JP7138354B2 - 耐塩性酵母およびこれを用いた発酵物 - Google Patents

耐塩性酵母およびこれを用いた発酵物 Download PDF

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NPMD NITE P-03114
本発明は、耐塩性酵母に関し、詳しくは、貝類のうま味成分であるコハク酸を産生し、かつ、吟醸香様の芳香を生成し、かつ、酢酸を資化する耐塩性酵母およびこれを用いた発酵物に関する。
耐塩性酵母は、味噌や醤油の主発酵酵母として知られるジゴサッカロマイセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)と熟成酵母のキャンディダ属(Candida属)がよく知られている。これらの耐塩性酵母は、味噌や醤油に共通した特有香気成分であるHEMF(非特許文献1)や、醤油の特徴香である4-エチルグアイヤコール(4-EG)や4-エチルフェノール(4-EP)などの香気成分(非特許文献2)について盛んに研究されてきた。しかしながら、貝類のうま味成分であるコハク酸や異臭成分である酢酸について、耐塩性酵母のコハク酸生成能や、酢酸資化能については検討されてこなかった。
味噌や醤油は我が国の伝統的な発酵食品であり、味噌や醤油から分離された発酵微生物群は古来より食習慣があることから安全性の面で心配がない。
米麹は、糖質分解酵素やタンパク質分解酵素、脂質分解酵素、各種ビタミン類の供給源として作用することから、清酒、焼酎、みりんなどの酒類や醸造調味料の製造においてといった伝統的発酵食品の原料として古くから用いられてきた。
塩こうじは、米麹、食塩、および水を混合し、米麹の酵素で糖化した調味料である。うま味、甘味、塩味がバランス良くまとまった複雑な味わいであり、万能調味料として近年注目を集めている調味料である。塩こうじには米麹由来の各種酵素類が残存しているとされており、塩こうじに肉や魚、野菜などの食材を漬け込むと、食材の旨さが引き出されると言われている。塩こうじに酵母を添加してアルコール発酵させた例はなく、そのため、塩こうじにはアルコールが含まれておらず、酵母発酵によって生成する清酒のような芳しい吟醸香はなく、コウジカビ由来の独特な香味があり、好みが分かれるところである。
一般的な塩こうじは、固形物を多く含む白濁した流動性ある半固形状である。特許第6068068号公報(特許文献1)によると、0から40℃の低温環境下で米麹の糖化処理を行い、その後、固液分離をすることで得られる液体塩こうじが開示されている。しかしながら、この文献では、液体塩こうじについて検討されているのみであり、酵母添加による塩こうじの発酵工程は検討されていない。
特許第5181207号公報(特許文献2)によると、白神こだま酵母と白神乳酸菌サケイ株KLB 3138aC株によって米と米麹と水からなる甘酒を発酵させ、発酵物に食塩を加えて得られる保存料である。この文献では、食品の保存性向上を目的に特定の微生物の利用を検討されているのみである。
特開2004-267057号公報(特許文献3)によると、穀類麹と食塩をまぜた醪を熟成させた後、固液分離を行うことを特徴とする肉質改善効果を持つ調味料が開示されている。しかしながら、この文献では、酵母による発酵は検討されておらず、大豆と小麦の麹について検討しているのみであり、さらに、米麹は穀類麹の対象外とされている。
また、東北地方では、米麹に食塩と蒸米を混合した三五八の素や、甘酒に食塩と酒類を混合した寒麹などの漬物床が使用されている。しかしながら、これらに酵母添加は行われず、酵母発酵は行われていない。岩手県工業技術センターでは、もち米に米麹と食塩を混合してもち米ペーストを作製している(非特許文献3)。翌年にはもち米ペーストにみそ用酵母を添加して微発酵させ、物性を改善している(非特許文献4)。しかしながら、これらはいずれもペースト状の調味料の物性改善を検討しているのみであり、生成される有機酸やエタノールの利用について検討されていない。
アルコール飲料は、今から7,000年以上前から造られてきたとされる。ブドウの果汁を発酵させたワイン、麦芽を利用するビール、米と米麹から醸される清酒など、世界中で多様なアルコール飲料が製造されている。これらは、いずれもサッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)を初めとしたサッカロマイセス属の酵母でアルコール発酵を行っている。清酒、焼酎、ウィスキーの醸造は、パンの製造に使われる酵母サッカロマイセス・セレビシエと同種である。また、ワイン酵母の大部分はサッカロマイセス・セレビシエだが、一部の株はサッカロマイセス・バイアヌス(S. bayanus)が利用されている。ビール酵母では、サッカロマイセス・セレビシエはイギリスのエールビールなどに利用されているが、日本でよく飲まれているラガービール用の酵母はサッカロマイセス・カールスベルゲンシス(S. carlsbergensis)が利用されている(非特許文献5)。このように、アルコール飲料の製造に利用される酵母はサッカロマイセス属に属する酵母であり、ジゴサッカロマイセス属を使用したアルコール飲料は存在しない。
