JP2017071909A - 多層免震構造物 - Google Patents

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【課題】超高層建物に地震が発生したとき、効果的に応答加速度の低減を図ることのできる多層免震構造物を提供する。【解決手段】多層階に形成される建物Bに用いられる多層免震構造物であって、建物Bの下部の基礎側に設けられる下部免震層20と、建物Bの多層階を所定階数で区分されて形成された基礎側の下部構造部10、及びその下部構造部10の上側に形成された上部構造部11の間に設けられる上部免震層30と、を備え、上部免震層30は、傾斜滑り装置と慣性質量ダンパ等の減衰装置とからなることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、ビルのような多層階の建物に用いられる多層免震構造物に関する。
従来から、建物には免震装置を組み込んだものが存在している。この免震装置を組み込んだ建物は、地震によって建物に伝達される振動力を低減することができる。すなわち、免震装置は、地震時の建物の応答加速度を大きく低減できることから、被災直後も建物の機能を維持することができ、事業等を継続できる特徴を有している。このように免震装置を組み込んだ建物は、耐地震性に優れているので、災害時の拠点としての働きを要求される建物に多く採用されている。
また、建物の高層化に伴い、免震架構の高層建物も提案されている。特許文献1には、建物がビルのような場合の多層免震構造物が開示されている。
特許文献1には、建物を層方向に分断して複数の単位構造物を形成し、形成された単位構造物と単位構造物の間に積層ゴムなどの免震装置を介在させた多層階の建物について記載されている。また、特許文献2にも、特許文献1と同様の多層免震構造物が開示されている。
さらに、特許文献3には、免震装置として利用される傾斜滑り免震機構が開示されている。この特許文献3に開示されている免震機構は、低コストで製造することができ、滑り機構によりある耐力以上は荷重を負担しないことから、応答加速度を抑える効果を持つとともに、滑り面の傾斜角により装置自体に復元機能をもたせていることを特長としている。
特開平7−139218号公報 特開2013−234425号公報 特開2013−130216号公報
しかしながら、従来の免震装置を有する建物では、以下のような問題があった。
すなわち、上記特許文献1及び特許文献2では、多層階を層方向に複数の単位構造物に区分し、その区分された上下間に免震装置を介在させるようにしているので、多くの免震装置を必要となっていた。そのため、コストが増大するとともに、免震装置が増加する分だけ保守点検作業が増えて手間がかかるという欠点があった。
また、一般的な制振構造建物の性能目標は、レベル2地震動に対して層間変形角が1/100以下、応答加速度はおおよそ200Gal以下である。超高層や免震等の長周期建物を対象として建物周期が3〜6秒とした場合、加速度200Galでは震度は5強と行動に支障を感じるレベルの揺れとなるが、加速度が50〜100Galの場合は震度4程度であり行動への支障は少ない。このため、大地震があっても在館者の行動に支障をきたさないレベルまで建物の揺れ、主に「加速度」を抑えることを性能目標とした多層免震構造物が求められていた。
しかも、現状の地震についての建物の設計基準値では、部材レベルでの損傷防止の観点から設定されており、揺れによる室内の被害までを考慮したものではないので、室内被害を未然に防止できる多層免震構造物が望まれていた。さらに、近年では、防災・減災意識が高まっており、建物の規模や機能、地震時の在館者の行動への影響、被災後の機能維持レベルなど、より細かな視点に基づいた設計基準値の設定とそれに応じた構造システムが求められている。
すなわち、長周期長時間地震動に対する超高層建物の応答について、建物の機能を維持しつつ、室内の被害を減少でき、さらに在館者に恐怖心を与えない程度に揺れを減少させることのできることが求められており、その点で改善の余地があった。
そこで、本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、超高層建物に地震が発生したときに、効果的に応答加速度の低減を図ることができる多層免震構造物を提供することを目的としている。
上記目的を達成するため、本発明に係る多層免震構造物は、多層階に形成される建物に用いられる多層免震構造物であって、前記建物の下部の基礎側に設けられる下部免震層と、前記建物の多層階を所定階数で区分されて形成された前記基礎側の下部構造部、及び該下部構造部の上側に形成された上部構造部の間に設けられる上部免震層と、を備え、前記上部免震層は、傾斜滑り装置と減衰装置とからなることを特徴としている。
