JP2011146254A - リン酸鉄リチウムの製造方法 - Google Patents

リン酸鉄リチウムの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】鉄源として安価な鉄粒子を使用した、安価かつ正極活物質として放電容量の高いリン酸鉄リチウムの製造方法の提供。
【解決手段】リン酸、カルボン酸およびリチウム源を含む水溶液に、酸素を含有する鉄粒子を添加して酸化雰囲気下で反応させる合成工程と、前記合成工程で得られた反応液を乾燥するリン酸鉄リチウム前駆体生成工程と、前リン酸鉄リチウム前駆体生成工程で得られたリン酸鉄リチウム前駆体を非酸化性雰囲気下で焼成してリン酸リチウムを得る一次焼成工程により、リン酸鉄リチウムを製造する。
【選択図】なし

Description

本発明は、リチウムイオン二次電池に代表される二次電池用の正極活物質の製造方法に関する。
携帯機器を中心に広く普及している小型リチウムイオン電池は、負極活物質の改良、電解液等の開発により性能向上が達成されてきた。その一方で、正極活物質に関しては小型リチウムイオン電池の商品化から現在に至るまで大きな技術革新は見られず、高価なレアメタルを含むコバルト酸リチウム(LiCoO2)が主に利用されている。このコバルト酸リチウムは、高価な上、熱的安定性や化学的安定性が十分ではなく、約180℃の高温下では酸素を放出して有機電解液を発火させる危険性があり、安全性に問題が残る。
そのため、大型機器を睨んだリチウムイオン電池の用途展開には、従前のコバルト酸リチウムよりも安価で、しかも熱的、化学的に安定で安全性の高い正極活物質の開発が不可欠である。
現在、コバルト酸リチウムに代わる新たな正極活物質として有力視されているのが、資源制約が少なく、毒性が低い上、安全性の高い鉄系活物質のオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4 以下、単に「リン酸鉄リチウム」という)である。このリン酸鉄リチウムは、結晶構造中の強固なP−O結合により約400℃まで酸素を放出しないことから安全性の高い活物質であり、さらには長期安定性や急速充電特性も良好な活物質である。
正極活物質にリン酸鉄リチウムを適用するに際しては、正極活物質に要求される特性である高速充放電特性を確保するために、リン酸鉄リチウムの電子伝導性を改善することおよびリチウムイオンの拡散距離を短縮することが要求される。
かかる問題の解決策としては、リン酸鉄リチウム粒子の表面に導電性物質を被覆し、かつリン酸鉄リチウム粒子を微細化(約100nm以下)して反応表面積を増大させることが有効とされている。また、他元素をドープすることが、電子伝導性の改善や結晶構造の安定化に有効であるという報告もある。
そこで、上記したように、表面に導電性物質が被覆された微細なリン酸鉄リチウム粒子を低コストかつ安定的に生産する方法の開発が、正極活物質としてのリン酸鉄リチウムの実用化を図る上で重要となる。
低コスト化を目的としたリン酸鉄リチウムの合成方法としては、鉄源として安価な鉄粒子を使用した方法が知られている。
例えば、特許文献1には、まず金属鉄とリン酸イオンを遊離する化合物とを水溶液中で反応させ、その後、炭酸リチウムまたは水酸化リチウムを加えてリン酸鉄リチウムの前駆体を調製して乾燥し、この乾燥物を300〜450℃の温度範囲で一次焼成、ついで熱分解により導電性炭素を生成する物質を加えて500〜800℃で焼成する方法が記載されている。
しかしながら、特許文献1に記載された上記方法では、前駆体を調製する際に99.9%以上の純度の高い金属鉄をリン酸と反応させるため、難溶性の2価鉄化合物であるリン酸鉄(Fe3(PO4)2・8H2O)の凝集粒子が生成・成長し、溶液が白色〜淡青色を呈するクリーム 状の高粘度物質となる。その結果、溶液の撹拌が不十分となり、未反応の金属鉄が残存し易い、原料が均一に混合されない等の支障をきたす。また、上記方法では、未反応金属鉄の反応を促進するために、塩酸、シュウ酸等の酸を添加することも開示されている。しかしながら、塩酸を添加する場合には生成物が酸化され易く、またシュウ酸を添加する場合には安定なシュウ酸鉄が単体で沈殿物として生成する等、均一な前駆体を調製することが難しい。さらに、導電性炭素として添加するカーボンブラック等は、前駆体中に原子レベルで均一に混合することが難しいため、前駆体が酸化され易い一次焼成の温度範囲において還元剤としての効果は小さい。
