JP2017082188A - 修飾セルロース微細繊維及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ナノサイズで結晶化度が高く、繊維形状の損傷が少なくてアスペクト比が大きく、且つ有機溶媒への分散性が優れた修飾セルロース微細繊維を、機械的に破砕することなく、簡便かつ効率良く生産する。
【解決手段】塩基触媒又は酸触媒を含む触媒と二塩基カルボン酸無水物を含む反応性解繊液をセルロースに浸透させて、セルロースをエステル化して化学解繊し、カルボキシル基含有セルロース微細繊維を得る修飾解繊工程を経て修飾セルロース微細繊維を製造する。前記触媒はピリジン類であってもよい。前記反応性解繊液は、さらにドナー数25以上の非プロトン性溶媒を含んでいてもよい。前記二塩基カルボン酸無水物は脂肪族ジカルボン酸無水物であってもよい。前記カルボキシル基含有セルロース微細繊維は、カルボキシル基に対する反応性基及び9,9−位にアリール基を有するフルオレン化合物とさらに反応させてもよい。
【選択図】なし

Description

本発明は、繊維表面が二塩基カルボン酸無水物でエステル化された修飾セルロース微細繊維及びその製造方法に関する。
セルロース繊維(細胞壁単位)は、セルロース微細繊維(ミクロフィブリル)の集合体である。セルロース微細繊維は、鋼鉄に匹敵する機械特性を持ち、直径約30nmのナノ構造を持つため、補強剤として社会的に熱く注目されている。しかし、セルロース微細繊維は、繊維間が水素結合により結束されており、その微細繊維を取り出すためには、水素結合を解いてミクロフィブリルを分離(解繊)する必要がある。そこで、このようなミクロフィブリルの分離は、解繊と称され、セルロース微細繊維(セルロースナノファイバー)の解繊法として、激しい物理力を加えた機械解繊法が開発された。
機械解繊法は、水中でセルロース繊維を機械的に解繊する水中機械解繊法が汎用されており、水中機械解繊法では、セルロース繊維は、水により膨潤され、柔らかくなった状態で高圧ホモジナイザーなどの強力な機械剪断によりナノ化される。しかし、天然のセルロースミクロフィブリルは、結晶ゾーン(結晶域)と非晶ゾーン(非晶域)とから構成されるが、非晶ゾーンは、水などの膨潤性溶媒を吸収、膨潤した状態になると、強力な剪断により変形する。そのため、セルロース繊維は、剪断によりダメージを受け、絡み合いや引っ掛かりが生じ易い分岐形状となる。また、ボールミルなどの強力な機械粉砕法により、固体状態特有のメカノケミカル反応が起こり、この作用によりセルロースの結晶構造が破壊されたり、溶解されたりすることが避けられなくなる。その結果、収率は低くなり、結晶化度が低くなり易い。さらに、セルロース微細繊維は樹脂の強化材料として利用できるが、樹脂と複合化するためには、水中機械解繊法では、解繊の後、脱水して繊維表面を修飾して疎水化する必要があり、この脱水工程には高いエネルギーが必要となる。
そこで、繊維表面をエステル化し、樹脂や有機溶媒などの有機媒体への分散性に優れたセルロース微細繊維の製造方法として、特開2010−104768号公報(特許文献1)には、塩化ブチルメチルイミダゾリウムなどのイオン液体と有機溶媒とを含有する混合溶媒を用いてセルロース系物質を膨潤及び/又は部分溶解させた後、エステル化する多糖類ナノファイバーの製造方法が開示されている。この文献の実施例では、エステル化剤として、無水酢酸、無水酪酸が使用されている。
しかし、この製造方法では、特殊なイオン液体を使用する必要があり、イオン液体を回収や再利用するための精製工程はセルロースナノファイバーの製造コストの上昇や製造工程の複雑化につながる。
特開2009−293167号公報(特許文献2)には、セルロースの水酸基の一部に多塩基酸無水物を半エステル化してカルボキシル基を導入することにより、多塩基酸半エステル化セルロースを調製する多塩基酸半エステル化セルロース調製工程と、前記多塩基酸半エステル化セルロースを微細繊維化することにより、ナノ繊維を製造する繊維製造工程とを含むナノ繊維の製造方法が開示されている。この文献には、任意の工程であるセルロース膨潤工程において、膨潤剤として、水、低級アルコールが記載されている。この文献の実施例では、セルロース粉末と無水マレイン酸や無水コハク酸などの多塩基酸無水物とを加熱下で混練した後、アルテマイザーや高圧ホモジナイザーなどの強力で叩解能力のある装置を用いて多塩基酸半エステル化セルロースを微細繊維化している。
また、特表2015−500354号公報(特許文献3)には、セルロースと有機溶剤とを混合させ、混合物にエステル化剤を添加して物理破砕すると共にセルロースファイバー表面のヒドロキシル基をエステル化するセルロースナノファイバー懸濁液の製造方法が開示されている。この文献の実施例では、セルロースをクロロホルムと混合した後、無水コハク酸を添加して超音波破砕した例や、セルロースをピリジンと混合した後、塩化ラウロイルを添加してボール研磨した例などが記載されている。
しかし、特許文献2及び3の方法では、強力な機械的破砕により繊維を解繊するため、前述のように、セルロース繊維がダメージを受ける。さらに、機械的破砕のための設備やエネルギーも必要となる。また、エステル化剤自身又はエステル化剤を含む溶液はセルロースのミクロフィブリルの間に充分浸透できないためエステル化修飾は殆どセルロース繊維の表面に留まる。その状態で機械解繊を加えてナノサイズまで解繊しても、得られたナノファイバーの多くは修飾されず有機溶媒や樹脂への分散性が低いことが想定できる。
特開2012−229350号公報(特許文献4)には、植物繊維を解繊し、セルロースナノファイバーを得る工程、得られたセルロースナノファイバーを無水多塩基酸でエステル化し、セルロースナノファイバーの水酸基の一部が、カルボキシル基を有する置換基で変性された変性セルロースナノファイバーを得る工程、得られた変性セルロースナノファイバーと樹脂を混合し、かつ樹脂と変性セルロースナノファイバーのカルボキシル基を反応させる工程を含む樹脂組成物の製造方法が開示されている。この文献には、エステル化の反応溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ケトン系溶媒、エステル系溶媒が記載されている。この文献の実施例では、パルプを機械的に摩砕してナノファイバーを得た後、アセトン及びN−メチル−2−ピロリドンの存在下、無水コハク酸又は無水グルタル酸でエステル化している。
しかし、この方法でも、強力な機械的破砕による解繊と得られたセルロースナノファイバーの表面修飾との2段階法であるため、セルロース繊維がダメージを受け、機械的破砕のための設備やエネルギーも必要となる。さらに、この工程により得られた表面修飾セルロースナノファイバーは、サイズや表面修飾官能基の均一性が低下する。
さらに、強力な解繊や粉砕を必要としない化学解繊法として、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシラジカル(TEMPO)を用いたTEMPO酸化法も注目されている。WO2010/116794号パンフレット(特許文献5)には、TEMPOなどのN−オキシル化合物と臭化物及び/又はヨウ化物との存在下で酸化剤を用いセルロース系原料を酸化した後、湿式微粒化処理するセルロースナノファイバー分散液の製造方法が開示されている。
しかし、TEMPO法で得られたセルロースナノファイバーは高い親水性や水分散性を有するが、有機媒体への分散性が低い。さらに、高価なTEMPO触媒や大量のアルカリ物質を用いるため、経済性が低く、排水処理も困難であり、環境に対する負荷も大きい。
特開2010−104768号公報(請求項1、実施例) 特開2009−293167号公報(請求項1、段落[0036]〜[0038]、実施例) 特表2015−500354号公報(請求項1、実施例) 特開2012−229350号公報(請求項6、段落[0073][0081]、実施例) WO2010/116794号パンフレット(請求項6)
従って、本発明の目的は、機械的に破砕することなく、簡便かつ効率良く生産できるとともに、ナノサイズで結晶化度が高く、繊維形状の損傷が少なくてアスペクト比が大きく、且つ、有機溶媒への分散性が優れた修飾セルロース微細繊維及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、有機媒体との親和性も高い修飾セルロース微細繊維及びその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、機械的に破砕することなく、塩基又は酸触媒と二塩基カルボン酸無水物とを含む反応性解繊液をセルロースに浸透させて、セルロースをエステル化して化学解繊し、特定のカルボキシル基含有セルロース微細繊維、すなわちナノサイズで結晶化度が高く、繊維形状の損傷が少なくてアスペクト比が大きく、且つ有機溶媒への分散性が優れたセルロース微細繊維を、省エネルギーな方法で簡便かつ効率良く生産できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の修飾セルロース微細繊維の製造方法は、塩基又は酸触媒を含む触媒と二塩基カルボン酸無水物とを含む反応性解繊液をセルロースに浸透させて、セルロースをエステル化して化学解繊し、カルボキシル基含有セルロース微細繊維を得る修飾解繊工程を含む。前記触媒はピリジン類であってもよい。前記反応性解繊液は、さらにドナー数25以上の非プロトン性溶媒を含んでいてもよい。ドナー数25以上の非プロトン性溶媒は、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド及びN−メチル−2−ピロリドンからなる群より選択された少なくとも1種であってもよい。前記触媒の割合は、反応性解繊液全体に対して10〜90重量%程度である。前記二塩基カルボン酸無水物は、脂肪族ジカルボン酸無水物、脂環族ジカルボン酸無水物及び芳香族ジカルボン酸無水物からなる群より選択された少なくとも1種(特に脂肪族ジカルボン酸無水物)であってもよい。前記二塩基カルボン酸無水物の割合は、反応性解繊液全体に対して10〜90重量%程度であってもよい。前記セルロースと反応性解繊液との重量割合は、前者/後者=1/99〜30/70程度であってもよい。本発明の製造方法は、カルボキシル基含有セルロース微細繊維と、カルボキシル基に対する反応性基及び9,9−位にアリール基を有するフルオレン化合物とを反応させてフルオレン含有セルロース微細繊維を得るフルオレン修飾工程をさらに含んでいてもよい。前記フルオレン修飾工程の反応温度は120〜200℃程度である。前記カルボキシル基含有セルロース微細繊維と前記フルオレン化合物との重量割合は、前者/後者=10/1〜1/10程度であってもよい。前記セルロースの平均繊維径は1μm以上であってもよい。
