JP2015101759A - 導電性、成形加工性および応力緩和特性に優れる銅合金板 - Google Patents

導電性、成形加工性および応力緩和特性に優れる銅合金板 Download PDF

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Abstract

【課題】高強度、高導電性および優れた応力緩和特性を兼ね備えた銅合金板並びにこの銅合金板を用いた大電流用電子部品及び放熱用電子部品を提供する。【解決手段】Ni及びCoのうち一種以上を合計で0.8〜5.0質量%、Siを0.2〜1.5質量%含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、500MPa以上の0.2%耐力および30%IACS以上の導電率を有し、I(200)/I0(200)≧1.0であり、X線回折法により求めた(113)面に対して圧延方向と平行な方向に生じている残留応力が200MPa以下であることを特徴とする銅合金板である。(ただし、I(hkl)およびI0(hkl)はそれぞれ銅合金板表面および銅粉末に対しX線回折で求めた(hkl)面の回折積分強度である)【選択図】なし

Description

本発明は銅合金板及び通電用又は放熱用電子部品に関し、特に、電機・電子機器、自動車等に搭載される端子、コネクタ、リレー、スイッチ、ソケット、バスバー、リードフレーム、放熱板等の電子部品の素材として使用される銅合金板及び該銅合金板を用いた電子部品に関する。中でも、電気自動車、ハイブリッド自動車等で用いられる大電流用コネクタや端子等の大電流用電子部品の用途、又はスマートフォンやタブレットPCで用いられる液晶フレーム等の放熱用電子部品の用途に好適な銅合金板及び該銅合金板を用いた電子部品に関するものである。
電機・電子機器、自動車等には、端子、コネクタ、スイッチ、ソケット、リレー、バスバー、リードフレーム、放熱板等の電気又は熱を伝えるための部品が組み込まれており、これら部品には銅合金が用いられている。ここで、電気伝導性と熱伝導性は比例関係にある。
近年、電子部品の小型化に伴い、通電部における銅合金の断面積が小さくなる傾向にある。断面積が小さくなると、通電した際の銅合金からの発熱が増大する。また、成長著しい電気自動車やハイブリッド電気自動車で用いられる電子部品には、バッテリー部のコネクタ等の著しく高い電流が流される部品があり、通電時の銅合金の発熱が問題になっている。発熱が過大になると、銅合金は高温環境に晒されることになる。
コネクタ等の電子部品の電気接点では、銅合金板にたわみが与えられ、このたわみで発生する応力により、接点での接触力を得ている。たわみを与えた銅合金を高温下に長時間保持すると、応力緩和現象により、応力すなわち接触力が低下し、接触電気抵抗の増大を招く。この問題に対処するため銅合金には、発熱量が減ずるよう導電性により優れることが求められ、また発熱しても接触力が低下しないよう応力緩和特性により優れることも求められている。
一方、例えばスマートフォンやタブレットPCの液晶には液晶フレームと呼ばれる放熱部品が用いられている。このような放熱用途の銅合金板においても、応力緩和特性を高めると、外力による放熱板のクリープ変形が抑制され、放熱板周りに配置される液晶部品、ICチップ等に対する保護性が改善される、等の効果を期待できる。
さらに、上記銅合金板は、曲げ加工、絞り加工等の成形加工を経て通電用又は放熱用の電子部品となるが、部品の小型化や高機能化に伴い、より優れた成形加工性が銅合金板に求められている。
高い導電率、高い強度、及び比較的良好な応力緩和特性と成形加工性を有する銅合金として、コルソン合金が知られている。コルソン合金はCuマトリックス中にNi−Si、Co−Si、Ni−Co−Si等の金属間化合物を析出させた合金である。
