JP2015232965A - 硫化物固体電解質、および硫化物固体電解質の製造方法 - Google Patents

硫化物固体電解質、および硫化物固体電解質の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】
高イオン伝導率を備え、低コストで大量生産可能できる硫化物固体電解質とその製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフランにエーテル基若しくは炭素数1ないし3の炭化水素基を結合させた化合物、またはエーテル構造を含む化合物を含有する有機溶媒中でLiSとPとを混合させて得られる析出物を含有する硫化物固体電解質である。
【選択図】図1

Description

本発明は、有機溶媒を用いて製造される硫化物固体電解質に関する。また上記硫化物固体電解質の製造方法に関する。
リチウムイオン二次電池はエネルギー密度が高いため、電気自動車用途、携帯情報端末用途等で利用される。かかるリチウムイオン二次電池の電池特性を高めるため、高イオン伝導率と安全性を備える電解質の研究が進んでいる。硫化物固体電解質は、リチウムイオンの輸率が1で、イオン伝導率が10−4S/cm程度であることから電池特性向上に寄与する固体電解質として注目され、低コストでの大量生産の実現が期待される。
従来、硫化物固体電解質の製造方法として、融液急冷法や固相反応法がある。融液急冷法は、LiSやP等の出発原料を溶融して得られる溶融物を急冷して硫化物固体電解質を製造する方法である。しかし、融液急冷法は、溶融工程で生じる熱分解ガスの影響で、得られる硫化物固体電解質の組成が安定しにくい。また塊状の硫化物が生成されるため、固体電解質として用いる場合、粉砕工程を要する。
固相反応法の例としてメカニカルミリング法(MM法)がある。MM法は、反応器内に出発原料とボールミルを入れ、出発原料に強振動を与えることにより微粒子化し、各微粒子を混合させる方法である。特許文献1および特許文献2には、MM法を用いた硫化物の製造方法が開示される。しかしMM法は特殊な装置を用いて行うため、スケールアップが容易でない。また装置の稼働にあたりコスト上昇を招きやすい。したがってMM法を硫化物の工業的生産に適用することは困難である。
他の硫化物固体電解質の製造方法として、近年、Li2S、P2を有機溶媒中で撹拌し、溶液中で硫化物固体電解質を合成する方法(溶液法)が提案される。非特許文献1には、有機溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いる溶液法が開示される。非特許文献2には、ヒドラジンを用いる溶液法が開示される。また非特許文献3には、ボールミルを用いる固相反応法で合成した硫化物固体電解質をN−メチルホルムアミド(NMF)に溶解し、硫化物固体電解質を析出させる技術が開示される。
溶液法で用いられる他の溶媒例としては、トルエン等の炭化水素系有機溶媒(特許文献3、4)や、N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性有機溶媒(特許文献5)が提案される。しかしNMPのように難揮発性の有機溶媒を用いる場合、硫化物に有機溶媒が残存しやすい。その場合硫化物のイオン伝導度が抑制されるため、固体電解質用途には不適当である。
特開平11−134937号公報 特開2002−109955号公報 特開2010−140893号公報 特開2010−186744号公報 WO2004/093099号
Journal of the American Chemical Society 2013, 135, 975-978 Journal of Power Sources 2013, 224, 225-229 電気化学会第80回大会要旨集,3H25
本発明の課題は、イオン伝導度が高い硫化物固体電解質を低コストで大量生産できる方法で提供することである。
本発明は、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフランにエーテル基若しくは炭素数1ないし3の炭化水素基を結合させた化合物、またはエーテル構造を含む化合物を含有する有機溶媒中でLiSとPとを混合させて得られる析出物を含有する硫化物固体電解質である。本発明において、上記析出物が有機溶媒に非晶質化溶媒を更に加えた溶媒中でLiSとPとを混合させて得られる非晶質体の析出物であることが好ましい。または上述の硫化物固体電解質を、更に非晶質化溶媒に混合させて得られる非晶質体の析出物を含有する、或いは、上述の硫化物固体電解質から有機溶媒を留去した後、更に非晶質化溶媒に混合させて得られる非晶質体の析出物を含有する硫化物固体電解質であることが好ましい。
