JP7064224B2 - 調味料用原液、調味料発酵指標用木片、調味料製造用キット及び調味料の製造方法並びに調味料及び濃厚調味料 - Google Patents

調味料用原液、調味料発酵指標用木片、調味料製造用キット及び調味料の製造方法並びに調味料及び濃厚調味料 Download PDF

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Description

本発明は、醤油や醤油様調味料などの調味料の原液として有用な調味料用原液に関する。本発明は、調味料を製造する際の酵母発酵を実施するために指標となる木片に関する。本発明は、簡便に調味料を製造するためのキット及び製造方法に関する。本発明は、香りの優れた調味料に関する。本発明は、うま味があり、かつ、香りの優れた濃厚調味料に関する。
醤油は、本醸造方式の場合、加熱変性した大豆などのタンパク質原料及び加熱によりα化した小麦などのデンプン質原料の混合物に、麹菌を含む種麹を接種及び培養して製麹して醤油麹を得て、次いで得られた醤油麹を食塩水に仕込んで乳酸発酵及び熟成することにより醤油諸味を得て、次いで得られた醤油諸味を酵母発酵及び熟成することにより熟成諸味を得て、次いで得られた熟成諸味を圧搾処理やろ過処理に供することにより生醤油を得て、次いで得られた生醤油を火入れすることなどによって製造される。
上記した従前の醤油の製造方法では、醤油麹から熟成諸味を得るまで連続して行われる。すなわち、醤油麹から乳酸発酵等により得た醤油諸味に、酵母を加えるなどして、酵母発酵等が行われる。
熟成諸味から生醤油を得る際には、ろ布を用いたプレス機を用いるなどして、圧搾とろ過とを同時に行うことが一般的である。例えば、熟成諸味をナイロンろ布でろ過して得た熟成諸味の液汁(生醤油)を分画分子量10万以下の限外ろ過膜で処理し、得られた透過液に香味物質を添加してなる、香味の増強された調味液が知られている(特許文献1を参照)。
また、上記した従前の醤油の製造方法には、酵母発酵が工程の一部として組み込まれている。酵母発酵は、発酵原液に酵母を加えて、数週間~数ヶ月程度おくことにより実施される。
ここで、酵母発酵の期間が短く、酵母発酵が十分に行われないと、アルコールの生成が十分に行われず、香り豊かな酵母発酵物が得られないという問題がある。一方、酵母発酵の期間が長くなり過ぎた場合は、アルコールの度数が高くなることや香りが過剰になることなどの問題が生じる。そこで、嗜好性の高い酵母発酵物を得るためには、適切な発酵管理が求められる。
従前の発酵管理は、主に発酵物中の各種成分の分析を通じて実施されてきた。そこで、発酵物中の成分を分析するためには、分析用の設備や分析者の技能が求められる。
一方、日本酒醸造における発酵管理では、構造及び使用方法が簡便なボーメ比重計を用いて、ボーメ度を測定することによる発酵管理が採用されている(例えば、特許文献2を参照)。
近年、フルーティーな香りなどの華やかな香りの飲食品が好まれている。醤油は、4-ヒドロキシ-2(又は5)-エチル-5(又は2)-メチル-3(2H)-フラノン(ホモフラネオール;HEMF)などを含有することによって、醤油らしい風味はするが、香りの華やかさには欠ける。
一方、フルーティーな香りがすると謳った醤油がすでに製造販売されている。しかし、このような醤油は、果実やワインなどを混ぜて製造されており、その風味は醤油とは全く異なるものである。例えば、特許文献3には、エチル-2-メチルブタノエートなどのメチル脂肪酸エチルを醤油に外部添加することにより、フルーティーな香りの醤油様調味料が得られることが記載されている。
一方、醤油の中のアミノ酸には、グルタミン酸、グリシン、リジン、アラニン、アスパラギン酸などが含まれ、なかでもグルタミン酸が多く含まれている。グルタミン酸をはじめとするアミノ酸は醤油にうま味をもたらす窒素化合物である。そこで、醤油のうま味には、窒素化合物の含有量、すなわち、全窒素分が指標として用いられている。
醤油中のアミノ酸の大部分は、原料の大豆や小麦に含まれるタンパク質が麹菌の酵素群 (プロテアーゼ、ペプチダーゼ、グルタミナーゼなど)の作用を受けて生成される。
醤油の全窒素分を高めたものとして、再仕込醤油がある。再仕込醤油は、生醤油を仕込水として用いて、生醤油に醤油麹を仕込んで製麹工程を実施した後、酵母により発酵熟成させることにより製造される。再仕込醤油は全窒素分が比較的高い。
しかし、再仕込醤油の製造においては、製麹工程で食塩水の代わりに生醤油を使用することにより、酵母の醤油諸味中での生育が悪く、醤油諸味のアルコール発酵が緩慢になることから、得られる再仕込醤油は、濃口醤油などの通常の醤油とは風味が異なり、消費者の嗜好性に影響を与える。
かかる再仕込醤油の問題を解消すべく、全窒素分が豊富でありながら、通常の醤油と変わらない程度の風味を有する濃厚醤油を製造する方法について種々検討されている。
例えば、特許文献4には、醤油麹を食塩水とともに仕込み、発酵熟成過程中であってかつ乳酸発酵終了後に醤油と醤油麹とを添加し、さらに熟成させることを特徴とする濃厚醤油の製造方法が記載されている。
また、特許文献5には、仕込初期の醤油諸味を圧搾して得た液汁を仕込水とし、これに醤油麹を添加混合し、以下常法により発酵熟成させる方法が記載されている。
特開平2-39868号公報 特開2002-191348号公報 特開2016-140321号公報 特許第4222487号公報 特公平1-20号公報
以上のように、従前の醤油醸造は製造工程が多段階にわたっているうえに、必要な設備や原料、微生物が多いことから、家庭で醤油醸造を楽しむことは困難である。家庭でも手軽に醤油醸造を楽しむことができるものとして、醤油醸造キットがいくつか知られているものの、いずれも醤油麹を含むキットである。このような醤油醸造キットを用いて、家庭で嗜好性の高い醤油を得ることは依然として困難であるうえに、醤油諸味の残渣等の廃棄物が発生するという問題があり、家庭における醤油醸造は一般的なものにはなっていない。
また、醤油麹を乳酸発酵等に供して得られる乳酸発酵物は、農林水産省告示による「しょうゆ品質表示基準」において定められる「もろみ」の発酵成分を含有することから、調味料として利用し得る。しかし、乳酸発酵物それ自体は不溶性固形分などによって調味料として利用することが難しいという問題がある。
酵母発酵について、アルコール度数の高い日本酒の醸造においては、酵母発酵の前後においてボーメ度が大きく変動することから、ボーメ度を指標として適切に発酵を管理し得る。しかし、アルコール度数の低い醤油の醸造では、酵母発酵の前後におけるボーメ度の変動は小さいことから、ボーメ度を指標として発酵管理することは困難である。
また、醤油醸造において、ボーメ度による発酵管理のような、簡便な発酵管理の手法はこれまでに知られていない。特に、家庭内で、調味料用原液を酵母発酵に供して酵母発酵物として調味料を得る場合に、安定した風味の調味料を得るための発酵管理の指標となり得るものはこれまでに知られていない。
そこで、本発明は、家庭でも可能であるように、簡便に酵母発酵を実施し、香りが豊潤な嗜好性の高い調味料を得るために利用できる調味料用原液及び発酵管理の指標、並びにこれらを含む部材一式及び調味料の製造方法を提供することを、発明が解決しようとする第1の課題とする。
一方、醤油中の2-エチル-6-メチルピラジンなどのマスキング成分によって、特許文献3に記載の醤油様調味料におけるメチル脂肪酸エチルによるフルーティーな香りは減弱し、安定的にフルーティーな香りを有する醤油を得ることが難しいという問題がある。
そこで、本発明は、醤油本来の風味がありつつも、従前の醤油ではほとんど感じられない、フルーティーな香りがする調味料を提供することを、発明が解決しようとする第2の課題とする。
また、特許文献4に記載の方法は、通常の醤油の製造方法において、酵母による発酵又は熟成中に醤油麹及び醤油を添加して、さらに酵母による熟成を実施するという方法である。特許文献4に記載の方法によれば、全窒素分が2wt%以上である濃厚醤油が得られる。
しかし、特許文献4に記載の方法は、通常の醤油の製造方法によって製造した醤油を大量に使用する方法であり、経済性が非常に悪い。さらに、特許文献4に記載の実施例によれば、対照品とされている再仕込醤油と比べて、発明品の香りはそれほど改善されていない。したがって、特許文献4に記載の方法によって得られる濃厚醤油は醤油本来の風味が乏しい蓋然性があるものである。
特許文献5に記載の方法については、本発明者らが調べたところによれば、醤油諸味を圧搾して得た液汁を仕込水として用いて再仕込みを行う場合、再仕込み中に酵母発酵が即座に起こり、アルコールが生成することから、生成した香気は醤油諸味中の油分に吸着され、通常の濃厚醤油と比較して大きな香気の改善は無い。
そこで、本発明は、全窒素分が豊富でありながら、醤油本来の風味に優れている液体調味料及びその製造方法を提供することを、発明が解決しようとする第3の課題とする。
本発明者らは、上記第1の課題を解決するために鋭意研究を積み重ね、酵母発酵に供するのに適した乳酸発酵物及び酵母発酵に供するのに適した酵母発酵の元液について試行錯誤を繰り返した。そして、遂に、乳酸発酵物から不溶性固形分を取り除き、さらに還元糖及びエタノールの含有量を所定の量に調整した調味料用原液は、後段の酵母発酵を簡便に実施することが可能であるものであることを見出した。そして、調味料用原液を酵母発酵して得られる酵母発酵液は、圧搾等をしなくともそれ自体で調味料として使用することができることから、発酵の途中でも調味料として使用でき、さらに圧搾粕などの廃棄物の出ないものであった。すなわち、上記調味料用原液を用いることで、家庭でも簡便に嗜好性の高い調味料を得ることができる。
さらに驚くべきことに、上記調味料用原液について、脂質の含有量を低減したものとすることにより、酵母発酵及びそれ以降の工程によって得られる調味料を、より香りの好ましいものとして得ることに成功した。そして、上記調味料用原液は、それ自体で、又は他の調味料と混ぜることにより、もろみ発酵成分を含むことから、調味料として優れた風味を有するものである。
また、本発明者らは、適切な酵母発酵がなされているか否かという発酵管理の指標となるものについて試行錯誤を繰り返した。そして、遂に、木材の圧縮加工技術により作製し、さらに特定の体積になるように成形した木片を調味料用原液に投入して酵母発酵して、該木片の沈降及び浮上を確認することにより、簡便に酵母発酵を管理することができることを見出した。このようなことは、調味料用原液が液体であることにより達成され得る。しかも、驚くべきことに、このようにして発酵管理されて得られる調味料は、安定して香りが豊かなものであった。
さらに驚くべきことに、上記木片の木材の種類によっては、得られる調味料は木片由来の好ましい香りが付与されたものであった。このようにして、簡便に酵母発酵を実施するために、香りが豊潤な調味料を得るための発酵管理の指標として、圧縮加工技術を適用した特定の体積を有する木片を創作することに成功した。
さらに、酵母発酵用容器を戴置する台座部の底面から光を照射することにより、発酵管理に用いる木片の観察を容易にしつつ、醤油醸造キット全体としての審美性を向上させることができることを見出した。
そして、本発明者らは、家庭でも簡便に香りが豊潤な嗜好性の高い調味料を製造するために、上記調味料用原液及び上記木片、並びに上記調味料用原液と、上記木片と、酵母と、これらを入れる容器といった部材一式を含むキットを創作することに成功した。
一方、本発明者らは、上記第2の課題を解決するために、醤油の成分や製造方法などを見直し、さらに1,000種以上あるとされている香気成分について鋭意検討し、優れたフルーティーな香りがする醤油及び醤油様調味料を得るべく試行錯誤を繰り返した。そして、遂に、外部添加により、又は乳酸発酵終了後の醤油諸味を固液分離し、さらに膜処理に供して得られた醤油諸味液汁を用いて酵母発酵することなどにより、従前の醤油には含まれていないデカン酸エチル及びオクタン酸エチルのいずれか1種の脂肪酸エステルを所定の量で含有する調味料を得ることに成功した。そして、得られた調味料は、驚くべきことに、格別に優れたフルーティーな香りがする調味料であった。
さらに驚くべきことに、得られた調味料は、従前の醤油に比して、2-エチル-6-メチルピラジンの含有量が低減したものであった。それにもかかわらず、得られた調味料は、HEMFの含有量が、従前の醤油と同程度又はそれ以上を含有するものであり、醤油本来の風味がありつつも、フルーティーな香りがするという、優れた調味料であった。
本発明者らは、上記第3の課題を解決するために鋭意研究を積み重ね、全窒素分が豊富でありつつも、醤油本来の風味に優れている液体調味料を得ようとして試行錯誤を繰り返した。例えば、本発明者らは上記のフルーティーな香りがする醤油及び醤油様調味料を得るにあたって、これ以上全窒素分を高めることが困難であるという問題に直面した。
この問題を解決すべく、仕込水の量を減らしたり、大豆の原料配合比率を上げたりしたところ、醤油諸味の固液分離が困難になり、醤油麹の品質が悪くなり、香りが悪化した。また、醤油諸味液汁を酵母発酵に供して得た酵母発酵物を圧搾して得られた生醤油を仕込水として用いたところ、再仕込醤油と同様に生醤油由来のアルコールにより酵母発酵が阻害され、風味が劣化した。
このような試行錯誤を得て、本発明者らは遂に、醤油麹と食塩水とを混合して乳酸発酵を行うことにより得られた醤油諸味から固形分及び微生物を除いて第1の醤油諸味液汁を得て、次いで第1の醤油諸味液汁と醤油麹と食塩とを混合して得られた第2の醤油諸味から固形分を除いて第2の醤油諸味液汁を得て、次いで第2の醤油諸味液汁を醤油酵母による酵母発酵に供することなどにより、全窒素分が豊富であり、かつ、醤油本来の風味に優れた濃厚醤油及び濃厚醤油調味料を得ることに成功した。
しかも驚くべきことに、このようにして得られた濃厚醤油及び濃厚醤油調味料は、醤油本来の風味を付与する4-ヒドロキシ-2(又は5)-エチル-5(又は2)-メチル-3(2H)-フラノン(ホモフラネオール;HEMF)の含有量が大きいものであり、非常に優れた風味を有するものであった。特に、上記の方法で得られた濃厚醤油及び濃厚醤油調味料は、デカン酸エチル及びオクタン酸エチルを含み、フルーティーな香りがするものであった。
そして、本発明者らは、全窒素分が豊富であり、かつ、醤油本来の風味に優れた濃厚醤油及び濃厚醤油調味料並びにこれらの製造方法を創作することに成功した。
本発明は、上記した成功例や知見に基づいて完成するに至った発明である。
したがって、本発明の各一態様によれば、以下のものが提供される:
[1]還元糖の含有量が4.5wt%以上であり、かつ、エタノールの含有量が1.5wt%以下である、調味料用原液。
[2]前記調味料用原液は、リノール酸の含有量が0.03wt%以下である、[1]に記載の調味料用原液。
[3]前記調味料用原液は、醤油諸味の液汁である、[1]~[2]のいずれか1項に記載の調味料用原液。
[4]前記調味料は、醤油又は醤油様調味料である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の調味料用原液。
[5][1]~[4]のいずれか1項に記載の調味料用原液を、酵母発酵に供することにより、調味料を得る工程を含む、調味料の製造方法。
[6]圧縮加工がされており、かつ、体積が20cm未満であることを特徴とする木片。
[7]前記木片は、酵母発酵前の調味料用原液中では沈降し、かつ、酵母発酵後の調味料用原液中では液面付近に浮上する、[6]に記載の木片。
[8]前記圧縮加工が、圧縮加工をする前と比べて、密度が1.1倍以上になるような圧縮加工である、[6]~[7]のいずれか1項に記載の木片。
[9]前記圧縮加工が、圧縮加工をする前と比べて、密度が1.25~2.5倍になるような 圧縮加工である、[6]~[7]のいずれか1項に記載の木片。
[10]さらに短時間で煮沸されていることを特徴とする、[6]~[9]のいずれか1項に記載の木片。
[11]前記木片が、スギ科植物、ヒノキ科植物、バラ科植物、ブナ科植物及びニレ科植物からなる群から選ばれる植物の樹木に由来する木片であることを特徴とする、[6]~[10]のいずれか1項に記載の木片。
[12][6]~[11]のいずれか1項に記載の木片を、調味料用原液中に投入して酵母発酵し、該木片が浮上することを指標として、調味料を得る工程を含む、調味料の製造方法。
[13]前記調味料用原液が、醤油諸味の液汁である、[12]に記載の調味料の製造方法。
[14]前記調味料が、醤油又は醤油様調味料である、[12]~[13]のいずれか1項に記載の調味料の製造方法。
[15]還元糖の含有量が4.5wt%以上であり、エタノールの含有量が1.5wt%以下であり、かつ、色番が15番以上である調味料用原液と、
圧縮加工がされており、かつ、体積が20cm未満である木片と、
最終濃度として菌数が1.0×10個/ml以上になるように添加される酵母含有物と、
酵母発酵用容器と
を含む、調味料製造用キット。
[16]酵母発酵用容器を載置する台座部と、
該台座部に載置した該酵母発酵用容器の底面から光を照射して散乱光が生じるように台座部を貫通して設けられた孔部と、
該孔部から該酵母発酵用容器の底面を照射するための光源を収容可能な光源収容部と
を備える容器台をさらに含む、[15]に記載のキット。
[17]前記酵母含有物は、酵母発酵させて得た調味料である、[15]~[16]のいずれか1項に記載のキット。
[18]前記調味料用原液は、醤油諸味の液汁である、[15]~[17]のいずれか1項に記載のキット。
[19]前記調味料は、醤油又は醤油様調味料である、[15]~[18]のいずれか1項に記載のキット。
[20]還元糖の含有量が4.5wt%以上であり、エタノールの含有量が1.5wt%以下であり、かつ、色番が15番以上である調味料用原液と、
前記調味料用原液に対して菌数が1.0×10個/ml以上になるように添加される酵母含有液と、
圧縮加工がされており、かつ、体積が20cm未満である木片と
を加えた酵母発酵用容器を、酵母発酵に供して、該容器内の前記木片が浮上することを指標として、調味料を得る工程
を含む、調味料の製造方法。
[21]前記酵母含有物は、酵母発酵させて得た調味料である、[20]に記載の製造方法。
[22]前記調味料用原液は、醤油諸味の液汁である、[20]~[21]のいずれか1項に記載の製造方法。
[23]前記調味料は、醤油又は醤油様調味料である、[20]~[22]のいずれか1項に記載の製造方法。
[24]オクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルの含有量が下記(1)~(3)のいずれかである、醤油又は醤油様調味料。
(1)オクタン酸エチルの含有量が10ppb~20,000ppbである
(2)デカン酸エチルの含有量が10ppb~5,000ppbである
(3)オクタン酸エチルの含有量が5ppb~10,000ppbであり、かつ、デカン酸エチルの含有量が5ppb~2,000ppbである
[25]前記醤油又は醤油様調味料は、2-エチル-6-メチルピラジンの含有量が10ppb未満である、[24]に記載の醤油又は醤油様調味料。
[26]前記醤油又は醤油様調味料は、HEMFの含有量が20ppm以上である、[24]~[25]のいずれか1項に記載の醤油又は醤油様調味料。
[27]全窒素分が1.8wt%以上であり、HEMFの含有量が60ppm以上であり、かつ、濃厚である、[24]に記載の醤油又は醤油調味料。
[28]前記HEMFは、外部添加されたHEMFではない、[27]に記載の醤油又は醤油調味料。
[29]前記醤油又は醤油調味料は、醤油諸味液汁の酵母発酵物を含み、かつ、酵母発酵前の該醤油諸味液汁は全窒素分の含有量が1.8wt%以上であり、かつ、還元糖の含有量が5.0wt%以上である、[27]~[28]のいずれか1項に記載の濃厚醤油又は濃厚醤油調味料。
[30]醤油麹と食塩水とを混合処理に供して得られた第1の醤油諸味を、固液分離処理及び除菌処理に供して第1の醤油諸味液汁を得る工程、
前記第1の醤油諸味液汁と醤油麹と食塩とを混合処理に供して第2の醤油諸味を得る工程、
前記第2の醤油諸味を固液分離処理又は固液分離処理及び除菌処理に供して第2の醤油諸味液汁を得る工程、及び
前記第2の醤油諸味液汁を醤油酵母による酵母発酵に供することにより、全窒素分が1.8wt%以上であり、かつ、HEMFの含有量が60ppm以上である濃厚醤油又は濃厚醤油調味料を得る工程を含む、
濃厚醤油又は濃厚醤油調味料の製造方法。
[31]醤油麹と食塩水とを混合処理に供して得られた醤油諸味を、固液分離処理及び除菌処理に供して醤油諸味液汁を得る工程、
前記醤油諸味液汁を、全窒素分が2.0wt%以上及び還元糖の含有量が5.0wt%以上となるように調整して、調整醤油諸味液汁を得る工程、及び
前記調整醤油諸味液汁を醤油酵母による酵母発酵に供することにより、全窒素分が1.8wt%以上であり、かつ、HEMFの含有量が60ppm以上である濃厚醤油又は濃厚醤油調味料を得る工程を含む、
