、プラテンローラ12Cによってサーマルヘッド12Bに押圧される位置での弛みや皺などの発生を抑止されるようになっている。
穿孔処理が終了した孔版マスタ12Aは、カッター12Eにより必要長さに裁断され、版胴11の接線方向に給送されて上記したクランパ11Cにより先端を把持固定されるようになっている。カッター12Eの構成としては、図1に示すように、孔版マスタ12Aの搬送路上に位置する固定刃に対して昇降可能な移動刃を有するギロチンタイプや固定刃に対して回転可能な回転刃を有するローリングタイプなどが用いられる。必要長さに裁断された孔版マスタ12Aは、マスタガイド12Fによって版胴11上に繰り出され、その先端がクランパ11Cによって把持される。なお、穿孔製版に用いられる機構としては、上記したサーマルヘッドによる加熱穿孔に代えて、フラッシュ製版や放電製版等を用いることもできる。
【0035】
版胴11の外周面の近傍には、版胴11の外側にインク供給手段を構成するインク供給機構13が配置され、また、インク供給機構13は、版胴11の外周面から接離可能に設けられている。
【0036】
インク供給機構13は、版胴11の外周面と当接するインクローラ13Aと、ブレード13Eとインクローラ13Aとの間に間隔をもって配置されるドクターローラ13Bとを主要部として備えている。
インクローラ13Aは、インク供給管13Cの下方に位置する金属ローラであり、図示しないギヤやベルト等の駆動力伝達手段によって回転力が伝達され、版胴11の周速度と同期した速度で回転するようになっている。
【0037】
ドクターローラ13Bによって担持量を規定され、表面にて均一な層状にされているインクを担持可能なインクローラ13Aは、版胴11の外表面に捲装されている孔版マスタ12Aの外側から接触することができ、接触することによってインクを供給できるようになっている。
【0038】
インクローラ13Aとドクターローラ13Bとの間の間隔によって設定されるインクローラ13A上でのインクの担持量は、版胴11および孔版マスタ12Aの穿孔部を含めた空間内に充填できる量に多少の余裕を見込んだ量に設定されるようになっている。空間内に充填される量は、1枚の印刷用紙Sに画像を印刷できる量に相当させてある。
【0039】
インクローラ13Aとドクターローラ13Bとで構成される楔状空間部はインク溜り13Dとされており、その部分には、インク供給管13Cに形成されている吐出部から滴下するインクが溜るようになっている。
【0040】
インク供給機構13には、版胴11の時計回り方向の回転方向において、インクローラ13Aを通過した版胴11の表面に当接可能なインク除去手段をなすブレード13Eが設けられており、孔版マスタ12Aの外側から供給されたインクのうちで孔版マスタ12Aの穿孔部以外(非画像部)に付着しているインクを除去するようになっている。この場合の穿孔部以外とは、主に孔版マスタ12Aの表面が該当しており、表面に付着しているインクが除去される。これにより、インクローラ13Aから供給されるインクは、図2に示すように、孔版マスタ12Aの穿孔部、版胴11の外表面とその面に対向する孔版マスタ12Aの面とで構成される空間P内にのみ充填されることになる。孔版マスタ12Aの穿孔部を含めた上記空間Pに充填されるインクの量は、1枚の印刷用紙への印刷が行える量に相当させてある。
【0041】
孔版マスタ12Aと対向する先端以外に相当するブレード13Eの一部は、インクローラ13Aの周面との間でインクの通過を許容することができる隙間をもって対向している。これにより、インクローラ13Aの回転力を利用して孔版マスタ12A上から除去したインクをインク溜り13Dに向け回収することができるようになっている。
【0042】
給紙装置14は、版胴11の時計方向の回転においてインク供給機構13の後方に位置し、印刷用紙Sを収容している給紙カセット(図示されず)と、カセット内の印刷用紙Sを繰り出す給紙ローラ(図示されず)とレジストローラ14Aとを備えている。
給紙装置14では、給紙カセット内から繰り出された印刷用紙Sがレジストローラ14Aによって給紙タイミングを設定された上で版胴11と後述するプレスローラ15とが接触する画像転写位置に向け印刷用紙Sが給送される。
【0043】