本発明において、非晶質化溶媒は、ドナー数が18〜28であり、沸点が有機溶媒の沸点以上であることが好ましく、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン及びアニソールからなる群から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。有機溶媒は、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル又はジイソプロピルエーテルであることが好ましい。また、本発明において、上記硫化物固体電解質を、50〜200℃、30〜180分間加熱処理して得られる析出物、又は上記の硫化物固体電解質を、50〜200℃で30〜180分間加熱処理した後、更に180〜350℃で30〜180分間加熱処理して得られる結晶性の析出物を含有する硫化物固体電解質であってもよい。また、上記析出物は、イオン伝導度が10−5〜10−2S/cmの範囲内であることが好ましい。該析出物は、LiPS、Li、Liのうちいずれか一つ以上を含むことが好ましい。
有機溶媒中に添加されるLiSとPとのモル比は、x:1−xであって、かつxが0.1<x<0.9を満たす値であることが好ましい。上記析出物は、有機溶媒中に、GeS、P、P、SiO、B、Al、Bのうちいずれか一つ以上を添加させて得られるものであってもよい。
本発明は、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフランにエーテル基または炭素数1ないし3の炭化水素基を結合させた化合物、またはエーテル構造を含む化合物を含有する有機溶媒で、LiSとPとを混合し、硫化物を析出させる混合工程と、硫化物を乾燥させて有機溶媒を除去する溶媒除去工程とを含む、硫化物固体電解質の製造方法を包含する。上記の製造方法の混合工程は、LiSとPとを、モル比として、x:1−x(xは、0.1<x<0.9を満たす値である)で混合することが好ましい。また混合工程において、有機溶媒に非晶質化溶媒を更に加えた溶媒中でLiSとPとを混合し、非晶質体の硫化物を析出させることが好ましい。または、混合工程と溶媒除去工程との間に、混合工程後の硫化物を、更に非晶質化溶媒に混合し、非晶質体の硫化物を析出させる非晶質化工程を含むことが好ましく、更に非晶質化工程の前に、混合工程後の硫化物から有機溶媒を留去する有機溶媒除去工程を含むことがより好ましい。溶媒除去工程は、温度条件50〜200℃、処理時間30〜180分間で行う真空焼成工程を含むことが好ましい。さらに有機溶媒除去後の析出物を、焼成温度180〜350℃、かつ焼成時間30〜180分間で焼成する結晶化工程を含む硫化物固体電解質の製造方法を包含することが好ましい。
本発明は、硫化物固体電解質を低コストで大量生産することができる。
本発明の硫化物固体電解質の製造方法の例を示すフローチャートである。 本発明の硫化物固体電解質の製造方法の別の例を示すフローチャートである。
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を具体的に説明する。図1は、本発明の硫化物固体電解質の製造方法の例を示すフローチャートである。まず、本発明の第1の実施形態として、硫化物固体電解質を説明してから、図1を用いて硫化物固体電解質の製造方法を説明する。
[硫化物固体電解質]
本発明の硫化物固体電解質は、後に説明する所定の有機溶媒を用いた溶液法により析出する析出物を含有する。該析出物は、本発明の主成分であって、上記の硫化物固体電解質の総質量における該析出物の含有量は、50〜100質量%であり、好ましくは95〜100質量%である。該析出物は、LiSとPとを出発原料とする硫化物である。該析出物のイオン伝導度は、10−5〜10−2S/cmが好ましく、10−4〜10−2S/cmがより好ましい。そのような析出物を主成分とする本発明の硫化物固体電解質は、全固体二次電池用途に好適である。