濃厚醤油又は濃厚醤油調味料の製造方法。
本発明の一態様である調味料用原液及び製造方法によれば、簡便に酵母発酵を実施することができることから、調味料の製造業者だけでなく、家庭でも手軽に調味料を作ることができる。
本発明の一態様である木片によれば、香りが豊潤な調味料を得るために、簡便に酵母発酵を実施することができることから、調味料の製造業者だけでなく、家庭でも手軽に調味料を作ることができる。また、本発明の一態様である木片によれば、簡便に酵母発酵を管理することができることから、醤油や醤油様調味料などの調味料を家庭でも簡便に作製することができる。しかも驚くべきことに、このように発酵されて得られる調味料は、安定して香りが豊かなものであった。
本発明の一態様であるキット及び製造方法によれば、簡便に酵母発酵を実施することができることから、余分な廃棄物を出さずに、調味料の製造業者だけでなく、家庭でも手軽に調味料を作ることができる。
本発明の一態様である醤油及び醤油様調味料によれば、醤油本来の風味がありつつも、従前の醤油ではほとんど感じられない、優れたフルーティーな香りがする調味料を提供することができる。しかも、本発明の一態様である醤油及び醤油様調味料は、従前の醤油の製造方法のように原料の仕込みから連続して製造せずとも、醤油諸味液汁を用いた酵母発酵により得られ得るものであることから、調味料の製造業者だけでなく、家庭でも手軽に得られるものである。
本発明の一態様である濃厚醤油及び濃厚醤油調味料によれば、全窒素分が豊富でありながら、醤油本来の風味に格別優れた液体調味料を提供することができる。しかも、本発明の一態様である濃厚醤油及び濃厚醤油調味料は、一般的な市販の醤油よりも高濃度のHEMFを含有し得るものである。
また、本発明の一態様である濃厚醤油及び濃厚醤油調味料は、醤油諸味の液汁を酵母発酵に供して得られ得るものであることから、醤油本来の風味に加えて、フルーティーな香りが付与されたものとすることができる。このように、本発明の一態様である濃厚醤油及び濃厚醤油調味料は、従前の醤油の製造方法のように原料の仕込みから連続して製造せずとも、醤油諸味液汁を用いた酵母発酵により得られ得るものであることから、調味料の製造業者だけでなく、家庭でも手軽に得られるものである。
本発明の一態様である濃厚醤油及び濃厚醤油調味料の製造方法によれば、全窒素分が豊富でありながら、醤油本来の風味に格別優れており、さらにフルーティーな香りがする液体調味料を製造することができる。
図1は、後述する実施例に記載があるとおりの、調味料用原液中の還元糖の含有量を変化させた際の酵母発酵への影響を試験した結果を表わす図である。 図2は、後述する実施例に記載があるとおりの、調味料用原液中のエタノールの含有量を変化させた際の酵母発酵への影響を試験した結果を表わす図である。 図3Aは、中心に孔部を設けた球体状の本発明の一態様の木片を撮影した写真である。 図3Bは、直方体の木片の角を削って整形された本発明の一態様の木片を撮影した写真である。 図4は、本発明の一態様の木片を箸で挟んで容器に入れる様子を撮影した写真である。 図5は、本発明の一態様の木片と調味料用原液とを入れた容器を酵母発酵に供し、それにより気体(泡)が発生し、本発明の一態様の木片が液面付近へ浮上した様子を撮影した写真である。 図6は、本発明の一態様のキットの具体的態様を示す図である。 図7は、本発明の一態様の製造方法の具体的態様を説明するための図である。 図8Aは、容器台の好ましい一態様を示す図である。 図8Bは、容器台の好ましい一態様の使用態様を示す図である。 図9は、後述する実施例に記載があるとおりの、生醤油へ添加する各種エステル類の添加量を変化させた際の官能評価の結果を表わす図である。 図10は、後述する実施例に記載があるとおりの、液体調味料4-1~4-2及び市販醤油1~2の官能評価の結果を表わす図である。 図11は、後述する実施例に記載があるとおりの、液体調味料4-2へ添加する各種エステル類の含有量を変化させた際の官能評価の結果を表わす図である。 図12は、後述する実施例に記載があるとおりの、液体調味料4-1へ添加する2-エチル-6-メチルピラジンの添加量を変化させた際の官能評価の結果を表わす図である。
以下、本発明の一態様である調味料用原液、木片、キット、醤油及び醤油様調味料(以下、液体調味料と総称する。)及びそれらの製造方法、並びに濃厚醤油及び濃厚醤油調味料(以下、液体濃厚調味料と総称する。)及びそれらの製造方法の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。
「含有量」との用語は、濃度と同義であり、調味料用原液や調味料の全体量(例えば、質量)に対する成分の量(例えば、質量)の割合(例えば、wt%)を意味する。
「ppm」との用語は、通常知られている意味のとおりの単位であり、具体的には1ppmは1mg/L(w/v)である。
「ppb」との用語は、通常知られている意味のとおりの単位であり、具体的には1ppbは1μg/L(w/v)である。
「醤油本来の風味」との用語は、飲食時の口腔内から鼻へぬける、大豆及び小麦を原料とする通常の本醸造方式によって製造された生醤油の香りを意味する。
「簡便な酵母発酵」との用語は、大がかりな製造装置を使用することなく、例えば、家庭でも実施できるような、酵母発酵を意味する。
「発酵」及び「熟成」との用語は、厳密に区別されるものではなく、これらを合わせて発酵という場合がある。
「色番」における番号は、農林水産省告示「しょうゆの日本農林規格」に記載されている「しょうゆの標準色」の番号を意味する。
「フルーティーな香り」との用語は、本明細書において、飲食せずに鼻だけで感じる、ブドウを原料とする白ワイン様の甘い香りを意味する。なお、単に「香り」という場合は、飲食せずに鼻だけで感じる香り又は飲食時の口腔内から鼻へぬける香りの少なくともいずれか一方を意味する。
「うま味」との用語は、通常知られているとおりの甘味、酸味、塩味及び苦味とともに基本味として知られているものを意味する。うま味は、例えば、舌に広がるような、舌全体が包み込まれるような味、酸味や塩味と違って持続性があり後味に影響を及ぼす味、粘性がありつつも、口中を潤す唾液の分泌を促す味などの少なくともいずれかの味であり得る。
「濃厚」との用語は、市販の生醤油、例えば、全窒素分が1.8wt%未満であり、及び/又は、HEMFの含有量が50ppm未満である生醤油に比べて、うま味及び/又は醤油本来の風味が優れていることを意味する。
「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
1.本発明の一態様の調味料用原液
本発明の一態様の調味料用原液は、還元糖の含有量及びエタノールの含有量を所定の量に調整したものであることにより、簡便な酵母発酵の用に供され得る。その結果として、本発明の一態様の調味料用原液を用いれば、安定した品質の酵母発酵物としての調味料が得られ得る。
本発明の一態様の調味料用原液は、調味料を得るために用いられる液体物である。調味料は、食材を加工する際に味を調える目的で使用されるものであれば特に限定されず、例えば、醤油、醤油様調味料、料理酒、みりん、塩麹、めんつゆ、なべつゆ、だしつゆ、ドレッシング、たれなどが挙げられるが、醤油及び醤油様調味料であることが好ましい。
醤油(しょうゆ、しょう油ともよぶ。)は、通常知られているとおりの調味料として用いられるものであれば特に限定されず、例えば、農林水産省告示「しょうゆ品質表示基準」や「しょうゆの日本農林規格」に記載されているようなものなどが挙げられ、具体的には濃口醤油、淡口醤油、白醤油、溜醤油、再仕込醤油がある。その他にも生醤油、ダシ醤油、照り醤油、生揚げ醤油、速醸醤油、アミノ酸混合醤油、減塩醤油及び低食塩醤油などが挙げられる。醤油は、上記のとおりに挙げられたものの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせたものであり得る。
醤油様調味料とは、日本農林規格に規定される「しょうゆ」と同様の用途で用いられる調味料をいい、醤油、醤油加工品、及び発酵調味料を含む概念である。「しょうゆ」と同様の用途で用いられれば、醤油麹に由来する原料(例えば、大豆や小麦)が、醤油様調味料に使用されていなくてもよい。
調味料用原液は、調味料を得るために用いられる液体物であれば特に限定されないが、例えば、醤油、醤油様調味料、料理酒、みりん、塩麹、めんつゆ、なべつゆ、だしつゆ、ドレッシング、たれなどを製造するために用いられる液体物などが挙げられ、醤油用原液及び醤油様調味料用原液であることが好ましい。ただし、調味料用原液について、それ自体で調味料として用いることは妨げられない。
調味料用原液における還元糖の含有量は、酵母発酵をし得る量であり、具体的には4.5wt%以上であり、長期の発酵期間を設けることにより十分な量のエタノール含有量とすることができるという観点から5wt%以上であることが好ましく、6wt%以上であることがより好ましく、7wt%以上であることがさらに好ましい。調味料用原液における還元糖の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、酵母発酵を阻害しない程度の量であり、概ね30wt%以下である。なお、還元糖は、農林水産省告示「しょうゆの日本農林規格」でいうところの直接還元糖を意味する。
調味料用原液における還元糖の含有量が4.5wt%よりも少ない量である場合には、調味料用原液に還元糖成分を添加して4.5wt%に調整できる。このとき添加する還元糖成分は、後述する実施例に記載の方法によって直接還元糖として測定され得るものであれば特に限定されないが、例えば、グルコース、フルクトース、マルトースなどが挙げられ、この中でもグルコースが好ましい。
調味料用原液におけるエタノールの含有量は、酵母発酵をし得る量であり、具体的には1.5wt%以下であり、より安定的な酵母発酵を実施し得るという観点から1.0wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以下であることがより好ましい。調味料用原液におけるエタノールの含有量の下限は特に限定されず、検出下限未満、すなわち、実質的に0wt%であってもよい。また、上記した含有量になるのであれば、調味料用原液にエタノールを加えてもよく、その際に使用できるエタノールとしては、食品に用いられる食品用アルコールやエタノールを含む酒類などが挙げられ、特に限定されない。
調味料用原液におけるリノール酸の含有量は特に限定されないが、例えば、0.15wt%未満であり、調味料用原液を酵母発酵に供して得られる調味料の香りを好ましいものにするという観点から0.10wt%以下であることが好ましく、0.05wt%以下であることがより好ましく、0.03wt%以下であることがさらに好ましく、0.01wt%以下であることがなおさらに好ましい。調味料用原液におけるリノール酸の含有量の下限は特に限定されず、検出下限未満、すなわち、実質的に0wt%であってもよい。
調味料用原液における還元糖、エタノール及びリノール酸の含有量は、後述する実施例に記載の方法によって測定できる。したがって、上記した還元糖、エタノール及びリノール酸の含有量は、後述する実施例に記載の方法によって測定して得られる値である。
調味料用原液は、例えば、木片及び酵母含有物とともに酵母発酵用容器に入れられて、酵母発酵に供される。その際の酵母発酵では、木片の浮上を指標として、酵母発酵の管理をすることから、調味料用原液は内包した木片を視認できる程度の色番を有することが好ましい。調味料用原液の色番は、例えば、15番以上であり、好ましくは20番以上であり、より好ましくは30番以上であり、さらに好ましくは35番以上である。例えば、木片が、体積が1cmであるスギ木片である場合は、調味料用原液の色番が15番以上であれば、内包したスギ木片を透明な容器ごしに視認することができる。
調味料用原液の製造方法は、還元糖の含有量やエタノールの含有量などが所定の量になった調味料用原液が得られる方法であれば特に限定されない。例えば、調味料用原液は、調味料用原液が醤油用原液又は醤油様調味料用原液である場合は、酵母発酵工程以前の工程を含む醤油の製造方法、すなわち、醤油諸味の製造方法によって製造することができる。本発明の一態様の調味料用原液の具体例は、本醸造方式の醤油の製造方法によって得られる醤油諸味の液汁であり、熟成諸味の原料となるものであり得る。
醤油諸味の製造方法は、通常知られているとおりの醤油の製造方法のうち醤油諸味を得るまでの工程を含む方法であれば特に限定されない。醤油諸味の製造方法の一態様としては、例えば、蒸煮変性した大豆、炒熬割砕した麦などの混合物である醤油原料に種麹を接種し、20~40℃で、2~4日間程度で通風製麹して醤油麹を得て、次いで醤油麹を食塩濃度が20~30wt%である食塩水に仕込み、さらに任意に醤油乳酸菌を加えたものを、20~40℃で適宜撹拌しながら10~200日間、乳酸発酵及び熟成することにより醤油諸味を得る工程を含む方法などが挙げられる。
醤油原料は特に限定されないが、例えば、丸大豆や脱脂加工大豆などの大豆、小麦、大麦、裸麦、はと麦などの麦、麦グルテン、米、トウモロコシなどが挙げられる。
種麹は、通常醤油の製造の際に利用される麹菌であれば特に限定されないが、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(A.sojae)などが挙げられる。醤油乳酸菌は、通常醤油の製造の際に利用される醤油乳酸菌であれば特に限定されないが、例えば、テトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)などの耐塩性乳酸菌などが挙げられる。
醤油諸味の製造方法において、醤油原料のうち、小麦や米等のデンプン質原料の量が少ないと、還元糖の含有量が所定の量である醤油諸味を得ることができない可能性がある。そこで、醤油原料のうち、小麦や米等のデンプン質原料の量は、還元糖の含有量が所定の量である醤油諸味を得ることができる程度の量であることが好ましい。ただし、醤油諸味に還元糖成分を添加することにより還元糖の含有量が所定の量である醤油諸味を得る場合は、この限りではない。
通常の醤油諸味の製造方法によって得られる醤油諸味は、大豆や小麦などの醤油原料由来の不溶性固形分が混ざっている。そこで、醤油諸味から不溶性固形分を除いた液汁が、本発明の一態様の調味料用原液となり得る。このような醤油諸味の液汁を用いることにより、簡便に酵母発酵を実施して、醤油又は醤油様調味料が得られる。ただし、調味料用原液は、木片の沈降及び浮上が妨げられない程度の量であれば、不溶性固形分を含んでいてもよい。
醤油諸味から不溶性固形分を除いて醤油諸味の液汁を得る方法は特に限定されないが、例えば、通常知られている固液分離方法などが挙げられ、具体的には醤油の製造方法で通常使用される圧搾処理やろ過処理などが挙げられ、より具体的にはろ布を用いたプレス機を用いた圧搾ろ過処理やMF膜やUF膜などの各種透過膜を用いた膜ろ過処理などが挙げられる。このとき、醤油諸味の液汁に醤油乳酸菌が多く残っていると、酵母発酵が適切に行われない可能性がある。そこで、醤油諸味の液汁を得る際には、不溶性固形分とともに、醤油乳酸菌の大部分を除去できるような方法を採用することが好ましい。醤油諸味の液汁における乳酸菌の含有量は特に限定されないが、例えば、1.0×10個/ml以下であることが好ましく、1.0×10個/ml以下であることがより好ましく、1.0×10個/ml以下であることがさらに好ましい。したがって、本発明の一態様の調味料用原液は、醤油諸味から不溶性固形分及び微生物を除いた液汁であることが好ましい。
醤油諸味の液汁を酵母発酵することにより得られる調味料は、醤油らしい香り及び風味を有する。特に、醤油諸味の液汁におけるエタノールの含有量が所定の量であることにより、酵母発酵によって4-ヒドロキシ-2(or5)-エチル-5(or2)-メチル-3(2H)-フラノン(ホモフラネオール;HEMF)が醤油らしい香り及び風味を醸し出す量で生成され得る。そこで、本発明の一態様の調味料用原液は、酵母発酵に供することにより、HEMFが醤油らしい香り及び風味を醸し出す量で生成する調味料用原液であることが好ましい。HEMFが醤油らしい香り及び風味を醸し出す量は、例えば、15ppm(0.0015wt%)以上であり、好ましくは20ppm以上であり、より好ましくは30ppm以上である。HEMFの含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。HEMFの含有量の上限は、所望の醤油らしい香り及び風味に応じて設定すればよく、特に限定されない。
醤油諸味の液汁の酵母発酵は、通常知られているとおりの醤油を製造する際の醤油酵母を用いた酵母発酵であれば特に限定されず、例えば、醤油酵母を用いて、醤油酵母の種類や菌数などに応じた条件による常法の酵母発酵などが挙げられる。醤油酵母は、通常醤油の製造の際に用いられる酵母であれば特に限定されないが、例えば、ジゴサッカロミセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、ジゴサッカロミセス・バイリー(Z.bailii)、カンディダ・エトケルシー(Candida etchellsii)、カンディダ・ヴェルスティリス(C.versatilis)などの耐塩性酵母などが挙げられる。
酵母発酵は、酵母の種類や菌数などに応じた条件によって常法の酵母発酵を実施すればよく、特に限定されないが、例えば、エタノールの生成量が最大量に達する程度までの期間などである。より具体的には、醤油酵母としてZygosaccharomyces rouxiiを用いる場合は、室温、好ましくは15~30℃で、7~45日程度である。
本発明の一態様の調味料用原液は、還元糖及びエタノールなどの含有量が所定の量であればよく、さらに本発明の課題解決を妨げない限りは、様々なその他の成分を含有することができる。その他の成分は特に限定されないが、例えば、調味料成分や食材であり、具体的には野菜成分(大根、ニンジン、玉ネギ、じゃがいも、にんにくなど)、肉類(牛肉、豚肉、鶏肉など)、魚類、酵母エキス、肉エキス(チキンエキス、ポークエキス、ビーフエキス、魚肉エキスなど)、果汁(りんご果汁など)、香辛料(生姜、唐辛子、こしょう、バジル、オレガノなど)、化学調味料(グルタミン酸ソーダ、イノシン酸ソーダなど)、フレーバーなどが挙げられ、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。その他の成分の含有量は、本発明の課題を解決し得る限り、適宜設定することができる。
なお、上記で得られた醤油諸味の液汁若しくは調味料用原液について、吸着樹脂を用いた脱色処理に供すると、遊離脂肪酸やアミノ酸などが吸着されることから、醤油諸味の液汁若しくは調味料用原液を吸着樹脂を用いた脱色処理に供することは好ましくない。
本発明の一態様の調味料用原液は、容器に詰めて密封した容器詰原液とすることができる。容器は特に限定されないが、例えば、アルミなどの金属、紙、PETやPTPなどのプラスチック、ガラスなどを素材とする、1層又は積層(ラミネート)のフィルム袋、レトルトパウチ、真空パック、アルミ容器、プラスチック容器、瓶、缶などの包装容器が挙げられるが、このうち食品の包装容器として実績のあるラミネートフィルム、ガラス瓶及びプラスチック容器が好ましい。本発明の一態様の調味料用原液は、経時的な変質を避けるために、加圧及び/又は加熱などにより殺菌処理したものであることが好ましい。
本発明の一態様の調味料用原液は、その全量を酵母発酵に供することが好ましい。例えば、本発明の一態様の調味料用原液を入れた容器から、酵母発酵に適しており、さらに酵母発酵後に直ちに使用し得るような醤油瓶に本発明の一態様の調味料用原液及び醤油酵母を入れて、室温で静置して酵母発酵することなどが挙げられる。
本発明の一態様の調味料用原液の非限定的な具体的態様として、例えば、還元糖の含有量及びエタノールの含有量がそれぞれ以下(1-1)及び(2-1)のとおりである調味料用原液が挙げられる:
(1-1)還元糖の含有量:4.5~30wt%
(2-1)エタノールの含有量:0~1.5wt%
本発明の一態様の調味料用原液の非限定的な具体的態様として、例えば、還元糖の含有量、エタノールの含有量及びリノール酸の含有量がそれぞれ以下(1-2)、(2-2)及び(3-2)のとおりである調味料用原液が挙げられる:
(1-2)還元糖の含有量:4.5~30wt%
(2-2)エタノールの含有量:0~1.5wt%
(3-2)リノール酸の含有量:0~0.10wt%
本発明の一態様の調味料用原液の非限定的な具体的態様として、例えば、還元糖の含有量、エタノールの含有量及びリノール酸の含有量がそれぞれ以下(1-3)、(2-3)及び(3-3)のとおりである調味料用原液が挙げられる:
(1-3)還元糖の含有量:6~30wt%
(2-3)エタノールの含有量:0~1.0wt%
(3-3)リノール酸の含有量:0~0.03wt%