近年のコルソン合金に関する研究は、曲げ加工性改善を目的とするものが中心であり、そのための方策として{001}<100>方位(Cube方位)を発達させる技術が種々提唱されている。例えば、特許文献1(特開2006−283059号)では、Cube方位の面積率を50%以上に制御し、曲げ加工性を改善している。特許文献2(特開2010−275622号)では、(200)({001}と同義)のX線回折強度を銅粉標準試料のX線回折強度以上に制御し曲げ加工性を改善している。特許文献3(特開2011−17072号)では、Cube方位の面積率を5〜60%に制御すると同時に、Brass方位及びCopper方位の面積率をともに20%以下に制御し、曲げ加工性を改善している。特許文献4(特許第4857395号公報)では、板厚方向の中央部において、Cube方位の面積率を10〜80%に制御すると同時に、Brass方位及びCopper方位の面積率をともに20%以下に制御し、ノッチ曲げ性を改善している。特許文献5(WO2011/068121号)では、材料の表層および深さ位置で全体の1/4の位置でのCube方位面積率をそれぞれW0およびW4とし、W0/W4を0.8〜1.5、W0を5〜48%に制御し、さらに平均結晶粒径を12〜100μmに調整することで、180度密着曲げ性を改善している。特許文献6(WO2011/068134号)では、圧延方向に向く(100)面の面積率を30%以上に制御することにより、ヤング率を110GPa以下、曲げたわみ係数を105GPa以下に調整している。
特開2006−283059号公報 特開2010−275622号公報 特開2011−17072号公報 特許第4857395号公報 国際公開WO2011/068121号 国際公開WO2011/068134号
しかしながら、コルソン合金は、比較的良好な応力緩和特性を有するものの、その応力緩和特性のレベルは大電流を流す部品の用途又は大熱量を放散する部品の用途として必ずしも十分とはいえなかった。特に、良好な応力緩和特性と成形加工性を兼ね備えたコルソン合金はこれまで報告されていなかった。
そこで、本発明は、高強度、高導電性、優れた成形加工性及び優れた応力緩和特性を有する銅合金板を提供することを目的とし、具体的には、成形加工性と応力緩和特性が同時に改善されたコルソン合金を提供することを課題とする。また、大電流用途又は放熱用途に好適な電子部品を提供することをも課題とする。
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、高強度および高導電性を有するコルソン合金について、表面にCube方位を発達させ、表面の残留応力を所定の範囲に調整すると、成形加工性と応力緩和特性が同時に向上することを知見した。
以上の知見を基礎として完成した本発明は、
(1)Ni及びCoのうち一種以上を合計で0.8〜5.0質量%、Siを0.2〜1.5質量%含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、500MPa以上の0.2%耐力および30%IACS以上の導電率を有し、I(200)/I0(200)≧1.0であり、X線回折法により求めた(113)面に対して圧延方向と平行な方向に生じている残留応力が200MPa以下であることを特徴とする銅合金板。(ただし、I(hkl)およびI0(hkl)はそれぞれ銅合金板表面および銅粉末に対しX線回折で求めた(hkl)面の回折積分強度である)
(2)Sn、Zn、Mg、Fe、Ti、Zr、Cr、Al、P、Mn、B及びAgのうち1種以上を総量で3.0質量%以下含有することを特徴とする(1)の銅合金板。
(3)(1)または(2)に記載の銅合金板を用いた大電流用電子部品。
(4)(1)または(2)に記載の銅合金板を用いた放熱用電子部品。
を提供する。
