JP2014074153A - インクセット及びインクジェット記録方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 自己分散型カーボンブラック及び樹脂粒子を含有する第1のインクと、樹脂を含有する第2のインクとの組み合わせを有するインクセットにおいて、吐出よれを抑制することができるインクセットの提供。
【解決手段】 第1のインク、及び、第2のインクの組み合わせを有するインクジェット用のインクセットであって、前記第1のインクが自己分散型のカーボンブラック及び特定の粒子Aを含有し、前記第1のインク中の粒子Aの含有量が0.05質量%以上0.50質量%以下であり、かつ、前記第1のインク中の前記粒子Aの含有量が、前記自己分散顔料の含有量に対する質量比率で0.056倍以上0.250倍以下であり、前記第2のインクが特定の粒子Bを含有し、さらに、前記粒子Aの酸価a、及び、前記粒子Bの酸価bが、a≦bの関係を満たすことを特徴とするインクセット。
【選択図】 図1

Description

本発明は、インクセット及びインクジェット記録方法に関する。
インクジェット記録方法では、記録される画像の発色性や堅牢性に優れるため、色材として顔料を含有するインクが広く使用されるようになっている。また、インクジェット記録方法には、普通紙や、光沢紙及びアート紙などの多孔質層が設けられた記録媒体など、幅広い種類の記録媒体に対して、文字や図表、写真や絵画など様々な画像を記録することが求められている。このような場合、記録媒体の種類に応じてインクに必要とされる性能が異なるため、顔料の分散方式が異なる複数のインクを使い分ける技術が知られている。例えば、記録媒体として光沢紙などを用いる場合、記録される画像の光沢性や耐擦過性などを高めるのに有利である、樹脂分散剤により分散された顔料を含有するインクが用いられる。一方、記録媒体として普通紙やアート紙などを用いる場合、記録される画像の光学濃度や発色性を高めるのに有利である、いわゆる自己分散顔料を含有するインクが用いられる。
カーボンブラックや有機顔料など、様々な顔料種について自己分散化の検討がなされているが、最も汎用であるのは、ブラックインクに利用されるカーボンブラックである。自己分散型のカーボンブラックは、自己分散型の有機顔料に比べて、隠蔽性や発色性に優れているため、インクジェット用のインクの色材として好適に用いることができる。
従来、自己分散型カーボンブラックを含有するインクに、樹脂粒子を添加する検討が行われている。例えば、画像の耐擦過性を向上し、記録ヘッドの目詰まりを抑制するために、自己分散顔料との平均粒子径の差が50nm以内である樹脂粒子を用いたインクについての提案がある(特許文献1参照)。また、画像において反射光の金属光沢を低減するために、カーボンブラックの含有量に対して20倍以上の樹脂粒子を含有するインクについての提案がある(特許文献2参照)。さらに、自己分散顔料及び樹脂粒子を含有するブラックインクと、有機顔料及び樹脂粒子を含有するカラーインクとのセットに関する提案もある(特許文献3参照)。
特開2002−265831号公報 特開2010−132908号公報 特開2007−051176号公報
近年、省資源化のため、インクジェット記録装置の長寿命化が要求されており、累積の吐出可能数を向上する必要がある。本発明者らは、色材として自己分散型カーボンブラックを含有するインクについて種々の検討を行った。その結果、長期に渡ってインクの吐出を行うと、インクの吐出方向が曲がり、真っ直ぐに吐出されないという課題(連続吐出による吐出よれ)が生じることがわかった。この課題に対して、インクに樹脂粒子を添加したところ、連続吐出による吐出よれの程度は若干良化するものの依然として不十分なレベルであった。さらに、自己分散型カーボンブラック及び樹脂粒子を含有するインクと、樹脂を含有するインクを併用して記録を行うと、吐出よれがさらに顕著に発生する場合があるという別の課題(インク接触による吐出よれ)が生じることがわかった。いずれの場合も、吐出よれが発生すると、インクが記録媒体の所望の位置に付与されず、画像品位が低下するため、その解決が強く求められる。そして、これらの吐出よれという課題は、インクの吐出方式や記録ヘッドの構成によらずに生じることもわかった。
したがって、本発明の目的は、自己分散型カーボンブラック及び樹脂粒子を含有する第1のインクと、樹脂を含有する第2のインクとの組み合わせを有するインクセットにおいて、吐出よれを抑制することができるインクセットを提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記インクセットを用いたインクジェット記録方法を提供することにある。
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明にかかるインクセットは、第1のインク、及び、第2のインクの組み合わせを有するインクジェット用のインクセットであって、前記第1のインクが、その表面に直接又は他の原子団を介してアニオン性基が結合しているカーボンブラックである自己分散顔料、並びに、アニオン性基を有する樹脂粒子及びアニオン性基を有する水溶性樹脂により分散されている顔料の少なくとも一方である粒子A、を含有し、前記第1のインク中の粒子Aの含有量(質量%)が、0.05質量%以上0.50質量%以下であり、かつ、前記第1のインク中の前記粒子Aの含有量(質量%)が、前記自己分散顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で0.056倍以上0.250倍以下であり、前記第2のインクが、アニオン性基を有する樹脂粒子及びアニオン性基を有する水溶性樹脂により分散されている顔料の少なくとも一方である粒子Bを含有し、さらに、前記粒子Aの酸価a、及び、前記粒子Bの酸価bが、a≦bの関係を満たすことを特徴とする。
本発明によれば、自己分散型カーボンブラック及び樹脂粒子を含有する第1のインクと、樹脂を含有する第2のインクとの組み合わせを有するインクセットにおいて、吐出よれを抑制することができるインクセットを提供することができる。また、本発明の別の実施態様によれば、前記インクセットを用いたインクジェット記録方法を提供することができる。
連続吐出後の記録ヘッドの吐出口面を模式的に示す断面図である。 各インクが接触した後の記録ヘッドの吐出口面を模式的に示す断面図である。
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。なお、本明細書における表面張力、粘度、pHなどの各種の物性値は、いずれも25℃における値である。また、本発明においては、その酸価と当量のアルカリで中和した場合に、粒径を測定し得る粒子を形成しない樹脂を「水溶性樹脂」、粒径を測定し得る粒子を形成する樹脂を「樹脂粒子」と定義する。
本発明のインクセットは、第1のインク、及び、第2のインクの組み合わせを有するインクジェット用のインクセットである。第1のインクは、自己分散顔料(その表面に直接又は他の原子団を介してアニオン性基が結合しているカーボンブラック)と、粒子A(アニオン性基を有する樹脂粒子及びアニオン性基を有する水溶性樹脂により分散されている顔料の少なくとも一方)、を含有する。さらに、第1のインク中の粒子Aの含有量が0.05質量%以上0.50質量%以下であり、かつ、第1のインク中の粒子Aの含有量が、自己分散顔料の含有量に対する質量比率で0.056倍以上0.250倍以下である。また、第2のインクは、粒子B(アニオン性基を有する樹脂粒子及びアニオン性基を有する水溶性樹脂により分散されている顔料の少なくとも一方)を含有する。これに加えて、第1のインク中の粒子Aの酸価a、及び、第2のインク中の粒子Bの酸価bが、a≦bの関係を満たすことを要する。以下、自己分散型のカーボンブラックのことを「自己分散顔料」、インクジェット用のインクセットのことを「インクセット」と記載することがある。
(連続吐出による吐出よれ)