本発明では、下部構造部及び上部構造部の間に設けられる上部免震層が傾斜滑り装置と減衰装置とで構成されるから、地震時の加速度を低減でき、高耐震性建物を実現することができる。
また、本発明では、下部構造部及び上部構造部の間に設けられる上部免震層によって免震機構が多層免震化される簡単な構造となることから、複数の単位構造物に区分した上下間に免震装置を介在させる場合に比べて、使用する免震装置を減らすことが可能となるので、メンテナンスにかかる手間や時間を低減させることができる。
したがって、本発明では、長周期長時間地震動に対する超高層建物の応答について、建物の機能を維持しつつ、室内の被害を減少でき、さらに在館者に恐怖心を与えない程度に揺れを減少させることができる。
また、本発明に係る多層免震構造物は、前記減衰装置は、慣性質量ダンパおよびオイルダンパの少なくとも一方からなることが好ましい。
本発明では、減衰装置が慣性質量ダンパ又はオイルダンパで構成することができるから、容易に実施することができる。
そして、本発明に係る多層免震構造物は、前記下部免震層は、積層ゴムからなる免震支承で構成されることを特徴としている。
この場合には、下部免震層が積層ゴム型免震支承(LRBやNRB,HDRなど)で構成されるから、容易に実施することができる。
本発明に係る多層免震構造物によれば、多層免震構造物が建物の下部の基礎側に設けられる下部免震層と、その建物の下部構造部及び上部構造部間に設けられる上部免震層とで構成されるとともに、その上部免震層が傾斜滑り装置と減衰装置とで構成されているから、地震時の応答加速度を効果的に低減でき、高耐震性建物を実現することができる。
本発明の一実施の形態による多層免震構造物を適用した建物の概略構成図である。 多質点の解析モデルを示す図である。 入力地震動の加速度波形図である。 (a)は告示波の入力の場合で、22F以上を上部構造部とする場合の最大応答加速度を示す図、(b)は22F以上を上部構造部とする場合の最大応答変位を示す図である。
以下、本発明による多層免震構造物の一実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る多層免震構造物を適用した建物Bの概略構成図である。この建物Bは、いわゆる超高層建物からなり、ここでは29階建てとして示されている。なお、説明及び図面では、「階」は「F」として示されている。
建物Bは、図示しない地中に打ち込まれた複数の杭の上端部に設けられている基礎コンクリート1及びその基礎コンクリート1上に打設されている捨コンクリート基礎層2上に設けられている。そして、この建物Bは、基礎コンクリート1側の所定階数分が下部構造部10とされ、その下部構造部10の上側の所定階数分が上部構造部11とされている。
基礎コンクリート1上の捨コンクリート基礎層2と上部構造部10との間には、下部免震層20が介在されている。この下部免震層20は、LRB(鉛プラグ入り積層ゴム支承)(LRBやNRB,HDRなど)からなる免震装置で構成されている。
下部構造部10と上部構造部11との間には、上部免震層30が介在されている。上部免震層30は、後述する図2に示されるように、傾斜滑り装置31及び減衰装置32で構成されている。そして、この減衰装置32は、慣性質量ダンパ32a及びオイルダンパ33bで構成されている。
傾斜滑り装置31は、免震対象の上部構造部11を下部構造部10に対して水平各方向に滑動自在に支持するための滑り免震機構である。例えば、傾斜滑り装置31として、とくに詳しく図示はしないが、上部構造部11の底部に固定される上部案内部材と、下部構造部10の上部に固定される下部案内部材と、上部案内部材および下部案内部材の間に介装される摺動子からなり、摺動子は、上部案内部材に対して水平一方向にのみ摺動可能に保持されているとともに下部案内部材に対して水平一方向と直交する水平他方向にのみ摺動可能に保持され、 かつ摺動子と上部案内部材との摺動面は水平一方向に沿ってΛ形に緩慢に傾斜する上部傾斜面とされているとともに、摺動子と下部案内部材との摺動面は水平他方向に沿ってV形に緩慢に傾斜する下部傾斜面とされた構成のものを適用することができる。
傾斜滑り装置31は、製造コストを低減することができ、滑り機構によりある耐力以上は荷重を負担しないことから、応答加速度を抑える効果を持つとともに、滑り面の傾斜角により装置自体に復元機能を有している。
減衰装置32の一部をなす慣性質量ダンパ32aは、回転錘、ボールネジ及びボールナットを含んで構成されるダイナミックスクリュー(登録商標)と称される周知の慣性質量ダンパで構成され、また、オイルダンパ32bは、オイルの粘性を利用した周知のオイルダンパで構成されている。
