本発明は、電子部品の高周波特性誤差補正方法に関し、詳しくは、2端子インピーダンス部品の高周波特性の測定において測定系の誤差を補正する方法に関する。
従来、電子部品の量産工程において、自動特性選別機を用いて電子部品の電気特性が測定されている。自動特性選別機での測定系は、基準となる測定系と回路特性が異なるため、自動特性選別機による測定値を補正して、基準となる測定系での測定値を推定することにより、歩留まりの向上を図ることができる。このような補正を行う方法として、SOLT、TRL校正及びRRRR/TRRR校正と呼ばれる技術が知られている。
まず、TRL/SOLT校正について、説明する。
被検体である表面実装部品の散乱係数行列の真値を測定するために使用できる従来技術としては、TRL校正が最も有効な技術である。また、広く使用されている従来技術としてSOLT校正がある。これらについて簡単に説明する。
被検体の真値を得るためには、測定系の誤差要因を同定して、測定結果から誤差要因の影響を取り除かなければならない。図1に、代表的な誤差除去方法(校正方法)で使用される誤差モデルを示す。
すなわち、図1(a)に示すように、被検体である電子部品2は、測定治具10の上面に形成された伝送路上に接続される。測定治具10の伝送路の両端に設けられたコネクタ11a,11bには、同軸ケーブル50,60の一端に設けられたコネクタ51,61が接続され、同軸ケーブル50,60の他端は不図示のネットワークアナライザの測定ポートに接続される。矢印51s,61sは校正面を示す。
図1(b)はTRL補正の誤差モデルであり、散乱係数S11A,S12A,S21A,S22Aで表される測定治具の回路12と、端子対a1−b1、a2−b2との間に、散乱係数e00,e01,e10,e11で表される一方の測定ポート側の回路52と、散乱係数f00,f01,f10,f11で表される他方の測定ポート側の回路62とが接続されている。
図1(c)はSOLT補正の誤差であり、散乱係数S11A,S12A,S21A,S22Aで表される測定治具の回路14の両側に、散乱係数EDF,ERF,1,ESFで表される一方の測定ポート側の回路54と、散乱係数ELF,ETFで表される他方の測定ポート側の回路64とが接続されている。
SOLT校正の場合、誤差要因を同定するためには、被検体測定面に少なくとも3種類の散乱係数が既知のデバイスを取り付けて測定を行わなければならず、図2に示すように、伝統的に開放(OPEN)、短絡(SHORT)、終端(LOAD=50Ω)の標準器80,81,82が使用されることが多いが、同軸環境以外では、良好な「開放」「終端」の標準器の実現は極めて困難であり、治具10の先端(矢印51s,61sで示す校正面)で校正できない。同軸環境であれば、このような標準器はスライディングロード等の手法で実現できるため、この方法は広く使用されており、SOLT校正と呼ばれる。
TRL校正とは、実現の難しいデバイス形状の標準器に代えて、ポート間直結状態(Through)と全反射(Reflection、通常は短絡)及び長さが異なる数種類の伝送路(Line)を標準器として使用するものである。標準器の伝送路は、比較的散乱係数が既知のものを製作しやすく、また、全反射も短絡であれば比較的簡単にその特性を予想できることから、特に導波管環境では最も精度の高い校正方法として知られている。
図3にTRL校正の誤差要因導出方法を示す。図中、伝送路には斜線を付している。校正面は、矢印2s,2tで示すように、デバイスとの接続部である。誤差要因を同定するためには、ポート間直結状態(Through)の基板86と全反射(Reflection、通常は短絡)の基板83及び長さが異なる数種類の伝送路(Line)の基板84,85を、標準器として使用する。この例では、ThroughはいわゆるZero-Throughである。被検体の測定時には、被検体の大きさだけ長さを長くした測定基板87に被検体2をシリーズ接続して測定する。
TRL,SOLT校正の概要は、先に述べたとおりであるが、これらの技術には、以下の2つの問題がある。
(1)標準器である伝送路等(Line数種類とReflection)とThroughにおいて、同軸-平面伝送路の接続部に生じる誤差要因が全て等しくなければ校正誤差を生じる。たとえ各標準器で同じ種類のコネクタを使用しても、おのおのが異なる場合には特にコネクタの特性バラツキの影響が非常に大きくなり、ミリ波帯に近づくと事実上実施不可能である。
(2)上記課題を解決するため、市販治具では、同軸コネクタを共通として標準器伝送路と接触接続することでコネクタ測定のバラツキの影響を回避しようという工夫もされているが、同軸ピンが破損するため接触部に十分な押しつけ荷重を確保することが構造上難しく、接触が安定しないために校正が不安定になることが多い。また、測定周波数が高くなると一般に伝送路も同軸ピンも細くなるので、これらの位置決め再現性による測定バラツキが大きくなってしまう。
これらの問題を解決するため、いわゆるRRRR/TRRR校正法が提案されている。
次に、RRRR/TRRR校正法の概要を説明する。
これらは、ただ1つの伝送路上の所定の数ヵ所にて信号導体と接地導体を短絡することにより、伝送路先端までの測定系の誤差を同定し、表面実装部品の高周波電気特性を高精度に測定できることが特徴である。TRL/SOLT校正法で問題となっていた伝送路特性のバラツキや、伝送路と同軸コネクタの接点状態のバラツキと無関係であることが利点となる。
誤差モデルは、図4及び図5に示すとおり、SOLT/TRL校正と同様である。すなわち、図4はTRRR校正の誤差モデルであり、図1(c)に示したSOLT校正の誤差モデルと同じである。図5はRRRR校正の誤差モデルであり、図1(b)に示したTRL校正の誤差モデルと同じである。
RRRR/TRRR校正法のポイントは、校正に用いる「標準測定値」の測定方法であり、SOLTでは標準デバイス、TRLでは標準伝送路の測定値を「標準測定値」としているが、RRRR/TRRR校正法では、図6に示すように、測定基板10a上で短絡基準の位置を変えて測定した測定値を「標準測定値」としている。コネクタの影響が生じないので、卓上測定においては、SOLT校正やTRL校正より高精度で有効な方法であるといえる。
しかし、TRRR/RRRR校正では、治具伝送路10s,10tに短絡基準(ショートチップ2s)を接続する位置の違いによって生じる反射係数の変化を校正基準として使用するので、測定する信号の波長が長い場合(周波数が低い)場合、短絡基準の接続位置を大きく変える必要があり、図中のT
1,T
2を長くする必要があるために、測定基板10aの長さ(矢印Lで示す方向の寸法)を長くする必要がある。また、量産工程で用いる自動特性選別機では、構造、寸法に制約があるので、治具10aに補正のためのGND端子を設けることや、ショートチップ2sを精度良く位置決めできる構造にすることが難しい(例えば、特許文献1、2参照)。
WO2005/101033号公報
WO2005/101034号公報
Application Note 1287-9: In-Fixture Measurements Using Vector Network Analyzers,((C)1999 Hewlett-Packard Company)
電子部品の量産工程において用いられている自動特性選別機では、例えば図9の要部構成図に示したように、測定端子部30から突出する測定ピン32a,32bに、被検体である電子部品2の電極2a,2bが押し当てられて測定ピン32a,32bの間に直列に接続され、測定ピン32a,32bは、同軸ケーブル34,36を介して、不図示の測定機に接続されている。測定端子部30の周囲に、電子部品2を接続できる程度の狭い空間しか確保できない場合、測定端子部30に実質的に量産デバイス自体又は量産デバイスと略同じ寸法・形状の試料しか接続できないという制約のもとで、測定系の誤差補正を行わざるを得ない。このような場合には、次の課題を生じる。