食塩存在下における野菜搾汁液や果汁の酵母発酵エキスの製造方法については、ウスターソースの製造法が特許登録されている。特許第2737070号公報(特許文献4)、および、特許第3278254号公報(特許文献5)、および、特許第3278255号公報(特許文献6)によると、酵母によるアルコール発酵および乳酸菌による乳酸発酵および酢酸菌による酢酸発酵により香味の調和を促す事を目的としており、さらに、アルコール発酵や乳酸発酵や酢酸発酵を安全に行うための発酵管理の手法について検討されている。しかしながら、酵母の生成する芳香の付与や、酵母が産生するうま味成分であるコハク酸の醸成および酸味の低減を目的とした含塩果汁発酵物や含塩野菜搾汁液発酵物については検討されてこなかった。
また、特開2017-112839号公報(特許文献7)によると、耐塩性を有するサッカロマイセス・セレビシエによる含塩果汁発酵エキスを調味料として使用する方法が検討されている。しかしながら、サッカロマイセス・セレビシエに限定されており、ジゴサッカロマイセス・ルキシーなど他の耐塩性酵母による含塩果汁発酵エキスについては検討されていない。
特許第6068068号公報 特許第5181207号公報 特開2004-267057号公報 特許第2737070号公報 特許第3278254号公報 特許第3278255号公報 特開2017-112839号公報
菅原 悦子(2002)味噌,醤油の特徴的な香りと酵母. 化学と生物、Vol.40、No.11、P.765-769 小熊 哲哉(2015)醤油と味噌の微生物. モダンメディア、61巻、10号、P.298-304 伊藤 良仁(2004)麹を用いたもち米の糖化. 岩手県工業技術センター研究報告-第11号 伊藤 良仁(2005)酵母を用いた「もち米ペースト」の風味改善. 岩手県工業技術センター研究報告-第12号 後藤 奈美(2001)DNA多型解析で調べた醸造用酵母の類縁関係. 酒類総合研究所広報誌-第1号
このように、ジゴサッカロマイセス・ルキシー(耐塩性酵母)のコハク酸生成能、酢酸資化能に注目した研究は、発明者の知る限り存在しなかった。
以上のような状況に鑑み、本発明は、コハク酸を産生し、かつ、酢酸を資化する耐塩性酵母およびこれを用いた発酵物を提供することを課題とするものである。
この発明は受託番号がNITE P-03114であるジゴサッカロマイセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)株に関する。
この発明は、受託番号がNITE P-03114であるジゴサッカロマイセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)株に米麹、食塩及び水を添加して発酵させる工程を含む発酵塩こうじの製造方法に関する。
この発明は、受託番号がNITE P-03114であるジゴサッカロマイセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)株に果汁を添加して発酵させる工程を含む発酵果汁の製造方法に関する。
本発明によって、コハク酸生成能および酢酸資化能を有する耐塩性酵母が提供される。本発明の耐塩性酵母は、うま味成分であるコハク酸生成能を有し、かつ、異臭成分である酢酸を資化して酢酸臭を消臭することができる。
さらに、上記耐塩性酵母を用いることにより、コハク酸のうま味が付与され、かつ、コウジカビ独特の風味を低減した肉質改善効果および異臭低減効果を有する新規な発酵物が提供される。
ヤマモ001株の食塩耐性試験の結果を示すグラフ。 ヤマモ001株と市販株の増殖性の比較を示すグラフ。 ヤマモ001株による発酵塩こうじ中の有機酸を測定した結果を示すグラフ。 ヤマモ001株および市販株による嫌気発酵7日目の発酵塩こうじ中のコハク酸量を測定した結果を示すグラフ。 ヤマモ001株および市販株による嫌気発酵18日目の発酵塩こうじ中のコハク酸量を測定した結果を示すグラフ。 ヤマモ001株および市販株による嫌気発酵31日目の発酵塩こうじ中の有機酸組成を示すグラフ。 ヤマモ001株および市販株による好気発酵31日目の発酵塩こうじ中の有機酸組成を示すグラフ。 塩こうじ原料にもち米および大豆およびクエン酸麹を使用したヤマモ001株発酵物における有機酸分析の結果を示すグラフ。 リンゴジュースおよびその発酵果汁の有機酸分析の結果を示すグラフ。 パイナップルジュースおよびその発酵果汁の有機酸分析結果を示すグラフ。 グレープフルーツジュースおよびその発酵果汁の有機酸分析結果を示すグラフ。
本発明の好ましい一実施形態によれば、例えば、ジゴサッカロマイセス・ルキシー ヤマモ001株が挙げられる。ヤマモ001株は、秋田県湯沢市岩崎の高茂合名会社が醸造した自然発酵味噌から単離された菌株である。ヤマモ001株は、下記のとおり寄託されている。
(1)(受領番号:NITE AP-03114)
