JP3954722B2 - 印刷装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、マスタを外周面に巻き付ける版胴と、この版胴の外径と略同径の圧胴とを具備し、用紙を介して版胴に対して圧胴を相対的に押し付けて印刷を行う孔版印刷装置等の印刷装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から次に述べるような感熱デジタル式の孔版印刷装置が知られている。この孔版印刷装置では、熱可塑性樹脂フィルム(厚みは大体1〜2μm程度のものが一般に用いられる)に、多孔質支持体としての和紙繊維とか合成繊維、あるいは和紙と合成繊維とを混抄したものを貼り合わせたラミネート構造の感熱孔版マスタ(以下、単に「マスタ」という)を用いて、このマスタのフィルム面をサーマルヘッドの発熱素子に接触させ、サーマルヘッドを主走査方向に作動させてマスタを加熱・穿孔製版し、搬送手段としてのプラテンローラ等でマスタを上記主走査方向と直交する副走査方向に移動させながら穿孔製版したマスタを、多孔性の支持円筒体に樹脂あるいは金属網体のメッシュスクリーンを複層巻装した構成の回転自在な版胴の外周面に巻装し、版胴内部に配設されたインキ供給部材により版胴の内周面にインキを供給し、版胴上のマスタに対してプレスローラ等の押圧手段で用紙を連続的に押し付けて、版胴の開孔部分、マスタの穿孔部分よりインキを滲み出させて印刷を行っている。
【0003】
上記したような感熱デジタル式の孔版印刷装置では、製版、印刷、排版が自動的に行われる全自動タイプの孔版印刷装置が主に用いられている。このような全自動タイプの孔版印刷装置では、印刷すべき原稿が読み取り装置にセットされると、読み取り装置のスキャナ部(CCD(電荷結合素子)等の光電変換素子からなる画像センサを用いて画像の濃淡を電気信号に変換する)で原稿の画像を読み取り、サーマルヘッドおよびプラテンローラ等の製版手段を備えた製版装置でマスタとその発熱素子とを接触させながら搬送し、画像信号に応じて発熱素子にパルス状に通電することでマスタを加熱・穿孔製版し、上記の版胴の外周面に自動的に巻装し、この版胴上のマスタに用紙を給送してプレスローラ等の押圧手段で用紙を連続的に押圧することで印刷が行われる。
【0004】
上記孔版印刷装置では、用紙を版胴上のマスタに押圧してそのマスタの穿孔部分より滲み出たインキを用紙に転移させて印刷を行っており、版胴からの用紙の剥離には、用紙自体の腰を利用して用紙の先端部を版胴表面より浮き上がらせ、排紙爪と呼ばれる剥離手段を版胴と用紙の先端部との間にできた隙間に挿入することで行っている。
【0005】
上述したように、孔版印刷装置では、用紙の腰による浮き上がりでできる用紙と版胴の外周面との間の隙間に排紙爪を挿入させることで剥離を行っているので、用紙先端部にベタ画像部分とかが多い原稿での印刷の場合などに、用紙先端部が版胴に貼り付いたまま剥離手段で剥離できずジャムになる、俗に言う排紙の巻き上がりが発生するという不具合があった。このような排紙巻き上がりは、印刷速度が低速の場合や、インキの流動性のよくなる高温環境下で使用する場合などにおいて、インキが版胴より大量に滲み出し、インキの粘性による粘着力によって用紙が版胴に貼り付きやすくなり、特に発生しやすくなってしまう。
【0006】
そこで、この排紙巻き上がりを低減し防止するために、押圧手段としてのプレスローラに代えて、版胴と略同径で、用紙の先端を挾持しながら版胴の周速度と略同周速度で版胴と反対方向に回転する圧胴(あるいはプレッシャ胴)を用いて、用紙の先端部を強制的に版胴の外周面より剥離しながら印刷を行う方式が試されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来のプレスローラ方式での版胴の外周面への押圧は、小径のプレスローラで版胴の開孔部前縁部分(版胴の開孔部における回転方向の下流側部分)より接触を開始し、インキの流出を防止する堰要素が設けられた開孔部後縁部分(版胴の開孔部における回転方向の上流側部分)を過ぎた位置で離間するように構成されている。プレスローラ方式における用紙に対する印刷画像位置を変える天地移動方式としては、天地移動手段の一つでもあるレジストローラ対の回転タイミングを変えることにより、版胴の外周面とプレスローラとの間への用紙の挿入タイミングを可変する方式が一般的に用いられている。
【0008】