(1)長さの異なる伝送路を自動特性選別機の測定端子部に接続することは、そもそも不可能であり、TRL校正が適用できない。
(2)SOLT校正は、現実的には測定端子部先端での校正ができず、同軸、導波管系にしか適用できないという制約がある。通常は、同軸コネクタ部まではSOLT校正により校正し、それ以後の伝送路は誤差が生じないように設計することで十分な測定精度を得ている。ところが、自動特性選別機の測定端子部では、同軸コネクタ以後の伝送路に形状、寸法制約があるので、同軸コネクタ部までの校正だけでは、十分な精度が得られないことが多い。
(3)SOLT校正で何らかの工夫を行って測定端子部の先端で標準デバイスを測定しようとしても、次の問題が生じる。
i)SOLT校正では各ポートでの1ポートデバイスの測定が必要である。すなわち、図7の測定基板10bの平面図に示すように1本の信号線10xのスリット10kの間に2端子電子部品をシリーズ接続で測定する場合、測定に不要であるので端子部に接地端子はない。しかし、SOLT校正では接地導体がなければ1ポートデバイスは測定できないため、SOLT校正を適用するには、校正のためだけに接地端子を設ける必要がある。
ii)SOLT校正では、2つのポートそれぞれで、値が既知の3種類の1ポートデバイスの測定が必要であるが、図8の測定基板10cの平面図に示すように信号導体10pと接地導体10gとの間にデバイスの2つの端子が接続されるために、各ポートが独立した1ポートデバイスの測定が不可能である。
(4)2端子電子部品をシリーズ接続で測定する場合、測定に不要であるので端子部に接地端子はない。しかし、RRRR校正ではショートでの測定が必要であるため、RRRR校正を適用するには、校正のためだけに接地端子を設ける必要がある。
(5)RRRR校正では基板の数箇所でショートを行い測定するが、周波数が低い場合、短絡基準の接続位置を大きく変える必要があり、そのために測定基板の長さを長くする必要がある。
本発明は、かかる実情に鑑み、2端子インピーダンス部品について、補正の対象となる測定系が実測時と同じ状態のままで校正作業を行うことができる、電子部品の高周波特性誤差補正方法を提供しようとするものである。
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成した電子部品の高周波特性誤差補正方法を提供する。
電子部品の高周波特性誤差補正方法は、2端子インピーダンス部品である電子部品を実測測定系で測定した結果から、当該電子部品を基準測定系で測定したならば得られるであろう当該電子部品の高周波特性の推定値を算出する方法である。電子部品の高周波特性誤差補正方法は、(1)前記基準測定系で値付けされている、高周波特性の異なる少なくとも3つの第1の補正データ取得用試料を用意する第1のステップと、(2)少なくとも3つの前記第1の補正データ取得用試料、又は前記第1の補正データ取得用試料と同等の高周波特性を有すると見なせる少なくとも3つの第2の補正データ取得用試料を、前記実測測定系で測定する第2のステップと、(3)前記第1のステップで用意された前記第1の補正データ取得用試料の前記基準測定系での値付けデータと前記第2のステップにおいて前記実測測定系で測定された前記第1の補正データ取得用試料又は前記第2の補正データ取得用試料の測定データとから、前記実測測定系で測定した測定値と前記基準測定系で測定した測定値とを、伝送路の誤差補正係数を用いて関連付ける数式を決定する第3のステップと、(4)任意の電子部品を前記実測測定系で測定する第4のステップと、(5)前記第4のステップで得られた測定結果に基づいて、前記第3のステップで決定した前記数式を用いて、当該電子部品を前記基準測定系で測定したならば得られるであろう当該電子部品の高周波特性の推定値を算出する第5のステップとを備える。
上記第1のステップにおいて用意される第1の補正データ取得用試料は、実際に基準測定系で測定されることによって予め値付けされても、それ以外の方法で予め値付けされてもよい。例えば、同等の特性と見なせる多数の試料について、一部の試料のみを実際に基準測定系で測定し、その測定値を他の試料の値付けに用いてもよい。
上記方法によれば、電子部品と実質的に同じ形状、寸法の補正データ取得用試料を用いて、第1及び第2のステップを実行することができる。従来、自動特性選別機の測定系では同軸コネクタ先端までの校正しかできなかったが、上記方法により電子部品を接続する端子部先端までの補正ができるようになる。
電子部品の高周波特性誤差補正方法は、前記実測測定系において、前記第1の補正データ取得用試料及び前記電子部品が、又は、前記第1の補正データ取得用試料、前記第2の補正データ取得用試料及び前記電子部品が、シャント接続される。前記第3のステップは、前記第1のステップで用意された前記高周波特性が異なる少なくとも3つの前記第1の補正データ取得用試料の前記基準測定系での値付けと、前記第2のステップで得られた高周波特性が異なる少なくとも3つの前記第1の補正データ取得用試料又は前記第1の補正データ取得用試料と同等の高周波特性を有すると見なせる少なくとも3つの前記第2の補正データ取得用試料の前記実測測定系での測定値とを、アドミタンスパラメータに変換し、さらにその同相アドミタンス成分を導出するサブステップを含む。前記数式は、前記基準測定系で電子部品を測定したときのアドミタンスに対して、前記実測測定系で2つのポートによって電子部品を測定したときのアドミタンスを、2ポート誤差モデルを介して関連付けるものであり、前記基準測定系で電子部品を測定したときのアドミタンスが測定される2つのポートの同相信号が入力される1つのポートのみを有する1ポート誤差モデルに基づいて導出される。
この場合、2ポート誤差モデルを同相アドミタンス成分に着目して変換し、高周波特性誤差補正には、1ポート誤差モデルについての数式を用いる。1ポート誤差モデルについての数式は、高周波特性が異なる少なくとも3つの補正データ取得用試料の実測測定系と基準測定系とについてのデータから、符号を考慮することなく一意に決めることができるので、補正精度が向上し、補正精度に対するノイズの影響緩和、及び計算アルゴリズムの簡略等の効果が得られる。
また、本発明は上記電子部品の高周波特性誤差補正方法の少なくとも前記第5のステップに用いる電子部品の高周波特性誤差補正装置を提供する。電子部品の高周波特性誤差補正装置は、(a)前記第3のステップにおいて決定された前記数式と、前記第4のステップにおいて得られた任意の電子部品を前記実測測定系で測定した測定値とを記憶する記憶部と、(b)前記記憶部に記憶された前記数式を用いて、前記記憶部に記憶された前記測定値を補正する演算を行い、当該電子部品を前記基準測定系で測定したならば得られるであろう当該電子部品の高周波特性の推定値を算出する演算部とを備える。
本発明によれば、2端子インピーダンス部品について、補正の対象となる測定系が実測時と同じ状態のままで校正作業を行うことができる。その結果、これまで有効な校正方法がなかった自動特性選別機において正確な校正を実施の上選別を実施できるので、これまで不可能であった量産デバイスの正確な測定選別及び特性のユーザー保証が可能になる。
また、従来の誤差補正技術では、誤差補正のためにコネクタから端子を外して標準デバイスを接続する等の本来の測定にはない作業が必要となる。また、そのためには接地端子を設けたり、短絡基準を押し当てることができる構造としたりする必要がある。これに対して、本発明の方法では、通常の測定と同じ作業で補正のための測定を行えばよい。また、補正のためのGND端子、短絡機構は不要であり、端子部には通常の測定ができる機能だけがあればよい。
