JP2009242926A - 電子材料用Cu−Ni−Si系合金 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Ni:0.4〜6.0質量%、Si:0.1〜2.0質量%を含有し、残部Cuおよび不可避的不純物から構成される電子材料用銅合金であって、粒径が0.01μm以上で0.05μm未満であるNi−Si化合物小粒子と、粒径が0.05μm以上で5.0μm未満であるNi−Si化合物大粒子が存在しており、小粒子の個数密度が1mm2当たり106−1010個であり、大粒子の個数密度が前記小粒子の個数密度と比べて1/10000〜1/10である電子材料用銅合金。
【選択図】なし
Description
特許文献1に記載の銅合金を製造する方法として、以下が開示されている。
1)Niの含有量が4wt%、Siの含有量が1wt%以上になると、晶出粒子の粗大化が特に発生しやすくなるので、晶出粒子の寸法を目的の範囲内とするには、Ni及びSi添加後溶湯を1300℃以上の温度に5分以上保持し、両者を完全に溶解させ、鋳造温度〜凝固温度まで鋳型内での冷却速度を0.3℃/秒以上とする。
2)熱間圧延後の熱延材を水中急冷し、さらに冷間圧延した材料を500〜700℃で1分〜2時間の加熱を行って大粒子を析出させる。その後、さらに冷間圧延を加え、今度は300〜600℃で30分以上の加熱を行い小粒子を析出させる。
3)熱間圧延終了時に冷却する際に急冷せず、500〜700℃で1分〜2時間保持して大粒子を析出させた後急冷する。さらに冷間圧延を加えた後、今度は300〜600℃で30分以上の加熱を行って小粒子を析出させる。
特許文献2に記載の銅合金を製造する方法として、以下が開示されている。
鋳塊を熱間圧延する際、鋳塊を昇温速度20〜200℃/時間で加熱し、850〜1050℃×0.5〜5時間の間に熱間圧延し、熱間圧延の終了温度は300〜700℃として急冷する。これにより析出物X及びYが生成する。熱間圧延後は、例えば、溶体化熱処理、焼鈍、冷間圧延を組み合わせ、所望の板厚にする。
前記溶体化熱処理の目的は鋳造や熱間加工時に析出したNiとSiを再固溶させると同時に再結晶させる熱処理である。前記溶体化熱処理の温度は添加したNi量によって調整を行い、例えば、Ni量が2.0〜2.5質量%未満は650℃、2.5〜3.0質量%未満は800℃、3.0〜3.5質量%未満は850℃、3.5〜4.0質量%未満は900℃、4.0〜4.5質量%未満は950℃、4.5〜5.0質量%は980℃とする。
Ni及びSiは、適当な熱処理を施すことにより金属間化合物としてNi−Si化合物粒子(Ni2Si等)を形成し、導電率を劣化させずに高強度化が図れる。
SiやNi添加量は少なすぎると所望の強度が得られず、多すぎると高強度化は図れるが導電率が著しく低下し、熱間加工性が低下する。また、Ni中には水素が固溶することがあり、溶解鋳造時のブローホールの原因となったりするため、Ni添加量を多くすると中間の加工において破断の原因となる可能性がある。SiはCと反応したり、Oと反応したりするため、添加量が多いと極めて多くの介在物を形成し、曲げの際に破断の原因になる。
(1)Cr、Co
Cr、CoはCu中に固溶し、溶体化処理時の結晶粒の粗大化を抑制する。また合金強度が底上げされる。時効処理時にはシリサイドを形成して析出し、強度及び導電率の改善に寄与することもできる。これらの添加元素は導電率をほとんど低下しないことから積極的に添加しても良いが、添加量が多い場合は逆に特性を損なう恐れがある。そこで、Cr及びCoは一方又は両方を合計で1.0質量%まで添加するのがよく、0.005〜1.0質量%添加するのが好ましい。
(2)Mg、Mn
MgやMnはOと反応するため溶湯の脱酸効果が得られる。また、一般的に合金強度を向上させる元素として添加される元素である。最も有名な効果としては応力緩和特性の向上であり、いわゆる耐クリープ特性である。近年、電子機器の高集積化にともない、高電流が流れ、またBGAタイプのような熱放散性が低い半導体パッケージにおいては、熱により素材が劣化する恐れがあり、故障の原因となる。特に、車載する場合はエンジンまわりの熱による劣化が懸念され、耐熱性は重要な課題である。これらの理由で積極的に添加しても良い元素である。ただし、添加量が多すぎると曲げ加工性への悪影響が無視できなくなる。そこで、Mg及びMnは一方又は両方を合計で0.5質量%まで添加するのがよく、0.005〜0.4質量%添加するのが好ましい。