本発明の一態様の調味料用原液は、酵母発酵に供することによって調味料を得るために用いられるものであるが、該調味料用原液中の成分によって味を調えることを期待して、それ自体を調味料として用いてもよい。
本発明の一態様の製造方法(1)は、本発明の一態様の調味料用原液を、酵母発酵に供することにより、調味料を得る工程を少なくとも含む、調味料の製造方法である。本発明の一態様の製造方法(1)では、本発明の一態様の調味料用原液を、酵母発酵に供した後に、圧搾、ろ過、火入れなどの通常の醤油の製造方法で用いられる酵母発酵の後段の工程などを実施してもよい。本発明の一態様の製造方法(1)によって得られる調味料は、瓶などの容器に充填して容器詰調味料としてもよい。
本発明の一態様の製造方法(1)によって得られる調味料は、単独で、又は上記した野菜成分、肉類、魚類、酵母エキス、肉エキス、果汁、香辛料、化学調味料、フレーバーに加えて、だし、酸味料、アミノ酸、核酸、有機酸、タンパク質加水分解物、糖、酒、みりん、アルコール、増粘剤、乳化剤、無機塩類などのその他の調味成分を混合して、様々な食材の調理や加工法に用いることができ、例えば、日本食、欧米食、中華食などの各種の料理に使用することができ、具体的には揚げ物、焼肉、うどん、そば、ラーメン、ハンバーグ、ミートボール、筑前煮、照り焼き、カレー、シチュー、ハヤシなどに用いることができるが、これらに限定されない。
2.本発明の一態様の木片
本発明の一態様の木片は、圧縮加工がされており、かつ、特定の体積を有することを特徴とする。本発明の技術的範囲はいかなる理論や推測によって拘泥されるものではないが、本発明の一態様の木片は、圧縮加工された木材からなるものであることにより、木質組織が壊れて、組織内部の気体が抜けやすく液体が入り込みやすくなり、さらに比重が高まることにより、木材でありながら液体中で沈降することができるものである可能性がある。また、液体中に沈降した本発明の一態様の木片に気体(泡)が触れると、木片の組織内部で気液交換が発生して、気体を取り込んで浮力が大きくなり、浮上するようになる。さらに、酵母発酵が進行することによって、アルコールが生成し、調味料用原液の密度が下がることも木片が浮上する要因の一つと考えられる。ただし、このとき、体積(質量)が大きいと、木片の浮上が妨げられることから、本発明の一態様の木片は、気体を取り込んだ際に浮上できる程度の体積を有する。これに対して、圧縮加工をしていない天然木材に由来する木片は、比重が低いために液体中に沈降しないものが多い。沈降するものであっても、木片に気体が付着しにくいこと、組織内部に空気が取り込まれにくいことなどの理由によって、気体を取り込まずに沈降したままの状態を保つため、いずれにしても発酵の指標としてふさわしいものとはいえない。
本発明の一態様の木片は、調味料を作製する際の指標として利用される。すなわち、本発明の一態様の木片は、酵母発酵前の調味料用原液中では沈降し、かつ、酵母発酵後の調味料用原液中では液面付近に浮上する木片であることが好ましい。より具体的には、本発明の一態様の木片を、調味料用原液中に投入して酵母発酵すれば、はじめは調味料用原液中に沈んでいた木片が、酵母発酵が進むにつれて発生した二酸化炭素を取り込み、やがて液面付近に浮上する。二酸化炭素の発生はアルコールの生成に伴うものであり、これにより酵母発酵が適切に行われ、調味料用原液から香り豊かな調味料を得られることが確認できる。実際に、後述する実施例に記載があるとおり、酵母発酵に供した木片の浮上の有無によって、香り豊かな調味料を得ることができるか否かが判定できる。したがって、本発明の一態様の木片を指標とすれば、簡便かつ適切に酵母発酵を管理することができ、安定して香りが豊潤な嗜好性の高い調味料を作製することができる。このように、本発明の一態様の木片は、発酵指標用木片又は酵母発酵指標用木片ということができる。
圧縮加工の程度は、本発明の一態様の木片が調味料用原液中で沈降し得るような圧縮加工であれば特に限定されないが、例えば、木片の密度が高まるような圧縮加工が挙げられ、好ましくは木片の密度が圧縮加工前に比べて1.1倍以上、より好ましくは1.25倍以上、さらに好ましくは1.4倍以上になるような圧縮加工が挙げられる。また、切断面に一定の加工性を残す観点から、木片の密度は圧縮加工前に比べて2.5倍以下であることが好ましい。ここで、「木片の密度が圧縮加工前に比べて1.4倍以上になるような圧縮加工」とは、例えば、圧縮加工前の天然の木材の密度が0.400g/cmである場合は、0.560g/cm以上になるような圧縮加工を意味する。
本発明の一態様の木片を得るための木材の圧縮加工は、例えば、特開2017-19177号公報に記載の方法により実施することができる。具体的には、原木の外周面と原木の軸方向に略平行な切断面とを有する切断木材から樹皮を剥皮し、次いで剥皮した切断木材を60℃~150℃で、30分程度の時間などで蒸煮して軟化し、次いで軟化した切断木材を圧縮率10%~70%にて外周面側から加熱しながら押圧力を付加し、次いで圧縮加工した切断木材を圧縮形状が固定されるように冷却することにより、切断木材が圧縮加工された圧縮木材を得ることができる。なお、圧縮率70%とは、厚さ10cmの切断木材を3cmの厚さまで圧縮することをいう。また、圧縮率70%で加工することにより、体積は30%になる。
本発明の一態様の木片は、上記した圧縮木材を成形することにより得ることができる。本発明の一態様の木片の体積は、調味料用原液中で沈降した木片を酵母発酵に供した後に浮上させる程度の体積であり、具体的には20cm未満であり、好ましくは15cm以下であり、より好ましくは10cm以下である。本発明の一態様の木片の体積の下限は特に限定されず、例えば、調味料用原液中にある木片を視認できる程度の体積であり、具体的には8.0mm程度である。
本発明の一態様の木片の密度は、木片が調味料用原液中で沈降する程度の密度であれば特に限定されないが、例えば、0.6g/cm以上であり、好ましくは0.7g/cm以上であり、より好ましくは0.75g/cm以上である。本発明の一態様の木片の密度の上限は特に限定されず、例えば、圧縮加工前の木材を60%の圧縮率で圧縮して得られる程度の密度である。なお、同じ種類の木材を同じ圧縮率で圧縮加工をしたとしても、木目の数などによって密度にばらつきが生じ得る。
本発明の一態様の木片の質量は、木片の体積と密度とから定まることから特に限定されないが、例えば、0.01~20g程度であり、好ましくは0.5~15gであり、より好ましくは5~10gである。
本発明の一態様の木片は、圧縮加工に加えて、さらなる加工が加えられたものであってもよい。本発明の一態様の木片は、調味料用原液に投入される際には、内部の気体が除かれているものであることが好ましい。本発明の一態様の木片から内部の気体を取り除く方法は特に限定されないが、例えば、加熱、減圧、超音波などを利用した通常知られている脱気手段を採用する方法などが挙げられるが、数分から10分程度の時間で煮沸する方法であることが好ましい。この際、煮沸する時間が長くなると、木片が変性することから好ましくない。
本発明の一態様の木片は、直方体に切断されたものの角を削って整形されていることが好ましい。また、本発明の一態様の木片は、中心に貫通した孔部が設けられていてもよい。本発明の一態様の木片は、角を削ったり、中心に貫通した孔部を設けたりするなど表面積を増やす加工を施すことで、酵母発酵に際して気体の取込みがより容易になり、比較的浮上しやすくなる。
本発明の一態様の木片は、通常木材加工に供される樹木から得られるものであれば特に限定されないが、例えば、スギ科植物、バラ科植物、ブナ科植物及びニレ科植物からなる群から選ばれる植物の樹木に由来することが好ましく、スギ、ヒノキ、サクラ、クスノキ、ケヤキ、赤カシ及び白カシに由来することがより好ましく、スギ、ヒノキ、サクラに由来することがさらに好ましい。
本発明の一態様の木片の形状は、使用する調味料用原液を入れる容器の形状や注ぎ口及び調味料用原液の量などに応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、直方体、立方体、球体、凹凸のある不定形体などが挙げられる。
本発明の一態様の木片の非限定的な具体的態様として、例えば、以下(1-1)~(1-4)の特徴を有する木片が挙げられる:
(1-1)体積(cm):0.008~18
(1-2)圧縮加工の程度:圧縮加工をする前と比べて、密度が1.25~2.5倍になるような圧縮加工
(1-3)密度(g/cm):0.500~1.000
(1-4)形状:直方体、立方体又は球体
本発明の一態様の木片の非限定的な具体的態様として、例えば、以下(2-1)~(2-4)の特徴を有する木片が挙げられる:
(2-1)体積(cm):1~10
(2-2)圧縮加工の程度:圧縮加工をする前と比べて、密度が1.4~2.0倍になるような圧縮加工
(2-3)密度(g/cm):0.700~0.900
(2-4)形状:直方体又は球体
本発明の一態様の木片の具体例として、図3Aに中心に孔部を設けた木片及び図3Bに木材を直方体に切断してなる木片を例証する。また、図4に、箸で挟んだ本発明の一態様の木片を、調味料用原液を入れた容器に入れる様子を示す。図5には、本発明の一態様の木片と調味料用原液とを入れた容器を酵母発酵に供し、それにより気体(泡)が発生し、本発明の一態様の木片が液面付近へ浮上した様子を示す。
本発明の一態様の製造方法(2)は、本発明の一態様の木片を利用した調味料の製造方法である。具体的には、本発明の一態様の製造方法(2)は、本発明の一態様の木片を、調味料用原液中に投入して酵母発酵し、該木片が浮上することを指標として、調味料を得る工程を少なくとも含む。
3.本発明の一態様のキット
本発明の一態様のキットは、調味料の元液となる調味料用原液と、酵母発酵の指標となる木片と、酵母発酵のための酵母含有物と、これらを投入して酵母発酵するための酵母発酵用容器とを少なくとも含む。
[3-1.調味料用原液]
調味料用原液は、調味料を得るために用いられる液体物である。本発明の一態様のキットに含まれる調味料用原液の具体例は、本発明の一態様の調味料用原液である。ただし、本発明の一態様のキットに含まれる調味料用原液は、木片及び酵母含有物とともに酵母発酵用容器に入れられて、木片の浮上を指標として酵母発酵の管理に供されるものであることから、調味料用原液の色番は15番以上である。
[3-2.木片]
木片は、圧縮加工がされており、かつ、特定の体積を有することを特徴とする。本発明の一態様のキットに含まれる木片の具体例は、本発明の一態様の木片である。
[3-3.酵母含有物]
酵母含有物は、酵母それ自体又は酵母を含有するものであり、具体的には最終濃度として菌数が1.0×10個/ml以上になるように添加される酵母含有物である。「最終濃度として菌数が1.0×10個/ml以上になるように添加される」とは、酵母含有物と調味料用原液とを含む酵母発酵用部材の体積(1ml)あたり1.0×10個以上になるように添加されることを意味する。
酵母は、通常酵母発酵に供し得るものであれば特に限定されず、例えば、通常醤油の製造の際に用いられる醤油酵母などが挙げられ、具体的には、ジゴサッカロミセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、ジゴサッカロミセス・バイリー(Z.bailli)、カンディダ・エトケルシー(Candida etchellsii)、カンディダ・ヴェルスティリス(C.versatilis)などの耐塩性酵母などが挙げられる。
酵母含有物は、酵母の乾燥菌体及び湿菌体、酵母を含む固形物、酵母を溶液に溶解した液体物などであり得る。酵母含有物の固形物を得る方法は特に限定されないが、例えば、酵母の乾燥菌体のみを、又は酵母の乾燥菌体と賦形剤などのその他の成分とを混合したものを錠剤、顆粒剤、粉末剤などに製剤化することを含む方法などが挙げられる。酵母含有物の液体物を得る方法は特に限定されず、例えば、酵母の乾燥菌体又は湿菌体を、生理食塩水などの酵母の生存率に影響を与えない溶液に溶解することを含む方法などによって得られる。
酵母含有物は、酵母発酵させて得られ、さらに酵母が死滅していない調味料であってもよい。このような調味料は、例えば、調味料が醤油である場合は、「種醤油」として用いることができる。
酵母含有物における酵母の菌数は、最終濃度として菌数が1.0×10個/ml以上になるように添加される菌数であれば特に限定されないが、例えば、酵母含有物が液体物である場合は、1.0×10個/mlよりも多い菌数であり、好ましくは5.0×10個/ml以上であり、より好ましくは1.0×10個/ml以上であり、さらに好ましくは5.0×10個/ml以上である。
酵母含有物を添加することによる酵母菌体の最終濃度は、1.0×10個/ml以上であれば特に限定されないが、例えば、1.0×10個/mlよりも多い菌数であり、好ましくは5.0×10個/ml以上であり、より好ましくは1.0×10個/ml以上であり、さらに好ましくは1.0×10個/ml~1.0×10個/ml程度である。
[3-4.酵母発酵用容器]
酵母発酵用容器は、少なくとも調味料用原液、木片及び酵母含有物を容れて酵母発酵することができ、かつ、木片の沈降及び浮上を識別することができる容器であれば特に限定されない。酵母発酵用容器は、木片の径に対して十分な高さ、幅及び奥行きを有し、さらに木片を視認できるように透明又は澄明であることが好ましい。酵母発酵用容器の具体的態様として、通常知られているとおりの醤油瓶(卓上瓶)などが挙げられるが、これに限定されない。
酵母発酵用容器は蓋を備えることが好ましい。また、蓋は、酵母発酵用の第1の蓋、酵母発酵終了後に容器内の調味料を注ぐための注出孔を備えた第2の蓋の2種類あることが好ましい。すなわち、酵母発酵用容器は、酵母発酵の最中又はその後の別で、2種類の蓋を備えることが好ましい。
酵母発酵用の第1の蓋は、外部から容器内に酸素を供給しつつも、酸素の過剰な供給を防ぐために、中心周辺に貫通した直径2~5mm、好ましくは直径3mm程度の孔部を有することが好ましい。注出孔を備えた第2の蓋は、通常の醤油瓶に取り付けられた蓋と同等のものであり得る。
[3-5.容器台]
本発明の一態様のキットは、酵母発酵用容器を載置するための容器台を備えることが好ましい。容器台は、酵母発酵用容器を載置することができる台座部を備えるものであれば特に限定されない。
容器台の好ましい一態様としては、例えば、台座部に加えて、台座部に載置した酵母発酵用容器の底面から光を照射して散乱光が生じるように台座部を貫通して設けられた孔部と、孔部から酵母発酵用容器の底面を照射するための光源を収容可能な光源収容部とを備える容器台などが挙げられる。このような容器台を用いれば、酵母発酵用容器の底面から光を照射することにより、容器内の液体中で散乱光が生じて、容器全体が神秘的かつ煌びやかに光ることから、酵母発酵中にある酵母発酵用容器をインテリアの一部として利用することが可能である。さらに、酵母発酵用容器を戴置する台座部の底面から光を照射することにより、発酵管理に用いる木片の視認性を向上させることもできる。このような容器台の好ましい一態様は、図8A及び図8Bに例証されるような、下方部に光源を収容可能な容器台が挙げられるが、これに限定されない。
[3-6.調味料の製造方法]
本発明の一態様の製造方法(3)は、本発明の一態様のキットを用いた調味料の製造方法である。すなわち、本発明の一態様の製造方法(3)は、調味料の元液となる調味料用原液と、酵母発酵のための酵母含有物と、酵母発酵の指標となる木片とを加えた酵母発酵用容器を、酵母発酵に供して、該容器内の木片が浮上することを指標として、調味料を得る工程を少なくとも含む。
酵母発酵用容器に調味料用原液、木片及び酵母含有物を加える順序は特に限定されないが、調味料用原液を酵母発酵用容器に加えた後、酵母含有物を該容器に加え、さらに木片を該溶液に加えることが好ましい。
調味料用原液、酵母含有物及び木片を加えた酵母発酵用容器は、上記の酵母発酵用の第1の蓋で蓋をした状態で、酵母発酵に供することが好ましい。
調味料用原液に醤油諸味の液汁を用い、酵母含有物として種醤油を用いて、本発明の一態様の製造方法(3)によって醤油を製造する場合、通常の醤油の製造方法とは異なり、液体のみを用いて酵母発酵させることから、容器内を撹拌することや通気などをしなくとも、容器を静置した状態で簡便に酵母発酵を実施することができる。
しかも、調味料用原液が予め大部分又は全部の不溶性固形分が除かれた醤油諸味の液汁であることから、酵母発酵後に得られるものは固形分が少ない酵母発酵液であり、それ自体を液体調味料(醤油)として用いることができる。また、通常の醤油の製造方法における圧搾等をしなくともよいことから、汚れや廃棄物を出すことを回避することができ、さらに発酵途中でも随時使用可能であり、発酵過程の違いによる調味料の変化を愉しむことができる。
通常の固形分の多い醤油諸味と違って、液体物である調味料用原液を用いることにより、木片の浮上を指標として、簡便に調味料の製造過程を確認することができる。
そして、得られる醤油は、通常の製造方法では醸すことができないフレッシュなフルーティーな香りがして、まるでワインのような芳醇な香りが愉しめる嗜好性に富んだものである。したがって、酵母発酵液は、火入れなどをせずに、生のままで調理や調理物に使用することが好ましい。
また、例えば、醤油諸味の液汁である調味料用原液を用いる場合、色番は40番程度で淡い褐色であるが、これを本発明の一態様の製造方法(3)に使用すると、酵母発酵から7~35日後に、色番が18番程度になり濃い褐色になる。そして、色番の変化に応じて、はじめは香りがなかったものが、フルーティーな香りがするようになる。
本発明の一態様の製造方法(3)によって得られるフルーティーな香りがする調味料は、例えば、オクタン酸エチルの含有量が10ppb~20,000ppbである調味料
;デカン酸エチルの含有量が10ppb~5,000ppbである調味料;オクタン酸エチルの含有量が5ppb~10,000ppbであり、かつ、デカン酸エチルの含有量が5ppb~2,000ppbである調味料であり得る。
本発明の一態様の製造方法(3)によって得られるフルーティーな香りがする調味料の具体例は、オクタン酸エチルの含有量が5ppb~1,000ppbであり、デカン酸エチルの含有量が5ppb~1,000ppbであり、2-エチル-6-メチルピラジンの含有量:0ppbから10ppb未満であり、かつ、HEMFの含有量が20ppm~200ppmである調味料などであるが、これに限定されない。
本発明の一態様の製造方法(1)~(3)では、本発明の課題を解決し得る限り、上記した工程の前段若しくは後段又は工程中に、種々の工程や操作を加入することができる。
[3-7.キット及び製造方法の具体的態様]
本発明の一態様のキットの具体例として、図6に示すキット1が挙げられる。キット1は、調味料用原液を含有する第1の調味料用原液含有容器11及び第2の調味料用原液含有容器12;酵母発酵の指標となる木片21;酵母を含有する種醤油31;これらを容れて酵母発酵するための第1の酵母発酵用容器41及び第2の酵母発酵用容器42;酵母発酵中に酵母発酵用容器に蓋をするための第1の蓋51;酵母発酵後に酵母発酵用容器に蓋をするための第2の蓋52;及び酵母発酵用容器を載せるための第1の容器台を含む。そして、本発明の一態様の製造方法(3)の具体例としては、キット1を用いた調味料の製造方法が挙げられる。以下では、図7を参照して、キット1を用いた調味料の製造方法を説明する。
第1の調味料用原液含有容器11内の調味料用原液を、第1の酵母発酵用容器41に注ぎ入れる(図7の(a)を参照)。この際、第1の酵母発酵用容器41の代わりに、第2の酵母発酵用容器42を用いてもよい。次いで、調味料用原液を注ぎ入れた第1の酵母発酵用容器41に、種醤油31及び木片21を順に入れる(図7の(b)及び(c)を参照)。次いで、調味料用原液、種醤油31及び木片21を入れた第1の酵母発酵用容器41を、第1の蓋により蓋をして、第1の容器台61に載せ、室温下で静置することにより、酵母発酵する。酵母発酵後1週間程度で、木片21の浮上を指標とすることにより、酵母発酵が適切になされ、調味料ができていることを確認する(図7の(d)を参照)。酵母発酵は1~4週間程度行い、その間に容器内の調味料を使用する場合は、都度、第1の蓋51を第2の蓋52に付け替えて、調味料を注ぎ出すようにする。
第1の酵母発酵用容器41内の調味料用原液は、酵母発酵が進むにつれて、淡い色から徐々に色の深みが増して茜色になっていく。そこで、第1の酵母発酵用容器41を図8Aに例証されるような第2の容器台62に載せ、図8Bに例証されるように第2の容器台62の下部に設けられた光源収容部に、光源付き携帯情報端末(スマートフォン)などを入れて、該光源により第1の酵母発酵用容器41の底面から容器全体を照らすことにより、調味料用原液には不溶性固形分が少ないことから、容器全体が審美的な茜色に輝く。しかも、その茜色は、酵母発酵の経過に応じて日々変わるので、酵母発酵中の第1の酵母発酵用容器41をインテリアの一部として利用できる。