上記のイオン伝導度は、得られる硫化物の組成や、結晶性、粒子径により決定される。該本発明の硫化物固体電解質の平均粒子径は、0.1〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましい。上記の平均粒子径は、得られた硫化物粒子を任意に50個選び出し、各硫化物粒子の粒子径から算出される平均値である。
本実施形態の硫化物固体電解質は、上記の好ましいイオン伝導度を備える限り非晶質体であっても、結晶体であってもよい。硫化物固体電解質が非晶質体又は結晶体であることは、CuKα線を使用したX線回折(XRD)測定で判断することができる。本明細書における非晶質体とは、XRD測定で緩やかな山なりのブロード(broad)なハローパターン(halo pattern)で現れる非晶質体のみからなる場合に加え、ハローパターンの上に小さく鋭いピーク(peak)が現れる非晶質体に微結晶が含まれている場合を含む。結晶体とは、XRD測定で鋭いピークのみが高く現れ、ブロードなハローパターンが消滅している場合を指す。本発明に包含される非晶質体および結晶体は、LiPS、Li、Liのうちいずれか一つ以上を含む。具体的には、非晶質のLiPS、Liや、LiPSとLiとの複合結晶体が挙げられる。
また本発明は、有機溶媒にGeS、P、P、SiOを添加して、合成させた、LiS−SiS、LiS−GeS,LiS−P−SiS、LiS−P−GeS等であってもよい。上記の添加成分を少なくとも一つ以上含有させることにより、イオン伝導性を向上させることができる。
上記の好ましい粒子径、結晶性、組成等により得られる所定のイオン伝導度を備える本発明の硫化物固体電解質は、出発原料の添加量や混合条件、有機溶媒の除去方法、析出物の焼成条件を調整することにより製造することができる。本発明の硫化物固体電解質の製造方法について説明する。
[硫化物固体電解質の製造方法]
本発明の硫化物固体電解質の製造方法は、所定の有機溶媒を用いる混合工程と溶媒除去工程とを含み、結晶化工程を含むことも好ましい。図1において1は混合工程、2は溶媒除去工程、3は結晶化工程である。
[混合工程]
本発明の混合工程においては、出発原料として、少なくともLiSとPとを所定の有機溶媒中に添加し撹拌する。本発明で用いられる有機溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロフランにエーテル基または炭素数1〜3の炭化水素基を結合させた化合物や、エーテル構造を含む化合物を含有する。
混合工程において、撹拌されて出発原料の混合が進むにつれて、LiS粒子と有機溶媒に溶解したPとの固液界面で反応が進み、硫化物が析出する。この硫化物が本発明の非晶質の硫化物固体電解質に含まれる硫化物である。LiSの粒子径が小さいほど大きな比表面積を得ることができる。比表面積が大きいほど固液界面が大きくなり、硫化物の析出量は多くなりやすい。用いられるLiSの平均粒子径は、0.1〜100μmが好ましく、0.1〜10μmがより好ましい。
上記の有機溶媒に含有される化合物は、嵩高くランダムな化学構造を有する。そのような有機溶媒中で析出される硫化物は、構造が乱され、原子配列が不規則になりやすい。その結果、非晶質の硫化物の合成が促進される。この非晶質の硫化物のイオン伝導度は、10−5〜10−3S/cmであり、好ましくは、10−4〜10−3S/cmである。したがって硫化物固体電解質として好ましい。
本発明で用いられる有機溶媒に、出発原料のひとつであるLiSを添加する場合、該有機溶媒は嵩高い構造であるため、その化学構造内にLiSに含有されるリチウム原子が入り込みにくい。そのため析出する硫化物と有機溶媒との溶媒和を抑制できる。有機溶媒が付着した硫化物は、イオン伝導度が固体電解質用途としては低い。本発明においては、硫化物への有機溶媒の付着を防止できるため、高イオン伝導度の硫化物固体電解質を製造することができる。また、析出させた硫化物が所望のイオン伝導度を備えない場合は、後に説明する溶媒除去工程で有機溶媒を除去して、硫化物のイオン伝導度を向上させることができる。