(a)測定系の説明図、(b)TRL校正の誤差モデルの回路図、(c)SOLT校正の誤差モデルの回路図である。(従来例)
SOLT校正の誤差要因導出法の説明図である。(従来例)
TRL校正の誤差要因導出法の説明図である。(従来例)
TRRR校正の誤差モデルの回路図である。(従来例)
RRRR校正の誤差モデルの回路図である。(従来例)
TRRR校正、RRRR校正での測定位置の説明図である。(従来例)
シリーズ接続の測定基板の平面図である。(従来例)
シャント接続の測定基板の平面図である。(従来例)
測定端子部の構成を示す要部断面構成図である。(実施例)
(a)測定系の構成図、(b)測定基板の正面図である。(比較例)
チップ抵抗の測定結果を示すグラフである。(比較例)
シリーズ接続の誤差モデルの回路図である。(説明例1)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(説明例1)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(説明例1)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(説明例1)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(説明例1)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(説明例1)
シャント接続の誤差モデルの回路図である。(比較例)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(比較例)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(比較例)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(比較例)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(比較例)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(比較例)
2ポート回路のZパラメータモデルを示す回路図である。(説明例2、実施例)
図25のT型等価回路を示す回路図である。(説明例2、実施例)
図26の差動信号入力時の等価回路を示す回路図である。(説明例2、実施例)
2ポート誤差モデルのZパラメータのT型等価回路を示す回路図である。(説明例2)
図28の差動信号入力時の等価回路を示す回路図である。(説明例2)
図29の等価回路を示す回路図である。(説明例2)
π型等価回路を示す回路図である。(実施例)
図31の同相信号入力時の等価回路を示す回路図である。(実施例)
2ポート誤差モデルのYパラメータのπ型等価回路を示す回路図である。(実施例)
図33の同相信号入力時の等価回路を示す回路図である。(実施例)
図34の等価回路を示す回路図である。(実施例)
2 電子部品
20,21 測定基板
22a,22b 伝送路
26 信号導体
28 接地導体
以下、本発明の実施の形態について、図12〜図36を参照しながら説明する。
まず、比較例の電子部品の高周波特性の誤差補正方法について、図14〜図25を参照しながら説明する。
<原理1> シリーズ接続の場合の測定誤差補正の原理について、図14〜図19を参照しながら説明する。
マイクロ波以上の周波数では、通常電子部品の電気特性は散乱係数行列で表現されるが、電気特性を散乱係数行列で表現しなければならない特段の理由があるわけではなく、これと相互変換できるパラメータであれば、目的に応じてより使用しやすいパラメータを用いればよい。2端子インピーダンス素子のシリーズ測定を想定した際の誤差パラメータとして、ここではインピーダンスのT型接続回路を採用し、その誤差モデルを図14に示す。図中、点線で囲まれた部分が各ポートの誤差モデルであり、誤差モデルは、基準となる測定系で被検体が測定される端子1d,2dと、補正の対象となる測定系で被検体が測定される端子1m,2mとの間に接続されている。変数Zはインピーダンスを表す。また、DUTと表示された部分が被検体である。2端子インピーダンス素子のシリーズ測定であるので、被検体は2端子インピーダンス素子としてモデル化し、シャント容量は無視し得ると考える。
ポート1から観察すればポート2は単なる終端インピーダンスにすぎないので、図15の等価回路を得る。ここに、Z2はポート2の等価インピーダンスである。
図15を注意深く観察すれば、Z13,Zd,Z2は単なる直列接続である。そこで、Z13とZ2をまとめてZe1と表示すると、等価回路は図16のように変形できる。
図16の誤差モデル中の未知数はZ
11,Z
12,Z
e1の3つであるので、補正データ取得用試料Z
dを測定した際の測定値Z
mを3組取得すれば、これら未知数は決定する。具体的には、補正データ取得用試料3つのインピーダンス値をZ
d1,Z
d2,Z
d3、これに対する測定値をZ
m11,Z
m12,Z
m13とすると、次の数式[数5a]の関係が成り立つ。
誤差要因は、数式[数5a]から求めた次の数式[数5b]によって、計算できる。式中の±が異なる解のうち、どちらを選択するかは後に述べる。
Z
e1は、数式[数5b]のZ
11,Z
12を数式[数5a]に代入すれば、次の数式[数5c]により求められるが、誤差補正の計算、すなわち後述する数式[数7]には使用されない。
なお、数式[数5c]は、Z
m11,Z
d1の代わりに、Z
m12,Z
d2を用いても、あるいはZ
m13,Z
d3を用いても、求めることができる。
ポート2から観察すれば、ポート1は単なる終端インピーダンスにすぎないので、図17の等価回路を得る。ここに、Z1は、ポート1の等価インピーダンスである。
図17を注意深く観察すれば、Z21,Zd,Z1は単なる直列接続である。そこで、Z21とZ1をまとめてZe2と表示すると、等価回路は図18のように変形できる。
図18の誤差モデル中の未知数はZ21,Z22,Ze2の3つであるので、補正データ取得用試料Zdを測定した際の測定値Zmを3組取得すれば、これら未知数は決定する。
具体的には、3つの補正データ取得用試料(i=1,2,3)について、それぞれのインピーダンス値をZ
di、これに対する測定値をZ
m2iとすると、次の数式[数6a]が成り立つ。
3つの補正データ取得用試料(i=1,2,3)についての数式[数6a]から、誤差要因であるZ
21,Z
22を求めると、次の数式[数6b]が求まる。式中の±が異なる解のうち、どちらを選択するかは後に述べる。
Z
e2は、数式[数6b]で求めたZ
21,Z
22を数式[数6a]に代入すれば、次の数式[数6c]により求められるが、誤差補正の計算、すなわち後述する数式[数7]には使用されない。
なお、数式[数6c]は、Z
m21,Z
d1の代わりに、Z
m22,Z
d2を用いても、あるいはZ
m23,Z
d3を用いても、求めることができる。
以上によってZ13,Z23を除く誤差モデルは定まる。
ところで、Z13とZ23については、補正データ取得用試料をシリーズ接続するだけでは、これらの値を求めることができない。
しかし、Z13とZ23は直列接続の関係であるので、別個独立にその値を定める必要はないので、誤差モデルを図19のように描き直す。図中のZfは、Z13とZ23の直列接続(つまり値の和)と観念できる誤差要因である。
図19の誤差モデルは、端子1mと端子1dとの間にインピーダンスZ11とZfとが直列に接続され、インピーダンスZ11とZfとの接続点とグランドとの間にインピーダンスZ12が接続され、端子2dと端子2mとの間にインピーダンスZ21が接続され、端子2dとグランドとの間にインピーダンスZ22が接続されている。
