はじめに、グラフェン及びグラフェンナノリボンについて説明する。
グラフェンは、炭素(C)原子の6員環を二次元平面に敷き詰めたシート構造の材料である。グラフェンは、室温においても極めて高いキャリア(電子及びホール)移動度を有し、バリスティック伝導、半整数量子ホール効果等の特異な電子物性を示す。グラフェンのこのような特性を活かしたナノエレクトロニクスデバイスの研究開発が近年盛んに行われている。
グラフェンは、π電子の共役が二次元に拡張しているため、バンドギャップがゼロに等しく、金属的な性質(ギャップレス半導体)を示す。しかし、グラフェンのサイズがナノスケールになると、シート構造を成すバルクのC原子の個数とエッジを成すC原子の個数が同等になり、その形状やエッジの影響を強く受けることで、バルクとは大きく異なる物性を示すようになる。
ナノサイズのグラフェンとして、数nm幅のリボン形状の擬一次元のグラフェン、所謂、グラフェンナノリボン(GNR)が広く知られている。GNRでは、そのエッジ構造やリボン幅によって物性が大きく変化する。
GNRのエッジ構造には、C原子が2原子周期で配列したアームチェアエッジとジグザグ状に配列したジグザグエッジの2種類が存在する。アームチェアエッジのGNR(AGNR)は、量子閉じ込め及びエッジ効果によって有限のバンドギャップが開くことで、半導体的な性質を示す。一方、ジグザグエッジのGNR(ZGNR)は、磁性や金属的な性質を示す。
AGNRは、リボン幅方向に数えたC−Cダイマーラインの数NによりN−AGNRと称される。例えば、AGNRのリボン幅方向に6員環が3つ配列したアントラセンを基本ユニットとするAGNRは、7−AGNRと呼ばれる。更に、Nの値によって、N=3p、3p+1、3p+2(pは正の整数)の3つのサブグループに分類される。多体効果を考慮した第一原理計算から(例えば、フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters),2007年,第99巻,p.186801−1〜4)、同じサブグループ内でのN−AGNRのバンドギャップEgの大きさは、Nの値、即ちリボン幅の増加に伴って減少することが知られている。また、各サブグループ間でのバンドギャップEg3p、Eg3p+1、Eg3p+2には、Eg3p+1>Eg3p>Eg3p+2の大小関係がある。
GNRの形成技術としては、電子線リソグラフィ及びエッチングによりグラフェンシートを裁断するトップダウン的な手法(例えば、フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters),2007年,第98巻,p.206805−1〜4)、カーボンナノチューブを化学的に切開する手法(例えば、ネイチャー(Nature),2009年,第458巻,p.872−876)、有機溶媒に溶解したグラファイトフレークからソノケミカル法により形成する手法(例えば、サイエンス(Science),2008年,第319巻,p.1229−1232)等が報告されている。安定した物性を示すGNRを形成するには、リボン幅やエッジ構造の制御が重要であるが、上記の手法では、エッジ構造の制御が難しく、アームチェアエッジとジグザグエッジが混在したGNRが形成されてしまう懸念がある。また、上記の手法では、リボン幅を揃えることも容易ではなく、安定した物性を示すGNRを得ることが難しいという課題がある。
一方、GNRの形成技術として、AGNRをボトムアップ的に形成する手法が報告されている(例えば、上記非特許文献1)。この手法では、予め有機化学合成により形成した前駆体を、所定の基板上に超高真空下で蒸着し、加熱により前駆体同士を基板上で重合、環化することで、AGNRを合成する(ボトムアップ合成)。例えば、10,10’−ジブロモ−9,9’−ビアントラセンを前駆体(モノマー)とし、これを所定の基板上に蒸着し、200℃で加熱すると、臭素(Br)原子が脱離し、前駆体同士がそれらの中央部で重合したポリマー鎖が形成される。更に、400℃で加熱すると、水素(H)原子が脱離し、環化反応が誘起されることで、バンドギャップEgが3.8eVの半導体性の7−AGNRが形成される。安定した物性を示すGNRを形成するには、このようなボトムアップ合成が有効と考えられる。
しかし、ボトムアップ合成では、その前駆体として、芳香環がH原子で終端された分子を用いると、比較的低温の加熱でも部分的な環化反応で脱離したH原子が、Br原子の脱離したCラジカルを終端(C−H結合又はC−H2結合)し、ポリマー化が抑制される場合がある。このようなポリマー化の抑制は、AGNRのリボン長の増大を阻害する要因となり、例えば、合成されるAGNRの平均リボン長が30nm程度に制限されてしまう。また、ポリマー鎖は、短ければ短いほど基板上で熱拡散するため、ポリマー鎖同士が、目的とする連結点以外でランダムに結合した、欠陥(5員環や7員環)を含むAGNRの接合体、所謂AGNRジャンクションが形成され易くなる。
AGNRの電子デバイスへの応用の観点から、これまでのリボン長では不十分となる場合がある。例えば、トランジスタのチャネルにAGNRを利用する場合、製造プロセスの簡便化や電極とのコンタクト抵抗の低減のためには、数百nmといったリボン長のAGNRの実現が期待されている。
以上のような点に鑑み、ここでは、以下の実施の形態において示すような化合物を前駆体として用いたボトムアップ合成によりAGNRを得る手法について説明する。
まず、第1の実施の形態について説明する。
AGNRの前駆体として用いる化合物は、式(2)に示すような構造を有する。
式(2)中、sは1〜3の整数、tは0〜4の整数であり、X基、Y基及びZ基は、芳香環のC原子との結合エネルギーが、C−X結合、C−Y結合、C−Z結合の順に大きくなる基である。換言すれば、X基、Y基及びZ基は、芳香環からの脱離温度が、X、Y、Zの順に高くなる基ということもできる。
このように式(2)の化合物は、ベンゼン、アントラセン、ペンタセン、ヘプタセン、ノナセンといった芳香環(ベンゼン若しくはアセン又はそれらのダイマー)に、X基、Y基、Z基が結合し、それらによって芳香環のC原子が終端された構造を有する。
X基、Y基、Z基は、例えば、相互に独立して、フッ素(F)原子、塩素(Cl)原子、Br原子、ヨウ素(I)原子等のハロゲン原子である。式(2)に示す化合物では、ハロゲン原子が、芳香環のC原子との結合エネルギーが、C−X結合、C−Y結合、C−Z結合の順に大きくなるような組み合わせで、結合される。例えば、X=I、Y=Br、Z=Clといった組み合わせや、X=Br、Y=Cl、Z=Fといった組み合わせで、芳香環のC原子に結合される。このようにX基、Y基及びZ基がハロゲン原子の場合、芳香環のC原子との結合エネルギーが、C−X結合、C−Y結合、C−Z結合の順に大きくなることは、換言すれば、原子量が、X基、Y基、Z基の順に小さくなると言うこともできる。
X基、Y基及びZ基は、芳香環のC原子との結合エネルギーが、C−X結合、C−Y結合、C−Z結合の順に大きくなるものであれば、上記のようなハロゲン原子に限定されない。例えば、X基、Y基及びZ基は、相互に独立して、ニトリル基(CN基)、ニトロ基(NO2基)、トリハロゲン化メチル基(CF3基、CCl3基、CBr3基、CI3基)であってもよい。
式(2)の化合物は、芳香環のC原子がH原子で終端されていない構造、即ち、C−H結合を含まない構造を有する。
式(2)に示すような前駆体は、次のようにして合成される。
まず、式(3)に示すような化合物、即ち、上記式(2)のX基にH原子が結合し、Y基にアミノ基(NH2基)が結合した構造を有する化合物を準備する。