本発明者らは、自己分散型のカーボンブラック及び樹脂粒子を含有するインクにおいて生じる、連続吐出による吐出よれという課題を解決すべく検討した。その結果、自己分散顔料を含有する第1のインクに、前記自己分散顔料と所定の質量比率の関係を満たすように、特定量の粒子Aを添加することで、長期にわたって第1のインクが吐出された後にも、吐出よれが抑制されることを見出した。本発明者らは、このような課題が生じる原因と、本発明の構成により効果が得られるメカニズムを以下のように推測している。以下、連続吐出後の記録ヘッドの吐出口面を模式的に示す断面図である図1を利用して説明する。なお、簡単のために、図1では吐出口の記載を省略する。
先ず、自己分散型のカーボンブラックを含有し、樹脂粒子を含有しないインクにおいて、連続吐出後に吐出よれが発生する原因を、図1(a)を参照して説明する。インクジェット記録方法では、記録ヘッドの吐出口面に付着したインクを除去するために、ゴムなどの弾性部材で形成されるワイパーを利用し、記録の際には一定のタイミングで吐出口面にワイパーを当接させて、吐出口面に付着したインクを除去する。この操作はワイピングと呼ばれる。インクに含まれるカーボンブラック粒子はその硬度が高いため、ワイピングが繰り返されると、カーボンブラックが研磨剤のように働き、吐出口面が磨耗し、劣化する。その結果、吐出口面における劣化した部分と劣化していない部分とで、インクの濡れが不均一に生じ、これが原因となって吐出よれが発生する。
次に、前記インクに粒子Aを添加しても、上記の場合と同様に、インクに含まれる粒子Aは吐出口面に付着する。ここで、粒子Aは樹脂粒子又は樹脂により分散されている顔料であるため、樹脂が存在する分、上記の自己分散型のカーボンブラックと比較して硬度が低く、ワイピングによる吐出口面の磨耗は生じにくい。しかし、この場合には、図1(b)に示すように、吐出口面に付着した粒子Aがアニオン性の樹脂を含むために、付着した部分は親水化されたような状態となり、やはりインクの濡れが不均一に生じ、これが原因となって吐出よれが発生する。
一方、本発明のインクセットを構成する第1のインクであれば、長期にわたってインクが吐出された後でも、上記のような吐出よれは生じない。すなわち、粒子Aの含有量が、0.05質量%以上0.50質量%以下であり、かつ、自己分散顔料の含有量に対する質量比率で0.056倍以上0.250倍以下である、という条件を満たすインクにおいては、連続吐出による吐出よれが抑制される。この場合、図1(c)に示すように、インク中では、疎水性相互作用により自己分散顔料と粒子Aが互いに吸着し、また、自己分散顔料が相対的に多いため、自己分散顔料が粒子Aを取り囲むような形態の複合体を形成する。この複合体は、粒子Aの樹脂の存在により、上記の自己分散型のカーボンブラックよりも硬度が相対的に低く、また、粒子Aにより物理的な衝撃に対する緩衝作用が働くため、ワイピングによる吐出口面の磨耗は生じにくい。
さらに、複合体を構成する粒子Aの周囲に存在する自己分散顔料により、複合体が吐出口面に付着している部分の面積が非常に小さく、したがって付着力も弱いため、ワイピングにより容易に除去可能であるので、インクの不均一な濡れも生じない。これら2つのメカニズムの両方が生じることにより初めて、第1のインクの連続吐出による吐出よれを抑制することができる。
前記質量比率が0.056倍未満である場合や、粒子Aの含有量が0.05質量%未満である場合、粒子Aに対して自己分散顔料が多いため、複合体を形成しきれない自己分散顔料が存在することになる。この場合、自己分散顔料により吐出口面の磨耗が生じるため、図1(a)の状態に近くなり、吐出よれを抑制することはできない。一方、前記質量比率が0.250倍超である場合や、粒子Aの含有量が0.50質量%超である場合、自己分散顔料に対して粒子Aが多いため、複合体を形成しきれない粒子Aが存在することになる。この場合、粒子Aが吐出口面に付着し、インクの濡れが不均一に生じるため、図1(b)の状態に近くなり、吐出よれを抑制することはできない。なお、第1のインクの連続吐出による吐出よれが発生する場合、後述するインク接触による吐出よれも生じ易くなる。
また、前記質量比率が0.056倍以上0.080倍以下である場合や、粒子Aの含有量が0.05質量%以上0.40質量%以下である場合には、連続吐出による吐出よれをさらに高いレベルで抑制することができる。
(インク接触による吐出よれ)
次に、本発明者らは、自己分散顔料及び粒子Aを含有する第1のインクと、粒子Bを含有するインクとを併用して記録を行うと生じる、インク接触による吐出よれという課題を解決すべく検討を行った。その結果、第1のインク中の粒子Aの酸価aと、第2のインク中の粒子Bの酸価bとが、a≦bの関係を満たすようにすることで、第1のインク及び第2のインクを併用しても、吐出よれが抑制されることを見出した。本発明者らは、このような課題が生じる原因と、本発明の構成により効果が得られるメカニズムを以下のように推測している。以下、第1のインク及び第2のインクが接触した後の記録ヘッドの吐出口面を模式的に示す断面図である図2を利用して説明する。なお、簡単のために、図2では吐出口の記載を省略する。
複数のインクを利用するインクジェット記録方法では、記録ヘッドからインクを吐出する際に生じる微小なインク滴(ミスト)や、吐出口の目詰まりなどを解消するために行われる吸引回復操作などにより、複数のインクが接触する場合がある。複数のインクの接触は、記録ヘッドの周辺だけでなく、吐出口面やノズル内においても生じ得る。
第1のインクが、アニオン性基を有する樹脂粒子及びアニオン性基を有する水溶性樹脂により分散されている顔料の少なくとも一方(粒子B)を含有するインクと接触した場合、粒子A及び粒子Bの酸価の関係により、以下のようにそれぞれ異なる現象が生じる。先ず、粒子Aの酸価が粒子Bの酸価よりも高い場合(a>b)は以下のようになる。第1のインク中で粒子Aとの疎水性相互作用により複合体を形成していた自己分散顔料は、酸価が低く、疎水性がより高い粒子Bとの疎水性相互作用のほうが相対的に強くなるため、粒子Bへ吸着するようになる。その結果、複合体が破壊されて、粒子Aは遊離し、自己分散顔料は粒子Bに吸着する。特に、第2のインクが、第1のインクのノズルに混入したような場合には、第1のインクのノズル内のうち吐出口近傍では、混入した第2のインクが第1のインクと比較して相対的に多く存在するようになる。この場合、第2のインクに含まれていた粒子Bが吐出口面に優先的に付着し、この部分が粒子Bのアニオン性の樹脂によって親水化されたような状態となり、インクの濡れが生じ、これが原因となって吐出よれが発生する。
一方、本発明の酸価の関係を満たす粒子A及び粒子Bを用いれば、インク接触による吐出よれは生じない。すなわち、粒子Aの酸価が粒子Bの酸価と同じ、又は、粒子Aの酸価が粒子Bの酸価よりも低い場合(a≦b)は以下のようになる。先に述べたa>bの場合とは異なり、第1のインク中の複合体は、第2のインク中の粒子Bと接触しても、粒子Bの酸価が高く、疎水性がより低いので、疎水性相互作用の強弱の関係は逆転せず、複合体は安定な状態を維持する。そして、第1のインク中の複合体は、粒子Aの酸価が粒子Bよりも低く、疎水性がより高いので、吐出口面に優先的に付着するが、ワイピングにより容易に除去可能であるので、インクの濡れも生じない。さらに、吐出口面に複合体が優先的に付着することで、粒子Bの付着も抑制される。このようなメカニズムから、本発明では、第1のインク及び第2のインクが接触した際の吐出よれを抑制することができる。
また、粒子Aの酸価a、及び、前記粒子Bの酸価bが、b−a≧20の関係を満たす場合、インク接触による吐出よれをさらに高いレベルで抑制することができる。
<インクセット>
以下、本発明のインクセットを構成する第1のインク及び第2のインクの構成成分や各インクの物性などについて詳細に述べる。
(第1のインクの色材)
第1のインクの色材としては、その表面に直接又は他の原子団を介してアニオン性基が結合しているカーボンブラックである自己分散顔料を用いる。このような自己分散顔料を用いることにより、カーボンブラックをインク中に分散するための樹脂分散剤の添加が不要となる、又は樹脂分散剤の添加量を少量とすることができる。第1のインク中の自己分散顔料の含有量(質量%)は、第1のインク全質量を基準として、0.10質量%以上10.00質量%以下、さらには1.00質量%以上5.00質量%以下であることが好ましい。また、自己分散顔料の平均粒径は、50nm以上200nm以下、さらには60nm以上120nm以下であることが好ましい。なお、この平均粒径は、体積基準の平均粒径(D50)であり、粒径分布の50%累積値のことである。