特許文献2には、鉄粉、リチウム塩、リン酸基化合物を有機酸水溶液中に溶解して前駆体を調製し、ついでこの前駆体を噴霧乾燥した後、500℃以上の温度で焼成する方法が 記載されている。
しかしながら、特許文献2に記載された上記方法では、有機酸あるいは混合有機酸で鉄を酸化して有効な2価鉄を生成させるとあるものの、2価鉄を安定して存在させることは難しいという問題があった。また、リチウム塩が硝酸リチウムである場合には硝酸イオンが焼成時に酸化剤として作用する。更に、リチウム塩として酢酸リチウムを使用することも可能であるが、酢酸リチウムは高価な原料であるため、低コスト化を図る上では不適当である。また、上記方法では、前駆体溶液に熱分解炭素を生成する有機化合物を混合しているが、この有機化合物は焼成時に単独で炭化するものもあり、リン酸鉄リチウム粒子の表面を熱分解炭素で有効に被覆することができない。
特許文献3には、まずリン酸とクエン酸を含む水溶液中で鉄粉末を反応させ、次いで水酸化リチウムを加え、更に金属酸化物または焼成により導電性酸化物に変化する金属塩を加えて前駆体を調製して乾燥し、最後にこの前駆体の乾燥物を焼成する方法が記載されている。
しかしながら、上記方法では鉄粉末がリン酸と反応する際にクエン酸がキレート剤としては有効に作用していないため、前駆体中の鉄が3価まで酸化されて3価の鉄化合物であるリン酸第二鉄が生成している。また、導電性酸化物として酸化バナジウムV2O5を加える例が記載されているが、上記方法では酸化バナジウムをリン酸鉄リチウムの前駆体が生成した後に加えているため、バナジウムはドープされずにリン酸鉄リチウム粒子の周囲に付着する。
特許文献4には、平均粒径が20〜150μm で、かつ見掛け密度2g/cm3以下である鉄粉と、リン酸化合物と、リチウム化合物とを含む混合物を焼成することからなる電池用リン酸鉄リチウムの製造方法が記載されている。
しかしながら、特許文献4に記載された方法も、特許文献2の方法と同様、2価鉄を安定して存在させることは難しいという問題を残していた。
国際公開第2004/036671号 特開2006−131485号公報 特開2007−305585号公報 特開2008−4317号公報
上述したとおり、リン酸鉄リチウムの合成方法において、鉄源として鉄粒子を使用する場合、従来技術では鉄粒子の反応を十分に制御することができない。そのため、未反応の鉄粒子が残存する、或いは、鉄の酸化が進み過ぎて結晶質の3価の鉄化合物が生成する等の理由により、リン酸鉄リチウムの前駆体を原子レベルで均一に混合、調製することができず、最終的に得られるリン酸鉄リチウムの放電容量を十分に確保することができなかった。また、他元素をドープしてリン酸鉄リチウムの諸特性を改善する場合、従来技術では他元素を均一にドープすることができなかった。
本発明は、かかる事情に鑑みなされたものであり、鉄粒子の反応を制御することにより、原子レベルで均一に混合したリン酸鉄リチウムの前駆体を調製し、安価でかつ放電容量の高いリン酸鉄リチウムからなる正極活物質を安定して得ることができるリン酸鉄リチウムの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、正極活物質として高性能な放電容量の高いリン酸鉄リチウムを安価な鉄粒子原料より製造する上では、鉄粒子に化学結合した酸素量を規定し、かつこの鉄粒子とリン酸とを反応させる際にカルボン酸とリチウム源とを共存させ、酸化雰囲気中で反応させることが有効であることを知見した。また、上記反応により、水溶液中に均一に分散するリン酸鉄リチウムのキレート体が得られ、これを乾燥することで、原料が原子レベルで均一に混合されたリン酸鉄リチウムの前駆体が得られることを知見した。さらに、他元素をドープしてリン酸鉄リチウムの諸特性を改善するに際し、リン酸、カルボン酸およびリチウム源を含む水溶液にドープする元素を添加することにより、均一にドープされたリン酸鉄リチウムが得られることを知見した。