準備された式(3)の化合物のNH2基をY基に変換し、式(4)に示すような化合物を得る。
得られた式(4)の化合物のH原子をX基に変換し、上記式(2)に示すような化合物を得る。
尚、式(3)及び(4)中、sは1〜3の整数、tは0〜4の整数であり、X基、Y基及びZ基は、芳香環のC原子との結合エネルギーが、C−X結合、C−Y結合、C−Z結合の順に大きくなる基である。
例えば、上記式(2)の化合物として、1,4,5,8−テトラブロモ−2,3,6,7−テトラクロロ−9,10−ジヨードアントラセン(s=t=1、X=I、Y=Br、Z=Cl)を合成する場合であれば、次のようにすることができる。まず、1,4,5,8−テトラアミノ−2,3,6,7−テトラクロロアントラセン(1,4,5,8-tetraamino-2,3,6,7-tetrachloroanthracene)を準備し、そのNH2基を、サンドマイヤー反応等によってBr基に変換し、1,4,5,8−テトラブロモ−2,3,6,7−テトラクロロアントラセン(1,4,5,8-tetrabromo-2,3,6,7-tetrachloroanthracene)を得る。次いで、ヨウ素化反応によってI基を導入し、1,4,5,8−テトラブロモ−2,3,6,7−テトラクロロ−9,10−ジヨードアントラセン(1,4,5,8-tetrabromo-2,3,6,7-tetrachloro-9,10-diiodoanthracene)を得る。
このような方法の例に従い、上記式(2)で示されるような各種前駆体を得ることができる。
続いて、上記のような前駆体を用いたAGNRの合成について説明する。
AGNRの合成では、まず、上記式(2)に示すような前駆体が、真空中で、加熱された金(Au)の(111)面等の基板上に蒸着(真空蒸着)される。この真空蒸着の際、基板上に蒸着された前駆体群が重合し、式(5)に示すような芳香族化合物のポリマー鎖が合成される。
上記式(2)の前駆体では、C−X結合の結合エネルギーが、C−Y結合及びC−Z結合に比べて低い。真空蒸着の際には、X基が脱離する温度で、且つ、Y基及びZ基の脱離が抑えられる温度で、加熱を行う。このような温度で真空蒸着を行うと、Y基及びZ基の脱離に比べてX基が優先的に脱離し、X基の脱離と、X基が脱離したC原子間の結合(C−C結合)反応が誘起されて、分子中央の連結点で重合した、式(5)のようなポリマー鎖(重合度n)が安定的に合成される。X基の脱離に比べてY基及びZ基の脱離が抑えられるため、前駆体とポリマー鎖、或いはポリマー鎖同士の、中央の連結点以外での結合が抑えられる。
合成されたポリマー鎖に対し、更に真空中で、より高温の加熱(第1高温加熱)が行われる。この第1高温加熱の際、基板上のポリマー鎖で環化が進行し、式(6)に示すようなAGNRが合成される。
式(5)のポリマー鎖では、C−Y結合の結合エネルギーが、C−Z結合に比べて低い。第1高温加熱の際には、Y基が脱離する温度で、且つ、Z基の脱離が抑えられる温度で、加熱を行う。このような温度で第1高温加熱を行うと、Z基に比べてY基が優先的に脱離し、Y基の脱離とC−C結合反応が誘起されて環化が進行し、式(6)のようなAGNRが安定的に合成される。Y基の脱離に比べてZ基の脱離が抑えられるため、ポリマー鎖同士、ポリマー鎖とAGNR、或いはAGNR同士の、幅方向(リボン幅方向)の結合が抑えられる。
上記式(2)の前駆体、並びにそれを用いて合成される式(5)のポリマー鎖及び式(6)のAGNRでは、芳香環のC原子がH原子で終端されていない。そのため、真空蒸着による式(5)のポリマー鎖の合成過程、及び第1高温加熱による式(6)のAGNRの合成過程において、H原子の脱離とそれによるCラジカルの発生が抑えられる。これにより、式(5)のポリマー鎖の合成過程では、脱離したH原子によるポリマー化の停止を抑え、重合度nを増大させる、即ち、最終的に得られるAGNRのリボン長を増大させることができる。例えば、数百nmのリボン長を有するAGNRが実現される。また、式(5)のポリマー鎖の合成過程、及び式(6)のAGNRの合成過程では、前駆体同士、前駆体とポリマー鎖、ポリマー鎖同士、ポリマー鎖とAGNR、或いはAGNR同士の、ランダムな結合、目的とする結合点以外での結合を抑えることができる。
上記のようにして合成される式(6)のAGNRに対し、更に真空中で、より高温の加熱(第2高温加熱)が行われてもよい。第2高温加熱の際には、Z基が脱離する温度で、加熱を行う。このような温度で第2高温加熱を行うと、平行に隣接するAGNR同士の間で、Z基の脱離とC−C結合反応が誘起される。これにより、AGNR同士がリボン幅方向に6員環接合された、AGNRジャンクションが合成される。式(6)のAGNRでは、芳香環のC原子がH原子で終端されていないため、H原子の脱離とそれによるCラジカルの発生が抑えられ、5員環や7員環のような欠陥の発生が抑えられたAGNRジャンクションを合成することができる。
上記式(2)の前駆体を用い、X基、Y基及びZ基の、芳香環のC原子との結合エネルギー差、脱離温度差を利用して、上記のような合成を行うことにより、リボン長が長く、欠陥の発生が抑えられたAGNR及びAGNRジャンクションを合成することができる。
以下では、上記のような前駆体及びそれを用いて合成されるAGNR及びAGNRジャンクションの例を、第2〜第4の実施の形態として説明する。
まず、第2の実施の形態について説明する。
図1は第2の実施の形態に係る前駆体及びそれを用いたAGNR合成の説明図である。また、図2は第2の実施の形態に係る前駆体合成の説明図である。
この例では、図1に示すような前駆体10a、即ち、1,4,5,8−テトラブロモ−2,3,6,7−テトラクロロ−9,10−ジヨードアントラセンが用いられる。この前駆体10aは、上記式(2)において、s=t=1、X=I、Y=Br、Z=Clとした構造を有する分子である。
前駆体10aは、例えば、図2に示すようにして合成される。まず、1,4,5,8−テトラアミノ−2,3,6,7−テトラクロロアントラセン(図2の化合物11)が準備され、そのNH2基が、サンドマイヤー反応によってBr基に変換され、1,4,5,8−テトラブロモ−2,3,6,7−テトラクロロアントラセン(図2の化合物12)が得られる。次いで、ヨウ素化反応によってI基が導入され、1,4,5,8−テトラブロモ−2,3,6,7−テトラクロロ−9,10−ジヨードアントラセン(図2の化合物13、図1の前駆体10a)が得られる。
図1(及び図2)に示すような前駆体10aが、所定の基板上に真空蒸着され、更に加熱が行われて、7−AGNR30aが合成される。
ここで、前駆体10aを真空蒸着する基板としては、例えば、単結晶金属基板が用いられる。このような単結晶金属基板として、例えば、Au(111)面が用いられる。単結晶金属基板としては、Au(111)面のほか、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の(111)面が用いられてもよい。また、合成されるAGNRの指向性を制御するために、数nm幅のステップとテラスの周期構造を有する、上記のような単結晶金属のミスカット基板が用いられてもよい。或いはまた、金属性の結晶基板のほか、IV族半導体、III−V族化合物半導体、II−VI族化合物半導体、遷移金属酸化物半導体等の半導体性の結晶基板が用いられてもよい。ここでは、Au(111)面を例にして説明する。