(2)(受領日:2020年1月31日)
(3)寄託先:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)
ヤマモ001菌株は、菌学的性質として、下記の特徴を示す。(+:ポジティブ、-:ネガティブ、±:どちらともいえない)
コハク酸産生能:+
ブドウ糖資化能:+
ショ糖資化能:±
マルトース資化能:±
増殖温度:15℃以上
食塩濃度0%(w/v)存在下で良好な生育、12%(w/v)存在下でも良好な生育を示す。
核と液胞を有する卵形の形状を有する。
出芽により増殖する。
YPD平板培地上に直径2から8mmの艶のない灰茶色のコロニーを形成する。
本発明の酵母は、上記ヤマモ001菌株と同等のコハク酸産生能を有する変異株でありうる。例えば、当該変異株は、ジゴサッカロマイセス・ルキシー ヤマモ001株の全ゲノム配列に対する同一性(Identity)が約90%以上であって、且つ、凍結融解処理を2回繰り返した後の生存率が70%以上である菌株でありうる。また、他の実施形態としては、当該変異株は、ジゴサッカロマイセス・ルキシー ヤマモ001株の全ゲノム配列に対する同一性(Identity)が約90%以上であって、且つ、塩こうじに酵母を添加して30℃で7日間培養時のコハク酸産生量が45mg/100ml以上である菌株でありうる。
配列の同一性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)などの公知のソフトウエアを用いることにより求めることができる。本発明に係る酵母において、ヤマモ001菌株の全ゲノム配列に対する同一性は、好ましくは約93%以上、より好ましくは約95%以上、さらに好ましくは約99%以上である。なお、これまでに公開されたジゴサッカロマイセス・ルキシーの全ゲノム配列によると、そのゲノムサイズは、一般的に約19.4Mbである。ジゴサッカロマイセス・ルキシーの公知の配列は、例えば、NCBI(National Center For Biotechnology Information)、DDBJ(DNA Data Bank Of Japan)などを通じて検索可能である。
以下に本発明の一実施形態について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲が下記の実施例に限定されるものではない。
YPD液体培地は、次のように調製した。Yeast Extract(Difco社製)1g、Polypepton(Difco社製)2g、Dextrose(関東化学社製)2gを正確に秤量した後、蒸留水で溶解し、100mlとなるようにメスアップした。このYPD液体培地をオートクレーブにて121℃、15分間滅菌処理を行い、室温まで冷却して使用した。10%食塩含有YPD液体培地は、上記YPD液体培地成分に対し、10%(w/v)となるように食塩を加え、滅菌処理を行って使用した。YPD寒天培地および10%食塩含有YPD寒天培地は、上記YPD液体培地成分および10%食塩含有YPD液体培地に対し、1.5%(w/v)となるように寒天を加え、滅菌処理を行って使用した。
滅菌10%食塩水は、次のように調整した。塩化ナトリウム1.0gを正確に秤量した後、蒸留水で溶解し、10mlとなるようにメスアップした。この10%食塩水をオートクレーブにて121℃、15分間滅菌処理をおこない、室温まで冷却して使用した。
ジゴサッカロマイセス・ルキシーに属する市販株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構より4株の分譲を受けた。醤油を分離源とするNBRC 0505株およびNBRC 0506株、味噌を分離源とするNBRC 1876株およびNBRC 1877株の合計4株を用意した。
生酵母は、以下のようにして調製した。生酵母は、保存株から前培養を行い、続いて本培養を行って得られた菌体を洗浄することで、生酵母として使用した。各菌株の保存株は、20%(w/w)グリセロール懸濁液としてマイナス80℃に保存されている。
菌体は滅菌生理食塩水にて2回洗浄したものを生酵母として使用した。
本発明の酵母の一実施例である、ヤマモ001株は、以下に示す方法により単離した。
(味噌醸造適性に優れた微生物の分離選抜)
1.1. 菌株の分離
秋田県湯沢市岩崎の高茂合名会社が醸造した自然発酵味噌0.1gを10mlの滅菌10%食塩水に入れ、味噌懸濁液を用意した。味噌懸濁液0.5mlを10%食塩含有YPD寒天培地に塗布し、30℃で5~7日間静置培養を行い、菌株を純粋に分離した。顕微鏡による観察を行い、形態から酵母と推定される菌株を選んだ。その結果、7株を取得した。
1.2. 味噌適性に優れた酵母の選抜
上記方法にて純粋に分離された酵母7株を、味噌10%、食塩8%、グルコース5%の組成からなる味噌培地5mlに入れ、30℃、3日間、静置培養を行い、前培養とした。本培養として、味噌培地100mlに対して1/100量の前培養液を接種し、30℃、1分あたり120回転で、4日間、振盪培養を行った。本培養で得られた培養液の香気をパネラー7名にて官能的に審査し、優良な酵母として1株を選抜し、選抜試験を終了した。この1株を、ヤマモ001株と命名した。