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
(1)リン酸、カルボン酸およびリチウム源を含む水溶液に、酸素を0.5質量%以上含有する鉄粒子を添加し、酸化雰囲気下で上記水溶液中の成分と上記鉄粒子とを反応させて反応液を作製する合成工程と、
上記合成工程で得られた反応液を乾燥させてリン酸鉄リチウム前駆体を生成する前駆体生成工程と、
上記前駆体生成工程で得られたリン酸鉄リチウム前駆体を非酸化性雰囲気下で焼成してリン酸鉄リチウムを得る一次焼成工程とを有することを特徴とする、リン酸鉄リチウムの製造方法。
(2)前記一次焼成工程で得られたリン酸鉄リチウムと、炭素源を混合し、非酸化性雰囲気下で焼成して、表面が炭素で被覆されたリン酸鉄リチウムを得る二次焼成工程を更に有することを特徴とする、リン酸鉄リチウムの製造方法。
(3)前記カルボン酸の含有量が、前記鉄粒子中の鉄1molに対して、0.18〜0.5molであることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
(4)前記カルボン酸の残炭率が3質量%以上であることを特徴とする、前記(1)〜 (3)のいずれか1項に記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
(5)前記カルボン酸が、酒石酸、リンゴ酸およびクエン酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
(6)前記のリン酸、カルボン酸およびリチウム源を含む水溶液に、ドープする元素の金属または化合物を予め溶解させることを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
(7)前記リン酸鉄リチウムが、二次電池用正極活物質であることを特徴とする、前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
本発明によれば、正極活物質に要求される重要特性である高速充放電特性に優れたリン酸鉄リチウムを、低コストかつ安定的に生産することができる。
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明によるリン酸鉄リチウムの製造方法は、リン酸と、カルボン酸と、リチウム源とを含む水溶液に、酸素を0.5質量%以上含有する鉄粒子を添加し、酸化雰囲気下で上記水溶液中の成分と上記鉄粒子とを反応させて反応液を作製する合成工程と、
上記合成工程で得られた反応液を乾燥させてリン酸鉄リチウム前駆体を生成する前駆体生成工程と、
上記前駆体生成工程で得られたリン酸鉄リチウム前駆体を非酸化性雰囲気下で焼成してリン酸鉄リチウムを得る一次焼成工程とを有することを特徴とする。
鉄粒子としては、ミルスケール(酸化鉄)をコークスで還元した還元鉄粉、溶鋼を高圧水で粉化および冷却したアトマイズ鉄粉、鉄塩水溶液を電気分解して陰極に析出させた電解鉄粉等を用いることができる。鉄粉の平均粒径は100μm以下とすることが好ましい。通常の一般工業用鉄粉の平均粒径は70〜80μmであるが、最大粒径が150〜180μmの粒子も含まれるため、必要に応じて篩いにより粗粒を除去したり、機械式粉砕で粗粒を微細化する等、反応面積を大きくして使用した方が、後に続くリン酸、カルボン酸およびリチウム源との反応を促進してリン酸鉄リチウムのキレート体を合成する上で有利である。