前駆体10aを蒸着する前処理として、Au(111)面の有機系不純物(コンタミ)の除去、及びAu(111)面の平坦性の向上を目的として、アルゴン(Ar)イオンスパッタと超高真空アニールを1セットとする表面清浄処理が複数サイクル実施される。1セットあたりの表面清浄処理は、Arイオンスパッタが、イオン加速電圧0.8kV〜2.0kV、イオン電流1.0μA〜10.0μAで1分間行われ、超高真空アニールが、5×10−7Pa以下の真空度を保持しつつ、300℃〜450℃で10分間行われる。例えば、このような表面清浄処理が、3サイクル実施される。
表面清浄処理が施されたAu(111)面を大気に曝すことなく、超高真空の真空槽内で、そのAu(111)面上に、7−AGNRがin−situで合成される。
その際は、まず、基本真空度が5×10−8Pa以下の超高真空下にて、前駆体10aが、K−cell型エバポレーターで100℃〜150℃に加熱されて昇華され、100℃〜150℃に保持されたAu(111)面上に蒸着される。蒸着速度は、例えば、0.05nm/分〜0.1nm/分に設定される。蒸着膜厚は、例えば、0.5ML〜1ML(ML:monolayer、1MLは約0.2nm)に設定される。
前駆体10aでは、基本骨格のアントラセンにI原子、Br原子、Cl原子が結合したC−I結合、C−Br結合、C−Cl結合のうち、前駆体10a同士の連結点となるC−I結合の結合エネルギーが、他のC−Br結合及びC−Cl結合の結合エネルギーに比べて低い。100℃〜150℃のAu(111)面上に蒸着された前駆体10aでは、C−I結合が切れることによるI原子の脱離(脱I化)が起こる一方、C−Br結合及びC−Cl結合が切れることによるBr原子及びCl原子の脱離は抑えられる。100℃〜150℃のAu(111)面上では、脱I化、及び脱I化されたC原子間のC−C結合反応が誘起され、前駆体10aの分子中央の連結点で重合した、図1に示すようなポリマー鎖20aが安定的に合成される。
このポリマー鎖20aの合成過程において、前駆体10aの分子中央の連結点以外のC原子には、I原子よりも結合エネルギーの高いBr原子、Cl原子が結合しており、100℃〜150℃のAu(111)面上では、Br原子及びCl原子の脱離は抑えられる。そのため、100℃〜150℃のAu(111)面上における、前駆体10aとポリマー鎖20a、或いはポリマー鎖20a同士の、中央の連結点以外での結合は抑えられる。
前駆体10aの基本骨格にはC−H結合が含まれず、ポリマー鎖20aの合成過程では、H原子の脱離及びそれによるCラジカルの発生が抑えられる。そのため、ポリマー鎖20aは、長さ方向(合成する7−AGNR30aのリボン長方向P)に効果的に延伸される。ポリマー鎖20aの長さ(及び合成する7−AGNR30aのリボン長)は、例えば、その下地であるAu(111)面等の基板の平面形状(その長さ)によって制御される。
上記のようなポリマー鎖20aを合成する真空蒸着に続き、Au(111)面が、例えば、1℃/分〜5℃/分の昇温速度で、200℃〜250℃に昇温され、10分〜1時間保持される。200℃〜250℃のAu(111)面上に合成されたポリマー鎖20aでは、C−Br結合が切れることによるBr原子の脱離(脱Br化)が起こる一方、C−Cl結合が切れることによるCl原子の脱離は抑えられる。200℃〜250℃のAu(111)面上では、脱Br化、及び脱Br化されたC原子間のC−C結合反応が誘起され、ポリマー鎖20aの環化が進行する。これにより、図1に示すような、エッジがCl原子で終端された、リボン幅方向QにC原子7個分相当の幅を持った、7−AGNR30aが安定的に合成される。
この7−AGNR30aの合成過程において、上記のように、200℃〜250℃のAu(111)面上では、Cl原子の脱離は抑えられる。そのため、200℃〜250℃のAu(111)面上における、ポリマー鎖20a同士、ポリマー鎖20aと7−AGNR30a、或いは7−AGNR30a同士の、ランダムな結合、目的とする結合点以外での結合(リボン幅方向Qの接合)は抑えられる。
このように、前駆体10aを用いた7−AGNR30aの合成では、前駆体10aの基本骨格のアントラセンに結合したI原子、Br原子、Cl原子の脱離温度差が利用される。即ち、まず、脱離温度が最も低いI原子の脱離及びC−C結合反応が、所定の温度の加熱で誘起され、長さ方向に延伸されたポリマー鎖20aが合成される。そして、脱離温度が中間のBr原子の脱離及びC−C結合反応が、より高温の加熱で誘起され、ポリマー鎖20aが環化され、7−AGNR30aが合成される。これにより、リボン長が長く、欠陥の発生が抑えられた7−AGNR30aが、安定的に合成される。
上記のような7−AGNR30aを合成する加熱に続き、Au(111)面を更に高温で加熱すると、リボン幅方向Qに隣接する7−AGNR30a群がAu(111)面上に存在する場合、それらをリボン幅方向Qに接合させることができる。
図3は第2の実施の形態に係るAGNRジャンクション合成の説明図である。
例えば、7−AGNR30aを合成する加熱に続き、Au(111)面が、300℃〜350℃に昇温され、10分〜1時間保持される。300℃〜350℃のAu(111)面上に合成された7−AGNR30aでは、C−Cl結合が切れることによるCl原子の脱離(脱Cl化)が起こる。300℃〜350℃のAu(111)面上では、リボン長方向Pに平行に伸びる7−AGNR30a同士(図3の7−AGNR31a,32a)がリボン幅方向Qに隣接する場合、それらの間で、脱Cl化、及び脱Cl化されたC原子間のC−C結合反応が誘起される。これにより、7−AGNR30a同士がリボン幅方向Qに6員環接合されたAGNR(7−AGNRジャンクション)40aが合成される。ここでは一例として、平面L字形状の7−AGNRジャンクション40aを図示している。7−AGNRジャンクション40aの平面形状は、例えば、その下地であるAu(111)面等の基板の平面形状によって制御される。
ここで、7−AGNR30a及び7−AGNRジャンクション40aの平面形状について、図4〜図7を参照して説明する。
図4は第2の実施の形態に係るAGNRのリボン長についての説明図である。図4(A)〜図4(C)にはそれぞれ、AGNR及びその下地の基板の平面図を模式的に示している。
例えば、図4(A)に示すように、合成する7−AGNR30aのリボン長方向Pに所定の長さを有する、Au(111)面等の基板50上に、上記のような手法により、7−AGNR30aが合成される。基板50上には、その長さに応じたリボン長で7−AGNR30aが合成される。この基板50の長さを、図4(B)に示すように、図4(A)の場合よりも長くすると、その基板50上には、図4(A)の場合よりも長い7−AGNR30aが合成される。同様に、基板50の長さを、図4(C)に示すように、図4(B)の場合よりも更に長くすると、その基板50上には、図4(B)の場合よりも更に長い7−AGNR30aが合成される。
このように、7−AGNR30aは、その合成が行われる基板50の長さに応じたリボン長で合成することができる。7−AGNR30aの合成では、上記のような前駆体10aを用い、ポリマー鎖20aの合成(及び環化)を、I原子の脱離温度よりも高く、Br原子及びCl原子の脱離温度よりも低い温度で行うことで、基板50の長さに相当する分、前駆体10aの重合を継続させることができる。そのため、基板50の長さに応じた重合度nのポリマー鎖20aを合成することができ、合成されたポリマー鎖20aの環化により、基板50の長さに応じたリボン長の7−AGNR30aを合成することができる。換言すれば、基板50の長さによって7−AGNR30aのリボン長を制御することができる。