一方、押圧手段として圧胴を用いて用紙に対する印刷画像位置を変える場合には、版胴と圧胴との位相を相対的に変えて行っていた。例えば、印刷画像を用紙の後端寄りにする場合には、圧胴に対して版胴を後側に移動させ(版胴の位相を回転方向の上流側に遅らせ)、印刷画像を用紙の先端寄りにする場合には、上記とは逆に圧胴に対して版胴を前側に移動させ(版胴の位相を回転方向の下流側に進ませ)ることによって行われる。版胴に対して圧胴の方を移動させても、上記版胴の移動の場合と逆方向に印刷画像位置が変わるだけであり、天地移動機能としては版胴または圧胴の何れを移動させて(位相を変えて)も同じである。
【0009】
従来のプレスローラ方式では、その周面に非接触部分が無いので、プレスローラが版胴の開孔部より接触を開始してもインキがその接触点より前方(版胴の開孔部における回転方向の下流側先端)側に漏れ出してしまう、いわゆるインキの前漏れは発生しなかった。
【0010】
しかしながら、図6に示すように、圧胴14は、版胴1の外周面と接触する接触外周面14bと、接触外周面14bよりくぼんで版胴1の外周面と接触しない非接触部としての凹部14dとを有している。また、圧胴14には用紙(図示せず)の先端部を挾持する平面部からなる挾持傾斜面14cが設けられているので、圧胴14の接触外周面14bと挾持傾斜面14cとの境には、圧胴14の一つの母線に沿ってエッジ部分14eが形成されることになり、このエッジ部分14eから圧胴14に挾持された用紙を版胴1の外周面に接触させて印刷が行われる。図6において、符号1は版胴を、符号8は版胴1の外周面に巻装されたマスタを、符号1aは版胴1に設けられているインキ通過性領域である開孔部を、符号1bはインキ不通過性の領域である非開孔部を、それぞれ示す。また、符号1aaはインキを通過させるための小さな開孔を示し、複数の開孔1aaは、これらの内部にインキが充填された黒塗色状態で表されている。また、符号1Aは開孔部1aの先端を示している。
【0011】
このような構造の圧胴14や、版胴1に配設されているマスタの先端部を係止するクランパ((図示せず))等の突出部分との干渉を避ける非接触部を有する圧胴が、上記したような天地移動操作によって版胴1の開孔部1aから接触を開始してしまう場合には、圧胴14の接触外周面14bと、圧胴14の挾持傾斜面14cあるいは上記非接触部から立ち上がった非接触面とが交わるエッジ部分14eやエッジ(図示せず)から版胴1の外周面と接触を開始するようになり、接触外周面14bよりくぼんだ挾持傾斜面14cや上記非接触面等の部分には、版胴1の外周面と接触しないためインキを版胴1の開孔部1aよりその内部に押し戻す力が作用せず、エッジ部分14e等の押圧動作によって版胴1の内周面より押し出されたインキが漏れインキ33として溜ってしまう、いわゆるインキの前漏れが発生してしまう問題があった。
【0012】
また、圧胴方式において大量に印刷を行う場合には、インキの溜り量も多くなり、次の着版時に廃棄される使用済みのマスタにそのインキが大量に付着してそのマスタと共にその大量のインキも廃棄されるので、インキの無駄が発生するという問題がある。また、大量に溜ったインキを次の着版時に圧胴で押圧すると、インキが版胴内に戻れきれずに、版胴とマスタとの間を版胴の回転中心軸線方向に広がって押し出され、印刷物とか圧胴の表面、あるいは版胴回転時に飛散し装置内を汚損するという問題もあった。しまいには、用紙の先端部を挾持するクワエ爪と呼ばれている挾持部材と上記した前漏れインキで膨らんだマスタとが接触してマスタが破れ、漏れ出したインキで挾持部材や用紙が汚れたり、また、上記したような汚染をさせないまでも、インキが局部的に溜っているので、押圧時にインキ量がその部分だけ多くなり画像濃度むらが発生するという問題もあった。
【0013】
したがって、本発明は上述したような問題点を解決するためになされたものであり、版胴の外周面における圧胴の接触開始点との前方に押し出されて発生するインキ溜り(前漏れ)を防止でき、インキ飛散等による汚損を防止すると共に、インキの無駄のない、画像濃度むらのない良好な印刷画像の得られる印刷装置を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上述した目的を達成するために、請求項1記載の発明は、製版されたマスタを外周面に巻き付ける版胴と、この版胴の内周面にインキを供給するインキ供給手段と、上記版胴の外径と略同径の圧胴とを有し、用紙を介して上記版胴に対して上記圧胴を相対的に押し付けて印刷を行う印刷装置において、上記圧胴は、上記版胴の外周面と接触する接触外周面と、この接触外周面よりくぼんだ非接触部と、上記圧胴の接触外周面と上記非接触部とが交わるエッジ部分とを有し、上記圧胴の接触外周面と上記版胴の外周面とが接触し始める接触開始点である上記圧胴のエッジ部分から上記圧胴の回転方向の上流側における上記接触外周面に沿った弦の長さの2〜5mmまでの距離範囲に設定された接触開始部分の上記版胴の外周面に対する接触圧を、上記接触開始部分を除いた上記接触外周面の上記版胴の外周面に対する接触圧と比べて低減させた状態で接触を開始することを特徴とする。