本実施形態に用いられる有機溶媒としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロフランにエーテル基若しくは炭素数1ないし3の炭化水素基を結合させた化合物またはエーテル構造を含む化合物が挙げられる。テトラヒドロフランにエーテル基若しくは炭素数1ないし3の炭化水素基を結合させた化合物の好ましい例としては、メチルテトラヒドロフラン(MeTHF)、エチルテトラヒドロフラン、プロピルテトラヒドロフランが挙げられる。エーテル構造を含む化合物には、アルキル鎖の途中にエーテル構造(−O−)が存在する化合物であり、炭素数3〜10の鎖状エーテルを好ましく用いることができる。エーテル構造を含む化合物の好ましい例としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン(DEE)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、ジイソプロピルエーテルが挙げられる。また上記の有機溶媒における水分量は、50ppmを超えないことが好ましい。これらの有機溶媒は、揮発性が高いため硫化物からの除去が容易である。本発明の製造方法においては、上記に例示する有機溶媒を単独で用いてもよく、併用してもよい。
なお、LiSとPに加えて、GeS、P、P、SiO、B、Al、B3、SiS、を有機溶媒に添加することも好ましい。これにより析出物のイオン伝導度を向上させることができる。該添加成分は一種でも二種以上でもよい。
該製造方法の出発原料であるLiSとPとの添加量のモル比は、x:1−xである。上記の添加量比において、xは0.1<x<0.9を満たす値であることが好ましく、0.7<x<0.8がより好ましい。上記の好ましいモル比で各出発原料を添加することにより、高イオン伝導性の硫化物固体電解質を得ることができる。xが0.1以下の場合、得られる硫化物のイオン伝導度が低くなり固体電解質用途として適切でない。またxが0.9以上の場合も、得られる硫化物のイオン伝導度が低くなり固体電解質用途として適切でない。また有機溶媒中のLiSとPとの総添加量の濃度は、0.012〜0.075g/mlが好ましく、0.025〜0.05g/mlがより好ましい。
上記の出発原料のモル比は、硫化物含有成分のモル比と同じである。したがって硫化物固体電解質を所望の組成比で製造する場合、出発原料の混合比を調節して、出発原料含有成分のモル比を硫化物の組成比と同じにすればよい。また、上記の混合工程により析出される硫化物は、LiPS、Li、Liのうちいずれか一つ以上を含む。上記の混合比を調節することにより、一種の硫化物を析出させ、または複数種の硫化物を析出させることができる。
例えばLiPSを製造する場合は、LiSとPとをモル比0.75:0.25にして混合させる。非晶質LiPSのイオン伝導度は、10-4S/cmである。またLiPSとLiとを1:1の割合で析出させる場合は、LiSとPとをモル比0.70:0.30にして混合させる。LiPSとLiの混合物を結晶化させた硫化物のイオン伝導度は、10-3S/cmである。
出発原料の混合は撹拌により行うことができる。その場合、撹拌翼つきの反応器に有機溶媒を入れ、出発原料を有機溶媒に添加した後、撹拌翼を回転させて行われることが好ましい。有機溶媒の温度は、温度条件は15〜60℃が好ましく、25〜40℃がより好ましい。これにより出発原料を十分に混合させ、効率よく硫化物を析出させることができる。析出量の増加が認められなくなった場合は、撹拌を終了する。撹拌時間は、0.5〜10日間が好ましく、0.5〜5日間がより好ましい。他の方法としては、ボールミル容器に原料と溶媒を封入して行うことができる。
[溶媒除去工程]
混合工程で析出させた硫化物と有機溶媒が溶媒和している場合は、有機溶媒を硫化物から除去することが好ましい。これにより溶媒和によるイオン伝導度の低下を回避し、好ましい所定のイオン伝導度を備える硫化物を得ることができる。
本工程においては、濾過器、もしくはロータリーエバポレーターを用いて反応器から硫化物が回収される。さらに真空焼成して硫化物に残存する有機溶媒を除去することが好ましい。上記の方法を用いる場合、硫化物が大気と接触しないようにする。上記の真空焼成工程において、除去する有機溶媒の種類に対応して焼成温度と処理時間は適宜調節されるが、焼成温度は50〜200℃が好ましく、80〜180℃がより好ましい。処理時間は30〜180分間が好ましく、100〜180分間がより好ましい。焼成温度が50℃より低い場合や処理時間が30分間より短い場合、有機溶媒の除去が不十分になり、得られる硫化物のイオン伝導度が低くなりやすい。焼成温度が200℃を超える場合、意図しない結晶化や、イオン伝導度の低い相への転移が生じる可能性がある。