カーボンブラックの種類は特に限定されず、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ガスブラックなど、いずれのものも用いることができる。また、カーボンブラック粒子の表面に直接又は他の原子団を介して結合させるアニオン性基としては、−COOM、−SOM、−POHM、及び−POなどが挙げられる。式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。他の原子団(−R−)としては、炭素原子数1乃至12の直鎖又は分岐のアルキレン基;フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基;アミド基;スルホニル基;アミノ基;カルボニル基;エステル基;エーテル基などを挙げることができる。また、これらの基を組み合わせた基などを挙げることができる。前記式中、Mで表されるアルカリ金属の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどを挙げることができる。また、前記式中、Mで表される有機アンモニウムの具体例としては、メチルアミン、エチルアミンなどの炭素数1以上3以下のアルキルアミン類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの炭素数1以上4以下のアルカノールアミン類などのイオンが挙げられる。親水性基が塩を形成している場合、インク中の塩は、その一部が解離した状態及び全てが解離した状態のいずれであってもよい。
(粒子A及び粒子B)
第1のインクに含有させる粒子A、また、第2のインクに含有させる粒子Bは、アニオン性基を有する樹脂粒子及びアニオン性基を有する水溶性樹脂により分散されている顔料の少なくとも一方である。以下、アニオン性基を有する樹脂粒子を「樹脂粒子」、アニオン性基を有する水溶性樹脂により分散されている顔料を「樹脂分散顔料」と記載することがある。
粒子A及び粒子Bは互いに同種のものであっても、異なる種類のものであってもよい。例えば、第1のインクには粒子Aとして樹脂粒子を含有させ、第2のインクにも粒子Bとして樹脂粒子を含有させてもよい。また、第1のインクには粒子Aとして樹脂粒子を含有させ、第2のインクには粒子Bとして樹脂分散顔料を含有させてもよく、勿論、この逆であってもよい。また、樹脂粒子と樹脂分散顔料を併用してもよいし、どちらか一方のみを用いる場合であっても、特性の異なる複数の粒子を併用することもできる。例えば、特性が異なる2種類の樹脂粒子を併用してもよく、2種類の樹脂分散顔料を併用することもできる。
第1のインク中の粒子Aの含有量(質量%)は、0.05質量%以上0.50質量%以下であり、かつ、粒子Aの含有量(質量%)が、自己分散顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で0.056倍以上0.250倍以下であることを要する。なお、粒子A及び自己分散顔料の含有量は、それぞれ、第1のインク全質量を基準とした値である。また、第2のインク中の粒子Bの含有量(質量%)は、第2のインク全質量を基準として、0.10質量%以上10.00質量%以下、さらには0.50質量%以上5.00質量%以下であることが好ましい。なお、本発明で規定する条件を満たす粒子Aや粒子Bを、複数種類併用する場合には、その合計を当該成分の含有量とする。
粒子Aの酸価a及び粒子Bの酸価bは、a≦bの関係を満たすことを要し、b−a≧20の関係を満たすことが好ましい。また、粒子Aの酸価a及び粒子Bの酸価bは、それぞれ、40mgKOH/g以上250mgKOH/g以下の範囲内にあることが好ましい。本発明における、粒子Aや粒子Bの酸価とは、樹脂粒子の場合には樹脂そのものの酸価、樹脂分散顔料の場合には顔料の分散剤として使用する水溶性樹脂の酸価である。
粒子Aが、粒子Bの平均粒径よりも小さいものを含むことが好ましい。これを満たさない場合、平均粒径が小さいため拡散しやすい粒子Bは、第1のインク中の複合体と同様に吐出口面に付着しやすくなる。すると、粒子Bが付着した部分が親水化されたような状態となり、インクの濡れが不均一に生じるため、インク接触による吐出よれの抑制の程度がやや低下する場合がある。また、粒子A及び粒子Bの平均粒径は、それぞれ、30nm以上200nm以下の範囲内にあることが好ましい。なお、この平均粒径は、体積基準の平均粒径(D50)であり、粒径分布の50%累積値のことである。特に、粒子Aについては、その平均粒径が30nm未満であると、粒子Aが小さすぎるために複合体がやや形成されづらくなり、吐出口面の磨耗によってインクの濡れが不均一に生じることがある。この場合、連続吐出による吐出よれ、及び、インク接触による吐出よれの抑制の程度がいずれも低下することがある。
以下、粒子Aや粒子Bとして使用し得る、アニオン性基を有する樹脂粒子と、アニオン性基を有する水溶性樹脂により分散されている顔料、のそれぞれについて、好適な具体例と、粒子A及び粒子Bの好適な態様について説明する。
〔アニオン性基を有する樹脂粒子〕
アニオン性基を有する樹脂粒子は、インク中においていわゆるエマルションの状態として存在するものである。樹脂粒子としては、親水性ユニットとなるアニオン性基を有する単量体を少なくとも用い、これに加えて疎水性ユニットとなる単量体を用い、これらを共重合して得られるものを使用することができる。単量体の具体例については後述する。
第1のインクの粒子Aとして樹脂粒子を用いる場合、第1のインク中の樹脂粒子の含有量(質量%)は、第1のインク全質量を基準として、0.05質量%以上0.50質量%以下、さらには0.05質量%以上0.40質量%以下であることが好ましい。第2のインクの粒子Bとして樹脂粒子を用いる場合、第2のインク中の樹脂粒子の含有量(質量%)は、第2のインク全質量を基準として、0.10質量%以上5.00質量%以下、さらには0.50質量%以上2.00質量%以下であることが好ましい。
樹脂粒子の好適な態様としては、コアシェル構造を有する樹脂粒子が挙げられる。コアシェル構造を有する樹脂粒子としては、ソープフリー重合法によって得られるものを用いることが好ましい。さらには、ソープフリー重合法によって得られる、コアシェル構造を有する樹脂粒子を用いることが特に好ましい。これは以下の理由による。乳化剤を利用する乳化重合により得られた樹脂粒子は、その水分散液中に乳化剤が残留しやすい。残留した乳化剤がインクに混入すると、これが吐出口面に付着して、複合体に影響を及ぼし、吐出口面の磨耗によってインクの濡れが不均一に生じることがある。この場合、連続吐出による吐出よれ、及び、インク接触による吐出よれの抑制の程度がいずれもやや低下する場合がある。
本発明においては、粒子Aとして、少なくとも樹脂粒子を用いることが好ましい。同一体積で比較した場合に、樹脂粒子のほうが、樹脂分散顔料と比べて樹脂量が多くなるため、複合体の硬度をさらに低くすることができる。結果として、吐出口面の磨耗が特に効果的に抑制され、連続吐出による吐出よれ、及び、インク接触による吐出よれをさらに高いレベルで抑制することができるためである。また、粒子Aとして、コアシェル構造を有する樹脂粒子を用いることが特に好ましい。複合体の中心にある樹脂粒子が真球に近い形となると、複合体中の粒子Aと吐出口面との付着面積がさらに小さくなる。すると、複合体が吐出口面に付着しにくいため磨耗が生じにくく、また、付着しても取れやすい状態とすることができる。したがって、インクの不均一な濡れが生じにくく、連続吐出による吐出よれ、及び、インク接触による吐出よれをさらに高いレベルで抑制することができる。