【0015】
ここで、「用紙を介して上記版胴に対して上記圧胴を相対的に押し付けて印刷を行う印刷装置」には、版胴に対して圧胴を押し付けて印刷を行う圧胴接離方式と、圧胴に対して版胴を押し付けて印刷を行う版胴接離方式と、それらの併用方式とがある。圧胴接離方式の具体例としては、例えば特開平9−216448号公報の図1ないし図5等に示されている圧胴およびその接離手段が挙げられる。一方、版胴接離方式には、版胴が圧胴側へ移動(版胴内部のインキローラが圧胴側へ突出するタイプも含む)して印刷を行う周知のものが挙げられる。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の印刷装置において、上記圧胴の接触外周面と上記版胴の外周面とを接離させるための、カムを備えた接離手段を具備し、上記接触開始部分の接触圧を低減させる状態は、上記カムの形状により設定されることを特徴とする。
【0017】
ここで、「上記圧胴の接触外周面と上記版胴の外周面とを接離させるためのカムを備えた接離手段」には、上記カムの作用を介して、版胴側を変位させることによりその外周面を圧胴の接触外周面に対して接離させる手段(後述する第1の実施形態参照)と、圧胴側を変位させることによりその接触外周面を版胴の外周面に対して接離させる手段(例えば特開平9−216448号公報の図1および図2に示されている接離手段70参照)と、版胴側および圧胴側を共に変位させることにより圧胴の接触外周面と版胴の外周面とを互いに接離させる手段とが含まれる。
【0019】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の印刷装置において、上記接触開始部分の接触圧が、上記接触開始部分を除いた上記接触外周面の上記版胴の外周面に対して加えられる最大の接触圧の10〜30%の範囲内に設定されていることを特徴とする。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、図を参照して実施例を含む本発明の実施の形態(以下、単に「実施形態」という)を説明する。各実施形態等に亘り、同一の機能および形状等を有する構成部品等については、同一符号を付すことによりその説明をできるだけ省略する。図において一対で構成されていて特別に区別して説明する必要がない構成部品は、説明の簡明化を図る上から、その片方を適宜記載することでその説明に代えるものとする。
【0021】
図1ないし図5に、本発明の第1の実施形態を示す。図1に、印刷装置の一例としての孔版印刷装置を示す。この孔版印刷装置は、図1に示すように、製版されたマスタ(図示せず)を外周面に巻き付ける多孔性円筒状の版胴1と、この版胴1の内部に配置され版胴1の内周面にインキを供給するインキ供給手段50と、版胴1の右上方に配設された製版装置40と、版胴1の右下方に配設された排紙装置60と、版胴1の下方に配設され版胴1の外径と略同径の圧胴14と、図3に示すように、版胴1の外周面を圧胴14の接触外周面14bに対して接離させるための接離手段70と、図4に示すように、圧胴14の接触外周面14bと版胴1の外周面とが接触し始める接触開始部分Bの接触圧を低減させる接触圧低減手段80とを具備している。
【0022】
版胴1は、内周面を形成する多孔性の支持円筒体と、その外周面を覆うように巻装された複数層の樹脂あるいは金属網体のメッシュスクリーンとを有し、後述するインキパイプを兼ねる中心軸5の周りに回転可能に支持された端板に固定されている。版胴1は、図5に示すように、モータ41により天地移動装置38を介して駆動力を伝達され、反時計回り方向に回転される。版胴1には、クランプ手段35及びその周辺部と両側縁部とを除く他の部分が形成されているインキ不通過性の非開孔部1bと、インキを通過させるための小さな開孔1aa(図4に示す)を多数開けられた開孔部1aとがそれぞれ設けられている。なお、図4では開孔1aa内部にインキが充填された黒塗色部分とハッチングを施した領域とからなる領域で示されている。上記メッシュスクリーンの図示は、全図において省略している。