図5は第2の実施の形態に係るAGNRのリボン幅についての説明図である。図5(A)〜図5(C)にはそれぞれ、AGNR及びその下地の基板の平面図を模式的に示している。
例えば、図5(A)に示すように、合成する7−AGNR30aのリボン幅方向Qに所定の幅を有する、Au(111)面等の基板50上に、上記のような手法により、7−AGNR30aが合成される。基板50上には、その幅に応じて7−AGNR30aが合成される。図5(A)には便宜上、基板50上に1本の7−AGNR30aが合成された場合を例示している。この基板50の幅を、図5(B)に示すように、図5(A)の場合よりも広くすると、その幅広の基板50上に合成された、隣接する7−AGNR30a同士の接合により、図5(A)の場合よりも幅の広いAGNR、即ち7−AGNRジャンクション40aが合成される。図5(B)には便宜上、2本の7−AGNR30aが接合されて7−AGNRジャンクション40aが合成された場合を例示している。同様に、基板50の幅を、図5(C)に示すように、図5(B)の場合よりも更に広くすると、その更に幅広の基板50上には、図5(B)の場合よりも更に幅の広い7−AGNRジャンクション40aが合成される。図5(C)には便宜上、3本の7−AGNR30aが接合されて7−AGNRジャンクション40aが合成された場合を例示している。
このように、7−AGNRジャンクション40aは、7−AGNR30aの合成が行われる基板50の幅に応じた幅で合成することができる。7−AGNR30aの合成では、上記のような前駆体10aを用い、ポリマー鎖20aの合成及び環化を、Cl原子の脱離温度よりも低い温度で行うことで、リボン幅方向Qのランダムな結合及び欠陥の発生を抑えて、合成を行うことができる。そのため、基板50の幅に応じた配列数の7−AGNR30aを合成することができ、Cl原子の脱離温度よりも高い温度での加熱により、基板50の幅に応じた幅の7−AGNRジャンクション40aを合成することができる。換言すれば、基板50の幅によって7−AGNRジャンクション40aの幅を制御することができる。
また、このように基板50の幅によって7−AGNRジャンクション40aの幅が制御されるため、基板50の幅によって半導体性の7−AGNRジャンクション40aと金属性の7−AGNRジャンクション40aとを作り分けることができる。
図6は第2の実施の形態に係るAGNRジャンクションの平面形状についての説明図である。図6(A)〜図6(C)にはそれぞれ、AGNR及びその下地の基板の平面図を模式的に示している。
上記のように、7−AGNR30a及び7−AGNRジャンクション40aは、その合成が行われる基板50の平面形状(長さ及び幅)に応じた平面形状(長さ及び幅)で合成することができる。例えば、図6(A)に示すような平面L字形状の基板50を用いると、その上には、平面L字形状の7−AGNRジャンクション40aを合成することができる。例えば、図6(B)に示すような平面T字形状の基板50を用いると、その上には、平面T字形状の7−AGNRジャンクション40aを合成することができる。例えば、図6(C)に示すような平面I字形状の基板50を用いると、その上には、平面I字形状の7−AGNRジャンクション40aを合成することができる。基板50の平面形状を選択することで、その上に、各種平面形状の7−AGNRジャンクション40aを合成することができる。
また、このように基板50の平面形状によって7−AGNRジャンクション40aの平面形状が制御されるため、基板50の平面形状により、幅狭と幅広の部位を含む或いは半導体性と金属性の部位を含む7−AGNRジャンクション40aを合成することができる。
次に、第3の実施の形態について説明する。
図7は第3の実施の形態に係る前駆体及びそれを用いたAGNR合成の説明図である。
この例では、図7に示すような前駆体10b、即ち、1,1’,4,4’,5,5’,8,8’−オクタクロロ−2,2’,3,3’,6,6’,7,7’−オクタフルオロ−10,10’−ジブロモ−9,9’−ビアントリル(1,1’,4,4’,5,5’,8,8’-octachloro-2,2’,3,3’,6,6’,7,7’-octafluoro-10,10’-dibromo-9,9’-bianthryl)が用いられる。この前駆体10bは、上記式(2)において、s=2、t=1、X=Br、Y=Cl、Z=Fとした構造を有する分子である。
図7に示すような前駆体10bが、所定の基板上に真空蒸着され、更に加熱が行われて、7−AGNR30bが合成される。
例えば、上記第2の実施の形態で述べたのと同様に、表面清浄処理が施されたAu(111)面上に、前駆体10bが蒸着される。前駆体10bは、上記前駆体10a(図1)に比べ、ベンゼン環の数が多く、分子量が大きくなるため、その昇華温度は高くなる。前駆体10bは、200℃〜250℃に加熱されて昇華され、200℃〜250℃に保持されたAu(111)面上に蒸着される。
前駆体10bでは、基本骨格のビアントリルにBr原子、Cl原子、F原子が結合したC−Br結合、C−Cl結合、C−F結合のうち、前駆体10b同士の連結点となるC−Br結合の結合エネルギーが、他のC−Cl結合及びC−F結合の結合エネルギーに比べて低い。200℃〜250℃のAu(111)面上に蒸着された前駆体10bでは、C−Br結合が切れることによるBr原子の脱離が起こる一方、C−Cl結合及びC−F結合が切れることによるCl原子及びF原子の脱離は抑えられる。200℃〜250℃のAu(111)面上では、脱Br化及びC−C結合反応が誘起され、前駆体10bの分子中央の連結点で重合した、図7に示すようなポリマー鎖20bが安定的に合成される。200℃〜250℃のAu(111)面上では、Cl原子及びF原子の脱離は抑えられ、前駆体10bとポリマー鎖20b、或いはポリマー鎖20b同士の、中央の連結点以外での結合は抑えられる。
前駆体10bの基本骨格にはC−H結合が含まれず、ポリマー鎖20bの合成過程では、H原子の脱離及びそれによるCラジカルの発生が抑えられるため、ポリマー鎖20bは、長さ方向(合成する7−AGNR30bのリボン長方向P)に効果的に延伸される。ポリマー鎖20bの長さ(及び合成する7−AGNR30bのリボン長)は、例えば、その下地であるAu(111)面等の基板の平面形状(その長さ)によって制御される。
上記のようなポリマー鎖20bを合成する真空蒸着に続き、Au(111)面が、例えば、1℃/分〜5℃/分の昇温速度で、300℃〜350℃に昇温され、10分〜1時間保持される。300℃〜350℃のAu(111)面上に合成されたポリマー鎖20bでは、C−Cl結合が切れることによるCl原子の脱離が起こる一方、C−F結合が切れることによるF原子の脱離は抑えられる。300℃〜350℃のAu(111)面上では、脱Cl化及びC−C結合反応が誘起され、ポリマー鎖20bの環化が進行する。これにより、図7に示すような、エッジがF原子で終端された、7−AGNR30bが安定的に合成される。300℃〜350℃のAu(111)面上では、F原子の脱離は抑えられ、ポリマー鎖20b同士、ポリマー鎖20bと7−AGNR30b、或いは7−AGNR30b同士の、ランダムな結合、目的とする結合点以外での結合(リボン幅方向Qの接合)は抑えられる。
前駆体10bを用いて合成される7−AGNR30bは、上記第2の実施の形態(図4)で述べたように、その下地であるAu(111)面等の基板の長さに応じたリボン長で合成される。