上記の混合工程を行うことにより、また混合工程と溶媒除去工程とを行うことにより、LiPS、Li等の非晶質の硫化物固体電解質を製造することができる。該硫化物固体電解質は、イオン伝導度が10−5〜10−2S/cmである。平均粒子径は、0.1〜50μmである。
[結晶化工程]
本発明においては、混合工程や溶媒除去工程により得られる非晶質の硫化物固体電解質を焼成し、結晶化させることも好ましい。本工程においては、有機溶媒を除去した硫化物を、アルゴン等の不活性雰囲気中もしくは真空中で熱処理する。これにより硫化物の原子配列が規則的になり、硫化物の結晶体が形成される。これにより、イオン伝導度が10−3〜10−2S/cmの硫化物結晶体を得ることができる。具体的には、LiPSとLiとの複合結晶体が挙げられる。本工程で行われる熱処理条件は、熱処理温度180〜350℃が好ましく、200〜300℃がより好ましい。熱処理温度が、上記の範囲を超えると、イオン伝導率が著しく低下する。熱処理時間は、30〜180分間が好ましく、60〜120分間がより好ましい。熱処理時間が、上記の範囲を超えると、イオン伝導率が著しく低下する。
本発明の所定の有機溶媒を用いた硫化物固体電解質の製造方法は、出発原料の混合比の制御により、簡便に所望の組成の硫化物を析出させることできる。該製造方法は、反応器の容積をスケールアップすることで、溶媒の使用量や出発原料の添加量を容易に増大させることができる。これにより、高イオン伝導性の硫化物を大量に析出させることができる。また本発明に用いられる有機溶媒は、高揮発性で硫化物からの除去が容易である。これにより析出させた硫化物のイオン伝導性をさらに向上させることができる。すなわち本発明は、所定の有機溶媒の使用と簡便な工程とにより、低コストで硫化物固体電解質を大量生産することができる。
上述した実施形態では、混合工程において、有機溶媒中でLiSとPとを混合させていたが、本発明はこれに限定されない。混合工程において、有機溶媒に非晶質化溶媒を更に加えた溶媒中でLiSとPとを混合させても構わない。
非晶化溶媒は、ドナー数が18〜28であり、沸点が有機溶媒の沸点以上であることが好ましい。ドナー数とは、Gutmannにより提唱された溶媒パラメータであって、1,2−ジクロロエタン中でのSbCl5に対する配位安定化エンタルピー(kcal/mol)を測定して得られた数字である。ドナー数が大きくなるにつれ、リチウムイオンもしくは硫化物との親和性が高くなる。混合工程において、有機溶媒に非晶質化溶媒を更に加えた溶媒中でLiSとPとを混合させることにより、硫化物の構造中に非晶質化溶媒が取り込まれる。この結果、非晶質化溶媒により硫化物の結晶が崩れ、溶媒除去工程で溶媒を除去した後に非晶質体を得ることができる。また、この非晶質体を後続する結晶化工程において結晶化させることにより、硫化物の原子配列がより規則的になり、得られる硫化物の結晶体のイオン伝導度を高めることができる。
本実施形態において、非晶化溶媒及び有機溶媒の沸点とは、上記の真空焼成工程における減圧下での沸点を指す。非晶化溶媒の沸点が有機溶媒の沸点以上であることにより、真空焼成工程において、有機溶媒を優先的に蒸発させることができる。これによって、硫化物の構造中に非晶質化溶媒が多く取り込まれる結果、非晶質体を析出し易くすることができる。ドナー数が18〜28であり、沸点が上記条件を満たす非晶質化溶媒としては、例えば、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン及びアニソールからなる群から選ばれる少なくとも一種以上が挙げられる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の好適な第2の実施形態を具体的に説明する。第2の実施形態にかかる硫化物固体電解質は、後に説明する所定の有機溶媒を用いた溶液法により析出する析出物を含有する。図2は、本発明の硫化物固体電解質の製造方法の別の例を示すフローチャートである。図2を用いて、第1の実施形態と異なる点を中心に本発明の第2の実施形態を説明する。第2の実施形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、所定の有機溶媒を用いる混合工程と有機溶媒除去工程と非晶質化工程と溶媒除去工程と結晶化工程とを含む。第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、混合工程と溶媒除去工程との間に、有機溶媒除去工程及び非晶質化工程とを有する点である。図2において4は混合工程、5は有機溶媒除去工程、6は非晶質化工程、7は溶媒除去工程、8は結晶化工程である。混合工程、溶媒除去工程及び結晶化工程は、第1の実施形態と同様の工程である。