【0023】
クランプ手段35は、上記支持円筒体の外周面の母線に沿って設けられた強磁性体よりなるステージ6と、このステージ6に対向する部位に配置され、クランパ軸により揺動可能に支持され、ステージ6と対向する面に磁石を貼着されたクランパ7とにより構成されている。
【0024】
インキ供給手段50は、版胴1の内周面にインキを供給するインキローラ2と、インキローラ2と僅かな間隙を置いて平行に配置され、インキローラ2との間に楔状のインキ溜り4を形成するドクターローラ3と、インキ溜り4へインキを供給する中心軸5を兼ねるインキパイプ5とを有している。インキローラ2、ドクターローラ3は、中心軸5に固定された側板にそれぞれ回転自在に支持されている。
【0025】
インキローラ2は、ギヤあるいはベルト等の駆動力伝達手段によって版胴の回転と同期して同方向に回転される。インキは、適宜の位置に配置されたインキパックからインキポンプにより圧送され、インキパイプ5の供給孔よりインキ溜り4へ供給される。
【0026】
製版装置40は、ロール芯8bにロール状に巻かれたマスタ8を繰り出し可能に支持するマスタ支持手段8aと、マスタ8を搬送するプラテンローラ10と、プラテンローラ10に対して接離自在に設けられた製版手段としてのサーマルヘッド9と、プラテンローラ10におけるマスタ搬送方向の下流側に設けられ、マスタ8を適宜の長さに切断する上下一対のカッタ11と、マスタ8をクランプ手段35へ向けて案内するガイド板12とから主に構成されている。
【0027】
プラテンローラ10は、その軸を一対の製版部側板(図示せず)に回転自在に支持されており、図示しないステッピングモータにより所定の周速度で回転され、マスタ8をサーマルヘッド9との間で押圧しながら搬送する。
【0028】
サーマルヘッド9は、マスタ8の幅方向に1列に配列された多数の発熱素子を有し、図示しない周知の接離機構によってプラテンローラ10に接離自在に設けられていて、該接離機構に配設されているバネ部材によりプラテンローラに接触する向きに付勢されている。サーマルヘッド9は、図示しない原稿を読み取る原稿読み取り部のA/D変換部及び製版制御部で処理されて送出されるデジタル画像信号に基づきマスタ8を選択的に加熱穿孔し、穿孔画像を形成する機能を有する。
【0029】
カッタ11は、上方に可動刃を下方に固定刃を有するギロチンタイプのものや、上方に回転刃を下方に固定刃を有する回転刃移動タイプのものが適宜用いられる。ガイド板12は、上記一対の製版部側板間に固設されている。
【0030】
圧胴14は、図示しない筐体側板に回転自在に支持された圧胴軸14aに一体的に固設されていて、図1に示す矢印方向A(時計回り方向)に版胴1の周速度と同じ周速度でモータ41で回転される。圧胴14は、図6に示したと同様に、版胴1の外周面と接触する接触外周面14bと、接触外周面14bに続いて圧胴14の内方に向かって漸次傾斜した傾斜挾持面14cと、この傾斜挾持面14cよりくぼんだ凹部14dとを有している。傾斜挾持面14cは、後述するクワエ爪29との間で用紙30の先端部を挾持する平面部に形成されている。本実施形態では、圧胴14の接触外周面14bと挾持傾斜面14cとの境において、圧胴14の一つの母線に沿って図4に示すようなエッジ部分14eが形成されることになり、このエッジ部分14eから圧胴14に挾持・保持された用紙30を版胴1の外周面に接触させて印刷が行われる。
【0031】
凹部14dには、傾斜挾持面14cとの間で用紙30を挾持する開閉自在なクワエ爪29が設けられている。クワエ爪29は、凹部14dにおいて圧胴14の軸線と平行に配置されたクワエ爪軸29aにその基端部を固着されていて、その自由端部を傾斜挾持面14cに対して揺動開閉される。クワエ爪29は、常時、スプリング(図示せず)により閉じる向きに付勢されていて、圧胴14が所定の回転位置を占めたとき開閉される。クワエ爪29の自由端部には、2又に分かれた蹴り出し部29bが一体的に形成されていて、後述するレジストローラ対13,13により用紙30が蹴り出し部29bに挿入される。圧胴14が所定の回転位置を占めたときにクワエ爪29が開放されると、蹴り出し部29bが用紙30の先端を圧胴14から押し出すようになっている。クワエ爪軸29aの軸端部には、図示しないカムフォロアが配設されていて、該カムフォロアが上記筐体側板側に配設されたクワエ爪開閉手段のカム(共に図示せず)と選択的に接触することで、クワエ爪29が開閉される。