コアシェル構造を有する樹脂粒子は、コアポリマーとシェルポリマーとの質量比率(コアシェル比)が、コア/シェル=0.33以上1.5以下であることが好ましい。コアシェル比が0.33倍未満であると、コアポリマーの割合が少なく、コアポリマーが球形になりにくい。その結果、複合体中の粒子Aと吐出口面との付着面積が大きくなりやすく、インクの濡れが不均一に生じることがある。この場合、連続吐出による吐出よれ、及び、インク接触による吐出よれの抑制の程度がいずれもやや低下する場合がある。一方、コアシェル比が1.5倍超であると、シェルポリマーの割合が少なく、樹脂粒子の剛性が高くなりやすい。その結果、複合体の剛性が高くなりやすいので、吐出口面の磨耗によってインクの濡れが不均一に生じることがある。この場合、連続吐出による吐出よれ、及び、インク接触による吐出よれの抑制の程度がいずれも低下する場合がある。
コアシェル構造を有する樹脂粒子の酸価は200mgKOH/g以下であることが好ましく、また、シェルポリマーの酸価は400mgKOH/g以下であることが好ましい。コアシェル構造を有する樹脂粒子の酸価が200mgKOH/g超である場合や、シェルポリマーの酸価が400mgKOH/g超である場合、樹脂粒子の親水性が高くなりすぎる。このため、複合体が形成される効率がやや低下し、インクの濡れが不均一に生じることがある。この場合、連続吐出による吐出よれ、及び、インク接触による吐出よれの抑制の程度がいずれも低下する場合がある。また、コアシェル構造を有する樹脂粒子の酸価は40mgKOH/g以上であることが好ましく、シェルポリマーの酸価は60mgKOH/g以上であることが好ましい。なお、シェルポリマーの酸価を高める場合には、コアポリマーを構成するユニットに占める、酸モノマーに由来するユニットの割合をゼロないしは低く調整することで、コアシェル構造を有する樹脂粒子の全体としての酸価をある程度低くすることができる。
〔アニオン性基を有する水溶性樹脂により分散されている顔料〕
アニオン性基を有する水溶性樹脂により分散されている顔料としては、顔料粒子の表面に物理的に吸着した水溶性樹脂(樹脂分散剤)によって分散されている顔料や、水溶性樹脂によって顔料粒子を包含したマイクロカプセル顔料などを用いることができる。樹脂分散剤として使用する水溶性樹脂としては、親水性ユニットとなるアニオン性基を有する単量体を少なくとも用い、これに加えて疎水性ユニットとなる単量体を用い、これらを共重合して得られるものを使用することができる。単量体の具体例については後述する。また、顔料の種類は特に限定されず、インクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができる。例えば、酸化チタンやカーボンブラックなどの無機顔料、アゾ、フタロシアニン、キナクリドン、イソインドリノン、イミダゾロン、ピランスロン、(チオ)インジゴ、ジケトピロロピロール、ジオキサジンなどの有機顔料を用いることができる。
第1のインクの粒子Aとして樹脂分散顔料を用いる場合、第1のインク中の樹脂分散顔料の含有量(質量%)は、第1のインク全質量を基準として、0.10質量%以上0.50質量%以下、さらには0.10質量%以上0.40質量%以下であることが好ましい。第2のインクの粒子Bとして樹脂分散顔料を用いる場合、第2のインク中の樹脂分散顔料の含有量(質量%)は、第2のインク全質量を基準として、0.10質量%以上5.00質量%以下、さらには0.50質量%以上2.00質量%以下であることが好ましい。なお、粒子Aや粒子Bとして樹脂分散顔料を用いる場合、粒子Aや粒子Bの含有量として考慮する対象は、水溶性樹脂によって分散されている顔料の含有量及び前記水溶性樹脂の含有量の合計の値とする。
樹脂分散顔料の平均粒径は、30nm以上200nm以下、さらには60nm以上130nm以下であることが好ましい。また、樹脂分散顔料におけるPB比(顔料/水溶性樹脂の質量比率)は、0.1倍以上10.0倍、さらには0.5倍以上8.0倍以下であることが好ましい。また、樹脂分散剤として使用する水溶性樹脂は、重量平均分子量が1,000以上30,000以下のものが好ましく、酸価が40mgKOH/g以上200mgKOH/g以下、さらには120mgKOH/g以上200mgKOH/g以下のものが好ましい。
本発明においては、第1のインク中の粒子Aの含有量はごく少なくする必要があるので、粒子Aとしては、樹脂分散顔料よりも、樹脂粒子を用いることが好ましい。逆に、第2のインクにおいては、粒子Bの含有量についての制限は第1のインクほどは厳しくないことに加え、第2のインクの色材を自己分散顔料とすると、第1のインクと同様の理由から、連続吐出による吐出よれが発生する場合もある。したがって、第2のインクの粒子Bとしては、少なくとも樹脂分散顔料を用いることが好ましい。この場合には、樹脂を含有するインクにおいて要求される、光沢紙適性を高いレベルで満足しやすくなるというメリットもある。ただし、第2のインクは顔料などの色材を含有しないクリアインクとしてもよく、この場合は粒子Bとして樹脂粒子を利用することができる。
〔単量体〕
アニオン性基を有する樹脂粒子やアニオン性基を有する水溶性樹脂(樹脂分散剤)としては、それぞれ、以下に挙げるような親水性ユニット及び疎水性ユニットを少なくとも有する共重合体を用いることが好ましい。なお、本明細書における(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルを示すものとする。
重合により親水性ユニットとなるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸などの酸モノマー、これらの酸モノマーの無水物や塩などのアニオン性モノマーが挙げられる。なお、酸モノマーの塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、有機アンモニウムなどのイオンが挙げられる。本発明においては、(メタ)アクリル酸に由来する親水性ユニットを少なくとも有する、樹脂粒子や水溶性樹脂を用いることが特に好ましい。
また、重合により疎水性ユニットとなるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸へキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどの脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの芳香環を有するモノマーなどが挙げられる。また、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニルなどのモノマーも使用することもできる。本発明においては、脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルや芳香環を有するモノマーに由来する疎水性ユニットを少なくとも有する、樹脂粒子や水溶性樹脂を用いることが特に好ましい。
(水性媒体)
第1のインク及び第2のインクには、それぞれ、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有させることができる。水としては脱イオン水やイオン交換水を用いることが好ましい。本発明においては、水性媒体として水を少なくとも含有する、水性のインクとすることが特に好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.00質量%以上95.00質量%以下であることが好ましい。また、インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.00質量%以上50.00質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール類、(ポリ)アルキレングリコール類、グリコールエーテル類、含窒素化合物類などのインクジェット用のインクに使用可能なものをいずれも用いることができ、1種又は2種以上をインクに含有させることができる。
(その他の樹脂)