本発明には、二塩基カルボン酸無水物で修飾され、溶媒に分散でき、結晶化度が70%以上であり、平均繊維径が20〜800nmであり、かつ平均繊維長が1〜200μmであるカルボキシル基含有セルロース微細繊維も含まれる。このカルボキシル基含有セルロース微細繊維の平均置換度は0.05〜2.0程度であってもよい。
本発明には、二塩基カルボン酸無水物を介して反応性基及び9,9−位にアリール基を有するフルオレン化合物が結合したフルオレン含有セルロース微細繊維も含まれる。
本発明では、機械的に破砕することなく、塩基又は酸触媒と二塩基カルボン酸無水物とを含む反応性解繊液をセルロースに浸透させて、セルロースをエステル化して化学解繊するため、天然由来のセルロースの結晶構造やミクロフィブリル構造を破壊することなく、解繊できる。特に、本発明では、前記反応性解繊液の浸透に伴ってセルロースを膨潤させることができ、セルロースの解繊効率を向上できる。そのため、ナノサイズで結晶化度が高く、繊維形状の損傷が少なくてアスペクト比が大きく、且つ有機溶媒への分散性が優れたカルボキシル基含有セルロース微細繊維を、省エネルギーな方法で簡便かつ効率良く生産できる。特に、得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維にフルオレン化合物を導入すると、樹脂などの有機媒体との親和性も向上できる。
図1は、実施例で使用した原料のセルロースパルプの光学顕微鏡写真である。 図2は、実施例1で得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。 図3は、実施例2で得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維のSEM写真である。 図4は、実施例3〜5で得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維のIRスペクトルである。 図5は、実施例3で得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維のSEM写真である。 図6は、実施例4で得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維のSEM写真である。 図7は、実施例5で得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維のSEM写真である。 図8は、実施例6で得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維のSEM写真である。 図9は、実施例10で得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維のSEM写真である。 図10は、比較例1で得られたフルオレン修飾を含有セルロース微細繊維の光学顕微鏡写真である。 図11は、実施例11で得られたフルオレン修飾を含有セルロース微細繊維のIRスペクトルである。 図12は、実施例11で得られたフルオレン修飾を含有セルロース微細繊維のSEM写真である。
[修飾解繊工程]
本発明の修飾セルロース微細繊維の製造方法は、塩基触媒又は酸触媒を含む触媒と二塩基カルボン酸無水物(環状型酸無水物)とを含む反応性解繊液(反応性解繊溶液又は混合液)をセルロースに浸透させてセルロースをエステル化して化学解繊し、カルボキシル基含有セルロース微細繊維を得る修飾解繊工程を含む。本発明では、この工程によってセルロースが修飾されると同時に、解繊される理由は次のように推定できる。すなわち、前記触媒及び二塩基カルボン酸無水物(特に、さらに非プロトン性溶媒)を含む反応性解繊液は、セルロースに対する溶解性の低い溶液であり、この溶液がセルロースのミクロフィブリル間に浸透してセルロースを膨潤させ、ミクロフィブリルの表面の水酸基を修飾する。さらに、この修飾によりミクロフィブリル間の水素結合が破壊され、ミクロフィブリル同士は容易に離れ、解繊される。また、前記溶液は、ミクロフィブリルの結晶ゾーン(ドメイン)に浸透しないため、得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維は、ダメージが少なく、天然のミクロフィブリルに近い構造を有している。同時に、この工程では、剪断力の働きによる機械的解繊手段を用いることなく、セルロースを解繊できるため、物理的な作用によるダメージも少ない。そのため、得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維は、高い強度を保持していると推定できる。
(セルロース)
原料となるセルロースは、セルロース単独の形態であってもよく、リグニンやヘミセルロースなどの非セルロース成分を含む混合形態であってもよい。
単独形態のセルロース(又は非セルロース成分の含有量が少ないセルロース)としては、例えば、パルプ(例えば、木材パルプ、竹パルプ、ワラパルプ、バガスパルプ、リンターパルプ、亜麻パルプ、麻パルプ、楮パルプ、三椏パルプなど)、ホヤセルロース、バクテリアセルロース、セルロースパウダー、結晶セルロースなどが挙げられる。
混合形態のセルロース(セルロース組成物)としては、例えば、木材[例えば、針葉樹(マツ、モミ、トウヒ、ツガ、スギなど)、広葉樹(ブナ、カバ、ポプラ、カエデなど)など]、草本類[麻類(麻、亜麻、マニラ麻、ラミーなど)、ワラ、バガス、ミツマタなど]、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、竹、サトウキビ、紙などが挙げられる。
これらのセルロースは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。混合形態のセルロースにおいて、非セルロース成分の割合は90重量%以下であってもよく、例えば1〜90重量%、好ましくは3〜80重量%、さらに好ましくは5〜70重量%程度であってもよい。他の成分の割合が多すぎると、カルボキシル基含有セルロース微細繊維の製造が困難となる虞がある。
セルロースは、結晶セルロース(特にI型結晶セルロース)を含むのが好ましく、結晶セルロースと非晶セルロース(不定形セルロースなど)との組み合わせであってもよい。結晶セルロース(特にI型結晶セルロース)の割合は、セルロース全体に対して10重量%以上であってもよく、例えば30〜99重量%、好ましくは50〜98.5重量%、さらに好ましくは60〜98重量%程度である。結晶セルロースの割合が少なすぎると、カルボキシル基含有セルロース微細繊維の耐熱性や強度が低下する虞がある。
これらのうち、修飾及び解繊し易い点から、木材パルプ(例えば、針葉樹パルプ、広葉樹パルプなど)、種子毛繊維のパルプ(例えば、コットンリンターパルプ)、セルロースパウダーなどが汎用される。なお、パルプは、パルプ材を機械的に処理した機械パルプであってもよいが、非セルロース成分の含有量が少ないことからパルプ材を化学的に処理した化学パルプが好ましい。
原料となるセルロースの平均繊維径は、通常1μm以上であり、例えば5〜500μm、好ましくは10〜300μm、さらに好ましくは20〜100μm(特に30〜50μm)程度であってもよい。なお、本明細書及び特許請求の範囲では、原料セルロースの平均繊維径は、光学顕微鏡写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出してもよい。
セルロースと反応性解繊液との重量割合は、前者/後者=1/99〜30/70程度の範囲から選択でき、例えば1.2/98.8〜25/75、好ましくは1.3/98.7〜20/80、さらに好ましくは1.5/98.5〜15/85程度である。両者の重量割合は、混練機を用いて生産性を向上できる点から、前者/後者=3/97〜20/80、好ましくは5/95〜15/85、さらに好ましくは8/92〜12/82程度であってもよい。セルロースの割合が少なすぎると、カルボキシル基含有セルロース微細繊維の生産量が低くなり、多すぎると、反応時間が長くなるため、いずれにしても生産性が低下する虞がある。さらに、セルロースの割合が多すぎると得られた微細繊維のサイズと修飾率の均一性が低下する虞がある。