【0032】
接離手段70は、図2および図3に示すように、中心軸5を、版胴移動アーム軸22aを中心として時計回りおよび反時計回り方向に揺動・変位する左右一対の版胴移動アーム22,22と、版胴移動アーム22,22の動きを規制・保持することにより、版胴1の外周面を圧胴14の接触外周面14bから離隔保持する版胴離隔保持手段36と、版胴1の外周面を圧胴14の接触外周面14bに接触する向きに付勢すべく版胴移動アーム22の揺動端部と上記筐体側板とに張設された押圧スプリング27(引張バネ)と、版胴移動アーム22に植設されたコロ軸23aに回転自在に支持されたカムフォロアとしてのコロ23と、このコロ23に接触することにより、版胴1の外周面を圧胴14の接触外周面14bに選択的に接触させるためのカム24とを具備している。
【0033】
接触圧低減手段80は、上記した、版胴移動アーム軸22a、版胴移動アーム22,22、押圧スプリング27、コロ23およびカム24から主に構成されている。そして、圧胴14の接触外周面14bと版胴1の外周面とが接触し始める接触開始部分Bの接触圧を低減させる状態は、取り分け後述するように、カム24の特有の形状により設定されるようになっている。
【0034】
カム24は、上記筐体側板に回転自在に支持された版胴移動カム軸24aに固定されていて、版胴移動カム軸24aは版胴1および圧胴14の回転と同期して、例えば図5に示す駆動系により回転される。図5は、駆動手段としてのモータ41が、版胴1、圧胴14および給紙装置39の給紙駆動系に適宜連結されている駆動系の概略的な制御ブロック構成を示しており、天地移動装置38の天地移動駆動系は上記駆動系とは別個の独立した構成となっている。カム24は、図2および図3に示すように、小径部、大径部、および大径部のD点から小径部のE点まで傾斜した傾斜部24bから形成されている偏心カムをなす。
【0035】
カム24の傾斜部24bの形状は、実験結果等により後述する利点を得られるように、コロ23が傾斜部24bと接触している間において、接触開始部分Bの接触圧を、圧胴14の接触外周面14bに対する版胴1の外周面の接触圧、換言すれば押圧スプリング27の付勢力が全て付与されることによって最大の接触圧を加えられたときの10〜30%の範囲内となるように設定されている。また、接触開始部分Bは、圧胴14の接触外周面14bの接触開始点であるエッジ部分14eから接触外周面14bに沿った弦の長さの2〜5mmの距離範囲に設定されている。
【0036】
版胴離隔保持手段36は、上記筐体側板に回転自在に支持されたストッパ軸25aに固定して揺動自在に設けられ、一対の版胴移動アーム22,22の揺動端にそれぞれ選択的に係合する一対のストッパ25,25と、上記筐体側板に固設され、一方のストッパ25をストッパ軸25aを中心として揺動するソレノイド26とからなる。ソレノイド26は、後述するレジストローラ対13,13の用紙搬送方向の下流側直後に配置された反射型フォトセンサ等を備えた用紙先端検出装置(図示せず)により、圧胴14のクワエ爪29に向けて用紙30が給送される印刷時に通電・励磁され、各ストッパ25,25をストッパ軸25aを中心として反時計回り方向に回転させ、各版胴移動アーム22,22と各ストッパ25,25との係合を断ち、版胴1をカム24の形状に沿って下降させて、後述する特徴ある接触圧低減動作等を行う。ソレノイド25は、印刷時以外にはその通電が断たれ消磁されて、版胴1を圧胴14から離間した状態を保持する。
【0037】
天地移動装置38は、印刷画像と原稿画像との位置がずれている場合に、図5に示すように、操作パネル37より指令が出されて、本実施形態では版胴1を回転させ、両者の位相を変化させる。天地移動装置38の具体例としては、例えば、例えば実開昭61−198065号公報の第1図および第2図に示されている技術構成、特開平7−17121号公報の図5に示されている天地移動手段600あるいは特開平4−329175号公報の図2に示されている遊星歯車を具備する天地位置調整機構21等種々の構成のものが挙げられ、これらのどれが用いられても構わない。
【0038】
圧胴11の左方には、給紙装置39(図5参照)から送られてくる用紙30を、圧胴14の外周面とクワエ爪29との間へ所定のタイミングで送るレジストローラ対13,13が配置されている。
【0039】