プレスローラ15は、版胴11に対して接離可能に設けられているローラであり、給紙装置14から印刷用紙Sが給送されてくると、その印刷用紙Sが画像転写位置に達する時期にタイミングを合せて版胴11に向け接触する方向に変位し、給送されてきた印刷用紙Sを版胴11上の孔版マスタ12Aの表面に向け押圧することができるようになっている。なお、プレスローラ15としては、版胴11と同径の圧胴を代用することも可能である。
【0044】
なお、図示はしてないが、版胴11の図中、縦方向の中心線を挟んでインク供給装置13と対向する位置には、排版装置が設けられており、この排版装置は、版胴11に対して接離可能な回収部材と、回収部材によって版胴11上から剥離された孔版マスタを収容する排版ボックスとを主要部として備えている。排版装置が作動する場合には、版胴11の回転方向が孔版マスタ捲装時と逆方向に設定される。
【0045】
本実施例は以上のような構成であるから、いま、印刷の手順を説明すると次の通りである。
【0046】
まず、印刷を行うにあたり、孔版印刷装置10では、印刷しようとする原稿が図示しない原稿載置部にセットされ、図示しない操作部において製版開始指令を出すべく製版スタートスイッチが操作される。
製版スタートスイッチが操作されると、孔版印刷装置10では、排版処理が実行される。排版処理には、排版装置が用いられる。
【0047】
排版装置では、版胴11が印刷時とは逆方向に回転方向を設定されて回転するのに合わせて回収部材が版胴11の表面に当接し、版胴11上の孔版マスタ12Aを剥離する。剥離された孔版マスタ12Aは、回収ボックスに導入される。続いて、インクローラ13Aを版胴11の外周面に当接させ、版胴11表面にインク層を形成する。このインク層の粘着力で孔版マスタ12Aを捲装しても孔版マスタ12Aのずれを防止し、印刷中の皺発生を防ぐ。
【0048】
次に版胴11は、有底凹部11Bを、図1中で真上にした状態で回転を停止し、クランパ11Cが開放されて給版待機状態とされる。
【0049】
排版処理に引き続いて図示しない原稿読み取り部において、原稿画像の読み取りが行われる。読み取り部では、図示しないCCD等の読み取り素子によって原稿内容を電気信号に変換し、画像情報として製版制御部に出力される。
【0050】
製版制御部では、画像情報に対応した穿孔処理を行うために、製版装置12に装備されているサーマルヘッド12Bの各発熱素子に対してパルス状の通電制御を行い、孔版マスタ12Aに対して熱溶融による穿孔形成を行うようになっている。孔版マスタ12Aへの穿孔処理では、孔版マスタ12Aの厚さ方向を貫通する孔が穿たれる。
【0051】
製版処理に際しては、孔版マスタ12Aがロール部から繰り出され、サーマルヘッド12Bとプラテンローラ12Cとが当接している位置に達することで加熱溶融穿孔処理が実行され、穿孔が形成された孔版マスタ12Aがプラテンローラ12Cの回転量に基づいてカッタ12Eに達した時点で裁断され、版胴11に向け給送される。
【0052】
版胴11に向け給送される孔版マスタ12Aは、プラテンローラ12Cの回転量により先端がクランパ11Cに達した時点でクランパ11Cにより先端を把持されて固定される。
【0053】
版胴11は、孔版マスタ12Aの先端を把持した時点から回転を始め、その表面に孔版マスタ12Aが捲装される。なお、孔版マスタ12Aの先端把持に先立ち、版胴11に対してインク供給機構13のインクローラ13Aによって均一膜厚でインクが塗布され、そのインクを孔版マスタ12Aの先端以外の領域の貼着に用いる。これにより、先端を把持固定された孔版マスタ12Aは、版胴11の回転に伴い先端以外の領域をインクによって版胴11の表面に粘着され、印刷中の孔版マスタ12Aのずれを防止する。なお、プラテンローラ12Cおよび搬送ローラ対12Dは、プラテンローラ12Cの回転量によって孔版マスタ12Aが版胴11に捲装され終わったことを判断された場合に回転を停止するようになっている。
【0054】
孔版マスタ12Aが版胴11に向け繰り出され、版胴11の表面に捲装され終わると、印刷処理が実行される。
【0055】
印刷処理は、図示しない操作部に装備されている印刷スタートキーが操作されることにより開始される。