本発明において、鉄粒子が含有する酸素とは、鉄に化学結合した酸素を指し、酸素含有量を0.5質量%以上、好ましくは0.6〜2質量%とすることが、リン酸鉄リチウムのキレート体を合成するための必須条件となる。鉄粒子の酸素含有量が0.5質量%未満の場合には、金属鉄とリン酸との直接反応が優先して難溶性の2価鉄化合物であるリン酸鉄(Fe3(PO4)2・8H2O)の凝集粒子が生成・成長するため、水溶液は白色〜淡青色を呈するクリーム状の高粘度物質となる。その結果、水溶液の撹拌が不十分となり、未反応の金属鉄が残存し易い、原料が均一に混合されない等の支障をきたす。一方、鉄粒子の酸素含有量が2質量%を超えると、鉄粉表面に酸化鉄のスケールが偏析するため、リン酸とカルボン酸の水溶液との反応が妨げられる。なお、鉄粒子の酸素含有量の定量は、JIS Z 2613(1992年)真空融解赤外線吸収法に準拠し、LECO社製TC436で行った。
鉄粒子の酸素含有量を0.5質量%以上とするには、例えば還元鉄粉を原料とする場合には、ミルスケール(酸化鉄)をコークスで還元する際の温度を、通常(1000〜1200℃)よりも低い温度(800〜1000℃程度)とすればよい。
また、水アトマイズ鉄粉を原料とする場合には、溶鋼を高圧水で粉化、冷却後の乾燥工程で積極的に空気と接触させればよい。
鉄粒子の純度を上げる場合、通常、原料鉄粉を水素還元して、酸素含有量が0.4質量%程度以下のものを作る。したがって、本発明に用いる鉄粒子は、この水素還元の程度を調整すればよい。
リン酸は、オルトリン酸(H3PO4)の水溶液が好ましいが、高次の縮合リン酸(Hn+2PnO3n+1)の水溶液を用いることも可能である。オルトリン酸は通常、工業製品として75〜85質量%が使用できる。リン酸の添加量は、鉄1molに対して1molが化学量論的当量であるが、0.1mol程度過剰に添加しても構わない。
カルボン酸は、カルボキシル基を有する有機化合物を指し、リン酸鉄リチウムのキレート体を合成する際のキレート剤として機能する。本発明において用いられる上記カルボン酸としては、鉄に対してキレート力の強いカルボン酸、例えば、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸等が挙げられる。これらのうち、キレート力が強く、かつ酸化され難いキレート体を形成するクエン酸が特に好ましい。
また、カルボン酸は焼成時に残炭するため、還元剤としても機能する。かかる機能を発揮すべく、本発明においてはカルボン酸の残炭率を3質量%以上とする。カルボン酸の残炭率が3質量%未満である場合、前駆体は雰囲気に微量に存在する酸素で酸化され易い。
また、上記残炭率は20質量%以下とすることが好ましく、20質量%を超えると焼成後の残炭量が過剰となる。上記カルボン酸の残炭率は、酒石酸:7質量%、リンゴ酸:12質量%、クエン酸一水和物:7質量%であり、シュウ酸二水和物、酢酸などは1質量%未満である。
なお、本発明において「残炭率」とは、焼成後に残留する炭素をJIS G 1211(1995年)高周波誘導加熱炉燃焼−赤外線吸収法に準拠して定量し、元のカルボン酸量で除した値とした。
カルボン酸の含有量は、鉄:1molに対して0.18〜0.5molとすることが好ましく、0.2〜0.4molとすることがより好ましい。カルボン酸の含有量が0.18mol未満の場合では、上記カルボン酸によるキレート化の効果が小さくなるため、金属鉄とリン酸イオンとが直接反応して難溶性のリン酸鉄の凝集粒子が生成・成長し、水溶液が白色〜淡青色を呈するクリーム状態の高粘度物質となってしまう。その結果、水溶液の撹拌が不十分となり、未反応の金属鉄が残存し易い、原料が均一に混合されない等の支障をきたす。一方、上記含有量が0.5molを超える場合には、合成されたリン酸鉄リチウムのキレート体が水溶液中に均一に分散する(原料が均一に混合される)が、焼成後の残炭量が過剰となる。その結果、最終的に得られるリン酸鉄リチウムの見かけ上の放電容量が低下する。
リチウム源としては、水溶性のリチウム塩であればその種類を問わないが、特に焼成時に有害ガスを発生しない水酸化リチウム、炭酸リチウムが好ましい。
リン酸、カルボン酸およびリチウム源を含む水溶液に鉄粒子を添加して反応させる際の雰囲気は、酸化雰囲気とする必要がある。キレート反応が進んで鉄粒子表面の酸素は消費されると、キレート反応を持続することができず、金属鉄とリン酸イオンとの直接反応が優先して難溶性のリン酸鉄の凝集粒子が生成・成長してしまう。