第1のインクや第2のインクには、粒子Aや粒子Bとしての樹脂粒子や分散剤として使用する水溶性樹脂の他に、画像性能の向上などのためにさらに別の樹脂(水溶性樹脂や樹脂粒子)を添加することもできる。インク中の別の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%5.00質量%以下、さらには0.10質量%以上2.00質量%以下であることが好ましい。ただし、このような用途で使用する水溶性樹脂は、樹脂分散剤としての作用は有さないものであるので、粒子Aや粒子Bの含有量に含めて考える必要はない。また、樹脂粒子を使用する場合にも、本発明で規定する条件を満たす粒子Aや粒子Bを用いていれば、本発明の効果を得ることができる。なお、自己分散顔料を含めない含有量として表した場合、インク中の粒子の合計含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.05質量%以上15.0質量%以下、さらには0.10質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
しかし、特に第1のインクにおいては、本発明で規定する条件を満たす粒子Aを使用していても、それを満たさない粒子の含有量があまりに多すぎると、吐出よれを十分に抑制するのが難しくなる場合もある。また、酸価の関係を満たす粒子A及び粒子Bを使用していても、この関係を満たさない粒子の含有量があまりに多すぎると、やはり吐出よれを十分に抑制するのが難しくなる場合もある。したがって、本発明で規定する条件を満たす粒子Aや粒子Bに加えて、それを満たさない粒子(自己分散顔料は含めない)を使用する場合には、本発明で規定する条件を満たさない粒子の含有量はあまり多くしないことが好ましい。具体的には、各インク中に含まれる全ての粒子に占める、本発明で規定する条件を満たす粒子Aや粒子Bの割合が、90.0%以上であることが好ましく、95.0%以上であることがさらに好ましい。特に好適には、前記割合が100.0%、すなわち、各インク中に含まれる全ての粒子が、本発明で規定する条件を満たす粒子Aや粒子Bであることが好ましい。
(その他の成分)
第1のインク及び第2のインクには、それぞれ、上記成分の他に、尿素やその誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの常温で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。インク中のこれらの水溶性有機化合物の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上10.00質量%以下であることが好ましい。特に、第1のインクには、自己分散顔料との相性がよく、かつ、保湿性に優れるトリメチロールプロパンを含有させることが好ましく、その含有量(質量%)は、第1のインク全質量を基準として、0.10質量%以上5.00質量%以下であることが好ましい。また、必要に応じて所望の物性値を有するインクとするために、消泡剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
特に、インクの表面張力を調整するために、ノニオン性の界面活性剤を用いることが好ましい。具体的には、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンの共重合体、シリコーン系、フッ素系などのノニオン性界面活性剤を用いることができる。インク中のノニオン性界面活性剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上2.00質量%以下、さらには0.50質量%以上1.50質量%以下であることが好ましい。これに加えて、第1のインク及び第2のインクの表面張力が、後述するような関係を満たすようにするための手段のひとつとして、第1のインク中のノニオン性界面活性剤の含有量を、第2のインクよりも少なくすることが特に好ましい。
(インクの物性)
第1のインク及び第2のインクの各種の物性は、一般的なインクジェット用のインクと同等の範囲内にあればよい。インクの粘度は、1.0mPa・s以上3.0mPa・s以下、さらには1.5mPa・s以上3.0mPa・s以下であることが好ましい。また、インクのpHは、7.5以上9.5以下であることが好ましい。また、インクの表面張力は、30.0mN/m以上45.0mN/m以下であることが好ましい。なお、ここで記載した表面張力は、いわゆる静的表面張力であり、白金などのプレートを用いたウィルヘルミー法により測定することができる。
本発明においては、第1のインクの表面張力が、第2のインクの表面張力よりも高いことが好ましい。これは以下の理由による。第2のインクが、第1のインクのノズルに混入したような場合には、第1のインクのノズル内のうち吐出口近傍では、混入した第2のインクが、第1のインクと比較して相対的に多く存在するようになり、粒子Bも多く存在することになる。
この際、第1のインクの表面張力が、第2のインクの表面張力よりも低い、又は同じである場合、第1のインクから第2のインクへの流れ込みが生じ、粒子Bが多く存在する領域に第1のインクに含まれていた複合体が入っていくことになる。すると、ショックが発生して複合体が壊れ、遊離した、酸価が相対的に低い粒子Aが吐出口面に付着し、この部分が親水化されたような状態となり、インクの濡れが不均一に生じるため、インク接触による吐出よれの抑制の程度がやや低下する場合がある。一方、第1のインクの表面張力が、第2のインクの表面張力よりも高い場合、第2のインクから第1のインクへの流れ込みが生じ、自己分散顔料と粒子Aの複合体が存在する領域に第2のインクに含まれていた粒子Bが入っていくことになる。この場合には、複合体は安定な状態を保つので、上記の場合とは異なりインクの濡れが生じず、インク接触による吐出よれを高いレベルで抑制することができる。
<インクジェット記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、上記で説明した本発明のインクセットを構成する第1のインク及び第2のインクをインクジェット方式の記録ヘッドから吐出して記録媒体に画像を記録する方法である。インクを吐出する方式としては、インクに力学的エネルギーを付与する方式や、インクに熱エネルギーを付与する方式が挙げられる。本発明においては、吐出口面がフッ素含有樹脂や変性シリコン樹脂などによって撥水処理されている記録ヘッドを利用し、インクに熱エネルギーを付与してインクを吐出する方式を採用することが特に好ましい。本発明のインクを用いること以外、インクジェット記録方法の工程は公知のものとすればよい。
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
<平均粒径の測定条件>
以下、顔料及び樹脂粒子の平均粒径の測定方法を説明する。平均粒径の測定には、動的光散乱方式の粒度分布測定装置(ナノトラックUPA−EX150;日機装製)を用いた。樹脂分散顔料及び自己分散顔料の平均粒径は、顔料分散液を、ローディングインデックス値が1〜2の範囲になるように純水で希釈し、上記装置を用いて、SetZero:30s、測定回数:3回、測定時間:180秒、屈折率:1.5の測定条件で測定した。また、樹脂粒子の平均粒径は、調製した樹脂粒子を体積基準で50倍になるように純水で希釈し、上記装置を用いて、SetZero:30s、測定回数:3回、測定時間:180秒、屈折率:1.5の測定条件で測定した。なお、本発明者らは、顔料分散液や樹脂粒子の水分散液について上記のようにして測定したそれぞれの平均粒径の値と、インク中での樹脂分散顔料、自己分散顔料、樹脂粒子の平均粒径の値が同等であることを確認した。勿論、平均粒径を測定する装置や条件などは上記に限られるものではない。
<樹脂の合成>
以下の手順にしたがって、樹脂粒子P1〜P19及びP21〜P26、水溶性樹脂P20を合成した。以下の略記号は、HA:アクリル酸ヘキシル、NA:アクリル酸ノニル、2EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル、LA:アクリル酸−n−ラウリル、MMA:メタクリル酸メチル、EMA:メタクリル酸エチル、nBMA:メタクリル酸−n−ブチル、tBMA:メタクリル酸−t−ブチル、AA:アクリル酸、MAA:メタクリル酸、tBA:アクリル酸−t−ブチル、nBA:アクリル酸−n−ブチル、St:スチレン、AAm:アクリルアミド、TEGdAc:トリエチレングリコールジアクリレート、EGdMAc:エチレングリコールジメタクリレート、をそれぞれ示す。また、コアシェル比とは、コアポリマーとシェルポリマーとの質量比率(コア/シェル)のことである。