第1の調味料用原液含有容器11及び第2の調味料用原液含有容器12が含有する調味料用原液は同一のものであっても、異なるものであっても、どちらでもよい。例えば、第1の調味料用原液含有容器11には北海道産大豆を原料として用いて製造した調味料用原液を容れ、第2の調味料用原液含有容器12には新潟産大豆を原料として用いて製造した調味料用原液を容れるなどすれば、最終的に異なる風味の2種類の調味料を得ることができる。
4.本発明の一態様の液体調味料
本発明の一態様の液体調味料は、オクタン酸エチルの含有量、デカン酸エチルの含有量又はオクタン酸エチル及びデカン酸エチルの含有量が所定の量である、醤油又は醤油様調味料である。具体的には、本発明の第1の態様の液体調味料(1-1)は、オクタン酸エチルの含有量が所定の量である、醤油又は醤油様調味料である。本発明の第2の態様の液体調味料(1-2)は、デカン酸エチルの含有量が所定の量である、醤油又は醤油様調味料である。本発明の第3の態様の液体調味料(1-3)は、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルの含有量がそれぞれ所定の量である、醤油又は醤油様調味料である。
本発明の一態様の液体調味料は、醤油本来の風味がありつつも、オクタン酸エチルの含有量、デカン酸エチルの含有量又はオクタン酸エチル及びデカン酸エチルの含有量が所定の量であることにより、従前の醤油よりも優れたフルーティーな香りがする醤油及び醤油様調味料として、飲食品の味を調える用に供され得る。その結果として、本発明の一態様の液体調味料を用いれば、醤油の風味と、フルーティーな香りとを併せもった調味料や飲食品が得られ得る。
本発明の一態様の液体調味料は、醤油及び醤油様調味料のいずれかの調味料であり、食材を加工する際に味を調える目的で使用されるものであれば特に限定されない。
本発明の第1の態様の液体調味料におけるオクタン酸エチルの含有量は、液体調味料がフルーティーな香りがする程度の量である。具体的には、本発明の第1の態様の液体調味料(1-1)におけるオクタン酸エチルの含有量は10ppb~20,000ppbであり、よりフルーティーな香りがするという観点から20ppb~15,000ppbであることが好ましく、50ppb~10,000ppbであることがより好ましい。ただし、オクタン酸エチルの含有量が20,000ppbよりも多いと、香りが強すぎて石油のような不快な香りがして、液体調味料全体の香りが不快なものになることから、オクタン酸エチルの含有量の上限は、20,000ppbよりも少ない量、すなわち、20,000ppb未満であることが好ましい。本発明の第3の態様の液体調味料(1-3)におけるオクタン酸エチルの含有量は5ppb~10,000ppbであり、よりフルーティーな香りがするという観点から10ppb~5,000ppbであることが好ましく、15ppb~1,000ppbであることがより好ましい。
液体調味料におけるオクタン酸エチルの含有量が上記した所定の量よりも少ない量である場合には、液体調味料にオクタン酸エチル又はオクタン酸エチル含有物を添加して所定の量に調整できる。オクタン酸エチル含有物は、後述する実施例に記載の方法によってオクタン酸エチルとして測定され得るものであれば特に限定されない。
本発明の第1の態様の液体調味料におけるデカン酸エチルの含有量は、液体調味料がフルーティーな香りがする程度の量である。具体的には、本発明の第2の態様の液体調味料(1-2)におけるデカン酸エチルの含有量は10ppb~5,000ppbであり、よりフルーティーな香りがするという観点から20ppb~2,000ppbであることが好ましく、50ppb~1,000ppbであることがより好ましい。ただし、デカン酸エチルの含有量が5,000ppbよりも多いと、香りが強すぎて石油のような不快な香りがして、液体調味料全体の香りが不快なものになることから、デカン酸エチルの含有量の上限は、5,000ppbよりも少ない量、すなわち、5,000ppb未満であることが好ましい。本発明の第3の態様の液体調味料(1-3)におけるデカン酸エチルの含有量は5ppb以上であり、よりフルーティーな香りがするという観点から10ppb~2,000ppbであることが好ましく、20ppb~1,500ppbであることがより好ましく、30ppb~1,000ppbであることがさらに好ましい。
液体調味料におけるデカン酸エチルの含有量が上記した所定の量よりも少ない量である場合には、液体調味料にデカン酸エチル又はデカン酸エチル含有物を添加して所定の量に調整できる。デカン酸エチル含有物は、後述する実施例に記載の方法によってデカン酸エチルとして測定され得るものであれば特に限定されない。
液体調味料は、オクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルの含有量が、上記した量であることにより、従前の醤油ではほとんど感じられない、フルーティーな香りがする。一方で、オクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルによるフルーティーな香りは、従前の醤油が本来的に含有する2-エチル-6-メチルピラジンによってマスキングされ得る。そこで、液体調味料における2-エチル-6-メチルピラジンの含有量は、例えば、オクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルによるフルーティーな香りが抑制されない程度の量であることが挙げられ、好ましくは50ppb以下であり、より好ましくは20ppb以下であり、さらに好ましくは10ppb以下であり、なおさらに好ましくは5ppb以下である。液体調味料における2-エチル-6-メチルピラジンの含有量の下限は特に限定されず、検出下限未満、すなわち、実質的に0ppbであってもよい。
液体調味料は、フルーティーな香りがしつつも、醤油成分を含有することにより、HEMFなどによって醤油本来の風味がすることに特徴がある。そこで、液体調味料におけるHEMFの含有量は、20ppm以上であることが好ましく、30ppm以上であることがより好ましく、40ppm以上であることがさらに好ましい。HEMFの含有量の上限は、所望の醤油本来の風味に応じて適宜設定すればよく、典型的には200ppm程度である。
液体調味料におけるオクタン酸エチル、デカン酸エチル、2-エチル-6-メチルピラジン及びHEMFの含有量は、後述する実施例に記載の方法によって測定できる。したがって、上記したオクタン酸エチル、デカン酸エチル、2-エチル-6-メチルピラジン及びHEMFの含有量は、後述する実施例に記載の方法によって測定して得られる値である。なお、2-エチル-6-メチルピラジン及びHEMFは、以下のm/zを用いて、ピーク面積が求められる。
2-エチル-6-メチルピラジン:m/z121
HEMF:m/z142
本発明の一態様の液体調味料の製造方法は、オクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルの含有量が所定の量である液体調味料が得られる方法であれば特に限定されない。
本発明の一態様の液体調味料は、例えば、市販の醤油とオクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルとを混合することにより製造することができる。
液体調味料の製造方法は、オクタン酸エチルの含有量やデカン酸エチルの含有量などが所定の量である液体調味料が得られる方法であれば特に限定されない。液体調味料は、例えば、通常の醤油の製造方法によって乳酸発酵を行った後に得られる醤油諸味を固液分離し、さらに液体部分をUF膜で処理して醤油諸味液汁を得て、次いで該醤油諸味液汁を醤油酵母により酵母発酵に供することを含む方法などにより製造することができる。該方法では、通常の醤油の製造方法と違って、乳酸発酵後の醤油諸味を連続的に酵母発酵に供するのではなく、酵母発酵に供する前に醤油諸味を不溶性固形部分(醤油諸味濃縮物)と液体部分(醤油諸味液汁)とに分けて、次いで醤油諸味液汁について酵母発酵を実施することを含む。したがって、該方法では、醤油諸味を得る工程と、醤油諸味液汁を得る工程と、酵母発酵を実施する工程とを少なくとも含む。このようにして得られる液体調味料は、例えば、(i)オクタン酸エチルの含有量が10ppb~20,000ppbである液体調味料、(ii)デカン酸エチルの含有量が10ppb~5,000ppbである液体調味料、又は(iii)オクタン酸エチルの含有量が5ppb~10,000ppbであり、かつ、デカン酸エチルの含有量が5ppb~2,000ppbである液体調味料であり得る。
醤油諸味を得る工程は、通常知られているとおりの醤油の製造方法のうち醤油諸味を得るまでの工程であれば特に限定されない。なお、醤油は、本醸造方式の場合、加熱変性した大豆などのタンパク質原料及び加熱によりα化した小麦などのデンプン質原料の混合物に、麹菌を含む種麹を接種及び培養して製麹して醤油麹を得て、次いで得られた醤油麹を食塩水に仕込んで乳酸発酵及び熟成することにより醤油諸味を得て、次いで得られた醤油諸味を酵母発酵及び熟成することにより熟成諸味を得て、次いで得られた熟成諸味を圧搾処理やろ過処理に供することにより生醤油を得て、次いで得られた生醤油を火入れすることなどによって製造される。
醤油諸味を得る工程の一態様としては、例えば、蒸煮変性した大豆、又は蒸煮変性した大豆や炒熬割砕した麦などの混合物である醤油原料に種麹を接種し、20~40℃で、2~4日間程度で通風製麹して醤油麹を得て、次いで醤油麹を食塩濃度が20~30%(w/v)になるように食塩を水に添加して調製した食塩水に仕込み、さらに任意に醤油乳酸菌を加えたものを、15~40℃で適宜撹拌しながら10~200日間、好ましくは15~40日間、乳酸発酵及び熟成することにより醤油諸味を得る工程などが挙げられる。
醤油原料は特に限定されないが、例えば、丸大豆や脱脂加工大豆などの大豆、小麦、大麦、裸麦、はと麦などの麦、麦グルテン、米、トウモロコシなどが挙げられる。
種麹は、通常醤油の製造の際に利用される麹菌であれば特に限定されないが、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(A.sojae)などが挙げられる。醤油乳酸菌は、通常醤油の製造の際に利用される醤油乳酸菌であれば特に限定されないが、例えば、テトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)などの耐塩性乳酸菌などが挙げられる。
醤油諸味を得る工程において、醤油原料のうち、小麦や米等のデンプン質原料の量が少ないと、還元糖の含有量が少なくなり、酵母発酵を適切に実施し得る醤油諸味を得ることができない可能性がある。そこで、醤油原料のうち、小麦や米等のデンプン質原料の量は、還元糖の含有量が多い醤油諸味を得ることができる程度の量であることが好ましい。ただし、醤油諸味に還元糖成分、例えば、グルコース、フルクトース、マルトース、砂糖、みりんなどを添加することにより還元糖の含有量が多い醤油諸味を得る場合は、この限りではない。すなわち、醤油麹には、大豆などのタンパク質原料に種麹を接種して製麹することにより全窒素分の多い醤油麹を得た後に、還元糖成分を添加して調整した調整醤油麹が含まれる。
醤油諸味液汁を得る工程では、大豆や小麦などの醤油原料由来の不溶性固形分を含む醤油諸味(乳酸発酵物)から不溶性固形分を除く固液分離処理及び/又は微生物を除去する除菌処理により醤油諸味の液汁を得る。醤油諸味から醤油諸味液汁を得る方法は特に限定されないが、例えば、通常知られている固液分離方法及び除菌方法などが挙げられ、具体的には醤油の製造方法で通常使用される圧搾処理やろ過処理などが挙げられ、より具体的にはろ布を用いたプレス機を用いた圧搾ろ過処理、珪藻土などのろ過材又はUF膜やMF膜などの各種透過膜を用いた膜ろ過処理、微生物が殺滅するまでの温度に上げる加温処理などが挙げられる。このとき、醤油諸味の液汁に醤油乳酸菌が多く残っていると、酵母発酵が適切に行われない可能性がある。そこで、醤油諸味液汁を得る際には、不溶性固形分とともに、醤油乳酸菌の大部分を除去できるような方法を採用することが好ましい。醤油諸味の液汁における乳酸菌の含有量は特に限定されないが、例えば、1.0×10個/ml以下であることが好ましく、1.0×10個/ml以下であることがより好ましく、1.0×10個/ml以下であることがさらに好ましい。
酵母発酵を実施する工程は、醤油諸味液汁について、通常知られているとおりの醤油を製造する際に使用する醤油酵母を用いて、醤油酵母の種類や菌数などに応じた条件によって常法の酵母発酵を実施する。醤油酵母は、通常醤油の製造の際に用いられる酵母であれば特に限定されないが、例えば、ジゴサッカロミセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、ジゴサッカロミセス・バイリー(Z.bailli)、カンディダ・エトケルシー(Candida etchellsii)、カンディダ・ヴェルスティリス(C.versatilis)などの耐塩性酵母などが挙げられる。
酵母発酵の期間は、発酵液中のオクタン酸エチル及びデカン酸エチルなどの含有量が所定の量になる期間であれば特に限定されないが、例えば、醤油酵母としてZygosaccharomyces rouxiiを用いる場合は、15~30℃で、10~100日間程度、好ましくは14~60日間程度、より好ましくは45日間程度である。さらに、酵母発酵の期間は、エタノールの生成量が最大になる期間であることが好ましい。
なお、酵母発酵を実施する工程は、例えば、酵母発酵に適しており、さらに酵母発酵後に直ちに発酵液を使用し得るような醤油瓶に、醤油諸味液汁及び醤油酵母を入れて、室温で静置して酵母発酵することなどにより簡便に実施できる。
酵母発酵を実施する工程では、予め不溶性固形分が除かれた醤油諸味液汁を用いていることから、酵母発酵後に得られるものは固形分が少ない酵母発酵液であり、それ自体を液体調味料としてもよい。また、該酵母発酵液中にある酵母や残渣を除くなどの目的のために、該酵母発酵液について、圧搾、ろ過、火入れやオリ引きなどの通常の醤油の製造方法で用いられる酵母発酵の後段の処理などに供して得られる液体部分を液体調味料としてもよい。
本発明の一態様の液体調味料は、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルなどの含有量が所定の量であればよく、本発明の課題解決を妨げない限りは、様々なその他の成分を含有することができる。その他の成分は特に限定されないが、例えば、調味料成分や食材であり、具体的には野菜成分(大根、ニンジン、玉ネギ、じゃがいも、にんにくなど)、肉類(牛肉、豚肉、鶏肉など)、魚類、酵母エキス、肉エキス(チキンエキス、ポークエキス、ビーフエキス、魚肉エキスなど)、果汁(りんご果汁など)、香辛料(生姜、唐辛子、こしょう、バジル、オレガノなど)、化学調味料(グルタミン酸ソーダ、イノシン酸ソーダなど)、フレーバーなどが挙げられ、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。その他の成分の含有量は、本発明の課題を解決し得る限り、適宜設定することができる。
本発明の一態様の液体調味料は、容器に詰めて密封した容器詰液体調味料、すなわち、容器詰醤油又は容器詰醤油様調味料とすることができる。容器は特に限定されないが、例えば、アルミなどの金属、紙、PETやPTPなどのプラスチック、ガラスなどを素材とする、1層又は積層(ラミネート)のフィルム袋、レトルトパウチ、真空パック、アルミ容器、プラスチック容器、瓶、缶などの包装容器が挙げられる。容器詰醤油及び容器詰醤油様調味料は、それ自体で独立して、流通におかれて市販され得るものである。
本発明の一態様の液体調味料は、通常の液体調味料と同様に使用することができる。すなわち、本発明の一態様の液体調味料は、単独で、又は上記した野菜成分、肉類、魚類、酵母エキス、肉エキス、果汁、香辛料、化学調味料、フレーバーに加えて、だし、酸味料、アミノ酸、核酸、有機酸、タンパク質加水分解物、糖、酒、みりん、アルコール、増粘剤、乳化剤、無機塩類などのその他の調味成分を混合して、若しくは組み合わせて、様々な食材の調理や加工法に用いることができる。例えば、本発明の一態様の液体調味料は、日本食、欧米食、中華食などの各種の料理に使用することができ、具体的には揚げ物、焼肉、うどん、そば、ラーメン、ハンバーグ、ミートボール、筑前煮、肉じゃが、照り焼き、カレー、シチュー、ハヤシなどに用いることができるが、これらに限定されない。
本発明の一態様の液体調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、オクタン酸エチルの含有量が以下(1-1)のとおりである液体調味料が挙げられる:
(1-1)オクタン酸エチルの含有量:20ppb~10,000ppb
本発明の一態様の液体調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、デカン酸エチルの含有量が以下(2-1)のとおりである液体調味料が挙げられる:
(2-1)デカン酸エチルの含有量:20ppb~2,000ppb
本発明の一態様の液体調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、オクタン酸エチルの含有量及びデカン酸エチルの含有量がそれぞれ以下(1-2)及び(2-2)のとおりである液体調味料が挙げられる:
(1-2)オクタン酸エチルの含有量:5ppb~1,000ppb
(2-2)デカン酸エチルの含有量:5ppb~1,000ppb
本発明の一態様の液体調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、オクタン酸エチルの含有量、デカン酸エチルの含有量及び2-エチル-6-メチルピラジンの含有量がそれぞれ以下(1-3)、(2-3)及び(3-3)のとおりである液体調味料が挙げられる:
(1-3)オクタン酸エチルの含有量:5ppb~1,000ppb
(2-3)デカン酸エチルの含有量:5ppb~1,000ppb
(3-3)2-エチル-6-メチルピラジンの含有量:0ppbから10ppb未満
本発明の一態様の液体調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、オクタン酸エチルの含有量、デカン酸エチルの含有量、2-エチル-6-メチルピラジンの含有量及びHEMFの含有量がそれぞれ以下(1-4)、(2-4)、(3-4)及び(4-4)のとおりである液体調味料が挙げられる:
(1-4)オクタン酸エチルの含有量:5ppb~1,000ppb
(2-4)デカン酸エチルの含有量:5ppb~1,000ppb
(3-4)2-エチル-6-メチルピラジンの含有量:0ppbから10ppb未満
(4-4)HEMFの含有量:20ppm~200ppm
5.本発明の一態様の液体濃厚調味料
本発明の一態様の液体調味料のうち、濃厚なものを、液体濃厚調味料とよぶ。すなわち、本発明の一態様の液体濃厚調味料は、全窒素分及び4-ヒドロキシ-2(又は5)-エチル-5(又は2)-メチル-3(2H)-フラノン(ホモフラネオール;HEMF)の含有量を所定の量に調整したものであることにより、うま味がありつつも、醤油本来の風味に格別優れたものである。したがって、本発明の一態様の液体濃厚調味料は、濃厚醤油及び濃厚醤油調味料として、飲食品の味を調える用に供され得る。
本発明の一態様の液体濃厚調味料は、濃厚醤油及び濃厚醤油調味料のいずれかの調味料であり、食材を加工する際に味を調える目的で使用されるものであれば特に限定されない。
液体濃厚調味料における全窒素分の量は、液体濃厚調味料が市販の生醤油よりもうま味が感じられる程度の量である。具体的には、液体濃厚調味料における全窒素分の量は、1.8wt%以上であり、よりうま味が感じられるという観点から、1.9wt%以上であることが好ましく、2.0wt%以上であることがより好ましい。全窒素分の上限は、所望の醤油本来の風味に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、典型的には4wt%程度である。
液体濃厚調味料におけるHEMFの含有量は、液体濃厚調味料が市販の生醤油よりも醤油本来の風味が感じられる程度の量である。具体的には、液体濃厚調味料におけるHEMFの含有量は、60ppm以上であり、より醤油本来の風味が感じられるという観点から、70ppm以上であることが好ましく、80ppm以上であることがより好ましく、90ppm以上であることがさらに好ましい。HEMFの含有量の上限は、所望の醤油本来の風味に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、典型的には200ppm程度である。
液体濃厚調味料におけるHEMFは、本醸造方式で製造された醤油に外部添加するものではなく、本醸造方式の醤油の製造の過程で生成されるHEMFであることが好ましい。すなわち、液体濃厚調味料におけるHEMFは、精製品であるHEMFやHEMF含有物として加えられたものではないことが好ましい。