圧胴14の図において右側近傍には、排紙装置60が配置されている。排紙装置60は、圧胴14の接触外周面14bに近接して配置され、印刷された用紙30を剥離ガイドする排紙爪15と、排紙爪15で剥離ガイドされた用紙30を搬送する、搬送ローラ前17、搬送ローラ後18との間に張設された開孔を有する搬送ベルト19及び吸着ファン20からなる吸着搬送装置と、圧胴14の接触外周面14bと版胴1の外周面との間に送風し、版胴1の外周面からの用紙30の剥離を助勢する剥離ファン(図示せず)とから構成されている。搬送ベルト19は、図示しないモータ等の駆動手段により版胴1の周速度よりも速い搬送速度で図1の図中矢印方向に駆動されるように設定されている。
排紙装置60のさらに右側には、排出された用紙30を積載するトレイ21が設けられている。
【0040】
上述のように構成された孔版印刷装置の動作について説明する。
原稿読み取り部に原稿がセットされ、スタートボタン(図示せず)が押されることによりスタート信号が生成され、モータ41が回転駆動されることで、版胴1および圧胴14がそれぞれ回転し、図示しない排版装置によって使用済みのマスタが版胴1の外周面から剥離され廃棄される。その後、版胴1は、クランプ手段35が略真上になる所定位置で停止する。版胴1が停止すると、上記開閉装置によりクランパ軸7aが所定角度回動されて、クランパ7が拡開され、給版待機状態となる。
【0041】
製版装置40の上記ステッピングモータが駆動されることにより、プラテンローラ10が回転され始め、マスタ8がマスタ支持手段8bより繰り出されつつ搬送される。
【0042】
一方、原稿が上記原稿読み取り部に送出され、原稿画像の濃淡がCCD等の光電変換素子からなる画像センサで電気信号に変換され、A/D変換部及び製版制御部で処理されて送出されるデジタル画像信号に応じて、サーマルヘッド9の発熱素子にパルス状に通電され、該発熱素子が選択的に発熱されることで、マスタ8が画像情報に応じて選択的に加熱穿孔・製版され始める。
【0043】
マスタ8が、プラテンローラ10の回転により搬送され、ガイド板12上を通過して、マスタ8の先端部が給版待機状態で拡開しているクランプ手段35へ向けて送出される。上記ステッピングモータのステップ数がある設定値に達すると、上記開閉装置によりクランパ軸7aが逆方向に所定角度回動され、クランパ7が閉じられて、製版済みのマスタ8の先端部がステージ6とクランパ7との間に挾持される。
【0044】
このクランプ動作と同時に、版胴1および圧胴14とがマスタ8の搬送速度と略同じ速度で回転を再開して、製版済みのマスタ8が反時計回り方向に回転する版胴1の外周面に巻装されていく。版胴1の外周面に製版済みのマスタ8が所定長さ巻装され、上記ステッピングモータのステップ数より製版が完了したと判断されると、版胴1、圧胴14およびプラテンローラ10の各回転がそれぞれ停止する。この停止動作と同時に、カッタ11が作動し、マスタ8が所定長さに切断される。そして、版胴1が再び反時計回り方向に回転され、切断されたマスタ8の後端(図示せず)が、製版装置40から引き出され、版胴1の外周面に製版済みのマスタ8が完全に巻き取られて、版胴1の外周面へのマスタ巻装が完了することとなる。
【0045】
製版済のマスタ8が版胴1の外周面に巻装された後、版胴1が反時計回り方向に回転されると共に、給紙装置39の作動により、1枚の用紙30がレジストローラ対13,13に給送され、レジストローラ対13,13により版胴1の回転と同期した所定のタイミングで圧胴14の外周面とクワエ爪29との間へ挿入される。用紙30の先端がクワエ爪29に挾持されて、用紙30は版胴1の外周面と圧胴14の外周面との間に搬送される。
【0046】
この時、上記用紙検出装置により、用紙30の先端が検知されることで用紙30の搬送が検知されると、ソレノイド25に通電されて該ソレノイド25が励磁されることにより、ストッパ25をストッパ軸25aを中心として反時計回り方向に回転させ、これと同時に、カム24が反時計回り方向に回転されることでカム24の大径部とコロ23とが接触し、各版胴移動アーム22,22と各ストッパ25,25との係合が断たれ、押圧スプリング27の付勢力により、各版胴移動アーム22,22が版胴移動アーム軸22aを支点にして時計回り方向に揺動変位する。
【0047】
ここで、押圧スプリング27の付勢の下におけるカム24とコロ23との接触に伴う動作を詳しく述べる。図4を参照して上述したように、圧胴14の接触外周面14bの接触開始点であるエッジ部分eから接触外周面14bに沿った弦の長さの所定の距離範囲(図4に接触開始部分Bで示されている部分)では、圧胴14のエッジ部分eの前方(版胴1の開孔部1aの先端1A)側に、図6に示した従来のような漏れインキ33が発生しないように、版胴1の開孔部1aの先端1A近傍から接触圧を弱めた接触圧低減状態で接触を開始する。