(ヤマモ001株の同定)
酵母の仲間には病原性を有するものも存在する。その中で、パンや清酒などの食品に広く利用される酵母はサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。また、味噌や醤油などの含塩発酵食品から見出される耐塩性酵母は、味噌や醤油の主発酵酵母として知られるジゴサッカロマイセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)と熟成酵母のキャンディダ属(Candida属)がよく知られている。ヤマモ001株は味噌から分離されたことから食経験があり、食品安全上の問題は無いが、食品に広く利用するために、酵母の同定を試みた。
酵母の同定は、真菌中に含まれるリボゾームRNA(rRNA)塩基配列の相同性比較にて同定を行った。rRNA塩基配列は、同一種の菌株間であれば高い保存性を示し、相同性が高いほど同一種である可能性が高い。そこで、rRNA塩基配列のうち18S rRNA遺伝子の塩基配列の相同性を比較して同定を試みた。塩基配列の相同性比較はBLASTにて行った。
その結果、ヤマモ001株の18S rRNA塩基配列はジゴサッカロマイセス・ルキシーの塩基配列と99.7%の相同性を示したことから、ヤマモ001株をジゴサッカロマイセス・ルキシーと同定した。以上より、高茂合名会社の自然醸造味噌より、1株のジゴサッカロマイセス・ルキシー・ヤマモ001株を取得した。ジゴサッカロマイセス・ルキシー・ヤマモ001株は味噌から分離されたことから食経験があり、食品安全上の問題は無い。
(ヤマモ001株の食塩耐性)
ジゴサッカロマイセス・ルキシーに属する酵母は高い食塩耐性を有するが、無塩または低塩濃度環境下で生育しないものが多く存在する。そこで、ヤマモ001株の食塩耐性を調べた。
食塩耐性の試験には、食塩濃度5%のYPD液体培地にヤマモ001株を植菌し、30℃にて2日間の静置培養を行い、前培養とした。食塩濃度0%または3%または5%または7%または9%または11%または12%の食塩を含むYPD液体培地5mlに、前培養液を1/100量接種し、各0.2mlを組織培養用96ウェルU底マイクロプレート(AGCテクノガラス社製)に分注した。このマイクロプレートを、インキュベーションリーダーHiTS(株式会社サイニクス社製)にて、30℃で60時間培養した。1時間毎に、吸光度600nmを測定し、数値の増加からヤマモ001株の増殖を測定した。
その結果を図1に示す。ヤマモ001株は食塩が存在しない環境下から食塩12%存在下でも良好な生育を示すことがわかった。一般に、ジゴサッカロマイセス・ルキシーに属する酵母は、15%から16%の食塩濃度環境下でも生育できるとされる。この結果より、さらに高濃度の食塩存在下でも生育できる可能性が示唆された。
(ヤマモ001株と市販株の増殖性比較)
ヤマモ001株の特徴を明確にする目的で、ジゴサッカロマイセス・ルキシーに属する酵母の市販株と増殖特性を比較した。
市販株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構より分譲を受け、ジゴサッカロマイセス・ルキシーに属するNBRC株を4株購入した。醤油を分離源とするNBRC 0505株およびNBRC 0506株、味噌を分離源とするNBRC 1876株およびNBRC 1877株の合計4株の市販株を用意し、ヤマモ001株との比較に用いた。食塩濃度5%のYPD液体培地に各菌株を植菌し、30℃にて2日間の静置培養を行い、前培養とした。食塩濃度5%のYPD液体培地5mlに、前培養液を1/100量接種し、各0.2mlを組織培養用96ウェルU底マイクロプレート(AGCテクノガラス社製)に分注した。このマイクロプレートを、インキュベーションリーダーHiTS(株式会社サイニクス社製)にて、30℃で48時間培養した。1時間毎に、吸光度600nmを測定し、数値の増加から各菌株の増殖を測定した。
その結果を図2に示す。ヤマモ001株は市販株より良好に増殖することがわかった。
(ヤマモ001株を用いた発酵塩こうじの製造)
近年、塩こうじが調味料として人気がある。塩こうじは、水と米麹と食塩を混合して、または、水と米麹と炊飯米と食塩を混合して製造される。この塩こうじを耐塩性酵母で発酵させた発酵塩こうじを作製し、アルコール濃度や有機酸組成を分析することで、調味料としての可能性を検討する。
(ヤマモ001株の洗浄菌体)
食塩濃度5%のYPD液体培地にヤマモ001株を植菌し、30℃にて2日間の静置培養を行い、前培養とした。食塩濃度5%のYPD液体培地40mlに前培養液を1/100量接種し、30℃で2日間静置培養を行い、本培養液とした。この本培養液を4℃、3,000rpmで15分間遠心分離を行い、酵母菌体のペレットを得た。得られたペレットを洗浄するために、ペレットに滅菌した10%食塩水を30ml加えて良く懸濁し、4℃、3,000rpmで15分間遠心分離を行い洗浄菌体を得た。洗浄操作を2回繰り返した菌体を、ヤマモ001株洗浄菌体として、以下の発酵塩こうじ製造試験等に供した。