本発明の一態様の液体濃厚調味料は、全窒素分及びHEMFの量が上記した量であるものであれば特に限定されないが、例えば、液体濃厚調味料の味や香りに影響を及ぼし得るという観点から、還元糖、デカン酸エチル、オクタン酸エチル、2-エチル-6-メチルピラジンなどの量が所定の量であるものであることが好ましい。
液体濃厚調味料における還元糖の含有量は、市販の生醤油の還元糖の量である3.0wt%よりも多い量であることが好ましく、液体濃厚調味料をまろやかでコクのある甘味豊かなものにし得るという観点から、4.0wt%以上であることがより好ましく、6.0wt%以上であることがさらに好ましく、7.0wt%以上であることがなおさらに好ましく、8.0wt%以上であることがとりわけ好ましい。還元糖の含有量の上限は特に限定されないが、液体濃厚調味料の甘味やエネルギーを考慮すれば、典型的には20wt%程度である。
液体濃厚調味料におけるデカン酸エチルの含有量は、液体濃厚調味料がフルーティーな香りがする程度の量であることが好ましく、よりフルーティーな香りがするという観点から、10ppb~2,000ppbであることがより好ましく、50ppb~1,000ppbであることがさらに好ましい。ただし、デカン酸エチルの含有量が5,000ppbよりも多いと、香りが強すぎて石油のような不快な香りがして、液体濃厚調味料全体の香りが不快なものになる傾向にある。
液体濃厚調味料におけるオクタン酸エチルの含有量は、液体濃厚調味料がフルーティーな香りがする程度の量であることが好ましく、よりフルーティーな香りがするという観点から、10ppb~10,000ppbであることがより好ましく、50ppb~10,000ppbであることがさらに好ましい。ただし、オクタン酸エチルの含有量が20,000ppbよりも多いと、香りが強すぎて石油のような不快な香りがして、液体濃厚調味料全体の香りが不快なものになる傾向にある。
液体濃厚調味料がデカン酸エチル及びオクタン酸エチルの両方を含有する場合は、それぞれの下限の量をより低くすることができる。この場合の液体濃厚調味料におけるデカン酸エチル及びオクタン酸エチルの含有量は、それぞれが5ppb~2,000ppb及び5ppb~10,000ppbであることが好ましく、よりフルーティーな香りがするという観点から、それぞれ20ppb~1,500ppb及び10ppb~5,000ppbであることが好ましく、30ppb~1,000ppb及び15ppb~1,000ppbであることがさらに好ましい。
なお、デカン酸エチル及びオクタン酸エチルを、それぞれの好ましい範囲の量で含有する液体濃厚調味料は、フルーティーな香りがする好ましいものであり、不快臭を感じるものではない。したがって、液体濃厚調味料の具体的態様として、デカン酸エチルの含有量が2,000ppbであり、かつ、オクタン酸エチルの含有量が10,000ppbである液体濃厚調味料が挙げられる。
液体濃厚調味料は、デカン酸エチル及び/又はオクタン酸エチルを含有することにより、特にデカン酸エチル及び/又はオクタン酸エチルの含有量が上記した量であることにより、従前の醤油ではほとんど感じられない、フルーティーな香りがする。一方で、デカン酸エチル及び/又はオクタン酸エチルによるフルーティーな香りは、従前の醤油が本来的に含有する2-エチル-6-メチルピラジンによってマスキングされ得る。そこで、液体濃厚調味料における2-エチル-6-メチルピラジンの含有量は、例えば、デカン酸エチル及び/又はオクタン酸エチルによるフルーティーな香りが抑制されない程度の量であることが挙げられ、好ましくは50ppb以下であり、より好ましくは20ppb以下であり、さらに好ましくは10ppb未満であり、なおさらに好ましくは5ppb以下である。液体濃厚調味料における2-エチル-6-メチルピラジンの含有量の下限は特に限定されず、検出下限未満、すなわち、実質的に0ppbであってもよい。
液体濃厚調味料における全窒素分、HEMF、還元糖、デカン酸エチル、オクタン酸エチル及び2-エチル-6-メチルピラジンの含有量は、後述する実施例に記載の方法によって測定できる。したがって、上記した全窒素分、HEMF、還元糖、デカン酸エチル、オクタン酸エチル及び2-エチル-6-メチルピラジンの含有量は、後述する実施例に記載の方法によって測定して得られる値である。
液体濃厚調味料の製造方法は、本発明の課題を解決し得る液体濃厚調味料が得られる方法、具体的には全窒素分及びHEMFの含有量が所定の量である液体濃厚調味料、好ましくは全窒素分及びHEMFの含有量が所定の量であり、かつ、還元糖、デカン酸エチル、オクタン酸エチル及び/又は2-エチル-6-メチルピラジンの含有量が所定の量である液体濃厚調味料が得られる方法であれば特に限定されない。
本発明の別の一態様は、液体濃厚調味料の製造方法、すなわち、濃厚醤油及び濃厚醤油調味料の製造方法である。本発明の一態様の液体濃厚調味料の製造方法により、本発明の一態様の液体濃厚調味料を製造し得る。本発明の一態様の液体濃厚調味料の製造方法は、含まれる工程により大きく2つに分けられる。
本発明の第1の態様の液体濃厚調味料の製造方法は、醤油麹と食塩水とを混合処理に供して得られた第1の醤油諸味を、固液分離処理及び除菌処理に供して第1の醤油諸味液汁を得る工程、第1の醤油諸味液汁と醤油麹と食塩とを混合処理に供して第2の醤油諸味を得る工程、第2の醤油諸味を固液分離処理又は固液分離処理及び除菌処理に供して第2の醤油諸味液汁を得る工程、及び第2の醤油諸味液汁を醤油酵母による酵母発酵に供することにより、全窒素分及びHEMFの含有量が所定の量である濃厚醤油又は濃厚醤油調味料を得る工程を少なくとも含む。
本発明の第1の態様の液体濃厚調味料の製造方法では、通常の醤油の製造方法と違って、乳酸発酵後の第1の醤油諸味を連続的に酵母発酵に供するのではなく、酵母発酵に供する前に醤油諸味を微生物が除去されるように不溶性固形部分(第1の醤油諸味濃縮物)と液体部分(第1の醤油諸味液汁)とに分けて、次いで第1の醤油諸味液汁を仕込水として用いて醤油麹による作用を促すことにより得た第2の醤油諸味を不溶性固形部分(第2の醤油諸味濃縮物)と液体部分(第2の醤油諸味液汁)とに分けて、第2の醤油諸味液汁について酵母発酵を実施することを含む。したがって、該方法では、第1の醤油諸味から第1の醤油諸味液汁を得る工程と、第2の醤油諸味を得る工程と、第2の醤油諸味液汁を得る工程と、酵母発酵を実施する工程とを少なくとも含む。このようにして得られる液体濃厚調味料は、例えば、全窒素分が1.8wt%以上であり、かつ、HEMFの含有量が60ppm以上である液体濃厚調味料であり得る。本明細書では、便宜上、第1の醤油諸味から第1の醤油諸味液汁を得る工程の前段にあたる、第1の醤油諸味を得る工程についても説明する。本発明の第1の態様の方法は、第1の醤油諸味を得る工程を含んでもよいし、含まなくてもよい。
第1の醤油諸味を得る工程は、通常知られているとおりの醤油の製造方法のうち醤油諸味を得るまでの工程であれば特に限定されない。なお、醤油は、本醸造方式の場合、加熱変性した大豆などのタンパク質原料及び加熱によりα化した小麦などのデンプン質原料の混合物に、麹菌を含む種麹を接種及び培養して製麹して醤油麹を得て、次いで得られた醤油麹を食塩水に仕込んで乳酸発酵及び熟成することにより醤油諸味を得て、次いで得られた醤油諸味を酵母発酵及び熟成することにより熟成諸味を得て、次いで得られた熟成諸味を圧搾処理やろ過処理に供することにより生醤油を得て、次いで得られた生醤油を火入れすることなどによって製造される。
第1の醤油諸味を得る工程の一態様としては、例えば、蒸煮変性した大豆、又は蒸煮変性した大豆や炒熬割砕した麦などの混合物である醤油原料に種麹を接種し、20~40℃で、2~4日間程度で通風製麹して醤油麹を得て、次いで醤油麹を食塩濃度が20~30%(w/v)になるように食塩を水に添加して調製した食塩水に仕込み、さらに任意に醤油乳酸菌を加えたものを、15~40℃で適宜撹拌しながら10~200日間、好ましくは15~40日間である条件の混合処理に供することにより醤油諸味を得る工程などが挙げられる。この混合処理では、醤油麹による作用と醤油乳酸菌による乳酸発酵とが生じ得る。なお、第1の醤油諸味を得る工程における混合処理では、醤油乳酸菌を加えることが好ましい。
醤油原料は特に限定されないが、例えば、丸大豆や脱脂加工大豆などの大豆、小麦、大麦、裸麦、はと麦などの麦、麦グルテン、米、トウモロコシなどが挙げられる。
麹菌は、通常醤油の製造の際に利用される麹菌であれば特に限定されないが、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(A.sojae)などが挙げられる。醤油乳酸菌は、通常醤油の製造の際に利用される醤油乳酸菌であれば特に限定されないが、例えば、テトラジェノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)などの耐塩性乳酸菌などが挙げられる。
第1の醤油諸味を得る工程において、醤油原料のうち、小麦や米等のデンプン質原料の量が少ないと、還元糖の含有量が少なくなり、酵母発酵を適切に実施し得る醤油諸味を得ることができない可能性がある。そこで、醤油原料のうち、小麦や米等のデンプン質原料の量は、還元糖の含有量が多い醤油諸味を得ることができる程度の量であることが好ましい。ただし、醤油諸味に還元糖成分、例えば、グルコース、フルクトース、マルトース、砂糖、みりんなどを添加することにより還元糖の含有量が多い醤油諸味を得る場合は、この限りではない。すなわち、醤油麹には、大豆などのタンパク質原料に種麹を接種して製麹することにより全窒素分の多い醤油麹を得た後に、還元糖成分を添加して調整した調整醤油麹が含まれる。
第1の醤油諸味液汁を得る工程では、大豆や小麦などの醤油原料由来の不溶性固形分を含む第1の醤油諸味から不溶性固形分を除く固液分離処理及び微生物を除去する除菌処理により第1の醤油諸味液汁を得る。第1の醤油諸味から不溶性固形分を除く固液分離処理は特に限定されないが、例えば、通常知られている固液分離方法などが挙げられ、具体的には醤油の製造方法で通常使用される圧搾処理やろ過処理などが挙げられ、より具体的にはろ布を用いたプレス機を用いた圧搾ろ過処理やUF膜やMF膜などの各種透過膜を用いた膜ろ過処理などが挙げられる。固液分離処理は、上記した処理や方法の1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用し得る。
第1の醤油諸味から微生物を除去する除菌処理は特に限定されないが、具体的には微生物を除去する際に用いられる珪藻土などのろ過材やUF膜などの各種透過膜を用いたろ過処理や微生物が殺滅するまでの温度に上げる加温処理などが挙げられる。除菌処理は、上記した処理や方法の1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用し得る。なお、除菌処理は、微生物を系外に除く処理に加えて、系内にいる微生物を系外に除くことなく死滅させる処理であり得る。除菌処理で主として除かれるべき微生物は、酵母であるが、これに限定されない。
なお、固液分離の際に微生物を透過しないような膜を用いたろ過処理を利用すれば、固液分離処理と除菌処理とを兼ねることができる。したがって、第1の醤油諸味液汁を得る工程における固液分離処理及び除菌処理は、それぞれ個別の処理として実施してもよいし、一体的な1つの処理として実施してもよい。また、固液分離処理と除菌処理との順序は限定されず、どちらを先に行ってもよいが、固液分離処理をした後に得られる液体部分を除菌処理に供することが好ましい。
第1の醤油諸味液汁における微生物の量は、後段の第2の醤油諸味を得る工程にて酵母発酵が生じない程度の量であれば特に限定されないが、例えば、第1の醤油諸味液汁における酵母の数が1.0×10個/ml以下であることが好ましく、1.0×10個/ml以下であることがより好ましく、1.0×10個/ml以下であることがさらに好ましい。
第1の醤油諸味液汁を得る工程では、第1の醤油諸味から、不溶性固形分及び微生物に加えて、油分を除くことが好ましい。例えば、第1の醤油諸味を圧搾処理により得た圧搾液を珪藻土を用いたろ過処理に1回又は2回以上供することにより、第1の醤油諸味から不溶性固形分、微生物及び油分を除去し得る。
第2の醤油諸味を得る工程は、仕込水として水の代わりに第1の醤油諸味液汁を用いること以外は第1の醤油諸味を得る工程と同様に実施する。ただし、第2の醤油諸味を得る工程では、醤油乳酸菌を加えないことが好ましい。
第2の醤油諸味液汁を得る工程は、第1の醤油諸味液汁を得る工程と同様に実施する。ただし、第2の醤油諸味液汁を得る工程は、第2の醤油諸味を固液分離処理に供すればよく、必ずしも除菌処理をしなくともよいが、第2の醤油諸味を固液分離処理及び除菌処理に供することが好ましい。後段の酵母発酵を実施して得られる液体濃厚調味料が納豆臭などの不快臭を呈する可能性があることから、第2の醤油諸味液汁は、イソ酪酸の含有量が20ppm以下、イソ吉草酸の含有量が20ppm以下、又はイソ酪酸及びイソ吉草酸の含有量がそれぞれ20ppm以下であることが好ましい。
酵母発酵を実施する工程は、第2の醤油諸味液汁について、通常知られているとおりの醤油を製造する際に使用する醤油酵母を用いて、醤油酵母の種類や菌数などに応じた条件によって常法の酵母発酵を実施する。醤油酵母は、通常醤油の製造の際に用いられる酵母であれば特に限定されないが、例えば、ジゴサッカロミセス・ルキシー(Zygosaccharomyces rouxii)、ジゴサッカロミセス・バイリー(Z.bailli)、カンディダ・エトケルシー(Candida etchellsii)、カンディダ・ヴェルスティリス(C.versatilis)などの耐塩性酵母などが挙げられる。
酵母発酵の期間は、発酵液中にHEMFが十分な量で生成する期間、好ましくはHEMFの含有量が所定の量であり、デカン酸エチル及びオクタン酸エチルが生成する期間、より好ましくはHEMF、デカン酸エチル及びオクタン酸エチルの含有量が所定の量になる期間、さらに好ましくはHEMFの含有量が60ppm以上であり、デカン酸エチルの含有量が10ppb以上であり、かつ、オクタン酸エチルの含有量が10ppb以上になる期間であれば特に限定されないが、例えば、醤油酵母としてZygosaccharomyces rouxiiを用いる場合は、15~30℃で、10~100日間程度、好ましくは14~60日間程度である。さらに、酵母発酵の期間は、エタノールの生成量が最大になる期間であることが好ましい。
なお、酵母発酵を実施する工程は、例えば、酵母発酵に適しており、さらに酵母発酵後に直ちに発酵液を使用し得るような醤油瓶に、第2の醤油諸味液汁及び醤油酵母を入れて、室温で静置して酵母発酵することなどにより簡便に実施できる。
酵母発酵を実施する工程では、予め不溶性固形分が除かれた第2の醤油諸味液汁を用いていることから、酵母発酵後に得られるものは固形分が少ない酵母発酵液であり、それ自体を液体濃厚調味料としてもよい。また、該酵母発酵液中にある酵母や残渣を除くなどの目的のために、該酵母発酵液について、圧搾、ろ過、火入れやオリ引きなどの通常の醤油の製造方法で用いられる酵母発酵の後段の処理などに供して得られる液体部分を液体濃厚調味料としてもよい。
本発明の第2の態様の方法は、醤油麹と食塩水とを混合処理に供して得られた醤油諸味を、固液分離処理及び除菌処理に供して醤油諸味液汁を得る工程、該醤油諸味液汁を、全窒素分及び還元糖の含有量が所定の量となるように調整して、調整醤油諸味液汁を得る工程、及び該調整醤油諸味液汁を醤油酵母による酵母発酵に供することにより、全窒素分及びHEMFの含有量が所定の量である濃厚醤油又は濃厚醤油調味料を得る工程を少なくとも含む。
本発明の第2の態様の方法は、醤油諸味液汁を得る工程と、調整醤油諸味液汁を得る工程と、酵母発酵を実施する工程とを少なくとも含む。このようにして得られる液体濃厚調味料は、例えば、全窒素分が1.8wt%以上であり、かつ、HEMFの含有量が60ppm以上である液体濃厚調味料であり得る。
本発明の第2の態様の方法において、醤油諸味液汁を得る工程は、本発明の第1の態様の方法における第1の醤油諸味から第1の醤油諸味液汁を得る工程と同様に実施できる。醤油諸味液汁を得る工程における醤油諸味は、たまり醤油であってもよい。たまり醤油としては、イソ酪酸の含有量が20ppm以下、イソ吉草酸の含有量が20ppm以下、又はイソ酪酸及びイソ吉草酸の含有量がそれぞれ20ppm以下であるたまり醤油であることが好ましい。
調整醤油諸味液汁を得る工程では、醤油諸味液汁を、全窒素分及び還元糖の含有量が所定の量、例えば、それぞれ1.8wt%以上及び4.0wt%以上、好ましくはそれぞれ1.8wt%以上及び5.0wt%以上、より好ましくはそれぞれ2.0wt%以上及び5.0wt%以上、さらに好ましくはそれぞれ2.2wt%以上及び7.0wt%以上となるように調整する。全窒素分及び還元糖の含有量の上限は特に限定されないが、典型的にはそれぞれ4wt%程度及び20wt%程度である。ただし、醤油諸味液汁における全窒素分及び還元糖の含有量が上記した量である場合には、調整醤油諸味液汁を得る工程は省略し得る。本発明の一態様の液体濃厚調味料は、全窒素分及び還元糖の含有量がそれぞれ上記した量である醤油諸味液汁を酵母発酵に供して得られるもの、すなわち、醤油諸味液汁の発酵物を含むもの、又は醤油諸味液汁の発酵物であるものであることが好ましい。
例えば、大豆などのタンパク質原料を多く用いて製造された醤油麹を用いれば全窒素分が多い醤油諸味液汁が得られ、小麦や米等のデンプン質原料を多く用いて製造された醤油麹を用いれば還元糖の含有量が多い醤油諸味液汁が得られる。そこで、全窒素分及び還元糖の含有量を所定の量とするために、全窒素分が多い醤油諸味液汁に対しては還元糖成分を常法に従って添加すればよく、還元糖の含有量が多い醤油諸味液汁に対しては全窒素分成分を常法に従って添加すればよい。また、醤油諸味液汁に対して還元糖成分及び全窒素分成分の両方を添加してもよい。全窒素分成分は、通常醤油の全窒素分として含まれるものであれば特に限定されないが、例えば、グルタミン酸、大豆ペプチドなどのアミノ酸やペプチドなどのうま味成分であることが好ましい。
本発明の第2の態様の方法おいて、酵母発酵を実施する工程は、第2の醤油諸味液汁に代えて調整醤油諸味液汁を用いることにより、本発明の第1の態様の方法における酵母発酵を実施する工程と同様に実施できる。
本発明の一態様の液体濃厚調味料は、全窒素分及びHEMFの含有量が所定の量であればよく、本発明の課題解決を妨げない限りは、様々なその他の成分を含有することができる。その他の成分は特に限定されないが、例えば、調味料成分や食材であり、具体的には野菜成分(大根、ニンジン、玉ネギ、じゃがいも、にんにくなど)、肉類(牛肉、豚肉、鶏肉など)、魚類、酵母エキス、肉エキス(チキンエキス、ポークエキス、ビーフエキス、魚肉エキスなど)、果汁(りんご果汁など)、香辛料(生姜、唐辛子、こしょう、バジル、オレガノなど)、化学調味料(グルタミン酸ソーダ、イノシン酸ソーダなど)、フレーバーなどが挙げられ、これらの1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。その他の成分の含有量は、本発明の課題を解決し得る限り、適宜設定することができる。
本発明の一態様の液体濃厚調味料は、容器に詰めて密封した容器詰液体濃厚調味料、すなわち、容器詰濃厚醤油又は容器詰濃厚醤油様調味料とすることができる。容器は特に限定されないが、例えば、アルミなどの金属、紙、PETやPTPなどのプラスチック、ガラスなどを素材とする、1層又は積層(ラミネート)のフィルム袋、レトルトパウチ、真空パック、アルミ容器、プラスチック容器、瓶、缶などの包装容器が挙げられる。容器詰濃厚醤油及び容器詰濃厚醤油様調味料は、それ自体で独立して、流通におかれて市販され得るものである。
本発明の一態様の液体濃厚調味料は、通常の液体調味料と同様に使用することができる。すなわち、本発明の一態様の液体濃厚調味料は、単独で、又は上記した野菜成分、肉類、魚類、酵母エキス、肉エキス、果汁、香辛料、化学調味料、フレーバーに加えて、だし、酸味料、アミノ酸、核酸、有機酸、タンパク質加水分解物、糖、酒、みりん、アルコール、増粘剤、乳化剤、無機塩類などのその他の調味成分を混合して、若しくは組み合わせて、様々な食材の調理や加工法に用いることができる。例えば、本発明の一態様の液体濃厚調味料は、日本食、欧米食、中華食などの各種の料理に使用することができ、具体的には揚げ物、焼肉、うどん、そば、ラーメン、ハンバーグ、ミートボール、筑前煮、照り焼き、カレー、シチュー、ハヤシなどに用いることができるが、これらに限定されない。
本発明の一態様の液体濃厚調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、全窒素分及びHEMFの含有量が以下のとおりである液体濃厚調味料が挙げられる:
全窒素分:1.8wt%~4wt%
HEMFの含有量:60ppm~200ppm
本発明の一態様の液体濃厚調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、全窒素分及びHEMFの含有量が以下のとおりである液体濃厚調味料が挙げられる:
全窒素分:2.0wt%~4wt%
HEMFの含有量:80ppm~200ppm
本発明の一態様の液体濃厚調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、全窒素分、HEMF及び還元糖の含有量が以下のとおりである液体濃厚調味料が挙げられる:
全窒素分:1.9wt%~4wt%
HEMFの含有量:80ppm~200ppm
還元糖:7.0wt%~20wt%
本発明の一態様の液体濃厚調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、全窒素分、HEMF、還元糖及びデカン酸エチルの含有量が以下のとおりである液体濃厚調味料が挙げられる:
全窒素分:1.9wt%~4wt%
HEMFの含有量:80ppm~200ppm
還元糖:7.0wt%~20wt%
デカン酸エチル:10ppb~2,000ppb
本発明の一態様の液体濃厚調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、全窒素分、HEMF、還元糖及びオクタン酸エチルの含有量が以下のとおりである液体濃厚調味料が挙げられる:
全窒素分:1.9wt%~4wt%
HEMFの含有量:80ppm~200ppm
還元糖:7.0wt%~20wt%
オクタン酸エチル:10ppb~10,000ppb
本発明の一態様の液体濃厚調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、全窒素分、HEMF、還元糖、デカン酸エチル及びオクタン酸エチルの含有量が以下のとおりである液体濃厚調味料が挙げられる:
全窒素分:1.9wt%~4wt%
HEMFの含有量:80ppm~200ppm
還元糖:7.0wt%~20wt%
デカン酸エチル:5ppb~2,000ppb
オクタン酸エチル:5ppb~10,000ppb
本発明の一態様の液体濃厚調味料の非限定的な具体的態様として、例えば、全窒素分、HEMF、還元糖、デカン酸エチル、オクタン酸エチル及び2-エチル-6-メチルピラジンの含有量が以下のとおりである液体濃厚調味料が挙げられる:
全窒素分:1.9wt%~4wt%
HEMFの含有量:80ppm~200ppm
還元糖:7.0wt%~20wt%
デカン酸エチル:5ppb~2,000ppb
オクタン酸エチル:5ppb~10,000ppb
2-エチル-6-メチルピラジンの含有量:10ppb未満
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
[1.各種方法]
1-1.還元糖の測定方法
調味料用原液及び液体調味料中の還元糖含有量は、直接還元糖の含有量として、文献「しょうゆの日本農林規格」(農林水産省告示)に記載の方法により測定した。
1-2.エタノールの測定方法
調味料用原液及び液体調味料中のエタノール含有量は、常法に従って、下記の条件のGC-FIDにより測定した。
<GC-FID分析条件>
測定装置:GC-2014AF(島津製作所社製)
カラム:porapack q(80-100mesh)(ジーエルサイエンス社製)
注入口温度:230℃
温度条件:155℃(7min)保持
キャリアガス:窒素
カラム流量:20mL/min
検出器温度:250℃
1-3.HEMFの測定方法
調味料用原液及び液体調味料中のHEMF及び内部標準物質として用いた2-オクタノンの含有量は、酢酸エチルを用いた抽出処理に供して得た抽出液について、GC-MSで以下の条件に従って測定した。
サンプル 5.0gに対し、食塩 2.0gおよび2-オクタノン溶液(20ppm)100μLを添加した。続いて、酢酸エチルを1mL添加し、5分間激しく攪拌した後、有機溶媒層を抽出した。この操作を3回繰り返し、得られた有機溶媒層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、500μLまで濃縮し香気濃縮物を得た。得られた香気濃縮物は下記の条件でGC-MSにて分析を行った。
<GC-MS条件>
測定装置:7890B-5977 MSD(AgilentTechnologies社製)
カラム:DB-WAX(長さ60m、口径0.25mm、膜厚0.25μm)(AgilentTechnologies社製)
注入口温度:250℃
温度条件:40℃(3min)保持 → 250℃まで6℃/min昇温 → 15min保持
キャリア:高純度ヘリウム、圧力一定モード229kPa
スキャン質量範囲:m/z 30.0~250.0
イオン化方式:EI
HEMF及び内部標準物質である2-オクタノンは以下のm/zを用い、ピーク面積を求めた。
HEMF:m/z142
2-オクタノン:m/z58
1-4.リノール酸の測定方法
調味料用原液及び液体調味料中のリノール酸及び内部標準物質として用いたヘプタデカン酸の含有量は脂肪酸メチル化キット(ナカライテスク社製)を用いて脂肪酸をメチルエステル化した液について、GC-MSで以下の条件に従って測定した。
<GC-MS条件>
測定装置:7890B-5977 MSD(AgilentTechnologies社製)
カラム:DB-WAX (長さ60m、口径0.25mm、膜厚0.25μm)(AgilentTechnologies社製)
注入口温度:250℃
温度条件:40℃(3min)保持 → 250℃まで6℃/min昇温 → 15min保持
キャリア:高純度ヘリウム、圧力一定モード229kPa
スキャン質量範囲:m/z 30.0~500.0
イオン化方式:EI
メチルエステル化したリノール酸及び内部標準物質であるヘプタデカン酸は以下のm/zを用い、ピーク面積を求めた。
リノール酸メチル:m/z 294
ヘプタデカン酸メチル:m/z 284
1-5.官能評価方法
官能評価は識別能力を有するパネル11名により、液体調味料について、「フルーティーな香り」、「油の臭い」及び「酸化臭」の3つの項目について5段階(1:かなり弱い、2:弱い、3:どちらでもない、4:強い、5:かなり強い)で評価し、その平均値を算出した。
[2.調味料用原液中の還元糖の酵母発酵への影響評価]
2-1.調味料用原液1~4の調製
蒸煮した大豆にAspergillus sojaeの種麹を接種し、常法により43時間製麹して醤油麹を得た。
得られた醤油麹100質量部を、120質量部の食塩水(食塩濃度23.5%)に仕込み、さらに醤油乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)を加えたものを、25℃で、適宜撹拌しながら120日で乳酸発酵及び熟成させた後、圧搾処理及びろ過処理に供して醤油諸味を得た。
得られた醤油諸味の還元糖含有量を測定したところ、約1.2wt%であった。この測定結果に合わせてグルコースを添加することにより、還元糖の含有量がそれぞれ4wt%、5wt%、6wt%及び7.0wt%となるように調整して、調味料用原液1~4を得た。なお、調味料用原液4における還元糖及びエタノールの含有量を測定したところ、それぞれ6.6wt%及び0.04wt%であった。
2-2.調味料用原液1~4の酵母発酵
調味料用原液1~4に、Zygosaccharomyces rouxiiを接種し、20~25℃で45日間、撹拌をせずに酵母発酵を行った。
2-3.還元糖の酵母発酵への影響評価
上記2-2に記載したとおりに、調味料用原液1~4を酵母発酵に供することにより、液体調味料1~4を得た。液体調味料1~4の酵母発酵に際して、酵母接種から10、16、24、31、37及び45日後に液体調味料1~4中のエタノール濃度を測定した。結果を表1及び図1に示す。
Figure 0007064224000001
表1及び図1が示すとおり、還元糖濃度が6wt%以上であった調味料用原液3及び4を用いた場合は、酵母によるエタノール発酵が良好に進み、37日目で1.9wt%に達することが確認された。一方、還元糖濃度が4wt%である調味料用原液1は、ある程度のエタノールを生成するものの、生成速度は遅く、最大エタノール濃度は1.5wt%に満たない結果となった。
調味料中のエタノール濃度が低いと、微生物耐性が低くなり、汚染の可能性が高くなる。実際に、シリコ栓付滅菌済み試験管にエタノール濃度が1.5%以上である液体調味料3及び4を3mlずつ分注し、産膜酵母であるZygosaccharomyces rouxiiを10cfu/mLで植菌して30℃にて好気的条件下で5日間静置培養したとしても、液面や管壁に薄膜が形成されず、外観に異常は認められない。したがって、調味料用原液における還元糖濃度は6wt%以上であることが望ましいことが確認された。
また、液体調味料1~4について官能評価をしたところ、還元糖濃度が5wt%以上である液体調味料2、3及び4は、還元糖濃度が4wt%である液体調味料1と比較して、醤油らしい香りが強く感じられた。通常、酵母発酵後の醤油諸味のエタノール濃度は1.5%を超えることが知られている。このことからも液体調味料1では液体調味料2,3及び4と比べて酵母発酵が不十分であり、醤油らしい香りを十分に感じさせるものではなかったと考えられる。
従って、還元糖濃度が5wt%以上である調味料用原液は、酵母を添加することによりエタノールを生成でき、かつ、酵母発酵して得られる液体調味料は醤油らしい香りを有することがわかった。
[3.調味料用原液中のエタノールの酵母発酵への影響評価]
3-1.調味料用原液5~7の調製
調味料用原液4に対してエタノールを添加し、エタノールの含有量がそれぞれ1.0wt%、2.0wt%及び3.0wt%となるように調味料用原液5~7を調製した。
3-2.調味料用原液5~7の酵母発酵
調味料用原液5~7を用いて、上記2-2と同様にして酵母発酵を行った。
3-3.エタノールの酵母発酵への影響評価
上記3-2に記載したとおりに、調味料用原液5~7を酵母発酵に供することにより、液体調味料5~7を得た。液体調味料5~7の酵母発酵に際して、酵母接種から10、16、24、31、37及び45日後に液体調味料5~7中のエタノール濃度を測定した。結果を表2及び図2に示す。なお、表2及び図2には、調味料用原液4を用いた結果も合わせて示す。
Figure 0007064224000002
表2及び図2が示すとおり、初発のエタノール濃度が2.0wt%以上である調味料用原液6及び7を用いた場合では酵母によるエタノール発酵が進まず、エタノール濃度が上昇しなかったのに対して、初発のエタノール濃度が1wt%以下である調味料用原液4及び5を用いた場合は良好にエタノール濃度が上昇したことが確認された。
[4.調味料用原液による醤油香の影響評価]
醤油らしい香りを形成する香気成分の一部は酵母発酵中に生成することが知られている。酵母発酵によって生成される化合物のひとつであるHEMFは本醸造醤油の特徴成分として知られている(例えば、非特許文献「新増補 醤油の科学と技術」、栃倉辰六郎編著、平成24年1月30日新増補、p.286などを参照)。さらに、特開2014-233292号公報によると、醤油中のHEMFが15ppm未満になると、醤油の特徴香は低減される傾向にある。
従って、調味料用原液を酵母発酵させることによって得られる液体調味料が醤油らしい香り及び風味を有するためには、酵母発酵後の液体調味料がHEMFを15ppm以上含有していることが好ましい。
そこで、上記2-2及び3-2に記載のとおりに、調味料用原液4~7を酵母発酵に供することにより得た液体調味料4~7について、HEMF濃度を測定した。結果を表3に示す。
Figure 0007064224000003
表3が示すとおり、エタノール濃度が1.0wt%以下である調味料用原液4及び5を酵母発酵させることで得られた液体調味料4及び5において、HEMFの濃度が15ppm以上であることが確認された。一方、エタノール濃度が2.0wt%以上である調味料用原液6及び7を酵母発酵させることで得られた液体調味料6及び7においては、HEMFの生成が顕著に少なく、醤油らしい香り及び風味を有さないことが確認された。
従って、エタノール濃度が1.0wt%以下である調味料用原液を用いれば、酵母発酵により醤油らしい香り及び風味を有する液体調味料が得られることがわかった。
[5.調味料用原液中のリノール酸の酵母発酵への影響評価]
5-1.調味料用原液8~12の調製
蒸煮した大豆と割砕した焙煎小麦とを等量混合したものに、Aspergillus sojaeの種麹を接種し、常法により43時間製麹して醤油麹を得た。
得られた醤油麹100質量部を、98質量部の食塩水(食塩濃度26%)に仕込み、さらに醤油乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)を加えたものを、15~25℃で、適宜撹拌しながら50日間、常法に従って乳酸発酵を行った後、固液分離及び珪藻土ろ過を行うことにより、乳酸発酵液汁を回収し、これを調味料用原液8とした。得られた調味料用原液8中のリノール酸の含有量を、上記1-4に記載したとおりに、脂肪酸メチル化キット(Nacalai社製)及びGC-MSを用いて測定した。
調味料用原液8に、醤油油の含有量(添加濃度)がそれぞれ0.06wt%、0.31wt%、0.61wt%及び3.07wt%となるように添加して、調味料用原液9~12を調製した。また、調味料用原液9~12のリノール酸の含有量を測定した。
調味料用原液8~12にZygosaccharomyces rouxiiを接種し、25~30℃で45日間、撹拌をせずに酵母発酵を行った。酵母発酵により、液体調味料8~12を得た。
5-2.調味料用原液8~12のリノール酸含有量の測定結果
調味料用原液8~12中のリノール酸濃度を表4に示す。
Figure 0007064224000004
5-3.液体調味料8~12の官能評価結果
リノール酸含有量の異なる調味料用原液8~12を酵母発酵して得た液体調味料8~12の官能評価結果を表5に示す。なお、「*」は液体調味料8と比較して5%の危険率で有意差があったことを示す。
Figure 0007064224000005
表4及び表5に示すリノール酸の測定結果及び官能評価結果から、リノール酸を含まない調味料用原液8及びリノール酸含量が0.03wt%以下である調味料用原液9を酵母発酵することにより得られた液体調味料8及び9は、リノール酸を0.15wt%以上を含有する液体調味料10~12と比較して、フルーティーな香りが顕著に高いことがわかった。
さらに、リノール酸を含まない調味料用原液8を酵母発酵することにより得られた液体調味料8は、リノール酸を0.03wt%以上含有する液体調味料9~12と比較して、油の臭い及び酸化臭が顕著に低減されていることがわかった。すなわち、油分(リノール酸)を含まない調味料用原液を利用すると、酵母発酵によって、油の臭いや酸化臭が低減されるだけでなく、非常にフルーティーな香りを呈する液体調味料が得られることがわかった。
[6.乳酸発酵液汁を酵母発酵して得られる調味料の官能評価]
6-1.液体調味料13~14の調製
蒸煮した大豆(丸大豆又は脱脂大豆)と割砕した焙煎小麦とを6:4の割合で混合し、これにAspergillus sojaeの種麹を接種し、常法により43時間製麹して醤油麹を得た。
得られた醤油麹100質量部を、94質量部の食塩水(食塩濃度24%(w/v))に仕込み、さらに醤油乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)を加えたものを15~25℃で、適宜撹拌しながら20日間常法に従って乳酸発酵を行った後、耐塩性酵母(Zygosaccharomyces rouxii)を添加し、適宜撹拌しながら100日間発酵及び熟成させた。得られた熟成諸味を固液分離し、得られた上清をディスポーザブルメンブレンフィルター(孔径0.45μm)(ADVANTEC社製)で処理し、生醤油を得た。丸大豆を原料とした生醤油を液体調味料13とし、脱脂大豆を原料とした生醤油を液体調味料14とした。
6-2.液体調味料15~16の調製
蒸煮した大豆(丸大豆又は脱脂大豆)と割砕した焙煎小麦とを6:4の割合で混合し、これにAspergillus sojaeの種麹を接種し、常法により43時間製麹して醤油麹を得た。
得られた醤油麹100質量部を、94質量部の食塩水(食塩濃度24%(w/v))に仕込み、さらに醤油乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)を加えたものを15~25℃で、適宜攪拌しながら20日間常法に従って乳酸発酵を行った。乳酸発酵終了後の醤油諸味を固液分離し、さらに液体部分をUF膜で処理し、乳酸発酵液汁を得た。
得られた乳酸発酵液汁に耐塩性酵母(Zygosaccharomyces rouxii)を添加し、撹拌を行わずに25℃で28日間発酵させ、次いで3,000rpmで15分間遠心分離し、上清として生醤油を回収した。丸大豆を原料とした生醤油を液体調味料15とし、脱脂大豆を原料とした生醤油を液体調味料16とした。
6-3.官能評価結果
パネルを5名とし、評価項目を「フルーティーな香り」としたこと以外は、上記1-5に記載の方法により液体調味料13~16について官能評価を実施した。
丸大豆を原料とした液体調味料13及び液体調味料15の官能評価の結果を表6に示す。なお、「**」は液体調味料13と比較して1%の危険率で有意差があったことを示す。
Figure 0007064224000006
また、脱脂大豆を原料とした液体調味料14及び液体調味料16の官能評価の結果を表7に示す。なお、「***」は液体調味料14と比較して0.1%以下の危険率で有意差があったことを示す。
Figure 0007064224000007
表6及び表7が示すとおりに、乳酸発酵液汁を酵母発酵して得られる液体調味料15~16は、従前の生醤油の製造方法で得られる液体調味料13~14と比較して、フルーティーな香りが顕著に高いことがわかった。
したがって、本発明の一態様である調味料用原液を用いることで、酵母発酵以降の工程を特段行わずとも液体調味料が得られ、さらに得られる液体調味料は、非常に好ましい、フルーティーな香りを有する液体調味料である。このことから、本発明の一態様である調味料用原液を用いることによって、家庭でも簡便に嗜好性の高い調味料を得ることができる。
[1.木片の沈降性及び浮上性の評価]
1-1:調味料用原液中での木片の沈降性の評価
(1)調味料用原液の製造方法
蒸煮した丸大豆と割砕した焙煎小麦とを6:4の割合で混合した混合物に、Aspergillus sojaeの種麹を接種し、常法により43時間製麹して醤油麹を得た。
得られた醤油麹100質量部を、116質量部の食塩水(食塩濃度25%(w/v))に仕込み、さらに醤油乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)を加えたものを、15~25℃で、適宜攪拌しながら20日間常法に従って乳酸発酵を行った。乳酸発酵終了後の醤油諸味を固液分離し、液汁をUF膜で処理し、比重(g/ml)が1.207である調味料用原液を得た。
(2)圧縮木片の入手方法
特開2017-19177号公報に記載の方法により、50%の圧縮加工をしたスギの圧縮木材、40%の圧縮加工をしたヒノキの圧縮木材及び30%の圧縮加工をしたサクラの圧縮木材を飛騨産業株式会社より入手した。
(3)評価方法
各圧縮木材を1cmの直方体となるように切断することにより、それぞれスギ木片4~6及びヒノキ木片4~6を作製した。一方、圧縮加工していない天然の木材を1cmの直方体となるように切断することにより、スギ木片1~3及びヒノキ木片1~3を作製した。
木片を、2000ml容のステンレスカップに入れた800mlの水に入れて、10分間煮沸した。さらに煮沸後の木片を取り出し、150ml容の卓上用ビンに入れた150mlの調味料用原液中に投入し、1日間静置した。
木片の煮沸後の水中への沈降の有無及び木片の調味料用原液へ投入後1日以内の沈降の有無を目視により確認することにより、木片の沈降性を評価した。木片が容器底面上にあり続けるように沈降していれば「○」、沈降していなければ「×」として評価した。
(4)評価結果
評価した結果を表8に示す。
Figure 0007064224000008
表8に示すように、圧縮加工をしたスギ、ヒノキ及びサクラの木片は、煮沸後の水中及び調味料用原液中で沈降することがわかった。木片の密度が圧縮加工前に比べて1.4倍程度のサクラ木片6でも沈降が確認された。
また、50%の圧縮加工をしたスギの圧縮木材と同等または同等以上の密度を有していながら、圧縮加工をしていないクスノキ、ケヤキ、赤カシ、白カシの木材を、1cmの直方体となるように切断することにより、クスノキ木片1、ケヤキ木片1、赤カシ木片1及び白カシ木片1を作製した。また、50%の圧縮加工をしたスギの圧縮木材及び40%の圧縮加工をしたヒノキの圧縮木材を、1cmの直方体となるように切断することにより、それぞれスギ木片7及びヒノキ木片7を作製した。これらの木片について、上記と同様にして木片の沈降性を評価した。結果を表9に示す。