そこで、本発明では、上記反応時の雰囲気を酸化雰囲気とすることにより、鉄粒子表面を適度に酸化して酸素を補い、キレート反応を持続させるのである。本発明において酸化雰囲気とは、水溶液中の鉄粒子の表面を適度に酸化させることができる状態であり、例えば水溶液界面を酸素含有ガスと接触させる、或いは、水溶液中に溶存酸素、酸素含有ガスのバブルまたはナノバブルを導入する等による。また、具体的な操作としては、空気雰囲気下での撹拌や、空気のバブリングなどが挙げられる。
上記キレート反応は、水溶液温度を10〜40℃の範囲に制御することが好ましく、20〜30℃とすることがより好ましい。水溶液を10〜40℃の範囲に制御すると、上記キレート反応により酸素が消費されて新たに現れた鉄粒子表面は、水溶液中の溶存酸素または空気バブル等と接触することにより適度に酸化され、連続的にリン酸鉄リチウムのキレート体を生成することが可能となる。水溶液温度が10℃未満である場合には、鉄粒子のキレート反応が遅くなり、完全に反応が終了するまでに長時間を要する。一方、水溶液温度が40℃超である場合には、酸素が消費された鉄粒子表面に酸素を補うための酸化が追いつかない。そのため、金属鉄とリン酸との直接反応が優先して難溶性のリン酸鉄の凝集粒子が生成・成長し、水溶液が白色〜淡青色を呈するクリーム状の高粘度物質となってしまうおそれがある。
本発明においては、リン酸、カルボン酸およびリチウム源を含む水溶液に鉄粒子を添加し、酸化雰囲気に晒すことにより、鉄粒子表面に存在する酸素または水酸基を介して上記カルボン酸が鉄をキレート化するとともに、リン酸が鉄を酸化して結合することによりリン酸鉄が生成し、カルボキシル基の水素の一部がリチウムに置換される。その結果、下記の化学式1に示すリン酸鉄リチウムのキレート体が合成され、このキレート体が均一に分散した反応液が得られるものと推測される。
Figure 2011146254
このリン酸鉄リチウムのキレート体は反応液中に分散して存在するが、このキレート体の一部には凝集粒子として存在し、沈殿物となってしまう場合がある。このような場合には、前駆体溶液の均一化を図るため、凝集粒子を湿式で機械粉砕して微細化することが望ましい。なお、湿式粉砕方法としては、ビーズミル、湿式ジェットミル、超音波照射等が挙げられる。
また、この反応液を乾燥した乾燥物(リン酸鉄リチウム前駆体)についてX線回折分析を行うと、結晶質の化合物は検出されず、原子レベルで均一に混合したキレート体に起因するアモルファス相が確認される。
リン酸鉄リチウムに他元素をドープする場合は、リン酸、カルボン酸およびリチウム源を含む水溶液に、ドープする元素の金属または化合物を予め溶解することにより、ドープする元素を均一に混合することができる。例えば、チタンの場合はTi(OH)4,TiOSO4・H2O、バナジウムの場合はFeV,V2O5,VOSO4・2H2O、マグネシウムの場合はMg,MgO,Mg(OH)2、タングステンの場合はWO3,H2WO4、マンガンの場合はMnCO3・nH2O、Mn(CH3COO)2などが挙げられる。このとき、リン酸とカルボン酸とを含む水溶液に予め溶解するドープ元素が鉄粒子を添加することで還元されて低酸化状態となる場合は、電子供与体としての作用が期待できる。ドープ量は、元素の種類によるが、一般に鉄元素の0.1mol%以上の置換が好ましく、特に0.5mol%以上がより好ましい。ドープ量が鉄元素の0.1mol%未満であるとドープの効果が発現し難い。上限については、ドープ元素のイオン半径、価数、配位数などの要因により大きく変化するため、一概には決められないが、ドープ量が閾値を超えると、不純物相の生成やバンド構造の変化による電子の局在化などにより特性が悪くなる傾向がある。