【0048】
そのために、図3および図4に示すように、コロ23がカム24のD点から始まる傾斜部24bに接触しながら傾斜部24bに沿って下降変位することで、各版胴移動アーム22,22が時計回り方向に揺動変位して、版胴1の外周面が圧胴14のエッジ部分eから接触をし始める。この時の接触圧は、版胴の開孔部1aよりインキを滲み出して印刷することができる最低限必要な接触圧となるように設定されていて、上記したとおり、押圧スプリング27の付勢力が全て付与されることによって最大の接触圧を加えられたときの10〜30%程度となるように設定されている。また、上記したとおり、接触開始部分Bは、圧胴14の接触外周面14bの接触開始点であるエッジ部分14eから接触外周面14bに沿った弦の長さの2〜5mmの距離範囲に設定されている。
【0049】
そして、カム24の傾斜部24bの終了点であるE点からはコロ23が接触しなくなって離間し、押圧スプリング27の付勢力が各版胴移動アーム22,22を介して版胴1の外周面と圧胴14の接触外周面14bとの接触部分に全て付与されて、通常の接触圧(最大の接触圧でもある)が上記接触部分に加えられることとなる。
【0050】
圧胴14の接触外周面14bにより挾持・保持された用紙30が、回転する版胴1の外周面に巻装された製版済みのマスタ8に連続的に押圧されることにより、製版済みのマスタ8が版胴1の外周面に密着すると共に、製版済みのマスタ8の穿孔部分からインキが用紙30の表面に転移される。
【0051】
このとき、インキローラ2も版胴1の回転方向と同一方向に回転する。インキ溜り4のインキは、インキローラ2の回転によりインキローラ2の表面に付着され、インキローラ2とドクターローラ3との間隙を通過する際にその量を規制され、版胴1の内周面に供給される。
【0052】
圧胴14の所定の回転位置でクワエ爪29が開放されることで、印刷された用紙30は、蹴り出し部29bで押し出され、排紙爪15で剥離され、さらに上記剥離ファンで版胴1の外周面から強制的に剥離されながら、上記吸着搬送装置の搬送ベルト19で搬送されて、排紙トレイ21に排出積載される。こうして、製版済みのマスタ8にインキを充填するいわゆる版付けが行われると共に、版胴1の外周面が圧胴14の接触外周面14bから離間して初期状態に復帰し、印刷待機状態となる。
【0053】
この後、印刷画像位置と原稿画像位置とをチェックして位置がずれている場合には、操作パネル37から天地移動装置38に指令を出し、版胴1と圧胴14との位相を適宜の範囲内で変化させて、所定の印刷位置になるように調節し、上記動作と同様の動作により所定枚数の印刷が順次連続的に行われる。
【0054】
なお、上記したように、接離手段70と天地移動装置38とは、独立した機構をなしていて、版胴1の外周面が圧胴14の接触開始点でもあるエッジ部分14eから接触を開始するタイミングは、カム24とコロ23との接触で一義的に決まるため、たとえ天地移動装置38の作動結果により、版胴の位相が変わって版胴1の開孔部1aまたは非開孔部1bのどこから接触を開始しても構わなく、次に述べる利点を得られる。
【0055】
本実施形態によれば、接触圧低減手段80を具備していることにより、換言すれば、圧胴14の接触外周面14bと版胴1の外周面とが接触し始める、圧胴14のエッジ部分14eから接触外周面14bに沿った弦の長さの2〜5mmの距離範囲における接触開始部分Bの接触圧を、通常の接触圧(最大の接触圧でもある)を加えられたときの10〜30%程度となるように低減させた状態で接触を開始するように、カム24の形状を特有の形状(傾斜部24b)に設定したので、版胴1の外周面における圧胴14の接触開始点(エッジ部分14e)との前方においてインキの押し出し力が低減されて、圧胴14のエッジ部分14eから凹部14dにかけて版胴1側に生じる従来のインキ溜り(前漏れ)を防止でき、インキ飛散等による装置内汚損を防止すると共に、マスタ8に大量にインキが付着して廃棄されインキが無駄になったり、押圧時にインキが押し出されて用紙や挾持部材等を汚損したり、画像濃度むらのない良好な印刷画像が得られる。
【0056】