このように、前駆体10bを用いた7−AGNR30bの合成では、前駆体10bの基本骨格のビアントリルに結合したBr原子、Cl原子、F原子の脱離温度差が利用される。即ち、まず、脱離温度が最も低いBr原子の脱離及びC−C結合反応が、所定の温度の加熱で誘起され、長さ方向に延伸されたポリマー鎖20bが合成される。そして、脱離温度が中間のCl原子の脱離及びC−C結合反応が、より高温の加熱で誘起され、ポリマー鎖20bが環化され、7−AGNR30bが合成される。これにより、リボン長が長く、欠陥の発生が抑えられた7−AGNR30bが、安定的に合成される。
上記のような7−AGNR30bを合成する加熱に続き、Au(111)面を更に高温で加熱すると、リボン幅方向Qに隣接する7−AGNR30b群がAu(111)面上に存在する場合、それらをリボン幅方向Qに接合させることができる。
図8は第3の実施の形態に係るAGNRジャンクション合成の説明図である。
例えば、7−AGNR30bを合成する加熱に続き、Au(111)面が、400℃〜450℃に昇温され、10分〜1時間保持される。400℃〜450℃のAu(111)面上に合成された7−AGNR30bでは、C−F結合が切れることによるF原子の脱離(脱F化)が起こる。400℃〜450℃のAu(111)面上では、リボン長方向Pに平行に伸びる7−AGNR30b同士(図8の7−AGNR31b,32b)がリボン幅方向Qに隣接する場合、それらの間で、脱F化、及び脱F化されたC原子間のC−C結合反応が誘起される。これにより、7−AGNR30b同士がリボン幅方向Qに6員環接合されたAGNR(7−AGNRジャンクション)40bが合成される。ここでは一例として、平面L字形状の7−AGNRジャンクション40bを図示している。
7−AGNRジャンクション40bは、上記第2の実施の形態(図5及び図6)で述べたように、その下地であるAu(111)面等の基板の平面形状に応じた平面形状で合成される。
次に、第4の実施の形態について説明する。
図9は第4の実施の形態に係る前駆体及びそれを用いたAGNR合成の説明図である。
この例では、図9に示すような前駆体10c、即ち、1,4,5,7,8,11,12,14−オクタクロロ−2,3,9,10−テトラフルオロ−6,13−ジブロモペンタセン(1,4,5,7,8,11,12,14-octachloro-2,3,9,10-tetrafluoro-6,13-dibromopentacene)が用いられる。この前駆体10cは、上記式(2)において、s=1、t=2、X=Br、Y=Cl、Z=Fとした構造を有する分子である。
図9に示すような前駆体10cが、所定の基板上に真空蒸着され、更に加熱が行われて、リボン幅方向QにC原子11個分相当の幅を持った、11−AGNR30cが合成される。
例えば、上記第2の実施の形態で述べたのと同様に、表面清浄処理が施されたAu(111)面上に、前駆体10cが蒸着される。前駆体10cは、200℃〜250℃に加熱されて昇華され、200℃〜250℃に保持されたAu(111)面上に蒸着される。
前駆体10cでは、基本骨格のペンタセンにBr原子、Cl原子、F原子が結合したC−Br結合、C−Cl結合、C−F結合のうち、前駆体10c同士の連結点となるC−Br結合の結合エネルギーが、他のC−Cl結合及びC−F結合の結合エネルギーに比べて低い。200℃〜250℃のAu(111)面上に蒸着された前駆体10cでは、C−Br結合が切れることによるBr原子の脱離が起こる一方、C−Cl結合及びC−F結合が切れることによるCl原子及びF原子の脱離は抑えられる。200℃〜250℃のAu(111)面上では、脱Br化及びC−C結合反応が誘起され、前駆体10cの分子中央の連結点で重合した、図9に示すようなポリマー鎖20cが安定的に合成される。200℃〜250℃のAu(111)面上では、Cl原子及びF原子の脱離は抑えられ、前駆体10cとポリマー鎖20c、或いはポリマー鎖20c同士の、中央の連結点以外での結合は抑えられる。
前駆体10cの基本骨格にはC−H結合が含まれず、ポリマー鎖20cの合成過程では、H原子の脱離及びそれによるCラジカルの発生が抑えられるため、ポリマー鎖20cは、長さ方向(合成する11−AGNR30cのリボン長方向P)に効果的に延伸される。ポリマー鎖20cの長さ(及び合成する11−AGNR30cのリボン長)は、例えば、その下地であるAu(111)面等の基板の平面形状(その長さ)によって制御される。
上記のようなポリマー鎖20cを合成する真空蒸着に続き、Au(111)面が、例えば、1℃/分〜5℃/分の昇温速度で、300℃〜350℃に昇温され、10分〜1時間保持される。300℃〜350℃のAu(111)面上に合成されたポリマー鎖20bでは、C−Cl結合が切れることによるCl原子の脱離が起こる一方、C−F結合が切れることによるF原子の脱離は抑えられる。300℃〜350℃のAu(111)面上では、脱Cl化及びC−C結合反応が誘起され、ポリマー鎖20cの環化が進行する。これにより、図9に示すような、エッジがF原子で終端された、11−AGNR30cが安定的に合成される。300℃〜350℃のAu(111)面上では、F原子の脱離は抑えられ、ポリマー鎖20c同士、ポリマー鎖20cと11−AGNR30c、或いは11−AGNR30c同士の、ランダムな結合、目的とする結合点以外での結合(リボン幅方向Qの接合)は抑えられる。
前駆体10cを用いて合成される11−AGNR30cは、上記第2の実施の形態(図4)で述べたように、その下地であるAu(111)面等の基板の長さに応じたリボン長で合成される。
このように、前駆体10cを用いた11−AGNR30cの合成では、前駆体10cの基本骨格のペンタセンに結合したBr原子、Cl原子、F原子の脱離温度差が利用される。即ち、まず、脱離温度が最も低いBr原子の脱離及びC−C結合反応が、所定の温度の加熱で誘起され、長さ方向に延伸されたポリマー鎖20cが合成される。そして、脱離温度が中間のCl原子の脱離及びC−C結合反応が、より高温の加熱で誘起され、ポリマー鎖20cが環化され、11−AGNR30cが合成される。これにより、リボン長が長く、欠陥の発生が抑えられた11−AGNR30cが、安定的に合成される。
上記のような11−AGNR30cを合成する加熱に続き、Au(111)面を更に高温で加熱すると、リボン幅方向Qに隣接する11−AGNR30c群がAu(111)面上に存在する場合、それらをリボン幅方向Qに接合させることができる。
図10は第4の実施の形態に係るAGNRジャンクション合成の説明図である。
例えば、11−AGNR30cを合成する加熱に続き、Au(111)面が、400℃〜450℃に昇温され、10分〜1時間保持される。400℃〜450℃のAu(111)面上に合成された11−AGNR30cでは、C−F結合が切れることによるF原子の脱離が起こる。400℃〜450℃のAu(111)面上では、リボン長方向Pに平行に伸びる11−AGNR30c同士(図10の11−AGNR31c,32c)がリボン幅方向Qに隣接する場合、それらの間で、脱F化及びC−C結合反応が誘起される。これにより、11−AGNR30c同士がリボン幅方向Qに6員環接合されたAGNR(11−AGNRジャンクション)40cが合成される。ここでは一例として、平面L字形状の11−AGNRジャンクション40cを図示している。
11−AGNRジャンクション40cは、上記第2の実施の形態(図5及び図6)で述べたように、その下地であるAu(111)面等の基板の平面形状に応じた平面形状で合成される。
次に、第5の実施の形態について説明する。