[有機溶媒除去工程]
有機溶媒除去工程では、混合工程により得られた析出物を含有する硫化物固体電解質を、有機溶媒中で更に攪拌を行いながら、常圧の加熱下、又は減圧の加熱下若しくは室温下において有機溶媒の少なくとも一部を除去する。有機溶媒を除去する条件は、硫化物が重合又は分解を起こさずに有機溶媒を留去できる条件であればよく、置換する容器内の圧力と液温を適宜調整して行えばよい。有機溶媒の留去のために用いられる容器は、ロータリーエバポレーター等の容器内の圧力と温度を適宜調整できる蒸留装置が好ましい。
[非晶質化工程]
非晶質化工程では、有機溶媒を除去した硫化物の粉末を非晶化溶媒中に添加し撹拌する。非晶化溶媒は、ドナー数が18〜28であり、沸点が有機溶媒の沸点以上である溶媒を好ましく用いることができる。
非晶質化工程後は、第1の実施例と同様に、溶媒除去工程で溶媒を除去することにより、非晶質体を得ることができる。また、この非晶質体を後続する結晶化工程において結晶化させることにより、硫化物の原子配列がより規則的になり、得られる硫化物の結晶体のイオン伝導度を高めることができる。
上述した実施形態では、混合工程と溶媒除去工程との間に、有機溶媒除去工程及び非晶質化工程を有していたが、本発明はこれに限られず、有機溶媒除去工程を省略しても構わない。この場合、混合工程後の硫化物固体電解質を含む有機溶媒中に更に、非晶化溶媒を添加し撹拌する。
本発明を、実施例を用いてさらに説明する。ただし本発明は以下の実施例に限定されない。
[実施例1]
Ar glove box内にて、容積50mlのビーカー内の有機溶媒としてのジメトキシエタン(DME)40 mlに、LiS 0.575 gとP 0.931 gとを添加し、室温で一晩撹拌した。有機溶媒中のモル濃度は、LiSが75mol%、Pが25mol%であった。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて、35℃で有機溶媒を留去した。得られた粉末を180℃で2時間真空乾燥させ、残留する有機溶媒を完全に留去した。上記の工程はすべてAr雰囲気下で行った。
得られた白色粉末を粉末X線回折装置とRaman分光装置を用いて構造解析を行った。該白色粉末は、一部微結晶を含む非晶質のLiPSであった。上記の構造解析の結果、本発明により得られるLiPSは、Li等を不純物として含まない純度の高い硫化物であった。上記のLiPS粉末をペレット状に成型し、ステンレス電極で挟持してイオン伝導度を測定した。イオン伝導度は2×10-5 S/cmであった。上記の非晶質のLiPSの合成に要した時間は、全工程をあわせて2日間であった。
[実施例2]
Ar glove box内にて、容積50mlのビーカー内の有機溶媒としてのジメトキシエタン(DME)40 mlに、LiS 0.489 gとP 1.011 gとを添加し、室温で一晩撹拌した。有機溶媒中のモル濃度は、LiSが70mol%、Pが30mol%であった。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて、35℃で有機溶媒を留去した。得られた粉末を180℃で2時間真空乾燥させ、残留する有機溶媒を完全に留去した。乾燥後の粉末を、250℃で2時間熱処理し、結晶化させた。上記の工程はすべてAr雰囲気下で行った。得られた結晶を実施例1と同じ方法で構造解析を行い、またイオン伝導度を測定した。結晶は、Li11で、そのイオン伝導度は3×10-4 S/cmであった。上記のLi11結晶の合成に要した時間は、全工程をあわせて2日間であった。
[実施例3]