反応性解繊液に対するセルロースの飽和吸収率は、例えば10倍以上(例えば10〜200倍程度)、好ましくは20倍以上(例えば20〜150倍程度)、さらに好ましくは30倍以上(例えば30〜100倍程度)である。飽和吸収率が低すぎると、セルロースの解繊性及び得られた微細繊維の均一性が低下する虞がある。
(二塩基カルボン酸無水物)
二塩基カルボン酸(ジカルボン酸)無水物(エステル化剤)には、脂肪族ジカルボン酸無水物、脂環族ジカルボン酸無水物、芳香族ジカルボン酸無水物が含まれる。
脂肪族ジカルボン酸無水物としては、例えば、無水コハク酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸無水物;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物などが挙げられる。脂環族ジカルボン酸無水物としては、例えば、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。芳香族ジカルボン酸無水物としては、例えば、無水フタル酸、無水ナフタル酸などが挙げられる。これらの二塩基カルボン酸無水物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの二塩基カルボン酸無水物のうち、修飾性及び解繊性の点から、無水コハク酸や無水マレイン酸などの炭素数4〜8の飽和又は不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物が好ましく、炭素数4〜6の飽和脂肪族ジカルボン酸無水物が特に好ましい。炭素数が大きすぎると、ミクロフィブリル間への浸透性とセルロース水酸基に対する反応性が低下する虞がある。
反応性解繊液中の二塩基カルボン酸無水物の濃度(重量割合)は、ミクロフィブリル間への浸透性とセルロース水酸基に対する反応性のバランスに優れる点から、1〜50重量%(例えば3〜50重量%)程度の範囲から選択でき、例えば2〜40重量%、好ましくは5〜30重量%程度である。
セルロースと二塩基カルボン酸無水物との割合は、ミクロフィブリル間への浸透性とセルロース水酸基に対する反応性のバランスに優れる点から、セルロースの無水グルカンユニット(無水グルコース単位)換算のモル比で、前者/後者=10/1〜1/10程度の範囲から選択でき、例えば1/1〜1/8、好ましくは1/2〜1/6、さらに好ましくは1/3〜1/5程度である。両者の重量割合は、例えば、セルロース/二塩基カルボン酸無水物=30/70〜5/95、好ましくは50/50〜10/90、さらに好ましくは45/55〜15/85程度である。
(触媒)
本発明では、セルロースのエステル化を促進するために、二塩基カルボン酸無水物に加えて触媒を用いる。触媒には、塩基触媒、酸触媒(プロトン酸、ルイス酸など)などが含まれ、金属触媒(有機スズ化合物など)などであってもよい。これらのうち、塩基触媒、酸触媒が汎用される。
塩基触媒としては、例えば、第三級アミン類(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのトリC1−4アルキルアミンなど)、第4級アンモニウム塩(例えば、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウムハライド;塩化ベンジルトリメチルアンモニウムなどのベンジルトリアルキルアンモニウムハライドなど)、ピリジン類[例えば、ピリジン;メチルピリジン(ピコリン)、エチルピリジンなどのC1−4アルキルピリジン;ジメチルピリジン(ルチジン)などのジC1−4アルキルピリジン;トリメチルピリジン(コリジン)などのトリC1−4アルキルピリジンなど]などが挙げられる。これらの塩基触媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
酸触媒としては、例えば、無機酸[例えば、硫酸、塩化水素(又は塩酸)、硝酸、リン酸など]、有機酸[例えば、カルボン酸(ギ酸などの脂肪族モノカルボン酸;シュウ酸などの脂肪族ジカルボン酸など)、スルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などのアレーンスルホン酸)など]が挙げられる。これらの酸触媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの触媒のうち、トリエチルアミンなどのトリC1−4アルキルアミン、ピリジンなどのピリジン類、硫酸や塩酸などの無機酸、ギ酸などの脂肪族モノカルボン酸、シュウ酸などの脂肪族ジカルボン酸、トルエンスルホン酸などのアレーンスルホン酸が好ましく、エステル化反応における触媒作用だけでなく、二塩基カルボン酸無水物のミクロフィブリル間への浸透性も促進できる点から、ピリジン類(特にピリジン)が特に好ましい。さらに、ピリジン類は、触媒機能を有する溶媒として用いることもでき、沸点も低いため、回収も容易であり、再利用し易い。
触媒の割合は、反応性解繊液全体に対して0.5〜99重量%(例えば1〜97重量%)であればよく、好ましくは2〜95重量%、さらに好ましくは5〜90重量%(特に10〜90重量%)程度である。触媒の割合が少なすぎると、セルロースの修飾率が低下し、セルロースを解繊する作用も低下する虞がある。一方、触媒の割合が多すぎると、修飾率が高すぎるためセルロースが分解する虞がある上に、セルロースへの反応性解繊液の浸透性が低下し、セルロースを解繊する作用も低下する虞がある。
触媒の割合は、二塩基カルボン酸無水物100重量部に対して50重量部以上であればよく、例えば50〜2000重量部程度の範囲から選択でき、溶媒を用いる場合、例えば50〜1000重量部、好ましくは80〜500重量部、さらに好ましくは100〜400重量部程度である。溶媒を用いない場合、触媒の割合は、二塩基カルボン酸無水物100重量部に対して、例えば100〜2000重量部、好ましくは200〜1500重量部、さらに好ましくは300〜1000重量部程度である。また、溶媒を用いる場合であっても、溶媒の割合を低減し、混練機を用いて生産性を向上させる点から、触媒の割合は、二塩基カルボン酸無水物100重量部に対して、例えば300〜2000重量部、好ましくは400〜1500重量部、さらに好ましくは500〜1000重量部程度であってもよい。触媒の割合が少なすぎると、セルロースの修飾率が低下し、セルロースを解繊する作用も低下する虞がある。
(溶媒)
溶媒としては、二塩基カルボン酸無水物の反応性及びセルロースの解繊を損なわない溶媒であれば特に限定されないが、二塩基カルボン酸無水物のミクロフィブリル間への浸透性を促進でき、かつセルロースの水酸基に対する反応性を適度に調整できるため、ドナー数25以上の非プロトン性溶媒を含む溶媒が好ましい。このような非プロトン性溶媒のドナー数は、例えば25〜35、好ましくは26〜33、さらに好ましくは28〜30程度である。ドナー数が低すぎると、二塩基カルボン酸無水物のミクロフィブリル間への浸透性を向上させる効果が発現しない虞がある。なお、ドナー数はについては、文献「Netsu Sokutei 28(3)135-143」を参照できる。
前記非プロトン性溶媒としては、例えば、アルキルスルホキシド類、アルキルアミド類、ピロリドン類などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
アルキルスルホキシド類としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのジC1−4アルキルスルホキシドなどが挙げられる。
アルキルアミド類としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルホルムアミドなどのN,N−ジC1−4アルキルホルムアミド;N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミドなどのN,N−ジC1−4アルキルアセトアミドなどが挙げられる。
ピロリドン類としては、例えば、2−ピロリドン、3−ピロリドンなどのピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などのN−C1−4アルキルピロリドンなどが挙げられる。
これらの非プロトン性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの非プロトン性溶媒(括弧内の数字はドナー数)のうち、DMSO(29.8)、DMF(26.6)、DMAc(27.8)、NMP(27.3)などが汎用される。
これらのうち、非プロトン性溶媒のうち、二塩基カルボン酸無水物のミクロフィブリル間への浸透性を高度に促進できる点から、アルキルスルホキシド類及び/又はアルキルアセトアミド類(特に、DMSOなどのジC1−2アルキルスルホキシド)が好ましく、セルロースの解繊効果を向上できる点から、DMSOが特に好ましく、変色を抑制できる点からDMAcが特に好ましい。
溶媒は、他の溶媒として、ドナー数25未満の慣用の溶媒、例えば、メタノール、アセトニトリル、ジオキサン、アセトン、ジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどを含んでいてもよいが、ドナー数25以上の非プロトン性溶媒を主溶媒として含むのが好ましい。ドナー数25以上の非プロトン性溶媒の割合は、溶媒全体に対して50重量%以上であってもよく、好ましくは80重量%、さらに好ましくは90重量%以上であり、100重量%(ドナー数25以上の非プロトン性溶媒単独)であってもよい。ドナー数25未満の溶媒が多すぎると、セルロースミクロフィブリル間への反応性解繊液の浸透性が低下するためセルロースの解繊率が低下する虞がある。
