JP2013130216A - 滑り免震機構 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】上部案内部材13と下部案内部材14とそれらの間に介装される摺動子15からなる。摺動子は上部案内部材に対して水平一方向(X−X方向)にのみ摺動可能に保持され、下部案内部材に対してはそれとは直交する水平他方向(Y−Y方向)にのみ摺動可能に保持される。摺動子と上部案内部材との摺動面は水平一方向に沿ってΛ形に緩慢に傾斜する上部傾斜面16とされ、摺動子と下部案内部材との摺動面は水平他方向に沿ってV形に緩慢に傾斜する下部傾斜面17とされている。摺動面の傾斜角θをそれらの摩擦係数μに対してtanθ=(0.1〜0.4)μの関係を満たすように設定する。摩擦係数μをμ=0.05〜0.2とし、傾斜角θをtanθ=0.01〜0.04となるように設定することが好ましい。
【選択図】図1
Description
したがって、この免震滑り支承は軸力が大きくなる大規模建物には適用し難いものであるし、いずれにしても摺動面6および支承体7を十分に頑強なものとして耐荷重性能を確保する必要があり、必然的に大形化せざるを得ないしコスト高とならざるを得ない。
上記事情に鑑み、本発明は構成が簡単でローコストに製作可能であり、しかも残留変位を十分に抑制することも可能な有効適切な滑り免震機構を提供することを目的とする。
その場合においては、前記摩擦係数μを μ=0.05〜0.2 の範囲に設定することが好ましい。あるいは、前記摩擦係数μを μ=0.05〜0.2 の範囲に設定したうえで前記傾斜角θを tanθ=0.01〜0.04 となる範囲に設定することも好ましい。
tanθ=(0.1〜0.4)μ の関係を満たすように設定することにより、摺動面を僅かに傾斜させて小さな復元力を与えることで加速度の増加を極力抑えつ残留変位を大きく減らすことが可能である。
本実施形態の滑り免震機構は、免震対象物である上部構造体11をその支持構造物である下部構造体12に対して水平各方向に滑動自在に支持するためのもので、上部構造体11の底部に固定される上部案内部材13と、下部構造体12の上部に固定される下部案内部材14と、それら上部案内部材13および下部案内部材14の間に介装される摺動子15からなり、摺動子15を上部案内部材13に対して水平一方向(図ではX−X方向として示す)にのみ摺動可能に保持するとともに、下部案内部材14に対してはその方向とは直交する水平他方向(図ではY−Y方向として示す)にのみ摺動可能に保持する構成としたことを主眼とする。
そして、上部案内部材13は溝が下向きとなる状態でX−X方向に沿う向きで上部構造体11の底部に固定されることにより、この上部案内部材13に形成されている溝の底面はX−X方向に沿ってΛ形に緩慢に傾斜する下向きの上部傾斜面16となっている。
一方、下部案内部材14は溝が上向きとなる状態でY−Y方向に沿う向きで下部構造体12の上部に固定されることにより、この下部案内部材14に形成されている溝の底面はY−Y方向に沿ってV形に緩慢に傾斜する上向きの下部傾斜面17となっている。
なお、後述するように上部傾斜面16および下部傾斜面17の傾斜角θは十分に小さいものであるが、図では傾斜角θを大きく誇張して示している。
そして、この摺動子15は上面および下面の傾斜面がそれぞれ上部傾斜面16および下部傾斜面17に密着した状態で双方の溝内に保持されて、上部案内部材13に対してはX−X方向にのみ摺動可能とされ、下部案内部材14に対してはY−Y方向にのみ摺動可能とされ、それ以外の方向への変位や摺動は拘束されるようになっている。
したがって、上部構造体11と下部構造体12との間で任意の水平方向への相対変位が生じた際には、摺動子15は上部傾斜面16に対してX−X方向に相対変位しつつ下部傾斜面17に対してY−Y方向に相対変位し、これにより上部構造体11と下部構造体12との間で生じる水平各方向(全方向)への相対変位に追随して変位し得るものとなっている。
特に、摩擦係数μは一般的な滑り支承の場合と同等のμ=0.1程度とすることが好適であり、その場合において上記のように tanθ=(0.1〜0.4)μ とする場合には tanθ=0.01〜0.04 であるから、たとえばtanθ=0.02(すなわち勾配角1/50、θ≒1.1°)程度と設定することが好適である。
このようなわずかな傾斜角θであれば、免震層の水平変位が500mmの場合であっても鉛直変位はわずか10mm程度であり、したがってこの滑り免震機構全体の上下方向の所要寸法は十分に小さくできるし、上部構造体11と下部構造体12との間に確保するべき鉛直方向の免震クリアランスも些少で済む。