本発明によれば、高強度、高導電性、優れた成形加工性及び優れた応力緩和特性を兼ね備えた銅合金板並びに大電流用途又は放熱用途に好適な電子部品を提供することが可能である。この銅合金板は、端子、コネクタ、スイッチ、ソケット、リレー、バスバー、リードフレーム、放熱板等の電子部品の素材として好適に使用することができ、特に大電流を通電する電子部品の素材又は大熱量を放散する電子部品の素材として有用である。
本発明に係る合金を種々の温度で焼鈍したときの焼鈍温度と引張強さとの関係を示すグラフである。 残留応力の測定原理を説明する図である。 応力緩和率の測定原理を説明する図である。 応力緩和率の測定原理を説明する図である。
以下、本発明について説明する。
(Ni、Co及びSiの添加量)
大電流を通電する部品又は大熱量を放散する部品の素材として用いる銅合金板には、30%IACS以上の導電率および500MPa以上の0.2%耐力が必要である。そのために、本発明の銅合金板には、Ni及び/またはCoを添加し、さらにSiを添加する。Ni、Co及びSiは、適当な時効処理を行うことにより、Ni−Si、Co−Si、Ni−Co−Si等の金属間化合物として析出する。この析出物の作用により強度が向上し、析出によりCuマトリックス中に固溶したNi、Co及びSiが減少するため導電率が向上する。
NiとCoの合計量が0.8質量%未満又はSiが0.2質量%未満になると500MPa以上の0.2%耐力を得ることが難しくなる。NiとCoの合計量が5.0質量%を超えると又はSiが1.5質量%を超えると、30%IACS以上の導電率を得ることが難しくなる。このため、本発明に係るコルソン合金では、NiとCoのうち一種以上の添加量を合計で0.8〜5.0質量%とし、Siの添加量を0.2〜1.5質量%としている。NiとCoのうち一種以上の添加量は1.0〜4.0質量%がより好ましく、Siの添加量は0.25〜0.90質量%がより好ましい。
(その他の添加元素)
コルソン合金には、強度や耐熱性を改善するために、Sn、Zn、Mg、Fe、Ti、Zr、Cr、Al、P、Mn、B及びAgのうちの一種以上を含有させることができる。ただし、添加量が多すぎると、導電率が低下して30%IACSを下回ったり、合金の製造性が悪化したりする場合があるので、添加量は総量で3.0質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下とする。また、添加による効果を得るためには、添加量を総量で0.001質量%以上にすることが好ましい。
(結晶方位)
本発明では、X線回折法により、銅合金板の表面に対しθ/2θ測定を行い、所定方位(hkl)面の回折ピークの積分強度(I(hkl))を測定する。また同時に、ランダム方位試料として銅粉に対しても(hkl)面の回折ピークの積分強度(I0(hkl))を測定する。そして、I(hkl)/I0(hkl)の値を用い、銅合金板の表面における(hkl)面の発達度合いを評価する。
本発明の実施の形態に係る銅合金板は、製品表面において、I(200)/I0(200)を1.0以上、好ましくは2.0以上に制御することで、成形加工性が著しく向上する。I(200)/I0(200)が高いほどCube方位が発達しているといえる。I(200)/I0(200)の上限値は、成形加工性改善の点からは規制されないものの、本発明のコルソン合金のI(200)/I0(200)は典型的には10.0以下である。
(残留応力)