(3)Sn
SnはMgと同様の効果がある。しかしMgと異なり、Cu中に固溶する量が多いため、より耐熱性が必要な場合に添加される。しかしながら、量が増えれば導電率は著しく低下する。よって、Snは0.5質量%まで添加するのがよく、0.1〜0.4質量%質量%添加するのが好ましい。ただし、MgとSnを共に添加するときは導電率への悪影響を抑えるために両者の合計濃度を1.0質量%までとし、好ましくは0.8質量%までとするのが望ましい。
(4)Zn
Znははんだ脆化を抑制する効果がある。ただし、添加量が多いと導電率が低下するので、0.5質量%まで添加するのがよく、0.1〜0.4質量%添加するのが好ましい。
(5)Fe、Al、P
これらの元素も合金強度を向上させることのできる元素である。必要に応じて添加すればよい。ただし、添加量が多いと添加元素に応じて特性が悪化するので、0.5質量%まで添加するのがよく、0.005〜0.4質量%添加するのが好ましい。
本発明においては、銅マトリックス中に析出するNi−Si化合物粒子を小粒子と大粒子の二種類に分け、それぞれの個数密度及び粒径、さらにはそれらの相互関係も制御する。本発明において、小粒子とは粒径が0.01μm以上で0.05μm未満であるNi−Si化合物粒子を指し、大粒子とは粒径が0.05μm以上で5.0μm未満であるNi−Si化合物粒子を指す。小粒子は主として結晶粒内に析出した粒子であり、大粒子は主として結晶粒界に析出した粒子である。また、Ni−Si化合物粒子とは、元素分析によってNi及びSiの両者が検出される粒子のことを指す。小粒子は主に合金の強度及び耐熱性に寄与し、大粒子は主に導電率の維持及び結晶粒の微細化に寄与する。
しかしながら、この程度の大きさの粒子、とりわけ0.01μm未満のNi−Si化合物粒子は大きなひずみが加えられると剪断されて粒子の表面積が減少するために、剪断に必要な力が減少する。従って転位ループが残されずに転位密度が高くならない。従って0.01μm未満のNi−Si化合物粒子は強度に寄与しにくい。剪断された粒子は銅母相中に再度固溶し、導電率の低下を招くおそれもある。また、剪断された粒子は再結晶の核生成サイトとして働かないので、再結晶粒も粗大になる可能性が高くなる。粗大な結晶粒は強度や曲げ性に悪影響を与える。
次に本発明に係る銅合金の製造方法に関して説明する。本発明に係る銅合金はCu−Ni−Si系合金の慣例の製造工程を基本としながら、一部の特徴的な工程を経て製造することができる。
また、その後の熱間圧延前においては加熱温度、保持時間を制御し、かつ熱間圧延終了時の材料温度を制御するのが望ましい。しかしながら、一般的にNi及びSi濃度が高くなると、加熱温度が高い場合は熱間圧延で割れが生じることが知られている。従って、熱間圧延前の加熱温度は800−1000℃程度の高い温度とし、割れが生じた場合はより低い温度を選定する。800℃未満の低い温度を選定した場合は晶出粒子の低減を目的として保持時間を長くすることが必要で、温度にもよるが3時間程度の保持でほとんどの粒子を5μmより小さくすることができる。熱間圧延終了時の板厚は20mmより薄くすることで冷却が早くなり、特性に寄与しない析出物の析出を抑制することができる。この際の温度は600℃以上の高い温度で終了してもよいが、後の工程において溶体化が困難となる場合は、より低い温度で終了する方が有効である。
更に、熱間圧延にて溶体化処理を兼ねる場合は、終了後の空冷(放冷)によって析出粒子が析出する場合があるので、必要に応じて水冷等の冷却を実施すると効果的である。