例えばポート1から見たインピーダンスは、図19の誤差モデルにおいてポート2側が無反射終端(つまり、通常は50Ωが接続された状態)された状態を表していることから、Zfは、補正データ取得用試料の値Zaとこれを接続した際の測定値Zmの組から求めることができる。
3つの補正データ取得用試料(i=1,2,3)について、補正データ取得用試料の値Z
diと、これを接続した際の測定値Z
miとの組み合わせには3通りあり、次の数式[数7]でZ
fiを計算することができる。なお、式中のZ
0は特性インピーダンスを示す。
Zfの値は1つであるので、数式[数7]で求めたZf1,Zf2,Zf3は、同じ値を取るべきであるが、数式[数5b]及び[数6b]に示すように、Z12,Z21,Z21,Z22には、符号の異なる2つの解があり、その通りの組み合わせによっては、Zf1,Zf2,Zf3が一致しない。
そこで、次の表1に示す2
4=16通りの組み合わせパターンのそれぞれについて、上記数式[数7]のZ
f1,Z
f2,Z
f3を計算し
、Z
f1,Z
f2,Z
f3が一致するZ
12,Z
21,Z
21,Z
22の組み合わせを選択することにする。Z
f1,Z
f2,Z
f3が一致する組み合わせは複数存在するので、そのうちのいずれを用いてもよい。
なお、そもそも、Z13とZ23は直列接続としてZfを形成する誤差要因なのであるから、補正データ取得用試料が2端子インピーダンス素子のシリーズ接続をするものである限り、図19の誤差モデルに基づいて補正を行えば、図14に基づく補正と全く同じ結果が得られる。
<原理2> シャント測定時の2ポート誤差補正の原理について、図20〜図25を参照しながら説明する。
2端子インピーダンス素子のシャント測定を想定した際には、誤差パラメータとしてインピーダンスのπ型接続回路(これも回路パラメータとしてはあまり一般的ではない)を採用することとし、この誤差モデルを図20に示す。図中、点線で囲まれた部分が各ポートの誤差モデルであり、誤差モデルは、基準となる測定系で被検体が測定される端子1d,2dと、補正の対象となる測定系で被検体が測定される端子1m,2mとの間に接続される。変数はアドミタンスを表す。回路モデルはシリーズ測定の場合と異なるが、これらは相互変換可能である。また、DUTと表示された部分が被検体である。2端子インピーダンス素子のシャント測定であるので、被検体は2端子インピーダンス素子としてモデル化し得る。
シリーズ測定の場合と同様、図中の誤差モデルのパラメータの値を、補正データ取得用試料の測定結果から導出することが補正の目的である。やはり、補正データ取得用試料は図に示された状態での接続のみを行うこととし、測定治具の複雑化といった課題を生じないようにする。
さて、等価回路こそ一見異なるものの、以下のように、シリーズ接続の場合とほとんど同様の手順で誤差モデルのパラメータを決定できる。
まず、ポート1から観察した際に、ポート2は単なる終端アドミタンスにすぎないので、図21の等価回路を得る。ここに、Y2はポート2の等価アドミタンスである。
図21のY13,Yd,Y2は並列接続の関係であるから、Y13とY2をまとめてYe1と表示すると、等価回路は図22のように変形できる。
シリーズ測定の場合と同様、図22の誤差モデル中の未知数は3つであるので、やはり3つの補正データ取得用試料の測定によって、これら未知数は決定することができる。シリーズ測定の場合に倣って変数名を決めると、次の数式[数8a]が成り立つ。
誤差要因は、数式[数8a]から求めた次の数式[数8b]によって計算できる。
Y
e1は、数式[数8b]で求めたY
11,Y
12を数式[数8a]に代入すれば、次の数式[数8c]により求められるが、誤差補正の計算、すなわち後述する数式[数10]には使用されない。
なお、数式[数8c]は、Y
m11,Y
d1の代わりに、Y
m12,Y
d2を用いても、あるいはY
m13,Y
d3を用いても、求めることができる。
実は、この数式[数8b]は、シリーズ測定の場合と実質的に同じ数式である。式中の±が異なる解のうち、どちらを選択するかは後に述べる。
次にポート2から見た場合について、未知数の導出を説明する。
ポート2から観察した際にはポート2は単なる終端アドミタンスにすぎないので、図23の等価回路を得る。ここに、Y1はポート1の等価アドミタンスである。
図23のY23,Yd,Y1は並列接続の関係であるから、Y23とY1をまとめてYe2と表示すると、等価回路は図24のように変形できる。
ポート1の場合と同様に変数名を決めると、誤差要因は数式を同様に計算でき、次の数式[数9a]が成り立つ。
誤差要因は、数式[数9a]から求めた次の数式[数9b]によって計算できる。
Y
e2は、数式[数9b]で求めたY
11,Y
22を数式[数9a]に代入すれば、次の[数9c]により求められるが、誤差補正の計算、すなわち後述する数式[数10]には使用されない。
なお、数式[数9c]は、Y
m21,Y
d1の代わりに、Y
m22,Y
d2を用いても、あるいはY
m23,Y
d3を用いても、求めることができる。
以上の手順でまだ得られていない誤差要因であるY13,Y23は、補正データ取得用試料をシャント接続するだけでは求めることが不可能であるが、並列接続の関係であるので、別個独立にその値を定める必要はないので、誤差モデルを図25のように描き直す。図中のYfは、Y13とY23の並列接続(つまり値の和)と観念できる誤差要因である。
図25の誤差モデルは、端子1mと端子1dとの間にアドミタンスY12が接続され、端子1mとアドミタンスY12との接続点とグランドとの間にアドミタンスY11が接続され、アドミタンスY12と端子1dとの接続点とグランドとの間にアドミタンスYfが接続され、端子2dと端子2mとの間にアドミタンスY22が接続され、アドミタンスY22と端子2mとの接続点とグランドとの間にアドミタンスY21が接続されている。
例えばポート1から見たインピーダンスは、図23の誤差モデルにおいてポート2側が無反射終端(つまり、通常は50Ωが接続された状態)された状態を表していることから、Y
fは、補正データ取得用試料の値Y
dとこれを接続した際の測定値Y
mの組から求めることができる。この点でもシリーズ測定の場合と同様であり、次の数式数式[数10]でY
fiを計算することができる。なお、式中のY
0は特性アドミタンスを示す。
Zfの値は1つであるので、数式[数10]で求めたYf1、Yf2,Yf3は、同じ値を取るべきであるが、数式[数8b]及び[数9b]に示すように、Y12,Y12,Y21,Y22には、符号の異なる2つの解があり、その組み合わせによっては、Yf1,Yf2,Yf3が一致しない。
そこで、次の表2に示す2
4=16通りの組み合わせパターンのそれぞれについて、上記数式[数10]のY
f1,Y
f2,Y
f3を計算し
、Y
f1,Y
f2,Y
f3が一致するY
12,Y
12,Y
21,Y
22の組み合わせを選択することにする。Y
f1,Y
f2,Y
f3が一致する組み合わせは複数存在するので、そのうちのいずれを用いてもよい。
Y13とY23は並列接続してYfを形成する誤差要因であるから、補正データ取得用試料が2端子インピーダンス素子のシャント接続をするものである限り、図25の誤差モデルに基づいて補正を行えば、図20基づく補正と全く同じ結果が得られる。
<比較例> シャント接続の場合について、図12及び図13を参照しながら説明する。シャント接続とは、測定機の1つのポートとグランドの間に被測定物を接続する方法である。