触媒(特にピリジンなどのピリジン類)と溶媒(特にアルキルスルホキシド類及び/又はアルキルアミド類などの非プロトン性溶媒)との重量比は、前者/後者=100/0〜1/99程度の範囲から選択でき、修飾反応速度及びセルロースミクロフィブリル間への反応性解繊液の浸透速度を向上できる点から、例えば99/1〜5/95、好ましくは95/5〜10/90程度である。両者の重量比は、触媒種に応じて選択してもよく、例えば、塩基触媒の場合は、多量の触媒が必要であり、触媒/溶媒=20/80〜95/5、好ましくは30/70〜90/10、さらに好ましくは40/60〜80/20程度であってもよく、ピリジンなどの弱アルカリ性の触媒を用いる場合は、例えば30/70〜95/5、好ましくは50/50〜90/10、さらに好ましくは60/40〜80/20程度であってもよい。一方、酸触媒の場合は、少量であってもよく、触媒と溶媒との重量比は、触媒/溶媒=30/70〜1/99、好ましくは20/80〜2/98程度であり、強酸性のトルエンスルホン酸や硫酸を用いる場合は、触媒/溶媒=15/85〜3/97程度であってもよい。溶媒の割合が多すぎると、セルロースの修飾率や解繊率が低下し、セルロースを解繊する作用も低下する虞がある。
(他のエステル化剤)
修飾解繊工程では、本発明の効果を損なわない範囲で、他のエステル化剤を用いてもよい。他のエステル化剤としては、二塩基カルボン酸(例えば、コハク酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸など)、一塩基カルボン酸又はその無水物[例えば、(無水)酢酸、(無水)プロピオン酸、(無水)酪酸、(無水)イソ酪酸、(無水)吉草酸、エタン酸プロピオン酸無水物、(無水)(メタ)アクリル酸、(無水)クロトン酸などの(無水)脂肪族モノカルボン酸;(無水)シクロヘキサンカルボン酸、(無水)テトラヒドロ安息香酸などの(無水)脂環族カルボン酸;(無水)安息香酸、(無水)4−メチル安息香酸などの(無水)芳香族モノカルボン酸など]、多塩基カルボン酸類(例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの(無水)ポリカルボン酸など)などが挙げられる。これらのエステル化剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。他のエステル化剤の割合は、二塩基カルボン酸無水物100重量部に対して50重量部以下であり、例えば0〜30重量部、好ましくは0.01〜10重量部、さらに好ましくは0.1〜5重量部程度である。他のエステル化剤の割合が多すぎると、修飾率が低下したり、得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維の反応性が低下する虞がある。
(反応条件)
修飾解繊工程では、塩基触媒又は酸触媒を含む触媒と二塩基カルボン酸無水物とを含む反応性解繊液をセルロースに浸透させて、セルロースをエステル化反応させて、セルロースミクロフィブリルの表面にある水酸基をエステル化して修飾し、かつセルロースを解繊できればよく、このような化学解繊方法は特に限定されないが、通常、触媒及び二塩基カルボン酸無水物(及び必要に応じて溶媒)を含む反応性解繊液を調製し、調製した反応性解繊液にセルロースを添加して混合する方法を利用できる。
反応性解繊液の調製方法は、予め触媒と二塩基カルボン酸無水物と(必要に応じて溶媒と)を攪拌などによって混合し、二塩基カルボン酸無水物を触媒(及び溶媒)中に均一に溶解させてもよい。
得られた反応性解繊液は、セルロースに対する浸透性が高いため、セルロースを反応性解繊液に添加して混合することにより、二塩基カルボン酸無水物と触媒は、ミクロフィブリル間に浸入して、ミクロフィブリルの表面に存在する水酸基を修飾することにより、セルロースの修飾と解繊とを同時に行うことができる。
詳しくは、化学解繊方法は、反応性解繊液にセルロースを混合して2時間以上放置してエステル化する方法であってもよく、混合後、さらに溶液中でセルロースが均一な状態を維持できる程度の攪拌や混練(物理的にセルロースを解繊又は破砕しない程度の攪拌や混練)を行ってもよい。すなわち、反応は、反応性解繊液にセルロースを混合して放置するだけでも進行するが、浸透又は均一性を促進するために、セルロースを粉砕又は解繊させることなく攪拌可能な撹拌手段(低濃度の反応性解繊液における手段)や混練手段(高濃度の反応性解繊液における手段)を用いて攪拌や混練を行ってもよい。
前記攪拌手段は、物理的にセルロースを粉砕又は解繊させる強力な撹拌ではなく、通常、化学反応で汎用されているマグネティックスターラ又は攪拌翼(例えば10〜2000rpm、好ましくは50〜1500rpm、さらに好ましくは50〜1000rpm、特に50〜500rpm程度の回転速度による攪拌)による攪拌であればよい。また、攪拌は、連続的に攪拌してもよいいし、断続的に攪拌してもよい。
一方、前記混練手段も、物理的にセルロースを粉砕又は解繊させる強力な混練ではなく、慣用の混練手段(通常、常温での混練手段)により、例えば10〜2000rpm、好ましくは20〜1500rpm、さらに好ましくは30〜1000rpm、特に50〜500rpm程度の回転速度で混練してもよい。慣用の混練方法としては、例えば、ミキシングローラ、ニーダ、バンバリーミキサー、押出機(一軸又は二軸押出機など)などを用いた方法などが挙げられる。混練手段を利用すると、セルロースの化学解繊とその後の浸透又は均一性の促進工程とを工業的に連続に行える点で有利である。
本発明では、化学解繊における反応温度は、加熱する必要はなく、室温で反応させればよく、2時間以上反応させることにより、剪断力の働きによる機械的解繊手段を用いることなく、セルロースを化学的に解繊できる。そのため、本発明では、余分なエネルギーを使用することなくセルロースを解繊できる。なお、反応を促進するために、加熱してもよく、加熱温度は、例えば90℃以下(例えば40〜90℃程度)、好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下程度である。
反応時間は、二塩基カルボン酸無水物及び触媒の種類や、前記溶媒のドナー数によって選択でき、例えば3〜50時間、好ましくは5〜36時間、さらに好ましくは6〜24時間程度である。無水コハク酸などの極性の高い低級カルボン酸無水物とドナー数の高いジメチルスルホキシド(DMSO)やジメチルアセトアミド(DMAc)などの非プロトン性極性溶媒とを用いる場合、数時間(例えば2〜36時間)程度の短時間であってもよく、好ましくは5〜24時間程度である。さらに、前述のように、処理温度(反応温度)を高めて、反応時間を短くしてもよい。反応時間が短すぎると、反応性解繊液がミクロフィブリル間まで浸透するのが不十分となり、反応が不十分となり、解繊度合いも低下する虞がある。一方、反応時間は長すぎるとセルロース微細繊維の収率が低下する虞がある。
反応は、不活性ガス(窒素、アルゴンなどの希ガスなど)雰囲気下又は減圧下で行ってもよいが、通常、密閉反応容器内で行う場合が多い。それらの反応条件であればエステル化反応により発生した水を系外に排出したり、空気中の水分が系内に吸入されないため、好ましい。
化学解繊して得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維は、反応終了後、水などの失活剤を添加して、二塩基カルボン酸無水物(エステル化剤)を失活させた後、慣用の方法(例えば、遠心分離、濾過、濃縮、抽出など)により分離精製してもよい。例えば、失活させたエステル化剤、触媒及び溶媒を溶解可能な溶媒を反応混合物に添加し、前記遠心分離、濾過、抽出などの分離法(慣用の方法)で分離精製(洗浄)してもよい。なお、分離操作は複数回(例えば、2〜5回程度)行うことができる。溶媒としては、例えば、水、アセトンなどのケトン類、エタノール、イソプロパノールなどのC1−4アルカノールなどが挙げられる。
(カルボキシル基含有セルロース微細繊維)
得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維は、ナノサイズに解繊されており、平均繊維径は、例えば5〜500nm、好ましくは6〜300nm(例えば7〜100nm)、さらに好ましくは8〜50nm(特に10〜30nm)程度であってもよい。繊維径が大きすぎると、補強材としての効果が低下する虞があり、小さすぎると、微細繊維の取り扱い性や耐熱性も低下する虞がある。
得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維は、化学解繊されているため、従来の機械解繊法で得られた微細繊維よりも長い繊維長を有しており、平均繊維長は1μm以上であってもよく、例えば1〜200μm程度の範囲から選択でき、例えば1〜100μm(例えば1〜80μm)、好ましくは2〜60μm、さらに好ましくは3〜50μm程度であってもよい。繊維長が短すぎると、繊維長が短すぎると、補強効果や成膜機能が低下する虞がある。また、長すぎると、繊維が絡み易くなるため、溶媒や樹脂への分散性が低下する虞がある。
カルボキシル基含有セルロース微細繊維の平均繊維径に対する平均繊維長の割合(アスペクト比)は用途に応じて対応でき、例えば10以上であってもよく、例えば20〜1000、好ましくは50〜500、さらに好ましくは60〜200(特に80〜150)程度であってもよい。