一回の時効処理で大粒子と小粒子を所望の範囲にするためには前工程で溶体化処理及び冷間圧延を適切に行っていることが前提であるが、温度と時間を適切な範囲にすることが重要である。この時効処理で強度と導電率が上昇する。時効処理は300〜600℃の温度で0.5〜50hとするが、加熱温度が高いほど短時間、加熱温度が低いほど長時間とする。高温で長時間加熱するとNi−Si化合物粒子が粗大化しやすく、低温で短時間加熱するとNi−Si化合物粒子が十分に析出しないからである。具体的には、300〜500℃ではy=−0.115x+61(xは加熱温度(℃)、yは時効時間(h))程度とすることができ、500〜600℃ではy=−0.0275x+17.25(xは加熱温度(℃)、yは時効時間(h))程度とすることができる。例えば600℃では0.5h−1h程度、500℃では2h−5h程度、400℃では10h−20hとすればよい。より高い強度を得るために、時効後に冷間圧延を行なうこともできる。時効後に冷間圧延を行なう場合には、冷間圧延後に歪取焼鈍(低温焼鈍)を行なってもよい。
強度については圧延平行方向での引っ張り試験を行い、引張り強さ及び0.2%耐力(Mpa)を測定した。
導電率(%IACS)についてはダブルブリッジによる体積抵抗率測定により求めた。
曲げ性の評価は、JIS H 3130に従って、Goodway(曲げ軸が圧延方向と直角方向)及びBadway(曲げ軸が圧延方向と同一方向)のW曲げ試験を行って割れの発生しない最小半径(MBR)の板厚(t)に対する比であるMBR/t値を測定した。
結晶粒径は、溶体化処理直後に、走査電子顕微鏡(SEM):HITACHI-S-4700を用いて測定した。圧延方向に平行な厚み方向の断面をFIBにより切断して試料とした。結晶粒径は加工方向の幅について、10個の結晶粒の平均値を求めた。なお、溶体化処理後に冷間圧延をしているため、最終製品では結晶粒が厚み方向に潰され、圧延方向に延びているが、面積は保存されることから、最終製品を組織観察したのと同様の結果となる。
最終製品からは以下の方法で結晶粒径を測定することが可能である。まず、圧延方向に平行な厚み方向の断面を電解研磨し、SEMにより断面組織を観察し、単位面積当たりの結晶粒の数をカウントする。そして、全観察視野の面積を合計し、それをカウントした結晶粒の合計で除し、結晶粒一個あたりの面積を計算する。その面積より、その面積と同じ面積を有する真円の直径(円相当径)を計算し、これを平均結晶粒径とすることができる。
大粒子及び小粒子の粒径は任意の断面から観察して良い。実施例は製品の圧延方向の平行断面に対して、大粒子を走査型電子顕微鏡(HITACHI-S-4700)により、小粒子を透過型電子顕微鏡(HITACHI-H-9000)によりそれぞれ10視野観察してそれぞれの粒子が100個程度観察できるように実施した。析出物の大きさが5〜100nmの場合は50万倍〜70万倍の倍率、100〜5000nmの場合は5〜10万倍で撮影を行った。なお析出物の大きさが5nmより小さいものは観察が不可能である。5000nmより大きいものは走査型電子顕微鏡で観察可能である。
このように観察された粒子について、個々の粒子の長径と短径から面積を計算し、その面積より、その面積と同じ面積を有する真円の直径(円相当径)を計算し、これを粒径とすることができる。粒径から小粒子と大粒子に分け、それぞれ粒子径と粒子の数を集計し、粒子径の和を粒子数で除して平均粒子径とし、粒子数の和を観察視野の合計面積で除して個数密度を求めた。ここで、長径とは、粒子の重心を通り、粒子の境界線との交点を両端にもつ線分のうち、もっとも長い線分の長さを指し、短径とは粒子の重心を通り、粒子の境界線との交点を両端にもつ線分のうち、もっとも短い線分の長さを指す。
観察した粒子がNi−Si化合物粒子であることは、EDSを搭載した走査型電子顕微鏡、特に元素分析の精度が高い電界放射型電子顕微鏡による元素マッピング、小さい析出物についてはEELSを搭載した透過型電子顕微鏡による元素マッピングの方法により確認した。
なお、最終製品においては、転位が非常に多く析出物が観察しにくい場合があり、その場合、観察を容易にするために析出しない200℃程度の温度で歪取り焼鈍を実施しても良い。また、一般的な透過型電子顕微鏡の試料作成において、電解研磨法が用いられるが、FIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)による薄膜作成を行って測定しても良い。