反応液の乾燥は、乾燥効率が良好であるスプレードライ法を採用することが好ましい。スプレードライ法は、高温加熱空気中に試料溶液を噴霧して乾燥するため、形状の揃った粉末を製造することが可能である。スプレードライ法を採用する場合には、(リン酸鉄リチウムの)前駆体の酸化温度が約250℃であることを踏まえ、スプレードライ装置の入口温度(加熱空気温度)を150〜250℃とすることが好ましい。入口温度を150〜250℃とすれば、生成する乾燥物の到達温度は送液量とのバランスにも依存するが、約100〜150℃となる。生成する乾燥物であるリン酸鉄リチウム前駆体は粉末状となるが、その粒径は100μm以下であることが好ましく、80μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。粒径が100μm超であると、焼成後の粉砕が不十分である場合に粗粒が残留し、これを正極活物質として電極を作製する際に集電体を傷めるおそれがある。
リン酸鉄リチウム前駆体は、非酸化性雰囲気において300℃以上で焼成することにより 、リン酸鉄リチウム前駆体に含まれるH2O、CO2、H2が熱分解除去され、アモルファス相を有する乾燥物は結晶化し、オレビン構造であるリン酸鉄リチウムの結晶体が得られる。焼成温度は300℃以上とすることが好ましく、350〜700℃とすることがより好ましい。300℃未満の場合には、揮発成分であるH2O、CO2、H2の熱分解除去が不十分である上、結晶化が生じない。一方、焼成温度の上限については700℃を超えると得られる結晶粒子の粗大化が進行するので700℃以下とすることが好ましい。なお、焼成を非酸化性雰囲気で行うのは、酸化を防ぐためである。
ついで上記焼成物であるリン酸鉄リチウムを一次焼成物とし、さらに炭素源を混合して二次焼成を行うことで、リン酸鉄リチウムの結晶性を高め、並びに、リン酸鉄リチウムの表面を炭素で被覆または表面に炭素を付着させてリン酸鉄リチウムの導電性を高めることができる。
混合する炭素源としては、二次焼成時に熱分解して炭素を生成する物質、または、導電性炭素を使用する。二次焼成時に熱分解して炭素を生成する物質は、二次焼成時に溶融してリン酸鉄リチウム粒子の表面を濡らす物質が好ましく、例えばグルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、アスコルビン酸、エリソルビン酸等の糖や、カルボキシメチルセルロース、アセナフチレン、キノリン不溶分レスピッチ(キノリン不溶分≦0.1質量%、アッシュ≦0.01質量%)等を用いることがで きる。導電性炭素としては、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、VGCF、カーボンナノファイバー、フラーレン等を用いることができる。これらの物質は、単独で使用することも、また複数組み合わせて使用することもできる。
炭素源を一次焼成物に混合する方法としては、一次焼成物を湿式または乾式で粉砕する前、または粉砕した後に炭素源を加え、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕して行う方法等が挙げられる。炭素源の添加量は、二次焼成後のリン酸鉄リチウムに含まれる炭素量が1〜5質量%になるように加えることが好ましく、1.5〜4質量%とすることがより好ましい。上記炭素量が1質量%未満である場合には、リン酸鉄リチウムの導電性が不十分となり、正極活物質としてのリン酸鉄リチウム粒子の性能を十分に引き出すことができないおそれがある。一方、上記炭素量が5質量%超である場合には、見かけ上の放電容量が低下する傾向がある。二次焼成を行う場合は、一次焼成を非酸化性雰囲気において350〜400℃で行うことが好ましい。350℃以上の焼成でリン酸鉄リチウムの結晶化が確実になされるが、温度上昇とともに粒成長するため、一次焼成は400℃で十分である。
二次焼成は、非酸化性雰囲気において550〜750℃で行うことが好ましく、600〜700℃とすることがより好ましい。炭素源として熱分解炭素を生成する物質を使用する場合、550 ℃未満では熱分解炭素の生成が不十分となり、二次焼成後に得られるリン酸鉄リチウムの導電性が十分に発揮されないおそれがある。一方、750℃超ではリン酸鉄リチウム粒子の 粗大化が懸念される。
上記のとおり、酸素を0.5質量%以上含有する鉄粒子を、リン酸、カルボン酸およびリチウム源を含む水溶液に添加し、酸化雰囲気中で反応させることによりリン酸鉄リチウムのキレート体を合成し、これを乾燥することにより、原料が原子レベルで均一に混合したリン酸鉄リチウム前駆体が得られる。ついでこのリン酸鉄リチウム前駆体を焼成することにより、安価かつ正極活物質として高性能なリン酸鉄リチウムを得ることができる。