市販米麹(株式会社太子社製)300gに水600gを加え、重量%で10%となるように食塩100gを加え、良く攪拌して食塩濃度10%(w/w)の塩こうじを得た。この塩こうじに、培養液10ml分のヤマモ001株洗浄菌体を添加し、30℃で27日間発酵した発酵塩こうじを得た。
発酵塩こうじ中のエタノール含量および有機酸組成は、以下の方法にて分析を行った。発酵13日目の試料および27日目の試料の分析を行った。
(エタノール分析法)
試料1mlに内部標準としてi-ブタノールを0.01ml加え、さらに超純水9mlを加え、混和した。このサンプル2マイクロリットルをガスクロマトグラフG-5000(株式会社日立製作所製)に注入して分析を行った。カラムにはTC-WAXを用い、カラム温度は70℃から1分あたり5℃の昇温をかけ95℃まで測定した。1%と2%のエタノール標準液を用いる同様の分析から検量線を作製し、その結果から分析値を算出した。
エタノール分析結果を表1に示す。ヤマモ001株は3.4%程度のエタノールを生成することがわかった。ジゴサッカロマイセス・ルキシーに属する酵母は、2から3%程度のエタノールを生成することが知られている。この結果から、ヤマモ001株のエタノール生成能はジゴサッカロマイセス・ルキシーの中でも一般的な量のエタノールを生成すること、および、米麹と水と食塩のみからエタノールを生成することがわかった。この結果から、ヤマモ001株は食塩非存在下でも増殖可能であることから、清酒製造も可能であることがわかった。
Figure 0007138354000001
(有機酸分析法)
試料を超純水で5倍希釈した後、0.2マイクロメーターのDISMICフィルター(アドバンテック東洋株式会社製)にてろ過し、バイアルに封入してサンプルとした。有機酸分析システム(日本分光株式会社製)にて分析を行った。
有機酸分析結果を表2に示す。ヤマモ001株による発酵塩こうじは、コハク酸を生成することがわかった。コハク酸は貝類のうま味としてしられている。コハク酸は初発(発酵開始時)には検出できないため、塩こうじにはコハク酸は存在しない。ヤマモ001株の発酵によりコハク酸が生成する。この結果から、塩こうじにコハク酸のうま味を付与した従来にない発酵塩こうじを製造出来ることがわかった。
Figure 0007138354000002
(ヤマモ001株による発酵塩こうじ中の有機酸の消長)
ヤマモ001株による発酵塩こうじ中に生成するコハク酸などの有機酸を経時的に測定し、消長を調べた。
市販米麹(株式会社太子社製)300gに水600gを加え、重量%で5%となるように食塩47.4gを加え、良く攪拌して食塩濃度5%(w/w)の塩こうじを得た。この塩こうじに、培養液10ml分のヤマモ001株洗浄菌体を添加し、30℃で発酵を行った。発酵開始時(初発)、発酵7日目、発酵14日目、発酵18日目、発酵31日目にサンプリングを行い、有機酸分析を行った。
結果を図3に示す。コハク酸は経時的に増加していることから、コハク酸はヤマモ001株により発酵生産され、系中に蓄積されていくことがわかった。この結果より、貝類のうま味成分であるコハク酸を高度に含有した発酵塩こうじの製造が可能となった。また、酢酸については、当初酢酸が生成されるが、その後減少し、31日目には検出されない。米麹と水と食塩のみで構成される塩こうじでは栄養が乏しいため、生成した酢酸を消費してエネルギーを獲得していると考えられる。これにより、発酵によりしばしば発生する酢酸臭であるが、ヤマモ001株を用いることで、酢酸臭を感じることがない発酵塩こうじの製造が可能となった。さらに、この結果から、ヤマモ001株は食塩非存在下でも増殖可能であることから、酢酸臭が発生しない清酒製造が可能であることがわかった。
(ヤマモ001株および市販株による発酵塩こうじ中の有機酸組成)
ヤマモ001株および上述した市販株4株を用いて発酵塩こうじを製造し、発酵塩こうじ中に生成するコハク酸などの有機酸測定し、消長を調べた。市販株の洗浄菌体は実施例1に示したヤマモ001株と同様の方法で調整した。
市販米麹(株式会社太子社製)300gに水600gを加え、重量%で5%となるように食塩47.4gを加え、良く攪拌して食塩濃度5%(w/w)の塩こうじを得た。この塩こうじに、培養液10ml分のヤマモ001株洗浄菌体または市販株洗浄菌体を添加し、30℃で発酵を行った。3日に一度攪拌を行った嫌気発酵では、発酵開始時(初発)、および、発酵7日目、および、発酵18日目、および、発酵31日目にサンプリングを行い、有機酸分析を行った。毎日攪拌を行った好気発酵では、発酵31日目にサンプリングを行い、有機酸分析を行った。