Figure 0007064224000009
表9に示すとおり、圧縮加工をした圧縮木材から得られたスギ木片及びヒノキ木片に加えて、圧縮加工をしていない赤カシ木片及び白カシ木片もまた、煮沸後の水中及び調味料用原液中で沈降することがわかった。
1-2:酵母発酵における木片の浮上性の評価(1)
(1)評価方法
スギ木片7、ヒノキ木片7、サクラ木片4、赤カシ木片1及び白カシ木片1をそれぞれ沈降させた調味料用原液に、Zygosaccharomyces rouxiiを1.0×10個/mlとなるように添加し、攪拌を行わずに、常温で30日間酵母発酵を行った。酵母発酵によってそれぞれの木片が液面付近まで浮上していれば「○」、浮上していなければ「×」として評価した。
(2)評価結果
評価した結果を表10に示す。
Figure 0007064224000010
表10に示すように、圧縮加工をした圧縮木材から得られたスギ木片、ヒノキ木片及びサクラ木片は酵母発酵を通じて浮上することが確認された。
以上の結果より、圧縮加工されている圧縮木材から作製した木片であれば、短時間の煮沸処理に供することにより調味料用原液中で沈降し、さらに酵母発酵を通じて浮上することがわかった。なお、長時間の煮沸は木片が変形するため、好ましくないこともわかった。
1-3:酵母発酵における木片の浮上性の評価(2)
(1)評価方法
50%の圧縮加工をしたスギの圧縮木材、40%の圧縮加工をしたヒノキの圧縮木材及び30%の圧縮加工をしたサクラの圧縮木材を、それぞれ1cm、5cm、10cm及び20cmの直方体となるように切断することにより、スギ木片8~11、ヒノキ木片8~11及びサクラ木片7~10を得た。スギ木片8~11、ヒノキ木片8~11及びサクラ木片7~10を、2000ml容のステンレスカップに入れた800mlの水に入れて、10分間煮沸した。
煮沸後のスギ木片8~11、ヒノキ木片8~11及びサクラ木片7~10を、それぞれ400ml容のデュランビンに入れた400mlの調味料用原液に投入し、スギ木片8~11、ヒノキ木片8~11及びサクラ木片7~10が沈降していることを確認した。次いで、スギ木片、ヒノキ木片及びサクラ木片を含む調味料用原液中にZygosaccharomyces rouxiiを1.0×10個/mlとなるように添加し、撹拌を行わずに常温で30日間酵母発酵を行うことにより、液体調味料を得た。酵母発酵の期間中にスギ木片8~11、ヒノキ木片8~11及びサクラ木片7~10が浮上するか否かを評価した。すなわち、酵母発酵終了時にスギ木片、ヒノキ木片及びサクラ木片が液面付近まで浮上していれば「○」、浮上していなければ「×」として評価した。
(2)評価結果
評価した結果を表11に示す。
Figure 0007064224000011
表11に示すとおり、木片の体積が20cm未満のときに、沈降していた木片が浮上することが確認された。
[2.木片の浮上性による調味料の香りの評価]
(1)試験方法
上記1と同様にして、50%の圧縮加工をしたスギの圧縮木材を1cmの直方体となるように切断することにより、表12に示すスギ木片12~15を作製した。
Figure 0007064224000012
スギ木片12~15を2000ml容のステンレスカップに入れた800mlの水に入れて、10分間煮沸した。さらに煮沸後の木片をそれぞれ取り出し、150ml容の卓上用ビンに入れた150mlの例1で調製した調味料用原液中にそれぞれ投入し、1日間静置し沈降させた。
木片を沈降させた調味料用原液にZygosaccharomyces rouxiiを1.0×10個/mlとなるように添加し、撹拌を行わずに、4℃、15℃、20℃及び30℃で酵母発酵を行った。酵母発酵を開始してから、1日後、7日後、14日後、21日後及び28日後にスギ木片が液面付近まで浮上していれば「○」、浮上していなければ「×」として評価した。またその時点での調味料を「フルーティーな香り」がするか否かの香りの有無で評価した。なお、「フルーティーな香り」は、食せずに鼻だけで感じる、ブドウを原料とする白ワイン様の甘い香りと定義した。
(2)評価結果
評価した結果を表13に示す。
Figure 0007064224000013
表13に示すように、木片が浮上することが確認できた調味料は、「フルーティーな香り」がするものであった。このことより、香りが豊潤な嗜好性の高い調味料を得るための発酵管理の指標として、圧縮木材を用いた木片は有用であることがわかった。
[3.木片による調味料の風味への影響評価]
(1)試験方法
例1で記載したとおりに調製した調味料用原液にZygosaccharomyces rouxiiを添加し、常温で30日間酵母発酵を行って調味料を得た。
圧縮加工をしていないスギ、ヒノキ、サクラ、クスノキ、ケヤキ、赤カシ、及び白カシの未圧縮木材を1cmの直方体となるように切断することにより、各木片を作製した。また、50%の圧縮加工をしたスギの圧縮木材、40%の圧縮加工をしたヒノキの圧縮木材及び30%の圧縮加工をしたサクラの圧縮木材を同様に切断することにより、各木片を作製した。各木片を、2000ml容のステンレスカップに入れた800mlの水に入れて、10分間煮沸した。
煮沸後の各木片を、3個ずつ、300ml容のプラスチックカップに入れた調味料 200mlに投入し、常温で1週間静置して評価試料1~7を作製した。評価試料1~7を6名のパネリストによる官能評価に供した。官能評価は「木片の香り自体が調味料に合っていて、食欲をそそられるか」を1~5点で評価させ、平均点及び標準誤差を算出した。点数の基準は、(1:とても悪い、2:やや悪い、3:どちらでもない、4:ややよい、5:とてもよい)とした。
(2)評価結果
官能評価を行った結果を表14に示す。
Figure 0007064224000014
表14に示すように、スギ木片及びサクラ木片は調味料との相性が良いことがわかった。ケヤキ、赤カシ及び白カシについても、木片由来の香りが調味料によい影響を与える傾向が見られた。
また、圧縮加工をしたスギ、ヒノキ及びサクラの圧縮木材から得られた木片について同等の評価を行ったところ、未圧縮の同種の木材に比べて、香ばしさが付与されて、調味料との相性がよくなることがわかった。
[1.調味料の色番による発酵用指標の木片観察への影響評価]
1-1.液体調味料8~12の調製
市販醤油「九州さしみあまくち」(キッコーマン社製)を色番が5番(液体調味料8)、10番(液体調味料9)、15番(液体調味料10)、20番(液体調味料11)及び30番(液体調味料12)となるように水で希釈して調整した。
1-2:木片の視認性評価
150ml容の卓上ビン(第一硝子社製)に液体調味料8~12 150mlを注ぎ、上記5-1に記載の体積が1cmであるスギ木片1を3個沈降させた。沈降させた木片について、調味料の入った容器を一定の視点から目視により観察して、全ての木片が視認できれば「○」、1~2個の木片視認ができれば「△」、木片が視認できなければ「×」で評価した。
評価した結果を表15に示す。
Figure 0007064224000015
表15に示すとおり、調味料の色番が10番以上のときに少なくとも木片の一部が視認でき、さらに調味料の色番が15番以上のときに容易に木片を確認できることが分かった。
[2.酵母の添加量による酵母発酵への影響評価]
2-1.液体調味料13~16の調製
上記5-1で記載したとおりに調製した調味料用原液8にZygosaccharomyces rouxiiを、添加後の酵母の菌数が1.0×10(=10)個/ml(液体調味料13)、1.0×10(=100)個/ml(液体調味料14)及び1.0×10(=1,000)個/ml(液体調味料15)となるように添加した。また添加していないものを液体調味料16とした。
2-2:酵母発酵の評価
液体調味料13~16を25℃で14日間撹拌をせずに酵母発酵させた。酵母発酵の指標としてエタノールの濃度を測定した。
酵母添加から、0、7、14、21及び28日後の液体調味料中のエタノール濃度を測定した結果を表16に示す。
Figure 0007064224000016
表16に示すとおり、酵母の添加量が0~1.0×10個/mlである液体調味料13、14及び16ではエタノール濃度はほとんど変化しなかった。これに対して、酵母の添加量が1.0×10個/mlである液体調味料15ではエタノール濃度が経時的に増加した。したがって、1.0×10個/ml又はそれ以上の酵母を添加することにより、酵母発酵が迅速に立ち上がることがわかった。
なお、撹拌をせずに発酵させた場合、発酵終了時の液体調味料の酵母菌数は、通常、5.0×10個/ml程度となる。したがって、酵母発酵を終えた液体調味料を、調味料用原液に対して1000分の1倍量以上添加することにより、調味料用原液の酵母の数は5.0×10個/ml程度になることから、適切な酵母発酵を実施し得ることがわかる。
[3.温度条件別に酵母発酵して得られる調味料の官能評価]
蒸煮した丸大豆と割砕した焙煎小麦とを6:4の割合で混合した混合物に、Aspergillus sojaeの種麹を接種し、常法により43時間製麹して醤油麹を得た。
得られた醤油麹100質量部を、116質量部の食塩水(食塩濃度25%(w/v))に仕込み、さらに醤油乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)を加えたものを、15~25℃で、適宜攪拌しながら20日間常法に従って乳酸発酵を行った。乳酸発酵終了後の醤油諸味を固液分離し、液汁をUF膜で処理し、比重(g/ml)が1.207である調味料用原液9を得た。
調味料用原液9にZygosaccharomyces rouxiiを1.0×10個/mlとなるように添加し、撹拌を行わずに、それぞれ4℃、15℃、20℃及び30℃で酵母発酵を行い、液体調味料17~20を作製した。酵母発酵を開始してから、1日後、7日後、14日後、21日後及び28日後の液体調味料17~20を「フルーティーな香り」の有無を確認することにより評価した。結果を表17に示す。
Figure 0007064224000017
表17に示すように、家庭における酵母発酵を想定して、さまざまな発酵温度において酵母発酵試験を実施したが、15~30℃の温度帯において、発酵期間の差はあるものの安定して官能的に好ましい調味料を得ることができることがわかった。
さらに、木片が浮上することが確認できた調味料は、「フルーティーな香り」がするものであった。このことより、香りが豊潤な嗜好性の高い調味料を得るための発酵管理の指標として、圧縮木材を用いた木片は有用であることがわかった。
[1.各種方法]
1-1.エチルエステル類の測定方法
液体調味料中のエチルエステル類及び内部標準物質として用いたシクロヘキサノールの含有量の測定にあたっては、ダイナミックヘッドスペース法により、香気成分の分離濃縮を行ったうえでサンプルをGC-MSによる分析に供した。
<ダイナミックヘッドスペース法による抽出条件>
捕集剤:Tenax TA(GERSTEL社製)
揮発性成分抽出装置:MPS2―DHS(GERSTEL社製)
予備加温:30℃、10min
捕集容量:650mL
捕集速度:100mL/min
捕集温度:30℃
ドライパージ容量:500mL
ドライパージ速度:50mL/min
ドライパージ温度:40℃
<GC-MS条件>
測定装置:7890A-5975MSD(AgilentTechnologies社製)
注入口:加熱脱着ユニット(GERSTEL社製)
カラム:DB-WAX LTM(長さ30m、口径0.25mm、膜厚0.25μm)(AgilentTechnologies社製)
加熱脱着条件:30℃(0.5sec)保持 → 280℃まで720℃/min昇温 → 5min保持
温度条件:40℃(3min)保持 → 160℃まで5℃/min昇温 → 240℃まで25℃/min昇温 → 6min保持
キャリア:高純度ヘリウム、圧力一定モード392.34kPa
スキャン質量範囲:m/z 28.7-185.0
イオン化方式:EI
上記のとおりにGC-MSにて、液体調味料中のエチルエステル類のピーク面積及び内部標準物質のピーク面積を測定した。ピーク面積は、エチルエステル類及び内部標準物質であるシクロヘキサノールについて、以下のm/zを用いて求めた。
オクタン酸エチル:m/z88
デカン酸エチル:m/z88
シクロヘキサノール:m/z82
1-2.2-エチル-6-メチルピラジン及びHEMFの測定方法
液体調味料中の2-エチル-6-メチルピラジン、HEMF及び内部標準物質として用いた2-オクタノンの含有量は、酢酸エチルを用いた抽出処理に供して得た抽出液について、GC-MSで以下の条件に従って測定した。
サンプル 5.0gに対し、食塩 2.0g及び2-オクタノン溶液(20ppm)100μLを添加した。続いて、酢酸エチルを1mL添加し、5分間激しく攪拌した後、有機溶媒層を抽出した。この操作を3回繰り返し、得られた有機溶媒層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、500μLまで濃縮し香気濃縮物を得た。
<GC-MS条件>
測定装置:7890B-5977 MSD(AgilentTechnologies社製)
カラム:DB-WAX(長さ60m、口径0.25mm、膜厚0.25μm)(AgilentTechnologies社製)
注入口温度:250℃
温度条件:40℃(3min)保持 → 250℃まで6℃/min昇温 → 15min保持
キャリア:高純度ヘリウム、圧力一定モード229kPa
スキャン質量範囲:m/z 30.0~250.0
イオン化方式:EI
2-エチル-6-メチルピラジン、HEMF及び内部標準物質である2-オクタノンは以下のm/zを用い、ピーク面積を求めた。
2-エチル-6-メチルピラジン:m/z121
HEMF:m/z142
2-オクタノン:m/z58
[2.外部添加したオクタン酸エチル及びデカン酸エチルの香り向上作用の評価(1)]
2-1.単独添加の効果
市販の醤油に対してオクタン酸エチル及びデカン酸エチルのいずれかを単独で添加することによる「白ワイン様のフルーティーな香り」の向上(付与)効果を官能評価に基づいて確認した。
市販の生醤油(「しぼりたて生しょうゆ」;キッコーマン社製)に、オクタン酸エチルを最終濃度がそれぞれ5、10、20及び50ppbとなるように添加することにより、液体調味料1-1~1-4を調製した。また、同じく、生醤油に、デカン酸エチルを最終濃度がそれぞれ5、10、20及び50ppbとなるように添加することにより、液体調味料2-1~2-4を調製した。
官能評価は、識別能力を有するパネル6名により、「白ワイン様のフルーティーな香り」について、市販の生醤油(オクタン酸エチル及びデカン酸エチルを添加していないもの)を1点としたときの強度を5段階で評価し、その平均値及び標準誤差を算出した。
液体調味料1-1~1-4及び液体調味料2-1~2-4の官能評価結果を表18及び図9に示す。なお、図9及び表18中の「**」は対照である生醤油と比較して1%、「*」は対照である生醤油と比較して5%の危険率で有意差があったことを示す。
Figure 0007064224000018
表18及び図9が示すとおり、生醤油にオクタン酸エチル及びデカン酸エチルのいずれかを単独で添加することにより、濃度依存的に「白ワイン様のフルーティーな香り」が向上することがわかった。
2-2.混合添加の効果
市販の醤油に対してオクタン酸エチル及びデカン酸エチルを混合して添加することによる「白ワイン様のフルーティーな香り」の向上(付与)効果を官能評価に基づいて確認した。
市販の生醤油に、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルのそれぞれを最終濃度が5、10及び20ppbとなるように添加することにより、液体調味料3-1~3-4を調製した。また、上記2-1と同様にして、調製した液体調味料について官能評価を実施した。
液体調味料3-1~3-4の官能評価結果を表19に示す。表19中の「**」は対照である生醤油と比較して1%の危険率で有意差があったことを示す。
Figure 0007064224000019
表19が示すとおり、生醤油にオクタン酸エチル及びデカン酸エチルを混合して添加することにより、濃度依存的に「白ワイン様のフルーティーな香り」が向上することがわかった。
2-3.まとめ
表19及び図9に示されるとおり、10ppb以上であれば、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルのいずれか一方を単独で添加することによって、添加していない試料(生醤油)と比較して、「白ワイン様のフルーティーな香り」が向上することが認められた。
また、5ppb以上のオクタン酸エチル及び5ppb以上のデカン酸エチルを混合して添加することによって、添加していない試料と比較して「白ワイン様のフルーティーな香り」が顕著に向上することが認められた。
したがって、本来はオクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルを含まない醤油にこれらを添加することにより、ppbレベルの低濃度であっても、本来の醤油にはない「白ワイン様のフルーティーな香り」を付与できることが明らかになった。
[3.オクタン酸エチル及びデカン酸エチルを含有する液体調味料の香り向上作用の評価]
3-1.液体調味料の調製
蒸煮した大豆と割砕した焙煎小麦とを6:4の割合で混合した混合物に、Aspergillus sojaeの種麹を接種し、常法により43時間製麹して醤油麹を得た。
得られた醤油麹100質量部を、94質量部の食塩水(食塩濃度24%(w/v))に仕込み、さらに醤油乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)を加えたものを、15~25℃で、適宜撹拌しながら20日間常法に従って乳酸発酵を行った。乳酸発酵終了後の醤油諸味を固液分離し、液汁をUF膜で処理して、透過液(乳酸発酵液汁)を得た。
得られた乳酸発酵液汁に耐塩性酵母(Zygosaccharomyces rouxii)を添加し、撹拌を行わずに25℃で28日間、酵母発酵を行った。得られた酵母発酵物を、3,000rpmで15分間遠心分離し、上清として液体調味料4-1を回収した。得られた液体調味料4-1をディスポーザブルメンブレンフィルター(孔径0.45μm)(ADVANTEC社製)で処理することによりオクタン酸エチル及びデカン酸エチルを低減させた液体調味料4-2を得た。
また、市販の生醤油(「しぼりたて生しょうゆ」;キッコーマン社製)(以下、市販醤油1とよぶ。)及び市販の濃口醤油(「キッコーマンこいくちしょうゆ」;キッコーマン社製)(以下、市販醤油2とよぶ。)についても、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルを測定し、官能評価を行った。
3-2.オクタン酸エチル及びデカン酸エチルの測定結果
上記1-1に記載したとおりに、液体調味料4-1~4-2及び市販醤油1~2について、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルの含有量を、標準添加法により、ダイナミックヘッドスペース-GC-MSを用いて測定した。結果を表20に示す。なお、GC-MSの結果より、その他の醤油主要香気成分の含有量について、これらの試料の間に変化はみられなかった。
Figure 0007064224000020
3-3.官能評価の結果
官能評価は、識別能力を有する6名のパネルにより、液体調味料4-1~4-2及び市販醤油1~2について、「白ワイン様のフルーティーな香り」を評価項目として5段階(1:香りがしない、2:かなり弱い、3:弱い、4:強い、5:かなり強い)で評価し、その平均値及び標準誤差を算出した。
官能評価を行った結果を表21及び図10に示す。なお、表21及び図10中の「**」は、液体調味料4を対照として、1%の危険率で有意差があったことを示す。
Figure 0007064224000021
3-4.まとめ
表20、表21及び図10に示されるとおり、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルをそれぞれ5ppb以上含む液体調味料4-1は、液体調味料4-2、市販醤油1及び市販醤油2と比較して、「白ワイン様のフルーティーな香り」の強度が顕著に高いことが確認された。
[4.外部添加したオクタン酸エチル及びデカン酸エチルの香り向上作用の評価(2)]
4-1.単独添加の効果
液体調味料4-2について、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルのいずれかを単独で添加することによる「白ワイン様のフルーティーな香り」の向上(付与)効果を官能評価に基づいて確認した。