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
蒸留水:2000gに、85質量%のリン酸:10mol、クエン酸一水和物:2molおよび炭酸リチウム:5molを溶解し、この混合溶液に鉄粉(JFEスチール(株)製、酸素含有量:0.68質量%、平均粒径:80μm、見掛け密度:3.18g/cm3):10molを添加して、液温:25〜30℃、空気雰囲気下で撹拌しながら1日間反応させた。この反応液をスプレードライヤ(大川原化工機製FOC16)を用いて入口温度:200℃で乾燥し、平均粒径がSEM観察より約30μmの乾燥粉末を得た。この乾燥粉末に、窒素気流中にて400℃×5hの一次焼成を施し、更に一次焼成物全量に炭素源としてアスコルビン酸:40gを加えてボールミルにて湿式粉砕・混合を行った。得られた混合物を乾燥後、窒素気流中にて700℃×10hの二次焼成を施し、最後に目開き75μmで篩い、リン酸鉄リチウムを調製した。
なお、鉄粉の酸素 含有量は、LECO社製TC436を用いて定量した。
また、鉄粉の見掛け密度は、JIS Z 2504(2000年)に準じて測定した。
(実施例2)
実施例1において、クエン酸一水和物に代えてリンゴ酸:2molを使用したこと以外は、実施例1と同じ方法によりリン酸鉄リチウムを調製した。
(実施例3)
実施例1において、クエン酸一水和物に代えて酒石酸:2molを使用したこと以外は、実施例1と同じ方法によりリン酸鉄リチウムを調製した。
(実施例4)
実施例1において、クエン酸一水和物を2.5molとし、一次焼成物にアスコルビン酸を 加えなかったこと以外は、実施例1と同じ方法によりリン酸鉄リチウムを調製した。
(実施例5)
実施例1において、鉄粉(キシダ化学(株)製、酸素含有量:1.55質量%、平均粒径:70μm、見掛け密度:2.47g/cm3)を使用したこと以外は、実施例1と同じ方法によりリン酸鉄リチウムを調製した。
(実施例6)
実施例1において、リン酸、クエン酸一水和物および炭酸リチウムの混合溶液に、バナジウム源の五酸化バナジウムV2O5を0.05mol(鉄元素の1mol%置換)を加えて溶解させ、この混合溶液に実施例1と同じ鉄粉:9.9molを添加したこと以外は、実施例1と同じ方法によりリン酸鉄リチウムを調製した。
(実施例7)
実施例1において、リン酸、クエン酸一水和物および炭酸リチウムの混合溶液に、チタン源の硫酸チタニルを0.15mol(鉄元素の1mol%置換)を加えて溶解させ、この混合溶液に実施例1と同じ鉄粉:9.9molを添加したこと以外は、実施例1と同じ方法によりリン酸鉄リチウムを調製した。
(実施例8)
実施例1において、リン酸、クエン酸一水和物および炭酸リチウムの混合溶液に、マグネシウム源の酸化マグネシウムを0.1mol(鉄元素の1mol%置換)を加えて溶解させ、この混合溶液に実施例1と同じ鉄粉:9.9molを添加したこと以外は、実施例1と同じ方法によりリン酸鉄リチウムを調製した。
(実施例9)
実施例1において、リン酸、クエン酸一水和物および炭酸リチウムの混合溶液に、マンガン源の酢酸マンガンを0.1mol(鉄元素の1mol%置換)を加えて溶解させ、この混合溶液に実施例1と同じ鉄粉:9.9molを添加したこと以外は、実施例1と同じ方法によりリン酸鉄リチウムを調製した。
(比較例1)
実施例1において、鉄粉(JFEスチール(株)製、酸素含有量:0.41質量%、平均粒径:80μm、見掛け密度:2.55g/cm3)を使用したこと以外は、実施例1と同じ方法によりリン酸鉄リチウムを調製した。
(比較例2)
実施例1において、鉄粉を添加した後の撹拌を窒素雰囲気下で行ったこと以外は、実施例1と同じ方法によりリン酸鉄リチウムを調製した。
(比較例3)
実施例1において、クエン酸一水和物に代えてシュウ酸二水和物:2molを使用したこと以外は、実施例1と同じ方法によりリン酸鉄リチウムを調製した。