印刷処理に際しては、版胴11の表面に位置する孔版マスタ12Aにインク供給機構13のインクローラ13Aが当接すると共に、インク供給管13Cからのインクの供給が開始される。これにより、インク溜り13Dに溜るインクは、ドクターローラ13Bによってインクローラ13Aの表面での担持量が規定され、孔版マスタ12Aの表面から穿孔部を介して版胴11の表面と孔版マスタ12Aの対向面との間の空間P内に押し込まれて供給される。
【0056】
インクローラ13Aを通過した孔版マスタ12Aの表面には、インクローラ13Aから供給されたにも拘らず上記空間P内に充填されなかったインクが表面に付着している。
【0057】
孔版マスタ12Aの表面に供給されて付着しているインクは、インク供給機構13に装備されているブレード13Eによって除去される。
【0058】
図3は、この状態を示しており、同図において、表面にインクローラ13Aから転移したインクを付着させている孔版マスタ12Aは、ブレード13Eに対向した時点で孔版マスタ12Aの表面に付着しているインクが除去される。これにより、インクは、無垢な面を有する版胴11の表面とこれに対向する孔版マスタ12Aの面との間で、多孔質弾性体からなる多孔性支持体12A2によって形成される空間Pおよび孔版マスタ12Aの穿孔部12A1’に充填され、1枚の印刷用紙Sに対する印刷処理が実行できる量に設定されたことになるので、印刷用紙Sに転移した場合に過剰なインクが存在するような事態の発生が防止される。
【0059】
孔版マスタ12Aの表面からブレード13Eによって除去されたインクは、インクローラ13Aとブレード13Eとの対向位置に有する隙間を通過してインク溜り13Dに回収される。
【0060】
このようにして版胴11に捲装されている孔版マスタ12Aに対するインクの供給が行われると、給紙装置14(図1参照)から繰り出された印刷用紙Sがレジストローラ14Aにより、孔版マスタ12Aの画像領域と印刷用紙S側の画像転写領域とを整合させるタイミングをもって版胴11の画像転写位置に向け給送される。
【0061】
印刷用紙Sが版胴11における画像転写位置に向け移動するタイミングをもってプレスローラ15が版胴11に向け移動し、孔版マスタ12Aの表面に当接する。これにより、印刷用紙Sは、プレスローラ15によって押圧された状態で孔版マスタ12Aの表面に圧接することができる。
【0062】
図4は、画像転写時での状態を示しており、同図において、プレスローラ15により印刷用紙Sが押圧されると、孔版マスタ12Aの多孔質支持体からなる多孔性支持体12A2が圧縮変形する。このとき、穿孔部12A1’を含む孔版マスタ12Aと版胴11との間(多孔性支持体内)で構成されている空間Pは多孔性支持体12A2が圧縮されることによって体積が縮小されるので、その空間P内に充填されていたインクが孔版マスタ12Aの穿孔部12A1’から外側に向け吐出される。これにより、印刷用紙Sには、孔版マスタ12Aの穿孔部12A1’から吐出されたインクが転移し、画像が転写されることになる。
【0063】
一方、印刷用紙Sがプレスローラ15との対向位置を外れ始めることによりプレスローラ15による押圧が解除されるので、多孔性支持体12A2は元の厚さを有する形状に復帰し始める。このとき、版胴11の外表面と穿孔部12A1’を含んで版胴11の外表面に対向する孔版マスタ12Aの面とで構成されている空間Pは、多孔性性支持体12A2の形状復帰によって体積膨張を起こし、空間P内が負圧化傾向とされる。これにより、印刷用紙Sに対するインクの表面張力によって印刷用紙Sに付着している必要なインク以外の過剰インクは孔版マスタ12Aの穿孔部12A1’から空間P内に吸い戻す作用が働き、印刷用紙Sに体するインクの表面張力によって孔版マスタ12Aの穿孔部12A1’から過剰量のインクが転移するのを防止する。つまり、印刷用紙Sに供給されるために充填されているインクは、穿孔部12A1’を除く弾性閉空間内に充填されているので、その空間P内の体積変化に応じて吐出および吸い戻しされる。
【0064】
孔版マスタ12Aの穿孔部12A1’を介して吐出されるインクは、1枚の印刷用紙Sに対する画像転写が可能な量であるので、過剰に存在することがない。版胴11に対するプレスローラ15による圧接によってインクを転移された印刷用紙Sは、図示しない剥離手段によって版胴11上の孔版マスタ12A表面から剥離され図示しない搬送装置を介して装置外に排出される。