液体調味料4-2に、オクタン酸エチルを最終濃度がそれぞれ5、10、20及び50ppbとなるように添加することにより、液体調味料5-1~5-4を調製した。また、同じく、液体調味料4-2に、デカン酸エチルを最終濃度がそれぞれ5、10、20及び50ppbとなるように添加することにより、液体調味料6-1~6-4を調製した。官能評価は、上記2-1と同様に実施した。
液体調味料5-1~5-4及び液体調味料6-1~6-4の官能評価結果を表22及び図11に示す。なお、表22及び図11中の「*」は、対照である液体調味料4-2と比較して5%の危険率で有意差があったことを示す。
Figure 0007064224000022
表22及び図11が示すとおり、生醤油と同じように、液体調味料4-2にオクタン酸エチル及びデカン酸エチルのいずれかを単独で添加することにより、濃度依存的に「白ワイン様のフルーティーな香り」が向上することがわかった。
4-2.混合添加の効果
液体調味料4-2について、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルを混合して添加することによる「白ワイン様のフルーティーな香り」の向上(付与)効果を官能評価に基づいて確認した。
液体調味料4-2に、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルのそれぞれを最終濃度が5、10及び20となるように添加することにより、液体調味料7-1~7-4を調製した。また、上記2-1と同様にして、調製した液体調味料について官能評価を実施した。
液体調味料7-1~7-4の官能評価結果を表23に示す。表6中の「*」は対照である液体調味料4-2と比較して5%の危険率で有意差があったことを示す。
Figure 0007064224000023
表23が示すとおり、液体調味料4-2にオクタン酸エチル及びデカン酸エチルを混合して添加することにより、濃度依存的に「白ワイン様のフルーティーな香り」が向上することがわかった。
4-3.まとめ
表22、表23及び図11に示されるとおり、10ppb以上であるいずれの濃度においてもオクタン酸エチル及びデカン酸エチルのいずれかを添加することによって、添加していない試料(液体調味料4-2)と比較して、「白ワイン様のフルーティーな香り」が向上することが認められた。
また、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルをそれぞれ5ppb以上混合して添加することによって、添加していない試料と比較して「白ワイン様のフルーティーな香り」が顕著に向上することが認められた。
したがって、本来含有していたオクタン酸エチル及び/又はデカン酸エチルを含まない液体調味料にこれらを添加することにより、ppbレベルという低濃度であっても、本来の液体調味料にはない「白ワイン様のフルーティーな香り」を付与できることが明らかになった。
[5.外部添加したオクタン酸エチル及びデカン酸エチルの香り向上作用の評価(3)]
5-1.液体調味料8-1~8-4及び液体調味料9-1~9-4の調製
上記3-1に記載の液体調味料4-1に対して、それぞれ最終濃度で10,000、20,000、50,000及び100,000ppbとなるようにオクタン酸エチルを添加することにより液体調味料8-1~8-4を調製した。また、液体調味料4-1に対して、それぞれ最終濃度で1,000、2,000、5,000及び10,000ppmとなるようにデカン酸エチルを添加することにより液体調味料9-1~9-4を調製した。
5-2.官能評価方法
官能評価は、識別能力を有する6名のパネルにより、液体調味料8-1~8-4及び液体調味料9-1~9-4について、「白ワイン様のフルーティーな香り」、「石油様の不快臭」及び「全体的な好ましい香り」を評価項目として5段階で評価し、その平均値及び標準誤差を算出した。なお、「石油様の不快臭」及び「全体的な好ましい香り」は以下の5段階で評価した。
「石油様の不快臭」
1:香りがしない、2:かなり弱い、3:弱い、4:強い、5:かなり強い
「全体的な好ましい香り」
1:非常に好ましくない、2:好ましくない、3:普通、4:好ましい、5:非常に好ましい
5-3.官能評価結果
液体調味料8-1~8-4の官能評価結果を表24に、液体調味料9-1~9-4の官能評価結果を表25にそれぞれ示す。なお、表24及び25中の最も添加濃度の低い液体調味料(液体調味料8-1及び液体調味料9-1)と比較して、「**」及び「*」はそれぞれ1%及び5%の危険率で有意差があったことを示す。
Figure 0007064224000024
Figure 0007064224000025
表24が示すように、オクタン酸エチルを20,000ppb以上含む液体調味料は、10,000ppb含む液体調味料と比較して、濃度依存的に、「白ワイン様のフルーティーな香り」の強度が低くなり、「石油様の不快臭」の強度が高くなることがわかった。さらにオクタン酸エチルを50,000ppb以上含む液体調味料では「白ワイン様のフルーティーな香り」がほとんどなくなり、「石油様の不快臭」が非常に強くなることが確認された。また、オクタン酸エチルを20,000ppb以上含む液体調味料では香りが好ましくないことがわかった。
以上の結果より、液体調味料におけるオクタン酸エチルの含有量は、20,000ppb以下であることが望ましく、さらに10,000ppb以下であることにより不快臭がせず非常に好ましいフルーティーな香りがすることが明らかになった。
表25が示すように、デカン酸エチルを5,000ppb含む液体調味料は、1,000ppb含む液体調味料と比較して、濃度依存的に、「白ワイン様のフルーティーな香り」の強度が低くなり、「石油様の不快臭」の強度が高くなることがわかった。さらにデカン酸エチルを10,000ppb含む液体調味料では「白ワイン様のフルーティーな香り」がほとんどなくなり、「石油様の不快臭」が非常に強くなることが確認された。また、デカン酸エチルを5,000ppb以上含む液体調味料では香りが好ましくないことがわかった。
以上の結果より、液体調味料におけるデカン酸エチルの含有量は、2,000ppb以下であれば、不快臭がせずに非常に好ましいフルーティーな香りがすることが明らかになった。
[6.2-エチル-6-メチルピラジンによるフルーティーな香りのマスキング効果の評価]
6-1.2-エチル-6-メチルピラジンの測定結果
上記1-2に記載したとおりの方法で、上記3-1に記載の液体調味料4-1~4-2及び市販醤油1~2について、2-エチル-6-メチルピラジンの含有量を、標準添加法により、酢酸エチル抽出液をGC-MSを用いて分析した。結果を表26に示す。
Figure 0007064224000026
6-2.官能評価の結果
2-エチル-6-メチルピラジンを添加することによる白ワイン様のフルーティーな香りの抑制効果を官能評価に基づいて確認した。
液体調味料4-1に2-エチル-6-メチルピラジンを最終濃度でそれぞれ5、10、20及び50ppbとなるように液体調味料8-1~8-4を調製した。官能評価は、識別能力を有する6名のパネルにより、「白ワイン様のフルーティーな香り」を評価項目として、エチルエステル類の含有量が小さい液体調味料4-2を1点としたときの強度を5段階で評価し、その平均値及び標準誤差を算出した。
官能評価を行った結果を表27及び図12に示す。なお、表27及び図12中の「**」は、液体調味料4-2を対照として、1%の危険率で有意差があったことを示す。
Figure 0007064224000027
6-3.まとめ
表26~表27に示すように、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルをそれぞれ18.7ppb及び40.3ppbを含有する液体調味料4-1について、2-エチル-6メチルピラジンを10ppb以上添加することにより、「白ワイン様のフルーティーな香り」が低減されることが確認された。
[7.HEMFの含有量]
上記1-2に記載したとおりの方法で、上記3-1に記載の液体調味料4-1及び市販醤油1~2について、HEMFの含有量を、標準添加法により、酢酸エチル抽出液をGC-MSを用いて分析した。結果を表28に示す。
Figure 0007064224000028
表28に示すように、液体調味料4-1は市販の醤油と同程度以上のHEMFを含有することから、白ワイン様のフルーティーを有しつつも、醤油らしい醤油本来の風味がある液体調味料であることがわかった。
[8.オクタン酸エチル及びデカン酸エチルの総量評価]
液体調味料4-1に対して、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルを最終濃度で表29に記載の値になるように添加し、液体調味料10-1~10-7を調製した。
官能評価は、識別能力を有する6名のパネルにより、液体調味料10-1~10-7について、「白ワイン様のフルーティーな香り」、「石油様の不快臭」及び「好ましさ」を評価項目として5段階(1:香りがしない(非常に好ましくない)、2:かなり弱い(好ましくない)、3:弱い(普通)、4:強い(好ましい)、5:かなり強い(非常に好ましい))で評価し、その平均値を算出した。
Figure 0007064224000029
液体調味料10-1~10-7の官能評価結果を表30に示す。なお、表中の「**」は最も添加濃度の低い液体調味料(10-1)と比較して1%、「*」は5%の危険率で有意差があったことを示す。
Figure 0007064224000030
表30に示すとおり、液体調味料10-2~10-4はフルーティーな香り、不快臭、好ましさ全てにおいて10-1と同等であった。したがって、オクタン酸エチルの含有量が10,000ppb以下であり、かつ、デカン酸エチルの含有量が2,000ppb以下である液体調味料はフルーティーな香り、不快臭、好ましさのいずれの観点においても優れたものであった。
[1.各種方法]
1-1.全窒素分の測定方法
液体調味料中の窒素含有量は、全窒素分として、文献「しょうゆの日本農林規格」(農林水産省告示)に記載の燃焼法全窒素測定装置として「デュマサーム」(ゲルハルトジャパン社製)を用いた燃焼法により測定した。
[2.高HEMF含有液体調味料の製造方法及び評価]
2-1.液体調味料の製造方法
蒸煮した大豆と割砕した焙煎小麦とを6:4の割合で混合した混合物に、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)の種麹を接種し、常法により43時間製麹して醤油麹を得た。
得られた醤油麹100質量部を、94質量部の食塩水(食塩濃度24%(w/v))に仕込み、さらに醤油乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)を加えたものを、常法に従って15~25℃で、適宜撹拌しながら20日間で処理することにより、醤油諸味を製造した。得られた醤油諸味(第1の醤油諸味)を圧搾して固液分離し、さらに得られた圧搾液を珪藻土によるろ過処理に2回供した後、80℃に達するまで加温する加温処理に供して、第1の醤油諸味液汁を得た。
上記のようにして得られた醤油麹100質量部を、第1の醤油諸味液汁に食塩を添加して調製した166質量部の食塩添加醤油諸味液汁(食塩濃度19%(w/v))に仕込んだものを、常法に従って15~25℃で、適宜撹拌しながら20日間で処理することにより、醤油諸味を製造した。得られた醤油諸味(第2の醤油諸味)を圧搾して固液分離し、さらに得られた圧搾液を珪藻土によるろ過処理に2回供して、第2の醤油諸味液汁を得た。
得られた第2の醤油諸味液汁に耐塩性酵母(Zygosaccharomyces rouxii)を1.0×10個/mlになるように添加し、撹拌を行わずに20℃で14日間、酵母発酵を行った。得られた酵母発酵物を、3,000rpmで15分間遠心分離し、上清として液体調味料1を回収した。
また、第1の醤油諸味液汁を用いて酵母発酵を行った以外は、液体調味料1と同様にして液体調味料2を得た。
2-2.各種測定結果
液体調味料1、液体調味料2、市販の生醤油である「しぼりたて生しょうゆ」(キッコーマン社製)及び市販の再仕込み醤油である「二段熟成生しょうゆ」(キッコーマン社製)について、HEMF、オクタン酸エチル、デカン酸エチル、還元糖及び全窒素分の含有量を測定し、さらにそれぞれが有する香りを飲食せずに鼻だけで感じることにより評価した。結果を表31に示す。
Figure 0007064224000031
表31に示すとおり、液体調味料1は、全窒素分及び還元糖の含有量が多いのでうま味がありつつもまろやかでコクがあり、さらにオクタン酸エチル、デカン酸エチル及び高濃度のHEMFによりフルーティーかつ重厚な甘い香りがするものであった。
[3.醤油諸味液汁における全窒素分及び還元糖の含有量の評価]
3-1.液体調味料の製造方法
膨化処理により加熱変性した脱脂加工大豆のみを用いて、バラ麹(大豆原料を多く用いるたまり醤油製造の際に用いられる、大豆原料を味噌玉様に加工して得られる麹ではない、一般的な醤油麹)により微生物汚染の少ない醤油麹を製造した。
得られた醤油麹100質量部を、94質量部の食塩水(食塩濃度24%(w/v))に仕込み、衛生的な密閉容器で管理することにより産膜酵母の生育を抑制して醤油諸味を得た。このようにして得られたイソ酪酸及びイソ吉草酸の含有量をそれぞれ20ppm以下に抑えた醤油諸味を圧搾によって固液分離し、さらに得られた圧搾液を珪藻土によるろ過処理に2回供することにより醤油諸味液汁を得た。
得られた醤油諸味液汁(全窒素分 2.6wt%)を水で希釈することにより、全窒素分(TN)がそれぞれ2.0wt%及び1.8wt%である希釈醤油諸味液汁を得た。また、醤油諸味液汁及び希釈醤油諸味液汁のそれぞれについて、還元糖(RS)の含有量が2.0wt%、5.0wt%及び8.0wt%になるように糖源としてグルコース+キシロース(1:1)を添加して、TN・RS調整醤油諸味液汁を得た。
また、グルコース+キシロース(1:1)の代わりに糖源として砂糖、米粉及びみりんを用いて、全窒素分が2.0wt%であり、かつ、還元糖の含有量が5.0wt%であるTN・RS調整醤油諸味液汁を得た。
得られたTN・RS調整醤油諸味液汁に耐塩性酵母(Zygosaccharomyces rouxii)を1.0×10個/mlになるように添加し、撹拌を行わずに20℃で14日間、酵母発酵を行った。得られた酵母発酵物を、3,000rpmで15分間遠心分離し、上清として液体調味料3~14を得た。
3-2.各種測定結果
液体調味料3~15について、HEMF、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルの含有量を測定した。結果を表32に示す。
Figure 0007064224000032
表32に示すとおり、液体調味料3~15のHEMFの含有量から、全窒素分の含有量が2.0wt%以上であり、かつ、還元糖の含有量が5.0wt%以上である醤油諸味液汁を用いることにより、オクタン酸エチル、デカン酸エチル及び高濃度のHEMFによりフルーティーかつ重厚な甘い香りがする液体調味料が得られることがわかった。
また、液体調味料7及び液体調味料12~14のHEMFの含有量から、醤油諸味液汁に添加される糖源にかかわらずHEMFの含有量に大きな変動はなかった。
[4.醤油諸味にて酵母発酵させた再仕込醤油諸味の評価]
4-1.液体調味料の製造方法
蒸煮した大豆と割砕した焙煎小麦とを6:4の割合で混合した混合物に、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)の種麹を接種し、常法により43時間製麹して醤油麹を得た。
得られた醤油麹100質量部を、94質量部の食塩水(食塩濃度24%(w/v))に仕込み、さらに醤油乳酸菌(Tetragenococcus halophilus)を加えたものを、常法に従って15~25℃で、適宜撹拌しながら20日間で処理することにより、醤油諸味を製造した。得られた醤油諸味(第1の醤油諸味)を圧搾して固液分離して圧搾液を得た。
上記のようにして得られた醤油麹100質量部を、圧搾液に食塩を添加して調製した166質量部の食塩添加圧搾液(食塩濃度19%(w/v))に仕込んだものを、常法に従って15~30℃で、適宜撹拌しながら2ヵ月間で処理することにより、アルコール濃度が3%に達した再仕込諸味を製造した。得られた再仕込諸味を圧搾して固液分離し、さらに得られた圧搾液を珪藻土によるろ過処理に2回供して、再仕込諸味液汁を得た。
得られた再仕込諸味液汁に耐塩性酵母(Zygosaccharomyces rouxii)を1.0×10個/mlになるように添加し、撹拌を行わずに20℃で14日間、酵母発酵を行った。得られた酵母発酵物を、3,000rpmで15分間遠心分離し、上清として液体調味料16を回収した。
4-2.各種測定結果
液体調味料16について、HEMF、オクタン酸エチル、デカン酸エチル、還元糖及び全窒素分の含有量を測定した。結果を表33に示す。
Figure 0007064224000033
表33に示すとおり、液体調味料16は、HEMF、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルの含有量が低いものであった。これは、除菌していない圧搾液を仕込水として用いると、酵母発酵が生じ、結果としてデカン酸エチルが醤油諸味中の油分に移行し、さらに圧搾液中にはアルコールが著量含まれることにより酵母の生育が阻害されてデカン酸エチルが生成しないことによると考えられる。HEMFは諸味中の酵母発酵により生成したものと考えられる。
[5.醤油諸味液汁として再仕込醤油を用いて製造した液体調味料の評価]
5-1.液体調味料の製造方法
市販の再仕込醤油である「二段熟成生しょうゆ」(キッコーマン社製)を珪藻土によるろ過処理に2回供して、再仕込醤油液汁を得た。
得られた再仕込醤油液汁に耐塩性酵母(Zygosaccharomyces rouxii)を1.0×10個/mlになるように添加し、撹拌を行わずに20℃で14日間、酵母発酵を行った。得られた酵母発酵物を、3,000rpmで15分間遠心分離し、上清として液体調味料17を回収した。
5-2.各種測定結果
液体調味料17について、HEMF、オクタン酸エチル、デカン酸エチル、還元糖及び全窒素分の含有量を測定した。結果を表34に示す。
Figure 0007064224000034
表34に示すとおり、液体調味料17は、HEMF、オクタン酸エチル及びデカン酸エチルの含有量が低いものであった。これは、再仕込醤油にはアルコールが3.0%以上で含有することにより酵母の生育が阻害されてオクタン酸エチル及びデカン酸エチルが生成しないことによると考えられる。HEMFは再仕込醤油の持込量以上には増加しなかった。
本発明の一態様の調味料用原液及び製造方法、本発明の一態様の木片及び製造方法、並びに本発明の一態様のキット及び製造方法は、香りが豊潤な嗜好性の高い調味料を得るために簡便に酵母発酵を実施することができることから、調味料の製造業者だけでなく、家庭でも手軽に調味料を得るために利用することができるものである。
本発明の一態様の醤油及び醤油様調味料は、種々の調味料や飲食品に供することにより、醤油本来の風味に加えて、白ワイン様のフルーティーな香りを付与するために利用することが期待できるものである。
本発明の一態様の濃厚醤油及び濃厚醤油様調味料は、種々の調味料や飲食品に供することにより、格別に優れたうま味及び醤油本来の風味、さらに白ワイン様のフルーティーな香りを付与するために利用することが期待できるものである。
1 本発明の一態様のキット
11 第1の調味料用原液含有容器
12 第2の調味料用原液含有容器
21 木片
31 種醤油
41 第1の酵母発酵用容器
42 第2の酵母発酵用容器
51 第1の蓋
52 第2の蓋
61 第1の容器台
62 第2の容器台
71 光源付き携帯情報端末
関連出願の相互参照
本出願は、2017年10月27日出願の日本特願2017-208410号、2017年10月27日出願の日本特願2017-208411号、2017年10月27日出願の日本特願2017-208412号、2017年10月27日出願の日本特願2017-208413号及び2018年6月12日出願の日本特願2018-112279号の優先権を主張し、その全記載は、ここに開示として援用される。

Claims (3)

  1. 還元糖の含有量が4.5wt%以上であり、かつ、エタノールの含有量が1.5wt%以下であり、かつ、乳酸発酵後の醤油諸味から不溶性固形分を除いた液汁である、酵母発酵前の醤油用原液。
  2. 前記醤油用原液は、リノール酸の含有量が0.03wt%以下である、請求項1に記載の醤油用原液。
  3. 請求項1~2のいずれか1項に記載の醤油用原液を、酵母発酵に供することにより、醤油を得る工程を含む、醤油の製造方法。
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