嫌気発酵7日目のコハク酸量を図4に示す。食塩濃度5%(w/w)の塩こうじ(初発)からは、コハク酸は検出されなかった。この結果から、塩こうじにはコハク酸が含まれていないか、検出できないほどの低濃度であることがわかった。嫌気発酵開始7日目において、ヤマモ001株は76.5mg/100mlのコハク酸を系中に蓄積するが、NBRC株は25.7から40.9mg/100mlのコハク酸蓄積量であった。この結果から、ヤマモ001株は嫌気発酵初期から優れたコハク酸産生能を有することが判明した。
嫌気発酵18日目のコハク酸量を図5に示す。嫌気発酵開始18日目において、ヤマモ001株は102.5mg/100mlのコハク酸を系中に蓄積するが、NBRC株は60.9から72.8mg/100mlのコハク酸蓄積量であった。この結果から、ヤマモ001株は、貝類のうま味成分であるコハク酸を、嫌気発酵18日で100mg/100ml以上産生することが判明した。
嫌気発酵31日目の有機酸組成を図6に示す。ヤマモ001株のコハク酸産生量は107.1mg/100mlであった。NBRC株のコハク酸産生量は、63.2から69.3mg/100mlであった。すなわち、ヤマモ001株は市販株よりも1.55倍から1.69倍多くのコハク酸を系中に産生した。この結果より、貝類のうま味成分であるコハク酸を高度に含有した嫌気発酵塩こうじの製造には、ヤマモ001株が最適であることがわかった。また、酢酸については、ヤマモ001株およびNBRC 0505株およびNBRC 1876株で検出されなかった。これにより、嫌気発酵塩こうじ製造にヤマモ001株およびNBRC 0505株およびNBRC 1876株を嫌気発酵に用いることで、酢酸臭を感じることがない嫌気発酵塩こうじの製造が可能と明らかになった。これらの結果から、貝類のうま味成分であるコハク酸を高度に蓄積し、かつ、酢酸臭が発生しない発酵塩こうじの製造には、ヤマモ001株が最適と判明した。
好気発酵31日目の有機酸組成を図7に示す。ヤマモ001株のコハク酸産生量は227.3mg/100mlであった。NBRC株のコハク酸産生量は、120.8から136.4mg/100mlであった。好気発酵によって、ヤマモ001株は市販株よりも1.67倍から1.88倍多くのコハク酸を系中に産生した。この結果より、貝類のうま味成分であるコハク酸を高度に含有した好気発酵塩こうじの製造には、ヤマモ001株が最適であることがわかった。また、酢酸については、ヤマモ001株およびNBRC 0505株で検出されなかった。これにより、好気発酵塩こうじ製造にヤマモ001株およびNBRC 0505株を好気発酵に用いることで、酢酸臭を感じることがない好気発酵塩こうじの製造が可能と明らかになった。これらの結果から、貝類のうま味成分であるコハク酸を高度に蓄積し、かつ、酢酸臭が発生しない発酵塩こうじの製造には、ヤマモ001株が最適と判明した。
発酵物の原料食品として塩こうじを用いた場合の発酵塩こうじは、ジゴサッカロマイセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)の少なくとも一部と、米こうじ、食塩および水を含む塩こうじと、コハク酸とを含有する。ヤマモ001株を用いることにより、コハク酸含有量は、80mg/100ml以上とすることができる。
(塩こうじ原料にもち米および大豆およびクエン酸麹を使用したヤマモ001株発酵物の調整)
風味の異なる発酵塩こうじの開発を目的に、塩こうじ原料の一部にもち米および大豆およびクエン酸麹を使用し、ヤマモ001株による発酵塩こうじを調整した。発酵物の有機酸組成の分析を行った。
実施例1と同様の方法でヤマモ001株の洗浄菌体を用意した。
市販米麹(株式会社太子社製)300gに水600gを加え、重量%で10%となるように食塩100gを加え、良く攪拌して食塩濃度10%(w/w)の塩こうじを対照区とし、以下の試験等に供した。
大豆添加区には、市販の無調整豆乳(おいしい無調整豆乳、キッコーマン株式会社製)を用いた。市販米麹(株式会社太子社製)300gに水450gと無調整豆乳150gを加え、重量%で10%となるように食塩100gを加え、良く攪拌して食塩濃度10%(w/w)の豆乳25%添加区とした。同様に、市販米麹(株式会社太子社製)300gに水300gと無調整豆乳300gを加え、重量%で10%となるように食塩100gを加え、良く攪拌して食塩濃度10%(w/w)の豆乳50%添加区とした。
もち米添加区には、市販のもち米を使用した。もち米を洗米後、冷水にて2時間浸漬した。続いて、もち米重量の1.2倍の水にて炊飯した。炊飯したもち米300gに市販米麹(株式会社太子社製)300gと水600gを加え、重量%で10%となるように食塩133gを加え、良く攪拌して食塩濃度10%(w/w)のもち米添加区とした。
クエン酸麹とは、一般的なキコウジカビ(アスペルギルス・オリゼ)ではなく、クロコウジカビと呼ばれるアスペルギルス・ニガーや、その白色変異種で白麹菌と呼ばれるアスペルギルス・カワチを蒸米に育成した米麹であり、クエン酸を多く造ることからクエン酸麹と呼ばれる。蒸米に白麹菌を散布し、自家製麹したクエン酸麹を用意した。対照区に用いた米麹の全量をクエン酸麹に置き換えたものをクエン酸麹区とした。