なお、本明細書及び特許請求の範囲では、セルロース微細繊維の平均繊維径、平均繊維長及びアスペクト比は、走査型電子顕微鏡写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出してもよい。
また、カルボキシル基含有セルロース微細繊維は、繊維間でむら無く、すなわち各繊維又は全ての繊維がむら無くエステル化修飾されているため、有機溶媒や樹脂などの有機媒体によく分散できる。カルボキシル基含有セルロース微細繊維の特性(例えば、低線膨張特性、強度、耐熱性など)を樹脂に有効に発現させるためには、結晶性の高いカルボキシル基含有セルロース微細繊維が好ましい。本発明のカルボキシル基含有セルロース微細繊維は、化学解繊され、原料セルロースの結晶性を維持できるため、カルボキシル基含有セルロース繊維の結晶化度は前記セルロースの数値をそのまま参照できる。カルボキシル基含有セルロース微細の結晶化度は50%以上(特に65%以上)であってもよく、例えば50〜98%、好ましくは65〜95%、さらに好ましくは70〜92%(特に75〜90%)程度であってもよい。結晶化度が小さすぎると、線膨張特性や強度などの特性を低下させる虞がある。なお、本明細書及び特許請求の範囲では、結晶化度は、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
カルボキシル基含有セルロース微細繊維の平均置換度は2.0以下(例えば0.05〜2.0)であり、例えば0.1〜1.5(例えば0.15〜1.4)、好ましくは0.2〜1.38(例えば0.3〜1.25)、さらに好ましくは0.4〜1.2(特に0.45〜1.1)程度である。また、カルボキシル基含有セルロース微細繊維の平均置換度は1.0以下(例えば0.02〜1.0)であってもよく、例えば0.05〜1.0(例えば0.1〜0.8)、好ましくは0.15〜0.8(例えば0.3〜0.8)、さらに好ましくは0.2〜0.6(特に0.25〜0.5)程度であってもよい。平均置換度が大きすぎると、微細繊維の結晶化度又は収率が低下する虞がある。平均置換度(DS:degree of substitution)は、セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数であり、Biomacromolecules 2007, 8, 1973-1978やWO2012/124652A1又はWO2014/142166A1などを参照できる。なお、本明細書及び特許請求の範囲では、平均置換度は、後述の実施例に記載の方法で測定でき、滴定法で測定するのが好ましい。
[フルオレン修飾工程]
フルオレン修飾工程では、前記修飾解繊工程で得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維を、カルボキシル基に対する反応性基及び9,9−位にアリール基を有するフルオレン化合物と反応させてフルオレン含有セルロース微細繊維を得る。カルボキシル基含有セルロース微細繊維にフルオレン化合物を導入すると、フルオレン化合物は各種有機媒体との相溶性に優れるため、各種の有機媒体に対する補強材料として有効に利用できる。
このようなフルオレン化合物は、カルボキシル基に対する反応性基及び9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物であればよく、例えば、下記式(1)で表されるフルオレン化合物であってもよい。
(式中、環Zはアレーン環、R及びRは置換基、Xはカルボキシル基に対する反応性基、kは0〜4の整数、n1及びpは0以上の整数を示す)。
前記式(1)において、環Zで表されるアレーン環として、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環などが挙げられ、多環式アレーン環には、縮合多環式アレーン環(縮合多環式炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合芳香族炭化水素環)などが含まれる。
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン(例えば、ナフタレンなどの縮合二環式C10−16アレーン)環、縮合三環式アレーン(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)環などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。好ましい縮合多環式アレーン環としては、ナフタレン環、アントラセン環などが挙げられ、特に、ナフタレン環が好ましい。
環集合アレーン環としては、ビアレーン環、例えば、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環(1−フェニルナフタレン環、2−フェニルナフタレン環など)などのビC6−12アレーン環など;テルアレーン環、例えば、テルフェニレン環などのテルC6−12アレーン環などが例示できる。好ましい環集合アレーン環としては、ビC6−10アレーン環、特にビフェニル環などが挙げられる。
フルオレンの9位に置換する2つの環Zは、異なっていてもよく、同一であってもよいが、通常、同一の環である場合が多い。環Zのうち、ベンゼン環、ナフタレン環(特にベンゼン環)などが好ましい。
なお、フルオレンの9位に置換する環Zの置換位置は、特に限定されない。例えば、環Zがナフタレン環の場合、フルオレンの9位に置換する環Zに対応する基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよい。
で表される反応性基としては、例えば、基−[(OR)m1−Y](式中、Yはヒドロキシル基、グリシジルオキシ基、アミノ基又はメルカプト基であり、Rはアルキレン基、m1は0以上の整数である)などが挙げられる。
基−[(OR)m1−Y]において、YのN置換アミノ基としては、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ基などのN−モノアルキルアミノ基(N−モノC1−4アルキルアミノ基など)、ヒドロキシエチルアミノ基などのN−モノヒドロキシアルキルアミノ基(N−モノヒドロキシC1−4アルキルアミノ基など)などが挙げられる。
アルキレン基Rには、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基が含まれ、直鎖状アルキレン基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などのC2−6アルキレン基(好ましくは直鎖状C2−4アルキレン基、さらに好ましくは直鎖状C2−3アルキレン基、特にエチレン基)が例示でき、分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、プロピレン基、1,2−ブタンジイル基、1,3−ブタンジイル基などの分岐鎖状C3−6アルキレン基(好ましくは分岐鎖状C3−4アルキレン基、特にプロピレン基)などが挙げられる。
オキシアルキレン基(OR)の繰り返し数(平均付加モル数)を示すm1は、0又は1以上の整数(例えば0〜15、好ましくは0〜10程度)の範囲から選択でき、例えば、0〜8(例えば1〜8)、好ましくは0〜5(例えば1〜5)、さらに好ましくは0〜4(例えば1〜4)、特に0〜3(例えば1〜3)程度であってもよく、通常、0〜2(例えば0又は1)であってもよい。なお、m1が2以上である場合、アルキレン基Rの種類は、同一又は異なっていてもよい。また、アルキレン基Rの種類は、同一の又は異なる環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
これらのうち、Xで表される反応性基は、基−[(OR)m1−OH](式中、Rはアルキレン基、m1は0以上の整数である)が好ましく、基−[(OR)m1−OH](式中、Rはエチレン基などのC2−3アルキレン基、m1は0以上の整数である)が特に好ましい。
前記式(1)において、環Zに置換した基Xの個数を示すn1は、0以上であり、好ましくは1〜3、さらに好ましくは1又は2(特に1)であってもよい。なお、置換数n1は、それぞれの環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
基Xは、環Zの適当な位置に置換でき、例えば、環Zがベンゼン環である場合には、フェニル基の2−,3−,4−位(特に、3−位及び/又は4−位)に置換している場合が多く、環Zがナフタレン環である場合には、ナフチル基の5〜8−位のいずれかに置換している場合が多く、例えば、フルオレンの9−位に対してナフタレン環の1−位又は2−位が置換し(1−ナフチル又は2−ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5−位、2,6−位などの関係(特にn1が1である場合、2,6−位の関係)で基Xが置換している場合が多い。また、n1が2以上である場合、置換位置は、特に限定されない。また、環集合アレーン環Zにおいて、基Xの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9−位に結合したアレーン環及び/又はこのアレーン環に隣接するアレーン環に置換していてもよい。例えば、ビフェニル環Zの3−位又は4−位がフルオレンの9−位に結合していてもよく、ビフェニル環Zの4−位がフルオレンの9−位に結合しているとき、基Xの置換位置は、2−,3−,2’−,3’−,4’−位のいずれであってもよく、通常、2−,3’−,4’−位、好ましくは2−,4’−位(特に、2−位)に置換していてもよい。