上記のような前駆体を用いて合成されるAGNRを、半導体装置に用いる例を、第5の実施の形態として説明する。ここでは、半導体装置として、ソース及びドレインとなる一対の電極間をAGNRで繋ぐ、即ち、AGNRをチャネルに用いる電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor;FET)を例にする。
図11〜図16は第5の実施の形態に係る半導体装置の製造方法の説明図である。以下、図11〜図16を参照して順に説明する。
図11は金属層形成工程の一例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のL11−L11断面模式図である。
まず、図11(A)及び図11(B)に示すように、絶縁基板110上に金属層120を形成し、電子線リソグラフィ及びドライエッチングにより、金属層120をパターニングする。
ここで、絶縁基板110には、例えば、劈開して清浄表面を出したマイカ基板が用いられる。絶縁基板110は、絶縁性と平坦な結晶表面を有するものであれば特に限定されるものではない。絶縁基板110には、マイカ基板のほか、c面サファイア結晶基板、酸化マグネシウム(MgO)結晶基板等が用いられてもよい。ここでは、絶縁基板110として、劈開されたマイカ基板を用いる場合を例にする。
絶縁基板110上には、金属層120が形成される。金属層120は、後述のようにAGNR又はAGNRジャンクションが合成される際の下地となる層である。例えば、絶縁基板110であるマイカ基板の劈開面上に、金属層120として、Auが、蒸着法により、10nm〜50nmの膜厚で蒸着、堆積される。金属層120としてAuが蒸着される場合、Au(111)面の配向性を向上させるため、絶縁基板110が400℃〜550℃に加熱される。金属層120には、Auのほか、Cu、Ni、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt等が用いられてもよい。適宜、絶縁基板110の種類を選択することで、これらの金属を用いた金属層120のエピタキシャル結晶面が得られる。
次いで、絶縁基板110上に形成された金属層120がパターニングされる。上記のような前駆体の、ハロゲン原子等のX基、Y基及びZ基の脱離、及び脱離後に起こるC−C結合反応は、絶縁基板110上では効果的に誘起されない。そのため、金属層120がパターニングされ、パターニングされた金属層120の位置及び平面形状によって、その上に合成されるAGNR又はAGNRジャンクションの位置及び平面形状が制御される。AGNRは、リボン幅の増加に伴って半導体性から金属性へと物性が変化する。AGNRをFETに用いる場合には、ソース及びドレインとなる一対の電極との接続領域は金属性、間のチャネル領域は半導体性、即ち、金属性/半導体性/金属性という物性を示すAGNRジャンクションが合成されるように、金属層120の位置及び平面形状が設計される。例えば、図11(A)に示すように、幅W1の一対の幅広領域121と、この一対の幅広領域121間の、幅W1よりも狭い幅W2の幅狭領域122とを有するように、金属層120の位置及び平面形状が設計される。例えば、幅W1は、50nm以上とされ、幅W2は、1nm〜5nmとされる。幅狭領域122の長さLは、合成されるAGNRジャンクションの半導体性領域の長さ、即ち、形成されるFETのチャネル長を決定する。例えば、長さLは、100nm〜500nmとされる。
所定の位置及び平面形状に金属層120をパターニングする際には、まず、電子線レジスト等のレジスト材料がスピンコート法等により形成され、金属層120をエッチングするためのマスクパターンが形成される。これをマスクにして、Arイオンミリング等によりエッチング処理が施され、図11(A)に示すようなパターンの金属層120が形成される。
図12はAGNRジャンクション合成工程の一例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のL12−L12断面模式図である。また、図13はAGNRジャンクションの一例を示す図であって、図12のX部の拡大模式図である。
金属層120のパターニング後、図12(A)及び図12(B)に示すように、金属層120上にAGNRジャンクション130が合成される。
AGNRジャンクション130を合成する際には、例えば、上記第2〜第4の実施の形態で述べたのと同様にして、絶縁基板110上の金属層120の表面清浄処理が行われる。この表面清浄処理により、金属層120の表面に付着したレジスト残渣(有機系コンタミ)が除去されるほか、金属層120の結晶面の平坦性が高められる。表面清浄処理が施された金属層120を大気中に曝すことなく、超高真空の真空槽内で、その金属層120上にAGNRジャンクション130がin−situで合成される。
AGNRジャンクション130の合成には、上記第1の実施の形態(及び第2〜第4の実施の形態)で述べたような、式(2)のような構造を有する前駆体が用いられる。前駆体を金属層120上に蒸着する際には、金属層120上で前駆体が二次元最密充填構造をとるように、蒸着膜厚が1ML〜1.5MLとされる。金属層120上に蒸着された前駆体に対し、まず、その芳香環のC原子に結合したX基の脱離温度以上で、且つ、Y基及びZ基の脱離温度未満の条件で加熱が行われ、X基の脱離及びC−C結合反応により、前駆体の重合体、即ち、ポリマー鎖が合成される。次いで、Y基の脱離温度以上で、且つ、Z基の脱離温度未満の条件で加熱が行われ、Y基の脱離及びC−C結合反応により、ポリマー鎖の環化、即ち、AGNRが合成される。次いで、Z基の脱離温度以上の条件で加熱が行われ、Z基の脱離及びC−C結合反応により、隣接するAGNR同士の6員環接合体、即ち、AGNRジャンクション130が合成される。
このように、式(2)のような構造を有する前駆体が用いられ、所定の平面形状の金属層120上でポリマー鎖、AGNR及びAGNRジャンクション130の合成が行われることで、金属層120の平面形状に応じた平面形状を有するAGNRジャンクション130が合成される。即ち、金属層120の幅広領域121上には、図12及び図13に示すような比較的幅広のAGNRジャンクション部131が合成され、金属層120の幅狭領域122上には、図12及び図13に示すような比較的幅狭のAGNRジャンクション部132が合成される。金属層120の幅広領域121及び幅狭領域122を、それぞれ所定の幅W1及び幅W2(<W1)で形成しておくことで(図11)、AGNRジャンクション部131が金属性を示すような幅で合成され、AGNRジャンクション部132が半導体性を示すような幅で合成される。これにより、一対の金属性のAGNRジャンクション部131と、その間の半導体性のAGNRジャンクション部132とを有するAGNRジャンクション130が、金属層120上に合成される。
図14は電極形成工程の一例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のL14−L14断面模式図である。
AGNRジャンクション130の合成後、図14(A)及び図14(B)に示すように、その両端部の金属性のAGNRジャンクション部131上にそれぞれ、ソース及びドレインとして用いられる電極140a及び電極140bが形成される。