比較例1はSiが組成の範囲を外れたため、Ni/Si比も適切な比ではなくなり、粗大な晶出物により熱間圧延中に割れが生じた。
比較例2はNiが組成の範囲を外れたため、Niが過剰状態となった。これにより熱間加工性が劣化し、熱間圧延中に割れた。
比較例3は溶体化温度が低いため、粗大な粒子が残留した。その結果、導電率は高くなったが、小粒子の数密度が減少したため強度が低くなった。また、曲げの際、粗大な粒子を起点として破断した。
比較例4は溶体化温度が高いため、結晶粒径が大きくなり、大粒子が減少する一方で、小粒子の数が増えた。そのため、強度が高くなったが、導電率は低下した。溶体化時の結晶粒が大きいため、曲げの際、粒界破壊により曲げ性が劣化した。
比較例5は特許文献1に記載の銅合金に相当する。2回時効したため、2回目の時効で析出した小粒子の大きさが小さく、かつ数密度が著しく減少した。大粒子と小粒子の比は適切だが、小粒子の数密度が低すぎるため、強度が低くなった。
比較例6は時効温度が高いため、粗大な析出物が増えた。その結果、小粒子の密度が減少し、強度が低下した。また導電率は高くなると思われたが、時効温度が高いため、再固溶現象により導電率も低下した。曲げは粗大な粒子を起点として破断した。
比較例7は時効時間が長すぎたため、小粒子の大きさが大きくなってしまい、小粒子の数密度もそれに伴い小さくなり、強度が低下した。
比較例8は時効時間が短すぎたため、析出粒子が無く、強度が低下した。
比較例9は時効時間が長すぎたため、大粒子と小粒子の区別がつかず、大粒子がほとんどとなったため、導電率は高いが、強度が低かった。
比較例10は時効時間が短すぎたため、析出粒子が無く、強度が低かった。
比較例11は特許文献2に記載の銅合金に相当する。中間の冷間圧延が無いために、大粒子の数が減少して導電率が低下した。
比較例12はMgの添加量が多すぎたためMgO等の粗大な介在物が増加し、曲げ性が劣化した。但し、CrとSiの析出物により強度は高くなった。
比較例13はSnとZnにより耐熱剥離性が向上したが、添加量が多いため導電率が低下した。
比較例14はPの添加量が多いため粗大な介在物が増加し、曲げ性が劣化した。なお、Fe析出により強度は高くなった。
比較例15はTi添加量が多いため、導電率が著しく低下した。
比較例16はZr添加量が多いため、Zr起因の介在物が増加し、曲げ性が劣化した。
比較例17はAl−Zrの粗大析出物が多数析出した。それを起因としてめっき時の欠陥(突起物)を発生させた。
比較例18はCu−Zr、Cu−Tiの粗大析出物(介在物)が起因となってめっき時に多数の欠陥(突起物)を発生させた。
Claims (6)
- Ni:0.4〜6.0質量%、Si:0.1〜2.0質量%を含有し、残部Cuおよび不可避的不純物から構成される電子材料用銅合金であって、粒径が0.01μm以上で0.05μm未満であるNi−Si化合物小粒子と、粒径が0.05μm以上で5.0μm未満であるNi−Si化合物大粒子が存在しており、小粒子の個数密度が1mm2当たり106−1010個であり、大粒子の個数密度が前記小粒子の個数密度と比べて1/10000〜1/10である電子材料用銅合金。
- 小粒子の平均粒径に対する大粒子の平均粒径の比が2〜100である請求項1記載の電子材料用銅合金。
- 平均結晶粒径が圧延方向に平行な厚み方向の断面から観察した時に円相当径で表して5〜30μmである請求項1又は2記載の電子材料用銅合金。
- 更にCr、Co、Mg、Mn、Fe、Sn、Zn、Al及びPから選択される1種又は2種以上を合計で1.0質量%まで含有する請求項1〜3の何れか一項に記載の電子材料用銅合金。
- 請求項1〜4の何れか一項に記載の銅合金からなる伸銅品。
- 請求項1〜4の何れか一項に記載の銅合金を備えた電子部品。
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