前記式(1)において、置換基Rとしては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基など)、アリール基[フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル(トリル)基、ジメチルフェニル(キシリル)基など)、ビフェニル基、ナフチル基などのC6−12アリール基]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−10アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基など)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基などのC1−10アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロへキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(例えば、チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基など)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基など)、アシル基(例えば、アセチル基などのC1−6アシル基など)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など)、ニトロ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジC1−4アルキルアミノ基など)、ジアルキルカルボニルアミノ基(例えば、ジアセチルアミノ基などのジC1−4アルキル−カルボニルアミノ基など)などが例示できる。
これらの置換基Rのうち、代表的には、ハロゲン原子、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基)、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。好ましい置換基Rとしては、アルコキシ基(メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ基など)、特に、アルキル基(特に、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基)が好ましい。なお、置換基Rがアリール基であるとき、置換基Rは、環Zとともに、前記環集合アレーン環を形成してもよい。置換基Rの種類は、同一の又は異なる環Zにおいて、同一又は異なっていてもよい。
置換基Rの係数pは、環Zの種類などに応じて適宜選択でき、例えば、0〜8程度の整数であってもよく、0〜4の整数、好ましくは0〜3(例えば、0〜2)の整数、さらに好ましくは0又は1であってもよい。特に、pが1である場合、環Zがベンゼン環、ナフタレン環又はビフェニル環、置換基Rがメチル基であってもよい。
置換基Rとして、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基)、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)などが挙げられる。
これらの置換基Rのうち、直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルキル基(特に、メチル基などのC1−3アルキル基)、カルボキシル基又はC1−2アルコキシ−カルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子が好ましい。置換数kは0〜4(例えば、0〜3)の整数、好ましくは0〜2の整数(例えば、0又は1)、特に0である。なお、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよく、kが2以上である場合、置換基Rの種類は互いに同一又は異なっていてもよく、フルオレン環の2つのベンゼン環に置換する置換基Rの種類は同一又は異なっていてもよい。また、置換基Rの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2−位乃至7−位(2−位、3−位及び/又は7−位など)であってもよい。
好ましいフルオレン化合物としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジヒドロキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−ヒドロキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C6−10アリール−ヒドロキシC6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシ−C6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス[3−メチル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシ−C6−10アリール)フルオレン;9,9−ビス[3−フェニル−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス(C6−10アリール−ヒドロキシ(ポリ)C2−4アルコキシ−C6−10アリール)フルオレンなどが挙げられる。これらのフルオレン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
カルボキシル基含有セルロース微細繊維と、前記フルオレン化合物との割合は、前者/後者=10/1〜1/10程度の範囲から選択でき、例えば5/1〜1/8、好ましくは3/1〜1/7、さらに好ましくは1/1〜1/5(特に1/2〜1/4)程度である。
反応は、反応速度を加速するため触媒を共存させてもよい。触媒は、前記フルオレン化合物の種類に応じて選択でき、例えば、前記フルオレン化合物の反応性基が水酸基である場合、慣用のエステル化触媒(塩基触媒又は酸触媒)であってもよい。エステル化触媒としては、修飾解繊工程の項で例示された触媒などを利用できる。触媒の割合は、カルボキシル基含有セルロース微細繊維100重量部に対して0.01〜100重量部程度の範囲から適当に選択でき、例えば0.01〜20重量部、好ましくは0.5〜18重量部、さらに好ましくは3〜15重量部程度である。
反応は溶媒の非存在下で行ってもよいが、通常、溶媒の存在下で行われる。有機溶媒も、修飾解繊工程の項で例示された溶媒などを利用できる。溶媒の割合は、カルボキシル基含有セルロース微細繊維100重量部に対して100重量部以上の範囲から適当に選択でき、例えば100〜10000重量部、好ましくは1000〜8000重量部、さらに好ましくは3000〜6000重量部程度である。
反応は、減圧下で行ってもよいが、通常、加圧下又は常圧下で行う場合が多い。反応温度は、溶媒の沸点などにより適宜選択でき、例えば100〜210℃、好ましくは120〜200℃、さらに好ましくは130〜190℃(特に150〜180℃)程度であってもよい。なお、反応は溶媒の還流下で行ってもよい。また、反応時間は、特に限定されず、例えば、10分〜48時間(例えば30分〜24時間)程度である。さらに、反応は、空気中又は不活性ガス(窒素、アルゴンなどの希ガスなど)雰囲気下、攪拌しながら行ってもよい。
得られたフルオレン含有セルロース微細繊維は、修飾解繊工程と同様に慣用の方法で分離精製してもよい。
フルオレン修飾工程を経て得られたフルオレン含有セルロース微細繊維は、二塩基カルボン酸無水物を介してカルボキシル基に対する反応性基及び9,9−位にアリール基を有するフルオレン化合物が結合している。前記フルオレン化合物の割合は、フルオレン含有セルロース微細繊維全体に対して、例えば1〜60重量%、好ましくは5〜50重量%、さらに好ましくは10〜35重量%程度である。
フルオレン含有セルロース微細繊維の平均繊維径、平均繊維長、アスペクト比は、前記カルボキシル基含有セルロース微細繊維と同一の範囲から選択できる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、用いた原料の詳細は以下の通りであり、得られた修飾セルロース微細繊維及び延伸フィルムの特性及び評価は以下のようにして測定した。
(セルロースパルプ)
原料となるセルロースパルプとしては、市販木材パルプ(Georgia Pacific社製、商品名:フラッフパルプARC48000GP)をサンプル瓶に入れるサイズまで切断したパルプを用いた。また、このパルプの光学顕微鏡写真を図1に示す。パルプの平均繊維径は約40μmであった。
(他の原料、触媒及び溶媒)
他の原料、触媒及び溶媒としては、ナカライテスク(株)製の試薬を用いた。
(解繊度合)
得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維を光学顕微鏡(ニコン(株)製「OPTIPHOT−POL」)でセルロースの解繊度合を観察し、以下の基準で評価した。
◎:解繊が進行し、1μm以上の繊維径を有する繊維が殆ど存在しない
○:殆ど解繊されているが、1μm以上の繊維径を有する繊維が少し存在する
△:完全に解繊されていないが、一部の繊維が解繊されたり、大きく膨張している
×:原料セルロースの繊維がそのまま残存している。