本発明の実施の形態に係る銅合金板は、製品表面の残留応力を200MPa以下、好ましくは100MPa以下に調整することで、応力緩和特性が著しく向上する。ここで、本発明の残留応力は、X線回折法を用い、X線入射角度に対する(113)面間隔の変化を測定することにより求めるものである。測定方向としては、圧延方向と厚み方向のそれぞれに平行な面内においてX線入射角度を変化させることにより、圧延方向と平行に生じている残留応力値を求める。他の結晶面や方向に対しても残留応力値を測定することは可能であるが、当該条件で測定した場合に、測定のばらつきが最も小さく、残留応力値と応力緩和との間に最も良好な相関が得られた。なお、銅合金板の残留応力は、板の片側表面をエッチングしたときの板の反り量からの算出されることが多いが(須藤一:残留応力とゆがみ、内田老鶴圃社、(1988)、p.46.)、このエッチング法で求めた残留応力値には応力緩和との相関が認められなかった。
(厚み)
製品の厚みは0.1〜2.0mmであることが好ましい。厚みが薄すぎると、通電部断面積が小さくなり通電時の発熱が増加するため大電流を流すコネクタ等の素材として不適であり、また、わずかな外力で変形するようになるため放熱板等の素材としても不適である。一方で、厚みが厚すぎると、成形加工が困難になる。このような観点から、より好ましい厚みは0.2〜1.5mmである。厚みが上記範囲となることにより、通電時の発熱を抑えつつ、成形加工性を良好なものとすることができる。
(用途)
本発明の実施の形態に係る銅合金板は、電機・電子機器、自動車等で用いられる端子、コネクタ、リレー、スイッチ、ソケット、バスバー、リードフレーム、放熱板等の電子部品の用途に好適に使用することができ、特に、電気自動車、ハイブリッド自動車等で用いられる大電流用コネクタや端子等の大電流用電子部品の用途、又はスマートフォンやタブレットPCで用いられる液晶フレーム等の放熱用電子部品の用途に有用である。
ここで、大電流用電子部品としては、特に限定されず一般に大電流用として用いられるものを含み、例えば、10アンペア以上、より典型的には30アンペア以上、さらに典型的には50アンペア以上の電流が流れる電子部品を示す。電気自動車用やハイブリッド自動車等用のコネクタでは100アンペア以上の電流が流れるものもある。
(製造方法)
コルソン合金の一般的な製造プロセスでは、まず溶解炉で電気銅、Ni、Co、Si等の原料を溶解し、所望の組成の溶湯を得る。そして、この溶湯をインゴットに鋳造する。その後、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理、最終冷間圧延、歪取焼鈍の順で所望の厚みおよび特性に仕上げる。熱処理後には、熱処理時に生成した表面酸化膜を除去するために、表面の酸洗や研磨等を行ってもよい。
本発明では、上記の結晶方位を得るために、溶体化処理の前に、熱処理(以下、予備焼鈍ともいう)及び比較的低加工度の冷間圧延(以下、軽圧延ともいう)を行ってもよい。
予備焼鈍は、熱間圧延後の冷間圧延により形成された圧延組織中に、部分的に再結晶粒を生成させることを目的に行う。圧延組織中の再結晶粒の割合には最適値があり、少なすぎてもまた多すぎても上述の結晶方位が得られない。最適な割合の再結晶粒は、下記に定義する軟化度Sが0.2〜0.8、より好ましくは0.3〜0.7になるよう、予備焼鈍条件を調整することにより得られる。
図1に本発明に係る合金を種々の温度で焼鈍したときの焼鈍温度と引張強さとの関係を例示する。熱電対を取り付けた試料を1000℃の管状炉に挿入し、熱電対で測定される試料温度が所定温度に到達したときに、試料を炉から取り出して水冷し、引張強さを測定したものである。試料到達温度が500〜700℃の間で再結晶が進行し、引張強さが急激に低下している。高温側での引張強さの緩やかな低下は、再結晶粒の成長によるものである。
予備焼鈍における軟化度Sを次式で定義する。
S=(σ0−σ)/(σ0−σ950
ここで、σ0は焼鈍前の引張強さであり、σおよびσ950はそれぞれ予備焼鈍後および950℃で焼鈍後の引張強さである。950℃という温度は、本発明に係る合金を950℃で焼鈍すると安定して完全再結晶することから、再結晶後の引張強さを知るための基準温度として採用している。