補正の対象となる測定系では、図12(a)の全体構成図及び(b)の測定の正面図に示すように、被検体である電子部品2が、測定基板21の上面に形成された信号導体24と接地導体25との間に接続される。測定基板21は信号導体24及び接地導体25の両端にSMAコネクタ56,66がはんだ付けされており、ネットワークアナライザ70と同軸ケーブル58,68を介して接続されている。ネットワークアナライザ70にはAgilent社製ネットワークアナライザ8753Dを用い、測定基板20は、特性インピーダンス50Ωで設計されている。測定基板20の長さLは50mm、幅Wは30mmである。
基準となる測定系は、Agilent社製インピーダンスアナライザ4291に、Agilent社製測定治具16192Aを取り付けて、測定を行う。
被検体である電子部品2は、1.0mm×0.5mmサイズの50Ωのチップ抵抗である。
次に、測定及び補正の作業を順に説明する。
(1)3つの補正データ取得用試料を準備する。2.2Ω、51Ω、510Ωの抵抗を使用した。
(2)補正データ取得用試料のアドミタンスYd1,Yd2,Yd3を基準測定機で測定する。なお、測定ポイント数、掃引周波数範囲は基準測定機、実際に用いるネットワークアナライザで統一しておく必要がある。
(3)実際に測定に用いる測定機(8753D)において、同軸ケーブル先端までの伝送路の校正を行う。この校正は、一般的に行っているSOLT校正でよい。
(4)補正データ取得用試料のアドミタンスを実際に測定に用いる測定機(8753D)で測定する。その際、基準測定機と同じ測定ポイント数、掃引周波数範囲でYm11,Ym12,Ym13及びYm21,Ym22,Ym23を取得する。
(5)基準測定機(4291)、実際に測定に用いる測定機(8753D)での測定データから補正係数を、上述した<原理2>に基づいて、パソコンで計算する。ここまでが、補正の手順となる。
(6)実際に測定に用いる測定機(8753D)で、チップ抵抗を測定する。
(7)測定データと補正データを用いて、補正された測定値をパソコンによって計算する。
以上の手順により測定、補正処理を行った結果、基準測定機での測定結果と、ネットワークアナライザの測定値が一致した。
図13に、1005サイズのチップ抵抗(50Ω)について、測定、補正処理を行った結果のグラフに示す。図13(a)は、基準値、補正前の測定値及び補正後の測定値のグラフである。「基準値」は、基準測定機での測定値である。「補正前」は、実際に測定に用いる測定機での測定結果そのものであり、補正していない測定値である。「補正後」は、実際に測定に用いる測定機での測定値を補正した値(基準測定機で測定した場合の測定値の推定値)である。図13(b−1)は「補正前」の測定値のグラフ、図13(b−2)は「補正後」の測定値のグラフ、図13(c)は「基準値」のグラフである。
図13(a)に示されたように、「基準値」と「補正後」とは、図では区別できないくらいによく一致しているが、「補正前」は「基準値」から大きくずれている。つまり、補正を行わない場合には、基準測定機での測定値と大きく外れた測定値しか得られないが、補正を行うことで、基準測定機での測定値と極めて近い測定値を得ることができる。
以上に説明した比較例では、2端子インピーダンス素子を測定治具やプローブに対しシャント接続し測定する2ポート測定系において、各ポートの電気特性をπ形(図20)等価回路で表し、通常可逆回路では6つの誤差でモデル化されるところを5つの誤差に簡略化する。そうすることで、測定治具やプローブの誤差を導出する際、インピーダンスアナライザで値付けされた3つの2端子インピーダンス素子(以下、標準試料)を用いて、シャント接続では信号線を切断することなしに、5つの誤差の値を導出することができる。
上記誤差モデルを用いた場合、3つの標準試料の測定値から導出される測定治具やプローブの各誤差のうち、4つは符号の異なる2つの解が存在することになる。そのため、どの4つの誤差の符号の組み合わせが正しいのかは、符号の各組み合わせの場合において残り1つの誤差が3つの標準試料それぞれから導出される3つの値が同じになることを確認していくことで決定される。
しかし、3つの標準試料の測定バラツキや測定器のトレースノイズなどによって完全に一致することはなく、どの符号の組み合わせが正しいのか全ての周波数で優劣の判断は、どの符号の組み合わせがより一致するのかで行うしかない。そのため、測定バラツキやノイズの影響で誤った符号の組み合わせを選択し、補正精度が確保できない周波数も存在してしまうことがあり得る。
次に、本発明の実施の形態である電子部品の高周波特性の誤差補正方法について、図26〜図36を参照しながら説明する。
本発明の実施の形態では、2ポート誤差モデルと等価な1ポート誤差モデルを用いることにより、比較例のような符号の組み合わせの選択が不要となる。そのため、誤差補正パラメータの導出精度、及び測定誤差の補正精度が向上する。以下、詳細に説明する。
<バランス変換1ポート誤差モデル> まず、本発明の実施の形態で用いるバランス変換1ポート誤差モデルについて説明する。バランス変換1ポート誤差モデルは、以下のように、2ポート誤差モデルをバランス変換することにより得られる。
図26に、2ポート回路をZパラメータで表したモデルの回路図を示す。図26の関係を行列式で表すと次の数式[数11]となる。
入力値をV
C=(V
1+V
2)/2、I
C=(I
1+I
2)/2と置き換え、出力値をV
d=(V
1−V
2)/2、I
d=(I
1−I
2)/2と置き換えるバランス変換を行うことによって、Zパラメータは、次の数式[数12]のように変換される。
アドミタンスパラメータ(以下、Yパラメータ)についても、バランス変換を行うと次の数式[数13]で表される。
通常の受動回路では可逆定理が成立するので、ZパラメータであればZ12=Z21、YパラメータであればY12=Y21となる。そこから、Zパラメータ及びYパラメータは、T及びπ型の等価回路の形に表すことができる。
図26、数式[数11]に示したZパラメータをT型等価回路に変換すると、図27の回路図のようになる。図27を差動信号入力時の等価回路に変形すると、図28の回路図となり、T型等価回路におけるポート1、2の直列インピーダンス成分(Z11−Z12)+(Z22−Z12)が、数式[数12]におけるZddであることが分かる。
これを利用することにより、2端子インピーダンス素子がシリーズ接続である場合、補正モデルは次のようになる。
図29は、測定治具を用いて2端子インピーダンス素子をシリーズ接続し測定した場合における2ポート誤差モデルを、T型等価回路を用いて示す回路図である。2ポート誤差モデルは、点線で囲まれた部分であり、基準測定系で電子部品を測定したときのインピーダンスZdと、実測測定系で電子部品を測定したときのインピーダンスが測定される2つのポート(Port1、Port2)との間に接続されている。
図28の場合と同様に、図29の回路を差動信号入力時の等価回路に変形すると、図30に示す回路図となる。
図30の回路におけるポート1、2間の直列インピーダンスを求めると、次の数式[数14]となる。
この数式[数14]は、測定治具を用いて2端子インピーダンス素子をシリーズ接続し測定したZパラメータの差動インピーダンス成分Ztddと等価である。すなわち、数式[数14]は、基準測定系で電子部品を測定したときのインピーダンスZdに対して、実測測定系で2つのポートによって電子部品を測定したときのインピーダンスを、2ポート誤差モデルを介して関連付ける。また、数式[数14]は、図30の回路が図31に示す回路と等価であることを示している。
図31において回路中におけるインピーダンス成分はまとめられ3つとなり、測定治具の誤差をT型等価回路で表した1ポート誤差モデルと同じとなる。このことは、シリーズ接続の場合、以下の(1)〜(4)の手順で、測定・補正を実施することでDUTのインピーダンスが導出できることを示している。