(カルボキシル基含有セルロース微細繊維の修飾率又は平均置換度)
カルボキシル基含有セルロース微細繊維の修飾率は平均置換度で示し、下記のIR法及び滴定法(電気伝導度滴定法)によって測定した。なお、平均置換度とは、セルロースの繰り返し単位1個当たりの修飾された水酸基の数(置換基の数)の平均値である。
(IR法)
赤外線分光分析(ATR法)でセルロース微細繊維を分析した。1730cm−1におけるカルボニル基(C=O)の吸収帯と1365cm−1におけるセルロースのCHの吸収帯の強度をそれぞれ評価し、その強度比はIR indexとして算出した。IR法置換度はIR indexと次の近似数式(1)により算出された。
IR法置換度=(0.498×IR index−0.0235)/2 (1)
なお、近似数式の作成は以下の通りである。すなわち、異なる置換度を有するアセチル化修飾微細繊維を上記と同様に赤外線分光分析し、1730cm−1におけるカルボニル基の吸収帯の強度と1365cm−1におけるセルロースのCHの吸収帯の強度とを評価し、IR indexを算出した。さらに、同一のアセチル化修飾セルロース微細繊維を固体NMR(13C CP/MAS)で測定し、アセチル基の平均置換度を定量した。置換度の異なるアセチル化修飾セルロース微細繊維のIR indexと固体NMRとから得られた平均置換度の相関曲線を作成し、平均置換度とIR indexの近似数式(2)を求めた。二塩基カルボン酸で修飾された官能基は、置換度1つに当たり(1官能基当たり)2つのカルボニル基を有するため二塩基カルボン酸のIR法置換度は式(3)で計算した。
アセチル化置換度=0.498×IR index−0.0235 (2)
二塩基カルボン酸のIR法置換度=(0.498×IR index−0.0235)/2 (3)。
(滴定法)
カルボキシル基含有セルロース微細繊維0.5質量%スラリーを60ml調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定した。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム水溶液量(a)から、化学修飾により導入された置換基のモル数Qは、下記式で求められる。
Q(mol)=a[ml]×0.05/1000
この置換基のモル数Qと、平均置換度Dとの関係は、以下の式で算出される[セルロース=(グルコースC10=(162.14),繰り返し単位1個当たりの水酸基数=3,OHの分子量=17]。
D=162.14×Q/[サンプル量−(T−17)×Q]
(式中、Tはエステル化置換基の前駆体である二塩基カルボン酸無水物の分子量である)。
さらに一部のサンプルをフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)で分析したところ、何れのサンプルも1730cm−1でのエステル結合の吸収バンドが検出された。なお、測定は、NICOLET社製「NICOLET MAGNA−IR760 Spectrometer」を用い、反射モードで分析した。
(BPEF修飾率)
0.3gのビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)修飾したセルロース微細繊維にDMAc10gを添加して15分程度攪拌した後、0.05N水酸化ナトリウム水溶液(20g)を添加して室温(20℃)で18時間攪拌した後、さらに70℃で30分攪拌した。
得られた加水分解液に0.2N塩酸水溶液を加えて中和し、遠心分離で溶液を回収した。固形分を更にアセトニトリルで洗浄した。回収した二つの溶液をナスフラスコに入れ、エボパレータで蒸発した後、アセトニトリルを加えてナスフラスコを3回洗浄してBPEF溶液を回収した。100mlに調整した後、HPLC(高速液体クロマトグラフィー、ODSカラム)でBPEF濃度(C、wt%)を定量した。BPEF官能基のモル数(Q)、平均置換度(DSB)と修飾率R(wt%)は下記式で求められた。
=C×100
SB=Q×162/(W−コハク酸置換度×101−Q×421)
=DSB×421/162×100%=2.6×DSB×100%。
(セルロース繊維の形状観察)
カルボキシル基含有セルロース微細繊維の形状は、走査型電子顕微鏡FE−SEM(日本電子(株)製「JSM−6700F」、測定条件:20mA、60秒)を用いて観察した。なお、平均繊維径及び平均繊維長は、SEM写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出した。
(結晶化度)
得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維の結晶化度は、参考文献:Textile Res. J. 29:786-794(1959)に基づき、XRD分析法(Segal法)により測定し、下記式により算出した。
結晶化度(%)=[(I200-IAM)/I200]×100%
[式中、I200はX線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、IAMはアモルファス部(002面と110面間の最低部、回折角2θ=18.5°)の回折強度である]。
(溶剤分散性)
アセトンで洗浄したカルボキシル基含有セルロース微細繊維を0.05g、DMAc(ジメチルアセトアミド)10gを20mlのサンプル瓶に入れ、スターラーでよく撹拌し、室温で60分間静置した後、微細繊維の沈降状態を観察し、カルボキシル基含有セルロース微細繊維DMAc中の分散性を以下の基準で評価した。
○:沈殿せず懸濁層の上に透明な液層が観察されない
△:沈殿しなかったが懸濁層の上に透明な液層が観察された
×:微細繊維が完全に沈殿した。
実施例1
ピリジン9gと無水コハク酸1gを20mlのサンプル瓶に入れ、スターラーで混合液が均一に混ざるまで攪拌した。次に、セルロースパルプ0.2gを加え、さらに48時間攪拌した後、水50mlを加えて残留無水コハク酸を失活し、さらに、水で洗浄することによりピリジン、残留コハク酸を除いた。固形分を回収し、得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維について、IR法及び滴定法により置換度を定量し、走査型電子顕微鏡(SEM)で形状を観察し、XRD分析法で結晶化度を測定し、解繊度合及び溶剤分散性を評価した。SEM写真を図2に示す。SEM観察の結果、繊維の平均繊維径は12nmであり、平均繊維長は11.2μmであった。
実施例2
撹拌時間を24時間に変更する以外は実施例1と同様にしてカルボキシル基含有セルロース微細繊維を得た。得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維について、IR法及び滴定法により置換度を定量し、走査型電子顕微鏡(SEM)で形状を観察し、解繊度合及び溶剤分散性を評価した。SEM写真を図3に示す。SEM観察の結果、繊維の平均繊維径は15nmあり、平均繊維長は13.7μmであった。
実施例3
無水コハク酸の代わりに無水フタル酸9gを添加する以外は実施例2と同様にしてカルボキシル基含有セルロース微細繊維を得た。得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維について、IRで表面修飾率を分析し、IR法及び滴定法により置換度を定量し、走査型電子顕微鏡(SEM)で形状を観察し、XRD分析法で結晶化度を測定し、解繊度合及び溶剤分散性を評価した。FT−IR分析の結果を図4に示し、SEM写真を図5に示す。SEM観察の結果、繊維の平均繊維径は11nmであり、平均繊維長は12.4μmであった。
実施例4
ピリジンの添加量を1gに変更し、セルロースパルプの添加量を0.3gに変更し、無水コハク酸の代わりに無水マレイン酸1gを添加して、さらにDMAc9gを添加する以外は実施例2と同様にしてカルボキシル基含有セルロース微細繊維を得た。得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維について、IR法及び滴定法により置換度を定量し、走査型電子顕微鏡(SEM)で形状を観察し、解繊度合及び溶剤分散性を評価した。FT−IR分析の結果を図4に示し、SEM写真を図6に示す。SEM観察の結果、繊維の平均繊維径は80nmであり、平均繊維長は11.1μmであった。
実施例5
ピリジンの添加量を1gに変更し、さらにDMSO 9gを添加する以外は実施例2と同様にしてカルボキシル基含有セルロース微細繊維を得た。得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維について、IR法及び滴定法により置換度を定量し、走査型電子顕微鏡(SEM)で形状を観察し、XRD分析法で結晶化度を測定し、解繊度合及び溶剤分散性を評価した。FT−IR分析の結果を図4に示し、SEM写真を図7に示す。SEM観察の結果、繊維の平均繊維径は30nmであり、平均繊維長は10.2μmであった。
実施例6
ピリジンの添加量を3gに変更し、DMSOの添加量を7gに変更する以外は実施例5と同様にしてカルボキシル基含有セルロース微細繊維を得た。得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維について、IR法及び滴定法により置換度を定量し、走査型電子顕微鏡(SEM)で形状を観察し、解繊度合及び溶剤分散性を評価した。SEM写真を図8に示す。SEM観察の結果、繊維の平均繊維径は20nmであり、平均繊維長は8.5μmであった。
実施例7