軟化度が0.2〜0.8の範囲から外れると、銅合金板表面において、I(200)/I0(200)が1.0未満になる。予備焼鈍の温度および時間は特に制約されず、軟化度Sを上記範囲に調整することが重要である。一般的には、連続焼鈍炉を用いる場合には炉温400〜750℃で5秒間〜10分間の範囲、バッチ焼鈍炉を用いる場合には炉温350〜600℃で30分間〜20時間の範囲で行われる。
なお、予備焼鈍条件の設定は、次の手順により行うことができる。
(1)予備焼鈍前の材料の引張強さ(σ0)を測定する。引張試験は圧延方向と平行に行えばよい(以下同様)。
(2)予備焼鈍前の材料を950℃で焼鈍する。具体的には、熱電対を取り付けた材料を1000℃の管状炉に挿入し、熱電対で測定される試料温度が950℃に到達したときに、試料を炉から取り出して水冷する。
(3)上記950℃焼鈍後の材料の引張強さ(σ950)を求める。
(4)例えば、σ0が800MPa、σ950が300MPaの場合、軟化度0.20及び0.80に相当する引張強さは、それぞれ700MPa及び400MPaである。
(5)焼鈍後の引張強さが400〜700MPaとなるように、予備焼鈍の条件を求める。
上記予備焼鈍の後、溶体化処理に先立ち、加工度が3〜50%の軽圧延を行う。加工度が3〜50%の範囲から外れると、I(200)/I0(200)が1.0未満になる。ここで、加工度(r)は圧延工程前後の板厚減少率であり、r(%)=(t0−t)/t0×100(t0:圧延前の板厚、t:圧延後の板厚)で与えられる。
次に、予備焼鈍と軽圧延を追加した上記製造プロセスにおいて、残留応力を200MPa以下に調整する手段は、特定の方法に制限されないが、例えば、歪取焼鈍の条件を次のように制御することで可能となる。
本発明の歪取焼鈍は連続焼鈍炉を用いて行う。バッチ炉の場合、コイル状に巻き取った状態で材料を加熱するため、加熱中に材料が変形を起こし材料に反りが生じる。したがって、バッチ炉は本発明の歪取焼鈍に不適である。
連続焼鈍炉において、炉内温度を300〜700℃とし、5秒から10分の範囲で加熱時間を適宜調整し、歪取焼鈍後の0.2%耐力を歪取焼鈍前の0.2%耐力に対し10〜50MPa低い値、好ましくは15〜45MPa低い値に調整する。さらに、連続焼鈍炉内において材料に付加される張力を1〜5MPa、より好ましくは1〜4MPaに調整する。この条件で歪取焼鈍を行うことにより、残留応力が低減する。なお、0.2%耐力は圧延方向と平行に引張試験を行うことで測定できる。
0.2%耐力の低下量が小さすぎても大きすぎても、歪取焼鈍による残留応力の低減が不十分となり、残留応力を200MPa以下に調整することが難しくなる。また、張力が大きすぎても、歪取焼鈍による残留応力の低減が不十分となり、残留応力を200MPa以下に調整することが難しくなる。一方、張力が小さすぎると、焼鈍炉を通板中の材料が炉壁と接触し、材料の表面やエッジに傷が付くことがある。
本発明合金に関わる好ましい製造方法を工程順に列記すると次のようになる。
(1)インゴットの鋳造(厚み20〜300mm)
(2)熱間圧延(温度800〜1000℃、厚み3〜20mmまで)
(3)冷間圧延
(4)予備焼鈍(軟化度:0.20〜0.80)
(5)軽圧延(加工度:3〜50%)
(6)溶体化処理(700〜950℃で5〜300秒)
(7)時効処理(350〜600℃で2〜20時間)
(8)最終冷間圧延(加工度:3〜80%)
(9)歪取焼鈍(300〜700℃で5秒〜10分、張力:1〜5MPa、0.2%耐力低下量:10〜50MPa)
工程(2)(6)及び(7)については、コルソン合金の一般的な製造条件を選択すればよい。
最終冷間圧延(8)は高強度化のために必須であり、その加工度が3%未満の場合は0.2%耐力を500MPa以上に調整することが難しく、80%を超える場合は成形加工性が著しく低下する。また、一般的なコルソン合金では(6)溶体化処理と(7)時効処理との間に冷間圧延が行なわれることがあるが、該冷間圧延を行うとI(200)/I0(200)が低下するため、本発明では該冷間圧延を行なうことは好ましくない。