なお、接離手段は、圧胴14に対して版胴1を変位させて接離させる上記接離手段70に限定されず、例えば特開平9−216448号公報の図1および図2に示されているような、版胴1に対して圧胴14を変位させて接離させる接離手段70であってもよい。この場合、天地移動装置は、上記公報の図4および図5に示されているように、圧胴14側の変位を変えるもの、あるいは上記実施形態のように版胴1の位相を変えるものの何れであっても構わない。
【0057】
ちなみに、接離手段が圧胴14を変位させることにより版胴1に接離させる接離方式のものであって、天地移動装置が圧胴14側の変位を変える天地移動方式の装置に本発明を適用した場合では、天地移動操作により、版胴1の外周面への圧胴14のエッジ部分14eの接触開始点が天地移動量で例えば±10mm程度ずれたとしても、カム24も圧胴14の移動量に応じて変位するようになっているので、接触開始部分B部の接触圧は変わらない。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、上述した従来の問題点を解決することができる。すなわち、請求項1記載の発明によれば、上記構成により、版胴の接触開始部分におけるインキの押出力が低減されて、圧胴の接触開始点であるエッジ部分から非接触部(例えば凹部)にかけて版胴側に生じる従来のインキ溜り(前漏れ)を防止でき、インキ飛散等による装置内汚損を防止すると共に、マスタに大量にインキが付着して廃棄されインキが無駄になったり、押圧時にインキが押し出されて用紙や挟持部材等を汚損したり、画像濃度むらのない良好な印刷画像が得られる。
【0059】
請求項2記載の発明によれば、圧胴の接触外周面と版胴の外周面とを接離させるための、カムを備えた接離手段を具備し、接触開始部分の接触圧を低減させる状態は、カムの形状により設定されることにより、カムの形状を設定するという簡単な手段によって請求項1記載の効果を奏することができるので、装置のコスト低減に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す孔版印刷装置の概略的な正面図である。
【図2】第1の実施形態における接離手段および接触圧低減手段周りの要部の正面図である。
【図3】第1の実施形態における接離手段および接触圧低減手段の動作を示す要部の正面図である。
【図4】版胴の外周面と圧胴の接触開始部分とが接触状態にあるときの部分断面を含む要部の正面図である。
【図5】孔版印刷装置の駆動系のブロック図である。
【図6】従来の孔版印刷装置の問題点を説明する図であって、版胴の外周面と圧胴の接触開始部分とが接触状態にあるときの部分断面を含む要部の正面図である。
【符号の説明】
1 版胴
1a 版胴の開孔部
1A 版胴の開孔部の先端
7 クランパ
8 マスタ
9 サーマルヘッド
10 プラテンローラ
14 圧胴
14b 圧胴の接触外周面
14d 圧胴の非接触部としての凹部
14e 圧胴の接触開始点でもあるエッジ部分
24 カム
24b カムの傾斜部
29 クワエ爪
30 用紙
35 クランプ手段
50 インキ供給手段
70 接離手段
80 接触圧低減手段
B 接触開始部分
Claims (3)
- 製版されたマスタを外周面に巻き付ける版胴と、この版胴の内周面にインキを供給するインキ供給手段と、上記版胴の外径と略同径の圧胴とを有し、用紙を介して上記版胴に対して上記圧胴を相対的に押し付けて印刷を行う印刷装置において、
上記圧胴は、上記外周面と接触する接触外周面と、この接触外周面よりくぼんだ非接触部と、上記接触外周面と上記非接触部とが交わるエッジ部分とを有し、
上記接触外周面と上記外周面とが接触し始める接触開始点である上記エッジ部分から上記圧胴の回転方向の上流側における上記接触外周面に沿った弦の長さの2〜5mmまでの距離範囲に設定された接触開始部分の上記外周面に対する接触圧を、上記接触開始部分を除いた上記接触外周面の上記外周面に対する接触圧と比べて低減させた状態で接触を開始することを特徴とする印刷装置。 - 請求項1記載の印刷装置において、
上記接触外周面と上記外周面とを接離させるための、カムを備えた接離手段を具備し、
上記接触開始部分の接触圧を低減させる状態は、上記カムの形状により設定されることを特徴とする印刷装置。 - 請求項1または2記載の印刷装置において、
上記接触開始部分の接触圧が、上記接触開始部分を除いた上記接触外周面の上記外周面に対して加えられる最大の接触圧の10〜30%の範囲内に設定されていることを特徴とする印刷装置。
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