電極140a及び電極140bを形成する際には、例えば、電子線リソグラフィ、電極材料の蒸着、及びリフトオフが行われ、AGNRジャンクション130の両端部の、金属性のAGNRジャンクション部131上に、電極140a及び電極140bが形成される。電極140a及び電極140bにはそれぞれ、例えば、チタン(Ti)層とその上に積層されたクロム(Cr)層とを有する2層構造(Cr/Ti)の電極が用いられる。金属性のAGNRジャンクション部131上に電極140a及び電極140bが形成されることで、これらの間のコンタクト抵抗の低減が図られる。
Cr/Tiの電極140a及び電極140bの形成では、まず、電子線リソグラフィにより、2層レジスト等で、電極形成用のレジストパターンが形成され、次いで、Ti及びCrが順次、蒸着法により堆積される。例えば、Tiの膜厚は0.5nm〜1nmとされ、Crの膜厚は30nm〜50nmとされる。Ti及びCrの蒸着後、リフトオフにより、レジストパターン並びにその上に堆積されたTi及びCrが除去される。これにより、AGNRジャンクション130の両端部の、金属性のAGNRジャンクション部131上に、電極140a及び電極140bが形成される。
尚、AGNRジャンクション130の中間部に位置する半導体性のAGNRジャンクション部132下の金属層120は、後述のように、ウェットエッチングにより除去される。そのため、ここで形成される電極140a及び電極140bは、金属層120に対して十分なエッチング選択比を有していることが望ましい。金属層120にAuが用いられ、ウェットエッチングのエッチャントに後述のようなヨウ化カリウム(KI)水溶液が用いられる場合、KI水溶液に対して十分なエッチング耐性のあるCr/Tiは、電極140a及び電極140bの材料として好適である。
図15はゲートスタック構造形成工程の一例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のL15−L15断面模式図である。
電極140a及び電極140bの形成後、図15(A)及び図15(B)に示すように、AGNRジャンクション130の中間部に位置する半導体性のAGNRジャンクション部132上に、ゲート絶縁層150及びゲート電極160の積層体であるゲートスタック構造が形成される。例えば、上記電極140a及び電極140bの形成と同様に、電子線リソグラフィ、絶縁材料及び電極材料の蒸着、及びリフトオフが行われ、ゲート絶縁層150及びゲート電極160のゲートスタック構造が形成される。
ゲートスタック構造の形成では、まず、電子線リソグラフィにより、2層レジスト等で、ゲートスタック構造形成用のレジストパターンが形成される。例えば、ゲート電極160のゲート長は、50nmに設計される。ここで、AGNRジャンクション130の中間部に位置する半導体性のAGNRジャンクション部132下の金属層120は、後述のように、ウェットエッチングにより除去される。そのため、形成されるゲートスタック構造と、電極140a及び電極140bとの間に、ウェットエッチングのエッチャントが浸入できる隙間170が形成されるように、ゲートスタック構造形成用のレジストパターンが形成される。
次いで、形成されたレジストパターン上に、ゲート絶縁層150の絶縁材料及びゲート電極160の電極材料が順次、蒸着法により堆積される。例えば、ゲート絶縁層150として、膜厚が5nm〜10nmの酸化イットリウム(Y2O3)が堆積される。真空槽内に、酸素(O2)ガスを導入しながらイットリウム(Y)金属を蒸着することで、Y2O3が形成される。ゲート絶縁層150には、Y2O3のほか、それと同様のO2ガスを導入する蒸着法により、酸化シリコン(SiO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化ランタン(La2O3)、酸化チタン(TiO2)等が用いられてもよい。また、ゲート電極160としては、電極140a及び電極140bと同様の膜厚でCr/Tiが堆積される。
尚、ゲート絶縁層150の絶縁材料及びゲート電極160の電極材料は、半導体性のAGNRジャンクション部132下の金属層120を後述のようにウェットエッチングで除去する際のエッチャントに対して十分なエッチング耐性を有することが望ましい。金属層120にAuが用いられ、ウェットエッチングのエッチャントに後述のようなKI水溶液が用いられる場合、上記絶縁材料及び電極材料は、KI水溶液に対して十分なエッチング耐性を有し、ゲート絶縁層150及びゲート電極160の材料として好適である。
レジストパターン上へのゲート絶縁層150の絶縁材料及びゲート電極160の電極材料の堆積後、リフトオフにより、レジストパターン並びにその上に堆積された絶縁材料及び電極材料が除去される。これにより、AGNRジャンクション130の中間部に位置する、半導体性のAGNRジャンクション部132上に、電極140a及び電極140bから離間して、ゲート絶縁層150及びゲート電極160が形成される。
図16はウェットエッチング工程の一例を示す図であって、(A)は平面模式図、(B)は(A)のL16−L16断面模式図である。
ゲート絶縁層150及びゲート電極160の形成後、図16(A)及び図16(B)に示すように、AGNRジャンクション130下の金属層120の一部が、ウェットエッチングにより除去される。
例えば、前述のように、金属層120にAuが用いられる場合、ウェットエッチングのエッチャントには、KI水溶液が用いられる。ゲート絶縁層150及びゲート電極160のゲートスタック構造と、電極140a及び電極140bとの間には、隙間170が形成されており、この隙間170からエッチャントが浸入し、AGNRジャンクション130下の金属層120の一部が除去される。その際は、金属層120のうち、少なくとも半導体性のAGNRジャンクション部132下の金属層120が除去されるように、ウェットエッチングが行われる。このように金属層120の一部が除去されることで、AGNRジャンクション130下に空洞180が形成される。
金属層120の除去後は、例えば、純水による洗浄、イソプロピルアルコールによるリンス処理が順次行われる。その後、洗浄及びリンス処理に用いた溶液の表面張力や毛管力によるAGNRジャンクション130の切断を抑えるため、二酸化炭素(CO2)ガスを用いた超臨界乾燥処理が行われる。
以上のような工程を経て、図16(A)及び図16(B)に示すような、一対の電極140a及び電極140bとゲート絶縁層150によってサスペンデッドされたAGNRジャンクション130を用いたFETを備える半導体装置100が得られる。
この半導体装置100では、AGNRジャンクション130における中間部の半導体性のAGNRジャンクション部132がチャネルとして用いられ、両端部の金属性のAGNRジャンクション部131にそれぞれ電極140a及び電極140bが接続される。ゲート電極160の電位が制御されることで、電極140aと電極140bとの間を繋ぐ半導体性のAGNRジャンクション部132、即ちチャネルのオンオフが制御される。AGNRの高いキャリア移動度を活かした、高速、高性能の半導体装置100が実現される。
次に、第6の実施の形態について説明する。
ここでは、上記のような前駆体を用いて合成されるAGNRを、半導体装置に用いる別の例を、第6の実施の形態として説明する。
図17は第6の実施の形態に係る半導体装置の第1の例を示す図である。図17には、半導体装置の要部断面図を模式的に示している。
図17に示す半導体装置200は、トップゲート型FETの一例であって、支持基板210、AGNRジャンクション220、電極230a、電極230b、ゲート絶縁層240及びゲート電極250を有する。