(1)特性(インピーダンス)が値付けされている3つの補正試料(チップ抵抗など)、又はこれら3つの補正試料と同等の高周波特性を有すると見なせる3つの補正試料
について、測定治具を用いてZパラメータを測定する。測定には、ネットワークやインピーダンスアナライザを用いる。
(2)Zパラメータのバランス変換を行い、その差動インピーダンス成分Zddを取り出す。
(3)差動インピーダンス成分の等価回路である図30の回路のようにまとめられた、測定治具の3つの誤差成分を、3つの補正試料を測定した際のZddと「3つの補正試料の値付けされた特性(インピーダンス)」から算出する。
(4)DUTを測定した際のZddから、「(3)の手順にて導出した3つの誤差成分を除去することにより」、DUTのインピーダンスZdを算出する。
なお、図29の測定治具の誤差Zパラメータを図31のようにまとめることで、それぞれの値は独立には求まらないが、補正実施にはなんら問題はない。
2端子インピーダンス素子がシャント接続される場合、補正モデルは次のようになる。
2端子インピーダンス素子のシャント接続に対しては、Yパラメータをπ型等価回路に変換し、同相アドミタンス成分を用いることで、シリーズ接続と同様に1ポート補正のモデルとして扱うことができる。
図32の回路図に、Yパラメータを用いたπ型等価回路の回路図を表す。図32を同相信号入力時の等価回路に変形すると、図33の回路図に示すように、π型等価回路におけるポート1、2の並列アドミタンス成分が数式[数13]におけるYccであることが分かる。
次に、シリーズ接続と同じように、図34の回路図に、測定治具を用いて2端子インピーダンス素子をシャント接続し測定した場合における2ポート誤差モデルを、π型等価回路を用いて示す。2ポート誤差モデルは、点線で囲まれた部分であり、基準測定系で電子部品を測定したときのアドミタンスYdと、実測測定系で電子部品を測定したときのアドミタンスが測定される2つのポート(Port1、Port2)との間に接続される。先ほどと同じように、図34の回路を同相信号入力時の等価回路に変形すると、図35の回路図となる。
図35の回路におけるポート1、2間の並列インピーダンスを求めると次の数式[数15]となる。
数式[数15]は、測定治具を用いて2端子インピーダンス素子をシャント接続し測定したYパラメータの同相アドミタンス成分Ytddと等価である。すなわち、数式[数15]は、基準測定系で電子部品を測定したときのアドミタンスYdに対して、実測測定系で2つのポートによって電子部品を測定したときのアドミタンスを、2ポート誤差モデルを介して関連付ける。また、数式[数15]は、図34の回路が図35に示す回路と等価であることを示している。
図35において回路中におけるアドミタンス成分はまとめられ3つとなり、測定治具の誤差をπ型等価回路で表した1ポート誤差モデルと同じとなる。このことは、シリーズ接続のT型等価回路と同様に、測定治具を用いて測定したYパラメータのバランス変換を行った上で、その同相アドミタンス成分に対して1ポート補正を実施することで、DUTのアドミタンスが導出できることを示している。
<実施例> 実測測定系において2端子インピーダンス素子がシャント接続される場合の測定誤差補正手順について、説明する。
まず、3種類の2端子2ポートデバイス(適当なチップ抵抗、デバイス自体等を使用できる)をインピーダンスアナライザやネットワークアナライザではTRL校正法やRRRR校正法によって値付けしておく(以下、標準2ポートデバイスという)。これは、机上で行っておくべき手順である。この値付けは、基準測定系での値付けである。
次いで、2ポート実測測定系にて、前記標準2ポート試料を接続し、そのSパラメータを測定する。
次いで、上記Sパラメータ測定結果を、次の数式[数17]を用いて同相Yパラメータに変換する。この数式[数17]は、前述した数式[数15]の右辺のYパラメータをSパラメータに変換することにより導出される。
ここで、SM:実測2ポート測定系におけるSパラメータ測定結果
Y
cc:変換された同相Yパラメータ
Z
0:測定系の特性インピーダンス
標準2ポート試料の値付けされた値と、変換された同相Yパラメータの関係を、1ポート誤差モデルを用いて表す。1ポート誤差モデルは、図36の代わりに、反射係数に変換し表して関係をモデル化しても問題はない。
次いで、3つの標準2ポート試料の値付けされたアドミタンス値と、変換された同相Yパラメータとの関係から、1ポート誤差モデルの誤差パラメータを計算する。図36の1ポート誤差モデルを用いる場合には、誤差パラメータとして図36に示された3つの未知数、すなわち、Ye12+Ye34、Ye11−Ye12+Ye44−Ye34、Ye22−Ye12+Ye33−Ye44を計算する。
次いで、計算した誤差パラメータの値を使う1ポート誤差モデルを用いて、他の2端子2ポートデバイスを実測測定系で測定した値を補正し、他の2端子2ポートデバイスの真値(すなわち、基準測定系で測定したならば得られるであろう測定値の推定値)を得る。
以上のように、実測2ポート測定系に対しバランス変換を用いて、標準2ポート試料の値付けされた値との関係を1ポート誤差モデルに置き換えることにより、一意に誤差パラメータが導出される。
本手法によれば、AAA補正法(比較例)のように誤差パラメータが一意に決まらないという問題が生じないので、誤差パラメータ導出過程への測定バラツキや測定器のトレースノイズなどの影響が緩和される。
そのため、AAA補正法(比較例)より、誤差パラメータの導出精度、及び補正精度が向上する。
<まとめ> 以上に説明した誤差補正方法を用いると、2端子インピーダンス部品について、補正の対象となる測定系が実測時と同じ状態のままで、校正作業を行うことができる。そのため、実質的に量産デバイス自体又は量産デバイスと略同じ寸法・形状の試料しか測定端子部に接続できない自動特性選別機についても、測定系の誤差補正を行うことができる。
なお、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えて実施することが可能である。
例えば、本発明は、測定基板を用いる測定系に限らず、測定ピンを用いる測定系などにも適用することができる。
以上に説明した比較例では、2端子インピーダンス素子を測定治具やプローブに対しシャント接続し測定する2ポート測定系において、各ポートの電気特性をπ形(図20)等価回路で表し、通常可逆回路では6つの誤差でモデル化されるところを5つの誤差に簡略化する。そうすることで、測定治具やプローブの誤差を導出する際、インピーダンスアナライザで値付けされた3つの2端子インピーダンス素子(以下、標準試料)を用いて、信号線を切断することなしに、5つの誤差の値を導出することができる。
(a)測定系の説明図、(b)TRL校正の誤差モデルの回路図、(c)SOLT校正の誤差モデルの回路図である。(従来例)
SOLT校正の誤差要因導出法の説明図である。(従来例)
TRL校正の誤差要因導出法の説明図である。(従来例)
TRRR校正の誤差モデルの回路図である。(従来例)
RRRR校正の誤差モデルの回路図である。(従来例)
TRRR校正、RRRR校正での測定位置の説明図である。(従来例)
シリーズ接続の測定基板の平面図である。(従来例)
シャント接続の測定基板の平面図である。(従来例)
測定端子部の構成を示す要部断面構成図である。(実施例)
(a)測定系の構成図、(b)測定基板の正面図である。(比較例)
チップ抵抗の測定結果を示すグラフである。(比較例)
