JP2016059382A - 醤油様調味料の製造方法及び醤油様調味料 - Google Patents

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Abstract

【課題】醤油の醸造期間を大幅に短縮し、かつ、醤油らしい風味を有する調味料を製造する技術の提供。【解決手段】大豆又は小麦を主原料とする穀物原料に麹菌を接種して調製した固体麹に、水又は食塩水を加えて、食塩濃度4%(w/v)未満の諸味を調製する諸味調製工程と、該諸味調製工程で調製された諸味を殺菌して殺菌諸味を調製する殺菌諸味調製工程と、該殺菌諸味に酵母を添加し、危害微生物の混入を抑制できる容器で食塩濃度4%(w/v)未満の諸味中で15〜45℃、1〜90日間酵母発酵を行うことにより発酵諸味を調製する発酵工程と、該発酵工程の後、該発酵諸味に食塩を添加する工程と、を有する食塩濃度4%(w/v)以上の醤油様調味料、及び該醤油様調味料の製造方法。【選択図】図3

Description

本発明は、醸造期間が短縮されたにも関わらず風味に優れた速醸醤油様調味料およびその製造方法に関する。
醤油は大豆、小麦、食塩などを原料とし、麹菌、乳酸菌、酵母による発酵で製造される液体調味料である。一般的な醤油の製造工程としては、1.蒸煮した大豆と炒った小麦の混合物に麹菌を接種して醤油麹とする工程、2.醤油麹を食塩水や生揚げなどとともに仕込み、諸味とする工程、3.乳酸菌や酵母の発酵および熟成工程、から成り、数ヶ月〜1年という長期間をかけて製造される。
これまで醤油の醸造期間を短縮化する取り組みは多く行われてきており、例えば、醤油麹を高温で加水分解し、醸造期間を短縮する方法が報告(例えば特許文献1)されているが、歩留まりの悪化、独特の温醸臭の付与などがあり、問題があった。仕込工程初期に酵素剤を添加することで醸造期間を短縮する技術も報告(例えば特許文献2)されているが、こちらも高食塩濃度下で乳酸発酵や酵母発酵にかかる期間は長く、大幅に醸造期間を短縮することは困難であった。その理由のひとつとして、諸味中の食塩によって麹菌の酵素活性が阻害され、原料の分解速度が遅くなることが知られていた。
このような事情から、醤油麹に無塩の仕込み水を加えて、食塩非存在下で乳酸発酵や酵母発酵を行うことで、酵素反応の迅速な進行、乳酸菌や酵母の増殖を旺盛にし、醸造期間を短縮させる試みが行われてきた。しかしながら、発酵時に腐敗菌の増殖を抑制することが困難であり、しばしば汚染が生じるという問題がある(例えば特許文献3)。固液分離した諸味濾液を殺菌又は除菌した後、酵母を接種して発酵させることも提案されているが(例えば、特許文献4)、この場合の諸味液は、蛋白質原料または蛋白質原料及び澱粉質原料を酵素分解した諸味を常法の圧搾、濾過、遠心分離などの方法で固形分を除去した後の濾液であり、これを殺菌又は除菌した後に発酵させても酸臭や味の薄さが際立つと共に、酸化臭や劣化臭などのオフフレーバーを有するという問題があった。
また、汚染を防ぎながら発酵および熟成を行うために、pHや温度のコントロール(例えば特許文献5)、アルコール添加仕込み(例えば特許文献6)など種々の方策が行われてきたが、これらの手法を用いても、酵母の生育が阻害されたり、アルコール臭が強くなるなど、風味の劣化を招くという問題点があった。
特開昭61−293368号公報 特公平06−048965号公報 国際公開2011/034049号 特開昭61−37085号公報 特許第3065695号公報 特開2009−165377号公報