各添加区に、培養液10ml分のヤマモ001株洗浄菌体を添加し、30℃で発酵を行った。対照区および豆乳添加区および炊飯米添加区は発酵27日目に、もち米添加区は発酵20日目にサンプリングを行い、有機酸分析を行った。また、対照区および豆乳25%添加区およびもち米添加区の官能検査を、官能検査になれたパネラー4名にて行った。
有機酸分析の結果を図8に示す。いずれの試験区においてもコハク酸を生成した。また、対照区およびクエン酸麹区は上立香に吟醸香様の良い香りを放っていたが、もち米添加区はみりんに似た香りを放ち、また、豆乳添加区は味噌に似た香りを放っていた。これらの結果から、塩こうじ原料の一部にもち米および大豆などを用いることにより、風味の異なる発酵塩こうじが開発できた。原材料を変更してもコハク酸を蓄積することが明らかになったことから、貝類のうま味成分であるコハク酸を高度に蓄積し、風味に特徴的な発酵塩こうじの製造には、ヤマモ001株の使用が有効と認められた。
官能検査の結果を、表3に示す。いずれの試験区も、原料に由来する香味の特徴を有しながら、コハク酸のうま味を強く感じると評価された。この結果より、過去に報告例のない発酵塩こうじを実現した。
Figure 0007138354000003
発酵物の原料食品の主原料として塩こうじを用い、副原料としてもち米および大豆などの穀類を用いた場合、この発酵物にはジゴサッカロマイセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)の少なくとも一部と、米こうじ、食塩および水を含む塩こうじと、穀類と、コハク酸とが含まれる。また、ヤマモ001株を用いることにより、コハク酸は、80mg/100ml以上とすることができる。
(ヤマモ001株を用いた発酵果汁の調整)
ヤマモ001株を用いた発酵物として、果汁を発酵させた発酵果汁を用い、その利用可能性を検討した。エタノール濃度および有機酸組成の分析を行う。
実施例1と同様の方法で、ヤマモ001株の洗浄菌体を用意した。
果汁として市販されているリンゴジュース、パイナップルジュース、(以上、イオン株式会社製)、ウェルチグレープフルーツジュース(アサヒ飲料株式会社製)を用いた。各含塩果汁に100mlに培養液1ml分のヤマモ001株洗浄菌体を添加し、30℃で発酵を行い、発酵後重量%で2%となるように食塩を加えた。発酵開始時(初発)、および、発酵25日目にサンプリングを行い、実施例1と同様の方法でエタノール分析および有機酸分析を行った。また、発酵果汁は、パネラー4名による官能試験を行った。
アルコール分析の結果を表4に示す。いずれの果汁においても、エタノールが生成された。しかしながら、グレープフルーツジュースでは1%程度しか生成しなかった。初発のpHが低く、発酵が進まなかった可能性がある。この結果から、果汁をヤマモ001株で発酵させることにより、エタノールを含有する発酵果汁調味料の製造が可能と判明した。また、ヤマモ001株は食塩非存在下でも増殖可能であることから、ワインや果実酒の製造も可能であることがわかった。
Figure 0007138354000004
リンゴジュースの有機酸分析の結果を図9に示す。パイナップルジュースの有機酸分析結果を図10に示す。グレープフルーツジュースの有機酸分析結果を図11に示す。いずれの果汁にもコハク酸は含まれていなかったが、ヤマモ001株による発酵後は100mlあたり20から64mgのコハク酸が含有されていた。また、いずれにも乳酸および酢酸の生成は認められなかった。この結果から、果汁をヤマモ001株で発酵させることにより、貝類のうま味成分であるコハク酸を高度に蓄積し、かつ、酢酸臭が発生しない発酵果汁調味料の製造が可能と判明した。
各発酵果汁の官能検査結果を表5に示す。パネラー全員から、コハク酸のうま味を明確に感じると指摘された。また、酸味の減少をパネラー全員が指摘したが、有機酸分析の結果から酸味の減少は認められていない。そのため、コハク酸による酸味のマスキング効果であると考えられた。これらの結果から、果汁をヤマモ001株で発酵させることにより、貝類のうま味成分であるコハク酸のうま味を強く感じ、かつ、酸味の低減効果を有する、過去に報告例のない発酵果汁の製造を実現した。
Figure 0007138354000005
発酵物の原料食品として果汁を用いた場合の発酵果汁は、ジゴサッカロマイセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)の少なくとも一部と、米こうじ、食塩および水を含む塩こうじと、コハク酸とが含まれる。ヤマモ001株を用いることにより、コハク酸は、10mg/100ml以上とすることができる。
(発酵塩こうじおよび発酵果汁を用いた水畜産加工品)
実施例2に記載の発酵塩こうじの対照区および実施例3に記載の果汁としてグレープフルーツジュースを用いた発酵果汁を用いて、水畜産加工品へ利用した場合の効果を見出すことを目的とする。