(1) 図3に模式的に示すように、上部構造体11の自重(すなわち滑り免震機構に作用する鉛直方向の軸力)をWとし、上部案内部材13が下部案内部材14に対して水平方向に変位した際の復元力をFとすると、復元力Fは F=Wtanθ であるから、上記のように tanθ=(0.1〜0.4)μ とした場合には F=Wtanθ=(0.1〜0.4)μW であり、さらに摩擦係数μ=0.1とした場合には F=(0.01〜0.04)W となる。
この場合、tanθ≧μ に設定すると残留変位を完全に除去できる完全復元力が得られる(図4に示す復元ばねKを設置するモデルにおいては、定荷重ばねにより復元力Fを F≧μW とすることと等価である)が、上記のように tanθ=(0.1〜0.4)μ として復元力Fを F=(0.1〜0.4)μW とすることによっても、つまり復元力Fを完全復元力F=μWの10〜40%程度に抑制していわば不完全復元とすることによっても、実質的に残留変位をほぼゼロとすることができるし、復元ばねKによって完全復元力を得る場合のように加速度が大きく増加してしまって本来の免震機構が損なわれることもない(このことについては後述する)。
たとえば、基準面圧20MPa(20N/mm2)とすると、摺動子15の平面形状が800mm×800mmの正方形の場合、水平変位時の接触面積は0.32m2であり、自重(長期軸力)はW=6.4MN=640tonfとなり、従来一般の免震滑り支承と同様に大きな耐荷重が容易に得られる。
また、摺動面はわずかに傾斜する単なる平滑な平坦面として形成すれば良いので、図14に示した滑り振り子型免震機構や図15に示した免震滑り支承のように摺動面を高精度の球面や円錐面とする場合に比べれば遙かに簡略に製作できるし、十分にコストダウンを図ることができる。
F0=μW+F=(1.1〜1.4)μW=(0.11〜0.14)W
したがって、免震構造物に生じる応答加速度は110〜140galで頭打ちされることになる。一方、積層ゴムやダンパーからなる従来一般的な免震構造では、加速度の頭打ちができず、過大な入力時での加速度は本実施形態の滑り免震機構による場合の方が小さくできる。また、図14に示した従来の滑り振り子型免震機構(FPS)や積層ゴムを免震支承に使用した場合には、免震層の固有周期が存在してその周期で加振入力された場合には共振により応答が大きくなる特性があるが、本実施形態の滑り免震機構では固有周期が存在しないので共振することがない。
本解析では、便宜的に、本発明の滑り免震機構と構造的に等価であるモデルとして、図4に示したように復元ばねKにより復元力を得る構成の滑り免震機構を解析モデル(1質点系モデル)とする。
解析条件は、免震対象物の質量をm1=1000ton、自重をW=m1g(gは重力加速度)、復元ばねKとして定荷重ばね(ばね剛性kc)を用い、減衰要素C(減衰定数c1:周期4秒で0.1%の減衰を付与する程度)で支持し、摩擦力f1が質量m1の動きと逆向きに作用すると仮定する。
解析ケースは、
・case1:復元力F=0(復元なし:本発明においてtanθ=0の場合と等価)
・case2:復元力F=1μW(完全復元:本発明においてtanθ=μの場合と等価)
・case3:復元力F=0.1μW(不完全復元:本発明においてtanθ=0.1μの場合と等価)
の3ケースとする。
・BCJ Level2(レベル2)
・El Centro 50cm/s(レベル2)
・Taft 50cm/s(レベル2)
・Hachinohe 50cm/s(レベル2)
・JMA Kobe (原波)
の5波とした。
また、加速度については、case1の場合の102.05cm/s2に比較してcase2では198.38cm/s2と約2倍にもなるのに対し、case3では110.35cm/s2とcase1に比較して僅か1.1倍程度に増大するに留まることがわかる。
したがって、tanθ=0.1μとしたcase3において摩擦係数μをたとえばμ=0.1とする場合には、tanθ=0.01(勾配角1/100、θ≒0.57°)のわずかな傾斜を付与することで、復元ばねを設けることなく優れた復元特性が得られるし、しかも加速度が大きく増大することもない。
図8の各図において横軸は復元力比(F/μW=tanθ/μ)であり、この復元力比が0の場合がcase1に該当し、復元力比が1の場合がcase2に該当し、復元力比が0.1の場合がcase3に該当する。
各図において左上段は残留変位(絶対値)を示し、左下段は残留変位低減率(復元力がある場合の残留変位を復元力がない場合の残留変位からの低減率で規準化した値)を示す。また、右上段は加速度(絶対値)を示し、右下段は加速度増加率(復元力がない場合の加速度に対する復元力がある場合の加速度の倍率)を示す。