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、醤油の醸造期間を大幅に短縮し、かつ、醤油らしい風味を有する調味料を製造する技術を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、諸味を加熱殺菌し、無塩状態で諸味の汚染を防止しながら発酵を行い、発酵終了後に食塩を添加して調味料を製造すると、製造期間が大きく短縮され、かつ、風味豊かな調味料を得ることができるとの知見を見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、大豆又は小麦を主原料とする穀物原料に麹菌を接種して調製した固体麹に、水又は食塩水を加えて食塩濃度4%(w/v)未満の諸味を調製する諸味調製工程と、該諸味調製工程で調製された諸味を殺菌して殺菌諸味を調製する殺菌諸味調製工程と、該殺菌諸味に酵母を添加し、危害微生物の混入を抑制できる容器で食塩濃度4%(w/v)未満の諸味中で15〜45℃、1〜90日間酵母発酵を行うことにより発酵諸味を調製する発酵工程と、該発酵工程の後、該発酵諸味に食塩を添加する工程と、を有する食塩濃度4%(w/v)以上の醤油様調味料の製造方法に関する。
また、本発明は、前記醤油様調味料の製造方法により得られた醤油様調味料であって、コハク酸濃度が0.07%(w/v)以上である、醤油様調味料に関する。
本発明によれば、危害微生物による汚染を防止しつつ、通常の濃口醤油の製造方法に比べ短い期間で醤油様調味料を製造することができ、得られた醤油様調味料は、コハク酸濃度が通常の濃口醤油よりも高く、味や香りに優れた醤油様調味料を提供することができる。
醤油様調味料の香気成分の分析結果を示す図である。 醤油様調味料のコハク酸の分析結果を示す図である。 醤油様調味料の官能評価の結果を示す図である。 醤油様調味料の官能評価の結果を示す図である。 醤油様調味料の官能評価の結果を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明においては、まず穀物原料より調製した固体麹に水又は食塩水を混和して食塩濃度4%(w/v)未満の醤油諸味を調製し、25〜57℃で0〜48時間加温分解する。好ましくは、特許第3827300号記載のように、70〜80℃の熱水又は食塩水を固体麹と混和し、50〜57℃に諸味温度を保持したまま、タンク内で間欠的又は連続的に撹拌し、15〜30時間酵素分解することが望ましい。
ここで、穀物原料とは、例えば丸大豆、脱脂大豆、大豆タンパク、小麦グルテン、えんどう豆、そら豆、小豆等に代表される蛋白質原料と、小麦、大麦、ライ麦、フスマ、米、米ぬか、とうもろこし、澱粉粕等に代表される澱粉質原料を指す。これらは単独で、または組み合わせて用いることができる。
ここで用いられる固体麹は、常法により原料処理された蛋白質原料又はこれに澱粉質原料を混合したものに、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)に代表される麹菌を接種し、2〜3日固体培養(製麹)することで得られる。蛋白質原料に澱粉質原料を混合する場合、配合割合は特に限定するものではないが、例えば通常の醤油に近い調味料を得ようとする場合、重量比で1:0.25〜4とすることが好ましい。
仕込みに用いる水又は食塩水は麹が十分浸る程度であればよく、一般には、麹重量に対し1〜4容量倍(v/w)とすることが好ましい。また、加温分解時に、防ばい性や分解効率の向上、苦味除去のために後述する食用の酸や酵素剤、活性炭を添加してもよい。さらに、酵母発酵時の泡立ちを抑えるため、エマルジョン型のシリコーン消泡剤を終濃度0.01〜0.5%となるよう添加してもよい。
前記醤油諸味の食塩濃度は、微生物(麹菌、酵母、乳酸菌)の生育又は酵素活性が阻害を受けない程度の濃度にする観点から、発酵開始時の醤油諸味の食塩濃度を4%(w/v)未満とする。一般の醤油製造のように8〜18%(w/v)程度の高い食塩濃度ではなく、かかる食塩濃度の範囲とすることにより、諸味中で食塩による酵素活性阻害が起こらず、タンパク質のペプチド又はアミノ酸への分解を迅速に完了することが可能となる。また、乳酸菌や酵母の増殖も旺盛になり、発酵熟成期間を大幅に短縮することが可能となる。