シリーズ接続の誤差モデルの回路図である。(説明例1)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(説明例1)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(説明例1)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(説明例1)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(説明例1)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(説明例1)
シャント接続の誤差モデルの回路図である。(比較例)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(比較例)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(比較例)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(比較例)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(比較例)
ポート1側から見た等価回路の回路図である。(比較例)
2ポート回路のZパラメータモデルを示す回路図である。(説明例2、実施例)
図23のT型等価回路を示す回路図である。(説明例2、実施例)
図24の差動信号入力時の等価回路を示す回路図である。(説明例2、実施例)
2ポート誤差モデルのZパラメータのT型等価回路を示す回路図である。(説明例2)
図26の差動信号入力時の等価回路を示す回路図である。(説明例2)
図27の等価回路を示す回路図である。(説明例2)
π型等価回路を示す回路図である。(実施例)
図29の同相信号入力時の等価回路を示す回路図である。(実施例)
2ポート誤差モデルのYパラメータのπ型等価回路を示す回路図である。(実施例)
図31の同相信号入力時の等価回路を示す回路図である。(実施例)
図32の等価回路を示す回路図である。(実施例)
以下、本発明の実施の形態について、図10〜図34を参照しながら説明する。
まず、比較例の電子部品の高周波特性の誤差補正方法について、図12〜図23を参照しながら説明する。
<原理1> シリーズ接続の場合の測定誤差補正の原理について、図12〜図17を参照しながら説明する。
ポート1から観察すればポート2は単なる終端インピーダンスにすぎないので、図13の等価回路を得る。ここに、Z2はポート2の等価インピーダンスである。
図13を注意深く観察すれば、Z13,Zd,Z2は単なる直列接続である。そこで、Z13とZ2をまとめてZe1と表示すると、等価回路は図14のように変形できる。
図
14の誤差モデル中の未知数はZ
11,Z
12,Z
e1の3つであるので、補正データ取得用試料Z
dを測定した際の測定値Z
mを3組取得すれば、これら未知数は決定する。具体的には、補正データ取得用試料3つのインピーダンス値をZ
d1,Z
d2,Z
d3、これに対する測定値をZ
m11,Z
m12,Z
m13とすると、次の数式[数5a]の関係が成り立つ。
ポート2から観察すれば、ポート1は単なる終端インピーダンスにすぎないので、図15の等価回路を得る。ここに、Z1は、ポート1の等価インピーダンスである。
図15を注意深く観察すれば、Z21,Zd,Z1は単なる直列接続である。そこで、Z21とZ1をまとめてZe2と表示すると、等価回路は図16のように変形できる。
図16の誤差モデル中の未知数はZ21,Z22,Ze2の3つであるので、補正データ取得用試料Zdを測定した際の測定値Zmを3組取得すれば、これら未知数は決定する。
しかし、Z13とZ23は直列接続の関係であるので、別個独立にその値を定める必要はないので、誤差モデルを図17のように描き直す。図中のZfは、Z13とZ23の直列接続(つまり値の和)と観念できる誤差要因である。
図17の誤差モデルは、端子1mと端子1dとの間にインピーダンスZ11とZfとが直列に接続され、インピーダンスZ11とZfとの接続点とグランドとの間にインピーダンスZ12が接続され、端子2dと端子2mとの間にインピーダンスZ21が接続され、端子2dとグランドとの間にインピーダンスZ22が接続されている。
例えばポート1から見たインピーダンスは、図17の誤差モデルにおいてポート2側が無反射終端(つまり、通常は50Ωが接続された状態)された状態を表していることから、Zfは、補正データ取得用試料の値Zaとこれを接続した際の測定値Zmの組から求めることができる。
なお、そもそも、Z13とZ23は直列接続としてZfを形成する誤差要因なのであるから、補正データ取得用試料が2端子インピーダンス素子のシリーズ接続をするものである限り、図17の誤差モデルに基づいて補正を行えば、図12に基づく補正と全く同じ結果が得られる。
<原理2> シャント測定時の2ポート誤差補正の原理について、図18〜図23を参照しながら説明する。
2端子インピーダンス素子のシャント測定を想定した際には、誤差パラメータとしてインピーダンスのπ型接続回路(これも回路パラメータとしてはあまり一般的ではない)を採用することとし、この誤差モデルを図18に示す。図中、点線で囲まれた部分が各ポートの誤差モデルであり、誤差モデルは、基準となる測定系で被検体が測定される端子1d,2dと、補正の対象となる測定系で被検体が測定される端子1m,2mとの間に接続される。変数はアドミタンスを表す。回路モデルはシリーズ測定の場合と異なるが、これらは相互変換可能である。また、DUTと表示された部分が被検体である。2端子インピーダンス素子のシャント測定であるので、被検体は2端子インピーダンス素子としてモデル化し得る。
まず、ポート1から観察した際に、ポート2は単なる終端アドミタンスにすぎないので、図19の等価回路を得る。ここに、Y2はポート2の等価アドミタンスである。
図19のY13,Yd,Y2は並列接続の関係であるから、Y13とY2をまとめてYe1と表示すると、等価回路は図20のように変形できる。
シリーズ測定の場合と同様、図
20の誤差モデル中の未知数は3つであるので、やはり3つの補正データ取得用試料の測定によって、これら未知数は決定することができる。シリーズ測定の場合に倣って変数名を決めると、次の数式[数8a]が成り立つ。
ポート2から観察した際にはポート2は単なる終端アドミタンスにすぎないので、図21の等価回路を得る。ここに、Y1はポート1の等価アドミタンスである。
図21のY23,Yd,Y1は並列接続の関係であるから、Y23とY1をまとめてYe2と表示すると、等価回路は図22のように変形できる。
以上の手順でまだ得られていない誤差要因であるY13,Y23は、補正データ取得用試料をシャント接続するだけでは求めることが不可能であるが、並列接続の関係であるので、別個独立にその値を定める必要はないので、誤差モデルを図23のように描き直す。図中のYfは、Y13とY23の並列接続(つまり値の和)と観念できる誤差要因である。
図23の誤差モデルは、端子1mと端子1dとの間にアドミタンスY12が接続され、端子1mとアドミタンスY12との接続点とグランドとの間にアドミタンスY11が接続され、アドミタンスY12と端子1dとの接続点とグランドとの間にアドミタンスYfが接続され、端子2dと端子2mとの間にアドミタンスY22が接続され、アドミタンスY22と端子2mとの接続点とグランドとの間にアドミタンスY21が接続されている。
例えばポート1から見たインピーダンスは、図
21の誤差モデルにおいてポート2側が無反射終端(つまり、通常は50Ωが接続された状態)された状態を表していることから、Y
fは、補正データ取得用試料の値Y
dとこれを接続した際の測定値Y
mの組から求めることができる。この点でもシリーズ測定の場合と同様であり、次の数式数式[数10]でY