図9は各地震波についての応答変位を示すもので、case3(F=0.1μW、tanθ=0.1μ)の結果を実線で示し、case1(F=0、tanθ=0)の結果を破線および括弧内の値で示している。なお、case2(F=1μW、tanθ=μ)については全ての地震波について残留変位がゼロになることが確認されている。
また、図10〜図13は、各地震波についての復元力F(傾斜角θ)の大きさと残留変位および加速度の低減効果との関係を示している。
これらの結果から、各地震波についてもBCJ Level2の場合とほぼ同様の結果が得られることが分かる。但し、地震波がHachinoheの場合については、復元力F=0.1μWでは残留変位が1.2cmであってcase1の場合の1.9cmに対してあまり低減効果が得られていないが、復元力F=0.2μWとすると残留変位は0.2cmと大幅に改善されることが確認されている。
復元力比F/μW=tanθ/μを0.1〜0.4の範囲となるように傾斜角θを設定して復元力Fを滑り出し荷重F=μWの0.1〜0.4倍程度与えることにより、復元力Fを与えない場合(傾斜角のない場合)と比べ残留変位は10%以下と大幅に低減できる。
しかも、その時の加速度の増加分は規準化した値である復元力比F/μW=tanθ/μに比例しており、その復元力比F/μW=tanθ/μ=0.2であれば、復元力Fを与えない場合(傾斜角のない場合)と比べ加速度は20%の増加にとどまる。
以上から、残留変位低減率は復元力比に比例するものではなく、復元力比の小さな領域から大きな低減率を発揮でき、復元力がF=(0.1〜0.4)μW程度となるように、すなわちtanθ=(0.1〜0.4)μ程度に設定することにより、十分な残留変位の低減が可能である。
しかも、加速度については、完全復元力を与えた場合(tanθ=μとしてF=μWとした場合)は、復元力を与えない場合(tanθ=0としてF=0とした場合)の2倍にもなるが、上記のようにtanθ=(0.1〜0.4)μとしてF=(0.1〜0.4)μWと抑制した場合には、加速度はわずか1.1〜1.4倍程度に増加するに留まる。
つまり、本発明の滑り免震機構では、摺動面を僅かに傾斜させて小さな復元力を与えることで、加速度の増加を極力抑えつ残留変位を大きく減らすことができるという優れた免震性能が得られるものである。
以上のことから、本発明においては復元力比tanθ/μを0.1〜0.4の範囲とする、すなわち tanθ=(0.1〜0.4)μ の範囲に設定すべきであり、それが最も合理的であり有効である。
一方、摩擦係数μとしては滑り支承として一般的な値であるμ=0.05〜0.2の範囲とすることが好適であり、特にμ=0.1とすることが最適であるので、それらの条件を考慮してtanθ=0.01〜0.04の範囲、つまり勾配角1/100〜1/25、θ≒0.57°〜2.3°とすることが好適である。
12 下部構造体
13 上部案内部材
14 下部案内部材
15 摺動子
16 上部傾斜面(摺動面)
17 下部傾斜面(摺動面)
Claims (4)
- 免震対象の上部構造体を下部構造体に対して水平各方向に滑動自在に支持するための滑り免震機構であって、
前記上部構造体の底部に固定される上部案内部材と、前記下部構造体の上部に固定される下部案内部材と、前記上部案内部材および前記下部案内部材の間に介装される摺動子からなり、
前記摺動子は、前記上部案内部材に対して水平一方向にのみ摺動可能に保持されているとともに前記下部案内部材に対して前記水平一方向と直交する水平他方向にのみ摺動可能に保持され、
かつ、前記摺動子と前記上部案内部材との摺動面は前記水平一方向に沿ってΛ形に緩慢に傾斜する上部傾斜面とされているとともに、前記摺動子と前記下部案内部材との摺動面は前記水平他方向に沿ってV形に緩慢に傾斜する下部傾斜面とされていることを特徴とする滑り免震機構。 - 請求項1記載の滑り免震機構であって、
前記摺動面の水平面に対する傾斜角θが、該摺動面の摩擦係数μに対して
tanθ=(0.1〜0.4)μ の関係を満たすように設定されていることを特徴とする滑り免震機構。 - 請求項2記載の滑り免震機構であって、
前記摩擦係数μが μ=0.05〜0.2 の範囲に設定されていることを特徴とする滑り免震機構。 - 請求項2記載の滑り免震機構であって、
前記摩擦係数μが μ=0.05〜0.2 の範囲に設定され、
かつ、前記傾斜角θが tanθ=0.01〜0.04 となる範囲に設定されていることを特徴とする滑り免震機構。
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