次に加温分解を行った食塩濃度4%(w/v)未満の醤油諸味の加熱殺菌を行う。ここで加熱殺菌方法は、特に限定されず、UHT、HTST、レトルト、加圧タンク、スチームインジェクション、スチームインフュージョン、オートクレーブ、プレートヒーター、表面かきとり式、ジュール式熱交換、チューブラー式殺菌等の殺菌方法のいずれを用いてもよいが、好ましくは加圧タンクやチューブラー式殺菌機を用いるのがよい。例えば、諸味調製工程で調製された諸味(固液分離前の諸味)を加圧タンクに入れ、均一に攪拌しながら加圧加温することなどで殺菌することができる。殺菌温度が低すぎる、もしくは殺菌時間が短すぎると雑菌の殺菌が不十分となるため好ましくない。逆に、殺菌温度が高すぎる、もしくは殺菌時間が長すぎると、調味料の風味が劣化するために好ましくない。選択する殺菌方法により最適条件は異なるが、例えば、80℃では2分以上180分以下、121℃では5秒以上15分以下が好ましい。
調製した諸味は、防ばい性の向上や味の調整のために、pH調整を行うことが好ましい。調整後のpHは、防ばい性と酵母の発酵性の観点から、3.0〜7.0、好ましくは4.0〜5.5にすることが望ましい。pH調整のタイミングとしては、加温分解時、諸味の加熱殺菌前、諸味の加熱殺菌後のいずれでもよい。pH調整剤としての食用の酸としては、例えば、乳酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、アジピン酸等が挙げられるが、風味の点から、乳酸が好ましい。
諸味には酵母発酵を円滑に行うため、糖質を0〜20%(w/v)添加してもよい。例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、マンノース、グリセロール等、酵母が資化できる糖質が利用できるが、資化効率を考えるとグルコースの使用が望ましい。加えて、リボースやキシロースなどのペントースを利用すると、無塩であっても、特開2001−120293号公報記載のように、醤油中に含まれる重要な香気成分であるHEMFを増加させることができる。これらは単独で用いることができるが、組み合わせて用いることもできる。また、これらの糖を含む食品素材、例えば、砂糖、ブドウ糖果糖液糖、三温糖、糖蜜などを用いてもよい。
また、酵母発酵の前に、諸味の分解促進や圧搾性の向上のため、酵素剤を終濃度が0.001〜1%(w/v)となるように添加してもよい。酵素剤としては、例えば、プロテアーゼ(エンドプロテアーゼ、エキソプロテアーゼ)、セルラーゼ、ペクチナーゼ等を挙げることができる。
また、酵母発酵の前に、苦味を除去して風味を向上させるため、諸味に活性炭を添加してもよい。活性炭は粉末であることが好ましく、平均粒子径が10〜100μmのものを使用することがより好ましい。活性炭の添加量は、諸味原料に対し0.1〜5%(w/w)であることが好ましい。活性炭の種類は用途に応じて適宜選択することができ、例えば、苦味除去、悪臭除去、味の調整、色の調整またはこれらの機能を有する活性炭を組み合わせて使用することができる。
本発明で使用する酵母は、特に制限されず、例えばサッカロマイセス・ セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)やジゴサッカロマイセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、クリュイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)などの酵母が用いられる。いわゆる耐塩性酵母であっても無塩又は低塩諸味中では十分に発酵能力を発揮することができ、むしろ、無塩又は低塩諸味中の方が食塩によるストレスがなく、発酵速度を速めることができる。また、本発明の諸味は無塩又は低塩であるがゆえに、これら以外にも、耐塩性の弱いワイン酵母やビール酵母、焼酎酵母なども用いることができ、使用する酵母の種類に応じて醤油様調味料の風味にバリエーションを持たせることが可能となる。酵母の添加濃度は、諸味1gあたり1×10個以上、好ましくは1×10〜1×10個となるように添加するのが好ましい。