(樹脂粒子P1〜P14、P16、P17、P19、P26)
以下の手順にしたがって、P1〜P14、P16、P17、P19、P26の各コアシェル構造を有する樹脂粒子をソープフリー重合法により合成した。先ず、S1〜S18の各シェルポリマーを合成した。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、100.0部のエチレングリコールモノブチルエーテルを添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で110℃に昇温させた。このフラスコに、表1に示す種類及び使用量の各モノマーの混合物と、エチレングリコールモノブチルエーテルに1.3部のt−ブチルパーオキサイド(重合開始剤)を溶解した液体を3時間かけて滴下した。そして、エージングを2時間行い、さらにエチレングリコールモノブチルエーテルを減圧下で除去して、固形の樹脂を得た。このようにして得られた樹脂を、その酸価と当量の水酸化カリウム及び適量のイオン交換水を加えて80℃で中和して、シェルポリマー(固形分)の含有量が30.0%であるシェルポリマーの水溶液を得た。表1に、シェルポリマーS1〜S18の酸価及び重量平均分子量の値を示す。
次に、撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、上記で得られた各シェルポリマーの水溶液を、シェルポリマーの固形分の仕込み量が表2に示す値となるように添加した。その後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で80℃まで昇温させた。このフラスコに、コアポリマーとなる表2に示す種類の各単量体の混合物を、コアポリマーの固形分の仕込み量が表2に示す値となるように添加した後、水16.7部に1.0部の過硫酸カリウム(重合開始剤)を溶解した液体を3時間かけて滴下した。そして、エージングを2時間行った後、適量のイオン交換水で固形分を調整し、樹脂(固形分)の含有量が15.0%である、コアシェル構造を有する樹脂粒子P1〜P14、P16、P17、P19、P26の水分散液を得た。このようにして得られた樹脂粒子P1〜P14、P16、P17、P19、P26は、コアポリマーがシェルポリマーに被覆された構造であった。
(樹脂粒子P15)
以下の手順にしたがって、乳化重合法により単層の樹脂粒子P15を合成した。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、100.0部の水を添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で80℃に昇温させた。水100.0部、ラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)1.0部、2EHA30.8部、MMA52.4部、AA16.8部を混合し、単量体の乳化物を調製した。上記のフラスコに、単量体の乳化物と5.0%の過硫酸カリウム水溶液10.0部を3時間かけて滴下した。そして、エージングを2時間行った後、適量のイオン交換水で固形分を調整し、樹脂(固形分)の含有量が15.0%である、単層の樹脂粒子P15の水分散液を得た。
(樹脂粒子P18)
以下の手順にしたがって、乳化重合法によりコアシェル構造を有する樹脂粒子P18を合成した。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、100.0部の水を添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で80℃に昇温させた。水40.0部、ラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)0.4部、2EHA8.0部、MMA32.0部を混合し、単量体の乳化物Aを調製した。上記のフラスコに、単量体の乳化物Aと5.0%の過硫酸カリウム水溶液(重合開始剤)4.0部を1時間かけて滴下した後、エージングを2時間行い、コアポリマーとなる樹脂粒子を合成した。これとは別に、水60.0部、ラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)0.6部、2EHA16.8部、MMA26.4部、AA16.8部を混合し、単量体の乳化物Bを調製した。上記と同じフラスコに、単量体の乳化物Bと5.0%の過硫酸カリウム水溶液15.0部を1時間かけて滴下した。そして、エージングを2時間行った後、適量のイオン交換水で固形分を調整し、樹脂(固形分)の含有量が15.0%である、コアシェル構造を有する樹脂粒子P18の水分散液を得た。樹脂粒子P18のシェルポリマーの酸価は218mgKOH/gであった。
(水溶性樹脂P20)
以下の手順にしたがって、乳化重合法により水溶性樹脂P20を合成した。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、100.0部の水を添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で80℃に昇温させた。水100.0部、ラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)1.0部、2EHA24.8部、MMA58.4部、AA16.8部を混合し、単量体の乳化物を調製した。上記のフラスコに、単量体の乳化物と5.0%の過硫酸カリウム水溶液10.0部を3時間かけて滴下した。そして、エージングを2時間行った後、適量のイオン交換水で固形分を調整し、樹脂(固形分)の含有量が15.0%である、水溶性樹脂P20の水溶液を得た。
(樹脂粒子P21)
以下の手順にしたがって、乳化重合法により単層の樹脂粒子P21を合成した。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、800.0部の水、ラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)1.0部、過硫酸カリウム6.0部を添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で75℃に昇温させた。水450.0部、ラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2.0部、AAm20.0部、MMA600.0部、nBA215.0部、MAA30.0部、TEGdAc5.0部を混合し、単量体の乳化物を調製した。上記のフラスコに、単量体の乳化物を5時間かけて滴下した。そして、エージングを3時間行った後、適量のイオン交換水で固形分を調整し、樹脂(固形分)の含有量が30.0%である、単層の樹脂粒子P21の水分散液を得た。
(樹脂粒子P22)
以下の手順にしたがって、乳化重合法により単層の樹脂粒子P22を合成した。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、900.0部の水、ラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)3.0部、過硫酸カリウム4.0部を添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で70℃に昇温させた。水450.0部、ラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)3.0部、AAm20.0部、St300.0部、nBA640.0部、MAA30.0部、TEGdAc5.0部を混合し、単量体の乳化物を調製した。上記のフラスコに、単量体の乳化物を4時間かけて滴下した。そして、エージングを3時間行った後、適量のイオン交換水で固形分を調整し、樹脂(固形分)の含有量が30.0%である、単層の樹脂粒子P22の水分散液を得た。
(樹脂粒子P23)