Ar glove box内にて、容積50 mlのビーカー内の有機溶媒としてのジメトキシエタン40 mlに、LiS 0.575 gとP 0.931 gとを添加し、室温で一晩撹拌した。有機溶媒中のモル濃度は、LiSが75mol%、Pが25mol%であった。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて、35℃で有機溶媒を留去した。留去後の粉末にジメトキシエタン(DME)15ml, ジエトキシエタン(DEE) 15ml及びアニソール 15ml合計45ml加え、室温で一晩撹拌して非晶質化を行った。反応終了後、ロータリーエバポレーターを用いて、150℃で有機溶媒を留去した。得られた粉末を180℃で2時間真空乾燥させ、残留する有機溶媒を完全に留去した。上記の工程はすべてAr雰囲気下で行った。得られた結晶を実施例1と同じ方法で構造解析を行い、またイオン伝導度を測定した。該白色粉末は、微結晶を含まない非晶質LiPSであった。上記のLiPS粉末をペレット状に成型し、インジウム電極で挟持してイオン伝導度を測定した。イオン伝導度は2×10-4S/cmであった。上記の非晶質のLiPSの合成に要した時間は、全工程をあわせて3日間であった。
[比較例]
Li2S 0.575 g, P25 0.926 gをSUS製potに投入し、混合効率を向上させるため、径の異なる2種類のballを投入する。Ar雰囲気下でpotを封入し、350 rpmでmillingを行う。混合条件は、10分間 milling後に5分間休憩を繰り返し、3時間おきに試料をpotから取り出して乳鉢で混合させる作業を繰り返した。上記の反応はすべてArガス雰囲気下で行った。実施例1と同じ方法で構造解析とイオン伝導度測定を行った結果、得られた白色粉末は非晶質のLiPSであり、イオン伝導度は2×10-4S/cmであった。上記の工程にかかる時間について、millingする時間は合計40時間、休憩時間を加えると合計60時間であった。乳鉢による混合作業を加えると合成時間は、120時間(5日間)であった。なお、当該比較例の方法で硫化物固体電解質を大量に製造する場合、所望の製造量に合わせてpot数を増やすことが一般的である。上記potは必要電力が大きいため、pot数を増やすことで電力コストが増大しやすい。
本発明の硫化物固体電解質は、イオン伝導度が10−5〜10−2S/cmであり、リチウムイオン二次電池の固体電解質として好適である。本発明をリチウムイオン二次電池に適用する場合、任意の正極活物質と負極活物質とにそれぞれ本発明の硫化物固体電解質を混合させて、正極層と負極層とを形成する。該正極層と負極層との間に該硫化物固体電解質を含有する固体電解質層を設けることにより、リチウムイオン二次電池を作製することができる。
本発明の硫化物固体電解質の製造方法によれば、短時間で高イオン伝導性の硫化物固体電解質を製造することができる。本発明の硫化物固体電解質の製造方法は、反応器を大型化することで、硫化物固体電解質の大量生産を簡便に実現できる。本発明は、複雑な装置を用いないため、装置の大型化が容易である。また電力コストも少ない。上記の装置のスケールアップに際し、製造時間や電力等の製造コストは上昇しない。すなわち本発明は、高イオン伝導性の硫化物固体電解質を低コストで大量生産することができる。
1 混合工程
2 溶媒除去工程
3 結晶化工程
4 混合工程
5 有機溶媒除去工程
6 非晶質化工程
7 溶媒除去工程
8 結晶化工程

Claims (20)

  1. テトラヒドロフラン、テトラヒドロフランにエーテル基若しくは炭素数1ないし3の炭化水素基を結合させた化合物、またはエーテル構造を含む化合物を含有する有機溶媒中でLiSとPとを混合させて得られる析出物を含有する硫化物固体電解質。
  2. 前記析出物は、前記有機溶媒に非晶質化溶媒を更に加えた溶媒中でLiSとPとを混合させて得られる非晶質体の析出物である請求項1に記載の硫化物固体電解質。
  3. 請求項1に記載の硫化物固体電解質を、更に非晶質化溶媒に混合させて得られる非晶質体の析出物を含有する硫化物固体電解質。
  4. 請求項1に記載の硫化物固体電解質から前記有機溶媒を留去した後、更に非晶質化溶媒に混合させて得られる非晶質体の析出物を含有する硫化物固体電解質。
  5. 前記非晶質化溶媒は、ドナー数が18〜28であり、沸点が前記有機溶媒の沸点以上である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質。