上述の諸味調製工程で調製された諸味は危害微生物の混入を抑制できる容器に入れ、酵母発酵を行う。ここで、危害微生物の混入を抑制できる容器とは、容器内部と外気を遮断できる構造を持つものであればよく、実験的にはポリプロピレン製の滅菌済み広口瓶やガラス製のメディアボトルなどが使用でき、工業的には、容器内に除菌された空気を供給できる機能を持つジャーファーメンターや加圧式の発酵タンクなどを使用することができる。また、空気の除菌には、0.3μm以上の塵を99.97%以上集塵できるフィルター、例えばHEPAフィルターなどを用いることができる。
酵母発酵は、酵母が生育できる温度、具体的には15〜45℃、好ましくは20〜30℃で1〜90日、より好ましくは3〜28日行う。食塩濃度は4%(w/v)未満で発酵を実施するため、酵母が食塩による影響を受けることなく、いわば酵母がストレスを受けることなく短期間で発酵を行うことができる。また、これにより食塩存在下で発酵を実施する場合と比較してコハク酸の生産量が多くなるという効果も奏する。
発酵が終了した諸味は圧搾、火入れ、清澄、濾過等の常法による製成を行うことで、風味と機能性に優れた食塩濃度4%(w/v)未満の醤油様調味料を得ることができる。
発酵が終了した諸味を圧搾する前、火入れする前、清澄化する前、濾過等の処理を行う前、または全ての工程終了後に、食塩を添加することにより、食塩含有醤油様調味料を調製することもできる。すなわち、諸味の発酵は無塩又は低塩条件下で行うことで発酵を促進させ、それにより得られた発酵諸味に任意の濃度の食塩を添加することで、従来の速醸醤油よりも遥かに優れた風味を有する醤油様調味料を短期間に製造することができる。食塩の添加量は適宜設定することができ、食塩濃度によって、減塩醤油様調味料や濃口醤油様調味料を容易に調製することができる。
調製された醤油様調味料は、その後、スプレードライ法やフリーズドライ法等の公知の方法で乾燥又は濃縮処理を行って、粉末状、細粒状、顆粒状、板状、ペースト状等の形態に成形することもできる。
本発明の醤油様調味料は、上述した醤油様調味料の製造方法で製造することにより、公知の速醸醤油と異なり、コハク酸を0.07%(w/v)以上含有している。コハク酸は貝類の旨味成分としてよく知られている有機酸であり、独特の酸味と旨味を有している。そのため、本発明の醤油様調味料は、旨味が強く、官能的に優れたものといえる。
本発明の醤油様調味料はまた、公知の速醸醤油と異なり、香気成分濃度が以下の条件を満足しており、より本来の醤油らしい風味を有することが特徴である。
(1)全窒素濃度1.0%(w/v)あたり、イソアミルアルコール濃度が20ppm(w/v)以上
(2)全窒素濃度1.0%(w/v)あたり、2−フェニルエタノール濃度が6ppm(w/v)以上
(3)全窒素濃度1.0%(w/v)あたり、イソブチルアルコール濃度が9ppm(w/v)以上
(4)全窒素濃度1.0%(w/v)あたり、HEMF濃度が10ppm(w/v)以上
イソアミルアルコールや2−フェニルエタノールは清酒の基調香として知られており、イソブチルアルコールとともに、醤油の風味を向上させる酵母発酵由来の香気成分であることが知られている。これらの香気成分濃度は例えばGC−MSやGC−FIDなどを用いて測定することができる。