【0065】
孔版印刷装置による印刷処理回数が複数回設定されている場合には、給紙装置14におけるレジストローラ14Aを介して版胴11上の孔版マスタ12Aに対して印刷用紙Sが繰り出され、上記したと同じ手順により印刷が繰り返される。
【0066】
印刷処理回数が設定回数、つまり設定された印刷枚数に一致すると、インクローラ13Aが版胴11から離れ、孔版マスタ12Aとの接触を解除される。
【0067】
本実施例によれば、インクローラ13Aが孔版マスタ12Aの表面に接触したときに供給されるインクのうちで、空間P内以外の部分に付着したインクがブレード13Eによって除去回収されるので、印刷用紙Sに孔版マスタ12Aが圧接した際に非画像部にインクが転移することがなく、印刷用紙Sの画像転写面の汚れの発生を防止することができる。
【0068】
なお、上記実施例では、孔版マスタ12Aの構成として、熱可塑性樹脂と多孔性支持体とを組み合わせた構成を用いたが、多孔性支持体を有しないで実質的に熱可塑性樹脂のみからなる孔版マスタとすることも可能である。この場合には、上記実施例で説明した表面が無垢な開口部が無い版胴11の外表面に多孔性支持体を巻き付ける構成とすることにより、同様な作用効果が得られる。さらに、孔版マスタの構成としては、孔版マスタ自身が熱可塑性樹脂からなるもののみでなく、熱可塑性樹脂フィルムに帯電防止剤や熱融着防止剤等の微量成分を含有させたもの、あるいは、熱可塑性樹脂フィルムの表面および裏面のうちの少なくとも一方に、オーバーコート層等の薄膜層を単一若しくは複数層形成したものとすることも可能である。上記熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエステル(好ましくは共重合ポリエステル)系、ナイロン(好ましくは共重合ナイロン)系、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、塩化ビニル系、アクリル酸誘導体系、エチレン、ビニルアルコール系、ポリカーボネイト系重合体等が挙げられ、その厚みとしては、好ましくは0.5μm〜10μm、より好ましくは、1μm〜5μmである。
【0069】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によれば、インクが版胴の外表面および穿孔部を含む孔版マスタの内面とにより構成される空間P部内にのみ充填するようにしたので、1枚の印刷用紙に供給可能な量に設定することができ、過剰なインクが残留することにより発生する過剰インクの転移を防止して印刷用紙でのインクの乾燥を遅らせないようにして裏移りの発生を防止することが可能になる。特に、孔版マスタに対して印刷用紙が押圧および押圧解除された時点で生起される空間部の体積変化によってインクの吸排動作が行えるので、インクの供給と回収との2つの機能を持ち合わせることができる。これにより、過剰インクをなくして印刷用紙に転移したインクが他の印刷用紙の裏面に転移するような事態を防止することが可能になる。さらに、表面に開口部が無く無垢な版胴の外周面で多孔性支持体のインク流路を密閉しているので、加圧時では、版胴の表面と印刷用紙表面で多孔性支持体を厚さ方向に圧縮し、多孔性支持体内に充填されているインクをマスタ内から吐出させ、そのインクを印刷用紙内部(繊維の空間)に押し込み、さらに、押圧が解除されて多孔性支持体の厚さが復元する時には、版胴表面とインクとの粘着力で吸い戻す作用が働き、過剰インクを吸い戻す。このように、多孔性支持体における吐出や吸い戻しの作用を効果的に発揮することができる。しかも、印刷用紙の種類に拘らず、インクの供給量を1枚の印刷が行える量に一定化することができるので、吸水性のよい印刷用紙を用いた場合にインクが印刷用紙の裏面にまで浸透することが原因して起こるインクの裏抜けを防止することができ、これによって、印刷用紙を浸透して他の印刷用紙に転移するという不具合も解消することが可能になる。孔版マスタの厚さ変化によるインクの吸排動作により、インクの押し出しおよび吸い戻しが行えるので、比較的凹凸が多い面を持つ印刷用紙に対しても、インクの押出しによって画像部でのインクの埋まり具合が改善されるので、良好な画像再現性を有する印刷が可能になる。