以下の手順にしたがって、乳化重合法により単層の樹脂粒子P23を合成した。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、900.0部の水、ラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)3.0部、過硫酸カリウム4.0部を添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で70℃に昇温させた。水450.0部、ラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)3.0部、AAm20.0部、St130.0部、2EHA780.0部、MAA30.0部、EGdMAc2.0部を混合し、単量体の乳化物を調製した。上記のフラスコに、単量体の乳化物を4時間かけて滴下した。そして、エージングを3時間行った後、適量のイオン交換水で固形分を調整し、樹脂(固形分)の含有量が15.0%である、単層の樹脂粒子P23の水分散液を得た。
(樹脂粒子P24)
以下の手順にしたがって、乳化重合法により単層の樹脂粒子P24を合成した。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、900.0部の水、ラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)3.0部、過硫酸カリウム4.0部を添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で70℃に昇温させた。水450.0部、ラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)3.0部、AAm20.0部、St300.0部、nBA640.0部、MAA30.0部を混合し、単量体の乳化物を調製した。上記のフラスコに、単量体の乳化物を4時間かけて滴下した。そして、エージングを3時間行った後、適量のイオン交換水で固形分を調整し、樹脂(固形分)の含有量が30.0%である、単層の樹脂粒子P24の水分散液を得た。
(樹脂粒子P25)
以下の手順にしたがって、乳化重合法により単層の樹脂粒子P25を合成した。撹拌機、還流冷却装置、及び窒素ガス導入管を備えた四つ口フラスコに、130.0部の水、過硫酸カリウム(重合開始剤)2.0部を添加した後、反応系に窒素ガスを導入し、撹拌下で80℃に昇温させた。水280.0部、EMA60.0部、MMA36.0部、MAA4.0部、チオグリコール酸オクチル(連鎖移動剤)3.0部、ポリビニルアルコール(乳化剤)1.0部を混合し、単量体の乳化物を調製した。上記のフラスコに、単量体の乳化物を4時間かけて滴下した。そして、エージングを1時間行った後、適量のイオン交換水で固形分を調整し、樹脂(固形分)の含有量が15.0%である、単層の樹脂粒子P25の水分散液を得た。
<樹脂の主特性>
表3に、上記で得られた各樹脂について、単量体ユニットの組成(%)、形態、重合法、水分散液又は水溶液中の樹脂(固形分)の含有量(%)、酸価、コアシェル比、粒径を示す。
<顔料分散液の調製>
(顔料分散液K1)
顔料10.0部、樹脂水溶液A25.0部、水65.0部の混合物を調製した。顔料としては、カーボンブラック(Black Pearls 880;キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク製)を用いた。また、樹脂水溶液Aとしては、酸価130mgKOH/g、重量平均分子量8,000のスチレン−アクリル酸共重合体(水溶性樹脂)を、酸価と当量の水酸化ナトリウムで中和したものを含む、樹脂分散剤(固形分)の含有量が20.0%である水溶液を用いた。この混合物を、0.3mm径のジルコニアビーズの充填率を80.0%としたビーズミル(LMZ2;アシザワファインテック製)に入れ、回転数1,800rpmで5時間分散した。その後、回転数5,000rpmで30分間遠心分離を行うことにより凝集成分を除去し、さらに水で希釈した。このようにして、樹脂分散顔料の含有量が22.50%(顔料の含有量が15.00%、水溶性樹脂(樹脂分散剤)の含有量が7.50%)である顔料分散液K1を得た。顔料分散液K1中の樹脂分散顔料の平均粒径は90nmであった。
(顔料分散液K2)
樹脂水溶液Aを、酸価170mgKOH/g、重量平均分子量8,000のスチレン−アクリル酸共重合体(水溶性樹脂)を、酸価と当量の水酸化ナトリウムで中和したものを含む、樹脂分散剤(固形分)の含有量が20.0%である樹脂水溶液Bに代えた。これ以外は顔料分散液K1の調製と同様の手順により、樹脂分散顔料の含有量が22.50%(顔料の含有量が15.00%、水溶性樹脂(樹脂分散剤)の含有量が7.50%)である顔料分散液K2を得た。顔料分散液K2中の樹脂分散顔料の平均粒径は100nmであった。
(顔料分散液C1)
顔料を、C.I.ピグメントブルー15:3(トナーシアンBG;クラリアント製)に代えた。これ以外は顔料分散液K1の調製と同様の手順により、樹脂分散顔料の含有量が22.50%(顔料の含有量が15.00%、水溶性樹脂(樹脂分散剤)の含有量が7.50%)である顔料分散液C1を得た。顔料分散液C1中の樹脂分散顔料の平均粒径は90nmであった。
(顔料分散液C2)
樹脂水溶液Aを、顔料分散液K2の調製に用いたものと同様の樹脂水溶液Bに代えた。これ以外は顔料分散液C1の調製と同様の手順により、樹脂分散顔料の含有量が22.50%(顔料の含有量が15.00%、水溶性樹脂(樹脂分散剤)の含有量が7.50%)である顔料分散液C2を得た。顔料分散液C2中の樹脂分散顔料の平均粒径は110nmであった。
(顔料分散液M1)
顔料を、C.I.ピグメントレッド122(トナーマゼンタE02;クラリアント製)に代えた。これ以外は顔料分散液K1の調製と同様の手順により、樹脂分散顔料の含有量が22.50%(顔料の含有量が15.00%、水溶性樹脂(樹脂分散剤)の含有量が7.50%)である顔料分散液M1を得た。顔料分散液M1中の樹脂分散顔料の平均粒径は95nmであった。
(顔料分散液M2)
樹脂水溶液Aを、顔料分散液K2の調製に用いたものと同様の樹脂水溶液Bに代えた。これ以外は顔料分散液M1の調製と同様の手順により、樹脂分散顔料の含有量が22.50%(顔料の含有量が15.00%、水溶性樹脂(樹脂分散剤)の含有量が7.50%)である顔料分散液M2を得た。顔料分散液M2中の樹脂分散顔料の平均粒径は100nmであった。
(顔料分散液Y1)
顔料を、C.I.ピグメントイエロー74(ハンザイエロー5GXB;クラリアント製)に代えた。これ以外は顔料分散液K1の調製と同様の手順により、樹脂分散顔料の含有量が22.50%(顔料の含有量が15.00%、水溶性樹脂(樹脂分散剤)の含有量が7.50%)である顔料分散液Y1を得た。顔料分散液Y1中の樹脂分散顔料の平均粒径は95nmであった。
(顔料分散液Y2)
樹脂水溶液Aを、顔料分散液K2の調製に用いたものと同様の樹脂水溶液Bに代えた。これ以外は顔料分散液Y1の調製と同様の手順により、樹脂分散顔料の含有量が22.50%(顔料の含有量が15.00%、水溶性樹脂(樹脂分散剤)の含有量が7.50%)である顔料分散液Y2を得た。顔料分散液Y2中の樹脂分散顔料の平均粒径は110nmであった。
(顔料分散液K3)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で1.5gの4−アミノフタル酸を加えた。次に、この溶液の入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに、5℃の水9gに1.8gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加えた。この溶液をさらに15分間撹拌後、比表面積が220m/gで、DBP吸油量が105mL/100gのカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、さらに15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(標準用ろ紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させた。粒子を塩酸で処理した後、アンモニア水でアニオン性基を中和することにより、カーボンブラック粒子の表面に−C−(COONH基が結合している自己分散顔料を得た。これを水で希釈して、自己分散顔料の含有量が15.00%となるように分散して、顔料分散液K3を得た。顔料分散液K3中の自己分散顔料の平均粒径は80nmであった。