支持基板210には、サファイア等の絶縁性の各種基板、少なくとも表層に無機系又は有機系の絶縁材料が設けられた各種基板が用いられる。このような支持基板210上に、AGNRジャンクション220が設けられる。AGNRジャンクション220は、式(2)のような構造を有する前駆体を用いて所定の平面形状の金属層上に合成したものを、支持基板210上に転写することで、設けられる。
半導体装置200では、AGNRジャンクション220として、両端部に、所定の幅(図示せず)で金属性のAGNRジャンクション部221を有し、それらの中間部に、それらよりも狭い幅(図示せず)で半導体性のAGNRジャンクション部222を有するものが用いられる。両端部の金属性のAGNRジャンクション部221上にそれぞれ、電極230a及び電極230bが接続され、中間部の半導体性のAGNRジャンクション部222上に、ゲート絶縁層240を介してゲート電極250が設けられる。ゲート電極250の電位が制御されることで、電極230aと電極230bとの間を繋ぐ半導体性のAGNRジャンクション部222、即ちチャネルのオンオフが制御される。AGNRの高いキャリア移動度を活かした、高速、高性能の半導体装置200が実現される。
図18は第6の実施の形態に係る半導体装置の第2の例を示す図である。図18には、半導体装置の要部断面図を模式的に示している。
図18に示す半導体装置300は、ボトムゲート型FETの一例であって、ゲート電極310、ゲート絶縁層320、AGNRジャンクション330、電極340a及び電極340bを有する。
ゲート電極310には、導電性を有する基板が用いられ、例えば、所定導電型の不純物元素を添加したシリコン(Si)基板等の半導体基板が用いられる。このようなゲート電極310上に、ゲート絶縁層320が設けられ、ゲート絶縁層320上に、AGNRジャンクション330が設けられる。AGNRジャンクション330は、式(2)のような構造を有する前駆体を用いて所定の平面形状の金属層上に合成したものを、ゲート絶縁層320上に転写することで、設けられる。
半導体装置300では、AGNRジャンクション330として、両端部に、所定の幅(図示せず)で金属性のAGNRジャンクション部331を有し、それらの中間部に、それらよりも狭い幅(図示せず)で半導体性のAGNRジャンクション部332を有するものが用いられる。両端部の金属性のAGNRジャンクション部331上にそれぞれ、電極340a及び電極340bが接続される。ゲート電極310の電位が制御されることで、電極340aと電極340bとの間を繋ぐ半導体性のAGNRジャンクション部332、即ちチャネルのオンオフが制御される。AGNRの高いキャリア移動度を活かした、高速、高性能の半導体装置300が実現される。
また、図18に示すような半導体装置300は、AGNRジャンクション330の、分子吸着時に抵抗が変化する性質を利用し、FET型ガスセンサーとして用いることもできる。FET型ガスセンサーとして用いられる半導体装置300では、AGNRジャンクション330にガスが吸着した時の、電極340aと電極340bとの間に流れる電流と、ゲート電極310の電圧との関係の変化が、測定される。AGNRジャンクション330を用いることで、高感度のFET型ガスセンサーが実現される。
図19は第6の実施の形態に係る半導体装置の第3の例を示す図である。図19には、半導体装置の要部断面図を模式的に示している。
図19に示す半導体装置400は、ショットキーバリアダイオードの一例であって、支持基板410、AGNRジャンクション420、電極430a及び電極430bを有する。
支持基板410には、サファイア等の絶縁性の各種基板、少なくとも表層に無機系又は有機系の絶縁材料が設けられた各種基板が用いられる。このような支持基板410の上に、AGNRジャンクション420が設けられる。AGNRジャンクション420は、式(2)のような構造を有する前駆体を用いて所定の平面形状の金属層上に合成したものを、支持基板410上に転写することで、設けられる。
ここで、ショットキーバリアダイオードとして用いられる半導体装置400では、AGNRジャンクション420として、次のようなものが用いられる。即ち、両端部に、所定の幅(図示せず)で金属性のAGNRジャンクション部421を有し、それらの中間部に、それらよりも狭い幅(図示せず)で、バンドギャップ又は仕事関数の異なる半導体性のAGNRジャンクション部422a及びAGNRジャンクション部422bを有する、AGNRジャンクション420が用いられる。
半導体性のAGNRジャンクション部422a及びAGNRジャンクション部422bには、例えば、互いの幅を異ならせたものや、互いのエッジ終端基を異ならせたものが用いられる。
互いの幅を異ならせる場合には、AGNRジャンクション部422aが合成される部位と、AGNRジャンクション部422bが合成される部位との幅が異なる金属層上に、式(2)のような前駆体を用いて合成を行う。
また、互いのエッジ終端基を異ならせる場合には、金属層上の一部に選択的に、第1のZ基を有する前駆体を用いて合成を行い、それに続けて、金属層上の他部に選択的に、第1のZ基とは異なる第2のZ基を有する前駆体を用いて合成を行う。或いは、AGNRジャンクションを合成し、その合成されたAGNRジャンクションの一部のエッジに選択的に第1のZ基を導入し、要すれば他部のエッジに選択的に第2の基を導入する。このようにして、エッジが異なるZ基で終端されたAGNRジャンクション部422a及びAGNRジャンクション部422bを繋げた構造を得る。
AGNRジャンクション420には、このような半導体性のAGNRジャンクション部422a及びAGNRジャンクション部422bと共に、両端部に金属性のAGNRジャンクション部421が設けられる。両端部の金属性のAGNRジャンクション部421上にそれぞれ、電極430a及び電極430bが接続される。一方の電極430aには、一方のAGNRジャンクション部421とショットキー接続される材料(Cr等)が用いられ、他方の電極430bには、他方のAGNRジャンクション部421とオーミック接続される材料(Ti等)が用いられる。
上記構成を有する半導体装置400によれば、優れたダイオード特性を有するショットキーバリアダイオードが実現される。
尚、半導体性のAGNRジャンクション部222,332,422a,422bは、それらに対するドーピング機能を有する材料、例えば、いわゆる自己組織化単分子膜(Self-Assembled Monolayer;SAM)上に設けられてもよい。
次に、第7の実施の形態について説明する。
上記第5及び第6の実施の形態で述べたような半導体装置100,200,300,400等は、各種電子装置(又は電子機器)に搭載することができる。例えば、コンピュータ(パーソナルコンピュータ、スーパーコンピュータ、サーバ等)、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、センサ、カメラ、オーディオ機器、測定装置、検査装置、製造装置といった、各種電子装置に用いることができる。
図20は電子装置について説明する図である。図20には、電子装置の一例を模式的に示している。
図20に示すように、例えば、上記図16に示したような半導体装置100が、各種電子装置500に搭載(内蔵)される。上記のように半導体装置100は、AGNRジャンクション130の高いキャリア移動度を活かした、高速、高性能のFETを備える。このような半導体装置100を搭載した、高速、高性能の電子装置500が実現される。
ここでは、上記図16に示したような半導体装置100を例にしたが、他の半導体装置200,300,400等も同様に、各種電子装置に搭載することができる。