HEMFは醤油中に含まれる重要な香気成分であるものの、これまで低塩下での醸造工程においては、その濃度が低減することが知られていた(J.Agric.Food Chem.Vol 44、3273−3275、1996)。本発明の醤油様調味料は、一般の醤油と同等のHEMF濃度となっており、醤油らしい風味を有することが特徴である。
また、HDMFはHEMFと同じフラノン類であり、砂糖様の甘さとフルーティーさとを併せ持ち、呈味強化に寄与する醤油の代表的香気成分として知られている。本発明の醤油様調味料は、一般の醤油と同等以上のHDMF濃度となっており、醤油らしい風味を有することが特徴である。
本発明に係る醤油様調味料は、発酵過程において、麹菌、乳酸菌及び酵母の3つの微生物が発酵原料を分解し、糖質、アミノ酸、ペプチド、メーラード反応物、微生物代謝産物等を生成することで、「旨味」、「甘味」、「酸味」、「塩味」、「苦味」を生み出し、さらに、300種類以上ともいわれる醤油特有の香気成分が味と共に複雑なバランスを取ることによって構成されている。そのため、本発明の製法によって得られる醤油様調味料の優位性を示す成分をすべて分析するには高額な設備又は費用並びに時間を要する。また、本発明の醤油様調味料は食塩4%(w/v)未満で発酵を行うことから、通常の醤油とは発酵条件や微生物の代謝環境が異なるため、出願当時の技術知見から含まれる成分を類推したり、網羅的に分析することはきわめて困難であり、およそ実際的ではない。これは微生物の発酵を介して製造される発酵食品全般に言えることであり、本発明に係る醤油様調味料もまた例外ではない。従って本発明に係る醤油様調味料は、上述した本発明に係る醤油様調味料の製造方法により明確となる。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、それらの例により何ら限定されるものではない。
1.速醸タイプの調味料
(1)速醸タイプの調味料の製造
実施例1、2として、無塩速醸タイプの調味料を製造した。すなわち、醤油麹100重量部に対し、140重量部の70℃に加温した熱水(食塩無添加)を添加し、さらに乳酸によりpH5.0に調整し、回転軸に撹拌翼を配置した保温ジャケット付きの分解タンク内で連続的に100rpmで撹拌し、55℃で24時間加温分解を行い、諸味を得た。得られた本諸味(固液分離前の諸味)について121℃、5分の殺菌処理を行い、終濃度10%(w/w)となるように滅菌済みの50%(w/v)グルコースを添加した。次いで、上記諸味に予め培養して得られた醤油酵母(Zygosaccharomyces rouxii)を1×10個/g諸味となるよう添加し、無塩条件下、品温30℃で7日間酵母発酵を行った。酵母発酵後の諸味を圧搾して固液分離し、火入れ、オリ引きをして清澄な醤油様調味料を得た。この調味料に食塩を終濃度4%(w/v)又は8%(w/v)となるよう添加したものをそれぞれ実施例1、2とした。実施例1、2の醤油様調味料の製造期間は、9日間であった。
実施例3、4として、低塩速醸タイプの調味料を製造した。すなわち、醤油麹100重量部に対し、140重量部の水を添加し、発酵時の食塩濃度が終濃度1.8%(w/v)又は3.8%(w/v)となるよう低塩諸味を調製し、その他は実施例1と同様の条件で醤油様調味料を製造した。実施例3、4の醤油様調味料の製造期間は、8日間であった。
比較例1として、諸味の殺菌処理を行わずに発酵を行った。すなわち、諸味を得るところまでは実施例1と同様に製造し、諸味について121℃、5分の殺菌処理を行わず、グルコースと酵母を添加し同様に酵母発酵した。しかしながら、発酵途中で諸味が腐敗し、所望の醤油様調味料は得られなかった。