(顔料分散液C3)
顔料を、C.I.ピグメントブルー15:3(トナーシアンBG;クラリアント製)に代えた。これ以外は顔料分散液K3の調製と同様の手順により、自己分散顔料の含有量が15.00%である顔料分散液C3を得た。この自己分散顔料は、C.I.ピグメントブルー15:3の粒子表面に−C−(COONH基が結合しているものである。顔料分散液C3中の樹脂分散顔料の平均粒径は80nmであった。
<インクの調製>
表4〜6の上段に示す各成分(単位:%)を混合し、十分に撹拌した後、ポアサイズが1.2μmであるメンブレンフィルター(HDCIIフィルター;ポール製)にて加圧ろ過を行い、各インクを調製した。なお、表4〜6の上段における、「樹脂の番号」は、上記で合成した樹脂粒子又は水溶性樹脂の番号を示し、「樹脂含有液の使用量」は、樹脂粒子の水分散液又は水溶性樹脂の水溶液の使用量を示す。アセチレノールE100(商品名)は川研ファインケミカル製の界面活性剤であり、ポリエチレングリコールは数平均分子量1,000のものを使用した。表4〜6の下段には、インクの表面張力、自己分散型のカーボンブラックの含有量(%)、粒子(樹脂粒子、樹脂分散顔料)の種類、含有量(%)、酸価(mgKOH/g)、粒径(nm)、質量比率(粒子の含有量/自己分散顔料の含有量、倍)の値を示した。なお、インクの表面張力の測定には、表面張力計(CBVP−A3;協和界面科学製)を用いた。
<評価>
上記で得られた各インクをそれぞれインクカートリッジに充填し、表7の左側に示す組み合わせでインクセットとした。以下の評価には、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するインクジェット記録装置(PIXUS Pro9500;キヤノン製)を用いた。前記記録ヘッドは、吐出口面がフッ素含有樹脂によって撥水処理されたものである。また、このインクジェット記録装置は、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、1滴当たりの質量が3.5ng(ナノグラム)であるインクを8滴付与して記録したベタ画像を記録デューティが100%であると定義するものである。
(連続吐出による吐出よれと吐出口面の評価)
上記インクジェット記録装置のMBkインクのポジションに、インクセットを構成する第1のインクを搭載した(他のポジションは空とした)。先ず、第1のインクを用いて、光沢紙(キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド;キヤノン製)に、PIXUS Pro9500のノズルチェックパターンを記録した。次に、第1のインクを用いて、A4サイズの普通紙(GF−500;キヤノン製)に、記録デューティが50%である18cm×24cmのベタ画像を100枚分記録した。このベタ画像を記録する際には、1枚記録するごとに2回、記録ヘッドのクリーニング操作(ワイピング)が行われ、5枚記録するごとに1回、吸引回復操作が行われる。その後、光沢紙(キヤノン写真用紙・光沢 ゴールド;キヤノン製)PIXUS Pro9500のノズルチェックパターンを記録し、吐出よれの状態を確認した。この時点で吐出よれが生じていなかった場合には、100枚のベタ画像の記録とノズルチェックパターンの記録、という操作を繰り返し、合計で1万5000枚まで、ベタ画像の記録を継続した。上記操作の過程で吐出よれが生じた場合は、それまでに記録したベタ画像の枚数から、連続吐出による吐出よれの評価を行った。結果を表7に示す。本発明においては、以下の評価基準でAA、A、Bを許容できるレベル、Cを許容できないレベルとした。また、この評価とあわせて、連続吐出後の吐出口面の状態を光学顕微鏡で観察し、吐出口面の磨耗やインクの濡れの状態から、吐出よれが生じた要因を確認した。
〔連続吐出による吐出よれの評価基準〕
AA:1万5000枚の記録を行っても、吐出よれが生じなかった
A:1万2500枚〜1万5000枚の記録を行った時点で、吐出よれが生じた
B:1万枚〜1万2500枚の記録を行った時点で、吐出よれが生じた
C:1万枚以下の記録を行った時点で、吐出よれが生じた。
〔吐出口面の状態〕
なし:吐出口面の磨耗は発生せず、インクの濡れもなかった
磨耗:吐出口面の磨耗が発生していたが、インクの濡れはなかった
濡れ:吐出口面の磨耗は発生していなかったが、インクの濡れがあった。
(インク接触による吐出よれの評価)
MBkインクのポジションに、インクセットを構成する第1のインクを、また、PBkインクのポジションに、インクセットを構成する第2のインクを、それぞれ搭載した(他のポジションは空とした)。これ以外は上記と同様の手順と評価基準で、インク接触による吐出よれの評価を行った。結果を表7に示す。本発明においては、以下の評価基準でAA、A、Bを許容できるレベル、Cを許容できないレベルとした。なお、この評価では第2のインクの吐出は行っていないが、吸引回復操作によって生じる、第1のインク及び第2のインクの各インクのミストの接触に起因する吐出よれの発生を評価するものである。
〔インク接触による吐出よれの評価基準〕
AA:1万5000枚の記録を行っても、吐出よれが生じなかった
A:1万2500枚〜1万5000枚の記録を行った時点で、吐出よれが生じた
B:1万枚〜1万2500枚の記録を行った時点で、吐出よれが生じた
C:1万枚以下の記録を行った時点で、吐出よれが生じた。

Claims (6)

  1. 第1のインク、及び、第2のインクの組み合わせを有するインクジェット用のインクセットであって、
    前記第1のインクが、その表面に直接又は他の原子団を介してアニオン性基が結合しているカーボンブラックである自己分散顔料、並びに、アニオン性基を有する樹脂粒子及びアニオン性基を有する水溶性樹脂により分散されている顔料の少なくとも一方である粒子A、を含有し、
    前記第1のインク中の粒子Aの含有量(質量%)が、0.05質量%以上0.50質量%以下であり、かつ、前記第1のインク中の前記粒子Aの含有量(質量%)が、前記自己分散顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で0.056倍以上0.250倍以下であり、
    前記第2のインクが、アニオン性基を有する樹脂粒子及びアニオン性基を有する水溶性樹脂により分散されている顔料の少なくとも一方である粒子Bを含有し、
    さらに、前記粒子Aの酸価a、及び、前記粒子Bの酸価bが、a≦bの関係を満たすことを特徴とするインクセット。
  2. 前記第1のインク中の前記粒子Aが、前記アニオン性基を有する樹脂粒子を含む請求項1に記載のインクセット。
  3. 前記粒子Aの酸価a、及び、前記粒子Bの酸価bが、b−a≧20の関係を満たす請求項1又は2に記載のインクセット。
  4. 前記粒子Aが、前記粒子Bの平均粒径よりも小さいものを含む請求項1乃至3のいずれか1項に記載のインクセット。
  5. 前記第1のインクの表面張力が、第2のインクの表面張力よりも高い請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクセット
  6. インクをインクジェット方式で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法であって、
    前記インクが、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクセットを構成する各インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
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