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
溶銅に合金元素を添加した後、厚みが200mmのインゴットに鋳造した。インゴットを950℃で3時間加熱し、熱間圧延により厚み15mmの板にした。その後、次の順に加工と熱処理を行なった。
(1)冷間圧延
(2)予備焼鈍:連続焼鈍炉を用い、加熱温度を30秒とし、炉内温度を500〜750℃の間で調整し、軟化度を種々変化させた。一部の例では予備焼鈍を行わなかった。
(3)軽圧延:加工度を変化させた。
(4)溶体化処理:連続焼鈍炉を用い、炉内温度を800℃とし、溶体化処理後の結晶粒径が5〜20μmになるよう、加熱時間を1秒から10分の間で調整した。
(5)時効処理:バッチ炉を用い、加熱時間を5時間とし、引張強さが最大になるよう、炉内温度を350〜600℃の間で調整した。
(6)最終冷間圧延:加工度を変化させた。
(7)歪取焼鈍:連続焼鈍炉を用い、炉内温度を500℃とし加熱時間を1秒から15分の間で調整し、歪取焼鈍による0.2%耐力の低下量を種々変化させた。また、炉内において材料に付加する張力を種々変化させた。一部の例では歪取焼鈍を行わなかった。
歪取焼鈍後(歪取焼鈍を行っていないものでは最終冷間圧延後)の材料につき、次の測定を行った。
(成分)
合金元素濃度をICP−質量分析法で分析した。
(0.2%耐力)
JIS Z2241に規定する13B号試験片を引張方向が圧延方向と平行になるように採取し、JIS Z2241に準拠して圧延方向と平行に引張試験を行い、0.2%耐力を求めた。
(導電率)
試験片の長手方向が圧延方向と平行になるように試験片を採取し、JIS H0505に準拠し四端子法により20℃での導電率を測定した。
(製品のX線回折)
材料表面に対し(200)面のX線回折積分強度を測定した。さらに、銅粉末(関東化学株式会社製、銅(粉末)、2N5、>99.5%、325mesh)に対し、(200)面のX線回折積分強度を測定した。X線回折装置には(株)リガク製RINT2500を使用し、Cu管球にて、管電圧25kV、管電流20mAで測定を行った。
(残留応力)
X線回折法により、銅合金板の(113)面に対し、圧延方向と平行な方向に生じている残留応力を求めた。測定原理を以下に説明する。
例えば図2に示すように引張残留応力が存在する場合、(a)→(b)→(c)と試料面法線Nと格子面法線N’とのなす角度Ψが大きくなると、この順で格子面間隔が大きくなる。結晶面間隔は応力の大きさに比例するので、各Ψにおいて格子面間隔すなわち回折角度(2θ)を測定すると、次式により残留応力σを求めることができる。
Figure 2015101759
ここで、σは応力、Eはヤング率、νはポアソン比、θ0は標準ブラッグ角である。また、Kは材料と測定波長により決定される定数である。2θとsin2Ψとの関係を図示して最小二乗法で勾配を求め、これにKを乗じることで残留応力値が得られる。
(成形加工性)
エリクセン社製試験機を用い、ブランク径:φ64mm、ポンチ(パンチ)径:φ33mm、シート圧力:3.0kN、潤滑剤:グリスの条件で、カップを作製した。
このカップを開放端側を下にしてガラス板上に置き、耳同士の間の凹部とガラス板との間隙を読み取り顕微鏡で測定し、カップに発生した4個の耳の間の凹部の間隙の平均値を求め、耳の高さとした。
又、カップの外観を目視観察し、肌荒れの有無を判定した。
以下の基準で加工性を評価した。
◎:耳の高さが0.5mm以下で、肌荒れがないもの
○:耳の高さが0.5mm以下で、わずかに肌荒れが生じたもの
×:耳の高さが0.5mmを超えたもの、または肌荒れが生じたもの
(応力緩和率)