比較例2、3として、他の速醸タイプの調味料を製造した。すなわち、醤油麹100重量部に対し、140重量部の水を添加し、食塩を終濃度4%又は8%となるよう添加した。次いで、予め培養して得られた醤油酵母(Zygosaccharomyces rouxii)を1×10個/g諸味となるよう添加し、40℃で120時間撹拌しながら分解および酵母発酵を行った。酵母発酵後の諸味を圧搾して固液分離し、火入れ、オリ引き、食塩濃度の調整をして清澄な醤油様調味料を得た。この醤油様調味料の製造には6日間を要した。
得られた醤油様調味料の一般分析結果を表1に示す。一般分析項目において、実施例1〜4の醤油様調味料は、各市販濃口醤油と遜色ない分析値となった。比較例2、3の醤油様調味料も醤油様調味料として問題ない分析値となった。なお、殺菌工程のない比較例1は汚染が確認されたため、食塩、全窒素、グルタミン酸の各濃度を分析することができなかった。
香気成分の分析結果を図1に示す。HDMFとHEMFは醤油や味噌が有する代表的な香気成分であり、醤油香に大きく寄与しているとされる。各調味料の香気成分を測定したところ、実施例1、3及び4のHEMF濃度は市販醤油と同等以上の濃度となっていたが、比較例2、3では非常に少なかった。一方、HDMFは、実施例1、3及び4で非常に高くなっており、実施例1、3及び4のサンプルが醤油香の強い要因の一つになっていると考えられる。
有機酸の分析結果を図2に示す。実施例1、3及び4の醤油様調味料は、他の調味料と比較してコハク酸含有量が顕著に多く含まれていることが判明した。この結果から、本発明のコハク酸濃度が0.07%(w/v)以上である点が特徴であると言える。コハク酸は貝類のうま味成分としてよく知られている有機酸で、独特の酸味と旨味を有している。従って本発明の製法で作製した醤油様調味料が旨味の強い調味料である一因となっている。
(2)官能評価試験
実施例1及び3のサンプル、比較例2のサンプル、市販濃口しょうゆ(食塩5%)を食塩濃度4%となるよう希釈したサンプルで官能評価を実施した(N=11)。市販濃口しょうゆ(食塩5%)を基準(=4点)として、醤油の香り、温醸臭(酸化臭、劣化臭)、塩味、苦味、旨味、甘味、酸味、醤油らしさ(味)、好みの強さをそれぞれ7段階(7:非常に強い、6:強い、5:少し強い、4:同じ、3:少し弱い、2:弱い、1:非常に弱い)で評価させた。
結果を図3と表2に示す。比較例2のサンプルは、市販濃口しょうゆに比べ、温醸臭が強く感じられ、醤油の香りや風味が弱く、味のバランスも悪いという結果となった。一方、実施例1及び3のサンプルでは、塩味がしっかりと感じられ、旨味や酸味のバランス、醤油らしい風味で市販濃口しょうゆと同等以上の評価が得られた。
同様に、実施例2及び4、比較例3、市販濃口しょうゆ(食塩8%)の各サンプルで官能評価を実施した(N=11)。結果を図4と表3に示す。比較例3のサンプルは、市販しょうゆに比べ、温醸臭が強く感じられ、醤油の香りや風味が弱く、好まれないという結果となった。一方、実施例2及び4のサンプルでは、温醸臭はやや感じられたものの、旨味や酸味のバランス、醤油らしい風味で市販濃口しょうゆとほぼ同等の評価が得られた。
2.速醸タイプの調味料の改良
(1)無塩醸造法の改良(活性炭と酵素剤の添加)
実施例5として、実施例1の無塩速醸タイプの調味料の製造に、活性炭及び酵素剤を用いて醤油様調味料を製造した。すなわち、醤油麹100重量部に対し、140重量部の70℃に加温した熱水を添加し、さらに活性炭(くじゃくTK2:川北化学社製)を原料に対し1.5%(w/w)となるよう添加し、さらに乳酸によりpH5.0に調整し、回転軸に撹拌翼を配置した保温ジャケット付きの分解タンク内で連続的に100rpmで撹拌し、55℃で24時間加温分解を行い、諸味を得た。得られた本諸味(固液分離前の諸味)について121℃、5分の殺菌処理を行い、終濃度10%(w/w)となるように滅菌済みの50%(w/v)グルコースを添加した。次いで、上記諸味に予め培養して得られた醤油酵母(Zygosaccharomyces rouxii)を1×10個/g諸味となるよう添加し、さらに市販酵素剤(エンドプロテアーゼ、エキソプロテアーゼ)を終濃度0.1%となるよう添加し、品温30℃で7日間酵母発酵を行った。酵母発酵後の諸味を圧搾して固液分離し、火入れ、オリ引きをして清澄な醤油様調味料を得た。この調味料に食塩を終濃度4%となるよう添加したものを実施例5とした。この醤油様調味料の製造には9日間を要した。