  6. 前記非晶質化溶媒は、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン及びアニソールからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項5に記載の硫化物固体電解質。
  7. 前記有機溶媒は、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル又はジイソプロピルエーテルである請求項1〜6のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質を、50〜200℃、30〜180分間加熱処理して得られる析出物を含有する硫化物固体電解質。
  9. 請求項1〜8のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質を、50〜200℃で30〜180分間加熱処理した後、更に180〜350℃で30〜180分間加熱処理して得られる結晶性の析出物を含有する硫化物固体電解質。
  10. 前記析出物が、LiPS、Li、Liのうちいずれか一つ以上を含む請求項1〜9のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質。
  11. 前記有機溶媒中のLiSとPとのモル比が、x:1-xであって、かつxが0.1<x<0.9を満たす値である請求項1〜10のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質。
  12. 前記有機溶媒中に、GeS、P、P、SiO、B、Al、Bのうちいずれか一つ以上を添加させて得られる析出物である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質。
  13. 前記析出物は、イオン伝導度が10−5〜10−2S/cmである請求項1〜12のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質。
  14. テトラヒドロフラン、テトラヒドロフランにエーテル基若しくは炭素数1ないし3の炭化水素基を結合させた化合物、またはエーテル構造を含む化合物を含有する有機溶媒で、LiSとPとを混合し、硫化物を析出させる混合工程と、硫化物を乾燥させて有機溶媒を除去する溶媒除去工程とを含む、硫化物固体電解質の製造方法。
  15. 前記混合工程において、LiSとPとを、モル比として、x:1−x(xは、0.1<x<0.9を満たす値である)で混合する請求項14に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
  16. 前記混合工程において、前記有機溶媒に非晶質化溶媒を更に加えた溶媒中でLiSとPとを混合し、非晶質体の硫化物を析出させる請求項14又は15に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
  17. 前記混合工程と前記溶媒除去工程との間に、前記混合工程後の硫化物を、更に非晶質化溶媒に混合し、非晶質体の硫化物を析出させる非晶質化工程を含む請求項14又は15に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
  18. 前記非晶質化工程の前に、前記混合工程後の硫化物から前記有機溶媒を留去する有機溶媒除去工程を含む請求項17に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
  19. 前記溶媒除去工程が、温度条件50〜200℃、処理時間30〜180分間で行う真空焼成工程を含む請求項14〜18のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
  20. LiSとPとを出発原料として析出させた、前記溶媒除去後の硫化物を、焼成温度180〜350℃、かつ焼成時間30〜180分間で焼成する結晶化工程を含む請求項14〜19のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
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