請求項2記載の発明によれば、上記印刷用紙と対向する前に、上記穿孔部を除いた上記孔版マスタ表面に付着しているインクは、除去されて該孔版マスタへのインク供給位置に向けて回収されるので、孔版マスタの穿孔部以外の面に付着したインクが1枚の印刷用紙に必要な量以上となるのを防止できると共に、再供給することが可能となる。
【0070】
請求項3乃至5記載の発明によれば、上述したように良好な画像再現性を有する印刷が可能になることはもちろん、版胴と穿孔部を含むマスタとによりインクが充填される空間を形成できるので、その空間に充填されるインクの量を1枚の印刷用紙への供給量とすることによって必要最小限のインクの量とすることができ、過剰インクの存在による印刷用紙への裏移り現象をなくすことが可能になる。特に、上記空間以外に付着しているインクが除去できるので、非画像部の汚れ防止を確実に行うことができる。しかも、印刷のための構造として、版胴とマスタのみで構成することができ、インクを分散させるために従来用いられていたスクリーン層を不要にして装置のコストを下げることが可能になる。さらに、マスタフィルム下にインク蓄積部分(多孔性支持体)を有するので、厚手のマスタフィルムに深い未貫通孔を製版する必要がなく、薄いフィルムに製版するだけで良いので、製版時に大きなエネルギーを必要とせず、製版手段(例えばサーマルヘッド)の耐久性が著しく増加する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施例による印刷方法を適用するための孔版印刷装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】図1に示した孔版印刷装置に用いられる版胴と孔版マスタとの位置関係を説明するための模式的な断面図である。
【図3】図1に示した孔版印刷装置における版胴、孔版マスタおよびインクローラ、ブレードの関係を説明するための局部的な模式図である。
【図4】図1に示した孔版印刷装置における版胴、孔版マスタおよび印刷用紙との関係を説明するための局部的な断面図である。
【図5】従来の孔版印刷における版胴、孔版マスタおよび印刷用紙との関係を説明するための局部的な断面図である。
【符号の説明】
10 孔版印刷装置
11 版胴
12 製版装置
12A 孔版マスタ
13 インク供給手段であるインク供給機構
13A インクローラ
13E ブレード
14 給紙装置
15 押圧手段をなすプレスローラ
P、P’ 空間
S 印刷用紙
Claims (5)
- 表面に開口部などが存在しない無垢な面とされている版胴周面に捲装されている多孔質材料からなる孔版マスタに印刷用紙を圧接させ、上記孔版マスタの外側からインクを供給し、該孔版マスタ側に蓄えられたインクが該孔版マスタに形成されている穿孔部から滲出して上記印刷用紙に転移される印刷方法であって、
上記インクは、上記版胴周面と上記孔版マスタ自身に有する孔部分および穿孔部を含めた空間内に充填されることを特徴とする印刷方法。 - 請求項1記載の印刷方法において、
上記印刷用紙と対向する前に、上記穿孔部を除いた上記孔版マスタ表面に付着しているインクは、除去されて該孔版マスタへのインク供給位置に向けて回収されることを特徴とする印刷方法。 - 請求項1または2記載の印刷方法を用いる印刷装置であって、
穿孔製版された多孔質材料からなる孔版マスタを外表面に捲装される外表面が開口部などが存在しない無垢な面とされている版胴と、
上記孔版マスタに対して印刷用紙を圧接させる押圧部材と、
上記版胴の外表面とこの外表面に対向する上記孔版マスタ自身に有する孔部分及び穿孔部を含む空間に向け上記孔版マスタの表面からインクを供給するインク供給手段とを備えていることを特徴とする印刷装置。 - 請求項3記載の印刷装置において、
上記インク供給手段によりインクが供給された後に上記孔版マスタが移動する位置には、上記印刷用紙と対向する前に該孔版マスタの穿孔部以外の表面に付着しているインクを除去する手段が設けられていることを特徴とする印刷装置。 - 請求項3または4記載の印刷装置において、
上記供給手段により孔版マスタに供給されたインクは、該孔版マスタの孔部分及び穿孔部を含む空間内に充填されることを特徴とする印刷装置。
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