以上のように、建物Bは、下部を下部免震層20で支える下部構造部10とし、その下部構造部10の上側は上部免震層30を介在させて大容量、大質量の上部構造部11としている。これにより、地震による建物Bの応答加速度を効果的に低減することが可能となる。
そして、この効果を得るために下部免震層20及び上部免震層30に関しては、以下の(1)〜(3)の事項が考慮される。
(1)建物Bの上部を層方向に分断して上部構造部11とし、傾斜滑り装置31を用いると上部構造部11のせん断力が下部構造部10へ伝わらなくなり、振動モードを形成する質量が減る(下部構造部10のみとなる)ため下部の建物周期が短周期化する。そこで、下部免震層20の周期を元の周期より長周期化することで、さらに下部層の全層の加速度応答が低減可能となる。なお、長周期化の目安として、下部構造部10が5sec以上となるようにする。後述する解析モデルでは、通常免震周期が5secであり、滑りを併用すると下部免震周期が4.2secとなる。それを6.0secまで長周期化させている。
(2)傾斜滑り装置31の摩擦係数μは、概算で0.01〜0.1程度とし、傾斜角は1/100〜1/30程度とする。
(3)慣性質量ダンパ32aの建物Bの重量に対する質量比は0.05〜1.0程度とする。
以下、地震による建物Bの応答加速度の低減が図れることの効果検証について、図2〜図4を用いて説明する。この効果検証は、多質点モデルによる時刻歴応答解析により実施されている。
図2は、効果検証のための解析モデルであって、29Fの建物Bに対応させて29質点の多質点モデルとして示されている。ここにおける基本建物モデルは、建物BはRC造りの超高層免震モデル、29質点曲げせん断モデル、せん断は武田モデルで曲げは線形、基礎固定時固有周期は1次が2.63sec、2次が0.82sec、下部免震層20はLRB(100%等価周期3.75sec、降伏後の周期は0.5sec)である。
解析で用いる入力地震動は、図3に示される告示波Lv2である。図3において横軸は時間(sec)を示し、縦軸は加速度(単位:cm/s)を示している。
解析モデルにおける下部免震層20及び上部免震層30の条件は、以下の(a)〜(d)の通りであり、これらは、後述の図4(a),(b)中の※1〜※4にそれぞれ対応している。また、解析モデル(a)〜(c)は、本発明の実施例に相当し、(d)は比較例に相当している。
解析モデル(a)は、傾斜滑り装置とオイルダンパ(長周期)とを組み合わせたモデル(図4の※1参照)であり、基本建物モデルの21Fと22Fの間に傾斜滑り装置とオイルダンパを挿入している。傾斜滑り装置は、摩擦係数μを0.01とし、傾斜角を0.5ラジアンとし、オイルダンパの減衰係数を10tf/(cm/s)としている。そして、下部免震層の周期を長周期化させて解析を行った。このときの100%等価周期は4.37secであり、降伏後の周期が7.0sec(下部構造部の質量で計算すると6sec)である。
解析モデル(b)は、傾斜滑り装置と慣性質量ダンパ(長周期)とを組み合わせたモデル(図4の※2参照)であり、基本建物モデルの21Fと22Fの間に傾斜滑りと慣性質量ダンパを挿入している。傾斜滑り装置は、摩擦係数μを0.01とし、傾斜角を0.5ラジアンとし、慣性質量ダンパの質量比を0.20としている。そして、下部免震層の周期を長周期化させて解析を行った。このときの100%等価周期は4.37secであり、降伏後の周期が7.0sec(下部構造部の質量で計算すると6sec)である。
解析モデル(c)は、傾斜滑り装置とオイルダンパ(基本)とを組み合わせたモデル(図4の※3参照)であり、基本建物モデルの21Fと22Fの間に傾斜滑り装置とオイルダンパを挿入している。傾斜滑り装置は、摩擦係数μを0.01とし、傾斜角を0.5ラジアンとし、オイルダンパの減衰係数を10tf/(cm/s)としている。そして、下部の免震層周期を基本モデルのままとして解析を行った。このときの100%等価周期は3.75secであり、降伏後の周期が5.0sec(下部構造部の質量で計算すると4.2sec)である。
解析モデル(d)は、2段免震モデル(図4の※4参照)であり、基本モデルの21Fと22Fの間に上部の免震周期が3秒になるように調整したNRBとh=20%となるオイルダンパを挿入している。下部免震層の免震周期は、変更しないで解析を行った。このときのNRBは周期3秒であり、オイルダンパの減衰係数が9.87tf/(cm/s)である。
次に、入力地震動による解析結果について図4を用いて説明する。
図4は告示波Lv2入力の場合で、図4(a)は22F以上を上部構造部11とする場合の最大応答加速度、図4(b)は22F以上を上部構造部11とする場合の最大応答変位を示している。