幅10mm、長さ100mmの短冊形状の試験片を、試験片の長手方向が圧延方向と平行になるように採取した。図3のように、l=50mmの位置を作用点として、試験片にy0のたわみを与え、圧延方向の0.2%耐力の80%に相当する応力(s)を負荷した。y0は次式により求めた。
0=(2/3)・l2・s / (E・t)
ここで、Eは圧延方向のヤング率であり、tは試料の厚みである。150℃にて3000時間加熱後に除荷し、図4のように永久変形量(高さ)yを測定し、応力緩和率{[y(mm)/y0(mm)]×100(%)}を算出した。
上記応力緩和率が30%以下の場合、応力緩和特性が良好とみなした。
表1に製品厚みと合金組成を示し、表2に製造条件と評価結果を示す。
Figure 2015101759
Figure 2015101759
発明例1〜31では、Ni及びCoのうち一種以上を合計で0.8〜5.0質量%に、Siを0.2〜1.5質量%に調整し、軟化度が0.2〜0.8の予備焼鈍および加工度が3〜50%の軽圧延を行ない、最終冷間圧延において加工度を3〜80%に調整し、歪取焼鈍において材料を連続焼鈍炉に張力1〜5MPaで通板して0.2%耐力を10〜50MPa低下させた。その結果、I(200)/I0(200)が1.0以上になり、I(200)/I0(200)が2.0以上の発明例1〜23では成形加工性の評価が◎となり、I(200)/I0(200)が1.0以上2.0未満の発明例24〜31では成形加工性の評価が○となった。同時に、残留応力が200MPa以下となり、応力緩和率が30%以下となった。さらに、30%IACS以上の導電率と500MPa以上の0.2%耐力も得られた。
比較例1〜8は予備焼鈍および軽圧延を行わなかったため、比較例9、10は予備焼鈍の軟化度が0.2〜0.8の範囲から外れたため、比較例11〜13は軽圧延の加工度が3〜50%の範囲から外れたため、I(200)/I0(200)が1.0未満となり成形加工性の評価が×となった。
比較例14〜25は、軟化度が0.2〜0.8の予備焼鈍および加工度が3〜50%の軽圧延を行なった結果、I(200)/I0(200)が1.0以上となり、成形加工性の評価が◎または○となったものである。しかしながら、比較例14は歪取焼鈍を行わなかったため、比較例15〜18は歪取焼鈍における0.2%耐力の低下量が過小であったため、比較例19、20は歪取焼鈍における0.2%耐力の低下量が過大であったため、比較例21〜24では、炉内での材料張力が5MPaを超えたため、残留応力が200MPaを超え、応力緩和率が30%を超えた。
比較例16では最終冷間圧延における加工度が3%に満たなかったため、歪取焼鈍後の0.2%耐力が500MPaに満たなかった。

Claims (4)

  1. Ni及びCoのうち一種以上を合計で0.8〜5.0質量%、Siを0.2〜1.5質量%含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、500MPa以上の0.2%耐力および30%IACS以上の導電率を有し、I(200)/I0(200)≧1.0であり、X線回折法により求めた(113)面に対して圧延方向と平行な方向に生じている残留応力が200MPa以下であることを特徴とする銅合金板。(ただし、I(hkl)およびI0(hkl)はそれぞれ銅合金板表面および銅粉末に対しX線回折で求めた(hkl)面の回折積分強度である)
  2. Sn、Zn、Mg、Fe、Ti、Zr、Cr、Al、P、Mn、B及びAgのうち1種以上を総量で3.0質量%以下含有することを特徴とする請求項1の銅合金板。
  3. 請求項1又は2に記載の銅合金板を用いた大電流用電子部品。
  4. 請求項1又は2に記載の銅合金板を用いた放熱用電子部品。
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