fiを計算することができる。なお、式中のY
0は特性アドミタンスを示す。
Y13とY23は並列接続してYfを形成する誤差要因であるから、補正データ取得用試料が2端子インピーダンス素子のシャント接続をするものである限り、図23の誤差モデルに基づいて補正を行えば、図18基づく補正と全く同じ結果が得られる。
<比較例> シャント接続の場合について、図10及び図11を参照しながら説明する。シャント接続とは、測定機の1つのポートとグランドの間に被測定物を接続する方法である。
補正の対象となる測定系では、図10(a)の全体構成図及び(b)の測定の正面図に示すように、被検体である電子部品2が、測定基板21の上面に形成された信号導体24と接地導体25との間に接続される。測定基板21は信号導体24及び接地導体25の両端にSMAコネクタ56,66がはんだ付けされており、ネットワークアナライザ70と同軸ケーブル58,68を介して接続されている。ネットワークアナライザ70にはAgilent社製ネットワークアナライザ8753Dを用い、測定基板20は、特性インピーダンス50Ωで設計されている。測定基板20の長さLは50mm、幅Wは30mmである。
図11に、1005サイズのチップ抵抗(50Ω)について、測定、補正処理を行った結果のグラフに示す。図11(a)は、基準値、補正前の測定値及び補正後の測定値のグラフである。「基準値」は、基準測定機での測定値である。「補正前」は、実際に測定に用いる測定機での測定結果そのものであり、補正していない測定値である。「補正後」は、実際に測定に用いる測定機での測定値を補正した値(基準測定機で測定した場合の測定値の推定値)である。図11(b−1)は「補正前」の測定値のグラフ、図11(b−2)は「補正後」の測定値のグラフ、図11(c)は「基準値」のグラフである。
図11(a)に示されたように、「基準値」と「補正後」とは、図では区別できないくらいによく一致しているが、「補正前」は「基準値」から大きくずれている。つまり、補正を行わない場合には、基準測定機での測定値と大きく外れた測定値しか得られないが、補正を行うことで、基準測定機での測定値と極めて近い測定値を得ることができる。
次に、本発明の実施の形態である電子部品の高周波特性の誤差補正方法について、図24〜図34を参照しながら説明する。
図
24に、2ポート回路をZパラメータで表したモデルの回路図を示す。図
24の関係を行列式で表すと次の数式[数11]となる。
図24、数式[数11]に示したZパラメータをT型等価回路に変換すると、図25の回路図のようになる。図25を差動信号入力時の等価回路に変形すると、図26の回路図となり、T型等価回路におけるポート1、2の直列インピーダンス成分(Z11−Z12)+(Z22−Z12)が、数式[数12]におけるZddであることが分かる。
図27は、測定治具を用いて2端子インピーダンス素子をシリーズ接続し測定した場合における2ポート誤差モデルを、T型等価回路を用いて示す回路図である。2ポート誤差モデルは、点線で囲まれた部分であり、基準測定系で電子部品を測定したときのインピーダンスZdと、実測測定系で電子部品を測定したときのインピーダンスが測定される2つのポート(Port1、Port2)との間に接続されている。
図26の場合と同様に、図27の回路を差動信号入力時の等価回路に変形すると、図28に示す回路図となる。
図
28の回路におけるポート1、2間の直列インピーダンスを求めると、次の数式[数14]となる。
この数式[数14]は、測定治具を用いて2端子インピーダンス素子をシリーズ接続し測定したZパラメータの差動インピーダンス成分Ztddと等価である。すなわち、数式[数14]は、基準測定系で電子部品を測定したときのインピーダンスZdに対して、実測測定系で2つのポートによって電子部品を測定したときのインピーダンスを、2ポート誤差モデルを介して関連付ける。また、数式[数14]は、図28の回路が図29に示す回路と等価であることを示している。
図29において回路中におけるインピーダンス成分はまとめられ3つとなり、測定治具の誤差をT型等価回路で表した1ポート誤差モデルと同じとなる。このことは、シリーズ接続の場合、以下の(1)〜(4)の手順で、測定・補正を実施することでDUTのインピーダンスが導出できることを示している。
(3)差動インピーダンス成分の等価回路である図28の回路のようにまとめられた、測定治具の3つの誤差成分を、3つの補正試料を測定した際のZddと「3つの補正試料の値付けされた特性(インピーダンス)」から算出する。
なお、図27の測定治具の誤差Zパラメータを図29のようにまとめることで、それぞれの値は独立には求まらないが、補正実施にはなんら問題はない。
図30の回路図に、Yパラメータを用いたπ型等価回路の回路図を表す。図30を同相信号入力時の等価回路に変形すると、図31の回路図に示すように、π型等価回路におけるポート1、2の並列アドミタンス成分が数式[数13]におけるYccであることが分かる。
次に、シリーズ接続と同じように、図32の回路図に、測定治具を用いて2端子インピーダンス素子をシャント接続し測定した場合における2ポート誤差モデルを、π型等価回路を用いて示す。2ポート誤差モデルは、点線で囲まれた部分であり、基準測定系で電子部品を測定したときのアドミタンスYdと、実測測定系で電子部品を測定したときのアドミタンスが測定される2つのポート(Port1、Port2)との間に接続される。先ほどと同じように、図32の回路を同相信号入力時の等価回路に変形すると、図33の回路図となる。
図
33の回路におけるポート1、2間の並列インピーダンスを求めると次の数式[数15]となる。
数式[数15]は、測定治具を用いて2端子インピーダンス素子をシャント接続し測定したYパラメータの同相アドミタンス成分Ytddと等価である。すなわち、数式[数15]は、基準測定系で電子部品を測定したときのアドミタンスYdに対して、実測測定系で2つのポートによって電子部品を測定したときのアドミタンスを、2ポート誤差モデルを介して関連付ける。また、数式[数15]は、図32の回路が図33に示す回路と等価であることを示している。
図33において回路中におけるアドミタンス成分はまとめられ3つとなり、測定治具の誤差をπ型等価回路で表した1ポート誤差モデルと同じとなる。このことは、シリーズ接続のT型等価回路と同様に、測定治具を用いて測定したYパラメータのバランス変換を行った上で、その同相アドミタンス成分に対して1ポート補正を実施することで、DUTのアドミタンスが導出できることを示している。
標準2ポート試料の値付けされた値と、変換された同相Yパラメータの関係を、1ポート誤差モデルを用いて表す。1ポート誤差モデルは、図34の代わりに、反射係数に変換し表して関係をモデル化しても問題はない。
次いで、3つの標準2ポート試料の値付けされたアドミタンス値と、変換された同相Yパラメータとの関係から、1ポート誤差モデルの誤差パラメータを計算する。図34の1ポート誤差モデルを用いる場合には、誤差パラメータとして図34に示された3つの未知数、すなわち、Ye12+Ye34、Ye11−Ye12+Ye44−Ye34、Ye22−Ye12+Ye33−Ye44を計算する。
以上に説明した比較例では、2端子インピーダンス素子を測定治具やプローブに対しシャント接続し測定する2ポート測定系において、各ポートの電気特性をπ形(図18)等価回路で表し、通常可逆回路では6つの誤差でモデル化されるところを5つの誤差に簡略化する。そうすることで、測定治具やプローブの誤差を導出する際、インピーダンスアナライザで値付けされた3つの2端子インピーダンス素子(以下、標準試料)を用いて、信号線を切断することなしに、5つの誤差の値を導出することができる。