先ず、単純に基本建物モデルを2層免震に分割した2段免震モデル(上述した解析モデル(d))の応答は、分割した上部の加速度は基本建物モデル(図4の※5参照)より低減しているものの、目標の50Galまでは低減しておらず、上部免震層30を挿入した直下階の応答が基本建物モデルよりも大きく応答していることが分かる。
上部免震層30に傾斜滑り装置31とオイルダンパ32bを挿入したモデル(上述した解析モデル(c))の応答は、上層部の加速度が50Galまで低減できており、直下階の加速度も2段免震モデル(上述した解析モデル(d))より抑えることができている。
下部免震層20の免震周期を長周期化させたモデル(上述した解析モデル(a))では、さらに全層の加速度を低減できていることが分かる。
また、慣性質量ダンパ32aを適用したモデル(上述した解析モデル(b))の場合も、加速度に関しては同様に低減できてはいるが、変位が大幅に大きくなっていることが分かる。
本実施の形態の建物Bでは、上部免震層30に傾斜滑り装置31とオイルダンパ32bを挿入することに加え、下部免震層20の周期を伸長することで、上部免震層30より上層部の応答加速度を50Gal程度とすることができ、下階の応答加速度を抑えることができる。下部免震層20の周期を伸長する理由としては、上部構造部11を層方向に分断し、傾斜滑り装置31を用いると上部構造部11のせん断力が下部構造部10へ伝わらなくなり、振動モードを形成する質量が減る(下部構造部10のみとなる)ことから、下部の建物周期が短周期化してしまうためである。そこで、下部免震層20の免震ゴムの剛性を柔らかくし、周期を元の周期より長周期化することで、さらに下部層の全層の加速度応答が低減可能となる。長周期化の目安としては、下部構造部10が5秒以上となるようにする。
上部免震層30の相関変位に関しては、オイルダンパ32bの減衰係数をより大きくすることで、さらに変位を低減できると推察される。傾斜滑り装置31を挿入した直下階の加速度は、基本建物モデルの応答よりも25Gal程度大きくなるが、ほぼ全層において基本モデルの免震より加速度応答を抑えることができる。
上述の解析結果から、上部免震層30が傾斜滑り装置31と慣性質量ダンパ32aとからなる場合、あるいは上部免震層30が傾斜滑り装置31とオイルダンパ32bとからなる場合、すなわち上記解析モデル(a)〜(c)の場合は、地震時の加速度を効果的に低減することができ、高耐震性建物を実現することができる。
なお、上記解析では、図2に示されるような上部免震層30が傾斜滑り装置31と慣性質量ダンパ32a及びオイルダンパ32bとからなるモデルについては解析されていないが、このモデルについても上述した解析モデル(a)〜(c)と同様の効果が得られることは容易に想定することができる。
また、本実施の形態では、下部構造部10及び上部構造部11の間に設けられる上部免震層によって免震機構が多層免震化される簡単な構造となることから、複数の単位構造物に区分した上下間に免震装置を介在させる場合に比べて、使用する免震装置を減らすことが可能となるので、メンテナンスにかかる手間や時間を低減させることができる。
したがって、本実施の形態では、長周期長時間地震動に対する超高層建物の応答について、建物の機能を維持しつつ、室内の被害を減少でき、さらに在館者に恐怖心を与えない程度に揺れを減少させることができる。
このように本実施の形態の多層免震構造物によれば、超高層建物に地震が発生したときに、効果的に応答加速度の低減を図ることができる。
以上、本発明による多層免震構造物の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
B 建物(多層免震構造物)
1 基礎コンクリート
2 捨コンクリート基礎層
10 下部構造部
11 上部構造部
20 下部免震層
30 上部免震層
31 傾斜滑り装置
32 減衰装置
32a 慣性質量ダンパ
32b オイルダンパ

Claims (3)

  1. 多層階に形成される建物に用いられる多層免震構造物であって、
    前記建物の下部の基礎側に設けられる下部免震層と、
    前記建物の多層階を所定階数で区分されて形成された前記基礎側の下部構造部、及び該下部構造部の上側に形成された上部構造部の間に設けられる上部免震層と、を備え、
    前記上部免震層は、傾斜滑り装置と減衰装置とからなることを特徴とする多層免震構造物。
  2. 前記減衰装置は、慣性質量ダンパおよびオイルダンパの少なくとも一方からなることを特徴とする請求項1に記載の多層免震構造物。
  3. 前記下部免震層は、積層ゴムからなる免震支承で構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の多層免震構造物。
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