得られた醤油様調味料の一般分析結果を表4に示す。実施例1の一般分析結果と比較しても実施例5の成分が大きく変化することはなく、活性炭と酵素剤を添加しても問題なく製造することができた。むしろ、酵素剤の効果もあり、実施例5のサンプルでは、全窒素(TN)やグルタミン酸(Glu)濃度が高くなっている傾向が認められた。
(2)官能評価試験
実施例1と5の醤油様調味料をサンプルとして、下記の要領で官能評価試験を行った。すなわち、調味料を直接味見して、醤油の香り、温醸臭(酸化臭、劣化臭)、苦味、旨味、醤油らしさ(味)、好みの強さをそれぞれ7段階(7:非常に強い、6:強い、5:少し強い、4:同じ、3:少し弱い、2:弱い、1:非常に弱い)で評価させた(N=11)。方法は前記1(2)と同じである。
結果を図5と表5に示す。実施例5サンプルは添加した活性炭と酵素剤の効果により、苦味が低減し、より醤油らしい味を有するようになり、実施例1サンプルよりも嗜好が向上した。
以上説明したように、本発明により、醤油の醸造期間を大幅に短縮しつつも、醤油らしい風味の調味料を提供することを可能にした。また、醤油製造期間を短縮することができるという効果は、タンクの占有期間が短くなることに伴う設備回転率の向上や、従来のような大規模設備が不要になるため設備投資のコストの削減などの効果をもたらす。

Claims (7)

  1. 大豆又は小麦を主原料とする穀物原料に麹菌を接種して調製した固体麹に、水又は食塩水を加えて、食塩濃度4%(w/v)未満の諸味を調製する諸味調製工程と、
    該諸味調製工程で調製された諸味を殺菌して殺菌諸味を調製する殺菌諸味調製工程と、
    該殺菌諸味に酵母を添加し、危害微生物の混入を抑制できる容器で食塩濃度4%(w/v)未満の諸味中で15〜45℃、1〜90日間酵母発酵を行うことにより発酵諸味を調製する発酵工程と、
    該発酵工程の後、該発酵諸味に食塩を添加する工程と、
    を有する食塩濃度4%(w/v)以上の醤油様調味料の製造方法。
  2. さらに、加熱殺菌前又は加熱殺菌後の諸味に、乳酸、酢酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、アジピン酸からなる群から選択された1種又は2種以上の有機酸を添加する工程を有する、
    請求項1に記載の醤油様調味料の製造方法。
  3. さらに、前記酵母の添加前の諸味に、活性炭を添加する工程を有する、
    請求項1又は2に記載の醤油様調味料の製造方法。
  4. さらに、前記殺菌諸味に前記酵母が資化可能な糖質を添加する工程を有する、
    請求項1〜3のいずれか1項に記載の醤油様調味料の製造方法。
  5. さらに、前記殺菌諸味に酵素剤を添加する工程を有する、
    請求項1〜4のいずれか1項に記載の醤油様調味料の製造方法。
  6. さらに、前記醤油様調味料を、乾燥又は濃縮処理する工程を有する、
    請求項1〜5のいずれか1項に記載の醤油様調味料の製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の醤油様調味料の製造方法により得られた醤油様調味料であって、コハク酸濃度が0.07%(w/v)以上である、醤油様調味料。
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