ピリジンの添加量を2.3gに変更し、無水コハク酸の添加量を1.5gに変更し、セルロースパルプの添加量を0.4gに変更し、さらにDMF7gを添加する以外は実施例2と同様にしてカルボキシル基含有セルロース微細繊維を得た。得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維について、IR法及び滴定法により置換度を定量し、解繊度合及び溶剤分散性を評価した。
実施例8
ピリジンの添加量を2gに変更し、セルロースパルプの添加量を0.4gに変更し、攪拌時間を48時間に変更し、さらにNMP7gを添加する以外は実施例1と同様にしてカルボキシル基含有セルロース微細繊維を得た。得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維について、IR法及び滴定法により置換度を定量し、解繊度合及び溶剤分散性を評価した。
実施例9
ピリジンの代わりにトルエンスルホン酸1gを添加し、セルロースパルプの添加量を0.3gに変更し、攪拌時間を7時間に変更し、さらにDMAc 9gを添加する以外は実施例1と同様にしてカルボキシル基含有セルロース微細繊維を得た。得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維について、IR法及び滴定法により置換度を定量し、解繊度合及び溶剤分散性を評価した。
実施例10
ピリジン32g、ジメチルスルホキシド8gと無水コハク酸4.5gを110mlのサンプル瓶に入れ、スターラーで混合液が均一に混ざるまで攪拌した。次に、セルロースパルプ4.5gを加え、23度の室温で24時間静置した後、混練温度を25℃に設定したラボプラストミル((株)東洋精機製作所製「LABO PLASTOMILL 4M150」)を用いて回転速度90〜150rpmで30分混錬した。得られた混練物をエタノールと蒸留水との混合溶剤(50/50の重量比)に添加して洗浄することにより、無水コハク酸、ジメチルスルホキシド及びピリジンを除去した。得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維について、IR法及び滴定法により置換度を定量し、走査型電子顕微鏡(SEM)で形状を観察し、XRD分析法で結晶化度を測定し、解繊度合及び溶剤分散性を評価した。SEM写真を図9に示す。SEM観察の結果、平均繊維径は15nmであり、平均繊維長は11.2μmであった。
比較例1
ピリジンの代わりにDMSO 10gを添加する以外は実施例1と同様にしてカルボキシル基含有セルロース微細繊維を得た。得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維について、IR法及び滴定法により置換度を定量し、光学顕微鏡で形状を観察し、解繊度合及び溶剤分散性を評価した。光学顕微鏡写真を図10に示す。光学顕微鏡観察の結果、繊維の平均繊維径は50μmであり、平均繊維長は250μmであった。
比較例2
ピリジンの代わりにDMAc10gを添加する以外は実施例1と同様にしてカルボキシル基含有セルロース微細繊維を得た。得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維について、IR法及び滴定法により置換度を定量し、解繊度合及び溶剤分散性を評価した。
実施例及び比較例で得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維の評価結果を表1に示す。
表1の結果から明らかなように、実施例で得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維は、解繊が進んでいるのに対して、比較例で得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維は、解繊が殆ど進んでいなかった。
実施例11
DMAc50g中に、実施例6で得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維1g、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)3gを三つ口フラスコに加え、160℃にセットされた油浴に入れて1時間攪拌した後、DMAc100mlを加え、さらに、攪拌した後、ろ過して洗浄することにより未反応BPEFを除き、固形分を回収し、得られたコハク酸を介したBPEF修飾セルロース微細繊維について、IRでBPEF修飾を確認し、走査型電子顕微鏡(SEM)で形状を観察し、XRD分析法で結晶化度を測定した。FT−IR分析の結果を図11に示し、SEM写真を図12に示す。SEM観察の結果、繊維の平均繊維径は19.5nmであり、平均繊維長は8.0μmであった。さらに、加水分解してHPLCにより定量したBPEF修飾率は15%であった。
さらに、前記カルボキシル基含有セルロース微細繊維の分散性評価と同様の方法でDMAcに代えてメチルエチルケトンへの分散性を評価した。その結果、沈殿せず懸濁層の上に透明な液層が観察されず、メチルエチルケトンへの分散性に優れたことが分かった。
実施例12
DMAc50g中に、実施例6で得られたカルボキシル基含有セルロース微細繊維1g、ビスフェノキシエタノールフルオレン(BPEF)10gを三つ口フラスコに加え、160℃にセットされた油浴に入れて0.8バールの真空度で3時間攪拌した後、DMAc100mlを加え、さらに、攪拌した後、ろ過して洗浄することにより未反応BPEFを除き、固形分を回収し、得られたコハク酸を介したBPEF修飾セルロース微細繊維について、加水分解してHPLCにより定量したBPEF修飾率は35%であった。
さらに、前記カルボキシル基含有セルロース微細繊維の分散性評価と同様の方法でDMAcに代えてメチルエチルケトンへの分散性を評価した。その結果、沈殿せず懸濁層の上に透明な液層が観察されず、メチルエチルケトンへの分散性に優れることが分かった。
本発明の修飾セルロース微細繊維は、各種複合材料、コーティング剤に利用でき、シートやフィルムに成形して利用することもできる。

Claims (16)

  1. 塩基触媒又は酸触媒を含む触媒と二塩基カルボン酸無水物とを含む反応性解繊液をセルロースに浸透させて、セルロースをエステル化して化学解繊し、カルボキシル基含有セルロース微細繊維を得る修飾解繊工程を含む修飾セルロース微細繊維の製造方法。
  2. 触媒がピリジン類である請求項1記載の製造方法。
  3. 反応性解繊液が、さらにドナー数25以上の非プロトン性溶媒を含む請求項1又は2記載の製造方法。
  4. ドナー数25以上の非プロトン性溶媒が、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド及びN−メチル−2−ピロリドンからなる群より選択された少なくとも1種である請求項3記載の製造方法。
  5. 触媒の割合が、反応性解繊液全体に対して10〜90重量%である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
  6. 二塩基カルボン酸無水物が、脂肪族ジカルボン酸無水物、脂環族ジカルボン酸無水物及び芳香族ジカルボン酸無水物からなる群より選択された少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
  7. 二塩基カルボン酸無水物が脂肪族ジカルボン酸無水物である請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
  8. 二塩基カルボン酸無水物の割合が、反応性解繊液全体に対して10〜90重量%である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
  9. セルロースと反応性解繊液との重量割合が、前者/後者=1/99〜30/70である請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
  10. カルボキシル基含有セルロース微細繊維と、カルボキシル基に対する反応性基及び9,9−位にアリール基を有するフルオレン化合物とを反応させてフルオレン含有セルロース微細繊維を得るフルオレン修飾工程をさらに含む請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
  11. フルオレン修飾工程の反応温度が120〜200℃である請求項10記載の製造方法。
  12. カルボキシル基含有セルロース微細繊維と、カルボキシル基に対する反応性基及び9,9−位にアリール基を有するフルオレン化合物との重量割合が、前者/後者=10/1〜1/10である請求項10又は11記載の製造方法。
  13. セルロースの平均繊維径が1μm以上である請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法。
  14. 二塩基カルボン酸無水物で修飾され、溶媒に分散でき、結晶化度が70%以上であり、平均繊維径が20〜800nmであり、かつ平均繊維長が1〜200μmであるカルボキシル基含有セルロース微細繊維。
  15. 平均置換度が0.05〜2.0である請求項14記載のカルボキシル基含有セルロース微細繊維。
  16. 二塩基カルボン酸無水物を介してカルボキシル基に対する反応性基及び9,9−位にアリール基を有するフルオレン化合物が結合したフルオレン含有セルロース微細繊維。
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