市販豚ロース肉塊を購入し、1cm厚にスライスして1枚あたり150gに調整した。また、市販銀たら半身を購入し、一枚あたり150gに切り分けた。豚ロース肉スライスおよび銀たらをそれぞれジッパー付プラスチック容器に取り分け、1枚につき、発酵塩こうじ対照区またはグレープフルーツジュースの発酵果汁を15mlふりかけて密閉した。無処理区として、豚ロース肉スライスまたは銀たら1枚に食塩1.5gを振りかけて密閉した無処理区を用意した。それぞれを4℃で4時間熟成処理を行った。熟成処理後の豚ロース肉スライスおよび銀タラは、200℃のオーブンで5から7分間の加熱を行い、官能審査になれたパネラー4名にて官能審査を行った。
その結果を表6に示す。豚肉および銀タラについて、発酵塩こうじ区または発酵果汁区は、肉質がふんわりと軟らかくなる効果が認められ、ジューシーでおいしいと評価された。また、豚肉の獣臭さや銀タラの魚臭が低減され、風味が大きく改善された。さらに、発酵果汁区では、フルーツの風味が食材に付与され、上等な洋風の風味で、レストランで提供されるフルーツソースのような風味を食材に付与することがわかった。
Figure 0007138354000006
これらの結果から、ヤマモ001株にて発酵させた発酵塩こうじおよび発酵果汁には、肉質改善効果や不快臭低減効果があることがわかった。一般に塩こうじには肉質改善効果があるとされ、その作用機序は麹由来のタンパク質分解酵素によるタンパク質の分解とされている。しかしながら、タンパク質分解酵素の作用であれば肉の表面のみを溶解し内部まで軟らかくならないことや、麹を使用していない発酵果汁でも肉質改善効果が認められていることから、ヤマモ001株にて発酵させた発酵塩こうじや発酵果汁の効果は、ヤマモ001株による有機酸やアルコールなどの発酵生成物の複合的な作用に起因すると考えられた。
(発酵塩こうじおよび発酵果汁の固液分離および水畜産加工品)
実施例2に記載の発酵塩こうじの対照区および実施例3に記載のグレープフルーツジュースの発酵果汁を固液分離により液体成分と固形成分に分離し、それぞれを水畜産加工品へ利用した場合の効果を見出すことを目的とする。
実施例4の記載と同様に、豚ロース肉スライスおよび銀たらを用意した。発酵塩こうじおよび発酵果汁の固液分離は遠心分離機を用いて、3,000rpm、10分、室温にて行ったが、固液分離の方法については遠心分離に限定せず、濾紙によるろ過や膜によるろ過など、固液分離の方法は問わない。液体15mlまたは固形物15gを豚ロース肉スライスおよび銀たらに処方した後、前述の(発光塩こうじおよび発酵果汁を用いた水畜産加工品)と同様に官能検査を実施した。
グレープフルーツジュースの発酵果汁を固液分離したところ、清澄な液体と酵母菌体と思われるごく少量の固形物が得られた。そのため、グレープフルーツジュースの発酵果汁由来の固形物の食材への適用は行わなかった。発酵塩こうじの清澄な液体および固形物とグレープフルーツジュースの発酵果汁の清澄な液体を食材に適用し官能検査を行った結果、表6と同様の回答が得られた。この結果から、発酵塩こうじおよび発酵果汁は、固液分離による清澄な液体および固形物残渣に分離でき、さらに、いずれにも肉質を軟らかくし不快臭を低減するなどの固液分離以前と同様の効果が認められた。
この実施形態における耐塩性酵母は、貝類のうま味成分であるコハク酸の産生能に優れており、調味料として最適である。通常、塩こうじや果汁にはコハク酸が含まれていなが、この耐塩性酵母を用いることにより、うま味成分コハク酸を多く含んだ発酵物を提供することができる。
また、この耐塩性酵母は、食塩濃度0から12%(w/v)以上の幅広い食塩濃度で発酵食品に好適であり、さらに、コハク酸産生能と3%(w/v)程度のアルコール産生能を有することから、ワインや清酒などの発酵飲料の製造にも好適に用いることができる。
上記のような発酵物は、固液分離により清澄な液体成分と固体成分に分離して使用できる。清澄な液体成分は霧吹きなどで使用する際に好適であり、固体成分はハンバーグなどに混合する際に好適である。
なお、原料として塩こうじを用いているが、米こうじ、食塩、および水以外のものを含む物を排除するものではない。また、果汁としてリンゴジュース、パイナップルジュース、およびグレープフルーツジュースを用いているがこれに限定するものではない。

Claims (3)

  1. 受託番号がNITE P-03114 であるジゴサッカロマイセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)株
  2. 受託番号がNITE P-03114であるジゴサッカロマイセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)株に米麹、食塩及び水を添加して発酵させる工程を含む発酵塩こうじの製造方法。
  3. 受託番号がNITE P-03114であるジゴサッカロマイセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)株に果汁を添加して発酵させる工程を含む発酵果汁の製造方法。
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