実施例1〜9および比較例1〜3により調製された各々のリン酸鉄リチウムについて、X線回折分析による同定分析、および、炭素の定量を行った。また、各々のリン酸鉄リチウムについて、一次粒径を測定した。X線回折分析は、RIGAKU製UltimaIV(X-Ray:Cu-Kα1)を使用した。炭素の定量は、HORIBA製EMIA-620を使用し、リン酸鉄リチウムの炭素含 有量を定量した。一次粒径は、X線回折分析よりScherrer式を用いて求めた。
また、実施例1〜9および比較例1〜3により調製された各々のリン酸鉄リチウムについて、次の方法により放電容量を測定した。アルミ箔の集電体にリン酸鉄リチウム:アセチレンブラック:ポリフッ化ビニリデン((株)クレハ製KFL#1320)=86:4:10(質量比)のペーストを10mg/cm2塗布して正極を作製した。負極は金属リチウムを用いてハーフセル(宝泉製)を組み立てた。電解液は、1M−LiPF6/EC(エチレンカーボネート):EMC(エチルメチルカーボネート)=3:7(質量比)を使用した。測定条件は、定電流充電を0.2mA/cm2で4.0Vまで行った後、定電流放電を0.2mA/cm2で2.5Vまで行い、放電容量を求めた。
上記同定分析、炭素量、一次粒径、並びに、放電容量の測定結果を表1に示す。表1より明らかであるように、実施例1〜9では、何れも炭素量が1.5質量%以上、一次粒径が 100nm以下であり、放電容量の高いオリビン型リン酸鉄リチウムが得られた。特に、実施例6〜9は実施例1〜5よりも放電容量が僅かに大きく、かかる放電容量の向上効果はドープによる効果であるものと推測される。一方、比較例1〜3では十分な放電容量を有するリン酸鉄リチウムが得られない。比較例1〜3では、リン、鉄、リチウムが原子レベルで均一に混合されていないものと推測される。
Figure 2011146254
鉄源として安価な鉄粒子を使用して、安価かつ正極活物質として放電容量の高いリン酸鉄リチウムの製造方法を提供する。

Claims (7)

  1. リン酸、カルボン酸およびリチウム源を含む水溶液に、酸素を0.5質量%以上含有する鉄粒子を添加し、酸化雰囲気下で上記水溶液中の成分と上記鉄粒子とを反応させて反応液を作製する合成工程と、
    上記合成工程で得られた反応液を乾燥させてリン酸鉄リチウム前駆体を生成する前駆体生成工程と、
    上記前駆体生成工程で得られたリン酸鉄リチウム前駆体を非酸化性雰囲気下で焼成してリン酸鉄リチウムを得る一次焼成工程とを有することを特徴とする、リン酸鉄リチウムの製造方法。
  2. 前記一次焼成工程で得られたリン酸鉄リチウムと、炭素源を混合し、非酸化性雰囲気下で焼成して、表面が炭素で被覆されたリン酸鉄リチウムを得る二次焼成工程を更に有することを特徴とする、リン酸鉄リチウムの製造方法。
  3. 前記カルボン酸の含有量が、前記鉄粒子中の鉄1molに対して、0.18〜0.5molであることを特徴とする、請求項1または2に記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
  4. 前記カルボン酸の残炭率が3質量%以上であることを特徴とする、請求項1〜3の何れ か1項に記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
  5. 前記カルボン酸が、酒石酸、リンゴ酸およびクエン酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
  6. 前記のリン酸、カルボン酸およびリチウム源を含む水溶液に、ドープする元素の金属または化合物を予め溶解させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
  7. 前記リン酸鉄リチウムが、二次電池用正極活物質であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリン酸鉄リチウムの製造方法。
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